この発明に関連する分野の現状をより完全に記載するために、いくつかの刊行物をこの出願においてカッコ付きの番号で参照される。これらの刊行物の各々の開示は、出典明示して本明細書に含まれるものとみなされる。
多くの研究室および臨床手順は生体特異的アフィニティー反応を採用する。普通、そのような反応は、生物学的試料の診断試験において、または幅広い標的物質、特に、細胞、ウイルス、タンパク質、核酸等のごとき生物学的部分の分離に用いられる。様々な方法が上記標的物質の分析または分離に利用可能であり、対象の物質と該標的物質に特異的に結合するもう一つの物質との間のコンプレックス形成に基づく。未結合物質からのコンプレックスの分離を重力的に、例えば、標的物質に連結された微細分割された粒子もしくはビーズの沈降によって、または、その代りに、遠心によって達成することができる。所望すれば、そのような粒子またはビーズを磁性にして、結合/自由分離ステップを容易にすることができる。磁性粒子は、免疫および他の生体特異的アフィニティー反応におけるそれらの使用で、当該分野でよく知られている。例えば、米国特許第4,554、088号および[「イムノアッセイズ・フォウ・クリニカル・ケミストリー(Immunoassays for Clinical Chemistry)」、1983年、pp.147−062、ハンター(Hunter)ら編、チャーチル リビングストン、エジンバラ]を参照せよ。一般に、磁性または重力分離を容易にするいずれの物質もこの目的に採用することができる。しかしながら、過去20年間、そのような分離を行うのに優れた磁性体は多くのアプリケーションにおいて、その使用を導いてきた。
一般に、磁性粒子は2つの広いカテゴリーに分けられる。第1のカテゴリーは、永久的に磁化可能な粒子、すなわち強磁性体を含む。第2のカテゴリーは、磁場に付されたときのみバルク磁気挙動を示す粒子を含む。後者は磁気応答粒子という。時に、磁気応答挙動を示す物質は超常磁性体と説明される。しかしながら、バルク強磁性特性を示す物質、例えば、磁性酸化鉄は、直径約30nm以下の結晶にされたときにのみ、超常磁性として特徴付けることができる。対照的に、より大きな結晶の強磁性物質は、磁場に曝された後も永久磁性特性を保持し、その後、強力な粒子−粒子相互作用のため、凝集する傾向にある。
磁性粒子は、大(1.5ないし約50ミクロン)、小(0.7〜1.5ミクロン)、およびコロイド状またはナノ粒子(<200nm)に分類し得る。後者は、磁性流体(ferrofluid)または磁性流体様(ferrofluid-like)とも呼ばれ、典型的な磁性流体の特性の多くを有する[リベルティ(Liberti)ら、pp.777−790、イー・ペリツェッティ(E. Pelizzetti)編、「ファイン・パーティクルズ・サイエンス・アンド・テクノロジー(Fine Particles Science and Technology)」、1996年、クルウァー・アカデミー・パブリッシャーズ(Kluwer Acad. Publishers)、オランダ]。
小磁性粒子は生体特異的アフィニティー反応に関与する分析に非常に有用である。なぜならば、それらは簡便に生体機能ポリマー(例えば、タンパク質)で被覆され、非常に高い表面積を与え、適当な反応キネティクスを提供するからである。0.7〜1.5ミクロンの範囲にある磁性粒子は、例として、米国特許第3,970,518;4,018,886;4,230,685;4,267,234;4,452,773;4,554,088;および4,659,678号を含む特許文献に記載されている。これらの粒子のうちあるものは免疫学的試薬の有用な固相支持体であると開示されている。
上記の小磁性粒子に加えて、およそ1.5〜50ミクロのサイズの範囲にある大磁性粒子の分類があり、これらも超常磁性挙動を有する。そのような物質の典型はユーゲルスタット(Ugelstad)[米国特許第4,654,267号]によって発明され、ダイナル(Dynal)(ノルウェー国、オスロ)によって製造されるものである。ユーゲルスタット法は、膨潤が引き起こされ、膨潤した粒子中にマグネタイトの結晶が取り込まれたポリマー粒子の合成に関する。同一サイズ範囲にある他の物質は、分散された磁性結晶の存在下で粒子を合成することによって調製される。これはポリマーマトリクスへのマグネタイト結晶の閉込めをもたらし、かくして、得られた物質を磁性にする。どちらの場合も、得られた粒子は超常磁性挙動を有し、それは、磁場を取り去ると簡単に分散する能力から明らかにされた。磁性コロイドまたはナノ粒子とは異なり、これらの物質は、小磁性粒子と同様に、粒子あたりの磁性物質の量により、単純な実験用磁性体で容易に分離される。かくして、分離は数100ガウス/cm程度の低さから約1.5キロガウス/cmまでの勾配で実行される。一方、コロイド状磁性粒子(およそ200nm未満)は、それらの拡散エネルギー、粒子あたりの小さな磁気質量およびストークス摩擦のため、実質的により高い磁性勾配を要する。オーエン(Owen)らの米国特許第4,795,698号は、ポリマー被覆コロイド状超常磁性粒子に関する。そのような粒子は、生体機能ポリマーの存在下での磁性種の沈殿によって製造される。得られた粒子の構造は、本明細書においてシングル−ショット粒子というが、5〜10nmの直径を有する1以上の強磁性体結晶が50nmのオーダーの直径を有するポリマー本体に取り込まれているミクロ凝塊であることが見出されている。得られた粒子は、数ヶ月間ほどの観察期間の間、水性懸濁液中で維持されるはっきりとした傾向が示される。モルデイ(Molday)の米国特許第4,452,773号は、特性においてオーエンらに記載されたものと同様の物質を記載し、非常に高濃度のデキストランの存在下、Fe+2/Fe+3から塩基添加によりマグネタイトおよび他の酸化鉄を形成することによって製造する。そのように製造された物質はコロイド特性を有し、細胞分離に非常に有用であることが証明されている。この技術は、ミルテニイ・バイオテク(Miltenyi Biotec)、ドイツ国、ベルギッシュ グランドバッハによって商業化されている。
超常磁性コロイド状粒子を製造するもう一つの方法は、米国特許第5,597、531号に記載されている。オーエンらの特許に記載された粒子と対照的に、これら後者の粒子は、例えば、音波エネルギーによって、約25〜120nmのサイズの範囲にある擬安定結晶クラスターに分散された予備形成超常磁性結晶上に生体機能ポリマーを直接被覆することによって製造する。得られた粒子は、本明細書において、ダイレクト・コーティド(DC)粒子というが、全サイズが同一であるオーエンらまたはモルデイのナノ粒子よりも著しく大きな磁気モーメントを示し、約6kガウス/cmより大きな磁気勾配中で効率的に分離し得る。
磁場を流体媒体に印加して、強磁性体を該流体媒体から分離する磁気分離技術が知られている。対照的に、コロイド状超常磁性粒子が懸濁液中で維持される傾向はそれらの比較的弱い磁気応答性とあいまって、そのような粒子をそれらが懸濁している流体媒体から分離するのに高勾配磁気分離(HGMS)技術の使用を必要とする。HGMSシステムにおいて、磁場勾配、すなわち、空間微分係数は懸濁している粒子の挙動に、所定の点にての磁場の強度によって発揮されるよりも強い影響を与える。高勾配磁気分離は、真核細胞、原核細胞、ウイルス、核酸、タンパク質、および炭化水素を含む広い種類の磁気標識生物学的物質を分離するのに有用である。今まで知られている方法では、抗体、抗体フラグメント、特異的結合タンパク質(例えば、プロテインA、ストレプトアビジン)、レクチン等のごとき、受容体を特異的に認識し結合することができる物質上に少なくとも1の特性決定因子が存在するという条件付きで、生物学的物質はHGMSによって分離可能であった。HGMSシステムは2つの広いカテゴリーに分類し得る。当該1のカテゴリーは、分離チャンバーまたはベッセルに対して完全に外部に配置された磁気回路を採用する磁気分離システムを含む。そのような外部セパレータ(または開放場勾配セパレータ)の例は米国特許第5,186,827号に記載される。この‘827号特許に記載された具体例のいくつかにおいて、不可欠な磁場勾配は、永久磁石を非磁性容器の周囲に配し、磁石の極のようなものを場に対向する配置になるようにすることによって生成する。そのようなシステムで得られる試験媒体内の磁場勾配の程度は該磁石の強度および磁石間の間隔によって制限される。それゆえ、外部勾配システムにより得られる勾配は有限である。共係属出願第60/098,021において、半径方向勾配を最大化する手段および新規ベッセル設計により分離効率を最大化する方法が開示される。
もう一つのタイプのHGMSセパレータは、(1)印加された磁場を増強し;および(2)該試験媒体内に磁場勾配を生じさせるために、試験媒体内に配置された強磁性収集構造(ferromagnetic collection structure)を使用する。以前開示された内部HGMSシステムは、磁石に隣接して配置されたカラム内部に充填された微細スチールウールまたはガーゼを含む。印加磁場はスチールワイヤーの付近に集約され、懸濁している磁性粒子が該ワイヤー表面に向って引きつけられ、付着されるようにする。そのようなワイヤー上に生じた勾配はワイヤー直径に反比例し、一方、磁性「リーチ」は直径と共に減少する。それゆえ、非常に高い勾配を発生し得る。
内部勾配システムの一つの主たる欠点は、スチールウール、ガーゼ材料、スチールマイクロビーズ等が、交差するワイヤー付近または交差するワイヤー間の隙間における毛細管現象によって、試験媒体の非磁性成分が捕捉されることである。様々な被覆手順がそのような内部勾配カラムに対して適用されているが[米国特許第5,693,539;4,375,407号]、そのようなシステムの大きな表面積は、依然として、吸収による回収問題を生じる。それゆえ、内部勾配システムは、特に、非常に低い頻度の捕捉部分の回収が分離の最終目的であるときは、望ましくない。さらに、これらのシステムは自動化が困難で、コストがかかる。
一方、細胞分離に外部勾配を用いるHGMSアプローチは多数の利便性を提供する。まず、試験管、遠心管のごとき単純な実験チューブまたは、血液採取に用いるバキュテイナー(vacutainers)を採用し得る。外部勾配が分離された細胞が効率的に一層化できるようなものである場合、四極子/六極子デバイス[米国特許第5,186,827号]または[米国特許第5,466,574号]に記載された対向双極子配置の場合のように、細胞の洗浄またはその後の操作が容易である。さらに、チューブまたは同様の容器からの細胞の回収が単純および効率的なプロセスである。特に高勾配カラムからの回収と比較するとき真実である。そのような分離ベッセルは原試料の体積を減じる能力であるもう一つの特徴も提供する。例えば、特定のヒト血液細胞サブセット(例えば、磁気標識CD34+細胞)を粘度を下げるためにバッファーで20%希釈した血液から単離するならば、15mlのコニカル試験管を適当な四極子磁気デバイスにおける分離用ベッセルとして用いることができる。
未結合細胞を除去するための適当な洗浄および/または分離および再懸濁後、CD34+細胞を200μlの体積に非常に効率的に再懸濁し得る。これは、例えば、15mlのコニカル試験管中12mlの溶液(血液、磁性流体および希釈バッファー)から出発して、分離を行い、「上清」およびその後の洗浄「上清」を廃棄し、次いで、回収した細胞を3mlの適当な細胞バッファーに再懸濁させることによって達成し得る。次いで、第2の分離を行い、(標識/染色反応を行うのに必要であるとき)それはさらなる分離/洗浄ステップを含むことができ、最後に単離された細胞は200μlの最終体積に容易に再懸濁させる。この連続様式で体積を減少させ、再懸濁にボルテックスミキサーを用いることによって、再懸濁体積より上方のチューブに付着した細胞を減少した体積中に回収する。適当に処理されたベッセル中で注意し、かつ、急速に行った場合、細胞回収は非常に効率的で、70〜90%の間の範囲である。
磁気分離を行い得る効率ならびに磁気標識細胞の回収率および純度は多くの因子に依存するであろう。これらは、分離される細胞数、当該細胞の受容体密度、細胞あたりの磁気負荷、当該磁性物質の非特異的結合(NSB)、用いる技術、ベッセルの性質、ベッセル表面の性質、該媒体の粘度および用いる磁気分離装置のごとき点を含む。システムの非特異的結合のレベルが実質的に一定であれば、普通はそうであり、当該標的母集団は純度を減少させる。例として、0.2%NSBの系は、母集団の80%を回収し、それは原混合物中0.25%であって、50%の純度を有する。一方、初期母集団が1.0%であれば、純度は80%であろう。事実は明らかでないが、標的細胞の母集団が小さいほど、磁気標識し、回収するのがより困難である。さらに、標識および回収率は用いる磁性粒子の性質に明らかに依存する。例えば、細胞をダイナルビーズのごとき大きな磁性粒子と共にインキュベートする場合、該ビーズが大きすぎて拡散しない傾向にあるので、当該系を混合することによって生じる衝突により標識する。かくして、細胞が1細胞/ml血液またはそれより低い頻度にて母集団に存在すれば、非常に早期のガンにおける腫瘍細胞のように、標的細胞を標識する確率は該系に添加する磁性粒子の数および混合する時間の長さに関連するであろう。そのような粒子と共に、細胞を相当な時間混合することは有害なので、粒子濃度をできるだけ増大することが必要となる。しかしながら、該系に添加し得る磁性粒子の量には限界があり、そこでは、他の血液細胞と混合されている稀少細胞を含む系と、分離により大量の磁性粒子と共に混合されている稀少細胞を含む系とを置換し得、その場合、対象の細胞を数え、それらを調査する能力は顕著には向上しない。
稀少頻度(1〜50細胞/ml血液)の細胞を単離するのに大量の磁性粒子を使用するのにはもう一つの欠点がある。大きな磁性粒子は非常に簡単な設計の外部勾配の使用および比較的低い磁気勾配を許容するという事実にもかかわらず、大きな粒子は細胞の周りをカゴ状に取り囲む傾向にあって、それらを「見ること」、すなわち分析することを困難にする。それゆえ、該粒子を分析前に解放すべきであり、しばしば他の問題を生じる粒子を解放すべきである。
理論上、コロイド状磁性粒子は、高勾配磁気分離と共に用いて、対象の細胞サブセット細胞を真核細胞の混合母集団から分離するのに、特に、対象のサブセットが母集団全体のほんのわずかな部分しか含まないならば、選択される方法である。適切な磁気負荷により、十分な力が細胞上で発揮され、適度に希釈された全血程度の粘度の媒体中でさえその単離を容易にする。上記したように、約200ナノメータ未満のコロイド状磁性物質はブラウン運動を行い、稀少細胞に衝突して、磁気標識するそれらの能力を著しく促進する。これは米国特許第5,541,072号に例示され、そこでは、非常に効率的な腫瘍細胞除去実験の結果が記載され、100nm磁性粒子(磁性流体)を採用する。ただ、重要なことは、上記のサイズ範囲以下のコロイド状物質は一般に細胞の観察を妨げない。そのようにして回収された細胞は、最小限の前方散乱効果でフローサイトメトリーによって、または視覚もしくは蛍光技術を採用する顕微鏡観察によって、調査し得る。それらの拡散特性のため、そのような物質は、大磁性粒子とは対照的に、血液中の腫瘍細胞のごとき稀少な生物学的部分を容易に「発見」して、磁気標識する。
しかしながら、上記した理由から、選択された装置設計である外部場勾配システムにおける細胞分離のための磁性流体様物質の使用で生じた明らかな問題がある。ミルテニイ・バイオテクによって製造されたもののごとき、オーエンらの物質またはモルデイのナノ粒子の直接モノクローナル抗体コンジュゲートは、米国特許第5,186,827号に記載された四極子または六極子磁気装置のごとき、最善の利用可能な外部磁気勾配デバイスを採用する細胞分離における使用には十分な磁気モーメントを有していない。適度希釈された全血における分離に使用する場合、それらはさらに効果が少ない。実質的により高い磁性である、米国特許第5,698,271号に記載されたものと同様の物質を用いれば、より有望な結果が得られる。モデルスパイキング実験において、SKBR3細胞(乳房腫瘍系統)は、高EpCAM(上皮細胞−接着分子)決定因子密度を有し、非常に低いスパイキング密度(1〜5細胞/ml血液)でさえも、抗EpCAM MAb磁性流体の直接コンジュゲートを持つ全血から効率的に分離される。一方、PC3細胞(前立腺腫瘍系統)は、低抗原密度を有し、著しく低い効率でしか分離されない。これらの低密度受容体細胞への不適当な磁気負荷の結果であるというのがもっともらしい。
上記の議論から、稀少事象を含む分離にとって、または非常に低い密度の受容体を持つ細胞にとって、コロイド状磁性物質および大きな磁性粒子の双方の有益な特性(例えば、それぞれ、拡散ベース標識および大きな磁気モーメント)を合わせた磁気分離システムを提供することに利点があるであろう。分離プロセスを磁性コロイドまたはナノ粒子から開始することを想定でき、それらは、それらのブラウン運動により、稀少数の細胞または非常に低い密度の受容体を持つ細胞を素早く発見して、標識するであろう。いったんその標識が達成されれば、当該ナノ粒子の磁気モーメントを大きな磁性粒子のものと同等の値に転換することが望ましい。そのようにして、磁気標識された部分をもっと大きな粒子に用いるような勾配場、例えば、単一外部場勾配セパレータ中で、分離し得るであろう。非常に低い密度の受容体細胞の場合、高勾配外部場セパレータ中でさえも十分に回収されず、そのような原理の使用は明らかに分離効率を増大させる。分離後、分析されるかまたはある生物学的目的に、細胞が用いられるアプリケーションにおいて、当該標識された部分の磁気モーメントをその元のコロイド磁気標識密度のものに戻せることも非常に望ましい。このアプローチは過度の磁性物質からの分離を許容し、その後の分析または使用を容易にするであろう。
リベルティらの米国特許第5,466,574号は、細胞上への磁性物質の「負荷」に関する前記の特徴のいくつかを有する系を記載する。細胞がまず(ビオチン化の有無で)特異的モノクローナル抗体で標識され、引き続き、ヤギ抗−マウス磁性流体またはストレプトアビジン−磁性流体で(それぞれ)磁気標識した場合、分離は過剰モノクローナル抗体の存在下で促進された。磁性流体のこの「洗浄なし」促進手順を作り出す独特の能力は、溶液中の遊離磁性流体の磁性流体−結合標的細胞への免疫化学的架橋によるものである。今度は、細胞上のモノクローナル抗体に結合する磁性流体は、遊離モノクローナル抗体を介して溶液中の遊離磁性流体に結合する。これはモノクローナル抗体標識細胞決定因子から「成長」したモノクローナル抗体/磁性流体の免疫化学的クラスターを生じる(鎖化(chaining)という)。かくして、磁性コロイドは「人工的」に細胞上に負荷され、それらをより磁性にし、より分離し易くする。現象は免疫化学の規則に従い、高過剰のモノクローナル抗体が鎖化(モノクローナル過剰ゾーン)の減少および分離効率の損失をもたらすということが分った。同様に、高レベルの磁性流体も鎖化(磁性流体過剰ゾーン)を減少させる。鎖化は、骨髄または末梢血「移植」において望ましくない細胞、例えば、腫瘍細胞を取り除くのに有用であることが分っている。この方法によって、非常に高レベルの磁性物質(顕微鏡で観察すると、細胞周囲の視覚的な褐色の縁)を標識細胞上に負荷して、たったの8〜12kガウス/cm勾配の高勾配場で非常に効率的な分離を生じ得る。一方、「単量体」磁性流体で標識された細胞は同一の勾配でより低い効率で分離されることが分った。
稀少細胞を全血から分離するために鎖化を使用する試みにおいて、いくつもの問題に遭遇する。まず、スパイクド細胞(spiked cells)は、実際効率的に回収されるが、それらは磁性流体で密に被覆(鎖化)されそれらを分析する能力は著しく減少する。それゆえ、このアプローチは、確信的に選択された細胞(positively selected cells)を顕微鏡またはフローサイトメトリーにより観測すべきアプリケーションに関して理想的ではない。さらに、鎖化は非特異的結合を促進するらしい。要するに、鎖化のレベルが、分離促進、単離された細胞の非遮蔽観察、および許容されるレベルの非特異的結合を同時に引き起こす鎖化ベースアッセイを設計するのは極度に困難である。鎖化反応は、免疫化学的ストイキオメトリーを要求するので、制御は困難である。例えば、ほとんどの(>99%)添加モノクローナル抗体(またはタグ化リガンド(tagging ligand))は、当該抗体のアフィニティーにかかわらず、常に溶液中で遊離している。それゆえ、一般的に、(鎖化により最善の分離が発生する)免疫化学的当量を達成するのに要される磁性流体の量は、特に、選択された細胞が観察されおよび/またはさらに研究される場合、所望よりも多くの鎖化をもたらす。鎖化はモノクローナル抗体の標識および磁性流体の添加を同時に減少することによって減少させ得るが、これは分離効率の犠牲を生じる。分離を促進するために鎖化を使用することのもう一つの欠点は、ある実践的な方法において、逆鎖化ができないことである。鎖化を反転でき、非特異的結合における同時増加が減少すれば、現象は磁性物質の所望の「負荷」を可能にする実行可能なアプローチを提供するであろう。この方法のもう一つの不利な点はツーステップ反応が必要なことである。すなわち、第1ステップで標的の一次モノクローナル抗体との反応に続いて、第2ステップで一次モノクローナル抗体に特異的な磁性流体との繰返しである。このアプローチは一次抗体を直接磁性流体にコンジュゲートするアッセイには使えない。
リベルティらの米国特許第5,108,933号は、外部場磁気セパレータを採用する免疫アッセイにおいてオーエンらまたはモルデイによって記載されたもののごとき弱い磁性コロイド状物質を開示する。そのような物質は、そこでは、凝塊化可能で、再懸濁可能なコロイド状磁性物質であると説明され、それらは外部磁場システム、例えば、当時商業的に入手可能なもの(チバ・コーニング(Ciba Corning)、マサチューセッツ州、ウォルポール;セロノ・ダイアグノースティクス(Serono Diagnostics)、マサチューセッツ州ノールウェル)において実質的に非摂動を維持する。対照的に、上記のように、‘531特許に開示された方法によって作製された物質は、実質的により磁性であり、それらのセパレータで分離する。‘933特許において、コロイドを凝塊に転換する手段が開示され、上記のセパレータにおいてそれらを分離可能にする。かくして、そのような物質を免疫アッセイの結合/遊離分離ステップを実行するのに用い得るであろう。‘933には、凝塊反応を反転させることの必要性またはその方法についての言及はない。
発明の詳細な記載
本明細書で用いられる「標的生体部分」なる用語は、生物学的または医学的対象の幅広い物質をいう。例えば、ホルモン、タンパク質、ペプチド、レクチン、オリゴヌクレオチド、薬物、化学物質、核酸分子(例えば、RNAおよび/またはDNA)および、細胞、ウイルス、細菌等の生体粒子を含む生物学的起源の微粒子分析物を含む。本発明の好ましい具体例において、母性循環中の胎児細胞または循環ガン細胞のごとき稀少細胞が、本発明の方法、組成物およびキットを用いて、非標的細胞および/または他の生体部分から効率的に単離することができる。「生物学的標本」なる用語は、限定されないが、ヒト対象から得ることが可能な、細胞含有体液、末梢血、組織ホモジネート、乳頭吸引物(nipple aspiration)および他の稀少細胞の起源を含む。代表的な組織ホモジネートは、、乳ガン患者の徴候リンパ節から得ることが可能であろう。前記標的生体部分のいずれかに関して用いられるとき、「決定因子」なる用語は、生体特異的リガンドまたは生体特異的試薬によって特異的に結合され、特異的結合物質に対する選択的結合に関与し、それを荷う標的生体部分のその部分をいい、その存在は選択的結合が生じるために必要である。基礎的用語において、決定因子は特異的結合ペア反応において受容体によって認識される標的生体部分上の分子接触領域である。本明細書で用いられる「特異的結合ペア」なる用語は、抗原−抗体、受容体−ホルモン、受容体−リガンド、アゴニスト−アンタゴニスト、レクチン−炭化水素、核酸(RNAまたはDNA)加水分解配列、Fc受容体またはマウスIgG−プロテインA、アビジン−ビオチン、ストレプトアビジン−ビオチンおよびウイスル−受容体相互作用を含む。様々な他の決定因子−特異的結合物質の組合わせは、本発明の方法の実施に使用することが意図され、そのようなものは当業者にとって明白であろう。本明細書で用いられる「抗体」なる用語は、免疫グロブリン、モノクローナルまたはポリクローナル抗体、免疫反応性免疫グログリンフラグメント、および一本鎖抗体を含む。ペプチド、オリゴヌクレオチドまたはそれらの組合わせも本発明の使用に意図され、それらは、慣習的に生成される抗体と同様の特異性で決定因子を特異的に認識する。「検出可能な標識」なる用語が本明細書で用いられ、直接的かまたは間接的かのいずれかで、物理的または化学的手段によるその検出または測定が当該試験試料中の標的生体部分の存在を示すいずれの物質をもいう。有用な検出可能標識の代表例は、限定されないが、以下の:光吸収、蛍光、反射率、光散乱、りん光または発光特性に基づき直接的または間接的に検出可能な分子またはイオン;それらの放射能特性によって検出可能な分子またはイオン;それらの核磁気共鳴または常磁性特性によって検出可能な分子またはイオンを含む。光吸収または蛍光に基づき間接的に検出可能な分子の群の中には、例として、例えば、非光吸収性から光吸収性分子へ、または非蛍光性から蛍光性分子へ転換する適切な基質を生じる種々の酵素が含まれる。核酸ダイまたは他のレポータ分子は、本明細書で、時に、非細胞排除剤といい、標的生体部分および、無傷の有核細胞のごときある種の非標的生体部分の双方を同定することができるが、それを当該試料に添加して、フローサイトメトリー、顕微鏡観察、または他の分析プラットホームによる分析前に、いずれの残存無核細胞または他の潜在的な阻害性試料成分をも排除することを可能にする。非細胞排除剤はDNA、RNA、タンパク質または脂質と反応することができ、得られた信号量は細胞に対して得られるものの典型であるか、または得られた像が、細胞および核の膜、核ならびにミトコンドリアのごとき細胞の典型的な特徴を明らかにする。
本明細書で磁性流体濃度、磁場強度、またはインキュベーション時間を説明するのに用いられる「最適(optimal)」なる用語は、標準未修正のアッセイ、分離、単離または富化に用いる条件をいう。
本明細書で磁性流体濃度、磁場強度、またはインキュベーション時間を説明するのに用いられる「最適でない(sub-optimal)」なる用語は、アッセイ、分離、単離または富化に用いる条件をいい、最適条件下で得られる結果と比較して、劣った結果を生じる。
本明細書で用いられる「磁性流体」なる用語は、懸濁状態の磁性ナノ粒子をいう。磁性流体および磁性ナノ粒子なる用語は、本明細書において交換可能で用いられる。
内因性磁性流体凝集因子は試験対象から単離された試料に存在するものである。外因性凝集因子は本明細書で挙げられたものであって、調査員によって所望するように添加および/または反転されるものである。
本発明に使用するのに好ましい磁性粒子はコロイドとして振る舞い、超常磁性の粒子である。コロイドは、そのサイズ、すなわち、200nmより小さいことで特徴付けられ、すなわち、分析を阻害しないサイズのものである。超常磁性粒子は、それらが磁場勾配に付されたときにのみ磁性になり、永久的には磁性にならない。コロイド状超常磁性粒子は延長された時間水性溶液から分離も静置もされない。これらの粒子は酸化鉄の単一結晶または、物理的に吸着されたかまたは共有結合したかのいずれかの分子によって取り囲まれたそのような結晶の凝塊のいずれかよりなる。上記の特性を有するコロイド状磁性粒子は米国特許第4,795,698;5,512,332および5,597,531号に記載されたようにして調製し得る。モノクローナル抗体は、細胞の特異的サブセットを認識し、磁性粒子にコンジュゲートしたものが本発明の使用に好ましい。
稀少細胞単離の研究過程において、ある種の患者の血液中に存在し、磁性ナノ粒子の凝集を引き起こす因子が発見された。さらに、この促進凝集効果は容易に反転可能のようである。かくして、低受容体密度の稀少細胞は、より多くの磁性流体を「負荷」することによって、対象の稀少細胞の特性決定因子に特異的に結合するものよりもより効率的に、適度に希釈された全血から外部場四極子または六極子セパレータ中で単離し得る。単離された細胞を顕微鏡観察によって調べると、磁性流体クラスターが細胞膜に存在している。促進効果の反転が該クラスターを解凝集し、当該細胞の微視的分析を容易にする。この内因性促進効果は、見掛け上正常なドナー血液試料の約90%において様々なレベルで存在する。アッセイ条件を操作することによって、得られた磁性流体クラスターは対象の細胞を損傷することなく消滅させ得る。かくして、本発明は、内因性磁性流体凝集因子の効果を排除する方法および、所望する場合、磁性流体の凝集を制御し反転させることが可能な剤を構築する手段を提供する。これは、稀少細胞ならびに、ウイルスおよび細菌のごとき他の生物学的部分の効果的、かつ、有効な単離、およびその後の分析を許容する。
血液中に見出される内因性磁性流体凝集物質は、米国特許第5,597,531号に記載されるように、以下の特徴を有する:(1)それは血漿または血清中に存在する;(2)それはミリモラー濃度のジチオトレイトールに対して感受性である;および(3)それは、ダイレクト・コーティド磁性流体の上にある「裸」の結晶性領域と反応する。対照実験は、当該因子はフェリチン、トランスフェリン、フィブリノゲン、Clq、ヒト抗マウスまたは抗BSA抗体ではないことを明らかにした。該凝集物質はIgGサブクラスのものでもない。なぜならば、IgG−喪失血漿も該磁性流体の凝集を引き起こすからである。磁性流体凝集は磁性流体または血清の濃度に相関するようである。いずれかの成分の濃度への凝集依存性は、沈降素曲線で観察されるものに類似し、上記の観察に基づき、該物質はIgMであると仮定した。これは該IgMを免疫アフィニティー精製で該血漿試料から除去することによって結論的に証明された。得られたIgM喪失血漿は磁性流体凝集を引き起こさなかった。
同一血漿試料をBSAアフィニティー媒体全体に吸収させた対照実験は、磁性流体凝集を示した。さらなる研究は、該凝集因子と共に磁性流体を含有する大量の血清の吸収は少量の全IgMを除去したのみであること、および精製されたヒトIgMが磁性流体凝集を生じることを論証した。これらの観察ならびに吸収された凝集因子および吸収/脱吸収物質で凝集を引き起こす能力の同定研究は、これらの実験における凝集因子は、実際に高度特異的IgMであるという結論を導く。タンパク質で不完全に被覆されたマグネタイト結晶またはせっけんで部分的に被覆されたマグネタイト結晶を除き、該磁性流体を形成するのに用いられたいずれの成分による凝集を阻害することに対する無能力に基づき、該IgMによって認識されるエピトープはマグネタイト結晶性表面上に存在すると確信される。この特異的IgMの役割は知られていないが、それは相当な部分のヒト母集団中に様々なレベルで存在する。この抗体は鉄代謝においてある役割を演じている可能性がある。
内因性促進因子を操作する方法は本明細書に記載され、それは意味あるやり方で単離された細胞の患者対患者比較を許容する。内因性凝集促進因子は患者母集団において変動するので、腫瘍細胞、母性血液中の胎児細胞またはウイルス感染細胞である稀少循環細胞を分離する標準手順を創るのは困難である。共係属出願(第09/248,388号)に記載された最近の発見は、循環細胞数の規模は乳ガン患者の全身腫瘍組織量および疾病段階に直接関係することを論証した。同様に、全身ウイルス組織量はHIV感染の予後において相当なものであると示されている。そのような部分の正確な定量の必要がさらに一層重要になってきている。本明細書に記載された方法は、臨床設定において有利に用いることができる試験キットによって簡便に実施される。
ドナー血清中でこの磁性流体凝集因子(FFAF)の存在が発見されたことで、注意深い研究は、モノクローナル抗体コンジュゲーティド磁性流体を用いて、その存在がスパイクド低密度腫瘍細胞の回収率を著しく向上することを確認した。これらの研究において、FFAFを含有する血液を1細胞/2mlのレベルにてスパイクされた細胞は70%以上の効率で規定通りに回収される。対照的に、FFAFが存在しないドナー血液において、回収の効率はおよそ15〜25%に低下する。これらの実験から、以下の観察がなされた:
1.低密度受容体細胞は、しばしば、高密度受容体よりも低い効率で単離され;
2.分離効率は低密度受容体細胞に関してかなり変動し、この変動は当該血液ドナーに依存し;
3.異なるドナーの血液からの磁性流体/磁気単離後、いずれの細胞タイプ(高いまたは低い密度の特性決定因子細胞)を顕微鏡観察で調査したとき、磁性流体は患者試料の約90%が凝集し;
4.回収された腫瘍細胞はそれらの表面上に様々な程度の視覚的な磁性流体凝集を有する。
しかも、当該凝集物質はDTTに対して感受性であるので、回収された細胞は、観察前に磁性流体の凝集の減少によって、形態上の特性に関する顕微鏡観察によって容易に視覚化し得る。
細胞回収を促進する、FFAFの現象と鎖化(米国特許第5,466,574号を参照せよ)を比較すると、いくつかの興味深い結論を導き出し得る。多くの個人における場合のように、FFAFが過度に低い濃度で血液中に存在するとき、低密度受容体スパイクド細胞(例えば、1〜5細胞/ml血液)の優れた回収が得られる。回収された細胞の品質は、それらの表面上の磁性物質のレベルにより評価すると、形態学的調査またはさらなる操作に非常に適したものである。FFAFが高い濃度であるとき、回収は優れているが、細胞上の凝塊がそれらの観察を妨害するので、回収された細胞の品質は許容できない。それゆえ、鎖化の成分、すなわち、濃度によって限定されるモノクローナル抗体−磁性流体「鎖」とは異なり、非常に効果的な細胞分離に導き得るFFAFのレベルがあり、かくして、効率的に研究し得る細胞の単離された母集団を提供する。本発明のある具体例において、当該試料中の内因性FFAFは最初不活性化され、調査員により本明細書に記載された組成物を添加することによって、凝集を制御し得るようにする。このようにして、凝集は、所望するように促進または阻害し得る。
FFAFおよびいずれの同様の物質は稀少細胞を単離するアッセイにおいて評価されるべきである。そのような因子を制御して、全ての患者に対して信頼して機能する試験を開発すべきである。例えば、多くの個人が抗げっ歯類抗体または炭化水素のごとき成分に対する抗体を有しており、それらはいくつかの磁性ナノ粒子の表面上に見出すことができるであろう。血液中に通常存在する他の潜在的な凝集物質は、Clq、リューマチ因子、および凝血タンパク質を含む。そのような反応は、それらを標本−標本間で一定にするように制御するか、または完全に排除するかのいずれかである。抗げっ歯類抗体の場合、それらの凝集効果を阻害するようにげっ歯類タンパク質を当該系に添加することによって、これを達成する。この添加は、免疫アッセイ系にそのような成分を添加することとは全く異なる。後者の場合、一般に、げっ歯類抗体は単離を促進するが、それらは、捕捉した抗体を標識抗体とサンドイッチ型反応で連結するので擬陽性を増加する傾向にある。対照的に、本発明の方法で用いられるさらなる抗体は低密度受容体細胞の回収を促進する。かくして、ある場合、凝集因子は擬陽性を人為的に上昇し得、別の場合、当該標的生体部分の単離を容易にする。
そのような因子を競争的に阻害することに加えて、それらを無能化するか、または溶液から吸収することができ、あるいは、そのような因子が結合する磁性コロイド上の決定因子を除去することができる。マウスまたは他の動物の血清タンパク質、免疫コプレックス、炭化水素、補体を含む、種々の活性化システムを阻害するキレーティング剤、およびジアミノブタンのごとき、C1qと反応した抗体との相互作用を特異的に阻害する化合物のごとき、最適量の添加物を含有する特別のバッファーを調製することによって、FFAF活性を阻害することができる。FFAFがIgMの場合、還元剤が、細胞を標識するのに用いたリガンドに影響することなく、効果的にFFAFを無能化する。かくして、そのような因子は化学的または酵素的に選択的無能化し得る。適切な物質、例えば、未コンジュゲーティド磁性流体での吸収は、該試料中の凝集因子を別の経路で除去する。
凝集剤(aggregator)の量を患者−患者間で一定にして、常に同一レベルの促進因子を有するようにすることも可能であろう。これは様々な方法で達成することができる。例えば、全ての内因性因子を全患者試料において同一レベルに減少することができる。しかしながら、これは困難で非現実的解決のようである。代りに、ツーステッププロセスを用いることができる。第1ステップとして、全ての内因性FFAFを該磁性流体のその標的への特異的リガンド結合またはその後の細胞分析に影響することなく無能化する。第2ステップは、制御された凝集反応を伴なう。二種のリガンドにコンジュゲートされたコロイド状磁性物質を用いて、上記ツーステッププロセスを実施することができる。モノクローナル抗体のごとき一のリガンドは細胞表面決定因子に向けられ、効率的に細胞を標識するであろう。二番目のリガンドはいずれの血液成分とも反応しないが、第1リガンドとの結合後に添加されるであろう多価成分に対して結合アフィニティーを有する。かくして、さらなる磁性コロイドはすでに細胞に結合しているコロイドに結合し、それによって、FFAFが行うのと丁度同じように、それらの磁気負荷を促進する。同様に、第2リガンドの反応とその多価成分との反応が可逆的であれば、好ましい。第2反応の正しい成分およびそれらの濃度を選択することによって、磁性流体と凝集因子とを同時に添加することが可能になる。
したがって、磁性流体の凝集の制御を容易にし、それによって、稀少産生生物学的部分の回収を促進するFFAFが提供される。理想的凝集因子は可逆的凝集効果を媒介するものである。凝集の反転は磁性ナノ粒子クラスターを排除し、単離された細胞の視覚化を容易にする。本発明の因子は上記した理想的磁性粒子条件と同様のやり方で、すなわち、標的に結合しているコロイド状ナノ粒子をそのプロセスを容易に反転させる能力を持つ大きな粒子に転換することによって、作動する。ほとんどの正常ドナーの血液中に存在し、低密度受容体稀少細胞の単離効率を促進する内因性因子の同定および調査を本明細書に記載する。
好ましいFFAFは、磁性流体磁性粒子上の決定因子を認識する特異的多価物質を含み、それによって、該粒子を架橋する。この因子は血漿中に天然に産生されるか、または外部から添加された試薬であろう。いくつかのタイプの外因性試薬がこの目的に適し、限定されないが、IgG、二量体IgG、IgM、ストレプトアビジン、アビジン、プロテインA、プロテインG、二量体または四量体のポリ−Aもしくはポリ−T、または特異的オリゴヌクレオチド配列を含む。第2リガンドは磁性流体上に導入し得、FFAFによって認識され得る。ハプテン、ビオチン、ビオチン・アナログ(イミノビオチン、デスチオビオチン)、ヒツジIgG、ヤギIgG、ラットIgG、ポリ−Aまたはポリ−T、またはオリゴヌクレオチドのごとき、選択することができるいくつかのタイプの第2リガンドがある。FFAF−第2リガンド相互作用は、可逆的または不可逆的のいずれかであってよいが、可逆的相互作用が好ましい。還元剤、過剰なハプテン、過剰なハプテン・アナログ、過剰な第2試薬のアナログ、塩濃度の変化、pHの変化または温度の変化のごときFFAF−第2リガンド相互作用を反転するのに用いることができるいくつかの試薬がある。
アッセイまたは分離を最適条件下で行うとき、当該標的細胞のパーセント回収率は最大限である。しかしながら、外因性凝集が誘発されたとき、条件を修正することができるのは明らかである。高密度表面受容体標的細胞の場合、最大回収率に必要な磁性流体の量は外因性凝集なしにかなり高く、利用可能な結合部位の全てを飽和することによって、各標的が磁気的に反応性であることを保証する。本発明のひとつの利益は、利用可能な結合部位の全てを飽和する必要がないので、分離に必要な総磁性流体が少ないことである。これは、外因性凝集因子が介在する磁性粒子の架橋を形成し、結合部位あたりの磁気量を増加させる能力によるものである。細胞あたりに多くの単一磁性粒子の使用によって細胞を磁気応答性にする、すなわち、一つの粒子が一つの細胞表面抗原に結合する代りに、複数の粒子の凝集体を単一抗原に結合し得、最適に捕捉された細胞と同じ磁力を維持するであろう。今や、各粒子は細胞表面抗原または別の粒子に結合する能力を有する。言い換えれば、少ない総磁性流体しか用いないのにもかかわらず、各標的細胞は同一の磁気応答性を有し、得られた分離効率は最適条件下で得られたものに匹敵する。最適には、試料1mlあたり10μgの磁性流体を用いる。この濃度は本発明によれば、10倍減少させることができる。
必要な磁性流体の量を減少させることに加えて、磁力ならびにインキュベーション時間を減少させ得る。本発明の凝集体は非凝集分離における個々の磁性粒子よりも大きいので、より低い磁場強度でも当該凝集体を移動し得る。外因性凝集を進行させて、小さな磁性粒子から一次的、かつ、可逆的大磁性粒子を生成する。実際に、大きな粒子の利益は、分離に弱い磁場を用いる能力を含み、本発明に適用し得る。典型的に用いられる四極子磁気セパレータは容器表面にて6.3kガウス/cmの磁場勾配を維持する。双極子のごとき磁気配列は該容器表面にてほぼ半分の磁場強度を有し、本発明の方法を実行するのに用いることができる。
非凝集系において、有効分離のため細胞あたりの磁性粒子数を増加させるために、より長いインキュベーション時間が必要である。この系において、一つの磁性粒子は一つの細胞表面抗原に結合する。しかしながら、外因性−誘発凝集系において、当該誘発された凝集体により、抗原あたり複数の粒子を生じることによって、細胞あたり同数の粒子を達成し得る。これはインキュベーション時間を短縮することを可能にする。なぜならば、全ての利用可能な結合部位が磁性粒子に結合する必要がないからである。この第2の結合ペアメンバーを添加することによって、今や、該粒子は遊離細胞表面抗原にのみ結合できる代りに、他の粒子に結合し得る。したがって、上で説明したように、結合部位は、最適条件と同じ磁気応答性を有するために飽和される必要がなく、これはインキュベーション時間の減少を許容する。磁気インキュベーションの最短時間は30分間である。本発明を用いれば、これらの時間を3倍にまで減少することができる。しかしながら、磁性流体濃度を低下させ、インキュベーション時間を短縮することを両方同時にすることを意図しない。これらのステップの変形を互いに独立して用いて、標的生体部分の最大回収率を維持する。
外因性磁性流体凝集因子により認識された第2リガンドを、標準カップリング化学によって、上記モノクローナル抗体に加えて磁性流体にカップリングする。第2リガンドはハプテンもしくはビオチン・アナログのごとき小分子または抗体もしくは特異的タンパク質のごとき大分子またはポリペプチドもしくはポリオリゴヌクレオチドのごときポリマーであってよい。デスチオビオチンのごときビオチン・アナログが本発明の第2リガンドとして磁性粒子にコンジュゲートするのに好ましい。なぜならば、低めのアフィニティー(ストレプトアビジンにつきKa=106M−1、天然ビオチン(Ka=1015M−1)に比較して)を示すからである。ストレプトアビジンとデスチオビオチンとの間の相互作用は過剰ビオチンの添加により簡単に崩壊し得る。デスチオビオチンとアビジンとの組合わせは当該標的物質から磁性粒子または不溶相を除去するのに用いられてきた(PCT/US94/10124および米国特許第5,332,679号)。本発明において、その組合わせは磁性粒子を凝集させ、解凝集させるためにのみ用い、磁性粒子を標的物質から除去するためには用いない。
本発明に用いる反応容器はガラス製またはプラスチック製のいずれかでよいが、プラスチックチューブが好ましい。チューブの底部は丸いか円錐の形であってよい。異なる長さまたは径のチューブを用いて、異なる体積の試料を処理することができる。例えば、いくつかの場合、50mlコニカル管を用いて、20ml以上の血液を処理することができる。本発明の一つの具体例において、12×75mmポリスチレンチューブまたは15mlコニカルチューブを用いる。磁性粒子でインキュベーションする間に用いる反応容器と磁気分離の間に用いる容器とは同一である必要はない。1のタイプをインキュベーション用に、別のタイプを磁気分離用に、2つの異なるタイプの容器を用いることができる。しかしながら、両方の場合に一つの容器のみを用いるのが好ましい。磁気分離容器はチューブまたはフロースルーチャンバーまたはある別のデバイスであってよい。
本発明を実施するのに用いる試験媒体はいずれの液体または標的物質を含有する溶液であってもよく、好ましくは血液である。該反応容器内の試験試料は標的物質に特異的な抗体にコンジュゲートされた磁性流体およびFFAFに特異的な第2リガンドと共にインキュベートすることができる。なお、外因性FFAFは、磁性流体と同時にまたは磁性流体が標的物質に結合した後に該試験試料に添加する。所望により、天然に産生する凝集因子を阻害または無能化する試薬を磁性流体と同時にまたは磁性流体の添加の前に添加することができる。最適インキュベーション時間後、磁気標識標的を磁気セパレータ中で残りの試験媒体から分離する。磁気セパレータおよび分離時間は試験媒体および反応容器に基づいて選択される。米国特許第5,186,827号に記載されたもののごとき、高勾配磁気分離装置を用いるのが好ましい。未収集液体を吸引した後、収集した細胞を、細胞内染色のため細胞の透過性をあげるために、等張バッファーまたは透過性化溶液に懸濁させる。磁気標識細胞を磁気的に再分離して、透過性化試薬を除去する。標識物質での染色のため、収集した細胞を少量の細胞バッファーに再懸濁させる。バッファー量は100〜300μlであろう。所望により、該細胞バッファーは、上記のごとき解凝集試薬、例えば、ビオチンを含有することができる。ビオチンの最終濃度は1〜5mMであってよい。抗体染色のためのまたは解凝集試薬での磁性流体の解凝集のためのインキュベーション時間は10〜60分間であってよく、好ましくは15分間である。抗体での最適な染色または磁性流体の解凝集の後、過剰な試薬を別の磁気分離によって除去することができる。未収集液体を吸引した後、収集した細胞を少量の等張バッファーに再懸濁させる。このバッファーの量は100〜500μlであってよい。磁性流体標識細胞をさらにプロセスするか、またはフローサイトメトリーもしくは顕微鏡観察によって分析することができる。
抗体にコンジュゲートされた磁性粒子のみを上記に記載してきたが、他のタイプのコンジュゲートされた磁性粒子が本発明の使用に意図される。抗体以外のタンパク質に対してコンジュゲートされた磁性粒子を用いることができる。例えば、抗体−ビオチンコンジュゲートで標識された標的細胞に結合するストレプトアビジン・コンジュゲーティド磁性粒子を用いることができる。標的細胞の標識後、遠心を用いる洗浄工程によって、過剰な抗体−ビオチンを除去することができる。次いで、抗体−ビオチンで標識された標的細胞を、細胞の磁気標識のためにストレプトアビジン磁性流体と共にインキュベートする。いずれかのポリマーまたはタンパク質(凝集因子)にコンジュゲートされたデスチオビオチンを当該試験媒体に添加して、磁性流体を凝集させる。磁性粒子と共に同時に、または該磁性粒子が該標的細胞に結合した後に、凝集因子を添加することができる。ポリマーまたはタンパク質あたりのデスチオビオチンの数は凝集体磁性流体に対して1を超えるべきである。好ましくは、ウシ血清アルブミン(BSA)にコンジュゲートされたデスチオビオチンを用いることができる。BSAに対するデスチオビオチンの数は2〜10であろう。そのようなデスチオビオチン/タンパク質コンジュゲートを以下に記載するように合成することができる。
本明細書には、主に血液からの腫瘍細胞選択を参照して、本発明を説明しているが、本発明は腫瘍細胞選択に限定されない。CD34、CD4および胎児細胞のごとき、血液、ロイコフォレシス(leukophoresis)または骨髄中に存在する他の細胞タイプを選択することができる。それらの細胞上の抗原決定因子は低ないし高であろう。より一般的には、本発明は、その効果的単離のために磁気促進が必要ないずれの細胞の単離に対して向けられる。
以下の実施例は、本発明の様々な具体例を例示するために与えられる。これらの実施例は、本発明の範疇を限定する意図は全くない。
実施例 I
以下のデータは、血液試料中にスパイクされた低および高密度受容体腫瘍細胞の回収に対する本発明のFFAFの効果を例示する。代表的なFFAFは、ほとんどのドナーの血液試料中に存在する特異的IgMであると同定されている。ジスルフィド結合を切断するジチオトレイトール(DTT)およびスルホン酸メルカプトエタン(MES)のごとき、還元剤は五量体IgMをその単量体形態に転換することによって、血液中での磁性流体凝集を阻害した。DTTは本発明の使用のためには好ましい試薬ではない。なぜならば、高い濃度であれば、細胞モルホロジーを変化させ、標的細胞および白血球に対して毒性だからである。
この実施例に、磁性流体凝集および、スパイクド血液からの高および低抗原密度の両方の腫瘍細胞の腫瘍細胞回収率に対するMESの効果を記載する。この研究に用いられたプロトコルは以下である。血液(2ml)を12×75mmポリスチレンチューブに入れ、1mlのイムニコン(Immunicon)希釈−洗浄バッファーを添加して、該血液を希釈する。次に、約1000 SKBR3またはPC3細胞を含有する100μlの細胞バッファー(1%BSAおよび50mM EDTA入り等張7mMリン酸塩、pH7.4)を添加した。(150μlを超えずに)体積を増加させてMEAを血液試料に添加して、異なる濃度の還元剤を得る。混合した後、EpCAM MAb(GA73.3;50μl)コンジュゲーティド磁性流体磁性粒子を該試料に添加する。磁性粒子の最終濃度は5μg/mlであった。該血液試料をよく混合し、室温にて15分間インキュベートする。インキュベーション後、該血液試料を含有するチューブを四極子磁気分離装置に入れた。磁気分離を10分間行った。上清を吸引し、該チューブを該磁気装置から取り出した。磁気的に収集された細胞を1mlの希釈−洗浄バッファーに再懸濁させ、次いで、四極子磁気分離装置中で5分間再分離した。上清を廃棄し、該四極子装置から取り出した後、標的細胞を150μlの希釈洗浄バッファー中に再懸濁させた。この試料の一部(5μl)を顕微鏡スライド上にスポットした。次いで、デジタルカメラが取り付けられた顕微鏡を用いて、該回収された細胞の写真を撮影した。
残りの試料をフローサイトメトリー分析に付して、以下の手順を用いて、腫瘍細胞の回収率を評価した。腫瘍細胞(Neu24.7)に特異的なフィコエリスリン(PE)−コンジュゲーティドMAb(5μl)および5μlのペリジニン−クロロフィルタンパク質(PerCP)−コンジュゲーティドCD45モノクローナル抗体を該試料に添加し、次いで、それを15分間インキュベートした。インキュベーション後、1mlの希釈−洗浄バッファーを添加し、磁気分離を行って、過剰な染色抗体を除去した。磁気的に収集された細胞を500μlの希釈−洗浄バッファーに再懸濁させた。核酸ダイ(10μl)および5μlの3mMサイズの蛍光ビーズ(5000)をこの試料に添加した。次いで、FL1を感度限界として用いてFACSCaliburフローサイトメータ(ベクトン・ディッキンソン(Becton Dickinson)社)で、該試料を分析した。フローサイトメータで獲得された蛍光ビーズの画分を用いて、フローサイトメトリーによって分析された試料の量を決定し、その結果、スパイクド腫瘍細胞の回収率の計算を容易にする。
顕微鏡で見ると、MESの不存在下で、最終試料は遊離磁性流体凝集体および腫瘍細胞上の磁性流体凝集体が示された。MES濃度を増加すると、磁性流体凝集体が減少し、高濃度のMESでは、凝集体は観察されなかった。次いで、これらの視覚結果をフローサイトメトリーによって測定された腫瘍細胞回収率と比較した。MESの添加はSKBR3細胞(高抗原密度)の回収率にあまり効果がなかったが、顕微鏡観察は、それが溶液中および細胞表面上の磁性流体凝集を減少させていることを明らかにした。対照的に、MESはPC3細胞(低抗原密度)の回収率には著しい効果があった。MESの濃度が約0から100mMに増加すると、回収率は47%から17%に減少した。増加する濃度のMESの存在下、PC3細胞の回収率におけるこの減少は、磁性流体凝集の阻害によるものであり、細胞へのMESのいずれの副作用によるものではない。なぜならば、MESは溶血試料から得られた同一のスパイクドPC3細胞の回収率を減少させないからである。溶血は、赤血球を塩化アンモニウムで溶菌し、次いで、洗浄ステップで血漿および塩化アンモニウムを除去することによって得る。溶血試料は白血球(白色細胞(white cells))のみを含有し、一方、全血は赤血球および血漿も含有する。溶血では磁性流体凝集は観察されない。しかも、MESは細胞モルホロジーにもあまり影響しない。これらのデータは、低抗原密度細胞は高抗原密度細胞よりも低い効率で単離され、磁性流体凝集の阻害は低抗原密度細胞の単離に劇的に影響することを示す。洗浄された血液(血漿を除去した血液細胞)を用いたときも、磁性流体凝集は観察されなかった。したがって、洗浄された血液試料を凝集なしの対照として用いた。全血と丁度同じように、SKBR3細胞の回収率は洗浄された血液で減少しなかった。一方、PC3細胞の回収率は、洗浄された血液を用いたとき、著しく減少した(2ないし5倍)。このデータは、磁性流体凝集はSKBR3細胞の回収率には全く効果がないが、PC3細胞の回収率には大きな効果を有することを示している。
要約すれば、様々なレベルの多くの患者の血液中に存在する血漿成分(IgM)での腫瘍特異的磁性流体の凝集は低抗原密度細胞の回収率に著しい効果を有する。そのような細胞の回収率は磁性流体凝集の程度に影響され、凝集の増加に伴なって増大する。磁性流体凝集は、当該細胞の磁気負荷を増加させることによって低抗原密度細胞の回収率を増大する。磁性流体凝集は凝集させる因子、すなわち、凝集剤の濃度に依存して、一の血液ドナーと他のドナーとで変動し得る。結果として、腫瘍細胞の回収率は、同数の循環腫瘍細胞を保持していても、人と人との間で変動する。同一人物からの血液中に存在する凝集剤も時間によって変動し得、かくして、磁性流体凝集の程度および腫瘍細胞の回収率は変動する。この変動を防止する最善策は、天然に産生するフェロ粒子凝集因子を防止することである。しかしながら、これは腫瘍細胞単離および検出の効率の低下をもたらす。これらの状況下で腫瘍細胞の回収率を増大させる一つの手段は、弱磁気標識細胞を効率的に引っ張って、それらの回収率を増大させ得るより高い磁気勾配で、磁気装置を改良することであろう。腫瘍細胞の回収率を増大する別の策は外部試薬で天然フェロ粒子凝集を真似ることである。この試薬は、磁性流体を認識し得る特異的多価試薬であって、血液および磁性流体に添加し得る。該特異的試薬はIgMと同様であるが制御された反応下で、磁性流体を凝集させる。制御された凝集には2つの利点がある:(1)回収された腫瘍細胞のパーセンテージが増加し、(2)回収された腫瘍細胞のパーセンテージは、試料が同数の腫瘍細胞を有するとき、患者間で変動しない。
実施例 II
制御された凝集のためのデスチオビオチン/EpCAM MAbの調製
ベース磁性流体を米国特許第5,698,271号に記載されたように生成する。上皮細胞接着分子(EpCAM)に対するモノクローナル抗体を、米国特許出願第09/248,388号で用いたように、標準カップリング化学によってベース物質にコンジュゲートさせた。次いで、EpCAM MAb磁性流体を20mM HEPES、pH7.5に再懸濁させて、N−ヒドロキシスクシンイミド−DL−デスチオビオチン(NHS−デスチオビオチン)(シグマ(Sigma)社、カタログ番号H−2134)を用いてデスチオビオチンにコンジュゲートした。NHS−デスチオビオチンの母液をDMSO中1mg/mlにて作製する。NHS−デスチオビオチン(19μg)を1mgのEpCAM MAb磁性流体に添加し、室温にて2時間インキュベートした。高勾配磁石を用いて、1mg/ml BSA、0.05% ProClin 300を含有する20mM HEPES、pH7.5で3回洗浄することによって、未反応NHS−デスチオビオチンを除去する。最終洗浄後、デスチオビオチン/EpCAM MAb磁性流体をイムニコン磁性流体保存バッファーに再懸濁させ、0.2μmシリンジフィルターを通して濾過した。
実施例 III
デスチオビオチン/EpCAM磁性流体とストレプトアビジンとの凝集によるスパイクド血液からの低抗原密度PC3腫瘍細胞の回収率の増大化
この実施例において、低EpCAM抗原密度を有する前立腺ガン細胞(PC3)を正常血にスパイクし、そのスパイクド細胞の回収率を評価するモデル系として用いた。50μlのバッファー(1%BSAおよび50mM EDTA入りの等張7mM リン酸塩、pH7.4)中の既知数のPC3細胞(〜5000)を12×75mmポリスチレンチューブ中の血漿なし1mlの正常血にスパイクした。血漿なし血液をこれらの実験に用いて、標的細胞の選択における血漿成分のいずれの妨害をも防止し、血液の遠心によってそれを調製した。500μlのイムニコン希釈洗浄バッファーおよび15μlのストレプトアビジンをPBS中で異なる濃度にて、該血液試料のアリコートに添加した。該試料を混合した後、実施例1からのデスチオビオチン/EpCAM MAb磁性流体(25μl)を該試料に添加し、よく混合し、室温にて15分間インキュベートした。磁性流体の最終濃度は5μg/mlであった。インキュベーション後、該血液試料を含有するチューブを10分間四極子磁気セパレータに入れ、磁気標識細胞を収集した。未収集試料を吸引し、該チューブを該磁気セパレータから取り出した。磁気的に収集された細胞を750μlの希釈−洗浄バッファーに再懸濁させて、磁気セパレータ中で5分間再分離した。未収集試料を再び廃棄し、該チューブを該磁気セパレータから取り出した後、当該収集した細胞を150μlの希釈−洗浄バッファーに再懸濁させた。
次いで、該試料を抗体で染色して、以下のようにしてフローサイトメトリーによって腫瘍細胞の回収率を決定した。腫瘍細胞(Neu24.7)に特異的な5μlのフィコエリスリン(PE)−コンジュゲーティドMAbおよび5μlのペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)−コンジュゲーティドCD45 MAbを該試料に添加し、15分間インキュベートした。インキュベーション後、1mlの希釈−洗浄バッファーを添加し、磁気分離を5分間行って、過剰な染色抗体を除去した。磁気的に収集された細胞を500μlの希釈−洗浄バッファーに再懸濁させた。核酸ダイ(10μl)および5mlの3μM蛍光ビーズ(5000)をこの試料に添加した。次いで、FL1を感度限界として用いてFACSCaliburフローサイトメータ(ベクトン・ディッキンソン(Becton Dickinson)社)で、該試料を分析した。フローサイトメータで獲得された蛍光ビーズの画分を用いて、フローサイトメトリーによって分析された試料の量を決定し、次いで、それを用いて、スパイクド腫瘍細胞の回収率を計算した。腫瘍細胞のパーセント回収率を以下の表に示す。
フローサイトメトリー分析後に残った試料を2つの部分に分割した。PBS中の母液からのビオチンを該試料の1の部分に添加して最終濃度2mMにし、室温にて15分間インキュベートしてストレプトアビジン−介在磁性流体凝集体を解凝集した。これらの試料(5μl)を顕微鏡スライドスライド上にスポットし、デジタルカメラが取り付けられた顕微鏡を用いて、該回収された細胞の写真を撮影した。データは、凝集剤(ストレプトアビジン)の濃度が増加すれば、腫瘍細胞(PC3)の回収率が著しく増大し、2μg/l濃度のストレプトアビジンにて最大に達することを示唆する。これらの結果は、顕微鏡で観察された溶液中の遊離磁性流体凝集体および細胞上の磁性流体凝集体に相関した。0μg/lのストレプトアビジンにて磁性流体凝集体はなく、ストレプトアビジンの濃度が増大すると磁性流体凝集体が増加した。ストレプトアビジンは、異なる磁性流体粒子上のデスチオビオチンにストレプトアビジンが多価結合することによって、磁性流体の凝集を引き起こす。これらの磁性流体凝集体の全ては、過剰なビオチンの添加によって、可逆的に解凝集された。過剰ビオチンによる磁性流体のこの解凝集の原理は、ストレプトアビジンに対して、ビオチンがデスチオビオチンよりも高いアフィニティーを有しているので、ストレプトアビジンからデスチオビオチンへの置換によるものである。
実施例 IV
デスチオビオチン/EpCAM MAb磁性流体の凝集の有無での血液からのスパイクド低および高密度のEpCAM抗原密度細胞の回収
乳ガン細胞(SKBR3)はPC3細胞と比較して約7倍高いEpCAM抗原密度を有し、この実施例の高抗原密度腫瘍細胞のモデルとして選ばれた。細胞バッファー中の既知数のSKBR3またはPC3細胞を別々に12×75mmチューブ中、1mlの血漿なし血液中にスパイクした。磁性流体希釈−洗浄バッファー(500μl)およびストレプトアビジンを含有する15μlのPBSを該試料に添加した。該試料を混合した後、25μlのデスチオビオチン/EpCAM MAb磁性流体を添加し、当該血液試料をよく混合し、15分間インキュベートした。インキュベーション後、該チューブを10分間四極子磁気セパレータにいれて、標識された細胞を磁気的に収集した。磁気的に分離された細胞は、実施例IIに記載されたように、腫瘍細胞の回収率につきフルオロメトリーによって、細胞の観察につき顕微鏡によって分析した。
上記データは、磁性流体凝集剤ストレプトアビジンを血液試料に添加しなかった場合、低および高抗原密度細胞の間で腫瘍細胞回収率における有意差を明らかにした。顕微鏡観察でも、ストレプトアビジンなしでは溶液中または細胞上に磁性流体凝集体はなかった。血液試料にストレプトアビジンを添加すると、溶液中および細胞上の磁性流体凝集体の増加に比例して、低抗原密度PC3細胞の回収率が増大した。一方、血液試料中に存在するストレプトアビジンの有無で、高抗原密度SKBR3細胞の回収率にはほんの少しの差異しかなかった。SKBR3細胞上には十分な磁性流体粒子があり、磁性流体凝集がなくても、それらを効率的に収集し、それらの全てを回収した。溶液中および細胞上の磁性流体凝集体は当該試料への過剰なビオチンの添加によって完全に解凝集された。低抗原密度細胞の場合、細胞上に十分な磁性流体粒子がなく、磁気方法によって効率的に収集されなかった。ストレプトアビジンによる磁性流体凝集はこれらの細胞上の粒子数を増加させて、収集を容易にし、効率的により高い回収率を得た。磁性流体の凝集は、低抗原密度細胞の回収率を高抗原密度細胞で得られるものの近くまで増大したことも特記に値する。言い換えれば、可逆的磁性流体凝集剤の血液試料への添加により、低および高抗原密度腫瘍細胞の回収率に有意差はなかった。
実施例 V
内因性凝集因子による磁性流体の凝集の阻害および外因性凝集因子による制御された磁性流体凝集の生成
この実施例において、全ての内因性磁性流体凝集因子の阻害および外因性凝集因子の添加による制御された磁性流体凝集の生成の方法を提供する。試料中に存在する内因性磁性流体凝集は、様々なインヒビターを試料に添加することによって阻害し得る。これらのインヒビターは異なる内因性凝集因子に作用し、それらが、架橋するかまたは磁性流体に結合するかのいずれかにより凝集を引き起こすことを防止する。阻害は、試料間の磁性流体凝集におけるいずれの変化をも除外する。内因性凝集因子は、様々な濃度にて、様々な試料中に存在するからである。一旦、内因性因子−磁性流体凝集が防止されれば、標的の回収を効率的に促進し得る外因性凝集因子の添加によって、磁性流体凝集を促進し得る。外因性凝集は全ての試料で一貫して制御し得、それは容易に反転し得る。
磁性流体を血液試料に添加する前に、インヒビターを含有するバッファーと共に血液試料を予備インキュベートして、内因性磁性流体凝集因子を阻害する。抗体連結磁性流体は、抗体に加えてウシ血清アルブミンおよびストレプトアビジンを磁性流体粒子の表面に含有する。したがって、可能性のある磁性流体凝集因子は、(結晶表面に特異的な)IgM、ヒト−抗−マウス抗体(HAMA)、ヒト−抗−ウシ血清アルブミン抗体(HABAA)、ヒト−抗−ストレプトアビジン等であり得る。上記凝集因子のいずれかが血漿中に存在すれば、それらは磁性流体を認識し、それに結合し、磁性流体を凝集させる。ある患者の血漿試料がHAMAおよびHABAAをその中に有することはすでに知られている。明らかに、磁性流体を製造するのに用いられるいずれの他の成分も凝集の標的であり得、相応に取り扱われる必要がある。
該インヒビターのうちの一つは100mMにてのスルホン酸メルカプトエタンのごとき還元剤であり得、それは、細胞を標識するのに用いられるリガンドに影響することなく、IgM−誘発凝集を無能化する。該還元剤は単一の試薬として血液中に添加し得、または、血液収集管に入れ得るであろう。2つめのインヒビターはウシ血清アルブミンであり得、それは10mg/mlにてバッファーに含ませ得、いずれのHABAAをも中和する。3つめのインヒビターは非特異的マウス抗体、特に、当該磁性流体上の抗体に適合する適当なアイソタイプであり得る。これは0.5〜5mg/mlの濃度にてバッファーに含ませて、最も過酷なHAMAでさえ中和する。4つめのインヒビターはストレプトアビジンであり得、バッファーに含ませて、必要であれば、血漿中に存在するいずれの抗−ストレプトアビジン抗体を中和する。しかしながら、今日まで、血漿中の抗−ストレプトアビジン抗体の存在に関しては何ら情報がない。
上記バッファーおよび還元剤での血液の予備処理は全ての内因性凝集因子を中和するのに15〜30分間であり得る。全ての内因性凝集因子を中和した後、外因性磁性流体凝集因子を試料に添加し、引き続き、磁性流体を添加する。該磁性流体は標的に特異的な抗体ならびに当該外因性凝集因子に特異的な別のリガンドに連結される。磁性流体での標的細胞の最適な標識および外因性凝集因子で誘発された磁性流体の凝集の後、該試料を磁気分離に付して、標的を富化する。全ての非標的を除去した後、磁気標識標的および遊離磁性流体を少量のバッファーに再懸濁させる。細胞のごとき磁気標識された標的は透過可能にされて、細胞内部抗原を染色する。次いで、フローサイトメトリーまたは蛍光法または明視野顕微鏡観察を含む所望される分析法に依存して、様々な染色試薬と共に該試料をインキュベートする。最適インキュベーション時間後、過剰な染色試薬を磁気分離に用いる洗浄ステップによって除去する。次いで、磁気標識細胞を少量のバッファーに再懸濁させる。最終試料は遊離磁性流体凝集体および標的細胞上に凝集体を含有する。該最終試料をさらなる処理せずにフローサイトメトリー分析に用い得る。なぜならば、細胞表面上の磁性流体凝集は前記分析を妨害しないからである。しかしながら、細胞表面上の磁性流体凝集は顕微鏡観察分析を妨害する。そのような場合、外因性介在−磁性流体凝集を反転すべきである。これは、外因性凝集因子に結合する解凝集因子を含有するバッファーに、該最終試料を再懸濁させることによって達成される。該解凝集因子は全ての磁性流体凝集体を解凝集させて、細胞を観察し、分析するのを容易にする。これらの方法は効率的な標的回収およびモルホロジー研究のための視覚化を許容する。
いくつかの特許および係属中の米国特許出願は本明細書に言及される。これらの特許および特許出願の各々の全開示は出典明示して、本明細書の一部とみなされる。
本発明の特定の好ましい具体例が記載され、上で詳しく説明されてきたが、本明細書をそれらのような具体例に限定する意図はない。特許請求の範囲に記載されたように、本発明の範疇および精神から逸脱することなく、それらに様々な修飾を行うことができる。