JP5343445B2 - 熱疲労特性、耐酸化性および靭性に優れるフェライト系ステンレス鋼 - Google Patents
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(実験1)まず、18mass%Cr含有鋼の熱疲労特性に及ぼすN含有量の影響について調査した。
C:0.005〜0.010mass%、Si:0.10〜0.30mass%、Mn:0.10〜0.30mass%、Al:0.042〜0.048mass%、Cr:17〜18.5mass%、Nb:0.38〜0.43mass%およびV:0.19〜0.22mass%を含有し、Nの含有量を0.008〜0.048mass%の範囲で種々に変化させた鋼を実験室で溶製し、得られた鋼塊を鍛造して30mm×30mmの角材とし、熱処理を施したのち、図1に示した形状、寸法の熱疲労試験片を作製した。次いで、この試験片を、図2に示したように、拘束率0.8で200℃と850℃の間で昇温・降温を繰り返す熱疲労試験に供し、200℃において検出された荷重が初期の80%を下回るまでのサイクル数で定義する「熱疲労寿命」を測定した。なお、比較材として、SUS444(18Cr−2Mo−0.5Nb鋼)についても、上記と同様にして熱疲労試験片を作製し、同様の熱疲労試験に供した。
C:0.005〜0.010mass%、Si:0.10〜0.30mass%、Mn:0.10〜0.30mass%、Al:0.042〜0.048mass%、Cr:17〜18.5mass%、Nb:0.28〜0.32mass%、N:0.019〜0.022mass%を含有し、Vの含有量を0.11〜0.71mass%の範囲で種々に変化させた鋼を実験室で溶製し、その後、上記実験1と同様にして、図1に示した熱疲労試験片を作製し、図2に示した熱疲労試験に供して、熱疲労寿命を測定した。
上記実験1および実験2に加えて、VおよびN以外の成分組成を実験1および実験2と同じくし、VとNの含有量(mass%)の積(V×N)の値を種々に変化させた鋼を実験室で溶製し、上記実験1と同様にして、図1に示した熱疲労試験片を作製し、図2に示した条件の熱疲労試験に供して、熱疲労寿命を測定した。
C:0.005〜0.010mass%、Si:0.19〜0.22mass%、Mn:0.25〜0.29mass%、Al:0.042〜0.048mass%、Cr:17.9〜18.1mass%、Nb:0.34〜0.37mass%、V:0.19〜0.24mass%、N:0.0.19〜0.022mass%を含有し、Zr,TiおよびTaの含有量をそれぞれ0.003〜0.020mass%、0.003〜0.014mass%、0.003〜0.015mass%の範囲で種々に変化させた鋼を実験室で溶製し、上記実験1と同様にして、図1に示した熱疲労試験片を作製し、図2に示した条件で熱疲労試験に供し、熱疲労寿命を測定した。
C:0.005〜0.010mass%、Si:0.19〜0.22mass%、Al:0.042〜0.048mass%、Cr:17.9〜18.1mass%、Nb:0.29〜0.43mass%、V:0.19〜0.24mass%、N:0.019〜0.022mass%Nを含有し、Mnの含有量を0.13〜0.97mass%の範囲で種々に変化させた鋼を実験室で溶製し、得られた鋼塊を熱間圧延し、冷間圧延し、仕上焼鈍して板厚2mmの冷延焼鈍板を得た。この冷延焼鈍板から30mm×20mm×板厚の酸化試験用サンプルを採取し、このサンプルの表面を#320のエメリー紙で研磨した後、1000℃に保持された大気雰囲気の炉中で200時間の連続酸化試験を行い、酸化試験前後における質量変化(酸化増量)から、耐酸化性を評価した。なお、比較材としてSUS444についても、同様の連続酸化試験を行い、耐酸化性を評価した。
実験1〜3で得た鋼塊の一部を1170℃に加熱後、熱間圧延して5mm厚の熱延板とし、次いで、この熱延板を、熱延板焼鈍(焼鈍温度:1040℃)し、酸洗し、冷間圧延(冷延圧下率:60%)し、仕上げ焼鈍(焼鈍温度:1040℃、平均冷却速度:30℃/s)し、酸洗して板厚2mmの冷延焼鈍板とした。
この冷延焼鈍板から、JIS Z2202に規定されたサブサイズのシャルピーVノッチ衝撃試験片を採取し、JIS Z2422に準じて−30℃の温度でシャルピー衝撃試験を行い、破面を観察して脆性破面率を測定した。
本発明は、上記の知見にさらに検討を加えてなされたものである。
C:0.015mass%以下
Cは、鋼の強度を高める元素であるが、0.015mass%を超えて含有すると、靱性および加工性の劣化が顕著となる。また、本発明において重要なVの熱疲労特性改善効果を阻害する。よって、本発明では、Cは0.015mass%以下に制限する。
Siは、鋼の耐酸化性を向上する元素であり、脱酸剤としても添加される元素である。しかし、過剰な添加は加工性を低下させる。特に、優れた低温靭性を安定して得るためには、0.5mass%以下にする必要がある。
Mnは、脱酸剤としての効果を有する元素である。しかし、過剰な添加は、高温でのγ相の生成を促進し、耐熱性(耐酸化性)を低下させる。また、Mnは、低温靭性を低下させる元素でもある。したがって、優れた耐酸化性と低温靭性を兼備するためには、Mnは0.35mass%以下とする必要がある。
Pは、鋼の靱性を低下させる元素であり、できる限り低減するのが望ましい。よって、本発明では、Pは0.040mass%以下とする。好ましくは0.030mass%以下である。
Sは、鋼の伸びおよびr値を低下させて成形性を劣化させるとともに、ステンレス鋼の基本特性である耐食性を低下させる元素であり、できる限り低減するのが望ましい。よって、本発明では、Sを0.010mass%以下に制限する。
Alは、鋼の耐酸化性および高温での耐塩害腐食性の向上に有効な元素である。しかし0.10mass%を超えて添加すると、鋼が硬質化し、加工性が低下する。よって、Alの上限は0.10mass%とする。好ましくは0.03〜0.08mass%の範囲である。
Crは、鋼の耐酸化性を向上させる重要な元素である。斯かる効果を得るためには、16mass%以上の添加が必要である。一方、Crは、鋼に固溶し、室温において硬質化、低延性化して加工性の低下を招く。特に、優れた延性を得るためには、Crは18.5mass%以下にする必要がある。よって、Crは16〜18.5mass%の範囲とする。
Niは、鋼の靱性を向上させる元素であるが、高価である他、強力なγ相形成元素であるため、高温でのγ相の生成を促進し、耐酸化性を低下させる。よって、Niは0.5mass%以下とする。
VおよびNは、本発明では、鋼を高強度化し、熱疲労特性の向上を図るために重要な元素である。図3〜5に示したように、SUS444と同等以上の熱疲労特性を得るには、N:0.015〜0.040mass%、V:0.15〜0.60mass%およびVとNの含有量(mass%)の積(V×N):0.003〜0.015の全てを満たす必要がある。N含有量が0.015mass%未満、V含有量が0.15mass%未満あるいは(V×N)の値が0.003未満では、600〜800℃の温度でVNが鋼中に微細に析出しないため、本発明が目的とする熱疲労特性の改善効果が得られない。一方、N含有量が0.040mass%超え、V含有量が0.60mass%超えあるいは(V×N)が0.015超えでは、微細に析出したVNが粗大化し、却って熱疲労特性を低下させてしまうからである。
また、良好な熱疲労特性と同時に、良好な低温靭性、即ち、−30℃での衝撃試験における脆性破面率を0%とするには、図8〜10に示したように、N,Vの含有量および(V×N)の値がそれぞれ0.030mass%以下、0.35mass%以下、0.008以下の全てを満たす必要がある。よって、本発明では、N:0.015〜0.030mass%、V:0.15〜0.35mass%および(V×N):0.003〜0.008の範囲とする。
Nbは、C,Nを固定し、鋼の耐鋭敏化性、成形性、溶接部の粒界腐食性を高める作用を有するとともに、高温強度を高めて熱疲労特性を向上するのに有効な元素である。しかし、Nbの含有量がCとNの合計含有量(mass%)の10倍未満、即ち、10(C+N)未満では、鋼の鋭敏化を抑制する効果が得られない。一方、0.50mass%を超える添加は、Laves相の析出を促進して、脆化を起こし易くする。さらに、Nbの過剰添加は、本発明において重要なVNの析出が抑制され、熱疲労特性向上効果が得られなくなる。よって、Nbの含有量は、10(C+N)〜0.50mass%の範囲とする。
Ti,ZrおよびTaは、Nb,Vと同様、C,Nを固定して、耐食性、成形性、溶接部の粒界腐食性を向上させる作用を有する元素である。しかし、これらの元素がそれぞれ0.01mass%以上含有していると、本発明において重要役割を果たすVNの析出を抑制し、VNの析出効果を享受することができなくなり、熱疲労特性が低下してしまう。よって、本発明では、これらの元素はそれぞれ0.01mass%以下とする。
MoおよびWは、高温疲労特性および耐酸化性の向上に有効な元素であるが、いずれも高価な元素であり、安価な材料開発という本発明の目的から、積極的には添加しない。したがって、これらの元素は、製鉄原料のスクラップ等から混入する程度であり、その含有量は多くても0.1mass%以下である。よって、本発明では、MoおよびWの含有量はそれぞれ0.1mass%以下とする。
Co:0.05〜0.1mass%
Coは、鋼の靭性向上に有効な元素であり、その効果は0.05mass%以上の添加で認められる。しかし、Coは、高価な元素であり、0.1mass%を超えて添加しても上記効果は飽和してしまう。よって、低温靭性のさらなる向上を目的としてCoを添加する場合は、0.05〜0.1mass%の範囲とするのが好ましい。
Bは、加工性、とくに2次加工性を向上させるのに有効な元素である。この効果は、0.0004mass%以上の添加で発現する。しかし、0.0020mass%を超える添加は、BNを生成し、加工性の低下を招く。よって、Bを添加する場合は、0.0004〜0.0020mass%の範囲とする。
本発明のフェライト系ステンレス鋼において、上記以外の成分は、Feおよび不可避的不純物である。
本発明鋼の製造方法は、特に限定されるものではなく、フェライト系ステンレス鋼の製造方法として一般的なものであれば、いずれも好適に用いることができる。例えば、前述した本発明に適合する成分組成の鋼を転炉、電気炉等の溶製炉、あるいはさらに取鍋精錬、真空精錬等の二次精錬を適用して溶製し、連続鋳造法あるいは造塊−分塊圧延法で鋼片(スラブ)とし、その後、熱間圧延、熱延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上焼鈍、酸洗等の各工程を経て冷延焼鈍板とするのが好ましい。上記方法において、冷間圧延は、1回または中間焼鈍を挟む2回以上でもよい。また、冷間圧延、仕上焼鈍、酸洗の各工程は、必要に応じて繰り返し行ってもよく、熱延板焼鈍は、省略してもよい。さらに、鋼板表面の光沢性が要求される場合には、スキンパス等を施してもよい。
また、参考例として、特許文献4〜7に開示された成分組成を有する鋼(No.1〜4)、およびSUS444(No.5)についても、上記と同様にして熱疲労特性を評価した。
次いで、上記のようにして得た各冷延焼鈍板から、30mm×20mm×板厚のサンプルを切り出し、サンプル上部に4mmφの穴を開けてから、その表面および端面を#320のエメリー紙で研磨し、脱脂した。その後、そのサンプルを、1000℃に加熱・保持した大気雰囲気の炉内に吊り下げて200時間保持する大気中連続酸化試験に供した。試験後、サンプルの重量を測定し、試験前の重量との差を算出して、酸化増量を求めた。上記連続酸化試験は、各冷延焼鈍板のそれぞれについて2回実施し、その平均値で耐酸化性を評価した。
また、実施例1と同様、参考例として、従来鋼(No.1〜4)およびSUS444(No.5)についても、上記と同様にして耐酸化性を評価した。
また、実施例1と同様、参考例として、従来鋼(No.1〜4)およびSUS444(No.5)についても、上記と同様にして靭性を評価した。
Claims (3)
- C:0.015mass%以下、
Si:0.5mass%以下、
Mn:0.35mass%以下、
P:0.040mass%以下、
S:0.010mass%以下、
Al:0.10mass%以下、
Cr:16〜18.5mass%、
Ni:0.5mass%以下、
N:0.015〜0.030mass%、
V:0.15〜0.35mass%、
Nb:10(C(mass%)+N(mass%))〜0.50mass%、
Ti:0.01mass%以下、
Zr:0.01mass%以下、
Ta:0.01mass%以下、
Mo:0.1mass%以下、
W:0.1mass%以下含有し、かつ、
VおよびNの含有量(mass%)の積(V×N)が、
(V×N):0.003〜0.008
を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする熱疲労特性、耐酸化性および靭性に優れるフェライト系ステンレス鋼。 - 上記成分組成に加えてさらに、Co:0.05〜0.1mass%を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。
- 上記成分組成に加えてさらに、B:0.0004〜0.0020mass%を含有し、かつ、Alの含有量が0.03〜0.10mass%であることを特徴とする請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼。
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