JP4911813B2 - 固体電解質用架橋性組成物、ポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池及びポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池の製造法 - Google Patents
固体電解質用架橋性組成物、ポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池及びポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池の製造法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池、更に詳しくは、円筒型、角型、シート状等の形状を有する充電可能な2次電池であって、その中の電解液を従来の液状からポリマーを用いて固体化するもので、電解液の漏洩を解消すると共に、電流負荷特性、特に低温時の電流負荷特性を改善したポリマー固体電解質を使用したリチウムイオン2次電池およびその製造法並びに上記固体電解質用の液状架橋性組成物に関する。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
リチウムイオン2次電池は、小型軽量の充電可能な電池で、単位容積あるいは単位重量当り蓄電容量が大きく、携帯型電子機器:携帯電話、ノートパソコン、携帯パソコン、携帯情報端末(PDA)、MDデッキ、ビデオカメラ、ディジタルカメラ等に盛んに利用され、小型軽量で比較的電力消費の大きな各種携帯型機器には必要欠くべからざる存在となっている。
ところで、現状のリチウムイオン2次電池において、その電解質として、炭酸プロピレン、炭酸エチレン等を主とした電解液溶媒にリチウム電解質塩を溶解した液状の電解質、すなわち電解液を使用しているものが殆どである。
しかしながら、このような電解液を使用した電池は、漏液や、温度上昇(使用時や充放電時に自体の発熱による場合;誤使用:短絡〜複数個の電池を使用しその一部を正負逆挿入して使用した場合;使用環境で高温に暴露される場合;あるいはデバイスの組み込み時のハンダ付け等で起こる)したときの内圧上昇(電解液中の溶媒による蒸気圧に起因し、沸点が低いほど内圧上昇は大きい)による漏液、破裂、発火の危険といった安全性の問題を抱えており、電解液の固体化、すなわち固体電解質の開発が活発に行われている。
【0003】
この固体電解質は、ポリマー材料を用いるのが一般的で、従来からポリオキシエチレン鎖を有する材料を始め、各種の材料が検討されてきたが、これらの材料では最も基本的な特性であるイオン導電性が液状電解質に比べ大きく劣り、未だ実用できるレベルに到達していない。
そこで最近では、液状電解質をポリマー材料でゲル状態としたポリマーゲル型固体電解質の開発が活発化しており、現在のところ、液状電解質に近いイオン導電性が得られつつあることもあって、一部用途では実用化されつつある。
【0004】
また、シート状の薄型電池においては、現在、(1)正、負極を形成した後、この電極面あるいは正、負極の間に挿入されるセパレータあるいは不織布等に、ポリフッ化ビニリデン系、ポリアクリロニトリル系のポリマーを溶剤あるいは分散媒を用いて溶液、エマルジョン、ディスパージョンにする等、あるいは加熱溶融して液状化して塗布し、乾燥(エマルジョン、ディスパージョンの場合は単なる乾燥ではなくポリマー粒子が一体化する:造膜も必要)した後、電解質塩と電解液溶媒からなる電解液に浸して膨潤させゲルを形成させる方法;
(2)架橋性のモノマー、オリゴマー等を含んだ電解液を、電極面あるいは正、負極の間に挿入されるセパレータあるいは不織布等に塗布し、加熱あるいは紫外線等の放射線でポリマーを架橋、ゲルを形成してセパレータあるいは不織布等を挟み込んだ状態で正負の両電極を貼り合わせる方法、あるいは貼り合わせた後に加熱してポリマーを架橋、ゲルを形成させる方法等
種々の方法が採用されているが、いずれの方法にしても、塗布、乾燥(造膜を含む)、貼り合わせ、膨潤等の各工程に応じた専用の設備を必要とする。
【0005】
また、(1)の方法で用いるポリマーは電解液に溶解してはならず(膨潤することは必要)、しかし、反面、塗布するためには何らかの方法(溶剤あるいは分散媒を用いて溶液、エマルジョン、ディスパージョンにする等)で液状とすることが必要なため非架橋のポリマーであることが必要で(架橋ポリマーでは溶液化はできず、エマルジョンあるいはディスパージョンとしても造膜ができない)、現状では使用可能なポリマーがポリフッ化ビニリデン系、ポリアクリロニトリル系等に限定され、また自然膨潤でゲルを形成するため、膨潤が不均一、不十分になりやすく、ゲルを形成するポリマー量も多くなる。さらに、電極、セパレータあるいは不織布を捲回あるいは積層した後に膨潤させるのが便利であるが、その場合は電解液が十分に行き渡り難く、さらに膨潤が不完全になりやすく、また、膨潤に長時間を要するという問題がある。
【0006】
また、(2)の方法において塗布時は、低分子のモノマー、オリゴマー等を含んだ電解液を用いて架橋により一括してゲルを形成する方法で、自然膨潤といった手段をとる必要がなく、一見理想的と見えるが、電解液溶媒を含んだ状態で塗布するため、塗布および架橋時に電解液溶媒が揮散しやすく、低沸点の電解液溶媒は使用できないという問題を有する。低沸点の電解液溶媒は、良好なイオン導電性(特に低温時のイオン導電性)を得るためには重要な溶媒(液状電解質を使用した円筒型、角型等従来の電池には良好な特性、特に低温における良好な特性を得るため、低沸点の電解液溶媒、例えば炭酸ジメチル、炭酸メチルエチル、炭酸ジエチル、ジメトキシエタン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等が適宜用いられる)で、(2)の方法によって製造されるシート型では、これら低沸点電解液溶媒が使用できず、良好な特性が得難いという大きな問題を有する。
従って、用いることができる高沸点の炭酸エチレンと炭酸プロピレンが中心とならざるを得ないが、炭酸エチレンはその沸点が高く(36℃)、単独では用いることができず、炭酸プロピレン(融点:−49℃)を単独あるいは炭酸エチレンに混合して用いなければならない。また、炭酸プロピレンは負極にグラファイト系の炭素材料を用いることができず(炭酸プロピレンが分解する)、使用可能な炭素材料は、ハードカーボン等の非晶性の材料という制限を有する。
このグラファイト系炭素材料は、放電時の電圧を一定の値に維持しやすいという優れた特性を有するが、(2)の方法による電池では残念ながら用いることができないという欠点も併せて有している。
【0007】
加えて、上述のこれらのポリマーゲル型の固体電解質は、液状電解質に近いイオン導電性が得られつつあるとは云うものの、依然液状電解質に比べれば劣っており、比較的大きな放電電流が要求される用途には供し得ず、従来の液状電解質を使用した電池の代替には不十分な性能しか発揮できない(内部抵抗が少々高くても使用可能な小放電電流用途向けには実用化されつつあり、従来のシート型電池等はその典型的な例である)。
この最大要因は、ゲルという固体性状を得るためポリマーというイオン導電性に対して全く有害無益な成分を比較的多量に含まなければ、ゲルを形成できないことにある。このポリマーゲル型固体電解質のイオン導電性向上を目指すため、ゲル中のポリマー成分量の低減や高誘電率ポリマーの使用など、ポリマー含有量とポリマー構造の両面から検討が加えられている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これらの問題を解決すべく鋭意研究を進めたところ、オキセタン環含有ポリマーを電解液溶媒とリチウム電解質塩の溶液(電解液)中、カチオン重合開始剤の存在下で架橋させることにより、ポリマー含有量5%(重量%、以下同様)以下の極端に少ない量でも、ゲルから電解液が分離(ブリード)しないので、良好なゲルを形成できることを見出した。また、特定のリチウム電解質塩を用いれば、カチオン重合開始剤を省略できること、および電解液溶媒として特定の組合せ、特に低分子カルボン酸エステル類の使用によって、イオン導電性が飛躍的に向上しうることも見出した。
本発明者らは、これらの知見に基づき、上記成分を含む液状の固体電解質用架橋性組成物を使用し、これを従来の液状電解質と同様な既存のリチウムイオン2次電池用に架橋させれば、ポリマー固体の形成によって系のゲル化が起こり、上述の諸問題を一挙に解決し、液状電解質を使用したリチウムイオン2次電池と比較して勝るとも劣らない優れた特性を有するポリマーゲル型の固体電解質リチウムイオン2次電池が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
なお、カチオン重合を利用したポリマー電解質に関し、既に日本特許第2925231号(平成11年7月28日発行)において、「エポキシ基を有する化合物のエポキシ同士のカチオン開環重合により形成された高分子化合物がイオン性塩(リチウム電解質塩を包含)および該イオン性塩に相溶しうる化合物(電解液溶媒を包含)を含有していることから成る高分子固体電解質」が提案されている。しかして、ここでの上記エポキシ基を有する化合物は、「重合により網状構造を有する高分子化合物となるもの」と定義付けされているが、具体的には、式:
【化5】
の脂環式エポキシ化合物や、ビスフェノール系エポキシ化合物の2種のみが例示されているにすぎず、本発明のオキセタン環含有ラジカル共重合ポリマーとは明らかに相違する。
また、該先行特許の高分子固体電解質中のポリマー含有量は、たとえばその実施例2の配合組成から算出すると、約47%にも及び、イオン伝導度も5×10-4S/cm(25℃)とあり、実用的レベルとは云えない。これに対して、本発明ではポリマー含有量5%以下が特徴で、イオン伝導度(イオン導電性)も後記実施例に示される通り、前者の10倍乃至20倍もの値を示すことが認められる。
【0010】
すなわち、本発明は、(1)オキセタン環含有ポリマー、
(2)カチオン重合開始剤、
(3)電解液溶媒、および
(4)リチウム電解質塩
から成り、上記オキセタン環含有ポリマー(1)が総量中5%以下である液状の固体電解質用架橋性組成物(以下、液状組成物と称す)を、リチウムイオン2次電池用に架橋によってゲル化せしめポリマー固体電解質化したことを特徴とするポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池を提供するものである。
【0011】
本発明におけるオキセタン環含有ポリマー(1)は、ポリマー構造内にオキセタン環を複数個有するポリマーであって、ポリマーの骨格構造を問うものではないが、簡便なラジカル重合でも容易に得ることができる。すなわち、オキセタン環を有するラジカル重合性モノマー(以下、オキセタン重合モノマーと称す)および必要に応じてエポキシ基を有するラジカル重合性モノマー(以下、エポキシ重合モノマーと称す)と、他のラジカル重合性モノマーとをラジカル重合させることによって製造され、通常分子量が10000以上に設定されている。分子量が10000未満であると、ゲルを形成するのに必要なポリマー量が多く必要になる傾向にある。なお、分子量の上限には特に制限はないが、後記液状組成物の液状(溶液状態)を維持する上で、上限を100万程度、好ましくは50万程度に抑えることが適当である。
【0012】
上記ラジカル重合は通常、ラジカル重合開始剤[たとえばN,N'−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチルN,N'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等]および必要に応じてメルカプタン類などの分子量調整剤を用いて行なうことができ、その際、得られるポリマーの分子量が比較的大きいため、溶媒中60〜80℃程度の温度で行なう溶液重合が好適である。溶媒としては、後記電解液溶媒(3)に例示される環状炭酸エステル類、鎖状炭酸エステル類、低分子カルボン酸エステル類の使用が好ましい。
【0013】
上記オキセタン重合モノマーとしては、たとえば式:
【化6】
(式中、R1はHまたはCH3;およびR2はHまたは炭素数1〜6のアルキルである)
の(メタ)アクリルモノマー、具体的には、(3−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、(3−メチル−3−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、(3−エチル−3−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、(3−ブチル−3−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、(3−ヘキシル−3−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの少なくとも1種を使用する。使用量は通常、上記エポキシ重合モノマーを用いない場合、モノマー全量中5〜50%、好ましくは10〜30%の範囲で選定する。5%未満では、ゲル化に要するポリマー量の増大を招き、また50%を越えると、ゲルから電解液が分離(ブリード)する傾向にある。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートを意味する。
【0014】
上記必要に応じて用いられるエポキシ重合モノマーとしては、たとえば
【化7】
(式中、R5はHまたはCH3;およびR6は
【化8】
である)
の(メタ)アクリレート、具体的には、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらの少なくとも1種を使用する。使用量は通常、オキセタン重合モノマーとの合計量中エポキシ重合モノマーの割合が90%以下となるように、および該両モノマーの合計量がモノマー全量中5〜50%、好ましくは10〜30%となるように選定すればよい。
【0015】
上記他のラジカル重合性モノマーとしては、式:
【化9】
(式中、R3はHまたはCH3;およびR4は−COOCH3、−COOC2H5、−COOC3H7、−COOC4H9、−COO(CH2CH2O)1 〜 3CH3、−COO(CH2CH2O)1 〜 3C2H5、−COO(CH2CH(CH3)O)1 〜 3CH3、−COO(CH2CH(CH3)O)1 〜 3C2H5、−OCOCH3、または−OCOC2H5である)
のビニル系もしくは(メタ)アクリル系モノマーが好適である。なお、これら以外のものも使用可能であるが、使用する電解液溶媒(3)との親和性が低いと、ゲルから電解液が分離(ブリード)する場合がある。
このようにして製造されるオキセタン環含有ポリマー(1)を単独で使用、あるいは該オキセタン環含有ポリマー(1)の一部に、上記エポキシ基を有するラジカル重合性モノマーと他のラジカル重合性モノマーとを上記と同様な条件下でラジカル共重合させることにより得られる分子量10000以上のエポキシ基含有ポリマーを併用してもよい。
【0016】
本発明におけるカチオン重合開始剤(2)としては、各種のオニウム塩(たとえばアンモニウム、ホスホニウム、アルソニウム、スチボニウム、スルホニウム、ヨードニウムなどのカチオンの、−BF4、−PF6、−SbF6、−CF3SO3、−ClO4などのアニオン塩等)が使用できるが、本発明でこれらオニウム塩を使用せずとも、リチウム電解質塩(4)であるヘキサフルオロリン酸リチウムおよび/またはテトラフルオロホウ酸リチウムを利用すれば、本来のリチウム電解質塩の作用に加え、当該カチオン重合開始剤としても作用することができ、好都合である。カチオン重合開始剤の使用は、電解質にとって余分な成分であり、その分イオン導電性の低下につながり、その他製造工程の煩雑化、コストの上昇等を伴なう。
当然、カチオン重合開始剤の一部として、オニウム塩にヘキサフルオロリン酸リチウムやテトラフルオロホウ酸リチウムを併用することも可能である。
【0017】
本発明における電解液溶媒(3)としては、たとえば環状炭酸エステル類(炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレンなど);鎖状炭酸エステル類(炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチル・エチル、炭酸メチル・n−プロピルなどの対称および非対称型を包含);環状エステル類(ラクトン類)(γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなど);環状エーテル類(テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフランなど);低分子カルボン酸エステル類(酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸ブチルなど);鎖状エーテル類(ジメトキシエタン、メトキシエトキシエタンなど);シアノエチル基含有化合物(メチル・2−シアノエチルエーテル、エチル・2−シアノエチルエーテル、ビス2−シアノエチルエーテル、炭酸メチル・2−シアノエチル、プロピオン酸2−シアノエチルなど)が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を用いる。特に、環状炭酸エステル類、環状エステル類の高誘電率溶媒に鎖状炭酸エステル類、低分子カルボン酸エステル類を混合して用いることが好ましく、更には、環状炭酸エステル類である炭酸エチレン、炭酸プロピレンと、鎖状炭酸エステル類である炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチル・エチルと低分子カルボン酸エステル類の内、分子を構成する炭素の総数が4〜6の鎖状エステルである酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチルとの混合物を用いることが好ましく、更に、これらの内、炭素総数5の鎖状エステルである酢酸プロピル、プロピオン酸エチル、酪酸メチルの使用が好ましい。また、その混合比率を、環状炭酸エステル類/鎖状炭酸エステル類/低分子カルボン酸エステル類=10〜50:0〜50:50〜90(重量比)に設定し、かつ低分子カルボン酸エステル類を溶媒全体の50%以上に設定することが好ましい。
なお、上記低分子カルボン酸エステル類にあって、分子を構成する炭素の総数が4未満では、溶媒の沸点が低すぎ、電池にした場合、高温時に電池内圧がアップするという問題が生じ易く、また炭素総数7以上では、イオン導電性が低下して電池の特性が低下する傾向にある。
これら電解液溶媒(3)にあって、その種類および配合割合はイオン導電性への影響度が大きく、その結果、電池の内部抵抗、電流負荷特性、低温時の電流負荷特性等の電池の充放電特性、および溶媒の化学構造による電気化学的な安定性等の影響による電池の寿命に対して、大きな影響を与えるため、慎重に決定される。
【0018】
本発明におけるリチウム電解質塩(4)は、電解液溶媒(3)への溶解性に優れ、高イオン導電性と酸化〜還元電位に高耐性の陰イオン(酸基)で構成されるものが好ましく、特に限定されるものではないが、たとえば過塩素酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等が挙げられ、これらの少なくとも1種を用いる。特に、テトラフルオロホウ酸リチウムとヘキサフルオロリン酸リチウムは、良好なイオン導電性が得られる上、オキセタン環含有ポリマー(1)を架橋する作用を併せ持つため好ましい存在である。これらリチウム電解質塩(4)の濃度は通常、1モル/dm3前後が適用されるが、特に限定するものではない。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明に係るポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池は、上述のオキセタン環含有ポリマー(1)またはこれにエポキシ基含有ポリマーを併用したもの、カチオン重合開始剤(2)、電解液溶媒(3)およびリチウム電解質塩(4)を成分とし、これらを混合溶解して得られる低粘度の液状組成物を、固体電解質用架橋性組成物として使用することを特徴とし、以下の手順に従って製造することができる。
【0020】
先ず、上記液状組成物総量中におけるオキセタン環含有ポリマー(1)および必要に応じてエポキシ基含有ポリマー(これらを合せて架橋性ポリマーと称す)の占める割合を5%以下にする。すなわち、形成される固体電解質中のポリマー含有量をできるだけ低い値に設定して、イオン導電性の安定維持を行なう。
次に、液状組成物をそのポットライフ(液状状態の保持によって注入等の取扱いが可能である時間)の制限時間内に、リチウムイオン2次電池用の、電極やセパレータ等のユニットを組み込んだ密閉容器に注入し、電極とセパレータ等のギャップに浸入させた後、常温乃至100℃程度の温度にて、架橋性ポリマーを常温または加熱架橋させることによって容易にゲル化せしめ、ポリマー固体電解質の形成により、目的のポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池を得る。
【0021】
このようにして、従来の電池生産と同様の工程で新設備も必要とせず、特性と安定性に優れたポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池を得ることができる。
従来のポリマーゲル型高分子固体電解質は、イオン導電性にとって有害無益な高分子成分をいかに低減させるかが重要なポイントであるが、むやみに架橋密度を上げても、電解液のゲル保持性の低下によって電解液が分離し易く、またゲルを構成するポリマーの構造自体も大変重要となるが、本発明は、架橋性ポリマーの使用によって、これらの諸問題を解決したものと云える。
なお、本発明で用いる液状組成物は、電解液溶媒およびリチウム電解質塩を変更することにより、リチウムイオン2次電池以外にも、リチウム電池、リチウム2次電池、電気2重層キャパシター、ケミカルコンデンサー、エレクトロクロミックデバイス等のポリマーゲル型高分子固体電解質として使用することもできる。
【0022】
【実施例】
次に製造例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
製造例1(オキセタン環含有ポリマーの製造)
予め乾燥窒素ガスで十分に乾燥した1000mlの三口コルベンにて、予めモレキュラーシーブで脱水したメチルメタクリレート108g、予めモレキュラーシーブで脱水した(3−エチル−3−オキセタニル)メチルアクリレート36g、予めモレキュラーシーブで脱水し、減圧蒸留した加温常態の炭酸エチレン432gの混合液に、ジメチルN,N’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.225gを加え、乾燥窒素ガスを導入しながら70℃で攪拌し、そのまま12時間加熱攪拌を続けラジカル重合を行なう。次に温度を40〜50℃に下げ、予めモレキュラーシーブで乾燥し、減圧蒸留したプロピオン酸エチル378gを加え、全体が均一になるまで攪拌溶解して、オキセタン環含有ポリマーの15%溶液を得る。
このポリマー溶液は、無色透明な粘稠液体で、赤外線吸収スペクトル測定の結果、波数980/cmに明確なオキセタン環の特性吸収を有することを確認した。
【0023】
実施例1(液状組成物Aの調製)
乾燥窒素ガスを充満したグローブボックス内で、製造例1で得たオキセタン環含有ポリマーの溶液10gと、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1モル濃度に溶解した炭酸エチレン/炭酸ジエチル/炭酸ジメチル(10/10/40、重量比)の混合溶媒溶液40gを混合溶解して、液状組成物Aを調製する。液状組成物A中のポリマー濃度は、3.0%である。
この液状組成物Aを70℃で加熱架橋せしめ、ゲル化性、ゲルの状態およびイオン伝導度(10-3S/cm)を評価した。ゲル化性とゲル状態は目視にて;イオン伝導度は、金メッキ電極を組み込んだ密閉セル中に該液状組成物を注入し、密閉状態で70℃×5時間加熱した後冷却して測定用試験体とし、測定はLCZメーターを用い、周波数1KHz、測定温度20℃または−20℃で行なった。結果を下記表1に示す。
【0024】
実施例2(液状組成物Bの調製)
実施例1と同様にして、製造例1で得たオキセタン環含有ポリマーの溶液10gと、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1.3モル濃度に溶解した炭酸エチレン/炭酸ジメチル/プロピオン酸エチル(15/15/70、重量比)の混合溶媒溶液40gを混合溶解して、液状組成物B(ポリマー濃度3.0%)を調製する。
実施例1と同様に、この液状組成物Bについてゲル化性、ゲル状態およびイオン伝導度を評価し、結果を下記表1に示す。
【表1】
表1中、○はゲル化していることを示す。
【0025】
比較例1
式:
【化10】
の低分子脂環式エポキシ化合物(ダイセル工業(株)製、「セロキサイド2021P」)2.5gを、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1.0モル濃度に溶解した炭酸エチレン/炭酸ジメチル/プロピオン酸エチル(15/15/70、重量比)の混合溶媒溶液47.5gに溶解して、液状組成物C(低分子脂環式エポキシ化合物濃度5%)を調製する。
実施例1と同様に、この液状組成物Cを70℃で加熱重合せしめ、ゲル化性、ゲル状態およびイオン伝導度を評価し、結果を下記表2に示す。
【0026】
比較例2,3
比較例1において、低分子脂環式エポキシ化合物の濃度をそれぞれ、6%(比較例2)または8%(比較例3)とする以外は、同様にして液状組成物D,Eを調製し、ゲル化性、ゲル状態およびイオン伝導度の評価結果を下記表2に示す。
【0027】
比較例4
式:
【化11】
の低分子オキセタン環含有化合物(宇部興産(株)製、「XDO」)3gを、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1.0モル濃度に溶解した炭酸エチレン/炭酸ジメチル/プロピオン酸エチル(15/15/70、重量比)の混合溶媒溶液47gに溶解して、液状組成物F(低分子オキセタン環含有化合物濃度6%)を調製する。
実施例1と同様に、この液状組成物Fを70℃で加熱重合せしめ、ゲル化性、ゲル状態およびイオン伝導度を評価し、結果を下記表2に示す。
【0028】
比較例5,6
比較例4において、低分子オキセタン環含有化合物の濃度をそれぞれ、8%(比較例5)または10%(比較例6)とする以外は、同様にして液状組成物G,Hを調製し、ゲル化性、ゲル状態およびイオン伝導度の評価結果を下記表2に示す。
【0029】
【表2】
表2中、
×は液状のままでゲル化していない状態
○はゲル化している
表2の結果から、低分子脂環式エポキシ化合物あるいは低分子オキセタン環含有化合物[モノマー]を単に重合せしめゲル化させた場合、ポリマー含有量5%程度(該モノマーが100%ポリマーに転化したと仮定し、モノマー含有量をポリマー含有量とする)では、ゲル化せず(比較例1,4)、6%程度以上ではゲル化するものの、液体成分がブリードし、良好なゲル形成ができず、イオン伝導度も良い結果が得られないことが認められる。
【0030】
実施例3(リチウムイオン2次電池Aの作成)
予め用意しておいたリチウムイオン電池用の電極、不織布からなるユニットを組み込んだアルミニウムラミネートフイルム製の袋状容器に、実施例1の液状組成物A1.85gを注入し、真空含浸を行った後密封し、70℃で19時間加熱して架橋によるゲル化を行い、薄型のポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池Aを作成する。
なお、上記で用いた薄型リチウムイオン2次電池のユニットは、正極と負極を不織布を介して捲回した構造を有し、正極はアルミニウム箔の両面にコバルト酸リチウム主体からなる活物質を塗布したもので、そのサイズは50×80mmで、負極は銅箔に炭素系材料を塗布したもので、そのサイズは52×110mmであり、不織布はポリエステル細繊維製の20μm厚品で、このユニットを、周囲を熱溶着した袋状のアルミニウムラミネートフイルム(内面:ポリエチレン、外面:ポリプロピレン)中に組み込んだものである。電池の容量は、180mAHのもので、同じ電池を6個(No.1〜6)作成した。
【0031】
実施例4(リチウムイオン2次電池Bの作成)
実施例3と同様に、実施例2の液状組成物Bを用いて、薄型のポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池B(6個)を作成する。
実施例3および4で作成した薄型ポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池AおよびBを用いた、充放電繰り返し試験と常温時の負荷特性、低温時の負荷特性の結果をそれぞれ、下記表3および4に示す。
なお、充放電繰り返し試験の条件は、充放電共1C(180mA)で充放電サイクルを繰返し、初期1サイクル時の容量、10サイクル後の容量と保持率を示す。常温時の負荷特性は、充電はすべて0.2C(36mA)、放電は0.2C、1C、2C(360mA)、それぞれの放電容量および0.2C放電容量に対する保持率を示す。低温時の負荷特性は、−20℃における充放電共0.5C(90mA)放電容量、および常温における充放電共0.5C(90mA)放電容量に対する容量保持率を測定したものである。
すべて充電は定電流で4.2Vに達するまでとし、放電はすべて定電流で2.75Vに達するまでとしている。
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
【発明の効果】
表3および4の結果から、本発明に係るポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池は、負荷特性、特に大電流(2C特性で表される)負荷特性および低温時負荷特性において優れた特性を示しており、ポリマー固体電解質を使用したリチウムイオン2次電池の実用上の意義は非常に大きいことが認められる。
Claims (17)
- (1)オキセタン環含有ポリマー、
(2)カチオン重合開始剤、
(3)電解液溶媒、および
(4)リチウム電解質塩
から成り、上記オキセタン環含有ポリマー(1)が、オキセタン環を有するラジカル重合性モノマー:
の(メタ)アクリルモノマーと、
他のラジカル重合性モノマー:
のビニル系もしくは(メタ)アクリル系モノマー
とのラジカル共重合で得られる分子量10000以上のポリマーであり、上記オキセタン環含有ポリマー(1)が総量中5重量%以下であることを特徴とする液状の固体電解質用架橋性組成物。 - オキセタン環を有するラジカル重合性モノマーの量が、モノマー全量中5〜50重量%である請求項1に記載の固体電解質用架橋性組成物。
- カチオン重合開始剤(2)がオニウム塩である請求項1または2に記載の固体電解質用架橋性組成物。
- 電解液溶媒(3)が、環状炭酸エステル類、鎖状炭酸エステル類、環状カルボン酸エステル類、環状エーテル類、低分子鎖状カルボン酸エステル類、低分子鎖状エーテル類およびシアノエチル基含有化合物の群から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至3のいずれか1つに記載の固体電解質用架橋性組成物。
- 電解液溶媒(3)が、環状炭酸エステル類および鎖状炭酸エステル類の群から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至3のいずれか1つに記載の固体電解質用架橋性組成物。
- 電解液溶媒(3)が、環状炭酸エステル類、鎖状炭酸エステル類および環状カルボン酸エステル類の群から選ばれる少なくとも1種に、低分子鎖状カルボン酸エステル類を加えたものである請求項1乃至3のいずれか1つに記載の固体電解質用架橋性組成物。
- リチウム電解質塩(4)が、過塩素酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウムおよびトリフルオロメタンスルホン酸リチウムの群から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至6のいずれか1つに記載の固体電解質用架橋性組成物。
- カチオン重合開始剤(2)の一部あるいは全部に、リチウム電解質塩(4)として用いるヘキサフルオロリン酸リチウムおよび/またはテトラフルオロホウ酸リチウムを利用する請求項1乃至7のいずれか1つに記載の固体電解質用架橋性組成物。
- 請求項1乃至8のいずれか1つに記載の固体電解質用架橋性組成物組成物を、リチウムイオン2次電池用に架橋によってゲル化せしめポリマー固体電解質化したことを特徴とするポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池。
- 請求項1乃至8のいずれか1つに記載の固体電解質用架橋性組成物を、リチウムイオン2次電池用の、電極やセパレータ等のユニットを組み込んだ密封可能な容器あるいはケース類に注入し、架橋によってゲル化せしめポリマー固体電解質化することを特徴とするポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池の製造法。
- オキセタン環含有ポリマー(1)、
電解液溶媒(3)、および
リチウム電解質塩(4)としてヘキサフルオロリン酸リチウムおよび/またはテトラフルオロホウ酸リチウム
から成り、上記オキセタン環含有ポリマー(1)が、オキセタン環を有するラジカル重合性モノマー:
の(メタ)アクリルモノマーと、
他のラジカル重合性モノマー:
のビニル系もしくは(メタ)アクリル系モノマー
とのラジカル共重合で得られる分子量10000以上のポリマーであり、上記オキセタン環含有ポリマー(1)が総量中5重量%以下であることを特徴とする液状の固体電解質用架橋性組成物。 - オキセタン環を有するラジカル重合性モノマーの量が、モノマー全量中5〜50重量%である請求項11に記載の固体電解質用架橋性組成物。
- 電解液溶媒(3)が、環状炭酸エステル類、鎖状炭酸エステル類、環状カルボン酸エステル類、環状エーテル類、低分子鎖状カルボン酸エステル類、低分子鎖状エーテル類およびシアノエチル基含有化合物の群から選ばれる少なくとも1種である請求項11または12に記載の固体電解質用架橋性組成物。
- 電解液溶媒(3)が、環状炭酸エステル類および鎖状炭酸エステル類の群から選ばれる少なくとも1種である請求項11または12に記載の固体電解質用架橋性組成物。
- 電解液溶媒(3)が、環状炭酸エステル類、鎖状炭酸エステル類および環状カルボン酸エステル類の群から選ばれる少なくとも1種に、低分子鎖状カルボン酸エステル類を加えたものである請求項11または12に記載の固体電解質用架橋性組成物。
- 請求項11乃至15のいずれか1つに記載の固体電解質用架橋性組成物組成物を、リチウムイオン2次電池用に架橋によってゲル化せしめポリマー固体電解質化したことを特徴とするポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池。
- 請求項11乃至15のいずれか1つに記載の固体電解質用架橋性組成物を、リチウムイオン2次電池用の、電極やセパレータ等のユニットを組み込んだ密封可能な容器あるいはケース類に注入し、架橋によってゲル化せしめポリマー固体電解質化することを特徴とするポリマー固体電解質リチウムイオン2次電池の製造法。
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