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JP5376154B2 - ハイブリッド電気自動車の変速制御装置 - Google Patents

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JP5376154B2 JP2009214316A JP2009214316A JP5376154B2 JP 5376154 B2 JP5376154 B2 JP 5376154B2 JP 2009214316 A JP2009214316 A JP 2009214316A JP 2009214316 A JP2009214316 A JP 2009214316A JP 5376154 B2 JP5376154 B2 JP 5376154B2
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Description

本発明はハイブリッド電気自動車の変速制御装置に係り、詳しくは、動力伝達を行いながら次に予測される変速段に予め切り換えることにより、変速時においても連続的に動力伝達可能なデュアルクラッチ式変速機を備えたハイブリッド電気自動車の変速制御装置に関する。
車両に搭載される変速機として、平行に設けられた入力軸と出力軸との間に複数の変速段を構成したいわゆる平行軸式の変速機が知られている。平行軸式の変速機において変速段の切換を行う場合、同一の入力軸上で2つの変速段が同時に選択された状態とすることはできないため、その時点で選択されている変速段のギヤ抜き操作を行った後に、次の変速段のギヤ入れ操作を行う。
しかしながら、このような変速段の切換を行う際にはエンジンなどの動力源から変速装置への駆動力伝達が一時的に遮断されるため、運転者がアクセルペダルを踏んでいても駆動輪への連続的な駆動力伝達が行われず、運転フィーリングが悪化するという問題点があった。
そこで、このような問題点を解決するため、第1入力軸と出力軸との間に複数の変速段を構成する第1歯車機構を設けると共に、第2入力軸と出力軸との間に複数の変速段を構成する第2歯車機構を設け、第1クラッチを介して動力源からの駆動力を第1入力軸に伝達可能とする一方、第2クラッチを介して上記駆動力を第2入力軸に伝達可能とした、いわゆるデュアルクラッチ式変速機が開発されている。
このデュアルクラッチ式変速機では、例えば第1歯車機構の何れかの変速段が選択されて動力源からの駆動力が第1クラッチを介して第1入力軸に伝達されているときには、第2クラッチが切断されることによって、第2入力軸には動力源からの駆動力が伝達されないようになっている。このとき第2歯車機構において、次に予測される変速段に予め切り換え(以下、この操作をプリセレクトという)、変速段の切換指示があると第1クラッチを切断していきながら第2クラッチを接続していくことにより、駆動輪への動力伝達を連続的に行うようにして運転フィーリングを改善している。
このデュアルクラッチ式変速機は、エンジン及び電動機の駆動力を任意に駆動輪に伝達可能なパラレル型ハイブリッド電気自動車にも採用されている。例えば特許文献1に記載されたハイブリッド電気自動車では、環状をなす第1入力軸内に第2入力軸を嵌入させることで両入力軸を同軸上で相互に独立して回転可能とし、そのアウタ側の入力軸である第1入力軸に電動機の駆動力を伝達している。
ところで、ハイブリッド電気自動車では燃費向上を目的として、車両減速時に駆動輪側から逆に伝達される駆動力を可能な限り電動機に回生トルクとして吸収させ、電動機で発電された回生電力をバッテリに充電している。上記したデュアルクラッチ式変速機を備えた特許文献1のハイブリッド電気自動車の場合、第1クラッチ及び第2クラッチを共に切断して駆動輪側からエンジンを切り離した上で、駆動輪側からの駆動力を第1歯車機構及び第1入力軸を介して電動機に伝達している。
これにより電動機が発電機として機能して発電すると共に、このときの電動機の回生トルクにより駆動輪側には所謂エンジンブレーキに代えて減速抵抗が与えられて所謂回生制動が行われる。
特開2005−186931号公報
上記のようにハイブリッド電気自動車に備えられたデュアルクラッチ式変速機は、その構造上、電動機の駆動力をアウタ側の第1入力軸に伝達する構成を採用せざるを得ない。このため、車両減速時において電動機を発電機として機能させるときでも、駆動輪側からの駆動力は第1歯車機構を介して電動機に伝達されている。
車両減速中には、電動機を効率的に発電可能な回転域に保持すべく車速低下に応じて順次第1歯車機構のシフトダウンが行われるが、このときの低ギヤ側の変速段への切換(当該切換操作が本実施形態のプリセレクトに相当する)には、通常走行時の変速と同様に、同期装置を利用したギヤ入れ操作やギヤ抜き操作が必要となる。
そして、これらのギヤ入れ操作やギヤ抜き操作のためには第1歯車機構の駆動力伝達を中断する必要があり、特許文献1に記載された技術では、低ギヤ側の変速段への切換に際して第1歯車機構の駆動力の伝達を中断すべく、電動機の回生トルクを一旦0まで減少させる対策を要することになる。
結果として、変速完了により電動機の回生が再開されるまでの間に回生トルクの瞬断が生じることになり、この現象は、駆動輪に作用する減速抵抗の一時的な消失に繋がる。このため、車両減速中にも拘わらず瞬間的に加速が生じたような違和感を運転者に与えるという問題が生じた。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、電動機による回生制動を行う車両減速時において、駆動輪側からの駆動力を電動機に伝達している第1歯車機構を低ギヤ側の変速段に切り換えるべく、電動機の回生トルクを減少させたときの減速抵抗の一時的な消失を抑制でき、もって、これに起因する運転者の違和感を未然に防止することができるハイブリッド電気自動車の変速制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、第1クラッチの接続時にエンジンからの駆動力が伝達され、電動機のロータが機械的に結合された第1入力軸と、第2クラッチの接続時にエンジンからの駆動力が伝達される第2入力軸と、車両の駆動輪に駆動力を伝達する出力軸と、第1の入力軸から伝達される駆動力を複数の変速段の何れかに変速して出力軸に伝達する第1歯車機構と、第2の入力軸から伝達される駆動力を複数の変速段の何れかに変速して出力軸に伝達する第2歯車機構と、第1クラッチ及び第2クラッチを切断して、運転者による負側の要求トルクに対応して電動機の回生トルクを制御して第1入力軸及び第1歯車機構を介して駆動輪に減速抵抗を付与すると共に、電動機を発電機として機能させる車両減速時において、車速の低下に応じてシフトダウン側への変速条件が成立したときに、電動機の回生トルクを一旦0まで減少させて第1歯車機構を低ギヤ側の変速段に切り換える変速制御手段とを備えたハイブリッド電気自動車の変速制御装置において、変速制御手段が、シフトダウン側への変速条件の成立時に、第2クラッチを接続方向に制御しながら電動機の回生トルクを減少させ、電動機の回生トルクが略0まで減少した後に第1歯車機構の変速段を切り換えるプリセレクトを開始し、プリセレクトの完了後に第2クラッチを切断方向に制御しながら電動機の回生トルクを要求トルクまで増加させるものであり、電動機の回生トルクは第2クラッチの接続によるエンジンブレーキ相当よりも大きく設定されていることを特徴とする。
従って、運転者のアクセル操作などに応じて負側の要求トルクが設定されたときには、第1クラッチ及び第2クラッチが切断されて、駆動輪側からの駆動力が第1歯車機構及び第1入力軸を介して電動機に伝達されると共に、電動機が要求トルクに応じた回生トルクを発生しながら発電機として機能し、その回生トルクにより駆動輪に減速抵抗が付与されて車両減速が行われる。
そして、車速の低下に応じてシフトダウン側への変速条件が成立したときには、変速制御手段により、第2クラッチが接続方向に制御されながら電動機の回生トルクが減少し、回生トルクが略0まで減少した後に第1歯車機構のプリセレクトが開始され、プリセレクトの完了後に第2クラッチが切断方向に制御されながら電動機の回生トルクが要求トルクまで増加する。
回生トルクが0まで減少することで第1歯車機構は回生トルクを伝達しなくなり、低ギヤ側の変速段へのプリセレクトが可能となる。そして、回生トルクの減少に対応して第2クラッチが接続されるため、このときアイドル運転中若しくは停止状態にあるエンジンが第2歯車機構及び第2クラッチを介して駆動輪側と接続される。
結果として、電動機の回生トルクに代えてエンジンブレーキが駆動輪に作用し、これにより回生トルクの瞬断に起因して駆動輪の減速抵抗が一時的に消失する現象が軽減される。
請求項2の発明は、請求項1において、第2クラッチの半クラッチ状態を判定する半クラッチ判定手段を備え、変速制御手段が、接続方向に制御した第2クラッチの半クラッチ状態が半クラッチ判定手段により判定されたときに、電動機の回生トルクの減少を開始するものである。
従って、第2クラッチが半クラッチ状態に至るまでは電動機の回生トルクの減少が開始されないため、半クラッチ状態によりエンジンブレーキが発生する以前に回生トルクが減少したときの一時的な減速抵抗の消失が回避される。
請求項3の発明は、請求項1において、第2クラッチの半クラッチ状態を判定する半クラッチ判定手段を備え、変速制御手段が、接続方向に制御した第2クラッチの半クラッチ状態が半クラッチ判定手段により判定される以前に、電動機の回生トルクの減少を開始するものである。
従って、第2クラッチが半クラッチ状態に至る以前に電動機の回生トルクの減少が開始されるため、電動機の回生トルクを迅速に減少させてプリセレクトをいち早く開始可能となる。
請求項4の発明は、請求項1乃至3において、第1の歯車機構及び第2の歯車機構が、高速ギヤ側から低速ギヤ側までの各変速段が交互に設定され、変速制御手段が、車両減速時の制御に加えて、第1クラッチ及び第2クラッチの選択的な接続に応じてエンジンの駆動力を第1歯車機構または第2歯車機構の何れかの変速段を介して出力軸に伝達するエンジン単独走行を行い、エンジン単独走行時には、第1クラッチ及び第2クラッチの断接状態の切換により第1歯車機構の変速段と第2歯車機構の変速段とを交互に切り換えながらシフトアップ側またはシフトダウン側への変速を実行し、車両減速時には、第2歯車機構の各変速段の動力伝達の領域で、第2歯車機構の各変速段に代えて隣接する高速ギヤ側及び低速ギヤ側の第1歯車機構の変速段により回生トルクを伝達すると共に、第1歯車機構の高速ギヤ側の変速段の選択時には電動機の回生トルクを増加させ、低速ギヤ側の変速段の選択時には電動機の回生トルクを減少させることにより要求トルクをそれぞれ達成する一方、第1歯車機構の高速ギヤ側の変速段から低速ギヤ側の変速段への切換をプリセレクトとして実行するものである。
従って、エンジン単独の走行時には、第1歯車機構の変速段と第2歯車機構の変速段とが交互に切り換えられて電動機の駆動力が駆動輪に伝達されるのに対し、車両減速時においては、第2歯車機構の各変速段が動力伝達する領域で、隣接する高速ギヤ側及び低速ギヤ側の第1歯車機構の変速段が選択されて第1歯車機構だけで回生トルクが伝達される。
そして、高速ギヤ側の変速段の選択時には電動機の回生トルクを増加させ、低速ギヤ側の変速段の選択時には電動機の回生トルクを減少させることにより要求トルクがそれぞれ達成される。このため、第1歯車機構だけで回生トルクを伝達する車両減速時でも、途切れることなく要求トルクが達成されて円滑な減速が可能となる。
請求項5の発明は、請求項4において、車両の運転席に、変速制御手段により選択されている変速段を表示する表示手段が設けられ、表示手段が、第2歯車機構の各変速段に代えて隣接する高速ギヤ側及び低速ギヤ側の第1歯車機構の変速段が選択されているときには、選択されている変速段に関わらず第2歯車機構の変速段を表示するものである。
従って、第1歯車機構だけで駆動力を伝達する車両減速時においても、エンジン単独の走行時と同様にアクセル操作に対応して変速段が表示されることから、運転者の違和感が未然に防止される。
以上説明したように請求項1の発明のハイブリッド電気自動車の変速制御装置によれば、電動機による回生制動を行う車両減速時において、駆動輪側からの駆動力を電動機に伝達している第1歯車機構を低速ギヤ側の変速段に切り換えるべく電動機の回生トルクを減少させたときに、この回生トルクの減少と対応するように第2クラッチを接続して、電動機の回生トルクに代えてエンジンブレーキを駆動輪に作用させるようにしたため、回生トルクの瞬断に起因する駆動輪の減速抵抗の消失を軽減でき、もって、これによる運転者の違和感を未然に防止することができる。
請求項2の発明のハイブリッド電気自動車の変速制御装置によれば、請求項1に加えて、第2クラッチが半クラッチ状態に至るまでは回生トルクの減少を開始しないため、エンジンブレーキが発生する以前に回生トルクが減少したときの一時的な減速抵抗の消失を回避でき、これによる運転者の違和感を未然に防止することができる。
請求項3の発明のハイブリッド電気自動車の変速制御装置によれば、請求項1に加えて、第2クラッチが半クラッチ状態に至る以前に回生トルクの減少を開始するため、電動機の回生トルクを迅速に減少させてプリセレクトをいち早く開始でき、ひいては変速機の変速制御の応答性を向上することができる。
請求項4の発明のハイブリッド電気自動車の変速制御装置によれば、請求項1乃至3に加えて、第2歯車機構の各変速段の領域では隣接する高速ギヤ側及び低速ギヤ側の第1歯車機構の変速段により回生トルクを伝達すると共に、高速ギヤ側の変速段の選択時には電動機の回生トルクを増加させ、低速ギヤ側の変速段の選択時には電動機の回生トルクを減少させることにより要求トルクを達成しているため、結果として第1歯車機構だけで回生トルクを伝達する車両減速時でも、途切れることなく要求トルクを達成して円滑な走行を実現することができる。
請求項5の発明のハイブリッド電気自動車の変速制御装置によれば、請求項4に加えて、第1歯車機構だけで回生トルクを伝達する車両減速時の走行時でもアクセル操作に対応する変速段を表示することにより、運転者の違和感を未然に防止することができる。
本発明の実施形態に係るハイブリッド電気自動車の変速制御装置を示す概略構成図である。 車両減速に伴って回生制動を行っているときのプリセレクト前の駆動状態を示す概念図である。 ECUが実行するシステムトルク補償ルーチンを示すフローチャートである。 プリセレクト時のエンジンン及び電動機の制御状況を示すタイムチャートである。 車両減速に伴って回生制動を行っているときのプリセレクト中の駆動状態を示す概念図である。 車両減速に伴って回生制動を行っているときのプリセレクト後の駆動状態を示す概念図である。
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るハイブリッド電気自動車の変速制御装置を示す概略構成図である。
全体として駆動装置は、走行用動力源であるエンジン1及び電動機2をクラッチユニット3を介して変速機4に接続して構成され、これらのエンジン1や電動機2からの駆動力をクラッチユニット3及び変速機4を経て左右の駆動輪5(後輪)に伝達することによりハイブリッド電気自動車を走行させるようになっている。以下の説明では、車両の前後に倣って図1の左方を前方とし、図1の右方を後方として表現する。
エンジン1の出力軸1aは後方に突出して、同軸となるようにクラッチユニット3の入力側が連結されている。クラッチユニット3の出力側には変速機4の入力側が連結され、変速機4の出力側には差動装置6を介して左右の駆動輪5が連結されている。クラッチユニット3の周囲には環状をなすように電動機2が設けられ、図示はしないが、電動機2は内外2重に配設されたロータ及びステータにより構成されている。
ロータはクラッチユニット3の外周に固定され、ステータは変速機4のケーシングに固定され、ロータとステータとの間に磁界が発生すると、エンジン1と同方向の駆動トルク或いは逆方向の回生トルクが駆動力として変速機4に入力されるようになっている。
クラッチユニット3及び変速機4の詳細については後述するが、エンジン1及び電動機2からの駆動力がクラッチユニット3及び変速機4を介して駆動輪5側に伝達されることにより、変速機4の変速段に応じた駆動力により駆動輪5が駆動されて車両が走行する。また、駆動輪5側に伝達される駆動力は、クラッチユニット3の接続・切断状態に応じてエンジン1の駆動力のみ、或いは電動機2の駆動力のみ、或いはエンジン1及び電動機2の駆動力に切り換えられ、これにより走行用動力源としてエンジン1単独、電動機2単独、エンジン1及び電動機2を併用した3種の走行を可能としている。
一方、上記エンジン1及び電動機2の運転制御、クラッチユニット3の接続・切断制御、変速機4の変速切換制御などは、車両ECU11により統合制御される。このために車両ECU11には、エンジン1を制御するエンジンECU12や電動機2を制御するインバータECU13などの各種制御装置、及び車両の運転席に設けられた現在の変速段を表示するためのディスプレイ7が接続されている。
エンジンECU12は、車両ECU11からの情報に基づきエンジン1のアイドル運転制御や図示しない排ガス浄化装置の再生制御など、エンジン1自体の運転に必要な各種制御を行うと共に、車両ECU11から指令される運転者の要求トルクを達成すべく、エンジン1の燃料噴射量や噴射時期などを制御する。
インバータECU13は、図示しない走行用バッテリに蓄えられた直流電力をインバータ14により交流電力に変換し、車両ECU11からの上記運転者の要求トルクを達成すべく、変換した交流電力を電動機2に供給することにより電動機2をモータとして作動させて、車両を走行させるための駆動トルクを発生させる。また、車両減速に際して、駆動輪5側からの逆駆動により電動機2が回生トルクを発生させながら発電機として機能しているときには、インバータECU13は電動機2から出力される交流電力をインバータ14により直流電力に変換して走行用バッテリに充電する。
車両ECU11は、これらエンジンECU12及びインバータECU13との間で相互に情報をやりとりしながら、エンジン1及び電動機2を適切に制御するようエンジンECU12及びインバータECU13に指令を出力すると共に、クラッチユニット3及び変速機4の制御を適宜実行する。
具体的には、車両ECU11は、アクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ15や、車両の走行速度を検出する車速センサ16及び電動機2(クラッチユニット3の出力側)の回転速度を検出する回転速度センサ17の検出結果などに基づき、上記運転者の要求トルクを車両加速時や定常走行時には正の値として、減速時には負の値として算出する。そして、車両の運転状態やエンジン1及び電動機2の運転状態、或いは図示しないバッテリECUにより逐次算出される走行用バッテリの充電率(SOC:State Of Charge)などに基づき走行用動力源を選択して制御する。
例えば車両加速時において、走行用バッテリのSOCが所定値以上で余裕が大であり、且つ運転者の要求トルクが所定値未満のときには、電動機2の駆動力のみで要求トルクを達成可能なため走行用動力源として電動機2を単独で用い、SOCが所定値未満で余裕がそれほどないとき、或いは要求トルクが所定値以上のときには、電動機2の駆動力だけでは不足と見なして走行用動力源としてエンジン1及び電動機2を併用し、SOCが極端に低下して正常な電動機2の作動が望めないときには、走行用駆動源としてエンジン1を単独で用いる。
また、車両減速時において、電動機2が発生する回生トルクのみで負側に設定された要求トルクを達成可能なときには、走行用動力源として電動機2を単独で用い、電動機2の回生トルクのみでは負側の要求トルクを達成不能なときには、走行用動力源としてエンジン1及び電動機2を併用する。
そして、このような走行用動力源の切換に際して、車両ECU11は、エンジン1単独や電動機2単独のときには、運転者の要求トルクから変速機4の変速段のギヤ比を考慮してエンジン1や電動機2が出力すべき駆動力を算出し、算出した駆動力をエンジンECU12やインバータECU13に指令する。また、エンジン1及び電動機2の併用時には、要求トルクをエンジン1側と電動機2側とに配分した上で、変速段4のギヤ比を考慮してそれぞれが出力すべき駆動力を算出してエンジンECU12及びインバータECU13に指令する。一方、これと並行して、決定した走行用動力源の駆動力を駆動輪5側に伝達させるべく、クラッチユニット3及び変速機4の制御を実行する。
次に、上記クラッチユニット3及び変速機4の構成を詳述する。
図1に示すように、クラッチユニット3はアウタクラッチ21(第1クラッチ)及びインナクラッチ22(第2クラッチ)からなり、クラッチユニット3の入力側が、アウタクラッチ21及びインナクラッチ22の入力側として共用されている。アウタクラッチ21及びインナクラッチ22は、内蔵した湿式多板クラッチ21a,22aをクラッチアクチュエータ23,24により駆動操作されることにより相互に独立して接続・切断され、それぞれ接続に伴ってエンジン1からの駆動力がクラッチ出力側に伝達されるようになっている。
上記電動機2は、アウタクラッチ21の出力側の外周に配設されている。このため、アウタクラッチ21が電動機2の回転軸を兼用し、アウタクラッチ21と共にロータがステータの内側で回転し、ロータとステータとの間に発生した磁界による駆動トルクや回生トルクがアウタクラッチ21に入力されるようになっている。
アウタクラッチ21の出力側には管状をなすアウタ入力軸25(第1入力軸)が連結され、アウタ入力軸25はベアリング27により回転可能に支持されている。インナクラッチ22の出力側にはインナ入力軸26(第2入力軸)が連結され、このインナ入力軸26はアウタ入力軸25内に回転可能に嵌入されている。
結果としてアウタ入力軸25及びインナ入力軸26は、クラッチユニット3の軸線上で相互に独立して回転し得るようになっている。アウタ入力軸25の後端にはアウタクラッチ側ドライブギヤ28が固定され、インナ入力軸26はアウタ入力軸25内から後方に向けて延設されて、その後端にインナクラッチ側ドライブギヤ29が固定されている。
変速機4内には、アウタ入力軸25及びインナ入力軸26に対して平行となるように管状をなすアウタカウンタ軸31が配設され、アウタカウンタ軸31内にはインナカウンタ軸32が回転可能に嵌入されている。インナカウンタ軸32はアウタカウンタ軸31内から前方及び後方に向けて延設され、その前端及び後端がベアリング33,34により回転可能に支持されている。結果としてアウタカウンタ軸31及びインナカウンタ軸32は、同軸上で相互に独立して回転し得るようになっている。
アウタカウンタ軸31の前端にはインナクラッチ側ドリブンギヤ35が固定され、このインナクラッチ側ドリブンギヤ35はインナ入力軸26のインナクラッチ側ドライブギヤ29と常時噛み合っている。従って、インナクラッチ22の接続によりエンジン1からの駆動力がインナ入力軸26側に伝達されたときには、インナクラッチ側ドライブギヤ29及びインナクラッチ側ドリブンギヤ35を介してアウタカウンタ軸31が回転駆動される。
また、インナカウンタ軸32の前部にはアウタクラッチ側ドリブンギヤ36が固定され、このアウタクラッチ側ドリブンギヤ36はアウタ入力軸25のアウタドライブギヤ28と常時噛み合っている。
従って、アウタクラッチ21の接続によりエンジン1からの駆動力がアウタ入力軸25に伝達されたとき、或いはエンジン1からの駆動力に加えて電動機2の駆動力がアウタ入力軸25に伝達されたり、単独で電動機2からの駆動力がアウタ入力軸25に伝達されたりしたときには、アウタクラッチ側ドライブギヤ28及びアウタクラッチ側ドリブンギヤ36を介してインナカウンタ軸32が回転駆動される。
アウタ入力軸25及びインナ入力軸26の後方には同軸上に出力軸38が配設され、出力軸38の前端はインナ入力軸22の後端に対して相対回転可能に支持され、出力軸38の後端はベアリング39により回転可能に支持されている。出力軸38には第3速ドリブンギヤ40が相対回転可能に配設され、この第3速ドリブンギヤ40に対して常時噛み合うようにアウタカウンタ軸31には第3速ドライブギヤ41が固定されている。
出力軸38上の第3速ドリブンギヤ40の後方には第4速ドリブンギヤ42が固定され、この第4速ドリブンギヤ42に対して常時噛み合うようにインナカウンタ軸32には第4速ドライブギヤ43が相対回転可能に配設されている。
出力軸38上の第4速ドリブンギヤ42の後方にはリバースドリブンギヤ44が相対回転可能に配設され、このリバースドリブンギヤ44と対応するようにインナカウンタ軸32にはリバースドライブギヤ45が固定されている。図では、リバースドリブンギヤ44とリバースドライブギヤ45とが直接的に噛み合うように示されているが、実際には両ギヤ44,45はリバース中間ギヤ46を介して常時噛み合っており、車両後退のために他のドリブンギヤとは逆方向にリバースドリブンギヤ44を回転駆動するようになっている。
出力軸38上のリバースドリブンギヤ44の後方には第1・2速ドリブンギヤ47が相対回転可能に配設され、この第1・2速ドリブンギヤ47に対して常時噛み合うようにインナカウンタ軸32には第1・2速ドライブギヤ48が固定されている。
一方、インナクラッチ側ドライブギヤ29と第3速ドリブンギヤ40との間には、これらのギヤ29,40を出力軸38に結合するために第1同期装置51が設けられている。第1同期装置51は、インナクラッチ側ドライブギヤ29の後面に設けられた第5・6速クラッチギヤ51a、第3速ドリブンギヤ40の前面に設けられた第3速クラッチギヤ51b、及び出力軸38と一体で回転しながら、中立位置から前後に移動して第5・6速クラッチギヤ51aまたは第3速クラッチギヤ51bに選択的に係合し得る第1スリーブ51cから構成されている。
第3速ドライブギヤ41と第4速ドライブギヤ43との間には、これらのギヤ41,43をインナカウンタ軸32に結合するために第2同期装置52が設けられている。第2同期装置52は、第3速ドライブギヤ41の後面に設けられた第1・6速リバースクラッチギヤ52a、第4速ドライブギヤ43の前面に設けられた第4速クラッチギヤ52b、及びインナカウンタ軸32と一体で回転しながら、中立位置から前後に移動して第1・6速リバースクラッチギヤ52aまたは第4速クラッチギヤ52bに選択的に係合し得る第2スリーブ52cから構成されている。
リバースドリブンギヤ44と第1・2速ドリブンギヤ47との間には、これらのギヤ44,47を出力軸38に結合するために第3同期装置53が設けられている。第3同期装置53は、リバースドリブンギヤ44の後面に設けられたリバースクラッチギヤ53a、第1・2速ドリブンギヤ47の前面に設けられた第1・2速クラッチギヤ53b、及び出力軸38と一体で回転しながら、中立位置から前後に移動してリバースクラッチギヤ53aまたは第1・2速クラッチギヤ53bに選択的に係合し得る第3スリーブ53cから構成されている。
以上の第1〜第3スリーブ51c〜53cには変速アクチュエータ54〜56がそれぞれ連結され、これらの変速アクチュエータ54〜56の駆動操作に応じて各スリーブ51c〜53cが中立位置、前方位置及び後方位置の間で切り換えられるようになっている。これらの第1〜第3スリーブ51c〜53cの変速アクチュエータ54〜56、及び上記したアウタクラッチ21及びインナクラッチ22のクラッチアクチュエータ23,24は車両ECU11に接続され、車両ECU11からの指令に基づき各アクチュエータが駆動制御される。
次に、以上のように構成されたハイブリッド電気自動車の駆動装置の作動状況について説明する。
車両の走行中において、変速機4の変速段は図示しない制御マップに基づき運転者の要求トルクや車速に応じて設定される一方、運転者がリバースを選択したときには変速段としてリバースが設定され、設定された変速段を達成すべく、車両ECU11によりクラッチユニット3の接続・切断制御及び変速機4の変速切換制御が実行される。これらのクラッチユニット3及び変速機4の制御は、走行用動力源としてエンジン1を単独で用いているときには表1に従って行われる。
Figure 0005376154
例えば、第2速は、アウタクラッチ21、インナクラッチ22及び、同期装置51〜53の各スリーブ51c〜53cが表1に示した位置に切り換えられることにより達成される。
従って、エンジン1からの駆動力はアウタクラッチ21を介してアウタ入力軸25に伝達され、アウタクラッチ側ドライブギヤ28及びアウタクラッチ側ドリブンギヤ36を介してインナカウンタ軸32に伝達される。その後に駆動力は第1・2速ドライブギヤ48及び第1・2速ドリブンギヤ47を介して第3同期装置53の第1・2速クラッチギヤ53bに伝達され、この第1・2速クラッチギヤ53bから第3スリーブ53cを介して出力軸38に伝達される。
第3速は、アウタクラッチ21、インナクラッチ22及び、同期装置51〜53の各スリーブ51c〜53cが表1に示した位置に切り換えられることにより達成される。
従って、エンジン1からの駆動力は第1速と同じくインナクラッチ22、インナ入力軸26、インナクラッチ側ドライブギヤ29及びインナクラッチ側ドリブンギヤ35を介してアウタカウンタ軸31に伝達される。その後に駆動力はアウタカウンタ軸31上の第3速ドライブギヤ41及び第3速ドリブンギヤ40を介して第1同期装置51の第3速クラッチギヤ51bに伝達され、第3速クラッチギヤ51bから第1スリーブ51cを介して出力軸38に伝達される。
第4速は、アウタクラッチ21、インナクラッチ22及び、同期装置51〜53の各スリーブ51c〜53cが表1に示した位置に切り換えられることにより達成される。
従って、エンジン1からの駆動力は第2速と同じくアウタクラッチ21、アウタ入力軸25、アウタクラッチ側ドライブギヤ28及びアウタクラッチ側ドリブンギヤ36を介してインナカウンタ軸32に伝達される。その後に駆動力は第2同期装置52の第2スリーブ52cから第4速クラッチギヤ52bを介して第4速ドライブギヤ43に伝達され、第4速ドライブギヤ43及び第4速ドリブンギヤ42を介して出力軸38に伝達される。
このようにして選択された変速段のギヤ比に応じて、エンジン1からの駆動力は減速、増速或いは逆転された後に駆動輪5側に伝達されて車両が走行する。車両ECU11では、選択された変速段のギヤ比に基づき運転者の要求トルクからエンジン1が出力すべき駆動力を算出し、算出した駆動力をエンジンECU12側に指令することにより要求トルクを達成させる。また、これらの制御と並行して、車両用ECU11は現在選択している変速段を運転席のディスプレイ7に表示する。
ところで、本実施形態のハイブリッド電気自動車は第2速発進を前提として制御マップが設定されているため、車両の加速時や減速時には第2〜6速間で変速段がシフトアップ側或いはシフトダウン側に切り換えられる。
このときの変速では、インナクラッチ22を接続した奇数変速段(第1速、第3速、第5速)の選択とアウタクラッチ21を接続した偶数変速段(第2速、第4速、第6速)の選択とが交互に繰り返されるが、それぞれの変速段により駆動力が伝達されているとき、制御マップに基づき次に予測される変速段(隣接する高速ギヤ側或いは低速ギヤ側の変速段であり、以下、次変速段という)のギヤ列及び次変速段を選択するための同期装置は、クラッチ切断により駆動力を伝達していない状態にある。
このため、変速段を切り換えるときには、次変速段を選択するための同期装置のスリーブ51a〜53aの切換を予め完了しておき(以下、この操作をプリセレクトという)、変速段の切換条件が成立した時点で、接続状態にある側のクラッチ21,22を切断しながら切断状態にある側のクラッチ21,22を接続することにより、駆動輪5側への動力伝達を連続して行っている。
また、詳細は説明しないが、走行用動力源としてエンジン1及び電動機2を併用するときには、選択されている変速段が奇数段であるか偶数段であるかに応じて変速機4の作動状態を異にしている。
即ち、図2は本実施形態の駆動装置を示す概略図であるが、この図から明らかなように、アウタクラッチ21を接続して第1歯車機構G1の偶数変速段を選択したときには、電動機2を作動させることにより、エンジン1の駆動力に加えて電動機2の駆動力を駆動輪5側に伝達可能となる。また、インナクラッチ22を接続して第2歯車機構G2の奇数変速段を選択したとき、アウタクラッチ21を切断して電動機2を作動させれば、電動機2の駆動力を第1歯車機構G1の偶数変速段を介した後にエンジン1の駆動力と合流させて駆動輪5に伝達可能となる。
従って、これらの2種の駆動状態を制御マップから設定される変速段に応じて切り換えることによりエンジン・電動機併用走行が行われ、シフトアップ或いはシフトダウンの際には、これらの駆動状態を交互に切り換えながら変速が行われる。
一方、電動機2を単独で用いるときには、基本的に第1歯車機構G1の偶数変速段のみが動力伝達に利用される。以下、このときの駆動状態を図2に基づいて説明する。
なお、図1に基づく説明から明らかなように、偶数変速段を達成するギヤ列と奇数変速段を達成するギヤ列とは一部を兼用しているが、図2はエンジン1及び電動機2からの動力伝達経路の理解を容易にするために、双方のギヤ列を独立して表している。この点は後述する図5,6についても同様である。
具体的な偶数変速段を達成するギヤ列は、アウタクラッチ側ドライブギヤ28、インナクラッチ側ドライブギヤ29、インナクラッチ側ドリブンギヤ35、アウタクラッチ側ドリブンギヤ36、第4速ドリブンギヤ42、第4速ドライブギヤ43、第1・2速ドリブンギヤ47及び第1・2速ドライブギヤ48であり、これらのギヤ列により本発明の第1歯車機構G1が構成されている。
また、奇数変速段を達成するギヤ列は、インナクラッチ側ドライブギヤ29、インナクラッチ側ドリブンギヤ35、第3速ドライブギヤ41、第3速ドリブンギヤ40、第1・2速ドリブンギヤ47及び第1・2速ドライブギヤ48であり、これらのギヤ列により本発明の第2歯車機構G2が構成されている。
図2に示すように、電動機2を単独で用いるときには、アウタクラッチ21及びインナクラッチ22を共に切断し、第1歯車機構G1の偶数変速段を選択する。エンジン1からの駆動力はアウタ入力軸21にもインナ入力軸22にも伝達されなくなり、電動機2の駆動力は太線で示すように、第1歯車機構G1の何れかの変速段を介して駆動輪5側に伝達される。
そして、エンジン1単独の場合と同じく車両ECU11は、選択された変速段のギヤ比に基づき運転者の要求トルクから電動機2が出力すべき駆動力を算出し、算出した駆動力をインバータECU13側に指令することにより要求トルクを達成させる。
ここで、エンジン1単独の場合には、制御マップに基づき設定される第2歯車機構G2の奇数変速段も第1歯車機構G1の偶数変速段も選択可能であるが、上記のように電動機2単独の場合には第1歯車機構G1の偶数変速段のみしか選択できない。従って、制御マップから奇数変速段が設定されたときであっても偶数変速段を選択し、この偶数変速段による駆動力の伝達により運転者の要求トルクを達成する必要があり、このために車両ECU11は、以下に述べるようにクラッチユニット3及び変速機4の制御と並行してエンジン1及び電動機2の駆動力を制御している。
上記のように第1〜6速の各変速段は第1歯車機構G1及び第2歯車機構G2に交互に設定されている。このため、第1速に対しては高速ギヤ側に第2速が隣接し、第3速に対しては低速ギヤ側に第2速が隣接し、高速ギヤ側に第4速が隣接しており、第5速に対しては低速ギヤ側に第4速が隣接し、高速ギヤ側に第6速が隣接している。
そこで、第1速が動力伝達すべき領域(制御マップより第1速が設定される要求トルク及び車速の領域)については、第1速に代えて第2速を選択する。また、第3速が動力伝達すべき領域については領域内に設定した切換ポイントを境界として低速ギヤ側と高速ギヤ側に2分した上で、低速ギヤ側の領域では第3速に代えて第2速を選択し、高速ギヤ側の領域では第3速に代えて第4速を選択する。同様に第5速が動力伝達すべき領域についても領域内に設定した切換ポイントを境界として低速ギヤ側と高速ギヤ側に2分した上で、低速ギヤ側の領域では第5速に代えて第4速を選択し、高速ギヤ側の領域では第5速に代えて第6速を選択する。なお、切換ポイントは領域中央に設定してもよいし、低速ギヤ側或いは高速ギヤ側にオフセットした位置に設定してもよい。
結果として電動機2単独の走行時の変速には、各奇数変速段の切換ポイントにおいて低速ギヤ側の偶数変速段と高速ギヤ側の偶数変速段との間で切換が行われることにより、シフトアップ時には第2速、第4速、第6速の順に、シフトダウン時には第6速、第4速、第2速の順に変速段が切り換られる。
そして、上記のように電動機2の駆動力制御では、現在選択されているギヤ比に基づき、運転者の要求トルクを達成可能な値として算出された駆動力に基づき電動機2を制御している。従って、各奇数変速段の領域において低速ギヤ側の偶数変速段が選択されているときには自ずと電動機2の駆動力が減少方向に制御され、高速ギヤ側の偶数変速段が選択されているときには自ずと電動機2の駆動力が増加方向に制御され、低速ギヤ側と高速ギヤ側との間で変速段が切り換えられるときには電動機2の駆動力がランプ制御により滑らかに増減される。
従って、制御マップで設定された偶数変速段に対応して実際に偶数変速段が選択されているときは無論のこと、制御マップで設定された奇数変速段とは異なり実際には偶数変速段が選択されているときであっても要求トルクは確実に達成される。このため、変速機4の機構上、第1歯車機構G1だけで駆動力を伝達せざるを得ない電動機2単独の走行時でも、途切れることなく要求トルクを達成して円滑な走行が実現される。
また、以上の説明から明らかなように電動機2単独の走行時には、制御マップから設定される変速段と実際に動力伝達している変速段とが必ずしも一致せず、具体的には、制御マップから第2歯車機構G2の奇数変速段が設定されていても、実際には第1歯車機構G1の偶数変速段が選択される。そして、車両ECU11によりディスプレイ7には制御マップから設定された変速段が常に表示されるようになっている。即ち、第2歯車機構G2の奇数変速段に代えて第1歯車機構G1の偶数変速段が選択されているときであっても、この実際に選択されている偶数変速段に関わらず制御マップに基づく奇数変速段がディスプレイ7に表示される。
一方、車両減速時には燃費向上を目的として、駆動輪5側から逆に伝達される駆動力を可能な限り電動機2に回生トルクとして吸収させ、電動機2で発電された回生電力をバッテリに充電する所謂回生制動を実行している。この回生制動は、図2に示す電動機2単独の走行時の駆動状態で行われ、運転者のアクセル踏込量の減少により車両が減速状態に移行すると、負側に転じた要求トルクに対応して電動機2が負の駆動力として回生トルクを発生させ、第1歯車機構G1を介して駆動輪5に減速抵抗を付与する。
回生制動は、電動機2単独の走行中に減速状態に移行した場合のみならず、エンジン1単独の走行中やエンジン1及び電動機2を併用した走行中に減速状態に移行した場合でも同様に実行される。従って、電動機2単独以外の走行中に減速状態に移行した場合は、図2の駆動状態に切り換えられた後に回生制動が開始される。
このように回生制動は、電動機2単独の駆動状態で発電機2の駆動力を負側の回生トルクに制御することで実行される。従って、変速切換制御、回生トルクの制御、ディスプレイ7の表示制御などは上記説明と同様である。
重複する説明はしないが、車両減速中に車速低下に応じて制御マップに基づきシフトダウン側への変速条件が成立すると、各奇数変速段の領域の切換ポイントで高速ギヤ側の偶数変速段から低速ギヤ側の偶数変速段に切り換えられながら車両が走行すると共に、このときの回生トルクが高速ギヤ側では増加方向に、低速ギヤ側では減少方向に制御されることにより要求トルクが達成され、一方、第2歯車機構G2の奇数変速段に代えて第1歯車機構G1の偶数変速段が選択されていても、ディスプレイ7には制御マップに基づく奇数変速段が表示される。
ところで、以上のような車両減速時の回生制動において、制御マップに基づくシフトダウン側の変速段への切換条件の成立に応じて変速する際には、各同期装置51〜53のスリーブ51c〜53cを切り換えるギヤ入れ操作やギヤ抜き操作が必要となる。例えば第4速を選択した減速中に第2速への変速条件が成立したときには、上記表1に基づき、第3スリーブ53cを後方位置に切り換えるギヤ入れ操作、及び第2スリーブ52cを中立位置に戻すギヤ抜き操作を要する。
しかしながら、回生制動では常に第1歯車機構G1が回生トルクを伝達していることから、これらのギヤ入れ操作及びギヤ抜き操作ができず変速不能となる。このため、[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、一旦電動機2の回生トルクを0まで減少させて変速を実行する必要が生じる。
その結果、変速の完了により電動機2の作動が再開されるまでの間に回生トルクの瞬断が生じ、駆動輪5に作用する減速抵抗が一時的に消失して運転者に違和感を与えてしまう。このような減速抵抗の消失は、第4速から第2速への変速のみならず、第6速から第4速への変速でも発生する。
なお、これらの変速は、上記したエンジン1単独の走行時に述べたプリセレクトとは内容が相違するものの、後述するように、第2歯車機構G2を介したエンジン駆動力(エンジンブレーキ)の伝達と並行して、第1歯車機構G1の同期装置51〜53を切り換える点では近似している。従って、この回生制動時に第1歯車機構G1で行われる同期装置51〜53の切換についてもプリセレクトと称する。
そして、以上のような不具合を鑑みて、本実施形態では電動機2側の回生トルクの瞬断に起因する減速抵抗の消失をエンジンブレーキにより補う対策を講じており、以下、当該対策のための車両ECU11の処理を説明する。
車両ECU11は、車両の走行中に図3に示すシステムトルク補償ルーチンを所定の制御インターバルで実行している。
まず、ステップS2で車両減速に伴う回生制動中であるか否かを判定し、ステップS4でシフトダウン側のプリセレクトが要求されたか否かを判定し、何れかのステップSでNo(否定)の判定を下したときには、一旦ルーチンを終了する。なお、本実施形態では、電動機2単独での走行中や回生制動中にエンジン1をアイドル運転状態に保持している。但し、これに限ることはなく、これらの場合にエンジン1を停止状態に保持してもよい。
また、何れのステップSでもYes(肯定)の判定を下したとき、即ち、車両減速に伴って図2の駆動状態で偶数変速段を介した回生制動の実行中に、シフトダウン側のプリセレクト要求(第4速から第2速へのプリセレクト要求、或いは第6速から第4速へのプリセレクト要求)があったときには、ステップS6に移行する。ステップS6では、インナクラッチ22を接続方向に制御し、続くステップS8でインナクラッチ22が半クラッチ状態に至ったか否かを判定する。
インナクラッチ22の半クラッチ状態は、クラッチ駆動用のクラッチアクチュエータ24のストロークと略相関し、ひいてはクラッチアクチュエータ24を駆動するための図示しないソレノイドに供給する電流値と略相関している。そこで、本実施形態では、ソレノイドに供給する電流値に基づきECU11がインナクラッチ22の半クラッチ状態を判定している(半クラッチ判定手段)。
ステップS8の判定がYesになるまではステップS6の処理を繰り返し、インナクラッチ22が次第に接続方向に制御されて半クラッチ状態に至ると、ステップS10で電動機2の回生トルクを次第に減少させる。ステップS10の処理は、回生トルクを所定の変化率で減少させるランプ制御として実行される。
車両ECU11は続くステップS12で電動機2の回生トルクが0になったか否かを判定し、判定のNoの間はステップS10の処理を繰り返す。ステップS12の判定がYesになるとステップS14に移行し、第4速を選択しているときには第2速へのプリセレクト、第6速を選択しているときには第4速へのプリセレクトを実行する。そして、続くステップS16でプリセレクトを完了したか否かを判定し、判定がYesになるとステップS18に移行する。
ステップS18では、電動機2の回生トルクを増加させる方向にランプ制御を実行し、続くステップS20ではインナクラッチ22を切断方向に制御する。ステップS18の処理に適用される回生トルクの変化率は、ステップS20で切断方向に制御されているインナクラッチ22が半クラッチ状態に至るのと略一致するタイミングで、電動機2の回生トルクが要求トルクに達するように設定される。
続くステップS22では電動機2の回生トルクが要求トルクに達したか否かを判定し、判定のNoの間はステップS18,20の処理を繰り返す。インナクラッチ22が半クラッチ状態に至りステップS22の判定がYesになると、ステップS24に移行してインナクラッチ22が切断されたか否かを判定する。この判定についても、クラッチアクチュエータ24を駆動するソレノイドの電流値に基づいて行っている。ステップS24の判定がNoの間はステップS20の処理を繰り返し、判定がYesになるとルーチンを終了する。
本実施形態では、上記ステップS6,10,14,18,20の処理を実行するときの車両ECU11が変速制御手段として機能する。
以上の車両ECU11の処理により、図2に示す駆動状態でシフトダウン側のプリセレクト要求があったときには、図4に示すタイムチャートに従ってインナクラッチ22の制御と共に電動機2の回生トルクが制御される。
まず、図2の駆動状態において、電動機2の回生トルクは第1歯車機構G1の何れかの偶数変速段に基づき要求トルクを達成するように制御され、その回生トルクが第1歯車機構G1の偶数変速段の何れかを介して駆動輪5側に伝達されることにより、回生制動が行われている。同図では、第1歯車機構G1で選択された第4速を介して動力伝達が行われ、第2歯車機構G2では第3速が選択された場合を示している。一方、エンジン1は駆動力0に相当するアイドル運転状態にある。
そして、要求トルクや車速の変化に応じて走行中にシフトダウン側のプリセレクト要求があると、ステップS6の処理によりインナクラッチ22が接続方向に制御され始める。インナクラッチ22が半クラッチ状態に至ると、ステップS10の処理により電動機2の回生トルクは所定の変化率で減少する。電動機2の回生トルクは0になり、これと相前後してインナクラッチ22は完全に接続される。
このときの駆動状態を図5に示す。インナクラッチ22が半クラッチ状態に至った後は、アイドル運転中のエンジン1が第2歯車機構G2及びインナクラッチ22を介して駆動輪5側と接続される。このため、電動機2の回生トルクに代えてエンジンブレーキが駆動輪5に作用する。
この駆動状態では、第1歯車機構G1は電動機2の回生トルクを伝達していないため、ステップS14の処理により、要求に応じたプリセレクトが支障なく実行される。なお、同図では、第4速から第2速にプリセレクトされた場合を示している。
インナクラッチ22が半クラッチ状態に至るまで電動機2の回生トルクの減少を開始しないのは、半クラッチ状態によりエンジンブレーキが発生する以前に回生トルクが減少したときの一時的な減速抵抗の消失を回避するためである。
プリセレクトが完了すると、ステップS18の処理により電動機2の回生トルクは所定の変化率で増加し、ステップS20の処理によりインナクラッチ22は切断方向に制御される。インナクラッチ22が半クラッチ状態に至るのと略一致するタイミングで電動機2の回生トルクが要求トルクに達する。
このときの駆動状態を図6に示す。電動機2の回生トルクの増加が完了した後は、図2と同様に、エンジンブレーキに代えて第1歯車機構G1を介して電動機2の回生トルクが駆動輪5側に伝達される。但し、図に示すように、電動機2の回生トルクの伝達はプリセレクト後の第2速を介して行われる。
以上のように、電動機2の回生トルクはプリセレクトを可能とするために一旦0まで減少するが、この期間中にはエンジンブレーキが駆動輪5に作用する。電動機2の回生トルクは、発電量を増大してバッテリのSOCを迅速に回復させることを目的として、通常のエンジンブレーキ相当よりも大きく設定されている。
このため、プリセレクト時の電動機2の回生トルクの減少をエンジンブレーキにより完全に補うことはできないものの、回生トルクの瞬断に起因して駆動輪5の減速抵抗が一時的に消失する現象を十分に軽減でき、もって、これによる運転者の違和感を未然に防止することができる。
また、回生制動時には、制御マップから設定される変速段と実際に動力伝達している変速段とが一致しない場合があるが、ディスプレイ7には制御マップから設定された変速段が常に表示される。一方、回生制動時には、第1歯車機構G1の偶数変速段だけで回生トルクを伝達せざるを得ないが、選択した変速段に基づく電動機2の回生トルク制御により、途切れることなく要求トルクを達成して円滑な減速を実現できる。
このようにディスプレイ7上の変速段の表示に関しても、実際の駆動輪5に伝達される回生トルクに関しても、例えば奇数変速段も偶数変速段も選択可能なエンジン1単独の場合と何ら相違なく実行されるため、運転者は違和感なく運転操作を行うことができる。
ところで、上記例では、インナクラッチ22が半クラッチ状態に至った時点で、電動機2の回生トルクの減少を開始したが、回生トルクの減少タイミングはこれに限ることはなく変更可能である。例えば、図4に破線で示すように、インナクラッチ22が半クラッチ状態に至る以前に、電動機2の回生トルクの減少を開始してもよい。この場合、回生トルクの減少開始のタイミングは、インナクラッチ22の接続開始のタイミングと一致させてもよい。
このように制御した場合には、上記実施形態に比較して回生トルクが迅速に0まで減少し、それに対応してプリセレクトをいち早く開始できるため、変速機4の変速制御の応答性を向上できるという利点が得られる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、前進6段の変速機4として具体化したが、変速段の数はこれに限るものではなく、任意に変更可能である。
また、第1歯車機構C1や第2歯車機構G2に振り分けられる変速段や、各変速段の配列、並びに各変速段における変速段の切換機構など、変速機4の構成についても、上記実施形態のものに限定されるものではなく、ハイブリッド電気自動車に求められる運転性能や商品性などに応じて変更することが可能である。
また、上記実施形態では、クラッチユニット3の外周に電動機2を配設して、その駆動力をアウタクラッチ21を介してアウタ入力軸25に伝達したが、この構成に限るものではなく、例えば電動機2の出力軸をアウタ入力軸25に対してギヤ結合することにより、電動機2の駆動力を直接的にアウタ入力軸25に伝達するようにしてもよい。
1 エンジン
2 電動機
5 駆動輪
7 ディスプレイ(表示手段)
11 車両ECU(変速制御手段、半クラッチ判定手段)
21 アウタクラッチ(第1クラッチ)
22 インナクラッチ(第2クラッチ)
25 アウタ入力軸(第1入力軸)
26 インナ入力軸(第2入力軸)
38 出力軸
G1 第1歯車機構
G2 第2歯車機構

Claims (5)

  1. 第1クラッチの接続時にエンジンからの駆動力が伝達され、電動機のロータが機械的に結合された第1入力軸と、
    第2クラッチの接続時に上記エンジンからの駆動力が伝達される第2入力軸と、
    車両の駆動輪に駆動力を伝達する出力軸と、
    上記第1の入力軸から伝達される駆動力を複数の変速段の何れかに変速して上記出力軸に伝達する第1歯車機構と、
    上記第2の入力軸から伝達される駆動力を複数の変速段の何れかに変速して上記出力軸に伝達する第2歯車機構と、
    上記第1クラッチ及び第2クラッチを切断して、運転者による負側の要求トルクに対応して上記電動機の回生トルクを制御して上記第1入力軸及び第1歯車機構を介して上記駆動輪に減速抵抗を付与すると共に、該電動機を発電機として機能させる車両減速時において、車速の低下に応じてシフトダウン側への変速条件が成立したときに、上記電動機の回生トルクを一旦0まで減少させて上記第1歯車機構を低ギヤ側の変速段に切り換える変速制御手段と
    を備えたハイブリッド電気自動車の変速制御装置において、
    上記変速制御手段は、上記シフトダウン側への変速条件の成立時に、上記第2クラッチを接続方向に制御しながら上記電動機の回生トルクを減少させ、該電動機の回生トルクが略0まで減少した後に上記第1歯車機構の変速段を切り換えるプリセレクトを開始し、該プリセレクトの完了後に上記第2クラッチを切断方向に制御しながら上記電動機の回生トルクを上記要求トルクまで増加させるものであり、
    上記電動機の回生トルクは上記第2クラッチの接続によるエンジンブレーキ相当よりも大きく設定されていることを特徴とするハイブリッド電気自動車の変速制御装置。
  2. 上記第2クラッチの半クラッチ状態を判定する半クラッチ判定手段を備え、
    上記変速制御手段は、接続方向に制御した上記第2クラッチの半クラッチ状態が上記半クラッチ判定手段により判定されたときに、上記電動機の回生トルクの減少を開始することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の変速制御装置。
  3. 上記第2クラッチの半クラッチ状態を判定する半クラッチ判定手段を備え、
    上記変速制御手段は、接続方向に制御した上記第2クラッチの半クラッチ状態が上記半クラッチ判定手段により判定される以前に、上記電動機の回生トルクの減少を開始することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の変速制御装置。
  4. 上記第1の歯車機構及び第2の歯車機構は、高速ギヤ側から低速ギヤ側までの各変速段が交互に設定され、
    上記変速制御手段は、上記車両減速時の制御に加えて、上記第1クラッチ及び第2クラッチの選択的な接続に応じて上記エンジンの駆動力を上記第1歯車機構または第2歯車機構の何れかの変速段を介して上記出力軸に伝達するエンジン単独走行を行い、該エンジン単独走行時には、上記第1クラッチ及び第2クラッチの断接状態の切換により上記第1歯車機構の変速段と第2歯車機構の変速段とを交互に切り換えながらシフトアップ側またはシフトダウン側への変速を実行し、
    上記車両減速時には、上記第2歯車機構の各変速段の動力伝達の領域で、該第2歯車機構の各変速段に代えて隣接する高速ギヤ側及び低速ギヤ側の第1歯車機構の変速段により回生トルクを伝達すると共に、該第1歯車機構の高速ギヤ側の変速段の選択時には上記電動機の回生トルクを増加させ、低速ギヤ側の変速段の選択時には上記電動機の回生トルクを減少させることにより上記要求トルクをそれぞれ達成する一方、該第1歯車機構の高速ギヤ側の変速段から低速ギヤ側の変速段への切換を上記プリセレクトとして実行することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のハイブリッド電気自動車の変速制御装置。
  5. 上記車両の運転席には、上記変速制御手段により選択されている変速段を表示する表示手段が設けられ、
    上記表示手段は、上記第2歯車機構の各変速段に代えて隣接する高速ギヤ側及び低速ギヤ側の第1歯車機構の変速段が選択されているときには、該選択されている変速段に関わらず上記第2歯車機構の変速段を表示することを特徴とする請求項4記載のハイブリッド電気自動車の変速制御装置。
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