上述した特許文献1に係る無線呼出送信機では、データ伝送速度のみを考慮して送信電力の制御を行うので、データ伝送速度が高速であるため無線呼出送信機が自動的に送信電力を高めた場合に、ユーザが多量のデータを送信しようとすると、長時間、消費電力が高まった状態が続くことになるので、送信データ量が多量のときは過度に電力を消費する問題が生じる。また、特許文献2に係る無線LAN装置でも、送信データ量を考慮せずに、送信電力の制御を行うので、同様の問題が発生する可能性がある。
さらに、特許文献3に係るカード型無線LANは、単に電源残量の低下度合を考慮して送信電力の調整を行うに留まるので、無線通信を行おうとする際の通信速度および送信対象のデータ量に応じた送信電力の制御を行えない。なお、このような問題は、無線通信装置の各種通信規格(無線通信規格。例えば、IEEE802.11系の無線LAN、Wireless USB、UWB(Ultra Wide Band)、Wireless1394等)に関係なく一様に発生する問題である。
本発明は、斯かる問題に鑑みてなされたものであり、データの通信速度および送信対象となるデータのデータ量に基づき送信電力を制御することで、通信速度が高く且つデータ量が小さければ早くデータを送信できるようにすると共に、データ量が大きければ過度の電力消費を抑制できるようにした無線通信装置に関する。
上記課題を解決するために、本発明に係る無線通信装置は、無線通信に係る受信データの通信速度に基づき送信電力の制御を行う無線通信装置において、受信データの通信速度を基準速度と比較する速度比較手段と、前記速度比較手段による比較の結果、受信データの通信速度が基準速度を上回る場合、前記通信速度に基づき送信対象データの送信完了に要する予測送信時間を算出する時間算出手段と、前記時間算出手段が算出した予測送信時間を基準送信時間と比較する時間比較手段と、前記時間比較手段による比較の結果、予測送信時間が基準送信時間を下回る場合、基準送信電力より高めた送信電力で送信対象データの送信を行う手段とを備えることを特徴とする。
本発明にあっては、受信データの通信速度が基準速度を上回れば、データ送信に要する予測送信時間を算出し、算出した予測送信時間が基準送信時間を下回る場合、基準送信電力より高めた送信電力で送信を行うので、送信対象のデータのデータ量が基準送信時間を下回る程度の小ささであれば、過度に電力を消費するおそれが少ないので、スムーズにデータを送信することを優先した送信制御が行われる。
また、本発明に係る無線通信装置は、前記速度比較手段による比較の結果、受信データの通信速度が基準速度を下回る場合、送信電力を基準送信電力より低下させる手段を備えることを特徴とする。
本発明にあっては、受信データの通信速度が基準速度を下回る場合、送信電力を基準送信電力より低下させるので、電力消費の低減を優先した送信電力の制御が行われる。即ち、通信速度が基準速度を下回るような状況では、データを確実に送信できる可能性が低いので、送信に要する電力を最低限に抑えた制御を行うようにして、無駄に電力が消費されることを防止する。
さらに、本発明に係る無線通信装置は、前記時間比較手段による比較の結果、予測送信時間が基準送信時間を上回る場合、基準送信電力より高めた送信電力で送信対象データの送信を行うか否かの指示を受け付け可能な表示画面の出力処理を行う手段と、前記表示画面に対して、基準送信電力より高めた送信電力で送信を行う指示を受け付けた場合、基準送信電力より高めた送信電力で送信対象データの送信を行う手段とを備えることを特徴とする。
本発明にあっては、予測送信時間が基準送信時間を上回るほどのデータ量のデータを送信する際、高い送信電力でデータ送信を行うか否か否かの指示を受け付け可能な表示画面の出力処理を行い、データ送信を行う指示を受け付けると、基準送信電力より高めた送信電力でデータ送信を行うので、ユーザの意向を確認する場面が確保されると共に、ユーザの意向を反映してデータ量の大きいデータ送信を高い送信電力で行うことが可能となる。即ち、予想送信時間が基準送信時間を上回るほどの大きいデータ量を送信すれば、送信に要する消費電力を増加するが、消費電力の抑制よりもデータの送信が最優先な状況もあるため、ユーザの使い勝手を考慮した送信電力の制御が可能となる。
さらにまた、本発明に係る無線通信装置は、前記表示画面に対して、基準送信電力より高めた送信電力で送信を行わない指示を受け付けた場合、送信電力を基準送信電力より低下させて送信対象データの送信を行う手段を備えることを特徴とする。
本発明にあっては、ユーザの意向を確認する表示画面に対して、高い送信電力でデータ送信を行わない旨の指示を受け付けると、基準送信電力より低下させた送信電力でデータの送信を行うので、消費電力の抑制を優先することを望むユーザの使い勝手にも配慮した送信電力の制御を行える。
また、本発明に係る無線通信装置は、基準送信電力より高めた送信電力による送信対象データの送信中、送信に係る通信速度を基準速度と比較する手段と、比較の結果、送信に係る通信速度が基準速度を下回る場合、送信電力を低下させる手段とを備えることを特徴とする。
本発明にあっては、一旦、高めた送信電力でデータ送信を行っても、通信速度が下がると、送信電力を低下させるので、送信開始後に通信状況が悪化した場合でも、無駄に電力を消費することを防止できる。即ち、無線通信では、無線通信中の装置間に物理的な障害物が突然介在したり、無線通信装置を携帯するユーザの移動により建物の背後に入るなどの要因により通信を開始してからも無線通信環境が変化することが多い。そのため、送信電力を高めた状態でデータ送信を行ってから、通信速度が低下するように無線通信環境が変化した場合、データを確実に送信しにくい状況で消費電力を高めて送信処理を行うことになるので、このような場合、本発明では送信電力を自動的に低下させて電力消費の抑制を優先した制御を行う。
さらに、本発明に係る無線通信装置は、電源装着部と、基準送信電力より高めた送信電力による送信対象データの送信中、送信に係る通信速度を基準速度と比較する手段と、比較の結果、送信に係る通信速度が基準速度を下回る場合、前記電源装着部に装着された電源の残電量を基準残電量と比較する手段と、比較の結果、残電量が基準残電量を下回る場合、送信電力を低下させる手段とを備えることを特徴とする。
本発明にあっては、高めた送信電力でデータ送信を行っても、通信速度が基準速度を下回れば、電源装着部に装着した電源の残電量を基準残電量と比較し、残電量が基準残電量を下回る場合に送信電力を基準送信電力より低下させる。そのため、送信電力を上昇させてデータ送信を行ってから通信速度が悪化した場合に、電源の残電量が基準残電量を下回るほど電力に余裕がないときは、送信電力を低下させて少ない残電量の消費抑制を優先するので、携帯型の無線通信装置の使用時間確保に適した送信電力の制御を行える。
本発明にあっては、受信データの通信速度が高く、且つデータ送信に要する予測送信時間が基準送信時間を下回れば、基準送信電力より高めた送信電力でデータ送信を行うので、過度の電力を送信で消費しないことを確認した上で、高速でデータを確実に送信することができる。
また、本発明にあっては、受信データの通信速度が基準速度を下回る場合、送信電力を基準送信電力より低下させるので、送信対象となるデータのデータ量に関係なく、電力消費の低減を優先した送信電力の制御を実現できる。
さらに、本発明にあっては、データ量の大きいデータを送信する際、高い送信電力でデータ送信を行うか否かの指示を受け付け可能な表示出力を行い、データ送信を行う指示を受け付けた場合、基準送信電力より高めた送信電力でデータ送信を行うので、ユーザの使い勝手に合わせてデータ送信を優先した送信電力の制御を行える。
さらにまた、本発明にあっては、上昇させた送信電力でデータ送信を行うか否かの表示出力に対して、上昇させた送信電力でデータ送信を行わない旨の指示操作を受け付けた場合、低下させた送信電力でデータの送信を行うので、ユーザの使い勝手に合わせて消費電力の抑制を優先した送信電力の制御を実現できる。
また、本発明にあっては、高めた送信電力でデータ送信を行ってから、通信速度が下がると、それに伴い送信電力を低下させるので、通信状況が悪化した場合には自動的に送信電力の抑制を優先した制御に切り替えることができる。
さらに、本発明にあっては、上昇させた送信電力でデータ送信を行ってから、通信速度が低下すれば、電源装着部に装着した電源の残電量を基準残電量と比較して、残電量が少ないと、送信電力を低下させるので、少ない残電量を維持するような送信電力の制御を実現できる。
図1は、本発明の第1実施形態に係る携帯型音楽再生装置10(無線通信装置に相当)の主要な内部構成を示している。携帯型音楽再生装置10は、本来の音楽再生機能に加えて無線LAN通信機能を備えたことが特徴であり、音楽再生機能に対応するメインモジュール11に、無線LAN通信機能に対応した無線LANモジュール20を接続し、バッテリ装着部38に装着されたバッテリB(電源に相当)で各モジュール11、20への給電を行う構成になっている。
携帯型音楽再生装置10は、無線LAN通信機能により様々な音楽データを取得(ダウンロード)でき、取得した音楽データをメインモジュール11で再生出力可能にすると共に、各種データ(取得した音楽データなど)を無線LAN通信を介して他の通信装置へ送信することにも対応している。また、携帯型音楽再生装置10が備える無線LANモジュール20は、無線通信速度および送信対象のデータ量など応じて送信電力を適宜変更可能に制御し、データを迅速に送受信することを確保した上で、消費電力が過度に増大することを抑制できるようにしたことを特徴とする。以下、携帯型音楽再生装置10のメインモジュール11および無線LANモジュール20等について説明する。
メインモジュール11は、RAM12、ROM13、記憶部14、音声出力処理部15、メイン制御部(プロセッサ)17、表示パネル18、操作部19を内部バス11a、11b等で接続した構成にしている。RAM12は、メイン制御部17の処理に伴うデータ及びファイル等を一時的に記憶する。ROM13は音楽再生用の制御処理等を規定した再生プログラム13a、選曲および無線LAN通信等の各種操作を行う際に表示パネル18に表示させる各種画面データを含む画面データベース13b等を予め記憶している。
図3(a)のファイル選択画面45は、画面データベース13bに含まれる複数の画面データの中の一つに対応した表示画面の一例を示しており、送信対象のデータを選択する場面で表示パネル18に表示されるものである。このファイル選択画面45は、メインモジュール11の記憶部14で記憶されている各データを示すファイル名を選択可能に配置したデータファイル一覧45a、送信ボタン45bおよびキャンセルボタン45cを有する。ファイル選択画面45におけるデータファイル一覧45で、いずれか一つのファイル名が選択された状態で、送信ボタン45bが選択される操作が行われると、そのファイル名に係るデータが送信対象として選択されたことになる。なお、キャンセルボタン45cが選択されると、ファイル選択画面45での処理がキャンセルされて、ファイル選択以前の操作段階へ戻るようになっている。
図3(b)の送信確認画面46も、画面データベース13bに含まれる複数の画面データの中の一つに対応した表示画面の一例を示し、送信電力を最大にした状態で、データの送信に150秒以上かかる際に表示パネル18に表示されるものである。送信確認画面46は、最大の送信電力で送信対象のデータの送信を行うか否かをユーザに確認する文言を記載すると共に、ユーザからの指示を受け付けるYESボタン46aおよびNOボタン46bを有する。YESボタン46aが選択される操作が行われると、後述するように、最大の送信電力で送信する処理が行われる一方、NOボタン46bが選択される操作が行われると、送信電力を低下させて送信する処理が行われる。なお、画面データベース13bには、上述した以外にも各種表示画面に応じたデータが含まれており、例えば、通信先(アクセス先、データの送信先など)を設定入力する表示画面のデータ等も含んでいる。
また、図1に戻り、メインモジュール11の記憶部14は、無線LAN通信を介して取得(受信)した音楽データなどの各種データを記憶するものである。音声出力処理部15は、記憶部14に記憶した音楽データの再生増幅等を行ってスピーカ16から音楽データに応じた音声を出力する処理を行う。
メイン制御部17に接続された表示パネル18は、メイン制御部17の制御により、各種画面データに基づく表示画面(図3(a)(b)参照)を表示する。また、メイン制御部17に接続された操作部19は、上下左右キー及び決定キー等の複数のキーで構成されており、表示画面中のボタン等の選択項目に対するユーザからの選択指示操作を受け付けて、受け付けた指示操作の内容をメイン制御部17へ伝える。メイン制御部17は、ROM13に記憶された再生プログラム13aの規定に従って音楽データ(例えば、MP3ファイルの音楽データ)の再生処理に係る制御を行うと共に、各種設定など処理等を行い、設定に関しては無線LANモジュール20との連係処理により、無線LAN通信の設定、入力等に関する処理も行う。
一方、無線LANモジュール20は、米国電気電子技術者協会が規格を定める無線LAN通信(IEEE802.11、IEEE802.11a、IEEE802.11b、IEEE802.11g、IEEE802.11k等)を行うものであり、チップ化された無線LAN用のRF(高周波)回路部21、及びMAC(Media Access Control)処理部25を有する。
RF回路部21はOSI参照モデルにおける物理層に相当し、各種信号を送受する無線LAN用のアンテナ24が接続されており、無線通信のアクセス制御における周波数変換、I/Q変換、及び内蔵するパワーアンプ部における受信信号の増幅などの各種処理を行う。これらの処理に係る作動は、MAC処理部25に含まれるCPU27で制御されており、特に、本実施形態では、RF回路部21が送信信号の送信処理を行う場合、CPU27により送信電力が制御されるようになっている。即ち、RF回路部21は、CPU27の制御指示に基づき送信時の送信電力を変化させる制御を行う電力制御部21aを有しており、電力制御部21aは、CPU27で指示された送信電力の値で送信処理を行う。また、RF回路部21は、送信中であってもCPU27から指示された値が変更されると、その変更された値に送信電力を変更して送信処理を行う。なお、電力制御部21aは、デフォルト状態の送信電力を11dBmにしており、デフォルト状態の値からCPU27の指示により送信電力を変更する。
また、RF回路部21は、無線通信の搬送波(キャリア)の電力強度に係る値を検知する強度検知回路21b、およびキャリアのC/N比(搬送波電力/雑音電力)を検知するC/N検知回路21cを具備している。なお、強度検知回路21bは約−80dBmから−10dBmの範囲でキャリアの電力強度を検知する。
次に、MAC処理部25について説明する。MAC処理部25は、メモリ26、CPU27、メインモジュール11との接続を行う接続インタフェース28、RF回路部21との接続を行うRF用接続インタフェース29等を内部バス25aで接続した構成になっており、無線LAN通信においてデジタル変換/復調、及びアクセスコントロール等の処理を行う。
図2は、本実施形態においてCPU27が、OSI参照モデルにおけるMAC層30として機能する内容を概念的に表したものであり、このような機能はメモリ26に記憶されているプログラムPの規定内容により実現されている。CPU27のMAC層30は、IEEE(米国電気電子技術者協会)の無線LAN規格(IEEE802.11系の規格)に基づくアクセス手法(例えばCSMA/CA)に応じた制御処理を行い、MAC層30の中には、上位層にUpperMAC31および下位層に相当するLowerMAC32が含まれる。さらに、UpperMAC31には、CTS回数検知ブロック31a、及びAP数検知ブロック31bが含まれる。
CTS回数検知ブロック31aは、アンテナ24およびRF回路部21を通じて受信する他の無線装置からのCTSの受信回数を検知する。CTSとは複数の無線装置による無線通信の混乱を防ぐために送信される信号を意味し、無線LAN規格では、アクセスポイント等から発せられるRTS(Request to Send送信要求信号)の受信に供なって無線通信を開始しようとする無線装置がCTS(受信準備完了信号)を送信し、そのCTSを他の無線装置が受信すると、他の無線装置は次の通信可能時期まで通信を控える規定になっている。そのため、所定の時間内にCTSを受信する回数が多い場合は、その場所における無線通信の状況は混雑度が高いことになり、また、所定の時間内にCTSを受信する回数が少ない場合は、その場所における無線通信の状況は混雑度が低いことになる。
UpperMAC31内のAP数検知ブロック31bは、無線通信が可能なアクセスポイントの数を検知する。具体的に、アンテナ24およびRF回路部21で受信するアクセスポイント(AP)から一定の間隔(例えば、500msec)で発せられたビーコン信号に含まれる識別情報(例えば、SSID(Service Set Identifier))に基づいて、その場所において接続可能なアクセスポイントを識別して、アクセスポイントの数を判別する処理を行う。
本実施形態のCPU27は、無線LAN通信機能に応じた上述した処理以外に、メモリ26に記憶されているプログラムPに基づき送信電力の制御処理を行う。即ちCPU27は、後述する制御処理(図5の第1フローチャートおよび図6の第2フローチャート)に従って送信電力の値を特定し、その値で送信を行う指示をRF回路部21の電力制御部21aへ送る。これにより、携帯型音楽再生装置10(無線LANモジュール20)は、通信速度(ビットレート)および送信対象となるデータのデータ量に応じて変化させた送信電力で送信を行うことになる。なお、CPU27の送信電力に係る制御処理の詳細については、後述する。
また、図1に示すメモリ26は、プログラムP、送信電力の制御処理で用いる各種基準値(基準速度33、基準送信時間34、基準残電量35、基準範囲36)および各種通信速度の状況に対応付けた送信電力の値を規定した電力テーブル40等を記憶する。
メモリ26に記憶される各種基準値の中の基準速度33は、受信データの通信速度との比較に用いられる閾値である。受信データの通信速度が基準速度33を上回るときは、そのときの通信速度は高い(ビットレート(bps)は高い)とCPU27に判断され、受信データの通信速度が基準速度33以下の時は、そのときの通信速度は低い(ビットレート(bps)は低い)とCPU27に判断される。なお、本実施形態では基準速度33の値として、無線LANモジュール20のRF回路部21が有する最大ビットレートの1/8の値を用いているが、他の値(例えば、最大ビットレートの1/7の値など)を用いることも可能である。
また、基準送信時間34は、送信対象となるデータの送信完了に要する予測送信時間と比較される閾値であり、本実施形態では150秒に設定されている。なお、基準送信時間34は、150秒以外にもn秒からn×3秒(nは60秒以内の値)までの数値を適用することが可能である。さらに、基準残電量35は、バッテリ装着部38に装着されたバッテリBの残電量と比較される閾値であり、本実施形態では、バッテリBの全容量の1/4に応じた値を適用している(他の値も適用可能)。さらにまた、基準範囲36は、一定時間における受信データの通信速度の変動幅(最大通信速度と最小通信速度との差)と比較される閾値であり、所定の数値(例えば、平均的な通信速度の20パーセントに応じた値)を用いている。
図4は、メモリ26に記憶されている電力テーブル40の中身を示している。電力テーブル40は、現在の通信状況のレベルに応じて送信電力の各値を対応付けた内容になっており、具体的には第1レベルに15dBm、第2レベルに12dBm、第3レベルに10dBm、第4レベルに9dBmをそれぞれ対応付けている。第1レベルは基本的に安定してビットレートが高いような良好な通信状況に該当し、第2レベルは一定時間内の通信速度の変動が基準範囲36を越えた不安定な状態で平均的なビットレートが高いような普通の通信状況に該当する。また、第3レベルは一定時間内の通信速度の変動が基準範囲36を越えた不安定な状態で平均的なビットレートが低いような悪い通信状況に該当し、第4レベルは安定してビットレートが低いような通信限界の通信状況に該当する。なお、各レベルに対応付けた送信電力の値は、あくまで一例であり、製品の特徴、仕様等に応じて様々な値を適用できる。
本実施形態の電力テーブル40における各レベルに対する送信電力の設定値の考え方は以下の通りである。先ず、無線通信状況が「良」である第1レベルは、スムーズにデータを送信できる可能性が高いため、対象となるデータを迅速に送信することを優先して、最大電力(15dBm)で送信するようにしている。また、無線通信状況が「中」である第2レベルは、平均的なビットレートは高いが、通信速度が不安定であることから、最大電力より少し落とした送信電力(12dBm)にして、データの迅速な送信と消費電力の増加抑制のバランスを取るようにしている。
さらに、無線通信状況が「悪」である第3レベルは、平均的なビットレートが低く、通信速度も不安定であることから、迅速なデータ送信が望めないので、送信に要する消費電力の抑制を重視した送信電力にして、10dBmを対応付けている。さらにまた、無線通信状況が「通信限界」である第4レベルは、無線通信が常用で絶え得る限界のビットレートに相当し、通信先が送信データを確実に受信できる可能性は非常に低いので、送信電力を下げて(9dBm)、送信に要する電力消費の抑制を最優先している。なお、電力テーブル40は、基準となる送信電力(基準送信電力)をRF回路部21の電力制御部21aのデフォルト値(11dBm)に合わせて作成されており、第1レベルおよび第2レベルに対応付けた送信電力は、いずれも基準送信電力より高い値になっており、第3レベルおよび第4レベルに対応付けた送信電力は、基準送信電力より低い値になっている。
次に、メモリ26に記憶されるプログラムPに基づいてCPU27が行う無線LAN通信によるデータ送信に係る制御処理について説明する。先ず、操作部19でユーザからデータ送信を行う旨の操作指示を受け付けると、その旨が、メインモジュール18からCPU27へ伝達され、CPU27は、先ずデータの送信先を設定入力する画面を表示する指示をメイン制御部17へ出力する。送信先の設定入力が完了すると、次にCPU27は、図3(a)に示すファイル選択画面45を表示する指示をメイン制御部17へ出力する。
ファイル選択画面45で送信するデータの選択が完了すると、CPU27は設定入力された送信先へデータを送信するために、アクセス可能なアクセスポイントと無線通信の接続を確立する処理を行い、接続確立に伴いアクセスポイントから各種データを受信すると、受信データの通信速度(bps)を一定期間(例えば3秒間)、継続的に随時検出する。さらに、CPU27は、一定期間検出した各通信速度の中で最低の通信速度と最高の通信速度の差を算出し、その算出した差を通信状況の安定度を判断する値として用いる。
図5に示す第1フローチャートは、通信速度の差を算出してからのCPU27が行う制御処理の手順を示したものであり、CPU27は、算出した通信速度の差がメモリ26に記憶する基準範囲36を下回るか否かにより、通信状況の安定度を判断する(S1)。算出した差が基準範囲36を下回らないとき(算出した差が基準範囲36以上の時)、CPU27は、ビットレートの変動を大きく通信状況が安定していないと判断し(S1:NO)、CPU27は検出した各通信速度に基づき平均通信速度を算出し(S2)、その算出した平均通信速度をメモリ26に記憶する基準速度33と比較して、平均通信速度が基準速度33を上回るか否かを判断する(S3)。
平均通信速度が基準速度33を上回る場合(S3:YES)、通信状況が不安定な状態で平均的なビットレートが高い第2レベルに相当するため、CPU27はメモリ26に記憶した電力テーブル40の第2レベルに対応付けられた送信電力の値(12dBm)を参照し、送信電力を12dBmにして送信対象のデータを送信する処理を行う(S4)。また、平均通信速度が基準速度33を上回らない場合(S3:NO)、通信状況が不安定な状態で平均的なビットレートが低い第3レベルに相当するため、CPU27は電力テーブル40の第3レベルに対応付けられた送信電力の値(10dBm)を参照し、送信電力を10dBmにして送信対象のデータを送信する処理を行う(S12)。
また、第1フローチャートの最初の段階において、算出した通信速度の差が基準範囲36を下回り、通信状態が安定しているとCPU27が判断した場合(S1:YES)、CPU27は次に、直近で検出した受信に係る通信速度を基準速度33と比較して、通信速度が基準速度33を上回るか否かを判断する(S5)。通信速度が基準速度33を上回らない場合、即ち、基準速度33以下の場合(S5:NO)、通信状況が安定した状態でビットレートが低い第4レベルに相当するため、CPU27は電力テーブル40の第4レベルに対応付けられた送信電力の値(9dBm)を参照し、送信電力をデフォルト状態(11dBm)より低下させた9dBmにして送信対象のデータを送信する処理(電力制御部21aへ送信電力を9dBmにする指示を出力する処理。以下、同様)を行う(S6)。
一方、直近の通信速度が基準速度33を上回る場合(S5:YES)、CPU27はさらに、図3(a)のファイル選択画面45で選択された送信対象となるデータのデータ量と、直近の受信に係る通信速度に基づき、送信対象となるデータを送信完了するのに要する予測送信時間を算出する(S7)。なお、予測送信時間は、送信対象のデータ量を通信速度で除算することで得られる。それからCPU27は、算出した予測送信時間をメモリ26に記憶された基準送信時間34と比較して、予測送信時間が基準送信時間34を下回るか否かを判断する(S8)。
予測送信時間が基準送信時間34を下回る場合(S8:YES)、送信対象のデータのデータ量が大きくないことから、CPU27はデフォルト状態より送信電力を高めて、第1レベルに対応付けられた最大の送信電力(15dBm)でデータ送信を行う(S9)。また、予測送信時間が基準送信時間34以上である場合(S8:NO)、CPU27は、図3(b)に示す送信確認画面46を表示パネル18に表示する出力制御処理を行い(S10)、ユーザから最大送信電力で送信対象のデータの送信を行う指示を受け付けたか否かを判断する(S11)。
送信確認画面46でYESボタン46aが操作されて、最大送信電力で送信を行う指示を受け付けた場合(S11:YES)、CPU27は、ユーザの意向を反映して、第1レベルに対応付けられた最大の送信電力(15dBm)でデータ送信を行う(S9)。また、送信確認画面46でNOボタン46bが操作されて、最大送信電力で送信を行わない指示操作を受け付けた場合(S11:NO)、CPU27は、デフォルト状態より低下させた送信電力(10dBm)で送信を行い(S12)、長時間の送信に伴う送信電力の増大抑制を優先した制御を行う。
また、図6に示す第2フローチャートは、図5の第1フローチャートにおいて最大の送信電力(15dBm)で送信対象のデータの送信を行い(S9)、そのデータ送信中において、プログラムPの規定に基づきCPU27が行う処理手順を示している。CPU27は、データ送信中、送信に係る通信速度を随時検出し、検出した通信速度を基準速度33と比較して、通信速度が基準速度33を下回るか否かを判断する(S20)。
通信速度が基準速度33を下回らない場合(S20:NO)、即ち基準速度33以上のときは、通信状況に変化がなく安定してビットレートが高いので、CPU27は送信電力を最大(15dBm)に維持して送信する制御処理を継続する(S21)。一方、通信速度が基準速度33を下回る場合(S20:YES)、送信開始時に比べて通信状況が悪化してスムーズにデータを送信しにくい状態になっているので、送信に伴う消費電力の増大抑制を優先し、CPU27は送信電力を15dBmから10dBmに低下させて送信する制御処理を行う(S22)。15dBmでのデータ送信制御(S21)の後、または10dBmでのデータ送信制御(S22)の後、CPU27はデータ送信が完了したか否かを判断する(S23)。データ送信が完了していない場合(S23:NO)、再度、最初の段階(S20)へ戻り、CPU27は基準速度33との比較を行う一方、データ送信が完了した場合(S23:YES)、CPU27は一連の送信制御処理を終了する。
このように本実施形態の携帯型音楽再生装置10は、無線LANモジュール20のCPU27が、通信速度および送信対象となるデータのデータ量などに応じて上述した制御処理を行うことにより、安定してビットレート(通信速度)が高く且つ送信するデータ量が小さければ、最大電力で送信するので、スムーズにデータを送信できる。さらに、安定してビットレートが高いが、送信対象となるデータのデータ量が多い場合、携帯型音楽再生装置10は、図3(b)の送信確認画面46に表示して最大電力で送信を行っても良いかをユーザに確認するので、最大電力で送信を行うか、または消費電力を抑えるため送信電力を低下させるかについて、ユーザの意向を反映した制御処理を行える。
また、安定してビットレートが低ければ、データを確実に送信できる可能性が低いので、携帯型音楽再生装置10は、送信電力を通信限界(9dBm)まで低下させることで、送信に要する消費電力の抑制を優先できる。
さらに、通信状況が不安定で平均的なビットレートが高い場合又は低い場合も、携帯型音楽再生装置10は、通信状況に応じて適宜、送信電力の値を変化させる制御を行うので、スムーズなデータ送信と送信に要する消費電力の抑制を通信状況に合わせてバランス良く制御できる。さらにまた、最大電力でデータ送信を行っている場合でも、図6の第2フローチャートに示すように、通信状況が悪化すれば、携帯型音楽再生装置10は送信電力を低下させるので、通信状況の変化に臨機応変に対応してデータ送信に伴う消費電力量が過度にならないように調整できる。
なお、本発明は、上述した携帯型音楽再生装置10の形態に限定されるものではなく、種々の変形例が存在する。例えば、本実施形態では、通信速度の状況に基づくレベルを図4に示すように計4つのレベルに分けているが、レベルの数は携帯型音楽再生装置10(無線LANモジュール20)の仕様、及びグレード等に応じて適宜増減可能である。
また、携帯型音楽再生装置10のバッテリ装着部38に装着されるバッテリBの残電量と、送信電力の制御を連携させることも可能である。この場合は、図1に示すバッテリ装着部38内に設けられた残電量検出部(図示せず)で検出されたバッテリBの残電量がCPU27へ伝えられ、CPU27は、伝えられた残電量とメモリ26に記憶された基準残電量35を比較して、残電量が基準残電量を下回るか否かを判断することになる。このような変形例を行う場合は、CPU27に関する変形例の処理も、メモリ26に記憶されるプログラムPで規定しておく必要があり、残電量に関する処理は、図6の第2フローチャートに示す処理と代替的に行うことになる。
図7に示す第3フローチャートは、バッテリの残電量に応じてCPU27が行う送信電力の制御に関する変形例の処理手順を示しており、この変形例の第3フローチャートは、第2フローチャートの代わりに、最大の送信電力(15dBm)で送信対象のデータの送信(図5に示す第1フローチャートのS9)の後に続く処理である。
第3フローチャートにおいて、CPU27は、データ送信中、送信に係る通信速度を随時検出し、検出した通信速度と基準速度33とを比較して、通信速度が基準速度33を下回るか否かを判断する(S30)。通信速度が基準速度33を下回らない場合(S30:NO)、第2フローチャートの場合と同様に、CPU27は送信電力を最大(15dBm)に維持して送信する制御処理を継続する(S31)。一方、通信速度が基準速度33を下回る場合(S30:YES)、CPU27は、バッテリ装着部38から伝えられたバッテリBの残電量と基準残電量35を比較して、残電量が基準残電量35を下回るか否かを判断する(S32)。
残電量が基準残電量35を下回らない場合(S32:NO)、バッテリBには送信に対して十分な電力が残っていることから、CPU27は最大の送信電力(15dBm)で送信することを継続する制御処理を行う(S31)。また、残電量が基準残電量35を下回る場合(S32:YES)、バッテリBの電力消費の抑制を優先し、CPU27は送信電力を15dBmから10dBmに低下させて送信する制御処理を行う(S33)。15dBmでのデータ送信制御(S31)の後、または10dBmでのデータ送信制御(S33)の後、CPU27はデータ送信が完了したか否かを判断し(S34)、データ送信が完了していない場合(S34:NO)、最初の段階(S20)へ戻り、データ送信が完了した場合(S34:YES)、CPU27は一連の送信制御処理を終了する。CPU27が、このようにバッテリBの残電量と連携した送信電力制御を行うことで、携帯型音楽再生装置10のバッテリBによる電力供給をできるだけ長く維持することに貢献できる。
また、本実施形態に係る携帯型音楽再生装置10の無線通信機能に係る無線LANモジュール20は、携帯型音楽再生装置10に組み込まれているが、このような装置に組み込まれる以外に、パーソナルコンピュータ、PDA、テレビジョン装置等の情報処理装置、及び携帯電話機、携帯型画像表示装置等の各種機器へ組み込まれるようにすることも可能であり、さらには、独立した無線通信装置の構成にしてもよい。例えば、各種接続規格(PCMCIA規格、CFカード規格、USB規格、IEEE1394等)に対応したカード型形状で本発明の装置を構成し、様々な情報処理装置へ接続装着できるようにしてもよい。さらにまた本実施形態の無線通信装置が対象とする無線通信は、無線LANに限定されるものではなく、Wireless USB、UWB(Ultra Wide Band)、BLUETOOTH(登録商標)等の各種無線通信に対しても適用可能である。