以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る負極の断面構成を表している。この負極は、例えば二次電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、一対の面を有する負極集電体1上に、負極活物質層2および被膜3を有している。
負極集電体1は、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する金属材料により構成されているのが好ましい。このような金属材料としては、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどが挙げられ、中でも、銅が好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。
特に、金属材料は、電極反応物質と金属間化合物を形成しない1種あるいは2種以上の金属元素を構成元素として含んでいるのが好ましい。電極反応物質と金属間化合物を形成すると、電気化学デバイスの動作時(例えば二次電池の充放電時)に、負極活物質層2の膨張および収縮による応力の影響を受けて、集電性が低下したり、負極活物質層2が負極集電体1から剥離する可能性があるからである。このような金属元素としては、例えば、銅、ニッケル、チタン、鉄あるいはクロムなどが挙げられる。
また、金属材料は、負極活物質層2と合金化する1種あるいは2種以上の金属元素を構成元素として含んでいるのが好ましい。負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性が向上するため、その負極活物質層2が負極集電体1から剥離しにくくなるからである。電極反応物質と金属間化合物を形成せず、しかも負極活物質層2と合金化する金属元素としては、例えば、銅、ニッケルあるいは鉄などが挙げられる。これらの金属元素は、強度および導電性の観点からも好ましい。
なお、負極集電体1は、単層構造あるいは多層構造のいずれを有していてもよい。負極集電体1が多層構造を有する場合には、例えば、負極活物質層2と隣接する層がそれと合金化する金属材料により構成され、隣接しない層が他の金属材料により構成されるのが好ましい。
負極集電体1の表面は、粗面化されているのが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層2と対向する負極集電体1の表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理により微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法により負極集電体1の表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法を使用して作製された銅箔は、一般に「電解銅箔」と呼ばれている。この他、粗面化の方法としては、例えば、圧延銅箔をサンドブラスト処理する方法なども挙げられる。
この負極集電体1の表面の十点平均粗さRzは、1.5μm以上40μm以下であるのが好ましく、1.5μm以上30μm以下であるのがより好ましく、3μm以上30μm以下であるのがさらに好ましい。負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性がより高くなるからである。詳細には、十点平均粗さRzが1.5μmよりも小さいと、十分な密着性が得られない可能性があり、40μmよりも大きいと、かえって密着性が低下する可能性がある。
負極活物質層2は、負極集電体1上に形成されている。この場合には、負極活物質層2が負極集電体1の片面だけに形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。
この負極活物質層2は、例えば、気相法、液相法、溶射法あるいはそれらの2種以上の方法などにより形成されている。気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、CVD法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電解鍍金法あるいは無電解鍍金法や、浸漬法などが挙げられる。溶射法としては、ガスフレーム溶射法あるいはプラズマ溶射法(直流プラズマ発生式あるいは高周波プラズマ発生式)などが挙げられる。中でも、気相法あるいは溶射法が好ましく、溶射法がより好ましい。経時的変化しにくい良好な負極活物質層2を形成しやすいからである。より具体的には、溶射法により形成された結晶質の膜では、蒸着法などの気相法により形成された非晶質の膜と比較して、酸化などの反応が進行しにくくなる。なお、直流プラズマ発生式のプラズマ溶射法では、例えば、高融点金属(タングステンなど)製の針状電極と水冷円筒電極とを対向させて、直流電力を加えると共に電極間に高圧ガス(アルゴンなど)を噴射してプラズマジェットを発生させたのち、原料粉末を含むキャリアガス(窒素など)をプラズマジェットに吹き込むことにより、その原料粉末を加熱する。一方、高周波プラズマ発生式のプラズマ溶射法では、例えば、原料粉末を耐熱容器に収容し、その壁面に冷却用のガスを流しながら高周波電磁場により高周波プラズマを発生させたのち、その高周波プラズマにプラズマジェットを吹き込む。これにより、プラズマジェットの周辺の原料粉末が巻き込まれるように高周波プラズマに注入されるため、その原料粉末がプラズマジェットおよび高周波プラズマの双方により加熱される。
負極活物質層2は、負極活物質として、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含有している。この負極材料としては、ケイ素を構成元素として含む材料が挙げられる。電極反応物質を吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。このような材料は、ケイ素の単体、合金あるいは化合物のいずれであってもよいし、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するものであってもよい。もちろん、ケイ素を構成元素として含む材料は、単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
なお、本発明における合金には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。もちろん、本発明における合金は、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらの2種以上が共存するものもある。
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム(In)、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス(Bi)、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものなどが挙げられる。
ケイ素の化合物としては、例えば、ケイ素以外の構成元素として、酸素および炭素(C)を含むものなどが挙げられる。なお、ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、ケイ素の合金について説明した一連の元素の1種あるいは2種以上を含んでいてもよい。
負極活物質は、酸素を構成元素として含んでいるのが好ましい。負極活物質層2の膨張および収縮が抑制されるからである。この負極活物質層2では、少なくとも一部の酸素が一部のケイ素と結合しているのが好ましい。この場合には、結合の状態が一酸化ケイ素や二酸化ケイ素であってもよいし、他の準安定状態であってもよい。
負極活物質中における酸素の含有量は、1.5原子数%以上40原子数%以下であるのが好ましい。より高い効果が得られるからである。詳細には、酸素含有量が1.5原子数%よりも少ないと、負極活物質層2の膨張および収縮が十分に抑制されない可能性があり、40原子数%よりも多いと、抵抗が増大しすぎる可能性がある。なお、電気化学デバイスにおいて負極が電解質と一緒に用いられる場合には、その電解質の分解により形成される被膜などは負極活物質に含めないこととする。すなわち、負極活物質中における酸素の含有量を算出する場合には、上記した被膜中の酸素は含まれない。
酸素を含む負極活物質は、例えば、負極材料を堆積させる際に、チャンバ内に連続的に酸素ガスを導入することにより形成される。特に、酸素ガスを導入しただけでは所望の酸素含有量が得られない場合には、チャンバ内に酸素の供給源として液体(例えば水蒸気など)を導入してもよい。
また、負極活物質は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、マンガン、亜鉛、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、銀、スズ、アンチモン、タングステン、クロム、チタンおよびモリブデンからなる群のうちの少なくとも1種の金属元素を構成元素として含んでいるのが好ましい。負極活物質の結着性が向上し、負極活物質層2の膨張および収縮が抑制され、負極活物質の抵抗が低下するからである。負極活物質中における金属元素の含有量は、任意に設定可能である。ただし、負極が二次電池に用いられる場合には、金属元素の含有量が多くなりすぎると、所望の電池容量を得るために負極活物質層2を厚くしなければならないため、負極活物質層2が負極集電体1から剥がれたり、割れる可能性がある。
上記した金属元素を含む負極活物質は、例えば、気相法として蒸着法を用いる場合には、金属元素を混合させた蒸着源を用いたり、多元系の蒸着源を用いたりすることにより形成される。また、例えば、溶射法を用いる場合には、複数種類の粒子や合金粒子を形成材料として用いることにより形成される。
なお、負極活物質がケイ素と共に金属元素を含む場合には、負極活物質層2の全体がケイ素と金属元素とを含んでいてもよいし、一部だけがケイ素と金属元素とを含んでいてもよい。
負極活物質のうちの一部がケイ素と金属元素とを含む場合としては、例えば、負極活物質が複数の粒子状をなしており、その粒子状の負極活物質のうちの一部がケイ素と金属元素とを含む場合が挙げられる。この場合における粒子状の負極活物質の結晶状態は、完全な合金が形成された合金状態であってもよいし、完全な合金が形成されるまでに至らず、ケイ素と金属元素とが混在している化合物状態(相分離状態)であってもよい。ケイ素と共に金属元素を含む負極活物質の結晶状態については、例えば、エネルギー分散型蛍光X線分析(energy dispersive x-ray fluorescence spectroscopy :EDX)により確認することができる。
また、負極活物質は、その厚さ方向において、酸素を構成元素として含む酸素含有領域を有し、その酸素含有領域における酸素の含有量は、それ以外の領域における酸素の含有量よりも高くなっているのが好ましい。負極活物質層2の膨張および収縮が抑制されるからである。この酸素含有領域以外の領域は、酸素を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。もちろん、酸素含有領域以外の領域も酸素を含んでいる場合に、その酸素の含有量が酸素含有領域における酸素の含有量よりも低くなっていることは言うまでもない。
この場合には、負極活物質層2の膨張および収縮をより抑制するために、酸素含有領域以外の領域も酸素を含んでおり、負極活物質が、第1の酸素含有領域(より低い酸素含有量を有する領域)と、それよりも高い酸素含有量を有する第2の酸素含有領域(より高い酸素含有量を有する領域)とを有しているのが好ましい。この場合には、第1の酸素含有領域により第2の酸素含有領域が挟まれているのが好ましく、第1の酸素含有領域と第2の酸素含有領域とが交互に繰り返して積層されているのがより好ましい。より高い効果が得られるからである。第1の酸素含有領域における酸素の含有量は、できるだけ少ないのが好ましく、第2の酸素含有領域における酸素の含有量は、例えば、上記した負極活物質が酸素を有する場合の含有量と同様である。
第1および第2の酸素含有領域を有する負極活物質は、例えば、負極材料を堆積させる際に、チャンバ内に断続的に酸素ガスを導入したり、チャンバ内に導入する酸素ガスの量を変化させることにより形成される。もちろん、酸素ガスを導入しただけでは所望の酸素含有量が得られない場合には、チャンバ内に液体(例えば水蒸気など)を導入してもよい。
なお、第1および第2の酸素含有領域の間では、酸素の含有量が明確に異なっていてもよいし、明確に異なっていなくてもよい。特に、上記した酸素ガスの導入量を連続的に変化させた場合には、酸素の含有量も連続的に変化していてもよい。第1および第2の酸素含有領域は、酸素ガスの導入量を断続的に変化させた場合には、いわゆる「層」となり、一方、酸素ガスの導入量を連続的に変化させた場合には、「層」というよりもむしろ「層状」となる。後者の場合には、負極活物質中において酸素の含有量が高低を繰り返しながら分布する。この場合には、第1および第2の酸素含有領域の間において、酸素の含有量が段階的あるいは連続的に変化しているのが好ましい。酸素の含有量が急激に変化すると、イオンの拡散性が低下したり、抵抗が増大する可能性があるからである。
なお、負極活物質は、ケイ素を構成元素として含む材料の他に、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な他の材料を含有していてもよい。このような他の材料としては、例えば、電極反応物質を吸蔵よび放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料(ケイ素を構成元素として含む材料を除く)が挙げられる。このような材料を用いれば、高いエネルギー密度が得られるので好ましい。この材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、電極反応物質と合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素、アルミニウム、ガリウム(Ga)、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛(Pb)、ビスマス、カドミウム(Cd)、銀、亜鉛、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などであり、中でも、スズが好ましい。電極反応物質を吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。スズを含む材料としては、例えば、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
スズの合金としては、例えば、スズ以外の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、スズ以外の構成元素として、酸素あるいは炭素を含むものなどが挙げられる。なお、スズの化合物は、例えば、スズ以外の構成元素として、スズの合金について説明した一連の元素のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいてもよい。
特に、スズを構成元素として含む材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を含むものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を有することにより、負極が二次電池に用いられた場合においてサイクル特性が向上するからである。
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を含んでいてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上であってもよい。より高い効果が得られるからである。
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性あるいは非晶質な相であるのが好ましい。この相は、電極反応物質と反応可能な反応相であり、これにより優れたサイクル特性が得られるようになっている。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムがより円滑に吸蔵および放出されると共に、二次電池において電解質との反応性が低減されるからである。
X線回折により得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、電極反応物質との電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することにより容易に判断することができる。例えば、電極反応物質との電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、電極反応物質と反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性あるいは非晶質な反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この低結晶性あるいは非晶質な反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に、炭素により低結晶化あるいは非晶質化しているものと考えられる。
なお、SnCoC含有材料は、低結晶性あるいは非晶質な相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を含んでいる場合もある。
特に、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合しているのが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSは、軟X線(市販の装置ではAl−Kα線か、Mg−Kα線を用いる)を試料表面に照射し、その試料表面から飛び出してくる光電子の運動エネルギーを測定することにより、試料表面から数nmの領域の元素組成や元素の結合状態を調べる方法である。
元素の内殻軌道電子の束縛エネルギーは、第1近似的には、元素上の電荷密度と相関して変化する。例えば、炭素元素の電荷密度が近傍に存在する元素との相互作用により減少した場合には、2p電子などの外殻電子が減少しているので、炭素元素の1s電子は殻から強い束縛力を受けることになる。すなわち、元素の電荷密度が減少すると、束縛エネルギーは高くなる。XPSでは、束縛エネルギーが高くなると、高いエネルギー領域にピークはシフトするようになっている。
XPSにおいて、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素よりも陽性な元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素などと結合している場合には、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる。
なお、XPS測定を行う場合には、表面が表面汚染炭素で覆われている際に、XPS装置に付属のアルゴンイオン銃で表面を軽くスパッタするのが好ましい。また、例えば、測定対象のSnCoC含有材料が二次電池の負極中に存在する場合には、二次電池を解体して負極を取り出したのち、炭酸ジメチルなどの揮発性溶媒で洗浄するとよい。負極の表面に存在する揮発性の低い溶媒と電解質塩とを除去するためである。これらのサンプリングは、不活性雰囲気下で行うのが望ましい。
また、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。なお、XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
このSnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合した混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解させたのち、凝固させることにより形成可能である。また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法などを用いてもよい。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法が好ましい。SnCoC含有材料が低結晶性あるいは非晶質な構造になるからである。メカノケミカル反応を利用した方法では、例えば、遊星ボールミル装置やアトライタなどの製造装置を用いることができる。
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いるのが好ましい。このような合金に炭素を加えてメカニカルアロイング法を利用した方法で合成することにより、低結晶化あるいは非晶質な構造が得られ、反応時間も短縮されるからである。なお、原料の形態は、粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を構成元素として有するSnCoFeC含有材料も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、鉄の含有量が0.3質量%以上5.9質量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるのが好ましい。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が11.9質量%以上29.7質量%以下、スズとコバルトと鉄との合計に対するコバルトと鉄との合計の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%以上48.5質量%以下、コバルトと鉄との合計に対するコバルトの割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%以上79.5質量%以下であるのが好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の結晶性、元素の結合状態の測定方法、および形成方法などについては、上記したSnCoC含有材料と同様である。
また、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な他の材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。この炭素材料とは、例えば、易黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。炭素材料は、電極反応物質の吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が得られ、さらに導電剤としても機能するので好ましい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。
さらに、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な他の材料としては、例えば、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な金属酸化物あるいは高分子化合物なども挙げられる。金属酸化物とは、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどであり、高分子化合物とは、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどである。
もちろん、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な他の材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
負極活物質は、例えば、上記したように、複数の粒子状をなしている。この場合には、粒子状の負極活物質がどのような形状をなしていてもよいが、中でも、負極活物質のうちの少なくとも一部が扁平状をなしているのが好ましい。この「扁平状」とは、負極集電体1の表面に沿った方向に長軸を有すると共にその表面と交差する方向に短軸を有する形状をなしていることを意味する。この扁平形状は、溶射法を用いて負極活物質層2が形成された場合において、負極活物質の形状として見られる特徴である。溶射法を用いて負極活物質層2を形成する際に、その形成材料の溶融温度を高くすれば、粒子状の負極活物質が扁平状になりやすい傾向にある。複数の粒子状の負極活物質が扁平状をなしていると、負極活物質同士が横方向において重なって接触しやすくなる(接触点が増える)ため、負極活物質層2内の電子伝導性が高くなる。
負極活物質層2は、負極集電体1に連結されているのが好ましい。負極活物質層2が負極集電体1に対して物理的に固定されるため、電極反応時において負極活物質層2が膨張および収縮しにくくなるからである。なお、上記した「負極集電体1に連結されている」とは、負極活物質が負極集電体1上に直接形成(堆積)されている態様を意味する。よって、塗布法や焼結法などを用いた結果、負極活物質が他の材料(例えば負極結着剤など)を介して負極集電体1に間接的に連結されていたり、単に負極活物質が負極集電体1の表面に隣接しているにすぎないものは、上記した態様に含まれない。
なお、負極活物質層2は、少なくとも一部において負極集電体1に連結されていればよい。一部だけでも負極集電体1に連結されていれば、全く連結されていない場合と比較して、負極集電体1に対する負極活物質層2の密着強度が向上するからである。負極活物質層2が一部において負極集電体1に連結されている場合、その負極活物質層2は、負極集電体1に接触する部分と、負極集電体1に接触しない部分(非接触部分)を有することになる。
負極活物質層2が非接触部分を有していない場合には、その負極活物質層2が全体に渡って負極集電体1に接触するため、両者の間における電子伝導性が高くなる。その一方で、電極反応時において負極活物質層2が膨張および収縮した場合に逃げ場(緩和スペース)がないため、その膨張および収縮時における応力の影響を受けて負極集電体1が変形する可能性がある。
これに対して、負極活物質層2が非接触部分を有している場合には、電極反応時において負極活物質層2が膨張および収縮した場合の逃げ場(緩和スペース)が存在するため、膨張および収縮時における応力の影響を受けて負極集電体1が変形しにくくなる。その一方で、負極集電体1と負極活物質層2との間に接触していない部分があるため、両者の間における電子伝導性が低くなる可能性がある。
また、負極活物質層2は、負極集電体1との界面のうちの少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。電極反応時において負極活物質層2が膨張および収縮しにくくなるため、その負極活物質層2の破損が抑制されるからである。また、負極集電体1と負極活物質層2との間において電子伝導性が向上するからである。この「合金化」とは、負極集電体1の構成元素と負極活物質層2の構成元素とが完全な合金を形成している場合だけでなく、両者の構成元素が混在状態にある場合も含む。この場合には、両者の界面において、負極集電体1の構成元素が負極活物質層2に拡散していてもよいし、負極活物質層2の構成元素が負極集電体1に拡散していてもよいし、両者の構成元素が拡散しあっていてもよい。
負極活物質層2は、負極活物質の1回の堆積工程によって形成された単層構造を有していてもよいし、複数回の堆積工程によって形成された多層構造を有していてもよい。この場合には、負極活物質層2が多層構造を有する部分を一部に含んでいてもよい。ただし、堆積時に高熱を伴う場合には、負極集電体1が熱的ダメージを受けることを抑制するために、負極活物質層2が多層構造を有しているのが好ましい。負極活物質の堆積工程を複数回に分割して行うことにより、その堆積工程を1回で行う場合と比較して、負極集電体1が高熱に晒される時間が短くなるからである。
また、負極活物質層2は、その内部に空隙を有しているのが好ましい。空隙は電極反応時において負極活物質層2が膨張および収縮した場合の逃げ場(緩和スペース)として働くため、その負極活物質層2が膨張および収縮しにくくなるからである。
被膜3は、負極活物質層2上に形成されている。この場合には、被膜3が片方の負極活物質層2上だけに形成されていてもよいし、双方の負極活物質層2上に形成されていてもよい。
この被膜3は、3次元網目状の一体型構造(いわゆるスポンジ状の構造)を有している。この「3次元網目状」とは、複数の孔を有する網目構造が3方(負極活物質層2の長さ方向、幅方向および厚さ方向)に広がっているという意味である。また、「一体型構造」とは、上記した3次元網目状の構造が全体として一体をなすように形成されているという意味であり、複数の粒子と樹脂とが混在している結果として網目状構造が形成されている場合とは異なることを意味している。この被膜3の厚さは、特に限定されないが、例えば、1nm以上20000nm以下である。
また、被膜3は、例えば、気相法、液相法、溶射法あるいはそれらの2種以上の方法などにより形成されている。これらの各方法の詳細は、負極活物質層2の形成方法について説明した場合と同様である。中でも、溶射法が好ましい。3次元網目状の一体型構造を有する被膜3を容易に形成しやすいからである。なお、被膜3の形成方法は、負極活物質層2の形成方法と同一であってもよいし、異なってもよい。ただし、両者の形成方法が同一であれば、負極を低コストで簡単に製造することができる。
この被膜3は、絶縁性材料を含んでおり、全体として絶縁性を有している。この「絶縁性」とは、負極が電気化学デバイスに用いられた場合に、電圧降下を十分に抑制することができる程度の絶縁性を意味し、そのような程度の絶縁性が得られるのであれば、被膜3が絶縁性材料と一緒に導電性材料を含んでいてもよい。この場合には、当然ながら、被膜3全体としては絶縁性を有するのであるから、導電性材料の含有量は絶縁性材料の含有量よりも少なくなるはずである。被膜3では、絶縁性材料が3次元方向に成長することにより、複数の孔を有する網目状構造を形成している。
上記した絶縁性材料は、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、銅、アルミニウム、亜鉛、ゲルマニウム、銀、ケイ素、チタン、クロム、マンガン、ジルコニウム、モリブデン、スズおよびタングステンからなる群のうちの少なくとも1種の酸化物である。中でも、ケイ素の酸化物が好ましい。負極活物質がケイ素を構成元素として含むため、被膜3としてケイ素の酸化物を容易に形成することができるからである。もちろん、絶縁性材料は、上記した一連の酸化物以外の酸化物であってもよい。
ここで、図2〜図6を参照して、負極の詳細な構成例について説明する。
図2〜図4は図1に示した負極の一部断面を拡大して表しており、各図における(A)は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)写真(二次電子像)、(B)は(A)に示したSEM像の模式絵である。また、図5は図1に示した負極の一部表面のSEM写真を表している。
なお、図2および図5では負極活物質としてケイ素の単体を用いた場合を示しており、図3および図4では負極活物質としてケイ素と金属元素とを含むものを用いた場合を示している。また、図2〜図5では、溶射法を用いて負極活物質層2を形成したのち、その負極活物質層2上に被膜3を形成する前の状態を示している。
負極活物質層2は、上記したように、例えば、溶射法を用いて負極集電体1上にケイ素を構成元素として含む材料が堆積されることにより形成されている。この負極活物質層2に含まれる負極活物質は、複数の粒子状をなしており、すなわち負極活物質層2は、複数の負極活物質粒子201を有している。この場合には、図2および図3に示したように、複数の負極活物質粒子201が負極活物質層2の厚さ方向に積み重ねられた多層構造を有していてもよいし、あるいは図4に示したように、複数の負極活物質粒子201が負極集電体1の表面に沿って配列された単層構造を有していてもよい。また、図5に示したように、複数の負極活物質粒子201の中には、ほぼ球状をなしているものがあれば、扁平状をなしているものもある。なお、図5中において負極活物質粒子201と一緒に見られる複数の微細な粒は、溶射法を用いて負極活物質層2を形成した際に溶融しきれなかった形成材料(ケイ素粒子)であると考えられる。
この負極活物質層2は、図2〜図4に示したように、例えば、負極集電体1に部分的に連結されており、負極集電体1に接触する部分(接触部分P1)と、負極集電体1に接触しない部分(非接触部分P2)とを有している。また、負極活物質層2は、その内部に複数の空隙2Kを有している。
負極活物質粒子201のうちの一部は、例えば、扁平状をなしている。すなわち、負極活物質層2は、複数の負極活物質粒子201のうちの一部として、いくつかの扁平粒子201Pを有している。この扁平粒子201Pは、隣り合う負極活物質粒子201と重なり合うように接触している。
負極活物質粒子201がケイ素と共に金属元素を含む場合には、例えば、一部の負極活物質粒子201がケイ素と金属元素とを含んでいる。この場合における負極活物質粒子201の結晶状態は、合金状態(AP)でもよいし、化合物(相分離)状態(SP)でもよい。なお、ケイ素だけを含んでおり、金属元素を含んでいない負極活物質粒子201の結晶状態は、単体状態(MP)である。
これらの負極活物質粒子201に関する3つの結晶状態(MP,AP,SP)は、図4中に明確に示されている。すなわち、単体状態(MP)の負極活物質粒子201は、均一な灰色の部分として観察される。合金状態(AP)の負極活物質粒子201は、均一な白色の部分として観察される。相分離状態(SP)の負極活物質粒子201は、灰色部分と白色部分とが混在した部分として観察される。
図6は図1に示した負極の一部表面のSEM写真を表している。なお、図6では、図5とは異なり、溶射法を用いて負極活物質層2上に被膜3を形成した後の状態を示している。
負極活物質層2上に形成された被膜3は、網目状を有している。この被膜3は、下地の負極活物質層2(図5に示した複数の負極活物質粒子201)を覆い隠していることから明らかなように、負極活物質層2の表面に沿った方向だけでなく、その厚さ方向にまで広がった構造(3次元構造)を有している。また、図6中において、被膜3の存在範囲を示している部分のコントラストが均一であることから明らかなように、被膜3は、絶縁性材料が3次元網目状となるように連続的に成長した一体型構造を有している。
この負極は、例えば、以下の手順により製造される。
最初に、粗面化された電解銅箔などからなる負極集電体1を準備する。続いて、負極活物質としてケイ素を構成元素として含む材料(負極材料)を準備したのち、溶射法などを用いて負極集電体1の表面に負極材料を堆積させることにより、負極活物質層2を形成する。負極活物質層2の形成方法として溶射法を用いた場合には、負極材料が負極集電体1の表面に溶融状態で吹き付けられる。最後に、被膜3の形成材料を準備したのち、溶射法などを用いて負極活物質層2の表面に上記した形成材料を堆積させることにより、その形成材料の酸化物を含む被膜3を形成する。溶射法を用いて被膜3を形成する場合には、溶射源の近傍にガスを供給したり、溶射源と基盤(負極活物質層2の支持体)との間の距離を調整したり、基盤を冷却しながら形成材料を堆積させたり、形成材料の堆積後に負極活物質層2を冷却することにより、3次元網目状の一体型構造を構築するようにすることができる。なお、溶射源の近傍にガスを供給する場合には、溶射源の放出口に対してガスを供給してもよいし、溶射源から放出された溶融物に対してガスを供給してもよい。これにより、負極が完成する。
この負極によれば、ケイ素を構成元素として含む負極活物質を含有する負極活物質層2上に、3次元網目状の一体型構造を有する被膜3が形成されているので、電極反応時において負極活物質の膨張および収縮が抑制されると共に、電圧降下が発生しにくくなり、電池容量のロスが抑制される。したがって、サイクル特性および電圧維持特性を向上させることができる。
特に、負極活物質層2が負極集電体1との界面のうちの少なくとも一部において合金化しており、あるいは負極活物質層2がその内部に空隙を有しており、あるいは負極活物質層2が負極集電体1に接触していない部分を有しており、または負極活物質が扁平状をなしていれば、より高い効果を得ることができる。
また、負極活物質が酸素を構成元素として含み、負極活物質中における酸素の含有量が1.5原子数%以上40原子数%以下であり、あるいは負極活物質が厚さ方向において酸素を含有する酸素含有領域を有し、その酸素含有領域中における酸素の含有量がそれ以外の領域における酸素の含有量よりも高くなっており、または負極活物質が鉄、ニッケル、モリブデン、チタン、クロム、コバルト、銅、マンガン、亜鉛、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、銀、スズ、アンチモンおよびタングステンからなる群のうちの少なくとも1種の金属元素を構成元素として含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
また、負極活物質層2と対向する負極集電体1の表面が粗面化されていれば、負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性を高めることができる。この場合には、負極集電体1の表面の十点平均粗さRzが1.5μm以上30μm以下、好ましくは3μm以上30μm以下であれば、より高い効果を得ることができる。
次に、上記した負極の使用例について説明する。ここで、電気化学デバイスの一例として二次電池を例に挙げると、上記した負極は、以下のようにして二次電池に用いられる。
(第1の二次電池)
図7〜図9は第1の二次電池の断面構成を表しており、図8では図7に示したVIII−VIII線に沿った断面を示し、図9では図8に示した電池素子20の一部を拡大して示している。ここで説明する二次電池は、例えば、負極22の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
この二次電池は、主に、電池缶11の内部に、扁平な巻回構造を有する電池素子20が収納されたものである。
電池缶11は、例えば、角型の外装部材である。この角型の外装部材とは、図8に示したように、長手方向における断面が矩形型あるいは略矩形型(一部に曲線を含む)の形状を有するものであり、矩形状の角型電池だけでなくオーバル形状の角型電池も構成するものである。すなわち、角型の外装部材とは、矩形状あるいは円弧を直線で結んだ略矩形状(長円形状)の開口部を有する有底矩形型あるいは有底長円形状型の器状部材である。なお、図8では、電池缶11が矩形型の断面形状を有する場合を示している。この電池缶11を含む電池構造は、いわゆる角型と呼ばれている。
この電池缶11は、例えば、鉄、アルミニウムあるいはそれらの合金などの金属材料により構成されており、電極端子としての機能を有している場合もある。この場合には、充放電時に電池缶11の固さ(変形しにくさ)を利用して二次電池の膨れを抑えるために、アルミニウムよりも固い鉄が好ましい。電池缶11が鉄により構成される場合には、例えば、ニッケルなどの鍍金が施されていてもよい。
また、電池缶11は、一端部および他端部がそれぞれ閉鎖および開放された中空構造を有しており、その開放端部に絶縁板12および電池蓋13が取り付けられて密閉されている。絶縁板12は、電池素子20と電池蓋13との間に、その電池素子20の巻回周面に対して垂直に配置されており、例えば、ポリプロピレンなどにより構成されている。電池蓋13は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されており、それと同様に電極端子としての機能を有していてもよい。
電池蓋13の外側には、正極端子となる端子板14が設けられており、その端子板14は、絶縁ケース16を介して電池蓋13から電気的に絶縁されている。この絶縁ケース16は、例えば、ポリブチレンテレフタレートなどにより構成されている。また、電池蓋13のほぼ中央には貫通孔が設けられており、その貫通孔には、端子板14と電気的に接続されると共にガスケット17を介して電池蓋13から電気的に絶縁されるように正極ピン15が挿入されている。このガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
電池蓋13の周縁付近には、開裂弁18および注入孔19が設けられている。開裂弁18は、電池蓋13と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などに起因して電池の内圧が一定以上となった場合に、電池蓋13から切り離されて内圧を開放するようになっている。注入孔19は、例えば、ステンレス鋼球からなる封止部材19Aにより塞がれている。
電池素子20は、セパレータ23を介して正極21および負極22が積層および巻回されたものであり、電池缶11の形状に応じて扁平状になっている。正極21の端部(例えば内終端部)にはアルミニウムなどの金属材料により構成された正極リード24が取り付けられており、負極22の端部(例えば外終端部)にはニッケルなどの金属材料により構成された負極リード25が取り付けられている。正極リード24は、正極ピン15の一端に溶接されて端子板14と電気的に接続されており、負極リード25は、電池缶11に溶接されて電気的に接続されている。
正極21は、例えば、一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて、正極結着剤や正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz O2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw O2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 O4 )などが挙げられる。中でも、コバルトを含む複合酸化物が好ましい。高い容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
この他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
もちろん、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
正極結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
正極導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
負極22は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bおよび被膜22Cが設けられたものである。負極集電体22A、負極活物質層22Bおよび被膜22Cの構成は、それぞれ上記した負極における負極集電体1、負極活物質層2および被膜3の構成と同様である。この負極22では、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料における充電可能な容量が、正極21の放電容量よりも大きくなっているのが好ましい。
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながら電極反応物質のイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などにより構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
このセパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒の1種あるいは2種以上を含有している。以下で説明する一連の溶媒は、任意に組み合わされてもよい。
非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、あるいはジメチルスルホキシドなどが挙げられる。中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルからなる群のうちの少なくとも1種が好ましい。この場合には、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
特に、溶媒は、化1で表されるハロゲンを構成元素として含む鎖状炭酸エステルおよび化2で表されるハロゲンを構成元素として含む環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。充放電時において負極22の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。
(R11〜R16は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
(R17〜R20は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
化1中のR11〜R16は、同一でもよいし、異なってもよい。すなわち、R11〜R16の種類については、上記した一連の基の範囲内において個別に設定可能である。化2中のR17〜R20についても、同様である。
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素、塩素あるいは臭素が好ましく、フッ素がより好ましい。高い効果が得られるからである。他のハロゲンと比較して、高い効果が得られるからである。
ただし、ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上であってもよい。保護膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
化1に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、炭酸ビス(フルオロメチル)が好ましい。高い効果が得られるからである。
化2に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルとしては、例えば、化3および化4で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化3に示した(1)の4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)のテトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4−クロロ−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)のテトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(10)の4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(11)の4,4−ジフルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(12)の4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。また、化4に示した(1)の4−フルオロ−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−メチル−5−トリフルオロ−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)の5−(1,1−ジフルオロエチル)−4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)の4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンがより好ましい。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
また、溶媒は、化5〜化7で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有しているのが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
(R21およびR22は水素基あるいはアルキル基である。)
(R23〜R26は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
化5に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。この炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、あるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどが挙げられ、中でも、炭酸ビニレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
化6に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレン系化合物である。炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも、炭酸ビニルエチレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。もちろん、R23〜R26としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在していてもよい。
化7に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレン系化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。この炭酸メチレンエチレン系化合物としては、1つのメチレン基を有するもの(化7に示した化合物)の他、2つのメチレン基を有するものであってもよい。
なお、不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、化5〜化7に示したものの他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)などであってもよい。
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)や酸無水物を含有しているのが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。なお、スルトンや酸無水物は、単独でもよいし、混合されてもよい。
スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられ、中でも、プロペンスルトンが好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
酸無水物としては、例えば、コハク酸無水物、グルタル酸無水物あるいはマレイン酸無水物などのカルボン酸無水物や、エタンジスルホン酸無水物あるいはプロパンジスルホン酸無水物などのジスルホン酸無水物や、スルホ安息香酸無水物、スルホプロピオン酸無水物あるいはスルホ酪酸無水物などのカルボン酸とスルホン酸との無水物などが挙げられ、中でも、コハク酸無水物あるいはスルホ安息香酸無水物が好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種あるいは2種以上を含有している。以下で説明する一連の電解質塩は、任意に組み合わせてもよい。
リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 H5 )4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)、あるいは臭化リチウム(LiBr)などが挙げられる。
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
特に、電解質塩は、化8〜化10で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化8中のR31およびR33は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化9中のR41〜R43および化10中のR51およびR52についても同様である。
(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウムである。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)
2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)
2 )
b4−C(=O)−、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−C(=O)−、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−C(R43)
2 −、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−S(=O)
2 −、−(O=)
2 S−(C(R42)
2 )
d4−S(=O)
2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)
2 )
d4−S(=O)
2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)
2 )
d5−C(=O)−、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−C(=O)−、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−C(R52)
2 −、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−S(=O)
2 −、−(O=)
2 S−(C(R51)
2 )
e5−S(=O)
2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)
2 )
e5−S(=O)
2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
なお、長周期型周期表とは、IUPAC(国際純正・応用化学連合)が提唱する無機化学命名法改訂版によって表されるものである。具体的には、1族元素とは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムである。2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムである。13族元素とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムである。14族元素とは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズおよび鉛である。15族元素とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスである。
化8に示した化合物としては、例えば、化11の(1)〜(6)で表される化合物などが挙げられる。化9に示した化合物としては、例えば、化12の(1)〜(8)で表される化合物などが挙げられる。化10に示した化合物としては、例えば、化13で表される化合物などが挙げられる。なお、化8〜化10に示した構造を有する化合物であれば、化11〜化13に示した化合物に限定されないことは言うまでもない。
また、電解質塩は、化14〜化16で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有していてもよい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化14中のmおよびnは、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化16中のp、qおよびrについても同様である。
(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
化14に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 F5 SO2 )2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 F5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 F7 SO2 ))、あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 ))などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
化15に示した環状の化合物としては、例えば、化17で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化17に示した(1)の1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、(2)の1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、(3)の1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、(4)の1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウムが好ましい。高い効果が得られるからである。
化16に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )などが挙げられる。
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であるのが好ましい。この範囲外では、イオン伝導性が極端に低下する可能性があるからである。
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、正極結着剤と、正極導電剤とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどを用いて正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて塗膜を圧縮成型して正極活物質層21Bを形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
次に、上記した負極の作製手順と同様の手順により、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bおよび被膜22Cを形成して負極22を作製する。
次に、正極21および負極22を用いて電池素子20を作製する。最初に、正極集電体21Aに正極リード24を溶接などして取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード25を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層させたのち、長手方向において巻回させる。最後に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。
二次電池の組み立ては、以下のようにして行う。最初に、電池缶11の内部に電池素子20を収納したのち、その電池素子20上に絶縁板12を配置する。続いて、正極リード24を正極ピン15に溶接などして接続させると共に、負極リード25を電池缶11に溶接などして接続させたのち、レーザ溶接などによって電池缶11の開放端部に電池蓋13を固定する。最後に、注入孔19から電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させたのち、その注入孔19を封止部材19Aで塞ぐ。これにより、図7〜図9に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
この角型の二次電池によれば、負極22が上記した負極と同様の構成を有しているので、サイクル特性および電圧維持特性を向上させることができる。
特に、電解液の溶媒が、化1に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化2に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、化5〜化7に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、スルトンや、酸無水物を含有していれば、より高い効果を得ることができる。
また、電解液の電解質塩が、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種や、化8〜化10に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種や、化14〜化16に示した化合物からなる群のうちの少なくも1種を含有していれば、より高い効果を得ることができる。
また、電池缶11が固い金属製であれば、柔らかいフィルム製である場合と比較して、負極活物質層22Bが膨張および収縮した際に負極22が破損しにくくなる。したがって、サイクル特性をより向上させることができる。この場合には、電池缶11がアルミニウムよりも固い鉄製であれば、より高い効果を得ることができる。
この二次電池に関する上記以外の効果は、上記した負極と同様である。
(第2の二次電池)
図10および図11は第2の二次電池の断面構成を表しており、図11では図10に示した巻回電極体40の一部を拡大して示している。第2の二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様に、リチウムイオン二次電池である。この第2の二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶31の内部に、セパレータ43を介して正極41と負極42とが積層および巻回された巻回電極体40と、一対の絶縁板32,33とが収納されたものである。この電池缶31を含む電池構造は、いわゆる円筒型と呼ばれている。
電池缶31は、例えば、上記した第1の二次電池における電池缶11と同様の金属材料により構成されており、その一端部および他端部はそれぞれ閉鎖および開放されている。一対の絶縁板32,33は、巻回電極体40を上下から挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
電池缶31の開放端部には、電池蓋34と、その内側に設けられた安全弁機構35および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)36とが、ガスケット37を介してかしめられることにより取り付けられている。これにより、電池缶31の内部は密閉されている。電池蓋34は、例えば、電池缶31と同様の金属材料により構成されている。安全弁機構35は、熱感抵抗素子36を介して電池蓋34と電気的に接続されている。この安全弁機構35では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板35Aが反転して電池蓋34と巻回電極体40との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子36は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することにより電流を制限し、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット37は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体40の中心には、センターピン44が挿入されていてもよい。この巻回電極体40では、アルミニウムなどの金属材料により構成された正極リード45が正極41に接続されていると共に、ニッケルなどの金属材料により構成された負極リード46が負極42に接続されている。正極リード45は、安全弁機構35に溶接などされて電池蓋34と電気的に接続されており、負極リード46は、電池缶31に溶接などされて電気的に接続されている。
正極41は、例えば、一対の面を有する正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bが設けられたものである。負極42は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、一対の面を有する負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bおよび被膜42Cが設けられたものである。正極集電体41A、正極活物質層41B、負極集電体42A、負極活物質層42B、被膜42Cおよびセパレータ43の構成、ならびに電解液の組成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、被膜22Cおよびセパレータ23の構成、ならびに電解液の組成と同様である。
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
まず、例えば、上記した第1の二次電池における正極21および負極22の作製手順と同様の手順により、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを形成して正極41を作製すると共に、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bおよび被膜42Cを形成して負極42を作製する。続いて、正極41に正極リード45を溶接などして取り付けると共に、負極42に負極リード46を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ43を介して正極41と負極42とを積層および巻回させて巻回電極体40を作製したのち、その巻回中心にセンターピン44を挿入する。続いて、一対の絶縁板32,33で挟みながら巻回電極体40を電池缶31の内部に収納すると共に、正極リード45の先端部を安全弁機構35に溶接し、負極リード46の先端部を電池缶31に溶接する。続いて、電池缶31の内部に電解液を注入してセパレータ43に含浸させる。最後に、電池缶31の開口端部に電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子36をガスケット37を介してかしめて固定する。これにより、図10および図11に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極41からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極42に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極42からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極41に吸蔵される。
この円筒型の二次電池によれば、負極42が上記した負極と同様の構成を有しているので、サイクル特性および電圧維持特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
(第3の二次電池)
図12は第3の二次電池の分解斜視構成を表し、図13は図12に示したXIII−XIII線に沿った断面を拡大して表し、図14は図13に示した巻回電極体50の一部を拡大して表している。第3の二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様に、リチウムイオン二次電池である。この第3の二次電池は、主に、フィルム状の外装部材60の内部に、正極リード51および負極リード52が取り付けられた巻回電極体50が収納されたものである。この外装部材60を含む電池構造は、いわゆるラミネートフィルム型と呼ばれている。
正極リード51および負極リード52は、例えば、外装部材60の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード51は、例えば、アルミニウムなどの金属材料により構成されており、負極リード52は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
外装部材60は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムにより構成されている。この外装部材60は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体50と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着あるいは接着剤により互いに接着された構造を有している。
外装部材60と正極リード51および負極リード52との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム61が挿入されている。この密着フィルム61は、正極リード51および負極リード52に対して密着性を有する材料により構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
なお、外装部材60は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムにより構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成されていてもよい。
巻回電極体50は、セパレータ55および電解質層56を介して正極53と負極54とが積層および巻回されたものであり、その最外周部は、保護テープ57により保護されている。
正極53は、例えば、一対の面を有する正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bが設けられたものである。負極54は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、一対の面を有する負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bおよび被膜54Cが設けられたものである。正極集電体53A、正極活物質層53B、負極集電体54A、負極活物質層54B、被膜54Cおよびセパレータ55の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、被膜22Cおよびセパレータ23の構成と同様である。
電解質層56は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、あるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。電気化学的に安定だからである。
電解液の組成は、第1の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質層56において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質層56に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ55に含浸される。
このゲル状の電解質層56を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
第1の製造方法では、最初に、例えば、上記した第1の二次電池における正極21および負極22の作製手順と同様の手順により、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bを形成して正極53を作製すると共に、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bおよび被膜54Cを形成して負極54を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製して正極53および負極54に塗布したのち、溶剤を揮発させてゲル状の電解質層56を形成する。続いて、正極集電体53Aに正極リード51を取り付けると共に、負極集電体54Aに負極リード52を取り付ける。続いて、電解質層56が形成された正極53と負極54とをセパレータ55を介して積層および巻回したのち、その最外周部に保護テープ57を接着させて巻回電極体50を作製する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回電極体50を挟み込んだのち、その外装部材60の外縁部同士を熱融着などで接着させて巻回電極体50を封入する。この際、正極リード51および負極リード52と外装部材60との間に、密着フィルム61を挿入する。これにより、図12〜図14に示した二次電池が完成する。
第2の製造方法では、最初に、正極53に正極リード51を取り付けると共に、負極54に負極リード52を取り付ける。続いて、セパレータ55を介して正極53と負極54とを積層して巻回させたのち、その最外周部に保護テープ57を接着させて、巻回電極体50の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させて、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材60の内部に注入したのち、外装部材60の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質層56を形成する。これにより、二次電池が完成する。
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ55を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材60の内部に収納する。このセパレータ55に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材60の内部に注入したのち、その外装部材60の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材60に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ55を正極53および負極54に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質層56が形成されるため、二次電池が完成する。
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや溶媒などが電解質層56中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極53、負極54およびセパレータ55と電解質層56との間において十分な密着性が得られる。
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、負極54が上記した負極と同様の構成を有しているので、サイクル特性および電圧維持特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
本発明の実施例について詳細に説明する。
(実施例1−1〜1−16)
以下の手順により、図12〜図14に示したラミネートフィルム型の二次電池を製造した。この際、負極54の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
最初に、正極53を作製した。まず、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃で5時間焼成することにより、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物91質量部と、正極導電剤としてグラファイト6質量部と、正極結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーとした。最後に、帯状のアルミニウム箔(厚さ=12μm)からなる正極集電体53Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型することにより、正極活物質層53Bを形成した。
次に、負極54を作製した。最初に、負極集電体54Aとして粗面化された電解銅箔(厚さ=18μm,十点平均粗さRz=10μm)と、負極活物質としてケイ素粉末(メジアン径=30μm)とを準備した。続いて、溶射法を用いてケイ素粉末(メジアン径=1μm以上300μm以下)を溶融状態で負極集電体54Aの両面に吹き付けて複数の負極活物質粒子を形成することにより、負極活物質層54Bを形成した。この溶射法では、ガスフレーム溶射を用い、吹き付け速度を約45m/秒〜55m/秒とし、負極集電体54Aが熱的ダメージを負わないように炭酸ガスで基盤を冷却しながら吹き付け処理を行った。負極活物質層54Bを形成する場合には、チャンバ内に酸素ガスを導入することにより、負極活物質中における酸素の含有量を5原子数%とすると共に、複数の負極活物質粒子が扁平粒子を含むようにした(扁平粒子:有)。最後に、表1に示した被膜54Cの形成材料を準備したのち、溶射法を用いて形成材料を溶融状態で負極活物質層54Bの両面に吹き付け、絶縁性材料として上記した形成材料の酸化物を堆積させることにより、被膜54C(厚さ=100nm)を形成した。この溶射法では、ガスフレーム溶射を用い、吹き付け速度を約45m/秒〜55m/秒とし、負極集電体54Aが熱的ダメージを負わないように炭酸ガスで基盤を冷却しながら吹き付け処理を行った。被膜54Cを形成する場合には、絶縁性材料が3次元網目状の一体型構造を形成するために、溶融物質に対してガス(酸素、窒素または水素)を供給した。
次に、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを混合したのち、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させて、電解液を調製した。この際、溶媒の組成(EC:DEC)を重量比で50:50とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
最後に、正極53および負極54と共に電解液を用いて二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体53Aの一端にアルミニウム製の正極リード51を溶接すると共に、負極集電体54Aの一端にニッケル製の負極リード52を溶接した。続いて、正極53と、多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムによって多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた3層構造のセパレータ55(厚さ=12μm)と、負極54と、上記したセパレータ55とをこの順に積層してから長手方向に巻回させたのち、粘着テープからなる保護テープ57で巻き終わり部分を固定して、巻回電極体50の前駆体である巻回体を形成した。続いて、外側から、ナイロンフィルム(厚さ=30μm)と、アルミニウム箔(厚さ=40μm)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ=30μm)とが積層された3層構造のラミネートフィルム(総厚=100μm)からなる外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外縁部同士を熱融着して、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納した。続いて、外装部材60の開口部から電解液を注入してセパレータ55に含浸させて巻回電極体50を作製した。最後に、真空雰囲気中において外装部材60の開口部を熱融着して封止することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。なお、二次電池を製造する際には、正極活物質層53Bの厚さを調節することにより、満充電時において負極54にリチウム金属が析出しないようにした。
(比較例1)
負極54を作製する際に被膜54Cを形成しなかったことを除き、実施例1−1〜1−16と同様の手順を経た。
これらの実施例1−1〜1−16および比較例1の二次電池についてサイクル特性および電圧維持特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
サイクル特性を調べる際には、以下の手順により放電容量維持率を求めた。最初に、電池状態を安定化させるために23℃の雰囲気中において充放電させたのち、再び充放電させて、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、同雰囲気中において99サイクル充放電させて、101サイクル目の放電容量を測定した。最後に、放電容量維持率(%)=(101サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。この際、充電条件としては、3mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに到達するまで充電したのち、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.3mA/cm2 に到達するまで充電した。また、放電条件としては、3mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに到達するまで放電した。
電圧維持特性を調べる際には、4.1Vまで充電した状態の二次電池を2週間放置したのち、電池電圧が4.0V以上(電圧降下が0.1V以内)であるものを電圧降下発生なし、電池電圧が4.0V未満(電圧降下が0.1V超)であるものを電圧降下発生ありと判定した。この際、測定n数を100個とし、電圧降下発生率(%)=(電圧降下発生個数/100個)×100を算出した。
なお、サイクル特性および電圧維持特性を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実施例および比較例に関する同特性の評価についても同様である。
表1に示したように、1種類の酸化物を含む被膜54Cを形成した実施例1−1〜1−16では、それを形成しなかった比較例1と比較して、酸化物の種類に依存せずに、放電容量維持率が著しく増加すると共に、電圧降下発生率が著しく減少した。
このことから、本発明の二次電池では、ケイ素を構成元素として含む負極活物質を含有する負極活物質層54B上に、1種類の酸化物を用いて3次元網目状の一体型構造を有する被膜54Cを形成することにより、サイクル特性および電圧維持特性が向上することが確認された。
(実施例2−1〜2−6)
被膜54Cの形成材料として表2に示した2種類以上の形成材料を用い、2種類以上の酸化物を含む被膜54Cを形成したことを除き、実施例1−1〜1−16と同様の手順を経た。
これらの実施例2−1〜2−6の二次電池についてサイクル特性および電圧維持特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
表2に示したように、2種類の酸化物を含む被膜54Cを形成した実施例2−1〜2−6においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、実施例2−1〜2−6では、実施例1−1〜1−3,1−7,1−9と同様に、比較例1と比較して、放電容量維持率が著しく増加すると共に、電圧降下発生率が著しく減少した。
特に、被膜54Cが2種類の酸化物を含む実施例2−1〜2−6では、1種類の酸化物を含む実施例1−1〜1−3,1−7,1−9と比較して、放電容量維持率が増加すると共に、電圧降下発生率が減少した。この結果は、被膜54Cが2種類以上の酸化物を含むと、1種類の酸化物だけを含む場合と比較して、放電容量維持率が増加すると共に電圧降下発生率が減少する傾向があることを表している。
これらのことから、本発明の二次電池では、ケイ素を構成元素として含む負極活物質を含有する負極活物質層54B上に、複数種類の酸化物を用いて3次元網目状の一体型構造を有する被膜54Cを形成することにより、サイクル特性および電圧維持特性が向上することが確認された。この場合には、複数種類の酸化物を用いれば、両特性がより向上することも確認された。
(実施例3−1〜3−16)
表3に示した金属元素を負極活物質に含有させたことを除き、実施例1−1〜1−16と同様の手順を経た。負極活物質層54Bを形成する場合には、金属粉末をケイ素粉末と一緒に溶融状態で負極集電体54Aの両面に吹き付けると共に、負極活物質中における金属元素の含有量を5原子数%とした。
(実施例3−17〜3−20)
表4に示した金属元素および金属粉末を用いると共に、負極活物質中における金属元素の含有量を一部変更したことを除き、実施例3−1〜3−16と同様の手順を経た。
これらの実施例3−1〜3−20の二次電池についてサイクル特性および電圧維持特性を調べたところ、表3および表4に示した結果が得られた。
表3および表4に示したように、負極活物質に金属元素を含有させた実施例3−1〜3−20では、それを含有させなかった実施例1−9と比較して、電圧降下発生率がほぼ維持されたまま、放電容量維持率が高くなった。この場合には、表2の結果と同様に、複数種類の酸化物を用いた場合において放電容量維持率が増加し、その酸化物の種類が多くなるほど放電容量維持率がより増加した。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質に金属元素を含有させることにより、サイクル特性がより向上することが確認された。
(実施例4−1〜4−3)
複数の負極活物質粒子が扁平粒子を含まないようにしたことを除き、実施例1−9,2−3,3−1と同様の手順を経た。この際、溶射法における溶融温度を調整することにより、扁平粒子の有無を制御した。
(比較例2−1〜2−3)
被膜54Cを形成しなかったことを除き、実施例4−1〜4−3と同様の手順を経た。
これらの実施例4−1〜4−3および比較例2−1〜2−3の二次電池についてサイクル特性および電圧維持特性を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
表5に示したように、扁平粒子を含まない実施例4−1〜4−3においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、実施例4−1〜4−3では、実施例1−9,2−3,3−1と同様に、比較例1と比較して、放電容量維持率が著しく増加すると共に、電圧降下発生率が著しく減少した。
特に、扁平粒子を含む実施例1−9,2−3,3−1では、それを含まない実施例4−1〜4−3と比較して、放電容量維持率が増加すると共に、電圧降下発生率が減少した。なお、被膜54Cを形成しなかった比較例2−1〜2−3では、それを形成した実施例4−1〜4−3と比較して、放電容量維持率が僅かに増加したが、電圧降下発生率が著しく増加してしまった。
これらのことから、本発明の二次電池では、複数の負極活物質粒子が扁平粒子を含まない場合においても、サイクル特性および電圧維持特性が向上することが確認された。この場合には、扁平粒子を含んでいれば、両特性がより向上することも確認された。
(実施例5−1,5−2)
プラズマ溶射法を用いて負極活物質層54Bを形成したことを除き、実施例1−9,3−1と同様の手順を経た。この際、直流プラズマ発生式のプラズマ溶射を用いると共に、そのキャリアガスとして窒素を用いた。
(実施例5−3,5−4)
スパッタ法を用いて負極活物質層54Bを形成したことを除き、実施例1−9,3−1と同様の手順を経た。この際、純度99.99%のケイ素をターゲットとするRFマグネトロンスパッタ法を用い、堆積速度を0.5nm/秒、負極活物質層54Bの厚さを8μmとした。
(実施例5−5,5−6)
蒸着法を用いて負極活物質層54Bを形成したことを除き、実施例1−9,3−1と同様の手順を経た。この際、純度99%のケイ素を蒸着源とする偏向式電子ビーム蒸着法を用い、堆積速度を100nm/秒、負極活物質層54Bの厚さを8μmとした。
(実施例5−7,5−8)
CVD法を用いて負極活物質層54Bを形成したことを除き、実施例1−9,3−1と同様の手順を経た。この際、原材料および励起ガスとしてそれぞれシラン(SiH4 )およびアルゴン(Ar)を用い、堆積速度を1.5nm/秒、基盤温度を200℃、負極活物質層54Bの厚さを8μmとした。
(比較例3−1〜3−4)
被膜54Cを形成しなかったことを除き、実施例5−1,5−3,5−5,5−7と同様の手順を経た。
これらの実施例5−1〜5−8および比較例3−1〜3−4の二次電池についてサイクル特性および電圧維持特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
表6に示したように、負極活物質層54Bの形成方法としてプラズマ溶射法等を用いた実施例5−1〜5−8においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、実施例5−1〜5−8では、実施例1−9,3−1と同様に、比較例1と比較して、放電容量維持率が著しく増加すると共に、電圧降下発生率が著しく減少した。
特に、溶射法を用いた実施例1−9,3−1,5−1,5−2では、スパッタ法などを用いた実施例5−3〜5−8と比較して、放電容量維持率が増加すると共に、電圧降下発生率が減少した。もちろん、被膜54Cを形成した実施例5−1,5−3,5−5,5−7では、それを形成しなかった比較例3−1〜3−4と比較して、放電容量維持率が増加すると共に、電圧降下発生率が減少した。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質層54Bの形成方法を変更した場合においても、サイクル特性および電圧維持特性が向上することが確認された。この場合には、負極活物質層54Bの形成方法として溶射法を用いれば、両特性がより向上することも確認された。
(実施例6−1〜6−9)
表7に示したように負極活物質中の酸素含有量を変更したことを除き、実施例1−9と同様の手順を経た。この際、チャンバ内に導入する酸素ガスの量を調整することにより、酸素含有量を変化させた。
これらの実施例6−1〜6−9の二次電池についてサイクル特性および電圧維持特性を調べたところ、表7および図15に示した結果が得られた。
表7および図15に示したように、負極活物質中の酸素含有量を変更した実施例6−1〜6−9においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、実施例6−1〜6−9では、実施例1−9と同様に、比較例1と比較して、放電容量維持率が著しく増加すると共に、電圧降下発生率が著しく減少した。
特に、実施例1−9,6−1〜6−9では、酸素含有量が多くなるにしたがって、電圧降下発生率がほぼ一定に維持されたまま、放電容量維持率が増加して一定になった。この場合には、酸素含有量が1.5原子数%以上であると、80%以上の高い放電容量維持率が得られた。また、酸素含有量が40原子数%以下であると、十分な電池容量が得られた。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質の酸素含有量を変更した場合においても、サイクル特性および電圧維持特性が向上することが確認された。この場合には、負極活物質中の酸素含有量が1.5原子数%以上40原子数%以下であると、優れたサイクル特性および電圧維持特性が得られると共に、高い電池容量が得られることも確認された。
(実施例7−1〜7−3)
チャンバ内に断続的に酸素ガス等を導入しながらケイ素を堆積させることにより、第1の酸素含有領域とそれよりも酸素含有量が高い第2の酸素含有領域とが交互に積層されるように負極活物質層54Bを形成したことを除き、実施例1−9と同様の手順を経た。この際、第2の酸素含有領域中における酸素の含有量を5原子数%とし、その数を表8に示したように変化させた。
これらの実施例7−1〜7−3の二次電池についてサイクル特性および電圧維持特性を調べたところ、表8および図16に示した結果が得られた。
表8および図16に示したように、負極活物質が第1および第2の酸素含有領域を有する実施例7−1〜7−3では、実施例1−9と比較して、電圧降下発生率が維持されたまま、放電容量維持率が著しく増加した。この場合には、第2の酸素含有領域の数が多くなるにしたがって、放電容量維持率が増加する傾向を示した。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質が第1および第2の酸素含有領域を有するようにすれば、サイクル特性がより向上することが確認された。この場合には、第2の酸素含有領域の数が多くなれば、サイクル特性がさらに向上することも確認された。
(実施例8−1〜8−12)
表9に示したように負極集電体54Aの表面の十点平均粗さRzを変更したことを除き、実施例1−9と同様の手順を経た。
これらの実施例8−1〜8−12の二次電池についてサイクル特性および電圧維持特性を調べたところ、表9および図17に示した結果が得られた。
表9および図17に示したように、負極集電体54Aの表面の十点平均粗さRzを変更した実施例8−1〜8−12においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、実施例8−1〜8−12では、実施例1−9と同様に、比較例1と比較して、放電容量維持率が著しく増加すると共に、電圧降下発生率が著しく減少した。
特に、実施例1−9,8−1〜8−12では、十点平均粗さRzが大きくなるにしたがって、電圧降下発生率がほぼ一定に維持されたまま、放電容量維持率が増加して一定になった。この場合には、十点平均粗さRzが1.5μm以上であると、80%以上の高い放電容量維持率が得られた。また、十点平均粗さRzが3μm以上30μm以下であると、より高い放電容量維持率が得られると共に、十分な電池容量も得られた。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極集電体54Aの表面の十点平均粗さRzを変更した場合においても、サイクル特性および電圧維持特性が向上することが確認された。この場合には、十点平均粗さRzが1.5μm以上30μm以下であれば、サイクル特性がより向上すると共に、3μm以上30μm以下であれば、サイクル特性がさらに向上すると共に、高い電池容量が得られることも確認された。
(実施例9−1,9−2)
表10に示したようにセパレータ55の厚さを変更したことを除き、実施例1−9と同様の手順を経た。
これらの実施例9−1,9−2の二次電池についてサイクル特性および電圧維持特性を調べたところ、表10に示した結果が得られた。
表10に示したように、セパレータ55の厚さを変更した実施例9−1,9−2においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、実施例9−1,9−2では、実施例1−9と同様に、比較例1と比較して、放電容量維持率が著しく増加すると共に、電圧降下発生率が著しく減少した。
特に、実施例1−9,9−1,9−2では、セパレータ55の厚さが大きくなるにしたがって、放電容量維持率がほぼ一定に維持されたまま、電圧降下発生率が減少した。この結果は、セパレータ55の厚さが大きくなると、正極53と負極54との間の意図しない通電が抑制されるため、電圧降下が発生しにくくなることを表している。
これらのことから、本発明の二次電池では、セパレータ55の厚さを変更した場合においても、サイクル特性および電圧維持特性が向上することが確認された。この場合には、セパレータ55の厚さを大きくすれば、電圧維持特性がより向上することも確認された。
(実施例10−1〜10−8)
表11に示したように電解液の組成を変更したことを除き、実施例1−9と同様の手順を経た。この際、溶媒中における炭酸ビニレン(VC)、炭酸ビニルエチレン(VEC)、プロペンスルトン(PRS)、スルホ安息香酸無水物(SBAH)あるいはスルホプロピオン酸無水物(SPAH)の含有量を1重量%とした。また、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )の含有量を溶媒に対して0.1mol/kgとした。
これらの実施例10−1〜10−8の二次電池についてサイクル特性および電圧維持特性を調べたところ、表11に示した結果が得られた。
なお、実施例1−9,10−5については、膨れ特性も調べた。この膨れ特性を調べる際には、以下の手順により膨れ率を求めた。最初に、電池状態を安定化させるために23℃の雰囲気中で1サイクル充放電させて、2サイクル目の充電前の厚さを測定した。続いて、同雰囲気中で再び充電させたのち、2サイクル目の充電後の厚さを測定した。最後に、膨れ率(%)=[(充電後の厚さ−充電前の厚さ)/充電前の厚さ]×100を算出した。この際、充電条件は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
表11に示したように、電解液の組成を変更した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、実施例10−1〜10−8では、実施例1−9と同様に、比較例1と比較して、放電容量維持率が著しく増加すると共に、電圧降下発生率が著しく減少した。
特に、溶媒としてハロゲンを構成元素として含む環状炭酸エステル(FEC)、不飽和結合を有する環状炭酸エステル(VC,VEC)、スルトン(PRS)あるいは酸無水物(SBAH,SPAH)を加えたり、電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウムを加えた実施例10−1〜10−8では、それらを加えなかった実施例1−9と比較して、電圧降下発生率がほぼ維持されたまま、放電容量維持率が増加した。
また、PRSを加えた実施例10−5では、それを加えなかった実施例1−9と比較して、膨れ率が著しく小さくなった。
なお、ここでは、溶媒として、化2に示したハロゲンを含む環状炭酸エステルや、化5あるいは化6に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いた場合の結果だけを示しており、化1に示したハロゲンを含む鎖状炭酸エステルや、化7に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いた場合の結果を示していない。しかしながら、ハロゲンを含む鎖状炭酸エステル等は、ハロゲンを含む環状炭酸エステル等と同様に放電容量維持率を増加させる機能を果たすため、前者を用いた場合においても後者を用いた場合と同様の結果が得られることは明らかである。
また、ここでは、電解質塩として六フッ化リン酸リチウムあるいは四フッ化ホウ酸リチウムを用いた場合の結果だけを示しており、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、または化8〜化10あるいは化14〜化16に示した化合物を用いた場合の結果を示していない。しかしながら、過塩素酸リチウム等は、六フッ化リン酸リチウム等と同様に放電容量維持率を増加させる機能を果たすため、前者を用いた場合においても後者を用いた場合と同様の結果が得られることは明らかである。
これらのことから、本発明の二次電池では、電解液の組成を変更した場合においても、サイクル特性および電圧維持特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒として化1に示したハロゲンを含む鎖状炭酸エステルおよび化2に示したハロゲンを含む環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、化5〜化7に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルや、スルトンや、酸無水物を用いれば、サイクル特性がより向上することも確認された。また、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムのうちの少なくとも1種や、化8〜化10に示した化合物や、化14〜化16に示した化合物を用いれば、サイクル特性がより向上することも確認された。特に、スルトンを用いれば、膨れ特性も向上することが確認された。
(実施例11−1,11−2)
以下の手順により、図7〜図9に示した角型の二次電池を製造したことを除き、実施例1−9と同様の手順を経た。
まず、正極21および負極22を作製したのち、正極集電体21Aおよび負極集電体22Aにそれぞれアルミニウム製の正極リード24およびニッケル製の負極リード25を溶接した。続いて、正極21と、セパレータ23と、負極22とをこの順に積層し、長手方向において巻回させたのち、扁平状に成形することにより、電池素子20を作製した。続いて、表12に示した金属製の電池缶11の内部に電池素子20を収納したのち、その電池素子20上に絶縁板12を配置した。続いて、正極リード24および負極リード25をそれぞれ正極ピン15および電池缶11に溶接したのち、電池缶11の開放端部に電池蓋13をレーザ溶接して固定した。最後に、注入孔19を通じて電池缶11の内部に電解液を注入し、その注入孔19を封止部材19Aで塞ぐことにより、角型電池が完成した。
これらの実施例11−1,11−2の二次電池についてサイクル特性および電圧維持特性を調べたところ、表12に示した結果が得られた。
表12に示したように、電池構造を変更した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、実施例11−1,11−2では、実施例1−9と同様に、比較例1と比較して、放電容量維持率が著しく増加すると共に、電圧降下発生率が著しく減少した。
特に、電池構造が角型である11−1,11−2では、ラミネートフィルム型である実施例1−9と比較して、放電容量維持率が増加すると共に、電圧降下発生率が減少した。また、角型の場合には、電池缶11がアルミニウム製である場合よりも鉄製である場合において、放電容量維持率が増加すると共に、電圧降下発生率が減少した。
なお、ここでは具体的な実施例を挙げて説明しないが、外装部材が金属材料からなる角型である場合において、フィルムからなるラミネートフィルム型である場合よりもサイクル特性および電圧維持特性が向上したことから、外装部材が金属材料からなる円筒型の二次電池においても同様の結果が得られることは明らかである。
これらのことから、本発明の二次電池では、電池構造を変更した場合においても、サイクル特性および電圧維持特性が向上することが確認された。この場合には、電池構造が角型あるいは円筒型であれば、両特性がより向上することも確認された。
上記した表1〜表12および図15〜図17の結果から、本発明の二次電池では、ケイ素を構成元素として含む負極活物質を含有する負極活物質層上に、3次元網目状の一体型構造を有する被膜を形成することにより、負極活物質の種類および組成や、負極集電体の構成や、電解液の組成などに依存せずに、サイクル特性および電圧維持特性が向上することが確認された。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、リチウムイオン二次電池として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明のリチウムイオン二次電池は、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に伴う容量とリチウムの析出および溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和によって表される場合についても、同様に適用可能である。この場合には、負極活物質としてリチウムを吸蔵および放出することが可能な材料が用いられ、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料における充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が角型、円筒型あるいはラミネートフィルム型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、本発明のリチウムイオン二次電池は、コイン型あるいはボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明のリチウムイオン二次電池用負極あるいはリチウムイオン二次電池に関し、負極活物質中における酸素の含有量について、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明しているが、その説明は、含有量が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、含有量が上記した範囲から多少外れてもよい。このことは、負極集電体の表面の十点平均粗さRzなどについても、同様である。
1,22A,42A,54A…負極集電体、2,22B,42B,54B…負極活物質層、2K…空隙、11,31…電池缶、12,32,33…絶縁板、13,34…電池蓋、14…端子板、15…正極ピン、16…絶縁ケース、17,37…ガスケット、18…開裂弁、19…注入孔、19A…封止部材、20…電池素子、21,41,53…正極、21A,41A,53A…正極集電体、21B,41B,53B…正極活物質層、22,42,54…負極、22C,42C,54C…被膜、23,43,55…セパレータ、24,45,51…正極リード、25,46,52…負極リード、35…安全弁機構、35A…ディスク板、36…熱感抵抗素子、40,50…巻回電極体、44…センターピン、56…電解質層、57…保護テープ、61…密着フィルム、60…外装部材、201…負極活物質粒子、201P…扁平粒子、P1…接触部分、P2…非接触部分。