JP4936211B2 - 硬質被覆層が高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)中間層が、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有するAl2O3層(以下、α型Al2O3層という)、
(c)上部層が、1〜10μmの平均層厚を有し、かつ、組成式:(Ti1−X−YAlXMY)N(ただし、原子比で、0.30≦X≦0.70、かつ、Y=0あるいは0.01≦Y≦0.10であり、また、Mは、Si、Cr、V、Y、Bから選ばれた1種または2種以上の添加成分を示す)を満足する物理蒸着により形成されたTiとAl(とM)の複合窒化物(以下、(Ti,Al,M)Nで示す)層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を、化学蒸着法と物理蒸着法とを組み合わせて蒸着形成した被覆工具が知られており、そして、化学蒸着法と物理蒸着法とを組み合わせたことにより、硬質被覆層の密着性を高めるとともに硬質被覆層に圧縮残留応力を付与することができ、この被覆工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられることは良く知られている。
さらに、上記被覆工具の上部層を構成するTiとAl(とM)の複合窒化物層((Ti,Al,M)N層)が、例えば、図1の概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に工具基体を装入し、ヒータで装置内を、例えば500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成を有するTi−Al(−M)合金がセットされたカソード電極(蒸発源)との間に、例えば電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、そして、上記工具基体に、例えば−100Vのバイアス電圧を印加することにより、工具基体の表面に、上記(Ti,Al,M)N層を蒸着することにより製造されることも知られている。
(a)上記の従来被覆工具の中間層を構成するα型Al2O3層(以下、従来α型Al2O3層という)は、一般に、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:1〜5%、CO2:3〜7%、HCl:0.3〜3%、H2S:0.02〜0.4%、H2:残り、
反応雰囲気温度:950〜1100℃、
反応雰囲気圧力:6〜13kPa、
の条件(以下、通常条件という)で形成されるが、この通常条件形成の従来α型Al2O3層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に概略説明図で示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成すると、図4に例示される通り、(0001)面の測定傾斜角の分布が45〜90度の範囲内で不偏的な傾斜角度数分布グラフを示すこと。
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:1〜5%、CO2:3〜7%、HCl:0.3〜3%、SF6:0.1〜1%、H2:残り、
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:55〜80kPa、
の相対的に低温高圧条件で、かつ反応ガスとして、H2Sに代ってSF6を使用する条件で形成すると、この結果形成されたα型Al2O3層(以下、改質α型Al2O3層という)は、同じく電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に示される通り、同じく表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表した場合、図3に例示される通り、傾斜角区分の特定位置にシャープな最高ピークが現れ、試験結果によれば、化学蒸着装置における反応雰囲気圧力を、上記の通り55〜80kPaの範囲内で変化させると、上記シャープな最高ピークの現れる位置が傾斜角区分の83〜90度の範囲内で変化すると共に、前記83〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占めるようになり、この結果の傾斜角度数分布グラフにおいて83〜90度の範囲内に傾斜角区分の最高ピークが現れる改質α型Al2O3層は、上記の通常条件形成の従来α型Al2O3層に比して、一段とすぐれた耐摩耗性を示すこと。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
(a)下部層が、いずれも化学蒸着により形成された、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)中間層が、化学蒸着により形成された1〜15μmの平均層厚を有するα型Al2O3層、
(c)上部層として、1〜10μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Ti1−X−YAlXMY)N(ただし、原子比で、0.30≦X≦0.70、かつ、Y=0あるいは0.01≦Y≦0.10であり、また、Mは、Si、Cr、V、Y、Bから選ばれた1種または2種以上の添加成分を示す)を満足する物理蒸着により形成されたTiとAlの複合窒化物層あるいはTiとAlとMの複合窒化物層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を5〜30μmの全体平均層厚で蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、
中間層を構成する酸化アルミニウム層を、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表した場合、83〜90度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記83〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す酸化アルミニウム層(改質α型Al2O3層)で構成してなる、
硬質被覆層が高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する被覆工具に特徴を有するものである。
(a)Ti化合物層(下部層)
Ti化合物層は、基本的には改質α型Al2O3層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層が高温強度を具備するようにするほか、工具基体と改質α型Al2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用を有するが、その平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速切削では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その平均層厚を3〜20μmと定めた。
上記の通り、改質α型Al2O3層の傾斜角度数分布グラフにおける測定傾斜角の最高ピーク位置は、化学蒸着装置における反応雰囲気圧力を変化させることによって変化するが、試験結果によれば、前記反応雰囲気圧力を、55〜80kpaとすると、最高ピークが、83〜90度の範囲内の傾斜角区分に現れると共に、前記83〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すようになるものであり、したがって、前記反応雰囲気圧力が前記範囲から低い方に外れても高い方に外れても、測定傾斜角の最高ピーク位置は83〜90度の範囲から外れてしまい、このような場合には所望のすぐれた耐摩耗性を確保することができないものである。
さらに、改質α型Al2O3層は、圧縮応力が残留する上部層と引張応力が残留する下部層の両層の境界面にあって、境界界面に発生する大きな残留内部応力を、そのクーリングクラックによって緩和する機能を果たし、その結果として、チッピングの発生を抑制するという作用も有する。
そして、改質α型Al2O3層全体の平均層厚が1μm未満では、これのもつすぐれた特性を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、切刃部にチッピング(微少欠け)が発生し易くなることから、その全体平均層厚を1〜15μmと定めた。
上部層を構成するTiとAl(とM)の複合窒化物層((Ti,Al,M)N層)の構成成分であるAl成分には硬質被覆層における高温硬さと耐熱性を向上させ、また、同Ti成分には高温強度を向上させる作用がある。さらに、上記複合窒化物層に含有される添加成分MとしてのSiは、該層の耐熱性および耐熱塑性変形性向上に寄与し、Crは、耐熱性および高温強度の向上に寄与し、Vは、潤滑性向上に寄与し、Yは、高温耐酸化性の向上に寄与し、さらに、Bは、熱伝導性の向上に寄与し、いずれの添加成分も、上部層の特性を向上させる作用があることから、上部層の所望特性に応じて、添加成分Mとして、Si、Cr、V、Y、Bの1種または2種以上を上部層中に含有させることができる。
そして、Alの割合を示すX値がTiとMとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.30未満になると、所定の高温硬さおよび耐熱性を確保することができず、これが耐摩耗性低下の原因となり、一方Alの割合を示すX値が同0.70を越えると、相対的にTiの割合が0.30未満となってしまい、高い発熱を伴う高速切削加工で必要とされる高温強度を確保することができず、チッピングの発生を防止することが困難になることから、X値を0.30〜0.70と定めた。
また、添加成分MとしてのSi、Cr、V、Y、Bは、各成分の合計含有割合が、TiとAlとの合量に占める割合で0.01未満では、各成分元素を含有させたことによる効果が期待できず、一方、各成分の合計含有割合が、TiとAlとの合量に占める割合で0.1を越えると、相対的に、TiとAlの含有割合が低下してしまい、高い発熱を伴う高速切削加工で要求される上部層の高温硬さ、耐熱性、高温強度を維持できなくなるために、添加成分Mの合計含有割合を表すY値を0.01〜0.10と定めた。
また、上部層の平均層厚が1μm未満では、自身のもつすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するには不十分であり、一方その平均層厚が10μmを越えると、高速切削加工時にチッピングが発生し易くなることから、上部層の平均層厚を1〜10μmと定めた。
さらに、切削工具の使用前後の識別を目的として、黄金色の色調を有するTiN層を、必要に応じて硬質被覆層の最表面層として蒸着形成してもよいが、この場合の平均層厚は0.1〜1μmでよく、これは0.1μm未満では、十分な識別効果が得られず、一方前記TiN層による前記識別効果は1μmまでの平均層厚で十分であるという理由による。
(a)まず、表3(表3中のl−TiC0.5N0.5層は特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表4に示される組み合わせおよび目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として化学蒸着で形成し、
(b)ついで、表3に示される低温高圧条件で、表4に示される組み合わせおよび目標層厚で、同じく中間層である改質α型Al2O3層を化学蒸着で形成し、
(c)ついで、中間層である改質α型Al2O3層と、上部層となる(Ti,Al,M)N層との密着性を確保するために、表3に示される条件で0.1〜1.0μmの目標層厚のTiN層を密着接合層として化学蒸着で形成し、
(d)その後、下部層、中間層および密着接合層を化学蒸着した上記工具基体A〜F、a〜fのそれぞれを、図1に概略示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して4Paの反応雰囲気とすると共に、工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の上部層形成用Ti−Al−M合金とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表4、表5に示される目標組成、目標層厚の(Ti,Al,M)N層からなる上部層を1〜10μmの平均層厚で蒸着形成することにより、本発明被覆工具1〜26をそれぞれ製造した。
すなわち、上記傾斜角度数分布グラフは、上記改質α型Al2O3層および従来α型Al2O3層のそれぞれの表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、それぞれの前記研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
また表4〜表7には、上記の各種のα型Al2O3層の傾斜角度数分布グラフにおいて、それぞれ83〜90度の範囲内の傾斜角区分に存在する全傾斜角度数の傾斜角度数分布グラフ全体に占める割合を示した。
なお、図3は、本発明被覆工具1の改質α型Al2O3層の傾斜角度数分布グラフ、図4は、従来被覆工具1の従来α型Al2O3層の傾斜角区分を示す傾斜角度数分布グラフである。
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度: 450 m/min.、
切り込み: 0.3 mm、
送り: 1.5 mm/rev.、
切削時間: 9 分、
の条件(切削条件Aという)で、水溶性切削油使用の合金鋼の連続湿式高速切削試験(通常の切削速度は250m/min.)、
被削材:JIS・FC300の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 500 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件Bという)で、水溶性切削油使用の鋳鉄の断続湿式高速切削試験(通常の切削速度は350m/min.)、さらに、
被削材:JIS・S45Cの丸棒、
切削速度: 400 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 8 分、
の条件(切削条件Cという)で、炭素鋼の連続乾式高速切削試験(通常の切削速度は200m/min.)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表8、表9に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの全体平均層厚を有する化学蒸着により形成されたTi化合物層、
(b)中間層として、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有し、かつ1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
(c)上部層として、1〜10μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Ti1−X−YAlXMY)N(ただし、原子比で、0.30≦X≦0.70、かつ、Y=0あるいは0.01≦Y≦0.10であり、また、Mは、Si、Cr、V、Y、Bから選ばれた1種または2種以上の添加成分を示す)を満足する物理蒸着により形成されたTiとAlの複合窒化物層あるいはTiとAlとMの複合窒化物層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を5〜30μmの全体平均層厚で蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、
中間層を構成する酸化アルミニウム層を、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表した場合、83〜90度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記83〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す酸化アルミニウム層で構成したこと、
を特徴とする硬質被覆層が高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具。
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