JP4787359B2 - 物理量計測装置および物理量計測方法 - Google Patents
物理量計測装置および物理量計測方法 Download PDFInfo
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Description
【0001】
本発明は、物理量計測装置および物理量計測方法に関する。より詳細には、ベクトル物理量を検出するセンサが取得したベクトル物理量データ群からベクトル物理量データ群に含まれるオフセットを推定するための物理量計測装置および物理量計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサを2方向または3方向に配置し、地磁気を測定して方位を計算する方位角計測装置(いわゆる電子コンパス)が知られている。近年、方位角計測装置の小型化が進み、携帯電話やPDA(Persolnal Digital Assistant)を始めとする携帯機器に搭載される例がある。
【0003】
このような方位角計測装置は、磁気センサの周辺にスピーカなどの着磁された部品が配置された場合、着磁された部品からもれる磁場も地磁気と同時に検出するため、測定信号から地磁気以外に起因する信号成分を差し引いてから方位を求めないと、誤った方位が計算されてしまう。地磁気以外に起因する定常的な信号成分をオフセットと呼ぶ。
【0004】
携帯機器に適した方位角計測装置のオフセットの推定方法は特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されている方法は、携帯機器が使用者の使用状況に応じて様々な姿勢を取る事を利用し、使用者に意識させること無く自動的に携帯機器に搭載された方位角計測装置のオフセットを推定する技術である。
【0005】
図11は、従来の方位角計測装置において、オフセットを推定する方法の概念を説明する図である。
【0006】
地磁気の大きさが均一な環境で、使用者が方位角計測装置1を自由に動かしたとき、方位角計測装置1が取得する地磁気データは、データに含まれるオフセットを中心とする球面上に分布する。なお、方位角計測装置1の各測定軸の感度は同じであるとする。
【0007】
(本件では、上述の通りデータに含まれる地磁気以外の成分をオフセットと呼ぶ。オフセットの推定にあたり、まず、地磁気データ群が分布する球面(地磁気を3軸の地磁気センサを用いて検出した場合)の中心が推定される。球面の中心を基準点と呼ぶ。次に推定された基準点の信頼性(システムが許容できる推定誤差で推定されているか)が調べられ、信頼性があると判断された基準点がシステムのオフセットとして採用される。信頼性の判定をしない場合は基準点はそのままシステムのオフセットとして採用される)。
【0008】
特許文献1によると、方位角計測装置1によって繰り返し取得された3軸測定データ群を(xi,yi,zi)としたとき、評価式[数1]を最小にするように基準点(ox,oy,oz)を推定するのが妥当であり、このとき基準点は[数2]で示される連立一次方程式の解によって求められるとしている。即ち、
【0009】
【数1】
【0010】
【数2】
【0011】
ここで、
【0012】
【数3】
【0013】
で、Nは取得した地磁気データ数である。
【0014】
センサのオフセットを求める他の方法が特許文献8に開示されている。特許文献8によると、次期検出手段が検出した3点以上の磁気データのうち、任意の2点間を結ぶ直線に対する垂直二等分線と、前期任意の2点とは異なる他の2点間を結ぶ直線に対する垂直二等分線の交点をオフセットとしている。
【0015】
また、複数の磁気データから任意の2点を多数抽出し、それぞれの2点間を結ぶ直線ごとに垂直二等分線を多数設定するとともに、前記多数の垂直二等分線が交差する複数の交点の座標を平均化したものをオフセットとしている。
【0016】
近年、携帯機器に組込み可能な軽量小型の3軸加速度センサとしてMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いた半導体デバイスのピエゾ抵抗型3軸加速度センサが開発されている(例えば、特許文献7参照)。
【0017】
加速度センサのオフセットを、使用者に意識させること無く自動的に推定する手法が特許文献5や特許文献6に開示されている。いずれも[数2]を基礎とする技術であるが、加速度特有の性質を利用し、信頼度の高いオフセットを推定するための技術が開示されている。
【0018】
3軸加速度センサが検出する重力加速度測定データは、図11の方位角計測装置と同様に、加速度センサのオフセットを中心とする球面上に分布する。なお、加速度センサの各測定軸の感度は同じであるとする。
【0019】
加速度センサは重力加速度と同時に運動加速度を検出するため、信頼度の高いオフセットを求めるためには重力加速度と運動加速度の分離が技術的なポイントとなる。
【0020】
特許文献5は時間的に連続する加速度測定データから携帯端末が静止したことを判定し、そのときの加速度測定データのみを用いオフセットを推定している。
【0021】
特許文献6は時間的に連続する加速度測定データのばらつきから加速度測定データに運動加速度が含まれる確率を見積もり、運動加速度を含んだ測定データからもオフセットを推定できるようにしている。
【0022】
【特許文献1】
PCT/JP2003/008293
【特許文献2】
PCT/JP2004/009324
【特許文献3】
PCT/JP2004/018888
【特許文献4】
特開2005−195376号公報
【特許文献5】
PCT/JP2005/014817
【特許文献6】
PCT/JP2006/326015
【特許文献7】
特開2003−101033号公報
【特許文献8】
特開2006−226810号公報
【発明の開示】
【0023】
上述した[数2]は、地磁気の大きさが均一な空間で取得された地磁気データ群から、地磁気データ群に含まれるオフセットを推定する式である。
【0024】
しかしながら、地磁気の大きさが均一な環境は少ない。
【0025】
図12は、市街地にて直線上を歩行しながら地磁気の大きさ、地磁気の伏角、及び歩行方位(地磁気方位)を計測した結果を示す図である。
【0026】
図12のデータを取得したときの歩行速度は概ね1m/1秒程度であったので、横軸の単位はおおよそm(メートル)と考えて良い。場所により地磁気が変動していることがわかる。建造物に含まれる鉄などの磁性体によって地磁気の引込みが生じるため、一般的に地磁気は人工建造物の周囲では均一でない。
【0027】
このため、方位角計測装置が取得した地磁気測定データを無作為に抽出し、[数2]を用いてオフセットを求めたとしても正確な値が得られるとは限らない。
【0028】
特許文献8に開示されている垂直二等分線の交点からオフセットを求める手法を用いれば、少なくとも個々の垂直二等分線を設定する二つの磁気データが同じ地磁気の大きさの場所で取得されていれば、全ての磁気データが取得された場所の地磁気の大きさが同じでなくともセンサのオフセットを求めることができる。
【0029】
[数2]と組み合わせて、信頼度の高いオフセットを推定する技術が特許文献1、特許文献2、特許文献3などに開示されている。特許文献1は例えば、[数2]による推定に用いた測定データ群の各軸成分の最大値と最小値の差分を算出し、差分が所定値以上の場合、推定された基準点をオフセットとして採用するとしている。地磁気の大きさが様々な場所で取得されたデータ群でも、データ群が広い領域に分布していれば推定される基準点の精度は高まる。
【0030】
また、定期的に推定される基準点群の各軸成分の最大値と最小値の差分(ばらつき)を算出し、差分が所定値以下の場合、推定された基準点をオフセットとして採用するとしている。推定される基準点のばらつきが小さい時は、推定に用いられた測定データ群が均一な地磁気環境で取得された可能性が高い。
【0031】
特許文献3では、推定に用いた測定データ群を平面に当てはめ、当てはめた平面と測定データ群の距離を算出し、距離の最大値が所定値以上の場合推定された基準点をオフセットとして採用するとしている。
【0032】
特許文献2では、前記所定値を定期的に(例えばオフセットが所定の回数得られる度に)厳しくする、または、特定の事象が発生した場合(例えば携帯端末にメモリカード等の磁性体部品が装着された)に緩めることにより、携帯機器の操作開始直後は信頼度が低くても速やかにオフセットを推定し、徐々にオフセットの信頼性を高めていく手法が開示されている。
【0033】
図13は、従来の基準点推定手段300の構成を示すブロック図である。
【0034】
基準点推定手段300は、データ取得手段301によって取得されたデータを必要に応じて蓄積し、基準点推定部302によってその蓄積されたデータ群から予め決められた評価式303に基づいてデータ取得手段301が出力するデータに含まれる基準点を推定し、オフセットとして出力される。通常、推定された基準点は、信頼性が調べられ(特許文献1、特許文献2、特許文献3)、信頼性があると判定された基準点のみオフセットとして出力される。
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
しかしながら、上述した従来の方法は、何れも精度の良い基準点をオフセットとして採用する確率を高めるための手法であり、推定に用いたデータによっては誤って精度の低い基準点を採用してしまう場合もある。誤って精度の低い基準点を採用しないように、所定値を厳しく設定しすぎると、オフセットを得るまでに非常に長い時間がかかってしまう。方位角計測装置を利用するシステムが要求する複数の仕様(必要なオフセットの平均精度、精度の悪いオフセットが得られる頻度、オフセットを得るまでの時間、等)を満たす所定値を設定することは一般に非常に難しい。
【0036】
重力加速度は、場所が変わってもほとんど変化しないため、運動加速度を含まない純粋な重力加速度データを得られた場合[数2]により、高精度のオフセットを求めることができる。
【0037】
運動加速度を含まない測定データは特許文献5に開示されているように携帯機器の静止判定をして、静止時の測定データより得ることができる。例えば所定時間Tの間に取得された加速度測定データ群の各測定軸のばらつきが所定範囲TH以下である場合に携帯機器は静止していると判定することが出来る。Tを長くし、THを小さくすることによって測定データに運動加速度が含まれる確率は減少するが、代わりに静止データを得るまでに長い時間がかかるようになる(従って、オフセットを求めるまでに長い時間がかかるようになる)。オフセットが推定されるまでの時間を速めるためにTやTHを緩めに設定した場合、得られる静止データは運動加速度を含んでいる場合もある。
【0038】
携帯端末の使用者が端末を動かしていなくとも、誤った重力加速度データが取得されることがある。例えば、エレベータは概ね0.1G(≒1m/s2)の定加速度で加減速する。また、技術の進歩により昇降中の振動もなくなってきている。このため、エレベータ内で静止した加速度センサは1.1G、または0.9G程度の定加速度を受ける場合があり、かつ上述の静止判定基準を満たすことが多い。
【0039】
携帯端末を誤って落とした場合、携帯端末にかかる加速度は(携帯端末の回転運動の度合いによるが)概ね0Gとなる。自由落下中は、上述の静止判定基準を満たすことが多い。
【0040】
従来においては、上述したような特許文献1、特許文献2、特許文献3に開示されている方位角計測装置の方法を利用して、推定された基準点の信頼度を計算していたが、これらの方法は何れも重力加速度のみで基準点が推定されたのか否かについては判定できなかった。
【0041】
そこで、本発明の目的は、測定対象であるベクトル物理量の大きさが均一な空間で取得された測定データ群でなくとも、信頼性の高いオフセットを推定することが可能なベクトル物理量計測装置を提供することにある。
【0042】
また、本発明の他の目的は、推定されたオフセットの信頼性を一段と向上させることが可能なベクトル物理量計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0043】
本発明は、物理量を計測する物理量計測装置であって、複数の成分からなるベクトル物理量を検出するベクトル物理量検出手段と、前記検出されたベクトル物理量をベクトル物理量データとして繰り返し取得することにより、ベクトル物理量データ群を取得するデータ取得手段と、前記取得したベクトル物理量データ群の各成分の差によって差分ベクトル群を算出する差分ベクトル算出部と、前記取得したベクトル物理量データ群の各成分を座標値とする所定の座標系上に定められた基準点の座標を推定し、該推定された基準点の座標をオフセットとして出力する基準点推定部とを具え、前記基準点推定部は、1)前記差分ベクトルと、該差分ベクトルの中点と前記基準点を結ぶベクトルの内積の絶対値のN乗、2)前記差分ベクトルの中点と、前記基準点から該差分ベクトルに引いた垂線の足となる点との距離のN乗、3)前記差分ベクトルの垂直二等分線または垂直二等分面と前記基準点との距離のN乗、4)複数の前記差分ベクトルの垂直二等分線または垂直二等分平面によって定まる点と前記基準点との距離のN乗、のいずれかを用いて算出することを特徴とする。
【0045】
前記基準点推定手段は、前記算出された差分ベクトル群の各差分ベクトルが、前記基準点の推定に適しているか否かを判定し、該判定結果に基づいて所定の差分ベクトル群のみを前記基準点の推定のために出力する差分ベクトル信頼性算出部をさらに具えてもよい。
【0046】
前記基準点推定手段は、前記推定された基準点の信頼度を前記差分ベクトル群を用いて判定し、該判定結果に基づいて所定の基準点のみをオフセットとして出力する信頼性算出部をさらに具えてもよい。
【0053】
前記Nは2としてもよい。
【0054】
前記基準点推定手段は、前記基準点推定に使用する差分ベクトルを構成する2つのベクトル物理量データが取得された時間差が所定値以下である差分ベクトルを用いて、前記基準点を推定してもよい。
【0055】
前記基準点推定手段は、前記差分ベクトルの大きさを算出し、前記差分ベクトルの大きさが所定値以上となる差分ベクトルを用いて、前記基準点を推定してもよい。
【0056】
前記基準点推定手段は、前記データ取得手段が新たに取得したベクトル物理量データを含む2つのベクトル物理量データから計算される差分ベクトルと、前記データ取得手段が前記新たに取得したベクトル物理量データより前に取得した2つのベクトル物理量データから計算される差分ベクトルの成す角を計算し、前記成す角が所定値以上となる場合、前記新たに取得したベクトル物理量データから計算される差分ベクトルを基準点の推定に用いてもよい。
【0057】
前記基準点推定手段は、前記基準点の座標を推定するために用いた差分ベクトル群の各々について、該差分ベクトルの中点と前記基準点推定手段によって推定された基準点を結ぶベクトルとの成す角を算出し、該成す角と90度との差の最大値が、所定値以下である場合前記基準点をオフセットとして出力してもよい。
【0058】
前記基準点の座標を推定するために用いた差分ベクトル群の各々について、推定された基準点から該差分ベクトルに下ろした垂線の足と、該差分ベクトルの中点との距離を算出し、該算出された距離の最大値が、所定値以下である場合前記基準点をオフセットとして出力してもよい。
【0059】
前記ベクトル物理量検出手段は、2成分のベクトル物理量検出手段であり、前記基準点推定手段は、前記基準点の座標を推定するために用いた差分ベクトル群の各々について、該差分ベクトルの垂直二等分線と前記推定された基準点の距離を算出し、該算出された距離の最大値が、所定値以下である場合前記基準点をオフセットとして出力してもよい。
【0060】
前記ベクトル物理量検出手段は、3成分のベクトル物理量検出手段であり、前記基準点推定手段は、前記基準点の座標を推定するために用いた差分ベクトル群の各々について、該差分ベクトルの垂直二等分平面と前記推定された基準点の距離を算出し、該算出された距離の最大値が、所定値以下である場合前記基準点をオフセットとして出力してもよい。
【0061】
前記ベクトル物理量検出手段は、前記物理量として磁気を検出する磁気センサとしてもよい。
【0062】
前記ベクトル物理量検出手段は、前記物理量として加速度を検出する加速度センサとしてもよい。
【0063】
本発明は、物理量を計測する物理量計測方法であって、複数の成分からなるベクトル物理量を検出するベクトル物理量検出工程と、前記検出されたベクトル物理量をベクトル物理量データとして繰り返し取得することにより、ベクトル物理量データ群を取得するデータ取得工程と、前記取得したベクトル物理量データ群の各成分の差によって差分ベクトル群を算出する差分ベクトル算出工程と、前記算出された差分ベクトル群を用いた前記評価式に基づいて、前記取得したベクトル物理量データ群の各成分を座標値とする所定の座標系上に定められた基準点の座標を推定し、該推定された基準点の座標をオフセットとして出力する基準点推定工程とを具え、前記基準点推定工程は、1)前記差分ベクトルと、該差分ベクトルの中点と前記基準点を結ぶベクトルの内積の絶対値のN乗、2)前記差分ベクトルの中点と、前記基準点から該差分ベクトルに引いた垂線の足となる点との距離のN乗、3)前記差分ベクトルの垂直二等分線または垂直二等分面と前記基準点との距離のN乗、4)複数の前記差分ベクトルの垂直二等分線または垂直二等分平面によって定まる点と前記基準点との距離のN乗、のいずれかを用いて算出することを特徴とする。
【0064】
本発明によれば、複数の成分からなるベクトル物理量を繰り返して検出し、ベクトル物理量データとして取得することにより、ベクトル物理量データ群を取得し、取得したベクトル物理量データ群から差分ベクトル群を算出し、該算出された差分ベクトル群を用いた所定の評価式に基づいて取得したベクトル物理量データ群に含まれる基準点を推定するようにしたので、測定対象であるベクトル物理量の大きさが均一な空間で取得された測定データ群でなくとも、信頼性の高いオフセットを推定することができる。
【0065】
また、本発明によれば、算出された差分ベクトル群の各差分ベクトルが基準点の推定に適しているか否かを判定し、該判定結果に基づいて所定の差分ベクトル群のみを基準点の推定のために用い、また推定された基準点の信頼度を差分ベクトル群を用いて判定し、該判定結果に基づいて所定の基準点のみをオフセットとして出力するようにしたので、推定されたオフセットの信頼性を一段と向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態である、物理量計測システムの全体的な概略構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、基準点推定手段の構成例を示すブロック図である。
【図3】図3は、物理量計測装置における物理量計測の概要を示すフローチャートである。
【図4】図4は、地磁気サイズが均一でない環境で取得されたデータ群からオフセットを推定する方法を説明する図である。
【図5】図5は、本発明の第2の実施の形態である、図2に示した基準点推定手段の他の構成例を示すブロック図である。
【図6A】図6Aは、基準点の推定に利用する差分ベクトルと、測定データに混入するノイズと、オフセットの関係を説明する図であって、差分ベクトルの大きさが大きい場合の例である。
【図6B】図6Bは、基準点の推定に利用する差分ベクトルと、測定データに混入するノイズと、オフセットの関係を説明する図であって、差分ベクトルの大きさが小さい場合の例である。
【図7A】図7Aは、基準点の推定に利用する差分ベクトルと、差分ベクトルを構成する測定データの取得時間差と、オフセットとの関係を説明する図であって、時間差が小さい場合の例である。
【図7B】図7Bは、基準点の推定に利用する差分ベクトルと、差分ベクトルを構成する測定データの取得時間差と、オフセットとの関係を説明する図であって、時間差が大きい場合の例である。
【図8A】図8Aは、測定データにノイズが混入した場合に、基準点の推定に利用する差分ベクトルと、差分ベクトル間の成す角と、オフセットとの関係を説明する図であって、差分ベクトル間の成す角が小さい場合の例である。
【図8B】図8Bは、測定データにノイズが混入した場合に、基準点の推定に利用する差分ベクトルと、差分ベクトル間の成す角と、オフセットとの関係を説明する図であって、差分ベクトル間の成す角が大きい場合の例である。
【図9】図9は、本発明の第3の実施の形態である、図4に示した基準点推定部42の構成例を示すブロック図である。
【図10A】図10Aは、真のオフセットと、推定された基準点と、推定された基準点から推定に用いた差分ベクトルの中点に引いたベクトルの関係を説明する図であって、ノイズが混入していない測定データから構成された差分ベクトルで基準点の推定が行われた場合の例である。
【図10B】図10Bは、真のオフセットと、推定された基準点と、推定された基準点から推定に用いた差分ベクトルの中点に引いたベクトルの関係を説明する図であって、ノイズが混入した測定データから構成された差分ベクトルで基準点の推定が行われた場合の例である。
【図11】図11は、従来の方位角計測装置において、オフセットを推定する方法の概念を説明する図である。
【図12】図12は、市街地にて直線上を歩行しながら地磁気の大きさ、地磁気の伏角、及び歩行方位(地磁気方位)を計測した結果を示す図である。
【図13】図13は、従来の基準点推定手段の構成を示すブロック図である。
【図14】図14は、数4、及び文献8に開示される手法でオフセットを推定する場合の概念を説明する図である。
【図15】図15は、数5で推定されるオフセットの推定ばらつきを説明するための図である。
【図16】図16は、文献8に開示される手法で推定されるオフセットの推定ばらつきを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0068】
[第1の例]
本発明の第1の実施の形態を、図1〜図4に基づいて説明する。
【0069】
<構成>
図1は、物理量計測システム100の全体的な概略構成を示す。
【0070】
物理量計測システム100は、物理量計測装置10と、演算部200とからなる。
【0071】
物理量計測装置10は、ベクトル物理量検出手段20と、データ取得手段30と、基準点推定手段40とからなる。
【0072】
ベクトル物理量検出手段20は、複数の成分からなるベクトル物理量を検出する。
【0073】
データ取得手段30は、検出されたベクトル物理量をベクトル物理量データとして繰り返し取得することにより、ベクトル物理量データ群を取得する。
【0074】
基準点推定手段40は、取得したベクトル物理量データ群から差分ベクトル群を算出し、該算出された差分ベクトル群を用いた所定の評価式に基づいてベクトル物理量データ群に含まれる基準点を推定し、該推定された基準点をオフセットとして出力する。
【0075】
また、演算部200は、物理量計測装置10により取得されたベクトル物理量データ群と、推定されたオフセットとから、システムに必要な情報を算出する。
【0076】
図2は、基準点推定手段40の構成例を示す。
【0077】
基準点推定手段40は、差分ベクトル算出部41と、基準点推定部42とからなる。
【0078】
差分ベクトル算出部41は、取得したベクトル物理量データ群の各成分の差によって差分ベクトル群(V1)を算出する。
【0079】
基準点推定部42は、算出された差分ベクトル群(V1)及び差分ベクトル算出に使用したベクトル物理量データ群(D1)を用いた評価式43に基づいて、取得したベクトル物理量データ群の各成分を座標値とする所定の座標系上に定められた基準点の座標を統計的手法によって推定し、該推定された基準点の座標をオフセットとして出力する。
【0080】
以下、各部の具体的な構成例について説明する。
【0081】
ベクトル物理量検出手段20は、2成分又は3成分の物理量を検出し、検出した物理量に対応する信号を出力する。対象となる物理量として、例えば、地磁気、加速度などがある。
【0082】
ベクトル物理量検出手段20の構成としては、例えば、磁気を検出し、その検出した磁気に比例する電圧を出力する磁気センサや、加速度を検出し、その検出した加速度に比例する電圧を出力する加速度センサなどを用いることができる。
【0083】
データ取得手段30は、ベクトル物理量検出手段20が出力した信号を後段(基準点推定手段40以後)の各ブロックが処理しやすい形式に変換して取得する。
【0084】
また、データ取得手段30は、例えば、物理量検出手段が出力した信号を増幅し、増幅された信号をA/D変換し、変換されたデジタルデータを出力する。増幅と同時にノイズ除去のためにフィルター処理が施される場合もある。
【0085】
通常、磁気センサ、加速度センサなどに代表されるセンサは、非常に小さな信号を出力するため、増幅し、フィルター処理を施しS/Nを向上させた後、コンピュータ等で処理しやすいデジタルデータに変換され出力される。A/D変換をせずにアナログ信号のまま後段の処理を行ってもよい。
【0086】
<動作>
以下、本システムの動作について説明する。
(物理量計測の概要)
図3は、物理量計測装置10における物理量計測の概要を示すフローチャートである。
【0087】
ステップS1では、複数の成分からなるベクトル物理量を検出する。
【0088】
ステップS2では、ベクトル物理量を繰り返して検出し、取得してベクトル物理量データ群を取得する。
【0089】
ステップS3では、取得したベクトル物理量データ群の各成分の差をとり、差分ベクトル群を算出する。
【0090】
ステップS4では、差分ベクトル群を用いた評価式に基づいて、取得したベクトル物理量データ群の各成分を座標値とする所定の座標系上に定められた基準点の座標を統計的手法によって推定する。これにより、その推定された基準点の座標をオフセットとして出力する。
【0091】
以下、物理量計測について具体例を挙げて説明する。
(基準点の推定)
図2の基準点推定手段40において、データ取得手段30によって取得された2つの測定データ、または測定データ群から計算される2つのデータから、差分ベクトルを計算する。そして、必要に応じて、差分ベクトル及び該差分ベクトルを構成しているデータを蓄積する。その蓄積された差分ベクトル群及び該差分ベクトルを構成しているデータ群から予め決められた評価式に基づいてデータ取得手段が出力するデータに含まれる基準点を推定して、オフセットとして出力する。
【0092】
後述するように、評価式に差分ベクトルを用いることにより、ベクトル物理量の大きさが均一でない環境で取得されたデータ群からもオフセットの推定が可能となる。
【0093】
差分ベクトルを構成する2つのデータは、データ取得手段が取得したデータでも良いし、ノイズの影響を低減するために、測定データ群に何らかの計算処理(例えば、平均)を施して得られる値を用いてもよい。
【0094】
(演算処理)
図1に示す物理量計測システム100は、演算部200において、通常、物理量計測装置10のデータ取得手段30が取得した測定データ、及び基準点推定手段40が推定したオフセットを受けて、システムに必要な情報を計算する。
【0095】
例えば、物理量検出手段が3軸磁気センサであり、地磁気を検出して方位角を算出することが目的の方位角計測装置の場合、推定されたオフセット、及び取得された測定データから、まず地磁気の値を算出し、更に方位角を算出する。
【0096】
具体的には、推定されたオフセットを(ox,oy,oz)、本発明に係る物理量計測システム100を備えた携帯機器が、水平の(磁気センサx測定軸、y測定軸が水平面上にある)ときの磁気測定データをm=(xi,yi,zi)とすると、x測定軸の磁北に対する方位は次式で計算される。
【0097】
【数4】
【0098】
例えば、ベクトル物理量検出手段20が3軸加速度センサであり、携帯機器の水平面に対する傾きを算出することが目的の傾斜角計測装置の場合、推定されたオフセット、及び取得されたデータからまず重力加速度の値が計算され、更に携帯機器の傾斜角が算出される。
【0099】
具体的には、推定されたオフセットを(ox,oy,oz)、重力加速度測定データをg=(xi,yi,zi)とすると、水平面に対するx測定軸の成す角Φ、y測定軸の成す角ηは次式で計算される。
【0100】
【数5】
【0101】
(オフセットの推定方法)
前述したように地磁気の大きさが変わらない環境で、3軸の磁気センサを用いて地磁気データを取得した場合、地磁気の測定データは球面上に分布する。2軸の磁気センサを水平面上で動かした場合、地磁気データはオフセットを中心とした円(所謂方位円)上に分布する。以下では、簡単化のため2次元の場合を主として説明するが、3次元の場合も同様に理論を展開できる。
【0102】
図4は、地磁気サイズが均一でない環境で取得されたデータ群からオフセットを推定する方法を説明する図である。
【0103】
例えば、自動車のダッシュボードの上に水平に固定した2軸の磁気センサが検出する磁気の時間変化を表す。一般に自動車は、さまざまな磁場環境の中を高速で通過する。例えば、橋は鉄構造物であることが多く地磁気が引き込まれ大きさ、方向とも変化する。道路にも鉄構造物が埋められている場合もある。また、都市の道路の場合道路周辺のビルなどの影響も受ける。このため、自動車内に設置された磁気センサが検出する地磁気測定値は一つの円上に分布せず、同心円状の複数の円上に分布する。従って、[数2]([数2]を2成分の場合に補正した式)を用いて求められるオフセットの精度は一般に悪い。
【0104】
図4では、本発明の概念を説明するために、地磁気の大きさの異なる3つの領域を通過した場合に取得される磁気データを表した図である。
【0105】
地磁気の大きさが同じ領域で取得された2つの地磁気データの垂直2等分線はオフセットを通る。地磁気の大きさが同じ領域で取得された2つの地磁気データの組が二組あれば、垂直二等分線からオフセットを推定することが出来る。実際の地磁気測定データにはノイズが含まれていることが多く、また地磁気の大きさが同じ領域で必ずしも2つの地磁気データを取得できるとは限らないため、複数のペアデータから統計的にオフセットを求めることが望ましい。
【0106】
地磁気センサによって繰り返し取得された2軸測定データ群をmi=(xi,yi)、地磁気センサの測定データに含まれるオフセットをo=(ox,oy)とする。一つの方位円上にある二つの地磁気データから構成される差分ベクトルと、地磁気センサのオフセットと該差分ベクトルの中点を結ぶベクトルの内積は0である。
【0107】
実際には、地磁気の大きさは場所が少しでも変わると変動することが多く、厳密に同じ方位円上の測定データを2つ取得することは難しいが、場所が近い(即ち、時間的に近い)ところで取得された2つのデータは、ほぼ同じ大きさの方位円上にあると考えても差しつかえない。方位円の大きさが時間とともに変動しても、同じ(程度の)大きさの方位円上にある測定データの組を取得できれば、各々の測定データの組から作られる内積は全て0に近い値である。全ての測定データの組から作られる内積の絶対値の2乗は下式のようになる。
【0108】
【数6】
【0109】
理想的には、Sの値は0となるが、実際の測定値にはノイズが含まれていたり、厳密に同じ方位円上にはない測定データの組であったりするため、0に近い値となる。[数6]を最小値にするようなoを求めるのが推定方法として妥当である。[数6]を最小にする方法として、Newton−Raphson法などの反復法により、漸近的にoを求めていく方法もあるが、以下の連立方程式を解くことによって解析的に求めることもできる。
【0110】
【数7】
【0111】
一つの方位円上の二点から構成される差分ベクトルの垂直二等分線が方位円の中心を通ることから、[数6]の代わりに[数8]、または[数9]の評価式を定義し、これらの表下式が最小値をとるようにoを定めることもできる。
【0112】
【数8】
【0113】
【数9】
【0114】
[数8]は、2つの測定データから構成される差分ベクトルの中点と、基準点から差分ベクトルに引いた垂線の足となる点との距離の2乗を各差分ベクトルごとに計算し、各差分ベクトルごとに計算された値の和となっている。
【0115】
[数9]は、2つの測定データから構成される差分ベクトルの垂直二等分線と、基準点との距離の2乗を各差分ベクトルごとに計算し、各差分ベクトルごとに計算された値の和となっている。(3成分の物理量検出装置の場合は、“2つの測定データから構成される差分ベクトルの垂直二等分面と、基準点との距離の2乗を各差分ベクトルごとに計算し、各差分ベクトルごとに計算された値の和となっている”となる。[数9]は、ベクトル記述であるため、2成分でも3成分でも同じである)。
【0116】
[数8]と[数9]は、導出の思考過程が異なるだけで、同じ式である。
【0117】
[数8]と[数9]を最小にする方法として、Newton−Raphson法などの反復法により、漸近的にoを求めていく方法がある。
【0118】
[数6]、[数8]、[数9]は、絶対値の2乗の和の形をしているが、一般的には絶対値のN乗の和としてよい。例えば、[数6]の評価式の変わりに次式を用いてもよい。
【0119】
【数10】
【0120】
Nが大きくなると一般的には計算量が増え、また、計算過程で扱わなければならなくなる値の範囲が大きくなるため、数値を表現するビット数に制約があるシステムには向かない。
【0121】
2つの差分ベクトルの垂直二等分線(物理量検出手段が2成分の物理量を検出する場合。3成分の場合、3つの差分ベクトルの垂直二等分平面となる)は、基準点を通る。よって、2つの差分ベクトルの組を何組か作り、各組ごとに垂直二等分線の交点を計算し、各組ごとに計算された交点と基準点との距離の和のN乗を評価式に定めてもよい([数11])。
【0122】
【数11】
【0123】
ただし、ベクトルaに関して、aTは横ベクトルを表す。
【0124】
さらに拡張して、複数(例えばA個)の差分ベクトルから特定の点を定める方法を定義し、A個の差分ベクトルの組を何組か作り、各組ごとに特定の点を計算し、各組ごとに計算された特定の点と基準点との距離の和のN乗を評価式に定めてもよい。
【0125】
例えば、3個の差分ベクトルから[数6]を解くことによって得られる(ox,oy)を特定点の定義とすることができる。
【0126】
[第2の例]
本発明の第2の実施の形態を、図5〜図8に基づいて説明する。なお、前述した第1の例と同一部分については、その説明を省略し、同一符号を付す。
【0127】
図5は、図2に示した基準点推定手段40の他の構成例を示す。
【0128】
基準点推定手段40には、差分ベクトル信頼性算出部50がさらに備えられている。
【0129】
差分ベクトル信頼性算出部50は、前述した図3に示すように、ステップS10において、算出された差分ベクトル群の各差分ベクトルが、基準点の推定に適しているか否かを判定し、該判定結果に基づいて所定の差分ベクトル群のみを基準点の推定のために出力する。
【0130】
以下、差分ベクトル信頼性算出部50の機能について具体的に説明する。
【0131】
図1のデータ取得手段30によって取得された任意の2つのデータから差分ベクトルを計算し、評価式[数6]、[数8]、又は[数9]を最小にするようにoを求めたとしても、通常測定データにはノイズが混入しており、また、差分ベクトルを構成する2つのデータが必ずしも一つの方位円上にない、などの理由により、差分ベクトルを構成する2つのデータの選び方によっては、オフセットの推定精度が悪い場合がある。そのため、基準点推定に適した差分ベクトルのみを選別して、基準点の推定を行う方が好ましい。
【0132】
図5の差分ベクトル信頼性算出部50は、一つないしは複数の方法で、差分ベクトル算出部41から出力された差分ベクトル群の各差分ベクトルが基準点の推定に適しているか否か判断し、基準点の推定に適していると判断された差分ベクトルのみから構成される差分ベクトル群V2、および差分ベクトル群を構成するデータ群(各差分ベクトルを計算するために使用したベクトル物理量データの集まり)D2を基準点推定部42に出力する。
【0133】
(基準点の推定例1)
図6A,図6Bは、基準点の推定に利用する差分ベクトルと、測定データ401に混入するノイズと、オフセット400との関係を説明する図である。
【0134】
図6Aは差分ベクトルの大きさが大きい場合の例、図6Bは差分ベクトルの大きさが小さい場合の例である。
【0135】
図6A,図6Bにおいて、選んだ一組のデータの一つにノイズが混入した場合の差分ベクトルの垂直二等分線と、方位円の中心との関係を示す。
【0136】
差分ベクトルの大きさが小さくなるほど、同じノイズでも差分ベクトルの垂直二等分線が方位円の中心から離れることがわかる。これにより、ノイズの影響による推定誤差を低減するためには、基準点推定にはなるべく大きな差分ベクトルを用いたほうが良いことがわかる。
【0137】
しかし、大きな差分ベクトルを得るためにお互い離れた場所(離れた時間)で取得された二つの磁気データを使用することは、前述したように地磁気の大きさが場所により変動するため好ましくない。従って、差分ベクトルを算出する二つの磁気データの取得された時間は既定の値以下に決めておくべきである。
【0138】
以下に、本発明と文献8の技術の差異を説明する。
【0139】
市街地のように人工構造物の多い場所では地磁気が均一な領域は非常に狭く、従って歩行者が取得する二つの磁気データは、例え磁気データが時間的に近接していたとしてもそれらを取得した場所の地磁気の大きさは完全には一致していない場合がほとんどである。また、自動車などの着磁した移動体、屋内外の様々な電流の影響により磁気データにはノイズが混入していることが多い。
【0140】
図8は、ノイズの混入した地磁気データによって設定される二つの垂直二等分線の交点と真のオフセットの関係を示した図である。磁気データにノイズが混入している場合、オフセットの推定に用いる垂直二等分線によっては大きな誤差が含まれる。
【0141】
図14は、[数7]、及び文献8に開示される手法でオフセットを推定する場合の概念を説明する図である。
【0142】
図14では真の地磁気センサのオフセットをXとし、地磁気センサの測定値が描く方位円を点線で示している。このとき12点の磁気データから[数7]によって推定されるオフセットを410、文献8によって推定されるオフセットを510で示している。
【0143】
[数7]によって推定されるオフセット410は、12点全ての磁気データから一度に求められる。
【0144】
文献8によるオフセット510は、まず測定データ401、次に測定データ420、最後に測定データ430で表わされるそれぞれ4点から作られる二つの二等分線の交点を求め、最後に求められた三つの交点を平均することによってオフセットを推定している。全ての磁気データには方位円の半径の10%以下のノイズを混入させている。
【0145】
図14において示されるように、本発明の[数7]により求められたオフセット410と、文献8にて開示されている方法で求められたオフセット510とは同じとはならない。
【0146】
本発明による方法では、多くの差分ベクトルに重畳された重畳されたノイズの影響は、そのランダム性のために相殺され、ノイズが重畳していても真値に近いオフセットの値を算出できている。
【0147】
一方、文献8の方法では、比較的近い距離の2点を結ぶ垂直2等分線を用い、さらに、その比較的近い2つの垂直二等分線の交点をもとめ、それを平均している。この場合、比較的近い2つの垂直二等分線に含まれるノイズの影響は、必ずしも相殺されず、オフセットの値としてはかえってノイズの影響が増大されてしまい、真値とは大きく異なるオフセットの値が求まりやすい。このとき、複数の垂直二等分線の交点を平均したとしても、そのノイズの影響が相殺されることはなく、求められたオフセットの真値との誤差がおおきくなると考えられる。
【0148】
図15は、本発明の[数7]によるオフセット推定を1000回行い、推定されたオフセットをすべて表示した図である。
【0149】
図16は、文献8の手法によるオフセット推定を1000回行い、推定されたオフセットをすべて表示した図である。
【0150】
図15、図16とも各回同じ磁気データからオフセットを推定した。二つの図を比べると、明らかに、本発明による方法のほうがオフセットの推定精度が高いことがわかる。
【0151】
(基準点の推定例2)
図7A,図7Bは、基準点の推定に利用する差分ベクトルと、差分ベクトルを構成する測定データ401の取得時間差と、オフセット400との関係を説明する図である。
【0152】
図7Aは時間差が小さい場合の例、図7Bは時間差が大きい場合の例である。
【0153】
図7A,図7Bにおいては、差分ベクトルの大きさが大きくても、同じ方位円上にない測定データ401から計算された差分ベクトルの垂直二等分線がオフセット400を示す点から大きく離れてしまう場合があることを示す。402は、地磁気推移である。
【0154】
(基準点の推定例3)
図8A,図8Bは、測定データ401にノイズが混入した場合に、基準点の推定に利用する差分ベクトルと、差分ベクトル間の成す角と、オフセット400との関係を説明する図である。
【0155】
図8Aは差分ベクトル間の成す角が小さい場合の例、図8Bは差分ベクトル間の成す角が大きい場合の例である。
【0156】
図8A,図8Bにおいて、測定データ401にノイズが混入した場合に、基準点の推定に利用する差分ベクトルと、差分ベクトル間の成す角と、オフセット400との関係を示す。2つの差分ベクトルの成す角が小さい(平行に近い)と、推定される基準点(2つの差分ベクトルの交点)は、真のオフセットから大きく離れてしまう場合がある。
【0157】
これに対して、2つの差分ベクトルの成す角が90度(直角)に近いときは、ノイズの影響を一般に受け難い。多数の差分ベクトルから統計的にオフセットを推定する場合は、差分ベクトルが様々な方位に均等に分布しているとノイズの影響を受け難くなる。
【0158】
全ての測定データを携帯機器のメモリ等に格納しておき、格納された測定データから様々な方位に分布するような差分ベクトルを計算することは、メモリや計算能力の問題から難しい。携帯機器のような小型のシステムでは、様々な方位の差分ベクトルを得る手法として次のような方法がある。
【0159】
即ち、差分ベクトル信頼性算出手段によって直前に信頼性があると判定された差分ベクトルを基準として、該差分ベクトルと新たに計算された差分ベクトルの成す角が所定の角度以上であるとき、新たに計算された差分ベクトルを信頼性のある差分ベクトルして、基準点推定に用いる。反対に成す角が所定の角度以下の時は信頼性がないとして新たに計算された差分ベクトルを破棄する。このようにすることによって、同じ方向を指す差分ベクトルばかりで基準点が推定されることがなくなる。
【0160】
[第3の例]
本発明の第3の実施の形態を、図9および図10に基づいて説明する。なお、前述した各例と同一部分については、その説明を省略し、同一符号を付す。
【0161】
図9は、図5に示した基準点推定部42の構成例を示す。
【0162】
基準点推定部42には、推定部51と、信頼性算出部52とが備えられている。
【0163】
推定部51は、算出された差分ベクトル群を用いた評価式43に基づいて、ベクトル物理量データ群に含まれる基準点を推定する。
【0164】
信頼性算出部52は、前述した図3に示すように、ステップS20において、その推定された基準点の信頼度を差分ベクトル群を用いて判定し、該判定結果に基づいて所定の基準点のみをオフセットとして出力する。
【0165】
以下、信頼性算出部52の機能について具体的に説明する。
【0166】
前述したように、測定データにはノイズが混入したり、地磁気の大きさが変動したりするために、推定される基準点には通常誤差が含まれている。推定された基準点がどの程度信頼できるかどうか調べ、信頼できると判定されたときにのみ推定された基準点をオフセットとして出力すべきである。
【0167】
図10A,図10Bは、真のオフセット400と、推定された基準点403と、推定された基準点403から推定に用いた差分ベクトルの中点に引いたベクトルの関係を説明する図である。
【0168】
図10Aは、ノイズが混入していない測定データ401から構成された差分ベクトルで基準点の推定が行われた場合の例である。図10Bは、ノイズが混入した測定データ401から構成された差分ベクトルで基準点の推定が行われた場合の例である。
【0169】
図10A,図10Bにおいて、推定に用いた個々の差分ベクトルが、ベクトル物理量の大きさが同じ環境で取得され、さらにノイズの混入していない測定データ401から構成されている場合、推定される基準点は真のオフセット400に一致し、各差分ベクトルの中点と基準点を結んだベクトルは各差分ベクトルと直交する。
【0170】
逆に、推定に用いた差分ベクトルが、ベクトル物理量の大きさが異なる環境で取得され、あるいはノイズが混入したデータから構成されている場合、推定される基準点403は真のオフセットとは一致せず、各差分ベクトルの中点と基準点を結んだベクトルの成す角は90度以下となる。
【0171】
推定に用いた全ての差分ベクトルについて、差分ベクトルと、推定された基準点と差分ベクトルの中点を結ぶベクトルとの成す角を計算する。計算された全ての成す角と90度との差が所定値以下である場合推定された基準点を信頼できると判定する。逆に、成す角と90度との差が一つでも所定値以上であれば、推定された基準点は信頼できないと判定して、破棄する。これにより、信頼度を一段と向上させたオフセットを推定することが可能となる。
【0172】
上述したように、本発明における測定の対象となるベクトル物理量の卑近な例として、地磁気や加速度などが挙げられる。他にも、人工的に作り出した定常的な磁場や電場など、ベクトル物理量の大きさの変化が、ベクトル物理量とベクトル物理量検出手段の相対的な姿勢関係の変化に比べて遅ければ、どんな物理量でもよい。
Claims (26)
- 物理量を計測する物理量計測装置であって、
複数の成分からなるベクトル物理量を検出するベクトル物理量検出手段と、
前記検出されたベクトル物理量をベクトル物理量データとして繰り返し取得することにより、ベクトル物理量データ群を取得するデータ取得手段と、
前記取得したベクトル物理量データ群の各成分の差によって差分ベクトル群を算出する差分ベクトル算出部と、
前記取得したベクトル物理量データ群の各成分を座標値とする所定の座標系上に定められた基準点の座標を推定し、該推定された基準点の座標をオフセットとして出力する基準点推定部と
を具え、
前記基準点推定部は、
1)前記差分ベクトルと、該差分ベクトルの中点と前記基準点を結ぶベクトルの内積の絶対値のN乗、
2)前記差分ベクトルの中点と、前記基準点から該差分ベクトルに引いた垂線の足となる点との距離のN乗、
3)前記差分ベクトルの垂直二等分線または垂直二等分面と前記基準点との距離のN乗、
4)複数の前記差分ベクトルの垂直二等分線または垂直二等分平面によって定まる点と前記基準点との距離のN乗、
のいずれかを用いて算出する
ことを特徴とする物理量計測装置。 - 前記基準点推定手段は、
前記算出された差分ベクトル群の各差分ベクトルが、前記基準点の推定に適しているか否かを判定し、該判定結果に基づいて所定の差分ベクトル群のみを前記基準点の推定のために出力する差分ベクトル信頼性算出部
をさらに具えたことを特徴とする請求項1に記載の物理量計測装置。 - 前記基準点推定手段は、
前記推定された基準点の信頼度を前記差分ベクトル群を用いて判定し、該判定結果に基づいて所定の基準点のみをオフセットとして出力する信頼性算出部
をさらに具えたことを特徴とする請求項1または2に記載の物理量計測装置。 - 前記Nは2であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の物理量計測装置。
- 前記基準点推定手段は、
前記差分ベクトルを構成する2つのベクトル物理量データが取得された時間差が所定値以下である差分ベクトルを用いて、前記基準点を推定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の物理量計測装置。 - 前記基準点推定手段は、
前記差分ベクトルの大きさを算出し、
前記差分ベクトルの大きさが所定値以上となる差分ベクトルを用いて、前記基準点を推定することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の物理量計測装置。 - 前記基準点推定手段は、
前記データ取得手段が新たに取得したベクトル物理量データを含む2つのベクトル物理量データから計算される差分ベクトルと、前記データ取得手段が前記新たに取得したベクトル物理量データより前に取得した2つのベクトル物理量データから計算される差分ベクトルの成す角を計算し、
前記成す角が所定値以上となる場合、前記新たに取得したベクトル物理量データから計算される差分ベクトルを用いて基準点を推定することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の物理量計測装置。 - 前記基準点推定手段は、
前記基準点の座標を推定するために用いた差分ベクトル群の各々について、
該差分ベクトルの中点と前記基準点推定手段によって推定された基準点を結ぶベクトルとの成す角を算出し、
該成す角と90度との差の最大値が、所定値以下である場合前記基準点をオフセットとして出力することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の物理量計測装置。 - 前記基準点の座標を推定するために用いた差分ベクトル群の各々について、
推定された基準点から該差分ベクトルに下ろした垂線の足と、該差分ベクトルの中点との距離を算出し、
該算出された距離の最大値が、所定値以下である場合前記基準点をオフセットとして出力することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の物理量計測装置。 - 前記ベクトル物理量検出手段は、2成分のベクトル物理量検出手段であり、
前記基準点推定手段は、
前記基準点の座標を推定するために用いた差分ベクトル群の各々について、
該差分ベクトルの垂直二等分線と前記推定された基準点の距離を算出し、
該算出された距離の最大値が、所定値以下である場合前記基準点をオフセットとして出力することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の物理量計測装置。 - 前記ベクトル物理量検出手段は、3成分のベクトル物理量検出手段であり、
前記基準点推定手段は、
前記基準点の座標を推定するために用いた差分ベクトル群の各々について、
該差分ベクトルの垂直二等分平面と前記推定された基準点の距離を算出し、
該算出された距離の最大値が、所定値以下である場合前記基準点をオフセットとして出力することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の物理量計測装置。 - 前記ベクトル物理量検出手段は、前記物理量として磁気を検出する磁気センサであることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の物理量計測装置。
- 前記ベクトル物理量検出手段は、前記物理量として加速度を検出する加速度センサであることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の物理量計測装置。
- 物理量を計測する物理量計測方法であって、
複数の成分からなるベクトル物理量を検出するベクトル物理量検出工程と、
前記検出されたベクトル物理量をベクトル物理量データとして繰り返し取得することにより、ベクトル物理量データ群を取得するデータ取得工程と、
前記取得したベクトル物理量データ群の各成分の差によって差分ベクトル群を算出する差分ベクトル算出工程と、
前記算出された差分ベクトル群を用いた前記評価式に基づいて、前記取得したベクトル物理量データ群の各成分を座標値とする所定の座標系上に定められた基準点の座標を推定し、該推定された基準点の座標をオフセットとして出力する基準点推定工程と
を具え、
前記基準点推定工程は、
1)前記差分ベクトルと、該差分ベクトルの中点と前記基準点を結ぶベクトルの内積の絶対値のN乗、
2)前記差分ベクトルの中点と、前記基準点から該差分ベクトルに引いた垂線の足となる点との距離のN乗、
3)前記差分ベクトルの垂直二等分線または垂直二等分面と前記基準点との距離のN乗、
4)複数の前記差分ベクトルの垂直二等分線または垂直二等分平面によって定まる点と前記基準点との距離のN乗、
のいずれかを用いて算出する
ことを特徴とする物理量計測方法。 - 前記基準点推定工程は、
前記算出された差分ベクトル群の各差分ベクトルが、前記基準点の推定に適しているか否かを判定し、該判定結果に基づいて所定の差分ベクトル群のみを前記基準点の推定のために出力する差分ベクトル信頼性算出工程
をさらに具えたことを特徴とする請求項14に記載の物理量計測方法。 - 前記基準点推定工程は、
前記推定された基準点の信頼度を前記差分ベクトル群を用いて判定し、該判定結果に基づいて所定の基準点のみをオフセットとして出力する信頼性算出工程
をさらに具えたことを特徴とする請求項14または15に記載の物理量計測方法。 - 前記Nは2であることを特徴とする請求項14ないし16のいずれかに記載の物理量計測方法。
- 前記基準点推定工程は、
前記差分ベクトルを構成する2つのベクトル物理量データが取得された時間差が所定値以下である差分ベクトルを用いて、前記基準点を推定することを特徴とする請求項14ないし17のいずれかに記載の物理量計測方法。 - 前記基準点推定工程は、
前記差分ベクトルの大きさを算出し、
前記差分ベクトルの大きさが所定値以上となる差分ベクトルを用いて、前記基準点を推定することを特徴とする請求項14ないし18のいずれかに記載の物理量計測方法。 - 前記基準点推定工程は、
前記データ取得工程で新たに取得されたベクトル物理量データを含む2つのベクトル物理量データから計算される差分ベクトルと、前記データ取得工程で前記新たに取得されたベクトル物理量データより前に取得された2つのベクトル物理量データから計算される差分ベクトルの成す角を計算し、
前記成す角が所定値以上となる場合、前記新たに取得されたベクトル物理量データから計算される差分ベクトルを用いて基準点を推定することを特徴とする請求項14ないし19のいずれかに記載の物理量計測方法。 - 前記基準点推定工程は、
前記基準点の座標を推定するために用いた差分ベクトル群の各々について、
該差分ベクトルの中点と前記基準点推定工程によって推定された基準点を結ぶベクトルとの成す角を算出し、
該成す角と90度との差の最大値が、所定値以下である場合前記基準点をオフセットとして出力することを特徴とする請求項14ないし20のいずれかに記載の物理量計測方法。 - 前記基準点の座標を推定するために用いた差分ベクトル群の各々について、
推定された基準点から該差分ベクトルに下ろした垂線の足と、該差分ベクトルの中点との距離を算出し、
該算出された距離の最大値が、所定値以下である場合前記基準点をオフセットとして出力することを特徴とする請求項14ないし21のいずれかに記載の物理量計測方法。 - 前記ベクトル物理量検出工程は、2成分のベクトル物理量検出工程であり、
前記基準点推定工程は、
前記基準点の座標を推定するために用いた差分ベクトル群の各々について、
該差分ベクトルの垂直二等分線と前記推定された基準点の距離を算出し、
該算出された距離の最大値が、所定値以下である場合前記基準点をオフセットとして出力することを特徴とする請求項14ないし22のいずれかに記載の物理量計測方法。 - 前記ベクトル物理量検出工程は、3成分のベクトル物理量検出工程であり、
前記基準点推定工程は、
前記基準点の座標を推定するために用いた差分ベクトル群の各々について、
該差分ベクトルの垂直二等分平面と前記推定された基準点の距離を算出し、
該算出された距離の最大値が、所定値以下である場合前記基準点をオフセットとして出力することを特徴とする請求項14ないし22のいずれかに記載の物理量計測方法。 - 前記ベクトル物理量検出工程は、磁気センサにより前記物理量としての磁気を検出することを特徴とする請求項14ないし24のいずれかに記載の物理量計測方法。
- 前記ベクトル物理量検出工程は、加速度センサにより前記物理量として加速度を検出することを特徴とする請求項14ないし24のいずれかに記載の物理量計測方法。
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