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JP4863071B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Description

この発明は、軟鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼などの難削材を、高い発熱を伴うとともに切刃に対して大きな機械的負荷がかかる高速重切削条件下で切削加工をした場合に、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Al23で示す)層、
からなる硬質被覆層を形成してなる被覆工具において、上記Ti化合物層におけるTiの一部を10原子%以下程度のCrで置換することによって、切削工具特性を向上させるようにした被覆工具が知られている。
また、一般に、上記の被覆工具の硬質被覆層を構成するTi化合物層やAl23層が粒状結晶組織を有し、さらに、前記Ti化合物層を構成するTiCN層を、層自身の強度向上を目的として、通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとして有機炭窒化物を含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度域で化学蒸着することにより縦長成長結晶組織をもつTiCN層(以下、l−TiCN層で示す)を形成することも知られている。
特開平6−31503号公報 特開平6−8010号公報 特開平10−244405号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工における省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削効率の向上を目的として、切削速度を高速化する傾向にあるが、上記の従来被覆工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削に用いた場合には問題はないが、特にこれを軟鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼などの難削材の高速重切削条件で用いた場合、これを構成する硬質被覆層は、下部層のTi化合物層による高温強度、同上部層のAl23層による高温硬さを具備するものの、前記Ti化合物層による特に高温強度が不十分であるために、熱塑性変形に由来する偏摩耗を発生しやすく、その結果、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の被覆工具の硬質被覆層の耐チッピング性向上をはかるべく、これの下部層であるTi化合物層のうちで相対的に高い高温強度を有するl−TiCN層の一部をCrで置換した(Ti,Cr)CN層に着目し、研究を行った結果、
(a)従来被覆工具の硬質被覆層において、下部層を構成するTi化合物層のうちの(Ti,Cr)CN層(以下、「従来Ti系CN層」という)は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、TiCl:3〜10%、CrF:0.1〜0.4%、CHCN:0.5〜3%、N2:20〜40%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件(通常条件という)で蒸着形成されるが、
反応ガス組成:容量%で、TiCl:1〜5%、CrCl:0.7〜2.5%、CHCN:3〜6%、N2:20〜40%、HCl:0.5〜2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:5〜20kPa、
の条件、すなわち上記の通常条件に比して、反応ガス成分の一つであるCrFにかえて少量のCrClおよびHClを加え、さらにTiClの含有割合を少なく、CHCNの含有割合を多くした条件で蒸着すると、
組成式:(Ti1−QCr)CN
で表した場合、Q=0.12〜0.20(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物層が蒸着形成される。
そして、上記TiとCrの複合炭窒化物層に対して、さらに、雰囲気圧力6〜60kPaのH2ガス雰囲気中で、1030〜1080℃×5〜10時間熱処理を行うと、
組成式:(Ti1−XCr)CN
で表した場合、X=0.05〜0.15(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物からなるマトリックス相と、
組成式:(Ti1−YCr)CN
で表した場合、Y=0.2〜0.8(但し、原子比)を満足するCr含有割合であって、しかも、結晶粒界に連続的に析出しているTiとCrの複合炭窒化物からなる析出相、
上記マトリックス相と析出相とからなるTi系炭窒化物層(以下、「改質Ti系CN層」で示す)が形成されること。
(b)そして、上記の改質Ti系CN層は、マトリックス相中へのCr含有により高温硬さが向上するとともに、粒界に連続的に析出した析出相によって耐熱性が向上するため、硬質被覆層の構成層として上記の改質Ti系CN層を備えた被覆工具は、高温硬さと耐熱性の向上により、難削材の高速重切削加工においてもすぐれた耐熱塑性変形性を示し、その結果、偏摩耗の発生が防止され長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すようになること。
以上(a)、(b)に示される研究結果を得たのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
「炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に下部層と上部層とからなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)上記下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有する蒸着で形成された密着性Ti化合物層と改質Ti系炭窒化物層とからなり、
(b)上記密着性Ti化合物層は、0.5〜5μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、
(c)上記改質Ti系炭窒化物層は、2.5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、マトリックス相と析出相からなる組織を有し、
上記マトリックス相は、
組成式:(Ti1−XCr)CN
で表した場合、X=0.05〜0.15(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物であり、また、
上記析出相は、
組成式:(Ti1−YCr)CN
で表した場合、Y=0.2〜0.8(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物であって、マトリックス相の結晶粒界に連続的に析出していること、
(d)上記上部層は、蒸着で形成された1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
からなることを特徴とする硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆工具の硬質被覆層について、上記の通りに限定した理由を以下に説明する。
(a)下部層の密着性Ti化合物層
密着性Ti化合物層は、工具基体、改質Ti系CN層および上部層であるAl23層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が0.5μm未満では、所望のすぐれた密着性を確保することができず、一方前記密着性は5μmまでの合計平均層厚で充分であることから、その合計平均層厚を0.5〜5μmと定めた。
(b)下部層の改質Ti系CN層
改質Ti系CN層の形成は、2段階に分けて行い、まず、第1段階では、
反応ガス組成:容量%で、TiCl:1〜5%、CrCl:0.7〜2.5%、CHCN:3〜6%、N2:20〜40%、HCl:0.5〜2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:5〜20kPa、
の条件で、
組成式:(Ti1−QCr)CN
で表した場合、Q=0.12〜0.20(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物からなる層を予め蒸着形成し、その後の第2段階として、雰囲気圧力6〜60kPaのH2雰囲気ガス中で、1030〜1080℃の温度範囲で5〜10時間熱処理を行うことによって、所定のマトリックス相と析出相からなる改質Ti系CN層を得るが、上記組成式:(Ti1−QCr)CNにおいて、Crの含有割合Qの値が0.12未満の場合には、熱処理を行ってもマトリックス相の結晶粒界に連続した析出相を形成することができないため、耐熱性の向上が期待できず、また、Crの含有割合Qの値が0.20を超える場合には、析出相の粗大化による高温強度の低下が生じるようになることから、Crの含有割合Qの値は、0.12〜0.20(但し、原子比)の範囲に定めた。
予め蒸着した上記組成式:(Ti1−QCr)CNで表されるTiとCrの複合炭窒化物層を、第2段階として、雰囲気圧力6〜60kPaのH2雰囲気ガス中で、1030〜1080℃の温度範囲で5〜10時間熱処理を行うことによって、
組成式:(Ti1−XCr)CN
で表した場合、X=0.05〜0.15(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物からなるマトリックス相と、
組成式:(Ti1−YCr)CN
で表した場合、Y=0.2〜0.8(但し、原子比)を満足するCr含有割合であって、しかも、結晶粒界に連続的に析出しているTiとCrの複合炭窒化物からなる析出相、
が形成されるが、改質Ti系CN層のマトリックス相において、Tiとの合量に占めるCrの含有割合X(=Cr/(Ti+Cr))が0.05未満では、l−TiCN層中のTiの一部をCrで置換したことによるマトリックス相の高温硬さ向上効果が少なく、さらに、組成式:(Ti1−YCr)CNで表される析出相の結晶粒界への連続析出が起こらないため、粒界における連続的な析出相の存在による耐熱性向上効果を期待できない。一方、上記マトリックス相におけるTiとの合量に占めるCrの含有割合Xが0.15を超えると、複合炭窒化物の相形態変化による脆化、結晶粒界における連続析出相(組成式:(Ti1−YCr)CNで表されるTiとCrの複合炭窒化物析出相)の粗大化、マトリックス相と析出相との界面の脆化等により、改質Ti系CN層の特性が劣化し、チッピングを発生しやすくなる。
したがって、組成式:(Ti1−XCr)CNで表した場合のマトリックス相における、Tiとの合量に占めるCrの含有割合X(=Cr/(Ti+Cr))を、0.05〜0.15(但し、原子比)の範囲に定めた。
また、改質Ti系CN層のマトリックス相の結晶粒界に、連続的に析出するTiとCrの複合炭窒化物からなる析出相を、組成式:(Ti1−YCr)CNで表した場合、Tiとの合量に占めるCrの含有割合Y(=Cr/(Ti+Cr))が0.2未満では、Crリッチな析出相が結晶粒界に連続的に析出しないため耐熱性向上効果を期待できず、一方、析出相におけるTiとの合量に占めるCrの含有割合Yが0.8を超えると、析出相の急激な粗大化が起こり、同時に、マトリックス相との界面の脆化が激しくなり、改質Ti系CN層全体としての高温強度低下を招くことになる。
したがって、組成式:(Ti1−YCr)CNで表した場合の析出相における、Tiとの合量に占めるCrの含有割合Y(=Cr/(Ti+Cr))を、0.2〜0.8(但し、原子比)の範囲に定めた。
上記のとおり、マトリックス相におけるCrの含有割合Xを0.05〜0.15に、また、析出相におけるCrの含有割合Yを0.2〜0.8とした改質Ti系CN層を有することによって、硬質被覆層はすぐれた高温硬さとすぐれた耐熱塑性変形性を備えたものとなる。そして、上記のごとき数値範囲のX、Yのマトリックス相、析出相を得るためには、組成式:(Ti1−QCr)CN(但し、Q=0.12〜0.20)で表されるTiとCrの複合炭窒化物層を予め蒸着形成しておき、これを熱処理することによって、マトリックス相、析出相を形成することができるが、熱処理条件を定めたのは、以下の理由による。
即ち、蒸着膜形成時より温度を高く(約1050℃)し、H2ガス雰囲気中(雰囲気圧力6〜60kPa)で、1030〜1080℃×5〜10時間の熱処理を行うことによって、上記(Ti1−QCr)CNというほぼ均一固溶体のTiとCrの複合炭窒化物において、相対的にCrリッチなTiとCrの複合炭窒化物相(析出相)の粒界析出が促進されると同時に、Xの値、Yの値が前記数値範囲となるマトリックス相および析出相が形成されるが、熱処理の雰囲気ガス、圧力、加熱温度、加熱時間が上記熱処理条件から外れた場合には、マトリックス相、析出相のXの値、Yの値が前記数値範囲から外れることになるため、すぐれた高温硬さ、耐熱性、耐熱塑性変形性を備えた改質Ti系CN層を得ることはできない。
改質Ti系CN層の層厚について、その層厚が2.5μm未満では、すぐれた高温硬さおよびすぐれた耐熱性という硬質被覆層の良好な特性を長期に亘って十分発揮することができず、一方、層厚が15μmを超えると、例えば、高速重切削という厳しい切削条件では、チッピングを発生しやすくなることから、改質Ti系CN層の層厚は2.5〜15μmと定めた。
(c)上部層の酸化アルミニウム層(Al23層)
Al23層は、それ自身の有するすぐれた高温硬さと耐熱性により、硬質被覆層にすぐれた耐摩耗性を付与せしめるが、その平均層厚が1μm未満では、前記特性を十分に発揮することができず、一方、平均層厚が15μmを超えると、高速断続切削条件下では、切刃部にチッピングを発生しやすくなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
Al23の代表的な結晶構造として、特にすぐれた高温硬さと耐熱性を備えるα型−Al23の他、これに比べて相対的に高温硬さは低いが、高温強度が高いκ型−Al23等があるが、この発明では、Al23層の結晶構造については特に規定せず、α型−Al23層とκ型−Al23層等のいずれをも用いることができる。
なお、切削工具の使用前後の識別を目的として、黄金色の色調を有するTiN層を最表面層として、必要に応じて蒸着形成してもよいが、この場合、十分な識別効果を得るためには、平均層厚は0.1〜1μmであることが望ましい。
この発明の被覆工具によれば、高熱発生を伴いかつ大きな機械的負荷がかかる軟鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼等の難削材の高速重切削加工でも、硬質被覆層の下部層のうちの改質Ti系CN層が一段とすぐれた高温硬さと耐熱性を有することによって、熱塑性変形による偏摩耗の発生が抑制され、硬質被覆層は長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すものとなる。
つぎに、この発明の被覆工具および製造方法を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で20時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.05mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120412に規定するスローアウエイチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Fをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比で、TiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで20時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜fを形成した。
つぎに、これらの工具基体A〜Fおよび工具基体a〜fの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、硬質被覆層の下部層として、改質Ti系CN層および密着性Ti化合物層からなる下部層を表3、4に示される条件で、表5に示される組み合わせおよび目標層厚で蒸着形成し、ついで同じく表3に示される条件にて、上部層としてのAl23層を同じく表5に示される組み合わせで、かつ目標層厚で蒸着形成することにより本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
なお、マトリックス相の粒界に析出相が連続的に析出した組織状態の改質Ti系CN層を形成するための具体的な熱処理条件(イ)〜(ト)については表4に示す。
また、比較の目的で、硬質被覆層の下部層として、密着性Ti化合物層および従来Ti系CN層を表3に示される条件で、表6に示される組み合わせおよび目標層厚で蒸着形成し、さらに上部層としてのAl23層を、表3に示される条件で、かつ同じく表6に示される目標層厚で蒸着形成することにより従来被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
ついで、上記の本発明被覆工具1〜13および従来被覆工具1〜13について、これの硬質被覆層の構成層を電子線マイクロアナライザー(EPMA)およびオージェ分光分析装置を用いて観察(層の縦断面を観察)したところ、前者および後者とも目標組成と実質的に同じ組成を有する密着性Ti化合物層、改質Ti系CN層(マトリックス相と析出相)、従来Ti系CN層、さらにAl23層からなることが確認され、また、析出相は、マトリックス相の粒界に連続的に析出していることが確認された。さらに、硬質被覆層の各構成層の厚さを、同じく走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
つぎに、上記の各種の被覆サーメット工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具1〜13および従来被覆工具1〜13について、
被削材:JIS・SS400の丸棒、
切削速度: 570 m/min、
切り込み: 2.0 mm、
送り: 0.7 mm/rev、
切削時間: 7 分、
の条件(切削条件Aという)での軟鋼の湿式高送り高速切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、300m/min、0.3mm/rev)、
被削材:JIS・SUS309Sの丸棒、
切削速度: 320 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.65 mm/rev、
切削時間: 7 分、
の条件(切削条件Bという)でのステンレス鋼の湿式高送り高速切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、160m/min、0.25mm/rev)、
被削材:JIS・SCMnH2の丸棒、
切削速度: 420 m/min、
切り込み: 5.0 mm、
送り: 0.25 mm/rev、
切削時間: 7 分、
の条件(切削条件Cという)での高マンガン鋼の湿式高切り込み高速切削試験(通常の切削速度および切り込みは、それぞれ、220m/min、2.0mm)、
を行い、いずれの切削試験(水溶性切削油使用)でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7に示した。
Figure 0004863071
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Figure 0004863071
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Figure 0004863071

Figure 0004863071
表5〜7に示される結果から、本発明被覆工具1〜13は、いずれも硬質被覆層の下部層のうちの改質Ti系CN層が、すぐれた高温硬さを示し、特に、粒界への連続析出相の存在によって、その耐熱性が向上することから、高い熱発生を伴い、かつ大きな機械的負荷が作用する例えば軟鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼等の難削材の高速重切削でも、前記改質Ti系CN層が一段とすぐれた高温硬さと耐熱塑性変形性を有するため、熱塑性変形に由来する偏摩耗の発生が防止され、その結果、硬質被覆層が長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すのに対して、硬質被覆層の下部層が従来Ti系CN層で構成された従来被覆工具1〜13においては、いずれも高速重切削では硬質被覆層の熱塑性変形による偏摩耗の発生により、硬質被覆層の耐摩耗性は非常に劣ったものであり、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆工具によれば、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、高い熱発生を伴うとともに大きな機械的負荷がかかる例えば軟鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼等の難削材の高速重切削でも硬質被覆層がすぐれた耐熱性、耐熱塑性変形性を有し偏摩耗の発生を防止するため、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に下部層と上部層とからなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
    (a)上記下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有する蒸着で形成された密着性Ti化合物層と改質Ti系炭窒化物層とからなり、
    (b)上記密着性Ti化合物層は、0.5〜5μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、
    (c)上記改質Ti系炭窒化物層は、2.5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、マトリックス相と析出相からなる組織を有し、
    上記マトリックス相は、
    組成式:(Ti1−XCr)CN
    で表した場合、X=0.05〜0.15(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物であり、また、
    上記析出相は、
    組成式:(Ti1−YCr)CN
    で表した場合、Y=0.2〜0.8(但し、原子比)を満足するCr含有割合のTiとCrの複合炭窒化物であって、マトリックス相の結晶粒界に連続的に析出していること、
    (d)上記上部層は、蒸着で形成された1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
    からなることを特徴とする硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具。
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