本発明の好適な実施形態について、図1を参照しながら説明する。図1は本発明の燃料電池システム10に係る実施形態を示す制御系統図である。図1に示すように、本実施形態の燃料電池システム10は酸化剤ガスとして酸素を含む空気を用い、燃料ガスとして水素を用いている。酸化剤ガスである空気は大気から吸気流量計18や空気フィルタを介して空気吸込み管路19から空気圧縮機14に吸込まれ、空気圧縮機14によって加圧された吐出空気は圧縮機吐出管路20から加湿器31に供給される。加湿器31は、例えば、多数の中空糸膜を収容しており、中空糸膜の内側と外側にそれぞれ水分含量の異なる流体を供給すると、水分含量の多い流体中の水分が中空糸膜を透過して水分含量の少ない流体へと移動する性質を利用した中空子加湿器などが用いられる。加湿器31に入った空気は、加湿器31において燃料電池11での反応で生成された水分により加湿され、湿り空気となって空気供給管路23から燃料電池11に供給される。燃料電池11の酸化剤極である空気側極12から燃料電池内に入った空気は、水素系統から供給された水素との発電反応によって酸素が減少する。そして反応の結果の生成水が水蒸気あるいは水滴として空気中に増えてくる。反応後の水分量が増加した空気は燃料電池11の空気排出管路24に排出される。空気排出管路24には空気側極12の中の空気圧力を所定の運転圧力に制御する空気圧力調節弁28が設けられている。また、空気圧力調節弁28と空気側極12との間の空気排出管路24には、空気側極12から排出される反応後の空気の水分量、温度、圧力を測定するための水分量センサ25、温度センサ26、圧力センサ27が取り付けられている。燃料電池11の空気側極12から排気された水分を多く含む反応後の空気は、加湿器31でその水分の一部を供給空気への付加水分とするために除去される。水分量が減少した排出空気は排気管路29によって下流に流れて行く。排気管路29の途中には、サイレンサ53が設けられ、サイレンサ53を通過した反応後の排出空気は、大気放出口57から大気に排気される。
一方、燃料電池11の運転状態によっては、加湿器31による供給空気への加湿量を減少させることが必要な場合がある。このために、空気圧縮機14出口の圧縮機吐出管路20と空気供給管路23とを加湿器31をバイパスして接続し、圧縮機吐出空気を加湿せずに空気供給管路23に供給して、燃料電池11の空気側極12に供給される空気中の水分量を低減する加湿器バイパス管路33が備えられている。そして、加湿器バイパス管路33には加湿器バイパス管路33を開閉する加湿器バイパス弁35が設けられている。加湿器バイパス弁35は、全開、全閉の間での開閉動作のみを行うものであってもよいし、全開、全閉の途中の開度を保持することができるような弁であってもよい。また、弁の駆動部はダイヤフラムなどを用いた空気式の駆動部であってもよいし、電動式の駆動部であってもよい。
また、燃料電池11への空気供給管路23と空気排出管路24には、燃料電池11の停止時に外気が燃料電池11の中に入り込んで、燃料電池11の中に残留している水素と反応して触媒などの劣化を防止するように、停止時に閉状態とされる遮断弁が設けられることがある。このような遮断弁が設けられる場合には、空気供給管路23の遮断弁を加湿器バイパス管路33と空気供給管路23との合流点と加湿器31との間に設け、空気供給管路23の遮断弁を閉とした状態で加湿器バイパス弁35を開とするようにして、空気圧縮機14からの圧縮機吐出空気の全量をバイパスさせるような構成としてもよい。
水分量センサ25は、連続的に水分量の測定をすることができれば、吸湿高分子材料などによって構成された測定部のインピーダンス又は電気容量を測定することによって水分量を測定するものであってもよいし、測定ガスと参照ガスとの間に配置された電気化学セルの電圧又は電流値を測定して、その結果から水分量を測定するようなものであってもよい。また、温度センサは熱電対式の温度センサでもよいし、バイメタル式など他の形式のものでもよい。更に、圧力センサは連続的に圧力が検出できれば圧力素子などを用いた圧力センサであってもよいし、ダイヤフラム型の受圧部を備えた圧力検出器などであってもよい。
空気圧力調節弁28は、燃料電池11の空気排出管路24において連続的に反応後の空気圧力を調節することができればよく、クローブ型の調節弁でもよいし、アングル型の調節弁でもよいし、ケージ型の調節弁でもよい。また、調節弁の駆動部は空気駆動式であってもよいし、電動式であってもよい。
本実施形態の燃料電池システム10においては、空気圧縮機14はスクロール型である。スクロール型の空気圧縮機14は容積型の空気圧縮機の一種であり、主に回転数を調整することによって空気流量を調整することが出来るものである。また、容積型でサージング防止のための抽気などが無いことから、本実施形態では、吸気流量計18によって測定した吸気流量は吐出流量と略同一である。スクロール型の空気圧縮機14は吐出空気流量が少ないと吐出圧力は高く、吐出空気流量が多くなるにしたがって吐出圧力が低下してくる特性を持っている。燃料電池システム10の通常運転中は、空気流量は空気圧縮機14の回転数をモータ16の回転数を調整することによって行い、空気圧力は燃料電池11の空気側極12の出口の空気圧力調節弁28によって調節している。空気圧縮機14は必要圧力、流量の空気を燃料電池11の空気側極12に供給できれば、スクロール型にかぎらずスクリュー式などでもよいし、遠心式のブロワのようなものであってもよい。
燃料ガスである水素ガスは水素ガスタンク41に貯留されている。水素は水素ガスタンク41から水素供給管路43によって燃料電池11の燃料側極である水素側極13に供給される。燃料電池11に供給された水素の一部は空気側極12に供給された酸化剤である空気中の酸素と反応して消費されるが、消費されなかった水素は水素側極13の水素排出管路44からから排出された後、水素排出管路44と水素供給管路43とを接続する水素循環管路45に設けられた水素循環ポンプ46によって水素供給管路43に再循環される。そして発電によって消費された水素分は水素ガスタンク41から水素供給管路43によって補充される。補充される水素ガスの量は水素供給調節弁42によって調節される。水素系統は循環系統となっているので、長時間運転していると空気側極12からクロスリークしてくる窒素や水分などの不純物が濃縮されてくる。そこで、このような不純物がある程度濃縮されてきた場合には、水素排出管路44に接続された水素系大気放出管路48の排出弁49を開として所定量の水素ガスを水素系大気放出管路48から外気に放出する。この場合は、高濃度の水素ガスを直接大気に放出することがないように、排出水素希釈管路51に接続された混合器55によって排気空気と混合して、その濃度を下げてから大気に排出するようになっている。
各計器18,25,26,27、各制御弁28,35,42,49、燃料電池11、空気圧縮機14や各ポンプのモータ16,47などは、すべて制御部61に接続されており、各計器18,25,26,27、からの計測値は制御部61に入力され、制御部61は各制御弁28,35,42,49、の開度指令、モータ16,47の回転数指令を出力して燃料電池システム10全体の制御を行う。制御部61はCPUや記憶部を含みソフトウェアによって全体の制御を行うようになっていても良いし、電気回路を組み合わせて制御を行うようになっていても良い。また、制御部61には車両の走行状態や必要要求付加など車両からのテータが入力されるようになっていても良い。また、制御部61には制御動作に必要な制御マップなどの制御データを保持している記憶部63がデータバス65によって接続されている。
本実施形態では、制御部61は燃料電池11が起動過程中に停止した場合に燃料電池11の空気側極12から排出される水分量を予測する排出水分量予測手段を備えている。この燃料電池11の起動過程中に燃料電池11が停止した場合に燃料電池11の空気側極12から排出できる排出水分量は、空気側極出口の空気の水分量、圧力、温度、及び空気圧縮機14から吐出される圧縮空気量によってさまざまに変動するため、排出水分量の予測計算には、記憶部63に格納された、空気側極出口の空気圧力、温度、及び空気圧縮機14の吐出流量に対する排水量のマップを使用する。この排出水分量予測計算用の特性マップを図2に示す。なお、本実施形態では、スクロール型の空気圧縮機を使用しているので、空気圧縮機14の吸気流量と吐出空気流量とは略同一となることから、吐出空気流量として吸気流量計18の出力を用いている。また、空気圧縮機14の吐出空気の一部を燃料電池11をバイパスさせて大気放出口57から排出するような運転を行う場合のように、空気圧縮機14の吐出空気流量と燃料電池11の空気側極12の出口の空気流量に大きな差があるような場合には、空気圧縮機14の吐出空気流量と空気側極12の出口空気流量が大きく異なってくるので、空気圧縮機14の吐出空気流量の代わりに空気圧縮機14の吐出空気流量からバイパス流量を差し引いた空気流量や空気側極12の空気排出管路24に流量計を取り付けて、その出力を用いるなどが好適である。
図2(a)は燃料電池11が停止した際の空気圧縮機14の吐出空気流量Qに対する燃料電池停止後の掃気処理における排水量Wとの関係を示す複数のマップのうちの1つを示す図である。図中の3本の線は燃料電池11の停止後に行われる掃気処理の掃気時間Dが100秒、200秒、300秒の各場合における吐出空気流量と排水量との関係を示している。図2(a)においては、空気側極出口の圧力P、温度T、水分量Xは一定である。
例えば、空気側極12の出口の圧力P、温度Tと水分量Xの状態から、空気側極12の出口から排出される空気中の水分は全て水蒸気であると判断される場合には、停止後に排出される排水量は、空気圧縮機14の吐出空気流量Qに掃気時間Dと単位体積中に含まれる水分量Xを掛け合わせることによって求めることができる。この時にはマップは、空気圧縮機14の吐出空気流量に比例した直線となってくる。また、掃気時間Dが増加すると掃気によって排水される排水量Wは多くなってくるが、時間が長くなるにつれて、単位掃気時間当たりの排水量Wの割合が少なくなってくる。一方、空気側極12の出口の圧力P、温度Tと水分量Xとの状態から、かなりの部分は水蒸気の状態となっているが一部の水分が水滴で存在している場合には、停止後に排出される排水量Wは、単に空気圧縮機14の吐出空気流量Qに掃気時間Dと単位体積中に含まれる水分量Xを掛け合わせることによって求めることができない。つまり、水蒸気として存在している水分は略空気圧縮機14からの吐出空気によって排出されるが、水滴として存在している水分はある程度空気圧縮機14からの吐出空気流量Qが大きくならないと排出されてこない。したがって、このような状態の時にはマップは、空気圧縮機14の吐出空気流量Qに対して曲線となる。このように、燃料電池11の停止後に排出される水分量は空気側極12の出口の圧力P、温度T及び水分量Xによって複雑に変化してくる。そこで、図2(a)の様に、各状態による空気圧縮機14の吐出圧力Pと停止後の排出可能水分量をマップデータとして記憶部63に格納し、複雑な計算によらず、検出された物理量から排出される排水量Wを簡便に予測できるようにしている。
図2(b)は燃料電池11の停止の際の空気側極12の出口圧力に対する燃料電池11の停止後の掃気処理によって排水される排水量Wの関係を示す複数のマップの内の1つを示すものである。図中の3本の線は図2(a)と同様に、燃料電池11の停止後に行われる掃気処理の掃気時間Dが100秒、200秒、300秒の各場合における空気側極12の出口圧力Pと排水量Wとの関係を示している。図2(b)においては、空気圧縮機14の吐出空気流量Q、空気側極出口の温度T、水分量Xは一定である。
空気側極12の出口の圧力Pが低くなるほど、空気側極12の中の水分は水蒸気の状態となるので、燃料電池11の停止後の掃気処理によって排水される排水量Wは大きくなってくる。逆に、圧力Pが高くなってくると、空気側極12の中の水分の水蒸気の割合が低下し、逆に水滴の割合が増加してくるので、掃気処理の際の空気圧縮機14の吐出空気流量Qが同じ場合には、燃料電池11の停止後の掃気処理において排水される排水量Wは少なくなってくる。また、掃気時間Dが増加すると掃気によって排水される排水量Wは多くなってくるが、時間が長くなるにつれて、単位掃気時間当たりの排水量Wの割合が少なくなってくる。
図2(c)は燃料電池11の停止の際の空気側極12の出口温度に対する燃料電池11の停止後の掃気処理によって排水される排水量Wの関係を示す複数のマップの内の1つを示すものである。図中の3本の線は図2(a)(b)と同様に、燃料電池11の停止後に行われる掃気処理の掃気時間Dが100秒、200秒、300秒の各場合における空気側極12の空気側極出口の温度Tと排水量Wとの関係を示している。図2(c)においては、空気圧縮機14の吐出空気流量Q、空気側極出口の圧力P、水分量Xは一定である。
空気側極12の出口の温度Tが高くなるほど、空気側極12の中の水分は水蒸気の状態となるので、燃料電池11の停止後の掃気処理によって排水される排水量Wは大きくなってくる。逆に、温度Tが低くなってくると、空気側極12の中の水分の水蒸気の割合が低下し、逆に水滴の割合が増加してくるので、掃気処理の際の空気圧縮機14の吐出空気流量Qが同じ場合には、燃料電池11の停止後の掃気処理において排水される排水量Wは少なくなってくる。また、掃気時間Dが増加すると掃気によって排水される排水量Wは多くなってくるが、時間が長くなるにつれて、単位掃気時間当たりの排水量Wの割合が少なくなってくるのは図2(a)及び図2(b)と同様である。
本実施形態では、上記のマップを記憶部63に格納し制御部61は燃料電池が起動過程中に停止した場合に前記燃料電池内の空気側極12から排出される排水量Wを予測する。
また、上記の記憶部63には、予測排出水分量の計算用のマップだけではなく、通常運転における、燃料電池11に通気する最適な流量の空気、水素ガスの流量や、定常運転圧力、許容出力の上昇と温度の関係、通常起動過程のプロセス、及び通常起動過程における各状態での予測排出水分量や現存水分量を計算することのできるデータ、マップなどを格納しており、常に、制御部61において通常起動状態とした場合の現存水分量、予測排出水分量、予測残留水分量等の計算をすることができるようになっている。
図3及び図4を参照しながら、本実施形態による燃料電池システム10の起動について説明する。図3は本実施形態の起動手段を示すフローチャートであり、図4(a)は起動過程の時間に対する燃料電池11の温度の変化を示すグラフで、図4(b)は空気側極12の現存水分量と予測残留水分量の変化を示すグラフである。図4(b)の右上がりの曲線は燃料電池11の空気側極12の中の現存水分量の変化を示し、台形状の曲線は燃料電池11の停止後の掃気処理後に残留する残留水分量を示している。図中のa1,b1,c1,d1,e1及びa1,p1,q1,r1,s1,u1を結ぶ実線は従来技術による通常の起動を行った場合の各量の変化を示し、b1,b1’,c1’,d1’,e1’,e1及びp1,p1’,q1’,r1’,s1’,s1を結ぶ点線は本実施形態による起動の際の各量の変化を示し、b1,c1”,d1”,e1及びp1,q1”,r1”,s1を結ぶ1点鎖線は本実施形態の他の起動状態の際の各量の変化を示す。
図3のステップS101に示すように、制御部61は、燃料電池11を通常起動過程によって起動する。図4(a)に示すように、起動時の温度がh1の状態で燃料電池11が起動されると、一定時間の間、燃料電池11は発電効率を低下させて、燃料電池11の温度を上昇させていく暖機運転を行う。この暖機運転によって燃料電池11の温度はi1まで上昇する。その後、燃料電池11は発電量に対する空気量と発電量に対する酸素量の割合が最適な割合となるように制御しながら許容負荷を上昇させていく。また、電解質膜の湿度雰囲気を保つために加湿器によって空気圧縮機14の吐出空気を加湿している。
図4(b)のa1からb1に示すように、燃料電池11が起動していくと、発電量の増加によって生成される生成水も増加し、燃料電池11の空気側極12の出口の水分量も増加してくる。図4(a)(b)においては、空気圧縮機14の吐出流量は発電量に対する酸素量の割合が最適な割合となるように空気圧縮機14の回転数を制御することによって制御されている。また、空気側極12の出口圧力は空気圧力調節弁28によって所定の運転圧力に保持されている。一方、燃料電池11が起動してくると、図4(b)のa1からp1に示すように、燃料電池11が起動過程途中に停止した場合に空気側極12の中に残留すると予測される予測残留水分量も次第に増加してくる。
この起動過程において、図3のステップS102に示すように、制御部61は、燃料電池11の空気側極12の水分量センサ25の信号を取得し、これに基づいて、図3のステップS103に示すように、燃料電池11の空気側極12の内部に現存している水分量を計算する。例えば、燃料電池11の空気側極12の出口の水分量から燃料電池11の電気出力から計算される生成水量の1/2を差し引いた水分量に基づいて燃料電池11の空気側極12の内部の単位体積あたりの平均水分量を計算し、これに空気流路の体積をかけて燃料電池11の空気側極12の内部に現存している現存水分量を計算する。現存水分量の計算は上記の方法に限られず、空気側極12の出口の水分量から空気側極出口の単位体積あたりの水分量を計算して、これに空気側極12の空気流路の体積を掛け合わせた最大水分量を現存水分量としても良い。また、燃料電池11の起動中、制御部61は、図3のステップS104に示すように、空気圧縮機14の吸気流量計18によって測定される吸気流量のデータに基づく空気圧縮機14の吐出空気流量と、空気側極12の出口の水分量センサ25、温度センサ26、圧力センサ27の各計測器の信号と、図2で説明した記憶部63に格納されている排出水分量計算マップに基づいて、燃料電池11が停止した場合の掃気処理によって排水することができる予測排出水分量を計算する。そして、制御部61は、図3のステップ105に示すように、上記の現存水分量から予測排出水分量を差し引いて、その時点において燃料電池11が停止した場合に燃料電池11の空気側極12の内部に残留すると予測される予測残留水分量を計算する。
このように、制御部61は、燃料電池11の起動過程においては、上記の予測残留水分量を常に計算している。そして、制御部61は図3のステップS106に示すように、その結果と限界残留水分量W0とを比較しながら燃料電池11の起動を続けていく。制御部61は図3のステップS106に示すように、上記の予測残留水分量が限界残留水分量W0を超えた時に、燃料電池は起動過程の途中に停止した場合に燃料電池11の空気側極12の内部に限界残留水分量W0以上の水分量を含んでしまう特定の時間帯に入ったものと判断する。これは、図4(b)に示すt1の時である。
すると、制御部61は、図3のステップS107に示すように、加湿器バイパス弁35を開とする信号を出力し、加湿器バイパス弁35を開とする。加湿器バイパス弁35が開となると、空気圧縮機14の吐出空気を加湿しない空気が加湿器バイパス管路33を通って空気供給管路23に流れ込む。このことによって、燃料電池11の空気側極12に供給される空気中の水分量が低減される。すると、図4(b)のb1からb1’の点線の矢印で示すように、空気側極12に供給される空気の水分量はy1だけ減少する。一方、空気圧縮機14の吐出空気流量や空気側極12出口の圧力、温度は変化しないことから、図4(b)のp1からp1’への点線の矢印で示すように、燃料電池11が起動途中で停止した場合の予測残留水分量もy1だけ減少し、予測残留水分量は限界残留水分量W0以下となる。加湿器バイパス弁35を開とした状態で起動を続けると、空気側極12の中の現存水分量は、図4(b)の点線の矢印で示すようにb1’からc1’,d1’と変化していく。一方、予測残留水分量も図4(b)の点線の矢印で示すようにp1’からq1’,r1’と変化していく。この状態では、q1’,r1’の点での予測残留水分量は限界残留水分量W0以下となっている。もし、q1’,r1’の点での予測残留水分量が限界残留水分量W0以上となっている場合には、加湿器バイパス管路33や加湿器バイパス弁35を燃料電池システム10に適合するように大きなサイズにする。
そして、図4(a)に示すように、時間t3になると燃料電池11の温度はk1’まで上昇してくる。すると、燃料電池11の空気側極12の内部の水分の水蒸気の割合が急速に上昇し始める。このことによって、燃料電池11が起動の途中で停止した場合の停止後掃気による予測排出水分量が急速に増加する。一方、加湿器バイパス弁35は開状態を保ったままであることから、図4(b)の点線の矢印で示すようにd1’からe1’の間は空気側極12の現存水分量は通常起動状態よりも低いままとなっている。このため、図4(b)のr1’からs1’に示すように、予測残留水分量は限界残留水分量W0付近から急速に低下してくる。
そして、図4(b)の時間t4になると、燃料電池11の温度は図4(a)のk1まで上昇し、空気側極12の中の空気の水分量に占める水蒸気の割合が更に大きくなり、通常起動条件の下でも、燃料電池11が起動の途中で停止した場合に停止後の掃気によって残留水分量を限界残留水分量W0以下とできる状態となる。制御部61は、通常起動過程となった場合の予測残留水分量と限界残留水分量W0との差を常に計算しながら起動している。そして、図3のステップS108に示すように、通常起動過程となった場合の予測残留水分量が限界残留水分量W0よりも小さくなった場合に、燃料電池は起動過程の途中に燃料電池11を停止した場合に燃料電池11の空気側極12の内部に限界残留水分量W0以上の水分量を含んでしまう特定の時間帯から脱したものと判断する。
すると、制御部61は、図3のステップS109に示すように、加湿器バイパス弁35を閉とする信号を出力して、加湿器バイパス弁35を閉として、図3のステップS110に示すように、空気圧縮機14の吐出空気を加湿器31に通して燃料電池11に供給される空気に水分を加湿する通常の起動制御に戻る。すると燃料電池11の空気側極12の現存水分量は、図4(b)の点線の矢印で示すようにe1’から通常運転状態のe1に戻る。これと同時に、予測残留水分量もs1’から通常運転状態のs1に戻る。そして、さらに燃料電池11の起動が進んで、通常運転温度l1に達すると、空気側極12の水分は略全部水蒸気の状態となり、燃料電池11が停止しても停止後の掃気処理によって現存水分量を全て排出することができるようになることから、通常運転状態では、予測残留水分量はゼロとなってくる。
このように、本実施形態によれば、燃料電池11の起動過程において燃料電池を停止させると、燃料電池の停止後に残留水が空気流路を閉塞してしまうような特定の時間帯において燃料電池を停止した際の燃料電池内の残留水分量を低減することができるという効果を奏する。そして、燃料電池11が起動途中において運転者の指令などによって停止した場合であっても、停止後の掃気処理によって燃料電池11の空気側極12に残留する水分量が、限界残留水分量W0よりも少なく、起動途中の停止によって、空気側極12が残留水分によって閉塞されてしまうことが少なくなるという効果を奏する。また、残留水分量が減少するので、残留水分が凍結した場合でも凍結量を少なくすることができるという効果を奏する。
以上の本実施形態の説明においては、加湿器バイパス弁35を特定の時間帯において開とすることによって、予想残留水分量が限界残留水分量W0以下となるようにすることとして説明したが、加湿器バイパス弁35の開閉をデューティ比制御によって調節弁と同様の動作をさせて、図4(b)のp1,q1”,r1”,s1を結ぶ1点鎖線のように、予測残留水分量を限界残留水分量W0となるように制御してもよいし、中間開度において停止させることによって、複数のバイパス流量を実現することができるようにしてもよい。これによって限界残留水分量W0を下回る範囲で、予測残留水分量が限界残留水分量W0を超えないように段階的に加湿器バイパス弁35を調節するようにしてもよい。
また、図5に示すように、燃料電池11の起動時の燃料電池11の温度と起動特性から、特定の時間帯となる燃料電池11の温度マップを記憶部63に格納しておき、燃料電池11の起動時の温度に基づいて記憶部63のマップから燃料電池が特定の時間帯に入るとなる特定温度範囲を求め、燃料電池11の温度が、この特定温度範囲に入っている場合に加湿器バイパス弁35を開として起動することとしても好適である。
図5のステップS502に示すように、燃料電池11の起動後、制御部61は起動時の燃料電池11の温度を取得し、図5のステップS503に示すように、この温度と記憶部63に格納されているマップに基づいて、燃料電池11が通常の起動過程において特定の時間帯に入ることとなる温度範囲を取得する。そして図5のステップS504に示すように、燃料電池の温度が特定の時間帯に入ったと判断される温度に上昇してきたら、制御部61は加湿器バイパス弁35を開とする信号を出力して、加湿器バイパス弁35を開とする。そして制御部61は燃料電池11の温度の監視を続け、図3のステップS506に示すように、その温度が特定の時間帯の温度範囲から脱したと判断した場合には、制御部61は加湿器バイパス弁35を閉とする指令を出力し、加湿器バイパス弁35を閉とする。そして、図5のステップS507に示すように通常の起動動作に復帰する。
上記の説明は特定の時間帯となる燃料電池11の温度を範囲を計算して制御することとしたが、燃料電池11の空気側極12の出口空気温度を計算してこれに基づいて制御することとしても良い。また、起動時の温度条件から、特定の時間帯となる時間を予測し、その時間に基づいて加湿器バイパス弁35を開閉動作させて起動することとしても好適である。
次に燃料電池11の起動過程において、空気圧縮機14の回転数を上昇させて空気側極12に流入する空気流量を増加させることによって、予測残留水分量を限界残留水分量W0以下に制御する参考例の起動手段について、図6および7を参照しながら説明する。図4と同様の部分については同様の符号を付して説明は省略する。図6は参考例の動作を示すフローチャートであり、図7(a)は起動過程の時間に対する燃料電池の温度の変化を示すグラフで、図7(b)は空気側極12の現存水分量と残留水分量の変化を示すグラフである。図7(b)のa2,b2,c2,d2,e2及びa2,p2,q2,r2,s2,u2を結ぶ実線は従来技術による通常の起動を行った場合の各量の変化を示し、b2,c2’,d2’,e2及びp2,q2’,r2’,s2を結ぶ1点鎖線及びp2,q2”,r2”,s2を結ぶ2点鎖線は本参考例の起動状態における各量の変化を示す。
図6のステップS201からS206に示すように、制御部61は、燃料電池11の空気側極12の中の現存水分量と、起動過程において途中で停止した場合の停止後の掃気処理によって排水できる予測排出水分量とを計算し、これから、通常起動過程の途中で停止した場合の予測残留水分量を常に計算し続け、予測残留水分量が限界残留水分量W0を超えた場合に、制御部61は、燃料電池11が起動過程の途中に停止した場合に燃料電池11の空気側極12の内部に限界残留水分量W0以上の水分量を含んでしまう特定の時間帯に入ったものと判断する。
すると、図6のステップS207に示すように、制御部61は、空気圧縮機14の吐出空気流量を増加させながら起動制御を行う空気圧縮機吐出流量増加制御を開始する。具体的には、燃料電池11の発電量に対する空気量と発電量に対する酸素量の割合が最適な割合となる空気流量よりも大きい空気流量が流れるように、空気圧縮機14のモータ16の回転数を上昇させる信号をモータ16に出力し、空気圧縮機14の回転数を増加させて空気圧縮機14の吐出空気流量を増加させる。
空気圧縮機14の吐出空気流量が増加すると、加湿器31による加湿水分量は変化しないことから、単位体積あたりの空気側極内の空気の水分量が減少する。すると燃料電池11の空気側極12の現存水分量は、図7(b)のb2,c2’,d2’,e2を結ぶ1点鎖線のように、通常運転状態の現存水分量よりもy2だけ少なくなってくる。更に、空気圧縮機14の吐出空気流量が増加すると、図2(a)に示したように、燃料電池11の停止後の掃気において所定の掃気時間内に掃気する排水量が増加する。このため掃気後の残留水分量は図7(b)に示すy3だけ減少する。上記の現存水分量の減少量y2は、燃料電池11の空気側極12の出口水分量と、空気圧縮機14の吐出空気流量の減少量から現存水分量の計算を行い、記憶部63に格納した通常起動の時の現存水分量マップと比較することによって計算できる。また、掃気水分量の増加分のy3は記憶部63のマップから予測排出水分量を計算し、これを通常運転の予測排出水分量と比較することによって計算することができる。そして、このy2とy3の合計のy1が通常運転状態の予測残留水分量と限界残留水分量W0との差よりも大きくなるように、適宜、空気圧縮機14のモータ16の回転数にフィードバックをかけることによって、予測残留水分量が限界残留水分量W0を下回るように、空気圧縮機14の回転数を制御して、燃料電池を起動していく。
そして、図6のステップS208に示すように、通常起動過程となった場合の予測残留水分量が限界残留水分量W0よりも小さくなった場合に、燃料電池は起動過程の途中に停止した場合に燃料電池11の空気側極12の内部に限界残留水分量W0以上の水分量を含んでしまう特定の時間帯から脱したものと判断し、図6のステップS209に示すように、空気圧縮機吐出流量増加制御を停止して、図6のステップS210に示すように、通常の起動動作に復帰して、燃料電池11の起動を続けていく。
このように、本参考例によれば、燃料電池11の起動過程において燃料電池を停止させると、燃料電池の停止後に残留水が空気流路を閉塞してしまうような特定の時間帯において燃料電池を停止した際の燃料電池内の残留水分量を低減することができるという効果を奏する。
以上の本参考例の説明においては、空気圧縮機14のモータ16の回転数を特定の時間帯において上昇させることによって、図6に示すように、予想残留水分量が限界残留水分量W0以下となるようにすることとして説明したが、燃料電池11の起動時の燃料電池の温度と起動特性から、特定の時間帯となる燃料電池11の温度マップを記憶部63に格納しておき、燃料電池11の起動時の温度に基づいて記憶部63のマップから燃料電池が特定の時間帯に入るとなる特定温度範囲を求め、燃料電池11の温度が、この特定温度範囲に入っている場合に空気圧縮機14のモータ16の回転数を上昇させて起動することとしても好適である。
図8において、燃料電池11が特定の時間帯に入ったかどうかを判断するまでの、ステップS601からS604は図5と同様である。そして、燃料電池11の温度が特定の時間帯に入ったと判断される温度に達すると、制御部61は、図8のステップS605に示すように、空気圧縮機吐出流量増加制御を開始する。そして、図8のステップS606に示すように、燃料電池11の温度が特定の時間帯を示す温度範囲から脱した場合には、空気圧縮機吐出流量増加制御を停止して、図8のステップS608に示すように通常の起動動作に復帰する。
上記の説明は特定の時間帯となる燃料電池11の温度の範囲を計算して空気圧縮機14を制御することとしたが、燃料電池11の空気側極12の出口空気温度を計算してこれに基づいて制御することとしても良い。また、起動時の温度条件から、特定の時間帯となる時間を予測し、その時間に基づいて空気圧縮機吐出流量増加制御の開始および停止をして起動することとしても好適である。
次に図9を参照しながら、燃料電池11の起動過程において、空気圧力調節弁28によって空気側極の空気圧力を減少させて、予測残留水分量を限界残留水分量W0以下に制御する参考例の起動手段について説明する。図9はこの起動手段を示すフローチャートで、この場合の起動カーブは図4と同様となることから、状態量の変化については、図4を参照しながら説明する。
図9のステップS301からステップS306に示すように、制御部61は、先に説明したと同様に燃料電池11の空気側極12の中の現存水分量と、通常の起動過程において途中で停止した場合の停止後の掃気処理によって排水できる予測排出水分量とを計算し、これから、起動過程の途中で停止した場合の予測残留水分量を常に計算し続け、予測残留水分量が限界残留水分量W0を超えた場合に、制御部61は、燃料電池11が起動過程の途中に停止した場合に燃料電池11の空気側極12の内部に限界残留水分量W0以上の水分量を含んでしまう特定の時間帯に入ったものと判断する。
すると、図9のステップS307に示すように、制御部61は空気圧力調節弁28によって空気側極12の空気圧力を減圧していく減圧制御を開始する。具体的には、制御部61は、燃料電池11の空気側極12の出口の空気圧力調節弁28の開度を大きくして、空気側極12の空気圧力を通常の運転圧力から低下させる指令を出力する。これによって、空気圧力調節弁28の開度を大きくして空気側極12の中の空気圧力を通常の運転圧力よりも低下させる。すると、図2(b)で説明したように、空気圧力の低下によって空気側極12の内部の水分が水蒸気の割合が多くなる領域に移行する。このことによって、燃料電池11が起動の途中で停止した場合の停止後の掃気処理によって排出することができる水分量が増えてくる。
制御部61は、記憶部63に格納したマップから、圧力の低下度合いと予測排出水分量の増加割合を計算する。そして、予測排出水分量の増加割合が、通常起動における予測残留水分量と限界残留水分量W0との差となるように、空気圧力調節弁28を制御しながら起動していく。
つまり、図4(b)の通常起動の予測残量水分量と限界残留水分量W0との差分だけ、空気圧力調節弁28による減圧によって、予測排出水分量が増加するように空気圧力調節弁を制御していく。すると、燃料電池11の空気側極内の予測残留水分量は図4(b)の1点鎖線の点線の矢印で示すp1,q1”,r1”,s1のように、限界残留水分量W0の線に沿って変化し、現存水分量は、図4の点線の矢印で示す、b1,c1”,d1”e1のように変化していく。
そして、図9のステップS308に示すように、通常起動過程となった場合の予測残留水分量が限界残留水分量W0よりも小さくなった場合に、燃料電池は起動過程の途中に停止した場合に燃料電池11の空気側極12の内部に限界残留水分量W0以上の水分量を含んでしまう特定の時間帯から脱したものと判断し、図9のステップS309に示すように、空気圧縮機14による減圧制御を停止して、図9のステップS310に示すように、通常の起動動作に復帰して、燃料電池11の起動を続けていく。
以上の本参考例の説明においては、空気圧力調節弁28の開度を制御することによって特定の時間帯において空気側極12の空気圧力を低減し予想残留水分量が限界残留水分量W0以下となるように制御することとして説明したが、図10に示すように、燃料電池11の起動時の燃料電池の温度と起動特性から、先の実施形態、参考例と同様に、燃料電池11の温度が、特定温度範囲に入っている場合に空気圧力調節弁28の開度を制御して空気側極12の空気圧力を低下させて起動することとしても好適である。図10に示すこの起動手段は、図10のステップS705とステップS707において、空気圧力調節弁による減圧制御を開始あるいは停止すること以外は、図8で説明した起動手段と同様である。また、先の実施形態、参考例と同様に、起動時の温度条件から、特定の時間帯となる時間を予測し、その時間帯になったら空気圧力調節弁28の開度を制御して空気側極12の空気圧力を低下させて起動することとしても好適である。
このように、本参考例によれば、燃料電池11の起動過程において燃料電池を停止させると、燃料電池の停止後に残留水が空気流路を閉塞してしまうような特定の時間帯において燃料電池を停止した際の燃料電池内の残留水分量を低減することができるという効果を奏する。