以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1に概略的に示した機関本体1は筒内噴射型火花点火式内燃機関を示す。しかしながら、本発明を別の火花点火式内燃機関や圧縮自着火式内燃機関に適用してもよい。
図1に示したように、本発明の実施形態では機関本体1はシリンダブロック2と、シリンダブロック2内で往復動するピストン3と、シリンダブロック2上に固定されたシリンダヘッド4とを具備する。ピストン3とシリンダヘッド4との間には燃焼室5が形成される。シリンダヘッド4には各気筒毎に吸気弁6と、吸気ポート7と、排気弁8と、排気ポート9とが配置される。さらに、図1に示したようにシリンダヘッド4の内壁面の中央部には点火プラグ10が配置され、シリンダヘッド4内壁面周辺部には燃料噴射弁11が配置される。また吸気弁6はカム等を用いずに電磁式に吸気弁6を駆動する駆動装置12に連結される。
各気筒の吸気ポート7は吸気枝管13を介してサージタンク14に連結され、サージタンク14は吸気管15を介してエアクリーナ16に連結される。吸気管15内にはステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置される。また、スロットル弁18上流の吸気管15には、吸気管15を通過する空気(吸気ガス)の流量を検出するためのエアフロメータ19が配置される。一方、各気筒の排気ポート9は排気管20に連結され、この排気管20は排気浄化装置21に連結される。なお、以下の説明では、スロットル弁下流側の吸気通路、すなわちスロットル弁18から吸気弁6までの吸気枝管13、サージタンク14、吸気管16等の部分を吸気管部分22と称す。
電子制御ユニット(ECU)31はディジタルコンピュータからなり、双方向性バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36および出力ポート37を具備する。サージタンク14には、吸気管内の空気(吸気ガス)の圧力を検出するための吸気管内圧力センサ40および吸気管内の空気の温度を検出するための吸気管内温度センサ41が設けられており、これら吸気管内圧力センサ40および吸気管内温度センサ41はそれぞれ吸気管内圧力および吸気管内温度に比例した出力電圧を発生し、この出力電圧が対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。
また、スロットル弁18の開度を検出するためのスロットル開度センサ42と、内燃機関の周囲の大気温度、または吸気管15に吸入される空気の温度(吸気温)を検出するための大気温度センサ43と、内燃機関の周囲の大気圧力、または吸気管15に吸入される空気の圧力(吸気圧)を検出するための大気圧センサ44とが設けられ、これらセンサの出力電圧は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、アクセルペダル45にはアクセルペダル45の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ46が接続され、負荷センサ46の出力電圧は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。クランク角センサ47は例えばクランクシャフトが30度回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスが入力ポート36に入力される。CPU35ではこのクランク角センサ47の出力パルスから機関回転数が計算される。一方、出力ポート37は対応する駆動回路39を介して点火プラグ10、燃料噴射弁11、吸気弁電磁駆動装置12およびステップモータ17に接続される。
ところで、内燃機関の燃焼室5において燃焼される混合気の空燃比を目標空燃比にするためには、吸気弁が閉じたときに燃焼室5内に充填されている空気(吸気ガス)の量(以下、「筒内充填空気量Mc」と称す)を推定し、推定された筒内充填空気量Mcに基づいて混合気の空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射弁から内燃機関の燃焼室5(または吸気通路)に噴射する燃料の量(以下、「燃料噴射量」と称す)を定めている。したがって、内燃機関の燃焼室5において燃焼される混合気の空燃比を正確に目標空燃比とするためには、筒内充填空気量Mcを正確に推定する必要がある。
通常、筒内充填空気量Mcは、流量センサ(エアフロメータ)等の多数のセンサ、およびこれらセンサからの出力値を引数とした多数のマップから推定される。ところが、このようにマップを用いると、マップを保存するためのECUのROMを記憶容量の大きいものにしなければならず、内燃機関の製造コストが高くなってしまう。さらに、マップの数およびその引数の数が多くなると適合作業の工数も増大してしまう。
そこで、一部の内燃機関では、マップを用いずに様々な数値計算モデルを用いて、数値計算により筒内充填空気量Mcを算出するようにしている。このような内燃機関では、数値計算を多用することにより必要なマップの数を極力減らすようにしており、これにより適合作業を行う際の工数を大幅に削減しながらも、筒内充填空気量Mcを正確に算出することができる。このようなモデルとしては、例えば後述する筒内充填空気量モデルM10が挙げられる。
ところで、上述したような数値計算モデルでは、定数として、吸気管部分22の容積Vmが用いられる。ところが、このモデルで用いられる吸気管部分22の容積Vmは実際の吸気管部分22の容積とは必ずしも一致せず、モデルにおいて有効な吸気管部分22の容積Vmを設計値等から厳密に求めることは困難である。また、実際の吸気管部分22の容積自体も、製品間でのばらつき、吸気管部分22の熱膨張、吸気ポート燃料噴射の場合における吸気ポート内へのデポジットの堆積等によって経時変化する場合がある。このため、上記数値計算モデルにおいて吸気管部分22の容積Vmを定数として用いると、吸気管部分22の容積Vmに誤差が生じている場合がある。
そこで、本発明の実施形態の吸気通路容積算出装置では、モデル式等で用いられた場合に有効な吸気管部分22の容積Vmを正確に算出することとしており、以下では斯かる吸気管部分22の容積Vmの算出方法について説明する。
図2は、吸気管部分22におけるモデルの基本概念を示している。図2に示したモデルでは、吸気管部分22について気体の状態方程式を適用すると、吸気管内圧力Pm(或いは、吸気管内圧力の時間変化率)と、吸気管部分22に流入する空気流量(すなわち、スロットル通過空気流量mt)と、吸気管部分22から流出する吸気ガスの流量(すなわち、全気筒への筒内吸入空気流量mc)とには下記式(3)の関係が成り立つ。
ここで、Tmは吸気管部分22内に存在する空気の温度(以下、「吸気管内温度」と称す)、Vmは吸気管部分22の容積、Raは気体定数を空気の平均分子量で除算した値である。また、mciはi番気筒への筒内吸入空気流量であり、よってΣmciは或る特定の時刻における全気筒への筒内吸入空気流量mcを意味する。
したがって、全気筒への筒内吸入空気流量mcは上記式(3)を変形して下記式(4)のように表すことができる。
一方、上述したように本実施形態では、吸気弁電磁駆動装置12により吸気弁6が電磁的に駆動されており、筒内吸入空気流量は基本的にこの吸気弁電磁駆動装置12に加えられる電圧に比例する。すなわち、吸気弁電磁駆動装置12に加えられる電圧に比例して吸気弁電磁駆動装置12のコイルにより発生する磁束が増大する。そして、この磁束の増大に伴って、吸気弁6のリフト量が増大する。一方、各気筒の筒内に流入する空気流量は吸気弁6のリフト量に比例して増大する。従って、筒内吸入空気流量mcは吸気弁電磁駆動装置12に加えられる電圧に比例することになる。
図3は、吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧、筒内吸入空気流量及び吸気管内圧力Pmの時間変化率ΔPmのタイムチャートである。図3に示した例は、8気筒の内燃機関の例を示している。図3(A)中の破線は各気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧を示しており、一方、実線は全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値を示している。
図3に示したように、基本的に全気筒の吸気弁電磁駆動装置12に電圧を加えていない時期は無く、少なくとも一つの吸気弁電磁駆動装置12には必ず電圧が加えられる。特に、図3(A)の破線で示したように、8気筒の内燃機関の場合、点火順序(例えば、1番気筒、8番気筒、7番気筒、3番気筒、…の順)が連続する二つの気筒の吸気弁電磁駆動装置12に同時に電圧が加えられている期間が存在する。従って、例えば、連続して電圧の加えられる二つの吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧が同じとなる時刻t2、t4、t6、t8、t10では、全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値Vaは、各気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧Vbの2倍となる。もちろん、一つの気筒の吸気弁電磁駆動装置12のみにしか電圧が加えられていない場合(例えば、時刻t1、t3、t5、t7、t9)には、全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値はこの一つの気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧に等しくなる。
なお、本実施形態では、8気筒の内燃機関の場合を例にとって説明しているが、二つの気筒の吸気弁電磁駆動装置12に同時に電圧が加えられている期間が存在する内燃機関であれば、何気筒の内燃機関についても本発明を適用することができる。特に、図3のタイムチャートに示す例では同時に電圧の加えられる吸気弁電磁駆動装置12は二つであるが、さらに多気筒の内燃機関では、同時に電圧の加えられる吸気弁電磁駆動装置12が三つ以上となることもあり、この時の吸気弁電磁駆動装置12に加えられる電圧の合計値は、電圧の加えられている三つ以上の吸気弁電磁駆動装置12の電圧の合計となる。
ここで、図3(A)に示したように全気筒の吸気弁電磁駆動装置12に電圧を加えた場合、全気筒への筒内吸入空気流量mcは図3(B)に示したように推移することになる。なお、図3(B)においても、破線は各気筒への筒内吸入空気流量、すなわちmci(iは「i番気筒」を意味する)を示しており、一方、実線は全気筒への筒内吸入空気流量、すなわちmcを示している。
ここで、上述したように或る気筒への筒内吸入空気流量mciはその気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧に比例することから、或る特定の時刻tlにおける全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値Vlとこの時刻tlとは異なる時刻thにおける全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値Vhとの比率は、上記特定の時刻tlにおける全気筒への筒内吸入空気流量mclと上記異なる時刻thにおける全気筒への筒内吸入空気流量mchとの比率に等しいと考えられる。
見方を変えると、全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値が第一電圧合計値V
lとなった時の全気筒への筒内吸入空気流量mc
lと、全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値が第二電圧合計値V
hとなった時の全気筒への筒内吸入空気流量mc
hとの比率は、第一電圧合計値V
lと第二電圧合計値V
hと等しいと考えられる(V
l:V
h=mc
l:mc
h)。この関係より、下記式(5)が導かれる。
なお、上記式(5)においてΔPm
lは時刻t
lにおける吸気管内圧力Pmの時間変化率を(ΔPm
l=(dPm/dt)
l)、ΔPm
hは時刻t
hにおける吸気管内圧力Pmの時間変化率を(ΔPm
h=(dPm/dt)
h)をそれぞれ表している。上記式(5)において、時刻t
lと時刻t
hとは近いため、吸気管内温度Tmは変化せずに一定であると仮定している。
そして、上記式(5)を変形することにより下記式(6)が導かれる。
従って、時刻tl及びthにおけるスロットル通過空気流量mtl及びmthと、時刻tl及びthにおける吸気管内圧力の時間変化率ΔPml及びΔPmhと、時刻tl及びthにおける全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値Vl、Vhとに基づいて吸気管部分22の容積Vmが算出せしめられる。本実施形態では、スロットル通過空気流量mtはエアフロメータ19によって検出されると共に、吸気管内圧力の時間変化率ΔPmは吸気管内圧力センサ40によって検出された吸気管内圧力Pmに基づいて算出される。また、式(5)に用いられる吸気管内温度Tmは吸気管内温度センサ41によって検出される。これにより、本発明の実施形態によれば、吸気管部分22の容積を比較的正確に算出することができる。
特に、時刻tlは特定気筒(図3に示した例では6番気筒)の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧が最大となって他気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧がゼロとなっている時(図3に示した例では時刻t9)とされ、時刻thを吸気弁開弁中の特定気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧と吸気弁開弁中のもう一つの気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧とが同じとなった時、すなわち全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値が最小となった時(図3に示した例では時刻t8又はt10)とされるのが好ましい。すなわち、第一電圧合計値Vlは特定気筒(例えば6番気筒)の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値の最大値V9とされ、第二電圧合計値Vhは上記特定気筒の吸気弁電磁駆動装置12へ電圧を印可している間における全気筒への吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値の最小値V10とされる。このように全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値の最大値V9と最小値V10とを用いることにより、より正確に吸気管部分22の容積を算出することができる。
ここで、吸気管内圧力センサ40に応答遅れがあると、特定時刻(例えば、時刻t9及びt10)において測定された吸気管内圧力の時間変化率ΔPmが、これら特定時刻(時刻t9及びt10)における実際の時間変化率に対応しないことがある。このため、特定時刻(時刻t9及びt10)においてだけ吸気管内圧力の時間変化率ΔPmを測定するのではなく、全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値が最大となった時刻(例えば、時刻t9)及び最小となった時刻(例えば、時刻t10)からそれぞれ暫くの間、すなわち少なくとも応答遅れ時間は、吸気管内圧力の時間変化率を連続的に測定し、こうして測定された吸気管内圧力の時間変化率から上記特定時刻(時刻t9及びt10)における吸気管内圧力の時間変化率ΔPを選択してもよい。
すなわち、図3(C)に示したように、全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値が最大となった時の吸気管内圧力の時間変化率ΔPmは最も小さくなるはずであるため、全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値が最大となった時の吸気管内圧力の時間変化率として、測定された吸気管内圧力の時間変化率の最小値を選択してもよい。同様に、全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値が最小となった時の吸気管内圧力の時間変化率ΔPmは最も大きくなるはずであるため、全気筒の吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値が最小となった時の吸気管内圧力の時間変化率として、測定された吸気管内圧力の時間変化率の最大値を選択してもよい。
また、エアフロメータ19によって測定されるスロットル弁通過吸気流量mtは変動することから、吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の合計値が最大となった時刻(例えば、時刻t9)及び最小となった時刻(例えば、時刻t10)に測定されたスロットル弁通過吸気流量mtが真値でないことも考えられる。このため、吸気管部分22の容積Vmの算出は機関定常運転時において実施されることが好ましい。すなわち、機関定常運転時であれば、スロットル通過吸気流量mtを一定とすることができるために、時刻t9及びt10のスロットル弁通過吸気流量mtをいずれも測定されたスロットル弁通過吸気流量の平均値としても良い。
なお、上記実施形態では、吸気管部分22の容積Vmを算出するにあたって吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧を用いているが、同様に吸気弁電磁駆動装置12に流れる電流を用いることも可能である。すなわち、吸気弁電磁駆動装置12のコイルにより発生する磁束は、吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧と同様に、吸気弁電磁駆動装置12を流れる電流に比例して増大し、これに伴って吸気弁6のリフト量が増大する。一方、各気筒への筒内吸入空気流量は吸気弁6のリフト量に比例して増大する。従って、各気筒への筒内吸入空気流量は、吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の場合と同様に、吸気弁電磁駆動装置12を流れる電流に比例する。このため、上記実施形態において用いられている吸気弁電磁駆動装置12への印可電圧の代わりに、吸気弁電磁駆動装置12を流れる電流を用いても上述した方法と同様にして吸気管部分22の容積Vmを算出することができる。
さらに、上記実施形態では、吸気管部分22の容積Vmを求めることとしているが、吸気管部分22の容積Vmをパラメータとして用いるモデル式の中には吸気管部分22の容積自体ではなく、吸気管部分22の容積を吸気管部分22内の温度で除算した値(Vm/Tm)を用いることが多い。この場合、上記式(6)の代わりに下記式(7)を用いることで、Vm/Tmを算出することができる。
なお、Vm/Tmを上記式(7)によって求める場合には、Vm/Tmを算出するにあたり吸気管内温度Tmを用いる必要が無くなる。このため、吸気管内温度センサ41を取り付ける必要が無くなり、内燃機関の製造コストを低減することができる。
次に、筒内充填空気量モデルM10について説明する。なお、以下では、筒内充填空気量モデルM10によって算出される平均筒内充填空気量をMc’、平均筒内吸入空気流量をmc’とする。
筒内充填空気量モデルM10は、図4に示したように電子制御スロットルモデルM11、スロットルモデルM12、吸気管モデルM13、吸気弁モデルM14を備える。電子制御スロットルモデルM11には、負荷センサ46により検出されたアクセルペダル操作量Accpが入力され、実際のスロットル弁18が所定時間ΔT後に到達するスロットル開度(以下、「先読みスロットル開度」と称す)θtを出力する。スロットルモデルM12には、電子制御スロットルモデルM11から出力された先読みスロットル開度θtと、大気圧センサ44によって検出された内燃機関周囲の大気圧(または、吸気管15に吸入される空気の圧力)Paと、大気温度センサ43によって検出された内燃機関周囲の大気温度(または、吸気管15に吸入される空気の温度)Taと、後述する吸気管モデルM13において算出された吸気枝管13内の圧力(吸気管内圧力)Pmとが入力され、これら入力された各パラメータの値を後述するスロットルモデルM12のモデル式に代入することで、単位時間当たりにスロットル弁18を通過する空気の流量(以下、「スロットル弁通過空気流量mt」と称す)が算出される。スロットルモデルM12において算出されたスロットル弁通過空気流量mtは、吸気管モデルM13へ入力される。
吸気管モデルM13には、スロットルモデルM12において算出されたスロットル弁通過空気流量mtと、以下で詳述する単位時間当たりに燃焼室5内に流入する吸気ガスの流量(以下、「平均筒内吸入空気流量mc’」と称す。なお、平均筒内吸入空気流量mc’の定義については、吸気弁モデルM14において詳述する)とが入力され、これら入力された各パラメータの値を後述する吸気管モデルM13のモデル式に代入することで、吸気枝管13およびサージタンク14内に存在する吸気ガスの圧力(以下、「吸気管内圧力Pm」と称す)と吸気枝管13およびサージタンク14内に存在する吸気ガスの温度(以下、「吸気管内温度Tm」と称す)とが算出される。吸気管モデルM13において算出された吸気管内圧力Pmと吸気管内温度Tmは共に吸気弁モデルM14へ入力され、さらに吸気管内圧力PmはスロットルモデルM12にも入力される。
吸気弁モデルM14には、吸気管モデルM13において算出された吸気管内圧力Pmおよび吸気管内温度Tmの他に大気温度Taが入力され、これら入力された各パラメータの値を後述する吸気弁モデルM14のモデル式に代入することで、平均筒内吸入空気流量mc’が算出される。算出された平均筒内吸入空気流量mc’は、平均筒内充填空気量Mcに変換され、この平均筒内充填空気量Mcに基づいて燃料噴射弁からの燃料噴射量が決定される。また、吸気管モデルM13において算出された平均筒内吸入空気流量mc’は吸気管モデルM13に入力される。
図4から分かるように、筒内充填空気量モデルM10では或るモデルにおいて算出されたパラメータの値が別のモデルへの入力値として利用されるので、筒内充填空気量モデルM10全体では、実際に入力される値はスロットル開度θt、大気圧Pa、および大気温度Taの三つのパラメータのみであり、これら三つのパラメータから平均筒内充填空気量Mcが算出される。
次に、筒内充填空気量モデルM10の各モデルM11〜M14について説明する。
電子制御スロットルモデルM11は、負荷センサ46により検出されたアクセルペダル操作量Accpに基づいて、実際のスロットル弁18が所定時間ΔT後に到達するスロットル開度(以下、「先読みスロットル開度」と称す)θtを推定するモデルである。本実施形態においては、スロットル弁電子制御ロジックにて、負荷センサ46により検出されたアクセルペダル操作量Accpと、アクセルペダル操作量Accpと目標スロットル開度θtとの関係を規定するマップとに基づいてスロットル開度θtが求められる。このようにして求められたスロットル開度θtはスロットルモデルM12へと送られる。一方、このスロットル開度θtを所定時間ΔT(例えば、64msec)だけ遅延させた値が最終的な目標スロットル開度θrとして求められ、実際のスロットル開度TAが目標スロットル開度θrとなるようにステップモータ17へ駆動信号が送出される。
このように、目標スロットル開度θrは、現時点から所定時間ΔTだけ前の時点におけるアクセルペダル操作量Accpに応じて決定されたスロットル開度θtと等しい。目標スロットル開度θrに基づいてスロットル弁18が駆動されるため、スロットル開度θtは実際のスロットル弁18のスロットル開度よりもΔTだけ先のスロットル開度となっている。逆に言うと、スロットル開度θtは、実際のスロットル弁18が所定時間ΔT後に到達するスロットル開度となっている。
スロットルモデルM12では、大気圧Pa、大気温度Ta、吸気管内圧力Pm、電子制御スロットルモデルM11から出力された先読みスロットル開度θtから、下記式(8)に基づいてスロットル弁通過空気流量mtが算出される。ここで、式(8)におけるμはスロットル弁における流量係数で、スロットル開度θtの関数である。また、Atはスロットル弁の開口断面積を示し、スロットル開度θtの関数である。
また、Φ(Pm/Pa)は下記式(9)に示した関数であり、この式(9)におけるκは比熱比(一定値とする)である。この関数Φ(Pm/Pa)は図5に示したようなグラフに表すことができるので、このようなグラフをマップとしてECU31のROM34に保存し、実際には式(9)を用いて計算するのではなくマップからΦ(Pm/Pa)の値を求めるようにしてもよい。
これらスロットルモデルM12の式(8)および式(9)は、スロットル弁18上流の気体の圧力を大気圧Pa、スロットル弁18上流の気体の温度を大気温度Ta、スロットル弁18の下流の気体の圧力を吸気管内圧力Pmとして、図6に示したようなスロットル弁18のモデルに対して、質量保存則、エネルギ保存則および運動量保存則を適用し、さらに気体の状態方程式、比熱比の定義式、およびマイヤーの関係式を利用することによって得られる。
吸気管モデルM13では、スロットル弁通過空気流量mt、平均筒内吸入空気流量mc’、および大気温度Taから、下記式(10)および式(11)に基づいて吸気管内圧力Pmおよび吸気管内温度Tmが算出される。
ここで、吸気管モデルM13について図7を参照して説明する。吸気管部分の総気体量(総吸気ガス量)をMとすると、総気体量Mの時間的変化は、吸気管部分に流入する気体の流量、すなわちスロットル弁通過空気流量mtと、吸気管部分から流出する気体の流量、すなわち平均筒内吸入空気流量mc’との差に等しいため、質量保存則により下記式(12)が得られ、この式(12)および気体の状態方程式(Pm・Vm=M・R・Tm)より、式(10)が得られる。
また、吸気管部分の気体のエネルギM・Cv・Tmの時間的変化量は、吸気管部分に流入する気体のエネルギと吸気管部分から流出する気体のエネルギとの差に等しい。このため、吸気管部分に流入する気体の温度を大気温度Ta、吸気管部分から流出する気体の温度を吸気管内温度Tmとすると、エネルギ保存則により下記式(13)が得られ、この式(13)および上記気体の状態方程式より、式(11)が得られる。
吸気弁モデルM14では、吸気管内圧力Pm、吸気管内温度Tm、および大気温度Taから、下記式(14)に基づいて、平均筒内吸入空気流量mc’が算出される。なお、式(14)におけるa、bは、機関回転数Neから、さらに吸気弁6の位相角(バルブタイミング)および作用角を変更できる可変動弁機構を備えた内燃機関の場合には吸気弁6の位相角、作用角から定まる値である。
上述した吸気弁モデルM14について図8を参照して説明する。一般に、吸気弁6が閉じたときに燃焼室5内に吸入されている吸気ガスの量である平均筒内充填空気量Mcは、吸気弁6が閉弁するとき(吸気弁閉弁時)に確定し、吸気弁閉弁時の燃焼室5内の圧力に比例する。また、吸気弁閉弁時の燃焼室5内の圧力は吸気弁上流の気体の圧力、すなわち吸気管内圧力Pmと等しいとみなすことができる。したがって、平均筒内充填空気量Mcは、吸気管内圧力Pmに比例すると近似することができる。
ここで、単位時間当たりに吸気管部分から流出する全吸気ガスの量を平均化したもの、または単位時間当たりに吸気管部分から全ての燃焼室5に吸入される吸気ガスの量を一つの気筒の吸気行程に亘って(後述するように本実施形態ではクランク角180°分)平均化したものを平均筒内吸入空気流量mc’(以下で詳述する)とすると、平均筒内充填空気量Mcが吸気管内圧力Pmに比例することから、平均筒内吸入空気流量mc’も吸気管内圧力Pmに比例すると考えられる。このことから、理論および経験則に基づいて、上記式(14)が得られる。なお、式(14)における値aは比例係数であり、機関回転数Ne、吸気弁駆動装置12への印可電圧等をパラメータとした三次元マップから求まる。なお、この三次元マップは、予め実験的にまたは計算によって求められ、ECU31のROM34に保存されている。値bは燃焼室5内に残存していた既燃ガスを表す値(排気弁8閉弁時に燃焼室5内に残る既燃ガス量を後述する時間ΔT180°で除算したものと考えられる)である。また、実際の運転では過渡時に吸気管内温度Tmが大きく変化する場合があるため、これに対する補正として理論および経験則に基づいて導かれたTa/Tmが乗算されている。
ここで、平均筒内吸入空気流量mc’について、図9を参照して内燃機関が4気筒である場合について説明する。なお、図9は横軸がクランクシャフトの回転角度、縦軸が単位時間当たりに吸気管部分から燃焼室5に実際に流入する吸気ガスの流量である。図9に示したように、4気筒の内燃機関では、吸気弁6が例えば1番気筒、3番気筒、4番気筒、2番気筒の順に開弁し、各気筒に対応する吸気弁6の開弁量に応じて吸気管部分から各気筒の燃焼室5内へ吸気ガスが流入する。例えば、吸気管部分から各気筒の燃焼室5内に流入する吸気ガスの流量の変位は図9に破線で示した通りであり、これを総合して吸気枝管13から全気筒の燃焼室に流入する吸気ガスの流量は図9に実線で示した通りである。また、例えば1番気筒への平均筒内充填空気量Mcは図9に斜線で示した通りである。
これに対して、実線で示した吸気管から全ての気筒の燃焼室に流入する吸気ガスの量を平均化したものが平均筒内吸入空気流量mc’であり、図中に一点鎖線で示す。そして、この一点鎖線で示した平均筒内吸入空気流量mc’に、4気筒の場合にはクランクシャフトが180°(すなわち、4ストローク式内燃機関において1サイクル中にクランクシャフトが回転する角度720°を気筒数で割った角度)回転するのにかかる時間ΔT180°を乗算したものが平均筒内充填空気量Mcとなる。したがって、吸気弁モデルM14で算出された平均筒内吸入空気流量mc’にΔT180°を乗算することで、平均筒内充填空気量Mcが算出される(Mc=mc’・ΔT180°)。より詳細には、平均筒内充填空気量Mcが吸気弁閉弁時の圧力に比例することを考慮して、吸気弁閉弁時の平均筒内吸入空気流量mc’にΔT180°を乗算したものが平均筒内充填空気量Mcとされる。
なお、上記筒内充填空気量モデルM10では、大気温度Taおよび大気圧Paが一定であるとしているが、時刻によって変化する値としてもよく、例えば、大気温度を検出するための大気温センサ43によって検出された値を大気温度Ta、大気圧を検出するための大気圧センサ44によって検出された値を大気圧Paとして上記式(8)、式(11)、および式(14)に代入するようにしてもよい。