まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。尚、FLは左前輪、FRは右前輪である。
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。尚、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装された締結要素であり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。尚、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装された締結要素であり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機である。第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。尚、詳細については後述する。
そして、自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。尚、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量及び油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
このハイブリッド駆動系は、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。尚、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。クリープ走行とは、トルクコンバータ等のトルク増幅機構を有する変速機を搭載した車両において、アクセルペダルを踏まないエンジンアイドリング状態で車両が微速走行する現象をいう。また、車両停止時(VSP=0)でWSC走行モードが選択され、かつバッテリSOCに基づき発電要求が出力されている場合には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。
上記「HEV走行モード」は、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。
「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪RR,RLを動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪RR,RLを動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報の入力を受ける。そして、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジン出力トルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報の入力を受ける。そして、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータ出力トルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視しており、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報の入力を受ける。そして、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。尚、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチ7aからのセンサ情報の入力を受ける。そして、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。尚、アクセル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチ7aのセンサ情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20とブレーキスイッチ9aからのセンサ情報の入力を受ける。そして例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦ブレーキによる制動力)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ締結トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、エンジン水温を検知するエンジン水温センサ10aと、自動変速機ATの作動油ATFの温度を検知するATF温度センサ10bと、空調制御に用いるエアコン温度センサ10cからの情報及びCAN通信線11を介して得られた情報の入力を受ける。
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御と、を行う。
以下に、図2に示すブロック図を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。この演算は、例えば制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
モード選択部200では、図4に示すモードマップを用いて目標モードを演算する。モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセル開度APOと車速VSPとから、目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
図4のモードマップにおいて、WSC走行モードは、所定アクセル開度APO1未満の開度領域では、エンジンアイドル回転時で自動変速機ATが1速段のときの変速機出力回転数よりも小さな変速機出力回転数となる下限車速VSP1よりも低い車速領域に設定されている。また、所定アクセル開度APO1以上の開度領域では、大きな駆動力を要求されることから、下限車速VSP1よりも高い車速VSP1'までWSC走行モードが設定されている。尚、車両発進時に、バッテリSOCが低いためEV走行モードを達成できないときや、エンジン水温が低いためエンジン停止を許可できないときには、WSC走行モードを選択するように構成されている。
目標充放電演算部300では、図5に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。
SOC≧50%のときは、図4のモードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV走行モード領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける(目標放電量は、SOC=35%のときの値を基準=0として算出される)。SOC<35%のときは、図4のモードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける(発電要求が出力され、目標充電量は、SOC=50%のときの値を基準=0として算出される)。
動作点指令部400では、アクセル開度APOと、目標駆動力tFoOと、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、動作点到達目標として、過渡的な目標エンジン出力トルクTe*と目標モータジェネレータ出力トルクTm*と目標第2クラッチ締結トルク容量TCL2*と自動変速機ATの目標変速段と第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。また、動作点指令部400には、WSC走行モードで発進するときにエンジンE等を制御する発進制御処理部410が設けられている。
変速制御部500では、シフトマップのシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ締結トルク容量TCL2*と目標変速段を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。尚、シフトマップは、車速VSPとアクセル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものである。
〔WSC走行モードについて〕
次に、WSC走行モードの詳細について説明する。WSC走行モードは、エンジンEが作動した状態を維持している点に特徴があり、要求駆動力変化に対する応答性が高い。具体的には、第1クラッチCL1を完全締結し、第2クラッチCL2を要求駆動力(目標駆動力tFoO)に応じた締結トルク容量TCL2としてスリップ制御し、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGの駆動力を用いて走行する。
実施例1のハイブリッド車両では、トルクコンバータのように回転数差を吸収する要素が存在しないため、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2を完全締結すると(HEV走行モード)、エンジンEの回転数に応じて車速が決まってしまう。エンジンEには自立回転を維持するためのアイドル回転数による下限値が存在し、このアイドル回転数は、エンジンEの暖機運転等によりアイドルアップを行っていると、更に下限値が高くなる。
一方、EV走行モードでは、第1クラッチCL1を開放するため、上記エンジン回転数下限値による制限はない。しかしながら、バッテリSOCに基づく制限によってEV走行モードによる走行が困難な場合や(バッテリSOCが低いときはモードマップからEV走行モード領域が消滅する)、モータジェネレータMGのみで要求駆動力を達成できない領域では、エンジンEによって安定したトルクを発生する以外に手段がない。また、要求駆動力が高い状態では素早くHEV走行モードに遷移できない場合がある。
更に、エンジン水温が低いときはエンジン停止を許可できない。このため、低水温時に車両を発進する際には、エンジンEを作動させたまま、第2クラッチCL2をスリップさせて発進を行う必要がある。すなわち、ハイブリッド車両ではエンジンの始動・停止を頻繁に行うため、EV走行からエンジン(再)始動する際の始動トルクを低減して始動性を高める必要がある。このとき、低水温時に、エンジンEの始動に必要なトルクが増大すると、始動性が悪化する。よって、低温時にはエンジンEを作動させた状態とし、ある一定温度以上になるまでエンジン停止を禁止する。
そこで、上記下限値に相当する車速よりも低車速領域であって、かつ、EV走行が困難な場合やエンジン水温が低い場合は、エンジン回転数を所定回転数に維持しつつ、第1クラッチCL1を完全締結させ、第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジントルクを用いて走行するWSC走行モードを選択する。エンジン低水温時の発進にあたっては、バッテリSOCが十分であっても、EV走行モードではなく、WSC走行モードを選択する。
図6はWSC走行モードにおける目標エンジン回転数を表すマップである。図7はWSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図である。
WSC走行モードにおいて、運転者がアクセルペダルを操作すると、図6に基づいてアクセル開度APOに応じた目標エンジン回転数特性が選択され、この特性に沿って車速VSPに応じた目標エンジン回転数Ne*(=目標モータジェネレータ回転数Nm*)が設定される。そして、アクセル開度APOに応じた目標エンジン回転数特性が選択されると、それぞれの開度に応じた目標締結回転数も設定される。この目標締結回転数は図4に示すWSC走行モード領域とHEV走行モード領域との境界線に相当する値である。そして、図7に示すエンジン動作点設定処理によって目標エンジン回転数Ne*に対応した目標エンジン出力トルクTe*が演算される。
一方、エンジンEとモータジェネレータMGは直結状態とされていることから、モータジェネレータMGについて、設定されたエンジン回転数Ne*を目標回転数とする回転数フィードバック制御が実行される。モータジェネレータMGが目標回転数Ne*(=Nm*)を維持するように制御されることで、エンジンEの回転数Neも自動的にフィードバック制御されることとなる。
図6に示すように、WSC走行中、第2クラッチCL2の入力側の回転数N2inである目標エンジン回転数Ne*(=Nm*)は、第2クラッチCL2の出力側の回転数N2outよりも高く設定される。このような第2クラッチCL2の入出力間の差回転、すなわちスリップ状態を維持するため、第2クラッチCL2へ入力されるトルク(目標エンジン出力トルクTe*と目標モータジェネレータ出力トルクTm*の合計)は、第2クラッチCL2から出力されるトルク(締結トルク容量TCL2)よりも所定量α0だけ高く設定される。
図7に示すように、エンジン動作点は、エンジンEの出力効率が高い動作点を結んだ線(以下、α線という。)上で運転することが望まれる。しかし、上述のようにエンジン回転数Neを設定した場合、運転者のアクセルペダル操作量(要求駆動力)によってはα線から離れた動作点を選択することとなる。そこで、エンジン動作点をα線に近づけるために、目標エンジン出力トルクTe*は、α線を考慮した値にフィードフォワード制御される。
このとき、α線を考慮して決定された目標エンジン出力トルクTe*と要求駆動力との偏差を埋めるように、モータジェネレータ出力トルクTmは自動的に制御され、基礎的なトルク制御量(回生・力行)が与えられる。
あるエンジン回転数Neにおいて、運転者が要求する駆動分のトルクがα線上のトルクよりも小さい場合、エンジン出力トルクTeを大きくした方がエンジン出力効率は上昇する。このとき、出力を上げた分のエネルギをモータジェネレータMGにより回収することで、第2クラッチCL2に入力されるトルク自体は運転者の要求する駆動分のトルク以上としつつ、効率の良い発電が可能となる。
但し、バッテリSOCの状態によって回生トルクの上限値が決定されるため、バッテリSOCに基づく要求発電出力(SOC要求発電トルク)と、現在の動作点におけるトルクとα線上のトルクとの偏差(α線発電トルク)との大小関係を考慮する必要がある。
図7(a)は、α線発電トルクがSOC要求発電トルクよりも大きい場合の概略図である。SOC要求発電トルク以上にはエンジン出力トルクTeを増大させることができないため、α線上に動作点を移動させることはできない。ただし、より効率の高い点へ移動させることで燃費効率を改善する。
図7(b)は、α線発電トルクがSOC要求発電トルクよりも小さい場合の概略図である。SOC要求発電トルクの範囲内であれば、エンジン動作点をα線上に移動させることができるため、この場合は、最も燃費効率の高い動作点を維持しつつ発電することができる。
図7(c)は、エンジン動作点がα線よりも高い場合の概略図である。要求駆動力に応じた動作点がα線よりも高いときは、バッテリSOCに余裕があることを条件として、エンジン出力トルクTeを低下させ、不足分をモータジェネレータMGの力行により補う。これにより、燃費効率を高くしつつ要求駆動力を達成することができる。
〔発進制御処理〕
次に、統合コントローラの発進制御処理部410で行われる処理について説明する。(車両停止時を含む)発進時、車速VSP<VSP1(VSP1')である場合において、バッテリSOCが低いとき、又はエンジン水温が所定閾値以下のときは、WSC走行モードを選択して図8に示す発進制御処理を実行する。
尚、WSC走行モードで発進中にバッテリSOCが50%以上となりEV走行モード領域が出現したときは、EV走行モードへの遷移を禁止して、上記所定閾値を越えてエンジン水温が上昇するまでWSC走行モードでの発進制御処理を継続する。
図8のステップS1では、インヒビタスイッチ7aからのセンサ情報に基づき、走行レンジであるか否かを判定する。走行レンジ(前進Dレンジ又は後退Rレンジ)であるときはステップS2へ進み、それ以外のときは制御を終了する。
ステップS2では、低温時であるか否かを判定する。エンジン水温センサ10a、ATF温度センサ10b、及びエアコン温度センサ10cのそれぞれについて温度判定閾値が設定されており、各センサの検出値のいずれかがその閾値を下回ると(OR条件)、低温であると判定してステップS3へ進む。それ以外のときはステップS4へ進む。尚、WSC走行モードを選択する基準となるエンジン水温の判定閾値と、上記低温時判定に用いられるエンジン水温の閾値は、同じであってもよいし、異なる値に設定してもよい。
ステップS3では、(低温時における)目標エンジン出力トルクTe*の常温時に対する増大分ΔTeを設定し、ステップS4へ進む。ここで常温時とは、非低温時のことであり、各センサのいずれの検出値もその温度判定閾値を下回っていない場合を指す。ΔTeは、ATF温度センサ10bの検出値毎(例えば、ATF温度検出値の判定閾値に対する低下分に応じた大きさ)に設定する。上記各センサの検出値のうち、ATF温度が第2クラッチCL2の温度を最も良く反映しているからである。
ステップS4では、クラッチスリップ発進制御を行う。以下、その内容を説明する。
第1クラッチCL1を完全締結させた状態で、エンジンEを作動させる。ブレーキスイッチ9aの検出値がオンの状態(以下、ブレーキオン)で停車中は、第2クラッチCL2を開放させる。ブレーキスイッチ9aの検出値がオフに切り替わると(以下、ブレーキオフ)、第2クラッチCL2をスリップ締結させて駆動輪RL,RRにトルクを伝達し、車両を発進する。アクセルペダルが踏み込まれていなくても(以下、アクセルオフ)、クリープ走行に必要な駆動力を第2クラッチCL2から出力させる。アクセルペダルが踏まれていれば(以下、アクセルオン)、APOに応じた要求駆動力を出力させる。
具体的には、図6のマップに従い、目標エンジン回転数Ne*(=Nm*)を設定する。目標エンジン出力トルクTe*については、例えばバッテリSOCが低く(<50%)、「α線発電出力<SOC要求発電出力」の条件である場合、常温時には、図7(b)に従いα線上にTe*を設定する。低温時には、図7(b)のα線よりもΔTeだけ大きい値に、SOC要求発電トルクの範囲内で、Te*を設定する。よってエンジン出力トルクTeの大きさは、常温時にはα線上のトルクと一致し、低温時には、温度(低温の度合い)に応じた量ΔTeだけα線上のトルクよりも大きくなる。
一方、エンジン出力トルクTe(正値)とモータジェネレータ出力トルクTm(正値又は負値)の合計(Te+Tm)=TCL2+α0は、第2クラッチCL2に入力されて(締結トルク容量TCL2を上限として)駆動輪RL,RRへ出力されるトルクと、エンジンEに入力されてエンジンクランク軸を回転させるトルク(以下、エンジン入力トルク)と、に使われる。
よって、目標駆動力に応じて目標締結トルク容量TCL2*を設定するとともに、モータジェネレータMGを回転数制御し、(Te*+Tm*)からTCL2の実値を差し引いたエンジン入力トルク(Te*+Tm*−TCL2)=α0により目標エンジン回転数Ne*が実現されるよう、目標モータジェネレータ出力トルクTm*を設定する。
目標エンジン回転数Ne*(エンジン入力トルクα0)及び目標駆動力(締結トルク容量TCL2)が低温時と常温時とで変わりなければ、モータジェネレータ出力トルクTmは、エンジン出力トルクTeの変化をちょうど相殺するように変化する。モータジェネレータ出力トルクの実値Tmと目標値Tm*が等しいとすると、モータジェネレータMGの回生トルクTm(負値)の大きさ|Tm|は、Te*の上記設定方法によれば、低温時には常温時よりもΔTeだけ大きい値となる(回生側に増大する)。また、力行トルクTm(正値)の大きさは、低温時には常温時よりもΔTeだけ小さい値となる。
(タイムチャート)
図9は、WSC走行モードで発進制御を行い、アクセルオフでクリープ走行により発進した場合のタイムチャートである。バッテリSOCが低く(<50%)、EV走行モード領域が消滅している場合を例にとって示す。点線で常温時を、実線で低温時を示す。
アクセル開度APO=0であるため、目標エンジン回転数Ne*をNe-idleに設定する(図6参照)。Ne-idleは常温時かつ非アイドルアップ時のエンジンアイドル回転数である。モータジェネレータ出力トルクTmを制御することで、エンジン入力トルク(Te+Tm−TCL2)=α0を制御し、Ne*=Ne-idleを維持する。ここで便宜上、エンジン入力トルクα0が0に略等しいと仮定すると、(Te+Tm−TCL2)=0であり、|Tm|=(Te−TCL2)である。
(常温時)
時刻t1以前では、ブレーキオンにより車両は停止状態である。車速VSP=0及びアクセル開度APO=0に応じた目標駆動力tFoOが設定され(図3参照)、エンジン出力トルクTeは目標駆動力tFoOに応じた値Te1に制御されている。第2クラッチCL2は開放されておりTCL2=0である。よって、|Tm|=(Te−TCL2)=Te1であり、回生トルクの大きさ|Tm|がエンジン出力トルクTe1に略等しくなるようにモータジェネレータMGが制御されている。
時刻t1で、ブレーキオフとなる。アクセルオフに維持されるため、第2クラッチCL2の目標締結トルク容量TCL2*をクリープ制御用の目標出力トルク(クリープトルク相当α1)に設定する。具体的には、(時刻t1から微小時間経過後の)時刻t2からt4まで、TCL2*を所定勾配で0からα1だけ増大させ、時刻t4以降はα1に維持する。尚、常温時では、第2クラッチCL2の制御性が良いため、TCL2の実値は目標値TCL2*に追従(一致)して速やかに増大するものとする。
TCL2を増大させる直前、前もってTCL2の増大に備えて、時刻t1からt3まで、TeをTe1から所定勾配でα2だけ増大させる。時刻t3以降、(Te1+α2)に維持する。α2は、α1よりもエンジン入力トルク分α0だけ大きい値に設定されている(α2>α1)。ここでα0=0と仮定しているため、α2=α1である。尚、アクセルオンのときはAPO及びVSPに応じて目標駆動力tFoOを設定し、目標駆動力tFoOに応じてTe*及びTCL2*を設定する(低温時も同様)。
時刻t1以後のモータジェネレータ出力トルクTmについてみる。時刻t1とt2との間(及び時刻t3とt4との間)の微小なタイムラグによる影響を無視し、TeとTCL2が同調して(同じタイミング及び時間で)変化するとすれば、時刻t1以後、|Tm|=(Te−TCL2)=Te1であり、回生トルクTmはt1以前と同じ大きさTe1に保たれる。言い換えれば、Teの増大は全てTCL2の増大に用いられ、エンジン回転用に供給されるエンジン入力トルク(Te+Tm−TCL2)=α0は不変であり、エンジン回転数Ne(=Nm)も、(Tmを変化させるまでもなく)一定値Ne-idleに保たれる。よって、モータジェネレータMGの回転数制御により、回生トルクTmは一定値Te1に制御される。
(低温時)
時刻t1以前では、TeはTe2(=Te1+ΔTe)に制御され、Tmは|Tm|=Te2となるように制御される。
時刻t1からt3まで、TeをTe2から常温時と同様の勾配でα2だけ増大させる。時刻t3以降はTe=(Te2+α2)に維持する。
時刻t2からt4まで、TCL2*を0から常温時と同様の勾配でα1だけ増大させる。時刻t4以降は、TCL2*=α1に維持する。低温時であり、第2クラッチCL2の制御性が悪いため、TCL2(実値)がTCL2*に追従(一致)して変化しない。時刻t2からt5までの間、TCL2*の増大にもかかわらず、TCL2は0のままである。
時刻t1以後のTmについてみると、TCL2が0である時刻t1からt5までの間、|Tm|=(Te−TCL2)=Teであり、TmはTeの増大に合わせて回生側(負の側)に増大する。すなわち、時刻t1〜t3の間は、Teの増大中であってもTCL2が増大せず、Teの増大分はTCL2の増大ではなくエンジン回転数Neの上昇に用いられ、NeはNe-idleよりも高くなろうとする。よって、NeをNe-idleに保つためにモータジェネレータMGを回転数制御する。回生トルクTmはTeの増大分を相殺するように同じ大きさだけ負の側に増大し、Neの上昇を抑制する。時刻t3〜t5で、Teが一定値(Te2+α2)になるのに応じて、回生トルクTmも一定値に制御される(|Tm|=(Te2+α2))。
時刻t5以後、TCL2(実値)が急激に増大し始め、α1を超えてオーバーシュートする。これは、第2クラッチCL2の制御応答性が悪いと、実値TCL2と目標値TCL2*との差が大きくなるためである。TCL2の増大により、エンジン回転に用いられるエンジン入力トルクα0は一時的に不足し、Ne(=Nm)は一定値Ne-idleから降下し始める。
時刻t5から微小時間経過後の時刻t6以後、TmがTCL2のオーバーシュートに対応して変化する。すなわち、|Tm|=(Te2−TCL2)であり、Teが一定値Te2であるのに対しTCL2が増大する。よって、時刻t5とt6の間の微小なタイムラグを無視し、TmがTCL2と同調して変化するものとすれば、回生トルクの大きさ|Tm|がTCL2の増大に対応して減少する。TCL2>Te2になると、モータジェネレータ出力トルクTmは力行トルクとなる。このように、オーバーシュートに対応してTmが力行側に増大することで、TCL2の増大に起因するエンジン入力トルクα0の不足は補われ、降下していたNeが再び目標のNe-idleに向かって収束する。
一方、TCL2が目標値TCL2*=α1に収束すると、回生トルクの大きさ|Tm|はTe2に制御され、Te(=Te2+α2)とTmの合計がクリープトルク相当α2となる。
(比較例との対比における作用効果)
以下、比較例との対比において、本実施例1の作用効果を説明する。比較例は、WSC走行モードでの発進制御時、低温であってもエンジン出力トルクTeをα線上から増大させない、すなわち、モータジェネレータ出力トルクTmを常温時と変わらない値とする。その他の構成は本実施例1と同様である。
上記のように、常温時に比べると低温時にはクラッチスリップ発進時の第2クラッチCL2の制御性(応答性やバラツキ)が悪い。このため、エンジンEへ入力されるトルクに外乱が生じ、ロバスト性が常温時に比べて悪化してエンジン回転変動が発生する。エンジン出力トルクTeの制御応答性は比較的おそいため、低温時に締結トルク容量TCL2が急変すると、これに十分追従できない。よって、例えばTCL2がオーバーシュートして急上昇した場合、エンジン回転数Neを一定に維持するためのトルクが不足してNeが急低下し、最悪の場合、エンジンEがストールするおそれがある。
エンスト回避のため、低温時にはエンジンアイドル回転数を常温時よりも上昇させること(アイドルアップ)も考えられる。この場合、アイドル回転数からエンストが生じる回転数までの余裕代が大きく、しかもエンジン出力トルクTeが増大するため、エンストをより回避しやすくなる。しかし、アイドル回転数が高回転化すると、燃料噴射の回数が多くなって燃費が悪化するという新たな問題が生じる。
ここで、モータジェネレータMGの制御応答性はエンジンEに比べて良いため、TCL2の急変に対してもこれを相殺するようにモータジェネレータ出力トルクTmを変化させれば、これによりエンジン入力トルク(Neを維持するためのトルク)を安定化できる。このようにTmを変化させるためには、例えばエンジン回転数Ne(=Nm)が所定値になるようにモータジェネレータMGを回転数制御しておけばよい。TCL2がオーバーシュートした場合であっても、Tmを力行側に十分増大させてやれば、燃費を不必要に悪化させることなく、TCL2の急上昇に耐えることができ、Neの急低下及びエンストを防止できる。
具体的には、TCL2が目標値TCL2*に追従せずゼロに留まっている間(図9の時刻t1〜t5参照)は、Teの増大分α2だけTmが回生側に増大する。このとき、モータジェネレータ出力トルクTmの力行側の上限(以下、モータ力行トルク上限)とTmとの間のトルク分だけ、Tmを力行側に増大できる。すなわち、モータ力行トルク上限とオーバーシュート直前の回生トルクの大きさとを合計した上記トルク分ΔTm1は、回転補償に使えるモータトルクであり、オーバーシュートが生じてTCL2がゼロから急上昇したとき、Tmを上記トルク分ΔTm1の範囲内で力行側に増大できる(時刻t6〜)。尚、モータジェネレータ出力トルクTmの力行側ないし回生側の上限は、モータジェネレータMGの定格及びバッテリSOCにより決定される。
しかし、比較例のようにTe*をα線上に設定している限り、上記トルク分ΔTm1がオーバーシュートを確実に抑制できるだけの大きさになる保障はない。TCL2のオーバーシュート量が上記トルク分ΔTm1を上回れば、TCL2の増大をそれ以上は相殺することができず、エンジン入力トルクが不足してエンストの可能性が高まる。
これに対し、本実施例1は、第2クラッチCL2の制御性悪化が予想される低温時には、Te*をα線よりもΔTeだけ高く設定し、これによりモータジェネレータMGの発電量を増大させ、回生トルクの大きさを予めΔTeだけ増大させておく。このように、回生トルクから力行トルク上限までの間の余裕代を常温時のΔTm1よりもΔTeだけ大きいΔTm2としておくことで、実際にTCL2のオーバーシュートが発生しても、これを相殺する力行トルクを十分発生でき、エンストの可能性を低くすることができる。また、トルクを制御するのみであり、エンジン回転数Neを上昇させない(アイドルアップしない)ため、エンジンEの燃料噴射回数が増大することもない。
また、本実施例1は、低温時における回生トルク増大分ΔTeを、温度低下の程度に応じて温度毎に設定する。オーバーシュート量は、温度低下に比例して増大するとみなせるからである。よって、オーバーシュートをより確実に抑制できるだけの力行側トルク余裕代ΔTm2を得ることができる。
尚、本実施例1は、ブレーキオンからオフへの切換時のTe及びTCL2*の増加勾配(時刻t1〜t3、時刻t2〜t4)を、低温時でも常温時と同じに設定する。このため、低温時にTCL2がオーバーシュートしなかった場合でも、本制御により駆動トルクの伝達が不必要に遅れることはない。
[実施例1の効果]
本実施例1のハイブリッド車両の制御装置は、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1)動力源としてのエンジンE及びモータジェネレータMGと、モータジェネレータMGと駆動輪RL,RRとの間に介装されモータジェネレータMGと駆動輪RL,RRとを断接する締結要素(第2クラッチCL2)と、上記締結要素に所定の締結トルク容量TCL2を付与してスリップ締結しつつエンジンEとモータジェネレータMGとを直結状態としてエンジンEを動力源に含みながら発進する発進制御手段(統合コントローラ10、WSC走行モード)と、低温時であるか否かを判定する低温時判定手段(ステップS2)と、を備え、発進制御手段(発進制御処理部410)は、エンジン回転数Neが所定値(図6参照)となるようにモータジェネレータ出力トルクTmを制御し、低温時と判定されたときは、エンジン出力トルクTeを増大させ、その分ΔTeだけモータジェネレータ出力トルクTmを回生側に増大させることとした(ステップS4)。
言い換えれば、エンジン出力トルクTeとモータジェネレータ出力トルクTmの合計から締結トルク容量TCL2を差し引いて算出されるエンジン回転用のトルク(エンジン入力トルクα0:Te+Tm−TCL2)が所定値となるようにモータジェネレータMGを制御し、低温時と判定されたときは、Teを増大させ、その分ΔTeだけTmを回生側に増大させることとした。
さらに言い換えれば、締結トルク容量の実値TCL2が目標値TCL2*に収束するまで、実値TCL2と目標値TCL2*との差を相殺するトルクTmをモータジェネレータMGからエンジンEへ出力させるとともに、低温時と判定されたときは、Teを増大させ、その分ΔTeだけTmを回生側に増大させることとした。
よって、WSC走行モードにより、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いとき(低温時)に、エンジンEの動力を用いてクリープ走行により車両を発進できる。
WSC走行モードでの発進の際、Ne(=Nm)が所定値(図6の目標エンジン回転数特性上の値)となるようにTmを制御する。言い換えると、エンジン入力トルクα0=(Te+Tm−TCL2)が(上記特性上のNeを実現する)所定値となるようにTmを制御する。よって、低温時に、スリップ締結制御する第2クラッチCL2の締結トルク容量TCL2(実値)が急変し、目標値TCL2*から乖離した場合であっても、実値TCL2が目標値TCL2*に収束するまで、実値TCL2と目標値TCL2*との差が、Tmにより相殺される。したがって、Neが急低下することなく上記所定値付近に維持され、エンストを防止できる。
すなわちブレーキオフ後は、所定の駆動トルクを供給できるよう、TCL2*及びTeをそれぞれ停車時よりも所定値(例えばクリープトルク相当α1、α2)だけ増大する。ここで、締結トルク容量の実値TCL2が目標値TCL2*の増大に対して追従せずゼロにとどまっているようなときは、エンジン入力トルクα0を所定値に保つため、モータジェネレータMGの発電量を増大し、TmをTeの増大分α2だけ回生側に増大する。よって、TCL2がゼロに留まっている状態で発電量を増大することは、TCL2のオーバーシュート(急激な増大)に備え、Tmを予め回生側に設定しておき、力行上限トルクまでのトルク余裕代を大きくしておくことと同義となる。そして、トルク制御に係るモータジェネレータMGの制御応答性はエンジンEに比べて高い。よって、オーバーシュートが実際に発生したときは、回生に回らせていたモータジェネレータMGを素早く力行に回らせることができ、かつ発電量を増大しなかった場合よりもα2だけ多く力行側にトルクを出力できる。この作用は、常温時であっても、締結トルク容量の実値TCL2が目標値TCL2*の増大にもかかわらずゼロに留まっていたような場合に得ることができる。
本実施例1では、低温時と判定されたときは、Teを常温時よりも増大させ、その分ΔTeだけTmをより回生側に増大させる(ステップS4)。よって、TCL2のオーバーシュートが生じてモータジェネレータMGを回生から力行に切り替える際の、力行上限トルクまでのトルク余裕代が、常温時よりも大きくなる。したがって、TCL2のオーバーシュートを相殺するために必要な大きさの力行トルクをモータジェネレータMGがより確実に発生できることとなり、エンストの可能性をより低減することができる、という効果を有する。
(2)Neが所定値となるようにTmを制御する回転数制御を実行することとした。
このように、第2クラッチCL2をスリップ制御すると同時に、モータジェネレータMGの回転数制御を実行する。締結トルク容量TCL2が変動すると、モータジェネレータMG及びエンジンEに作用する負荷が増減する。しかし、回転数制御により、負荷の増減分を補うだけの大きさのTmが自動的に再設定され、このTmによりNeが所定値に保たれる。よって、TCL2の変動に対応するために必要なトルクを簡便に補うことができ、所定Neを安定して実現できる、という効果を有する。
(3)締結要素(第2クラッチCL2)の温度を検出する温度検出手段(ATF温度センサ10b)を備え、上記回生側に増大させるモータジェネレータ出力トルクの大きさΔTeを検出された温度(ATF温度)に応じて設定することとした(ステップS3)。
このように、低温時における回生トルク増大分ΔTeを、温度低下の程度に応じて温度毎に設定することで、オーバーシュートをより確実に抑制できるだけの力行側トルク余裕代ΔTm2を得ることができ、エンスト防止の効果をより高めることができる、という効果を有する。
(4)運転者のアクセル操作量(アクセル開度APO)を検出するアクセル操作量検出手段(アクセル開度センサ16)を備え、アクセル操作量に応じた大きさの締結トルク容量TCL2を締結要素(第2クラッチCL2)に付与するとともに、エンジン出力トルクTeとモータジェネレータ出力トルクTmの合計が、締結トルク容量TCL2よりも大きくなるように制御することとした。
すなわち、(Te+Tm)は、第2クラッチCL2に入力されて(TCL2を上限として)駆動輪RL,RRへ出力されるトルクと、エンジンEに入力されてエンジンクランク軸を回転させるエンジン入力トルクα0と、に使われる。(Te+Tm)>TCL2とすることで、第2クラッチCL2の出力トルクを一定に制御することができ、運転者の要求駆動力を安定して実現することができるとともに、エンジン入力トルクα0を確保することで、目標エンジン回転数Ne*を安定して実現することができる、という効果を有する。
(5)アクセル操作量がゼロのときは、クリープ走行を実現する大きさの締結トルク容量TCL2を締結要素(第2クラッチCL2)に付与することとした。
すなわち、APO=0のアクセルオフで発進する際には、目標締結トルク容量TCL2*をクリープ制御用の目標出力トルク(クリープトルク相当α1)に設定することで、上記(4)の効果を得つつ、クリープ走行を安定して実現できる、という効果を有する。
実施例2のハイブリッド車両の制御装置は、低温時にWSC走行モードで発進制御を行う際、モータジェネレータMGの発電量を増大させるのではなく、第2クラッチCL2の目標締結トルク容量TCL2*に変化率制限を設定し、TCL2の急変を緩和する。
具体的には、図8のステップS3で、ΔTeを設定する代わりに、Teの変化率dTeの制限(上限)を設定する。同様に、TCL2*の変化率dTCL2*の制限を設定する。dTe及びdTCL2*は、それぞれTe及びTCL2*の時間当たり増加量(正値)であり、各制限は、ATF温度センサ10bの検出値(例えば、ATF温度検出値の閾値に対する低下分に応じた大きさ)毎に設定する。具体的には、ATF温度が低下しているほど増加勾配dTe,dTCL2*が小さくなるように制限する。オーバーシュートの勾配及び量は、温度低下に比例して増大するとみなせるからである。
図8のステップS4におけるクラッチスリップ発進制御では、常温時にも低温時にも、同じ値(例えば図7(b)に従いα線上の値)に目標エンジン出力トルクTe*を設定する。よって、低温時であっても、基本的に、モータジェネレータMGの発電量及び出力トルクの大きさ|Tm|は、常温時と変わらない。但し、低温時には、ブレーキオフになると、(低温の度合いに応じて上記制限を設定した)変化率dTe及びdTCL2*で、Te及びTCL2をそれぞれ増大させる。
その他の実施例2の構成は、実施例1と同様である。
図10は、実施例1の図9と同様、WSC走行モードで発進制御を行った場合のタイムチャートである。常温時(点線)は実施例1と同様であるため説明を省略し、以下、低温時(実線)について説明する。
時刻t1以前では、Te=Te1に制御し、|Tm|=Te1となるようにモータジェネレータMGを制御する。時刻t1以後、Tmを、|Tm|=(Te−TCL2)を充たすように制御する(エンジン入力トルクα0=0と仮定した場合)。
時刻t1からt7まで、Teを変化率dTeでTe1からクリープトルク相当α2だけ増大させる。時刻t7以降は、Te=(Te1+α2)に維持する。
時刻t2からt8まで、TCL2*を変化率dTCL2*で0からα1だけ増大させる。時刻t8以降は、TCL2*=α1に維持する。低温時であり、第2クラッチCL2の制御性が悪いため、TCL2(実値)がTCL2*に追従(一致)して変化しない。時刻t2からt5' までの間、TCL2は0のままである。
時刻t5' 以後、TCL2(実値)が急速に増大し始め、α1を超えてオーバーシュートする。実施例1に比べ、目標値TCL2*の増加勾配が緩やかに設定されているため、実値TCL2の増加勾配は実施例1よりも緩やかであり、実施例1ほどはTCL2が急変しない。また、実値TCL2と目標値TCL2*との差は実施例1ほど大きくならないため、オーバーシュート量γは、実施例1のオーバーシュート量β(図9参照)より少ない。
TCL2の増加により、エンジン回転に用いられるエンジン入力トルクα0=(Te+Tm−TCL2)は一時的に不足し、Ne(=Nm)は所定値Ne-idleから降下し始める。しかし、TCL2の急変は抑制されているため、Neの減少勾配は緩やかであり、また減少量も少ない。よって、Neの低下によりエンスト回転数に達するようなことは防止される。
時刻t5'から微小時間経過後の時刻t6'以後、TmがTCL2のオーバーシュートに対応して変化する。Tmが力行側に増大することで、エンジン入力トルクの不足は補われ、降下していたNeが再び目標のNe-idleに向かって収束する。
尚、TCL2の急変は抑制され、その増加勾配は緩やかであるため、それを相殺するために必要なTmの(力行側への)増加勾配も緩やかになる。また、TCL2のオーバーシュート量γは小さいため、Tmの力行側への増加分は、モータ力行トルク上限とオーバーシュート直前の回生トルクの大きさとを合計した(回転補償に使える)トルク分ΔTm1以下で済む可能性が高い。すなわち、低温時であっても、実施例1のようにモータジェネレータMGの発電量を増大させてΔTm1を大きくしておく必要は少ない。よって、実施例2では、ΔTm1を増大することなく、エンジンEの作動点を例えば最適効率となるα線上に維持することで、実施例1よりも燃費を向上できる。
[実施例2の効果]
(6)発進制御手段(発進制御処理部410)は、エンジン回転数Neが所定値(図6参照)となるようにモータジェネレータ出力トルクTmを制御するとともに、低温時と判定されたときは、締結トルク容量の目標値TCL2*の変化率dTCL2*に所定の制限を設定することとした。
言い換えれば、TeとTmの合計からTCL2を差し引いて算出されるα0が所定値となるようにモータジェネレータMGを制御し、さらに言い換えれば、TCL2がTCL2*に収束するまでTCL2とTCL2*との差を相殺するトルクTmをモータジェネレータMGからエンジンEへ出力させることとし、低温時と判定されたときは、dTCL2*に所定の制限を設定することとした。
よって、実施例1と同様に、WSC走行モードによりエンジンEの動力を用いてクリープ走行により車両を発進できる。また、ブレーキオフ後にTCL2*及びTe(Te*)をそれぞれ所定値(例えばクリープトルク相当α1、α2)だけ増大させてもTCL2がゼロにとどまっているようなときは、TmをTeの増大分だけ回生側に増大させることとなり、よって、TCL2のオーバーシュートに備え、力行上限トルクまでのTmのトルク余裕代を大きくしておくことができる。
また本実施例2では、低温時に、dTCL2*に所定の制限を設定することで、締結トルク容量TCL2の急上昇を抑制し、Neの減少量及び減少速度を小さくできる。したがって、低温時に、スリップ締結制御する第2クラッチCL2のTCL2(実値)が急変した場合でも、エンストを防止できる、という効果を有する。
(7)Neが所定値となるようにTmを制御する回転数制御を実行することとした。よって、実施例1の上記(2)と同様の効果を有する。
(8)締結要素(第2クラッチCL2)の温度を検出する温度検出手段(ATF温度センサ10b)を備え、上記制限の大きさを検出された温度(ATF温度)に応じて設定することとした。
このように、低温時における変化率dTCL2*の制限を、温度低下の程度に応じて温度毎に設定することで、TCL2の増加勾配を十分に寝かせることができ、TCL2のオーバーシュートの量も小さくして、エンストの可能性をより低減することができる、という効果を有する。
(9)また、実施例2の構成に実施例1の構成を重ねて適用することとしてもよい。具体的には、図8のステップS3で、ATF温度に応じてΔTeを設定するとともに、ATF温度に応じて変化率dTe及びdTCL2*の制限を設定する。ステップS4におけるクラッチスリップ発進制御では、低温時に、モータジェネレータ出力トルクの大きさ|Tm|を、常温時よりも回生側にΔTeだけ増大させる。そしてブレーキオフになると、変化率dTe及びdTCL2*で、Te及びTCL2をそれぞれ増大させる。
これにより、実施例1,2の上記効果(1)〜(8)を重畳的に得ることができ、実施例1,2それぞれ単独の場合よりも、エンスト防止の効果を高めることができる、という効果を有する。
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1,2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
例えば、実施例1,2では、モータジェネレータMGを回転数制御することとしたが、トルク制御することとしても良い。この場合、Te(実値又は目標値)及びTCL2(実値)に基づき、エンジン入力トルクα0=(Te+Tm−TCL2)が所定値となるように、Tmを制御することとなる。
実施例1,2では第2クラッチCL2として湿式の多板クラッチを用いたが、(液圧により制御される)乾式又は単板のクラッチを用いてもよい。また、実施例1,2では、自動変速機AT内に第2クラッチCL2を設けた例を示したが、モータジェネレータMGと自動変速機ATとの間、又は自動変速機ATと駆動輪RR,RLとの間に第2クラッチCL2を介装してもよい。
実施例1,2では、低温時であるか否かを判定する際、エンジン水温センサ、ATF温度センサ、及びエアコン温度センサの検出値のいずれかが閾値を下回ると(OR条件)、低温時と判定したが、ATF温度の検出値のみを用いて判定することとしてもよい。また、ATF温度センサをエンジン水温センサ等の他のセンサで代用してもよい。