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JP5107993B2 - 圧粉磁心及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、非晶質軟磁性合金粉末の表面を酸化ホウ素Bで被覆することにより、機械的強度が高く、軟磁気特性に優れた圧粉磁心及びその製造方法に関する。
高周波で用いられるチョークコイルとして、フェライト磁心や圧粉磁心が使用されている。これらの中で、フェライト磁心は飽和磁束密度が小さいという欠点を有している。これに対して、金属合金粉末を成形して作製される圧粉磁心は、軟磁性フェライトに比べて高い飽和磁束密度を持つため、直流重畳特性に優れている。
この金属合金粉末として、珪素とアルミと鉄の合金であるセンダスト、ニッケルと鉄の合金であるパーマロイ、珪素と鉄の合金である珪素鋼等が用いられている。また、より低損失な合金として、非晶質軟磁性合金であるアモルファス合金を使用することが検討されている。
この非晶質合金粉を用いて磁気特性に優れた圧粉磁心を作製するためには、特許文献1のように、非晶質粉末の結晶化温度より低い低融点ガラスを固着させ、ホットプレス法で温度400〜480℃、圧力1G〜2GPaの高圧力で高密度成形を行う方法や、特許文献2のように、非晶質軟磁性合金粉末の一部を水素雰囲気中で脆化処理を行う方法が知られている。
特公平10−212503号公報 特開2006−176817号公報
しかしながら、特許文献1及び2の圧粉磁心は、高い磁気特性を得るために非酸化性雰囲気中にて熱処理を行うので、十分な強度が得ることができない。そのため作製した圧粉磁心の機械的強度が低くなり、その後の後工程(巻線、実装)でコアが破損する問題点があった。
一方、酸化性雰囲気中で熱処理を行うと、非晶質合金粉末の表面には、数十nm厚の酸化ホウ素(B酸化ボロン)および酸化ケイ素(SiO)層が形成される。これらの酸化層の直下では、低B成分領域及び低Si成分領域が存在する。特に低B成分領域は、結晶化温度が200℃低下するので、極めて結晶化し易い領域となる。このため、酸化性雰囲気中で熱処理を行うと非晶質合金の表面で結晶化が起こり磁気特性が著しく低下するという問題点があった。
本発明は、上述した課題を解決するものであり、その目的は、酸化雰囲気中で熱処理を行った場合でも非晶質合金粉末表面の結晶化を防止することにより、磁気特性の低下を防止するとともに、機械的強度に優れた圧粉磁心とその製造方法を提供することである。
前記の目的を達成するために、本発明の圧粉磁心は、非晶質軟磁性合金粉末と、潤滑性樹脂と、軟化点が前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度以下の低融点ガラスを混合し、その混合物を結着性絶縁樹脂で被覆し、結着性絶縁樹脂で被覆した混合物と潤滑性樹脂とを混合することで造粒粉を作製し、得られた造粒粉を加圧成形処理して成形体を作製し、その成形体を窒素雰囲気中で焼鈍し、その後大気中で冷却してなるものであり、前記非晶質軟磁性合金粉末の表面が、非晶質軟磁性合金粉末内のホウ素でなく、外部から供給されたホウ素による酸化ホウ素(B)で被覆されていることを特徴とする。
なお、酸化ホウ素被覆を非晶質軟磁性合金粉末と、潤滑性樹脂と、軟化点が前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度以下の低融点ガラスを混合した混合物に硼酸を添加することにより形成したものとしたり、硼酸の添加量を非晶質軟磁性合金粉末に対して0.02〜1.0wt%としたりすることや、軟磁性合金粉末にボロンの金属アルコキシドを被覆し、その後、加水分解することにより形成したものとしたり、ボロンの金属アルコキシドがトリメトキシボロン(以下、TMBとする)またはトリエトキシボロン(以下、TEBとする)であり、その添加量が非晶質軟磁性合金粉末に対して0.1〜1.0wt%としたりすることや、磁気特性と機械的強度を高めるために、成形体を窒素雰囲気中で焼鈍し、その後大気中で冷却したりして作製した圧粉磁心も本発明の一態様である。
本発明によれば、非晶質軟磁性合金粉末の表面に非晶質軟磁性合金粉末内のホウ素でなく、外部から供給されたホウ素による酸化ホウ素(B)で被覆することにより、酸化雰囲気中で熱処理を行った場合でも非晶質合金粉末表面の結晶化を防止する。これにより、磁気特性の低下を防止するとともに、機械的強度に優れた圧粉磁心とその製造方法を提供することができる。
本発明の実施例の第1の特性比較における硼酸(HBO)の添加量と透磁率の関係を示したグラフ 本発明の実施例の第1の特性比較における硼酸(HBO)の添加量とコアロス(Pcv)の関係を示したグラフ 本発明の実施例のにおける焼鈍工程中の温度の変化及び各領域の大気の種類を示したグラフ 本発明の実施例の第3の特性比較におけるTMB(HBO)の添加量と透磁率の関係を示したグラフ 本発明の実施例の第3の特性比較におけるTMB(HBO)の添加量とコアロス(Pcv)の関係を示したグラフ
[1.第1の製造工程]
本実施形態の圧粉磁心の製造方法は、次のような各工程を有する。
(1)非晶質軟磁性合金粉末と、低融点ガラス粉末と、潤滑性樹脂とを混合する第1の混合工程。
(2)混合工程を経た混合物を硼酸もしくは硼酸塩と結着性絶縁樹脂とで被覆する被覆工程。
(3)被覆工程を経た混合物と潤滑性樹脂を混合する第2の混合工程。
(4)第2の混合工程を経た混合物を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程。
(5)成形工程を経た成形体を焼鈍処理する焼鈍工程。
以下、各工程を具体的に説明する。
(1)第1の混合工程
第1の混合工程では、非晶質軟磁性合金粉末と、低融点ガラスと、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛とを混合機(V型混合機)を使用して混合する。非晶質軟磁性合金粉末として、Si成分が6.7%、B成分が2.5%、Cr成分が2.5%、C成分が0.75%、残り成分がFeであるFe基非晶質軟磁性合金粉末を使用した。潤滑性樹脂を添加することにより、非晶質軟磁性合金粉末同士の滑りを良く出来るので、混合時の密度を向上することができ成形密度を高くすることができる。
また、低融点ガラスを添加することで、焼鈍後の強度の向上及び絶縁性能の向上ができる。従って、機械的強度に優れた圧粉磁心を作製することが可能となる。この低融点ガラスとしては、軟化点が前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度以下のガラスを使用する。軟化点が非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度以下のガラスを使用することで、ガラスが軟化する温度まで加熱した場合でも、非晶質軟磁性合金粉末の結晶化による圧粉磁心の磁気特性の低減を防止することができる。
(2)被覆工程
被覆工程では、混合工程を経た混合物を硼酸もしくは硼酸塩と結着性絶縁樹脂とで被覆する。硼酸として硼酸の添加量が、非晶質軟磁性合金粉末に対して0.01〜1.20wt%となるようにした2%硼酸水溶液と、結着性絶縁樹脂として、非晶質軟磁性合金粉末に対して2.0wt%のアクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンとを混合して、120℃で2時間乾燥後する。ここで添加された硼酸は、熱処理工程で、非晶質軟磁性合金粉末の表面に酸化ボロン層を形成する。
硼酸(オルト硼酸HBO)の融点は169℃である。硼酸(オルトHBO)は、加熱すると約100℃でメタ硼酸(HBO)となり、約140℃で四硼酸(H)となり、300℃でガラス状の酸化ホウ素(B酸化ボロン)となる。非晶質軟磁性合金粉末の表面に硼酸を被覆すると、熱処理工程で、非晶質軟磁性合金粉末の表面に酸化ボロン層を形成することができる。この酸化ボロン層は、非晶質軟磁性合金粉末の酸化膜直下の結晶化しやすい低B領域の形成を抑制し、低B領域での結晶化することを防止することができる。また、硼酸及び硼酸塩は、水溶液以外に粉末状態で添加しても良く、エトキシボロンやメトキシボロンを利用することができる。
ここで添加するアクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンは、種々の架橋剤・諸物性付与剤を配合したソープフリーコロイド状のエマルジョンであり結着性絶縁樹脂として作用する。すなわち、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンは、加熱乾燥により水分を蒸発させると、水に再溶解せず、殆ど吸湿性がない架橋構造を持った被膜を形成する。この被膜は粘着性があり、成形時のバインダーとして最適に作用する。また、結着性絶縁樹脂としては、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの他に、ポリプロピレン(PP)エマルジョン、ポリエチレン(PE)エマルジョン、エチレン系共重合樹脂のエマルジョンなどを使用することができる。これらは、水溶性のため硼酸水溶液と混合して使用できる利点がある。
(3)第2の混合工程
前記被覆工程を経た混合物に潤滑性樹脂を混合する第2の混合工程では、結着性絶縁樹脂を被覆した第1の混合物に潤滑性樹脂を混合する。前記被覆工程を経た混合物に対して、潤滑性樹脂として、非晶質軟磁性合金粉末に対して0.4wt%のステアリン酸亜鉛を混合機(V型混合機)を使用して混合する。潤滑性樹脂を添加することにより、混合時の密度を向上させ成形密度を高くすることができる。さらに、成形時の上パンチの抜き圧低減、金型と粉末の接触によるコア壁面の縦筋の発生を防止することが可能である。
第1及び第2の混合工程では、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛を使用したが、ステアリン酸亜鉛の他にもステアリン酸及びその金属塩ならびにエチレンビスステアラマイドなどのワックスが使用できる。潤滑性樹脂は、前述の通り粉末同士の滑りを良くすることや、金型と成形体の滑りを良くする作用がある。
(4)成形工程
第2の混合工程を経た混合物を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程では、潤滑性樹脂を混合した第2の混合物を加圧成形する。前記第2の混合工程を経た第2混合物に対して、室温にて成形圧力1500MPaで加圧成形することにより、成形体を形成する。この時、加圧乾燥された結着性絶縁樹脂は、成形時のバインダーとして作用する。
(5)焼鈍工程
焼鈍工程では、前記成形体に対して焼鈍処理を行うことで圧粉磁心が作製される。この焼鈍工程は、図3に示すように第1〜第3の3つの領域に分かれる。
第1領域は、酸化ホウ素(B酸化ボロン)の形成を目的とし、大気中において、300℃以上且つ焼鈍温度以下になるように加熱を行う。また、この第1領域での加熱により、成形体の脱バイ(脱脂)をすることができる。
第2領域では、非酸化雰囲気又は大気中において、成形体が焼鈍温度になるよう加熱を行う。この第2領域での加熱により、成形体を焼鈍し成形時の応力除去をすることができる。このとき、非酸化雰囲気又は大気中のどちらで行っても良いが、非酸化雰囲気中で加熱を行うと、大気中で加熱を行った場合と比較して磁気特性に優れた圧粉磁心を作成することができる。
第3領域では、ガラス強化を目的とし、大気中において、第2領域で焼鈍温度まで加熱した成形体をガラスの軟化点以上且つ焼鈍温度以下の温度になるように冷却を行う。すなわち、第3領域では、成形体の温度がガラスの軟化点以上且つ焼鈍温度以下の温度のうちに、第2領域で非酸化雰囲気であった雰囲気を大気などの酸化雰囲気に切り換える。これにより、成形体がガラスの軟化点以上の温度の大気などの酸化雰囲気中で冷却されるため、成形体内部のガラスが酸素Oを内部に取り込むことができ強度を高くすることができる。
一方、ガラスの軟化点以下の温度で窒素雰囲気と酸化雰囲気の切替を行うと、ガラスの流動性が失われた状態で酸化雰囲気に切り換ることになる。従って、ガラス内部に酸素Oを取り込むことができないので、十分な強度を得ることができない。
[2.第2の製造工程]
第1の製造工程の第1の混合工程と被覆工程では、非晶質軟磁性合金粉末と、低融点ガラスと、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛とを混合し、その後被覆工程において、その混合物に対して硼酸もしくは硼酸塩と結着性絶縁樹脂とで被覆することにより、非晶質軟磁性合金粉末の表面を酸化ホウ素で被覆したが、混合工程において非晶質軟磁性合金粉末の表面を予め酸化ボロンで被覆してもよい。その場合の圧粉磁心の製造方法は、次のような各工程を有する。
(1)非晶質軟磁性合金粉末と、低融点ガラス粉末と、潤滑性樹脂とを混合する第1の混合工程。
(2)混合工程を経た混合物を結着性絶縁樹脂で被覆する被覆工程。
(3)被覆工程を経た混合物と潤滑性樹脂を混合する第2の混合工程。
(4)第2の混合工程を経た混合物を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程。
(5)成形工程を経た成形体を焼鈍処理する焼鈍工程。
第2の製造工程の(3)〜(5)の各工程は、第1の製造工程と同様であるので、(1)第1の混合工程について説明する。
(1)第1の混合工程
第1の混合工程では、非晶質軟磁性合金粉末にボロンの金属アルコキシドを添加する。その後、低融点ガラスと、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛とを混合機(V型混合機)を使用して混合する。ここで添加するボロンの金属アルコキシドは、非晶質軟磁性合金粉末に添加することにより、水と加水分解し、Bの水和物とエタノールになり、このBが、非晶質軟磁性合金粉末の表面に酸化ボロン層を形成する。TMBまたはTEBの添加量は、非晶質軟磁性合金粉末に対して0.1〜1.0wt%の範囲が好ましい。この範囲未満では磁気特性の面で好適ではなく、この範囲を超えると密度が低下する問題が生じることになる。
(2)被覆工程
被覆工程では、結着性絶縁樹脂として、非晶質軟磁性合金粉末に対してアクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンとを混合して、120℃で2時間乾燥後する。ここで添加するアクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの添加量は、第1の製造工程の被覆工程と同様で良い。また、結着性絶縁樹脂としては、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの他に、ポリプロピレン(PP)エマルジョン、ポリエチレン(PE)エマルジョン、エチレン系共重合樹脂のエマルジョンなどを使用することができる点も同様である。
[実施例1〜11]
本発明の実施例1〜11を、表1,2を参照して、以下に説明する。
[測定項目]
測定項目として、圧環強度と透磁率とコアロスを次のような手法により測定する。圧環強度は、JIS 2507に基づき測定した。透磁率は、作製された圧粉磁心に1次巻線(20ターン)を施し、インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー:4294A)を使用することで、100kHz、0.5Vにおけるインダクタンスから算出した。
コアロスは、圧粉磁心に1次巻線(20ターン)及び2次巻線(5ターン)を施し、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY−8232)を用いて、周波数100kHz、最大磁束密度Bm=0.1Tの条件下で測定した。
[第1の特性比較(硼酸の添加量の比較)]
第1の特性比較では、結着性絶縁樹脂として添加する硼酸の量の比較を行った。本特性比較で使用する試料は、平均粒径が150μm以下の非晶質軟磁性合金粉末に対して、下記の処理を行うことにより作製した。
項目A,Bでは、比較例1,2として、非晶質軟磁性合金粉末と、軟化点が406℃の低融点ガラスを3.0wt%と、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛を0.5wt%とをV型混合機で2時間混合した。その後、結着性絶縁樹脂として、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョン溶液を2.0wt%混合し、120℃で2時間乾燥後、篩通し(目開き300μm)を行った。
項目Cでは、実施例1〜6として、非晶質軟磁性合金粉末と、軟化点が406℃の低融点ガラスを3.0wt%と、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛を0.5wt%とをV型混合機で2時間混合した。その後、結着性絶縁樹脂として、硼酸の添加量が0.01〜1.20wt%となるようにした2%硼酸水溶液と、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョン溶液を2.0wt%混合し、120℃で2時間乾燥後、篩通し(目開き300μm)を行った。
これらの項目A〜Cの試料に対して、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛を0.2wt%を混合機(V型混合機)を使用して2時間混合した。その後、1500MPaの圧力で加圧成形し、外径16mm、内径8mm、高さ5mmのリング状の成形体を作製し、大気中又は窒素雰囲気中で30分間焼鈍を行い圧粉磁心を作製した。
表1は、この項目A〜Cについて、比較例1〜3及び実施例1〜6として非晶質軟磁性合金粉末に添加する硼酸の添加量と焼鈍条件と圧粉磁心の特性について示した表である。この表の中で圧粉磁心の特性として、相対密度、透磁率、コアロス(Pcv)、成形体強度について測定した。図1は、硼酸(HBO)の添加量と透磁率の関係を示した図である。図2は、硼酸(HBO)の添加量とコアロス(Pcv)の関係を示した図である。
Figure 0005107993
表1の比較例1と比較例2とを比較すると、酸化雰囲気である大気中で熱処理を行うと、非酸化雰囲気である窒素雰囲気中で熱処理を行う場合に比べて圧粉磁心の強度が高くなる一方で、透磁率が大きく低下することが判る。すなわち、比較例1の強度は13MPa、比較例2の強度は42MPaであり、比較例2の強度は比較例1の強度の3倍以上である。また、比較例1の透磁率の78、比較例2の透磁率は43であり、比較例2の透磁率は比較例1の透磁率よりも15低くなっている。
表1及び図1,2の比較例1〜3及び実施例1〜6とを比較すると、硼酸を添加することで、大気中で熱処理を行っても、圧粉磁心の強度が高くなる一方で、透磁率の低下が少なくなることが判る。すなわち、比較例3及び実施例1〜6のうち透磁率と強度の値が最も低い比較例3と比較例1,2とを比較すると、比較例3の透磁率は54であり、比較例2と同様に圧粉磁心の強度が高くなる一方で、透磁率の減少も抑えられていることが判る。
表1及び図1,2の比較例3及び実施例1〜6からは、硼酸を添加することで透磁率が上昇し、特に硼酸の添加量が、非晶質軟磁性合金粉末に対して0.01〜1.00wt%で55以上の透磁率を得ることができる。しかし、硼酸の添加量を多くすると透磁率及び強度ともに低下し、硼酸の添加量が、非晶質軟磁性合金粉末に対して1.25wt%になると透磁率が54となり、硼酸の添加量が、非晶質軟磁性合金粉末に対して0.01wt%の透磁率とより低下することが判る。
以上より、硼酸を非晶質軟磁性合金粉末に対して0.01〜1.00wt%添加することで、酸化雰囲気中で熱処理を行う場合、非晶質合金粉末の表面の結晶化による磁気特性の低下を防止するとともに、機械的強度に優れた圧粉磁心とその製造方法を提供することできる。
[第2の特性比較(焼鈍処理を行う雰囲気の比較)]
第2の特性比較では、成形体に対して焼鈍処理を行う雰囲気の種類及び温度の比較を行った。本特性比較で使用する試料は、平均粒径が150μm以下の非晶質軟磁性合金粉末に対して、下記の処理を行うことにより作製した。
項目Dでは、実施例4,7〜11として、非晶質軟磁性合金粉末と、軟化点が406℃の低融点ガラスを3.0wt%と、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛を0.5wt%とをV型混合機で2時間混合した。その後、結着性絶縁樹脂として、2%の硼酸水溶液を0.01〜1.20wt%と、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョン溶液を2.0wt%混合し、120℃で2時間乾燥後、篩通し(目開き300μm)を行った。
この項目Dの試料に対して、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛を0.2wt%を混合機(V型混合機)を使用して2時間混合した。その後、1500MPaの圧力で加圧成形し、外径16mm、内径8mm、高さ5mmのリング状の成形体を作製し、大気中又は窒素雰囲気中で30分間焼鈍を行い圧粉磁心を作製した。窒素雰囲気中で焼鈍を行う場合の各領域の温度の保持時間は、第1領域では2時間、第2領域では30分、第3領域では2時間とした。
表2は、この項目Dについて、実施例4,7〜11として焼鈍工程の第1領域(酸化ホウ素の形成)、第2領域(焼鈍)、第3領域(冷却)の条件と圧粉磁心の特性について示した表である。この表の中で圧粉磁心の特性として、相対密度、透磁率、コアロス(Pcv)、成形体強度について測定した。
Figure 0005107993
表2の実施例4,7〜11を比較すると、第2領域における焼鈍を非酸化性雰囲気(N)で行う場合は、第2領域における焼鈍を大気中(Air)で行う場合に比べて、透磁率が高くなることが判る。実施例7〜11を比較すると、第3領域における保持温度の上昇に伴い圧粉磁心の強度が高くなり、保持温度が低下すると透磁率が高くなることが判る。
以上より、焼鈍を非酸化性雰囲気(N)で行い、冷却過程で雰囲気を大気に変化することで、非晶質合金粉末の表面の結晶化による磁気特性の低下を防止するとともに、機械的強度に優れた圧粉磁心とその製造方法を提供することができる。
[実施例12〜23]
実施例12〜23は、非晶質軟磁性合金粉末を予めB皮膜で覆う場合の実施例である。測定項目については、実施例1〜11と同様である。以下、本発明の実施例12〜23を表3,4を参照して説明する。
[第3の特性比較(TMBとTEBの添加量の比較)]
第3の特性比較では、非晶質軟磁性合金粉末を予めB皮膜で覆う場合のTMBとTEBの添加量の比較の比較を行った。本特性比較で使用する試料は、平均粒径が150μm以下の非晶質軟磁性合金粉末に対して、下記の処理を行うことにより作製した。
項目E,Fでは、比較例4,5として、非晶質軟磁性合金粉末と、軟化点が406℃の低融点ガラスを3.0wt%と、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛を0.5wt%とをV型混合機で2時間混合した。その後、結着性絶縁樹脂として、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョン溶液を2.0wt%混合し、120℃で2時間乾燥後、篩通し(目開き300μm)を行った。
項目Gでは、実施例12〜17及び比較例6として、非晶質軟磁性合金粉末にTMBを非晶質軟磁性合金粉末に対して0.05〜1.5wt%を添加し、B皮膜を形成した。その後、軟化点が406℃の低融点ガラスを3.0wt%と、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛を0.5wt%とをV型混合機で2時間混合した。さらに、結着性絶縁樹脂として、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョン溶液を2.0wt%混合し、120℃で2時間乾燥後、篩通し(目開き300μm)を行った。
項目Hでは、実施例18として、非晶質軟磁性合金粉末にTEBを非晶質軟磁性合金粉末に対して0.50wt%を添加し、B皮膜を形成した。その後、軟化点が406℃の低融点ガラスを3.0wt%と、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛を0.5wt%とをV型混合機で2時間混合した。さらに、結着性絶縁樹脂として、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョン溶液を2.0wt%混合し、120℃で2時間乾燥後、篩通し(目開き300μm)を行った。
これらの項目E〜Hの試料に対して、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛を0.2wt%を混合機(V型混合機)を使用して2時間混合した。その後、1500MPaの圧力で加圧成形し、外径16mm、内径8mm、高さ5mmのリング状の成形体を作製し、大気中又は窒素雰囲気中で30分間焼鈍を行い圧粉磁心を作製した。
表3は、この項目E〜Hについて、比較例4〜6及び実施例12〜18として非晶質軟磁性合金粉末を予めB皮膜で覆う場合のTMBとTEBの添加量と焼鈍条件と圧粉磁心の特性について示した表である。この表の中で圧粉磁心の特性として、相対密度、透磁率、コアロス(Pcv)、成形体強度について測定した。図1は、硼酸(HBO)の添加量と透磁率の関係を示した図である。図2は、硼酸(HBO)の添加量とコアロス(Pcv)の関係を示した図である。
Figure 0005107993
表3の比較例4と比較例5とを比較すると、酸化雰囲気である大気中で熱処理を行った比較例5は、非酸化雰囲気である窒素雰囲気中で熱処理を行った比較例4に比べて圧粉磁心の強度が高くなる一方で、透磁率及びコアロス(Pcv)が大きく低下することが判る。すなわち、比較例4の強度は13MPa、比較例5の強度は42MPaであり、比較例5の強度は比較例1の強度の3倍以上である。また、比較例4の透磁率は78、比較例5の透磁率は43であり、比較例5の透磁率は比較例4の透磁率よりも15低くなっている。さらに、比較例4のコアロス(Pcv)は227、比較例5のコアロス(Pcv)は332であり、比較例5の透磁率は比較例4のコアロス(Pcv)よりも105増加している。
表3及び図3の比較例6及び実施例12〜17からは、TMBとTEBを添加することで透磁率が上昇し、特にTMBとTEBの添加量が、非晶質軟磁性合金粉末に対して0.05〜1.00wt%で52以上の透磁率を得ることができる。しかし、TMBとTEBの添加量を多くすると透磁率及び強度ともに低下し、TMBとTEBの添加量が、非晶質軟磁性合金粉末に対して1.50wt%になると透磁率が43となり、硼酸の添加量が、非晶質軟磁性合金粉末に対して0.05wt%の透磁率とより低下することが判る。
表3及び図3の比較例5,6及び実施例12〜17とを比較すると、非晶質軟磁性合金粉末を予めB皮膜で覆う場合のTMBとTEBで覆うことで、大気中で熱処理を行っても、圧粉磁心の強度が高くなる一方で、透磁率及びコアロス(Pvc)の低下が少なくなることが判る。すなわち、実施例12〜17のうち透磁率と強度の値が最も低い実施例1と比較例4,5とを比較すると、実施例1の強度は39MPに対して比較例5の強度は42MPと同程度である。一方、実施例1の透磁率は52に対して比較例5の透磁率は43である。すなわち、実施例1は比較例5と同様に圧粉磁心の強度が高くなる一方で、透磁率の減少が抑えられることが判る。
以上より、非晶質軟磁性合金粉末を予めB皮膜で覆う場合に、TMBとTEBの添加量を非晶質軟磁性合金粉末に対して0.05〜1.00wt%添加することで、酸化雰囲気中で熱処理を場合の非晶質合金粉末の表面の結晶化による磁気特性の低下を防止するとともに、機械的強度に優れた圧粉磁心とその製造方法を提供することできる。
[第4の特性比較(焼鈍処理を行う雰囲気の比較)]
第4の特性比較では、予め非晶質軟磁性合金粉末にTMBとTEBを添加してB皮膜で覆う場合の成形体に対して焼鈍処理を行う雰囲気の種類及び温度の比較を行った。本特性比較で使用する試料は、平均粒径が150μm以下の非晶質軟磁性合金粉末に対して、下記の処理を行うことにより作製した。
項目Iでは、非晶質軟磁性合金粉末にTMBを非晶質軟磁性合金粉末に対して0.55wt%を添加し、B皮膜を形成した。その後、軟化点が406℃の低融点ガラスを3.0wt%と、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛を0.5wt%とをV型混合機で2時間混合した。さらに、結着性絶縁樹脂として、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョン溶液を2.0wt%混合し、120℃で2時間乾燥後、篩通し(目開き300μm)を行った。
この項目Iの試料に対して、潤滑性樹脂としてステアリン酸亜鉛を0.2wt%を混合機(V型混合機)を使用して2時間混合した。その後、1500MPaの圧力で加圧成形し、外径16mm、内径8mm、高さ5mmのリング状の成形体を作製し、大気中又は窒素雰囲気中で30分間焼鈍を行い圧粉磁心を作製した。窒素雰囲気中で焼鈍を行う場合の各領域の温度の保持時間は、第1領域では2時間、第2領域では30分、第3領域では2時間とした。
表4は、この項目Iについて、実施例15,19〜23として焼鈍工程の第1領域(酸化ホウ素の形成)、第2領域(焼鈍)、第3領域(冷却)の条件と圧粉磁心の特性について示した表である。この表の中で圧粉磁心の特性として、相対密度、透磁率、コアロス(Pcv)、成形体強度について測定した。
Figure 0005107993
表4の実施例15,19〜23を比較すると、第2領域における焼鈍を非酸化性雰囲気(N)で行う場合は、第2領域における焼鈍を大気中(Air)で行う場合に比べて、透磁率が高くなることが判る。実施例19〜23を比較すると、第3領域における保持温度の上昇に伴い圧粉磁心の強度が高くなり、保持温度が低下すると透磁率が高くなることが判る。
以上より、焼鈍を非酸化性雰囲気(N)で行い、冷却過程で雰囲気を大気に変化することで、非晶質合金粉末の表面の結晶化による磁気特性の低下を防止するとともに、機械的強度に優れた圧粉磁心とその製造方法を提供することができる。
[他の実施例]
本発明は、前記の実施例に限定されるものではない。以下のような他の実施例も包含する。
(a)本発明は、上記のような実施例において作製された圧粉磁心に限定されるものではなく、この圧粉磁心にコイルを巻回することによりチョークコイルを作製する実施形態も包含する。これにより、上述したような第1〜21の実施例において得られた効果を当該チョークコイルにおいても同様に奏することが可能となる。
(b)本発明は、上記のような実施例において作製された圧粉磁心に限定されるものではなく、この圧粉磁心にコイルを巻回することによりチョークコイルを作製する実施形態も含有する。

Claims (10)

  1. 非晶質軟磁性合金粉末と、潤滑性樹脂と、軟化点が前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度以下の低融点ガラスを混合し、
    その混合物を結着性絶縁樹脂で被覆し、結着性絶縁樹脂で被覆した混合物と潤滑性樹脂とを混合することで造粒粉を作製し、
    得られた造粒粉を加圧成形処理して成形体を作製し、その成形体を窒素雰囲気中で焼鈍し、その後大気中で冷却してなる圧粉磁心において、
    前記非晶質軟磁性合金粉末の表面が、非晶質軟磁性合金粉末内のホウ素でなく、外部から供給されたホウ素による酸化ホウ素(B)で被覆されていることを特徴とする圧粉磁心。
  2. 前記酸化ホウ素被覆が、非晶質軟磁性合金粉末と、潤滑性樹脂と、軟化点が前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度以下の低融点ガラスを混合した混合物に硼酸を添加することにより形成したものであることを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心。
  3. 前記硼酸の添加量が、非晶質軟磁性合金粉末に対して0.02〜1.0wt%であることを特徴とする請求項2に記載の圧粉磁心。
  4. 前記酸化ホウ素被覆が、前記軟磁性合金粉末にボロンの金属アルコキシドを被覆し、その後、加水分解することにより形成したものであることを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心。
  5. 前記ボロンの金属アルコキシドがトリメトキシボロンまたはトリエトキシボロンであり、その添加量が非晶質軟磁性合金粉末に対して0.1〜1.0wt%であることを特徴とする請求項4に記載の圧粉磁心。
  6. 非晶質軟磁性合金粉末と、潤滑性樹脂と、軟化点が前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度以下の低融点ガラスを混合する第1の混合工程と、
    その混合物を結着性絶縁樹脂で被覆する被覆工程と、
    被覆工程を経た混合物と潤滑性樹脂とを混合し造粒粉を作製する第2の混合工程と、
    第2の混合工程を経た造粒粉を加圧成形処理して成形体を作製する成形工程と、
    成形工程を経た成形体を窒素雰囲気中で焼鈍し、その後大気中で冷却する焼鈍工程とを有する圧粉磁心の製造方法において、
    前記非晶質軟磁性合金粉末の表面が、非晶質軟磁性合金粉末内のホウ素でなく、外部から供給されたホウ素による酸化ホウ素(B)で被覆されていることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
  7. 前記酸化ホウ素被覆が、非晶質軟磁性合金粉末と、潤滑性樹脂と、軟化点が前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度以下の低融点ガラスを混合する混合工程の後に、
    混合物に硼酸を添加することにより形成したものであることを特徴とする請求項に記載の圧粉磁心の製造方法。
  8. 前記硼酸の添加量が、非晶質軟磁性合金粉末に対して0.02〜1.0wt%であることを特徴とする請求項7に記載の圧粉磁心の製造方法。
  9. 前記酸化ホウ素被覆が、前記軟磁性合金粉末にボロンの金属アルコキシドを被覆し、その後、加水分解することにより形成したものであることを特徴とする請求項に記載の圧粉磁心の製造方法。
  10. 前記ボロンの金属アルコキシドがトリメトキシボロンまたはトリエトキシボロンであり、その添加量が非晶質軟磁性合金粉末に対して0.1〜1.0wt%であることを特徴とする請求項に記載の圧粉磁心の製造方法。
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