JP4902037B2 - 防汚剤組成物、防汚処理基材、並びに基材の防汚処理方法 - Google Patents
防汚剤組成物、防汚処理基材、並びに基材の防汚処理方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の技術分野】
本発明は、防汚剤組成物、防汚処理基材、並びに基材の防汚処理方法に関し、さらに詳しくは漁網、漁具、船舶または水中構造物など、海水または真水と接触する基材に含浸・塗布すれば優れた防汚性能を発揮し得るような防汚剤組成物、防汚処理基材、並びに基材の防汚処理方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
漁網、水中構造物などは、水中、特に海水中で長期に亘って使用されるため、海水との接触部分に、ヒドロ虫、フサコケムシ、アオサ、アオノリ、セルプラ、カキなど多数の海中生物が付着、繁殖すると、漁網等の本来の機能が損なわれる恐れがある。漁網のなかでも、養殖網や定置網は長期間海水中に静置されるため海中生物の腐食、繁殖が顕著であり、頻繁に取り替えなければならず、経済的損失が大きい。
【0003】
このような問題を解決するために、海中生物の付着防止を目的として、漁網などの表面への防汚剤ないし防汚塗料の塗装が広く行われている。海中生物付着防止法としては、亜酸化銅あるいは有機防汚剤に、これらの防汚剤を適正に溶出させるための展色剤として、ロジンとビニル樹脂あるいはアクリル樹脂とを配合した防汚剤組成物、または亜酸化銅あるいは有機防汚剤に、展色剤として加水分解性樹脂(アクリル酸ポリマーのケイ素、銅、亜鉛、錫のアルキルエステルまたはアルコキシエステル)を配合した防汚剤組成物が広く使用されている。また、防汚性を有する展色剤、たとえば室温硬化性シリコーンゴム等は、防汚剤としても使用されている。しかしながら、これらの防汚剤組成物では、満足できる防汚性が得られていない。
【0004】
なお、▲1▼特開平4−142373号公報(対応する特許:特許第2140275号)には、高分子中のポリオキシエチレン量(重量%)に基づく親水性親油性バランス(HLB)が2〜10のシリコーンオイルであるオキシアルキレン基含有鎖状オルガノポリシロキサンを含有する防汚塗料が開示され、該公報には、このHLBが2以下では塗膜そのものが撥水性を示し防汚耐久性に劣ると記載されている。しかしながら該公報に記載の防汚塗料を用いると、海草の付着防止効果を有する塗膜を得ることができるが、ヒドロ虫等の腔腸動物の付着防止効果には劣る。
【0005】
また▲2▼特公平6−104793号公報には、非シリコーン系皮膜形成性樹脂と、高分子中のポリオキシエチレン量(重量%)に基づくHLBが3〜12のオキシアルキレン基含有鎖状オルガノポリシロキサンとを特定量比で含有する防汚塗料が開示され、該公報には、このHLBが3より小さいと防汚効果が劣り、長期に亙る防汚効果の保持が困難となると記載されている。また、該公報に記載の組成物を用いると、特に漁網などに対して有用な防汚塗膜を得ることができる旨記載されている。しかしながら、漁網、水中構造物等に対する水中生物の付着防汚性の点でさらなる改良の余地があった。
【0006】
かかる問題点を解決するべく鋭意研究して、本願出願人は、▲3▼特開平9−176576号公報において、高分子中のポリオキシエチレンに基づく親水性親油性バランス(HLB)が2〜7のオキシアルキレン基含有鎖状オルガノポリシロキサンと、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメートとを特定量比で含有する水中防汚剤組成物を提案しており、該組成物からなる塗膜は、漁網、水中構造物等に対するヒドロ虫等の腔腸動物の付着を有効に防止できる。
【0007】
また、本願出願人は、▲4▼特開平9−176577号において、上記特開平9−176576号公報に記載のオキシアルキレン基含有鎖状オルガノポリシロキサンと、亜酸化銅とを特定量比で含有する水中防汚剤組成物を提案しており、該組成物からなる塗膜は、漁網、水中構造物等に対する貝類、ヒドロ虫、藻類等の水中生物の付着防汚性に優れている。
【0008】
しかしながら、本願出願人が提案したこれら公報に記載の防汚塗料においても、漁網、水中構造物等に対する貝類、ヒドロ虫、藻類等の水中生物の付着防汚性の点でさらなる改良の余地があった。
そこで本発明者らはさらに鋭意研究したところ、上記各公報に示すようなエチレンオキシ基量に基づくHLB値が特定の範囲にあり、かつプロピレンオキシ基(C3H6O)に基づく親水性親油性バランス(HLBPO)も特定の範囲にあるようなオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサンを用いると、腔腸動物(例:セルプラ、ヒドロ虫等)、フジツボ、海草などの各種海中生物に対し優れた防汚性を示す防汚塗膜を形成できる防汚剤組成物が得られることなどを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
なお、上記▲1▼〜▲4▼に記載の公報には、プロピレンオキシ基量に基づくHLBについては、何ら記載も示唆もされていない。
【0010】
【発明の目的】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、ヒドロ虫等の腔腸動物や海草などの水中生物に対して優れた防汚性を発揮しうる防汚塗膜を形成できる防汚剤組成物を提供することを目的としている。
【0011】
また本発明は、上記のようにヒドロ虫等の腔腸動物や海草などの水中生物に対して優れた防汚性を発揮しうる防汚塗膜を有する漁網、船舶、水中構造物などの防汚処理基材、並びに基材の防汚処理方法を提供することを目的としている。
【0012】
【発明の概要】
本発明に係る第1の防汚剤組成物は、
下記式[I]:
【0013】
【化2】
【0014】
[式[I]中、R5はアルキル基またはフェニル基を示し、R1、R2およびR3は、それぞれ独立にアルキル基、フェニル基またはX:「(CH2)pO(C2H4O)q(C3H6O)rR4(R4は、水素原子またはそれぞれ炭素数が1〜15のアルキル基、アリール基、アラルキル基またはアシル基を示し、pは0〜5の数を示し、qおよびrはそれぞれ独立に1〜50の数を示す。)」を示し、mは1〜1000の数を示し、nは0〜50の数を示す。但し、nが0のとき、R1および/またはR2は上記Xである。]
で表されるオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサンを含有し、
該オルガノポリシロキサンは、上記オルガノポリシロキサンのエチレンオキシ基(C2H4O)に基づく下記式(A)で表される親水性親油性バランスHLBEOが1〜2.5であり、かつ
プロピレンオキシ基(C3H6O)に基づく下記式(B)で表される親水性親油性バランスHLBPOが1〜10であることを特徴としている。
(A):
HLBEO =[(オルガノポリシロキサン中のエチレンオキシ基(C2H4O)の合計量(重量%)/5]
(B):
HLBPO =[(オルガノポリシロキサン中のプロピレンオキシ基(C3H6O)の合計量(重量%)/5]。
【0015】
上記本発明においては、エチレンオキシ基およびプロピレンオキシ基に基づく下記式(C)で表される、オルガノポリシロキサンの親水性親油性バランスHLBEO+POが2〜12であることが好ましい。
(C):
HLBEO+PO =[(オルガノポリシロキサン中のエチレンオキシ基とプロピレンオキシ基との合計量(重量%))/5]。
【0016】
本発明に係る第2の防汚剤組成物は、上記式[I]で表されるオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサンを含有し、
該オルガノポリシロキサンは、エチレンオキシ基(C2H4O)に基づく上記式(A)で表される親水性親油性バランスHLBEOが1〜2.5であり、かつ
エチレンオキシ基(C2H4O)とプロピレンオキシ基(C3H6O)に基づく上記式(C)で表される、オルガノポリシロキサンの親水性親油性バランスHLBEO+POが2〜12であることを特徴としている。
【0017】
上記第1及び第2の本発明(以下、両者をまとめて単に「本発明」ともいう。)においては、上記オキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン[I]を、組成物中に1〜50重量%の量で含有することが好ましい。
また、本発明においては、さらに、(b)銅および/または無機銅化合物を含有することが好ましく、特にこの銅および/または無機銅化合物(b)は、亜酸化銅またはロダン銅であることが望ましい。本発明においては、このような銅および/または無機銅化合物(b)を、組成物中に1〜50重量%の量で含有することが好ましい。
【0018】
本発明においては、上記何れの態様においても、さらに、(c)有機防汚剤を含有することが好ましい。
本発明においては、上記有機防汚剤(c)が、金属ピリチオン塩系化合物、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメイト、トリフェニルボランのアミン錯体、テトラエチルチウラムジスルフィド、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、アルキルフェニルジクロロマレイミド、クロロメチル−n−オクチルジスルフィッド、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2−メチルチオ−4−tert−ブチルアミノ−6−シクロプロピルSトリアジン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリルからなる群から選択される1種または2種以上であることが望ましい。
【0019】
また、上記金属ピリチオン塩系化合物は、銅ピリチオンおよび/またはジンクピリチオンであることが望ましい。また、上記トリフェニルボランのアミン錯体は、トリフェニルボランピリジン錯体および/またはトリフェニルボランアルキルアミン錯体であることが好ましい。
本発明においては、上記有機防汚剤(c)を、該組成物中に1〜20重量%の量で含有することが好ましい。
【0020】
本発明に係る防汚塗膜は、上記の何れかに記載の防汚剤組成物から形成されたことを特徴としている。
本発明に係る防汚処理基材は、海水または真水と接触する漁網、漁具、船舶または水中構造物に代表される基材の表面が、上記の何れかに記載の防汚剤組成物からなる塗膜、すなわち、該防汚剤組成物を塗布あるいは含浸し、硬化してなる被膜にて被覆されていることを特徴としている。
【0021】
本発明に係る基材の防汚方法は、海水または真水と接触する基材の表面に、上記の何れか記載の防汚剤組成物を塗布あるいは含浸させ、該基材の表面に防汚塗膜を形成させることを特徴としている。
本発明によれば、漁網、漁具、船舶または水中構造物など、海水または真水と接触する基材に含浸・塗布すれば、ヒドロ虫等の腔腸動物や海草などの各種海中生物に対し優れた防汚性を示す防汚塗膜を形成できる防汚剤組成物が提供される。本発明に係る防汚処理基材は上記のような防汚塗膜で被覆されており、上記防汚性能を発揮できる。本発明によれば、環境への安全性に優れ、効率的に上記防汚塗膜付き基材を得ることのできる、基材の防汚処理方法が提供される。
【0022】
【発明の具体的説明】
以下、本発明に係る防汚剤組成物、防汚処理基材、並びに基材の防汚処理方法について具体的に説明する。
<防汚剤組成物>
本発明に係る防汚剤組成物は、下記式[I]で表されるオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサンを含有している。また、その好ましい態様においては、この防汚剤組成物は、後述するような防汚剤すなわち、銅および/または無機銅化合物(b)、有機防汚剤(c)などをも含有している。
【0023】
以下、オキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン[I]、防汚剤などについて順次説明する。
<オキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン [I] >
式[I]:
【0024】
【化3】
【0025】
式[I]中、R5は、アルキル基好ましくは炭素数1〜5さらには炭素数1〜3の下記例示中の各アルキル基、またはフェニル基を示し、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立にアルキル基好ましくは炭素数1〜5さらには炭素数1〜3の下記例示中の各アルキル基、フェニル基またはX:「(CH2)pO(C2H4O)q(C3H6O)rR4[R4は、水素原子またはそれぞれ炭素数が1〜15のアルキル基、アリール基好ましくは炭素数が6〜15のアリール(aryl)基、アラルキル基好ましくは炭素数が7〜15のアラルキル基(アリールアルキル基)またはアシル基好ましくは炭素数が1〜15のアシル基を示し、pは0〜5の数を示し、qおよびrはそれぞれ独立に1〜50の数を示す。]」を示す。
【0026】
なお、式[I]に複数個のXが存在する場合には、これらXは互いに同一でもよく異なっていてもよい。
炭素原子数1〜15の上記アルキル基としては、直鎖状、分岐状の何れでもよく、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、s-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、ペンタデシル基などが挙げられる。これらのアルキル基のうちでは、炭素数が1〜5のものが好ましく、具体的には、メチル基が望ましい。
【0027】
炭素数が6〜15のアリール(aryl)基としては、未置換の芳香族基の他、その水素原子の一部が炭素数1〜3程度のアルキル基で置換されていても良い芳香族基が挙げられ、具体的には、例えば、フェニル基、トリル基(CH3C6H4−)、キシリル基(CH3)2C6H3−)、ビフェニリル基(C6H5C6H4−)、ナフチル基(C10H7−)、アントリル基(C14H9−)、フェナントリル基(C14H9−)等が挙げられる。これらのアリール基のうちでは、炭素数が6〜10のものが好ましく、具体的には、フェニルが望ましい。
【0028】
炭素数が7〜15のアラルキル基(アリールアルキル基)としては、具体的には、例えば、ベンジル基(C6H5CH2−)、フェネチル基(C6H5CH2CH2−)等が挙げられる。
または炭素数が1〜15のアシル基としては、具体的には、例えば、ホルミル基(HCO−)、アセチル基(CH3CO−)、プロピオニル基(C2H5CO−)、ブチリル基(C3H7CO−)、バレリル基(C4H9CO−)等の脂肪族系のアシル基;
ベンゾイル基(C6H5CO−)、トルオイル基(CH3−C6H4−CO−)、サリチロイル基(HO−C6H4−CO−)、シンナモイル基(C6H5−CH=CHCO−)、ナフトイル基(C10H7CO−)、フタロイル基(CO−C6H4−CO−)等の芳香族系のアシル基などが挙げられる。これらのアシル基のうちでは、炭素数が7〜13程度の上記アシル基が好ましい。
【0029】
これらのR4のうちでは、メチル基が好ましい。
また上記式[I]中、mは1〜1000、好ましくは、10〜200の数を示し、nは0〜50、好ましくは、2〜20の数を示す。但し、nが0のとき、R1および/またはR2は上記Xである。
なお、本発明においては、式[I]中に存在する各成分単位−[Si(R5)2O]−(ジメチルシリレンオキシ基)と、−[SiR3(R5)O]−との結合順序は任意であり、例えば、配列したm個の−[Si(R5)2O]−単位の間の任意の位置に、n個の−[SiR3(R5)O]−単位が0〜50個の範囲の任意の個数で結合して、その合計個数がn個となるように存在していてもよい。
【0030】
本発明においては、上記オルガノポリシロキサン[I]は、エチレンオキシ基(C2H4O)に基づく下記式(A)で表される親水性親油性バランスHLBEOが1〜2.5、好ましくは、1.5〜2.5であり、かつ
プロピレンオキシ基(C3H6O)に基づく下記式(B)で表される親水性親油性バランスHLBPOが1〜10、好ましくは2〜5である。
(A):
HLBEO =[(オルガノポリシロキサン中のエチレンオキシ基(C2H4O)の合計量(重量%)/5]
(B):
HLBPO =[(オルガノポリシロキサン中のプロピレンオキシ基(C3H6O)の合計量(重量%)/5]
このようなHLBEOおよびHLBPOを有するオルガノポリシロキサン[I]を含有する防汚剤組成物は、ヒドロ虫、フサコケムシ、アオサ、アオノリ、セルプラ、カキなど種々の海中生物に対する防汚性に優れた塗膜を形成できる。なお、このHLBEOが上記範囲(1〜2.5)にあっても、HLBPO が上記範囲(1〜10)を外れると、防汚性が低下する傾向がある。
【0031】
また、本発明に係る上記防汚剤組成物は、エチレンオキシ基およびプロピレンオキシ基に基づく下記式(C)で表される、オルガノポリシロキサンの親水性親油性バランスHLBEO+POが2〜12、さらに好ましくは、3.5〜7.5であることが望ましい。
(C):
HLBEO+PO =[(オルガノポリシロキサン中のエチレンオキシ基とプロピレンオキシ基との合計量(重量%))/5]
オルガノポリシロキサンのHLBEOおよびHLBPOが上記範囲にあり、さらに好ましくは、HLBEO+POも上記範囲にあると、ヒドロ虫等の腔腸動物や海草などの各種海中生物に対して、より優れた防汚性を示す防汚塗膜を形成できる防汚剤組成物が得られる。
【0032】
また、本発明に係る防汚剤組成物においては、上記オルガノポリシロキサン[I]は、エチレンオキシ基(C2H4O)に基づく式(A)で表される親水性親油性バランスHLBEOが1〜2.5、好ましくは1.5〜2.5であり、かつ
エチレンオキシ基およびプロピレンオキシ基に基づく上記式(C)で表される、オルガノポリシロキサンの親水性親油性バランスHLBEO+POが2〜12、好ましくは3.5〜7.5であってもよい。
【0033】
本発明においては、オキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン[I]の数平均分子量(Mn)は、通常、800〜50000、好ましくは、1000〜10000である。このような数平均分子量のオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン[I]を用いると、得られる防汚剤組成物(水中防汚剤組成物)を塗布硬化してなる塗膜では、塗膜表面への該ポリシロキサン[I]の移行が徐々に行われ、このポリシロキサン[I]の移行に伴い、塗膜中の防汚剤も塗膜表面へ徐々に移行するため、この塗膜は、長期に亘って優れた防汚性を示す。
【0034】
<防汚剤>
防汚剤としては、(b)銅および/または無機銅化合物、(c)有機防汚剤等が挙げられる。
上記「銅および/または無機銅化合物」(b)のうちで無機銅化合物(単に銅化合物とも言う。)としては、無機系の銅化合物の何れであってもよく、例えば、亜酸化銅、チオシアン化銅(チオシアン酸第一銅、ロダン銅)、塩基性硫酸銅、塩基性酢酸銅、塩基性炭酸銅、水酸化第二銅などが挙げられ、好ましくは亜酸化銅、ロダン銅が用いられる。このような銅化合物は、特に白色塗料以外の着色塗料に好ましく用いられる。
【0035】
このような無機銅化合物は、銅に代えて、あるいは銅と共に1種または2種以上組合わせて用いることができる。
このような銅および/または無機銅化合物(b)は、本発明の防汚剤組成物中のオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン[I](塗膜形成性固形分)100重量部に対して、通常、50〜5000重量部、好ましくは200〜2000重量部の量で含まれていることが望ましい。また防汚剤組成物(塗料組成物)100重量%中に、該銅および/または無機銅化合物(b)は、合計で通常、1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%の量で含まれていることが望ましい。
【0036】
この銅および/または無機銅化合物(b)の含有量が上記の範囲にあると、得られる防汚塗膜は防汚性に優れる傾向がある。
上記有機防汚剤(c)としては、金属ピリチオン塩系化合物、カーバメイト系の化合物、トリフェニルボランのアミン錯体、テトラメチルチウラムスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、アルキルフェニルジクロロマレイミド、クロロメチル−n−オクチルジスルフィッド、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2−メチルチオ−4−tert−ブチルアミノ−6−シクロプロピルSトリアジン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル等が挙げられる。
【0037】
このうち上記金属ピリチオン塩系化合物としては、より具体的には、下記式[II]で示される金属−ピリチオン類[式中R1 〜R4は、それぞれ独立に水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基を示し、Mは、Cu、Zn、Na、Mg、Ca、Ba、Pb、Fe、Al等の金属を示し、nは価数を示す]:
【0038】
【化4】
【0039】
が挙げられる。
これらのうちでは、銅ピリチオン、ジンクピリチオンが好ましい。
カーバメート系の化合物としては、例えば、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメイト、ジンクジメチルジチオカーバメート、マンガン-2-エチレンビスジチオカーバメート等が挙げられ、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメイトが好ましく用いられる。
【0040】
上記トリフェニルボランのアミン錯体としては、具体的には、例えば、トリフェニルボランピリジン錯体、トリフェニルボランアルキルアミン錯体(アルキル基の炭素数:通常3〜30)、が挙げられ、なかでも、トリフェニルボランピリジン錯体、上記トリフェニルボランアルキルアミン錯体が好ましい。
これらの有機防汚剤(c)のうちでは、金属ピリチオン塩系化合物、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメイト、トリフェニルボランのアミン錯体、テトラエチルチウラムジスルフィド、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、アルキルフェニルジクロロマレイミド(アルキル基の炭素数:通常1〜5)、クロロメチル−n−オクチルジスルフィッド、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2−メチルチオ−4−tert−ブチルアミノ−6−シクロプロピルSトリアジン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリルが好ましい。
【0041】
これらの有機防汚剤(c)は、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
このような有機防汚剤(c)を含む防汚剤組成物においては、銅および/または無機銅化合物(b)と共に、あるいは銅および/または無機銅化合物(b)に代えて、上記有機防汚剤(c)が通常、1〜20重量%、好ましくは2〜15重量%の量で含まれていることが望ましい。またこの有機防汚剤(c)は、本発明の防汚剤組成物中のオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン[I](塗膜形成性固形分)100重量部に対して、通常、10〜2000重量部、好ましくは100〜1000重量部の量で含まれていることが望ましい。このような量で、銅および/または無機銅化合物(b)と共に上記有機防汚剤(c)が防汚剤組成物中に含まれていると、得られる防汚塗膜は、広範な船舶付着生物に対していっそう優れた防汚性能を長期継続的に発揮できる傾向がある。
<その他の成分>
本発明に係る防汚剤組成物中に、上述したオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン[I]および前記防汚剤の他に、展色剤を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。この展色剤としては、例えば、アクリル樹脂、ビニル樹脂、変性ビニル樹脂、スチレン・ブタジエン共重合樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられ、好ましくはアクリル樹脂が用いられる。これらの展色剤用の樹脂は、防汚剤組成物(水中防汚剤組成物)の塗膜に強度を与えるとともに防汚剤の溶出を抑制する効果がある。したがって、これらの樹脂は、防汚剤組成物の塗膜に長期に亘って防汚性を発揮させる場合などに有効である。
【0042】
また、本発明に係る防汚剤組成物中に、液状ないし固形であって、何れも撥水性を有するポリオレフィン類、パラフィン類およびロジンから選ばれる少なくとも1種の成分を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
上記液状ないし固形の撥水性を有するポリオレフィン類としては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどが挙げられる。中でも、数平均分子量が200〜1000のポリブテンが好ましい。このようなポリブテンは、たとえば日本石油株式会社よりLV−5、LV−10、LV−25、LV−50、LV−100等の商品名で市販されている。このようなポリオレフィン類は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0043】
また、上記撥水性のパラフィン類としては、具体的には、流動パラフィン、パラフィンワックス、塩化パラフィンなどが挙げられる。これらのパラフィン類は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
上記のようなポリオレフィン類、パラフィン類およびロジンの少なくとも1種の成分を、本発明に係る防汚剤組成物中に配合すると、防汚剤とオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン[I]のみからなる防汚剤組成物からなる塗膜が発揮する優れた防汚性能を維持でき、しかも防汚剤組成物のコストダウンを図ることができる。
【0044】
また、本発明に係る防汚剤組成物には、必要に応じて、一般の防汚塗料に配合される体質顔料、着色顔料、タレ止め剤、溶剤等を配合してもよい。
防汚剤組成物の調製
本発明に係る防汚剤組成物は、常法に従って調製することができる。例えば、本発明に係る防汚剤組成物は、オキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン[I]、必要に応じて防汚剤、有機溶剤、アクリル樹脂、ビニル樹脂、変性ビニル樹脂、スチレン・ブタジエン共重合樹脂、ポリエステル樹脂、液状ないし固形の撥水性を有するポリオレフィン類(例:ポリブテン、ポリイソブチレン)、塩素化されていても良いパラフィン類、ワックス、ロジン、体質顔料、着色顔料、タレ止め剤などを、ボールミル等を用いて混合分散することにより得ることができる。
【0045】
漁具、漁 網
本発明に係る防汚剤組成物は、上述したように、フジツボ等の蔓脚類、イガイ等の貝類および腔腸動物の1種であるヒドロ虫類等に対して優れた防汚性を発揮する塗膜を形成することができるため、釣り糸等の漁具、漁網に対する防汚処理に適している。
【0046】
漁具、漁網の防汚処理は、例えば、本発明に係る防汚剤組成物中に漁具、漁網などを浸漬したり、漁具、漁網に防汚剤組成物を塗布することにより行なわれる。このような防汚処理を行うと、防汚剤組成物を漁具、漁網内部に含浸させることができるとともに漁具、漁網表面に付着させることができる。
船体および水中構造物
本発明に係る防汚剤組成物は、フジツボ等の蔓脚類、イガイ等の貝類、および腔腸動物例えばヒドロ虫類等に対して優れた防汚性を発揮する塗膜を形成することができるため、船体および水中構造物に対する防汚処理への利用も期待できる。
【0047】
船体および水中構造物の防汚処理は、船体または水中構造物表面に、本発明に係る防汚剤組成物を塗布することにより行なわれる。
【0048】
【発明の効果】
本発明に係る防汚剤組成物には、エチレンオキシ基とプロピレンオキシ基とが特定の割合で存在するオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサンが配合されており、この防汚剤組成物は、前記特公平6−104793号公報に記載の発明等とは異なりエチレンオキシ基に基づく親水性親油性バランス(HLBEO)が3未満の1〜2.5と低い値であるにも拘わらず、この本発明に係る防汚剤組成物を用いれば、藻類、フジツボ、貝類(例:イガイ等)および腔腸動物(例:ヒドロ虫類)などの水中生物に対して優れた防汚性を示す塗膜を基材例えば、漁具、漁網、船体、水中構造物などの表面に形成することができる。上記のような効果を有する、本発明に係る防汚剤組成物は、漁具、漁網の防汚処理に好適であり、船体、水中構造物などの防汚処理への利用も期待できる。
【0049】
本発明に係る基材の防汚処理方法によれば、海水または真水と接触する基材の表面、例えば、漁具、漁網、水中構造物などの表面に、上記防汚剤組成物を含浸、塗布させて、環境汚染を引き起こすことなく効率的かつ経済的に被膜を形成させることができ、藻類、フジツボ、イガイに代表される貝類、および、ヒドロ虫類に代表される腔腸動物などの水中生物の付着を有効に防止することができる。
【0050】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら制限されるものではない。
以下の実施例、比較例で用いたオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサンS1〜S4は、式[I]においてR5、R1、R2、R3、m、nの値及び数平均分子量がそれぞれ下記表1に示すようなものである。またそれらのHLBEO、HLBPOは、それぞれ下記のものである。なお、HLBEO、HLBPOなどは、プロトンNMRにより、Si、オキシエチレン(EO)、オキシプロピレン(PO)の定量により求めた。
【0051】
S1:HLBEO=2.3、HLBPO=2.4
S2:HLBEO=1.8、HLBPO=4.0
S3:HLBEO=4.5、HLBPO=0
S4:HLBEO=2.4、HLBPO=0
【0052】
【表1】
【0053】
【実施例1〜4、比較例1〜4】
常法に従い、表2に示す防汚剤組成物を調製した。
【0054】
【表2】
【0055】
上記表2に示した防汚剤組成物を、それぞれポリエチレン製無結節網(7節400デニール/50本)に浸漬塗布して風乾(乾燥塗着量は、網重量100重量部に対して12〜14重量部)した後に平成10年6月1日から12月1日までの6ヶ月間高知県宿毛湾の海面下1mに浸漬保持し、該網への海中生物の付着状況を調査した。
【0056】
その結果を併せて表2に示す。
なお、防汚剤組成物を含浸塗布していない網についても海中生物の付着状況を調査した(参考例1)。
なお表2中の注記号はそれぞれ以下の通り。
*1、2:楠本化成製、沈殿防止剤
*3:アクリル樹脂(メチルメタクリレート・ブチルアクリレート共重合体、Tg:−10度、固形分50%)
A:生物の付着なし
B:生物の付着ややあり
C:生物の付着かなりあり
D:生物の付着著しい。
【0057】
表2から理解されるように本発明の防汚組成物は、海中の生物に対し、非常に優れた防汚性を示した。
Claims (13)
- 下記式[I]:
(A):HLBEO =[(オルガノポリシロキサン中のエチレンオキシ基(C2H4O)の合計量(重量%)/5]
(B):HLBPO =[(オルガノポリシロキサン中のプロピレンオキシ基(C3H6O)の合計量(重量%)/5]。 - エチレンオキシ基およびプロピレンオキシ基に基づく下記式(C)で表される、オルガノポリシロキサンの親水性親油性バランスHLBEO+POが2〜12である請求項1に記載の防汚剤組成物;
(C):HLBEO+PO =[(オルガノポリシロキサン中のエチレンオキシ基とプロピレンオキシ基との合計量(重量%))/5]。 - 下記式[I]:
該オルガノポリシロキサンは、エチレンオキシ基(C2H4O)に基づく式(A)で表される親水性親油性バランスHLBEOが1〜2.5であり、かつエチレンオキシ基(C2H4O)とプロピレンオキシ基(C3H6O)に基づく式(C)で表される、オルガノポリシロキサンの親水性親油性バランスHLBEO+POが2〜12であることを特徴とする防汚剤組成物(但し、下記式:
(A):HLB EO =[(オルガノポリシロキサン中のエチレンオキシ基(C 2 H 4 O)の合計量(重量%)/5]
(C):HLB EO+PO =[(オルガノポリシロキサン中のエチレンオキシ基とプロピレンオキシ基との合計量(重量%))/5]。 - 上記オキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン[I]を、組成物中に1〜50重量%の量で含有する請求項1〜3の何れかに記載の防汚剤組成物。
- さらに、(c)有機防汚剤を含有する請求項1〜4の何れかに記載の防汚剤組成物。
- 上記有機防汚剤(c)が、金属ピリチオン塩系化合物、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメイト、トリフェニルボランのアミン錯体、テトラエチルチウラムジスルフィド、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、アルキルフェニルジクロロマレイミド、クロロメチル−n−オクチルジスルフィッド、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2−メチルチオ−4−tert−ブチルアミノ−6−シクロプロピルSトリアジン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリルからなる群から選択される1種または2種以上である請求項5に記載の防汚剤組成物。
- 上記金属ピリチオン塩系化合物が、銅ピリチオンおよび/またはジンクピリチオンである請求項6に記載の防汚剤組成物。
- 上記トリフェニルボランのアミン錯体が、トリフェニルボランピリジン錯体および/またはトリフェニルボランアルキルアミン錯体である請求項6に記載の防汚剤組成物。
- 上記有機防汚剤(c)を、組成物中に1〜20重量%の量で含有する請求項5〜8の何れかに記載の防汚剤組成物。
- 請求項1〜9の何れかに記載の防汚剤組成物から形成されたことを特徴とする防汚被膜。
- 海水または真水と接触する基材の表面が、請求項1〜9の何れかに記載の防汚剤組成物からなる被膜にて被覆されていることを特徴とする防汚処理基材。
- 上記基材が、漁網、漁具、船舶または水中構造物である請求項11に記載の防汚処理基材。
- 海水または真水と接触する基材の表面に、請求項1〜9の何れかに記載の防汚剤組成物を塗布あるいは含浸させ、防汚塗膜を形成させることを特徴とする、基材の防汚方法。
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