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JP4783512B2 - 反芻動物のメタン生成を抑制する飼料組成物 - Google Patents

反芻動物のメタン生成を抑制する飼料組成物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は反芻動物のメタン生成を抑制する飼料組成物に関し、詳しくは有効成分としてユーカリ油、ペパーミント油、ワサビ油、シネオール、ヨウ素及びこれらのサイクロデキストリン包接化合物の中から選ばれた少なくとも1種の物質を含有することを特徴とする反芻動物用メタン生成抑制剤並びに当該メタン生成抑制剤が添加されていることを特徴とする反芻動物用飼料組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球温暖化が大きな問題となっているが、その原因物質の一つとしてメタンが挙げられ、メタン量の約15%が牛、羊などの反芻動物のルーメンから生成されている。
反芻動物からのメタン生成の抑制に関する研究は古くからなされており、特にイオノフォア (Goodrich, R. D., J. Animal Sci., 1484-1498, 58, 1984) や、ハロゲン化合物 (Chalupa, W., MPT Press, England, 325-347, 1980) 、脂肪酸 (Blaxter, K.L. et al., J. Sci. Fd. Agric., 17, 417-421, 1966) などのメタン生成抑制能力が非常に高いことが知られている。
しかしながら、イオノフォアは吸収されて宿主動物に影響を与えるばかりでなく、乳肉中に残存する可能性があること、また、ハロゲン化合物や脂肪酸は常温での扱いが困難であることなどの欠点があり、未だ有効な抑制方法は確立されていない。
【0003】
ところで、ユーカリ(Eucalyptus)はオーストラリアなどに分布するフトモモ科の常緑樹で、この葉部より水蒸気蒸留によって得られるユーカリ油は主成分としてシネオールを含有し、消炎、抗菌作用があることが知られている。また、ペパーミント油、ワサビ油、ヨウ素も抗菌作用があることが知られている。
しかしながら、このような抗菌性物質が反芻動物のメタン生成を抑制する目的で使用された例は報告されていない。また、ユーカリ油、ペパーミント油、ワサビ油は揮発性であるため常温での取扱いが困難であり、さらに難水溶性であるため水溶液中での使用が制限されるという欠点がある。
【0004】
一方、サイクロデキストリン(以下、CDと略記することがある。)は、グルコースがα−1,4結合で連なった環状デキストリンであり、グルコースが6、7または8個より成る、それぞれα−、β−、およびγ−CDが良く知られている。最近、これらのCDの溶解度または物性を改善する目的でグルコシル基、マルトシル基、ガラクトシル基、マンノシル基、メチル基、アセチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基、モノクロロトリアジニル基などを結合した修飾CDが合成されている。
これらCDおよび修飾CDには分子内部に空洞があり、しかもこの空洞内部が疎水性になっているため、包接作用があり、各種油性物質を取り込む性質を有している。そのため、この性質を利用して(1)不安定物質の安定化、(2)揮発性物質の保持、(3)異臭のマスキング、(4)難・不溶性物質の可溶化など、種々の用途が考えられ、食品、医薬品、化粧品、工業品等の広範な分野で利用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記したように、反芻動物によるメタン生成を抑制するために有効な物質が確立されていないことに鑑みて、安全性や取扱い性等の面で問題のない反芻動物用メタン生成抑制剤と当該メタン生成抑制剤を配合してなる反芻動物用飼料組成物を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは各種抗菌性物質並びに前記したCDの包接作用に注目し、反芻動物によるメタン生成を抑制することができる飼料組成物の開発をすべく種々検討を重ねた結果、ユーカリ油、ペパーミント油、ワサビ油、シネオール、ヨウ素等の抗菌性物質が有用であること、さらに、これら物質ををCDで包接し、粉末化することによって安定な包接物粉末が得られること、さらに当該粉末は難水溶性の改善の効果も見られること、この包接物粉末を牛ルーメンより採取した微生物混合系試料に添加すると、メタン生成を抑制することを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、有効成分としてユーカリ油、ペパーミント油、ワサビ油、シネオール、ヨウ素及びこれらのサイクロデキストリン包接化合物の中から選ばれた少なくとも1種の物質を含有することを特徴とする反芻動物用メタン生成抑制剤並びに当該反芻動物用メタン生成抑制剤が添加されていることを特徴とする反芻動物用飼料組成物に関するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に使用するユーカリ油、ペパーミント油、ワサビ油は、いずれも混合油であり、ユーカリ油はシネオールを主成分とするものが、ペパーミント油はメントールを主成分とするものが、ワサビ油はアリルイソチオシアネートを主成分とするものが、それぞれ好適に用いられる。これらにシネオール、ヨウ素を加えた抗菌性物質は単独で使用してもよく、2種類以上を適宜組み合わせて用いることもできる。さらに、これらのCD包接物も同様に使用できる。CDで包接し、粉末化したものは、前記したような様々な特性を有していることから、抗菌性物質自体を用いる場合よりも良好な効果が期待できる。
【0009】
また、本発明に用いるCDは、α−CD、β−CD、γ−CDなどの未修飾CDの他に、これらをグルコシル基、マルトシル基、ガラクトシル基、マンノシル基、メチル基、アセチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基、モノクロロトリアジニル基などで修飾して得られる修飾CDのいずれでもよく、これらの混合物であってもよい。
【0010】
本発明に用いることができる上記抗菌性物質のCD包接化合物の製造方法について例示すると、0.5〜100%(w/v)、好ましくは1〜50%のCD水溶液に、当該CDに対して0.01〜10倍量、好ましくは0.05〜5倍量のゲストを加え、ホモジナイザーなどの撹拌機で混合した溶液を、一般に用いられる凍結乾燥機または噴霧乾燥機により粉末化することによって得ることができる。
【0011】
本発明に係る反芻動物用メタン生成抑制剤は様々な形態で用いることが可能であり、例えば粉末、顆粒、錠剤等の各種の形態が挙げられ、必要に応じて賦形剤、増量剤等を適宜添加することもできる。
メタン生成抑制剤における有効成分の配合量については、使用目的などを考慮して決定すればよいが、通常は0.1〜80重量%、好ましくは1〜20重量%である。
【0012】
次に、本発明に係る反芻動物用飼料組成物は、上記のメタン生成抑制剤が添加されている飼料組成物であり、当該飼料組成物におけるメタン生成抑制剤の配合割合は、通常0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である。
なお、反芻動物用飼料組成物については特に制限がなく、市販品をそのまま使用してもよく、あるいは必要に応じて市販品に対して適宜サイレージ、乾草などを加えてもよい。牛用の飼料組成物について例示すると、トウモロコシサイレージ 40%、スーダングラス乾草またはアルファルファヘイキューブ 14%、市販配合飼料 46%からなるものがある。市販配合飼料の1例として、粗タンパク質 16%以上、可消化性養分総量 71%以上の飼料(商品名:乳牛フレーク16、日清飼料(株)製)を挙げることができる。
一方、羊用の飼料組成物について例示すると、チモシー乾草 55%、アルファルファヘイキューブ 24%、市販配合飼料 20%からなるものがある。市販配合飼料の1例として、粗タンパク質 11%、可消化性養分総量 74%の飼料(商品名:肉用牛肥育用、全酪連製)を挙げることができる。
本発明において、メタン生成抑制剤を配合した飼料組成物は、反芻動物に自由摂取させればよい。また、長期間にわたって摂取させることができる。
【0013】
【実施例】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
試験例1
(1)α−CDによるメタン生成抑制剤包接化合物の調製
10%α−CD水溶液2000mlにユーカリ油50mLを添加し、室温にてホモジナイザーで撹拌し、得られた沈殿を減圧乾燥またはスプレードライにより粉末化し、ユーカリ・α−CD包接化合物を得た。
(2)包接化合物の成分含有量の測定
上記(1)で製造したユーカリ・α−CD包接化合物50mgを精秤して分液ロートに入れ、水140mLに溶解した。さらに、内部標準物質としてカルボン10mgとエーテル20mLを加えて激しく振盪した後、静置した。
上層のエーテル層をガスクロマトグラフ(GC-14A、島津製作所製)により分析した。すなわち、キャピラリーカラム(TC-1 60m×0.25mm)を用い、カラム温度100℃、検出器温度300℃に設定した。キャリアガスとしてヘリウムガスを用い、水素炎イオン化検出器により成分を測定した。
各成分のピーク面積は、クロマトパック(島津製作所製)によって自動計測した。別に作成した検量線から、各成分含有量を算出した。
その結果、ユーカリ・α−CD包接化合物の収量は170g、収率68%、ユーカリ含有量は約7%であった。
【0014】
実施例1
(1)試料の採取
粗飼料と濃厚飼料を給与された乳牛のルーメン内に経口的にカテーテルを挿入し、ルーメン内容液約1Lをろ過ビンに吸引採取した。
採取後、直ちにルーメン内容液を撹拌して二重ガーゼでろ過し、そのろ液を微生物混合系試料とした。
(2)培養方法
上記(1)で得た微生物混合系試料を2倍量の塩類溶液(g/L:KH2PO43;Na2HPO4・12H2O 18;NaCl 1;NaHCO3 1;MgSO4・7H2O 0.2;CaCl2・2H2O 0.2)で希釈後、60mLを培養管に入れた。
さらに、培養前に還元剤としてシステイン塩酸塩0.6g/Lおよびユーカリ・α−CD包接化合物と炭水化物(グルコース、セロビオース、各0.12g/vial)を加えて、38℃で6時間嫌気的条件下に振盪培養した。ユーカリ・α−CD包接化合物は、ユーカリ油として5〜40mg添加した。
【0015】
(3)メタン生成量の測定
熱伝導度検出器ガスクロマトグラフ(GAS CHROMATOGRAPH GC-8A 、島津製作所製)に注入し、メタン測定用カラム(Molecular Sieve 5A 60-80 mesh 、1.6m×3.2mm)を用い、カラム温度60℃、検出器温度80℃に設定し、キャリアガスとしてアルゴンを用いた。メタンのピーク面積は前述のクロマトパックにより自動計算した。別に作成した検量線から、各成分含有量を算出した。
(4)揮発性脂肪酸(VFA)濃度の測定
培養液の上澄み2mLを試験管に採り、除タンパク剤として12%メタリン酸含有3N−H2SO4溶液を0.4mL添加し、ゴム栓で蓋をして冷蔵庫に保存した。
一晩放置後、温度4℃、回転数5000rpmに設定した冷却遠心機(Model M-160-・ SAKUMA )に10分間かけて遠沈し、上澄み液を分析用試料とした。上澄み液1μLを水素炎イオン化検出器ガスクロマトグラフ(GAS CHROMATOGRAPH GC-8A 、島津製作所製)に注入し、VFA測定用カラム(FAL-M SHINCARBON A 80-100 mesh、2.1m×3.2mm)を用い、カラム温度130℃、検出器温度200℃に設定し、キャリアガスとしてヘリウムを用いた。各ガスのピーク面積は前述のクロマトパックにより自動計算した。別に作成した検量線から、各成分含有量を算出した。
【0016】
(5)プロトゾア数の測定
固定染色し保存したサンプルのプロトゾア数の計測には、フックスローゼンタール計算板を用いた。光学顕微鏡(Nikon Type 104)を用い、10×10倍で目視により計測し、ルーメン液1mL中の数に換算した。この方法は「家畜共済における臨床病理検査要項」(農林水産省経済局編集、全国農業共済協会、1997年発行)に従った。
(6)得られた結果を図1、2、3、4に示す。すなわち、図1は6時間培養後のメタン生成量を示し、図2はプロトゾア数を示し、図3は酢酸生成量を示し、図4はプロピオン酸生成量を示している。なお、これらはメタン生成抑制剤無添加の場合を100としたときの相対値である。
図1〜4に示した結果から明らかなように、微生物混合系試料にユーカリ・α−CD包接化合物をユーカリ油として5〜40mg添加したところ、添加量が増すに従いメタン生成およびプロトゾア数は減少した。また、酢酸およびプロピオン酸は増加した。
この結果から、ユーカリ・α−CD包接化合物は、プロトゾア活性を抑制することによりメタン生成量を減少させること、また、飼料効率を向上させることが示された。
【0017】
実施例2
ペパーミント・α−CD包接化合物をペパーミント油として5〜15mg添加したこと以外は実施例1と同様に行った。得られた結果を図5、6に示す。すなわち、図5は6時間培養後のメタン生成量を示し、図6はプロトゾア数を示している。なお、これらはメタン生成抑制剤無添加の場合を100としたときの相対値である。
これらの結果から明らかなように、添加量が増すに従いメタン生成およびプロトゾア数は減少した。よって、ペパーミント・α−CD包接化合物は、プロトゾア活性を抑制することによりメタン生成量を減少させること、また、飼料効率を向上させることが示された。
【0018】
実施例3
ペパーミント・β−CD包接化合物をペパーミント油として5〜15mg添加したこと以外は実施例1と同様に行った。得られた結果を図7、8に示す。すなわち、図7は6時間培養後のメタン生成量を示し、図8はプロトゾア数を示している。なお、これらはメタン生成抑制剤無添加の場合を100としたときの相対値である。
これらの結果から明らかなように、添加量が増すに従いメタン生成およびプロトゾア数は減少した。よって、ペパーミント・β−CD包接化合物も、プロトゾア活性を抑制することによりメタン生成量を減少させること、また、飼料効率を向上させることが示された。
【0019】
実施例4
ワサビ・CD包接化合物をワサビ油として1〜10mg添加したこと以外は実施例1と同様に行った。なお、この例ではCDとして、「K50」(CD50%とデキストリン50%からなるCD混合品であり、CDとしてα−CDを30%以上含有)を使用した。得られた結果を図9、10に示す。すなわち、図9は6時間培養後のメタン生成量を示し、図10はプロトゾア数を示す。
これらの結果から明らかなように、ワサビ・CD包接化合物の添加量が増すに従いメタン生成およびプロトゾア数は減少した。それ故、ワサビ・CD包接化合物も、プロトゾア活性を抑制することによりメタン生成量を減少させること並びに飼料効率を向上させることが示された。
【0020】
実施例5
シネオール・α−CD包接化合物をシネオールとして5〜40mg添加したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を図11、12に示す。なお、図11は6時間培養後のメタン生成量を示し、図12はプロトゾア数を示す。
これらの結果から明らかなように、添加量が増えるに従いメタン生成およびプロトゾア数は減少した。したがって、シネオール・α−CD包接化合物も、プロトゾア活性を抑制することによりメタン生成量を減少させること並びに飼料効率を向上させることが示された。
【0021】
実施例6
ヨウ素・β−CD包接化合物をヨウ素として1〜5mg添加したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を図13、14に示す。なお、図13は6時間培養後のメタン生成量を示し、図14はプロトゾア数を示す。
これらの結果から明らかなように、添加量が増えるに従いメタン生成およびプロトゾア数は減少した。よって、ヨウ素・β−CD包接化合物は、プロトゾア活性を抑制することによりメタン生成量を減少させること並びに飼料効率を向上させることが示された。
【0022】
【発明の効果】
本発明の反芻動物用メタン生成抑制剤は、その有効成分が天然物もしくはその抽出物であるため、従来知られているイオノフォアなどよりも安全性に優れている。しかも、これらの物質をCDで包接することにより長期保存ができるばかりでなく、有効成分が可溶化される、異臭がマスキングされるなどの利点が得られる。
【0023】
そのため、このメタン生成抑制剤を配合した反芻動物用飼料組成物を反芻動物に摂取させることにより、効果的に当該反芻動物のルーメンにおけるメタン生成を抑制し、且つ飼料効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1におけるメタン生成抑制剤の添加量とメタン生成量の関係を示したグラフである。
【図2】 実施例1におけるメタン生成抑制剤の添加量とプロトゾア数の関係を示したグラフである。
【図3】 実施例1におけるメタン生成抑制剤の添加量と酢酸生成量の関係を示したグラフである。
【図4】 実施例1におけるメタン生成抑制剤の添加量とプロピオン酸生成量の関係を示したグラフである。
【図5】 実施例2におけるメタン生成抑制剤の添加量とメタン生成量の関係を示したグラフである。
【図6】 実施例2におけるメタン生成抑制剤の添加量とプロトゾア数の関係を示したグラフである。
【図7】 実施例3におけるメタン生成抑制剤の添加量とメタン生成量の関係を示したグラフである。
【図8】 実施例3におけるメタン生成抑制剤の添加量とプロトゾア数の関係を示したグラフである。
【図9】 実施例4におけるメタン生成抑制剤の添加量とメタン生成量の関係を示したグラフである。
【図10】 実施例4におけるメタン生成抑制剤の添加量とプロトゾア数の関係を示したグラフである。
【図11】 実施例5におけるメタン生成抑制剤の添加量とメタン生成量の関係を示したグラフである。
【図12】 実施例5におけるメタン生成抑制剤の添加量とプロトゾア数の関係を示したグラフである。
【図13】 実施例6におけるメタン生成抑制剤の添加量とメタン生成量の関係を示したグラフである。
【図14】 実施例6におけるメタン生成抑制剤の添加量とプロトゾア数の関係を示したグラフである。

Claims (2)

  1. 有効成分としてペパーミント油のサイクロデキストリン包接化合物、ワサビ油のサイクロデキストリン包接化合物、及び、ヨウ素のサイクロデキストリン包接化合物、の中から選ばれた少なくとも1種の物質を含有することを特徴とする反芻動物用メタン生成抑制剤。
  2. 請求項1記載の反芻動物用メタン生成抑制剤が添加されていることを特徴とする反芻動物用飼料組成物。
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