以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図2は本発明の第1の実施の形態における燃料電池スタックの構成を示す平面図、図3は本発明の第1の実施の形態における燃料電池スタックの空気入口側に取り付けられた空気供給流路を示す図である。
図において、20は複数の燃料電池セル(FC)から構成される燃料電池集合体としての燃料電池スタックであり、乗用車、バス、トラック、乗用カート、荷物用カート等の車両用の動力源として使用される。ここで、車両は、照明装置、ラジオ、パワーウィンドウ等の車両の停車中にも使用される電気を消費する補機類を多数備えており、また、走行パターンが多様であり、動力源に要求される出力範囲が極めて広いので、動力源として燃料電池スタック20と、バッテリ、リチウムイオン電池などの2次電池、キャパシタ等から成る蓄電手段とを併用して使用することが望ましい。
そして、燃料電池セルは、アルカリ水溶液型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、直接型メタノール等のものであってもよいが、固体高分子型燃料電池であることが望ましい。
なお、更に望ましくは、水素ガスを燃料とし、酸素又は空気を酸化剤とするPEMFC(Proton Exchange Membrane Fuel Cell)型燃料電池、又は、PEM(Proton Exchange Membrane)型燃料電池と呼ばれるものである。ここで、該PEM型燃料電池は、一般的に、プロトン等のイオンを透過する固体高分子電解質膜の両側に触媒、電極及びセパレータを結合したセル(Fuel Cell)を複数及び直列に結合したスタック(Stack)から成る。
この場合、固体高分子電解質膜を2枚のガス拡散電極で挟み、一体化させて接合する。そして、該ガス拡散電極の一方を燃料極とし、該燃料極表面に接する後述される燃料流路14を介し前記燃料極に燃料ガスとしての水素ガスを供給すると、水素が水素イオン(プロトン)と電子とに分解され、水素イオンが固体高分子電解質膜を透過する。また、前記ガス拡散電極の他方を酸素極とし、該酸素極表面に接する酸化剤流路としての後述される空気流路16を介し前記酸素極に酸化剤としての空気を供給すると、空気中の酸素、前記水素イオン及び電子が結合して、水が生成される。このような電気化学反応によって起電力が生じるようになっている。なお、本実施の形態において、前記燃料電池スタック20はいわゆる常圧型の燃料電池であり、前記空気流路16には常圧の空気が流通する。ここで、常圧とは、大気圧から大気圧より100〔mmAq〕程度高い圧力までの範囲である。
例えば、本実施の形態においては、一例として、PEM型燃料電池であり、例えば、100枚のセルを直列に接続したスタックを使用する。なお、改質装置によってメタノール、ガソリン等を改質して取り出した燃料である水素ガスを燃料電池セルに直接供給することもできるが、車両の高負荷運転時にも安定して十分な量の水素を供給することができるようにするためには、燃料貯蔵手段に貯蔵した水素ガスを供給することが望ましい。
ここで、前記燃料貯蔵手段は、水素吸蔵合金を格納した容器であることが望ましいが、デカリンのような水素吸蔵液体を格納した容器、水素ガスボンベのように水素ガスを格納した容器等であってもよい。これにより、水素ガスがほぼ一定の圧力で常に十分に供給されるので、前記燃料電池セルは車両の負荷の変動に遅れることなく追随して、必要な電流を供給することができる。この場合、前記燃料電池セルの出力インピーダンスは極めて低く、0に近似させることが可能である。
本実施の形態において、燃料電池スタック20は、図2に示されるように、複数のセルモジュール21を有する。なお、図2における矢印は、燃料ガスとしての水素ガスの流れを示している。セルモジュール21は、燃料電池としての単位セル(MEA:Membrane Electrode Assembly)と、該単位セル同士を電気的に接続するとともに、単位セルに導入される水素ガスが流通する燃料流路14と酸化剤としての空気が流通する空気流路16とを分離する後述されるセパレータ15と、単位セル及びセパレータ15を1セットとして、板厚方向に複数のセットを重ねて構成されている。セルモジュール21は、単位セル同士が所定の間隙(げき)を隔てて配置されるように、単位セルとセパレータ15とが、多段に重ねられて積層されている。
単位セルは、電解質層としての固体高分子電解質膜側に設けられた酸素極としての空気極及び他側に設けられた燃料極から構成されている。前記空気極は、反応ガスを拡散しながら透過する導電性材料から成る電極拡散層と、該電極拡散層上に形成され、固体高分子電解質膜と接触させて支持される触媒層とから成る。また、単位セルの空気極側の電極拡散層に接触して集電する集電体としての空気極側コレクタと、単位セルの燃料極側の電極拡散層に接触して集電する集電体としての燃料極側コレクタとを有する。
図2に示される燃料電池スタック20においては、複数のセルモジュール21が図における横方向に重ねられて積層され、左右両端から保持部材としてのエンドプレートによって挟まれている。また、図2に示される例においては、単位セル及びセパレータ15のセットを10個積層して1つのセルモジュール21を形成し、該セルモジュール21を10個積層して1つの燃料電池スタック20を形成している。なお、単位セルの両側には必ずセパレータ15が配設されるようになっているので、1つのセルモジュール21におけるセパレータ15の数は11枚である。
この場合、燃料電池スタック20は、全体として扁(へん)平な直方体状の形状を有し、内部における空気の流れは、図2における図面に垂直な方向としての重力方向であり、上から下に直線状になっている。また、水素ガスの流れは、図2において矢印で示されるように、重力方向とほぼ直交する水平面内において、セルモジュール21毎に折り返すサーペンタイン状に、すなわち、蛇行状になっている。そして、一方のエンドプレートに水素ガスを供給する燃料用管路系としての燃料入口管路33が接続され、他方のエンドプレートに水素ガスを排出する燃料用管路系としての燃料出口管路31が接続されている。
本実施の形態において、燃料電池システムは、図3に示されるように、燃料電池スタック20に酸化剤としての常圧の空気を供給するために、酸化剤供給源としての空気供給ファンユニット45を有する。該空気供給ファンユニット45は、一般的に、シロッコファンと称されるものであり、ファン駆動用モータ46によって駆動される羽根車としての図示されない遠心式の多翼ファンを備える。該多翼ファンの回転軸は、鉛直方向(図3における上下方向)に延伸するように、すなわち、水平面内において回転するように配設される。この場合、前記空気供給ファンユニット45は、回転する多翼ファンの中心に上方から空気を吸引し、前記多翼ファンの外周側に空気を排出し、該空気を前記多翼ファンの周囲に配設された概略渦巻状の昇圧ダクトを通過させて、空気供給ファンユニット45の外部に常圧の空気を吐出する。
また、前記空気供給ファンユニット45の上面には、エアフィルタ47が配設され、前記空気供給ファンユニット45に吸引される空気中の塵埃(じんあい)、汚染物質、有害成分等を除去するようになっている。そして、前記空気供給ファンユニット45から吐出された空気は、前記空気供給ファンユニット45の空気吹出口に接続された空気導入ダクト42を通って、燃料電池スタック20の上側、すなわち、酸化剤入口側としての空気入口側に取り付けられた空気供給室44内に供給される。なお、前記空気導入ダクト42は、前記空気供給ファンユニット45の昇圧ダクトと一体的に形成されたものであってもよいし、別個に形成されて接続されたものであってもよい。また、燃料電池スタック20の下側、すなわち、酸化剤出口側としての空気出口側には、酸化剤排出流路としての空気排出室43が接続されている。
そして、前記空気導入ダクト42と空気供給室44との境界部、すなわち、空気供給室44の入口には、水をスプレーするための水供給ノズル51が複数個配設されている。該水供給ノズル51には図示されない水供給管路が接続されており、図示されない水タンクに貯留された水が、水ポンプによって圧送され、前記水供給管路を介して水供給ノズル51に供給される。これにより、空気流路16を介して酸素極の表面に水を供給して、固体高分子電解質膜を湿潤な状態に維持することができる。また、空気流路16を流れる空気は、水を含むことによって熱容量が大きくなるので、単位セルを冷却する冷却媒体としての機能が増大する。
なお、前記空気排出室43内又はその下流側には、図示されない凝縮器ユニットが配設されている。該凝縮器ユニットは、燃料電池スタック20から排出された空気に含まれる水分を凝縮して分離するためのものであり、前記燃料電池スタック20から排出された空気を冷却して、水分を凝縮するようになっている。これにより、燃料電池スタック20から空気排出室43内に排出された空気は、凝縮器ユニット内に導入される。そして、前記空気は、凝縮器ユニット内を通過する間に冷却され、凝縮した水分を分離して、凝縮器ユニットの排気口から大気中に放出される。なお、分離された水は、図示されない配水管を通って、水タンクに回収されるようになっていることが望ましい。
本実施の形態において、燃料電池システムは図示されない制御装置を有する。該制御装置は、CPU、MPU等の演算手段、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、圧力センサ、その他のセンサから燃料電池セルに供給される水素、酸素、空気等の流量、温度、出力電圧等を検出して、前記空気供給ファンユニット45、後述される水素排気電磁弁37、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35c等の動作を制御する。さらに、前記制御装置は、他の制御装置と連携して、燃料電池システムの動作を統括的に制御する。なお、前記制御装置は、他の制御装置と一体的に構成されてもよい。
次に、燃料電池システムにおける水素ガスの流路について説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態における燃料電池システムの水素ガスの流路を示す模式図、図4は本発明の第1の実施の形態におけるセパレータの燃料極側の構成を示す図、図5は本発明の第1の実施の形態におけるセパレータの空気極側の構成を示す図である。なお、図4において、(a)は(b)のD−D矢視断面図、(b)は平面図である。また、図5において、(a)は平面図、(b)は(a)のF−F矢視断面図である。
図1に示されるように、水素ガスは、図示されない燃料貯蔵手段から、燃料供給管路22及び該燃料供給管路22に接続された燃料入口管路33を通って、燃料電池スタック20の燃料流路14に供給される。そして、燃料電池スタック20の燃料流路14から未反応成分として排出される水素ガスは、燃料出口管路31を通って燃料電池スタック20外に排出される。前記燃料出口管路31には、回収容器としての水回収ドレインタンク34が接続されている。
そして、該水回収ドレインタンク34には水と分離された水素ガスを排出する燃料循環管路30が接続され、該燃料循環管路30にはポンプとしての吸引循環ポンプ36が配設されている。また、前記燃料循環管路30における水回収ドレインタンク34と反対側の端部は、燃料入口管路33に接続されている。これにより、燃料電池スタック20外に排出された水素ガスを回収し、燃料電池スタック20の燃料流路14に供給して再利用することができる。
また、前記水回収ドレインタンク34には、燃料排出管路38が接続され、該燃料排出管路38には水素排気電磁弁37が配設され、燃料電池スタック20の起動時に該燃料電池スタック20から排出される水素ガスを大気中に排出することができるようになっている。なお、燃料排出管路38の出口端は空気排出室43に接続され、排出された水素を空気で希釈させるようになっていることが望ましい。
本実施の形態において、各単位セルにおける燃料流路14は、並列な複数の小流路、例えば、第1小流路14a〜第3小流路14cに分割されている。なお、燃料流路14の分割数は、任意に決定することができ、例えば、2つに分割してもよいし、4つ以上に分割してもよいが、構成の複雑化等を考慮すると、2〜5程度が適切な分割数である。また、燃料流路14の分割形態は、単位セルにおける温度勾配の方向である。すなわち、燃料流路14は、温度の変化する方向に沿って複数に分割される。
図5において矢印Eで示されるように、本実施の形態において、冷却媒体として機能する水を含んだ空気は、重力方向、すなわち、図における上下方向に空気流路16内を流れる。そのため、単位セルは、空気流路16における空気の入口側の部位が最も冷却されて温度が低くなり、空気流路16における空気の出口側の部位が最も温度が高くなる。したがって、単位セルにおいては、下側ほど温度が高くなるような温度勾配が発生する。そこで、前記燃料流路14は、温度勾配の方向に、上から順に、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cとなるように分割されている。なお、温度勾配は冷却媒体の流れの方向に生じるのであるから、前記燃料流路14は、冷却媒体の流れの方向に分割されているとも言える。
この場合、セパレータ15の側部に形成される燃料用貫通孔(こう)13も第1燃料用貫通孔13a〜第3燃料用貫通孔13cに分割される。そして、水素ガスは、図4において矢印Cで示されるように、セパレータ15の一方(図4に示される例においては左方)の側部の第1燃料用貫通孔13a、第2燃料用貫通孔13b及び第3燃料用貫通孔13cから、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cを通って、セパレータ15の他方(図4に示される例においては右方)の側部の第1燃料用貫通孔13a、第2燃料用貫通孔13b及び第3燃料用貫通孔13cに流れる。
また、燃料入口管路33も、下流側の部位は第1燃料入口管路33a、第2燃料入口管路33b及び第3燃料入口管路33cに分岐し、第1燃料用貫通孔13a、第2燃料用貫通孔13b及び第3燃料用貫通孔13cに、各々接続される。さらに、燃料出口管路31も、上流側の部位は第1燃料出口管路31a、第2燃料出口管路31b及び第3燃料出口管路31cに分岐し、第1燃料用貫通孔13a、第2燃料用貫通孔13b及び第3燃料用貫通孔13cに、各々接続される。
なお、第1燃料出口管路31a、第2燃料出口管路31b及び第3燃料出口管路31cには、流量制御弁として、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cが、各々配設される。前記第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cは、各々独立に動作可能であり、前記制御装置に制御され、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cを流れる水素ガスの流量を独立に制御する。なお、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cは、第1燃料入口管路33a、第2燃料入口管路33b及び第3燃料入口管路33cに配設することもできるが、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14c内に水素ガスを充満させるために、第1燃料出口管路31a、第2燃料出口管路31b及び第3燃料出口管路31cに配設することが望ましい。また、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cを統合的に説明する場合には、流量制御弁35として説明する。
次に、前記構成の燃料電池システムにおける第1小流路14a〜第3小流路14cへの水素ガスの分配比を制御する動作について説明する。
図6は本発明の第1の実施の形態における燃料電池システムの水素ガスの分配比を制御する動作を示す図、図7は本発明の第1の実施の形態における単位セル内の温度差と流量制御弁の開度との関係を示すグラフ、図8は本発明の第1の実施の形態における単位セル内の温度差と水素ガスの分配比との関係を示すグラフである。
図6に示されるように、燃料電池スタック20には、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cに対応する部位の温度を検出する第1温度検出器56a、第2温度検出器56b及び第3温度検出器56cをそれぞれ配設する。なお、必ずしも燃料電池スタック20におけるすべての燃料流路14に対応する部位の温度を検出する必要はなく、例えば、空気流路16における空気の入口側及び出口側に対応する部位の温度のみを検出するようにしてもよい。すなわち、燃料電池スタック20において最も低温になる部位と最も高温になる部位の温度のみを検出するようにしてもよい。なお、図6において、太い矢印Aは冷却媒体としての水を含む空気の流れを示し、細い矢印Bは水素ガスの流れを示している。
そして、制御装置は、前記第1温度検出器56a、第2温度検出器56b及び第3温度検出器56cが検出した燃料電池スタック20における各部の温度に基づいて、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cの開度を制御し、これにより、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cを流れる水素ガスの流量を制御する。すなわち、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cの各々への水素ガスの分配比を制御する。
この場合、温度の高い部位ほど水素ガスの分配比が高くなるように制御する。「発明が解決しようとする課題」で説明したように、燃料流路14内の温度の高い部位では、水素ガスが消費されて水素ガスの分圧が低下すると、凝縮する水分の量が多くなる。そこで、温度の高い部位ほど水素ガスの分配比が高くなるように制御することによって、温度の高い部位に多くの水素ガスを供給して水素ガスの分圧の低下を防止して、凝縮する水分の量を低減することができる。これにより、燃料流路14内の各部において凝縮する水分の量を平準化することができ、単位セルの各部における燃料極側の湿潤状態を均一にすることができる。そのため、燃料極が水分によって覆われることがなく、単位セルの性能の低下や、燃料極の劣化を防止することができる。
そこで、制御装置は、例えば、図7に示されるように、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cの開度を制御する。ここでは、説明の都合上、制御装置は、第1温度検出器56aが検出した第1小流路14aに対応する部位、すなわち、最も低温になる部位の温度T1と、第3温度検出器56cが検出した第3小流路14cに対応する部位、すなわち、最も高温になる部位の温度T3との差分ΔTに基づいて、流量制御弁35の各々の開度を制御するものとする。
ここで、ΔT=T3−T1である。また、図7における線35a、35b及び35cは、各々、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cの開度を示している。なお、図7の縦軸は流量制御弁35の開度〔%〕を示し、横軸はΔTを示している。
この場合、最も高温になる部位に対応する第3流量制御弁35cの開度は、ΔTにかかわらず一定、すなわち、100〔%〕に維持され、ΔTが増加するに従って、第1流量制御弁35a及び第2流量制御弁35bの開度が順次減少するように制御されていることが分かる。
そして、図8には、図7に対応する水素ガスの分配比の変化が示されている。図8における線14a、14b及び14cは、各々、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cを流れる水素ガスの分配比を示している。なお、分配比の合計は100〔%〕である。また、図8の縦軸は水素ガスの分配比を示し、横軸はΔTを示している。
これにより、図7に示されるように、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cの開度を制御することによって、温度の高い部位ほど水素ガスの分配比が高くなることが分かる。
なお、前記制御装置は、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cに対応する部位の温度に代えて、燃料電池スタック20の負荷、すなわち、発生する電流に基づいて第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cの開度を制御することもできる。これは、燃料電池スタック20の発生する電流が増加すると水素ガスの消費量が増加するので、燃料流路14内の温度の高い部位では凝縮する水分の量が増加するためである。この場合、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cの開度、並びに、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cを流れる水素ガスの分配比は、図7及び8の横軸を電流に代えることによって表すことができる。
さらに、前記制御装置は、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cの開度に代えて、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cの開時間の長さを制御することもできる。すなわち、各流量制御弁35の開時間の比を変化させることによって、水素ガスの分配比を制御してもよい。
次に、前記構成の燃料電池システムにおける第1小流路14a〜第3小流路14cに滞留した水分を排出する動作について説明する。
図9は本発明の第1の実施の形態における燃料電池システムの流路に滞留した水分を排出する動作を示す図である。なお、図9において、(a)は通常運転の状態を示し、(b)〜(c)は第1小流路〜第3小流路から水分を排出する状態を示している。また、白抜きの弁は開放されていることを示し、黒塗りの弁は閉止されていることを示している。
本実施の形態の燃料電池システムにおける定常運転時には、燃料貯蔵手段から燃料電池スタック20に供給される水素ガスの圧力は、あらかじめ設定した一定の圧力に調整されて保持される。また、空気供給ファンユニット45は、燃料電池スタック20の出力電流に応じてあらかじめ設定された空気が供給されるように作動する。この場合、供給される空気の量は、燃料電池スタック20の出力が最大となるために必要な空気の量よりも十分に多い量である。なお、図9においては、図6と同様に、太い矢印Aは冷却媒体としての水を含む空気の流れを示し、細い矢印Bは水素ガスの流れを示している。
そして、燃料電池スタック20が運転を開始すると、該燃料電池スタック20を構成する各単位セルにおいて逆拡散水が発生し、該逆拡散水が固体高分子電解質膜を透過して燃料流路14にまで達し、前記固体高分子電解質膜の燃料極側を加湿する。これにより、該固体高分子電解質膜の燃料極側は湿潤な状態となり、電気化学反応によって水素から生成された水素イオンが固体高分子電解質膜内をスムーズに移動することができる。
また、前記燃料流路14に供給されて余剰となった未反応成分としての水素ガスは、前記燃料流路14にまで浸透して余剰となった逆拡散水と混合して、気液混合物となる。該気液混合物となった水素ガスは、図9(a)に示されるように、吸引循環ポンプ36によって吸引され、燃料電池スタック20に接続された燃料出口管路31を通って前記燃料電池スタック20の外部に排出される。この場合、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cのいずれもが開放されているので、気液混合物となった水素ガスは、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cから第1燃料出口管路31a、第2燃料出口管路31b及び第3燃料出口管路31cを通って前記燃料電池スタック20の外部に排出される。
そして、前記気液混合物は、燃料出口管路31を通過して水回収ドレインタンク34内に導入される。ここで、前記気液混合物が比較的広い空間を備える前記水回収ドレインタンク34内に滞留することによって、重量物である水分が重力によって下方に落下し、水素ガスから逆拡散水が分離する。該逆拡散水が分離して乾燥した状態の水素ガスは、水回収ドレインタンク34外に排出され、燃料循環管路30に流入する。そして、定常運転時においては、前記燃料循環管路30に流入した水素ガスは、吸引循環ポンプ36によって循環され、燃料入口管路33に導入され、再び、燃料電池スタック20の燃料流路14に供給されて再利用される。また、水素排気電磁弁37を閉止しているので、水素ガスは燃料排出管路38からは排出されないようになっている。
また、燃料電池システムは、随時、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cに滞留した水分を排出する。
まず、第1小流路14aに滞留した水分を排出する場合、図9(b)に示されるように、第1流量制御弁35aを開放し、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cを閉止する。そして、この状態で、水素排気電磁弁37を所定時間(例えば、0.3〔秒〕)だけ開放する。これにより、燃料入口管路33を通って燃料電池スタック20に供給された水素ガスは、第1小流路14aだけを流れるので、通常運転の状態よりも流路断面積が小さく、流速が高くなる。そのため、第1小流路14aに滞留した水分を確実に排出することができる。そして、第1小流路14aから排出された水分は、水回収ドレインタンク34内で水素ガスから分離された後に、燃料排出管路38を通って外部に排出される。
また、第2小流路14bに滞留した水分を排出する場合、図9(c)に示されるように、第2流量制御弁35bを開放し、第1流量制御弁35a及び第3流量制御弁35cを閉止する。そして、この状態で、水素排気電磁弁37を所定時間だけ開放する。これにより、燃料入口管路33を通って燃料電池スタック20に供給された水素ガスは、第2小流路14bだけを流れるので、通常運転の状態よりも流路断面積が小さく、流速が高くなる。そのため、第2小流路14bに滞留した水分を確実に排出することができる。そして、第2小流路14bから排出された水分は、水回収ドレインタンク34内で水素ガスから分離された後に、燃料排出管路38を通って外部に排出される。
さらに、第3小流路14cに滞留した水分を排出する場合、図9(d)に示されるように、第3流量制御弁35cを開放し、第1流量制御弁35a及び第2流量制御弁35bを閉止する。そして、この状態で、水素排気電磁弁37を所定時間だけ開放する。これにより、燃料入口管路33を通って燃料電池スタック20に供給された水素ガスは、第3小流路14cだけを流れるので、通常運転の状態よりも流路断面積が小さく、流速が高くなる。そのため、第3小流路14cに滞留した水分を確実に排出することができる。そして、第3小流路14cから排出された水分は、水回収ドレインタンク34内で水素ガスから分離された後に、燃料排出管路38を通って外部に排出される。
このように、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35c並びに水素排気電磁弁37の動作を制御し、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cの1つだけに水素ガスを流すことによって当該小流路に滞留する水分を排出する。そのため、水素ガスの流路断面積が小さくなり、局所的に水素ガスの流量を高めることができるので、滞留した水分を吹き飛ばすことができる。通常運転の状態では、流路断面積が大きいので、水素ガスが水分のない部分を通過してしまうので、滞留している水分を吹き飛ばすことは困難である。
ここでは、1つの小流路だけに水素ガスを流す場合について説明したが、燃料流路14の分割数が多い場合には、複数、例えば、2つの小流路だけに水素ガスを流すようにすることもできる。すなわち、複数の小流路の内の選択されたいくつかの小流路だけに水素ガスを流すようにして、通常運転の状態よりも流路断面積を小さくして、水素ガスの流速を高めるようにすれば、滞留した水分を確実に排出することができる。
なお、図9(b)〜(d)に示されるような水分を排出する動作は、所定の周期で行うようにしてもよいし、燃料流路14に滞留した水分の量が所定値に達したときに行うようにしてもよい。水分を排出する動作を所定の周期で行う場合には、温度が高い部位ほど前記動作の頻度が高くなるようにすることが望ましい。また、燃料流路14に滞留した水分の量は、直接測定しなくても、燃料電池スタック20の発生する電流の値と温度とから求めることができる。
このように、本実施の形態においては、燃料流路14を並列な複数の小流路、すなわち、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cに分割し、第1流量制御弁35a、第2流量制御弁35b及び第3流量制御弁35cによって各小流路を流れる水素ガスの流量を制御するようになっている。これにより、温度の高い部位ほど水素ガスの分配比が高くなるように制御することができるので、燃料流路14内の各部において凝縮する水分の量を平準化することができ、単位セルの各部における燃料極側の湿潤状態を均一にすることができる。
また、選択された小流路だけに水素ガスを流すようにして、滞留した水分が多い小流路ほど多くの水素ガスが流れるようになっているので、当該小流路に滞留した水分を速やかに、かつ、確実に排出することができる。そのため、燃料極が水分によって覆われることがなく、単位セルの性能の低下や、燃料極の劣化を防止することができる。
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図10は本発明の第2の実施の形態におけるセパレータの燃料極側の構成を示す図、図11は本発明の第2の実施の形態におけるセパレータの冷却媒体側の構成を示す図、図12は本発明の第2の実施の形態におけるセパレータの空気極側の構成を示す図である。
前記第1の実施の形態においては、空気流路16を流れる空気を燃料電池スタック20を冷却するための冷却媒体とする燃料電池システムについて説明したが、本実施の形態においては、独立した冷却系を有し、空気流路16を流れる空気以外の媒体、例えば、冷却水等の媒体を冷却媒体として使用する燃料電池システムについて説明する。
図10に示されるように、本実施の形態において、各単位セルにおける燃料流路14は、並列な第1小流路14a〜第3小流路14cに分割されている。この場合、セパレータ15の側部には、第1燃料用貫通孔13a〜第3燃料用貫通孔13cに加えて、冷却媒体用貫通孔18及び空気用貫通孔19が形成される。そして、水素ガスは、前記第1の実施の形態と同様に、図10において矢印Cで示されるように、重力方向に対して直交する方向、すなわち、水平方向に流れる。具体的には、セパレータ15の一方(図10に示される例においては左方)の側部の第1燃料用貫通孔13a、第2燃料用貫通孔13b及び第3燃料用貫通孔13cから、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cを通って、セパレータ15の他方(図10に示される例においては右方)の側部の第1燃料用貫通孔13a、第2燃料用貫通孔13b及び第3燃料用貫通孔13cに流れる。
また、冷却媒体は、図11において矢印Gで示されるように、重力方向、すなわち、図における上下方向に蛇行して冷却媒体流路17内を流れる。具体的には、該冷却媒体流路17は、各々が水平方向に延在する第1冷却媒体流路17a〜第3冷却媒体流路17cを直列に接続することによって形成されている。そのため、単位セルは、冷却媒体流路17における冷却媒体の入口側の部位が最も冷却されて温度が低くなり、冷却媒体流路17における冷却媒体の出口側の部位が最も温度が高くなる。したがって、単位セルにおいては、上側ほど温度が高くなるような温度勾配が発生する。そこで、前記燃料流路14は、温度勾配の方向に、すなわち、冷却媒体の流れの方向に分割されている。なお、本実施の形態においては、前記第1の実施の形態とは異なり、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cの順で温度が低くなる部位に対応する。
さらに、空気は、図12において矢印Eで示されるように、重力方向、すなわち、図における上下方向に蛇行して空気流路16内を流れる。具体的には、該空気流路16は、各々が水平方向に延在する第1空気流路16a〜第3空気流路16cを直列に接続することによって形成されている。なお、セパレータ15の面は、図11と12とにおいて、左右が逆になるように互いに反転したように示されている。
なお、その他の点の構成及び動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図13は本発明の第3の実施の形態におけるセパレータの冷却媒体側の構成を示す図、図14は本発明の第3の実施の形態におけるセパレータの燃料極側の構成を示す図である。
本実施の形態においても、前記第2の実施の形態と同様に、独立した冷却系を有し、空気流路16を流れる空気以外の媒体、例えば、冷却水等の媒体を冷却媒体として使用する燃料電池システムについて説明する。
図13に示されるように、本実施の形態において、冷却媒体は、矢印Gで示されるように、重力方向に対して直交する方向、すなわち、水平方向に冷却媒体流路17内を流れる。また、空気も、点線の矢印Eで示されるように、水平方向に、図13には示されていない空気流路16内を流れる。この場合、セパレータ15の側部には、冷却媒体用貫通孔18及び空気用貫通孔19が形成される。
また、水素ガスは、図14において矢印Cで示されるように、重力方向、すなわち、図における上下方向に流れる。各単位セルにおける燃料流路14は、並列な上下方向に延在する第1小流路14a〜第3小流路14cに分割されている。この場合、セパレータ15の上端部及び下端部には、第1燃料用貫通孔13a〜第3燃料用貫通孔13cが形成されている。具体的には、セパレータ15の上端部の第1燃料用貫通孔13a、第2燃料用貫通孔13b及び第3燃料用貫通孔13cから、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cを通って、セパレータ15の下端部の第1燃料用貫通孔13a、第2燃料用貫通孔13b及び第3燃料用貫通孔13cに流れる。
図14において点線の矢印Gで示されるように、冷却媒体が水平方向に流れるので、単位セルは、冷却媒体流路17における冷却媒体の入口側の部位が最も冷却されて温度が低くなり、冷却媒体流路17における冷却媒体の出口側の部位が最も温度が高くなる。そのため、単位セルにおいては、図における右側ほど温度が高くなるような温度勾配が発生する。そこで、前記燃料流路14は、温度勾配の方向に、すなわち、冷却媒体の流れの方向に、図における左から右へ、順に、第1小流路14a、第2小流路14b及び第3小流路14cとなるように分割されている。
なお、その他の点の構成及び動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
また、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
さらに、本実施の形態では、燃料電池集合体として、燃料電池がセパレータを挟んで複数積層された燃料電池スタックを用いた場合について説明したが、チューブ状の燃料電池を複数束ねた燃料電池モジュールを用いてもよい。