JP5062563B2 - 張弦梁およびその施工方法 - Google Patents
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Description
また、下弦材としてのケーブルやタイロッドを上弦材や束材に対して接合するためには、その接合部の構造が徒に複雑になったり(たとえば接合部にフォークエンドを設ける必要がある)、接合部の施工が極めて煩雑になったりして、そのために要するコストが嵩む問題がある。
以上の点から、張弦梁における下弦材としてはケーブルやタイロッドよりも高剛性の部材を用いることが有利であるとも考えられるが、そのようなことを可能とする有効適切な張弦梁の構造は提供されていない。
特許文献1には、鋼板を下弦材として使用する場合の具体例については何らの言及がないが、その場合には多数の鋼板を連結して所謂アイバーチェーン(eye bar chain)とすることが考えられる。アイバーチェーンは鋼製ケーブルが一般化する以前の近代的な吊り橋等における軽微な引張材や吊り材として多用されていたものであって、図4(a)に示すように細長い鋼板1(bar)の両端部に円形拡幅部2を形成してその中心にピン穴3(eye)を形成し、それらの鋼板1どうしを水平ピン4によりチェーンのように多数連結することによって全体として長尺のケーブルと同様に機能させるものである。
しかも、一般的なアイバーチェーンは各鋼板1の端部どうしを直接重ね合わせてピン接合することから、必然的に図4(b)に示すように接合部の両側での鋼板1の枚数が異なるものとなる(図示例では一方が3枚、他方が2枚)か、あるいは(c)に示すように両側での枚数を敢えて同数(図示例では3枚ずつ)とする場合には横方向に芯ずれが生じることが不可避であり、したがっていずれにしても構造的なアンバランスと下から見上げた際の意匠的なアンバランスが生じるから、この点においても張弦梁の下弦材としてアイバーチェーンを用いることは好ましくない。
下弦材にケーブルやタイロッドを使用せずに平鋼であるフラットバーを接合部材より連結した構成のフラットバーチェーンを使用するので、その下弦材に対する緊張作業は不要であり、接合部が極めて簡略化され、煩雑な施工も必要とせず、張弦梁の施工についての工費短縮、工期削減を図ることができる。
下弦材としてのフラットバーチェーンの断面を適切に設定して適切な剛性を持たせる設計とすることが可能であり、それにより下弦材がケーブルやタイロッドの場合には実現できない剛性を持たせることができ、張弦梁全体の曲げ剛性を大きくでき、たわみを低減でき、振動特性も改善することができる。
下弦材としてのフラットバーチェーンは、フラットバーどうしを直接連結せずに接合部材を介して連結した構成であり、しかもフラットバーを縦姿勢とした状態で接合部材の両側にそれぞれ同一枚数のフラットバーを対称をなすようにピン接合することにより、フラットバーどうしの接合部の構造を対称形としてそこで構造的、意匠的なアンバランスが生じることがない。また、束材の下端部を接合部材に対して接合することにより、その束材による下弦材の支持を単純かつ明快な接合構造により確実に行うことができる。
なお、この上弦材11には必要に応じて水勾配を確保するための若干のむくりや傾斜を設けても良いが、その上部に水平かつ平坦なスラブを設けて人が有効に利用できるよう、上弦材11は実質的に直線状でありかつ実質的に水平であることが好ましい。
この上弦材11としてのH形鋼は一般的な構造用鋼材(たとえばSN490等)で良い。
そして、フラットバー14と接合部材15の全体により形成された一連のフラットバーチェーンとしての下弦材13は、その両端部が上弦材11の下フランジに溶接されているガセットプレート18に対して同じく水平ピン17によりピン接合され、かつこのフラットバーチェーンの中間部は上記の接合部材15が束材12の下端部に接合されることによってその束材12により支持されており、これによりこの下弦材13は図1(b)に示すように束材12の位置で折られた状態で全体として下に凸となる折れ線形状をなして張設されている。
また、同等の高強度鋼としては、たとえば社団法人日本鉄鋼連盟の規格による引張強度が690N/mm2以上のもの、具体的にはHT690(引張強度690N/mm2)やHT780(同780N/mm2)、HT950(同950N/mm2)も好適に採用可能である。
いずれにしても、フラットバー14どうしを接合部材15を介して連結することを前提として、接合部材15の両端部にそれぞれ同一枚数のフラットバー14を対称をなすようにピン接合することにより、接合部材15を挟んでその両側に対象配置されるフラットバー14どうしは自ずと同一鉛直面内に位置するものとなり、図4に示した従来のアイバーチェーンのように鋼板1どうしを直接接合するがためにその接合部の両側で鋼板1の枚数に差が生じたり、接合部において横方向への芯ずれが生じるようなことはない。したがって本実施形態の張弦梁10では、下弦材13としてのフラットバーチェーンにはフラットバー14どうしの接合部において構造的および意匠的なアンバランスが生じることはなく、従来のアイバーチェーンに比べて構造上および意匠上の双方において好ましいものとなっている。
束材12は圧縮材であるので、この束材21としての鋼管は一般的な構造用鋼材(たとえばSTK400等)からなるもので良く、その下端部に設けるベースプレート19も同じく一般的な構造用鋼材(たとえばSN490等)からなる鋼板で充分である。
なお、束材12は鉛直姿勢で設置することが一般的であるが、たとえば図1(b)に鎖線で示しているように鉛直に対して傾斜させた複数本の束材12を1セットとして設置することでも良い。
図1(b)に示すようにスパン(張弦梁10の長さ)を30m、束材12を2本として上弦材11を3等分するように両端からそれぞれ10mの位置に設置し、その長さ(上弦材11と下弦材13の間隔)を2.4mとする。
上弦材11はH-900×300×16×28(構造用鋼材SN490)とする。
下弦材13は、フラットバー14を2PL−30×230(高強度鋼YS650)、接合部材15をPL−60(同)とし、それらフラットバー14および接合部材15の両端部に形成するピン穴16をそれぞれ100φとする。フラットバー14を上弦材11に接合するためのガセットプレート18もPL−60(同)とし、それらを連結するための水平ピン17はPin−φ100(同)とする。つまり、下弦材13としてのフラットバーチェーンの全体およびそれを上弦材11に対して接合するための要素は全て高強度鋼YS650により形成する
束材12はP−φ216.3×8.2(構造用鋼材STK400)、そのベースプレート19はPL−32×270φ(構造用鋼材SN490)とする。
図1(c)に示すように張弦梁10間の間隔を5m、張弦梁10間に架設される小梁20はH−350×175×7×11(構造用鋼材SN490)とする。振れ止め部材22はP−φ101.6×4.2(同STK400)とする。
このことから、張弦梁における下弦材をタイロッドのような単なる引張材から、剛性を有するフラットバーチェーンに変更することのみで、張弦梁とそれによる架構の高剛性化とそれに伴う短周期化を実現でき、したがってその変形性能や振動性能を改善し得ることが確認できた。
上弦材11となるH形鋼を所定数に分割した状態で現場に搬入し、その全体をボルト締結により連結して仮置きするが、この段階ではボルトを仮締めとして各H形鋼どうしを仮締結するに留めておく。
このH形鋼には、下弦材13としてのフラットバーチェーンの両端部をピン接合するためのガセットプレート18を予め溶接しておく他、束材12の上端部を予め溶接しておき、その束材12の下端部には下弦材13としてのフラットバーチェーンの要素である接合部材15を予め溶接しておくと良い。さらに、この時点で接合部材15にフラットバー14を仮接合しておいても良い。
しかる後に、H形鋼どうしを仮締めしておいたボルトを本締めしてH形鋼どうしを本締結し、全体を一体化して上弦材11を施工する。
以上により施工される各張弦梁10間には適宜の時点で小梁20を架設するとともに振れ止め部材22を取り付け、その上にデッキ等の床構造を施工し、床版配筋を行い、スラブコンクリートを打設して架構全体を完成させる。
なお、上弦材11となるH形鋼の上フランジにスタッドを設けてスラブを一体化することにより、上弦梁11とスラブとによる合成梁が形成され、それにより上弦材11の圧縮力をスラブも負担することから、H形鋼の断面を合理化できる。
また、圧縮材である上弦材11や束材12は一般的な構造用鋼材を用いることで充分であってそれらまでも高強度鋼を使用することは無駄であるので、下弦材13として高強度鋼を用いる場合であってもそれはあくまで下弦材13としてのフラットバーチェーンのみに限定して使用し、上弦材11と束材21には一般的な構造用鋼材を使用するという適材適所の合理的な使い分けをすべきである。
(1)通常の張弦梁のように下弦材にケーブルやタイロッドを使用せず、単なるフラットバー14(平鋼)をピン接合したフラットバーチェーンを下弦材13とするので、下弦材13に対する緊張作業もなく、下弦材13を上弦材11や束材12に対して接合するための構造も簡略化でき、そのための煩雑な施工も必要とせず、工費短縮、工期削減を図ることができる。
(2)下弦材13としてのフラットバーチェーンを高強度鋼により形成すれば、一般的な構造用鋼材によってフラットバーチェーンを構成する場合と比較して所要断面を充分に小さくでき(通常のタイロッドと同等程度で済む)、充分にスリムな外形となり、見栄えも良い。特に、下から見上げた場合、下弦材となるフラットバー14の板厚が見えるだけであるので、スリムな見栄えとなる。
(3)フラットバーチェーンを形成するためのフラットバー14は単なる平鋼なので、下弦材13に要求される軸力が大きい場合には各フラットバー14の断面積を大きくするか、フラットバー14の枚数を増やすだけで容易に対応でき、設計自由度に優れる。
(4)下弦材13としてのフラットバーチェーンはケーブルやタイロッドでは実現できない剛性を自ずと有するものであるから、その断面を適正に設計することにより、ケーブルやタイロッドを下弦材としている従来一般の張弦梁に比べて全体の曲げ剛性を大きくでき、したがってたわみを低減できるし、振動特性も改善することができる。
(5)フラットバー14どうしを直接連結せずに接合部材15を介して連結してフラットバーチェーンを形成し、しかもフラットバー14を縦姿勢として接合部材15の両側にそれぞれ同一枚数のフラットバー14を対称をなすようにピン接合することにより、接合部の構造を対称形とでき、従来のアイバーチェーンによる場合のような構造的、意匠的なアンバランスが生じることがない。
また、束材12の下端部を接合部材15に対して接合しているので、束材12による下弦材13としてのフラットバーチェーンの支持を単純かつ明快な接合構造により確実に行うことができるし、下弦材13および束材12の倒れ込みを防止するための振れ止め部材22も接合部材15に対して容易に接合することができる。
なお、上弦材11を水平に架設する場合にはその上弦材11に曲げ応力が生じるが、束材12からの圧縮力によりその曲げ応力は極めて小さなものとなるので特に支障はない。勿論、必要であれば上弦材11をアーチ状に湾曲させることも妨げるものではない。また、上弦材11としては単なるH形鋼を用いることが合理的であり現実的であるが、H形鋼に限らず他の鋼材を用いることも妨げるものではない。
(8)上弦材11としてH形鋼を使用する場合、H形鋼どうしを仮締結した状態で下弦材13としてのフラットバーチェーンを施工してH形鋼に接合し、しかる後にH形鋼どうしを本締結するという工程とすることにより、架構が完成した時点でその自重により下弦材13としてのフラットバーチェーンに対して自ずと所定の緊張力が付与されるし、フラットバーチェーンの形成時にピン接合に逃げ寸法がなくても容易に寸法調整することが可能であるので効率的な施工が可能である。
また、上弦材11となるH形鋼の上フランジにスタッドを設けてスラブを一体化することにより、上弦梁11とスラブとによる合成梁が形成され、それにより上弦材11の圧縮力をスラブも負担することから、H形鋼の断面を合理化できる。
11 上弦材(H形鋼)
12 束材
13 下弦材(フラットバーチェーン)
14 フラットバー(平鋼)
15 接合部材
16 ピン穴
17 水平ピン
18 ガセットプレート
19 ベースプレート
20 小梁
21 ガセットプレート
22 振れ止め部材
Claims (4)
- 上弦材と、上端部が前記上弦材に接合されて該上弦材の長さ方向中間部においてその下方に設置された束材と、中間部が前記束材により支持されかつ両端部が前記上弦材の両端部に接合されることによって該上弦材の下方においてその両端部間にわたって設置された下弦材とにより構成される張弦梁であって、
前記上弦材、束材、下弦材はいずれも鋼材からなり、
前記下弦材は、両端部にピン穴が形成された帯板状のフラットバーがその幅方向が鉛直面に沿う縦姿勢とされた状態で接合部材の両端部に対してそれぞれ水平ピンを介して鉛直面内において相対回転自在に、かつ前記接合部材の両側にそれぞれ同一枚数の前記フラットバーが対称をなすようにピン接合されることによって、複数の前記フラットバーが前記接合部材を介して連結された一連のフラットバーチェーンとして機能するとともに、前記接合部材が前記束材の下端部に接合されて該束材により支持されて設置されていることを特徴とする張弦梁。 - 請求項1記載の張弦梁であって、
下弦材を形成しているフラットバーおよび接合部材としての鋼材は、引張強度が650N/mm2以上の高強度鋼からなることを特徴とする張弦梁。 - 請求項1または2記載の張弦梁であって、
上弦材は直線状のH形鋼からなり、かつ該上弦材は略水平に架設されていることを特徴とする張弦梁。 - 請求項3記載の張弦梁の施工方法であって、
複数のH形鋼どうしを仮締結した状態で下弦材としてのフラットバーチェーンを施工して該H形鋼に対して接合した後、該H形鋼どうしを本締結して上弦材を施工することを特徴とする張弦梁の施工方法。
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