JP5131844B2 - 熱間プレス用熱延鋼板およびその製造方法ならびに熱間プレス鋼板部材の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明者は、目的とする高強度を確保しつつ熱間プレス鋼板部材を金型から取り出す際のかじりを抑制する方法として、新たに、熱間プレス鋼板部材の板厚中心部は従来のように硬質な組織としたままで表層部のみを軟質化することを着想した。
本発明は、C:0.09%以上0.50%以下(以下、特に断りがない限り組成に関する「%」は「質量%」を意味する)、Si:0.02%以上2.0%以下、Mn:0.3%以上3.5%以下、Cr:0.01%以上1.0%以下、Ti:0.008%以上0.10%以下、B:0.0002%以上0.0050%以下、Al:0.005%以上0.1%以下、P:0.10%以下、S:0.05%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼組成を有し、鋼板の表層部に平均厚さが2μm以上かつ板厚の5%以下である脱炭層を有し、鋼板表面に存在する粒径1μm以上の介在物および析出物の数密度が30個/mm2以下であり、表面粗さRaが1.5μm以下であることを特徴とする熱間プレス用熱延鋼板である。
別の観点からは、本発明は、上記の鋼組成を有する溶鋼を、単位時間当たりの溶鋼鋳込み量を2.0トン/分以上6.0トン/分以下とし、さらに、スラブの表面から5mm深さ位置までの表層部の液相線温度と固相線温度との間の平均冷却速度を4℃/秒以上とする連続鋳造によりスラブとし、このスラブに1000℃以下の温度域で圧延を完了する熱間圧延を施して熱延鋼板とし、5℃/秒以上100℃/秒以下の平均冷却速度で冷却して580℃以上750℃以下の温度域で巻き取ることを特徴とする熱間プレス用熱延鋼板の製造方法である。
さらに別の観点からは、本発明は、上記の本発明に係る熱間プレス用熱延鋼板を850℃以上1000℃以下の温度域に2分間以上15分間以下保持したのちに熱間プレスを施し、10℃/秒以上の冷却速度で350℃未満の温度域まで冷却することを特徴とする熱間プレス鋼板部材の製造方法である。
(A)鋼組成
C:0.09%以上0.50%以下
熱間プレスは、素材となる熱間プレス用鋼板を加熱することで軟質化させ、プレス成形を容易にすることが一つの特色であるが、あわせて、プレス金型等で急冷することで鋼を焼き入れし、より高強度の成形品である熱間プレス鋼板部材を得ることも特色である。鋼の焼き入れ後の強度は主にC含有量によって決定されるため、熱間プレス鋼板部材に要求される強度に応じてC含有量を設定する。C含有量が0.09%未満では、本発明が目的とする熱間プレス鋼板部材の引張強度を980MPa以上とすることが困難となる。したがって、C含有量を0.09%以上とする。好ましくは0.18%以上である。一方、C含有量が0.50%超では、熱間プレス鋼板部材の靭性の劣化が著しくなる。したがって、C含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.35%以下である。
Siは、熱間プレス用鋼板の焼入れ性を高め、かつ熱間プレス鋼板部材の強度を安定して確保するのに有効な元素である。Si含有量が0.02%未満では、上記作用による効果を十分に得ることが困難となる。したがって、Si含有量は0.02%以上とする。一方、Si含有量が2.0%を超えると、熱間プレスに供する際の加熱工程において熱間プレス用熱延鋼板の表面にSiスケールが多量に発生し、熱間プレス鋼板部材にSiスケール疵を誘発する。したがって、Si含有量は2.0%以下とする。熱間プレス用熱延鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっきを施す場合には、合金化処理性の観点からSi含有量を1.0%以下とすることが好ましく、0.5%以下とすることがさらに好ましい。
Mnは、熱間プレス用鋼板の焼入れ性を高め、かつ熱間プレス鋼板部材の強度を安定して確保するのに非常に有効な元素である。Mn含有量が0.3%未満では、上記作用による効果を十分に得ることが困難となる。したがって、Mn含有量は0.3%以上とする。好ましくは0.8%以上である。一方、Mn含有量が3.5%を超えると、熱間プレス鋼板部材の靭性劣化を招く。したがって、Mn含有量は3.5%以下とする。好ましくは3.0%以下である。
Crは、熱間プレス用鋼板の焼入れ性を高め、かつ熱間プレス鋼板部材の強度を安定して確保するのに非常に有効な元素でもある。Cr含有量が0.01%未満では、上記作用による効果を十分に得ることが困難となる。したがって、Cr含有量は0.01%以上とする。好ましくは0.1%以上である。一方、Cr含有量が1.0%を超えると、熱間プレス鋼板部材の靭性劣化を招く。したがって、Cr含有量は1.0%以下とする。好ましくは0.6%以下である。
後述するBによる作用効果は固溶状態にあるBによってもたらされるため、鋼中におけるBNの形成を抑制する必要がある。Tiは、Bよりも窒化物形成能が高いので、Tiを含有させることにより鋼中におけるBNの形成を抑制することが可能となる。この作用効果を得るために、Ti含有量は0.008%以上とする。好ましくは0.01%以上である。一方、Ti含有量が0.10%超ではTiNが粗大化してしまい、鋼板表層部にTiNが析出するとTiNが非常に硬質なために金型寿命に悪影響を及ぼし、鋼板内部に析出すると熱間圧延鋼板部材の靭性劣化を招く。したがってTi含有量は0.10%以下とする。好ましくは0.035%以下である。
Bは、熱間プレス用鋼板の焼入れ性を高め、かつ熱間プレス鋼板部材の強度を安定して確保するのに非常に有効な元素である。B含有量が0.0002%未満では、上記作用による効果を十分に得ることが困難となる。したがって、B含有量は0.0002%以上とする。好ましくは0.0003%以上である。一方、B含有量が0.0050%を超えると、熱間プレス鋼板部材の靭性劣化を招く。したがって、B含有量を0.0050%以下とする。好ましくは0.0035%以下である。
Alは、製鋼工程において脱酸材として添加され、鋼材を健全化する作用を有する。Al含有量が0.005%未満では、上記作用による効果を十分に得ることが困難となる。したがって、Al含有量は0.005%以上とする。好ましくは0.01%以上である。一方、Al含有量が0.1%を超えると、鋼中に多量の酸化物を形成して熱間プレス鋼板部材の靭性を劣化させる。したがって、Al含有量は0.1%以下とする。好ましくは0.08%以下である。
P、SおよびNは、一般に不純物として鋼中に含有される元素であるが、熱間プレス用鋼板の焼入れ性を高め、かつ熱間プレス鋼板部材の強度を安定して確保するのに有効な元素でもあるので、積極的に含有させてもよい。しかし、P含有量が0.10%超、S含有量が0.05%超またはN含有量が0.01%超では、熱間プレス鋼板部材の靭性を劣化させる。したがって、P含有量は0.10%以下、S含有量は0.05%以下、N含有量は0.01%以下とする。なお、これらの不純物元素を過剰に低減するには著しいコストの増加を伴うので、P含有量は0.005%以上、S含有量は0.0005%以上、N含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
これらの元素は、いずれも熱間プレス用鋼板の焼入れ性を高め、かつ熱間プレス鋼板部材の強度を安定して確保するのに有効な任意元素である。したがって、これらの元素から選ばれる1種または2種以上を積極的に含有させてもよい。しかし、Nbについては0.1%を超えて、VおよびWについてはそれぞれ0.5%を超えて、Mo、CuおよびNiについてはそれぞれ1.0%を超えて、含有させても上記作用による効果は飽和してしまい、徒にコストの増加を招くのみである。したがって、Nbの含有量は0.1%以下、VおよびWの含有量はそれぞれ0.5%以下、Mo、CuおよびNiの含有量はそれぞれ1.0%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Nbについては0.005%以上、VおよびWについてはそれぞれ0.01%以上、Mo、CuおよびNiについてはそれぞれ0.02%以上として、いずれかの元素を含有させることが好ましい。
REM(希土類元素)、MgおよびCaは、いずれも鋼中の介在物の形態を微細化する作用を有し、介在物による熱間プレス時の割れを防止するのに有効な元素である。したがって、これらの元素から選ばれる1種または2種以上を積極的に含有させてもよい。しかし、REMについては0.1%を超えて、MgおよびCaについては0.01%を超えてそれぞれ含有させても上記作用による効果は飽和してしまい、徒にコストの増加を招くのみである。したがって、REMの含有量は0.1%以下、MgおよびCaの含有量はそれぞれ0.01%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、いずれかの元素の含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。
(B)熱間プレス用熱延鋼板の諸特性
<脱炭層>
熱間プレスにおける金型摩耗を抑制するには、熱間プレス用熱延鋼板の表層部に平均厚さが2μm以上かつ板厚の5%以下の脱炭層を有することが有効である。ここで、脱炭層とは、鋼板表層部に存在するフェライトの面積率が95%以上の組織の層であり、炭化物が殆ど存在しないフェライト主体の層であるため、ミクロ観察によってその他の部位の組織と容易に区別されるものである。
鋼板表面に存在する粒径1μm以上の介在物および析出物の数密度を30個/mm2以下とする。ここで、介在物および析出物の粒径は、介在物および析出物の面積から換算した円相当直径である。
鋼板の表面粗さRaは1.5μm以下とする。鋼板の表面粗さがRaが1.5μm超では、金型の磨耗が著しく促進され、金型寿命が顕著に短縮される。したがって鋼板の表面粗さRaを1.5μm以下とする。
熱間プレス用熱延鋼板の表面には、熱間プレス工程におけるスケール生成の抑制や熱間プレス鋼板部材の耐食性の向上を目的として、例えば、溶融亜鉛めっきや合金化溶融亜鉛めっきなどの表面処理を施してもよい。このようなめっき被膜は軟質であるため、金型寿命はめっきの基材である熱延鋼板の性状によって決定されるからである。
上述した本発明に係る熱間プレス用熱延鋼板を得るには、以下のような製造条件を適用することが有効である。
溶鋼を連続鋳造してスラブとする連続鋳造工程において、単位時間当たりの溶鋼鋳込み量を2.0トン/分以上6.0トン/分以下とし、さらに、スラブの表面から5mm深さ位置までの表層部の液相線温度と固相線温度と間における平均冷却速度を4℃/秒以上とする。
このようにして得たスラブに1000℃以下の温度域で圧延を完了する熱間圧延を施して熱延鋼板とし、5℃/秒以上100℃/秒以下の平均冷却速度で冷却して580℃以上750℃以下の温度域で巻き取る。
(D)熱間プレス鋼板部材の製造方法
(加熱条件:850℃以上1000℃以下の温度域に2分間以上15分間以下保持)
記熱間プレス用鋼板を熱間プレスに供する際にオーステナイト単相状態となるように加熱を施す。
熱間プレス後の冷却速度が10℃/秒未満では、熱間プレスの途中やその後の冷却過程においてフェライトが生成し始めるため、熱間プレス鋼板部材について目的とする強度を確保できない場合がある。また、冷却を350℃以上の温度で停止してしまったのでは、マルテンサイト以外の相や組織が生成してしまい、熱間プレス鋼板部材について目的とする強度を確保できない場合がある。したがって、熱間プレス後に10℃/秒以上の冷却速度で350℃未満の温度域まで冷却する。冷却速度は20℃/秒以上とすることが好ましく、冷却速度の上限は特に規定する必要はない。また、冷却完了温度は100℃以下、さらには室温とすることが好ましい。
表1に示す化学成分を有する鋼を試験転炉で溶製し、試験連続鋳造機にて連続鋳造を実施し、スラブとした。供試材の一部は、連続鋳造時に鋳型内電磁攪拌を実施した。その後、試験熱間圧延機にて、得られたスラブを表2に示す条件にて加熱した後、熱間圧延を施した。板厚は、3.2mmとした。その後、ラボにて酸洗を行い熱間プレス用熱延鋼板とした。
1)スラブ表面から深さ5mm位置における液相線温度と固相線温度との間での平均凝固速度の算出
得られたスラブの一部を切り出し、ピクリン酸にてエッチングを行った。光学顕微鏡を用いて、スラブの凝固組織を観察した。スラブ表面から5mm位置のデンドライト2次アーム間隔を測定した。測定は各供試材でn=10で測定し、各々の箇所で冷却速度を求め、その平均値を平均冷却速度とした。
2)鋼組織の評価
鋼板の圧延方向に平行な断面について、ナイタール液でエッチングを行い、光学顕微鏡を用いて、鋼板表層の鋼組織を観察した。倍率は500倍として、各製造条件に付きn=10の視野で観察を行った。各視野における最小脱炭層厚みと最大脱炭厚みを測定し、得られた測定値(n=20)から脱炭層の平均厚さを算出した。
3)介在物および析出物の調査
鋼板の表面を、走査型電子顕微鏡で観察した。倍率は3000倍で実施し、各製造条件についてn=20の視野を観察した。粒径は画像解析により求められる各々の介在物および析出物の面積から円相当粒径に換算し、その直径を各々の介在物および析出物の粒径とした。その粒径1μm以上の個数をカウントし、単位面積における個数を換算した。
4)鋼板の機械特性
各鋼板の圧延直角方向からJIS5号引張試験を採取した。試験方法はJIS Z 2241に準じた。降伏点(YP)、引張強さ(TS)、全伸び(El)を測定した。
5)鋼板の表面粗さ
表面粗さ計を用いて、各鋼板の圧延方向ならびに圧延直角方向について鋼板表面粗さ(Ra)を測定した。各鋼板について圧延方向をn=5ならびに圧延直角方向n=5のRaを測定し、算術計算にて平均値とした。
6)金型摩耗の評価
金型摩耗の評価は、同一条件で製造した熱間プレス用鋼板を50枚熱間プレスした後、図1に示すパンチ1を取り出し、パンチ1の縦壁部の表面粗さRyを測定した。金型使用前のRyと50枚熱間プレスした金型使用後のRyとの差を摩耗量とした。
7)熱間プレス鋼板部材の硬度
図1に示す熱間プレス鋼板部材1のハット形状の硬度は、ビッカース硬度計を用いて測定した。荷重は98kN(10kgf)とした。ハット形状部の縦壁部を切り出し、板厚1/4部での断面硬度をn=5で測定し、算術計算にて平均値とした。
供試材H9は、単位時間当りの溶鋼鋳込み量が1.8トン/分と、本発明の範囲外であった。そのため、鋳型の熱量が少なくなり、凝固殻に介在物が捕捉されやすくなり、鋼板表面に存在する粒径1μm以上の介在物および析出物の数密度が35個/mm2と増加し、金型摩耗量Ryが10μmと悪化した。
2 ダイス
3 熱間プレス試験装置
4 熱間プレス鋼板部材
Claims (7)
- 質量%で、C:0.09〜0.50%、Si:0.02〜2.0%、Mn:0.3〜3.5%、Cr:0.01〜1.0%、Ti:0.008〜0.10%、B:0.0002〜0.0050%、Al:0.005〜0.1%、P:0.10%以下、S:0.05%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼組成を有し、
鋼板の表層部に平均厚さが2μm以上かつ板厚の5%以下である脱炭層を有し、
鋼板表面に存在する粒径1μm以上の介在物および析出物の数密度が30個/mm2以下であり、
表面粗さRaが1.5μm以下であること
を特徴とする熱間プレス用熱延鋼板。 - 前記鋼組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.1%以下、V:0.5%以下、W:0.5%以下、Mo:1.0%以下、Cu:1.0%以下およびNi:1.0%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱間プレス用熱延鋼板。
- 前記鋼組成が、Feの一部に代えて、REM:0.1%以下、Mg:0.01%以下およびCa:0.01%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱間プレス用熱延鋼板。
- 鋼板表面に存在する粒径1μm以上の介在物および析出物の数密度が5個/mm2以下であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の熱間プレス用熱延鋼板。
- 請求項1から請求項3までのいずれかに記載の鋼組成を有する溶鋼を、単位時間当たりの溶鋼鋳込み量を2.0〜6.0トン/分とし、さらに、スラブの表面から5mm深さ位置までの表層部の液相線温度〜固相線温度間の平均冷却速度を4℃/秒以上とする連続鋳造によりスラブとし、該スラブに1000℃以下の温度域で圧延を完了する熱間圧延を施して熱延鋼板とし、5〜100℃/秒の平均冷却速度で冷却して580〜750℃の温度域で巻き取ることを特徴とする熱間プレス用熱延鋼板の製造方法。
- 前記連続鋳造の際に、連続鋳造機の鋳型内の溶鋼に移動磁場による攪拌を施すことを特徴とする請求項5に記載の熱間プレス用熱延鋼板の製造方法。
- 請求項1から請求項4までのいずれかに記載の熱間プレス用熱延鋼板を850〜1000℃の温度域に2分間〜15分間保持したのちに熱間プレスを施し、10℃/秒以上の冷却速度で350℃未満の温度域まで冷却することを特徴とする熱間プレス鋼板部材の製造方法。
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