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JP5008453B2 - 高強度鋼を用いた高力ボルト摩擦接合部 - Google Patents

高強度鋼を用いた高力ボルト摩擦接合部 Download PDF

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Description

本発明は、建築鉄骨構造物あるいはその他の鉄骨構造物における鋼材の高力ボルト摩擦接合部、特に今後ますます適用範囲の拡大が期待される高強度鋼を適用する際の高力ボルト摩擦接合部に関するものである。
従来、鉄骨構造物の高力ボルトによる摩擦接合構造においては、鋼材の摩擦面は自然発生の赤錆が標準になっており(日本建築学会「JASS6」参照)、施工上のバラツキを考慮して、設計上は低いすべり係数値(μ=0.45)に設定している。
この改善策として、より高いすべり係数を得るために、以下の構造、接合方式が提案されている。
(1) 特許文献1に示されるように、鋼材の表面に特殊な塗装を施して高力ボルトにより接合するもの。
(2) 特許文献2に示されるように、鋼材の接合面にセラミックのプラズマ溶射処理を施して、高力ボルトにより接合するもの。
(3) 特許文献3あるいは特許文献4に示されるように、表面粗さと表面硬さの差の大きな鋼材を組み合わせるもの。
(4) 特許文献5に示されるように、表面近傍の硬さのみを高くするもの。
(5) 特許文献6、特許文献7に示されるように、高低差0.2〜1.0mmの凹凸を設け、さらに表面を硬くするもの。
特開昭51−052336号公報 特開平01−266309号公報 特開平06−146427号公報 特開平07−238595号公報 特開平06−226404号公報 特開平08−081736号公報 特開平08−284912号公報 宇野暢芳,井上一朗,志村保美,脇山広三:「硬さが異なる鋼材間の摩擦係数に関する基礎的研究」,日本建築学会構造系論文集, 第494号, pp.123-128, 1997.4.
前記従来の赤錆を発生させる場合は、施工上のバラツキが大きく、かつ施工品質の管理が非常に困難であるため、0.45よりも大きなすべり係数値を接合部設計に用いることができないという欠点がある。
前記(1)の接合方式の場合は、鋼材に特殊な塗装を施す必要があるので煩雑であり、前記(2)の接合方式の場合は、鉄骨加工工程中で新たな専用設備を必要とするという欠点がある。
前記(3)の接合方式では、異なる表面粗さを現場で制御することが困難であり、また異なる硬さを有する鋼材の調達に関し問題が生じる場合があり、実際的でない。
また、前記(4)の接合方式において、表層部の硬さだけを高めた鋼材は、製造やその硬度の管理が煩雑である。また、前記(5)の接合方式における表面加工は極めて煩雑である。
このように、従来提案されている前記(1)〜(5)の接合方式は、何れも課題が残っており、広く実施されるまでには至っていない。
また、高強度鋼に関するすべり係数の知見はこれまで明らかになっていない。これまでの検討は汎用強度材を対象にしたものであり、全く金属組織の異なる高強度鋼において、どのように取り組むべきか、示唆を与えるものもない。
本発明は、特に高強度鋼材を高力ボルト摩擦接合する場合において、従来技術における前述の課題の解決を図り、摩擦接合面の施工品質の安定性と高いすべり係数を確保することを目的としたものである。
前述の課題を有利に解決するために、本発明者らは、高強度鋼を含む鋼材群を用いて多数のすべり試験を実施した。
すべり試験は、図1に例を示す試験片を用い、F14T級の高力ボルトで締め付けた後、引張載荷し、すべり荷重を求め、すべり係数を導出した。すべり係数導出は、「鋼構造接合部設計指針」(第2版第1刷、社団法人日本建築学会、2006年3月1日発行)の付7「すべり係数評価試験法」に基づいて行った。
摩擦特性は表面粗さと強い相関関係を有することはよく知られたことであるため、高強度鋼についても粗さを向上させるため、ブラスト方法を種々変化させた試験を実施した。グリットブラスト法は高強度鋼であっても高い粗さが確保できる手法であるが、すべり試験を行った結果、すべり係数は比較的低い値に留まった。
そこで、本発明者らは、現実的に広く適用されており、汎用性の観点で優れている方法であるショットブラスト法に着目し、すべり係数との相関関係を鋭意検討した。なお、添板については、母材と同等のものと、汎用性を考慮し、常用強度鋼のものを用いて検討を行った。工業的に現実的な条件とするため、母材と添板には同じブラスト条件を適用した。
その結果、すべり係数に関しては、
(1) 母材の強度が高くなればなるほど、すべり係数が低下する。
(2) 添板は母材強度と同等材の方が優れており、汎用強度材を用いた場合は低下する。
(3) 研削材の粒径には最適点が存在する。
(4) 研削材の硬度は高い方が有利である。
(5) 母材接合面の粗さ曲線最大高さ(Rz)が小さい方がすべり係数が向上する。
(6) 母材接合面の粗さ曲線山谷間隔(RSm)が大きくなればなるほど、すべり係数が向上する。
との知見を得ることができた。
これらの傾向について考えられる理由を、以下に述べる。
(1) 母材の強度が高くなればなるほど、すべり係数が低下することについて
母材の強度については、すべり係数とは負の相関関係を示す。一見すると、強度が上昇すると摩擦時の剪断破壊限界特性が上昇するため、すべり係数も上昇すると考える方が自然であり、本件発明のような負の相関関係は従来知られていない。実際に、例えば、特許文献5では、複相鋳片を用いて製造した鋼材を適用し、表面のみを高硬度化させることにより高い摩擦係数を期待する知見が記載されている。
しかしながら、強度上昇に伴い、限界剪断応力も上昇するという考えは、金属組織の耐破壊特性が一定であるという仮定に基づいていると言える。実際には、一般的な汎用高強度材、特に溶接施工を考慮した材料においては、転位密度の極めて高い金属組織を利用しており、剪断破壊時の限界特性は汎用強度鋼よりも低下することが知られている。高強度鋼適用によるすべり係数の低下は、強度上昇による寄与分に比べて、金属組織に因る耐破壊特性の低下が支配的であるため、起こると考えられる。
(2) 添板は母材強度と同等材の方が優れており、汎用強度材を用いた場合は低下することについて
例えば、前述の特許文献5や非特許文献1には、添板には母材と異なる鋼材を用いることが有利であると記載されている。しかしながら、本発明者らの実験によれば、異材継手(異なる鋼材を用いる場合)は共材継手(同種の鋼材を用いる場合)に比べてすべり係数が小さい結果となった。
実験後の表面観察により、軟らかい鋼板の起伏がことごとく削られてすべり現象が発生している。このことは、軟らかい材料側の表面も硬い材料側と同様のブラストを施しており、軟らかい材料の有効な剪断応力が低くなっていることに起因していると考えられる。
軟らかい材料側の起伏をコントロールし、最適化することですべり特性を向上させることは可能性があると考えられるものの、実際的な施工の際には、部材により異なった表面処理を必要とするものであり、実現にはコスト面から困難であると考える。
(3) 研削材の粒径には最適点が存在することについて
ショット玉は、基本的に球形であるため、摩擦理論で議論される頂角は、粒径を変化させても、あまり変化しないと考えられるが、実際的には、粒径を小さくすることで、頂角は小さくなる傾向にある。
このことから、粒径を小さくすれば頂角が小さいことに起因してすべり係数が低下する。また、粒径が大きすぎる場合には、載荷方向に垂直な面に投影した接触面積の総和が減少し、接触部位の摩擦力の総和が減少すると考えられる。つまり粒径にはすべり係数を向上させるための最適点が存在すると考える。今回の一連の実験では、0.8mmのものが最良の結果であった。
(4) 研削材の硬度は高い方が有利であることについて
すべり係数向上のために粗さを確保することが重要であることは自明であるが、部材に高強度材を用いた場合には、ショット玉が鋼材表面に動的に衝突した際に、ショット玉側の塑性変形が大きくなり、鋼材に所望の粗さを付与することができない。
つまり、鋼材に所望の起伏を付与するためには、ショット玉側の塑性変形を抑制する必要があり、ショット玉の高硬度化が有効である。
(5) 母材接合面の粗さ曲線最大高さ(Rz)が小さい方がすべり係数が向上することについて
グリットブラストではショットブラストに比べ比較的容易にRzを高めることができるが、接合時の接触面積が減少する。また工業的な範疇の衝突エネルギーでは、接合面のRzを高めると起伏の頂角が鋭くなり、摩擦により容易に削り落とされてしまい、意図したすべり係数を得られない。
特に、高強度鋼では降伏応力が高く、起伏の生成にはより大きな衝突エネルギーを必要とするため、この傾向は顕著になる。即ち同等の衝突エネルギーでは、Rzは適度に抑え、次に述べるRSmを相対的に大きくする方が、工業的に効率良く高いすべり係数を得ることができる。
ここで、母材の表面性状のみを評価の対象としているのは、添板の強度を母材と同等かそれ以下とし、また同じブラスト条件を適用しているため、添板の表面性状の寄与度は小さいためである。
(6) 母材接合面の粗さ曲線山谷間隔(RSm)が多くなればなるほど、すべり係数が向上することについて
ショットブラストではグリットブラストに比べ起伏の頂角は鈍くなり、頂角の間隔が広がる結果、接合時の接触面積が増大する。これは即ちRzが小さく、RSmが大きい状態を意味する。
また、これにより、起伏は摩擦に対し比較的大きな抵抗力を持つようになり、すべり係数が向上する。無論、グリットブラストでもこのような表面性状を得ることは可能であるが、すべり係数は比較的低位となる。
本発明者らは、700MPa級以上の高強度鋼からなる母材と、前記高強度鋼と同等の強度またはそれより低い強度の鋼からなる添板に、双方同じ条件のショットブラストまたはグリットブラストを施し、それらの面を重ね合わせて高力ボルトにより接合した高力ボルト摩擦接合部についてすべり試験を行い、得られた知見をもとに、各パラメータの定量評価を行い、次式(1)〜(2)で示す指標を得ることができた。
なお、母材および添板の強度は、鋼材の元の厚みまま、または厚みの1/4から外表面に平行に採取した引張試験片を使い引張試験して得られる引張強さとする。
式(1)はすべり係数0.45以上を得るためのショットブラスト条件、式(2)はすべり係数0.45以上を得る表面態様を得るためのショットブラスト条件である。
(1) すべり係数0.45以上を得るためのショットブラスト条件
前記の母材と添板の強度、ショットブラスト条件が下記の関係を満足すること。
0.11×TSB+1.2×(TSB-TSS)-2.9×(HVS-TSB/3.11)+303×|GSS-0.8|≦0 … (1)
ここで、
TSB: 母材強度 [MPa]
TSS: 添板強度 [MPa]
HVS: 研削材の平均ビッカース硬度
GSS: 研削材の平均粒径 [mm]
(2) すべり係数0.45以上を得る表面態様を得るためのショットブラスト条件
前記母材の強度と、ショットブラスト条件が以下の関係を満足すること。
2.36×(HVS-TSB/3.11)-105×|GSS-0.8|≧700 … (2)
ここで、
TSB: 母材強度 [MPa]
HVS: 研削材の平均ビッカース硬度
GSS: 研削材の平均粒径 [mm]
式(1)、(2)何れも母材の強度は低い方が有利となる。これは、母材および添板の強度、および研削材の硬度の相関関係の支配度が大きいためであり、この関係が維持される限り広い範囲で有効であると考えられるが、一般に入手可能な研削材の硬度の上限との相関関係から、母材強度の上限を1200[MPa]とする。
本発明によれば、従来、すべり係数との関係が十分に把握されていなかった高強度鋼の高力ボルト摩擦接合において、摩擦接合面の施工品質の安定性と高いすべり係数を確保することができる。
すなわち、高力ボルト摩擦接合において問題となる施工上のバラツキが防止され、施工品質の管理が容易となり、また特殊な塗装や加工も必要なく、経済的かつ効率的に、品質の優れた高強度鋼を用いた高力ボルト摩擦接合部が得られる。
以下、本発明の接合構造を上記のように定めた理由について詳細に説明する。
鋼材の表面処理には、グリットブラスト、またはショットブラストを用いる。これは現在広く用いられている方法であり、現実性を考慮すれば、極めて有効な手法である。接合面の表面性状は、課題を解決するための手段の項に詳述した理由に基づき、以下の条件となるよう制御する。その他の条件は常法に従えば良い。
(1) ショットブラスト条件
0.11×TSB+1.2×(TSB-TSS)-2.9×(HVS-TSB/3.11)+303×|GSS-0.8|≦0 … (1)
ここで、
TSB: 母材強度 [MPa]
TSS: 添板強度 [MPa]
HVS: ショットブラストの研削材の平均ビッカース硬度
GSS: ショットブラストの研削材の平均粒径 [mm]
なお、母材強度および添板強度は、鋼材の元の厚みまま、または厚みの1/4から外表面に平行に採取した引張試験片を使い引張試験して得られる引張強さとする。
(2) ショットブラスト条件
2.36×(HVS-TSB/3.11)-105×|GSS-0.8|≧700 … (2)
ここで、
TSB: 母材強度 [MPa]
HVS: ショットブラストの研削材の平均ビッカース硬度
GSS: ショットブラストの研削材の平均粒径 [mm]
なお、母材強度および添板強度は、鋼材の元の厚みまま、または厚みの1/4から外表面に平行に採取した引張試験片を使い引張試験して得られる引張強さとする。
式(1)、(2)何れも母材の強度は低い方が有利となる。これは、母材および添板の強度、および研削材の硬度の相関関係の支配度が大きいためであり、この関係が維持される限り広い範囲で有効であると考えられるが、一般に入手可能な研削材の硬度の上限との相関関係から、母材強度の上限を1200[MPa]とする。
接合構造に用いる鋼材は高強度鋼である。高強度鋼の製造法については、溶接施工を行うことも考慮に入れ、以下に示す化学成分範囲を有するものが望ましい。この規定は、摩擦特性に優れた接合構造を実現することのみを考慮すれば、必ずしも必須ではないが、建築構造用鋼として必要な幅広い特性を考慮すると、この範囲にコントロールすることが望ましいものである。ただし、これにより本発明の技術的範囲が狭く解釈されるものではない。
Cは、母材の強度確保を目的に添加する。その含有量が0.04質量%未満では必要な強度が確保できないだけでなく、FL(溶融線)でのラス形成が不十分になってFL近傍のHAZ(溶接熱影響部)の靭性も低下する。一方、その含有量が0.15質量%を超えると、HAZ、なかでもFL近傍のHAZの靭性劣化が著しくなる。さらに、鋼板表面の硬度が上昇傾向となり、すべり係数を減じる原因となる。
よって、C含有量の望ましい範囲は0.04〜0.15質量%である。なお、溶接部の靭性向上の観点からは、C含有量はできるだけ少ない方がよく、好ましい範囲は0.05〜0.12質量%である。
Siは、基本的には脱酸や強度確保の目的で添加するが、0.05質量%以上ではその効果は十分ではなく、0.6質量%を超える過剰なSiは、HAZ部や母材部において、島状マルテンサイトを増加させ、靭性を低下させる。また、介在物量の増加を通じて母材靭性を低下させる。よって、Si含有量の望ましい範囲は0.05〜0.6質量%である。
なお、溶接部の靭性向上の観点からは、Si含有量はできるだけ少ない方がよく、好ましい範囲は0.05〜0.4質量%である。
Mnは、脱酸剤、母材の強度と靭性確保およびHAZの焼入性確保のために添加する。その含有量が0.4質量%以下ではこれらの効果が得られないだけでなく、HAZにフェライトサイドプレートが生成してラス形成が不十分になり、溶接部の靭性が低下する。
一方、2質量%を超える過剰なMnは、中心偏析による板厚方向での母材特性の不均一をもたらす。よって、Mn含有量の望ましい範囲は0.4〜2.0質量%である。
Pは、不純物として鋼中に不可避的に存在する。0.05質量%を超えると、顕著な靭性や耐溶接割れ性の劣化を伴うため、0.05質量%以下とする必要がある。Pは少ないほど好ましいため下限は特に規定するものではない。
Sは、多すぎると中心偏析を助長したり、延伸したMnSが多量に生成し、顕著な延性亀裂発生特性による劣化を伴うため、上限を0.003質量%とする。Sは少ないほど好ましいため下限は特に規定するものではない。
Alは、一般的には脱酸剤として添加する必要がある。効果を得るためには、0.002質量%以上の添加が必要である。しかしながら、その含有量が0.05質量%を超える過剰なAlは、AlNなどの析出物の増加を通じて母材部・溶接部の靭性を低下させる。よって、Al含有量の望ましい範囲は0.002〜0.05質量%である。
鋼中のNは、析出物の生成を通して靭性の劣化原因となる。Nは0.01質量%以下でなければHAZの靱性が劣化するのを避けることができない。また、AlNやTiNの形成を通じてHAZ組織の微細化にも効果があるため、0.0015質量%以上の添加は必要である。よって、N含有量の望ましい範囲は0.0015〜0.01質量%である。
Cuは本発明では特に入れなくても良い。Cuは、母材の強度確保を目的に添加する。一方、その含有量が0.8質量%を超えると、AC3変態点以下に加熱されたHAZの靭性を劣化させる。よって、Cuを添加する場合の望ましい範囲は0.8質量%以下である。
Niは本発明では特に入れなくても良い。Niは、母材の強度確保を目的に添加する。しかし、高価な元素であり多量の添加は経済性を損なうため、Niを添加する場合の望ましい範囲は3質量%以下である。
Crは本発明では特に入れなくても良い。Crは、耐炭酸ガス腐食性を高め、また焼入性を高めるのに有用である。1質量%を超えて含有させると、他の成分条件を満足させても、HAZの硬化の抑制が難しくなる他、耐炭酸ガス腐食性向上効果も飽和する。よって、Crを添加する場合の望ましい範囲は1.0質量%以下である。
Moは本発明では特に入れなくても良い。Moは、母材の強度と靱性を向上させる効果がある。0.8質量%を超えると特にHAZの硬度が高まり、靱性と耐SSC性を損なう。よって、Moを添加する場合の望ましい範囲は0.8質量%以下である。
Vは本発明では特に入れなくても良い。Vは、主に焼戻し時の炭窒化物析出により母材の強度を向上させる。一方0.1質量%を超えると母材の性能向上効果が飽和し、靱性劣化を招く。よって、Vを添加する場合の望ましい範囲は0.8質量%以下である。
Nbは本発明では特に入れなくても良い。Nbは、組織を微細化して低温靭性を向上させる作用を有する元素であり、母材の強度と低温靭性の確保を目的に添加する。一方、0.1質量%を超える過剰なNbは、粗大な炭化物、窒化物を形成し、靭性を低下させる。よって、Nbを添加する場合の望ましい範囲は0.1質量%以下である。
Tiは本発明では特に入れなくても良い。Tiは、主に脱酸元素として利用するが、Al,Ti,Mnからなる酸化物相を形成させる。0.1質量%を超えて含有させた場合には、形成される酸化物がTi酸化物、あるいはTi−Al酸化物となって分散密度が低下し、特に小入熱溶接部熱影響部における組織を微細化する能力が失われる。このため、Tiを添加する場合の望ましい範囲は0.1質量%以下である。
Bは本発明では特に入れなくても良い。Bは、母材の強度確保を目的に添加する。その含有量が0.0001質量%未満では必要な強度が得られない。一方、0.002質量%を超える過剰なBは、粗大な硼化合物の析出を招いて靭性を劣化させる。よって、Bを添加する場合の望ましい範囲は0.0001〜0.002質量%である。
Caは本発明では特に入れなくても良い。Caは鋼中のSと反応して溶鋼中で酸・硫化物(オキシサルファイド)を形成し、この酸・硫化物はMnSなどと異なって圧延加工で圧延方向に伸びることがなく圧延後も球状であるため、延伸した介在物の先端などを割れの起点とする溶接割れや水素誘起割れを抑制する作用がある。その含有量が0.004質量%を超えると靱性の劣化を招くことがある。したがって、Caを添加する場合の添加量を0.004質量%以下である。
Mgは本発明では特に入れなくても良い。Mgは微細なMg含有酸化物を生成し、γ粒径微細化に効果がある。0.006質量%を超えると、酸化物が多くなり過ぎて延性低下をもたらす。従って、Mgを添加する場合の添加量の上限を0.006質量%である。
REMは本発明では特に入れなくても良い。REMは、溶接熱影響部の組織の微細化や、Sの固定に寄与するが、介在物となって清浄度を低下させる。REMの添加によって形成される介在物は、比較的靱性劣化への影響が小さいため、0.004質量%以下であれば含有させても母材の靱性の低下は許容できる。従って、REMを添加する場合の添加量の上限を0.004質量%である。
これらの鋼の製造方法については、連続鋳造法により得られたスラブを熱間圧延し、焼き入れ焼き戻しを施す、あるいは直接焼き入れ後に焼き戻し処理を施すなど、常法に従えば良いが、焼戻し処理を実施することにより、表面硬度を低下させることがすべり係数に効果がある。焼戻し処理時には、効果の大きいAc1〜Ac1-100℃に温度をコントロールすることが望ましい。
表1に、供試した鋼材の化学成分を示す。なお、表1中、Ceqは炭素当量(単位%)、Pcmは溶接割れ感受性組成(単位%)である。
Figure 0005008453
これらの鋼材を用い、表2に示す要領にて図1に示すすべり試験体を構成し、すべり係数を評価するための引張試験を実施した。接合のための高力ボルトはF14T級のものでそれぞれの試験体に対し適切な首下長さのものを用いた。ここでは、添板の強度を母材と同等レベルを最高とし、母材強度よりも軟らかいものを組み合わせた条件を加えている。
Figure 0005008453
なお、この接合形式は、ブラスト条件、表面態様、およびすべり係数の相互関係が精度良く得られ、多様な接合形式にも容易に適用できるよう選択されており、本発明の技術的範囲が特定の接合形式だけに狭く解釈されるものではない。即ち、本発明における母材とは主たる高強度鋼であり、添板とは同等の強度またはそれより低い強度の鋼を指し示すため用いた呼び名に過ぎない。
No.27〜30は母材に490N級鋼を用いたものであり、式(1)、式(2)のいずれも規定を満足し、十分高いすべり係数を有している。しかし、本発明は母材が高強度鋼である場合に限定しているため、ここでは比較例として掲載している。
No.35〜40は1000N級鋼の母材に汎用強度鋼の添板を組み合わせたもので、硬度の低い研削材を使用しているためRSmが十分に大きくなく、すべり係数が小さく、一部目標値である0.45に満たない。
その他の実施例は全て本発明の規定範囲内にあるものであり、目標値であるすべり係数0.45を上回っている。本発明の範囲にある例を見ても、目標値に対する余裕度を考えた場合には、各図、各式に既に示したように、係数の符合や式の意味を考慮し、母材強度は小さい方が有利、母材と添板の強度差は小さい方が有利、RSmは大きい方が有利、Rzは低い方が有利、ブラスト粒の硬さは高い方が有利、ブラスト粒の粒径は0.8mmに近いほど有利であることが示されている。
図2、図3は、表2の結果から式(1)〜(2)を横軸にとって整理したもので、各式の臨界性はそれぞれの図において明瞭である。
本発明の鋼材は、建築鉄骨構造物あるいはその他の鉄骨構造物における鋼材の高力ボルトによる摩擦接合構造に関するものであり、特に今後ますます適用範囲の拡大が期待される高強度鋼を適用する際に高いすべり係数を安定して実現することができる。これにより、該構造物の設計の自由度拡大に寄与することができ、社会的効果は極めて大きいといえる。
本発明に関して用いたすべり試験体の形態例を示す図である。 (1)とすべり係数の関係を示すグラフである。 (2)と表面態様の関係を示すグラフである。

Claims (2)

  1. 700MPa級以上の高強度鋼からなる母材と、前記高強度鋼と同等の強度またはそれより低い強度の鋼からなる添板とを重ね合わせて、高力ボルトにより接合した高力ボルト摩擦接合部であって、前記母材と前記添板の重ね合わせ面について、双方同じショットブラスト条件またはグリットブラスト条件で、すべり係数0.45以上を確保した表面態様とし、前記母材と前記添板の互いに重ね合わせた面に、以下の条件でショットブラストを施してあることを特徴とする高強度鋼を用いた高力ボルト摩擦接合部。
    なお、母材および添板の強度は、鋼材の元の厚みまま、または厚みの1/4から外表面に平行に採取した引張試験片を使い引張試験して得られる引張強さとする。
    0.11×TSB+1.2×(TSB-TSS)-2.9×(HVS-TSB/3.11)+303×|GSS-0.8|≦0 … (1)
    ここで、
    TSB: 母材強度 [MPa]
    TSS: 添板強度 [MPa]
    HVS: ショットブラストの研削材の平均ビッカース硬度
    GSS: ショットブラストの研削材の平均粒径 [mm]
  2. 前記母材と前記添板の互いに重ね合わせた面に、以下の条件でショットブラストを施してあることを特徴とする請求項1記載の高強度鋼を用いた高力ボルト摩擦接合部。
    2.36×(HVS-TSB/3.11)-105×|GSS-0.8|≧700 … (2)
    ここで、
    TSB: 母材強度 [MPa]
    HVS: ショットブラストの研削材の平均ビッカース硬度
    GSS: ショットブラストの研削材の平均粒径 [mm]
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