図1は、建物11に設けられたダイニング12とリビング13との間を仕切るための間仕切に本発明に係る防音仕切り10を適用した例を示す。
本発明に係る防音仕切り10は、図1に示すように、ダイニング12及びリビング13間に配置される仕切り本体14を備える。
仕切り本体14は、図2に示すように、全体に板状をなしており、一対の枠組15を備える。
各枠組み15は、互いに間隔をおく且つ建物11の上下方向に伸びるように配置された一対の縦枠16と、該各縦枠に平行に且つ該各縦枠に間隔をおき更に互いに間隔をおいて各縦枠16間に配置された一対の中枠17と、該各中枠及び各縦枠16の各上端部及び各下端部をそれぞれ連結する一対の横枠18とをそれぞれ備え、全体に矩形状をなしている。各枠組み15は、図3に示すように、一方の枠組15の各縦枠16、各中枠17及び各横枠18が他方のそれらに整合し且つ仕切り本体14の板厚方向に互いに間隔がおかれるように配置されている。仕切り本体14は、各枠組み15がそれぞれダイニング12及びリビング13間を横切るように配置されている。
また、仕切り本体14は、図2及び図3に示すように、各枠組み15に設けられ、ダイニング12及びリビング13内で発生した音の少なくとも一部の伝播を遮断する一対の遮音部材19を備える。
各遮音部材19は、図示の例では、それぞれ例えば絨毯のような布地素材からなる。各遮音部材19の面密度の値は、図示の例では、それぞれ2.5kg/m2に設定されており、各遮音部材19の遮音率の値は、図示の例では、それぞれ0.7以上に設定されている。各遮音部材19のうち一方の遮音部材19は、ダイニング12側に配置された一方の枠組み15のダイニング12に面する表面15aに該表面を覆うように設けられている。また、他方の遮音部材19は、リビング13側に配置された他方の枠組み15のリビング13に面する表面15aに設けられている。これにより、各遮音部材19はそれぞれ板状の仕切り本体14の各面を構成する。
各遮音部材19のダイニング12及びリビング13に面する表面19aには、それぞれ該各表面からダイニング12及びリビング13内へ突出し且つ各遮音部材19の表面19aに沿って互いに同一方向に伸びる複数の凸部20が互いに間隔をおいて形成されている。各遮音部材19は、図示の例では、その横断面がほぼ波形をなすように形成されており、各凸部20は、それぞれ波を構成する各山で構成されており、それぞれ建物11の上下方向に沿って伸びる。各凸部20が波を構成する各山で構成されていることから、各凸部20の幅寸法は、それぞれ該各凸部の先端20aから各遮音部材19の表面19aに向けて漸増する。波を構成する各山間のピッチすなわち各凸部20の先端20a間の間隔L(図3参照。)は、図示の例では、50〜1800mmの範囲内で設定されており、各凸部20の突出量である高さH(図3参照。)は、1〜300mmの範囲内で設定されている。
更に、仕切り本体14は、ダイニング12及びリビング13内からそれぞれに対応した各遮音部材19を通過して該各遮音部材の反対側に伝播した音を吸収するための一対の吸音部材21を備える。
各吸音部材21は、図3に示す例では、各枠組み15の各縦枠16、各中枠17及び各横枠18により規定された各空間S内に該各空間をそれぞれ充填するように設けられている。各吸音部材21は、図示の例では、それぞれグラスウールで構成されている。グラスウールは、従来よく知られているように、複数のガラス製の繊維を互いに絡み合わせることにより形成された綿状体である。各吸音部材21の面密度は、図示の例では、それぞれ5〜20kg/m2の範囲内で設定されており、各吸音部材21の厚さ寸法は、それぞれ10〜30mmの範囲内で設定されている。各吸音部材21の面密度が5kg/m2以下である場合、又は、各吸音部材21の厚さ寸法が10mm以下である場合、各吸音部材21の吸音効果が低下してしまい、また、各吸音部材21の面密度が20kg/m2以上である場合、又は各吸音部材21の厚さ寸法が30mm以上である場合、各吸音部材21の重量が過度に重くなるため、仕切り本体14の可動性が低下するが、本実施例では、前記したように、各吸音部材21の面密度がそれぞれ5〜20kg/m2の範囲内で設定されており、各吸音部材21の厚さ寸法がそれぞれ10〜30mmの範囲内で設定されていることから、吸音効果の低下及び仕切り本体14の可動性の低下が防止される。各吸音部材21は、それぞれ各遮音部材19に例えば図示しない糸により縫合されることにより各遮音部材19に当接した状態に保持されている。
各吸音部材21が充填された各枠組み15間には、前記したように間隔がおかれていることから、両吸音部材21間には空気層Kが形成される。
各枠組み15の表面15aと反対側に位置する裏面15bには、図示の例では、それぞれ該各裏面を覆うシート部材が設けられている。各シート部材は、図示の例では、それぞれビニルシート23で構成されており、各縦枠16、各中枠17及び各横枠18にそれぞれ例えば図示しない釘のような締結具により固定されている。各ビニルシート23の面密度の値は、図示の例では、0.62kg/m2に設定されている。各枠組み15の裏面15bが各ビニルシート23よって覆われることにより、各枠組み15内に充填された各吸音部材21の互いに対向する裏面21bがそれぞれ各ビニルシート23により覆われる。
例えばダイニング12内で音が発生時にその音が仕切り本体14に到達したとき、音の一部は、前記一方の遮音部材19に形成された各凸部20に当たる。このとき、各凸部20の幅寸法が、前記したように、それぞれ各凸部20の先端20aから各遮音部材19の表面19aに向けて漸増していることから、各凸部20に当たった音は、互いに隣接して形成された各凸部20の側面20b(図3参照。)に反射することにより、互いに隣接した各凸部20間を前記一方の遮音部材19に向けて減衰振動して消滅する。
また、ダイニング12内で発生した音の一部は、ダイニング12に面する前記一方の遮音部材19の面密度の大きさに応じて、前記遮音部材19により遮断されることなく前記一方の遮音部材19の内部に進入し、該遮音部材内を通って前記一方の枠組み15に向けて前記一方の遮音部材19内から出射される。
前記一方の遮音部材19を通過した音は、該遮音部材が設けられた前記一方の枠組み15内に充填された一方の吸音部材21内に入る。各吸音部材21が、前記したように、互いに絡み合った複数の繊維からなる綿状体であることから、各吸音部材21はそれぞれ多孔質構造を有する。従って、前記一方の吸音部材21内に音が入ったとき、該吸音部材の各繊維間の空気は、それぞれ音から受ける音圧により前記一方の吸音部材21の内方に押し込まれ、更に、前記一方の吸音部材21の裏面21b側に存在する空気から受ける気圧により前記一方の吸音部材21の内方に押し戻される。この繰り返しにより、前記一方の吸音部材21の各繊維間の空気は、各繊維間で前記一方の遮音部材19を通過した音の周波数と同一の周波数で単振動する。この単振動により各繊維間の空気と各繊維との間に摩擦が生じ、この摩擦により音のエネルギーが熱エネルギーに変換される。これにより、前記一方の遮音部材19を通過した周波数成分の音が前記一方の吸音部材21で吸収される。
前記一方の遮音部材19を通過した音を前記一方の吸音部材21で吸収し切れず、前記一方の吸音部材21を経て該吸音部材の裏面21b側に音が伝播された場合、各枠組み15の裏面15bに、前記したように、各吸音部材21の裏面21bをそれぞれ覆うビニルシート23が設けられていることから、前記一方の吸音部材21を通過した音が該吸音部材の裏面21bを覆うビニルシート23に当たったとき、音から受ける音圧によりビニルシート23が該ビニルシートに当たった音の周波数と同一の周波数でいわゆる膜振動する。このビニルシート23の膜振動が前記一方の吸音部材21の変形により吸収されるので、ビニルシート23に当たった音が該ビニルシートのリビング13側に伝播することが抑制される。
更に、ビニルシート23で音を遮断し切れず、ビニルシート23を経て該ビニルシートのリビング13側に音が伝播した場合、両吸音部材21間すなわち両ビニルシート23間に空気層Kが形成されていることから、ビニルシート23を通過した音は空気層Kに入る。音が空気層Kに入ったとき、空気層K内の空気が音から受ける音圧により両ビニルシート23間で振動する。これにより、空気と各ビニルシート23との間に生じる摩擦により音のエネルギーが熱エネルギーに変換されて各ビニルシート23を通過した周波数成分の音が吸収される。これにより、ビニルシート23を通過した音が該ビニルシートのリビング13側に伝播することが抑制される。
これにより、ダイニング12内で発生した音がリビング13内に伝播することが抑制される。
リビング13内で音が発生した場合も、リビング13側に配置された遮音部材19、吸音部材21及びビニルシート23と空気層Kとにより、リビング13で発生した音がダイニング12内に伝播することを、上記したと同様に抑制することができる。
図4は、ダイニング12内で音が発生したときの、音の中心周波数(単位はHzである。)と、ダイニング12内で測定した平均音圧レベル(単位はdBである。)の値からリビング13内で測定した平均音圧レベルの値を差し引いた値との関係を、本実施例に係る各凸部20がそれぞれ両遮音部材19に形成された場合(以下、ケース1と称す。)、本実施例に係る各凸部20がそれぞれ前記一方の遮音部材19に形成された場合(以下、ケース2と称す。)及び本実施例に係る凸部20がいずれの遮音部材19にも形成されることなく各遮音部材19がそれぞれ平坦である場合(以下、ケース3と称す。)のそれぞれに関して示すグラフである。
図4の横軸は音の中心周波数を示し、縦軸はダイニング12及びリビング13間の平均音圧レベル差を示す。図4には、ケース1における平均音圧レベル差の変化が特性線24で示されており、ケース2における平均音圧レベルの変化が特性線25で示されており、ケース3における平均音圧レベルの変化が特性線26で示されている。
図4に示すグラフに基づいてケース2とケース3とを比較すると、250Hz〜2KHzの中低音域では、ケース2における平均音圧レベル差の値がケース3におけるそれよりも大きくなっており、2KHz以上の高音域では、ケース2における平均音圧レベル差の値とケース3におけるそれとが互いにほぼ等しくなっている。このことから、前記した中低音域では、ケース2の方がケース3よりもダイニング12内で発生した音がリビング13内に伝播し難く、前記した高音域では、ダイニング12からリビング13への音の伝播のし難さがほぼ等しいことが分かる。すなわち、前記一方の遮音部材19に複数の凸部20を形成した場合、両遮音部材19が平坦である場合に比べて仕切り本体14全体の防音効果が前記した中低音域で向上する。
更に、図4に示すグラフに基づいてケース1とケース2とを比較すると、全音域において、ケース1における平均音圧レベル差の値がケース2におけるそれよりも大きくなっている。このことから、全音域において、ケース1の方がケース2よりもダイニング12内で発生した音がリビング13内により伝播し難いことが分かる。すなわち、両遮音部材19にそれぞれ複数の凸部20を形成した場合、前記一方の遮音部材19に各凸部20が形成された場合に比べて仕切り本体14全体の防音効果が全音域で更に向上する。
以下、図5乃至図8に、上記した実施例に係る防音仕切り10において各凸部20の高さH及び/又は間隔Lをそれぞれ変化させたときの音響透過損失の変化を測定した結果を示す。音響透過損失は、従来よく知られているように、入射した音と仕切り本体14を透過した音との音圧レベルの差であり、仕切り本体14の透過率に反比例する。
また、図5乃至図8に示す例では、音響インテンシティ法を用いて音響透過損失を測定している。音響インテンシティ法は、従来よく知られているように、図示しない残響室と無響室との間に本発明に係る仕切り本体14を配置し、前記残響室内に配置された音源からの音が仕切り本体14を通過したときの前記無響室内での音圧レベルを測定する方法である。
図5は、各凸部20の間隔Lを一定にして各凸部20の高さHを変化させたときの音の周波数(単位はHzである。)と音響透過損失(単位はdBである。)との関係を示すグラフである。
図5に示す例では、各凸部20の間隔Lを450mmに固定したときに、各凸部20の高さHがそれぞれ100mmである場合(以下、ケース4と称す。)、各凸部20の高さHがそれぞれ200mmである場合(以下、ケース5と称す。)、及び、凸部20がいずれの遮音部材19にも形成されることなく各遮音部材19がそれぞれ平坦である場合(以下、ケース6と称す。)のそれぞれに関して音響透過損失測定を行った。
図5の横軸は音の周波数を示し、縦軸は音響透過損失を示す。図5には、ケース4における音響透過損失の変化が特性線27で示されており、ケース5における音響透過損失の変化が特性線28で示されており、ケース6における音響透過損失の変化が特性線29で示されている。
図5に示すグラフに基づいてケース4とケース5とを比較すると、各凸部20の高さHがケース4のそれに比べて高いケース5では、測定した周波数のほぼ全域に亘って音響透過損失の値が大きくなっている。このことから、各凸部20の高さHを高くするに従って、音響透過損失の値が大きくなることが分かる。すなわち、各凸部20の高さHを高くすることにより、前記残響室内の音源の音が前記無響室内に伝播し難くなり、従って、仕切り本体14全体の防音効果が向上する。このことは、各凸部20の高さHが高くなるに従って、各凸部20の両側面20b(図3参照。)の面積が増大することから、各凸部20に当たった音が各凸部20の側面20bに反射する回数が増加するので、互いに隣接した各凸部20間を前記一方の遮音部材19に向けて音をより確実に減衰させることができるからである。
また、図5に示すグラフに基づいてケース4及びケース5とケース6とをそれぞれ比較すると、ケース4では、ケース6に比べて400〜1KHzの中低音域での音響透過損失の値が最大約2dB向上しており、ケース5では、ケース6に比べて400Hz以上の音域での音響透過損失の値が最大約4dB向上している。このことから、各遮音部材19に各凸部20を形成した場合、各遮音部材19に各凸部20が形成されていない場合に比べて400Hz以上の音域での仕切り本体14の防音効果を向上させることができる。
図5に示す測定では、各遮音部材19を平面で見たときの該各遮音部材の面積が、各凸部20の高さHの変化に応じて増減することなく各凸部20の高さHが変化しても各枠組み15の表面15aの面積とほぼ等しくなるように、各遮音部材19の平面の面積を一定にして各凸部20の高さHを変化させている。このため、各凸部20の高さHを高くするに従って、各凸部20の両側面20b(図3参照。)の面積が大きくなることから各凸部20の両側面20bの面積を含む各遮音部材19の総面積が大きくなる。一般的に、各遮音部材19の総面積が大きくなるに従って各遮音部材19の遮音性能は向上する。また、前記したように、各凸部20の高さHが高くなるに従って各凸部20による遮音効果が向上する。
従って、図5に示す測定では、各凸部20の高さHの増大に加えて、各遮音部材19の総面積の増大が、仕切り本体14の防音効果の向上に寄与している。そこで、各遮音部材19の総面積を一定にして各凸部20の高さHを変化させることにより各凸部20の高さHの変化のみによる音響透過損失特性を調べるために、図5に示す測定結果に面積補正を施した。
図6は、図5に示す測定結果に面積補正を施した結果を示すグラフである。
図6に示すように、各凸部20の高さHがそれぞれ100mmであるケース4では、凸部20がいずれの遮音部材19にも形成されていないケース6に比べて、音響透過損失の値が400Hz以上の音域で1〜3dB向上している。また、各凸部20の高さHがそれぞれ200mmであるケース5では、ケース6に比べて、音響透過損失の値が400Hz以上の音域で4〜6dB向上している。このことから、各遮音部材19の総面積に拘らず、各凸部20の高さHが高くなるに従って仕切り本体14全体の防音効果が向上することが分かる。
図7は、各凸部20の高さHを一定にして各凸部20の間隔Lを変化させたときの音の周波数(単位はHzである。)と音響透過損失(単位はdBである。)との関係を示すグラフである。
図7に示す例では、各凸部20の高さHを100mmに固定したときに、各凸部20の間隔Lがそれぞれ300mmである場合(以下、ケース7と称す。)、各凸部20の間隔Lがそれぞれ450mmである場合(以下、ケース8と称す。)、各凸部20の間隔Lがそれぞれ900mmである場合(以下、ケース9と称す。)、及び、前記したケース6のそれぞれに関して音響透過損失測定を行った。
図7には、ケース7における音響透過損失の変化が特性線30で示されており、ケース8における音響透過損失の変化が特性線31で示されており、ケース9における音響透過損失の変化が特性線32で示されており、ケース6における音響透過損失の変化が特性線33で示されている。
図7のグラフに基づいてケース7、ケース8及びケース9をそれぞれ比較すると、周波数が1600Hz以上の高音域では、各ケース7,8,9における音響透過損失の値はほぼ等しいことが分かる。また、周波数が450Hz〜1600Hzの中音域では、各凸部20の間隔Lが大きくなるに従って、音響透過損失の値が小さくなり、450Hz以下の低音域では、各凸部20の間隔Lが大きくなるに従って、音響透過損失の値が大きくなることが分かる。
すなわち、各凸部20の間隔Lを大きくすることにより、前記残響室内の音源からの音のうち前記した低音域の音が前記無響室内に伝播し難くなり、従って、仕切り本体14の前記低音域での防音効果を向上させることができる。他方、各凸部20の間隔Lを小さくすることにより、前記残響室内の音源からの音のうち前記した中音域の音が前記無響室内に伝播し難くなり、従って、仕切り本体14の前記中音域での防音効果を向上させることができる。
図8には、各凸部20の高さH及び間隔Lをそれぞれ変化させたときの音の周波数(単位はHzである。)と音響透過損失(単位はdBである。)との関係を示すグラフである。
図8に示す例では、各凸部20の高さHがそれぞれ200mmであり間隔Lがそれぞれ450mmである場合(以下、ケース10と称す。)、各凸部20の高さHがそれぞれ150mmであり間隔Lがそれぞれ300mmである場合(以下、ケース11と称す。)、及び、前記したケース6のそれぞれに関して音響透過損失測定を行った。
図8には、ケース10における音響透過損失の変化が特性線34で示されており、ケース11における音響透過損失の変化が特性線35で示されており、ケース6における音響透過損失の変化が特性線36で示されている。
一般的に、音が遮音材料にその一側から入射したとき、前記遮音材料が所定の周波数fcで音と共振するコインシデンス効果が発生する。このため、図9に示すように、前記遮音材料の他側で実際に測定した音響透過損失の値が、前記遮音材料の重量により音響透過損失が規定される従来よく知られた質量則から求めた音響透過損失の値よりも、前記所定の周波数fcで大幅に小さくなる。このため、周波数fcでの前記遮音材料の遮音性能が低下し、周波数fcの音が前記遮音材料の他側に該遮音材料を介して伝播し易くなる。このコインシデンス効果が発生する周波数fcすなわちコインシデンス周波数fcは次式から求めることができる。
fc=(c2/2λ)・(m/D)1/2・・・・・式(1)
式(1)において、cは音速(m/s)であり、λは音の波長(m)であり、mは前記遮音材料の面密度(kg/m2)であり、Dは前記遮音材料の剛性である。式(1)から分かるように、コインシデンス周波数fcは、前記遮音材料の剛性の大きさにより変化し、前記遮音材料の剛性が大きくなる従って低くなる。
このようなコインシデンス効果は、各遮音部材19に各凸部20が形成されていないケース6では、図8に示すように、周波数fc1が800Hzのときに発生していることが分かる。このため、ケース6では、特に耳障りになり易い音域の音が仕切り本体14で遮断され難くなり、従って、この耳障りになり易い音が仕切り本体14を介して伝播し易くなってしまう。
これに対し、各凸部20が形成されたケース10及びケース11では、仕切り本体14に該仕切り本体を曲げる曲げ力が作用したとき、該曲げ力は各凸部20に該各凸部をその長手方向に圧縮する圧縮力又は引っ張る引っ張り力として作用するので、前記曲げ力を各凸部20で受け止めることができる。これにより、ケース10及びケース11での外力に対する仕切り本体14の剛性がケース6でのそれに比べて向上する。
従って、図8に示すように、ケース10でのコインシデンス周波数fc2は200Hzであり、ケース11でのコインシデンス周波数fc3は315Hzであり、仕切り本体14の剛性がケース6における仕切り本体14の剛性よりも高いケース10及びケース11ではコインシデンス周波数がケース6におけるそれよりも低い音域に確かに移動している。
これにより、ケース10及びケース11では、ケース6のような耳障りになる音域での仕切り本体14の遮音性能の低下を招くことないので、耳障りな音域の音が仕切り本体14を介して伝播し易くなることを確実に防止することができる。尚、ケース10及びケース11では、低音域での仕切り本体14の遮音性能が低下するが、低音は高音に比べて耳障りになり難いので、ケース6における程の不快さを招くことはない。
また、図8に示すグラフに基づいてケース10とケース11とを比較すると、各凸部20の高さH及び間隔Lがそれぞれケース11でのそれらよりも大きいケース10でのコインシデンス周波数fc2は、ケース11でのコインシデンス周波数fc3よりも小さい。すなわち、各凸部20の高さH及び間隔Lをそれぞれ大きくすることにより、仕切り本体14全体の剛性を高めることができ、これにより、コインシデンス周波数fcを耳障りになり難い低周波数帯域に移動させることができる。
図8に示す測定から、コインシデンス周波数fcと各凸部20の高さHとの関係を表す式fc=450*100/Hが求められた。この式から、コインシデンス周波数fcの値を例えば225Hzにするには、各凸部20の高さHをそれぞれ200mmにする必要があることが分かる。
図10は、ダイニング12内で音が発生したときの、前記した音の中心周波数と前記した平均音圧レベル差の値との関係を、本実施例に係る仕切り本体14を用いた場合(以下、ケース12と称す。)、本実施例に係る仕切り本体14から各ビニルシート23を除去した場合(以下、ケース13と称す。)、本実施例に係る仕切り本体14から各ビニルシート23及び各吸音部材21をそれぞれ除去した場合(以下、ケース14と称す。)及び仕切り本体14が図示しない石膏ボードからなる場合(以下、ケース15と称す。)のそれぞれに関して示すグラフである。ケース7で用いられる前記石膏ボードの面密度は、図示の例では、10kg/m2に設定されている。
図10の横軸は音の中心周波数を示し、縦軸はダイニング12及びリビング13間の平均音圧レベル差を示す。図10には、ケース12における平均音圧レベル差の変化が特性線37で示されており、ケース13における平均音圧レベルの変化が特性線38で示されており、ケース14における平均音圧レベルの変化が特性線39で示されており、ケース15における平均音圧レベルの変化が特性線40で示されている。
図10に示すグラフに基づいて、ケース13及びケース14を互いに比較すると、全音域において、ケース13における平均音圧レベル差の値がケース14のそれよりも大きくなっている。このことから、全音域において、ケース13の方がケース14よりもダイニング12内で発生した音がリビング13内に伝播し難いことが分かる。すなわち、仕切り本体14が各遮音部材19、各吸音部材21及び空気層Kで構成された場合、仕切り本体14が各遮音部材19及び空気層Kで構成された場合に比べて、各吸音部材21が設けられている分、各吸音部材21の前記した吸音作用により仕切り本体14全体の防音効果が全音域で向上する。
また、図10に示すグラフに基づいてケース12とケース13とを比較すると、250Hz〜4KHzの音域では、ケース12における平均音圧レベル差の値がケース13におけるそれよりも大きくなっており、4KHz以上の高音域では、ケース12における平均音圧レベル差の値とケース13におけるそれとが互いにほぼ等しくなっている。このことから、250Hz〜4KHzの音域では、ケース12の方がケース13よりもダイニング12内で発生した音がリビング13内に伝播し難く、4KHz以上の高音域では、ダイニング12からリビング13への音の伝播のし難さがほぼ等しいことが分かる。すなわち、仕切り本体14が各遮音部材19、各吸音部材21、空気層K及び各ビニルシート23で構成された場合、仕切り本体14が各遮音部材19、各吸音部材21及び空気層Kで構成された場合に比べて、各ビニルシート23が設けられている分、各ビニルシート23の前記した遮音作用により仕切り本体14全体の防音効果が250Hz〜4KHzの音域で更に向上する。
更に、図10に示すグラフに基づいてケース12とケース15とを比較すると、250〜500Hzの音域では、ケース12における平均音圧レベル差の値がケース15におけるそれよりも小さくなっており、500Hz以上の音域では、ケース12における平均音圧レベル差の値がケース15におけるそれよりも大きくなっている。このことから、250Hz〜500Hzの音域では、ケース15の方がケース12よりもダイニング12内で発生した音がリビング13内に伝播し難く、500Hz以上の音域では、ケース12の方がケース15よりもダイニング12内で発生した音がリビング13内に伝播し難いことが分かる。すなわち、本発明に係る仕切り本体14を用いた場合、仕切り本体14が石膏ボードで構成された場合に比べて、500Hz以下の音域を除く大部分の領域で仕切り本体14全体の防音効果が向上する。
本実施例によれば、ダイニング12及びリビング13間を仕切るための仕切り本体14が、ダイニング12内及びリビング13内で発生した音の少なくとも一部の伝播を遮断する一対の遮音部材19を備えることから、例えばダイニング12内で音が発生したとき、その音の少なくとも一部がリビング13内に伝播することを各遮音部材19により阻止することができる。これにより、布地素材からなる従来の防音カーテンと同様に、前記音がダイニング12内からリビング13内に音が漏れることが抑制される。
また、前記したように、各遮音部材19の互いに対向する面に、それぞれ各遮音部材19を通過した音を吸収するための吸音部材21が設けられていることから、ダイニング12内で発生した音の一部がダイニング19側に位置する一方の遮音部材19により遮断されることなく該遮音部材を通過した場合でも、該遮音部材を通過した音を吸音部材21により吸収することができる。これにより、一枚の布地素材からなる従来の防音カーテンや一組のレースカーテン間にプラスチックフィルムが挟み込まれた防音カーテンに比べて、音の伝播をより確実に抑制することができる。
更に、前記したように、各遮音部材21がそれぞれ互いに絡み合った複数の繊維からなる綿状体であることから、例えば高い面密度を有する布地素材と同一の大きさで比べた場合、一般的に綿状体である遮音部材の重量は布地素材の重量よりも軽い。
従来、例えば布地素材からなる防音カーテンの防音性をより向上させるために、防音カーテンの厚さを厚くすることが考えられる。しかしながら、防音カーテンの厚さを厚くすると、防音カーテン全体の重量が重くなるため、防音カーテンの可動性が低下する。
これに対し、本実施例によれば、前記したように、各吸音部材21がそれぞれ綿状体であることから、遮音部材の重量は布地素材の重量よりも軽いので、各遮音部材19の厚さを従来のように単に厚くした場合程、仕切り本体14全体の重量が重くなることはない。これにより、重量の増加による仕切り本体14の従来のような可動性の低下を確実に防止することができる。
また、前記したように、各遮音部材19は、その横断面がほぼ波形をなすように形成されており、これにより、各遮音部材19には、それぞれ波の各山で構成され、幅寸法が先端20aから各遮音部材19の表面19aに向けて漸増する複数の凸部20が形成されていることから、例えばダイニング12内で発生した音が前記一方の遮音部材19に到達したとき、該遮音部材に到達した音のうち該遮音部材の内方に入射することなく該遮音部材で伝播が遮断される音の大部分が該遮音部材の表面19aで反射することなく各凸部20の減衰作用により消滅するので、遮音部材19により遮断された音が該遮音部材で反射することによるダイニング13内の大きな残響の発生が防止される。従って、大きな残響が生じることにより不快さを招くことを、確実に防止することができる。
更に、前記したように、各吸音部材21間に空気層Kが形成されていることから、各吸音部材21を経て該各吸音部材の遮音部材19側からその反対側に音がたとえ伝播されたとしても、その音が空気層Kに入ったとき、空気層K内の空気の振動により、各吸音部材21を通過した周波数成分の音が吸収されるので、一方の吸音部材21を通過した音が他方の吸音部材21に入ることをより確実に抑制することができる。
また、前記したように、各枠組み15の前記表面15aと反対側に位置する裏面15bには、それぞれ各枠組み15内に充填された各吸音部材21の互いに対向する裏面21bを覆うビニルシート23が設けられていることから、例えばダイニング12内で発生した音がダイニング12側に位置する一方の吸音部材21を通過したとしても、その音がビニルシート23に当たったとき、ビニルシート23の膜振動を前記一方の吸音部材21により吸収されるので、前記一方の吸音部材21を通過した音が他方の吸音部材21に入ることをより確実に抑制することができる。
更に、前記したように、各シート部材がそれぞれビニルシート23であることから、例えばダイニング12内で発生して前記一方の吸音部材21を通過した音が他方の吸音部材21に入ることを容易に抑制することができる。
本実施例では、各シート部材がそれぞれビニルシート23で構成された例を示したが、これに代えて、各シート部材を、例えば図11に示すように、それぞれ二枚の樹脂フィルム41間に空気が封入されたエアーキャップ42で構成することができる。エアーキャップ42は、従来よく知られているように、例えばガラス製品のような壊れやすい物を運搬する際に衝撃を緩和するための梱包材として用いられている。
図11に示す例では、各エアーキャップ42には、それぞれ両樹脂フィルム41を互いに部分的に接着することにより、整列して配置された複数の球状の空気封入部43が形成されている。
図11に示す例によれば、例えばダイニング12内で発生した音が該ダイニング側に配置された一方の吸音部材21を通過して該吸音部材側に位置する一方のエアーキャップ42に当たったとき、該エアーキャップ全体に生じる膜振動を前記一方の吸音部材21により吸収することにより前記音を遮断することができることに加えて、エアーキャップ42の各空気封入部43内に封入された空気が前記音から受ける音圧により各空気封入部43内で前記音の周波数と同一の周波数で振動し、この振動により各空気封入部43内の空気と各樹脂フィルム41との間に摩擦が生じ、この摩擦により音のエネルギーが熱エネルギーに変換される。これにより、前記一方の吸音部材21を通過した周波数成分の音が吸収されるので、前記一方の吸音部材21を通過した音が他方の吸音部材21に入ることをより確実に抑制することができる。
また、本実施例では、各吸音部材21がそれぞれグラスウールで構成された例を示したが、これに代えて、グラスウール以外の綿状体からなる吸音部材を本発明に適用することができる。
更に、本実施例では、各凸部20がそれぞれ建物11の上下方向に沿って伸びるように各遮音部材19に形成された例を示したが、これに代えて、例えば建物11の横方向に伸びるように各凸部20を各遮音部材19に形成することができる。
また、本実施例では、建物11に設けられたダイニング12とリビング13との間を仕切るための間仕切に本発明に係る防音仕切り10を適用した例を示したが、これに代えて、ダイニング12及びリビング13以外の部屋間を仕切るために本発明に係る防音仕切り10を用いることができる。
更に、本実施例では、本発明に係る防音仕切り10を建物11内の部屋間を仕切るための間仕切に適用した例を示したが、これに代えて、建物11の例えば窓を覆うためのカーテンに本発明に係る防音仕切り10を適用することができる。