ところで、このような丸駒インサートでは、上述のように波形円周状をなす切刃のうち工具本体に取り付けられた状態で切削に供されるのは、加工条件等にもよるが通常は工具本体の先端側に突出した部分から外周側に向けられた部分までの略1/4円弧程度の範囲内であり、こうして切削に供された部分で切刃に摩耗や損傷等が生じると、他の未使用の切刃部分が切削に供される部分に位置するようにインサート本体をその円板の中心線回りに所定角度ずつ回転させてインサート取付座に取り付け直し、切削加工を続けるようにしている。従って、切刃の全周のうち1/4円弧ずつが切削に供されるとすると、インサート本体を90°ずつ回転させて取り付けることにより、1つの丸駒インサートの1つの円形面で4回の使い回しが可能となる。
ところが、上記丸駒インサートは、そのインサート本体が概略円板状であるため、このように未使用の切刃部分を切削に供するのにインサート本体を回転させてインサート取付座に取り付け直す際、正確に所定角度ずつ回転させたかを判別することが困難であり、この回転の角度が所定角度と異なった状態でインサート本体が誤ってインサート取付座に取り付けられる、いわゆる誤装着が生じるおそれがある。そして、この回転角度が大きすぎた状態でインサート本体が取り付け直されて誤装着されると、使用済みの切刃部分と切削に供する切刃部分との間に未使用の切刃部分が残されてしまい、上述のように切刃を1/4円弧部分ずつ使用しての4回の使い回しができなくなって非経済的となる一方、逆に回転角度が少ない状態で誤装着されると、使用済みの摩耗したり損傷したりした切刃が再使用されることになって、切削性能の低下を招いたり、加工面に大きな傷を残されたりするおそれがある。
この点、例えば上記特許文献1に記載の切削工具では、インサート取付座にピンが立設されていて、このピンにインサート本体の周面に延びる凹部(ニック溝)を位相合わせして固定するようにしており、従ってインサート本体を取り付け直す際の回転角度に応じた所定の数だけ凹部をずらして位相を合わせれば、所定角度ずつインサート本体を回転させて取り付けることは可能であるが、凹部が多い場合などにはその所定の数自体を判別することが困難となり、やはり回転角度に過不足が生じるおそれがある。しかも、この特許文献1記載の丸駒インサートは、その中心線回りには、クランプねじによる押圧力と凹部へのこのピンの係合によってのみ固定されており、従ってインサート本体に中心線回りの回転力が上記クランプねじを緩める方向に大きく作用したときには、ピンが破損してインサートがずれ動いたり脱落したりするおそれがある。
一方、特許文献2に記載の切削工具では、インサート本体の上記すくい面とは反対側の着座面とされる円形面にこれより一回り小さな断面正方形状の凸部が形成されるとともに、この着座面が着座するインサート取付座の取付座底面には上記凸部が嵌合可能なやはり断面正方形の凹部が形成されていて、これら凹凸部が嵌合して丸駒インサートが取り付けられており、従ってインサート本体を90°ずつ確実に回転させて取り付け直すことは可能である。しかしながら、この特許文献2記載の切削工具では、こうして凹部や凸部をインサート取付座やインサート本体に形成しなければならないため、工具本体においては凹部によってインサート取付座周辺の剛性が損なわれて、過大な負荷が作用したときには損傷が生じるおそれがあり、またインサートにおいては凸部によってコスト高となることが避けられないとともに、上記中心線回りに過大な回転力が作用したときには着座面と凸部との境界からインサート本体が破損してしまうおそれがある。
本発明は、このような背景の下になされたもので、例えば金型の深掘り加工等においてビビリを低減するために、概略円板状のインサート本体の周面にニック溝が形成された丸駒インサートおよび該インサートを取り付けた切削工具において、この丸駒インサートを誤装着することなく所定の角度ずつ正確に回転させて取り付け直すことが可能で、波形円周状の切刃を満遍なく切削に供することができて効率的かつ経済的であり、しかも切削時に過大な負荷が作用したり、特にインサート本体をその中心線回りに回転させるような力が生じたときでも、丸駒インサートのずれ動きや脱落および丸駒インサートや工具本体の破損を防ぐことができて、長期に亙って安定した切削加工が可能な切削工具および丸駒インサートを提供することを目的としている。
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の切削工具は、概略円板状のインサート本体のすくい面とされる円形面と逃げ面とされる周面との交差稜線部に切刃が形成された丸駒インサートが、工具本体に形成されたインサート取付座に着脱可能に取り付けられてなる丸駒インサート着脱式切削工具であって、上記インサート本体の周面には、該周面を切り欠くように延びる複数の切欠面と、上記すくい面に達する複数のニック溝とが、それぞれ上記インサート本体の周方向に等間隔に形成されており、かつ上記ニック溝の数は上記切欠面の数によって割り切れない数とされていて、上記複数の切欠面のうち周方向に一定数の切欠面おきに位置する一部の複数の切欠面同士は、これらの切欠面内の上記周方向における互いに等しい位置に上記複数のニック溝のうち一部のニック溝が延びて、当該インサート本体を上記インサート取付座に取り付けた際の拘束面とされ、上記インサート取付座には、上記インサート本体を当該インサート取付座に取り付けた際に、上記拘束面が当接させられる取付座壁面と、この取付座壁面から突出して該拘束面内に延びた上記一部のニック溝に収容される突起とが形成されていることを特徴とするものである。
また、本発明の丸駒インサートは、概略円板状のインサート本体のすくい面とされる円形面と逃げ面とされる周面との交差稜線部に切刃が形成されるとともに、上記インサート本体の周面には、該周面を切り欠くように延びる複数の切欠面と、上記すくい面に達する複数のニック溝とが、それぞれ上記インサート本体の周方向に等間隔に形成されており、かつ上記ニック溝の数は上記切欠面の数によって割り切れない数とされていて、上記複数の切欠面のうち周方向に一定数の切欠面おきに位置する一部の複数の切欠面同士は、これらの切欠面内の上記周方向における互いに等しい位置に上記複数のニック溝のうち一部のニック溝が延びて、当該インサート本体を丸駒インサート着脱式切削工具の工具本体に形成されたインサート取付座に取り付けた際の拘束面とされることを特徴とする。
このような切削工具および丸駒インサートにおいては、まず切削工具に取り付けられるのが丸駒インサートであって、そのインサート本体の逃げ面とされる周面に、すくい面とされる円形面に達するニック溝が形成されているので、かかる切削工具を例えばラジアスカッタに適用して金型の深掘り加工を行った場合に、剛性の高い回転軸線方向への背分力を大きくするとともに切屑を分断して切削抵抗の低減を図ることにより、ビビリの発生を効果的に抑制して切削条件を低減することなく工具寿命や加工精度の向上を図ることができる。
そして、丸駒インサートでは、そのインサート本体の周面に複数の切欠面が形成されていて、そのうちの一部が拘束面とされており、切削工具ではこの拘束面がインサート取付座の取付座壁面に当接して丸駒インサートが取り付けられるため、拘束面と取付座壁面との面同士の当接で、しかもインサート本体の中心線から切刃に近い周面に形成された拘束面によりインサートを取付座に拘束することができ、この中心線回りの過大な回転力に対しても確実に丸駒インサートを保持してそのずれ動きや脱落を防止し、安定した加工を促すことが可能となる。さらに、取付座底面に凹部を要することがないため、工具本体の強度や剛性が損なわれることもなく、またインサート本体に凸部を要することもないので、丸駒インサートの製造が容易であるとともに低コストで済む。
その一方で、丸駒インサートのインサート本体周面に等間隔に形成された上記ニック溝の数は、拘束面を含めた同じく等間隔に形成される切欠面の数によって割り切れない数とされており、従って少なくとも隣接する切欠面同士では、各切欠面とニック溝との周方向における位置関係が異なるものとなる。そして、これらの切欠面のうち上記拘束面とされる一部の切欠面では、当該切欠面内に一部のニック溝が延びるようにされるとともに、このような拘束面とされる切欠面が一定数おきの切欠面ごとに配設される一方で、切削工具の工具本体においては、この拘束面に延びた一部のニック溝に収容される突起がその上記取付座壁面に形成されているので、ニック溝の数を、拘束面とされる切欠面同士ではその上記一部のニック溝の周方向の位置が互いに等しくなるように設定することにより、拘束面が取付座壁面に当接する際には突起が該拘束面内に延びる一部のニック溝に収容され、拘束面以外の残りの切欠面が取付座壁面に向けられたときには突起が他のニック溝には収容されずに切欠面に当接して、面同士が密着しないようにすることができる。
従って、このような切削工具および丸駒インサートによれば、拘束面ごとにはこれを取付座壁面に当接させてインサート本体をインサート取付座に取り付けることができる一方、拘束面以外は取付座壁面に当接せずに間に突起による隙間が生じることになるので、切欠面の数に対して拘束面が配設される上記一定数を、上述したインサート本体を取り付け直す際の回転角度に応じて設定することで、この回転角度ごとに過不足なく正確にインサート本体を回転させてインサート取付座に取り付けることが可能となる。そして、これにより、誤装着を防止して波形円周状の切刃を確実に満遍なく使い切ることができ、未使用の切刃部分が残されたりすることがなく、また常に未使用の切刃部分を切削に供することができて切削性能の低下や加工面の傷などを生じることもない、効率的かつ経済的な切削加工を図ることが可能となる。
例えば、上記丸駒インサートにおいては、インサート本体に偶数の上記切欠面を形成して、このうち周方向に1つおきの切欠面を上記拘束面とするとともに、ニック溝の数は、この拘束面の数の3以上の奇数倍として、拘束面数の倍となる切欠面の数では割り切れない数とすることにより、拘束面とこれに周方向に隣接する拘束面以外の切欠面とでは、周方向に等間隔に形成されるニック溝の配置が異なるものとなり、取付座壁面への当接の可・不可を設定することができる。より具体的に、上述のようにインサート本体を90°ずつ回転させることにより1つの丸駒インサートで4回の切刃の使い回しを可能とするには、インサート本体周面に8つの切欠面を等間隔に形成しておいて、そのうち1つおきの合計4つの切欠面を拘束面とするとともに、ニック溝は拘束面の数4の3以上の整数倍、例えば12として等間隔に形成しておけば、インサート本体がその中心線回りに90°ずつ回転対称に形成され、拘束面同士ではニック溝が周方向に同じ位置に延びて取付座壁面の突起を収容可能となる一方、拘束面とそれ以外の残りの切欠面とではニック溝が異なる位置に配設されて突起を収容できなくなり、誤装着が防止される。
なお、ここで、ニック溝の数を拘束面の奇数倍とするのに、1倍、すなわち拘束面とニック溝とが同数となるように設定しても、拘束面以外の残りの切欠面にはニック溝が形成されなくなるので、誤装着を防止することは可能となるが、この場合には、例えば上述のように1つの丸駒インサートで4回の切刃の使い回しを可能としたときには、切削に供される1/4円弧の切刃部分でニック溝が1つ、または該切刃部分の両端に2つしか形成されなくなって、切屑の分断生成による切削抵抗の低減効果が不十分となるおそれがある。一方、逆にこのニック溝の数が多すぎるとインサート本体が多く切り欠かれてその強度や剛性が損なわれるおそれが生じるとともに、特に上記拘束面においては取付座壁面との当接面積が減少して不安定となるおそれもあるので、この拘束面には、それぞれ1つの上記一部のニック溝が形成されるのが望ましく、しかもこのニック溝が該拘束面の周方向中央部に延びるように形成されていれば、より安定して拘束面を取付座壁面に当接させることが可能となる。
一方、本発明の切削工具において、特許文献1、2と同様に丸駒インサートがクランプネジによって工具本体に取り付けられる場合、すなわち上記丸駒インサートに、そのすくい面の中央に開口してインサート本体を貫通する取付孔が形成されるとともに、インサート取付座には、インサート本体が着座させられる取付座底面に開口する取付ネジ孔が形成されている場合に、一層確実に誤装着を防止するためには、インサート本体を、上記複数の切欠面のうち拘束面以外の残りの切欠面を取付座壁面に向けて突起に当接させた際には、上記すくい面側から見て取付孔の内周が取付ネジ孔の内周に交差させられるように形成するのが望ましい。これにより、万一インサート本体を誤装着しても、拘束面以外の残りの切欠面が取付座壁面に向けられてこの切欠面が突起に当接した状態では、取付孔に挿通したクランプネジを取付ネジ孔にねじ込むことができないので、直ぐに誤装着と認識することができる。また、上記インサート取付座に、インサート本体の周方向に隣接する一対の上記拘束面にそれぞれ当接する一対の取付座壁面と、これらの取付座壁面から突出する一対の突起とを形成すれば、さらに確実に誤装着を防止できるとともにインサート本体をより安定して保持することが可能となる。
さらに、丸駒インサート側でも誤装着を確実に防ぐためには、上記円形面に、上記拘束面とされる上記一部の切欠面の周方向の位置に合わせて、上記インサート取付座への取付位置を示す指標を設けるのが望ましく、これにより、上記指標をインサート取付座の上記一対の取付座壁面に向けてインサート本体を着座させることで、間違いなく拘束面を取付座壁面に当接させて装着することができる。特に、この指標を、上記円形面に対向する方向から見て、周方向において上記拘束面とされる上記一部の切欠面が延びる方向に平行な直線状とすれば、丸駒インサートを着座させる際に、上記取付座底面に対向する方向から見てこの指標がなす直線を取付座壁面に沿わせるように配置することで、拘束面もこの取付座壁面に沿うように平行に対向させて当接させることができ、誤装着を一層確実に防止することが可能となる。
図1ないし図9は、本発明の切削工具の一実施形態を示すものであり、図10ないし図16は、この切削工具に取り付けられる本発明の丸駒インサートの一実施形態を示すものである。まず、本実施形態の丸駒インサートは、そのインサート本体1が超硬合金等の硬質材料により形成されて中心線Cを中心とした概略円板状をなし、その一方の円板面がすくい面2とされて、このすくい面2の外周に切刃3が形成されている。なお、このインサート本体1の上記すくい面2とこれとは反対の着座面4とされる他方の円板面との間には、インサート本体1を上記中心線Cに沿って貫通するように取付孔5が形成されている。また、上記すくい面2との交差稜線部に切刃3を画成する逃げ面6とされるインサート本体1の周面は、すくい面2側から着座面4側に向かうに従い漸次縮径する中心線Cを中心とした概略円錐面状とされていて、これにより本実施形態の丸駒インサートは切刃3に逃げ角が付されたポジティブインサートとされている。
ここで、この逃げ面6の着座面4側には、上記円錐状面をこれら逃げ面6と着座面4とに鈍角に交差する平面によって面取りするように切り欠くようにして、複数の切欠面7が周方向に等間隔に、かつすくい面2には達しないように形成されており、本実施形態ではこの切欠面7の数は偶数の8とされている。従って、これらの切欠面7は、上記中心線Cに直交する断面が該中心線Cを中心とした正多角形(本実施形態では正8角形)をなして、中心線C回りに45°ずつインサート本体1を回転させたときに重なり合うように形成され、また着座面4はその外周縁にこれらの切欠面7が交差して、図16に示すように正8角形状に形成される。なお、隣接する切欠面7同士の交差稜線部は両切欠面7に滑らかに連なる突曲面状とされ、また切欠面7のすくい面2側の逃げ面4との交差部分は、該切欠面7に滑らかに連なる凹曲面状とされている。
さらに、このインサート本体1の逃げ面6には、インサート本体1の中心線Cに対する径方向内側に凹む複数条のニック溝8が、周方向に等間隔に、また中心線C方向には、切欠面7の途中からすくい面2に向けて凹み始めて該中心線C方向に延び、すくい面2にまで達するように形成されている。これらのニック溝8は、中心線Cに直交する断面においては、その溝底部分が概略凹円弧状をなすとともに、この溝底から周方向両側に向けて逃げ面6に連なる側縁部は、溝底の断面がなす凹円弧よりも半径の小さい凸円弧状を呈して、円錐面状の逃げ面6に略滑らかに連なるように形成され、また中心線Cに沿った断面においては、図14に示すようにその溝底部分が、すくい面2側では逃げ面6の逃げ角または切欠面7の中心線Cに対する傾斜角と略等しい角度で着座面4側に向かうに従い中心線C側に向かうとともに、着座面4側では中心線Cと略平行に延びて切欠面7に切れ上がるように形成されている。
そして、これらのニック溝8の数は、切欠面7の数では割り切れない数とされており、本実施形態では偶数とされた切欠面7の数8の半分の4に対して、これの3以上の奇数倍、特に3倍の12とされている。さらに、このうち一部のニック溝8aは、複数の切欠面7のうち周方向に一定数の切欠面7おきに位置する一部の切欠面7内に延びるように、すなわち該切欠面7の内側に延びてこれを周方向に分断するように形成されていて、特に本実施形態では1つの上記一部のニック溝8aが、1つの上記一部の切欠面7の周方向中央部に延びるように形成されており、こうして一部のニック溝8aが面内に延びるように形成された一部の切欠面7が、拘束面7aとされる。
ここで、切欠面7の数が8、ニック溝8の数が12とされて、それぞれに周方向に等間隔に形成された本実施形態では、一部のニック溝8aが拘束面7a内の周方向中央部に延びると、この拘束面7aに隣接する切欠面7では、一部のニック溝8a以外のニック溝8が2つ、周方向において該切欠面7の両外側部分にそれぞれ延びるように形成されることになり、その次に隣接する切欠面7では再び1つの上記一部のニック溝8aが周方向中央部に延びて、該切欠面7が拘束面7aとされる。すなわち、上記丸駒インサートにおいては、複数(本実施形態では偶数)形成された切欠面7のうち、一定数(本実施形態では1つ)おきの切欠面7が、周方向において所定の位置(本実施形態では中央部)に一部のニック溝8aが延びる拘束面7aとされ、この拘束面7a以外の残りの切欠面7bでは、残りのニック溝8bが拘束面7aとは異なる位置(本実施形態では両側部)に延びるように形成されることになり、このような拘束面7aと残りの切欠面7b、あるいは一部のニック溝8aと残りのニック溝8bとがインサート本体1の周方向に周期的に配設されることになる。
なお、複数のニック溝8自体は、一部のニック溝8aも残りのニック溝8bも互いに等しい断面形状とされていて、インサート本体1を中心線C回りに30°ずつ回転させたときに互いに重なり合うように形成されている。ただし、上記残りの切欠面7bの両側部に形成される残りのニック溝8bは、切欠面7同士が交差するこの両側部の中心線Cからの距離が、上記一部のニック溝8aが形成される拘束面7aの中央部までの距離よりも長いために、該中心線C方向にはこの一部のニック溝8aよりも着座面4に近い位置まで延設されることになる。
一方、このようにニック溝8が形成されることにより、すくい面2外周の上記切刃3は、図11に示すように周方向に等間隔かつ互いに等しい長さの中心線Cを中心とした円弧状に、ニック溝8と同じ数だけ分割されることになる。また、ニック溝8の両側縁部が上述のように断面凸円弧状に形成されていることから、分断された切刃3は、上記中心線Cを中心とした円弧状をなす切刃部3aに対して、その両端部3bが、中心線C方向から見て該切刃部3aよりも曲率半径の小さい凸曲線状に形成されることになる。
ここで、本実施形態では、この切刃3およびニック溝8に連なるすくい面2の外周側部分が、その周回り方向に沿ってインサート本体1の厚さ方向すなわち上記中心線C方向に凹凸するように形成されており、特に分断された切刃3の内周側では、中心線C方向視における上記円弧状の切刃部3aの二等分線上の部分が最も凸となるように、周方向に向けて湾曲する凸曲面状に形成されている。従って、このような凸曲面状のすくい面2の外周に形成される切刃3も、図12および図13に示すように逃げ面6に対向する方向から見て、上記二等分線上の部分、すなわち分断された切刃3の中央部分が中心線C方向に最も凸となる凸曲線状に形成されることになる。
また、このように凸曲面状に形成されたすくい面2には、切刃3に交差するその最外周部に、内周側に向けて上記中心線Cに直交する方向に延びるランド部2aが形成されるとともに、このランド部2aの内周側は切刃3から離間するに従い着座面4側に一定の傾斜角で傾斜する傾斜面部2bとされ、さらにこの傾斜面部2bよりも内周側は、上記取付孔5の開口縁に至るまで、中心線Cに垂直な平面部2cとされている。さらに、上記ランド部2aの幅は、図11に示されるように切刃3の上記円弧状切刃部3aの内側では一定幅とされる一方、両端部3bでは上記切刃部3a側から離間するに従い漸次幅広となるように形成されている。
さらにまた、このすくい面2とされるインサート本体1の円形面には、上記拘束面7aとされる一部の切欠面7の周方向の位置に合わせて、次述するインサート取付座への取付位置を示す指標9が設けられている。この指標9は、本実施形態ではすくい面2のうち上記平面部2cに形成された凹溝であって、このすくい面2とされる円形面に中心線Cに沿って対向する方向から見たときに、上記拘束面7aとされる一部の切欠面7が周方向に延びる方向に平行となるような直線状に延びる長円形に形成されている。なお、このような凹溝を指標9として設けるのに代えて、インサート本体1の円形面に凸となる突条を指標9として例えば上記と同様に一部の切欠面7が周方向に延びる方向に平行となる直線状に延設してもよい。
従って、上述のように8つの切欠面7が中心線Cに直交する断面において正8角形をなすようにして中心線C回りに45°ずつ回転対称に形成され、このうち周方向に1つおきの一部の切欠面7が拘束面7aとされた本実施形態の丸駒インサートでは、上記指標9も正8角形の1つおきの辺ごとの位置に配設されて、周方向に隣接するもの同士が直交する方向に延びるように形成されることになる。そして、これらの拘束面7aの周方向中央部にはニック溝8のうち上記一部のニック溝8aが延びていてすくい面2にまで達しているので、上記すくい面2に対向する方向から見て直線状に延びる長円形の上記指標9は、図11に示すように中心線Cと上記一部のニック溝8aとを結ぶ径線に対して、その中点で直交することになる。
このような丸駒インサートが取り付けられる本実施形態の切削工具は、その工具本体11が図1ないし図3に示すように軸線Oを中心とした概略円筒状をなし、その後端部(図1および図2において上側部分)が工作機械の主軸端に取り付けられることにより、上記軸線O回りに図3に符号Tで示す工具回転方向に回転されつつ該軸線Oに垂直な方向に送り出され、取り付けられた上記丸駒インサートの切刃3によって被削材を切削してゆく。すなわち、本実施形態の切削工具は、丸駒インサート着脱式の転削工具であり、しかも上記工具本体11の先端部外周に複数のチップポケット12が形成されるとともに、これらのチップポケット12の回転方向T側を向く壁面にはインサート取付座13がそれぞれ形成され、これらのインサート取付座13に上記実施形態の丸駒インサートがその円周状の切刃3の一部を工具先端外周側に向けて着脱可能に取り付けられた、ラジアスカッタの構成とされている。
ここで、上記インサート取付座13は図5に示すように、工具回転方向T側を向いてインサート本体1の上記着座面4が密着する底面(取付座底面)13aと、この底面13aの工具後端側と内周側とに屹立して工具回転方向T側に延びる一対の壁面(取付座壁面)13b,13cとを備えており、これらの壁面13b,13cは、底面13aに対しては、インサート本体1の上記切欠面7が着座面4に対してなす角度と等しい角度で傾斜させられるとともに、壁面13b,13c同士では、周方向に1つおきの一対の切欠面7同士が交差する角度と等しい角度をなすように形成され、すなわち底面13aに平行な断面において直交する方向に形成されている。ただし、これらの壁面13b,13c同士の間、および該壁面13b,13cと底面13aとの間には、インサート本体1とインサート取付座13との干渉を防ぐための凹所(ヌスミ部)13dがそれぞれ形成されている。また、底面13aには取付ネジ孔13eが垂直に穿設されている。
そして、これらの壁面13b,13cには、該壁面13b,13cから突出する突起13fが、それぞれ壁面13b,13cの幅方向(壁面13bにおいては工具本体1の径方向、壁面13cにおいては軸線O方向)の略中央部に1つずつ形成されている。この突起13fは、例えば図6(a)に示されるように上記底面13aに対向する方向から見て壁面13b,13cに沿う長方形をなし、また各壁面13b,13cと底面13aとに沿う方向から見た場合には、例えば図6(b)に示すようにその壁面13b,13cから突出した側の突端面が底面13aに垂直とされて、壁面13b,13cに対しては底面13a側から離間するに従い漸次突出してゆくように形成されており、その大きさおよび底面13aからの高さは、インサート本体1の上記切欠面7のうち拘束面7aを該壁面13b,13cに当接させた際に、その周方向中央部に形成された上記一部のニック溝8a内に収容可能なものとされている。
言い換えれば、上述のように幅方向中央部に突起13fが形成された壁面13b,13cには、図5に示すように切欠面7のうち周方向中央部に一部のニック溝8aが形成された拘束面7aだけしか当接させることができず、この周方向中央部にニック溝8が形成されていない残りの切欠面7bを当接させようとしても、図8および図9(b)に示すように突起13fがこの切欠面7bに当接してしまって壁面13b,13cとの間に隙間が生じ、切欠面7bを壁面13b,13cに密着させて当接させることは不可能となる。さらに、一対の壁面13b,13cにそれぞれ突起13fが形成された本実施形態では、インサート本体1の周方向に1つの上記残りの切欠面7bを介して隣接する一対の拘束面7aが、これらの突起13fをそれぞれの上記一部のニック溝8aに収容した状態で、壁面13b,13cに当接可能とされる。
さらに、底面13aに穿設された上記取付ネジ孔13eは、こうして突起7fをニック溝8aに収容して一対の拘束面7aを壁面13b,13cに当接させるとともに着座面4を底面8aに密着させてインサート本体1をインサート取付座13に着座させた状態で、図6(a)や図7(a)に示すようにその内周がインサート本体1の取付孔5内に開口して、すくい面2側から取付孔5に挿通されたクランプネジ14がねじ込み可能とされている。なお、この取付ネジ孔13eは、クランプネジ14をねじ込むことによって丸駒インサートが上記壁面13b,13cの間の凹所13d側に押し付けられるように、着座させられたインサート本体1の中心線Cからこの凹所13d側に向けて僅かに偏心させられている。
従って、こうして取付孔5に挿通されたクランプネジ14が取付ネジ孔13eにねじ込まれることにより、上記実施形態の丸駒インサートは、上述のように底面13aに着座面4を密着させるとともにすくい面2を工具回転方向T側に向け、また上記壁面13b,13cに上記一対の拘束面7aを押し付けるように当接させて上記中心線C回り方向に拘束され、さらにすくい面2外周の切刃3の1/4を工具本体11先端の軸線Oに対して外周側に離れた位置から後端外周側に延びるように先端外周側に突出させて、インサート取付座13に固定される。なお、本実施形態ではこうして先端外周側に突出させられて切削に供される切刃3部分に、図2に示すように正の軸方向すくい角と図3に示すように負の径方向すくい角とが与えられるようになされている。
その一方で、この取付ネジ孔13eは、上述のようにインサート本体1がその複数の切欠面7のうち上記拘束面7a以外の残りの切欠面7bを壁面13b,13cに向けて突起13fに当接させた際には、インサート本体1のすくい面2側から見て図9(a)に示すように、取付孔5の内周が取付ネジ孔13eの内周に交差するように位置させられている。従って、この状態でクランプネジ14を取付孔5に挿通しても、取付ネジ孔13eにねじ込むことはできない。
さらにまた、工具本体11に複数のチップポケット12およびインサート取付座13が形成された本実施形態の切削工具では、これらのインサート取付座13に装着された丸駒インサートの切削に供される切刃3間で、ニック溝8によって分割された上記切刃部3aの位相が、軸線O回りの回転軌跡においてずらされるように構成されている。ここで、本実施形態では、図3に示すように工具本体11に6つのインサート取付座が周方向に等間隔に形成されており、このうち軸線Oを挟んで互いに反対側に位置する一対のインサート取付座13に取り付けられた丸駒インサート同士では上記位相が同じになるようにされる一方、周方向に隣接する3つのインサート取付座13に取り付けられた丸駒インサート間では、図4に示すように上記位相が、その切刃3のニック溝8により分割された切刃部3a間の間隔を等分するように、すなわち本実施形態では中心線C回りに10°ずつずらされるようにされている。
従って、こうして工具本体11に装着された複数の丸駒インサートでは、その切刃3がニック溝8によって分割されていても、回転軌跡においては図4に示したように上記切刃部3aが連続して略円周状の切刃3が形成されることになる。なお、本実施形態では、いずれのインサート取付座13に取り付けられる丸駒インサートも、そのインサート本体1自体は同形同大の共通のものであり、インサート取付座13の壁面13b,13cの向きを上記3つのインサート取付座13間でずらすことにより、上述のような回転軌跡となるようにされている。ただし、工具本体1の周方向に1つおきの丸駒インサート同士で上記位相が同じになるようにして、周方向に隣接するもの同士の切刃3の回転軌跡が略円周状に形成されるようにしてもよい。
このように構成された切削工具および丸駒インサートにおいては、こうしてニック溝8によって分割された切刃3が回転軌跡において円周状を呈するように丸駒インサートが取り付けられているので、個々の丸駒インサートでは切屑を分断した状態で生成して切削抵抗を低減しつつも、切削工具全体としては削り残しをなくして滑らかな加工面を形成するとともに、切削力のうち工具本体1の軸線O方向への背分力の割合を大きくすることができる。このため、かかる切削工具によって工具突き出し量が大きくなる金型の深掘り加工を行った場合に、この切削力の多くを剛性の高い上記軸線O方向で受け止めることができ、切削抵抗の低減とも相俟って切削条件を低下させることなくビビリの発生を抑制することが可能となり、加工精度の向上や工具寿命の延長を図ることができる。
特に、本実施形態の丸駒インサートでは、ニック溝8によって分割された切刃3が、その内側に連なるすくい面2が周方向に向けて湾曲する凸曲面状をなすことにより、インサート本体1の逃げ面6側から見てその中央部分が中心線C方向に最も凸となる凸曲線状とされており、すくい面が平面状とされて切刃も逃げ面側から見て直線状となる上記特許文献1、2に記載の丸駒インサートおよび切削工具と比べ、該切刃3が金型等の加工面に食い付く際の衝撃を分散させて緩和することができる。
しかも、このように切刃3が凸曲線状とされることにより、切屑は、その断面が幅方向に凸曲した状態で生成されるとともに、これがすくい面2を擦過してカールさせられることにより、上記幅方向に交差する流出方向には反り上がって凹曲させられ、すなわち鞍状に変形させられることになる。従って、切屑は、特にこの幅方向の両端部側で該すくい面2から浮き上がるように離間することになるため切屑離れが良く、さらに伸び切る前にこの幅方向両端部などから引き裂かれるようにして亀裂が生じ、速やかに分断されて処理されることになる。このため、本実施形態の丸駒インサートおよびこれを取り付けた切削工具によれば、このように切屑離れや切屑処理性が良いことにより切削抵抗の一層の低減を図ることができるとともに、食い付き時の衝撃が緩和されることとも相俟って、ビビリの発生を一層確実に防止することが可能となる。
その一方で、上記切刃3に交差するすくい面2の最外周部には、内周側に向けて上記中心線Cに直交する方向に延びるランド部2aが形成されるとともに、このランド部2aの内周側は切刃3から離間するに従い着座面4側に傾斜する傾斜面部2bとされており、従ってこの傾斜面部2bによって切刃3のすくい角をより正角側として切れ味の向上を図りつつも、上記ランド部2aによって切刃3の刃先強度は十分に確保することが可能となる。しかも、このランド部2aは、その幅が、切刃3の上記中心線Cを中心とする円弧状の切刃部3aの内側では一定幅とされる一方、ニック溝8の両側縁部に連なる曲率半径の小さな両端部3bでは、上記切刃部3a側から離間するに従い漸次幅広となるように形成されており、特に本実施形態のように切刃3に正、または負のすくい角を与えたときに最初に加工面に食い付くコーナー部となるこれらの端部3bにおいて、切刃3の強化を図って欠損等の発生を防止することができる。
さらに、上記構成の切削工具および丸駒インサートでは、インサート本体1の逃げ面6とされる周面に形成された複数の切欠面7のうち一部が拘束面7aとされていて、この拘束面7aが工具本体11のインサート取付座13における壁面13b,13cに当接させられた状態で、該インサート本体1がインサート取付座13に取付可能とされている。すなわち、インサート本体1が、その中心線Cからの距離が大きくて切刃3に近い周面に形成された拘束面7aによる面同士の当接によりインサート取付座13に保持されるため取付安定性が高く、例えば本実施形態や特許文献1、2記載の切削工具のように上記中心線Cに沿って形成された取付孔5にクランプネジ14を挿通してインサート本体1を固定した場合に、切削時等にこの中心線C回りにインサート本体1を回転させようとする力が作用しても、インサート本体1がずれ動いたり脱落したりするのを防いで安定した切削加工を促すことができる。
また、丸駒インサートにおいては周面に拘束面7aを含めた切欠面7を形成するだけでよいとともに、切削工具においてもインサート本体1を収容するだけのインサート取付座13を形成するだけでよいので、例えば特許文献2記載の丸駒インサートや切削工具のようにインサート本体に凸部を形成したり、工具本体に凹部を形成したりする必要もなく、インサート本体や工具本体の製造が容易で低コスト化を図ることができるとともに、工具本体においてはその強度や剛性が損なわれて損傷が生じるようなこともない。
そして、さらに上記丸駒インサートにおいては、概略円板状のインサート本体1の周面に形成された上記ニック溝8の数が、同じくこの周面に形成された上記切欠面7の数では割り切れない数とされていて、このうち一部の切欠面7が、一部のニック溝8aが該切欠面7内に周方向に所定の位置で延びた上記拘束面7aとして、周方向に一定数おきの切欠面7ごとに配設されている一方、切削工具においては、そのインサート取付座13の壁面13b,13cに、拘束面7aに延びたニック溝8に収容される突起13fが形成されている。従って、図5ないし図7に示したように上記切欠面7のうち拘束面7aのみを壁面13bに当接させてインサート本体1を取り付けることができ、この拘束面7aが切欠面7中に配設される上記一定数おきの間隔を、切刃3の全円周における切削時の切刃3の使用範囲に応じて設定することで、インサート本体1取付時の誤装着を防いで該切刃3を満遍なく使い切ることが可能となる。
すなわち、本実施形態の丸駒インサートでは、切欠面7の数が偶数の8とされて、そのうち周方向に1つおきの4つの切欠面7が拘束面7aとされているのに対して、ニック溝8の数がこの拘束面7aの数の3以上の奇数倍である3倍の12とされて、切欠面7の数では割り切れない数とされており、拘束面7aは中心線C回りに周方向に90°おきに配設されることになって、これらの拘束面7aでは、その面内の周方向における所定の位置(本実施形態では周方向の中央部)に周期的に突起13fを収容可能な上記一部のニック溝8aが延設される一方、残りの切欠面7bではこの所定の位置にニック溝8は形成されず、図8および図9に示したように突起13fが切欠面7bに当接してしまうため、壁面13b,13cと切欠面7bとを面接触させて当接させることはできない。
このため、切刃3の工具先端外周側に向けられた部分が切削に供されることによって摩耗等が生じた際に、インサート本体1を回転させて他の未使用の部分の切刃3が工具先端外周側に向くように取り付け直すときでも、拘束面7a以外の残りの切欠面7bを壁面13b,13cに当接させるような取り付け間違いを起こすことなく、本実施形態では中心線C回りに90°ずつ正確にインサート本体1を位置決めしてインサート取付座13に取り付けることができる。すなわち、1つの丸駒インサートで確実に4回の切刃3の使い回しが可能となり、回転角度が大きすぎて未使用の切刃部分が残されるために4回の使い回しができなくなったり、逆に回転角度が小さかったために使用済みの切刃部分が再び切削に供されて切削性能の低下を招いたりするようなことがなく、効率的かつ経済的な切削加工を図ることが可能となる。
ここで、ニック溝8の数が、拘束面7aの数と同数や偶数倍であったりして、切欠面7の数で割り切れると、上記残りの切欠面7bでもニック溝8が拘束面7aと同じ位置に延設されて壁面13b,13cに当接可能となり、例えば90°ずつインサート本体1を位置決めして回転させようとしても、135°あるいは45°回転した状態で誤装着されて過不足が生じてしまうおそれがある。
ただし、言い換えれば、本実施形態の切削工具に係わる工具本体11は、そのような丸駒インサートを装着するのにも兼用することが可能である。すなわち、例えば図17に示すように切欠面7とニック溝8の数がともに8とされて、すべての切欠面7がその周方向中央部にニック溝8が延設されて拘束面7aとされたインサート本体21を有する丸駒インサートを取り付けることも、図18に示すように可能となるので、1つの工具本体11でこのような複数種の丸駒インサートに対応することができて一層経済的であるという利点が得られる。なお、これら図17および図18では、丸駒インサートについて上記実施形態と共通する要素には同一の符号を配してある。
また、本実施形態のように切欠面7の数を偶数として1つおきの切欠面7を拘束面7aとする一方、ニック溝8の数をこの拘束面7aの数の奇数倍とするのに、1倍、すなわちニック溝8と拘束面7aとが同数となるようにしても、誤装着は防止することはできるが、この場合には拘束面7a以外の残りの切欠面7bの部分にはニック溝8が形成されなくなって切屑分断が不十分となるおそれがあるため、本実施形態のように3以上の奇数倍とされるのが望ましい。ただし、このニック溝8の数が多すぎても、インサート本体1の強度や剛性が損なわれたりするとともに、拘束面7aの面積が小さくなってインサート取付座13の壁面13b,13cへの当接が不安定となるおそれが生じるので、拘束面7aには、それぞれ1つずつの上記一部のニック溝8aがその周方向中央部に延設されるように形成されるのが望ましい。
一方、本実施形態の切削工具においては、丸駒インサートがそのインサート本体1の中心線Cに沿って形成された取付孔5にクランプネジ14を挿通してインサート取付座13の底面13aの取付ネジ孔13eにねじ込むことにより、いわゆるクランプオン方式によってインサート取付座13に固定されるが、このとき図9に示したように上記拘束面7a以外の残りの切欠面7bが壁面13b,13cに当接していると、インサート本体1のすくい面2側からのぞき見て上述のように取付孔5の内周が取付ネジ孔13eの内周に交差して、クランプネジ14をねじ込むことができない。すなわち、こうしてインサート本体1が誤装着されているとその固定が不可能となるので、本実施形態によればこのような誤装着が生じること自体を防いで、一層効率的かつ経済的な切削加工を促すことができる。
また、本実施形態では、インサート取付座13に一対の壁面13b,13cが形成されていて、これらの壁面13b,13cにそれぞれ1つずつの一対の突起13fが形成されており、これらの壁面13b,13cが、インサート本体1の周方向に1つの上記残りの切欠面7bを介して隣接する一対の拘束面7aに当接することにより、丸駒インサートが保持されている。従って、インサート本体1をより安定してインサート取付座13に固定することができるとともに、両壁面13b,13cの突起13fに上記一部のニック溝8aを収容しなければインサート本体1を着座させることができないので、一層確実に誤装着の防止を図ることが可能となる。
さらに、本実施形態の丸駒インサートでは、インサート本体1のすくい面2とされる円形面に、取付時に上記インサート取付座13の壁面13b,13cに当接させられる拘束面7aの位置に合わせて指標9が設けられていて、インサート取付座13への丸駒インサートの取付位置が示されている。従って、この指標9を壁面13b,13cに向けてインサート本体1をインサート取付座13に着座させることによって、確実かつ容易に拘束面7aとされる一部の切欠面7をこれら壁面13b,13cに当接させてインサート本体1を取り付けることが可能となる。
しかも、この指標9は、すくい面2とされるインサート本体1の円形面に対向する方向から見て、平面状の拘束面7aが周方向において延びる方向に平行な直線状に延びるように形成されているので、壁面13b,13cに当接させるべき拘束面7aに沿った上記指標9が、インサート取付座13の底面13aに対向する方向から見てこれらの壁面13b,13cと平行となるように、インサート本体1をすくい面2側から見ながら向きを合わせてインサート取付座13に着座させるだけで、極めて簡単に、しかしながらより一層確実に誤装着を防いで丸駒インサートを取り付けることが可能となる。すなわち、図8および図9に示したように、拘束面7a以外の残りの切欠面7bが壁面13b,13cに向けられて突起13fが切欠面7bに当接することにより面接触させて当接させることはできない場合などには、図9(a)に示すように指標9が壁面8b,8cとは異なる位置や向きになるので、これを目視によって容易に判別して誤装着を確実に防止することができるのである。
なお、本実施形態ではこのようにインサート取付座13の壁面13b,13cの1つにそれぞれ1つの突起13fが形成されて、この突起13fが拘束面7aごとに1つずつ延設された上記一部のニック溝8aに収容可能とされているが、例えばこの突起13fを、壁面13b,13cにそれぞれ2つずつ、互いにインサート本体1において隣接するニック溝8の周方向の間隔と等しい間隔で形成することにより、上記実施例とは逆に、上記のこりの切欠面7bを拘束面として壁面13b,13cに当接させ、インサート本体1を着座させることができる。ただし、この残りの切欠面7bは、その両側縁にニック溝8が延設されるため、図12に示した拘束面7aとされる切欠面7に比べて、図13に示すように面積が小さくなって当接が不安定となるおそれがあるので、突起13fはやはり本実施形態のように壁面13b,13cごとに1つずつとして、インサート本体1の拘束面7aの周方向中央部に1つずつ延設された上記一部のニック溝8a内に収容されるのが望ましい。