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JP5159093B2 - 活性成分の溶出を徐放性に制御する多層固形製剤 - Google Patents

活性成分の溶出を徐放性に制御する多層固形製剤 Download PDF

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本発明は、活性成分の溶出速度が、0次溶出、或いは2以上の段階(多段溶出)の徐放性に制御される多層固形製剤に関する。
医薬用途における徐放性固形製剤は、活性成分の血中濃度をコントロールすることにより、投与回数が減少し服用性が改善できること、生体内の消失半減期の短い活性成分の持続性が改善できること、血中最小濃度と副作用発現濃度幅の狭い活性成分の副作用を低減できること等から有用性の高い製剤である。活性成分の溶出を徐放性に制御する方法としては、活性成分を溶出制御基剤とともに均一に分散させて圧縮成型する方法が、安定した溶出制御性に加え構造や製造プロセスがシンプルであり開発速度も速いことから実用化の点で多く用いられる(マトリクスシステム)。
マトリックスシステムに用いられる溶出制御基剤には、親水性の溶出制御基剤、親油性の溶出制御基剤、不活性の溶出制御基剤(熱可塑性ポリマー類に属する)等がある。
親水性の溶出制御基剤としては、特許文献1等に記載されているように、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース誘導体が知られている。また、特許文献2等には、溶出制御基剤に加えてブドウ糖シロップを併用することで、活性成分の溶出を0次溶出に制御する方法が記載されている。これらの溶出制御基剤は、pHの影響を受けることなく活性成分を徐放性に制御できることや、経時安定性に優れる等の特徴を有している。しかし、これらのセルロース誘導体は、溶出溶液中でゲル化が進行するのに伴い圧縮方向に大きく膨潤する性質があるため、溶出後期では活性成分の拡散距離が長くなり溶出速度が低下してしまう欠点や、一方では、ゲル化した固形製剤の強度が弱くなり胃腸管の機械的運動による負荷に耐えられず浸食が進み溶出速度が速まるという欠点を有していた。セルロース誘導体は粘度の異なるグレードが市販されているが、高粘度のグレードほど圧縮方向への膨潤性が大きくなるため、溶出速度低下等の問題は顕著に現れる傾向がある。
ところで、一錠に複数の活性成分を配合する場合の配合禁忌の問題を回避する方法として、活性成分を異なる層に配合して多層固形製剤とする方法が知られている。各層に溶出制御基剤を配合することで、徐放性を示す多層固形製剤とすることも可能である。各層の活性成分含量や溶出速度を適正に制御することで、活性成分の溶出を0次溶出、或いは2以上の段階に制御することが可能である(特許文献3〜5、非特許文献1)。
多層固形製剤は各層が異なる組成から構成されるために、一般に各層間の結合力が弱くなり層間が分離し易くなる傾向が有る。セルロース誘導体を構成成分とする多層固形製剤も層間の結合力が弱くなる問題は避けがたく、特にゲル化が進行し膨潤が大きくなると層間の結合が不十分となり、活性成分の種類や含量又は組成によっては、層間分離に伴う急速な薬物の溶出が生じてしまう欠点を有していた。このような層間剥離を改善する方法として、特許文献6には特定の嵩比重の範囲にある結晶セルロースを結合剤に用いる方法が、特許文献7には各層を構成する粉粒体の平均粒径の比を一定範囲内とする方法等が、それぞれ開示されているが、膨潤性の大きな基剤を構成成分とする多層固形製剤には何れも効果的な方法と言えるものではなかった。
しかも、セルロース誘導体は、イオン強度の大きい溶液中ではイオン強度を作る溶質と水和を競合するため、ゲル化が不十分となり、マトリクスの形状を維持できず崩壊してしまう性質を有する。胃腸管でのイオン強度値はその領域のみならず摂取した食物によっても異なり、約0.01〜約0.2の範囲で変動することが知られている。このため、セルロース誘導体は、胃腸管の変動するイオン強度環境では、中程度以上のイオン強度で水和が抑制されマトリクスが崩壊してしまう問題も有していた。マトリクスの崩壊によって残りの活性成分の急激な溶出が生じる、いわゆる用量ダンピングが生じると、血中濃度が急激に上昇し、血中最小濃度と副作用発現濃度幅の狭い活性成分の効力次第では死に至る可能性もある。医薬品分野における徐放性固形製剤はイオン強度が変動する胃腸管環境の中でも正確な溶出制御を提供する必要があるため、変動するイオン強度の溶液中、特にイオン強度が高い溶液中で安定した溶出制御性を有する徐放性固形製剤が求められる。
また、セルロース誘導体の中でもHPMCは、従来最も頻繁に使用されている溶出制御基剤の1つであるが、上述した問題に加え、流動性に劣る、多少黄色みのある色をしており白色度に劣る、合成糊特有の刺激臭がある等、粉体物性面でも多くの点で改良が望まれている。
特許文献8〜12には、HPCやHPMCの溶出制御性の改善方法が開示されている。。これら文献には、例えばHPCでは100メッシュ(目開き約150μm)の篩いを通過する粒子が50重量%以上、HPMCでは100メッシュ(目開き約150μm)の篩いを通過する粒子が95重量%以上となるように粒子を微細化する方法が開示されている。これらの方法によれば、HPCやHPMCの粒子を微細化することで水和速度が促進され、ゲル層を迅速に形成させることが可能となり、活性成分の溶出初期に起こる錠剤の崩壊を抑制して過剰な溶出を防止すことができる。しかし、特許文献8〜12による微細粒子の使用は、粒子の膨潤性を改善したものでは無いから、加工澱粉の膨潤性や固形製剤の膨潤性を改善することはできず、多層固形製剤の層間分離等の問題を解決することもできない。
セルロース誘導体以外の親水性の溶出制御基剤としては、キサンタンガムやイナゴマメガム等の非セルロース多糖類や、ポリエチレンオキサイドやアクリル酸ポリマー等の合成高分子が知られている。しかし、これらの溶出制御基剤は、錠剤成型時の圧縮方向に垂直な方向と圧縮方向との両方向に非常に大きく膨潤する性質を有しているために、溶出後期では活性成分の拡散距離が長くなり溶出速度が低下してしまう欠点や、一方では、ゲル化した固形製剤の強度が弱くなり胃腸管の機械的運動による負荷に耐えられず浸食が進み溶出速度が速まるという欠点を有していた。更に、時間の経過とともに肥大化が進行するこれらの固形製剤は、胃腸管内での滞留時間の変動を招く可能性が大きいため、再現性良く正確な溶出制御性が求められる医薬品分野においては必ずしも満足のいく徐放性固形製剤ではなかった。また、膨潤性の大きい上述の溶出制御基剤は、セルロース誘導体と同様に層間の結合力が弱くなる問題は避けがたく、特にゲル化が進行し膨潤が大きくなると層間の結合が不十分となり、活性成分の種類や含量又は組成によっては、層間分離に伴う急速な薬物の溶出が生じる欠点を有していた。
特許文献13には、保水量が400%以上、崩壊時間が5時間以上、ゲル押込み荷重が200g以上の加工澱粉、及び該加工澱粉を溶出制御基剤とする徐放性固形製剤について開示されている。該加工澱粉は、従来の天然加工澱粉には見られないα−アミラーゼに対する高い抵抗性を有するために十分な徐放性を示し、且つ、イオン強度による影響を受けないため用量ダンピングの問題を生じることなく、活性成分を比較的安定に徐放することが可能との記載がある。加えて、天然由来の澱粉質原料を物理的な加工のみで製造しているので、化学物質残留等の問題がなく安心して摂取することができ、また、流動性、白色度ともに良好である。
しかしながら、開示されている澱粉粉末は比較的粒子の膨潤性が大きいものであり、多層固形製剤とした場合に、溶出途中で層間が分離してしまう欠点や、活性成分の溶出速度が圧縮成形圧により変動してしまう欠点を有していた。特に多層固形製剤の場合圧縮成形圧の伝達が各層において一定ではないため、活性成分の溶出性が製造工程における圧縮成形圧の変動や処方及び配合量の変化によって大きく変動してしまい、圧縮成形圧に依存せずに正確に溶出制御できるものではなかった。
また、親油性の溶出制御基剤としては、水素化したヒマシ油や、ステアリン、パルミチン等のグリセリド類、セチルアルコールなどの高級アルコール類、ステアリン酸等の脂肪酸類、プロピレングリコールモノステアレートなどの脂肪酸エステル類等が従来から多く用いられているが、保存安定性に欠け活性成分の溶出性が大きく変動する、或いは溶出後期に溶出速度が低下してしまう等、多くの問題を抱えていた。
不活性の溶出制御基剤としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、酢酸ビニル/塩化ビニルのコポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、シリコーン、エチルセルロース、ポリスチレン等が従来から用いられている。しかし、不活性の溶出制御基剤を用いた徐放性固形製剤は、水不溶性の粒子が圧縮成形されてできた細孔を活性成分が拡散することによって徐放性が発現するため、圧縮成形圧により細孔の大きさが変動し、活性成分の溶出速度も変動するという問題を有していた。特に多層固形製剤の場合圧縮成形圧の伝達が各層において一定ではないため、活性成分の溶出性が製造工程における圧縮成形圧の変動や処方及び配合量の変化によって大きく変動してしまうため、圧縮成形圧に依存せずに正確に溶出制御できるものではなかった。
以上のように、マトリクスシステムを利用した徐放性多層固形製剤は、0次溶出や多段溶出など、活性成分の特性に最適な溶出パターンに設計できる有用な製剤であるにもかかわらず、イオン強度やpH等の生体内環境、及び圧縮成形時の圧縮力に影響を受けず、胃腸管滞留時間の変動も小さく、また層間分離による溶出速度の変動が無い多層固形製剤は従来技術においては見当たらないのが現状であり、このような徐放性の多層固形製剤が望まれていた。
米国特許第6296873号公報 特表2002−525310号公報 WO94/06416号パンフレット 米国特許第4839177号公報 米国特許第5422123号公報 特開2003−144528号公報 特開2000−336027号公報 特公平7−515156号公報 特公平7−8809号公報 特公昭62−149632号公報 特開平6−172161号公報 特開平6−305982号公報 WO2005/005484号パンフレット U.Conte et al.,J.Controlled.Rel.26,pp39−47(1993)
本発明は、こうした実情の下に、層間分離が生じにくく、イオン強度やpH等の生体内環境、及び圧縮成形時の圧縮力に影響を受けにくく、胃腸管滞留時間の変動も小さい、0次溶出や多段溶出等の正確な溶出制御が可能な多層固形製剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、多層固形製剤の膨潤性と活性成分の溶出性との関係について、更には、溶出制御基剤の物性との関係について鋭意検討を重ねた結果、多層固形製剤の膨潤度を適切範囲内に制御することが、溶出過程での層間分離の抑制に効果があり、胃腸管内の滞留時間の変動も起こさせないためにも最も優れており、そのために、特定の加工澱粉粉末を溶出制御基剤に用いることで上記課題を解決できることを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)保水量が400%以上で、ゲル押込み荷重が200g以上で、水溶性成分量が40〜95重量%で、目開き75μmの篩いを通過する粒子が90重量%以上で、目開き32μmの篩いを通過する粒子が20重量%以上で、かつ平均粒径が20μm以上50μm未満の加工澱粉と、1種以上の活性成分とを含有する1つ以上の層に、前記加工澱粉と活性成分の少なくともいずれか一方を含有する1つ以上の層が積層されており、かつ前記活性成分の徐放性を有するものであることを特徴とする多層固形製剤。(2)前記の徐放性が、0次溶出パターンに制御されることを特徴とする(1)に記載の多層固形製剤。(3)前記の徐放性が、多段溶出パターンに制御されることを特徴とする(1)に記載の多層固形製剤。(4)前記加工澱粉が、目開き75μmの篩いを通過する粒子が98重量%以上、目開き32μmの篩いを通過する粒子が40重量%以上である、(1)〜(3)のいずれかに記載の固形製剤。(5)前記加工澱粉の膨潤度が6cm3/g以上10cm3/g以下である、(1)〜(4)に記載の徐放性固形製剤。
(6)前記加工澱粉が、安息角45°以下であり、かつ見かけ比容積が1.4cm/g以上3.6cm/g以下である、(1)〜(5)のいずれかに記載の固形製剤。(7)圧縮方向の膨潤度が1.0〜2.0で、膨潤度比が0.5〜1.5で、イオン強度による溶出率の差が7%以下で、圧縮成形圧による溶出率の差が7%以下であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の多層固形製剤。(8)1種以上の活性成分が医薬品薬効成分である請求項1〜7のいずれかに記載の多層固形製剤、(9)前記1つ以上の層における前記加工澱粉の含有量が、5.0〜99.9重量%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の多層固形製剤。(10)前記加工澱粉と前記1種以上の活性成分とを含有する層の少なくともいずれか1層が、水への溶解度が20℃において0.1g/cm以上5.0g/cm以下であり、融点が50℃以上であり、かつ平均分子量5000以上の合成または天然のポリマー類である親水性高分子助剤を含有することを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の多層固形製剤。(11)さらに、コーティング顆粒を含有することを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の多層固形製剤。(12)さらに、ショ糖脂肪酸エステル、タルク及び軽質無水ケイ酸から選択される1種以上と、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムとの組み合わせを滑沢剤として含有する、(1)〜(11)のいずれかに記載の固形製剤。(13)重量が、0.20gよりも大きいことを特徴とする(1)〜(12)のいずれかに記載の多層固形製剤。
本発明の多層固形製剤は、層間分離が起こりにくく、イオン強度やpH等の生体内環境及び圧縮成形時の圧縮力の影響を受けにくく、胃腸管滞留時間の変動も小さい特性を有し、0次溶出や多段溶出等の錠剤設計に応じた正確な溶出制御が可能である。
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の多層固形製剤は、保水量が400%以上、ゲル押込み荷重が200g以上、水溶性成分量が40〜95%、目開き75μmの篩いを通過する粒子が90重量%以上、目開き32μmの篩いを通過する粒子が20重量%以上、平均粒径が20μm以上50μm未満の特定の加工澱粉を含む。
まず、この特定の加工澱粉について説明する。特定の加工澱粉は、活性成分の徐放性を担保するための溶出制御基剤として機能する。ここで、本発明でいう加工澱粉とは、天然の澱粉原料を用いて物理的処理のみで物性の改良を行った澱粉である。
このような特定の加工澱粉は、保水量が400%以上である必要がある。より好ましくは500%以上、特に好ましくは700%以上である。ここで保水量とは、乾燥した加工澱粉1gを20℃±5℃の純水に分散し遠心分離(2000G、10分)した後に澱粉が保持する純水量で定義する。保水量が400%以上で加工澱粉が水和してゲルを形成するため固形製剤が崩壊しにくくなり、かつ活性成分の拡散速度が保たれて十分な徐放性を発現しやすくなる。保水量が高いほどゲル形成能が高くなり、高いイオン強度下でもゲルが破壊されないので好ましいが、最大値は澱粉原料の特性に依存しせいぜい3000%までである。
また、特定の加工澱粉は、ゲル押込み荷重値が200g以上である必要がある。ゲル押込み荷重値とは、加工澱粉0.5gを50MPaで圧縮して得られる直径1.13cmの円柱状成形体を20℃±5℃の純水中に4時間浸漬しゲル化させた後、0.1mm/secの速度で3mm直径の円柱状アダプターを押込んだ時の最大荷重で定義する。ここで、最大荷重とはゲル層の破断がある場合は破断時の荷重値、破断がない場合はアダプターがゲル化した円柱状成形体に5mm進入するまでに示した最大の荷重値とする。ゲル押込み荷重値が200g以上で、加工澱粉が形成するゲル層内での活性成分の拡散が速くなりすぎず十分な徐放性を発現しやすくなる。ゲル押込み荷重値が高いほど徐放能が高くなり好ましいが、せいぜい3000g程度である。
また、特定の加工澱粉は、水溶性成分量が40〜95重量%の範囲にある必要がある。水溶性成分量は、以下の計算によって得られる値として定義される。すなわち、加工澱粉1gに20℃±5℃の純水99gを加えてマグネチックスターラーで2時間攪拌して分散させ、得られた分散液の40cm3を50cm3の遠沈管に移し、5000Gで15分間遠心分離し、この上澄液30cm3を秤量瓶に入れ、110℃で一定重量になるまで乾燥して水溶性成分の乾燥重量(g)を求める。また、加工澱粉1gを110℃で一定重量になるまで乾燥して加工澱粉の絶乾重量(g)を求める。これらの値と下式(1)により求めた値で定義する。
水溶性成分量(重量%)=(乾燥重量(g)×100÷30)÷澱粉1gの絶乾重量(g)×100・・・(1)
水溶性成分量は、加工澱粉が糊化し水溶性となった糊成分の量を表す値である。水溶性成分量が40重量%以上で、水和速度が確保されて遅くなりすぎることがなく、徐放性固形製剤が溶媒と接した後直ぐに多量の活性成分が溶出してしまうような現象が生じにくい。水溶性成分量が95重量%以下で、固形製剤の強度が確保され、十分な徐放性が得られやすくなる。また、胃腸管の機械的運動による負荷に耐えうるため過度に侵食されることなく溶出速度が一定範囲に確保される。
また、特定の加工澱粉は、目開き75μmの篩いを通過する粒子が90重量%以上、目開き32μmの篩いを通過する粒子が20重量%以上、且つ、平均粒径が20μm以上50μm未満である必要がある。好ましくは、目開き75μmの篩いを通過する粒子が95重量%以上、目開き32μmの篩いを通過する粒子が30重量%以上であり、特に好ましくは、目開き75μmの篩いを通過する粒子が98重量%以上、目開き32μmの篩いを通過する粒子が40重量%以上である。特定の加工澱粉は、粒子が小さい方が膨潤性が小さく、ゲル強度も強い。そのため、目開き75μmの篩いを通過する粒子が90重量%以上、目開き32μmの篩いを通過する粒子が20重量%以上、且つ、平均粒径が50μm未満であれば、澱粉粒子、及び該澱粉粒子からなる固形製剤の膨潤性が比較的小さい範囲に留まる。そのため、固形製剤からの活性成分の溶出が圧縮成形圧により変動しにくくなる。
また、特定の加工澱粉は、膨潤度が6cm3/g以上10cm3/g以下であることが好ましい。加工澱粉の膨潤度は、加工澱粉1.0gを20±5℃の純水に分散させて100cm3の沈降管に移し、全量を100cm3とし、16時間放置した後、上下に分かれた下層の(cm3)と加工澱粉1.0gの乾燥重量(g)とを測定し、下式(2)より求めた値と定義する。
加工澱粉の膨潤度(cm3/g)=V(cm3)/加工澱粉の乾燥重量(g)・・・(2)
加工澱粉の膨潤度が6cm3/gより大きいと、水和してゲルを形成するため活性成分の溶出を徐放性に制御しやすくなる。一方で、加工澱粉の膨潤度が10cm3/gより大きいと、該加工澱粉の膨潤に起因して固形製剤が大きく膨潤する。その結果、活性成分の溶出速度が遅延したり、或いは膨潤力に耐えられず固形製剤が崩壊してドーズダンピングを起こしてしまうので好ましくない。加工澱粉の膨潤度が6cm3/g以上10cm3/g容積V以下の範囲で、活性成分が安定に徐放されやすくなるので好ましい。
また、特定の加工澱粉は、安息角が45°以下であることが好ましい。好ましくは安息角が43°以下である。また、特定の加工澱粉は見かけ比容積が1.4cm/g以上3.6cm/g以下であることが好ましい。安息角が45°以下で、かつ見かけ比容積が1.4〜3.6cm/gの範囲にある加工澱粉は、活性成分との混合性・分散性に優れるため、均一なゲルマトリクスを形成することができ、安定な徐放性としやすいので好ましい。
ところで、保水量が400%以上、ゲル押込み荷重値が200g以上、水溶性成分量が40〜95重量%である加工澱粉の製造方法は特許文献13に開示されている。本発明者らは、特許文献13に記載の方法で得られる該加工澱粉について詳細に調べた。その結果、本発明者らは、粒度によって特異的に膨潤性およびゲル押込み荷重値が異なること、及び、該加工澱粉の粒度と膨潤性を適正範囲に制御することによって、初めて圧縮成形圧に依存しない徐放性固形製剤が得られることを見出した。その検討プロセスを次に説明する。
本発明者等は、まず、特許文献13の方法に準拠した方法、具体的には後述の比較製造例1に記載したようにして従来の加工澱粉Cを製造した。得られた加工澱粉Cを0〜32、32〜75、75〜150、150〜500μmの粒度毎に分画して基礎物性を比較した。表1に得られた加工澱粉Cの粒度分布、加工澱粉の膨潤度、加温保存条件下のゲル押込み荷重値を、図3〜6に加工澱粉Cが膨潤した後の粒子の光学顕微鏡写真を示した。
ここで、表1に示す加温保存条件下のゲル押込み荷重値は、加工澱粉0.5gを50MPaで圧縮して得られる直径1.13cmの円柱状成形体を37℃±0.5℃の純水中に4時間浸漬しゲル化させた後、0.1mm/secの速度で3mm直径で円柱状のアダプターを押込んだ時に最初にピークを与えた値として求めた値である。また、表1に示す加工澱粉の膨潤度は、上記したものと同じ方法によって求められた値である。
表1の加工澱粉Cのデータ及び、図3〜6の膨潤粒子の写真より、0〜32μm分画の加工澱粉粒子は膨潤度が約14、膨潤粒子の大きさが100μm程度と膨潤性が小さく、ゲル押込み荷重値は約300と大きいことがわかる。一方で、32〜75、75〜150、150〜500μmの粒度分画の加工澱粉粒子は、一様にして、膨潤度が20〜30、膨潤粒子の大きさが200〜300μmと膨潤性が大きく、ゲル押込み荷重値は約200と小さいことがわかる。また、32〜75μm分画と75〜150μm、150〜500μm分画の膨潤粒子とが同じ大きさであること、および、該加工澱粉粒子の膨潤性は膨潤前の粒子の大きさと相関していることから、75〜500μmの範囲の加工澱粉粒子に含まれる外殻構造を有する膨潤性の澱粉粒子は32〜75μm分画の外殻構造を有する膨潤性の澱粉粒子とは構成成分が同じであり、該澱粉粒子が水溶性の糊成分(膨潤・溶解して輪郭が消失するため光学顕微鏡では観察されない)で造粒されて75〜500μmの大きな加工澱粉粒子となっていることが分かる。
これらの事実から、特許文献13に記載の方法で得られる加工澱粉は、澱粉粒子の外殻構造を有し膨潤性が小さくゲル押込み荷重値の大きい0〜32μm分画の澱粉粒子群と、外殻構造を有し膨潤性が大きくゲル押込み荷重値の小さい32〜75μmの澱粉粒子群と、水溶性の糊成分の3成分により構成されること、及び、これらの3成分が造粒されて0〜約500μmに粒度分布を有する加工澱粉が形成されていることが明らかとなった。なお、何れの粒子も水溶性成分により表面が覆われているため、加工澱粉の外見のみではこれらの事実は判別できない。
更に、膨潤性が小さくゲル押込み荷重値の大きい0〜32μm分画と、膨潤性が大きくゲル押込み荷重値が小さい32〜500μm分画に分けて、それぞれの分画を用いて徐放性固形製剤を製造した。すると、0〜32μm分画から得られた固形製剤は、圧縮力に依存しない正確で安定な溶出性を示した。一方、32〜500μm分画から得られた固形製剤は、圧縮力が小さいほど圧縮方向への大きな膨潤が起こり、これに伴い活性成分の溶出速度が速くなり、ゲル化した固形製剤の強度も弱くなることが明らかとなった。すなわち、粒径が32μmを境にして、得られる固形製剤の特性が大きく変化することが判明した。圧縮成形圧に依存しない徐放性固形製剤とするには、該0〜32μm分画粒子のように、膨潤性が小さく、かつゲル強度が強い粒子を用いることが好ましいことが確認された。加工澱粉粒子の膨潤性が小さいことで、固形製剤内部からの崩壊力を抑制できるものと考えられる。
本発明者らは、上述した事実に顧みて、32〜500μmの粒子中に存在する32〜75μmの外殻構造を有する澱粉粒子を破砕することで、該加工澱粉の膨潤性を小さく抑えることができ、その結果、圧縮力に依存しない徐放性固形製剤が得られるのではないかと考えた。様々な粉砕条件について検討を重ねた結果、目開き75μmの篩いを通過する粒子が90重量%以上、目開き32μmの篩いを通過する粒子が20重量%以上、かつ平均粒径が20μm以上50μm満となるように粒度分布を管理することによって、膨潤性が一様に小さくゲル押込み荷重値の大きな加工澱粉が得られることを見出した。このように、加工澱粉の粒度を制御することによって、圧縮成形圧による変動のない徐放性固形製剤が得られるに至った。
ここで、実施例1により得られた、目開き75μmの篩いを通過する粒子が90重量%以上、目開き32μmの篩いを通過する粒子が20重量%以上、かつ平均粒径が20μm以上50μm満となる加工澱粉Aを、0〜32、32〜75μmの粒度毎に分画した場合の各分画粒子の基礎物性を比較した。表1に加工澱粉A全体及び各分画粒子の粒度分布、膨潤度、加温保存条件下のゲル押込み荷重値を示した。また、図1、2に各分画粒子が膨潤した後の膨潤粒子の光学顕微鏡写真を示した。加工澱粉の外殻構造を有する一次粒子が破壊されていることは、膨潤粒子の光学顕微鏡画像から確認できる。また、0〜32μm、32〜75μmのいずれの分画粒子も、膨潤性が小さく、かつ、ゲル押込み加重値が大きくなっていることが確認された。
次に、上述の特定の加工澱粉の製法について説明する。特定の加工澱粉は、例えば澱粉質原料を水存在下60℃以上100℃未満で加熱し、澱粉質原料の澱粉粒子を膨潤させる工程、次いで該膨潤させた澱粉粒子を乾燥させ、澱粉粒子と該澱粉粒子の外部に存在するアミロースとアミロペクチンとを含有する混合物の粉末を得る工程、及び得られた乾燥粉末を粉砕して粒度を調整する工程等により製造される。或いは、減圧下、100〜130℃で加熱処理された澱粉質原料を、さらに水存在下60〜150℃で加熱し、澱粉質原料の澱粉粒子を膨潤させる工程、次いで膨潤させた粒子を乾燥させ、澱粉粒子と該澱粉粒子の外部に存在するアミロースとアミロペクチンとを含有する混合物の粉末を得る工程、及び得られた乾燥粉末を粉砕して粒度を調整する工程等により製造される。なお、澱粉粒子の外部に存在するアミロース、アミロペクチンとは、加熱処理による膨潤により外殻構造が崩壊した澱粉に由来する、澱粉粒子の外部に溶出されたアミロースとアミロペクチンである。また、澱粉質原料についての水存在下とは、澱粉質原料と水とが存在した状態であって、水分が40重量%以上である状態をいう。
製造に用いることができる澱粉質原料は、コメ、モチゴメ、トウモロコシ、モチトウモロコシ、アミロトウモロコシ、モロコシ、コムギ、オオムギ、サトイモ、リョクトウ、バレイショ、ユリ、カタクリ、チューリップ、カンナ、エンドウ、シワエンドウ、クリ、クズ、ヤマノイモ、カンショ、ソラマメ、インゲンマメ、サゴ、タピオカ(キャッサバ)、ワラビ、ハス、ヒシ等の天然澱粉、老化澱粉、架橋澱粉等が例示され、澱粉質物質を含有するものであれば特に制限されないが、粒子の膨潤性が高く保水量を高く制御しやすいという観点からバレイショが好ましい。澱粉質原料は、上記のうち1種を使用してもよいし、2種以上を混合したものを使用することも自由である。また澱粉質原料の粒子の大きさは膨潤しやすさの観点から大きいほどよい。
澱粉質原料は、糊化開始温度が高くなり、粒子の膨潤性が高まるという観点から、例えば特開平4−130102号公報や特開平7−25902号公報に記載されているように、澱粉質原料に減圧下100℃〜130℃で加熱処理する等の、湿熱処理を施したものであればさらに良い。
例えば、特開平4−130102号公報には、(1)減圧ラインと加圧蒸気ラインとの両方を付設し、内圧、外圧共に耐圧性の密閉できる容器に澱粉を入れ、減圧とした後、蒸気導入による加圧加熱を行い、あるいはこの操作を繰り返すことにより、澱粉を所定時間加熱した後冷却する湿熱処理方法、(2)(1)の方法に加えて、缶内温度を少なくとも120℃以上とすることで、水懸濁液を加熱した時、澱粉粒子の膨潤が認められるが実質的に粘度を示さず、α−アミラーゼ吸着能が著しく高い澱粉を製造する湿熱処理方法、(3)(1)または(2)の方法に加えて、加熱後減圧にして冷却する湿熱処理方法、が開示されているが、これらの湿熱処理方法のいずれでも良い。
また、特開平7−25902号公報には、(4)澱粉質系穀粒を湿熱処理して得られる湿熱処理澱粉質系穀粒の製造方法において、耐圧容器内に充填した澱粉質系穀粒を減圧する第1工程と、減圧後、蒸気を導入して加熱、加圧する第2工程を、少なくとも1回繰り返す湿熱処理澱粉質系穀粒の製造方法、(5)(4)の製造方法の第2工程において、加熱を80℃以上で、かつ5分〜5時間行う製造方法、が開示されている。これらの方法のいずれでも良い。
これらの方法により、澱粉質原料を減圧下で湿熱処理された澱粉は、高温加熱により、粒子の内部が中空状で、粒子の外殻部の結晶性が増したものである。このような澱粉は、光学顕微鏡の偏光像に見られる偏光十字模様が、生澱粉よりも弱く、非複屈折性粒子が減少しているという特徴を有する。また中空部はアミロースやアミロペクチンの結晶状態がほぐれた構造になっていると思われ、α―アミラーゼによる消化性が生澱粉よりも増しているという特徴を有する。そのため、特定の澱粉質原料として用いるのに適している。
また、澱粉質原料を湿熱処理するに際し、澱粉乳液を50〜95℃へ加温していく過程における澱粉乳液の粘度が、5%濃度に調整した場合に400ブラベンダーユニット(BU)以下の値であり、かつ95℃で30分間保持した時の最大粘度が1000BU以下であることは好ましい。加熱処理により澱粉粒子を膨潤させる程度を調整しやすくするためである。
澱粉質原料の加熱の方法は、公知の方法であれば特に制限しないが、例えば水存在下の澱粉質原料を、ジャケット付リアクターに入れてジャケットに蒸気を導入して加熱する方法、水存在下の澱粉質原料に蒸気を混合する方法、ドラム乾燥機の液溜め部で加熱する方法、噴霧乾燥時に蒸気を澱粉スラリーに供給しながら糊化と噴霧とを同時に行う方法等が挙げられる。澱粉粒子の加熱時間の観点から水存在下の澱粉質原料に蒸気を混合する方法が好ましい。加熱温度は、上記の種々の方法で澱粉を糊化した後の液温度が、90〜150℃であればよく、好ましくは90〜130℃、さらに好ましくは95〜130℃である。
乾燥方法は特に制限はないが、例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥、棚段乾燥、気流乾燥、真空乾燥及び溶剤置換による乾燥などが挙げられる。工業的には噴霧乾燥、ドラム乾燥が好ましい。また、乾燥時の液固形分は0.5重量%〜60重量%程度とするのが好ましい。0.5重量%以上で生産性が良くなり、60重量%以下で粘度が高くなりすぎず、収率が確保されて好ましい。さらには、1〜30重量%がより好ましく、1〜20重量%がさらに好ましい。
粉砕方法は特に制限はないが、例えば、コーンクラッシャー、ダブルロールクラッシャー、ハンマーミル、ボールミル、ロッドミル、ピン型ミル、ジェット型ミルなどが挙げられるが、粉砕不足や過粉砕を避ける目的で、上記粉砕機と分級機を兼ねそろえた閉回路粉砕方式を取るのが好ましい。
目開き75μmの篩いを通過する粒子が90重量%以上、目開き32μmの篩いを通過する粒子が20重量%以上、且つ平均粒径が20μm以上50μm未満となるように粒度調整された、保水量が400%以上、ゲル押込み荷重が200g以上、水溶性成分量が40〜95重量%の加工澱粉は、粒度未調整のものに比べて膨潤度が小さく、ゲル押込み荷重値が高いのが特徴である。また、加工澱粉は、見かけ比容積が1.4〜3.6cm/gの範囲にあることが好ましいが、該加工澱粉の見かけ比容積は、乾燥工程における液濃度の大小にも影響され、また、スプレードライ乾燥工程においてアトマイザーの回転数にも影響される。そのため、見かけ比容積を上記の好ましい範囲とするには、これらを適宜調整すればよい。
このような特定の加工澱粉を用いることで、固形製剤の圧縮方向の膨潤度、膨潤度比、イオン強度が異なる試験液を用いた場合の溶出率の差、圧縮成型時の圧力が異なる固形製剤の溶出率の差のいずれについても、体内のイオン強度や圧縮圧力に影響されずに0次溶出または多段溶出に制御可能にするために、必要とされる範囲に留めることが可能になる。また、多層製剤とした場合に層間分離が生じにくく、多層製剤においても0次溶出または多段溶出に制御可能になる。
多層固形製剤の各層において、この加工澱粉を用いるのが望ましい。層によっては特定の加工澱粉を含まなくとも良いが、望ましい徐放性のパターンを得るためには、できるだけ各層に特定の加工澱粉を用いるのが望ましい。特定の加工澱粉により、活性成分を含む層からの活性成分の溶出を徐放性に制御するためには、その層における特定の加工澱粉の含有量を5.0重量%以上99.9重量%以下とするのが好ましい。より好ましくは10〜99重量%であり、特に好ましくは20〜99重量%である。なお、活性成分を含まない層では、特定の加工澱粉が100%となるようにしても良い。
多層固形製剤の各層には、その効果を損ねない限りにおいて、必要に応じて他の溶出制御基剤を併用してもよい。他の溶出制御基剤としては、親水性の溶出制御基剤(例えばメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の親水性のセルロース誘導体、キサンタンガムやイナゴマメガム等の非セルロース多糖類、ポリエチレンオキサイドやアクリル酸ポリマー等の合成高分子等)、親油性の溶出制御基剤(例えば水素化したヒマシ油やステアリン、パルミチンなどのグリセリド類、セチルアルコールなどの高級アルコール類、ステアリン酸等の脂肪酸類、プロピレングリコールモノステアレートなどの脂肪酸エステル類等)、不活性の溶出制御基剤(例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレン、酢酸ビニル/塩化ビニルのコポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、シリコーン、エチルセルロース、ポリスチレン等)等を挙げることができる。
多層固形製剤の各層において、上記加工澱粉に加え、親水性高分子助剤を1〜40重量%含んでいてよい。このような親水性高分子助剤は、水への溶解度が20℃において0.1〜5.0g/cm3であり、融点が50℃以上であり、かつ平均分子量が5000以上の合成または天然のポリマー類であることが好ましい。該親水性高分子助剤が含まれると多層固形製剤の層内への水の取り込みを促進し溶出制御基剤のゲル化を促進するため、活性成分の溶出性を0次溶出へと制御しやすいため好ましい。水への溶解度は好ましくは0.2g/cm3以上、特に好ましくは0.4mg/cm3以上である。水への溶解度が0.1以上で固形製剤内への水の取り込みが十分となり、活性成分の溶出を0次溶出または多段溶出へ制御しやすくなる。水への溶解度が5.0g/cm3以下で、溶出制御基剤の吸水量が多くなりすぎず、ゲル密度が粗にならない範囲でゲル化するため、固形製剤の強度が弱くなりすぎにくく、胃腸管の機械的運動による負荷に耐えうるため浸食が生じにくく溶出速度が適度な範囲に留まりやすい。
水への溶解度が0.1〜5.0g/cm3である親水性高分子助剤としては、親水性で比較的高分子量の合成または天然のポリマー類とするのがよく、具体的には、ポリエチレングリコールやポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、プルラン等を挙げることができ、特に好ましいものとしてポリエチレングリコールが挙げられる。
これらの成分からなる層を有する多層固形製剤は、体内のイオン強度や成型時の圧縮圧に影響されにくく、また、層間分離が生じにくいため、多層固形成分が含有する活性成分を徐放性に制御することができる。具体的には、製剤設計に応じて、0次溶出のパターンに的確に制御したり、多段溶出のパターンに的確に制御したりすることができる。
ここで、徐放性が0次溶出パターンに制御するとは、活性成分が、時間に関係ない一定の溶出速度で、徐々に固形製剤から溶出され、かつ活性成分の90%以上を溶出するのに要する時間が少なくとも3時間以上である特性をいうものとする。活性成分の90%以上を溶出するのに要する時間は、活性成分の種類と目的により、例えば、投与から8時間、12時間、24時間と適時選択することができるが、固形製剤の胃腸管滞留時間に限度があるため上限はせいぜい72時間である。例えば8時間で活性成分を90%以上溶出させる場合には、第14改正日本薬局方に記載の溶出試験法第1法(回転バスケット法)に準じて測定される活性成分の1時間後の溶出率が10〜30%、4時間後の溶出率が40〜60%、6時間後の溶出率が70%以上のように制御することが好ましい。また、例えば24時間で活性成分の90%以上を溶出させる場合には、1時間後の溶出率が10〜30%、10時間後の溶出率が40〜60%、18時間後の溶出率が70%以上のように制御することが好ましい。活性成分を溶出させる時間により、適時時間の間隔を変更して制御することが可能である。
活性成分の溶出が0次溶出に制御される好ましい溶出パターンとしては、活性成分の溶出率が20〜40%となる時間帯の単位時間当りの溶出率(初期の溶出速度:M20-40%)と、70〜90%となる時間帯の単位時間当りの溶出率(後期の溶出速度:M70-90%)の比(M70-90%/M20-40%)で活性成分の溶出性を評価するとき、初期の溶出速度と後期の溶出速度の比が0.5〜1.2となる特徴を有する。
初期の溶出速度と後期の溶出速度は次のようにして求める値と定義する。重量0.18g、直径0.8cm、圧縮成形圧120MPa、及び300MPaの条件で静圧プレスを用いて成形した固形製剤を用い、第14改正日本薬局方に記載の溶出試験法第一法(回転バスケット法)に準拠する方法で溶出試験を行う。日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14のもの。以下、「第2液」と略すことがある。)、とMcilvaine液(pH7.2、イオン強度0.40、組成:リン酸水素二ナトリウム173.9mM、クエン酸13.1mMのもの。以下、「Mc液」と略すことがある。)とに、それぞれα−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加した溶媒の、いずれかを試験液として用い、いずれかの試験液900cm3、バスケット回転数100rpm、試験液温度37±0.5℃の条件で溶出試験を行う。
試験開始後30分経過時及び活性成分が90%以上溶出するまでの1時間経過毎に、試験液をサンプリングして活性成分の溶出率を求め、得られたデータから活性成分がそれぞれ20、40、70、90%溶出するのに要する時間を算出する。活性成分を20%溶出するのに要する時間は、活性成分の溶出率が20%となる前後のサンプリング時間とその時の溶出率をグラフにプロットして直線で結び、溶出率20%に相当する溶出時間を直線上の点として割り返す方法で求める。同様にして、活性成分を40%、70%、90%溶出するのに要する時間は、活性成分の溶出率がそれぞれ40%、70%、90%となる前後のサンプリング時間とその時の溶出率をそれぞれグラフにプロットして直線で結び、溶出率40%、70%、90%に相当する溶出時間をそれぞれ直線上の点として割り返す方法で求める。このように得られたデータに基づいて、初期の溶出速度:M20-40%と後期の溶出速度:M70-90%を求めることができる。
また、徐放性が、多段溶出パターンに従うとは、投与からの経過時間tにおける単位時間当りの溶出率Mtと、tより1時間前の単位時間当りの溶出率Mt-1の比Mt/Mt-1で溶出性を評価するとき、溶出率の比が1.2以上となる経過時間tが1つ以上となる特徴を有することを意味する。
ここで、経過時間t及びt−1の単位時間当たりの溶出率Mt-1及びMt/Mt-1は次のようにして求める値と定義する。重量0.18g、直径0.8cm、圧縮成形圧120MPa、及び300MPaの条件で静圧プレスを用いて成形した固形製剤を用い、第14改正日本薬局方に記載の溶出試験第一法(回転バスケット法)に準拠する方法で溶出試験を行う。溶出試験の試験液には、日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)、またはMcilvaine液(pH7.2、イオン強度0.40、組成:リン酸水素二ナトリウム173.9mM、クエン酸13.1mM)にα−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加した溶媒を用い、試験液900cm3、バスケット回転数100rpm、試験液温度37±0.5℃の条件で溶出試験を行う。活性成分が90%以上溶出するまでの1時間毎に試験液をサンプリングして活性成分の溶出率を求め、時間tの溶出率から時間t−1の溶出率を差し引いた値を時間tの単位時間当たりの溶出率Mt(t=0、1、2・・・:活性成分が90%以上溶出するまでの時間)とし、同様に、時間t−1の溶出率から時間t−2の溶出率を差し引いた値を時間t−1の単位時間当たりの溶出率Mt-1(t=0、1、2・・・:活性成分が90%以上溶出するまでの時間)とする。
多層固形製剤における圧縮方向の膨潤度は、1.0以上2.0以下であることが好ましい。より好ましくは1.0以上、1.8以下、特に好ましくは1.0以上1.7以下である。圧縮方向の膨潤度とは、次のようにして求めた試験溶媒中における固形製剤の圧縮方向への膨潤の割合で定義する。重量0.18g、直径0.8cm、圧縮成形圧120MPaの条件で静圧プレスを用いて成形した固形製剤を用い、第14改正日本薬局方に記載の溶出試験法第一法(回転バスケット法)に準拠する方法で溶出試験を行う。日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)にα−アミラーゼを5μg/cm3となるように加えた溶媒を試験液に用い、試験液900cm3、バスケット回転数100rpm、試験液温度37±0.5℃の条件で溶出試験を行う。試験開始前、及び試験開始後0.5、1.0、3.0、6.0時間経過した各時点で固形製剤をサンプリングし、圧縮方向の大きさを計測してMai(i=0、0.5、1.0、3.0、6.0)とする。各経過時間における圧縮方向への膨潤度をMaiをMa0で除して求め、その中で最大となる値{(Mai/Ma0max}を圧縮方向の膨潤度と定義する。
圧縮方向の膨潤度の最小値は、溶出制御基剤による徐放性固形製剤が吸水により膨潤する性質を共通して有しているため実質的に1.0である。圧縮方向の膨潤度が2.0以下とあまり膨潤しない範囲に抑えることで層間の結合が十分となり層間分離が生じにくくなる。また、活性成分の拡散距離が短い範囲に留まるため、溶出後期で溶出速度が低下する現象が生じにくて0次溶出となりやすく、また、ゲル化した固形製剤の強度が強い範囲に留まるから、胃腸管の機械的運動による負荷に耐えて溶出速度を一定に保ちやすくなる。そのため、正確な活性成分の溶出制御を行うことが可能となる。
また、固形製剤における圧縮方向の膨潤度を圧縮方向に垂直の方向の膨潤度で除して得られる膨潤度比は、0.5〜1.5であるのが好ましい。膨潤度比をこの範囲に調整すると固形製剤はほぼ等方的かつ均一に膨潤できる。このように膨潤させることで、活性成分の固形製剤内の拡散距離が長くなりすぎず、また、膨潤した固形製剤の強度の低下が一定の範囲に留まる結果、活性成分の0次溶出、ゲル化錠剤の強度低下抑制、胃腸管内の滞留時間の変動抑制の効果が生じうるようになる。膨潤度比は、より好ましくは0.5〜1.4である。
ここで、膨潤度比は、次のようにして求めた試験溶媒中における異なる方向に対する膨潤度の比率で定義する。重量0.18g、直径0.8cm、圧縮成形圧120MPaの条件で静圧プレスを用いて成形した固形製剤を用い、第14改正日本薬局方に記載の溶出試験法第一法(回転バスケット法)に準拠する方法で溶出試験を行う。日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)にα−アミラーゼを5μg/cm3となるように加えた溶媒を試験液に用い、試験液900cm3、バスケット回転数100rpm、試験液温度37±0.5℃の条件で溶出試験を行う。試験開始前、試験開始後0.5、1.0、3.0、6.0時間経過後、の各時点で固形製剤をサンプリングし、圧縮方向の大きさと、圧縮方向に垂直の方向の大きさを計測し、それぞれMai、Mbi(i=0、0.5、1.0、3.0、6.0)とする。各時間における圧縮方向への膨潤度、及び圧縮方向に垂直への膨潤度を、それぞれMaiをMa0、MbiをMb0で除して求める。さらに、各時点での圧縮方向への膨潤度(Mai/Ma0)を圧縮方向に垂直への膨潤度(Mbi/Mb0)で除して求め、その中で最大となる値{((Mai/Ma0)/(Mbi/Mb0))MAX}を求める膨潤度比と定義する。
膨潤度比が上記の範囲で、固形製剤の膨潤がほぼ等方的かつ均一に行われるため、胃腸管内での滞留時間が変動しにくくなり、また、層間の結合が十分となって層間分離が生じにくくなる。また、活性成分の拡散距離が比較的短い範囲に留まるために、溶出後期でも溶出速度が維持されやすく0次溶出になりやすい。また、ゲル化した固形製剤の強度の低下が小さい範囲に留まり、胃腸管の機械的運動による負荷に耐えうるから溶出速度が速くなりにくく、正確な活性成分の溶出制御を行うことが可能となる。
多層固形製剤は、イオン強度に依存しない活性成分の溶出性を有し、イオン強度による溶出率の差が7%以下であることが好ましい。この範囲で、いわゆる用量ダンピングが生じにくくなる。好ましくは5%以下であり、更に好ましくは4%以下である。イオン強度による溶出率の差は、イオン強度の異なる試験液間の溶出率の差として、次のようにして求める。
重量0.18g、直径0.8cm、圧縮成形圧120MPaの条件で静圧プレスを用いて成形したアセトアミノフェンを活性成分とする固形製剤を用い、第14改正日本薬局方に記載の溶出試験法第一法(回転バスケット法)に準拠する方法で溶出試験を行う。まず、日本薬局方記載の第2液にα−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加した溶媒を試験液に用い、試験液900cm3、バスケット回転数100rpm、試験液温度37±0.5℃の条件で溶出試験を行う。試験開始前、試験開始後30分経過時、さらに、活性成分が90%以上溶出するまで1時間経過毎の、各時点において、それぞれの試験液におけるアセトアミノフェンの溶出率:M第2液i(i=0、0.5、1.0、2.0・・・活性成分が90%以上溶出するまでの時間)を求める。これを溶出率1とする。
また、Mcilvaine液に、上記と同様にα−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加した溶媒を試験液とし、上記と同様にして各時点の溶出率:Mmc液i(iの意味は上記と同じ)を求め、これを溶出率2とする。
各時点における溶出率1と溶出率2の差を、M第2液iからMmc液iを差し引いた値の
絶対値として求め、その中で最大となる値{|M第2液i−Mmc液iMAX}をイオン強度の異なる試験液間の溶出率の差として定義する。なお、活性成分にアセトアミノフェンを用いるのは、活性成分の水溶性が大きいと溶出制御基剤の種類や量によっては溶出速度が速すぎて溶出率の差を過大評価したり、逆に水溶性が小さいと溶出速度が遅すぎて溶出率の差を過少評価したりしないようにするためである。
イオン強度の異なる試験液間の溶出率の差が7%以下で、胃腸管の領域や摂取した食物の影響を受けて変動するイオン強度の違いによる活性成分の溶出速度の変動が小さい範囲に留まり、正確な活性成分の溶出制御を行うことが可能となる。
また、多層固形製剤は、圧縮成形時の圧縮力に依存しない活性成分の溶出性を有し、圧縮成形圧による溶出率の差が7%以下となるのが好ましい。圧縮成形圧による溶出率の差は、圧縮成形圧120MPaで成形された固形製剤の溶出試験で得られた溶出率と、300MPaで成形された固形製剤の溶出試験から得られた溶出率との差から求める。圧縮成形圧による溶出率の差が7%以下で、多層固形製剤の製造時における条件変動やバラツキに起因する溶出特性の変動が許容できる範囲に留まる。好ましくは5%以下である。
圧縮成形圧による溶出率の差は、次のようにして求めた値で定義する。重量0.18g、直径0.8cm、圧縮成形圧120MPaの条件で静圧プレスを用いて成形した固形製剤と、圧縮成形圧を120MPaから300MPaに変えた以外は同じ条件で静圧プレスを用いて成形した固形製剤とを用い、第14改正日本薬局方に記載の溶出試験法第一法(回転バスケット法)に準拠する方法で溶出試験を行う。日本薬局方記載の第2液にα−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加した溶媒を試験液に用い、試験液900cm3、バスケット回転数100rpm、試験液温度37±0.5℃の条件で溶出試験を行う。試験開始前、試験開始後30分経過時、活性成分が90%以上溶出するまでの1時間経過ごと、の各時点において、それぞれの圧縮成形圧の固形製剤の溶出試験における活性成分の溶出率M120MPai、M300MPai(i=0、0.5、1.0、2.0・・・活性成分が90%以上溶出するまでの時間)を求める。各時点における溶出率の差をM120MPaiからM300MPaiを差し引いた値の絶対値として求め、その中で最大となる値{|M120MPai−M300MPaiMAX}を圧縮成形圧の異なる固形製剤間の溶出率の差と定義する。
圧縮成形圧の異なる固形製剤間の溶出率の差が7%以下の範囲内で、固形製剤の製造中、又はスケールアップ時における圧縮成形圧の変動や組成及び配合量の変化が生じても活性成分の溶出性の変動が許容できる範囲に留まりやすくなり、また、固形製剤の経時変化によっても活性成分の溶出性の変動が許容できる範囲に留まりやすくなり、活性成分を正確に溶出制御することが可能になる。
多層固形製剤は、上記成分に加え、さらにコーティング顆粒を含有していることが好ましい。ここにいうコーティング顆粒とは、一種以上の活性成分を含有する顆粒にフィルムコーティングを施したものをいう。コーティング顆粒を含むことにより、必要に応じてより複雑で的確な活性成分の溶出パターンを得ることができる。
コーティング顆粒のコーティング剤としては、徐放性コーティング剤、腸溶性コーティング剤等がある。具体的には、セルロース系コーティング剤(例えばエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテート等)、アクリルポリマー系コーティング剤(例えばオイドラギットRS、オイドラギットL、オイドラギットNE等)、あるいはシェラック、シリコン樹脂等から選択される1種以上を用いることができる。
コーティング剤には、溶出速度調節のための水溶性物質、可塑剤等を必要に応じて加えても良い。水溶性物質としてはヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性高分子類やマンニトール等の糖アルコール類、白糖や無水マルトース等の糖類、ショ糖脂肪酸エステルやポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤類等から選択される1種以上を用いることができる。可塑剤としてはアセチル化モノグリセリド、クエン酸トリエチル、トリアセチン、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジメチル、中鎖脂肪酸トリグリセリド、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリブチル、アジピン酸ジブチル、オレイン酸、オレイノール等から選択される1種以上を用いることができる。
これらのごときコーティング剤は、有機溶媒に溶解させたあと顆粒にコーティングしても良いし、水に懸濁させたあと顆粒にコーティングしても良い。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、ジエチルエーテル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、アセトン、ジオキサン、トルエン、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、ベンゼン等から選択される1種以上を用いることもできるし、更に水を含有させて用いることもできる。
また、上記の活性成分を含有する顆粒とは、活性成分の粉粒体や、活性成分に結合剤等を加えて得られる造粒物でも良く、或いは薬効成分を含まない素顆粒に薬効成分を積層して得られる顆粒でも良い。結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等から選択される1種以上を用いることができる。活性成分を含有する顆粒として好ましくは、コーティング顆粒の強度が強くなり、圧縮成形によるコーティング皮膜の損傷を抑制できる点で、機械的強度の強い素顆粒に薬効成分を積層して得られる顆粒を用いるのが良い。商業的に入手可能である機械的強度の強い素顆粒としては、結晶セルロースを構成成分とする核粒子「セルフィア(登録商標)」SCP−100、CP−203、CP−305、CP−507(旭化成ケミカルズ株式会社製)等が利用できる。
本発明の固形製剤は、1製剤あたりの重量が0.20g以上であることが好ましい。これにより、溶出後期の溶出速度を減少させることなく溶出時間を簡単に延長することが可能となる。これは、固形製剤の圧縮方向の膨潤度、及び、膨潤度比が一定範囲にある場合には、固形製剤の形状を大きくしても活性成分の溶出性には影響を及ぼさないことによる。ちなみに、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース等の溶出制御基剤を用いて、圧縮方向の膨潤度又は膨潤度比が上記の好ましい範囲にない例では、固形製剤の重量が大きくなると溶出後期の溶出速度が減少してしまうので好ましくない。固形製剤の圧縮方向の膨潤度、及び、膨潤度比が一定範囲にある場合には、活性成分の溶出性を維持したまま、単純に固形製剤の重量を大きくすることで活性成分の溶出時間を延長することが可能となる。
次に、活性成分とは、固形製剤が投与された体内等の周辺環境に対して、化学的または生物学的に望ましい影響を与える成分を言い、例えば、医薬品薬効成分、農薬成分、肥料成分、飼料成分、食品成分、化粧品成分、色素、香料、金属、セラミックス、触媒、界面活性剤等をいう。活性成分は、粉体状、結晶状、油状、液状、半固形状等のいずれの性状でも良いし、粉末、細粒、顆粒等のいずれの形態でも良い。活性成分は、それ単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。活性成分としては、徐放性に対する要求性能が厳しい医薬品薬効成分とするのが最も好ましい。
医薬品薬効成分としては、解熱鎮痛消炎薬、催眠鎮静薬、眠気防止薬、鎮暈薬、小児鎮痛薬、健胃薬、制酸薬、消化薬、強心薬、不整脈用薬、降圧薬、血管拡張薬、利尿薬、抗潰瘍薬、整腸薬、骨粗症治療薬、鎮咳去痰薬、抗喘息薬、抗菌剤、頻尿改善剤、滋養強壮剤、ビタミン剤など、経口で投与されるものが対象となる。薬効成分は、それを単独で使用しても、2種以上を併用することも自由である。
本発明の固形製剤は、(a)4〜8時間以下のオーダーの短い半減期を持ち、通例の調製物中で投与される時に1日に数回に分けた用量で摂取しなければならないか、または(b)狭い治療指数を持つか、または(c)全胃腸管にわたり十分に吸収される必要があるか、または(d)治療に効果的な用量が比較的少量である等の、何れか1つ又は2つ以上の特徴を有する1種以上の医薬品薬効成分を製剤化するために特に有用である。以下に、固形製剤で用いることのできる医薬品薬効成分について例示するが、これらに限定されるものではない。
鎮痛および抗炎症性薬剤(NSAID、フェンタニール、インドメタシン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナブメトン(nabumetone)、パラセタモール、ピロキシカム、トラマドール、セロコキシブ(celecoxib)およびロフェコキシブ(rofecoxib)のようなCOX-2インヒビター);
抗不整脈剤(プロカインアミド、キニジン、ベラパミル);
抗細菌および抗原生動物剤(アモキシリン、アンピシリン、ベンザチン ペニシリン、ベンジルペニシリン、セファクロール、セファドロキシル、セフプロジル(cefprozil)、セフロキシム アキセチル(cefuroxime axetil)、セファレキシン、クロラムフェニコール、クロロキン、シプロフロキサシン、クラリスロマイシン(clarithromycin)、クラブラン酸、クリンダマイシン、ドキシサイクリン(doxyxyclin)、エリスロマイシン、フルクロキサシリン(flucloxacillin) ナトリウム、ハロファントリン(halofantrine)、イソニアジド、硫酸カナマイシン、リンコマイシン、メフロキン、ミノサイクリン、ナフシリン ナトリウム、ナリジクス酸、ネオマイシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン(ofloxacin)、オキサシリン、フェノキシメチル-ペニシリン カリウム、ピリメタミン-スルファドキシム、ストレプトマイシン);
抗凝固剤(ワルファリン);
抗鬱剤(アミトリプチリン、アモキサピン、ブトリプチリン、クロミプラミン、デシプラミン、ドチエピン(dothiepin)、ドキセピン、フルオキセチン、レボキセチン(reboxetine)、アミネプチン(amineptine)、セレジリン、ジェピロン、イミプラミン、炭酸リチウム、ミアンセリン、ミルナシプラン(milnacipran)、ノルトリプチリン、パロキセチン(paroxetine)、セルトラリン(sertraline);3-[2-[3,4-ジヒドロベンゾフラン[3,2-c]ピリジン-2(1H)-イル]エチル]-2-メチル-4H-ピリド[1,2-a]ピリミジン-4-オン);
抗糖尿病剤(グリベンクラミド(glibenclamide)、メトホルミン);
抗癲癇剤(カルマバゼピン、クロナゼパム、エトスクシミド、ガバペンチン(gabapentin)、ラモトリジン、レベチラセタム(lavetiracetam)、フェノバルビトン(phenobarbitone)、フェニトイン、プリミドン、チアガビン(tiagabine)、トピラメート(topiramate)、バルプロミド(valpromide)、ビガバトリン);
抗菌剤(アンホテリシン、クロトリマゾール、エコナゾール、フルコナゾール(fluconazole)、フルシトシン、グリセオフルビン、イトラコナゾール(itraconazole)、ケトコナゾール、硝酸ミコナゾール、ナイスタチン、テルビナフィン(terbinafine)、ボリコナゾール(voriconazole));
抗ヒスタミン剤(アステミゾール、シンナリジン(cinnarizine)、シプロヘプタジン、デカルボエトキシロラタジン(decarboethoxyloratadine)、フェキソフェナジン(fexofenadine)、フルナリジン、レボカバスチン(levocabastine)、ロラタジン(loratadine)、ノルアステミゾール(norastemizole)、オキサトミド(oxatomide)、プロメタジン、テルフェナジン);
抗高血圧剤(カプトプリルエナラプリル、ケンタセリン、リジノプリル、ミノキシジル、プラゾシン、ラミプリル(ramipril)、レセルピン、テラゾシン);
抗ムスカリン作用剤(硫酸アトロピン、ヒオスシン);
抗腫瘍剤および代謝拮抗物質(シスプラチン、カルボプラチンのような白金化合物; パクリタキセル、ドセタキセル(docetaxel)のようなタキサン(taxane); カンプトテシン(camptothecin)、イリノテカン(irinotecan)、トポテカン(topotecan)のようなテカン(tecan); ビンブラスチン、ビンデシン、ビンクリスチン、ビノレルビン(vinorelbine)のようなビンカ アルカロイド; 5-フルオロウラシル、カペシタビン(capecitabine)、ジェムシタビン(gemcitabine)、メルカプトプリン、チオグアニン、クラドリビン(cladribine)、メトトレキセートのようなヌクレオシド誘導体および葉酸アンタゴニスト; ナイトロジェン マスタード、例えばシクロホスファミド、クロラムブシル(chlorambucil)、クロルメチン(chlormethine)、イホスファミド(iphosphamide)、メルファラン(melphalan)、あるいはニトロソウレア、例えばカルムスチン、ロムスチンのようなアルキル化剤、あるいは他のアルキル化剤、例えばブスルファン、ダルカルバジン、プロカルバジン、チオテパ;ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン(idarubicin)、エピルビシン(epirubicin)、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、マイトマイシンのような抗生物質; トラスツズマブ(trastuzumab)のようなHER 2抗体; エトポシド、テニポシド(teniposide)のようなポドフィロトキシン誘導体; ファルネシル トランスフェラーゼ インヒビター; ミトザントロンのようなアントラキノン誘導体);
抗偏頭痛剤(アルニジタン(alniditan)、ナラトリプタン(naratriptan)、スマトリプタン(sumatriptan));
抗パーキンソン剤(ブロモクリプチン メシレート(bromocryptine mesylate)レボトバ、セレジリン);
抗精神性、催眠性および鎮静剤(アルプラゾラム、ブスピロン、クロルジアゼポキシド(chlordiazepoxide)、クロルプロマジン(chlorpromazine)クロザピン、ジアゼパム、フルペチキソール、フルフェナジン、フルラゼパム、9-ヒドロキシリスペリドン(hydroxyrisperidone)、ロラゼパム、マザペルチン(mazapertine)、オランザピン(olanzapine)、オキサゼパム、ピモジド、ピパンペロン、ピラセタム(piracetam)、プロマジン、リスペリドン(risperidone)、セルホテル(selfotel)、セロクエル(seroquel)、セルチンドール(sertindole)、スルピリド、テマゼパム、チオチキセン、トリアゾラム、トリフルペリドール、ジプラシドン(ziprasidone)、ゾルピデム);
抗発作剤(ルベルゾール(lubeluzole)、ルベルゾール オキシド(lubeluzole oxide)、リルゾール(riluzole)、アプチガネル(aptiganel)、エリプロジル(eliprodil)、レマセミド(remacemide));
鎮咳剤(デキストロメトルファン、レボドロプロピジン(laevodropropizine));
抗ウイルス剤(アシクロビル、ガンシクロビル、ロビリド(loviride)、チビラピン(tivirapine)、ジドブジン、ラミブジン(lamivudine)、ジドブジン+ラミブジン、ジダノシン(didanosine)、ザルシタビン(zalcitabine)、スタブジン(stavudine)、アバカビル(abacavir)、ロピナビル(lopinavir)、アンプレナビル(amprenavir)、ネビラピン(nevirapine)、エファビレンズ(efavirenz)、デラビルジン(delavirdine)、インジナビル(indinavir)、ネルフィナビル(nelfinavir)、リトナビル(ritonavir)、サキナビル(saquinavir)、アデホビル(adefovir)、ヒドロキシウレア);
ベータ-アドレナリン作用性受容体剤(アテノロール、カルベディロール、メトプロロール、ネビボロール(nebivolol)、プロパノルオール);
心変力性剤(アムリノン、ジギトキシン、ジゴキシン、ミルリノン);
コルチコステロイド(ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ベタメゾン、ブデソニド(budesonide)、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロン);
殺菌剤(クロルヘキシジン);
利尿剤(アセタゾラミド、フルセミド(frusemide)、ヒドロクロロチアジド、イソソルビド);
酵素;
精油(アネトール、アニス油、キャラウェイ、カルダモン、カシア油、シネオール、シナモン油、クローブ油、コリアンダー油、脱メントール化(dementholised)ミント油、ディル油、ユーカリ油、オイゲノール、ジンジャー、レモン油、からし油、ネロリ油、ナツメグ油、オレンジ油、ペパーミント、セージ、スペアミント、テルピネオール、タイム);
胃腸薬(シメチジン、シサプリド(cisapride)、クレボプリド(clebopride)、ジフェノキシラート、ドンペリドン、ファモチジン、ランソプラゾール(lansoprazole)、ロペルアミド(loperamide)、ロペルアミド オキシド(loperamide oxide)、メサラジン(mesalazine)、メトクロプラミド(metoclopramide)、モサプリド(mosapride)、ニザチジン、ノルシスアプリド(norcisapride)、オルサラジン(olsalazine)、オメプラゾール、パントプラゾール(pantoprazole)、ペルプラゾール(perprazole)、プルカロプリド(prucalopride)、ラベプラゾール(rabeprazole)、ラニチジン、リドグレル(ridogrel)、スルファサラジン(suphasalazine));
止血剤(アミノカプロン酸);
脂質調節剤(アトルバスチン(atorvastine)、セバスタチン、プラバスタチン、プロブコール、シンバスタチン);
局所麻酔剤(ベンゾカイン、リグノカイン(lignocaine));
オピオイド鎮痛剤(ブプレノルフィン、コデイン、デキストロモルアミド、ジヒドロコデイン、ヒドロコドン、オキシコドン、モルフィネ);
副交感神経作用性および抗痴呆剤(AIT-082、エプタスチグミン(eptastigmine)、ガランタミン、メトリホナート、ミラメリン(milameline)、ネオスチグミン、フィゾスチグミン、タクリン、ドネペジル(donepezil)、リバスチグミン(rivastigmine)、サブコメリン(sabcomeline)、タルサクリジン(talsaclidine)、キサノメリン(xanomeline)、メマンチン(memantine)、ラザベミド(lazabemide));
ペプチドおよびタンパク質(抗体、ベカルプレルミン(becaplermine)、シクロスポリン、エリスロポエチン、免疫グロブリン、インスリン);
性ホルモン(卵胞ホルモン:抱合卵胞ホルモン、エチニルエストラジオール、メストラノール、エストラジオール、エストリオール、エストロン;プロゲステロン;酢酸クロマジン、酢酸シプロテン、17-デアセチル ノルゲスチメート(deacetyl norgestimate)、デソゲストレル(desogestrel)、ジエノゲスト(dienogest)、ジドロゲステロン、エチノジオール(ethynodiol) ジアセテート、ゲストデン(gestodene)、3-ケト デソゲストレル(keto desogestrel)、レボノルゲストレル(levonorgestrel)、リネストレノール、酢酸メトキシプロゲステロン、メゲステロール、ノルエチンドロン、酢酸ノルエチンドロン、ノルエチステロン、酢酸ノルエチステロン、ノルエチノドレル、ノルゲスチメート(norgestimate)、ノルゲストレル、ノルゲストリエノン(norgestrienone)、プロゲステロン、酢酸キンゲスタノール);
刺激剤(シルデナフィル(sildenafil));
血管拡張剤(アムロジピン、ブフロメジル(buflomedil)、亜硝酸アミル、ジルチアゼム、ジピリダモール、三硝酸グリセリル、イソソルビドジニトレート、リドフラジン、モルシドミン(molsidomine)、ニサルジピン、ニフェジピン、オキシペンチフィリン(oxpentifylline)、三硝酸ペンタエリスリトール);
上記の物質のN-オキシド、上記の物質の医薬的に許容され得る酸または塩基付加塩、および上記の物質の立体化学異性体。
多層固形製剤に対して、好ましい活性成分の含有量は、0.05重量%以上70重量%以下である。この範囲であれば、圧縮成型圧力やイオン強度の違いによる溶出速度のバラツキが小さく、安定して0次溶出等に制御することが可能である。より好ましい含有量は、0.1重量%以上50重量%以下である。
多層固形製剤には、活性成分の他に、必要に応じて崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、矯味剤、香料、着色剤、甘味剤等の他の成分を含有することも自由である。また他の成分は希釈剤として使用することも自由である。
結合剤としては、白糖、ブドウ糖、乳糖、果糖、トレハロース等の糖類、マンニトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、ソルビトール等の糖アルコール類、ゼラチン、プルラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、寒天、グルコマンナン、キサンタンガム、タマリンドガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム等の水溶性多糖類、結晶セルロース(例えば、旭化成ケミカルズ株式会社製、「セオラス(登録商標、以下同じ)」PH−101、PH−101D、PH−101L、PH−102、PH−301、PH−301Z、PH−302、PH−F20、PH−M06、M15、M25、KG−801、KG−802等)、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等のセルロース類、アルファー化デンプン、デンプン糊等のデンプン類、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール等の合成高分子類、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、合成ヒドロタルサイト、ケイ酸アルミン酸マグネシウム等の無機化合物類等が挙げられことができ、上記から選ばれる1種を単独で使用しても、2種以上を併用することも自由である。
結合剤として使用できる結晶セルロースとしては、圧縮成形性に優れるものが好ましい。圧縮成形性に優れる結晶セルロースを使用することにより、低打圧で打錠できるため打圧で失活する活性成分の活性維持が可能であり、顆粒含有錠にすることができ、少量添加で硬度を付与できる。そのため、嵩高い活性成分の錠剤化や多種類の活性成分を含む薬剤の錠剤化が可能である。従って、場合によっては小型化でき、液状成分の担持性に優れ、打錠障害を抑制できる等の利点がある。商業的に入手可能である圧縮成形性に優れる結晶セルロースとしては、「セオラス」KG−801、KG−802(旭化成ケミカルズ株式会社製)等が利用できる。
崩壊剤としては、クロスカルメロースナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ、コメデンプン、コムギデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン等のデンプン類、結晶セルロース、粉末セルロース等のセルロース類、クロスポビドン、クロスポビドンコポリマー等の合成高分子等が挙げることができる。上記から選ばれる1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
流動化剤としては、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸等のケイ素化合物類を挙げることができる。それを単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸等が挙げることができる。上記から選ばれる1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
ここで、水への溶解度が0.0001〜100mg/cm3の範囲にある活性成分に対しては、溶出性への影響が少なく、打錠粉末の臼杵への付着を防止できる点で、ショ糖脂肪酸エステル、タルク、軽質無水ケイ酸から選ばれる1種以上を用いるのが好ましい。また、溶出性への影響が少なく、打錠粉末の流動性確保、および圧縮成形物の破断荷重を増強できる点で、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸から選ばれる1種以上を用いるのが好ましい。なかでも、ショ糖脂肪酸エステル、タルク、軽質無水ケイ酸から選択される1種以上と、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムとの組み合わせを用いると、打錠粉末の臼杵への付着防止、打錠粉末の流動性確保、圧縮成形物の破断荷重の増強を同時に満たすことができるので好ましい。
また、水への溶解度が100〜100000mg/cm3の範囲にある活性成分に対しては、溶出性への影響が少なく、打錠粉末の臼杵への付着を防止できる点で、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル、タルク、軽質無水ケイ酸から選ばれる1種以上を用いるのが好ましい。また、溶出性への影響が少なく、打錠粉末の流動性確保、および圧縮成形物の破断荷重を増強できる点で、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸から選ばれる1種以上を用いるのが好ましい。なかでも、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル、タルク、軽質無水ケイ酸から選択される1種以上と、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムとの組み合わせを用いると、打錠粉末の臼杵への付着防止、打錠粉末の流動性確保、圧縮成形物の破断荷重の増強を同時に満たすことができるので好ましい。
矯味剤としては、グルタミン酸、フマル酸、コハク酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、塩化ナトリウム、1−メントール等を挙げることができる。上記から選ばれる1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
香料としては、オレンジ、バニラ、ストロベリー、ヨーグルト、メントール、ウイキョウ油、ケイヒ油、トウヒ油、ハッカ油等の油類、緑茶末等を挙げることができ、上記から選ばれる1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
着色剤としては、食用赤色3号、食用黄色5号、食用青色1号等の食用色素、銅クロロフィリンナトリウム、酸化チタン、リボフラビンなどを挙げることができる。上記から選ばれる1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
甘味剤としては、アスパルテーム、サッカリン、ギリチルリチン酸二カリウム、ステビア、マルトース、マルチトール、水飴、アマチャ末等を挙げることができる。上記から選ばれる1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
本発明の多層固形製剤は、医薬品分野で通常行われる多層固形製剤の製造法の何れを用いても製造することができる。例えば、2つ以上の層の処方粉末を同時に圧縮成形することも可能であるし、或いは、予め圧縮成形された2つ以上の層を重ねて再度圧縮成形する方法などを用いることができる。多層固形製剤を構成する活性成分や溶出制御基剤は、必要に応じて圧縮成形する前に造粒することも可能である。溶出制御製剤は活性成分と一緒に造粒しても良く、また顆粒に後から加えても良く、その両方を用いることも可能である。水溶性の結合剤(例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等)を用いて造粒を行っても良く、或いは、常温で固体であるが40℃以上で液体となる、例えばカルナウバロウ、硬化ヒマシ油、ポリグリセリンなどの脂溶性の物質や、ポリエチレングリコール6000等の親水性高分子等を利用する溶融造粒法を用いることもできる。圧縮成形機としては、例えば、静圧プレス機、シングルパンチ打錠機、多層固形製剤成形機等、医薬分野で通常用いられる圧縮成形機を使用することができる。
また、本発明の効果を損なわない限り、多層固形製剤それ自体に、活性成分の溶出性の制御や味のマスキングや防湿等の目的でコーティングが施されていても良い。コーティング剤としては例えばセルロース系コーティング剤(エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテート等)、アクリルポリマー系コーティング剤(オイドラギットRS、オイドラギットL、オイドラギットNE等)、シェラック、シリコン樹脂等から選択される1種以上を用いることができる。これらのコーティング剤の使用方法は公知の方法を用いることができる。これらのコーティング剤の使用方法は公知の方法を用いることができる。コーティング剤は有機溶媒に溶解しても、水に懸濁させて用いてもよい。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、実施例、比較例における各試験法、及び物性の測定方法は以下の通りである。
(1)溶出試験
第14改正日本薬局方に記載の溶出試験法の第一法(回転バスケット法)に準拠する方法で、試験液に日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)、或いは、Mcilvaine液(pH7.2、イオン強度0.40、組成:リン酸水素二ナトリウム173.9mM、クエン酸13.0mM、「第2液」と略すことがある)を用い、試験液900cm3、バスケット回転数100rpm、試験液温度37±0.5℃の条件で行う。なお、各試験液にはα−アミラーゼ製剤(組成:α−アミラーゼ/炭酸カルシウム/コーンスターチ=5/5/90、AD「アマノ」1、アマノエンザイム株式会社)を90mg加え、α−アミラーゼ含有量を5μg/cm3とする。
(2)固形製剤の圧縮方向の膨潤度
処方粉末0.18gを静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて120MPaの圧縮力で成形し、直径8mmφのR形状の錠剤を作製する。
14改正日本薬局方に記載の溶出試験法第一法(回転バスケット法)に準拠する方法で、日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)にα−アミラーゼを5μg/cm3の量となるように加えた溶媒を試験液に用い、試験液900cm3、バスケット回転数100rpm、試験液温度37±0.5℃の条件で溶出試験を行う。試験開始前、及び試験開始後0.5、1.0、3.0、6.0時間経過後の各時点で、固形製剤をサンプリングし、圧縮方向の大きさを計測してMai(i=0、0.5、1.0、3.0、6.0)とする。MaiをMa0で除して各時間における圧縮方向への膨潤度Mai/Ma0を求め、その中で最大値を示すものを固形製剤の圧縮方向の膨潤度とする。
(3)膨潤度比
処方粉末0.18gを静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて120MPaの圧縮力で成形し、直径8mmφのR形状の錠剤を作製する。
第14改正日本薬局方に記載の溶出試験法第一法(回転バスケット法)に準拠する方法で、日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)にα−アミラーゼを5μg/cm3の量となるように加えた溶媒を試験液に用い、試験液900cm3、バスケット回転数100rpm、試験液温度37±0.5℃の条件で溶出試験を行う。試験開始前、及び試験開始後0.5、1.0、3.0、6.0時間経過時の各時点に固形製剤をサンプリングし、圧縮方向の大きさと、圧縮方向に垂直の方向の大きさを計測し、それぞれMai、Mbi(i=0、0.5、1.0、3.0、6.0)とする。MaiをMa0で除した各時間における圧縮方向への膨潤度Mai/Ma0、及び、MbiをMb0で除した各時間における圧縮方向に垂直への膨潤度Mbi/Mb0を求める。圧縮方向への膨潤度を圧縮方向に垂直への膨潤度で除して、各時間における膨潤度比(Mai/Ma0)/(Mbi/Mb0)を求め、その中で最大値を示すものを多層固形製剤の膨潤度比とする。
(4)イオン強度による溶出率の差
処方粉末0.18gを、静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて120MPaの圧縮力で成形し、直径8mmφのR形状の錠剤を作製する。
第14改正日本薬局方に記載の溶出試験法第一法(回転バスケット法)に準拠する方法で、アセトアミノフェンを活性成分に用い、日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)、とMcilvaine液(pH7.2、イオン強度0.40、組成:リン酸水素二ナトリウム173.9mM、クエン酸13.1mM)にそれぞれα−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加した各溶媒を試験液に用い、いずれかの試験液900cm3、バスケット回転数100rpm、試験液温度37±0.5℃の条件で、それぞれの試験液を用いた溶出試験を行う。試験開始前、試験開始後30分経過時、活性成分が90%以上溶出するまでの1時間経過毎、の各時点に、それぞれの試験液におけるアセトアミノフェンの溶出率であるM2液iとMmc液i(i=0、0.5、1.0、2.0・・・活性成分が90%以上溶出するまでの時間)を求める。各時点における溶出率の差をM2液iからMmc液iを差し引いた値の絶対値として求め、その中で最大値|M2液i−Mmc液iMAXをイオン強度による溶出率の差として求める。
(5)圧縮成形圧による溶出率の差
処方粉末0.18gを静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて120MPaの圧縮力で成形し、直径8mmφのR形状の錠剤を作製する。同様に300MPaの圧縮力で成形して、直径8mmφのR形状の錠剤を作製する。
第14改正日本薬局方に記載の溶出試験法第一法(回転バスケット法)に準拠する方法で、日本薬局方記載の第2液にα−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加した溶媒を試験液に用い、試験液900cm3、バスケット回転数100rpm、試験液温度37±0.5℃の条件で溶出試験を行う。試験開始前、試験開始後30分経過時、活性成分が90%以上溶出するまでの1時間経過毎、の各時点に、圧縮成形圧の異なる錠剤それぞれについて活性成分の溶出率であるM120MPaiとM300MPai(i=0、0.5、1.0、2.0・・・活性成分が90%以上溶出するまでの時間)を求める。各時点における溶出率の差をM120MPaiからM300MPaiを差し引いた値の絶対値として求め、その中で最大値|M120MPai−M300MPaiMAXを、圧縮成形圧による溶出率の差として求める。
(6)粒度分布 32μmより小さい粒子数
JIS篩の目開き32μmを利用し、測定試料3gを5分間エアージェットシーブで篩分した時、篩を通過した測定試料の重量百分率より求める。
(7)粒度分布 75μmより小さい粒子数
JIS篩の目開き75μmを利用し、測定試料10gを5分間エアージェットシーブで篩分した時、篩を通過した測定試料の重量百分率より求める。
(8)保水量
乾燥した加工澱粉W0(g)(約1g)を、約15cm3の20℃±5℃の純水が入った50cm3遠沈管へ少しずつ入れ、かき混ぜながら透明〜半透明になるまで純水に分散させる。50cm3沈降管の7割程度になるよう20℃±5℃の純水を追加して遠心分離(2000G、10分)する。遠心分離終了後すぐに分離した上層を切り捨てた後、下層に残る重量W(g)(澱粉+澱粉が保持する純水量)から下式(イ)により保水量を求める。
保水量(%)=100×(W−W0)/W0・・・・・(イ)
(9)崩壊時間(hr)
処方粉末0.2gを静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて50MPaの圧縮力で成形して得られる直径0.8cmの円柱状成形体の試験液中での崩壊時間で定義される。試験液は第14改正日本薬局方に記載の第2液(pH6.8)であり、崩壊試験は第14改正日本薬局方の崩壊試験法に準じ、補助盤を使用して行う。
(10)ゲル押込み荷重(g)
処方粉末0.5gを静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて50MPaの圧縮力で成形して得られる直径1.13cmの円柱状成形体を20℃±5℃の純水中に4時間浸漬しゲル化させた後、レオメーター(RHEONER、RE−33005、YAMADEN製)を使用し、0.1mm/secの速度で3mm直径で円柱状のアダプターを押込んだ時の最大荷重と定義する。最大荷重とはゲル層の破断があれば破断時の、破断がなければアダプターがゲル化した円柱状成形体に5mm侵入するまでに示した最大の荷重値とする。5個の平均値で算出する。
(11)水溶性成分量(%)
加工澱粉1gに20℃±5℃の純水99gを加えてマグネチックスターラーで2時間攪拌して分散させ、得られた分散液の40cm3を50cm3の遠沈管に移し、5000Gで15分間遠心分離し、この上澄液30cm3を秤量瓶に入れ、110℃で一定重量になるまで乾燥して乾燥重量(g)を測定する。また、澱粉1gを110℃で一定重量になるまで乾燥して絶乾重量(g)を測定する。これらの測定値及び下式(ウ)により求めた値を水溶性成分量と定義する。
水溶性成分(%)=(乾燥重量×100÷30)÷絶乾重量×100・・・・(ウ)
(12)加工澱粉の膨潤度(cm3/g)
加工澱粉1.0gを20±5℃の純水に分散させて100cm3の沈降管に移し、全量を100cm3とし、16時間放置した後、上下に分かれた下層の容積V(cm3)と加工澱粉1.0gの乾燥重量(g)を測定し、下式(エ)より算出する。
加工澱粉の膨潤度(cm3/g)=V/加工澱粉の乾燥重量・・・・・(エ)
(13)加温保存条件下のゲル押込み荷重(g)
加工澱粉0.5gを静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて50MPaの圧縮力で成形して得られる直径1.13cmの円柱状成形体を37℃±0.5℃の純水中に4時間浸漬しゲル化させた後、レオメーター(RHEONER、RE−33005、YAMADEN製)を使用し、0.1mm/secの速度で3mm直径で円柱状のアダプターを押込んだ時に最初にピークを与える値と定義して求める。5個の平均値で算出する。
[比較製造例1]
バレイショ澱粉をステンレスバット(50cm×25cm)中に層厚5cmで充填して耐圧容器内で5分減圧(600mmHg)後、加圧蒸気(120℃)にて20分処理したものを原料とし、固形分濃度7.5%の澱粉乳液を調製した。この澱粉乳液を20L/hrでジェットクッカーで加熱、糊化(出口温度100℃)させ、3L容器の滞留管(100℃)を連続的に通過した後噴霧乾燥して加工澱粉Cを得た。加工澱粉Cの基礎物性を表2に示した(特許文献13の実施例6に相当)。また、加工澱粉Cを150〜500μm、75〜150μm、32〜75μm、0〜32μmの粒度毎に分画し、加工澱粉Cの膨潤度、加温保存条件下のゲル押込み荷重値を測定した結果を表1に示した。また、加工澱粉の膨潤度測定条件において、16時間放置した後の加工澱粉の膨潤状態を上下に分かれた層を均一に再分散した後に光学顕微鏡で観察し、図3〜6に示した。
[実施例1]
バレイショ澱粉をステンレスバット(50cm×25cm)中に層厚5cmで充填して耐圧容器内で5分減圧(600mmHg)後、加圧蒸気(120℃)にて20分湿熱処理したものを原料とし、固形分濃度7.5%の澱粉乳液を調製した。この澱粉乳液を20L/hrでジェットクッカーで加熱、糊化(出口温度100℃)し、噴霧乾燥した後、分級機を内蔵したピン型ミルを用いて粉砕・分級処理を行い加工澱粉Aを得た。加工澱粉Aの基礎物性を表2に示した。また、加工澱粉Aを150〜500μm、75〜150μm、32〜75μm、0−32μmの粒度毎に分画し、加工澱粉全体と各分画の膨潤度、加温保存条件下のゲル押込み荷重値を測定した結果を表1に示した。また、加工澱粉の膨潤度測定条件において、16時間放置した後の加工澱粉の膨潤状態を上下に分かれた層を均一に再分散した後に光学顕微鏡で観察し、図1〜2に示した。
得られた加工澱粉Aを外層処方とし、また、加工澱粉Aと結晶セルロース(「セオラス」KG−802、旭化成ケミカルズ株式会社製)と、ポリエチレングリコール(マクロゴール6000、三洋化成工業株式会社製)と、活性成分としてのアセトアミノフェン(エーピーアイコーポレーション社製)とを、60/20/10/10の重量比となるように混合し内層処方粉末とした。
静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて外層処方粉末0.02gを20MPaの圧力で圧縮し、続いて内層処方粉末0.18gを重ねて20MPaの圧力で圧縮し、最後に外層処方粉末0.02gを重ねて120MPaの圧力で圧縮し、直径0.8cm、重量0.22gで三層からなる多層錠を得た。また、別途、上記の錠剤において、最後に外層処方粉末を重ねる際に300MPaの圧力で圧縮した以外は上記と同様にして、直径0.8cm、重量0.22gの多層錠を得た。
120MPaの圧縮成形圧で得られた多層錠剤と、日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)にα−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加した試験液とを用いて、膨潤度、溶出率、溶出速度、押込み荷重値を測定し、合わせて溶出パターンを測定した。また、試験液を日本薬局方記載の第2液からMcilvaine液(pH7.2、イオン強度0.40)に変更した以外は同様にして、やはり各種物性の測定を行った。さらに、300MPaの圧縮成形圧で得られた錠剤を、日本薬局方記載の第2液を用い、α−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加して、同様に各種物性の測定を行った。
この多層錠の膨潤度を表3に、溶出試験の結果を図7に、初期の溶出速度と後期の溶出速度の比を表4に示した。なお、後述の比較例1の溶出試験の結果も合わせて図7に示した。加工澱粉Aを溶出制御剤に用いて作製した多層錠剤(外層は活性成分を含まないバリア層)は圧縮方向の膨潤度、膨潤度比ともに適正範囲であり、試験液のイオン強度や圧縮成形圧に依存することなく安定して0次溶出を示した。また、比較例1の多層錠としない(外層にバリア層を形成しない)錠剤に比べて溶出初期の活性成分の溶出を抑えることができ、より直線的な溶出を示した。
[比較例1]
実施例1で得られた加工澱粉Aと結晶セルロース(「セオラス」KG−802、旭化成ケミカルズ株式会社製)とポリエチレングリコール(マクロゴール6000、三洋化成工業株式会社製)とアセトアミノフェン(エーピーアイコーポレーション社製)を60/20/10/10の重量比となるように均一に混合し、静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて120MPa圧力で圧縮し、直径0.8cm、重量0.18gの単層の錠剤を得た。得られた錠剤を、日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)を用い、α−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加して、溶出試験を行った。錠剤の膨潤度を表3に示した。また、溶出試験の結果を実施例1の結果と合わせて図7に示した。
[比較例2]
バレイショ澱粉をステンレスバット(50cm×25cm)中に層厚5cmで充填して耐圧容器内で5分減圧(600mmHg)後、加圧蒸気(120℃)にて20分湿熱処理したものを原料とし、固形分濃度7.5%の澱粉乳液を調製した。この澱粉乳液を20L/hrでジェットクッカーで加熱、糊化(出口温度115℃)させた後、噴霧乾燥して加工澱粉Bを得た(特許文献13の実施例5に相当)。加工澱粉Bの基礎物性を表2に示した。
次に、加工澱粉Aを加工澱粉Bとする以外は実施例1と同様の方法で多層錠を作製し、溶出試験を行った。多層錠の膨潤度を表3に、溶出試験の結果を図8に、異なる試験液間の溶出率の差、及び異なる圧縮成形圧で得られた錠剤間の溶出率、初期の溶出速度と後期の溶出速度の比を表4に示した。加工澱粉Bを溶出制御剤に用いて作製した多層錠剤は、膨潤度比が大きく、圧縮成形圧が120MPaの条件では層間分離が生じてしまい、活性成分の溶出量が6時間以後増加してしまった。
[比較例3]
加工澱粉Aの代わりにヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトローズ90SH−100SR、信越化学工業株式会社製)を用いる以外は実施例1と同様の方法で多層錠を作製し溶出試験を行った。多層錠の膨潤度を表3に、溶出試験の結果を図9に、異なる試験液間の溶出率の差、及び異なる圧縮成形圧で得られた錠剤間の溶出率、初期の溶出速度と後期の溶出速度の比を表4に示した。
ヒドロキシプロピルメチルセルロースを溶出制御基剤に用いて作製した多層錠剤(外層は活性成分を含まないバリア層)は、高イオン強度条件(イオン強度0.14)では試験開始後間もなく錠剤が崩壊してしまい、活性成分の全量が溶出してしまった。
[比較例4]
加工澱粉Aの代わりにオイドラギットRSPO(デグサ社製)を用いる以外は実施例1と同様の方法で多層錠を作製し溶出試験を行った。多層錠の膨潤度を表3に、溶出試験の結果を図10に、異なる試験液間の溶出率の差、及び異なる圧縮成形圧で得られた錠剤間の溶出率、初期の溶出速度と後期の溶出速度の比を表4に示した。
オイドラギットRSPOを溶出制御基剤に用いて作製した多層錠剤(外層は活性成分を含まないバリア層)は、圧縮成形圧に依存し溶出速度が変動してしまった。
[実施例2]
実施例1で得られた加工澱粉Aと結晶セルロース(「セオラス」KG−802、旭化成ケミカルズ株式会社製)と100M乳糖(ファーマトース100M、DMV社製)とアセトアミノフェン(エーピーアイコーポレーション社製)を30/15/45/10の重量比となるように混合し外層処方粉末とし、また、加工澱粉Aと結晶セルロースとアセトアミノフェンを60/30/10の重量比となるように混合し内層処方粉末とした。
静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて外層処方粉末0.02gを20MPaの圧力で圧縮し、続いて内層処方粉末0.18gを重ねて20MPaの圧力で圧縮し、最後に外層処方粉末0.02gを重ねて120MPaの圧力で圧縮し、直径0.8cm、重量0.22gの多層錠を得た。
得られた多層錠を、日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)を用いα−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加して、溶出試験を行った。多層錠の膨潤度を表3に、溶出試験の結果を図11に示した。(図11には、同じ成型圧力、試験液を用いた場合の実施例1の結果及び、後述の実施例3と4の結果も合わせて記載した)
加工澱粉Aを溶出制御剤に用い、外層を速放性、内層を徐放性とすることにより、溶出初期に多量の活性成分を溶出し、その後、長時間かけて緩やかに活性成分を溶出する溶出性を示した。
[実施例3]
5層錠の溶出制御製剤の作製例を示す。実施例1で得られた加工澱粉Aと結晶セルロース(「セオラス」KG−802、旭化成ケミカルズ株式会社製)と100M乳糖(ファーマトース100M、DMV社製)とアセトアミノフェン(エーピーアイコーポレーション社製)を30/15/45/10の重量比となるように混合し外層処方粉末(α)とし、次に、加工澱粉Aを中間層(β)とし、最後に、加工澱粉と結晶セルロースとポリエチレングリコール(マクロゴール6000、三洋化成工業株式会社製)とアセトアミノフェンを60/20/10/10の重量比となるように混合し内層処方粉末(γ)とした。
静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて外層処方粉末(α)0.02gを20MPaの圧力で圧縮し、次に中間処方粉末(β)0.02gを重ねて20MPaの圧力で圧縮し、次に内層処方粉末(γ)0.14gを重ねて20MPaの圧力で圧縮し、次に中間処方粉末(β)0.02gを重ねて20MPaの圧力で圧縮し、最後に外層粉末処方(α)0.20gを重ねて120MPaの圧力で圧縮し、直径0.8cm、重量0.22gの多層錠を得た。
得られた多層錠を、日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)を用いα−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加して、溶出試験を行った。多層錠の膨潤度を表3に、溶出試験の結果を図11に示した。
加工澱粉Aを溶出制御剤に用い、外層を速放性、中間層のバリア層を徐放性とすることにより、溶出初期に多量の活性成分を溶出し、一定のラグタイムの後、長時間かけて緩やかな溶出性を示した。
実施例1で得られた加工澱粉Aと結晶セルロース(「セオラス」KG−802、旭化成ケミカルズ株式会社製)とポリエチレングリコール(マクロゴール6000、三洋化成工業株式会社製)とアセトアミノフェン(エーピーアイコーポレーション社製)を60/20/10/10の重量比となるように混合し外層処方粉末とし、また、加工澱粉Aと結晶セルロースと100M乳糖(ファーマトース100M、DMV製)とアセトアミノフェンを30/15/45/10の重量比となるように混合し内層処方粉末とした。
静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて外層処方粉末0.02gを20MPaの圧力で圧縮し、続いて内層処方粉末0.18gを重ねて20MPaの圧力で圧縮し、最後に外層処方粉末0.02gを重ねて120MPaの圧力で圧縮し、直径0.8cm、重量0.22gの多層錠を得た。
得られた多層錠を、日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)を用いα−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加して、溶出試験を行った。多層錠の膨潤度を表3に、溶出試験の結果を図11に示した。加工澱粉Aを溶出制御剤に用い、外層を徐放性、内層を速放性とすることにより、溶出後期に溶出速度が大きくなる溶出性を示した。
[実施例5]
実施例1と同様の組成の外層処方粉末と内層処方粉末を用意した。静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて外層処方粉末0.05gを20MPaの圧力で圧縮し、続いて内層処方粉末0.45gを重ねて20MPaの圧力で圧縮し、最後に外層処方粉末0.05gを重ねて120MPa圧力で圧縮し、直径11.3cm、重量0.55gの多層錠を得た。
得られた多層錠を、日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)を用いα−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加して、溶出試験を行った。多層錠の膨潤度を表3に、溶出試験の結果を図12に示した。また実施例1における120MPaの圧力で圧縮成形した錠剤の第2液を用いた溶出試験結果も合わせて図12に示した。澱粉粉末Aを溶出制御剤に用い同じ処方条件で錠剤重量を0.22gから0.55gと大きくした多層錠は、溶出性を維持したまま溶出時間を延長することができた。
[比較例5]
比較例3と同様の組成の外層処方粉末と内層処方粉末を用意した。静圧プレス(MODEL−1321DW CREEP/アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて外層処方粉末0.05gを20MPaの圧力で圧縮し、続いて内層処方粉末0.45gを重ねて20MPaの圧力で圧縮し、最後に外層処方粉末0.05gを重ねて120MPa圧力で圧縮し、直径11.3cm、重量0.55gの多層錠を得た。
得られた多層錠を、日本薬局方記載の第2液(pH6.8、イオン強度0.14)を用いα−アミラーゼを5μg/cm3となるように添加して、溶出試験を行った。多層錠の膨潤度を表3に、溶出試験の結果を図12に示した。また比較例3における120MPaの圧力で圧縮成形した錠剤の第2液を用いた溶出試験結果も合わせて図12に示した。ヒドロキシプロピルメチルセルロースを溶出制御剤に用い同じ処方条件で錠剤重量を0.22gから0.55gと大きくした多層錠は、溶出後期の溶出速度が低下してしまった。
加工澱粉A(0−32μm分画)の膨潤粒子の光学顕微鏡写真(100倍)である。 加工澱粉A(32−75μm分画)の膨潤粒子の光学顕微鏡写真(100倍)である。 加工澱粉C(0−32μm分画)の膨潤粒子の光学顕微鏡写真(100倍)である。 加工澱粉C(32−75μm分画)の膨潤粒子の光学顕微鏡写真(100倍)である。 加工澱粉C(75−150μm分画)の膨潤粒子の光学顕微鏡写真(100倍)である。 加工澱粉C(150μm−500μm分画)の膨潤粒子の光学顕微鏡写真(100倍)である。 実施例1及び比較例1の溶出試験結果を示したグラフである。 比較例2の溶出試験結果を示したグラフである。 比較例3の溶出試験結果を示したグラフである。 比較例4の溶出試験結果を示したグラフである。 実施例2〜4の溶出試験結果を示したグラフである。 実施例5及び比較例5の溶出試験結果を示したグラフである。

Claims (12)

  1. 保水量が400%以上で、ゲル押込み荷重が200g以上で、水溶性成分量が40〜95重量%で、目開き75μmの篩いを通過する粒子が90重量%以上で、目開き32μmの篩いを通過する粒子が20重量%以上で、かつ平均粒径が20μm以上50μm未満で、膨潤度が6cm/g以上10cm/g以下である加工澱粉と、1種以上の活性成分とを含有する1つ以上の層に、前記加工澱粉と活性成分の少なくともいずれか一方を含有する1つ以上の層が積層されており、かつ前記活性成分の徐放性を有するもので、圧縮成形により製造されることを特徴とする多層固形製剤。
  2. 前記の徐放性が、0次溶出パターンに制御されることを特徴とする請求項1に記載の多層固形製剤。
  3. 前記の徐放性が、多段溶出パターンに制御されることを特徴とする請求項1に記載の多層固形製剤。
  4. 前記加工澱粉が、目開き75μmの篩いを通過する粒子が98重量%以上、目開き32μmの篩いを通過する粒子が40重量%以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の多層固形製剤。
  5. 前記加工澱粉が、安息角45°以下であり、かつ見かけ比容積が1.4cm/g以上3.6cm/g以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の多層固形製剤。
  6. 日本薬局方収載の第2液を試験液に用いた溶出試験から得られる溶出率と、Mcilvaine液(pH7.2、イオン強度0.4)を試験液に用いた溶出試験から得られる溶出率との差が7%以下であり、かつ前記の圧縮成形時の圧力が120MPaで成形された固形製剤の溶出試験から得られる溶出率と、300MPaで成形された固形製剤の溶出試験から得られる溶出率との差が7%以下であり、前記圧縮成形時の圧縮方向の膨潤度が1.0〜2.0であり、かつ前記圧縮方向の膨潤度を圧縮方向に垂直の方向の膨潤度で除して得られる膨潤度比が0.5〜1.5であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多層固形製剤。
  7. 1種以上の活性成分が医薬品薬効成分である請求項1〜6のいずれかに記載の多層固形製剤。
  8. 前記1つ以上の層における前記加工澱粉の含有量が、5.0〜99.9重量%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の多層固形製剤。
  9. 前記加工澱粉と前記1種以上の活性成分とを含有する層の少なくともいずれか1層が、水への溶解度が20℃において0.1g/cm以上5.0g/cm以下であり、融点が50℃以上であり、かつ平均分子量5000以上の合成または天然のポリマー類である親水性高分子助剤を含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の多層固形製剤。
  10. さらに、コーティング顆粒を含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の多層固形製剤。
  11. さらに、ショ糖脂肪酸エステル、タルク及び軽質無水ケイ酸から選択される1種以上と、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムとの組み合わせを滑沢剤として含有する、請求項1〜10のいずれかに記載の多層固形製剤。
  12. 1製剤あたりの重量が、0.20gよりも大きいことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の多層固形製剤。
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