近年、デジタルオーディオやAD/DA変換デバイスなどの分野において、ΔΣ変調による1ビット符号化技術が広く応用されている。例えば、トランジスタによるスイッチングを利用して入力信号を増幅するD級アンプにおいてΔΣ変調が利用されている。D級アンプは、A級アンプなどとは異なり、トランジスタの線形域(不飽和域)が使用されるのではなく非線形域(飽和域)で使用されるため、極めて高効率に電力増幅を行うことができるという利点を有している。
D級アンプは入力信号に応じて定電圧の切り替えを行うものであり、基本的には、ONを表す入力信号に対応する電圧とOFFを表す入力信号に対応する電圧の2値を出力する。つまり、D級アンプは、ON/OFFを表す2値の入力を増幅する。そのため、例えば、音声信号をD級アンプで増幅する場合、まず、音声信号の波形に対応する2値の信号を生成する、すなわち、音声信号を1ビット信号に符号化する必要がある。そして、音声信号の1ビット信号への符号化においてΔΣ変調を適用した方式が実用化されている。
図12は、従来のΔΣ変調型1ビットアンプ128の構成を示す図である。ΔΣ変調型1ビットアンプ128は、DAコンバータ(DAC)121と減算器122とアナログ積分器群123と量子化器124とD級アンプ125とローパスフィルタ(LPF)126とフィードバック調整器127とを含んで構成される。ΔΣ変調型1ビットアンプ128は、PCM(Pulse Code Modulation)によってデジタル符号化された入力信号を増幅してアナログ信号として出力する。以下に、ΔΣ変調型1ビットアンプ128の動作について説明する。
DAコンバータ121には、音声信号をPCMによって符号化したデジタル信号が入力される。DAコンバータ121は、入力されたデジタル信号をアナログ信号に変換し、減算器122に出力する。また、減算器122には、フィードバック調整器127を介して、D級アンプ125から出力されるスイッチングパルスがフィードバックされる。D級アンプ125から出力されるスイッチングパルスおよびフィードバックについては後述する。
減算器122は、DAコンバータ121から入力されるアナログ信号から、フィードバック調整器127を介してフィードバックされるスイッチングパルスを減算して差信号を生成し、アナログ積分器123に出力する。アナログ積分器123は、減算器122から入力された差信号を積分して量子化器124に出力する。量子化器124は、アナログ積分器123からの入力を量子化して量子化信号を生成し、D級アンプ125に出力する。この量子化信号は、元の入力信号の波形を、極めて速い周波数のパルス配分(パルスの時間的密度)によって表す。
D級アンプ125は、量子化信号に応じてスイッチングを行い、定電圧を切り替える。これにより、量子化信号に対応する大電圧のスイッチングパルスが生成され、量子化信号が増幅されることになる。D級アンプ125は、スイッチングパルスをローパスフィルタ126に出力する。
ローパスフィルタ126は、スイッチングパルスを復調して元の音声信号を増幅されたアナログ信号として出力する。
なお、上述したとおり、ΔΣ変調型1ビットアンプ128には、D級アンプ125から出力されるスイッチングパルスを、フィードバック調整器127を介して減算器122に負帰還するフィードバックループが設けられている。
このとき、フィードバック調整器127は、フィードバックするスイッチングパルスの大きさを調整する。フィードバック調整器127には、ΔΣ変調が安定して動作するために最適なフィードバックゲインが設定されており、フィードバックされるスイッチングパルスの大きさは適切に調整される。なお、フィードバック調整器127は、1サンプル時間遅延したスイッチングパルスをフィードバックする。
これにより、D級アンプ125における電源変動ノイズやスイッチング誤差成分を含めて、D級アンプ125の出力に含まれるアナログ情報をフィードバックできる。したがって、上記電源変動ノイズや上記スイッチング誤差成分を補正できるため、SNR(Signal to Noise Ratio)が向上し、THD(Total Harmonic Distortion)+N(Noise)は低減される。
しかしながら、ΔΣ変調型1ビットアンプ128の構成では、アナログ情報をフィードバックする上述のフィードバックループを設けるためにDAコンバータ121などを含む構成とする必要があり、コストが増加してしまう。
そこで、アナログ情報をフィードバックする上述のフィードバックループを含まないΔΣ変調型1ビットアンプの構成が考えられる。
図13は、アナログ情報のフィードバックループを含まない従来のΔΣ変調型1ビットアンプ138の構成を示す図である。
ΔΣ変調型1ビットアンプ138は、減算器131とデジタル積分器132と量子化器133とD級アンプ134とローパスフィルタ(LPF)135とフィードバック調整器136とを含んで構成される。なお、減算器131とデジタル積分器132と量子化器133とフィードバック調整器136とは、ΔΣ変調部137を構成している。ΔΣ変調型1ビットアンプ138は、PCMによってデジタル符号化された入力信号を増幅してアナログ信号として出力する。以下に、ΔΣ変調型1ビットアンプ138の動作について説明する。
減算器131には、音声信号をPCMによって符号化したデジタル信号が入力される。また、減算器131には、フィードバック調整器136を介して、量子化器133から出力される量子化信号がフィードバックされる。量子化器133から出力される量子化信号およびフィードバックについては後述する。
減算器131は、入力信号(すなわち、音声信号をPCMによって符号化したデジタル信号)から、フィードバック調整器136を介してフィードバックされる量子化信号を減算して差信号を生成し、デジタル積分器2に出力する。デジタル積分器132は、減算器131から入力された差信号を積分して量子化器133に出力する。量子化器133は、デジタル積分器132からの入力を量子化して量子化信号を生成し、D級アンプ134に出力する。
D級アンプ134は、量子化信号に応じてスイッチングを行い、定電圧を切り替える。これにより、量子化信号に対応する大電圧のスイッチングパルスが生成され、量子化信号が増幅されることになる。D級アンプ134は、スイッチングパルスをローパスフィルタ135に出力する。
ローパスフィルタ135は、スイッチングパルスを復調して元の音声信号をアナログ信号として出力する。
なお、上述したとおり、ΔΣ変調型1ビットアンプ138には、量子化器133から出力される量子化信号を、フィードバック調整器136を介して減算器131に負帰還するフィードバックループが設けられている。
このとき、フィードバック調整器136は、フィードバックする信号値の大きさを、量子化信号の値に応じて決定する。例えば、量子化信号が「1」と「0」との2値とすると、「1」の場合には「+τ」の信号値をフィードバックし、「0」の場合には「−τ」の信号値をフィードバックする。フィードバック調整器136には、ΔΣ変調が安定して動作するために最適な量子化信号の大きさ「τ」が設定されており、フィードバックされる信号の大きさは適切に調整される。なお、フィードバック調整器136は、1サンプル時間遅延した量子化信号をフィードバックする。
ここで、ΔΣ変調部137の構成に基づいてΔΣ変調の原理について説明する。図14は、ΔΣ変調部137の構成をモデル化した図である。減算器131は、減算器141に対応している。また、デジタル積分器132は、1/(1−z−1)に示す伝達関数によって表されるブロック142に対応している。また、フィードバック調整器136は、z−1によって表されるブロック143に対応している。なお、量子化器133については、加算器144において量子化ノイズNqを加えるモデルとして考える。
ここで、入力信号をX、出力信号をYとすると、ブロック142への入力は、X−Y・z−1によって表され、ブロック142からの出力は、(X−Y・z−1)/(1−z−1)
によって表される。
そして、出力信号Yは、ブロック142からの出力に量子化ノイズnqを加算したものであるため、Y=(X−Y・z−1)/(1−z−1)+Nqの関係となる。そして、これを出力信号Yについて整理すると、Y=X+(1−z−1)・Nqとなる。
この式は、入力Xについてはそのまま出力され、量子化ノイズNqが1−z−1に示す伝達関数によって表されるフィルタを通して出力されることを表している。
1−z−1は、微分回路の伝達関数である。そして、微分回路、すなわち、ハイパスフィルタによって量子化ノイズNqの低周波成分が抑制されることになる。
これにより、ΔΣ変調部137によれば、1ビット符号化によって生成される信号の量子化ノイズは、高域にのみ分布する。これは、ノイズシェーピングと呼ばれ、可聴帯域(20kHz以下)の量子化ノイズを低減するのに用いられる。
したがって、D級アンプ134からの出力に含まれるアナログ情報をフィードバックするフィードバックループを設けない場合であっても、ΔΣ変調型1ビットアンプを構成することは可能である。また、DAコンバータ等も不要であるため、コストを抑えることが可能となる。
なお、積分器の構成を変えることによって、ノイズ特性を改善できる。図15は、5次ΔΣ変調器の構成を示す図である。図15に示すとおり、5次ΔΣ変調器は、5つの積分器を含んで構成される。高次のΔΣ変調器についてより詳細に説明すれば、次のとおりである。
上述したΔΣ変調部137は、積分器を1つ備えた構成の1次ΔΣ変調器であり、1−z−1によって表されるフィルタによって量子化ノイズを低減する。これに対し、図15に示す5次ΔΣ変調器の構成とすることにより、1−z−1に示すフィルタの次数も上がり、量子化ノイズの低減効果が増大する。しかしながら、3次以上のΔΣ変調器では、入力信号の振幅が増大すると発振する現象が発生する。そのため、ゲインの設定を適切に行い、積分器出力が一定値を超えないような振幅リミッタが作用する構成とするなど、発振状態を回避するための設計が必要となる。
また、上述したΔΣ変調型1ビットアンプの説明においては、2値の信号によって元の入力信号の波形を表す構成について示したが、3値の信号によって元の入力信号の波形を表す構成とすることもできる。この場合、量子化器からは3値の量子化信号が出力されることになり、D級アンプは3値の量子化信号を増幅する。
なお、上述したΔΣ変調型1ビットアンプの構成をDA変換技術に適用し、ΔΣ変調型DA変換器を構成することもできる。
また、近年、D級増幅器(スイッチングアンプ)を用いたオーディオアンプに関して、ΔΣ変調を利用する技術が提案されており、例えば、特許文献1には、スイッチングアンプ(D級増幅器)を駆動する信号の高調波歪を抑制するための技術が開示されている。
特許文献1に記載の構成では、入力されたデジタル信号をΔΣ変調器によって量子化し、さらにPWM(Pulse Width Modulation)をかけて生成したPWM信号によってスイッチングアンプを駆動する。そして、PWMによって発生する高調波歪を予め予想し、高調波歪成分を相殺させることによって抑制する。高調波歪を予想する手段としては、もとの入力信号やその入力信号に対応する連続時間信号の1階および2階時間微分信号を表す信号を用いた積の一次結合を用いる。その際、3次歪によって発生する基本波成分も考慮する。
特開2006−115028(2006年4月27日公開)
しかしながら、上述した従来のΔΣ変調型1ビットアンプ138の構成では、D級アンプ134における電源変動ノイズやスイッチング誤差成分を含めて、D級アンプ134の出力に含まれるアナログ情報をフィードバックすることができない。したがって、上記電源変動ノイズや上記スイッチング誤差成分を補正できないため、SNR(Signal to Noise Ratio)が劣化し、THD(Total Harmonic Distortion)+N(Noise)は増加するという問題を生じる。この問題について、より詳細に説明すれば次のとおりである。
図16は、従来のΔΣ変調型1ビットアンプ138に正弦波を入力した場合の出力信号に含まれるノイズの分布を示す図である。図16には、ΔΣ変調型1ビットアンプ138からの出力信号を周波数解析して得られる周波数スペクトルが示されており、1kHz付近のスペクトルは、増幅された基本波(正弦波)の信号成分のスペクトルである。
一方、1kHz〜10kHz付近に発生している複数のピークは、高調波(周波数が基本波の整数倍の正弦波)のスペクトルである。つまり、ΔΣ変調型1ビットアンプ138からの出力信号には、基本波の正弦波を増幅した信号成分以外に、基本波の高調波成分がノイズとして含まれていることになる。そして、この高調波成分の発生が、ΔΣ変調型1ビットアンプ138においてSNRを劣化させ、THD+Nを増加させる要因となっている。
なお、特許文献1の構成では、ΔΣ変調をPWMに変換したときの論理的な高調波は補正できるが、スイッチングアンプの持つアナログ的要素、すなわち、スイッチングアンプにおいてデッドタイムや電源変動に起因して発生する高調波については考慮されていない。また、3次より大きい歪成分に関して考慮されていない。そのため、特許文献1の構成では、上述したΔΣ変調型1ビットアンプ138において発生する高調波を抑制することはできない。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、アナログ情報のフィードバックループを備えていないΔΣ変調型DA変換器において、高調波の発生を抑制し、SNR(Signal to Noise Ratio)およびTHD(Total Harmonic Distortion)+Nの良好なΔΣ変調器、および、ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器を提供することを目的とする。
本発明に係るΔΣ変調器は、入力信号と帰還信号との差を積分する積分手段と、該積分手段の出力を3値からなる量子化信号に変調する量子化手段と、上記量子化信号の3値に応じて帰還信号として帰還させるフィードバック値を出力するフィードバック値出力手段とを備えたΔΣ変調器であって、上記のフィードバック値として出力される候補として、値が大きい順に、第1フィードバック値、第2フィードバック値、および第3フィードバック値が用意されており、第1フィードバック値と第2フィードバック値との差の絶対値と、第2フィードバック値と第3フィードバック値との差の絶対値とは、異なっており、上記フィードバック値出力手段は、第1フィードバック値、第2フィードバック値、または、第3フィードバック値のいずれかを、上記量子化信号の3値に応じて、上記フィードバック値として出力することを特徴としている。
上記の構成によれば、ΔΣ変調器では、積分手段が入力信号と帰還信号との差を積分し、量子化手段が積分手段の出力を量子化して、3値からなる量子化信号を生成する。量子化信号は、3つの電圧値からなるパルスであり、元の入力信号の波形を、パルス配分(パルスの時間的密度)によって表している。量子化信号の3つの電圧値は、例えば、それぞれ、「1」、「0」、「−1」などの値に対応づけて考えることができる。
なお、積分手段は、1つの積分器のみによって構成されるとは限らず、複数の積分器を含んで構成されてもよく、特に限定はされない。例えば、積分手段は、複数の積分器が係数を通じて縦続接続、および/または、フィードバック接続された積分器群の構成であってもよい。すなわち、積分手段は、デジタル信号を、1つの積分器、または、縦続接続され、および/または、部分帰還された複数の積分器から成る積分手段であってもよく、特に限定はされない。
さらに、ΔΣ変調器では、上記帰還信号が帰還されて入力信号に反映されるが、上記帰還信号の表すフィードバック値は、フィードバック値出力手段から出力される。そして、フィードバック値出力手段は、量子化信号の3値に応じたフィードバック値を出力する。フィードバック値としては、第1フィードバック値、第2フィードバック値、および、第3フィードバック値があり、3つのフィードバック値のうち、第1フィードバック値が最も大きな値であり、第2フィードバック値が2番目に大きな値であり、第3フィードバック値が最も小さな値である。さらに、第1フィードバック値と第2フィードバック値との差の絶対値と、第2フィードバック値と第3フィードバック値との差の絶対値とは、異なる。そして、フィードバック値出力手段は、量子化手段からの量子化信号の3値に応じて、第1フィードバック値、第2フィードバック値、第3フィードバック値のいずれか1つを出力する。例えば、フィードバック値出力手段は、量子化信号が「1」のときには第1フィードバック値を、量子化信号が「0」のときには第2フィードバック値を、量子化信号が「−1」のときには第3フィードバック値を出力する。
ここで、フィードバック値出力手段は、第1〜第3フィードバック値を、ルックアップテーブルなどから読み出す構成であってもよいし、フィードバック値に対応する信号が入力されるセレクタを備えた構成であってもよく、特に限定はされない。
ところで、ΔΣ変調によって生成される3値の量子化信号をスイッチングアンプ(D級アンプ)によって増幅する場合、スイッチングアンプを構成するブリッジ回路のP−SideとN−Sideの特性が異なるために、すなわち、スイッチングアンプの不平衡特性によって、3値の量子化信号のパルス高さが、正のパルスの高さ(例えば、量子化信号「1」に対応する電圧値)と、負のパルス高さ(例えば、量子化信号「−1」に対応する電圧値)とで異なってしまい、復調した場合の波形に歪みが生じ、結果として、偶数次高調波(ノイズ成分)が発生するという問題がある。
そして、従来の3値の量子化信号を生成するΔΣ変調器では、量子化信号の3値に応じてフィードバックされるフィードバック値は、例えば、量子化信号が「0」の場合のフィードバック値を「0」とすると、量子化信号が「1」の場合のフィードバック値(例えば、「+τ」)と量子化信号が「−1」の場合のフィードバック値(例えば、「−τ」)とで符号が異なるため値は異なるものの、大きさは同じである。つまり、従来のΔΣ変調器からフィードバックされる値には、スイッチングアンプにおいて発生する正と負のパルス高さの違い(非対称性、不平衡特性)が考慮されていない。
そこで、本発明に係るΔΣ変調器では、上述したスイッチングアンプにおいて発生する正と負のパルス高さの違い(非対称性、不平衡特性)を考慮し、出力するフィードバック値を非対称にする構成となっている。すなわち、第1フィードバック値と第2フィードバック値との差の絶対値と、第2フィードバック値と第3フィードバック値との差の絶対値とは、異なっている。例えば、量子化信号「0」に対応するフィードバック値を「0」(第2フィードバック値)とした場合、フィードバック値出力手段は、量子化信号「1」の場合にはフィードバック値「+τ+α」(第1フィードバック値)を出力し、量子化信号「−1」の場合にはフィードバック値「−τ」(第3フィードバック値)を出力する。
これにより、本発明に係るΔΣ変調器によれば、スイッチングアンプおいて自機から出力する量子化信号を増幅する場合、3値の量子化信号に応じて、スイッチングアンプの不平衡特性を考慮したフィードバック値を出力できる。したがって、自機においてΔΣ変調により生成した量子化信号を、不平衡特性を有するスイッチングアンプによって増幅する場合であっても、スイッチングアンプの不平衡特性に起因する偶数次高調波の発生を抑制することができる。
本発明に係るΔΣ変調器では、上記フィードバック値出力手段は、上記第1フィードバック値、上記第2フィードバック値、または上記第3フィードバック値のうち、出力するフィードバック値を上記量子化信号の3値に応じて選択するセレクタを有することが好ましい。
本発明に係るΔΣ変調器では、上記セレクタには、該セレクタに信号を入力する3つの信号線が接続され、それぞれの信号線には、「+τ」、「0」、「−τ」(τ≠0)の値の信号が入力されており、さらに、上記3つの信号線のいずれかに、外部から補正値α(α≠0)が加算または減算されることにより、上記第1フィードバック値、上記第2フィードバック値、または上記第3フィードバック値が生成され、これらの値が上記セレクタに入力されていることが好ましい。
上記の構成によれば、上記のセレクタには、信号を入力する3つの信号線が接続されている。3つの信号線には、それぞれ、「+τ」、「0」、「−τ」の信号が入力されており、さらに、上記3つの信号線のいずれか1本に、外部からの補正値α(α≠0)を加算または減算される。つまり、セレクタには、上記3つの信号線から上記第1フィードバック値、上記第2フィードバック値、および上記第3フィードバック値を表す信号が入力されることになる。
これにより、フィードバック値出力手段が出力するフィードバック値を、補正値αを変化させることによって容易に調整することができるようになる。
本発明に係るΔΣ変調器では、上記フィードバック値出力手段は、予め上記量子化信号の3値のいずれかに対応付けられている上記第1フィードバック値、上記第2フィードバック値、および上記第3フィードバック値が格納されたルックアップテーブルを有していることが好ましい。
本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器は、上記のΔΣ変調器と、上記量子化信号に応じたスイッチングパルスを生成するスイッチングアンプと、上記スイッチングパルスを復調するローパスフィルタとを備えていることを特徴とする。
上記の構成によれば、ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器は、上記のΔΣ変調器と、上記量子化信号に応じたスイッチングパルスを生成するスイッチングアンプと、上記スイッチングパルスを復調するローパスフィルタとを備えている。
これにより、本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器によれば、ΔΣ変調器において、スイッチングアンプの不平衡特性に応じたフィードバックが行われる。したがって、スイッチングアンプの不平衡特性に起因する偶数次高調波の発生を抑制し、良好なSNRが得られるとともにTHD+Nを低減できる。
本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器では、上記フィードバック値出力手段が、上記第1フィードバック値、上記第2フィードバック値、または上記第3フィードバック値のうち、出力するフィードバック値を上記量子化信号の3値に応じて選択するセレクタを有し、該セレクタには、該セレクタに信号を入力する3つの信号線が接続され、それぞれの信号線には、「+τ」、「0」、「−τ」(τ≠0)の値の信号が入力されており、さらに、上記3つの信号線のいずれかに、外部から補正値α(α≠0)が加算または減算されることにより、上記第1フィードバック値、上記第2フィードバック値、または上記第3フィードバック値が生成され、これらの値が上記セレクタに入力されている構成のΔΣ変調器と、上記量子化信号に応じたスイッチングパルスを生成するスイッチングアンプと、上記スイッチングパルスを復調するローパスフィルタとを備えたΔΣ変調型デジタルアナログ変換器であって、上記入力信号として正弦波を入力した場合に、該正弦波に対する上記スイッチングアンプの出力または上記ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器自身の出力を周波数解析し、該周波数解析の結果得られる偶数次高調波の周波数スペクトルの大きさに基づいて、上記補正値αを調整する補正値調整手段をさらに備えていることを特徴としている。
上記の構成によれば、本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器では、補正値調整手段が、上記入力信号として正弦波を上記ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器に入力した場合に、該正弦波に対する上記スイッチングアンプの出力または上記ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器自身の出力を周波数解析し、該周波数解析の結果得られる偶数次高調波の周波数スペクトルの大きさに基づいて、上記補正値αを調整する。
これにより、ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器からの実際の出力に応じて補正値αを変化させて、スイッチングアンプの不平衡特性に応じたフィードバックの調整を行うことができる。したがって、スイッチングアンプの不平衡特性に起因する偶数次高調波の抑制を確実に行うことができるようになる。
本発明に係るΔΣ変調器は、入力信号と帰還信号との差を積分する積分手段と、該積分手段の出力を3値からなる量子化信号に変調する量子化手段と、上記量子化信号の3値に応じて帰還信号として帰還させるフィードバック値を出力するフィードバック値出力手段とを備えたΔΣ変調器であって、上記のフィードバック値として出力される候補として、値が大きい順に、第1フィードバック値、第2フィードバック値、および第3フィードバック値が用意されており、第1フィードバック値と第2フィードバック値との差の絶対値と、第2フィードバック値と第3フィードバック値との差の絶対値とは、異なっており、上記フィードバック値出力手段は、第1フィードバック値、第2フィードバック値、または、第3フィードバック値のいずれかを、上記量子化信号の3値に応じて、上記フィードバック値として出力する。
また、本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器は、上記のΔΣ変調器と、上記量子化信号に応じたスイッチングパルスを生成するスイッチングアンプと、上記スイッチングパルスを復調するローパスフィルタとを備えている。
また、本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器は、上記のΔΣ変調器と、上記量子化信号に応じたスイッチングパルスを生成するスイッチングアンプと、上記スイッチングパルスを復調するローパスフィルタとを備えたΔΣ変調型デジタルアナログ変換器であって、上記入力信号として正弦波を入力した場合に、該正弦波に対する上記スイッチングアンプの出力または上記ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器自身の出力を周波数解析し、該周波数解析の結果得られる偶数次高調波の周波数スペクトルの大きさに基づいて、上記補正値αを調整する補正値調整手段をさらに備えている。
従って、偶数次高調波の発生を抑制し、SNRおよびTHD+Nの良好なΔΣ変調型デジタルアナログ変換器を提供することができる。
本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器の一実施形態について、図1ないし図11に基づいて説明すると以下の通りである。
(ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1)
図1は、本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1の構成を示すブロック図である。
本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1は、ΔΣ変調部(ΔΣ変調器)2とD級アンプ(スイッチングアンプ;SWアンプ)3と低域通過フィルタ(ローパスフィルタ;LPF;Low Pass Filter)4とを含んで構成される。ΔΣ変調部2は、減算器5と積分器群(積分手段)6と量子化器(量子化手段)7とブリッジ不平衡補正器(フィードバック値出力手段)8とを備えている。
ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1は、PCMによってデジタル符号化された入力信号をアナログ信号に変換して出力する。以下に、ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1の動作について説明する。
減算器5には、音声信号などをPCMによって符号化したデジタル信号が入力される。また、減算器5には、ブリッジ不平衡補正器8を介して、量子化器7から出力される量子化信号に応じて、フィードバック値が帰還信号として帰還される。量子化器7から出力される量子化信号およびフィードバックについては後述する。
減算器5は、入力信号、すなわち、元信号(原信号)をPCMによって符号化したデジタル信号から、ブリッジ不平衡補正器8を介してフィードバックされる量子化信号を減算して差信号を生成し、積分器郡6に出力する。積分器郡6は、減算器5から入力された差信号を積分して量子化器7に出力する。量子化器7は、積分器郡6からの入力を量子化して量子化信号を生成し、D級アンプ3に出力する。なお、積分器群6は、例えば、図15に示すような構成をしている。
D級アンプ3は、量子化信号に応じてスイッチングを行い、定電圧を切り替える。これにより、量子化信号に対応する大電圧のスイッチングパルスが生成され、量子化信号が増幅されることになる。D級アンプ3は、スイッチングパルスを低域通過フィルタ4に出力する。
低域通過フィルタ4は、スイッチングパルスを復調して元の音声信号などをアナログ信号として出力する。
また、本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1は、ΔΣ変調部2が入力信号に基づいて3値の量子化信号を生成し、D級アンプ3が量子化信号に応じて3値のスイッチングパルスを出力する。以下では、これを3値動作と称する。
そして、本発明は、3値動作において発生する偶数次高調波を低減させることによって、SNRやTHD+Nを改善するものである。なお、偶数次高調波とは周波数が基本波の偶数倍の高調波である。
なお、上述したとおり、ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1には、量子化器7から出力される量子化信号を、ブリッジ不平衡補正器8を介して減算器5に負帰還するフィードバックループが設けられている。
そして、本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1は、ブリッジ不平衡補正器8が偶数次高調波を低減させるようなフィードバック値の出力を行うことを特徴としている。これにより、出力信号の波形の歪が補正され、SNRやTHD+Nが改善される。
本発明の特徴的な構成、すなわち、ブリッジ不平衡補正器8の構成について詳細に説明する前に、3値動作によって偶数次高調波が発生する原理について説明する。
(D級アンプ3)
はじめに、D級アンプ3の構成および動作について詳細に説明する。図2は、D級アンプ3の構成と動作のイメージを示す図である。図2に示すとおり、D級アンプ3は、4つのMOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)21〜24から成るフルブリッジ回路を含んで構成される。MOSFET21とMOSFET22とは、P−Sideブリッジを構成し、MOSFET23とMOSFET24とは、N−Sideブリッジを構成する。P−sideブリッジとN−Sideブリッジとの間には、負荷25が設けられている。負荷25は、D級アンプ3から供給される信号に基づいて音声を出力するスピーカなどを模式的に示したものである。また、MOSET21とMOSFET23とは定電圧「+V」に接続されており、MOSFET22とMOSFET24とは定電圧「−V」に接続されている。
なお、ΔΣ変調部3から出力される量子化信号は、「H(High)」と「L(Low)」との2つの電圧値の組み合せによって3値(例えば、「+1」、「0」、「−1」)を表す。つまり、ΔΣ変調部3は2つの電圧値をD級アンプ3に出力し、D級アンプ3は入力された電圧値の「H」と「L」との組み合せに応じて負荷25に3値の信号を供給する。
また、MOSFET22とMOSFET24には、図示しないインバータによって「H」と「L」とが反転入力される。
図2(a)は、P−Sideブリッジに「H」の電圧が入力され、N−Sideブリッジに「L」の電圧が入力された場合の様子を示す図である。この場合、図2(a)においては、MOSFET21とMOSFET24とがON状態となる。このとき、負荷25には「+1」に対応する電気的な信号が入力される。
図2(b)は、P−Sideブリッジに「L」の電圧が入力され、N−Sideブリッジに「L」の電圧が入力された場合の様子を示す図である。この場合、図2(b)においては、MOSFET22とMOSFET24とがON状態となる。このとき、負荷25には「0」に対応する電気的な信号が入力される。
図2(c)は、P−Sideブリッジに「L」の電圧が入力され、N−Sideブリッジに「H」の電圧が入力された場合の様子を示す図である。この場合、図2(c)においては、MOSFET22とMOSFET23とがON状態となる。このとき、負荷25には「−1」に対応する電気的な信号が入力される。
図2(d)は、D級アンプ3に含まれるブリッジ回路に、負荷25としてローパスフィルタ(LPF)およびスピーカが接続される場合のイメージを示す図である。そして、3値の量子化信号に応じて、ブリッジ回路のP−SideとN−Sideのそれぞれに、「H」または「L」の電圧が入力される。そして、図2(a)から(c)において説明したとおり、P−SideおよびN−Sideへ入力される「H」と「L」との組み合せに応じて、負荷25に電気的な3値の信号が入力される。負荷25に入力された3値の信号はローパスフィルタによってアナログの信号に復調され、スピーカによって音声が出力される。
(ブリッジ回路の不平衡特性と偶数次高調波の関係)
以下に、3値動作において偶数次高調波が発生する原理について説明する。上述したとおり、D級アンプ3は、P−SideブリッジとN−Sideブリッジとによって構成されるブリッジ回路を介して3値を出力する。そして、偶数次高調波は、このブリッジ回路のP−SideとN−Sideの特性の違いに起因して発生する。以下では、ブリッジ回路のP−SideとN−Sideの特性の違いと偶数次高調波の発生の関係について、より詳細に説明する。
図3は、D級アンプから出力される3値の信号の波形を示す図であり、(a)はP−SideとN−Sideの特性が同じ場合の出力を示す図であり、(b)はP−SideとN−Sideの特性が異なる場合の出力を示す図である。
図3に示す正の電圧のパルス、負の電圧のパルス、0Vの状態は、それぞれ、図2を用いて説明した「+1」、「−1」、「0」の3値に対応している。図3(a)に示すとおり、P−SideとN−Sideの特性が同じであれば、「+1」に対応するパルス波形の高さと「−1」に対応するパルス波形の高さとは同じである。しかしながら、通常、温度などの影響によってブリッジ回路を構成する素子ごとに出力にばらつきが生じ、ブリッジ回路を構成するP−SideとN−Sideとでは動作の特性が異なる。
そのため、図3(b)に示す例のように、「+1」に対応するパルス波形の高さが、「−1」に対応するパルス波形の高さよりも低くなるなど、正電圧のパルスと負電圧のパルスとで波形の高さが異なってしまう。そして、このようなP−SideとN−Sideの特性の異なるブリッジ回路から出力される3値の信号をローパスフィルタによって復調しても、歪が発生してしまうため、元の入力信号の波形を完全には再現できない。
図4は、P−SideとN−Sideの特性が異なるブリッジ回路(以下、不平衡ブリッジと称する)によって構成されるD級アンプにおいて、正弦波に歪が発生するイメージを示す図であり、(a)は不平衡ブリッジによって構成されるD級アンプを通過する前の正弦波を示す図であり、(b)は不平衡ブリッジによって構成されるD級アンプの動作特性を示す図であり、(c)は不平衡ブリッジによって構成されるD級アンプから出力される信号の波形を示す図である。
以下では、D級アンプ3が不平衡ブリッジによって構成されている場合について説明する。
図4(b)は、図4(a)に示す元信号Xと、図4(c)に実線で示す出力信号Yとの関係を示したものである。なお、図4(c)に示す破線は、歪が発生しない場合の元信号Xと出力信号Yとの関係を示したものである。
図4(b)に示すとおり、瞬時値が負の領域では、元信号Xと出力信号YとはY=Xの関係を示しているが、瞬時値が正の領域では、元信号Xと出力信号Yとの関係を示す直線の傾きはY=Xの関係を表す直線の傾きに比べて小さい。そして、図4(b)に示すD級アンプ3の特性によって、元信号の波形は、D級アンプ3を通過するときに、瞬時値が負の領域では変化しないが、瞬時値が正の領域では減衰し、出力信号に歪が生じる。
したがって、図4(a)に示す正弦波の波形の元信号が図4(b)の特性を有するD級アンプ3を通過すると、図4(c)に示すように、出力信号には瞬時値が正の領域において歪が生じる。なお、図4(c)に示される瞬時値が正の領域の破線は、図4(a)に示す元信号の波形を示している。
図5は、不平衡ブリッジによって構成されているD級アンプ3の動作特性を示す図である。図5(a)は、元信号XとD級アンプ3からの出力信号Yとの関係を示す図である。図5(a)に示す元信号Xと出力信号Yとの関係は、Y=GX+b|X|によって表すことができる。ここで、Y1=GX、Y2=b|X|とすれば、出力信号Yは、出力信号成分Y1(=GX)と出力ひずみ成分Y2(=b|X|)とに分解できる。
図5(b)は、元信号Xと出力信号成分Y1との関係を示す図である。図5(b)に示す破線は、元信号Xと出力信号Y1とがY1=Xの関係を示す直線である。図5(b)に示す元信号Xと出力信号成分Y1との関係は、Y1=GX(G<1)によって表され、元信号と出力信号とが同じ場合(Y1=Xの場合)に比べ、傾きの小さい直線によって表される。
図5(c)は、元信号Xと出力ひずみ成分Y2との関係を示す図である。図5(c)に示す元信号Xと出力ひずみ成分Y2との関係は、Y2=b|X|(b<0)によって表され、元信号Xと出力ひずみ成分Y2との関係は、縦軸(Y2軸)に対称であり、元信号Xが正、負どちらの場合においても、出力ひずみ成分Y2の値は負の値となる。
つまり、D級アンプ3の動作特性は、図5(b)に示す特性と図5(c)に示す特性とに分解して考えることができる。
図6は、D級アンプ3からの出力信号に偶数次高調波が含まれることを示す図である。図6(a)は、図5(a)の特性を有するD級アンプ3からの出力信号Yの波形を示す図である。図6(a)は、元信号Xが正弦波の場合のD級アンプ3からの出力信号Yの波形を示している。図5について説明したとおり、出力信号Yは、出力信号成分Y1と出力ひずみ成分Y2とに分解できる。
図6(b)は、出力信号成分Y1の波形を示す図であり、図5(b)に示す特性によって得られる。図6(b)に示すとおり、出力信号成分Y1の波形は、元信号Xと同じ周波数f(すなわち、周期1/f)で、振幅の小さい正弦波となる。
図6(c)は、出力ひずみ成分Y2の波形を示す図であり、図5(c)に示す特性によって得られる。図6(c)に示すとおり、出力ひずみ成分Y2の波形は、周波数2f(すなわち、周期1/2f)、すなわち、元信号Xの2倍の周波数の繰り返し波形である。
したがって、図6(a)に示す不平衡ブリッジによって構成されるD級アンプ3からの出力信号Yは、図6(c)に示す元信号Xの2倍以上の周波数の信号成分、すなわち、偶数次高調波を含んでいることがわかる。
(ブリッジ不平衡補正器8)
上述したとおり、本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1は、ブリッジ不平衡補正器8が偶数次高調波を低減させるようなフィードバック値の出力を行うことを特徴としている。以下に、ブリッジ不平衡補正器8の構成、すなわち、本発明の特徴的構成について説明する。
はじめに、従来のΔΣ変調型デジタルアナログ変換器の3値動作におけるフィードバック量の調整について説明する。従来のΔΣ変調型デジタルアナログ変換器は、図13に示す従来のΔΣ型1ビットアンプ131と同様の構成である。そこで、ΔΣ型1ビットアンプ131を従来のΔΣ変調型デジタルアナログ変換器131として説明する。
従来のΔΣ変調型デジタルアナログ変換器131は、フィードバック調整器136においてフィードバック量の調整を行う。3値動作の場合、フィードバック調整器136には、量子化器133から3値の量子化信号が入力されることになる。そして、フィードバック調整器136は、量子化信号の値に応じて帰還させるフィードバック値を決定する。例えば、量子化信号が「1」、「0」、「−1」との3値とすると、「1」の場合には「+τ」のフィードバック値をフィードバックし、「0」の場合には「0」のフィードバック値をフィードバックし、「−1」の場合には「−τ」のフィードバック値をフィードバックするような構成となる。この場合、量子化信号が「1」の場合と「−1」の場合とで、フィードバックする信号値は異なるものの、信号値の大きさは同じである。
つまり、従来のΔΣ変調型デジタルアナログ変換器においては、フィードバック調整器136には、ΔΣ変調が安定して動作するために最適なフィードバック値の大きさ「τ」を設定する構成である。なお、ΔΣ変調部137がデジタル回路の構成の場合、フィードバック調整器136において、「τ」を表すデジタル値が設定されるが、ΔΣ変調部137がアナログ回路の構成の場合、フィードバック調整器136において、「τ」を表すアナログ値(具体的には、電圧値、電流値など)が設定される。
以下に、本発明に係るブリッジ不平衡補正器8におけるフィードバック量の調整について説明する。
上述したとおり、不平衡ブリッジによって構成されているD級アンプ3から出力されるパルス信号は、量子化信号の「+1」に対応するパルス波形の高さと、量子化信号の「−1」に対応するパルス波形の高さとが異なる。そのため、D級アンプ3からの出力信号に歪が生じ、結果として偶数次高調波が含まれることになる。
そこで、本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1では、ブリッジ不平衡補正器8は、D級アンプ3において発生する正と負のパルス高さの違い(非対称性、不平衡特性)を考慮し、出力するフィードバック値を非対称にする構成となっている。本実施の形態においては、量子化信号「0」に対応するフィードバック値を「0」とした場合、フィードバック値出力手段は、量子化信号「1」の場合にはフィードバック値「+τ+α」を出力し、量子化信号「−1」の場合にはフィードバック値「−τ」を出力する。ここで、τ≠0である。なお、D級アンプ3を構成するブリッジが不平衡である場合にはα≠0とであるが、D級アンプ3を構成するブリッジが平衡である場合には、α=0であってもよく、特に限定はされない。
また、量子化信号「0」に対応するフィードバック値を「0」以外、例えば、「1」とすると、量子化信号「1」の場合にはフィードバック値「+τ+α」を出力し、量子化信号「−1」の場合にはフィードバック値「−τ」を出力する構成(このとき、τ>1)も含まれる。
本実施の形態では、上記構成を実現するため、ブリッジ不平衡補正器8は、量子化信号とフィードバックする信号値とを対応付けたルックアップテーブルを備えている。図7は、ブリッジ不平衡補正器8が備えているルックアップテーブル14を示す図である。図7に示すとおり、量子化信号「+1」、「0」、「−1」に対し、それぞれ、「+τ+α」、「0」、「−τ」がフィードバック値として対応付けられている。
この場合、補正値αの値を決定する方法として、例えば、元信号として単一周波数の正弦波を入力した場合におけるΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1の出力のパワースペクトルを観測し、補正値αを「+τ」から「−τ」まで変化させたときに、入力した正弦波の偶数次高調波のパワースペクトルのうち最大のパワースペクトルが最も小さくなるときの補正地αの値に決定する方法や、あるいは、前記の最大のパワースペクトルがノイズフロアに最も近づくときの「α」の値に決定する方法などが考えられる。
図8は、ブリッジ不平衡補正器8において、適切な補正値αを設定した場合のΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1の出力のパワースペクトルを示す図である。図8に示すとおり、上述した図16に示すパワースペクトル図と比較して偶数次高調波が抑制されていることがわかる。
(補正値調整装置)
さらに、本発明に係るΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1は、上述した方法によって「α」の値を決定する補正値調整装置を備えた構成であってもよい。図9は、補正値調整装置9を備えたΔΣ変調型デジタルアナログ変換器10の構成を示すブロック図である。ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器10は、図1に示すΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1に補正値調整装置9を追加し、ブリッジ不平衡補正器8とブリッジ不平衡補正器11とを入れ替えた構成である。補正値調整装置9は、低域通過フィルタ4からの出力に基づいて補正値αを算出し、算出した補正値αをブリッジ不平衡補正器8に出力する。そして、ブリッジ不平衡補正器11は、量子化信号が「+1」の場合に、補正値調整装置9から入力される補正値αを「+τ」に加算してフィードバックする。なお、本実施の形態においては、補正値αを加算する構成としたが、減算する構成であってもよく特に限定はされない。
図10は、ブリッジ不平衡補正器11の構成を示す図である。図10に示すとおり、ブリッジ不平衡補正器11は、セレクタ12と加算器13とを備えている。上述したとおり、ブリッジ不平衡補正器11では、加算器13が補正値調整装置9から入力される補正値「α」を「+τ」に加算し、セレクタ12が量子化器7からの量子化信号に応じてフィードバック値を出力する。図10に示す例では、セレクタ12は、量子化信号「+1」、「0」、「−1」に対して、それぞれ、「+τ+α」、「0」、「−τ」のフィードバック値を出力する。なお、セレクタ12の構成としては、加算器13を備えずに、あらかじめ補正値αが加算あるいは減算された状態であってもよく、特に限定はされない。
図11は、補正値調整装置9が補正値αを決定する処理の流れを示すフローチャートである。
はじめに、補正値調整装置9は、初期値の設定を行う。具体的には、補正値調整装置9は、補正値αに「0」を、変数Eに「+∞」を設定する(S111)。
次に、補正値調整装置9は、補正値αと変数τの大きさを比較する判定処理を行う(S112)。判定処理の結果、補正値αのほうが小さい場合、補正値調整装置9は、S113からS118までの処理を行う。なお、変数τには補正値αの上限値が設定されている。
補正値調整装置9は、S118において、補正値αに増加値dを加算した値を新たな補正値αとする。S118の後、処理は再度S112へと戻る。つまり、補正値調整装置9は、補正値αを増加値dづつ増加させながら、補正値αが変数τより小さい間、S113からS118の処理を繰り返し行って、偶数次高調波を最も抑制する補正値αを探索する。
以下にS113〜S118の処理の流れについて説明する。
まず、補正値調整装置9は、D級アンプ3から出力される波形を取り込む(S113)。このとき、ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1には、元信号として単一周波数の正弦波を入力する。つまり、補正値調整装置9は、元信号として単一周波数の正弦波を入力した場合におけるΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1の出力を取り込む。
次に、補正値調整装置9は、取り込んだ出力信号について周波数解析を行い、ノイズフロアの大きさを示す値N(以下では、ノイズフロア値Nと呼ぶ)と2倍から2n倍までの偶数次高調波のパワースペクトルD2i(i=1、2、・・・・n)を算出する(S114)。
次に、補正値調整装置9は、S114において算出した2倍から2n倍までの偶数次高調波のパワースペクトルのうち、最大のパワースペクトルD2k(1≦k≦i)を特定する(S115)。パワースペクトルD2kは、2k倍の偶数次高調波のパワースペクトルである。
次に、補正値調整装置9は、ノイズフロア値NからパワースペクトルD2kを減算した結果(以下では、N−D2kと記す)と変数Eとの大きさを比較する判定処理を行う(S116)。判定処理の結果、N−D2kが変数Eより小さい場合、補正値調整装置9は、変数EにN−D2kを代入し、変数Eを更新する(S117)。また、補正値調整装置9は、このときの補正値αの値を変数Aに保持する。一方、判定処理の結果、変数EがN−D2kより小さい場合、補正値調整装置9は、変数Eを更新しない。
つまり、変数Eには、最終的に、補正値αを増加値dづつ増加させた場合におけるノイズフロア値Nとパワースペクトル値D2kとの差の最小値が保持されている。そして、変数Aには、補正値αを増加値dづつ増加させた場合において、ノイズフロア値Nとパワースペクトル値D2kとの差が最小となる補正値αが保持されている。すなわち、最終的に変数Aに保持されている値が、最も偶数次高調波を抑制できる補正値ということになる。
次に、補正値調整装置9は、補正値αに増加値dを加算し、補正値αを更新する。そして、処理はS112へと戻る。
処理S112における判定処理の結果、補正値αが変数τ以上である場合、すなわち、調整範囲内の全ての補正値αについてS112からS118の処理が終了した後、補正値調整装置9は、ブリッジ不平衡補正器11に、変数Aに保持されている値を補正値αとして出力し(S119)、処理を終了する。
なお、本発明を、以下のように表現することも可能である。
(第1の構成)
相互に縦続接続された複数の積分手段と、各積分手段からの出力を加算する加算手段と、当該加算手段からの出力をサンプリング周波数fsに基づいて3値に量子化して量子化信号を出力する量子化手段と、前記量子化手段からの出力を初段の前記積分手段に負帰還させる負帰還ループと、前記量子化信号をSWアンプで増幅する手段と、前記SWアンプで増幅された信号を低域通過フィルタでアナログ信号に復調する手段を有し、初段の前記積分手段に入力されたデジタルの入力信号をアナログ信号に変換するデルタシグマ変調形DA変換装置であって、前記負帰還される3値のうちの近接する2値の間隔を可変とできることを特徴とするΔΣ変調型DA変換装置。
(第2の構成)
また、前記DA変換装置に単一周波数の正弦波を入力したときの、DA変換装置の出力のパワースペクトルを観測し、その出力のうち入力した正弦波の偶数倍の高調波のうちもっとも最大のものが、2値の間隔を可変したときに最も小さくなるとき、もしくは、出力のノイズフロアにもっとも近づくときの値をもって、帰還される3値の間隔が決定されることを特徴とするΔΣ変調型DA変換装置。
また、本発明の構成は、加算器、ΔΣ変調器、SWアンプ、LPF、セレクタ、ブリッジ不平衡補正回路、補正値調整装置から構成され、入力の正弦波の周波数と同じ周波数の出力を基本波とし、基本波の振幅値と、基本波の偶数高調波の振幅値を観測する。補正値調整装置は、偶数次高調波(基本波の偶数倍の成分)とノイズフロアを観測し、偶数次高調波がノイズフロアにもっとも近づく時のフィードバック補正値(α)を算出する。αの値は−τから+τまで変化させ、偶数次高調波のうちでもっとも大きい成分が最小となるとき、もしくは、ノイズフロアに最も近づくときのフィードバック補正値をαとする。算出されたフィードバック補正値(α)を用いてブリッジ不平衡補正回路が補正を行う。これにより、偶数次高調波が抑圧される。
または、本発明の作用効果は、(a)完全なオープンループのΔΣ変調型アナログ−デジタルに比べ、SNRやTHD+Nを改善することができる。(b)SWアンプからのアナログフィードバック回路が無いため、回路の簡素になり、コスト低減が可能である。(c)1つのパラメータのみで、複数の偶数次高調波を抑圧することが可能である。(d)アンプ出力の不要な高調波成分を抑圧することにより、省エネに貢献することができる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
最後に、ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器1、および、ΔΣ変調型デジタルアナログ変換器10の各ブロック、特に補正値調整装置9は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
すなわち、補正値調整装置9は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである補正値調整装置9の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記補正値調整装置9に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
また、補正値調整装置9を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。