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JP4707327B2 - ポリペプタイド類の吸着防止剤 - Google Patents

ポリペプタイド類の吸着防止剤 Download PDF

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Description

本発明は、ポリペプタイド類の吸着防止剤に関する。さらに詳しくは、メチオニンを含有する吸着防止剤に関する。
カルシトニン、パラサイロイドホルモン(PTH)、インシュリン等の生理活性ポリペプタイド類は、ホルモン活性をはじめとする生理活性を有し、医薬品としてこれを投与する場合、その有効性と安全性を確保するために他の薬剤以上に、より精密に投与量を守る必要がある。従来より、生理活性ポリペプタイド類を水溶液の状態で保存した場合、ガラス製やプラスチック製などの器具、容器等に生理活性ポリペプタイド類が吸着することが知られている。さらに、例えば、インシュリンの吸着はインシュリンの濃度の低い時に、より起きやすいことが報告されており(例えば、非特許文献1)、この場合はいっそう吸着が問題となる。
このような生理活性ポリペプタイド類の吸着防止を目的として各種の化合物を添加することが行なわれているが、この吸着防止を目的として添加する化合物(以下、単に吸着防止剤と称することがある)としては、従来、以下のものが知られている。例えば、メチルセルロース、POE(ポリオキシエチレン)−硬化ヒマシ油及びその誘導体(例えばHCO-60)、レシチン、ヒドロキシプロピルセルロース、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体、POE-ソルビタンアルキルエステル類(例えばPOE-ソルビタンモノオレート、Tween80、POE-ソルビタンモノラウレート)、メチルサイクロデキストリン、ソルビタン脂肪酸エステル、POE-オクチルフェニルエーテル、POE-ラウリルエーテル、パシトラシン、ポリエチレングリコール6,000、塩化ベンザルコニウム、ゼラチン、BSA(ウシ血清アルブミン)、HSA(ヒト血清アルブミン)、尿素及びカゼイン等の界面活性剤や高分子物質、さらにはグリチルリチン類(例えばグリチルリチン酸、及びその塩)等である。
注射液等の非経口投与製剤は、安全、かつ安定でなければならず、前述の吸着防止剤においてはこれらの条件を必ずしも十分に満足するとはいえなかった。例えば、生理活性ポリペプタイド類に対するHCO-60、Tween80、塩化ベンザルコニウム等の添加においては、ヒスタミンの遊離による血圧降下、溶血等の副作用が発生しやすいことが知られている。また、吸着防止効果のある高分子物質は医薬品として認可されていないものが多く、ヒト血清アルブミンなどはエイズや肝炎の問題を払拭するには多大な労力がかかると思われる。
一方、発明にかかる化合物であるメチオニンは、カルシトニン水溶液注射剤の保存安定性を向上させる化合物であることが知られている(例えば特許文献1)。しかしながら、メチオニンがポリペプタイド類に対して吸着防止効果を有することについては何ら記載は無く、また示唆もない。
薬剤学 Vol.39.107−111(1979) 特許第2974722号
ポリペプタイド類の吸着防止剤の提供であって、安全性及び安定性の高い吸着防止剤を提供することを課題とする。
通常、生理活性ポリペプタイド類は極めて微量で活性を示すことより、その投与溶液は極めて低い濃度であり、前述の通り吸着が起こり易い状態にあると言える。さらに、吸着によるポリペプタイド類の損失は、当初の配合量が微量であるだけに非常に大きな問題であり、これらの容器等への吸着の防止は、薬剤の有効性を確保する上で解決するべき課題である。
本発明は、ポリペプタイド類を含む水溶液組成物を用いる場合において、その製造設備及び/または医療用容器等へのポリペプタイド類の吸着を防止することを目的とし、水溶液組成物の保存安定性を損なうことなく、製造設備及び/または医療用容器等への吸着が少ないポリペプタイド類水溶液組成物の完成を目指すものである。
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究した結果、全く意外にも、アミノ酸の一種であるメチオニンを添加することにより、課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
(1) メチオニンを含有することを特徴とするポリペプタイド類の吸着防止剤、
(2) ポリペプタイド類がカルシトニンまたはPTHである上記(1)の吸着防止剤、
(3) 吸着防止剤としてメチオニンを含有するポリペプタイド類の水溶液組成物または水性懸濁液組成物、
(4) ポリペプタイド類が、カルシトニンまたはPTHである上記(3)の水溶液組成物または水性懸濁液組成物。
(5) メチオニンを1〜3W/V%含有する上記(3)又は(4)に記載の水溶液組成物または水性懸濁液組成物。
本発明の技術によれば、ポリペプタイド類水溶液組成物および/またはポリペプタイド類水溶性懸濁液組成物にメチオニンを添加することによって、製造設備及び/または医療用容器等への吸着が効率的に防止され、医薬品としてこれらを投与する場合、投与量が正確となり、その医薬品の投与効果が確保される。また、本発明を製造時に用いた場合は、高価な生理活性ポリペプタイド類の吸着による損失を防ぐことが出来、経済的メリットは大きい。
[ポリペプタイド類]
本発明においてポリペプタイド類とは、ペプタイドの重合体をいう。好ましいポリペプタイド類としては、分子量が1,000〜80,000、更に好ましくは1,500から10,000の範囲が例示される。より好ましいポリペプタイド類としては、カルシトニン及びパラサイロイドホルモン(PTH)が挙げられる。カルシトニンは血清カルシウム低下作用を有するペプタイドホルモンの総称で、天然型カルシトニン及び[ASU1,7]カルシトニンが挙げられる。この[ASU1,7]カルシトニンとは天然型カルシトニンの1,7位のS-S結合をアミノスベリン酸にてCH2-CH2結合に変えたカルシトニン誘導体である。天然型カルシトニンであればサケカルシトニン、ヒトカルシトニン、ウナギカルシトニン、ニワトリカルシトニン等が使用され、[ASU1,7]カルシトニンであれば[ASU1,7]ウナギカルシトニン(エルカトニン)[ASU1,7]ニワトリカルシトニン等が使用され、好ましくは[ASU1,7]ウナギカルシトニン(エルカトニン;旭化成ファーマ社製)を使用する。また、エルカトニンの合成はMorikawaらによる下記参考文献により製造することができる。
<参考文献>MorikawaT.et.al.:Experientia,32(9),1104(1997)
また、PTHとしては、血清カルシウム上昇作用を有する分子量4,000〜10,000のペプチド類であって、34〜84個のアミノ酸配列を有し、天然型PTHだけでなく、合成PTH、組替えPTHまたは同様の生物学的同等性を有する類似体が知られている。例えば、ヒト-PTH(h-PTH)(1-84)、h-PTH(1-38)、h-PTH(1-34)、h-PTH(1-34)NH2、〔Nle8,18〕h-PTH、〔Nle8,18,Tyr34〕h-PTH(1-34)、ラット-PTH(1-84)、ラット-PTH(1-34)、ウシ-PTH(1-84)、ウシ-PTH(1-34)、ウシ-PTH(1-34)NH2等が挙げられる。本発明のPTHはその中でも分子量約4,400の34個のアミノ酸配列を有するh-PTH(1-34)(旭化成ファーマ社製)を使用することが好ましい。
[メチオニン]
本発明に用いられるメチオニンとは、アミノ酸の一種であるが、光学異性体、例えばL体及びDL体は共に使用できる。更にまた、その添加量はカルシトニン水溶液及び/またはPTH水溶液中の濃度の下限は0.1mg/mL以上、好ましくは1mg/mL以上、さらに好ましくは5mg/mL以上、上限は50mg/mL以下、好ましくは30mg/mL以下、さらに好ましくは20mg/mL以下である。
[pH緩衝剤]
また、pH緩衝剤としては、注射用製剤に添加可能なpH緩衝作用を有するものが用いられ、例えば酢酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸及びその塩などから適宜選ばれてなる組成が挙げられるが酢酸及びその塩が最も好ましい。また、薄めた塩酸や水酸化ナトリウムでpHを微調節してもよい。
[水溶液組成物、水性懸濁液組成物]
次いで水溶液を調製するにあたっては、まず例えば、0.05mM〜100mM、好ましくは0.1mM〜50mM、さらに好ましくは0.1mM〜10mMの上記pH緩衝剤を常法により注射用蒸留水に溶解し、天然型カルシトニンであればpH3〜5に調節し、[ASU1,7]カルシトニンであればpH5〜7に調節することが好ましい。また、PTHであればpH3〜8に調節することが好ましい。こうして得られたpH緩衝液に吸着防止剤としてメチオニンの有効量を添加し、目的のpHに再調整する。カルシトニンの有効含有量は例えば水溶液1mLあたり通常1〜100μgであり、好ましくは1mLあたり1〜30μgである。また、PTHであれば水溶液1mLあたり0.5μg〜500μgであり、好ましくは1mLあたり5〜300μgである。
本発明でいう水溶液組成物とは、上述のように調製される水溶液に吸着剤防止剤が添加された水溶液状態の組成物をいい、また、水性懸濁液組成物とは、不溶性の固体粒子をその他の適当な添加剤と精製水又は油を加え、適当な方法で懸濁し、全質を均等にした組成物、又は水溶性の固体粒子であっても飽和濃度を超えて懸濁している組成物等をいう。医薬用用途としては、経口投与混合物、外用ローション、点眼剤、軟膏剤、ハップ剤及び注射用製剤等が挙げられる。
[保存剤、等張化剤]
さらに必要に応じて、保存剤、等張化剤を加えることができる。保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等のパラベン類、2-フェニルエタノール、エチルアルコール、クロロブタノール等のアルコール類等を添加しても良い。
等張化剤としては製剤学上許容されている一般的なものであればよく、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類、単糖類、ニ糖類等の糖が使用できる。糖類としてはD-マンニトール及び/またはキシリトールが好ましい。更に適宜常法により無菌化処理をすればいい。
[容器]
このようにして得られたカルシトニン水溶液組成物またはPTH水溶液組成物は、例えば、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、ソフトバック、自己注射型のペン型キット、針無し注射器の容器、点鼻投与用容器、経肺投与用容器等に充填することにより、水溶液注射剤、または常法に基づいて凍結乾燥を行い凍結乾燥製剤とすることができる。プレフィルドシリンジ、自己注射型のペン型キット及び針無し注射器とは、形状は特に限定されないが例えばカルシトニン水溶液組成物又は、PTH水溶液組成物をあらかじめそれらに詰めた状態で密栓し、貯蔵、流通させる。医療現場等において、アンプル、バイアル等の様に移し替えすることなく、人体に注射する時に、例えば、先端の密栓を外し、また、切り離し注射するものである。
それらの容器としては、ガラス及びプラスチックが挙げられる。ガラス容器としてはホウケイ酸ガラスまたは内表面を脱アルカリ処理、シリコン処理等の特殊加工したガラス容器を用いても良い。また、プラスチック容器としては、環状ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンとα-オレフィンの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルペンテン、6フッ化樹脂、ポリメチルメタアクリレート、ポリカーボネート等とそれらの樹脂とシクロオレフィン類との共重合体などからなる容器が挙げられるがこの限りでない。
次に、本発明を実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
[残存率測定法]
後述する実施例1〜6及び比較例1〜7に従って調製されたカルシトニン水溶性組成物及び/またはh-PTH水溶性組成物を原液とし、この液を環状ポリオレフィン製シリンジに正確に1.5mL充填して密栓し、水溶性注射剤を得た。このシリンジ内の内溶液を別の環状ポリオレフィン製シリンジに移し替え20分間静置した。更に別の環状ポリオレフィン製シリンジに移し替えて20分間静置後の内溶液を移し替え液としてHPLC分析を実施しカルシトニン及び/又はh-PTHの含量を求めた。また、原液についてもHPLC分析によりこれらの含量を求め、原液中の含量に対する移し替え液の含量の割合を求め、移し替え試験残存率とした。発明の効果を明確に確認する為、通常の使用状況とは異なるあえて苛酷な移し替え試験を実施した。
[回収率測定法]
実施例7,8および比較例8について、得られた水溶液組成物を無菌ろ過し、環状ポリオレフィン製シリンジに約1mLずつ充填して密栓し、等張化剤の異なる、DL-メチオニンを含むエルカトニン水溶液注射剤及び含まないエルカトニン水溶液注射剤を得、次に、得られた水溶液組成物の含量をHPLC分析により求め、理論値に対する回収率を求めた。
<HPLC操作条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長225nm)
カラム:YMC-Pack ODS-AM 5μm 150mm×4.6mmI.D.
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:0.1%TFA/アセトニトリル混液
0.1mM酢酸ナトリウムを含む生理食塩液(pH5.5)100mLにDL-メチオニン(和光純薬工業製)濃度が0.01%、0.1%、0.5%、1%及び2%(%は特に断らない限り、W/V%を意味する。以下同じ。)になるようにDL-メチオニンをそれぞれ加えて溶かした。必要に応じて0.01M塩酸を加えてpH5.5に調整した。こうして得られたそれぞれの溶液に[ASU1,7]ウナギカルシトニンであるエルカトニン(旭化成ファーマ社製)0.4mgを溶解してDL-メチオニンを含むエルカトニン水溶液組成物を得た。得られたそれぞれのエルカトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により原液に対する移し替え液の残存率を求め、その結果を表1に示す。
0.1mM酢酸ナトリウムを含む生理食塩液(pH4.0)100mLにDL-メチオニン濃度が1%になるようにDL-メチオニンを加えて溶かした。必要に応じて0.01M塩酸を加えてpH4.0に調整した。こうして得られた溶液に天然型カルシトニンであるサケカルシトニン(シグマ社製)0.4mgを溶解してDL-メチオニンを含むサケカルシトニン水溶液組成物を得た。得られたサケカルシトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により原液に対する移し替え液の残存率を求め、その結果を表1に示す。
1mM酢酸ナトリウムを含む水溶液(pH4.0)50mLにDL-メチオニン濃度が1%になるようにDL-メチオニンを加えて溶かした。必要に応じて1M酢酸を加えてpH4.0に調整した。こうして得られた溶液にh-PTH(旭化成ファーマ社製)1.5mgを溶解してDL-メチオニンを含むh-PTH水溶液組成物を得た。得られたh-PTH水溶液組成物につき、前記の試験方法により原液に対する移し替え液の残存率を求め、その結果を表1に示す。
以上の様に、本発明の吸着防止剤であるDL-メチオニンを添加した実施例1〜3は、DL-メチオニンを添加しない比較例1〜3に比べて、残存率が高く、吸着が抑制されている結果が得られた。また、メチオニンと同様に分子内にSを持つ構造のアミノ酸である本発明以外のL-システインを添加した比較例7では吸着防止効果が得られなかった。
1%DL-メチオニンを含む0.1mM酢酸ナトリウム水溶液(pH5.5)100mLに、塩化ナトリウムの濃度が0%、0.09%、0.45%、0.9%及び1.8%になるように塩化ナトリウムを加えて溶かした。こうして得られたそれぞれの溶液に[ASU1,7]ウナギカルシトニンであるエルカトニン0.4mgを加えて溶かし、1%DL-メチオニンを含み、塩化ナトリウムの濃度の異なるエルカトニン水溶液組成物を得た。得られたそれぞれのエルカトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により原液に対する移し替え液の残存率を求め、その結果を表2及び図1に示す。
以上の様に、塩化ナトリウムの濃度の異なるエルカトニン水溶液組成物であっても、本発明のDL-メチオニンを添加した実施例4は、何も添加しない比較例4に比べて、残存率が高く、吸着が抑制されている結果が得られた。また、この吸着防止効果は塩化ナトリウムの濃度が低いほど効果が大きい。
0.1mM酢酸ナトリウムを含む生理食塩液(pH5.5)100mLにDL-メチオニン濃度が1%になるようにDL-メチオニンを加えて溶かした。必要に応じて0.01M塩酸を加えてpH5.5に調整した。こうして得られた溶液に[ASU1,7]ウナギカルシトニンであるエルカトニン0.2mg、0.5mg、1.0mg及び5.0mgをそれぞれ溶解してDL-メチオニンを含むエルカトニン水溶液組成物を得た。得られたそれぞれのエルカトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により原液に対する移し替え液の残存率を求め、その結果を表3及び図2に示す。
以上のように、エルカトニン濃度の異なる水溶液組成物であっても、本発明のDL-メチオニンを添加した実施例5は、何も添加しない比較例5に比べて、エルカトニンの濃度に関係なく残存率が高く、吸着が抑制されている結果が得られた。
1%DL-メチオニンを含む生理食塩液100mLに、酢酸ナトリウム濃度が、0、0.1mM、1mM及び10mMになるように酢酸ナトリウムを加えて溶かし、0.01M塩酸を加えてpH5.5に調整した。こうして得られたそれぞれの溶液に[ASU1,7]ウナギカルシトニンであるエルカトニン0.4mgを加えて溶かし、1%DL-メチオニンを含み、酢酸ナトリウム濃度の異なるエルカトニン水溶液組成物を得た。得られたそれぞれのエルカトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により原液に対する移し替え液の残存率を求め、その結果を表4及び図3に示す。
以上のように、酢酸ナトリウム濃度の異なる水溶液組成物であっても、本発明のDL-メチオニンを添加した実施例6は、何も添加しない比較例6に比べて、酢酸ナトリウムの濃度に関係なく残存率が高く、吸着が抑制されている結果が得られた。
1%DL-メチオニンを含む、0.1mM酢酸ナトリウム水溶液(pH5.5)100mLに表5の等張化剤(A〜C)をそれぞれ加えて溶解した。それぞれの液にエルカトニン約2.7mgを加えて溶かしエルカトニン水溶液組成物を得た。得られたそれぞれのエルカトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により理論値に対する回収率を求め、その結果を表6に示す。
1%DL-メチオニン水溶液(pH成り行き)100mLに表5の等張化剤(A〜C)をそれぞれ加えて溶かした。それぞれの液にエルカトニン約2.7mgを加えて溶かしエルカトニン水溶液組成物を得た。得られたそれぞれのエルカトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により理論値に対する回収率を求め、その結果を表6に示す。
以上のように、DL-メチオニンをエルカトニン水溶液注射剤の製造で用いた場合、エルカトニンが吸着により失われることを防ぐことができた。また、等張化剤としてD-マンニトールを使用するとき最も効果を示し、更に0.1mM酢酸ナトリウムを含んだときその効果はより大きいものであった。
比較例1
0.1mM酢酸ナトリウムを含む生理食塩液(pH5.5)100mLに[ASU1,7]ウナギカルシトニンであるエルカトニン0.4mgを溶解してDL-メチオニンを含まないエルカトニン水溶液組成物を得た。得られたエルカトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により原液に対する移し替え液の残存率を求め、その結果を表1に示す。
比較例2
0.1mM酢酸ナトリウムを含む生理食塩液(pH4.0)100mLに天然型カルシトニンであるサケカルシトニン0.4mgを溶解してDL-メチオニンを含まないサケカルシトニン水溶液組成物を得た。得られたサケカルシトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により原液に対する移し替え液の残存率を求め、その結果を表1に示す。
比較例3
1mM酢酸ナトリウム水溶液(pH4.0)50mLにh-PTH1.5mgを溶解してDL-メチオニンを含まないh-PTH水溶液組成物を得た。得られたh-PTH水溶液組成物につき、前記の試験方法により原液に対する移し替え液の残存率を求め、その結果を表1に示す。
比較例4
0.1mM酢酸ナトリウム水溶液(pH5.5)100mLに塩化ナトリウムの濃度が0%、0.09%、0.45%、0.9%及び1.8%になるように塩化ナトリウムを加えて溶かした。それぞれの溶液に[ASU1,7]ウナギカルシトニンであるエルカトニン0.4mgを加えて溶かし、DL-メチオニンを含まない、塩化ナトリウムの濃度の異なるエルカトニン水溶液組成物を得た。得られたそれぞれのエルカトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により原液に対する移し替え液の残存率を求め、その結果を表2及び図1に示す。
比較例5
0.1mM酢酸ナトリウムを含む生理食塩液(pH4.0)100mLに[ASU1,7]ウナギカルシトニンであるエルカトニン0.2mg、0.5mg、1.0mg及び5.0mgをそれぞれ溶解してDL-メチオニンを含まないエルカトニン水溶液組成物を得た。得られたそれぞれのエルカトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により原液に対する移し替え液の残存率を求め、その結果を表3及び図2に示す。
比較例6
生理食塩液100mLに酢酸ナトリウム濃度が、0、0.1mM、1mM及び10mMになるように酢酸ナトリウムを加えて溶かし、0.01M塩酸を加えてpH5.5に調整した。こうして得られたそれぞれの溶液に[ASU1,7]ウナギカルシトニンであるエルカトニン0.4mgを加えて溶かし、酢酸ナトリウム濃度の異なるエルカトニン水溶液組成物を得た。得られたそれぞれのエルカトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により原液に対する移し替え液の残存率を求め、その結果を表4及び図3に示す。
比較例7
0.1mM酢酸ナトリウムを含む生理食塩液(pH5.5)100mLにDL-メチオニン濃度が1%になるようにL-システイン(和光純薬工業社製)を加えて溶かした。必要に応じて0.01M塩酸を加えてpH5.5に調整した。こうして得られたそれぞれの溶液に[ASU1,7]ウナギカルシトニンであるエルカトニン0.4mgを溶解してL-システインを含むエルカトニン水溶液組成物を得た。得られたエルカトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により原液に対する移し替え液の残存率を求め、その結果を表1に示す。
比較例8
0.1mM酢酸ナトリウム水溶液(pH5.5)100mLに表5の等張化剤(A〜C)をそれぞれ加えて溶解した。それぞれの液にエルカトニン約2.7mgを加えて溶かし水溶液組成物を得た。得られたそれぞれのエルカトニン水溶液組成物につき、前記の試験方法により理論値に対する回収率を求め、その結果を表6に示す。
本発明によれば、カルシトニン及び/またはPTHといった生理活性ポリペプタイド類の水溶液注射剤において、水溶液組成物の保存安定性を損なうことなく、医療用容器への吸着を効率的に防止できる。さらに、本発明を製造時に用いた場合、高価格であるこれら生理活性ポリペプタイド類の吸着による損失を防ぐことができる。このように、本発明は、生理活性ポリペプタイド類に関する医薬・医療分野で有用に活用されるものである。
DL-メチオニンの塩化ナトリウム濃度の違いによる吸着防止効果を示すグラフである。 DL-メチオニンのエルカトニン濃度の違いによる吸着防止効果を示すグラフである。 DL-メチオニンの酢酸ナトリウム濃度の違いによる吸着防止効果を示すグラフである。

Claims (8)

  1. 0.1mg/mL以上、50mg/mL以下のメチオニン、及び0.1mM〜10mMの酢酸及びその塩から選ばれてなる組成物を含有することを特徴とするカルシトニンの製造設備及び/又は容器への吸着防止剤。
  2. 酢酸及びその塩から選ばれてなる組成物が酢酸ナトリウムである請求項1に記載の吸着防止剤。
  3. さらに等張化剤として塩化ナトリウムまたはD−マンニトールまたはキシリトールを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の吸着防止剤。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸着防止剤を含有するカルシトニンの水溶液組成物または水性懸濁液組成物。
  5. 0.1mg/mL以上、50mg/mL以下のメチオニン、0.1mM〜10mMの酢酸及びその塩から選ばれてなる組成物、及びカルシトニンを共存させることを特徴とするカルシトニンの製造設備及び/又は容器への吸着防止方法。
  6. 酢酸及びその塩から選ばれてなる組成物が酢酸ナトリウムである請求項5に記載の吸着防止方法。
  7. カルシトニンの含有量が、1mLあたり1〜100μgであることを特徴とする請求項5又は6に記載の吸着防止方法。
  8. さらに等張化剤として塩化ナトリウムまたはD−マンニトールまたはキシリトールを含有することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の吸着防止方法。
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