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JP4736617B2 - 剛性の高い高強度冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

剛性の高い高強度冷延鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、自動車のセンターピラーなどのコラム状の構造部材に用いられる590MPa以上の引張強度TSを有する高強度冷延鋼板、特に、剛性の高い高強度冷延鋼板、およびその製造方法に関する。
近年、地球環境問題への関心の高まりを受けて、自動車でも排ガス規制が要請されており、自動車車体の軽量化が極めて重要な課題になっている。自動車車体を軽量化するには、車体に使用される鋼板を高強度化し、その板厚を減少させることが有効である。そのため、最近では、自動車のセンターピラー、ロッカー、サイドフレーム、クロスメンバーなどのコラム状の構造部材に対しても、590MPa以上のTSを有し、板厚が2.0mmを下回るような高強度冷延鋼板を積極的に適用しようという動きがある。
これまで、590MPa以上のTSを有する高強度冷延鋼板として、例えば、質量%で、C:0.04〜0.14%、Si:0.4〜2.2%、Mn:1.2〜2.4%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.002〜0.5%、Ti:0.005〜0.1%、N:0.006%以下、さらにNb、Mo、Vの1種以上を合計で0.005〜0.1%を含有し、Ti/S≧5を満足し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成のスラブを、仕上温度(900+50×Si)以上で熱間圧延し、圧下率50〜85%で冷間圧延後、700〜900℃のフェライトとオーステナイトの二相共存温度域で10s〜5min焼鈍し、700℃から500℃までの間の平均冷却速度を1〜120℃/sとして250〜500℃に冷却し、必要に応じて再加熱した後250〜600℃の範囲の温度域に30s〜10min保持してから冷却し、マルテンサイトおよびオーステナイトの体積率を合計で6%以上とし、かつマルテンサイト、残留オーステナイトおよびベイナイトの硬質相の体積率α%を、α≦50000×(Ti/48+Nb/93+Mo/96+V/51)となるようにさせた穴広げ性に優れた低降伏比高強度冷延鋼板が開示されている(特許文献1)。
また、重量%で、C:0.02〜0.30%、Si:1.50%以下、Mn:0.60〜3.0%、P:0.20%以下、S:0.05%以下、Al:0.01〜0.10%、さらにMo:0.01〜1.0%、Cr:0.10〜1.5%、Nb:0.01〜0.05%、Ti:0.01〜0.5%、B:0.0005〜0.0030%、Ca:0.01%以下のうちの少なくとも1種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の鋼を、Ac3変態点以上で熱間圧延し、酸洗、冷間圧延後、連続焼鈍溶融亜鉛めっきラインにおいて、再結晶温度以上かつAc1変態点以上に加熱保持後、溶融亜鉛槽に至るまでの間において、Ms点以下に急冷して、鋼板全体あるいは部分的にマルテンサイトを生成させ、次いで、Ms点以上の温度であって少なくとも溶融亜鉛浴温度および合金化炉温度に加熱して全体あるいは部分的に焼戻マルテンサイトを生成させた伸びフランジ性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている(特許文献2)。
なお、下記の特許文献3は、後述の[課題を解決するための手段]で述べる鋼のヤング率に関する。
特開平2002-69574号公報 特開平6-93340号公報 特開平5-255804号公報
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の高強度冷延鋼板を、実際にこうしたコラム状の構造部材に適用すると、十分な剛性を確保できない、すなわち、撓んだり、ねじれたりする問題が起こる。
本発明は、剛性が高く、TSが590MPa以上の高強度冷延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
一般に、鋼板の剛性を高めるにはヤング率を高めることが有効である。また、鋼のヤング率は、集合組織に大きく依存し、体心立方格子である普通鋼の場合は、原子の最密方向である<111>方向に高く、逆に原子密度の小さい<100>方向に低いので、{112}<110>方位を発達させれば鋼板の圧延方向と直角方向のヤング率を高めることができる。また、{112}<110>方位の発達した冷延鋼板とするには、熱間圧延後に{113}<110>方位を発達させることが有効である(例えば、特許文献3)。
そこで、本発明者らは、成形性の観点から低温変態相で強化された高強度冷延鋼板の剛性を向上させるべく種々の検討を行ったところ、上記の{112}<110>方位を発達させてヤング率を高め、さらに下記の式(1)のXを230GPa以上にすることが有効であることを見出した;
X=0.005×TS/(ε2-ε1)[GPa] ・・・(1)
ここで、TSは鋼板の引張強度[MPa]、ε1は公称応力が0.40×TSのときの公称歪[%]、ε2は公称応力が0.45×TSのときの公称歪[%]を表す。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、質量%で、C:0.02〜0.20%、Si:1.5%以下、Mn:1.0〜3.5%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:1.5%以下、N:0.01%以下、Nb:0.01〜0.40%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、[Nb]-(93/14)×[N]≧0.005を満足し、200〜500℃の温度域に60s以上滞留させて焼戻して得たフェライト相と低温変態相からなるミクロ組織を有し、かつ低温変態相の体積率が1〜60%であり、引張強度が590MPa以上で、かつ上記の式(1)のXが230GPa以上である剛性の高い高強度冷延鋼板を提供する。ここで、[M]は元素Mの含有量[質量%]を表す。
本発明の高強度冷延鋼板では、Nb:0.03〜0.40%にすることが好ましい。
本発明の高強度冷延鋼板は、さらに、質量%で、V:0.01〜0.5%、Ti:0.01〜0.2%のうち少なくとも1つの元素を含有することができる。
また、本発明の高強度冷延鋼板は、さらに、質量%で、Mo:0.1〜1.0%、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、B:0.0005〜0.0020%のうち少なくとも1つの元素、あるいはCu:0.1〜2.0%を含有することもできる。
本発明の高強度冷延鋼板は、例えば、上記のような組成からなる鋼スラブを、950℃以下における総圧下量を30%以上とし、Ar3変態点〜900℃の仕上温度で熱間圧延し、650℃以下で巻取り、40%以上の圧下率で冷間圧延後、(875-400×[C]-30×[Mn])〜(915-400×[C]-30×[Mn])℃で1〜600s加熱し、次いで冷却して700〜500℃の温度域に20s以上滞留させるとともに200〜500℃の温度域に60s以上滞留させて焼戻すか、あるいは前記700〜500℃の温度域での滞留の後200℃以下に冷却し、再加熱して200〜500℃の温度域に60s以上滞留させて焼戻す条件で焼鈍する方法により製造可能である。ここで、[M]は元素Mの含有量[質量%]を表す。
本発明により、自動車のセンターピラーなどのコラム状の構造部材に適用しても、剛性を確保できる590MPa以上のTSを有する高強度冷延鋼板を製造できるようになった。
以下に、本発明である高強度冷延鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
1)成分
C:Cは、オーステナイト安定化元素なので、冷間圧延後の焼鈍時の冷却過程において焼入れ性を高め、低温変態相の生成を促進して高強度化に大きく寄与する。また、Ar3変態点を低下させるので、より低温域での熱間圧延を可能にし、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進して{113}<110>方位を発達させ、焼鈍時に{112}<110>方位を発達させてヤング率を向上させる。このような効果を得るためには、その量を0.02%以上とする必要がある。一方、その量が0.20%を超えると、硬質な低温変態相が増加して成形性が劣化するとともに、フェライト相が減少するためヤング率が低下する。したがって、C量は0.02〜0.20%、好ましくは0.02〜0.10%とする。
Si:Siは、Ar3変態点を著しく上昇させ、熱間圧延中における加工オーステナイトの再結晶を促進するため、1.5%を超えて多量に含有すると高ヤング率化に必要な結晶方位を発達させることができなくなり、また、鋼板の溶接性、化成処理性、めっき性を劣化させたり、熱間圧延時に赤スケールと呼ばれる表面欠陥の発生を助長させる。したがって、Si量は1.5%以下とする。特に、本発明の鋼板が良好な表面性状を必要とする場合や本発明の鋼板に溶融亜鉛めっきを施す場合には、Si量を0.5%以下とすることが好ましい。なお、Siはフェライト安定化元素であり、焼鈍時の冷却過程においてフェライト変態を促進し、オーステナイト中にCを濃化させてオーステナイトを安定化させ、低温変態相の生成を促進する効果を有する。この効果を十分に得るためには、Si量を0.1%以上とすることが望ましい。
Mn:Mnは、本発明において重要な元素の1つであり、熱間圧延時に加工オーステナイトの再結晶を抑制するとともに、Ar3変態点を低下させるので、より低温域での熱間圧延を可能にし、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進して{113}<110>方位を発達させて、焼鈍後のヤング率を向上させる。また、Mnは、オーステナイト安定化元素でもあるので、焼鈍時の昇温過程においてAc1変態点を低下させ、未再結晶フェライトからのオーステナイト変態を促進し、その後の冷却過程において高ヤング率化に有利なフェライトの方位を発達させる。さらに、Mnは、固溶強化元素であるとともに、焼鈍時の冷却過程において焼入れ性を高め、低温変態相の生成を促進するので、高強度化に大きく寄与する。このような効果を得るためには、その量を1.0%以上とする必要がある。一方、その量が3.5%を超えると、焼鈍時の冷却過程で高ヤング率化に必要なフェライトの生成が著しく抑制され、また、低温変態相が増加して鋼が極端に高強度化して成形性が劣化するとともに、溶接性も劣化する。したがって、Mn量は1.0〜3.5%、好ましくは1.5〜2.5%とする。
P:Pは、0.05%を超えて含有すると粒界に偏析して鋼板の延性や靭性を低下させるとともに、溶接性を劣化させる。また、本発明の鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを施す場合には、Pは合金化速度を遅滞させる。したがって、P量は0.05%以下とする。なお、Pは固溶強化元素であり、フェライトを安定化してオーステナイト中へのC濃化を促進する作用や、Siを添加した鋼において赤スケールの発生を抑制する作用も有する。そのため、P量は0.01%以上とすることが好ましい。
S:Sは、0.01%を超えて多量に含有すると熱間での延性を著しく低下させて熱間割れを誘起し、鋼板の表面性状を著しく劣化させる。また、強度にほとんど寄与しないばかりか、粗大なMnSとして析出し、穴広げ性などの延性を低下させる。したがって、S量は0.01%以下とする。なお、その量は少ないほど好ましいが、穴広げ性を向上させる観点からは0.005%以下とすることがより好ましい。
Al:Alは、フェライト安定化元素であり、鋼のAr3変態点を大きく上昇させるため加工オーステナイトの再結晶を促進して、高ヤング率化に必要な結晶方位の発達を抑制する。また、多量に含有されるとオーステナイト単相域が消失し、熱間圧延時にオーステナイト域で圧延を終了させることが困難となる。したがって、Al量は1.5%以下とする。なお、Alは、焼鈍時の冷却過程においてフェライト生成を促進し、オーステナイト中にCを濃化させてオーステナイトを安定化させ、低温変態相の生成を促進する効果を有するので、Al量は0.2%以上とすることが望ましい。
N:Nは、0.01%を超えて多量に含有されると熱間圧延中にスラブ割れを誘起し、鋼板の表面性状を劣化させる恐れがある。したがって、N量は0.01%以下とする。
Nb:Nbは、本発明における最も重要な元素である。すなわち、Nbは、熱間圧延時に加工オーステナイトの再結晶を抑制し、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進して{113}<110>方位を発達させ、焼鈍後のヤング率を向上させる。また、焼鈍時の昇温過程において加工フェライトの再結晶を抑制し、未再結晶フェライトからのオーステナイト変態を促進して、その後の冷却過程において高ヤング率化に有利なフェライトの方位を発達させる。さらに、微細な炭窒化物として析出し、強度上昇にも寄与する。このような効果を得るためには、その量を0.01%以上、好ましくは0.03%以上とする必要がある。一方、その量が0.40%を超えると、スラブの再加熱時にその炭窒化物はすべて固溶することができず、粗大な炭窒化物が残るため熱間圧延時において加工オーステナイトの再結晶が抑制されず、また、冷間圧後の焼鈍時においても加工フェライトの再結晶が抑制されないので、高ヤング率化に有利なフェライトの方位を発達させることができない。また、連続鋳造後スラブを直接熱間圧延する場合においても、加工オーステナイトの再結晶が抑制されない。したがって、Nb量は0.01〜0.40%、好ましくは0.03〜0.40%とする。さらに、Nb窒化物は、Nb炭化物に比べ高温で析出するため熱間圧延時に粗大になりやすいので、加工オーステナイトの再結晶を抑制したり、焼鈍時に加工フェライトの再結晶を抑制したりする効果が小さく、高ヤング率化に対する寄与は少ない。したがって、炭化物として析出するNb量を確保する必要があるので、[Nb]-(93/14)×[N]≧0.005を満足させる必要がある。
残部は、Feおよび不可避的不純物である。
上記成分元素に加え、下記の理由により、質量%で、V:0.01〜0.5%、Ti:0.01〜0.2%のうち少なくとも1つの元素を含有させることが好ましい。
V:Vは、微細な炭窒化物として析出し、強度上昇に寄与する。そのためには、その量を0.01%とする必要がある。一方、その量が0.5%を超えても強度上昇効果は小さく、コスト増も招く。したがって、V量は0.01〜0.5%とする。
Ti:Tiは、微細な炭窒化物として析出し、強度上昇に寄与する。また、熱間圧延時に加工オーステナイトの再結晶を抑制し、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進して高ヤング率化に寄与する。このような作用を有するためには、その量を0.01%以上とする必要がある。一方、その量が0.2%を超えると、スラブの再加熱時に炭窒化物はすべて固溶することができず、粗大な炭窒化物が残るため、強度を上昇させたり、加工オーステナイトの再結晶を抑制させる効果が得られない。また、連続鋳造後スラブを直接熱間圧延する場合においても、加工オーステナイトの再結晶を抑制する効果は小さく、コスト増を招く。したがって、Ti量は0.01〜0.2%とする。
さらに、下記の理由により、質量%で、Mo:0.1〜1.0%、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、B:0.0005〜0.0020%のうち少なくとも1つの元素、あるいはCu:0.1〜2%を含有させることが好ましい。
Mo:Moは、界面の移動度を小さくすることにより焼入れ性を高める元素であり、焼鈍時の冷却過程において低温変態相の生成を促進して高強度化に大きく寄与する。また、熱間圧延時に加工オーステナイトの再結晶を抑制し、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進して{113}<110>方位を発達させ、焼鈍後のヤング率を向上させる。このような作用を得るためには、その量を0.1%以上とする必要がある。一方、その量が1.0%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、コスト増を招く。したがって、Mo量は0.1〜1.0%とする。
Cr:Crは、セメンタイトの生成を抑制して焼入れ性を高める元素であり、焼鈍時の冷却過程において低温変態相の生成を促進して高強度化に大きく寄与する。また、熱間圧延時に加工オーステナイトの再結晶を抑制し、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進して{113}<110>方位を発達させ、焼鈍後のヤング率を向上させる。このような効果を得るには、その量を0.1%以上とする必要がある。一方、その量が1.0%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、コスト増を招く。したがって、Cr量は0.1〜1.0%とする。なお、本発明の鋼板に溶融亜鉛めっきを施す場合には、表面に生成するCrの酸化物が不めっきを誘発するので、Cr量は0.5%以下とすることがより好ましい。
Ni:Niは、オーステナイトを安定化することで焼入れ性を高める元素であり、焼鈍時の冷却過程において低温変態相の生成を促進して高強度化に大きく寄与する。また、焼鈍時の昇温過程においてAc1変態点を低下させ、未再結晶フェライトからのオーステナイト変態を促進し、冷却過程において高ヤング率化に有利なフェライトの方位を発達させる。さらに、熱間圧延時に加工オーステナイトの再結晶を抑制するとともに、Ar3変態点を低下させ、より低温域での熱間圧延を可能にすることで、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進して{113}<110>方位を発達させ、焼鈍後のヤング率を向上させる。さらにまた、Cu添加の場合に起こる熱間圧延時の割れを防止する。このような作用を得るためには、その量を0.1%以上とする必要がある。一方、その量が1.0%を超えると、焼鈍時の冷却過程で高ヤング率化に必要なフェライトの生成を抑制したり、低温変態相を増加させて鋼を極端に高強度化し、成形性を低下させる。したがって、Ni量は0.1〜1.0%とする。
B:Bは、オーステナイトからフェライトへの変態を抑制し、焼入れ性を高める元素であり、焼鈍時の冷却過程において低温変態相の生成を促進して高強度化に大きく寄与する。また、熱間圧延時に加工オーステナイトの再結晶を抑制し、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進して{113}<110>方位を発達させ、焼鈍後のヤング率を向上させる。こうした効果を得るためには、その量を0.0005%以上とする必要がある。一方、その量が0.0020%を超えると、焼鈍時の冷却過程でフェライトの生成を著しく抑制してヤング率を低下させる。したがって、B量は0.0005〜0.0020%とする。
Cu:Cuは、焼入れ性を高める元素であり、焼鈍時の冷却過程において低温変態相の生成を促進して高強度化に大きく寄与する。この効果を得るためには、その量を0.1%以上とする必要がある。一方、その量が2.0%を超えると、熱間での延性を低下させて割れを誘起するとともに、焼入れ性の効果も飽和する。したがって、Cu量は0.1〜2.0%とする。
2)ミクロ組織
自動車のセンターピラーなどのコラム状の構造部材には、伸びなどの成形性に優れることが必要である。そのため、フェライト相とマルテンサイトやベイナイトなどの低温変態相とからなる複合組織によって高強度化を図る必要がある。このとき、590MPa以上のTSを得るには、低温変態相の体積率を1〜60%にする必要がある。一方、低温変態相の体積率が60%を超えると過度に高強度化し、伸びなどの成形性が著しく低下する。
ここで、低温変態相の体積率は、鋼板の圧延方向に平行な板厚断面の板厚1/4の位置を光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡により倍率1000で観察し、100mm四方の領域に存在する低温変態相の占有面積率を画像処理によって求め、体積率とした。
3)X
一般に、ある部材の剛性は、素材のヤング率Eと断面2次モーメントの積で表され、断面2次モーメントは素材の板厚tのλ乗に比例するので、比例定数をAとすると下記の式(2)のように表せる。
剛性=A×E×tλ ・・・(2)
自動車のセンターピラーなどのコラム状の構造部材ではλは1に近い値となり、通常の鋼板のEは200〜210GPaなので、今、軽量化のために板厚を10%減少させても剛性を一定に保つには、Eを11%向上させて230GPaにする必要がある。
Eは、図1に示す引張試験で求まる応力-歪曲線における低歪域における直線部分の傾きであるが、板厚を減少させると素材にはより高い応力が負荷されるようになるので、こうしたEで剛性を評価することは十分でなく、素材に実際に負荷される応力近辺での応力-歪曲線の傾きで評価する必要がある。特に、低温変態相を有する高強度冷延鋼板では、可動転位が多いためと思われるが、応力-歪曲線の傾きが低歪域から低下してくるので、上述したように十分な剛性を確保できず、撓んだり、ねじれたりする問題が生じる。
そこで、本発明者らが、TSが590MPa以上の高強度冷延鋼板をコラム状の構造部材に適用した場合に、どの程度の応力が外部から負荷されるかを調査したところ200MPa程度の応力が負荷されることが明らかになった。したがって、TSの40%の応力(約240MPa)が負荷された状態、すなわち0.40×TS近辺の応力が負荷されたときの応力-歪曲線の傾きを230GPa以上にすれば、板厚を10%以上減少してもコラム状の構造部材の剛性を確保できることになる。
なお、応力-歪曲線の傾きを高精度で求めることは難しいので、図1に示すように、0.40×TSと0.45×TSの2点の傾きを上記の式(1)を用いて計算したXで評価した。すなわち、Xが230GPa以上であれば、コラム状の構造部材の剛性を確保できることになる。なお、Xが230GPa以上であれば、必然的にEは230GPa以上となる。また、0.60×TS近辺の傾きが230GPa以上であれば、より高い応力が負荷された場合でも剛性を確保できることになる。
本発明の高強度冷延鋼板の表面には、電気めっき法あるいは溶融めっき法などにより、純亜鉛、亜鉛系合金、純Al、Al系合金などのめっき層を設けることができる。
4)製造方法
本発明の一例である製造方法における基本的な考え方は、Xを230GPa以上とするために、まずEを高めて230GPa以上を確保し、次に0.4×TS近辺の応力が負荷されたときの応力-歪曲線の傾き、すなわちXを向上させることにある。
4-1) 熱間圧延条件
転炉や電炉などで溶製後、鋳造されたスラブを、950℃以下における総圧下量を30%以上とし、Ar3変態点〜900℃の仕上温度で熱間圧延すると、熱間圧延直後に{112}<111>方位からなる未再結晶のオーステナイトが発達し、その後の冷却過程においてこの未再結晶オーステナイトが{113}<110>方位のフェライトに変態し、冷間圧延後の焼鈍時に{112}<110>方位のフェライトが生成してヤング率を向上させることができる。
4-2)巻取温度
熱間圧延後の鋼板を巻取るに当り、巻取温度が650℃を超えると、Nbの炭窒化物が粗大化し、焼鈍時の昇温過程においてフェライトの再結晶を抑制する効果が小さくなり、未再結晶フェライトからオーステナイトに変態させることが困難となる。その結果、その後の冷却過程で変態するフェライトの方位を制御することができず、ヤング率が大きく低下してしまう。したがって、巻取温度は650℃以下とする。なお、巻取温度は低くなり過ぎると形状不良となりやすいため、350℃以上とすることが好ましい。
4-3)圧下率
熱間圧延後の鋼板を冷間圧延することにより、熱延鋼板で発達した{113}<110>方位を{112}<110>方位に回転させることができ、その後の焼鈍時に{112}<110>方位の発達したフェライトを生成でき、ヤング率を高くすることができる。このような効果を得るには、冷間圧延時の圧下率を40%以上とする必要がある。
4-4)焼鈍時の加熱条件
冷間圧延後の鋼板は焼鈍されるが、焼鈍の加熱時に{112}<110>方位をもつフェライトをオーステナイトへ変態させ、その後の冷却過程でオーステナイトから{112}<110>方位をもつフェライトに逆変態させてヤング率を向上させるために、加熱時に十分な量のフェライトをオーステナイトに変態させる必要がある。それには、加熱温度を(875-400×[C]-30×[Mn])℃以上とする必要がある。一方、加熱温度が高過ぎると、オーステナイトが粗大になり、逆変態したフェライトの{112}<110>方位への集積が低下する。そのため、加熱温度は(915-400×[C]-30×[Mn])℃以下とする必要がある。なお、ここで、(875-400×[C]-30×[Mn])〜(915-400×[C]-30×[Mn])℃の温度はAc3変態点近傍の温度域を表す。すなわち、本発明鋼では、Ac3変態点は(895-400×[C]-30×[Mn])(発明者らの求めた実験式)で表され、上記温度範囲は概ねAc3変態点±20℃の範囲を表す。加熱時間は、フェライトからオーステナイトへの変態を促進するために、1s以上必要である。一方、長過ぎるとオーステナイトが粗大になるため、加熱時間は600s以下とする必要がある。さらに、オーステナイトの粗大化を抑制してヤング率の向上を図ったり、組織を微細化して高強度化を図るには、加熱時間を300s以下とすることが好ましい。
4-5)焼鈍時の冷却条件
加熱後の鋼板は、冷却過程において、{112}<110>方位をもつフェライトを十分に生成させるために、700〜500℃の温度域に20s以上滞留させる必要がある。一方、長時間滞留させると炭化物が生成して低温変態相の生成が困難になり、強度が低下してしまう傾向があるため、滞留時間は200s以下とすることが好ましい。なお、滞留時間は、上記温度域で冷却速度を変えたり、恒温保持して制御できる。
4-6)焼鈍時の焼戻し条件
上記温度域に滞留させた鋼板は、さらに200〜500℃の温度域に60s以上滞留させて焼戻すか、あるいは上記温度域で滞留後200℃以下に冷却した後、再加熱して200〜500℃の温度域に60s以上滞留させて焼戻して、低温変態相の周辺に多量に存在する可動転位を減少させたり、あるいは可動転位に固溶C、Nのような侵入型元素を析出させて転位の移動を妨げると、上述したXを230GPa以上にすることができる。このとき、焼戻し温度が200℃未満では、その効果が得られず、一方、温度が高くなり過ぎ500℃を超えると、低温変態相が著しく軟化するので、200〜500℃の温度域で60s以上滞留させて焼戻す必要がある。好ましくは200〜450℃の温度域で60s以上滞留させる必要がある。なお、滞留時間が60s未満だと、上記効果を十分に得ることが困難になる。また、長時間滞留させると炭化物が粗大化し、低温変態相が著しく軟化して、強度が低下してしまうため滞留時間は1hr以下とすることが好ましい。なお、60s以上滞留は、加熱速度や冷却速度を調整したり、あるいは恒温保持で行える。
表1に示す成分の鋼Aを、実験室にて、真空溶解炉で溶製し、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を行って冷延鋼板を作製した。このとき、熱間圧延に先立つ加熱条件:1250℃で1時間、熱間圧延における950℃以下の総圧下率:40%、仕上温度:860℃、熱間圧延後の板厚:3.0mm、巻取条件:600℃で1時間保持後炉冷する巻取相当処理(巻取温度600℃)、冷間圧延の圧下率:50%、冷間圧延後の板厚:1.5mm、焼鈍時の加熱条件:820℃で180s、700〜500℃の平均冷却速度:8℃/s(滞留時間:25s)、500〜300℃の平均冷却速度:15℃/s、焼戻し条件:300℃で180s保持し、次いで200℃まで平均冷却速度10℃/sで冷却後空冷を基本条件とし、冷間圧延の圧下率、焼鈍の加熱温度、700〜500℃の滞留時間、焼戻しの温度と時間を変化させた。すなわち、変化させた条件以外は上記の条件である。また、700〜500℃の温度域を平均冷却速度8℃/sで冷却後、室温まで空冷し、再加熱して焼戻しの温度と時間を変化させた条件も加えた。
そして、作製した冷延鋼板から、圧延方向に対し直角な方向より10×60mmの試験片を切り出し、共振法によりヤング率Eを測定した。また、焼鈍後0.5%の調質圧延を施した冷延鋼板から、圧延方向に対し直角な方向よりJIS 5号引張試験片を切り出し、引張特性(TSと伸びEl)を測定した。さらに、調質圧延を施さない冷延鋼板から、圧延方向に対し直角な方向よりJIS 5号引張試験片を切り出し、引張試験により応力を負荷し、歪みゲージを用いて、0.40×TSと0.45×TSおよび0.60×TSと0.65×TSの応力負荷時の歪み量を測定し、上記式(1)からX(0.4TS)とX(0.6TS)を求めた。さらにまた、上述した方法で低温変態相の体積率を求めた。なお、低温変態相以外の相はフェライト相であった。
基本条件で作製した冷延鋼板は、TS:790MPa、El:20%、E:245GPa、X:243GPaを有し、優れた強度-延性バランスと高い剛性を示す。
表2に、冷間圧延の圧下率を変えて得られた結果を示す。本発明である40%以上の圧下率では、優れた強度-延性バランスを示すとともに、Xが230GPa以上となり高い剛性が得られる。
表3に、焼鈍時の加熱温度を変えて得られた結果を示す。本発明である(875-400×[C]-30×[Mn])〜(915-400×[C]-30×[Mn])℃の加熱温度では、優れた強度-延性バランスを示すとともに、X(0.4TS)およびX(0.6TS)がともに230GPa以上となり高い剛性が得られる。
表4に、700〜500℃の滞留時間を変えて得られた結果を示す。なお、滞留時間は冷却速度を変化させることにより変えた。本発明である20s以上の滞留時間では、優れた強度-延性バランスを示すとともに、X(0.4TS)およびX(0.6TS)がともに230GPa以上となり高い剛性が得られる。
表5に、再加熱せずにそのまま焼戻したときに焼戻し温度と時間を変えて得られた結果を示す。なお、500℃から焼戻し温度までは平均冷却速度15℃/sで冷却し、表に記載の焼戻し温度および時間で焼戻し後、200℃まで平均冷却速度10℃/sで冷却して空冷した。ここで、100℃、200℃で焼戻した場合は、焼戻し後空冷とした。本発明である焼戻し温度を200〜500℃とし、この温度域での滞留時間を60s以上とした場合では、優れた強度-延性バランスを示すとともに、X(0.4TS)およびX(0.6TS)がともに230GPa以上となり高い剛性が得られる。
表6に、再加熱して焼戻したときに焼戻し温度と時間を変えて得られた結果を示す。なお、焼戻し温度までは平均10℃/sで加熱し、表に記載の焼戻し温度および時間で焼戻し後、200℃まで平均冷却速度10℃/sで冷却して空冷した。また、ここで、100℃、200℃で焼戻した場合は、焼戻し後空冷とした。本発明である焼戻し温度を200〜500℃とし、この温度域での滞留時間を60s以上とした場合では、優れた強度-延性バランスを示すとともに、X(0.4TS)およびX(0.6TS)がともに230GPa以上となり高い剛性が得られる。
Figure 0004736617
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表7に示す成分の鋼B〜Yを、実験室にて、真空溶解炉で溶製し、実施例1の基本条件で熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を行って冷延鋼板1〜24を作製した。このとき、焼鈍時の加熱温度は、C、Mn量にしたがって変え、本発明範囲内とした。そして、実施例1と同様な調査を行った。なお、実施例1と同様、低温変態相以外の相はフェライト相であった。
結果を表8に示す。本発明である成分の条件を満たす鋼板1〜10、12〜15、18、21〜24では、優れた強度-延性バランスを示すとともに、X(0.4TS)が230GPa以上となり高い剛性が得られる。一方、[Nb]-(93/14)×[N]が本発明範囲外の鋼板11、Mn量が本発明範囲外の鋼板16、17、およびC量が本発明範囲外の鋼板19、20では、Eが低く、X(0.4TS)も230GPa未満で、剛性が低い。また、C量が著しく低い鋼板20では、TSも450MPaで高強度が得られない。
Figure 0004736617
Figure 0004736617
Xを求める方法を説明する図である。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.02〜0.20%、Si:1.5%以下、Mn:1.0〜3.5%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:1.5%以下、N:0.01%以下、Nb:0.01〜0.40%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、[Nb]-(93/14)×[N]≧0.005を満足し、200〜500℃の温度域に60s以上滞留させて焼戻して得たフェライト相と低温変態相からなるミクロ組織を有し、かつ低温変態相の体積率が1〜60%であり、引張強度が590MPa以上で、かつ下記の式(1)のXが230GPa以上である剛性の高い高強度冷延鋼板;
    X=0.005×TS/(ε2-ε1)[GPa] ・・・(1)
    ここで、[M]は元素Mの含有量[質量%]を表し、TSは鋼板の引張強度[MPa]、ε1は公称応力が0.40×TSのときの公称歪[%]、ε2は公称応力が0.45×TSのときの公称歪[%]を表す。
  2. 質量%で、Nb:0.03〜0.40%である請求項1に記載の剛性の高い高強度冷延鋼板。
  3. さらに、質量%で、V:0.01〜0.5%、Ti:0.01〜0.2%のうち少なくとも1つの元素を含有する請求項1または2に記載の剛性の高い高強度冷延鋼板。
  4. さらに、質量%で、Mo:0.1〜1.0%、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、B:0.0005〜0.0020%のうち少なくとも1つの元素を含有する請求項1から3のいずれか1項に記載の剛性の高い高強度冷延鋼板。
  5. さらに、質量%で、Cu:0.1〜2.0%を含有する請求項1から4のいずれか1項に記載の剛性の高い高強度冷延鋼板。
  6. 請求項1〜5に記載の組成からなる鋼スラブを、950℃以下における総圧下量を30%以上とし、Ar3変態点〜900℃の仕上温度で熱間圧延し、650℃以下で巻取り、40%以上の圧下率で冷間圧延後、(875-400×[C]-30×[Mn])〜(915-400×[C]-30×[Mn])℃で1〜600s加熱し、次いで冷却して700〜500℃の温度域に20s以上滞留させるとともに200〜500℃の温度域に60s以上滞留させて焼戻すか、あるいは前記700〜500℃の温度域での滞留の後200℃以下に冷却し、再加熱して200〜500℃の温度域に60s以上滞留させて焼戻す条件で焼鈍する剛性の高い高強度冷延鋼板の製造方法;ここで、[M]は元素Mの含有量[質量%]を表す。
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