JP5128796B2 - 脳血管障害の遺伝的リスク検出法 - Google Patents
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Description
しかしながら、依然として虚血性および出血性の脳血管障害と遺伝的要因との関係については、十分に解明されていない。
このとき、群を形成するときに使用する分散については、統計上の分散値、或いは標準偏差値(SD)、パーセントによる区分などを用いることができる。なお、遺伝子多型については、必ずしも上記8個には限られず、1個〜7個、9個以上で実施することができる。
(1)各遺伝子について、「データベースに登録されている塩基(A:アデニン、G:グアニン、C:シトシン、T:チミン)、多型が生じている位置、多型塩基」の順で記載する。例えば、「IL6のG−572C」は、IL6遺伝子について、−572位のGがCとなっている多型を意味している。但し、挿入多型については、「データベースに登録されている数とその塩基、多型が生じている位置、/塩基数及び塩基」の順で記載する。例えば、「IPF1の3G−108/4G」は、IPF1遺伝子について、−108位の3個の連続するGが、4個の連続するGとなる挿入多型を意味している。
また、場所の指定がない多型(例えば、HNF4AのA→G、TNFSF4のA→G、PAI1のA→G)については、表1〜表6に記載のdbSNPのアクセス番号から、その内容を容易に理解することができる。
このとき、群を形成するときに使用する分散については、統計上の分散値、或いは標準偏差値(SD)、パーセントによる区分などを用いることができる。なお、遺伝子多型については、必ずしも上記9個には限られず、1個〜8個、10個以上で実施することができる。
このとき、群を形成するときに使用する分散については、統計上の分散値、或いは標準偏差値(SD)、パーセントによる区分などを用いることができる。なお、遺伝子多型については、必ずしも上記10個には限られず、1個〜9個、11個以上で実施することができる。
また、第4の発明においては、脳血管障害がアテローム血栓性脳梗塞である場合には、IL6のG−572C、MTHFRのC677T、IPF1の3G−108/4G、TNFSF4のA/G、ITGB2のC1323T、THBS2のT3949G、MMP12のA−82G、ANXA5のC−1Tのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することが好ましい。
また、脳血管障害がクモ膜下出血である場合には、PKD1−likeのG/A(Gly243Asp)、TNFのC−863A、CAPN10のG4852A、MTHFRのC677T、UCP3のC−55T、OLR1のG501C、PAX4のC567T、TGFBR2のC1167T、IL10のT−819C、CCL5のG−403Aのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することが好ましい。
こうして、第5の発明に係るアテローム血栓性脳梗塞のリスク検出法は、男性と女性とに分類し、女性においてはEDN1の5665G→T、LIPGの584C→T、CCL11のG→A(Ala23Thr)、UTS2のG→A(Ser89Asn)、AKAP10のA→G(Ile646Val)、KCNJ11のA→G(Glu23Lys)、IL6の−572G→Cのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、高血圧の有無、糖尿病の有無とを評価因子とし、男性においてはMTHFRの677C→T、ITGB2の1323C→T、APOEの3932T→C、TNFSF4のA→G、APOA1の84T→C、EDNRAの−231A→G、F12の46C→T、KCNJ11のA→G(Glu23Lys)、IPF1の−108/3G→4G、THBS2のT→G(3’UTR)、APOEの−219G→T、ACDCの−11377C→Gのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、糖尿病の有無、高血圧の有無、BMIとを評価因子とし、各評価因子のオッズ比を乗じた発症リスクを計算し、この発症リスクを平均と分散またはパーセント区分に応じて3つ以上の複数の群を作成し、各群に応じて発症のリスクを検出することを特徴とする。
1.層別化を行わないときの研究対象
研究対象は、3151名(男性1484名、女性1667名)の日本人であった。彼らは、研究参加施設(岐阜県立岐阜病院、岐阜県立多治見病院、岐阜県立下呂温泉病院、弘前大学病院、黎明郷リハビリテーション病院、および横浜総合病院)に2002年10月から2005年3月までに来院した者であった。1141名の脳血管障害患者の内訳は、636名のアテローム血栓性脳梗塞患者(男性372名、女性264名)、282名の脳出血患者(男性179名、女性103名)、および223名のクモ膜下出血患者(男性89名、女性134名)であった。
本発明者らは、アテローム血栓性脳梗塞について、性差、高血圧の有無、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無、肥満の有無、喫煙の有無に関する層別解析を行った。その際の研究対象としては、上記636名のアテローム血栓性脳梗塞患者(男性372人、女性264名)と、2069名のコントロール(男性872名、女性1197名)であった。なお、コントロールは、上記2010名に、59名(男性28名、女性31名)の追加者が含まれている。
アテローム血栓性脳梗塞患者およびコントロール者には、アテローム性動脈硬化に関する従来の危険因子を有している者と有していない者とが含まれていた。従来の危険因子としては、高血圧(収縮期血圧が140mmHg以上か、拡張期血圧が90mmHg以上、若しくは両条件を満たす者)、高コレステロール血症(血清総コレステロール値が5.72mmol/L以上)、糖尿病(空腹時血糖値が6.93mmol/L以上か、ヘモグロビンAlcが6.5%以上、若しくは両条件を満たす者)、肥満(BMI≧25kg/m2以上)、または喫煙(10本以上/日)が含まれる。
なお、それ以外の診断方法等については、上記と同じ基準とした。
公開データベースの使用および本発明者の鋭意検討により、血管に関する生物学(高血圧、アテローム性動脈硬化症、動脈攣縮、または動脈瘤の観点から)、血小板機能、白血球と単核マクロファージに関する生物学、凝固と線維素溶解のカスケード、神経学的因子(循環器、血圧、または内分泌機能の制御の観点から)、脂質、グルコース、およびホモシステイン代謝、他の代謝因子に関する包括的な概要に基づき、虚血性または出血性の脳血管障害に関連する可能性のある152個の候補遺伝子を選択した。本発明者は、これら152個の遺伝子について、202個の多型を選択した。これらの多型の多くは、プロモーター領域、エクソン、イントロンのスプライシングの供与部位或いは受容部位に多く位置しており、多型の結果として、コードされたタンパク質の機能または発現に変化を与えることがあり得ると考えられた。これら202個の多型は、下記表1〜表6に示した。なお、表1〜表6においては、左欄から順に、座位(Locus)、遺伝子名(Gene)、簡易記載(Symbol)、多型(Polymorphism)、多型データベース登録番号(dbSNP)を示している。なお、多型データベース登録番号が無い場合には、NCBI遺伝子バンクに登録されている番号を示した。
7mLの静脈血を50mmol/L EDTA(ジナトリウム塩)を含むチューブに採取し、ゲノムDNAをキット(ゲノミックス社製)によって分離した。202個の多型の遺伝子型は、PCRと配列特異的オリゴヌクレオチドプローブをサスペンジョン・アレイ・テクノロジー(SAT:Luminex 100)と組み合わせて使用する方法(PCR−SSOP−Luminex)によって決定した(G&Gサイエンス株式会社)。プライマー、プローブ、その他の条件は、下表7および表8に示した。表8の列は、表7の列と同じ(すなわち、左から遺伝子表記(Gene Symbol)、多型(Polymorphism)、センスプライマー(Sense primer)、アンチセンスプライマー(Antisense primer)、プローブ1(Probe 1)、プローブ2(Probe 2)、アニーリング温度(Annealing)、およびサイクル数(Cycles))である。また、詳細な方法については、既報のもの(非特許文献6)を基本として、適宜に増幅条件を変えて行った。なお、脳血管障害との関連が認められなかった多型を検出するための条件については記載を省略した。
方法の詳細については、非特許文献6に記載の通りである。以下には、この方法の概要について説明する。
図1には、Luminex100で検出するマイクロビーズの微細構造と特徴を示した。マイクロビーズ(図中の符号(A))は、直径が約5.5μm程度であり、ポリスチレン製である。ビーズ表面には、特異的な塩基配列を認識する一本鎖のオリゴプローブが結合されている。各ビーズには、各々一種類のプローブが結合されている。このマイクロビーズには、赤色色素と赤外色素が割合を変化させて塗布されており、図中の符号(B)に示すように、Luminex100を用いた測定の段階において、混合した状態で最大100種類のビーズの同定が行えるようになっている。測定においては、複数種類のプローブを結合させたマイクロビーズ(但し、各マイクロビーズには一種類のプローブのみ)を1反応あたり1種類のビーズが300から500個となるようにしたビーズミックスを調製した(図中の符号(C))。
<増幅反応(Amplification)>
目的とするDNAを増幅するPCR反応には、5’末端をビオチンでラベルした一本鎖のオリゴプライマーを用いた。1.5mM塩化マグネシウムを含む1xPCR溶液(50mM KCl、10mM Tris−HCl、pH8.3)、2% DMSO、0.2mM dNTPs、及び0.1μM〜10μMプライマーセットを混合し、Taq DNAポリメラーゼ(50U/mL)と50ng〜100ngのゲノムDNAを加えて25μLとした。PCR反応は、95℃で10分の後、94℃で20秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で30秒間の伸長を1サイクルとし、これを50サイクル繰り返した。機器としてGeneAmp9700サーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いた。
増幅したDNAを変性した後、ビーズミックスとハイブリダイゼーションさせた。96ウエルプレートの各ウエルに、5μLの増幅反応後のPCR増幅液、5μLのビーズミックス、及び40μLのハイブリダイズ用緩衝液(3.75M TMAC、62.5mM TB(pH8.0)、0.5mM EDTA、0.125% N−ラウロイルザルコシン)を添加し、全量50μLとした。この混合液を添加した96ウエルプレートについて、95℃で2分間の変性の後、52℃で30分間のハイブリダイゼーションを行った(GeneAmp9700サーマルサイクラーを用いた。)。
図2中には、増幅したDNAを認識するプローブを有するビーズ(1)のみが、DNAと結合する様子が示されている。
次に、上記の増幅産物と反応させたビーズをSA−PEと反応させた。ハイブリダイゼーション反応の後、各ウエルに75μLのPBS−Tween(1xPBS(pH7.5)、0.01% Tween−20)を添加し、1000xgで5分間の遠心を行い、上清を取りさった。更に100μLのPBS−Tweenを各ウエルに添加し、1000xgで5分間の遠心を行い、上清を取り去ることで、マイクロビーズを洗浄した。各ウエルに残ったマイクロビーズに、1000倍に希釈した70μLのSA−PE溶液を添加し混合した後、52℃で15分間の反応を行った(GeneAmp9700サーマルサイクラーを用いた。)。
図2中には、ビーズ(1)のプローブにのみビオチン化DNAが結合しているので、そのビオチンにSA−PEが結合する様子が示されている。
次に、反応後のサンプルはLuminex100を用いて、ビーズ種類の同定と、そのビーズにPEが結合しているか否かを判定した。測定は2種類のレーザを使用して行われ、ビーズの種類は635nmレーザにより同定し、PE蛍光は532nmレーザを用いて定量した。オリゴビーズに結合したDNAは1測定あたり各々のビーズを最低50個ずつ測定し、定量されたPEの蛍光強度の中央値(MFI)を使用した。
図2中には、各ビーズ(1)〜(3)が同定され、かつビーズ(1)にのみPEが測定されたことから、ビーズ(1)に結合させたプローブが認識するDNAが増幅された様子が示されている。
臨床データは、アテローム血栓性脳梗塞(atherothrombotic infarction)、脳出血(intracerebral hemorrhage)、またはクモ膜下出血(subarachnoid hemorrhage)の患者群とコントロール群との間で、対応のないスチューデントt検定により比較した。質的データは、カイ二乗検定によって比較した。対立遺伝子頻度は遺伝子カウント法によって概算し、ハーディ・ワインベルク平衡にあてはまるかどうかを判断するためにカイ二乗検定を使った。各常染色体における遺伝子型分布は、アテローム血栓性脳梗塞・脳出血・またはクモ膜下出血患者と、コントロールとの間でカイ二乗検定(3x2)によって比較した。X染色体上にある遺伝子多型については、対立遺伝子頻度をカイ二乗検定(2x2)によって比較した。
その他の臨床的バックグラウンドデータについては、危険率5%未満(P<0.05)は統計的に有意であると見なした。統計的有意性は、両側検定によって試験した。統計解析は、JMPソフトウェア・バージョン5.1(SASインスティテュート社製)によって実行した。
<試験結果>
3151人の研究対象に関する基礎的データを下表10に示した。左欄より順に、特徴(Characteristics)、アテローム血栓性脳梗塞患者(Atherothrombotic infarction)、脳出血患者(Intracerebral hemorrhage)、クモ膜下出血患者(Subarachnoid hemorrhage)、およびコントロール者(Controls)を示している。また、特徴欄は、上より順に、者数(No. of subjects)、年齢(Age)、性別(女性/男性)(Gender(female/male))、肥満指数(Body mass index)、現在または過去の喫煙率(Current or former smoker)、高血圧(Hypertension)、糖尿病(Diabetes mellitus)、および高コレステロール血症(Hypercholesterolemia)を示している。
<アテローム血栓性脳梗塞のリスク診断システム>
表11には、アテローム血栓性脳梗塞のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、因子(Variable)、P値(P value)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total risk)を示した。
表12には、脳出血のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、因子(Variable)、P値(P value)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total risk)を示した。
表13には、クモ膜下出血のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、因子(Variable)、P値(P value)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total risk)を示した。
次に、上記リスク診断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定による遺伝子多型の評価は、アテローム血栓性脳梗塞について14個、脳出血について16個、およびクモ膜下出血について16個のものが、疾病との間の関連を示した(P<0.07)。詳細を表14および表15に示した。両表においては、左欄より順に、遺伝子表記(Gene symbol)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
これらの結果をまとめることにより、前述のアテローム血栓性脳梗塞、脳出血、およびクモ膜下出血のリスク判断システムを開発することができた。
本発明者は、アテローム血栓性脳梗塞、脳出血、およびクモ膜下出血への関与が推定された152個の候補遺伝子中、202個の多型について、独立な関係を検出した。我々の大規模な研究によって、IL6のG−572C多型がアテローム血栓性脳梗塞と脳出血の両方について、有意に関連していること、及びTNFのC−863A多型がクモ膜下出血と有意に関連していることが分かった。
このように本実施形態によれば、アテローム血栓性脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血などの虚血性および出血性の脳血管障害について、遺伝的リスクおよび発症リスクを判断するための検出法を提供することができる。この実施形態を用いることにより、脳血管障害に対する予防が可能となり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
次に、性別、高血圧の有無、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無、肥満の有無、および喫煙の有無の6個の因子のそれぞれについて層別に解析を行った結果について説明する。
1.性別で層別解析したときの結果
表19には、男性または女性に分けたときの、アテローム血栓性脳梗塞患者(ACI)とコントロール者の特徴をまとめた。
次に、アテローム血栓性脳梗塞のリスク診断に必要な因子を抽出するため、遺伝子多型および年齢・喫煙・BMI・高血圧・糖尿病・高コレステロール血症について、ステップワイズ変数増加法による解析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、アテローム血栓性脳梗塞に関するリスク診断を行えることが分かった。
表20には、男性または女性におけるアテローム血栓性脳梗塞のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、女性における因子(Variable)、P値(P)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))、男性における因子(Variable)、P値(P)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total)を示した。
多項ロジスティック回帰分析の結果、女性においては、従来の危険因子としては高血圧、糖尿病が、遺伝因子としては、EDN1、LIPG、CCL11、UTS2、AKAP10、KCNJ11、IL6の各遺伝子多型がアテローム血栓性脳梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が6.74、遺伝因子では最小オッズ比が0.34で最大オッズ比が13.69であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.34で最大オッズ比が92.27であり、271倍の差が認められた。また男性においては、従来の危険因子としては糖尿病、高血圧、BMIが、遺伝因子としては、MTHFR、ITGB2、APOE(2箇所の多型)、TNFSF4、APOA1、EDNRA、F12、KCNJ11、IPF1、THBS2、ACDCの各遺伝子多型がアテローム血栓性脳梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が17.25、遺伝因子では最小オッズ比が0.33で最大オッズ比が225.66であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.33で最大オッズ比が3892.64であり、11,796倍の差が認められた。
結果については、医師等の有資格者の判断を含めてカウンセリングを行い、とりわけリスクが高い群またはやや高い群に属する場合には生活習慣の改善(禁煙・食事療法・運動療法・肥満の軽減・ストレス解消・睡眠不足解消など)や、危険因子の早期治療(高血圧・糖尿病・高脂血症の治療など)を行うことによりアテローム血栓性脳梗塞の一次・二次予防を積極的に推進する。遺伝因子は変更できないが、従来の危険因子は軽減・治療可能であるため、これらの因子を治療した場合に発症リスクがどの程度減少するかについても予測し、クライアントに説明する。特にアテローム血栓性脳梗塞や心筋梗塞の家族歴のある人への適用が有効である。本システムによりアテローム血栓性脳梗塞のオーダーメイド予防が可能になり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
次に、上記リスク判断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、女性の場合には9個の遺伝子多型が、男性の場合には18個の遺伝子多型が、アテローム血栓性脳梗塞との関連を示した(P<0.06)。詳細を表21に示した。表中においては、左欄より順に、女性(Women)における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)と、男性(Men)における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
男性の場合には、統計的有意性が高い順に、糖尿病、年齢、高血圧、MTHFR遺伝子型(劣性モデル)、ITGB2遺伝子型(優性モデル)、APOE遺伝子型(優性モデル)、およびEDNRA遺伝子型(劣性モデル)が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立してアテローム血栓性脳梗塞に影響を与えることが分かった。
表25には、高血圧の有無で層別化したときのアテローム血栓性脳梗塞とコントロール者の特徴をまとめた。
次に、アテローム血栓性脳梗塞のリスク診断を行うために必要な因子を抽出するため、遺伝子多型および年齢・喫煙・BMI・性別・糖尿病・高コレステロール血症について、ステップワイズ変数増加法による解析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、アテローム血栓性脳梗塞に関するリスク診断を行えることが分かった。
表26には、正常血圧者または高血圧者におけるアテローム血栓性脳梗塞のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、正常血圧者における因子(Variable)、P値(P)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))、高血圧者における因子(Variable)、P値(P)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total)を示した。
多項ロジスティック回帰分析の結果、正常血圧者においては、従来の危険因子としては性別(男性が高リスク)、糖尿病が、遺伝因子としては、MTHFR、AGTR1、SAHの各遺伝子多型がアテローム血栓性脳梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が6.14、遺伝因子では最小オッズ比が0.30で最大オッズ比が8.13であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.30で最大オッズ比が49.92であり、166倍の差が認められた。また高血圧者においては、従来の危険因子としては糖尿病、性別(男性が高リスク)が、遺伝因子としては、IL6、TNFSF4、SLC26A8、GP6、HNF4A、IPF1、PCSK9、THBS2の各遺伝子多型がアテローム血栓性脳梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が2.62、遺伝因子では最小オッズ比が0.71で最大オッズ比が50.28であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.71で最大オッズ比が131.73であり、186倍の差が認められた。
結果については、医師等の有資格者の判断を含めてカウンセリングを行い、とりわけリスクが高い群またはやや高い群に属する場合には生活習慣の改善(禁煙・食事療法・運動療法・肥満の軽減・ストレス解消・睡眠不足解消など)や、危険因子の早期治療(高血圧・糖尿病・高脂血症の治療など)を行うことによりアテローム血栓性脳梗塞の一次・二次予防を積極的に推進する。遺伝因子は変更できないが、従来の危険因子は軽減・治療可能であるため、これらの因子を治療した場合に発症リスクがどの程度減少するかについても予測し、クライアントに説明する。特にアテローム血栓性脳梗塞や心筋梗塞の家族歴のある人への適用が有効である。本システムによりアテローム血栓性脳梗塞のオーダーメイド予防が可能になり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
次に、上記リスク判断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、正常血圧者の場合には7個の遺伝子多型が、高血圧者の場合には12個の遺伝子多型が、アテローム血栓性脳梗塞との関連を示した(P<0.06)。詳細を表27に示した。表中においては、左欄より順に、正常血圧者(Hypertension(-))における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)と、高血圧者(Hypertension(+))における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
高血圧者の場合には、統計的有意性が高い順に、糖尿病、IL6遺伝子型(劣性モデル)が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立してアテローム血栓性脳梗塞に影響を与えることが分かった。
表31には、高コレステロール血症の有無で層別化したときのアテローム血栓性脳梗塞とコントロール者の特徴をまとめた。
次に、アテローム血栓性脳梗塞のリスク診断に必要な因子を抽出するため、遺伝子多型および年齢・喫煙・BMI・性別・糖尿病・高コレステロール血症について、ステップワイズ変数増加法による解析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、アテローム血栓性脳梗塞に関するリスク診断を行えることが分かった。
表32には、血清コレステロール正常者または高コレステロール血症者におけるアテローム血栓性脳梗塞のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、血清コレステロール正常者における因子(Variable)、P値(P)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))、高コレステロール血症者における因子(Variable)、P値(P)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total)を示した。
多項ロジスティック回帰分析の結果、血清コレステロール正常者においては、従来の危険因子としては高血圧、性別(男性が高リスク)、糖尿病が、遺伝因子としては、AGT、PCSK9、ITGB2、MTHFR、F7の各遺伝子多型がアテローム血栓性脳梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が6.38、遺伝因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が75.76であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が483.35であり、483倍の差が認められた。
結果については、医師等の有資格者の判断を含めてカウンセリングを行い、とりわけリスクが高い群またはやや高い群に属する場合には生活習慣の改善(禁煙・食事療法・運動療法・肥満の軽減・ストレス解消・睡眠不足解消など)や、危険因子の早期治療(高血圧・糖尿病・高脂血症の治療など)を行うことによりアテローム血栓性脳梗塞の一次・二次予防を積極的に推進する。遺伝因子は変更できないが、従来の危険因子は軽減・治療可能であるため、これらの因子を治療した場合に発症リスクがどの程度減少するかについても予測し、クライアントに説明する。特にアテローム血栓性脳梗塞や心筋梗塞の家族歴のある人への適用が有効である。本システムによりアテローム血栓性脳梗塞のオーダーメイド予防が可能になり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
次に、上記リスク判断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、血清コレステロール正常者の場合には12個の遺伝子多型が、高コレステロール血症者の場合には18個の遺伝子多型が、アテローム血栓性脳梗塞との関連を示した(P<0.06)。詳細を表33に示した。表中においては、左欄より順に、血清コレステロール正常者(Hypercholesterolemia(-))における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)と、高コレステロール血症者(Hypercholesterolemia(+))における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
高コレステロール血症者の場合には、統計的有意性が高い順に、高血圧、糖尿病、AGTR2遺伝子型(優性モデル)、CCL5遺伝子型(劣性モデル)、ADRB2遺伝子型(劣性モデル)、およびCOMT遺伝子型(優性モデル)が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立してアテローム血栓性脳梗塞に影響を与えることが分かった。
表37には、糖尿病の有無で層別化したときのアテローム血栓性脳梗塞とコントロール者の特徴をまとめた。
次に、アテローム血栓性脳梗塞のリスク診断に必要な因子を抽出するため、遺伝子多型および年齢・喫煙・BMI・性別・高血圧・高コレステロール血症について、ステップワイズ変数増加法による解析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、アテローム血栓性脳梗塞に関するリスク診断を行えることが分かった。
表38には、血糖正常者または糖尿病者におけるアテローム血栓性脳梗塞のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、血糖正常者における因子(Variable)、P値(P)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))、糖尿病者における因子(Variable)、P値(P)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total)を示した。
多項ロジスティック回帰分析の結果、血糖正常者においては、従来の危険因子としては高血圧、性別(男性が高リスク)が、遺伝因子としては、MMP12、IL6、COL3A1、ABCA1、SAHの各遺伝子多型がアテローム血栓性脳梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が4.92、遺伝因子では最小オッズ比が0.40で最大オッズ比が6.62であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.40で最大オッズ比が32.57であり、81倍の差が認められた。また糖尿病者においては、従来の危険因子としては高血圧、性別(男性が高リスク)、高脂血症が、遺伝因子としては、APOE、COMT、GP6、TNFSF4、GCK、FABP2、MTHFR、GYS1の各遺伝子多型がアテローム血栓性脳梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が8.65、遺伝因子では最小オッズ比が0.35で最大オッズ比が188.02であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.35で最大オッズ比が1626.37であり、4647倍の差が認められた。
結果については、医師等の有資格者の判断を含めてカウンセリングを行い、とりわけリスクが高い群またはやや高い群に属する場合には生活習慣の改善(禁煙・食事療法・運動療法・肥満の軽減・ストレス解消・睡眠不足解消など)や、危険因子の早期治療(高血圧・糖尿病・高脂血症の治療など)を行うことによりアテローム血栓性脳梗塞の一次・二次予防を積極的に推進する。遺伝因子は変更できないが、従来の危険因子は軽減・治療可能であるため、これらの因子を治療した場合に発症リスクがどの程度減少するかについても予測し、クライアントに説明する。特にアテローム血栓性脳梗塞や心筋梗塞の家族歴のある人への適用が有効である。本システムによりアテローム血栓性脳梗塞のオーダーメイド予防が可能になり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
次に、上記リスク判断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、血糖正常者の場合には8個の遺伝子多型が、糖尿病者の場合には15個の遺伝子多型が、アテローム血栓性脳梗塞との関連を示した(P<0.06)。詳細を表39に示した。表中においては、左欄より順に、血糖正常者(Diabetes mellitus(-))における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)と、糖尿病者(Diabetes mellitus(+))における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
糖尿病者の場合には、統計的有意性が高い順に、高血圧、APOE遺伝子型(優性モデル)、年齢、TNFS4遺伝子型(劣性モデル)、GCK遺伝子型(劣性モデル)、および性差が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立してアテローム血栓性脳梗塞に影響を与えることが分かった。
表43には、肥満の有無で層別化したときのアテローム血栓性脳梗塞とコントロール者の特徴をまとめた。
次に、アテローム血栓性脳梗塞のリスク診断に必要な因子を抽出するため、遺伝子多型および年齢・喫煙・性別・高血圧・高コレステロール血症・糖尿病について、ステップワイズ変数増加法による解析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、アテローム血栓性脳梗塞に関するリスク診断を行えることが分かった。
表44には、BMI正常者または肥満者におけるアテローム血栓性脳梗塞のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、BMI正常者における因子(Variable)、P値(P)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))、肥満者における因子(Variable)、P値(P)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total)を示した。
多項ロジスティック回帰分析の結果、BMI正常者においては、従来の危険因子としては高血圧、性別(男性が高リスク)、糖尿病が、遺伝因子としては、IL6、LIPG、MTHFR、GCK、TNFSF4、AGTの各遺伝子多型がアテローム血栓性脳梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が11.91、遺伝因子では最小オッズ比が0.39で最大オッズ比が16.56であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.39で最大オッズ比が197.23であり、506倍の差が認められた。また肥満者においては、従来の危険因子としては高血圧、糖尿病が、遺伝因子としては、UCP3、IL10、IPF1、LIPG、APOA1、EDN1の各遺伝子多型がアテローム血栓性脳梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が7.22、遺伝因子では最小オッズ比が0.29で最大オッズ比が17.14であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.29で最大オッズ比が123.75であり、427倍の差が認められた。
結果については、医師等の有資格者の判断を含めてカウンセリングを行い、とりわけリスクが高い群またはやや高い群に属する場合には生活習慣の改善(禁煙・食事療法・運動療法・肥満の軽減・ストレス解消・睡眠不足解消など)や、危険因子の早期治療(高血圧・糖尿病・高脂血症の治療など)を行うことによりアテローム血栓性脳梗塞の一次・二次予防を積極的に推進する。遺伝因子は変更できないが、従来の危険因子は軽減・治療可能であるため、これらの因子を治療した場合に発症リスクがどの程度減少するかについても予測し、クライアントに説明する。特にアテローム血栓性脳梗塞や心筋梗塞の家族歴のある人への適用が有効である。本システムによりアテローム血栓性脳梗塞のオーダーメイド予防が可能になり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
次に、上記リスク判断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、BMI正常者の場合には10個の遺伝子多型が、肥満者の場合には11個の遺伝子多型が、アテローム血栓性脳梗塞との関連を示した(P<0.06)。詳細を表45に示した。表中においては、左欄より順に、BMI正常者(Obesity(-))における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)と、肥満者(Obesity(+))における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
肥満者の場合には、統計的有意性が高い順に、高血圧、糖尿病、および年齢が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立してアテローム血栓性脳梗塞に影響を与えることが分かった。
表49には、喫煙の有無で層別化したときのアテローム血栓性脳梗塞とコントロール者の特徴をまとめた。
次に、アテローム血栓性脳梗塞のリスク診断に必要な因子を抽出するため、遺伝子多型および年齢・性別・BMI・高血圧・高コレステロール血症・糖尿病について、ステップワイズ変数増加法による解析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、アテローム血栓性脳梗塞に関するリスク診断を行えることが分かった。
表50には、非喫煙者または喫煙者におけるアテローム血栓性脳梗塞のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、非喫煙者における因子(Variable)、P値(P)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))、喫煙者における因子(Variable)、P値(P)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子と、遺伝因子のオッズ比を乗じた総合リスク(Total)を示した。
多項ロジスティック回帰分析の結果、非喫煙者においては、従来の危険因子としては高血圧、性別(男性が高リスク)、糖尿病が、遺伝因子としては、IL6、MTHFR、TNFSF4、ITGB2、LIPG、UCP3、MMP12、UTS2、THBS2の各遺伝子多型がアテローム血栓性脳梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が9.22、遺伝因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が63.81であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が588.33であり、588倍の差が認められた。また喫煙者においては、従来の危険因子としては高血圧、糖尿病が、遺伝因子としては、F12、COMT、CXCL16、CPB2の各遺伝子多型がアテローム血栓性脳梗塞の発症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が1.00で最大オッズ比が5.90、遺伝因子では最小オッズ比が0.14で最大オッズ比が4.38であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.14で最大オッズ比が25.84であり、185倍の差が認められた。
結果については、医師等の有資格者の判断を含めてカウンセリングを行い、とりわけリスクが高い群またはやや高い群に属する場合には生活習慣の改善(禁煙・食事療法・運動療法・肥満の軽減・ストレス解消・睡眠不足解消など)や、危険因子の早期治療(高血圧・糖尿病・高脂血症の治療など)を行うことによりアテローム血栓性脳梗塞の一次・二次予防を積極的に推進する。遺伝因子は変更できないが、従来の危険因子は軽減・治療可能であるため、これらの因子を治療した場合に発症リスクがどの程度減少するかについても予測し、クライアントに説明する。特にアテローム血栓性脳梗塞や心筋梗塞の家族歴のある人への適用が有効である。本システムによりアテローム血栓性脳梗塞のオーダーメイド予防が可能になり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
次に、上記リスク判断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、非喫煙者および喫煙者のいずれの場合にも14個の遺伝子多型が、アテローム血栓性脳梗塞との関連を示した(P<0.06)。詳細を表51に示した。表中においては、左欄より順に、非喫煙者(Smoking(-))における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)と、喫煙者(Smoking(+))における遺伝子(Gene)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
喫煙者の場合には、統計的有意性が高い順に、高血圧、年齢、F12遺伝子型(劣性モデル)、およびCXCL16遺伝子型(レッセモデル)が有意であり(P≦0.005)、各要因が独立してアテローム血栓性脳梗塞に影響を与えることが分かった。
本発明者らは、202個の多型についてアテローム血栓性脳梗塞との関係を、性別、高血圧の有無、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無、肥満の有無、および喫煙の有無に層別化して評価した。その結果、アテローム血栓性脳梗塞に関与する多型は、性別、およびその他の従来の危険因子の有無に応じて異なっていることが分かった。
アテローム血栓性脳梗塞は、脳卒中のうちで最も一般的な疾患であり、多くの患者では、アテローム性動脈硬化によって引き起こされている(非特許文献7)。アテローム性動脈硬化は、動脈壁の内皮細胞および平滑筋細胞への損傷に対する各種の炎症反応や繊維増殖反応が過剰に起こった結果、多くの増殖因子、サイトカイン、および血管制御分子の関与によって生ずる(非特許文献22)。
アテローム血栓性脳梗塞については、女性の場合には、LIPGの584C→T(Thr111Ile)多型、EDN1の5665G→T(Lys198Asn)多型、およびCCL11のG→A(Ala23Thr)多型が関連していた。また、男性の場合には、MTHFRの677C→T(Ala222Val)多型、ITGB2の1323C→T多型、APOEの3932T→C(Cys112Arg)多型、およびEDNRAの−231A→G多型が関連していた。今回の研究では、アテローム血栓性脳梗塞に関連する多型が、性差で異なる理由については明らかとはなっていない。
遺伝的要因と環境要因との相互作用がアテローム血栓性脳梗塞の原因として重要ではないかと考えたので、高血圧の有無・高コレステロール血症の有無・糖尿病の有無・肥満の有無・喫煙習慣の有無に分けたときのアテローム血栓性脳梗塞の発症に関連する多型について解析を行った。その結果、高血圧者では、IL6の−572G→C多型がアテローム血栓性脳梗塞に関連したが、血圧正常者では、そのような多型は認められなかった。高コレステロール血症者では、CCL5の−403G→A多型とCOMTのG→A(Val158Met)多型がアテローム血栓性脳梗塞に関連したが、血清コレステロール正常者では、そのような多型は認められなかった。糖尿病者では、APOEの3932T→C(Cys112Arg)とTNFSF4のA→G多型がアテローム血栓性脳梗塞に関連したが、非糖尿病者では、そのような多型は認められなかった。肥満者では、IL6の−572G→C多型がアテローム血栓性脳梗塞に関連したが、BMI正常者では、そのような多型は認められなかった。非喫煙者では、IL6の−572G→C多型、MTHFRの677C→T(Ala222Val)多型、およびTNFSF4のA→G多型がアテローム血栓性脳梗塞に関連したが、喫煙者では、F12の46C→T多型とCXCL16のC→T(Ala181Val)多型がアテローム血栓性脳梗塞に関連した。
このように本実施形態によれば、アテローム血栓性脳梗塞について、遺伝的リスクおよび発症リスクを判断するための検出法を提供することができる。この実施形態を用いることにより、アテローム血栓性脳梗塞に対する予防が可能となり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
Claims (2)
- 日本人における脳血管障害の遺伝的リスク検出法であって、
前記脳血管障害がアテローム血栓性脳梗塞の場合には、IPF1の3G−108/4G、TNFSF4のA/G、ITGB2のC1323T、THBS2のT3949G、MMP12のA−82G及びANXA5のC−1Tの遺伝子多型を検出し、
前記脳血管障害が脳出血の場合には、TNFのC−863A、CD14のC−260T、FBN1のT1875C、PECAM1のC1454G、UCP1のA−112C、CPB2のG529A、LIPCのG−250A及びCCL5のC−28Gの遺伝子多型を検出し、
前記脳血管障害がクモ膜下出血の場合には、PKD1−likeのG/A(Gly243Asp)、TNFのC−863A、CAPN10のG4852A、MTHFRのC677T、UCP3のC−55T、OLR1のG501C、PAX4のC567T、TGFBR2のC1167T、IL10のT−819C及びCCL5のG−403Aの遺伝子多型を検出することを特徴とする日本人における遺伝的リスク検出法。 - 前記脳血管障害がアテローム血栓性脳梗塞のときには、更に、
女性の場合には、EDN1の5665G→T、LIPGの584C→T、CCL11のG→A(Ala23Thr)、UTS2のG→A(Ser89Asn)、AKAP10のA→G(Ile646Val)及びKCNJ11のA→G(Glu23Lys)、男性の場合には、APOEの3932T→C、APOA1の84T→C、EDNRAの−231A→G、F12の46C→T、THBS2のT→G(3’UTR)、APOEの−219G→T及びACDCの−11377C→G、
正常血圧者の場合には、AGTR1の1166A→C及びSAHのA→G(in intron12)、高血圧者の場合には、SLC26A8のA→G(Ile639Val)、GP6の13254T→C、HNF4AのA→G及びPCSK9の23968A→G、
血清コレステロール正常者の場合には、AGTの−6G→A及びF7の11496G→A、高コレステロール血症者の場合には、COMTのG→A(Val158Met)、ADRB2の46A→G、PCK1の−232C→G、PTGISの1117C→A、CCL5の−28C→G及びAGTR2の1675G→A、
血糖正常者の場合には、COL3A1のG→A(Ala698Th)及びABCA1の2583A→G、糖尿病者の場合には、GCKの−30G→A、FABP2の2445G→A及びGYS1のA→G(Met416Val)、
肥満者の場合には、UCP3の−55C→T及びIL10の−592A→C、
喫煙者の場合には、CXCL16のC→T(Ala181Val)及びCPB2のT→C(Ile347Thr)の遺伝子多型を検出することを特徴とする請求項1に記載の日本人における遺伝的リスク検出法。
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