以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の一形態に係る内燃機関システムの概略構成図である。
図1を参照して、同内燃機関システムは、エンジン1、エンジン1に付随する様々なアクチュエータ、様々なセンサ、およびセンサからの信号に基づきアクチュエータを制御する制御器としてのエンジン制御ユニット100を有する。
エンジン1は、火花点火式内燃機関であって、第1〜第4の4つの気筒11、11、…を有するものであるが、いかなる数の気筒を有するものであってもよい。エンジン1は、自動車等の車両に搭載され、そのクランクシャフト14は、変速機を介して駆動輪に連結され、車両を推進する。
本実施形態に係るエンジン1は、13:1以上の幾何学的圧縮比をもち、幾何学的圧縮比は、14:1以上16:1以下であるのが好ましい。幾何学的圧縮比が大きいことは、膨張比が大きいことを意味するので、大きいほど、機関効率は上がる。そこで、本実施形態では、幾何学的圧縮比を13以上に設定し、点火リタード等の方法によってノッキングを回避しつつ高トルクと燃費の大幅な低減を図ることとしている。
尤も、圧縮比が高いほど、異常燃焼発生の可能性が高まるので、有効圧縮比を小さく、すなわち、気筒空気充填量を下げる必要が生じる。そうなると、気筒容積の割に得られる出力が低下するために、機関の重量比で見たときの効率は低下する。他方、エンジン1を自動車等の車両に搭載する際に、エンジンルーム内への搭載性に問題を生じる。従って、幾何学的圧縮比の上限は、16:1以下にするのが好ましい。
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、それらの内部に気筒11、11、…が形成されている。周知のように、シリンダブロック12には、ジャーナル、ベアリングなどによりクランクシャフト14が回転自在に支持されており、このクランクシャフト14がピストン15に対し、コネクティングロッド16を介して連結されている。
ピストン15は、各気筒11内に摺動自在に嵌挿されて燃焼室17を区画している。図には1つのみ示すが、シリンダヘッド13には、気筒11毎に2つの吸気ポート18がシリンダヘッド13に形成されて、それぞれ燃焼室17に連通している。同様に、シリンダヘッド13には、気筒11毎に2つの排気ポート19がシリンダヘッド13に形成されて、それぞれ燃焼室17に連通している。図に示すように、吸気弁21および排気弁22は、それぞれ、吸気ポート18および排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)できるように配設されている。吸気弁21は、動弁装置としての吸気弁駆動機構30により、排気弁22は排気弁駆動機構40により、それぞれ駆動されて、所定のタイミングで往復動し、吸気ポート18および排気ポート19を開閉するものである。
吸気弁駆動機構30は、吸気カムシャフト31を有し、排気弁駆動機構40は、排気カムシャフト41を有する。カムシャフト31、41は、クランクシャフト14により、周知のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介して連結される。動力伝達機構は、周知のように、クランクシャフト14が二回転する間に、カムシャフト31、41が一回転するように構成される。
カムシャフトの位相角は、カム位相センサ35により検出され、その検出信号θVCT_Aがエンジン制御ユニット100に入力される。
点火プラグ51は、例えばねじ等、周知の構造によってシリンダヘッド13に取り付けられている。点火システム52は、エンジン制御ユニット100からの制御信号SADを受けて、点火プラグ51が所望の点火タイミングで火花を発生するよう、それに通電する。
燃料噴射弁53は、例えばブラケットを使用する等、周知の構造でシリンダヘッド13の一側(図例では吸気側)に取り付けられている。燃料噴射弁53の先端は、上下方向については2つの吸気ポート18の下方に、また、水平方向についてはそれら2つの吸気ポート18の中間に位置して、燃焼室17内に臨んでいる。
燃料供給システム54は、図示は省略するが、燃料噴射弁53に燃料を昇圧して供給する高圧ポンプと、この高圧ポンプに燃料タンクから燃料を送給する配管やホース等と、燃料噴射弁53を駆動する電気回路とを備えている。この電気回路は、エンジン制御ユニット100からの制御信号FPDを受けて燃料噴射弁53のソレノイドを作動させ、所定のタイミングで所望量の燃料を噴射させる。
吸気ポート18は、吸気マニホールド55内の吸気経路55bによってサージタンク55aに連通している。図示しないエアクリーナからの吸気流はスロットルボデー56を通過してサージタンク55aに供給される。スロットルボデー56にはスロットル弁57が配置されており、周知のようにサージタンク55aに向かう吸気流を絞って、その流量を調整する。スロットルアクチュエータ58が、エンジン制御ユニット100からの制御信号TVODを受けて、スロットル弁57の開度を調整する。
排気ポート19は、排気マニホールド60内の排気経路によって周知のように排気管内の通路に連通している。排気マニホールド60よりも下流の排気通路には、一つ以上の触媒コンバータ61を有する排気ガス浄化システムが配置される。触媒コンバータ61は、周知の三元触媒、リーンNOx触媒、酸化触媒等とすることができ、それ以外にも、特定の燃料制御手法による排気ガス浄化の目的にかなうものであれば、いかなるタイプの触媒としてもよい。
また、排気ガスの一部を吸気系に循環させる(以下、EGRともいう)ために、吸気マニホールド55(スロットル弁57よりも下流側)と排気マニホールド60との間がEGRパイプ62によって接続されている。排気側の圧力は吸入側よりも高いので、排気ガスの一部は吸気マニホールド55に流れ込むようになり(EGRガスと呼ぶ)、この吸気マニホールド55から燃焼室17に吸入される新気と混ざることになる。EGRパイプ62にはEGR弁63が配設され、EGRガスの流量を調整するようになっている。EGR弁アクチュエータ64は、エンジン制御ユニット100からの制御信号EGROPENを受けて、EGR弁63の開度を調整する。
エンジン制御ユニット100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央算出処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラムおよびデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスとを備えている。
エンジン制御ユニット100は、エアフローセンサ71から吸気流量AF、吸気圧センサ72から吸気マニホールド圧MAP、クランク角センサ73からクランク角パルス信号、というように種々の入力を受け入れる。エンジン制御ユニット100は、例えば、クランク角パルス信号に基づいて、エンジン回転速度NENGを計算する。また、エンジン制御ユニット100は、酸素濃度センサ74から排気ガスの酸素濃度EGOについての入力も受け入れる。さらに、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ75からのアクセル開度信号αを受け入れる。またエンジン制御ユニット100は、変速機の出力軸の回転速度を検出する車速センサ76からの車速信号VSPを受け入れる。
より具体的に、エンジン制御ユニット100は前記のような入力に基づいて、以下のようなエンジン1の制御パラメータを計算する。例えば、所望のスロットル開度TVO、燃料噴射量FP、点火タイミングSA、バルブ位相角θVCT、EGR量(EGR弁開度)QEGR等である。そして、それら制御パラメータに基づいて、対応する制御信号として、スロットル開度信号TVOD、燃料噴射パルス信号FPD、点火パルス信号SAD、バルブ位相角信号θVCT_D、EGR開度信号EGROPENを、スロットルアクチュエータ58、燃料供給システム54、点火システム52、吸気カムシャフト位相可変機構32およびEGRアクチュエータ64等に出力する。
次に、図2以下を参照して、本実施形態に係る吸気弁駆動機構30の詳細について説明する。図2は、図1の実施形態に係る吸気弁駆動機構30の具体的な構成を示す斜視図であり、図3は、図1の吸気弁駆動機構30の要部を示す断面図である。図3において、(A)は大リフト制御状態においてバルブリフト量が0のときを示し、(B)は大リフト制御状態においてバルブリフト量が最大のときを示し、(C)は小リフト制御状態においてバルブリフト量が0のときを示し、(D)は小リフト制御状態においてバルブリフト量が最大のときを示している。
本実施形態の吸気弁駆動機構30は、可変カムタイミングメカニズム(VCT機構)32を備えており、これはチェーンドライブ機構によってクランクシャフト14に駆動連結されている。チェーンドライブ機構は、ドリブンスプロケット104の他に、図示しないが、クランクシャフト14のドライブスプロケットと、それら両スプロケットに巻き掛けられたチェーンとを備える。
VCT機構32は、ドリブンスプロケット104に一体に回転するように固定されたケースと、それに収容されるとともにインナシャフト105に一体に回転するように固定されたロータとを有する。ケースとロータとの間には複数の液圧室が、中心軸X(図3に示す)の周りに(周方向に)並んで形成される。そして、ポンプにより加圧された液体(例えばエンジンオイル)が各々の液圧室に選択的に供給されて、互いに対向する液圧室の間に圧力差を形成する。
VCT制御ユニットとしてのエンジン制御ユニット100がVCT機構32の電磁バルブ32aに制御信号θVCT_Dを出力し、この制御信号θVCT_Dを受けて、電磁バルブ32aが液圧のデューティ制御をすることで、前記液圧室に供給する液体の流量や圧力等を調整する。これによりスプロケット104とインナシャフト105との間の実際の位相差が変更され、それによって、周知のようにインナシャフト105の所望の回転位相が達成される。なお、エンジン制御ユニット100と別構成のユニットでVCT制御ユニットを構成してもよい。
インナシャフト105は、図3(A)〜(D)に示すように各々の気筒11に対応して一体的に設けられたディスク形状のカム106を有する。このカム106は、インナシャフト105の軸芯から偏心して設けられ、VCT機構32により規定される位相で回転する。この偏心カム106の外周にはリング状アーム107の内周が回転自在に嵌め合わされており、インナシャフト105がその中心軸X周りに回転すると、リング状アーム107は、同じ中心軸Xの回りを公転しながら偏心カム106の中心の周りを回動する。
また、前記インナシャフト105には、気筒11毎にロッカーコネクタ110が配設されている。このロッカーコネクタ110は円筒状で、インナシャフト105に外挿されて同軸に軸支され、換言すれば、その中心軸X周りに回動可能に支持されている一方、該ロッカーコネクタ110の外周面はベアリングジャーナルとされ、シリンダヘッド13に配設されたベアリングキャップ(図示せず)によって回転可能に支持されている。
前記ロッカーコネクタ110には、第1および第2のロッカーカム111、112が一体的に設けられている。両者の構成は同じなので、図3(A)〜(D)にはロッカーカム111について示すが、このロッカーカム111は、カム面111aと円周状のベース面111bとを有し(図3(D)参照)、それらはいずれもタペット115の上面に摺接するようになっている。ロッカーカム111は、連続的には回転せず、揺動運動することを除いては、一般的な吸気弁駆動機構のカムと同様にタペット115を押圧してバルブを開くものである。タペット115はバルブスプリング116で支えられている。バルブスプリング116は、周知のように保持器117、118の間に支持されている。
再度、図2を参照すると、インナシャフト105およびロッカーカム部品110〜112の組立体と並んで、その上方にコントロールシャフト120が配置されている。このコントロールシャフト120は、図示しないベアリングによって回転可能に支持されており、その長手方向の中央付近には、外周面から突出する同軸状のウォームギヤ121が一体的に設けられている。
ウォームギヤ121はウォーム122と噛合している。このウォーム122は、可変バルブリフト機構(VVL)のアクチュエータである例えばステッピングモータ123の出力軸に固定されている。よって、エンジン制御ユニット100からの制御信号(バルブリフト量信号)θVVL_Dを受けたステッピングモータ123の作動により、コントロールシャフト120を所望の位置に回動させることができる。こうして回動されるコントロールシャフト120には、気筒11毎のコントロールアーム131が取り付けられており、これらコントロールアーム131は、コントロールシャフト120の回動によって一体的に回動される。
また、そうして回動されるコントロールアーム131は、コントロールリンク132によってリング状アーム107に連結されている。すなわち、コントロールリンク132の一端部はコントロールピボット133によってコントロールアーム131の先端部に回転自在に連結され、該コントロールリンク132の他端部はコモンピボット134によってリング状アーム107に回転自在に連結されている。
ここで、コモンピボット134は、前記のようにコントロールリンク132の他端部をリング状アーム107に連結するとともに、このリング状アーム107を貫通してそれをロッカーリンク135の一端部にも回転自在に連結している。そして、このロッカーリンク135の他端部がロッカーピボット136によってロッカーカム111に回転自在に連結されており、これによりリング状アーム107の回転がロッカーカム111に伝えられるようになっている。
より具体的に、インナシャフト105が回転して、これと一体に偏心カム106が回転するとき、図3(A)(C)に示すように偏心カム106が下側に位置すれば、リング状アーム107も下側に位置するようになり、一方、図3(B)(D)に示すように偏心カム106が上側に位置すれば、リング状アーム107も上側に位置するようになる。
その際、リング状アーム107とコントロールリンク132とを連結するコモンピボット134の位置は、コントロールピボット133の位置と、偏心カム106およびリング状アーム107の共通中心位置との、3者相互の位置関係によって規定されるから、図示のようにコントロールピボット133の位置が変化しない(コントロールシャフト120が回動しない)とすれば、コモンピボット134は、偏心カム106およびリング状アーム107の共通中心周りの回転のみに対応して概略上下に往復動作するようになる。
そのようなコモンピボット134の往復動作はロッカーリンク135によって第1のロッカーカム111に伝えられ、該第1のロッカーカム111を、ロッカーコネクタ110で連結された第2のロッカーカム112と共に中心軸X周りに揺動させる。こうして揺動するロッカーカム111は、図3(B)(C)に示すように、カム面111aがタペット115の上面に接触する間は、当該タペット115をバルブスプリング116のばね力に抗して押し下げ、このタペット115が吸気弁21を押し下げて、吸気ポート18を開かせる。
一方、図3(A)(D)に示すように、ロッカーカム111のベース面111bがタペット115の上面に接触するとき、タペット115は押し下げられない。これは、中心軸Xを中心とするロッカーカム111のベース面111bの半径が、その中心軸Xとタペット115の上面との間隔以下に設定されているからである。
上述の如きコントロールピボット133と、コモンピボット134と、偏心カム106およびリング状アーム107の共通中心との相互の位置関係において、コントロールピボット133の位置が変化すれば、これにより3者相互の位置関係に変化が生じ、コモンピボット134は前記とは異なる軌跡を描いて往復動作するようになる。
よって、モータ123の作動によりコントロールシャフト120およびコントロールアーム131を回転させて、コントロールピボット133の位置を変えることにより、ロッカーカム111、112の揺動範囲を変更することができる。例えば、コントロールアーム131を図3において時計回りに回動させて、コントロールピボット133を図3(A)に示す位置から図3(C)に示すように左斜め上側にずらすと、ロッカーカム111の揺動範囲は、相対的にベース面111bがタペット115の上面に接触する傾向の強いものとなる。
図4は、本実施形態に係る吸気弁駆動機構30の設定例を示す図である。
図4を参照して、本実施形態では、上述した吸気弁駆動機構30およびこれに関連する構成部品により、バルブリフト量θVVLは、例えばθVVL_minからθVVL_maxまでの範囲で、各気筒11への目標空気充填量CEの増加に応じて増大するように制御されるとともに、吸気弁閉タイミングは、バルブリフト量θVVLの増大に応じてθVCT_minからθVCT_maxの範囲で遅角する。吸気弁21の開作動タイミングおよび閉作動タイミングは、必要に応じていかなる組合せも可能であり、例えば、バルブリフト量を0にするいわゆるロストモーション動作も可能である。
本実施形態では、例えばエンジン回転速度(機関速度)NENGが1500rpmの時の吸気行程において吸気弁21を開閉する際、本実施形態では、吸気弁21の開タイミングについては、殆どの運転領域で排気上死点直前(クランク角度で例えば20°CA)から開弁を開始し、要求トルクに応じて閉タイミングを変更するようにしている。
ここで、本実施形態では、吸気弁21の閉タイミングとして、当該エンジン回転速度(機関速度)NENGにおいて空気充填量が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲IVC1stと、当該エンジン回転速度(機関速度)NENGにおいて空気充填量が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ第1閉弁タイミング範囲IVC1stから離間した第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとが設定されており、吸気弁21が第1閉弁タイミング範囲IVC1stで閉じるように運転される早閉じモードMEIVCと、吸気弁21が第2閉弁タイミング範囲IVC2ndで閉じるように運転される遅閉じモードMLIVCと、運転モードを遅閉じモードMLIVCから早閉じモードMEIVCに切り換える進角遷移モードMTR-Aと、運転モードを早閉じモードMEIVCから遅閉じモードMLIVCに切り換える遅角遷移モードMTR-Rとを設定可能に構成されている。なお、第1、第2閉弁タイミング範囲は、何れも、当該エンジン回転速度NENGにおいて、空気充填量が最大となる吸気弁閉タイミングを挟んで設定されており、詳しくは後述するように、必ずしも吸気下死点を基準として設定されるものではない(後述する図14参照)。
早閉じモードMEIVCは、低負荷時に選択されるモードであり、吸気弁21のバルブリフト量θVVL を小さくし、このバルブリフト量θVVLに対応して吸気弁閉タイミングを例えば吸気下死点よりも進角する。
他方、遅閉じモードMLIVCは、高負荷時に選択されるモードであり、吸気弁21のバルブリフト量θVVL を大きくし、このバルブリフト量θVVLに対応して吸気弁閉タイミングを例えば吸気下死点よりも遅角する。
ここで、本実施形態において、遅閉じモードMLIVCが設定される第2閉弁タイミング範囲IVC2ndは、早閉じモードMEIVCが設定される第1閉弁タイミング範囲IVC1stよりも遅角し且つ離間している。従って、各閉弁タイミング範囲IVC1st、IVC2ndの間には、吸気弁21が閉じることのない中間閉弁タイミング範囲IVCIMが設定されることになる。
次に、上述のような運転モードを設定している理由について説明する。
エンジン1の出力を高め、燃費を低減するために膨張比を高くする一方で、異常燃焼発生を抑制するために、吸気弁21の閉タイミングを吸気下死点よりも進角または遅角させて、有効圧縮比を低くする方法として、吸気弁21の閉タイミングを吸気下死点よりも進角する早閉じでエンジン1を運転制御する場合には、図3(A)(B)から明らかなように、ロッカーカム111の揺動量は、小さくなり、バルブスプリング116の抵抗も小さくなるので、低負荷側では好ましいものとなる。しかし、要求負荷の増加に応じて、機関速度が上昇するのにつれて、所定の気筒空気充填量を得るための吸気弁21の閉タイミングは遅角する。また、機関速度上昇に伴い、気筒内の混合気の流動性が高まる等の理由により異常燃焼発生可能性は低くなるので、目標とする吸気弁閉タイミングの進角側への制限量は低下する。従って、吸気弁21の閉タイミングを、機関速度上昇に伴い高い速度で遅角させる必要がある。しかしながら、吸気弁駆動機構30の応答遅れにより、吸気弁21の閉タイミングを目標に沿って高い速度で遅角させることは困難であるので、実際の吸気弁閉タイミングを目標とする吸気弁閉タイミングよりも進角側に置き、気筒空気充填量の低下を招く恐れがある。
他方、吸気弁閉タイミングIVCを、当該エンジン回転速度NENGにおいて気筒空気充填量が最大となるタイミングよりも遅角側に設定した場合、ピストン15が下死点に移動するまで気筒11内に空気を導入する。更に下死点を越えてピストン15が上昇中に、気筒内の空気を吸気通路内に戻すことで有効圧縮比を低減する。これを実現するためには、吸気弁21のバルブリフト量、動弁範囲を最大値近傍まで大きく設定する必要があり(図4参照)、機械的損失が大きくなる懸念がある。
そこで、本実施形態では、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとを設定し、高圧縮比エンジンにおいて、可及的に連続的な運転領域で膨張比を高めるとともに、異常燃焼懸念の高い中間閉弁タイミング範囲IVCIMでは、ノッキング対策を講じることによって、プリイグニション等の異常燃焼を回避しつつ、出力の向上と燃費の低減を図ることとしているのである。
かかる構成を実現するため、本実施形態では、図5以下のフローチャートが実行されるように設定されている。
図5および図6は、本発明の実施形態に係るエンジン1の制御例を示すフローチャートである。
まず、図5を参照して、エンジン制御ユニット100は、最初に諸設定の初期化を実行する(ステップS1)。この初期化において、エンジン制御ユニット100は、現在の運転モードMを早閉じモードMEIVCに設定する。
次いで、エンジン制御ユニット100は、アクセル開度センサ75からのアクセル開度信号α、クランク角パルス信号に基づくエンジン回転速度NENG、車速センサ76からの車速信号VSPを読み取りまたは算出し、これらの情報に基づいて、目標トルクTQを算出する(ステップS2)。
次いで、エンジン制御ユニット100は、目標トルクTQ、およびエンジン回転速度NENGに基づき、燃料噴射量FP(或いは空燃比)、目標空気充填量CE、EGR量QEGR、および点火タイミングSAを算出する(ステップS3)。
次いで、エンジン制御ユニット100は、予めメモリに記憶された制御マップM1のデータを読み取り、この制御マップM1に基づいて目標空気充填量CEとエンジン回転速度NENGの値に適合する現在の運転領域Rを判定する(ステップS4)。この結果、エンジン制御ユニット100は、運転領域を図7に示すように判定する。
図7は、図5のフローチャートにおいて判定される運転領域の例を示す特性図である。
図7に示すように、本実施形態では、エンジン回転速度NENGに比例する特性L1、L2(所定空気充填量の一例)を設定し、高負荷側の特性L1以上であって、異常燃焼の発生の可能性がある低速高負荷の運転領域RLIVCでは遅閉じモードMLIVCが、低負荷側の特性L2以下の運転領域REIVC (つまり低速高負荷の運転領域R LIVC よりも低負荷側の領域および高速側の領域)では、早閉じモードMEIVCが、それぞれ選定されるように設定されている。図示の例において、特性L1と特性L2の間の過渡領域RTRは、ヒステリシスを設けて運転モードの切換に用いられる領域であり、運転領域REIVCから要求負荷が高くなっても、特性L1を越えるまでは、運転モードは早閉じモードMEIVCが維持され、運転領域RLIVCから要求負荷が低くなっても、特性L2を越えるまでは、運転モードは遅閉じモードMLIVCが維持される。なお、以下では、運転領域R LIVC を遅閉じ領域、運転領域R EIVC を早閉じ領域という。
図5を参照して、エンジン制御ユニット100は、現在の運転モードMが早閉じモードMEIVCであるか否かを判定する(ステップS5)。仮に運転モードMが早閉じモードMEIVCである場合、エンジン制御ユニット100は、さらに現在の目標空気充填量CEおよびエンジン回転速度NENGに基づき運転領域Rを判定し、現在の運転領域Rが遅閉じ領域RLIVC以外であるか、すなわち要求負荷に基づく吸気弁21の閉弁タイミング範囲IVCが第2閉弁タイミング範囲IVC2nd以外であるか否かを判定する(ステップS6)。現在の現在の運転領域Rが遅閉じ領域RLIVC以外である場合、エンジン制御ユニット100は、運転モードMを早閉じモードMEIVCに設定する(ステップS7)。次いで、エンジン制御ユニット100は、この早閉じモードMEIVCでの目標空気充填量CE、エンジン回転速度NENGに基づき、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVCT、スロットル開度TVOを算出し(ステップS8)、算出したバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCT、スロットル開度TVO並びにステップS3で算出した燃料噴射量FP、EGR量QEGR 、および点火タイミングSAに対応する制御信号FPD、EGROPEN、SAD、θVVL-D、θVCT-D、TVODを出力することによって、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する。その後、ステップS2に移行し、上述した制御を繰り返す。
図8は、図5のフローチャートによって設定される早閉じモードMEIVCでの吸気弁閉タイミングの制御例を示す図である。
図8を参照して、同図に示した制御例では、運転領域Rが遅閉じ領域RLIVC以外(早閉じ領域R EIVC )の場合、すなわち吸気弁12の閉弁タイミングが第1閉弁タイミング範囲IVC1stで運転される場合、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気弁21の閉タイミングは遅角する。また、目標空気充填量CEが増加するほど、吸気弁21の閉タイミングは遅角する。この結果、第1閉弁タイミング範囲IVC1stで運転される場合では、吸気弁21の閉タイミングが遅角することによって、空気充填量CEを増加させ、要求トルクに見合うトルクを出力できるようになっている。
図9は、図5のフローチャートによって設定される早閉じモードMEIVCでのスロットル開度の制御例を示す図である。
図9を参照して、同図に示した制御例では、特性L1と平行にエンジン回転速度NENGに比例する特性L3を低負荷側に設定している。特性L3は、図8の特性L2よりも低負荷側であってもよく、特性L2以上であってもよい。この特性L3よりも低負荷側の運転領域では、スロットル開度TVOは、全開になっており、目標空気充填量CEは、専ら、吸気弁21の閉タイミングで制御されるようになっている。このため、充分な空気充填量CEを確保し、ポンプ損失が生じないように制御することが可能になる。他方、特性L1から特性L3の間では、要求負荷が高まるにつれて、或いはエンジン回転速度NENGが低減するにつれて、スロットル開度TVOを小さくするように制御される。このため、運転状態が、中高速低中負荷運転領域から運転モードMを遅閉じモードMLIVCに設定する必要のある低速高負荷運転領域(遅閉じ領域R LIVC )に近づくにつれて、スロットル弁57下流の吸気ポート18を含む吸気管内の圧力を低減する。これにより、高圧縮比エンジンを採用した本実施形態において、運転モードMを切り換える過渡的で不安定な運転領域であっても、吸気閉弁時期の変化に伴い一時的に気筒空気充填量が過大となることを抑制して、プリイグニション等の異常燃焼を回避することができる。
次に、図5を参照して、ステップS6において、現在の運転領域Rが遅閉じ領域RLIVCである場合(ステップS6においてNOの場合)、エンジン制御ユニット100は、運転モードMを遅角遷移モードMTR-Rに設定する(ステップS10)。次いで、エンジン制御ユニット100は、所定のカウント時間CTR-Rをカウント値CTRとして設定し(ステップS11)、この遅角遷移モードMTR-Rでの目標空気充填量CE、エンジン回転速度NENGに基づき、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVCT、EGR量QEGR 、およびスロットル開度TVOを算出する(ステップS12)。所定のカウント時間CTR-Rを設けているのは、吸気弁駆動機構30による吸気弁21の閉タイミング設定が切り換わるまでの間、暫定的に充填量CEを低減してプリイグニション等の異常燃焼を回避するためである。
ステップS12が実行された後は、ステップS9に移行することにより、遅角遷移モードMTR-Rで算出したバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCT、EGR量QEGR 、スロットル開度TVO、並びにステップS3で算出した燃料噴射量FP、および点火タイミングSAに対応する制御信号FPD、EGROPEN、SAD、θVVL-D、θVCT-D、TVODを出力することによって、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する。その後、ステップS2に移行し、上述した制御を繰り返す。
図10は、図5のフローチャートによる遅角遷移モードMTR-Rでの制御例を示すタイミングチャートである。
図10に示すように、遅角遷移モードMTR-Rでの制御が実行されると、その開始タイミングt0からカウント値CTRがデクリメントされ(図6のステップS27参照)、タイミングt2で終了する。吸気弁駆動機構30は、カウントを開始したタイミングt0から吸気弁21の閉タイミングを第2閉弁タイミング範囲IVC2ndに移動するために、遅角を開始する。この際、スロットル開度TVOは、吸気弁21の閉タイミングが遅角するのに比例して低減し、吸気管圧力を低下させる。これにより、万一、当該気筒11において、吸気弁21がプリイグニション等の異常燃焼が懸念される中間閉弁タイミング範囲IVCIMに入り込んだとしても、吸気管圧力の低下によって異常燃焼が防止される。同様に、EGR弁63の開度(EGR量)QEGR も、吸気弁21の閉タイミングが遅角するのに比例して増加する。これにより、筒内残留ガスである内部EGRよりも低温の外部EGRが筒内に導入されるので、より確実に異常燃焼を回避することが可能になる。
吸気弁21の閉タイミングの遷移は、カウントの終了タイミングt2よりも早いタイミングt1で終了するように、諸元が設定される。そして、このタイミングt1を経過した時点で、ステップS12で設定されるQEGR、TVOが遅閉じモードMLIVCと同様に切り換えられ、運転モードの遷移が終了する。
次に、図5に示したフローチャートのステップS5において、エンジン制御ユニット100に設定されている運転モードMが早閉じモードMEIVCではなかった場合(ステップS5において、NOの場合)の制御例について、図6に示すフローチャートを参照しながら説明する。
運転モードMが早閉じモードMEIVCではなかった場合、エンジン制御ユニット100は、さらに運転モードMが遅閉じモードMLIVCであるか否かを判定する(ステップS20)。仮に運転モードMが遅閉じモードMLIVCである場合、エンジン制御ユニット100は、さらに現在の目標空気充填量CEおよびエンジン回転速度NENGに基づき運転領域Rを判定し、現在の運転領域Rが早閉じ領域R EIVC 以外であるか、すなわち要求負荷に基づく吸気弁21の閉弁タイミング範囲IVCが第1閉弁タイミング範囲IVC1st以外であるか否かを判定する(ステップS21)。現在の運転領域Rが早閉じ領域R EIVC 以外である場合、エンジン制御ユニット100は、運転モードMを遅閉じモードMLIVCに設定する(ステップS22)。次いで、エンジン制御ユニット100は、この遅閉じモードMLIVCでの目標空気充填量CE、エンジン回転速度NENGに基づき、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVCT、スロットル開度TVOを算出し(ステップS23)、算出したバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCT、スロットル開度TVO並びにステップS3で算出した燃料噴射量FP、EGR量QEGR 、および点火タイミングSAに対応する制御信号FPD、EGROPEN、SAD、θVVL-D、θVCT-D、TVODを出力することによって、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する。その後、ステップS2に移行し、上述した制御を繰り返す。
図11は、図6のフローチャートによって設定される遅閉じモードMLIVCでの吸気弁閉タイミングの制御例を示す図であり、図12は、図6のフローチャートによって設定される遅閉じモードMLIVCでのスロットル開度の制御例を示す図である。各図において、(A)は目標空気充填量CEに応じてスロットル開度を並行して制御する場合、(B)はスロットル開度を一定に維持する場合である。
図11(A)、図12(A)を参照して、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndで吸気弁21が閉じる場合、スロットル開度TVOを変更しながら目標空気充填量CEを制御する場合には、目標空気充填量CEの増減に拘わらず、吸気弁21の閉タイミングを一定にし、スロットル弁57下流の吸気ポート18を含む吸気通路内の圧力を制御することで、気筒空気充填量が変化する。
他方、図11(B)、図12(B)に示すように、機関速度が一定の条件のもとでスロットル開度TVOを一定に維持し、目標空気充填量CEが増加するにつれて、吸気弁閉タイミングを進角させる場合には、吸気弁閉タイミングが第2閉弁タイミングIVC2nd内で進角するにつれて、そのときの最大気筒空気充填量が得られる閉弁タイミングに近づくので、気筒空気充填量が制御される。その際に、スロットル開度TVOは比較的大きな値で一定に維持され、吸気通路内の圧力が高く維持されるので、ポンプ損失が低い状態が維持される。
図11(A)(B)の何れの場合においても、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気弁21の閉タイミングは遅角する。また、図12(A)(B)の何れの場合においても、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、スロットル開度TVOは、大きく制御される。これは、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気慣性力が増加し、当該エンジン回転速度(機関速度)NENGにおいて空気充填量が最大となる吸気弁閉タイミングが遅角することに対応しているのであり、この制御によって、所要の目標空気充填量CEを確保することができるのである。
次に、図6を参照して、ステップS21において、現在の要求負荷に基づく吸気弁21の閉弁タイミング範囲IVCが第1閉弁タイミング範囲IVC1stである場合(ステップS21において、NOの場合)、エンジン制御ユニット100は、運転モードMを進角遷移モードMTR-Aに設定する(ステップS24)。次いで、エンジン制御ユニット100は、所定のカウント時間CTR-Aをカウント値CTRとして設定し(ステップS25)、この進角遷移モードMTR-Aでの目標空気充填量CE、エンジン回転速度NENGに基づき、吸気弁21のバルブリフト量θVVL、吸気弁21の開弁期間θVCT、EGR量QEGR 、およびスロットル開度TVOを算出する(ステップS26)。
ステップS26が実行された後は、ステップS9に移行することにより、進角遷移モードMTR-Aで算出したバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCT、EGR量QEGR 、スロットル開度TVO、並びにステップS3で算出した燃料噴射量FP、および点火タイミングSAに対応する制御信号FPD、EGROPEN、SAD、θVVL-D、θVCT-D、TVODを出力することによって、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する。その後、ステップS2に移行し、上述した制御を繰り返す。
図13は、図6のフローチャートによる進角遷移モードMTR-Aでの制御例を示すタイミングチャートである。
図13に示すように、進角遷移モードMTR-Aでの制御が実行されると、その開始タイミングt0からカウント値CTRがデクリメントされ(図6のステップS27参照)、タイミングt2で終了する。吸気弁駆動機構30は、カウントを開始したタイミングt0から吸気弁21の閉タイミングを第1閉弁タイミング範囲IVC1stに移動するために、進角を開始する。この際、スロットル開度TVOは、吸気弁21の閉タイミングが進角するのに比例して低減し、吸気管圧力を低下させる。これにより、万一、当該気筒11において、吸気弁21がプリイグニション等の異常燃焼が懸念される中間閉弁タイミング範囲IVCIMに入り込んだとしても、吸気管圧力の低下によって異常燃焼が防止される。同様に、EGR弁63の開度(EGR量)QEGR も、吸気弁21の閉タイミングが進角するのに比例して増加する。これにより、比較的低温の外部EGRが筒内に導入されるので、より確実に異常燃焼を回避することが可能になる。
吸気弁21の閉タイミングの遷移は、カウントの終了タイミングt2よりも早いタイミングt1で終了するように、諸元が設定される。そして、このタイミングt1を経過した時点で、ステップS26で設定されるQEGR、TVOが早閉じモードMEIVCと同様に切り換えられ、運転モードの遷移が終了する。
次に図6のフローチャートにおいて、エンジン制御ユニット100に設定されている運転モードMが遅閉じモードMLIVCではなかった場合(ステップS20において、NOの場合)、運転モードMは、遅角遷移モードMTR-Rと進角遷移モードMTR-Aの何れかである。
そこで、本実施形態では、まず、エンジン制御ユニット100がカウント値CTRをデクリメントし(ステップS27)、運転モードMが進角遷移モードMTR-Aであるか否かを判定する(ステップS28)。
仮に運転モードMが進角遷移モードMTR-Aである場合、エンジン制御ユニット100は、カウント値CTRが0よりも大きいか否かを判定する(ステップS29)。仮にカウント値CTRが0よりも大きい場合、エンジン制御ユニット100は、ステップS26以降の制御を実行する。これにより、進角遷移モードMTR-Aでの運転制御が継続される。
ステップS29において、カウント値CTRが0以下である場合、既に吸気弁駆動機構30による吸気弁21の運転モード切換は、終了しているので、ステップS7以降のステップに移行し、運転モードMを早閉じモードMEIVCに切り換え、上述した早閉じモードでの運転制御を繰り返す。
ステップS28において、運転モードMが遅角遷移モードMTR-Rである場合、エンジン制御ユニット100は、カウント値CTRが0よりも大きいか否かを判定する(ステップS30)。仮にカウント値CTRが0よりも大きい場合、エンジン制御ユニット100は、ステップS12以降の制御を実行する。これにより、遅角遷移モードMTR-Rでの運転制御が継続される。他方、ステップS30において、カウント値CTRが0以下である場合、既に吸気弁駆動機構30による吸気弁21の運転モード切換は、終了しているので、ステップS22以降のステップに移行し、運転モードMを遅閉じモードMLIVCに切り換え、上述した早閉じモードでの運転制御を繰り返す。
図14は、図5および図6のフローチャートを実行した制御例を示す吸気弁閉タイミングのグラフである。図14において、(A)は遅閉じモードMLIVCでの吸気弁閉タイミングの制御において、スロットル開度を並行して制御する場合、(B)は遅閉じモードMLIVCでの吸気弁閉タイミングの制御において、スロットル開度を一定に維持する場合である。
図14(A)を参照して、遅閉じモードMLIVCでの吸気弁閉タイミングの制御において、スロットル開度を並行して制御する場合、吸気弁21の閉タイミングを最も進角側に固定して目標空気充填量CEを制御することができるので、早閉じモードMEIVCから遅閉じモードMLIVCへ切り換える時の変位量(図3におけるコントロールシャフト120の回動角度)も最小となり、早閉じモードMEIVCからの切り換えに要する時間を可及的に短くすることができる。
他方、図14(B)を参照して、遅閉じモードMLIVCでの吸気弁閉タイミングの制御において、スロットル開度を一定に維持する場合、早閉じモードMEIVCから遅閉じモードMLIVCへ切り換える時の変位量(図3におけるコントロールシャフト120の回動角度)は最大となるが、吸気管圧力を高く維持することができるので、ポンプ損失を最小のものとし、高い出力を維持することができる。
何れの場合においても、エンジン回転速度NENGが上昇するにつれて、吸気弁閉タイミングは、遅角するので、エンジン回転速度NENGが高いほど第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとの間の中間閉弁タイミング範囲IVCIMが小さくなり、ある回転速度(例えば、2500rpm)以上では、専ら第2閉弁タイミング範囲IVC2ndで吸気弁21が閉じることとなり、運転モードMの切り換えは不要となる。
以上説明したように、本実施形態は、往復動するピストン15とともに燃焼室17を規定する気筒11と、燃焼室17内へ導入される空気が通過する吸気ポート18と、該吸気ポート18を燃焼室17から遮断可能な吸気弁21とを有するエンジン1と、吸気弁開タイミングを一定に維持しつつ各気筒11への目標空気充填量CEの増加に応じて当該吸気弁21の閉タイミングが遅角するように構成されている可変動弁装置としての吸気弁駆動機構30と、制御器としてのエンジン制御ユニット100とを備えているエンジンシステムである。
そして、エンジン制御ユニット100により、各気筒サイクルにおける気筒11内への目標空気充填量CEが所定空気充填量よりも小さいとき、各気筒サイクルにおいて、当該エンジン回転速度NENGにおいて空気充填量が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲IVC1st内で吸気弁21を閉じるステップ(図5のステップS5〜S9)、および目標空気充填量CEが所定空気充填量以上のとき、各気筒サイクルにおいて、当該エンジン回転速度NENGにおいて空気充填量が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲IVC2nd内で吸気弁21を閉じるステップ(図6のステップS20〜S23、図5のステップS9)を備えている。
このため本実施形態では、目標空気充填量CEが所定空気充填量よりも小さいときは、第1閉弁タイミング範囲IVC1st内(例えば吸気下死点より前)で吸気弁21が閉じられる一方、目標空気充填量CEが所定空気充填量以上のときは、第2閉弁タイミング範囲IVC2nd内(例えば下死点より後)で吸気弁21が閉じられる。従って、上述した例のように、例えば、吸気弁開タイミングの変化量を比較的小さく維持しつつ目標空気充填量CEの増加に応じて吸気弁閉タイミングが遅角する吸気弁駆動機構30を採用した場合に、目標空気充填量CEが比較的小さい運転領域では、早閉じ動作によって、要求される空気充填量CEに相応した小さな開弁量によってエンジン1を運転し、過大な動弁動作による機械損失を低減することができるとともに、目標空気充填量CEが高い運転領域では、遅閉じ動作によって、必要な空気充填量CEを充分に確保しつつ、プリイグニション等の異常燃焼を回避することができる。また、目標空気充填量CEの高い機関高負荷状態では、機関出力が高まるので、その後エンジン回転速度NENGが上昇する可能性が高い。吸気慣性力の影響で、機関回転速度が高いほど、一定の空気充填量CEを得る吸気弁閉タイミングが遅くなる。従って、低速高負荷運転領域(遅閉じ領域R LIVC )での運転時に、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndに吸気弁21の閉弁タイミングを設定しておくことで、その後の回転上昇中(遅閉じ領域R LIVC からの機関速度上昇による早閉じ領域R EIVC への移行時)における吸気弁閉タイミングの変化量を最小化することができるので、機関速度の上昇に伴い吸気弁閉タイミングを変更する動作の応答性を高めることができる。
また本実施形態では、エンジン1の低速運転領域では、第1閉弁タイミング範囲IVC1stが各気筒サイクルの吸気下死点より前であり、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndが各気筒サイクルの吸気下死点より後である。このため本実施形態では、特にプリイグニションが問題となる低速運転領域で、確実にプリイグニション等の異常燃焼を回避しつつ機械損失の低減を図ることができる。
また本実施形態では、遅閉じ領域R LIVC での運転時に、目標空気充填量CEの増加に応じて、燃焼室17へと流れ込む空気の圧力を低下させるステップ(図11(A)、図12(A)、図13(A)、図14(A)の制御)をさらに備えている。このため本実施形態では、目標空気充填量CEが所定空気充填量以上になった直後では、燃焼室17へ流れ込む空気の圧力すなわち吸気管圧力が比較的低く設定される。そのため、その際の吸気弁閉タイミングは、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndの比較的進角側、すなわち第1閉弁タイミング範囲IVC1stに近い側に設定されることとなる。従って、目標空気充填量CEが所定空気充填量以上になった際の、吸気弁閉タイミングの変化量を最小化することができる結果、早閉じ動作から遅閉じ動作に切り換わる際の切換動作が必要最小限に簡素化され、短時間で運転動作の切換を終了することができる。
また本実施形態では、早閉じ領域R EIVC での運転時に、目標空気充填量CEの増加に応じて、燃焼室17へと流れ込む空気の圧力を低下させるステップ(図9の制御)をさらに備えている。このため本実施形態では、目標空気充填量CEが所定空気充填量以上となる直前に、吸気管圧力を低下することになる。従って、早閉じ動作を遅閉じ動作に切り換える過程で、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとの間に位置する中間閉弁タイミング範囲IVCIMで吸気弁21が閉じたとしても、その時点では吸気管圧力が低下していることから、プリイグニション等の異常燃焼を回避することができる。
また本実施形態では、遅閉じ領域R LIVC での運転時、すなわち、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndで吸気弁21が閉弁制御される遅閉じモードMLIVCのとき、目標空気充填量CEの増加に応じて各気筒サイクルにおける吸気弁21の閉タイミングを進角するステップ(図11(B)、図12(B)、図13(B)、図14(B)の制御)をさらに備えている。このため本実施形態では、ポンプ損失を伴うことなく、広い運転領域にわたって目標空気充填量CEを得ることができる。
上述した実施の形態は、本発明の好ましい具体例を例示したものに過ぎず、本発明は上述した実施形態に限定されない。本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。