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JP4904658B2 - 鉛蓄電池の製造方法 - Google Patents

鉛蓄電池の製造方法 Download PDF

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JP4904658B2
JP4904658B2 JP2002357166A JP2002357166A JP4904658B2 JP 4904658 B2 JP4904658 B2 JP 4904658B2 JP 2002357166 A JP2002357166 A JP 2002357166A JP 2002357166 A JP2002357166 A JP 2002357166A JP 4904658 B2 JP4904658 B2 JP 4904658B2
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  • Battery Electrode And Active Subsutance (AREA)
  • Cell Electrode Carriers And Collectors (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は鉛蓄電池の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉛蓄電池の内で特に制御弁式鉛蓄電池は無漏液・無保守の特性を有していることが特徴である。無漏液とは、電解液がセパレータのみに含浸・保持され流動電解液の存在しない構造で、蓄電池を横置きにしても電解液の液漏れがないものをいう。また、無保守とは、前記蓄電池の特徴である密閉反応機能により正常な充電においてはガスが発生せず、電解液の減少がほとんどなく補液といった保守が不必要な特性をいう。
【0003】
以上のような優れた特性を有していることから、近年、制御弁式鉛蓄電池は多方面にその用途が拡大している。それに伴って、高信頼性、高エネルギー密度化、長寿命化の要求が強くなってきている。
【0004】
上述した制御弁式鉛蓄電池内における密閉反応は、下記の(1)、(2)および(3)
式で示される。
(正極) HO=1/2O+2H+2e・・・・・・・・・・・(1)
(負極) Pb+1/2O+2H+SO 2−=PbSO+HO・・・・・・(2)
PbSO+2e=Pb+SO 2−・・・・・・・・・・(3)
上記のように、正極で水(HO)が分解され、酸素ガス(O)が発生するが、上述したように該蓄電池は、電解液がセパレータのみに含浸・保持され流動電解液の存在しない構造であるため、該Oはセパレータを貫通して容易に負極に移動し、Pbと反応してPbSOとHOが生成される。すなわち、(1)式で失われたHOが(2)式で再生されたことになり全体として電解液が減少しない。
【0005】
また、(2)式で生成されたPbSOは(3)式に示すように負極の充電反応によって、Pbに還元され、負極では充電時に水素ガス(H2)が発生しない。すなわち、充電時に酸素ガスおよび水素ガスのいずれも発生しない。
【0006】
しかしながら、負極の自己放電が多くなると水素ガスが余分に発生し、上記(1)、(2)および(3)式によるHOの再生サイクルのバランスが崩れ、負極が充電不足になり、それが継続して起こると、負極がPbSOの大きな結晶となる、いわゆる、サルフェイション現象が起こり充電できなくなり、短寿命になる。
【0007】
したがって、制御弁式鉛蓄電池においては、正・負極格子に自己放電量の少ないPb、Pb−Ca合金あるいはPb−Ca−Sn合金が通常採用されている。
【0008】
しかしながら、上記格子は、絶えず充電をしながら使用する、トリクルあるいはフロート使用では問題ないが、充・放電を絶えず繰り返すサイクル使用で、特に、放電量が少なく、過充電される使用状態では正極格子の酸化が進み過ぎるため、放電時にその部分が優先的に放電し、正極格子と活物質との界面に硫酸鉛の絶縁層が形成され、早期に容量が低下(早期容量低下、また、Premature Capacity Loss 略してPCLともいう)するといった問題が発生する。
【0009】
上記、早期容量低下に関しては、制御弁式鉛蓄電池だけではなく、正・負極にSbを含まないPb、Pb−CaあるいはPb−Ca−Sn合金格子を用い、電解液が十分に存在する開放型鉛蓄電池においても同様の現象が見られる。
【0010】
上記対策の一つとして、負極格子にはPb、Pb−Ca合金あるいはPb−Ca−Sn合金を使用し、正極には、Sb濃度が0.5質量%以上、1.5質量%以下とSb濃度の低い(低アンチモンと称している)Pb−Sb系合金格子を使用する方法が提案されている。正極にSbが存在することによって、原因は明確でないが上述したサイクル使用での早期容量低下が発生しなくなる。しかし、該Sbが正極から電解液中に溶出し負極に析出すると負極の水素過電圧を下げ、水素ガスの発生を促進し、上述した密閉反応サイクルのバランスが崩れ、制御弁式鉛蓄電池の機能を失い負極板が充電不足になり蓄電池性能が劣化する。開放型蓄電池においても、水素過電圧の低下により、充電効率が低下し、電解液の減少が加速され性能が劣化する問題を抱えている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
Sb濃度が0.5質量%以上、1.5質量%以下のPb−Sb系合金からなる正極格子を有する鉛蓄電池において、Sbの存在によって早期容量低下が防止されると共に、Sbの負極への弊害を極力抑制し、優れたサイクル寿命を有する鉛蓄電池の製造方法および鉛蓄電池を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
課題を解決するための手段として、請求項1によれば、Sb濃度が0.5質量%以上、1.5質量%以下のPb−Sb系合金からなる正極格子を有する鉛蓄電池の製造方法において、負極活物質中に負極活物質質量に対して0.3質量%以上、0.7質量%以下のオイルを添加し、電解液比重が1.29〜1.4の範囲、正極活物質中のSnの量が1.5質量%未満、負極活物質中のリグニン量が0.3〜0.8質量%の範囲、正極活物質量(g)に対する負極活物質量(g)の比率をセル当たり0.6以上とすることを特徴とするものである。
【0013】
鉛蓄電池、特に制御弁式鉛蓄電池において、Sb濃度が0.5質量%以上、1.5質量%以下のPb−Sb系合金を正極格子に使用した場合、Sbの存在により、該蓄電池のサイクル使用における早期容量低下は抑制できるが、Sbが電解液中に溶出し、負極に析出すると水素過電圧を下げ、水素ガスの発生を促進し、上述した密閉反応サイクルのバランスが崩れ、負極板が充電不足になり、サルフェイション化し蓄電池の性能劣化が促進される問題を抱えていた。該Sbの弊害を抑制する手段の一つとして負極活物質に添加されているオイルが正極から溶出したSbの負極への析出を抑制する効果を有していることを見出し、本発明はその知見に基づくものである。その添加量は、0.3質量%より少なくなるとオイルのSbを補足する機能が十分でなく、0.7質量%より多くなると、オイルが負極板表面を覆う形になり負極板の性能が低下し好ましくないことがわかった。したがって、0.3質量%以上、0.7質量%以下が適当である。
【0014】
なお、ここでのオイルとは石油(原油)を生成して得たオイルのことを意味する。本願の発明者は、種々のオイルについて試験した結果、特に鎖状構造のパラフィン系炭化水素のオイルが本発明の目的に効果的であることを見出した。
【0015】
また、本発明は、正極活物質中にSnを含有する正極板を用いたことを特徴とするものである。
【0016】
すなわち、正極活物質中にSnが含まれていると、正極格子から溶出したSbとSnとがSb−Sn化合物を生成し、Sbが正極活物質内に留まり、負極に析出するのを抑制する効果があることがわかった。
【0017】
Snの適切な添加量は、正極格子に含まれるSb量に関係しており、正極格子内に含まれるSb量をS(質量%)、正極活物質内に含まれるSn量をT(質量%)とした時に1.5>T≧0.15×S+0.05の関係を維持することによって、Snが有効に作用し、Sbの溶出を抑制することが分かった。すなわち、Sn量としては最大でも正極格子中に含まれる最大Sb量1.5質量%より少ない質量%に抑える必要がある。Sn量が1.5%以上になるとSbの存在に関係なくSnの弊害が現れ、蓄電池の性能が低下する。また、添加量の下限値は正極格子中のSb濃度に関係し、試験結果からT≧0.15×S+0.05の関係を維持する必要があることがわかった。
【0018】
上記関係は、正極格子質量(g)/正極活物質量(g)が0.5〜1.2の範囲において有効に機能することもわかった。
【0019】
また、本発明は、負極活物質中にリグニンを含有する負極板を用いることを特徴とするものである。
【0020】
負極活物質中のリグニン量は0.3〜0.8質量%の範囲であるのが好ましい。なお、ここでのリグニンの量は、紫外線吸収スペクトル法で測定した値を言う。
【0021】
すなわち、正極から溶出してきたSbが負極に析出した場合に、該リグニンがSbを捕捉してくれるので、Sbの弊害が抑制されることが分かった。しかし、リグニン量が0.8質量%より多いとリグニンが負極板表面を覆ってしまい、負極板の性能劣化をもたらす。一方、0.3質量%より少ないとSbを捕捉する能力が低下し、その効果が得られない。したがって、0.3〜0.8質量%の範囲が好ましいことがわかった。
【0022】
また、本発明は、Sb濃度が0.5質量%以上、1.5質量%以下のPb−Sb系合金からなる正極格子を有する鉛蓄電池の製造方法において、正極活物質量(g)に対する負極活物質量(g)の比率をセル当たり、0.6以上に保つのが好ましい。
【0023】
なお、ここでのセル当たりの正極活物質量に対する負極活物質量の比率は、正極活物質であるPbOの質量と負極活物質であるPbおよび各種添加剤を含んだ質量との質量比をいう。
【0024】
本発明において、正極活物質密度は3.1g/cm以上、3.8g/cm以下であることが好ましい。
【0025】
すなわち、正極活物質は多孔性の物質であり、多孔度が高い、すなわち、低密度な活物質は、活物質内に空隙が多く存在し硫酸との反応性が良く、正極活物質の利用率が上昇する。その反面、活物質同士の結合力が弱くなるのでサイクル寿命性能が劣る欠点を有していた。これに対して、Sbは正極活物質同士の結合力を高める機能を有していることから、3.1g/cm以上、3.8g/cm以下の低密度な活物質でも容量が優れ、しかもサイクル使用においても寿命の優れた蓄電池を得ることができる。
【0026】
【参考例】
まず、参考例として、上述したようにSb濃度が0.5質量%以上、1.5質量%以下のPb−Sb系合金を正極格子に使用することにより、正極格子にSbを含まない制御弁式鉛蓄電池に比べて、優れたサイクル寿命性能を有していることを明らかにするために行った試験結果について述べる。その際、使用する電解液の比重の寿命性能に及ぼす影響についても併せ試験を行った。
【0027】
正極格子中のSb量がゼロを含む6種類のPb−Sb合金からなる鋳造格子を作製し、該格子に通常のペーストを充填・乾燥して、正極板を作製した。負極板には、Pb−0.07質量%Ca−1.3質量%Sn合金の鋳造格子を用い、該格子に通常のペーストを充填・乾燥を行い、作製したものを用いた。これら正極板3枚、負極板4枚を微細ガラス繊維セパレータを介して交互に積層し、電槽に挿入し、最終比重が1.25〜1.44になるような濃度の希硫酸を所定量注液後、電槽内で化成を行い、通常の制御弁を装着した定格容量、約7Ah(20hR)、公称電圧、12Vの制御弁式鉛蓄電池を製作した。なお、本実施例では、負極活物質中のオイル量は0質量%、正極活物質中のSn量は0質量%、負極活物質中のリグニン量は0.3質量%、セルあたりの負極活物質量/正極活物質量は0.8、正極活物質密度は3.2g/cmを適用した。
【0028】
上記蓄電池を下記の条件でサイクル寿命試験を行った。
【0029】
(サイクル寿命試験条件)
放電を1.75A(0.25CA)、放電終止電圧:1.7V/セルで行った後、充電を最大電流1.4A(0.2CA)で行い、蓄電池電圧が2.4V/セルに到達した時点で、0.35A(0.05CA)の定電流充電に切り替え、放電量の110%まで行った。なお、試験雰囲気温度は25℃で、約100サイクル毎に、上記放電条件での容量の確認を行い、容量が初期の50%に低下した時点を寿命とした。
【0030】
なお、この試験では、オイルの添加量、0質量%、Snの添加量、0質量%、負極活物質量/正極活物質量、0.8、正極活物質密度、3.2g/cmをそれぞれ適用した。
【0031】
試験結果を図1に示す。
【0032】
図1に示すように、正極格子内のSb量が0.5から1.5質量%の範囲の蓄電池は、約670〜800サイクルの寿命を示したのに対して、2質量%の蓄電池は400サイクル以下に低下した。この理由は、Sb量が多く、負極板に析出し、負極板が早期に劣化したためである。一方、0.3質量%の蓄電池は、Sbの効果が現れず、Sb量が0質量%の格子を用いた蓄電池と同様の特性を示し、短寿命になった。
【0033】
蓄電池に用いる電解液濃度(比重)に関しては、1.29より低くなると、短寿命になった。その理由は、電解液比重が低いと、希硫酸中のSbの溶解度が増加し、負極板に析出する量が多くなり、負極板を劣化させたためである。一方、電解液比重が1.4より高くなった場合も短寿命になった。これは、高比重により正極活物質が軟化・脱落したためである。
【0034】
以上のように、制御弁式鉛蓄電池において、サイクル使用における短寿命を改善するためにSbを含有する正極格子を用いる場合に、該Sb量は0.5〜1.5質量%の範囲が好ましいことがわかる。また、電解液比重は、1.29以上を用いるのがSbの溶出の抑制に有効であるが、比重が高くなりすぎると正極活物質の軟化が起こるので1.4が限度といえる。
【0035】
【実施例】
次に、本発明の効果を明確にするために実施例に基づき詳細に説明する。
【0036】
(実施例1)
実施例1では、負極活物質に添加されているオイルが正極格子から溶出したSbの負極板への析出を抑制する機能を有していることを明確にするために行った試験結果について述べる。
【0037】
正極格子中のSb量がゼロを含み6種類の正極板を作成し、これらと負極活物質中のオイルの添加量がゼロを含めて8種類の極板とを組み合わせて、それ以外は、参考例と同じ処方により定格容量約7Ah、公称電圧12Vの制御弁式鉛蓄電池を作製した。オイルには、鎖状構造のパラフィン系炭化水素をベースにしたオイルを使用した。また、電解液比重は、1.32(20℃)、正極活物質中のSn量は0質量%、負極活物質中のリグニン量は0.3質量%、セルあたりの負極活物質量/正極活物質量は0.8、正極活物質密度は3.2g/cmをそれぞれ適用した。
【0038】
上記、蓄電池を参考例と同じ条件による、サイクル寿命試験を行った。その結果を図2に示す。
【0039】
図2に示すように、正極格子中のSb量が0.5から1.5質量%の範囲で、オイル量が0質量%の蓄電池のサイクル寿命が約700サイクルであったのに対して、オイル添加量が0.3質量%以上、0.7質量%の蓄電池が800〜1000サイクルの寿命を示し、オイルの効果が認められた。しかし、0.8質量%では寿命が低下していた。その理由は、オイルが多すぎて負極板表面を覆う形になり、負極板が十分に機能しなかったためと考えられる。Sb量が2.0質量%の蓄電池は、Sbの弊害が大きく、オイルの添加量に関係なく負極板が劣化し、寿命になった。一方、Sb量が0あるいは0.3質量%の蓄電池では、オイルの量に関係なくSbがその機能が十分でないかあるいは全くないことにより正極板の劣化により短寿命になった。
【0040】
以上のように、負極活物質中に0.3質量%以上、0.7質量%以下のオイルを添加することによって、該オイルが正極板から溶出してきたSbが負極に析出するのを抑制し、負極の劣化を防止し、寿命性能が改善されることがわかった。
【0041】
(実施例2)
実施例2では、正極活物質中にSnが存在すると、正極格子から溶出してきたSbと化合物を形成し、Sbが電解液中に溶出するのを抑制する効果を有していることを明らかにするために行った試験結果について述べる。
【0042】
正極格子中のSb量がゼロを含み6種類の正極板を作成し、これら極板と、正極活物質中のSnの添加量がゼロを含めて9種類の極板とを組み合せて、それ以外は、参考例と同じ処方により、定格容量約7Ah、公称電圧12Vの制御弁式鉛蓄電池を作製した。なお、正極格子質量(g)/正極活物質量(g)は1.0に設定した。
【0043】
この場合、オイル量は、0.3質量%、電解液比重は、1.32(20℃)、セルあたりの負極活物質量/正極活物質量は0.8、正極活物質密度は3.2g/cmをそれぞれ適用した。
【0044】
上記、蓄電池を参考例と同じ条件による、サイクル寿命試験を行った。その結果を図3に示す。
【0045】
図3に示すように、正極格子中のSb量が1.0質量%から1.5質量%の範囲の蓄電池で、正極活物質中のSn量が1.5>T(Sn質量%)≧0.15×S(Sb質量%)+0.05を満足する範囲においては、Snの効果が有効に機能し、負極活物質に添加されたオイルの効果が相まって、1000サイクル以上の優れた寿命性能を示した。本処方では、Sbの弊害を抑制する効果が大きく、サイクル寿命性能が大幅に改善されたので、Sb量0.5質量%の蓄電池は、Sbが少ないためのサイクル寿命における負の効果が現れ、正極板の劣化により約900サイクルに留まった。
【0046】
Sn量の影響に関しては、1.5質量%以上になると、正極格子中のSb量にかかわりなく、サイクル寿命が大幅に低下した。これは、Snの量が多いと正極とSnとの間で局部電池が形成され、自己放電が大きくなったためと考えられる。
【0047】
また、正極格子中のSb量が2.0質量%になるとSnの効果よりも、Sbの弊害が上回り、短寿命であった。
【0048】
本実施例では、オイルの添加量は、0.3質量%に固定したが、添加量が0.3〜0.7質量%の範囲で同様のサイクル寿命傾向が得られた。
【0049】
また、正極格子質量(g)/正極活物質質量(g)0.5〜1.2の範囲において、Snが有効に作用することを他の試験で確認した。
【0050】
(実施例3)
実施例3では、負極板に添加されているリグニンの量を多くすると、正極板から溶出してきたSbを捕捉し、該Sbが負極板に及ぼす弊害を抑制する機能を有していることを明確にするために行った試験結果について述べる。
【0051】
正極格子中のSb量がゼロを含み6種類の正極板を作製し、これら極板と負極活物質中のリグニンの量が異なる6種類の極板とを組み合わせ、それ以外は参考例と同じ処方により定格容量約7Ah、公称電圧12Vの制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0052】
この場合、オイルの添加量は、0.3質量%、正極活物質中のSn量は、0質量%、電解液比重は、1.32(20℃)、セルあたりの負極活物質量/正極活物質量は0.8、正極活物質密度は3.2g/cmをそれぞれ適用した。
【0053】
上記、蓄電池を参考例と同じ条件による、サイクル寿命試験を行った。その結果を図4に示す。
【0054】
図4に示すように、正極格子中のSb量が0.5〜1.5質量%で、負極板中のリグニン量が0.3〜0.8質量%である蓄電池は良好なサイクル寿命性能を示した。リグニン量が0.8質量%より多くなるとリグニンが負極板表面を覆ってしまい負極板が本来の機能をしなくなり、サイクル寿命は急激に低下した。リグニンの添加量が0.3質量%より少なくなると、リグニンのSb捕捉機能が低下し、正極中のSb量に関係なくサイクル寿命が悪かった。
【0055】
また、正極格子中のSb量が2質量%になると、リグニンの効果よりもSbの弊害が上回り短寿命であった。
【0056】
本実施例では、負極活物質中のオイル量は、0.3質量%、正極活物質中のSn量は、0質量%にそれぞれ固定したが、オイルの添加量、0.2質量%以上、0.7質量%以下、正極活物質中のSn量、1.5>T(Snの質量%)≧0.15×S(Sbの質量%)+0.05が適用される範囲において、それぞれ単独あるいは組み合わせて適用しても同様の寿命傾向が得られた。
【0057】
(実施例4)
実施例4では、正極格子中にSbを含有する制御弁式鉛蓄電池において、正極活物質量に対する負極活物質量の比率を変えた場合の、Sbの負極に及ぼす弊害の程度を調べる試験を行った結果について述べる。
【0058】
正極活物質量が一定であって、正極格子中のSb量がゼロを含み6種類の正極板を作製し、前記正極活物質量に対する負極活物質量の比率が異なる5種類の負極板とを組み合わせて、それ以外は参考例と同じ処方により定格容量約7Ah、公称電圧12Vの制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0059】
これらに対して、オイルの添加量は0.3質量%、正極活物質中のSn量は0質量%、負極活物質中のリグニン量は負極原料に対して0.3質量%、電解液比重は、1.32(20℃)、正極活物質密度は3.2g/cmをそれぞれ適用した。
【0060】
上記、蓄電池を参考例と同じ条件によるサイクル寿命試験を行った。その結果を図5に示す。
【0061】
図5に示すように、正極格子中のSb量が0.5〜1.5質量%の範囲の蓄電池では、負極活物質量/正極活物質量が0.6以上であれば、良好なサイクル寿命を示したが、0.6より小さくなると、良好なサイクル寿命を示していたSb量範囲0.5〜1.5質量%であっても、負極が早期に劣化するために短寿命になった。Sb量が2.0質量%の蓄電池は、Sbの弊害が大きいために、負極活物質量/正極活物質量が0.6以上であってもサイクル寿命性能は改善されなかった。
【0062】
本実施例では、オイルの添加量は、0.3質量%、正極活物質中のSn量は、0質量%、負極活物質中のリグニン量は、0.3質量%に固定した例について説明したが、オイルの添加量、0.2質量%以上、0.7質量%以下、正極活物質中のSn量、1.5>T≧0.15×S+0.05の適用される範囲、負極活物質中のリグニン量、0.3質量%以上、0.8質量%以下について、それぞれ単独あるいは組み合わせて適用した場合、同様の寿命性能の傾向が得られた。
【0063】
(実施例5)
周知のとおり、正極板に低密度の活物質を適用すると、正極活物質の利用率が改善され、容量が増加するが、活物質間の結合力が弱いために短寿命の傾向にあったが、正極格子中にSbを含有していると該Sbが正極活物質同士の結合力を高める機能を有しており、初期性能が良く、しかも寿命性能の優れた制御弁式鉛蓄電池が得られることを明らかにするために行った試験結果について述べる。
【0064】
正極格子中のSb量がゼロを含み6種類の正極格子と活物質密度の異なる7種類の正極板とを組み合わせた蓄電池を作製した。オイルの添加量は、0質量%、正極活物質中のSn量は、0質量%、負極活物質中のリグニン量は、0.3質量%、電解液比重は1.32(20℃)、セル当たりの負極活物質量/正極活物質量は0.8をそれぞれ適用した。
【0065】
上記蓄電池の初期容量の評価および参考例と同じ条件によるサイクル寿命試験を行った。その結果を図6および図7にそれぞれ示す。
【0066】
図6に示すように、Sb濃度が0および0.3質量%の蓄電池は、正極活物質量の密度が3.3g/cm以下になると容量が低下したのに対して、Sb濃度0.5質量%以上では、正極活物質の結合力が高められ、3.1g/cmといった低密度の正極活物質でも優れた容量を示した。しかし、正極活物質密度が3g/cmになるとSb濃度が0.5質量%以上でも容量低下は避けられなかった。
【0067】
図7は、上記蓄電池をサイクル寿命試験に供した結果を示す。上述したように正極活物質密度3g/cmの蓄電池は初期から容量が低かったので試験には供しなかった。
【0068】
図7に示すように、Sb量がゼロあるいは0.3質量%の蓄電池は、正極活物質密度が3.5g/cmになるとサイクル寿命性能が低下してきたのに対して、Sb量0.5〜1.5質量%の蓄電池は3.1g/cmでも優れたサイクル寿命性能を有していた。
【0069】
しかし、Sb量2.0質量%の蓄電池は上述したと同じ理由でSbの弊害により短寿命であった。
【0070】
一方、Sb量、0および0.3%の蓄電池は、正極活物質が低密度では短寿命であったが、3.8g/cm以上になるとサイクル寿命性能がよくなった。これは高密度によって活物質同士の結合力がよくなったことが原因していると考えられる。
【0071】
本実施例では、負極活物質中のオイルの添加量は、0質量%、正極活物質中のSn量は、0質量%、負極活物質中のリグニン量は、0.3質量%、セルあたりの負極活物質量/正極活物質量は0.8にそれぞれ固定した場合について説明したが、オイル添加量、0.2質量%以上、0.7質量%以下、Sn添加量とSb量との関係1.5>T≧0.15×S+0.05が適用される範囲〔正極格子質量(g)/正極活物質質量(g):1.0〕、リグニン量、0.3質量%以上、0.8質量%以下、セル当たりの負極活物質量/正極活物質量0.6以上についてそれぞれ単独あるいはこれらの組み合わせを適用した場合にも同様の寿命性能傾向が得られた。
【0072】
なお、実施例においては、制御弁式鉛蓄電池について説明したが、Sb濃度0.5質量%以上、1.5質量%以下のPb−Sb系合金からなる正極格子とPb、Pb−CaあるいはPb−Ca−Sn合金からなる負極格子とを有する鉛蓄電池で、電解液が十分に存在する開放型の鉛蓄電池においても、オイル添加量、0.2質量%以上、0.7質量%以下、正極活物質中のSn添加量と正極格子中のSb量との関係1.5>T≧0.15×S+0.05の適用される範囲、負極活物質中のリグニン量、0.3質量%以上、0.8質量%以下、セル当たりの負極活物質量/正極活物質量0.6以上、正極活物質密度が3.1g/cm以上、3.8g/cm以下を適用することによって絶対値は異なるが制御弁式鉛蓄電池と同様の効果が得られるのを確認した。
【0073】
【発明の効果】
正・負極格子にSbを含まない正・負極板を用いた鉛蓄電池では、サイクル使用において充・放電条件によっては早期容量低下が発生する。その対策として正極格子にSb濃度0.5質量%以上、1.5質量%以下のPb−Sb系合金を用いることによって上記問題は解消されるが、該Sbが電解液中に溶出し、負極に析出すると負極の水素過電圧を下げ、水素ガスが発生し、制御弁式鉛蓄電池の特徴である、密閉反応機能のバランスが崩れ、その機能を失うと共に、負極板の性能が劣化する問題を抱えていた。これに対して、負極活物質中にオイルを一定量添加する、正極活物質中にSnを一定量添加する、負極活物質中にリグニンを一定量添加するあるいは/およびセル当たりの負極活物質量/正極活物質量の比を0.6以上にすることによって上記、Sbの弊害が抑制され、制御弁式鉛蓄電池あるいは開放型鉛蓄電池本来の優れたサイクル寿命性能が得られ、その工業的効果が極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】制御弁式鉛蓄電池における、正極格子中のSb濃度および電解液比重とサイクル寿命との関係を示す図。
【図2】実施例1の負極活物質中のオイルの添加量(質量%)とサイクル寿命との関係を示す図。
【図3】実施例2の正極活物質中のSn量(質量%)とサイクル寿命との関係を示す図。
【図4】実施例3の負極活物質中のリグニン量(質量%)とサイクル寿命との関係を示す図。
【図5】実施例4のセルあたりの負極活物質量(g)/正極活物質量(g)とサイクル寿命との関係を示す図。
【図6】実施例5の正極活物質密度と蓄電池容量との関係において、正極格子中のSb量(質量%)の影響を示す図。
【図7】実施例5の正極活物質密度と蓄電池のサイクル寿命との関係において、正極格子中のSb量(質量%)の影響を示す図。

Claims (1)

  1. Sb濃度が0.5質量%以上、1.5質量%以下のPb−Sb系合金からなる正極格子を有する鉛蓄電池の製造方法において、負極活物質中に負極活物質質量に対して0.3質量%以上、0.7質量%以下のオイルを添加し、電解液比重が1.29〜1.4の範囲、正極活物質中のSnの量が1.5質量%未満、負極活物質中のリグニン量が0.3〜0.8質量%の範囲、正極活物質量(g)に対する負極活物質量(g)の比率をセル当たり0.6以上とすることを特徴とする鉛蓄電池の製造方法。
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