以下、本発明の一実施形態をなす回転電機およびコイルを説明する。ここでは回転電機の固定子に用いられるコイルの例である。
各種回転電機に使われている、コアと巻線から構成される固定子においては、巻線の密度を高め、高効率を追求する必要がある。分布巻巻線では、固定子鉄心の内周側に開口するように設けられた複数のスロットに対して、断面が略四角形状の平角線からなる素線を複数回周回したコイルを巻回するにあたり、複数回周回した素線を絶縁体で束ねて固定した亀甲形状コイルの対向する直線部の一方と他方を、周方向に重ねてスロット内に装着する構造である。コアの外周側に配置するコイルを先に入れて、後から内周側に配置するコイルを入れていくが、一部、既に挿入されているコアの内周側となるコイルの直線部の一方を一旦スロット内から出して、コアの外周側となるコイルの直線部の他方をスロット内に挿入してから再度、コアの内周側となるコイルの直線部の一方をスロット内に挿入する必要がある。
このため、複数回周回したコイルを絶縁体で束ねて固定する際に、巻線された形状から、スロット内に挿入するための形状に変形させる時にはコイル全体として柔軟性を持たせ、変形した後でスロット内に挿入する時には、スロット挿入部がほぐれないように固定する性質を両立させる必要がある。
例えば、素線として絶縁被覆の上に融着層を配置した自己融着線を使用して、コイル形状を形成してから、その外周に絶縁紙を位置決め、密着させる。その状態で素線に電流を流し、その発熱によって素線表面の融着層を溶かすことで、素線と絶縁紙を固着させることも可能である。
この方法では、加熱が素線全体となりスロット部の絶縁紙の固着以外に、コイルエンド部まで融着する可能性があり、巻線された形状から、スロット内に挿入するための形状に変形させる時に絶縁被覆の剥れ等の弊害が生じる。また、絶縁紙の重ね合せ部には融着層がないためにそのままの状態か、接着剤等の別手段で固着する必要がある。更に自己融着線の価格が非融着線に較べ高くなるというデメリットも考えられる。
また別の従来方法として、コイル全体もしくはコアスロット相当部分に絶縁テープを斜めに重ねながら巻いていく方法が考えられる。このテープ巻では、コイルのコアスロット相当部分間隔が充分なければ人手や機構が入らない。
絶縁材料巻付機構がコイルの対向する直線部の間に配置しても邪魔にならない大きさであれば適用することが出来る。全外周に重ね合せ部があるためスロット面積に対する素線の面積の比率である占積率向上に限界がある。また、コイル断面積に対して、絶縁テープの断面積の比率が小さいために、占積率の点で問題となる影響が小さい。しかし、小型モータのコイルでは、コイル寸法が小さくなるため、絶縁材料巻付機構がコイルの対向する直線部の間に配置することが困難になり、更にコイル断面積に対して、絶縁テープの断面積の比率が大きくなり、占積率の点で不利となる可能性もある。
本実施形態では、複数回周回したコイルへの絶縁材料付与方法として、素線とは別に、絶縁材料を供給し、コイルエンド部には巻付けず、スロット挿入部のコイル全周を覆って絶縁材料を巻付け、その一部を固着させる。これにより、固定子鉄心の内周側に開口するように設けられた複数のスロットに対して、複数回周回したコイルを巻回するにあたって、複数回周回したコイルを絶縁体で束ねて固定する際に、巻線された形状から、スロット内に挿入するための形状に変形させる時にはコイル全体として柔軟性を持たせ、変形した後でスロット内に挿入する時には、スロット挿入部がほぐれないように固定する性質を両立したコイルが実現可能である。
また、コアスロット部が強固に固定され、コイルエンド部は柔軟性が確保されることで信頼性の高いモータが得られる。また材料表面に潤滑性があるのでコイルをコアへ組立する際の作業性が向上する。
図47に、本発明の一実施例について、断面が略四角形状の平角線からなる素線421を複数回周回したコイル4131の外周に、絶縁材料422が付与されたコイル4131がスロット411に挿入された状態の断面形状を示す。ステータ内周側にスロット411の開口部が設けられ、この開口部を経由して、絶縁材料422が付与されたコイル4131がスロット411奥側(この場合はステータ外周側)に挿入される。
ここで、使用するコイル4131は、亀甲形状コイルの対向する一対の直線部の一方と他方を、隣り合うスロット411ではない円周方向に2スロット以上離れたスロット411を結んで装着される。依って、スロット411には、絶縁材料422が付与されたコイル42が2組挿入されることになる。この時スロット411の中でステータ外周側に位置するコイル4131を外コイル、ステータ内周側に位置するコイル4131を内コイルと呼ぶことにする。
次にスロット411に対する、絶縁材料422の重ね合せ部4221の配置方向を説明する。コイル4131に絶縁材料422を付与する場合に、外コイルと内コイルで同じステータ内周側に配置する図47(a)、コイル4131に絶縁材料422を付与する場合に、外コイルと内コイルで互いに相反してステータ外周側・内周側に配置する図47(b)がある。その他に図47(a)と逆に、コイル4131に絶縁材料422を付与する場合に、外コイルと内コイルで同じステータ外周側に配置する方法や、図47(b)と逆に外コイルと内コイルで互いに相反してステータ内周側・外周側に配置する方法が考えられるが、ここでは説明図を省略する。
図48は、コイル4131に絶縁材料422を付与する工程の概略図を示す。ここでのコイル4131は、亀甲形状コイルが2組に対して、コイルの周回部分から突出した端末線423が2本となっている。通常のコイルでは、亀甲形状コイル1組に対して外周側・内周側から出ている端末線423が2本であり、亀甲形状コイルが2組の場合は端末線423が4本発生する。しかし巻線方法の工夫により、各々の内周側の端末線423を共用化することで、図に示すような亀甲形状コイルが2組に対して、コイルの周回部分から突出した端末線423が2本とすることが可能である。このような巻線方法はアルファ巻と呼ばれている。
このコイル4131に、図示しない付与手段を用いて絶縁材料422を巻付け、固着する。この絶縁材料422が付与されたコイル4131を複数組用意して、図示しない装着手段を用いて後述するように固定子鉄心412に組み込み固定子4を形成する。
図49は、本実施例の工程の説明図である。固定子鉄心の内周側に開口するように設けられた複数のスロットに対して、断面が略四角形状の平角線からなる素線を、複数回周回した後で絶縁体で束ねて固定する亀甲形状コイルの対向する一対の直線部の片側に対して絶縁材422を付与する工程を示す。
図49(a)は、断面が略四角形状の平角線からなる素線421を、複数回(今回は3周)周回したものである。この時の素線421を分離しないようにする方法として、固定子鉄心412のコイルが装着される部分(スロット部と呼ぶ)から、コイル4131が突出した部分(コイルエンド部と呼ぶ)に図示しない素線保持部材を使うことで、素線421を分離することなく保持することが可能である。
図49(b)は、断面が略四角形状の平角線からなる素線421を、複数回周回したものに絶縁材料422を供給・位置決めしたものである。この図では、素線421に対してU字形状をした絶縁材料422の端部長さが異なっている。これは絶縁材料が重なった状態で、絶縁の重ね厚さが概ね同一になるように配慮したものである。しかし、重ね合せ部分が確保可能であれば、絶縁材料422の端部長さは同一であっても構わない。
図49(c)は、断面が略四角形状の平角線からなる素線421を、複数回周回したものに絶縁材料422を供給・位置決めし、U字形状をした絶縁材料422の端部一方を折り曲げた状態である。これは図49(b)の状態から、絶縁材料の重ね合せ部のうち、素線421に近接する側を図示しない折り曲げ機構を用いて折り曲げたものである。
図49(d)は、断面が略四角形状の平角線からなる素線421を、複数回周回したものに絶縁材料422を供給・位置決めし、U字形状をした絶縁材料422の端部を折り曲げた状態である。これは図49(c)の状態から、絶縁材料の重ね合せ部4221のうち、素線421に近接する側の上から、絶縁材料422の残る端部を図示しない折り曲げ機構を用いて折り曲げたものである。
図49(e)は、断面が略四角形状の平角線からなる素線421を、複数回周回したものに絶縁材料422を供給・位置決めし、U字形状をした絶縁材料422の端部を折り曲げ、その重ね合せ部4221に固着ヘッド16を位置決めした状態である。これは図49(d)の状態に、絶縁材料の重ね合せ部4221に対し、固着ヘッド16を位置決めし、その機能により絶縁材料の重ね合せ部4221を溶解させて、絶縁材料422同士を固着させるものである。絶縁材料422に熱可塑性樹脂を使用した場合には、樹脂が軟化温度以上に達するような手段(例えば加熱ヘッドや超音波ヘッド等)を使用することで、絶縁材料の重ね合せ部4221のうち、素線421に近接する側の絶縁材料422と、その上側の絶縁材料422が溶解・固化することで固着強度を発揮させる。この樹脂が軟化温度以上に達するような手段の温度条件として、溶解・固化後の絶縁材料重ね合せ部4221の最小厚さが絶縁材料422の厚さと同等またはそれ以上になるように選定する。
図49(f)は、断面が略四角形状の平角線からなる素線421を、複数回周回したものに絶縁材料422を供給・位置決めし、U字形状をした絶縁材料422の端部を折り曲げ、その重ね合せ部4221が固着した状態である。
これら一連の工程を、亀甲形状コイルの対向する一対の直線部の他方側にも同時または順次実施することで、断面が略四角形状の平角線からなる素線を、複数回周回した後で絶縁体で束ねて固定する亀甲形状コイルを得る。
また、本実施例の回転電機は、断面が略矩角形状のコイル4131を用いているため、固定子鉄心のスロット411内での占積率を向上させることができる。特に重ね巻きを採用することにより、断面が略略矩角形状のコイル4131が積層したような状態で巻回することができる。このため、高出力と良好な回転特性とすることができる。
また、本実施例の回転電機は、コイル4131の断面を固定子鉄心の法線方向が長く、径方向が短い略長方形としている。このため、スロット411内でのコイル4131の本数を出来るだけ多くすることができ、更に、高調波による損失の低減効果をより大きくすることができる。また、スペース的にもコイルエンド側に突出する側の長さが短くなるので、コイルエンドの突出量をより少なくすることができる。更に、薄肉のコイル4131を一枚ずつ変形させて成形するのは困難であるが、本実施例では、重ね巻きされて束ねられているので容易に成形することができる。
また、本実施例の回転電機は、コイル4131におけるスロット挿入部分に絶縁部材が固着されているので、コイル4131の成形やスロットへの挿入時にコイル表面の被覆の損傷を回避することができる。
また、本実施例の回転電機は、スロットにおけるコイル挿入部をスロットにおけるコイル4131が装着される部分とほぼ同等もしくは、コイル4131が装着される部分以上の周方向幅を有するオープンスロットにしているので、コイル4131をスロット挿入部から挿入し易く、また、スロット内でのコイル4131の占積率を低下させることがない。
また、本実施例の回転電機は、スロットにおけるコイル挿入部の内周側にコイル4131の内周側への移動を阻止する保持部材を装着したので、コイル42がスロットのコイル挿入部から抜けてしまうのを防止することができる。
その他の実施例の詳細について図面を用いながら説明する。
図50に別の実施例を示す。素線421の持つ絶縁特性で、絶縁性能を確保できる場合には、複数回周回したコイルを絶縁体で束ねて固定したコイルの対向する直線部の一方と他方のうち、一方に絶縁材料422を巻付け、他方には巻きつけない。
図51に、別の実施例を示す。図49では、断面が略四角形状の平角線からなる素線421を複数回周回したコイル4131の外周に、絶縁材料422を付与する時に、重ね合せ部4221の幅は素線421の幅と概ね同じ寸法としていた。しかし絶縁材料422の特性から、重ね合せ部4221の幅を狭くしても所望の絶縁特性が確保出来るのであれば、その重ね合せ部4221の幅を狭くすることが可能である。更に固着ヘッド16の幅も狭くすることで、絶縁材料422の重ね合せ部4221を溶解させる出力の低減可能、または出力が同じであれば、軟化温度に達するまでの時間短縮が短縮可能となる。
図52に、別の実施例を示す。図49では、断面が略四角形状の平角線からなる素線421を複数回周回したコイル4131の外周に、絶縁材料422を付与する時に、スロット411の幅方向(固定子4としては円周方向)部分に重ね合せ部4221がくるように、配置していた。これは重ね合せ部4221の長さが最小、即ち占積率が最大とするための設定だが、占積率の大小に影響されず、より固着面積を増大させたい場合には、図52のように、スロット411の奥行き方向(固定子4としては半径方向)部分に重ね合せ部4221がくるように、配置することも可能である。その時の固着ヘッド16は、重ね合せ部4221の位置・幅に合せた形状とする。
図53に、別の実施例を示す。これまでの実施例では、従来の絶縁紙と呼ばれていた表面が繊維状のものから、スロット411への挿入抵抗を軽減するために、絶縁材料の表面の平滑性をそのまま利用していた。しかし、回転電機の固定子として利用する場合に、電磁力や振動でコイル4131がスロット411から脱落しないようにスロット411の開口部にクサビと呼ばれる別部材を装着していることから、この絶縁材料422表面に突起を設けることにより、前記クサビを使用しない、またはクサビの厚さの縮小や強度の弱い材質でも使用可能になる等の利点が生じる。
図53(a)では、絶縁材料422が素材の状態では、本来の表面平滑性を持ったまま使用し、素線421に固着した段階で、スロット411の幅方向(固定子4としては円周方向)に相対する箇所に突起を設置する。この時の突起形状をコイル4131の挿入方向に対して、移動しやすく、逆にコイル4131が抜け出る方向には移動しにくい形状とすることで、コイル4131の脱落防止に有効となる。
図53(b)では、絶縁材料422が素材の状態で、表面に突起を有したものを使用した状態を示す。この場合、素材として絶縁材料422表面に突起のないものと同一の装置を使用することが出来、さらにコイル4131の脱落防止にも有効となる。
また上記実施例では、素線421と絶縁材料422との固着を行わないように固着程度を制御することにより、ステータ挿入直前に、素線421と絶縁材料422の位置決めを適正化することが可能となる。
素線421と絶縁材料422を固着させる方法では、絶縁材料422の長さを決定する際に、絶縁距離を考慮したステータ積厚からの突出長さを確保した上で、コイルに対する絶縁材料422の固着位置決め精度を考慮して、長めに設定していた。本実施例のように、素線421と絶縁材料422との固着を行わないことで、コイルに対する絶縁材料422の固着位置決め精度に左右されず、ステータ挿入直前での調整により、絶縁材料422の長さを必要最小限まで低減することが可能となる。
また上記実施例では、素線421と絶縁材料422との固着を行わないように固着程度を制御することにより、ステータ挿入時に不具合が発生しても、素線421が損傷せず、絶縁材料422だけが損傷した場合には、一度取り出して、絶縁材料422の交換・再固着を行うことで、廃棄コイルを低減することが可能となる。
また上記実施例では、絶縁材料422を固着する際に、コイルスロット部に使用する絶縁材料422と一緒にコイルエンド部に使用する絶縁材料422を同時また別工程で固着することができる。これにより、コイルスロット部の対地絶縁用と、コイルエンド部の相間絶縁用に、絶縁材料422の種類や厚みを変えたものを選定することができる。また、同一材料同一厚みであっても、各部で必要する形状が異なっている場合には、絶縁材料422の使用歩留まりを考えて分割して切り出したものを、固着工程で一体化することができる。
また上記実施例では、ステータ内周側に設けられた開口部からコイルを挿入し、ステータ外周側に向かって組み込む方法を説明したが、ステータ外周側に設けられた開口部からコイルを挿入し、ステータ内周側に向かって組み込む方法にも適用可能である。
別の実施例として、絶縁材料422に熱硬化性樹脂を使用する。スロット組み込み前に、絶縁材料422をスポット固着で仮止めする。ワニス処理等の加熱工程で本硬化させることも可能である。
上記で説明した全ての実施例は、以下に説明する回転電機およびそのコイルに好適である。
本発明の一実施形態をなす回転電機として、ハイブリッド自動車に用いられる電動機に基づいて説明する。本実施形態のハイブリッド自動車用電動機は、車輪を駆動する駆動用のモータの機能と、発電を行う発電機の機能の両方を有しており、自動車の走行状態によって、夫々の機能を切り替えるようにしている。ここでは誘導型回転電機を例に説明するが、他の種類、例えば同期型回転電機に適用しても良い。
図1は、誘導型回転電機の側面断面図である。図2は、回転子の断面を斜視図にしたものである。図3は、本実施形態の誘導型回転電機に関する各部品の展開斜視図である。
誘導型回転電機は、軸方向の一端側が開口した有底筒状のハウジング1と、このハウジング1の開口端を封止するカバー2を有している。ハウジング1の内側には水路形成部材22が設けられ、水路形成部材22の一端はハウジング1とカバー2とに挟まれて固定されており、水路24が固定子4とハウジング1との間に形成される。冷却水の取入口32から冷却水が水路24に取入れられ、冷却水は水路24から排出口34に排出されて回転電機を冷却する。ハウジング1とカバー2は、複数本、例えば6本のボルト3によって締結されている。
ハウジング1の内周には水路形成部材22が設けられているが、この水路形成部材22の内側には、固定子4が焼き嵌め等で固定されている。この固定子4は、周方向等間隔に、図6に記載の如く、複数のスロット411が設けられた固定子鉄心412と、各スロット411内に巻回された3相の固定子巻線40とによって構成されている。この実施形態では8極48スロットで、固定子巻線40はスター結線にて結線されており、それぞれの相は、図4に示す如く、一対の固定子コイル413が並列に接続された2Y結線となっている。
また、固定子鉄心412の内周には、固定子鉄心412と対向するように微小な隙間を介して回転可能に回転子5が配置されている。回転子5はシャフト6に固定されており、シャフト6と一体に回転する。シャフト6はその両サイドにおいて、ハウジング1およびカバー2にそれぞれ設けられた軸受として作用するボールベアリング7a,7bによって回転自在に支持されている。これらのボールベアリング7a,7bの内、カバー2側のボールベアリング7aは、図3に示す略四角形状の固定板8によって固定されており、ハウジング1の底部側のボールベアリング7bは、ハウジング1の底部に設けられた凹部に固定されている。このため、固定子4に対して回転子5が相対回転するようになっており、シャフト6のカバー2側端にスリーブ9及びスペーサ10を介してナット11によって取付けられたプーリー12によってシャフト6の回転力が外部に出力される、もしくは、プーリー12からの回転力がシャフト6に入力される。尚、スリーブ9の外周及びプーリー12の内周は、若干、円錐形状となっているため、ナット11による締め込み力によってプーリー12とシャフト6が強固に一体化され、一体的に回転できるようになっている。
回転子5は、回転軸方向に延びる導体バー511を等間隔で周方向に全周に渡って有しており、回転軸方向両端にて各導体バー511を短絡させるよう一対の短絡環512が連結されたかご型回転子である。導体バー511は磁性体からなる回転子鉄心513に埋め込まれている。なお、図2は回転子鉄心513と導体バー511との関係を明示するために回転軸に垂直な面で断面した断面構造を示しており、プーリー12側の短絡環512とシャフト6が見えていない。
回転子鉄心513は、厚さ0.05〜1mm程度の電磁鋼板を打ち抜き加工またはエッチング加工により成形し、成形された電磁鋼板を積層して構成された積層鋼板からなる。図2及び図3に示すように内周側には、軽量化の為に略扇形の空洞部514が周方向等間隔に設けられている。また、外周側には、夫々の導体バー511が配置される複数の空間が設けられている。回転子鉄心513は、固定子側に導体バー511を有しており、導体バー511の内側に磁気回路を作るための回転子ヨーク530を有している。
本実施形態では固定子は8極の固定子巻線を有しており、極数が2極や4極の誘導電動機に比べ、回転子ヨーク530に形成される磁気回路の径方向の厚さを薄くできる。8極より極数を増やす方が前記厚さを薄くできるが、12極以上では出力および効率が低下する問題がある。従ってエンジン始動機能も含め車両走行用の回転電機は6極から10極、特に8極あるいは10極が良好である。
回転子5の夫々の導体バー511及び短絡環512は、アルミによって構成されており、回転子鉄心513にダイキャストによって一体となるように成形している。尚、回転子鉄心の両端に配置された短絡環512は、回転子鉄心513から軸方向両端に突出するように設けられる。尚、この導体バー及び短絡環512は、例えば銅によって構成しても良く、その場合もダイキャストで成形できる他、生産性向上や耐高調波対策のため、ダイキャストではなくロー付けや摩擦攪拌接合によって導体バー及び短絡環512を接合,固定してもよい。
また、ハウジング1の底部側には、検出ロータ132が設けられ、回転速度や回転子位置を検出するための回転センサ13は前記検出ロータ132の歯を検出することで回転子5の位置や回転子5の回転速度を検知するための電気信号を出力する。尚、回転センサ13はレゾルバを用いても構わない。
次に本実施形態における誘導電動機の動作について図1乃至図6を用いて説明する。
まず、車輪およびエンジンを駆動する駆動用のモータとして機能する回転電機の力行運転について説明する。図4は電気接続を説明するためのシステムであり、例えば100V乃至600Vの電圧に対応した高電圧用の二次電池612とインバータ装置620の直流端子が電気的に接続されている。またインバータ装置620の交流端子は固定子巻線40と電気的に接続されている。後述する如く、固定子巻線40の各相は並列接続された固定子コイル413をそれぞれ有している。
力行運転では、二次電池612からインバータ装置620に直流電力が供給され、固定子鉄心412に巻回された3相の固定子巻線40の各固定子コイル413にインバータ装置から交流電力が供給される。この交流電力により、固定子鉄心412に交流電力の周波数に基づく回転速度の回転磁界が発生し、図5に記載の如く回転磁界により回転子5を磁路とする磁束を生じる。図5は固定子巻線40により発生する回転磁界の状態を示す。固定子巻線40の巻回構造は例えば以下の実施の形態で説明する如く8極の分布巻である。図5は回転子の影響を取除いた状態であり、仮想的に導体バーを有していない一般の鉄心を配置した場合のシミュレーション結果である。固定子鉄心412のスロットの外周側にコアバック430が設けられ、上記回転磁界の磁気回路を形成している。本シミュレーションでは固定子巻線40が8極と極数が多いため、コアバック430における磁気回路の径方向の厚みを薄くできる。また回転子5側における磁気回路の径方向の厚みも薄くなっている。図5に示す回転磁界が固定子巻線40に供給される交流周波数に基づいて回転する。
図4で、インバータ装置620は、回転電機に要求されるトルクを発生するに必要な交流電流を発生し、固定子巻線40に供給する。回転磁界の回転速度に対し回転子5の回転速度が遅い状態では、導体バー511が固定子鉄心412に生じた回転磁界と鎖交し、フレミングの右手の法則により導体バー511には電流が流れる。更に、導体バー511に電流が流れることでフレミングの左手の法則により、回転子5に回転トルクが生じて回転子5が回転する。尚、回転子5の回転速度と固定子4の回転磁界の回転速度との差が上記トルクの大きさに影響するので、速度差すなわち「すべり」を適切に制御することが必要である。このため回転子5の回転速度を回転センサ13の出力に基づいて検出してインバータの切り替え周波数を制御して、固定子4に供給する交流電流の周波数を制御する。
図6は、導体バー511を有する回転子5の回転速度が固定子鉄心412で発生する回転磁界の回転速度より遅い場合の磁束の様子を示すシミュレーション結果である。回転子5の回転方向は反時計方向である。スロット411に配置された固定子巻線40による磁束はコアバック430および回転子鉄心513の回転子ヨーク530を含む磁気回路を通る。回転子鉄心513の磁束は固定子鉄心412の磁束より回転子の回転方向において遅れ側にシフトしている。固定子巻線の極数が8極と多いので回転子の回転ヨーク530の磁束は導体バー511側が密なのに比べ回転軸側が粗である。
次に、回転電機が発電を行う発電機として動作している場合について説明する。発電機として動作する場合は、プーリー12から入力される回転力によって回転する回転子5の回転速度が、固定子鉄心412に生じている回転磁界の回転速度より速い場合である。回転子5の回転速度が回転磁界の回転速度を上回ると、導体バー511が回転磁界に対して鎖交するので回転子5に制動力が作用する。この作用により、固定子巻線40に電力が誘起され、発電が行われる。図4で、インバータ装置620が発生する交流電力の周波数を低くし、固定子鉄心412に生じている回転磁界の回転速度を回転子5の回転速度より遅くするとインバータ装置620から二次電池612に直流電力が供給される。回転電機の発生する電力は上記回転磁界の回転速度と回転子5の回転側との差に基づくので、インバータ装置の動作を制御することで発電電力を制御できる。回転電機の損失や無効電力などを無視すると、回転電機の回転磁界を回転子5の回転速度より速くすると二次電池612からインバータ装置620を介して回転電機に電力が供給され、回転電機はモータとして機能し、回転電機の回転磁界を回転子5の回転速度と同じにすると二次電池612と回転電機間の電力の送受は無くなり、回転電機の回転磁界を回転子5の回転速度より遅くすると回転電機から二次電池612にインバータ装置620を介して電力が供給される。しかし、実際は回転電機の損失や無効電力などを無視できないので、回転電機の回転磁界が回転子5の回転速度よりやや遅い状態で二次電池612から回転電機への電力の供給が無くなる。
次に図4および図7乃至図13を用いて、固定子4の詳細について説明する。
図7は、固定子4の斜視図である。図7に示す固定子4は、周方向に等間隔に48個のスロット411が形成された固定子鉄心412と、スロット411に巻回された固定子巻線40を構成する複数個の固定子コイル413とを有している。固定子鉄心412は、例えば厚さ0.05〜1mm程度の電磁鋼板を打ち抜き加工またはエッチング加工により成形し、成形された電磁鋼板を積層して構成された積層鋼板からなり、周方向に等間隔の放射状に配置された複数のスロット411が形成されている。この実施形態ではスロットの数は48個である。これらのスロット411間にはティース414が設けられており、夫々のティース414は環状のコアバック430と一体化されている。つまり、各ティース414とコアバック430が一体成形されている。また、スロット411の内周側は開口しており、この開口部分から固定子巻線40を構成する固定子コイル413が挿入される。スロットの前記開口の周方向の幅は、上記コイルが装着される位置でのスロットの幅、すなわち各スロットのコイル装着部の幅とほぼ同等もしくは、スロットのコイル装着部よりも若干大きな幅となるように形成されている。各スロットはオープンスロットに成形されており、各スロットに挿入されたコイルがスロットの出口側すなわち固定子の内周側へ移動するのを阻止するために各ティース414の先端側には保持部材416が装着されるようになっている。尚、この保持部材416は、樹脂等の非磁性体、もしくは非磁性金属材で作られ、ティース414の先端側の周方向両側面に軸方向に延びるように形成された保持溝417内に軸方向から装着されるようになっている。
次に図8及び図9に基づいて、固定子巻線40を構成する固定子コイル413について説明する。図8は、固定子コイル40を構成している、連続した1本の絶縁被覆導体で作られた固定子コイル413の斜視図である。図9は、1相分の固定子コイル413の斜視図である。本実施形態の場合には3相の固定子巻線40を有しているが、まずはそのうちの1相について説明する。尚、本実施形態の固定子コイル413は、平角線と呼ばれる断面形状が略四角形状で外周が絶縁被膜で覆われた導体を使用しており、巻回された状態での前記導体の断面の四角形状は、固定子鉄心412の周方向が長く、径方向が短くなっている。また、上述のとおり、固定子コイル413の導体の表面は絶縁のための被覆が施されている。
図8を説明する前に図4により、固定子巻線40の結線を説明する。この実施形態で固定子巻線40は、固定子巻線40を構成する各相の巻線が並列接続された2個の固定子コイル413で構成される方式で、2個のスター結線を有している。2個のスター結線をY1結線とY2結線とすると、Y1結線はU相巻線Y1UとV相巻線Y1VとW相巻線Y1Wとを有している。またY2結線はU相巻線Y2UとV相巻線Y2VとW相巻線Y2Wとを有している。Y1結線とY2結線は並列接続されており、それぞれの中性点も接続されている。
コイルY1Uは直列接続されたコイルU11とコイルU12とコイルU13とコイルU14から構成されている。またコイルY2Uは直列接続されたコイルU21とコイルU22とコイルU23とコイルU24から構成されている。コイルY1Vは直列接続されたコイルV11とコイルV12とコイルV13とコイルV14から構成されている。コイルY2Vは直列接続されたコイルV21とコイルV22とコイルV23とコイルV24から構成されている。コイルY1Wは直列接続されたコイルW11とコイルW12とコイルW13とコイルW14から構成され、コイルY2Wは直列接続されたコイルW21とコイルW22とコイルW23とコイルW24から構成されている。図4に記載のとおり、コイルU11からコイルW24はそれぞれ二組のコイルをさらに有している。例えばコイルU11はコイル2とコイル1の直列接続で構成されている。ここでコイル2とコイル1の数字はコイルが挿入されている回転子側のスロット番号を示している。すなわちコイルU11はスロット番号2のコイルとスロット番号1のコイルの直列接続である。同様にコイルU12はスロット番号38のコイルとスロット番号37のコイルの直列接続である。以下同様に図4のコイル番号は挿入されている回転子側スロットの番号を表している。最後のコイルW24はスロット番号11のコイルとスロット番号12のコイルの直列接続である。ここで注目すべきは各直列コイルが隣同士のスロットに挿入されていることである。以下で説明のとおり、このようにすることで、製造が容易となり、更にトルク脈動を低減できる効果がある。上記各コイルの巻回状態は後で詳述する。
上記コイルY1UとY1VとY1WとY2UとY2VとY2Wとはそれぞれ同様の構造であるので、コイルY1Uを代表例として図8で説明する。
固定子コイル413の構造をコイルY1Uに代表して記載すると、コイルY1UはコイルU11とコイルU12とコイルU13とコイルU14の直列接続により構成されている。上記各コイルは等間隔に配置されているので、各コイルは機械角で90°の間隔で配置されている。コイルU11は2つのエレメントコイル4131aとエレメントコイル4131bを有しており、エレメントコイル4131aはスロット2の回転子側とスロット7の底側を周回する構造をしている。スロット2とスロット7を対として複数回、本実施形態では3回、周回する構造をしている。これらの周回は連続した導線で行われるので、コイル4131の周回では接続作業の必要が無い。
コイルU11を構成するエレメントコイル4131bはスロット1の回転子側とスロット6の底側を3回周回する構造をしている。これらのエレメントコイル4131aとエレメントコイル4131bはそれぞれ2つのスロット間を周回する構造をしており、それぞれのコイルにおける一方のスロットではこれらのコイルは回転子側に配置され、他のスロットではスロットの底側に配置されている。エレメントコイル4131aとエレメントコイル4131bはコイル間接続線4134により直列に接続されている。この直列接続の部分も連続した導線で構成されており、特別な接続作業は不要である。2つのスロットを周回するこれらの周回部分であるコイル4131は、固定子鉄心412に装着された状態では、略亀甲形状となっており、コイルエンドにおいて一方のスロット411の回転子側である内周側と他方のスロットの底側である外周側を跨ぐように巻回されている。一方のスロットであるスロット2やスロット1と他のスロットであるスロット7やスロット6の間隔は、固定子のスロット数と極数とに基づいて定まる分布巻き方式で巻回されている。
上述のとおり、周回構造を成すエレメントコイル4131a,4131bは連続した導体で作られており接続作業を必要とする箇所を減らすことが可能である。更に以下の方法によれば2つのエレメントコイル4131aやエレメントコイル4131bはこれらを繋ぐコイル間接続線4134も連続した導体で作ることが可能である。このため本実施形態では固定子コイル413のターン数が増加しているが接続作業を必要とする接続箇所の増加は抑えられている。
また、周回部分である2つのエレメントコイル4131a,4131bで組を成し、この組を単位として周方向に離れた複数箇所、本実施形態では90°の間隔で4箇所、に等間隔で配置されており、エレメントコイル4131a,4131bの組における渦巻き部の内周側から延びるコイルと他のエレメントコイル4131a,4131bの組における外周側から延びるコイルとがコイルエンドの各頂部同士を接続する構造で、渡り線4132で接続されている。尚、本実施形態ではエレメントコイル4131a,4131bの組における渦巻き部の内周側から延びるコイルと他のエレメントコイル4131a,4131bの組における渦巻き部の外周側から伸びるコイルとが連続するように巻回されているので隣り合うように成形された4対の周回部分の組は1本の連続した導体からなるコイルによって成形されている。また、この渡り線4132の部分は、固定子4の軸方向一端側だけに設けられており、固定子鉄心412の外周側から固定子鉄心412の内周側に横断するように収束している。
図8に示した1本のコイルは、固定子巻線の1相分の半分であり、1相を構成する固定子巻線は、図9に示すように図8で説明した巻線Y1Uと同じ構造を持つ巻線Y2Uを周方向に巻線Y1Uに対して機械角で45°ずらした配置となる。同じように成形されたコイル成形体のエレメントコイル4131a,4131bの組が機械角で45°シフトして配置される。コイルU11を構成するエレメントコイル4131aはスロット2の回転子側に配置され、コイルU11を構成するエレメントコイル4131bはスロット1の回転子側に配置される。上記機械角で45°シフトした配置となるコイルU21を構成するエレメントコイル4131aはスロット44の回転子側とスロット1の底側を周回する構造となる。またコイルU21を構成するエレメントコイル4131bはスロット43の回転子側とスロット48の底側を周回する構造となる。
図9のように成形されたコイル成形体である固定子コイル413を周方向に15°と30°ずらしたかたちで配置することで3相分のコイル成形体である固定子コイル413が形成される。このように、本実施形態では、3相分の固定子コイル413を固定子鉄心412に、接続作業を要する接続点数が少なくなる構造で巻回することができる。
図10は、固定子の正面図である。図11は、固定子の側面図である。図12は結線図であり、図4に示す2Y接続された固定子巻線40の接続図である。図10に示すように夫々のコイル成形体における渡り線4132の部分は、固定子鉄心412の外周側と内周側を跨ぐように配置されているので、全体としては、渡り線4132が略渦巻き状に構成されることになる。スター接続の中性点となる箇所については、渡り線4132が連続したコイルではなく、各コイルの端末と別に設けた渡り線とをTIG溶接等で接続する必要がある。尚、この中性点となる渡り線についても固定子鉄心412の外周側と内周側を跨ぐように配置している。このような構造をとることで、固定子コイル413が規則的な構造で配置され、空間を効率よく利用することとなり、結果として回転電機の小型化が可能となる。
図13は固定子のスロット番号と固定子コイルを構成するコイルの関係を示し、スロットと固定子巻線40を構成する固定子コイル413の周回部分の配置関係を示す図である。図でスロット番号の欄442はスロット番号を示し、48個のスロットを予め定めたスロットを基準とし、そのスロットから順に付した番号を示す。図4の固定子コイル413を構成する各コイルU11からW24は、回転子側に配置されるスロット番号で付したコイルの周回部分から構成されており、これらの構成をスロットとの関係で欄442の下側に示した。欄442でコイルW13はスロット番号29と30である。これはスロット番号29の回転子側に配置されたコイルの周回部分とスロット番号30の回転子側に配置されたコイルの周回部分との直列接続でコイルW13が構成されていることを示している。このことは図4のコイルW13を構成するコイル番号29と30でも示されている。図13の欄442でコイルU22はスロット番号31と32であり、スロット番号31の回転子側に配置されたコイルの周回部分とスロット番号32の回転子側に配置されたコイルの周回部分との直列接続でコイルU22が構成されていることを示している。このことは図4のコイルU22を構成するコイル番号31と32でも示されている。図8で説明したコイルU11を見るとスロット番号1と2である。これはスロット番号1の回転子側に配置されたコイルの周回部分とスロット番号2の回転子側に配置されたコイルの周回部分との直列接続でコイルU11が構成されていることを示しており、このことは図4のコイルU11を構成するコイル番号1と2であることからも分る。
図13で欄444は、固定子コイル413の相とその相における配置の順番を示している。欄442でコイルU11はスロット番号1と2である。これは上述の通り、スロット番号1と2に配置されたコイルの周回部分の直列接続で構成されていることを示している。このコイルU11は欄444で共に「U1」と記されている。これは固定子コイル413におけるU相の1番目の配置すなわちU相の基準位置に配置されていることを示している。コイルU21は欄444で共に「U2」と記されている。これは固定子コイルのU相の2番目すなわちU相の基準位置から機械角で45°の位置に配置されていることを示している。同様にコイルU12は欄444で共に「U3」と記されている。これは固定子コイルのU相の3番目すなわちU相の基準位置から機械角で90°の位置に配置されていることを示している。このことは既に図8を用いて説明したとおりである。
コイルU11を基準とするとコイルV11は機械角で15°シフトしている。従って欄444に示す「V2」のコイルV21は、コイルU11の基準位置に対して機械角で15°シフトした位置のコイルV11を基準とし、コイルV11の位置から機械角で45°シフトした位置にある。以下V相のコイルは全てコイルV11を基準とするので、U相のコイルに対して15°シフトしている。同様にコイルW11はコイルU11の位置から機械角で30°シフトしているので、W相のコイルは全てU相のコイルに対して30°シフトしている。
次に欄446について説明する。この実施形態では周回するコイル4131は2つのスロットを通して周回する構造となっている。すなわち図8に示すエレメントコイル4131aはスロット2とスロット7を通して周回し、エレメントコイル4131aが回転子側の配置となる一方のスロットは2番、エレメントコイル4131aが奥側の配置となる他方のスロットは7番となる。欄442は上記一方のスロット番号であるのに対して欄446は上記他方のスロット番号を示している。すなわち欄442のスロット番号2の446欄は「7」である。これはスロット番号2を一方のスロットとスロット番号7を他方のスロットとしてコイルが周回していることを示している。以下欄442と446は同様に周回するコイルの一方と他方のスロットを示している。
欄448は、欄442に示すスロット番号の奥に位置するコイルの相およびその相におけるコイルの配置の順番を示している。また欄450は欄448に記載のコイルの周回するスロットを示している。例えば欄442のスロット番号2の奥に配置されるコイルはV相の2番目に位置するコイルであることを示している。また欄450の記載「45」は、スロット番号2の奥に配置されているコイルは一方のスロット番号が「45」、他方のスロット番号が「2」の2つのスロットを通して周回していることを示している。欄442のスロット番号45を見ると欄446は「2」と記載されている。この記載は上記と同じコイルを指している。すなわち一方のスロット番号「45」と他方のスロット番号2を通して周回するコイルがV相の2番目に配置されたコイルであることを示している。
このように結線された最終的な固定子巻線40の結線状態を図12に示す。尚、図12におけるコイル4131の周回部分は1周分で表示されているが、実際には上述したとおり、3周分周回している。また、図12におけるコイル4131の周回部分の中央に表示されている番号はスロット番号であり、コイルが破線となっているところは、スロット411における内周側、つまり、スロット開口側に位置するコイルであり、コイルが実線となっているところはスロット411における外側、つまり、スロット底部側に位置するコイルである。更に、線同士の交点が丸で表示されている箇所が溶接などの接続作業が必要な箇所である。この図12を見ると明らかなように溶接によって接続する必要がある箇所は、9箇所だけである。
図4と図13で説明の構造では、各スロットには径方向に複数の導体が並んで配置されており、2つのスロットを通してこれらの導体が周回する形状のコイルを形成している。この周回するコイルは連続する導体で構成されているので、本実施形態では、ターン数が増えているが接続点数の増加が抑えられている。また各スロットの周方向には1つの導体が挿入されているのみであり、以下で説明する如く、この構造は製造が容易である。また導体は周方向に広く径方向に薄い形状となるので、漏れ磁束によるスロット内の導体に生じる渦電流が抑えられる構造である。このため回転電機の効率が向上し、発熱が抑えられる。
また、図11に示すように、これらの渡り線4132の部分は、固定子4の軸方向一端側の略同一平面上に位置するようになっていることからコイルエンドを短くすることができる。上述の通り、本実施形態では回転方向において、コイルエンドの外側に渡り線が配置されており、全体として整然とした配置となっており、回転電機全体が小型化となる。また電気的な絶縁等の点でも信頼性が確保できる。特に最近自動車駆動用の回転電機は使用電圧が高く、100Vを超えるものが多くあり、場合によっては400Vあるいは600Vの電圧がかかることがあり、固定子コイルの線間の信頼性が重要である。
更に上記実施形態では、複数回巻回されたエレメントコイル4131aと同じく複数回巻回されたエレメントコイル4131bとをコイル間接続線4134で接続している。このコイル間接続線4134の外側に渡り線が配置されており、全体として整然とした配置となっている。上述と同様にこれにより回転電機全体が小型化となる。また電気的な絶縁等の点でも信頼性が確保できる。
本実施形態で説明する回転電機は自動車の駆動用モータに適用する比較的小型であるにもかかわらず比較的大きな出力が得られ、また生産性の向上に繋がる構造を備えている。固定子巻線の導体として断面が円形の導体のみならず、断面が略矩形形状の導体を使用でき、スロット内の占積率を向上できることから、回転電機の効率が向上する。従来の回転電機では、導体断面が略矩形形状の導体を使用すると固定子のスロットに導体を挿入後に電気接続すべき箇所が多く、生産性の観点で課題があった。以下の実施の形態では、表面が絶縁された導体を連続巻したコイルをスロットに挿入できるので、電気接続箇所が少なく生産性が向上する。
また本実施形態では、コイルが有する複数の周回部の各周回部を構成する一方の側をスロットの奥側に挿入し、次に前記各周回部の他方の側と前記各一方の側との距離を所定の距離に調整し、前記各他方の側をスロットの入口側に挿入することで、連続巻きしたコイルを効率良くスロットに挿入でき、生産性が向上する。
本実施形態では、連続巻コイルの重ね巻きされた部分は連続した線からなり、重ね巻きされた部分のコイルを構成する一方の側が一のスロットに挿入されと前記コイルを構成する他方の側が所定間隔離れた他のスロットに挿入されるように配置され、前記一のスロットでは径方向における内側に、前記他のスロットでは径方向における外側に配置され、コイルエンドにおいて前記スロットの内側から外側にあるいは外側から内側に移るように巻回される構造となっている。このような配置とすることにより、連続巻コイルは規則的に配置され、コイルのターン数を増やすことができ、コイルのターン数の増加に対する電気的接続点の増加を抑えることが可能である。またコイルのターン数を増やしても回転機の形状の大型化を抑えることができる。
本実施形態では、各スロットには回転軸に対する径方向に複数で周方向にはコイルを構成する導体を一列に配置する構造としている。このような構造により、連続して巻かれたコイルをスロットに挿入する工程が比較的簡単となり、生産性が向上する。また周方向に隣接するスロットに同相で同方向の電流を流すように前記コイルが配置されているので、生産性の向上に繋がる構造の回転電機を提供できる。また隣接するスロットに配置された同相の巻線を直列接続し、この直列接続された巻線を単位巻線とする固定子コイルを電気接続することで、固定子巻線が作られており、電気的特性のバランスを取り易くできる効果がある。
本実施形態で説明の固定子巻線は永久磁石型回転機にもまた誘導型回転電機にも使用可能である。誘導型回転電機として使用される場合の一例として以下の実施の形態では、誘導型回転電機は8極である。誘導型回転電機の極数を6極以上、特に8極や10極とすることで、固定子鉄心のコアバックの磁路の径方向厚さを薄くすることができる。また回転子に関しても同様に6極以上、特に8極や10極とすることで、回転子ヨークの磁路の径方向厚さを薄くできる。誘導電動機の場合、固定子の極数を多くすると回転子のかご型導体との関係で効率が低下することとなり、自動車の駆動系に使用する回転電機としては6極から10極が良く、その中で8極から10極がよりすぐれており、8極が非常に良い。自動車の駆動系に使用する回転電機とは停止中のエンジンを始動する、あるいはエンジンと共に車両を走行するためのトルクを発生する、あるいは単独のトルクで車両を走行する回転電機のことである。
次に図14〜図27に基づいて、回転電機の製造方法について説明する。本実施形態の特徴の一つは、コイルを固定子のスロット内へ挿入する方法であり、この方法について説明する。図14は、本実施形態の製造工程を示すフローチャートである。図15(A)は、芯がねにコイルを巻回した状態の斜視図である。また、図15(B)は、図15(A)の図における箇所(B)を拡大した図である。図16は、芯がねに巻回したコイルを更に加圧成形している状態の斜視図である。図17は、予備成形されたコイルの斜視図である。図18(A)や図18(B)は、予備成形されたコイルをさらに変形させた側面図である。図19は、予備成形されたコイルを固定子鉄心のスロット内に装着した状態の斜視図である。図20は、内側治具の押し出し部が退出している状態を説明する斜視図である。図21は、内側治具の押し出し部が突出している状態を説明する斜視図である。図22は、ティースサポート治具を装着した固定子鉄心の図中上側部分を切り取った状態の断面斜視図である。図23における(A)は、予備成形されたコイルを固定子鉄心のスロット内に装着し、更に内側治具及びサポート治具を装着した状態の斜視図である。図23における(B)は、(A)の図における部分断面拡大図である。図24は、押圧治具を装着した状態の部分断面斜視図である。図25は、仮成形を行った固定子の斜視図である。図26は、挿入工程におけるコイルの周回部分の変形を示す図である。図27は、コイルが固定子鉄心のスロット内に挿入された状態の斜視図である。
本実施形態の製造方法では、図14のフローチャートにおける工程111で、まず、表面に絶縁被膜した線、例えばエナメル線、を芯がね14に複数回巻回して、エレメントコイル4131aとエレメントコイル4131bをつくる。この芯がね14は、図15(A)に示すような角部がアールとなっている薄肉平板形状であり、長辺側の薄肉面には、図15(B)に示すように隣接して設けられた2本ずつのからげピン15が略等間隔で4対設けられている。
ここで芯がね14の長辺方向一端側のからげピン15の一側面に引っ掛けるようにしエレメントコイル4131aとエレメントコイル4131bが渦巻状となるように絶縁被覆線を複数回(本実施形態では3周)周回させる。その後、隣接するからげピン15の側面に引っ掛けるようにして更に絶縁被覆線を複数回(本実施形態では3周)周回させることで一対のエレメントコイル4131a,4131bが成形される。このように成形された一対のエレメントコイル4131a,4131bは、両方共、内周側から外周側に渦巻き状に巻回されるので2つのエレメントコイル4131a,4131bは、渦巻き部の外周側から隣の周回部分における渦巻き部の内周側に連続している。
また、一対のエレメントコイル4131a,4131bにおける巻き終わり側のコイル端末は、周回する渦巻き部の外周側となっており、この外周側にある固定子コイル413の端末部を芯がね14におけるからげピン15が設けられた長辺側の薄肉面に沿って、エレメントコイル4131a,4131bの対が機械角で90°周方向にずれるのに相当する長さであるスロットピッチ×11の長さだけ離して、次のからげピン15に引っ掛けて、同様に絶縁被覆線を周回させる。つまり、隣り合って設けられた一対のからげピン15は、エレメントコイル4131a,4131bの対が機械角で90°周方向にずれるのに必要な長さ毎に4対設けられており、このような周回部分の対を4つ成形するために4回同様の作業を繰り返すことで図15(A)に示すように芯がね14に巻回された固定子コイル413が形成される。
次に図14のフローチャートにおける工程112に示すように固定子コイル413を加圧成形して予備成形を完了させる。尚、図14のフローチャートにおける工程111と工程112が予備成形工程となる。芯がね14に巻回された固定子コイル413を加圧成形させるには、まず、図16に示すように芯がね14の厚さ方向両側から芯がね14と略同形状の加圧用のブロック16を2つ用いて挟持加圧し、固定子コイル413の両側の膨らみを除去する。尚、その後の成形を容易にする為に固定子コイル413に自己融着線を使用し、通電することで一体化されるように固めると良い。
次に芯がね14に巻回された固定子コイル413を芯がね14から取外す。尚、芯がね14から固定子コイル413を取出すには、からげピン15を着脱式にしたり、芯がね14を高さ方向に分割して巻線後に高さ方向の間隔を狭められるようにしたり、からげピン15を芯がね14内に退出できるようにしておけば良い。このように芯がね14から取外された固定子コイル413は、図17に示すように渦巻き状に複数回(本実施形態では3周)周回させた一対の辺となる直線部分4133を含む小判形状のエレメントコイル4131a,4131bの対を4対有し、それらの周回部分の対は渡り線4132を介して連続している。
次に図18(A)に示すように小判形状に成形された夫々の周回部分4131における直線部分4133を側面から押圧する。押圧するときに使用する装置は、一方側は平坦なダイ17となっており、他方側は略台形状のパンチ18となっているため、固定子コイル413における小判形状の周回部分4131がダイ17とパンチ18によって挟み込まれ、コイルエンド側の一端側の側面が凹んだ略P字形状に成形される。このように、固定子コイル413における小判形状の周回部分4131を略P字形状に成形して、凹んだ側を固定子鉄心412の外周側に配置することで、固定子コイル413が内周側に突出してしまうことがなく、回転子5を挿入する際の妨げになることがなくなる。
尚、固定子コイル413が内周側に突出しないようにする他の手段として、図18(B)に示すようなものも考えられる。図18(B)は、パンチ18よりも長手方向に長く、かつ、パンチ18と同様に略台形状の凹部をダイ171に形成して、固定子コイル413をパンチ18で挟み込むと、固定子コイル413における小判形状の周回部分4131は、周回部分における直線部分4133同士を結ぶ両端側、つまり、コイルエンドを一方向側に変形させた断面略コの字形状に成形される。ここで成形された周回部分4131における変形させた側が固定子鉄心412の外周側に配置されるようにすれば、図18(A)よりも固定子コイル413が内周側に突出してしまうことを確実に防止することができ、コイルエンドの高さを低くすることも可能となる。
この予備成形工程112において、図47〜図53で説明した絶縁紙の装着を行う。尚、絶縁紙の装着は、図17で示す芯がね14から外した後かつ図18の押圧前に装着を行ってもよいし、また図18の押圧後に装着を行っても良い。
以上で固定子コイル413の予備成形工程112が完了する。次に図14のフローチャートにおける工程113に示すように予備成形された周回部分4131の外周側直線部分4133aが固定子鉄心412のスロット411内に挿入されるように夫々の外周側直線部分4133aを周方向に配置する配置工程を行う。つまり、小判形状の周回部分4131における短軸方向が放射状となるように配置する。ここで、エレメントコイル4131a,4131bの対は、渡り線4132で接続されているので、渡り線を変形させながら配置する必要がある。これら一連の作業が配置工程となる。図19は、固定子鉄心412のスロット411内に周回部分4131の一方側、例えば外周側直線部分4133aが挿入された状態を示している。尚、図19は、わかり易く表示するために一部のコイル4131だけがスロット411に挿入された状態を示しており、渡り線4132の部分についても省略して表示してある。
また、配置工程113では、図18(A)、もしくは、図18(B)にて変形させた突出箇所が固定子鉄心412の外周側に向くように挿入されると共に、予備成形された連続した固定子コイル413は、隣り合って巻回されたエレメントコイル4131a,4131bの対の外周側直線部分4133aが隣り合うスロット411に挿入され、渡り線4132によって連続した他のエレメントコイル4131a,4131bの対の外周側直線部分4133aは、機械角で90°ずれたスロット411に夫々が挿入される。更に、その他のスロット411内にも予備成形された連続した周回部分4131における外周側直線部分4133aが軸方向から挿入されて、3相分の固定子コイル413における外周側直線部分4133aが全てスロット411内に挿入される。
また、固定子コイル413におけるエレメントコイル4131a,4131bの対を接続している渡り線4132の部分は、図7に示すように固定子鉄心412の外周側と内周側を跨ぐように略渦巻き状となるように成形して配置するが、後で行う挿入工程に備えて、軸方向にも略V字形状や略U字形状に突形状となるように成形しておくことが望ましい。
次に、図14のフローチャートにおける工程114に示すように周回部分4131における他方側、例えば内周側直線部分4133bに内側治具19を固定子鉄心412の軸方向から装着する。尚、図14のフローチャートにおける工程113と工程114が配置工程となる。ここで内側治具19の詳細について、図20及び図21を用いて説明する。
図20に示すように内側治具19は、外周に固定子鉄心412のスロット411と同数の外周側開口溝191を備えており、これらの外周側開口溝191は、スロット411と対向できるようになっている。また、外周側開口溝191の周方向幅は、スロット411の内周側開口の周方向幅より小さい幅、もしくは、同じ幅となっており、外周側開口溝191の軸方向長さは、スロット411の軸方向長さより長くなっている。また、各外周側開口溝191の底部には、スリット192が形成されており、これらのスリット192からは、板状の押し出し部材193が内外周方向、つまり、放射状に出没可能に設けられている。更に、これらの押し出し部材193の内周側には、拡大部材194が軸方向に移動可能に設けられている。この拡大部材194は、挿入する方向に向かって連続的に小径となるテーパ部が設けられており、拡大部材194を各押し出し部材193の内周に挿入するとテーパ部によるカム作用で図21に示すように押し出し部材193がスリット192から押し出される。
このように構成された内側治具19の各外周側開口溝191に各周回部分4131における内周側直線部分4133bが挿入されるように固定子鉄心412の軸方向から内側治具19を挿入する。図23(A)及び図23(B)に内側治具19を固定子鉄心412の内周に挿入した状態を示すが、わかり易くなるように図23(A)は、一部のコイル4131だけがスロット411に挿入された状態を示しており、内側治具19の詳細な形状、及び、渡り線4132の部分は省略して表示している。尚、上述したが図23(B)に明確に表されているように内側治具19の軸方向寸法は、固定子鉄心412のスロット411の軸方向寸法より長くなっている。つまり、外周側開口溝191の軸方向長さは、スロット411の軸方向長さより長くなっている。
次に、図14のフローチャートにおける工程115に示すように、固定子鉄心412にサポート部材20及びティースサポート治具21を装着する。まず、各スロット411の底部と周回部分4131における外周側直線部分4133aとの間の隙間にスロット411に沿った略棒状のティースサポート治具21を固定子鉄心412の軸方向から挿入する。図22は、固定子鉄心412における図中上側を断面とした図であるが、この図に示されているように全てのスロット411には、ティースサポート治具21とコイル4131の外周側直線部分4133aが対となって挿入されている。ここでコイル4131における夫々の外周側直線部分4133aに固定子鉄心412の回転方向の力が加わったとき、ティース414を周方向に倒す力が作用するが、全てのスロット411には、ティースサポート治具21が挿入されているため、ティース414を周方向に倒すことができなくなる。このため、後で行われる仮成形工程において、コイル4131の外周側直線部分4133aに固定子鉄心412の回転方向の力が加わったとしてもティース414の倒れを防止することができる。
更に、図23に示すように固定子鉄心412の軸方向両端において、各ティース414に相当する場所全てに、内周に向かって若干先細りテーパ形状に形成された棒状のサポート部材20を外周側から、コイル4131における各外周側直線部分4133a間に装着する。図23(B)に示すように、このサポート部材20は、装着した状態で内側治具19と軸方向の高さがほぼ等しくなるようになっており、固定子鉄心412との接触面とは逆側面の周方向両側が、なだらかな曲面となるような、略かまぼこ形状となっている。
次に、図14のフローチャートにおける工程116に示すように、固定子鉄心412に押圧治具23を装着する。この押圧治具23は、図24に示すように固定子鉄心412の軸方向両端に装着され、周回部分4131の直線部分4133同士を結ぶ両端、つまり、コイルエンドの頂部を固定子鉄心412の軸方向両側から押圧できるように構成されている。このため押圧治具23は、渡り線4132が設けられる側の押圧治具23aと、その反対側の押圧治具23bとによって構成されており、夫々の押圧治具23a,23bは、内周に内側治具19が挿入可能な穴231を有するリング形状となっている。また、渡り線4132が設けられた側の押圧治具23aには、渡り線4132の形状に沿った溝232が形成されており、これらの溝232に渡り線4132を挿入することにより、渡り線4132の形状を整えながら、コイルエンドの頂部に押圧力を加えることができる。
次に、図14のフローチャートにおける工程117に示すように、内側治具19を固定子鉄心412に対して回転させて周回部分4131の両端を広げ、この結果小判形状であった周回部分4131を略亀甲形状に成形する。この作業が仮成形工程となる。詳細には、固定子鉄心412の外周に複数設けられた電磁鋼板を溶接するための溝に固定部材を固定した状態で、コイルエンドの頂部を押圧治具23で固定子鉄心412の軸方向両側から押し付けながら、内側治具19を時計方向に所定角度だけ回転させて、周回部分4131における内周側直線部分4133bが別の周回部分4131における外周側直線部分4133aと重なって径方向に一列になるように成形する。尚、本実施形態では、周回部分4131における内周側直線部分4133bを固定子鉄心412における5つのスロット411分ずれる角度だけ回転させている。つまり、亀甲形状に成形されたコイル4131の外周側直線部分4133aの内側には、5つ離れたスロット411に挿入されているコイル4131の内周側直線部分4133bが重なるように固定子鉄心412のスロット411と内側治具19の外周側開口溝191とが対向するようになっている。本実施形態では、固定子鉄心412に対して内側治具19を回転させているが、固定子鉄心412を内側治具19に対して回転させてもよい。
図47〜図53で説明した絶縁紙の装着によれば、巻線された形状から、スロット内に挿入するための形状に変形させる時にはコイル全体として柔軟性を持たせ、変形した後でスロット内に挿入する時には、スロット挿入部がほぐれないように固定する性質を両立したコイルが実現可能であり、この工程117において好都合である。また、コアスロット部が強固に固定され、コイルエンド部は柔軟性が確保されることで信頼性の高いモータが得られる。また材料表面に潤滑性があるのでコイルをコアへ組立する際の作業性が向上する。
図25は、全ての周回部分4131が整列した状態で互いに広がった状態、すなわち略亀甲形状に成形された状態を示しているが、わかり易くなるように、内側治具19の詳細な形状,渡り線4132,押圧治具23は省略して表示している。尚、渡り線4132については、コイルエンドの頂部同士を繋いでいるため、周回部分4131を略亀甲形状に成形したとしても渡り線4132の形状が変更されず、形状を保ったまま渡り線4132全体が回転するだけである。つまり、渡り線4132が挿入された押圧治具23a,23bが内側治具19に追従して回転する。
このように本実施形態では、押圧治具23で周回部分4131を押し付けながら亀甲形状に成形しているので、周回部分4131が変形する際に作用する応力を分散させることができ、成形が容易となると共に、固定子コイル413の表面に施されたワニス等の絶縁被覆を傷付けることも防止することができる。更には、コイルエンドの軸方向長も短くすることが可能となる。
次に、図14のフローチャートにおける工程118に示すように、周回部分4131における内周側直線部分4133bを固定子鉄心412のスロット411内に挿入する。この作業が挿入工程となる。仮成形工程が終了した後、挿入工程を行う前に、まず、サポート部材20及びティースサポート治具21を取外す。その後、内側治具19の拡大部材194を各押し出し部材193の内周に挿入して、図21に示すように押し出し部材193をスリット192から押し出すことで内周側直線部分4133bを固定子鉄心412のスロット411内に挿入する。ここでスロット411と外周側開口溝191の周方向幅が同一、もしくは、スロット411の周方向幅の方が大きく、また、固定子鉄心412におけるスロット411の軸方向長さよりも周回部分4131における各直線部分4133の軸方向長さが長くなっているので、周回部分4131が固定子鉄心412におけるティース414の先端に引っ掛かってしまうことを防止することができる。このため、固定子鉄心412のスロット411内に固定子コイル413が挿入された状態では、図26に示すように、固定子鉄心412のスロット411内から連続した方向に延びる延出部418がスロット411の軸方向両端側に延出するようになる。
また、スロット411は、放射状に形成されているため、図26に示すように周回部分4131における一対の直線部分4133間を広げる必要がある。このため、仮成形工程と同様に、コイルエンドの頂部を押圧治具23で固定子鉄心412の軸方向両側から押し付けながら内周側直線部分4133bを挿入することで、固定子コイル413の挿入を容易とすることができ、コイルエンドの軸方向長も短くすることができる。更に、一対の直線部分4133間が広がることに伴い、渡り線4132の径方向長さを伸ばす必要があるが、配置工程で軸方向に略V字形状や略U字形状に突形状となるように成形していた渡り線4132を軸方向に略同一面となるように変形させることで渡り線4132の径方向長さを伸ばすことができる。
次に、図14のフローチャートにおける工程119に示すように、押圧治具23及び内側治具19を固定子鉄心412の内周から取出し、固定子鉄心412における各ティース414の先端側の周方向両側面に設けられた各保持溝417内に固定子鉄心412の軸方向から、夫々、保持部材416を装着する。図27及び図28に押圧治具23及び内側治具19を取外した固定子鉄心412を示す。この図27及び図28も、わかり易くなるように渡り線4132の部分を省略して表示している。本実施形態は、周回部分4131におけるコイルエンドの頂部を押圧治具23で押し付けながら仮成形工程及び挿入工程を行ったため、図28から明らかなようにコイル4131における夫々の直線部分4133間の幅αよりも、固定子鉄心412の軸方向に対して傾斜したコイルエンドにおけるコイル4131間の幅βの方が小さくなっている。このように本実施形態におけるコイルエンドの軸方向長さは短くすることができる。
また、保持部材416は、固定子鉄心412の軸方向長さをほぼ同じ長さとなっており、保持部材416の断面は、内周側の辺長さが短い略台形となっている。これに対して、各保持溝417も保持部材416に合わせた形状に形成されているため、固定子コイル413に内周側に引っ張られるような力を生じた際、なるべく大きな面積で保持部材416と保持溝417とを接触させることができる。
次に、図14のフローチャートにおける工程120に示すように、各固定子コイル413の端末を図4及び図12のように接続するために図10に示すような固定子コイル413とは連続しない、別に設けられた4本の渡り線4132aを用いて溶接例えばTIG溶接等によって接続する。この作業が接続工程となる。尚、別に設けた渡り線4132aも固定子鉄心412の外周側と内周側を跨ぐように収束しているので渡り線4132全体としては略渦巻き状となるように配置される。
以上で固定子4が完成するが、回転電機としては、図14のフローチャートにおける工程121に示すように、各部品を組み付けたハウジング1内に固定子4を固定して、更に固定子4の内周側に回転子5を軸受としてのボールベアリング7a,7bを用いて回転自在に支持することで製造される。この作業が回転電機の組立工程である、取付工程となる。
以上、第1実施形態について説明したが、第1実施形態の作用効果を以下に示す。
絶縁被覆された導体を連続したコイル状に成形し、次に上記コイルを固定子4の内側に配置し、上記コイルを構成するそれぞれのターンの一方の辺を固定子4の各スロット411の開口からそれぞれスロット内に挿入し、次に上記コイルを構成するそれぞれのターンの他方の辺を上記固定子4の各スロット411の開口からそれぞれスロット内に挿入して上記連続したコイルを上記固定子のスロットに挿入し、次にコイル端を電気的に接続し、固定子4内部に回転し4を回転可能に取付けて回転電機を生産している。この生産方法では連続して巻かれたコイルをスロット内に装着するので、電気的な接続作業を必要とする接続点を少なくでき、生産性が向上する。ここで上記コイルのターンは一回でも良いし、複数回でも良い。特に複数回の方が効果が大きいので、実施の形態ではターンの数を複数回とした周回部分を各スロットに入れる構造としている。上述の通り、周回部分が1回であっても固定子巻線全体の接続作業を必要とする接続点の数を減らすことが可能である。
第1実施形態の回転電機の製造方法は、連続したコイルを、対向する一対の直線部分を含む渦巻き状に複数回周回させて予備成形を行う予備成形工程と、該予備成形された前記コイルにおける夫々の前記直線部分が内周側と外周側に位置するように複数の周回部分を周方向に配置する配置工程と、前記コイルの周回部分における内周側と外周側の前記直線部分を相対回転させる仮成形工程と、該仮成形されたコイルにおける外周側の前記直線部分が前記スロットの底部側に、内周側の前記直線部分が前記コイル挿入部側に位置するように前記コイルを前記スロット内に挿入する挿入工程と、前記コイルにおける端末部分を用途に応じた夫々の箇所に接続する接続工程と、前記固定子内に前記回転子を軸受によって相対回転可能に取付ける取付工程とからなることを特徴としている。このようにコイルの周回部分は何周しようとも接続箇所は増大しないため、接続箇所を出来るだけ少なくして、固定子鉄心にコイルを容易に巻回することができる。このため、接続工数の低減,絶縁処理の軽減,強度信頼性の向上が実現できる。また、コイルエンドにおいてスロットの内周側と外周側を跨ぐように巻回されているので、異なるスロットから延びるコイルエンド同士が固定子鉄心における軸方向に並ぶのではなく、周方向に干渉しないように並ぶため、コイルエンド、ひいては回転電機の軸長を小さくできる。更にコイルの冷却性も向上することができる。また、コイルを連続して周回させていることから、スロット内でのコイルの本数を増大させることができるので、高調波による損失を低減することが可能となる。また、固定子鉄心にコイルを容易に装着できるので製造を自動化することができ、量産化することを可能とする。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、前記仮成形工程を行う際、前記コイルの前記直線部分の両端が前記スロットから離れた位置となるように、前記仮成形工程を行う前に前記直線部分の両端にサポート治具を挿入した状態で内周側と外周側の前記直線部分を相対回転させるようにしている。このため、挿入工程で、コイルの湾曲した部分が固定子鉄心のティース先端に引っ掛かってしまうことを防止することができるため、容易に直線部分をスロット内に挿入することができる。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、仮成形工程で他の前記周回部分の前記直線部分同士が内外周に重なるように成形している。このため、スロット内に直線部分を挿入し易くすることができ、更には、コイルが径方向に整列しているのでスロット内でのコイルの占積率を向上させることができる。特に、本実施形態では、断面が略矩角形状のコイルを用いているため、更に占積率を向上させることができる。このため、高出力と良好な回転特性とすることができる。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、前記予備成形工程で周方向に複数配置された一対の前記周回部分が渡り線を介して連続するように成形している。このため、各相における周回部分を効率よく配置することができ、接続箇所を出来るだけ少なくすることができる。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、前記予備成形工程で前記渡り線が前記固定子における軸方向一端側だけに設けられるように成形している。このため、渡り線が固定子における軸方向両端にあるよりも固定子の軸方向長さを短くすることができる。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、前記予備成形工程で前記渡り線が前記固定子鉄心の外周側と内周側を跨ぐように略渦巻状となるように成形している。このため、渡り線が固定子の軸方向に重なるような箇所をできるだけ少なくすることができ、固定子の軸方向長さを短くすることができる。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、前記予備成形工程で前記渡り線が前記固定子における軸方向略同一面上に位置するように成形している。このため、更に固定子の軸方向長さを短くすることができる。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、前記配置工程で前記コイルにおける外周側の前記直線部分を前記固定子鉄心の前記スロット内に配置し、前記仮成形工程では、前記コイルにおける内周側の前記直線部分と前記スロット間を内側治具によって相対回転させて仮成形している。このため、仮成形したコイルを治具から取出して、更に固定子鉄心内に配置し直すような作業が不要となる。このため、作業性を向上させることができ、製造工程を短縮させることができる。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、前記仮成形工程を行う前に、夫々の前記スロットにおける底部と前記コイルとの間にティースサポート治具を挿入し、その状態で仮成形を行うようにしている。このため、仮成形する際、コイルに回転方向の力が加わり、ティースを周方向に倒す力が作用するが、全てのスロットにティースサポート治具が挿入されているため、ティースを周方向に倒すことができなくなる。このため、コイルに回転方向の力が加わったとしてもティースの倒れを防止することができる。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、前記内側治具が前記コイル挿入部と対向するように前記スロットと同数の外周開口溝を備えると共に、該外周開口溝の底部から内外周に出没可能な押し出し部を備えており、前記挿入工程は、前記押し出し部を突出させることで行うようにしている。このため、仮成形工程から挿入工程に至るまで内側治具を固定子鉄心内に配置したままでよい。このように本実施形態では、治具の出し入れを最小限として、作業工数を出来るだけ少なくすることができる。また、この内側治具は、固定子鉄心の内外径が変更になっても同じ内側治具で対応することができる。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、前記挿入工程後、前記接続工程を行う前に、前記スロットにおける前記コイル挿入部に絶縁機能を有する保持部材を固定するようにしている。このため、回転子との間で磁束が生じてもスロットから回転子側にコイルが飛び出してしまうのを防止することができる。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、前記仮成形工程及び前記挿入工程で前記コイルの前記直線部分同士を結ぶ両端部分を押圧しながら行うようにしている。このため、仮成形工程及び挿入工程でコイルに作用する応力を分散させることができるので成形が容易となると共に、コイルの表面に施されたワニス等の絶縁被覆を傷付けることも防止することができる。更には、コイルエンドの軸方向長も短くすることが可能となる。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、前記予備成形工程で連続したコイルによって一対の前記周回部分が隣り合うように成形している。このため、隣接した周回部分が隣り合うスロットに挿入されるので、隣接した周回部分が同じスロット内に挿入されるよりも、スロット数を多くすることができる。このため、各相の起磁力を合成した波形を滑らかな波形とすることができるのでトルク脈動や騒音を低減することが可能となる。また、スロット数が多くできることで、高調波による渦電流損失を低減することもできる。更に、コイルにおける周回部分同士が周方向に離間するので冷却性を向上することができる。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、前記予備成形工程で前記周回部分における前記直線部分同士を結ぶ両端側を略P字形に成形し、前記配置工程では、略P字形の凸部が前記固定子の外周側となるように配置している。このため、コイルが内周側に突出してしまうことがなく、取付工程で回転子を挿入する際の妨げになることがなくなる。また、前記周回部分における前記直線部分同士を結ぶ両端側を一方向に変形させ、前記配置工程では、変形させた方向が前記固定子の外周側となるように配置するようにすれば、コイルが内周側に突出してしまうことを更に確実に防止することができる。
また、第1実施形態の回転電機の製造方法は、前記予備成形工程を行った後に夫々の線材同士を一体的に固着している。このため、予備成形工程以降の工程でコイルの線同士が離間してしまうことがなく、容易にスロット内に挿入することができる。また、予備成形されたコイルの周回部分を略亀甲形状に成形する際に積層されたコイルを一体的に変形させることができるので成形性もよくなる。
また、第1実施形態の回転電機は、コイルの断面を固定子鉄心の法線方向が長く、径方向が短い略長方形としている。このため、スロット内でのコイルの本数を出来るだけ多くすることができ、更に、高調波による損失の低減効果をより大きくすることができる。また、スペース的にもコイルエンド側に突出する側の長さが短くなるので、コイルエンドの突出量をより少なくすることができる。更に、薄肉のコイルを一枚ずつ変形させて成形するのは困難であるが、本実施形態では、重ね巻きされて束ねられているので容易に成形することができる。
また、第1実施形態の回転電機は、渡り線が周回部分の外周側に引き出される端末同士を繋いでいるため、渡り線と周回部分が交差することがない。このため、固定子の軸方向長さを短くすることができる。
また、第1実施形態の回転電機は、スロットにおけるコイル挿入部をスロットにおけるコイルが装着される部分とほぼ同等もしくは、コイルが装着される部分以上の周方向幅を有するオープンスロットにしているので、コイルをスロット挿入部から挿入し易く、また、スロット内でのコイルの占積率を低下させることがない。
次に回転電機の製造方法における第2実施形態について図30〜図32に基づいて説明する。図30は、第2実施形態のコイルにおける周回部分の対の巻き方を簡略化して表示したものである。図31は、第2実施形態における予備成形方法を説明した図である。尚、図31(A)は、予備成形を行っている状態を正面から見た図であり、図31(B)は、図31(A)をA−A側面から見た図である。図32は、第2実施形態の予備成形方法を用いて成形したコイルの斜視図である。尚、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼,同一の符号で表す。
第1実施形態と第2実施形態は、固定子コイル413における渦巻き状に周回させた一対のエレメントコイル4131a,4131bを連続的にどのように成形しているかが異なるため、予備成形工程が異なるがその他の工程は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
この場合、図47〜図53で説明した絶縁紙の装着は、この予備成形の際に実施することが好ましい。
第1実施形態では、巻き始めのコイル端末が内周側となり、外周側に渦巻き状となるように第1のエレメントコイル4131aを巻回し、次に外周側に延びたコイルを第2のエレメントコイル4131bの内周側に延ばし、更に外周側に渦巻き状となるように第2のエレメントコイル4131bを巻回している。つまり、第1のエレメントコイル4131aと第2のエレメントコイル4131bとを繋ぐためのコイル間接続線4134は、外周側から内周側に向かうようになっているため、コイルの線同士が交差する部分が生じてしまう。
これに対して、第2実施形態では、図30に示すように巻き始めが第1のエレメントコイル4131aの外周側となり、内周側に渦巻き状となるように第1のエレメントコイル4131aを巻回し、次に内周側に延びたコイルを第2のエレメントコイル4131bの内周側に延ばし、更に外周側に渦巻き状となるように第2のエレメントコイル4131bを巻回している。つまり、第1のエレメントコイル4131aと第2のエレメントコイル4131bとを繋ぐためのコイル間接続線4134は、内周側同士で繋がれているためコイルの線同士が交差する部分が生じない。このような巻き方を一般的にα巻といい、この巻き方を採用することにより、コイルエンドを更に簡略化することができ、固定子4の軸方向長さを短縮することができる。尚、図30では、1対のエレメントコイル4131a,4131bしか表示していないが、実際には図32に示すように4対の周回部分を連続した線によって成形する。
次に、このような周回部分の対を予備成形する予備成形工程について説明する。
第2実施形態の予備成形工程は、図31(A)に示すように、まず、連続したコイルを略コの字形状の凹凸となるように成形する。このとき、凹凸部分の頂点間の長さ、つまり、図31(A)において上下方向の長さは、1対のエレメントコイル4131a,4131b分の長さとし、最終的に渡り線4132となる凹凸部分の頂点の長さ、つまり、図31(A)において左右方向の長さは、渡り線4132の長さにしておく。更に、凹凸部分の頂点間における全ての略中間位置をコイルの断面長さ分だけクランク状に折曲させて、コイル間接続部4134を成形しておく。
次に外周に小判形状の成形溝253を有するα巻成形治具25に凹凸形状に成形されたコイルを装着する。α巻成形治具25は、板状部材251に脱着自在に設けられた複数の仕切り252を有しており、各仕切り252によって複数の成形溝253が構成されている。これらの成形溝253は、隣接して対となるように配置されており、更に、板状部材251の長手方向4箇所に隣接した成形溝253の対が渡り線4132の長さだけ間隔を空けて設けられている。また、隣接した成形溝253の対における成形溝253間の仕切り252には、1本分のコイルが挿通可能な挿通溝254が設けられており、この挿通溝254は小判形状の長軸方向一端側に位置している。尚、詳細な説明は省略するが板状部材251は伸縮可能となっている。
このように構成されたα巻成形治具25の挿通溝254にコイルのコイル間接続部4134を挿通させる。図31は、挿通溝254にコイルのコイル間接続部4134を挿通させた状態を示している。
次に各成形溝253に夫々設けられた、図31(B)に示すようなローラー255によってコイルを成形溝253側に押し付けながら周回させて周回部分を成形する。尚、隣接した成形溝253の対に夫々設けられるローラー255は、周回する方向が異なるようになっている。
次に各成形溝253の両側にある仕切り252を全て取外し、板状部材251を伸縮させて成形されたコイルをα巻成形治具25から取外す。このようにして、図32に示すコイルが成形される。更に第1実施形態と同様に、図14における112の作業を行い予備成形工程が終了する。尚、予備成形工程以外の工程は、第1実施形態と同様に行う。
このように第2実施形態の回転電機の製造方法は、予備成形工程で一対の前記周回部分同士が内周側の端末にて連続するように成形している。このため、周回部分4131の対同士とを繋ぐためのコイル間接続線が内周側同士で繋がれているため、コイルの線同士が交差する部分が生じない。よって、コイルエンドを更に簡略化することができ、固定子の軸方向長さを短縮することができる。
また、第2実施形態の回転電機の製造方法は、前記予備成形工程で予め凹凸を成形した状態で、該凹凸の頂部を成形型に沿って周回させるように成形するようにしている。このため、周回部分同士が内周側の端末にて連続するように成形した周回部分の対を容易に成形することができ、更には製造を自動化することも可能となる。
次に図33〜図41に基づいて、回転電機の製造方法における第3実施形態について説明する。図33は、本実施形態の特徴となる配置工程から挿入工程までの製造工程を示すフローチャートである。図34は、スライド治具にコイルを配置した状態の斜視図である。図35は、スライド治具をスライドさせてコイルの周回部分を略亀甲形状に成形している状態の斜視図である。図36は、スライド治具における固定溝の部分を拡大した斜視図である。図37は、図36における一方側の固定溝を傾斜させた状態の斜視図である。図38は、内側治具に略亀甲形状のコイル成形体を巻き付けている状態の斜視図である。図39は、コイルを装着した内側治具を固定子鉄心内に配置する状態の斜視図である。図40は、挿入工程を行った状態の斜視図である。尚、図40(A)は、全体図である。また、図40(B)は、内側治具の押し出し部材が退出している状態の斜視図であり、図40(A)は、内側治具の押し出し部材が突出している状態の斜視図である。図41は、内側治具を取出している状態の斜視図である。尚、他の実施形態と共通する部位については、同一称呼,同一の符号で表す。
本実施形態は、配置工程から挿入工程までが第2実施形態と異なるが、その他の工程は、第2実施形態と同様である。このため、本実施形態では、配置工程から挿入工程までを説明する。
本実施形態の製造方法は、予備成形工程を第2実施形態と同様に行い、図33のフローチャートにおけるステップ221で示すように、長手方向に延びるコイル成形体をスライド治具35に装着する。この作業が配置工程となる。スライド治具35は、固定側治具35aと移動側治具35bとに分かれて構成されており、夫々が長手方向に延びる略板状に形成され、移動側治具35bが固定側治具35aに対して長手方向に移動可能となっている。尚、この移動側治具35bの移動は、図36及び図37に示すようなガイド352に沿って移動するようになっている。
また、固定側治具35aと移動側治具35bが対向する夫々の面には、短辺方向に延びる固定子鉄心412と同数の固定部としての固定溝351が等間隔に平行に設けられており、これらの固定溝351の長さは、固定子鉄心412のスロット411の長さより長くなっている。更に図36及び図37に示すように、移動側治具35bは、固定溝351を構成する各固定片353が可動するようになっており、図36に示す底面に対して各固定片353が垂直となっている状態から図37に示すように底面に対して各固定片353が傾斜した状態に同時に可動するようになっている。尚、可動する機構の構成については詳細な説明を省略するが、リンク機構やカム機構等を採用することで各固定片353を同時に可動させることができる。
このように構成されたスライド治具35において、まず、図34に示すように固定側治具35aと移動側治具35bの全ての固定溝351が対向する状態とし、スライド治具35の短辺方向から各固定溝351に予備成形を行ったコイルの小判形状の周回部分4131を挿入する。尚、図34では、わかり易くなるように、4つのコイル4131の周回部分の対を連続したコイルで成形した1つのコイル成形体だけを固定溝351に挿入した状態を示しているが、実際には、全ての固定溝351内にコイル4131の周回部分を挿入する。
次に図33のフローチャートにおけるステップ222で示すように、移動側治具35bを固定側治具35aに対して長手方向にスライドさせ、コイルの周回部分4131を略亀甲形状に仮成形する。図35には、移動側治具35bを固定側治具35aに対して長手方向にスライドさせている状態を示しているが、最終的には、図34の状態から移動側治具35b側の固定溝351が固定側治具35aにおける5つ先の固定溝351と対向する位置まで移動させる。尚、図示していないが、第1実施形態と同様に、コイル4131の周回部分のコイル頂部を押圧しながら移動側治具35bをスライドさせるとコイル4131の周回部分を容易に略亀甲形状に成形することができる。
次に図33のフローチャートにおけるステップ223で示すように、略亀甲形状されたコイル4131の周回部分における移動側治具35b側の直線部分4133を断面が所定の角度となるように曲げる。尚、図33のフローチャートにおけるステップ222とステップ223が仮成形工程となる。曲げる方法としては、図37に示すように、移動側治具35bの全ての固定片353を同時に傾斜させることで行う。ここで固定子コイル413は、断面が矩角形状の平角線を採用しているため、固定片353が傾斜することに伴ってコイルの直線部分4133の断面も傾斜するように成形される。この傾斜する角度は、次工程でコイル成形体を環状とした際に、固定側治具35aと移動側治具35bに夫々挿入されていたコイルの直線部分4133の断面が放射状に重なる角度としておくとよい。
次に図33のフローチャートにおけるステップ224で示すように、内側治具36に周回部分4131が亀甲形状に成形されたコイル成形体を装着する。内側治具36は、第1実施形態における内側治具19と同様、外周に固定子鉄心412のスロット411数と同様の外周側開口溝361を備えており、これらの外周側開口溝361の周方向幅は、スロット411の内周側開口の周方向幅より小さい幅、もしくは、同じ幅となっており、外周側開口溝361の軸方向長さは、スロット411の軸方向長さより長くなっている。また、図40に示すように、各外周側開口溝361の底部には、スリット362が形成されており、これらのスリット362からは、板状の押し出し部材363が内外周方向、つまり、放射状に出没可能に設けられている。尚、詳細な構造の説明は省略するが、内側治具36の軸方向一端側に設けたレバー364を周方向に回転させることで押し出し部材363がスリット362から放射状に出没するようになっている。
このように構成された内側治具36における各外周側開口溝361に、図38に示すように、コイル4131の周回部分の直線部分4133が夫々挿入されるように巻き付ける。このとき、固定側治具35aと移動側治具35bに夫々挿入されていたコイルの直線部分4133を重ねて各外周側開口溝361に挿入するが、長手方向に延びるコイル成形体の両端における夫々5つ分の直線部分4133は、互いに重なるように外周側開口溝361に挿入する。ここで、移動側治具35bに挿入されていたコイルの直線部分4133の断面と、固定側治具35aに挿入されていたコイルの直線部分4133の断面は、図33のフローチャートにおけるステップ223の工程で互いに角度を持たせているので、長手方向に延びるコイル成形体を内側治具36に巻き付けるだけで平角線に形成されたコイルの断面を放射状に重なり合わせることができる。以上で、仮成形工程が終了する。尚、図38は、わかり易くするために内側治具36の詳細な構造及びコイルの渡り線4132を省略している。
次に図33のフローチャートにおけるステップ225で示すように、コイルの各直線部分4133を固定子鉄心412のスロット411内に挿入する。この作業が挿入工程となる。図39に示すように仮成形工程で固定子コイル413を巻き付けた内側治具36を固定子鉄心412の内周側に配置する。本実施形態における固定子鉄心412のスロット411は、第1実施形態とは異なっており、夫々のスロット411が周方向一方向に傾斜している。このようにスロット411を周方向に傾斜させることで環状に成形した固定子コイル413を挿入し易くすることができる。尚、図39でも、わかり易くするためにコイルの渡り線4132を省略している。
次に図40(A)に示すように内側治具36のレバー364を周方向に回転させる。上述したとおり、このレバー364を回転させることで図40(B)の押し出し部材363がスリット362から退出した状態と図40(C)の押し出し部材363がスリット362から突出した状態を切り替えることができる。詳細に説明すると、レバー364が図40(A)の状態では、図40(B)に示すように押し出し部材363がスリット362から退出しており、レバー364を図40(A)の矢印の方向に回転させると、図40(C)に示すように押し出し部材363がスリット362から突出して、コイルの各直線部分4133を固定子鉄心412のスロット411内に押し出す。このようにレバー364を回転させることで固定子コイル413をスロット411に挿入し、更に、図41に示すようにレバー364を矢印の方向に回転させて押し出し部材363をスリット362から退出させて、内側治具36を固定子鉄心412の内周から取出す。その後は、第1実施形態と同様に接合工程と取付工程を行えばよい。尚、図40及び図41も、わかり易くするためにコイルの渡り線4132を省略している。
以上、第3実施形態について説明したが、第3実施形態の回転電機の製造方法は、連続したコイルを、対向する一対の直線部分を含む渦巻き状に複数回周回させて予備成形を行う予備成形工程と、該予備成形された前記コイルの夫々の前記直線部分が軸方向に並ぶように、異なる成形型に夫々対向して設けられた固定部に別々に固定する配置工程と、前記直線部分が固定された別々の前記成形型の少なくとも一方を直線的に相対移動させて長手方向に延びるコイル成形体を成形し、その後、該コイル成形体の長手方向両端が重なり合うように環状に成形する仮成形工程と、該仮成形されたコイルにおける外周側の前記直線部分が前記スロットの底部側に、内周側の前記直線部分が前記コイル挿入部側に位置するように前記コイルを前記スロット内に挿入する挿入工程と、前記コイルにおける端末部分を用途に応じた夫々の箇所に接続する接続工程と、前記固定子内に前記回転子を軸受によって相対回転可能に取付ける取付工程とからなる。このため、本実施形態は、第1実施形態の作用効果に加え、固定子鉄心のティースに力が作用しないようにすることができる。このため、ティースの幅が小さく倒れやすいものであっても連続した重ね巻きコイルを挿入することができる。
また、第3実施形態の回転電機の製造方法は、前記コイルを断面が矩角形状の平角線を用い、前記仮成形工程で前記コイル成形体を環状とした際に前記コイルの前記直線部分の断面が放射状となるように、前記コイル成形体が前記成形型の固定部に固定されている状態で、少なくとも一方の前記成形型の前記固定部を可動させるようにしている。このため、コイル成形体を環状とした際に外周側の直線部分と内周側の直線部分が重なるようにすることができ、挿入工程での挿入作業を容易とすることができる。
また、第3実施形態の回転電機の製造方法は、前記仮成形工程で複数の外周開口溝を備えた内側治具に前記コイル成形体における前記直線部分を巻き付けて環状に成形している。このため、固定子鉄心の内周に沿ってコイル成形体を環状にすることができ、挿入工程での挿入作業を容易とすることができる。
また、第3実施形態の回転電機の製造方法は、前記内側治具が前記外周開口溝の底部から内外周に出没可能な押し出し部を備えており、前記挿入工程は、前記押し出し部を突出させることで行うようにしている。このため、治具の数を出来るだけ少なくすることができ、更に治具の固定子鉄心内への出し入れも最小限に留めることができる。
以上が本発明における回転電機の製造方法の実施形態であるが、コイルの他の実施形態及び回転子の他の実施形態について以下に説明する。
次に第4実施形態について、図42に基づいて説明する。図42は、エレメントコイル4131aとエレメントコイル4131bからなるコイルの組つまりコイル対同士を繋ぐ渡り線を接続することを示す図である。尚、他の実施形態と共通する部位については、同一称呼,同一の符号で表す。
第1実施形態の固定子コイル413は、図8に示すとおり、4組すなわち4対のエレメントコイル4131a,4131bの対を連続した線で成形したものであったが、第4実施形態は、1対の周回部分毎に異なる固定子コイル413を成形し、最後に夫々のエレメントコイル4131a,4131bの対を溶接等で接続している。具体的には、1対のエレメントコイル4131a,4131bにおけるコイル端末の一端側を渡り線4132となる長さだけ長くしておき、固定子鉄心412のスロット411内に挿入された後に渡り線4132を変形させて他の周回部分の対とTIG溶接等で接続している。
このように後で渡り線4132を接続できるようにしておけば、固定子鉄心412のスロット411内にコイル成形体が拡径しながら挿入する際の渡り線4132の変形を考慮する必要がない。このため、接続箇所は多少増大するが渡り線4132の配置自由度を向上させることができる。また、渡り線4132は周回部分4131の一方側のコイル端末であるため、渡り線だけを別の線で構成するよりも部品点数及び接続箇所を低減することができる。尚、図42における1対の周回部分は第2実施形態で説明した巻き方によって巻回されたものである。
次に第5実施形態について、図43に基づいて説明する。図43は、第5実施形態の固定子の斜視図である。尚、他の実施形態と共通する部位については、同一称呼,同一の符号で表す。
第5実施形態は、第1実施形態に対して、渡り線4132の接続の仕方が異なっており、更に第2実施形態と同様に1対のエレメントコイル4131a,4131bをα巻きで巻回したものであるが、その他の構成は同一である。第1実施形態の渡り線4132は、各周回部分4131におけるコイルエンドの頂部から延びるように構成していたが、第5実施形態の渡り線4132は、各周回部分4131におけるスロット411の底部側からコイル挿入部側を跨ぐように設けられている。詳細に説明すると各周回部分4131の外周側に位置するコイル端末のうちスロット411の底部側に位置するコイル端末を周回部分4131から固定子鉄心412の外周側に向かって階段状に変形させてコイルエンドの頂部側に延ばす。更にコイルエンドの外周側から内周側に第1実施形態と同様に略渦巻き形状に延ばし、他の周回部分4131におけるコイル挿入部側に連続する。このコイル挿入部側もスロットの底部側と同様に固定子鉄心412の内周側に向かって階段状に変形させてコイルエンドの頂部側と連続している。尚、図43は、中性点となる渡り線及び連続した線で構成される各コイル成形体同士を接続する部分は省略して表示してある。
このように第5実施形態は、渡り線4132がコイルエンドの頂部から延びていないので、固定子4の軸方向長さを更に小さくすることができる。また、平角線の長辺方向が固定子4の軸方向を向くように渡り線が構成されているので、小さな径の固定子鉄心412であっても十分に渡り線を配置することができる。
尚、第5実施形態の渡り線4132は、コイルエンドの頂部から延びておらず、スロット挿入部分から延びているため、コイルの周回部分4131を略亀甲形状とする際に長さが大きく変化してしまう。このため、第1実施形態にて説明したように周回部分4131を略亀甲形状に成形する前に、渡り線4132を軸方向、もしくは、径方向等に略V字形状や略U字形状に折りたたんでおき、略亀甲形状に成形したり、固定子鉄心412のスロット411内に挿入したりするときに折りたたんだ渡り線4132が伸びるようにしておけばよい。また、1対のエレメントコイル4131a,4131bは図30で説明の巻き方だけでなく上述の第1実施形態のような巻回方法であっても構わない。
次に第6実施形態について、図44に基づいて説明する。図44は、第6実施形態の固定子の斜視図である。尚、他の実施形態と共通する部位については、同一称呼,同一の符号で表す。
第6実施形態は、第5実施形態に対して、渡り線4132の形状や配置が異なるが、その他は第5実施形態と同様である。第6実施形態の渡り線4132は、第4実施形態のようにコイルエンドの頂部より先端側で渦巻き状としていたが、第6実施形態の渡り線4132は、渦巻き状ではなく、スロット411の底部側、つまり、固定子鉄心412の外周側で螺旋状に成形されて、他の周回部分4131と接続されている。この第6実施形態では、渡り線4132を固定子鉄心412の外周側で螺旋状に成形し、コイルエンドの部分で周回部分4131のコイル端末と接続するように構成されているが、図44では、コイル同士を溶接する前の状態を示している。しかしながら、実際には、図44の状態からTIG溶接等を用いて固定子4の軸方向に突出している線同士を溶かして接合するため、軸方向に突出した部分は、ほぼコイルエンドの位置まで溶けて退出することになる。
このように第6実施形態では、接続箇所が多少増えてしまうものの、コイルエンドの頂部から固定子4の軸方向にあまり突出することなく渡り線4132を配置することができるため、第5実施形態よりも更に固定子4の軸方向を短縮することが可能となる。尚、成形方法を工夫すれば渡り線4132を周回部分4131と連続した線で構成することも可能である。更に、螺旋状に成形する部分は、コイル挿入部側、つまり、固定子鉄心412の内周側で螺旋状となっていても構わず、固定子鉄心412の内周側及び外周側の両方が螺旋状となっていても構わない。
以上、各実施形態の作用効果について説明したが、本発明においては、他にも様々な構成を採用することができる。例えば、上記実施形態では、コイルの断面形状が略矩角形状となっている平角線を採用しているが、完全な矩角形状となっていなくてもよく、例えば、最終的にスロット内にて押し潰したときのように、各辺が直線でなく変形した曲線となっていても構わない。また、コイルの断面形状が略円形,略楕円形状,4つの辺以外の略多角形のものを採用しても良く、矩角形状を用いる場合には、断面が略正方形のものや、固定子鉄心の法線方向が短く、径方向が長い略長方形状であっても構わない。
また、上記実施形態では、回転電機の一例として、誘導電動機について説明したが、回転子の周方向に永久磁石を有する磁石式同期電動機等であっても構わない。このような磁石式同期電動機を採用する場合には、回転子の表面に複数の磁石を配置し、非磁性体のリング等で固定した表面磁石式回転子や、回転子の内周側における周方向複数箇所に軸方向に延びる孔を形成し、その孔内に磁石を内蔵する内蔵磁石式回転子を採用することが考えられる。更には、車両用交流発電機として使用する場合には、内部に界磁コイルが巻回されたランデル型回転子を用いることもできる。
また、上記実施形態では、固定子鉄心及び回転子における磁性体部を積層鋼板にて構成したが、表面に絶縁被覆が施された鉄粉を圧縮して固めた圧粉鉄心を採用してもよい。また、固定子鉄心は、複数の部材を固定して構成する分割式固定子鉄心を採用しても構わない。
また、上記実施形態では、導体バー及び短絡環をアルミによって構成したが、銅を用いるようにしても構わない。導体バー及び短絡環に銅を用いれば、アルミを用いるよりも電気抵抗を低下させることができるので、電動機の効率を向上させることができる。
また、上記実施形態では、固定子鉄心のスロット数を48としたが、仕様に応じてスロット数を変更することができる。このようにスロット数を変更した場合には、コイルの周回部分の配置も変更する必要がある。
また、上記実施形態では、コイルの周回部分を隣り合うように1対ずつ連続線で構成したが、接続点数が増えても構わなければ、固定子鉄心に挿入した後に溶接等で接続することも可能である。更にコイルの隣り合う周回部分は2つずつでなくてもよく、渦巻き状に周回させる回数も仕様に応じて自由に設定することができる。
また、上記実施形態では、コイルに自己融着線を用いて固着したが接着剤やテープ等の別の部材を用いて固着することも可能である。更に成形のやり方次第では、固着しなくても成形することが可能である。
また、上記実施形態では、スロットをオープンスロットとしたが、夫々のティースにおける内周端を周方向に延びるように構成しても構わない。更にオープンスロットとする場合には、保持部材を設けているがティースの内周端を樹脂等でモールドするようにして保持部材を構成しても構わない。
また、上記実施形態では、コイルの周回部分を略亀甲形状として固定鉄心に挿入したが、亀甲形状でなくてもよく大きな小判形状のようなものであっても構わない。
また、上記実施形態では、固定子巻線を一対の固定子コイルが並列に接続された2Y結線としたが、複数の固定子コイルが直列に接続されただけの1Y結線とすることも可能である。このような1Y結線を採用すると、さらに接続点数が減らすことができる。
上述の固定子巻線は誘導電動機のみならず永久磁石回転電機にも使用可能であり、図45及び図46を用いて上述の固定子巻線を使用した永久磁石回転電機を説明する。図45は永久磁石回転電機200の断面図である。図46は図45に示す固定子230および回転子250のA−A断面である。この図ではハウジング212およびシャフト218の記載を省略した。
ハウジング212の内部に固定子230が保持されており、固定子230は固定子鉄心232と上述の固定子巻線238とを備えている。固定子鉄心232に対して空隙222を介して永久磁石254を有する回転子250が配置されている。ハウジング212はシャフト218の回転軸方向の両側にエンドブラケット214をそれぞれ有しており、前記回転子鉄心252を有するシャフト218はエンドブラケット214のそれぞれに軸受216により回転自在に保持されている。
シャフト218には回転子の極の位置を検出する回転子位置センサ224と回転子の回転速度を検出する回転速度センサ226とが設けられている。これらセンサの出力に基づいて固定子巻線に供給される三相交流が制御される。
図46を用いて図45に示す固定子230および回転子250の具体的な構造を説明する。固定子230は固定子鉄心232を有しており、固定子鉄心232は上述の構造と同様に周方向に均等に多数のスロット234とティース236とを有しており、スロット234は上述の構造の固定子コイル238を有している。図46に示すとおり、この実施形態では固定子鉄心のスロット数は48であるが、これに限るものではない。
回転子鉄心252には永久磁石254や256を挿入する永久磁石挿入孔が設けられており、上記永久磁石挿入孔に永久磁石254や256が挿入されている。永久磁石254や256の磁化方向は、磁石の固定子側面がN極またはS極となる方向で、回転子の極毎に磁化方向が反転している。
図46に示す実施の形態では、永久磁石254と256とで回転子250の1つの極として作用する。永久磁石254と256とを備えた回転子250の極は回転子250の周方向に等間隔に配置されており、この実施形態では8極である。しかし8極に固定されるものではなく、10極以上30極まで、場合によってはそれ以上であっても良く、回転電機に要求される出力などの条件により極数が定まる。また極数を多くすると磁石数が増大し、作業性が低下する。場合によっては8極以下でもよい。回転子250の各極として作用する永久磁石254と256の固定子側に存在する回転子鉄心の部分は磁極片280として作用し、永久磁石254と256に出入りする磁力線はこの磁極片280を通して固定子鉄心232に出入りする。
上述したとおり、回転子250の極として作用する永久磁石254と256は極毎に逆方向に磁化されており、ある極の磁石254と256が固定子側がN極でシャフト側がS極となるように磁化されているとすると、その両隣の極として作用する永久磁石254と256は固定子側がS極でシャフト側がN極となるように磁化されている。回転子250の極と極との間にはそれぞれ補助磁極290として作用する部分が存在し、これら補助磁極290を通るq軸磁束と磁石を通るd軸磁束の磁気回路の磁気抵抗の差でリラクタンストルクを発生する。各補助磁極290と各磁極片280との間にはそれぞれブリッジ部282と284とが存在し、このブリッジ部282と284では磁気的な空隙262と264とにより磁気回路の断面積が狭められている。このため各ブリッジ部282と284では磁気飽和現象が起こり、磁極片280と補助磁極290との間を通るすなわちブリッジ部282と284を通る磁束量が所定量以下に押さえられる。
図45および図46の回転電機で、回転子の上記回転速度センサ226と上記回転子位置センサ224との出力に基づき、図4に記載のインバータ装置のスイッチング動作が制御され、二次電池612から供給された直流電力を3相交流電力に変換する動作が制御される。この3相交流電力は図45や図46に示す固定子コイル238に供給され、上記回転速度センサ226の検出値に基づいて3相交流電流の周波数が制御され、上記回転子位置センサ224の検出値に基づいて上記3相交流電流の回転子に対する位相が制御される。
上記位相と周波数に基づく回転磁界が上記3相交流電流により固定子230に発生する。固定子230の回転磁界が回転子250の永久磁石254や256に作用して回転子250に永久磁石254と256に基づく磁石トルクが生じる。また上記回転磁界が回転子250の補助磁極290に作用し、上記回転磁界の磁石254や256を通り磁気回路と補助磁極290を通る磁気回路との磁気抵抗の差に基づき回転子250にリラクタンストルクを発生する。回転子250の回転トルクは上記永久磁石に基づく磁石トルクと上記補助磁極に基づくリラクタンストルクの両トルクに基づいて定まる値となる。
上記リラクタンストルクは、固定子巻線が発生する回転磁界が磁石を通る磁気抵抗と上記補助磁極290を通る磁気抵抗との差によって発生するので、図4に示すインバータ装置620は、固定子巻線238による電機子起磁力の合成ベクトルを補助磁極の中心位置より回転方向の進み側になるように制御し、回転子の補助磁極290に対する回転磁束の進み側位相によりリラクタンストルクを発生する。
このリラクタンストルクは回転電機の始動状態や低速運転状態において、永久磁石254と256による磁石トルクに加算される方向の回転トルクを回転子250に発生するので、磁石トルクとリラクタンストルクの加算トルクで回転電機が発生しなければならない必要トルクを作り出すことができる。従って、リラクタンストルクに相当するトルク分、磁石トルクの発生を小さくでき、永久磁石の起磁力を下げることができる。永久磁石の起磁力を下げることにより、回転電機の高速運転時の永久磁石による誘起電圧を抑えることができ、高速回転時の回転電機への電力供給が容易となる。さらにリラクタンストルクを大きくすることで磁石量を少なくできる効果がある。希土類永久磁石は価格が高いので使用磁石量を少なくできることは経済的な観点でも望ましい。
上記固定子巻線は誘導型回転電機や永久磁石型回転電気に適用可能であり、これらの回転電機に使用することで、生産し易い、また信頼性の高い回転電機を得ることができる。またスロットの周方向に一つの導体を有していることで、トルク脈動を低減できると共に生産性の優れた回転電機をえることができる。上述の実施形態では、複数回周回するコイルを連続した導体で生産可能であり、接続点の少ない生産性の優れた回転電機を得ることができる。