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JP4854503B2 - 安定型ヘモグロビンA1cの測定方法 - Google Patents

安定型ヘモグロビンA1cの測定方法 Download PDF

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Description

本発明は、ヘモグロビン類、特に糖尿病の診断指標となる安定型ヘモグロビンA1cの測定を、短時間で高精度に行うことが可能なヘモグロビン類の測定方法に関する。
ヘモグロビン(Hb)類、特に糖化ヘモグロビン類の一種であるヘモグロビンA1c(以下、HbA1cという)は、過去1〜2カ月間の血液中の平均的な糖濃度を反映しているため、糖尿病のスクリーニング検査や糖尿病患者の血糖管理状態を把握するための検査項目として広く利用されている。
従来、HbA1cの測定方法としては、HPLC法、免疫法、電気泳動法等が用いられている。このうち、臨床検査分野で多く用いられているHPLC法では、1試料当たり1〜2分での測定が可能であり、また、同時再現性試験のCV値が1.0%程度の測定精度が実現されている。糖尿病患者の血糖管理状態を把握するための測定方法としては、このレベルの性能が必要とされている。
一方、電気泳動法は、装置構成が簡便なため、マイクロチップ電気泳動のような安価で小型なシステムを作製することが可能な技術であり、電気泳動法におけるHbA1cの高精度測定技術の臨床検査への適用は、コスト面において非常に有益な効果が期待できる。
電気泳動法によるHb類の測定は、通常とは異なるアミノ酸配列を有する異常Hb類の分離方法として古くから用いられているが、HbA1cの分離は非常に困難であり、ゲル電気泳動の手法では30分以上の時間が必要であった。このように電気泳動法は、臨床検査分野に応用した場合、測定時間及び測定精度の点で問題があるため、これまでは糖尿病診断への応用はほとんど行われていなかった。
これに対して、1990年頃に登場したキャピラリー電気泳動法は、一般的に高分離・高精度測定が可能とされており、例えば、特許文献1には、キャピラリー電気泳動法によってHbA1cを分離する方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1に開示された方法を用いた場合、測定時間が長いという問題点は解消されず、加えて、使用する緩衝液のpHが9〜12と高く、Hbが変性してしまう可能性があることから、この方法を臨床検査に適用することは困難であった。
また、特許文献2には、キャピラリー電気泳動法において、キャピラリーにカチオン性ポリマーを通液することによって、キャピラリー内面にカチオン性ポリマーを動的にコーティングし、硫酸化多糖類を含む緩衝液を用いる方法が開示されている。この方法によれば、10分間程度で測定することができ、ゲル電気泳動法と比較して短時間で測定することが可能となる。
しかしながら、糖尿病診断を行う場合は、HbA1cの中でも糖尿病の指標となる安定型HbA1cを分離して、不安定型HbA1c、カルバミル化Hb、アセチル化Hb等の修飾Hb類の影響を排除しなければならない。しかしながら、特許文献1及び2に開示された方法によって得られるエレクトロフェログラムでは、分離性能及び測定精度が不充分であり、これらの方法に記載の技術範囲では安定型HbA1cを分離することは困難であった。
特表平09−510792号 特開平09−105739号
本発明は、ヘモグロビン類、特に糖尿病の診断指標となる安定型ヘモグロビンA1cの測定を、短時間で高精度に行うことが可能なヘモグロビン類の測定方法を提供することを目的とする。
本発明は、キャピラリー電気泳動法又はマイクロチップ電気泳動法を用いて安定型ヘモグロビンA1cを測定する方法であって、内面がイオン性ポリマーでコーティングされている泳動路と、電気泳動時に前記泳動路の内部に満たされる、カオトロピック化合物を含有する緩衝液を用いる安定型ヘモグロビンA1cの測定方法である。
以下に本発明を詳述する。
本発明者らは、鋭意検討した結果、電気泳動法によるヘモグロビン類の測定において、内面にイオン性ポリマーでコーティングされている泳動路と、カオトロピック化合物を含有する緩衝液を用いて電気泳動を行うことによって、特に従来分離、測定が困難であった安定型HbA1cについて、高精度の測定を短時間に行うことが可能となること見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明のヘモグロビン類の測定方法において用いる電気泳動法としては特に限定されず、例えば、キャピラリー電気泳動法、マイクロチップ電気泳動法等が挙げられる。
図1に、本発明のヘモグロビン類の測定方法に用いるキャピラリー電気泳動装置の一例を示す。図1に示すように、キャピラリー電気泳動装置11は、陽極槽12、陰極槽13、キャピラリー14、高圧電源15、検出器16、及び、一対の電極17、18からなる。キャピラリー14の両端は陽極槽12内、及び、陰極槽13内の緩衝液に浸され、管状のキャピラリー14の内部は緩衝液で満たされている。また、電極17及び18は高圧電源15と電気的に接続されている。
本発明のヘモグロビン類の測定方法では、緩衝液がカオトロピック化合物を含有する。そして、ヘモグロビン類を測定する際には、キャピラリー14の一方より試料を注入して、高圧電源15から所定の電圧を印加することにより、キャピラリー14内を移動する目的成分を検出器16によって測定する。
本発明のヘモグロビン類の測定方法は、内面がイオン性ポリマーでコーティングされている泳動路を用いる。このような泳動路を用いることによって、安定型HbA1cについて、更に短時間で高精度な測定を行うことができる。
上記泳動路とは、電気泳動が行われる際に、試料が移動及び/又は分離する部位(試料が注入された部位から検出される部位まで)のことをいう。具体的には、例えば、キャピラリー電気泳動法の場合は、キャピラリー内の試料が注入された部位から検出器により検出される部位までのことをいい、マイクロチップ型電気泳動法の場合は、マイクロチップ型電気泳動装置におけるマイクロチップ溝内の同試料が注入された部位から検出器により検出される部位までのことをいう。
上記泳動路の内面とは、具体的には、例えば、キャピラリー電気泳動法の場合は、キャピラリーの泳動路内面のことをいい、マイクロチップ型電気泳動法の場合は、マイクロチップ型電気泳動装置におけるマイクロチップ溝の泳動路内面のことをいう。
上記泳動路を構成する素材としては特に限定されず、例えば、ガラス、金属、樹脂等が挙げられる。
上記泳動路は、内部に充填剤粒子等の固形物質を有していてもよい。
上記泳動路の長さの好ましい下限は10mm、好ましい上限は300mmである。10mm未満であると、充分に試料が分離されないため、正確な測定をすることができないことがある。300mmを超えると、測定時間の延長や得られるエレクトロフェログラムにおいてピーク形状の変形が生じることによって、正確な測定をすることができないことがある。
上記泳動路の直径の好ましい下限は1μm、好ましい上限は100μmである。1μm未満であると、検出器により検出するための光路長が小さく、測定精度が低下することがある。100μmを越えると、泳動路内で試料が拡散することにより得られるエレクトロフェログラムにおいてピークがブロードになり、測定精度が低下することがある。
本明細書において、イオン性ポリマーは、分子内にイオン性の官能基を有するポリマーを意味する。
上記イオン性ポリマーは、イオン性の種類により、アニオン性ポリマーと、カチオン性ポリマーとに大別される。
上記アニオン性ポリマーは、分子内にアニオン性の官能基を有するポリマーである。
上記アニオン性ポリマーとしては特に限定されず、例えば、アニオン性基含有多糖類、アニオン性基含有有機合成高分子等が挙げられる。
上記アニオン性の官能基としては、特に限定されず、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。
上記アニオン性基含有多糖類としては特に限定されず、例えば、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、ヘパリン、ヘパラン、フコイダン等のスルホン酸基含有多糖類、及び、その塩類;アルギン酸、ペクチン酸等のカルボキシル基含有多糖類、及び、その塩類;セルロース、デキストラン、アガロース、マンナン、デンプン等の中性多糖類、その誘導体へのアニオン性基導入化物、及び、その塩類等の公知のアニオン性基含有多糖類等が挙げられる。
上記アニオン性基含有有機合成高分子としては特に限定されず、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸(以下、(メタ)アクリル酸ともいう)、リン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体、スルホン酸基含有(メタ)アクリル酸重合体、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸重合体、及び、これらの共重合物等の公知のアニオン性基含有有機合成高分子等が挙げられる。
上記カチオン性ポリマーは、分子内にカチオン性の官能基を有するポリマーである。
上記カチオン性ポリマーとしては特に限定されず、例えば、アミノ化多糖類、アミノ基含有有機合成高分子等が挙げられる。
上記カチオン性の官能基としては、特に限定されず、例えば、1〜4級のアミノ基等が挙げられる。
上記アミノ化多糖類としては特に限定されず、例えば、キチン、キトサン等のキトサン誘導体、及び、その塩類;アミノセルロース、N−メチルアミノセルロース等のN−置換セルロースの誘導体、及び、その塩類;デキストラン、アガロース、マンナン、デンプン等の中性多糖類、及び、その誘導体へのアミノ基導入化物、及び、その塩類等、公知のアミノ化多糖類等が挙げられる。
上記アミノ基含有有機合成高分子としては特に限定されず、例えば、ポリエチレンイミン、ポリブレン、ポリ2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート及び共重合物等、公知のアミノ基含有有機合成高分子等が挙げられる。
上記イオン性ポリマーの重量平均分子量の好ましい下限は500である。500未満であると、泳動路の内面を充分に被覆することが困難となり、ヘモグロビン類の分離性能が不充分となることがある。
上記泳動路に上記イオン性ポリマーをコーティングする方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、上記泳動路の内部に上記イオン性ポリマーを含有する溶液を通液して接触させることによって、動的コーティングする方法;上記イオン性ポリマーを上記泳動路の内面に接触させて、疎水性的又は静電気的な相互作用等を利用することによって物理的に吸着させて、固定化コーティングする方法;上記泳動路内面と上記イオン性ポリマーとを、それぞれの物質が有する官能基や他の物質等を介して共有結合により、固定化コーティングする方法等が挙げられる。固定化コーティング法を用いた場合、加熱工程、乾燥工程等を経ることにより、剥離しにくく、繰り返し測定が可能なイオン性ポリマーの固定化が可能となる。固定化コーティング法としては、具体的には例えば、上記泳動路内部に上記イオン性ポリマーを含有する溶液を通液し、該泳動路に空気を注入することによって該溶液を追い出した後、加熱・乾燥することを繰り返す方法等が挙げられる。
なかでも、固定化コーティング法が好ましい。固定化コーティング法を用いることによって、いったんコーティングすれば剥離することがなく、測定毎に再びコーティングを行う必要がない。そのため、連続測定等の際には、測定時間の短縮を図ることができる。
上記泳動路に上記イオン性ポリマーを固定化する際、上記泳動路内面と上記イオン性ポリマーからなる層との間に、別種の層を形成してもよい。上記別種の層が形成される場合、上記イオン性ポリマーからなる層は、上記泳動路最内面に形成されていればよい。
上記泳動路に上記イオン性ポリマーをコーティングする際、上記イオン性ポリマーは、その種類やコーティングの方法にもよるが、上記イオン性ポリマー溶液としてコーティングに供されることが好ましい。
上記イオン性ポリマー溶液の濃度としては、好ましい下限が0.01%、好ましい上限が20%である。0.01%未満であると、固定化が不充分となることがある。20%を超えると、上記イオン性ポリマーからなる層を均一に形成することができず、ヘモグロビン類の測定途中に剥離し、再現性低下の原因となることがある。
本発明のヘモグロビン類の測定方法は、カオトロピック化合物を含有する緩衝液を用いる。
上記緩衝液は、電気泳動時に上記泳動路の内部に満たされる緩衝液、電気泳動時に上記泳動路の両端に設置される陽極槽及び陰極槽に満たされる緩衝液、上記泳動路の内部を洗浄する緩衝液、試料を溶解希釈する溶血希釈液等に用いられる。
本発明のヘモグロビン類の測定方法では、これら全ての緩衝液がカオトロピック化合物を含有するものであってもよく、一部の緩衝液のみがカオトロピック化合物を含有するものであってもよい。
本明細書において、カオトロピック化合物とは、水分子間の相互作用を破壊する性質を有し、疎水性分子同士の疎水相互作用を弱めて、疎水性分子の水溶性を増加させる作用を有する化合物をいう。
上記カオトロピック化合物としては特に限定されず、例えば、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、塩化物イオン、酢酸イオン等の陰イオン性のカオトロピックイオン;バリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、グアニジンイオン等の陽イオン性のカオトロピックイオンを含む化合物;尿素、チオ尿素等の尿素化合物等が挙げられる。なかでも、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、グアニジンイオンを含む化合物及び尿素化合物等が好ましい。
上記カオトロピック化合物の添加量としては特に限定されず、種類によって大きく異なるが、好ましい下限が0.01重量%、好ましい上限が30重量%である。0.01重量%未満であると、充分なヘモグロビン類の分離性能等が発揮できないことがある。30重量%を超えると、電気泳動の際に熱が発生し、得られるエレクトロフェログラムにおいて、ピークの変形等が生じることがある。より好ましい下限は0.05重量%、より好ましい上限は20重量%である。
上記緩衝液としては、緩衝能を有する従来公知の緩衝液組成物を含有する溶液であれば特に限定されず、例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸、及び、その塩類等を含有する溶液等;グリシン、タウリン、アルギニン等のアミノ酸類;塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等の無機酸、及び、その塩類等を含有する溶液等が挙げられる。
上記緩衝液には、界面活性剤、各種ポリマー、親水性の低分子化合物等、一般的に用いられる添加剤を適宜添加してもよい。
上記緩衝液は、更に、アニオン性基を有する水溶性ポリマーを含有することが好ましい。このようなポリマーを含有することによって、更に効率よく安定型HbA1cの分離・測定を行うことができる。
上記アニオン性基としては特に限定されず、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等の従来公知のアニオン性を有する官能基である。なかでも、スルホン酸基を有することが好ましい。
上記アニオン性基を有する水溶性ポリマーは、分子中に、上記アニオン性基を複数有していてもよく、異なる種類の上記アニオン性基を有していてもよい。
上記アニオン性基を有する水溶性ポリマーは、使用時に上記緩衝液に完全に溶解した状態であればよいが、水に対する溶解度の好ましい下限が1g/Lである。1g/L未満であると、アニオン性基を有する水溶性ポリマーを低濃度でしか用いることができないため、効果が現れにくく、測定精度が不充分となることがある。より好ましい下限が5g/Lである。
上記アニオン性基を有する水溶性ポリマーとしては特に限定されず、例えば、公知のポリマーを用いることができる。好ましいアニオン性基を有する水溶性ポリマーとしては、アニオン性基を有する多糖類及びアニオン性基を有する水溶性の有機合成ポリマーが挙げられる。
上記アニオン性基を有する多糖類としては特に限定されず、例えば、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、ヘパリン、ヘパラン、フコイダン等のスルホン酸基含有多糖類、及び、その塩類;アルギン酸、ペクチン酸等のカルボキシル基含有多糖類、及び、その塩類;セルロース、デキストラン、アガロース、マンナン、デンプン等の中性多糖類、その誘導体へのアニオン性基導入化物、及び、その塩類等の公知のアニオン性基を有する多糖類等が挙げられる。
上記アニオン性基を有する有機合成ポリマーとしては、アニオン性の官能基を含有する水溶性の公知の有機合成ポリマーが挙げられるが、特にアクリル系ポリマー;すなわちアクリル酸またはメタクリル酸及びその誘導体類及びエステル類等を主成分とするポリマーが好ましい。
具体的には例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸等のカルボキシル基を有するモノマーを重合して得られるアクリル系ポリマー、((メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート等のリン酸基を有するモノマーを重合して得られるアクリル系ポリマー、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等のスルホン酸基を有するモノマーを重合して得られるアクリル系ポリマー等が挙げられる。
上記アクリル系ポリマーは、アニオン性基を有する(メタ)アクリルモノマーと、アニオン性基を有しない(メタ)アクリルモノマーとの共重合体であってもよい。
上記アニオン性基を有しない(メタ)アクリルモノマーとしては、上記アニオン性基を有する(メタ)アクリルモノマーと共重合が可能な(メタ)アクリルモノマーであれば特に限定されないが、例えば、非イオン性の親水性である(メタ)アクリル酸エステル類であることが好ましい。具体的には、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記アニオン性基を有しない(メタ)アクリルモノマーの添加量としては、得られる共重合体が水溶性であれば特に限定されないが、上記アニオン性基を有する(メタ)アクリルモノマー100重量部に対して、好ましい上限が1000重量部である。1000重量部を超えると、得られる共重合体が水溶性とならないことがある。
上記緩衝液の上記アニオン性基を有する水溶性ポリマーの含有量の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は10重量%である。0.01重量%未満であると、水溶性ポリマーを添加することによる効果が発現しにくく、ヘモグロビン類の測定において、分離等が不充分となることがある。10重量%を超えると、測定時間の延長や分離不良を引き起こすことがある。
本発明のヘモグロビン類の測定方法において、測定対象となるヘモグロビン類としては特に限定されず、例えば、従来公知のヘモグロビン類が挙げられる。具体的には例えば、HbA1a、HbA1b、HbF、不安定型HbA1c、安定型HbA1c、HbA0、HbA2;アセチル化Hb、カルバミル化Hb等の修飾ヘモグロビン;HbS、HbC等の異常ヘモグロビン等が挙げられる。なかでも、安定型HbA1cを好適に測定することが可能である。
本発明によれば、ヘモグロビン類、特に糖尿病の診断指標となる安定型ヘモグロビンA1cの測定を、短時間で高精度に行うことが可能なヘモグロビン類の測定方法を提供することができる。具体的には、電気泳動法という簡易かつ低コストな方法を用いながら、特に安定型HbA1cの測定において、1試料当たり数分という短時間に、同時再現性を示すCV値が1.0%程度という高精度で測定することができる。そのため、電気泳動法によって糖尿病患者のHbA1cの数値の管理を好適に行うことが可能となる。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
(1)泳動路のコーティング
イオン性ポリマーであるデキストラン硫酸(和光純薬社製)を0.2重量%含有する水溶液を調製した。次いで、フューズドシリカ製キャピラリー(GLサイエンス社製:内径25μm×全長30cm)に、0.2N−NaOH、イオン交換水、0.5N−HClをこの順で通液してキャピラリー内を洗浄した後、得られたデキストラン硫酸水溶液を20分間通液した。その後、空気をキャピラリー内に注入してデキストラン硫酸水溶液を追い出した後、40℃の乾燥機内で12時間乾燥させた。その後、再びデキストラン硫酸水溶液を注入し、空気の注入及び乾燥を5回繰り返すことによって、キャピラリー内面をコーティングした。
得られたデキストラン硫酸固定化キャピラリーを、キャピラリー電気泳動装置(Beckman Coulter社製 PAC/E MDQ)にセットした。
(2)緩衝液の調製
カオトロピック化合物として尿素(和光純薬社製)5.0重量%、アニオン性基を有する水溶性ポリマーとしてデキストラン硫酸2.0重量%を含むクエン酸緩衝液(pH4.8)を調製した。
(3)健常人血の測定
試料としては、健常人血よりヘパリン採血した血液を用い、該健常人全血70μLに0.05%のTriton X−100(界面活性剤:和光純薬社製)を含むクエン酸緩衝液(pH6.0)200μLを添加して溶血希釈したものを用いた。
キャピラリーの一方より試料を注入し、キャピラリーの両端の緩衝液に20kVの電圧をかけて電気泳動を行い、415nmの可視光における吸光度変化を測定することにより、ヒト血液中の安定型HbA1cのキャピラリー電気泳動法による測定を行った。
図2は、実施例1において、健常人血の測定によって得られたエレクトロフェログラムである。図2中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbA0を示す。なお、実施例1では、約1.5分の電気泳動時間で、安定型HbA1cの分離を行うことができた。
(4)修飾Hbを含む試料の測定
健常人血の測定で用いた健常人全血に、グルコースを2500mg/dLとなるように添加し、修飾Hbの一種である不安定型HbA1cを多量に含む試料を人為的に調製した。キャピラリーの一方から試料を注入し、キャピラリーの両端の緩衝液に20kVの電圧をかけて電気泳動を行い、415nmの可視光における吸光度変化を測定することにより、ヒト血液中の安定型HbA1cのキャピラリー電気泳動法による測定を行った。
図3は、実施例1において、修飾Hbを含む試料の測定によって得られたエレクトロフェログラムである。
図3中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbA0、ピーク3は修飾Hb(不安定型HbA1c)を示す。図3に示すように、安定型HbA1cと修飾Hbである不安定型HbA1cとが良好に分離された。
(実施例2)
イオン性ポリマーであるキトサン(キトサン−100:和光純薬社製)の0.5重量%の0.5N塩酸溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法によって、キャピラリー内面をコーティングして、電気泳動装置を得た。
緩衝液として、カオトロピック化合物として硝酸ナトリウム1.0重量%、アニオン性基を有する水溶性ポリマーとしてコンドロイチン硫酸2.0%重量を含むリンゴ酸緩衝液(pH4.8)を調製した。
得られた電気泳動装置と、緩衝液とを用いた以外は、実施例1と同様の方法によって、健常人血の測定及び修飾Hbを含む試料の測定を行った。健常人血の測定では、図2と同様のエレクトロフェログラムが得られた。修飾Hbを含む試料の測定では、図3と同様のエレクトロフェログラムが得られた。
(実施例3)
イオン性ポリマーであるポリブレン(和光純薬社製)の0.5重量%水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法によって、キャピラリー内面をコーティングして、電気泳動装置を得た。
アニオン性基を有するアクリル系モノマーとして、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(和光純薬社製)3.0g、及び、アニオン性基を有しないアクリル系モノマーとしてヒドロキシエチルメタクリレート(和光純薬社製)2.0gを50mLのイオン交換水に溶解して、溶液を得た。得られた溶液に過硫酸カリウム0.05gを添加し、窒素雰囲気下で攪拌しながら80℃に昇温して重合した。10時間重合後、内容物の全量を透析チューブ(三光純薬社製:UC C65−50)に移し、イオン交換水中にて12時間透析を行い、アクリル系のアニオン性基を有する水溶性ポリマーを得た。
カオトロピック化合物として過塩素酸ナトリウム1.0重量%、上述のアニオン性基を有する水溶性ポリマー2.0重量%を含むリンゴ酸緩衝液(pH4.7)を調製した。
得られた電気泳動装置と、緩衝液とを用いた以外は、実施例1と同様の方法によって、健常人血の測定及び修飾Hbを含む試料の測定を行った。健常人血の測定では、図2と同様のエレクトロフェログラムが得られた。修飾Hbを含む試料の測定では、図3と同様のエレクトロフェログラムが得られた。
(実施例4)
ポリジメチルシロキサン製マイクロチップ(50mm×75mm×3mm)にクロス十字型の泳動路を作製し、該泳動路の両端に緩衝液槽を設置した。
イオン性ポリマーであるキトサン(0.5重量%の0.5N塩酸溶液)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によって、泳動路のコーティングを行った。
カオトロピック化合物として尿素5.0重量%、アニオン性基を有する水溶性ポリマーとしてコンドロイチン硫酸2.0重量を含むリンゴ酸緩衝液(pH4.8)を用いて1000Vにて、マイクロチップ電気泳動法を行った以外は、実施例1と同様の方法によって、健常人血の測定及び修飾Hbを含む試料の測定を行った。
図4は、実施例3において、健常人血の測定によって得られたエレクトロフェログラムである。図4中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbA0を示す。図5は、実施例3において、修飾Hbを含む試料の測定によって得られたエレクトロフェログラムを示す模式図である。図5中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbA0、ピーク3は修飾Hb(不安定型HbA1c)を示す。図5に示すように、安定型HbA1cと修飾Hbである不安定型HbA1cとが良好に分離された。
なお、実施例4では、約60秒の電気泳動時間で、安定型HbA1cの分離を行うことができた。
(比較例1)
フューズドシリカ製キャピラリー(GLサイエンス社製:内径25μm×全長30cm)を0.2N−NaOH、イオン交換水、0.5N−HClの順で通液することによってキャピラリー内を洗浄した後、BSA(イオン性ポリマー:牛血清アルブミン:和光純薬社製)の0.5%重量を含むリンゴ酸緩衝液(pH4.7)を1分間通液することによって、キャピラリー内面をコーティングした。
次に、0.2重量%のコンドロイチン硫酸(和光純薬社製:アニオン性基を有する水溶性ポリマー)を含有するリンゴ酸緩衝液(pH4.7)をキャピラリーの両端にセットし、キャピラリー内に満たした以外は、実施例1と同様の方法によって、健常人血の測定及び修飾Hbを含む試料の測定を行った。
図6は、比較例1において、修飾Hbを含む試料の測定によって得られたエレクトロフェログラムである。
図6中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbA0、ピーク3は修飾Hb(不安定型HbA1c)を示す。図6に示すように、得られたエレクトロフェログラムにおいて、安定型HbA1cを示すピーク1と修飾Hbを示すピーク3とが重なっている。
(比較例2)
カオトロピック化合物を用いなかったこと以外は、実施例4と同様の方法によって、健常人血の測定及び修飾Hbを含む試料の測定を行った。
図7は、比較例2において、修飾Hbを含む試料の測定によって得られたエレクトロフェログラムである。
図7中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbA0、ピーク3は修飾Hb(不安定型HbA1c)を示す。図7に示すように、得られたエレクトロフェログラムにおいて、安定型HbA1cを示すピーク1と修飾Hbを示すピーク3とが重なってはいないが、分離は不充分となっていた。
(評価)
(1)修飾Hbの分離性能試験
実施例1〜4及び比較例1、2の測定条件について、健常人血試料と、該健常人血試料と同一の健常人血を元に調製した修飾Hb含有試料、すなわち、実施例1(4)修飾Hbを含む試料の測定において調製した健常人血にグルコースを2000mg/dLとなるように添加して得られた不安定型HbA1c含有試料と、更に、他の修飾Hb含有試料、すなわち、健常人血にアセトアルデヒドを50mg/dLとなるように添加して得られたアセチル化Hb含有試料と、シアン酸ナトリウムを50mg/dLとなるように添加して得られたカルバミル化Hb含有試料とを調製し、各試料における安定型HbA1c値を求めた。
なお、各試料の安定型HbA1c値は、全ヘモグロビンピークの面積に対する安定型HbA1cピークの面積の比率(%)を求めることにより算出した。
得られた各修飾Hb含有試料の安定型HbA1c値から、得られた健常人血試料の安定型HbA1c値を差し引いた値を求めた。
結果を表1に示した。
Figure 0004854503
実施例1〜4の測定条件においては、修飾Hb含有試料と修飾Hbを含まない健常人血試料の安定型HbA1cの測定値の差はほとんどなく、測定値差は0.2%以下であり、修飾Hb類の存在下においても、安定型HbA1cが正確に測定できることがわかった。
一方、比較例1の測定条件では、修飾Hb類と安定型HbA1cの分離ができなかったため、安定型HbA1c値を算出することはできなかった。また、比較例2の測定条件では、修飾Hb類と安定型HbA1cの分離が不充分なため、安定型HbA1c値が大きく変動し、正確な測定ができないことがわかった。
(2)同時再現性試験
実施例1〜4及び比較例2の測定条件を用いて、健常人血試料の同一試料を10回連続して得られた安定型HbA1c値のCV値を算出した。
なお、CV値は(標準偏差/平均値)を算出することにより求めた。
結果を表2に示した。
(3)耐久性試験
実施例1〜4及び比較例2の測定条件を用いて、健常人血試料の同一試料を100回連続して測定して得られた安定型HbA1c値の最大値と最小値との差(R値)を算出した。
結果を表2に示した。
Figure 0004854503
表2に示すように、実施例1〜4では、同時再現性試験において、バラツキ度合いを示すCV値が1%前後であり良好な結果であった。また、耐久性試験における連続100試料測定時のバラツキ幅についても、0.2%程度と非常に小さく、大量試料の連続測定においても精度良く安定型HbA1cを測定できることが判明した。
一方、比較例2については、同時再現性試験におけるCV値が3%以上と大きく、また、耐久性試験時のバラツキ幅も最大0.5%程度であり、糖尿病患者のHbA1c値を管理する上で全く不充分な値となっていた。
本発明によれば、ヘモグロビン類、特に糖尿病の診断指標となる安定型ヘモグロビンA1cの測定を、短時間で高精度に行うことが可能なヘモグロビン類の測定方法を提供することができる。
本発明のヘモグロビン類の測定方法に用いる電気泳動装置の一例を示す模式図である。 実施例1、2及び3において、健常人血の測定によって得られたエレクトロフェログラムである。 実施例1、2及び3において、修飾Hbを含む試料の測定によって得られたエレクトロフェログラムである。 実施例4において、健常人血の測定によって得られたエレクトロフェログラムである。 実施例4において、修飾Hbを含む試料の測定によって得られたエレクトロフェログラムである。 比較例1において、修飾Hbを含む試料の測定によって得られたエレクトロフェログラムである。 比較例2において、修飾Hbを含む試料の測定によって得られたエレクトロフェログラムである。
符号の説明
11 キャピラリー電気泳動装置
12 陽極槽
13 陰極槽
14 キャピラリー
15 高圧電源
16 検出器
17 電極
18 電極
1 安定型HbA1cのピーク
2 HbA0のピーク
3 修飾Hb(不安定型HbA1c)のピーク

Claims (4)

  1. キャピラリー電気泳動法又はマイクロチップ電気泳動法を用いて安定型ヘモグロビンA1cを測定する方法であって、内面がイオン性ポリマーでコーティングされている泳動路と、電気泳動時に前記泳動路の内部に満たされる、カオトロピック化合物を含有する緩衝液を用いることを特徴とする安定型ヘモグロビンA1cの測定方法
  2. 緩衝液は、更にアニオン性基を有する水溶性ポリマーを含有することを特徴とする請求項1記載の安定型ヘモグロビンA1cの測定方法
  3. イオン性ポリマーの泳動路内面へのコーティング法が、固定化コーティング法であることを特徴とする請求項1又は2記載の安定型ヘモグロビンA1cの測定方法
  4. 水溶性ポリマーが有するアニオン性基が、スルホン酸基であることを特徴とする請求項2又は3記載の安定型ヘモグロビンA1cの測定方法
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