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JP5130999B2 - 抗癌剤の有効性予測方法 - Google Patents

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Description

本発明は 乳癌治療におけるトラスツズマブの奏功性ならびに無増悪期間の延長性を、トラスツズマブ投与前に予測する方法等に関するものである。
乳癌は、女性の間では最も発症率が高い悪性腫瘍の一つであり、50〜55歳の年齢層の女性では第1位の死因となっている。特に、受容体型チロシンキナーゼ(RTK)をコードする遺伝子HER−2/neuの過剰発現を示す乳癌は、臨床的に予後不良であることが知られている(非特許文献1)。また、このようなHER−2/neu遺伝子の過剰発現は、原発性乳房腫瘍の20〜25%において認められることが報告されている(非特許文献2)。
トラスツズマブ(trastuzumab;HERCEPTIN(登録商標))は、HER−2/neuタンパクを標的とした、マウスHER−2抗体4D5組換えヒト化抗体であり(特許文献1)、HER−2/neu過剰発現転移性乳癌患者の治療に有効であることが臨床的に明らかにされている(非特許文献3)。また、トラスツズマブは、種々の化学療法剤とも併用して治療に用いられており、組み合わせて使用される化学療法剤としては、パクリタキセル(非特許文献4及び5)、ドセタキセル(非特許文献6及び7)等のタキソイドや、アロマターゼインヒビター(非特許文献8)や、抗エストロゲン剤(非特許文献8及び9)や、リポソーム性ドキソルビシン(非特許文献10)等が挙げられる。
最近になって、トラスツズマブによる治療を受けた患者のうち10〜30%に心毒性が認められることが臨床的に明らかにされた。このようなトラスツズマブの重篤な副作用を考慮すると、トラスツズマブ投与前に、トラスツズマブ治療の有効性をあらかじめ予測する方法を確立することが、乳癌の治療方針を立てる上で非常に重要である。しかし、他の抗癌剤と同様に、トラスツズマブの効果には個人差があり、効果が見られるかどうかは実際に治療を開始した後でなければ判定できないのが現状である。
米国特許第5,821,337号公報 Tsuda H., Breast Cancer 8: 38-44 (2001) Slamon et al., Science 244: 707-712 (1989) Baselga et al., J Clin Oncol 14: 737-744 (1996) Slamon et al., N Engl J Med 344: 783-792 (2001); Leyland-Jones et al., J Clin Oncol 21(21): 3965-3971(2003) Esteva et al., J Clin Oncol 20(7): 1800-1808 (2002) Pegram et al., J Natl Cancer Inst 96(10): 759-769 (2004) Jones A., Annals of Oncology 14: 1697-1794 (2003) Miller et al., Oncology 15(2): 38-40 (2001) Theodoulou et al., Proc Am Soc Clin Oncol 21: 216 (2002)
本発明の課題は、乳癌治療におけるトラスツズマブの奏功性ならびに無増悪期間の延長性を、トラスツズマブ投与前にあらかじめ予測する方法等を提供することにある。
本発明者らは、トラスツズマブ投与前の乳癌患者から採取した血漿中のN結合型糖鎖に関して質量分析を行い、31のマススペクトルピークを検出した。これらの31の糖鎖と、臨床情報との相関を検討した結果、トラスツズマブ療法奏功例(non−PD群)において、2534m/zの糖鎖の検出強度が、トラスツズマブ療法非奏功例(PD群)と比較して有意に高いこと、さらに、2534m/zの糖鎖が高い群では、無増悪期間の有意な延長が認められることを確認した。以上の結果から、本発明者らは、2534m/z糖鎖の検出強度を指標として、乳癌治療におけるトラスツズマブの有効性の予測を行いうることを見い出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、(1) トラスツズマブ(trastuzumab)投与前に乳癌治療におけるトラスツズマブの奏功性を分析するためのデータを収集する方法であって、癌患者より採取された血漿中の糖タンパクからN結合型糖鎖を遊離させる工程と、遊離させた糖鎖を精製する工程と、精製した糖鎖の質量分析を行う工程と、MALDI−TOF−MS型分析機を用いたときの2534m/zの糖鎖、又はそれに相当するピークの糖鎖の検出強度とトラスツズマブの奏功性とが、正の相関関係にあることを指標として、前記癌患者におけるトラスツズマブの奏功性を分析するためのデータを収集する工程とを、順次備えたことを特徴とする方法や、(2)トラスツズマブ(trastuzumab)投与前に乳癌治療におけるトラスツズマブによる無増悪期間の延長性を分析するためのデータを収集する方法であって、癌患者より採取された血漿中の糖タンパクからN結合型糖鎖を遊離させる工程と、遊離させた糖鎖を精製する工程と、精製した糖鎖の質量分析を行う工程と、MALDI−TOF−MS型分析機を用いたときの2534m/zの糖鎖、又はそれに相当するピークの糖鎖の検出強度とトラスツズマブの無増悪期間延長性とが、正の相関関係にあることを指標として、前記癌患者におけるトラスツズマブの無増悪期間の延長性を分析するためのデータを収集する工程とを、順次備えたことを特徴とする方法や、(3)トリプシン及びN−グリコシダーゼFを用いて、N結合型糖鎖を遊離させることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の方法に関する。
本発明によると、乳癌患者から採取した血漿中の糖鎖を解析することにより、乳癌治療におけるトラスツズマブの奏功性や無増悪期間の延長性を、トラスツズマブ投与前にあらかじめ予測することが可能になる。
本発明は、乳癌治療におけるトラスツズマブの有効性(奏功性及び無増悪期間の延長性)を、トラスツズマブ投与前に予測する方法であって、(1)癌患者より採取された血漿中の糖タンパクからN結合型糖鎖を遊離させる工程と、(2)遊離させた糖鎖を精製する工程と、(3)精製した糖鎖の質量分析を行う工程と、(4)MALDI−TOF−MS型分析機を用いたときは2534m/zの糖鎖、MALDI−TOF−MS型分析機以外の質量分析機を用いた場合は、MALDI−TOF−MS型分析機を用いたときの2534m/zに相当するピークの糖鎖、の検出強度とトラスツズマブの有効性とが、正の相関関係にあることを指標として、前記癌患者におけるトラスツズマブの有効性を予測する工程とを、順次備えたものであれば特に制限されず、より具体的には、例えばMALDI−TOF−MS型分析機を用いた質量分析により得られるマススペクトルの2534m/zの糖鎖の検出強度と、予め決定した検出強度の閾値とを比較し、前記検出強度の測定値が前記閾値より高い場合にトラスツズマブが有効(奏功及び無増悪期間の延長)であると評価する、トラスツズマブの有効性予測方法を好適に例示することができる。上記トラスツズマブとは、マウスHER−2抗体4D5組換えヒト化抗体であり、また、上記癌患者の有する癌は、乳癌であれば特に制限されず、再発または進行乳癌であっても、初期乳癌であってもよい。
本発明において、N結合型糖鎖とは、糖タンパク質の糖鎖のうち、タンパク質のアスパラギン残基が持つ側鎖のアミド基の窒素原子に結合している糖鎖であり、N型糖鎖やアスパラギン結合型糖鎖とも称される。本発明において、血漿中の糖タンパクからN結合型糖鎖を遊離させる方法としては、例えば、N−グリコシダーゼF(グリコペプチダーゼ、PN Gase、グリカナーゼ、グリコアミダーゼなどとも称される)やグリコペプチダーゼA等を用いた酵素法や、ヒドラジン分解法を具体的に例示することができるが、なかでも、N−グリコシダーゼFによる酵素法を好例として挙げることができる。その際、トリプシン等のプロテアーゼを併用することもできる。また、本発明において、遊離させた糖鎖を精製する方法としては、試料中の混合物から糖鎖を選択的に捕捉し精製する方法であれば特に制限されないが、MALDI−TOF−MSでの高感度測定用に最適化された糖鎖補足ビーズであるBlotGlyco(登録商標)for MALDI(住友ベークライト株式会社製)を用いた方法を好例として具体的に挙げることができる。
また、本明細書において、「MALDI−TOF−MS」とは、Matrix Assisted Laser Desorption Ionization-Time-of-Flight(Mass Spectrometer)の略語である。MALDI法は、試料をプレート上にスポットした後、マトリクス溶液(2, 5-Dihydroxybenzoic acid)を添加、乾固し、結晶状態にし、パルスレーザー照射により大きなエネルギーをマトリクス上に与え、(M+H)、(M+Na)などの試料由来イオンとマトリクス由来イオンとを脱離させる方法で、MALDI−TOF−MSは、MALDI法を利用して飛行時間を元に質量を測定するものである。イオンが一定の加速電圧Vで加速される場合、イオンの質量をm、イオンの速度をv、イオンの電荷数をz、電気素量をe、イオンの飛行時間をtとしたとき、イオンのm/zは、『m/z=2eVt/L』で表すことができる。本発明においては、MALDI−TOF−MS型分析機以外の分析機を使用することもでき、イオン源として、例えば、電子イオン化法、化学イオン化法、電界離脱法、高速原子衝突法、エレクトロスプレーイオン化法、大気圧化学イオン化法等を用いることができ、また、分析法としては、例えば、磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型などの方法を用いることができる。さらに、上記分析法と、HPLCとを組み合わせて用いることもできる。
本発明において、MALDI−TOF−MS型分析機を用いたときの2534m/zの糖鎖とは、MALDI−TOF−MS型分析機よる質量分析の結果、2534m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖であり、例えば、(Hex)5(HexNAc)2(Deoxyhexose)1+(Man)3(GlcNAc)2や、(Hex)3(Deoxyhexose)6 +(Man)3(GlcNAc)2等を具体的に挙げることができる。また、上記(Hex)5(HexNAc)2(Deoxyhexose)1+(Man)3(GlcNAc)2や、(Hex)3(Deoxyhexose)6 +(Man)3(GlcNAc)2等のMALDI−TOF−MS型分析機以外の質量分析機を用いた場合における、MALDI−TOF−MS型分析機を用いたときの2534m/zに相当するピークの糖鎖とは、MALDI−TOF−MS型分析機を用いたときの2534m/zマススペクトルピークを呈する糖鎖と相同の糖鎖を意味する。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
[乳癌患者からの検体の採取]
再発・進行乳癌患者に対しトラスツズマブ単独療法を受け、かつインフォームド・コンセントの得られた患者24例について、治療開始前に血液を採取し、血漿を遠心分離した。採取した検体(血漿)は連結可能匿名化を行った後、−80度で凍結保存した。
[血漿中の糖タンパク質糖鎖の分析]
糖タンパク質糖鎖の分析は、質量分析装置を用いて以下のように行った。27μLの血漿に、トリプシン及びN−グリコシダーゼFを加えて反応させ、タンパク質と修飾糖鎖を遊離させた。遊離した糖鎖を、糖鎖捕捉ビーズを用いて選択的に捕捉し、ラベル化を行った。その後、ビーズに捕捉された糖鎖を精製、分離し、MALDI−TOF−MS型分析機(Voyager-DETM STR Workstation;Applied Biosystems社製)により質量分析を行った。得られたシグナルは、内部標準と比較することにより定量化を行った。統計解析はt検定を用いた。また、質量分析の結果得られたシグナルから、GlycoSuite on line database(Proteome Systems)を用いて糖鎖の構造式を決定した。半数以上の症例で見られる31種類の糖鎖を表1にまとめた。
[糖鎖分析の結果解析]
得られた31のピーク(糖鎖)について、臨床情報との相関を検討したところ、2534m/z糖鎖の検出強度はトラスツズマブ療法非奏功例(PD群;8例)では、4.33±8.13であるのに対し、トラスツズマブ療法奏功例(non−PD群;16例)では、16.07±11.60であり、non−PD群において有意に高いことが明らかとなった (図1)。さらに、2534m/z糖鎖の検出強度の高い群(High group;15例)は、低い群(Low group;9例)と比較して、無増悪期間の有意な延長が認められた(図2)。これらの結果から、血漿中の2534m/z糖鎖を指標として、トラスツズマブの治療効果の予測が可能であることが示された。
2534糖鎖と治療効果の関係を示す図である。 2534糖鎖と無増悪期間との関係を示す図である。

Claims (3)

  1. トラスツズマブ(trastuzumab)投与前に乳癌治療におけるトラスツズマブの奏功性を分析するためのデータを収集する方法であって、以下の(1)〜(4)の工程を順次備えたことを特徴とする方法;
    (1)癌患者より採取された血漿中の糖タンパクからN結合型糖鎖を遊離させる工程;
    (2)遊離させた糖鎖を精製する工程;
    (3)精製した糖鎖の質量分析を行う工程;
    (4)MALDI−TOF−MS型分析機を用いたときの2534m/zの糖鎖、又はそれに相当するピークの糖鎖の検出強度とトラスツズマブの奏功性とが、正の相関関係にあることを指標として、前記癌患者におけるトラスツズマブの奏功性を分析するためのデータを収集する工程;
  2. トラスツズマブ(trastuzumab)投与前に乳癌治療におけるトラスツズマブによる無増悪期間の延長性を分析するためのデータを収集する方法であって、以下の(1)〜(4)の工程を順次備えたことを特徴とする方法;
    (1)癌患者より採取された血漿中の糖タンパクからN結合型糖鎖を遊離させる工程;
    (2)遊離させた糖鎖を精製する工程;
    (3)精製した糖鎖の質量分析を行う工程;
    (4)MALDI−TOF−MS型分析機を用いたときの2534m/zの糖鎖、又はそれに相当するピークの糖鎖の検出強度とトラスツズマブの無増悪期間延長性とが、正の相関関係にあることを指標として、前記癌患者におけるトラスツズマブの無増悪期間の延長性を分析するためのデータを収集する工程;
  3. トリプシン及びN−グリコシダーゼFを用いて、N結合型糖鎖を遊離させることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
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