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JP4639718B2 - 液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板製造装置、液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板製造方法及び液体噴射ヘッド - Google Patents

液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板製造装置、液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板製造方法及び液体噴射ヘッド Download PDF

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Description

本発明は、液体噴射ヘッドの製造装置および製造方法ならびに液体噴射ヘッドに関するものである。
加圧された液体をノズル開口から液滴として吐出させる液体噴射ヘッドは、種々な液体を対象にしたものが知られているが、そのなかでも代表的なものとして、インクジェット式記録ヘッドをあげることができる。そこで、従来の技術を上記インクジェット式記録ヘッドを例にとって説明する。
インクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドと称する。)は、共通インク室から圧力発生室を経てノズル開口に至る一連の流路を、ノズル開口に対応させて複数備えている。そして、小型化の要請から各圧力発生室は、記録密度に対応した細かいピッチで形成する必要がある。このため、隣り合う圧力発生室同士を区画する隔壁部の肉厚は極めて薄くなっている。また、圧力発生室と共通インク室とを連通するインク供給口は、圧力発生室内のインク圧力をインク滴の吐出に効率よく使用するため、その流路幅が圧力発生室よりもさらに絞られている。
そして、圧力発生室は、金属製の圧力発生室形成板に金型プレス加工を行なうことにより形成されている。
また、ノズル開口が形成されるノズルプレートは、加工性等の要請から金属板により作製されている。そして、圧力発生室の容積を変化させるためのダイヤフラム部は、弾性板に形成されている。この弾性板は、金属製の支持板上に樹脂フィルムを貼り合わせた二重構造であり、圧力発生室に対応する部分の支持板を除去することで作製されている。
特開2004−98166号公報
ところで、上記の従来の記録ヘッドにおいては、そこに含まれている圧力発生室を形成するために、金属製の圧力発生室形成板に鍛造加工であるプレス加工を行なっている。このようなプレス加工においては、金型の形状が被加工部品の形状に対して適正なものでなければ、加工表面の品質に支障を来すことになる。例えば、圧力発生室形成用の溝状窪部を、金型を金属素材板に押込んで形成する場合、金型の一部に角張った箇所があると、この角張った部分が金属素材板に強く擦りつけられた状態になるので、金属素材板の表面部分が削り取られたような状態になり、溝状窪部の内面の仕上げ品質に欠陥が生じるおそれがある。
一方、上記した従来の記録ヘッドでは、隔壁部の肉厚が極めて薄いために、圧力発生室の窪み形状を正確に求めて、圧力発生室等の液体収容容積を均一に設定することが困難であった。この窪み形状は、一般に細長い形状とされている場合が多く、それだけに隔壁部の長さが長くなるので、その全長にわたって隔壁部を正確に製作することが、液体収容容積を均一に確保する等の面から重要である。とくに、適正な形状の窪み形状を得るためには、窪み形状間の隔壁部の高さを製造段階で十分に確保することが重要視される。
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、圧力発生室形成用の溝状窪部の内面を平滑に仕上げることのできる液体噴射ヘッドの製造装置および製造方法ならびに液体噴射ヘッドを提供することを目的としている。
上記目的を達成するため、本発明の液体噴射ヘッドの製造装置は、圧力発生室となる溝状窪部が列設されると共に、各溝状窪部の一端に板厚方向に貫通する連通口を形成した金属製の圧力発生室形成板と、上記連通口と対応する位置にノズル開口を穿設したノズルプレートと、上記溝状窪部の開口面を封止する金属製の封止板とを備え、圧力発生室形成板における溝状窪部側に封止板を、反対側にノズルプレートをそれぞれ接合してなる液体噴射ヘッドの製造装置であって、少なくとも所定ピッチで平行に配列された突条部および各突条部の間に形成された空隙部が設けられ、上記突条部を金属素材板に押込んで溝状窪部を形成する第1金型と、上記第1金型が押込まれる金属素材板を支持する第2金型とを含んで構成され、上記突条部には、溝状窪部の深さ方向の内壁を形成する内壁形成部と、この内壁形成部に連なって溝状窪部の底部を略V字状に窪ませて形成する傾斜面部が設けられるとともに、上記内壁形成部と傾斜面部とを接続する接続面部が設けられていることを要旨とする。
また、上記目的を達成するため、本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、圧力発生室となる溝状窪部が列設されると共に、各溝状窪部の一端に板厚方向に貫通する連通口を形成した金属製の圧力発生室形成板と、上記連通口と対応する位置にノズル開口を穿設したノズルプレートと、上記溝状窪部の開口面を封止する金属製の封止板とを備え、圧力発生室形成板における溝状窪部側に封止板を、反対側にノズルプレートをそれぞれ接合してなる液体噴射ヘッドの製造方法であって、少なくとも所定ピッチで平行に配列された突条部および各突条部の間に形成された空隙部が設けられ、上記突条部を金属素材板に押込んで溝状窪部を形成する第1金型と、上記第1金型が押込まれる金属素材板を支持する第2金型とを準備し、溝状窪部の深さ方向の内壁を形成する内壁形成部と、この内壁形成部に連なって溝状窪部の底部を略V字状に窪ませて形成する傾斜面部が設けられるとともに、上記内壁形成部と傾斜面部とを接続する接続面部が設けられている突条部を、金属素材板に押込むことを要旨とする。
さらに、上記目的を達成するため、本発明の液体噴射ヘッドは、圧力発生室となる溝状窪部が列設されると共に、各溝状窪部の一端に板厚方向に貫通する連通口を形成した金属製の圧力発生室形成板と、上記連通口と対応する位置にノズル開口を穿設したノズルプレートと、上記溝状窪部の開口面を封止する金属製の封止板とを備え、圧力発生室形成板における溝状窪部側に封止板を、反対側にノズルプレートをそれぞれ接合してなる液体噴射ヘッドであって、上記溝状窪部に、深さ方向に形成された内壁と、略V字状に窪ませて形成した底部と、上記内壁と底部とが滑らかな面状態で連続された連続面とが設けられていることを要旨とする。
すなわち、本発明の液体噴射ヘッドの製造装置によれば、上記突条部には、溝状窪部の深さ方向の内壁を形成する内壁形成部と、この内壁形成部に連なって溝状窪部の底部を略V字状に窪ませて形成する傾斜面部が設けられるとともに、上記内壁形成部と傾斜面部とを接続する接続面部が設けられている。このため、突条部が金属素材板に押込まれると、先端部に位置する上記傾斜面部によって金属材料が大量に押し分けられるが、上記接続面部においてはこの押し分けられる金属の流動量が少量化される。したがって、接続面部において金属材料が受ける圧縮力やせん断力等が低下し、金属材料が削り取られるような現象が発生しない。このような金属材料の流動現象により、溝状窪部の内面に異常な凹凸や突条部の押込み方向の擦り傷等ができることがない。さらに、接続面部によって金属材料の流動性が円滑になされるので、各突条部の間に形成された空隙部への材料移動が促進され、空隙部において形成される隔壁部を十分な高さに形成することができる。また、接続面部の設置によって溝状窪部の容積が大幅に損なわれることがないので、液体噴射ヘッドの液体噴射量に支障が生じたりすることがない。
本発明の液体噴射ヘッドの製造装置において、上記内壁形成部の延長面と傾斜面部の延長面とが交わる交差箇所と、上記接続面部の内壁形成部側端部と、接続面部の傾斜面部側端部とによって形成される三角形は、上記突条部の長手方向に対して垂直な仮想断面上において、接続面部を底辺とする略二等辺三角形の形状とされている場合には、接続面部において金属材料が受ける圧縮力やせん断力等を最小化することができる。他方、略二等辺三角形の形態が変化すると、底辺である接続面部が起立側に移動したり、あるいは寝る側に移動したりする。起立側に移動すると、傾斜面部と接続面部との交差角度が小さくなった角部が形成されて、前述のような異常内面ができてしまう。また、寝る側に移動すると、内壁形成部と接続面部との交差角度が小さくなった角部が形成されて、前述のような異常内面ができてしまう。したがって、略二等辺三角形を維持することにより、これらの交差角度が小さくなり過ぎない角部が形成できるので、上記異常内面の問題が解消される。
本発明の液体噴射ヘッドの製造装置において、上記突条部の押込み方向と接続面部とのなす狭角が、8〜40度である場合には、接続面部の傾斜状態を適正に設定することができ、異常内面の発生が確実に防止できる。
本発明の液体噴射ヘッドの製造装置において、上記突条部の押込み方向と傾斜面部とのなす狭角が、40〜50度である場合には、金属素材板に対する突条部の押込みによって良好な流動性をもって金属材料が流動する。そして、上記傾斜面部と接続面部との交差角度が異常に小さくならないので、角部による弊害が現われることがない。
本発明の液体噴射ヘッドの製造装置において、上記接続面部の傾斜面部側端部と内壁形成部との間の突条部の幅方向における寸法が、突条部の幅寸法に対して0.05〜0.15の比である場合には、上記傾斜面部の長さを適正化することができ、先端部に位置する傾斜面部によって金属材料が大量に押し分けられる際の金属移動量を、上記接続面部における金属の流動量に対して、過剰になったり過少になったりしないように制御することができる。こうすることにより、上記のような異常内面等の問題が解消される。
本発明の液体噴射ヘッドの製造装置において、上記接続面部の傾斜面部側端部と内壁形成部との間の突条部の幅方向における寸法が、上記空隙部の幅寸法に対して0.06〜0.45の比である場合には、上記傾斜面部の長さを適正化することができ、先端部に位置する傾斜面部によって金属材料が大量に押し分けられる際の金属移動量を、上記接続面部における金属の流動量に対して、過剰になったり過少になったりしないように制御することができる。こうすることにより、上記のような異常内面等の問題が解消される。
本発明の液体噴射ヘッドの製造装置において、上記接続面部が、平面である場合には、接続面部と傾斜面部や内壁形成部との境界部分が確定しやすくなり、接続面部の大きさや傾斜度合を正確に設定することができる。
本発明の液体噴射ヘッドの製造装置において、上記接続面部が、曲面である場合には、曲面と傾斜面部や内壁形成部との境界部分が滑らかに連続するので、金属材料の流動性を滑らかにすることができる。また、溝状窪部の容積の減少を最小化することができる。
また、本発明の液体噴射ヘッドの製造方法によれば、溝状窪部の深さ方向の内壁を形成する内壁形成部と、この内壁形成部に連なって溝状窪部の底部を略V字状に窪ませて形成する傾斜面部が設けられるとともに、上記内壁形成部と傾斜面部とを接続する接続面部が設けられている突条部を、金属素材板に押込むものである。このため、突条部が金属素材板に押込まれると、先端部に位置する上記傾斜面部によって金属材料が大量に押し分けられるが、上記接続面部においてはこの押し分けられる金属の流動量が少量化される。したがって、接続面部において金属材料が受ける圧縮力やせん断力等が低下し、金属材料が削り取られるような現象が発生しない。このような金属材料の流動現象により、溝状窪部の内面に異常な凹凸や突条部の押込み方向の擦り傷等ができることがない。さらに、接続面部によって金属材料の流動性が円滑になされるので、各突条部の間に形成された空隙部への材料移動が促進され、空隙部において形成される隔壁部を十分な高さに形成することができる。また、接続面部の設置によって溝状窪部の容積が大幅に損なわれることがないので、液体噴射ヘッドの液体噴射量に支障が生じたりすることがない。
さらに、本発明の液体噴射ヘッドによれば、上記溝状窪部に、深さ方向に形成された内壁と、略V字状に窪ませて形成した底部と、上記内壁と底部とが滑らかな面状態で連続された連続面とが設けられている。このため、上記連続面により各溝状窪部の間に形成される隔壁部の根元部分の剛性が向上するので、圧力発生室内の流体の圧力変動が他の圧力発生室に影響するいわゆるクロストークを回避することができる。また、圧力発生室の内面が滑らかなので、液体中に混入している気泡が内面にひっかかるようなことがなく、気泡の排出にとって好適である。
以下、本発明の液体噴射ヘッドの製造装置および製造方法ならびに液体噴射ヘッドを実施するための最良の形態を説明する。
本発明において製造の対象となっている液体噴射ヘッドは、上述のように種々な液体を対象にして機能させることができ、図示の実施例においてはその代表的な事例として、この液体噴射ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した例を示している。
図1及び図2に示すように、記録ヘッド1は、ケース2と、このケース2内に収納される振動子ユニット3と、ケース2の先端面に接合される流路ユニット4と、先端面とは反対側のケース2の取付面上に配置される接続基板5と、ケース2の取付面側に取り付けられる供給針ユニット6等から概略構成されている。
上記の振動子ユニット3は、図3に示すように、圧電振動子群7と、この圧電振動子群7が接合される固定板8と、圧電振動子群7に駆動信号を供給するためのフレキシブルケーブル9とから概略構成される。
圧電振動子群7は、列状に形成された複数の圧電振動子10…を備える。各圧電振動子10…は、圧力発生素子の一種であり、電気機械変換素子の一種でもある。これらの各圧電振動子10…は、列の両端に位置する一対のダミー振動子10a,10aと、これらのダミー振動子10a,10aの間に配置された複数の駆動振動子10b…とから構成されている。そして、各駆動振動子10b…は、例えば、50μm〜100μm程度の極めて細い幅の櫛歯状に切り分けられ、180本設けられる。また、ダミー振動子10aは、駆動振動子10bよりも十分広い幅であり、駆動振動子10bを衝撃等から保護する保護機能と、振動子ユニット3を所定位置に位置付けるためのガイド機能とを有する。
各圧電振動子10…は、固定端部を固定板8上に接合することにより、自由端部を固定板8の先端面よりも外側に突出させている。すなわち、各圧電振動子10…は、いわゆる片持ち梁の状態で固定板8上に支持されている。そして、各圧電振動子10…の自由端部は、圧電体と内部電極とを交互に積層して構成されており、対向する電極間に電位差を与えることで素子長手方向に伸縮する。
フレキシブルケーブル9は、固定板8とは反対側となる固定端部の側面で圧電振動子10と電気的に接続されている。そして、このフレキシブルケーブル9の表面には、圧電振動子10の駆動等を制御するための制御用IC11が実装されている。また、各圧電振動子10…を支持する固定板8は、圧電振動子10からの反力を受け止め得る剛性を備えた板状部材であり、ステンレス板等の金属板が好適に用いられる。
上記のケース2は、例えば、エポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂で成形されたブロック状部材である。ここで、ケース2を熱硬化性樹脂で成形しているのは、この熱硬化性樹脂は、一般的な樹脂よりも高い機械的強度を有しており、線膨張係数が一般的な樹脂よりも小さく、周囲の温度変化による変形が小さいからである。そして、このケース2の内部には、振動子ユニット3を収納可能な収納空部12と、インクの流路の一部を構成するインク供給路13とが形成されている。また、ケース2の先端面には、共通インク室(リザーバ)14となる先端凹部15が形成されている。
収納空部12は、振動子ユニット3を収納可能な大きさの空部である。この収納空部12の先端側部分はケース内壁が側方に向けて部分的に突出しており、この突出部分の上面が固定板当接面として機能する。そして、振動子ユニット3は、各圧電振動子10の先端が開口から臨む状態で収納空部12内に収納される。この収納状態において、固定板8の先端面は固定板当接面に当接した状態で接着されている。
先端凹部15は、ケース2の先端面を部分的に窪ませることにより作製されている。本実施例の先端凹部15は、収納空部12よりも左右外側に形成された略台形状の凹部であり、収納空部12側に台形の下底が位置するように形成されている。
インク供給路13は、ケース2の高さ方向を貫通するように形成され、先端が先端凹部15に連通している。また、インク供給路13における取付面側の端部は、取付面から突設した接続口16内に形成されている。
上記の接続基板5は、記録ヘッド1に供給する各種信号用の電気配線が形成されると共に、信号ケーブルを接続可能なコネクタ17が取り付けられた配線基板である。そして、この接続基板5は、ケース2における取付面上に配置され、フレキシブルケーブル9の電気配線が半田付け等によって接続される。また、コネクタ17には、制御装置(図示せず)からの信号ケーブルの先端が挿入される。
上記の供給針ユニット6は、インクカートリッジ(図示せず)が接続される部分であり、針ホルダ18と、インク供給針19と、フィルタ20とから概略構成される。
インク供給針19は、インクカートリッジ内に挿入される部分であり、インクカートリッジ内に貯留されたインクを導入する。このインク供給針19の先端部は円錐状に尖っており、インクカートリッジ内に挿入しやすくなっている。また、この先端部には、インク供給針19の内外を連通するインク導入孔が複数穿設されている。そして、本実施例の記録ヘッド1は2種類のインクを吐出可能であるため、このインク供給針19を2本備えている。
針ホルダ18は、インク供給針19を取り付けるための部材であり、その表面にはインク供給針19の根本部分を止着するための台座21を2本分横並びに形成している。この台座21は、インク供給針19の底面形状に合わせた円形状に作製されている。また、台座底面の略中心には、針ホルダ18の板厚方向を貫通するインク排出口22を形成している。また、この針ホルダ18には、フランジ部を側方に延出している。
フィルタ20は、埃や成形時のバリ等のインク内の異物の通過を阻止する部材であり、例えば、目の細かな金属網によって構成される。このフィルタ20は、台座21内に形成されたフィルタ保持溝に接着されている。
そして、この供給針ユニット6は、図2に示すように、ケース2の取付面上に配設される。この配設状態において、供給針ユニット6のインク排出口22とケース2の接続口16とは、パッキン23を介して液密状態で連通する。
次に、上記の流路ユニット4について説明する。この流路ユニット4は、圧力発生室形成板30の一方の面にノズルプレート31を、圧力発生室形成板30の他方の面に弾性板32を接合した構成である。
圧力発生室形成板30は、図4に示すように、溝状窪部33と、連通口34と、逃げ凹部35とを形成した金属製の板状部材である。本実施例では、この圧力発生室形成板30を、厚さ0.35mmのニッケル製の基板を加工することで作製している。
ここで、基板としてニッケルを選定した理由について説明する。第1の理由は、このニッケルの線膨張係数が、ノズルプレート31や弾性板32の主要部を構成する金属(本実施例では後述するようにステンレス)の線膨張係数と略等しいからである。すなわち、流路ユニット4を構成する圧力発生室形成板30、弾性板32及びノズルプレート31の線膨張係数が揃うと、これらの各部材を加熱接着した際において、各部材は均等に膨張する。このため、膨張率の相違に起因する反り等の機械的ストレスが発生し難い。その結果、接着温度を高温に設定しても各部材を支障なく接着することができる。また、記録ヘッド1の作動時に圧電振動子10が発熱し、この熱によって流路ユニット4が加熱されたとしても、流路ユニット4を構成する各部材30,31,32が均等に膨張する。このため、記録ヘッド1の作動に伴う加熱と作動停止に伴う冷却とが繰り返し行なわれても、流路ユニット4を構成する各部材30,31,32に剥離等の不具合は生じ難い。
第2の理由は、防錆性に優れているからである。すなわち、この種の記録ヘッド1では水性インクが好適に用いられているので、長期間に亘って水が接触しても錆び等の変質が生じないことが肝要である。その点、ニッケルは、ステンレスと同様に防錆性に優れており、錆び等の変質が生じ難い。
第3の理由は、展性に富んでいるからである。すなわち、圧力発生室形成板30を作製するにあたり、本実施例では後述するように塑性加工(例えば、鍛造加工)で行なっている。そして、圧力発生室形成板30に形成される溝状窪部33や連通口34は、極めて微細な形状であり、且つ、高い寸法精度が要求される。そして、基板にニッケルを用いると、展性に富んでいることから塑性加工であっても溝状窪部33や連通口34を高い寸法精度で形成することができる。
なお、圧力発生室形成板30に関し、上記した各要件、すなわち、線膨張係数の要件、防錆性の要件、及び、展性の要件を満たすならば、ニッケル以外の金属で構成してもよい。
溝状窪部33は、圧力発生室29となる溝状の窪部であり、図5に拡大して示すように、直線状の溝によって構成されている。本実施例では、幅約0.1mm,長さ約1.5mm,深さ約0.1mmの溝を溝幅方向に180個列設している。この溝状窪部33の底面は、深さ方向(すなわち、奥側)に進むに連れて縮幅されてV字状に窪んでいる。底面をV字状に窪ませたのは、隣り合う圧力発生室29,29同士を区画する隔壁部28の剛性を高めるためである。すなわち、底面をV字状に窪ませることにより、隔壁部28の根本部分(底面側の部分)の肉厚が厚くなって隔壁部28の剛性が高まる。そして、隔壁部28の剛性が高くなると、隣の圧力発生室29からの圧力変動の影響を受け難くなる。すなわち、隣の圧力発生室29からのインク圧力の変動が伝わり難くなる。また、底面をV字状に窪ませることにより、溝状窪部33を塑性加工によって寸法精度よく形成することもできる(後述する)。そして、このV字の角度は、加工条件によって規定されるが、例えば90度前後である。さらに、隔壁部28における先端部分の肉厚が極く薄いことから、各圧力発生室29…を密に形成しても必要な容積を確保することができる。
また、本実施例における溝状窪部33に関し、その長手方向両端部は、奥側に進むにつれて内側に下り傾斜している。すなわち、溝状窪部33の長手方向両端部は、面取形状に形成されている。このように構成したのも、溝状窪部33を塑性加工によって寸法精度よく形成するためである。
さらに、両端部の溝状窪部33,33に隣接させてこの溝状窪部33よりも幅広なダミー窪部36を1つずつ形成している。このダミー窪部36は、インク滴の吐出に関与しないダミー圧力発生室となる溝状の窪部である。本実施例のダミー窪部36は、幅約0.2mm,長さ約1.5mm,深さ約0.1mmの溝によって構成されている。そして、このダミー窪部36の底面は、W字状に窪んでいる。これも、隔壁部28の剛性を高めるため、及び、ダミー窪部36を塑性加工によって寸法精度よく形成するためである。
そして、各溝状窪部33…及び一対のダミー窪部36,36によって窪部列が構成される。本実施例では、この窪部列を横並びに2列形成している。
連通口34は、溝状窪部33の一端から板厚方向を貫通する貫通孔として形成している。この連通口34は、溝状窪部33毎に形成されており、1つの窪部列に180個形成されている。本実施例の連通口34は、開口形状が矩形状であり、圧力発生室形成板30における溝状窪部33側から板厚方向の途中まで形成した第1連通口37と、この第1連通口37に連続させて溝状窪部33とは反対側の表面に貫通している第2連通口38とから構成されている。第1連通口37は有底の窪部として形成され、この窪部の底部に第2連通口38とされる有底の窪部が形成され、この有底の部分が溝状窪部33の反対側の表面に膨出部として現われる。この膨出部を研磨等で切除することにより、第2連通口38が開口する。
そして、第1連通口37と第2連通口38とは断面積が異なっており、第2連通口38の内寸法が第1連通口37の内寸法よりも僅かに小さく設定されている。これは、連通口34をプレス加工によって作製していることに起因する。すなわち、この圧力発生室形成板30は、厚さ0.35mmのニッケル板を加工することで作製しているため、連通口34の長さは、溝状窪部33の深さを差し引いても0.25mm以上となる。そして、連通口34の幅は、溝状窪部33の溝幅よりも狭くする必要があるので、0.1mm未満に設定される。このため、連通口34を1回の加工で打ち抜こうとすると、アスペクト比の関係で雄型(ポンチ)が座屈するなどしてしまう。そこで、本実施例では、加工を2回に分け、1回目の加工では第1連通口37を板厚方向の途中まで形成し、2回目の加工で第2連通口38を形成している。なお、この連通口34の加工手順については、後で説明する。
また、ダミー窪部36にはダミー連通口39が形成されている。このダミー連通口39は、上記の連通口34と同様に、第1ダミー連通口40と第2ダミー連通口41とから構成されており、第2ダミー連通口41の内寸法が第1ダミー連通口40の内寸法よりも小さく設定されている。
なお、本実施例では、上記の連通口34及びダミー連通口39に関し、開口形状が矩形状の貫通孔によって構成されたものを例示したが、この形状に限定されるものではない。例えば、円形に開口した貫通孔によって構成してもよい。
逃げ凹部35は、共通インク室14におけるコンプライアンス部の作動用空間を形成する。本実施例では、ケース2の先端凹部15と略同じ形状であって、深さが溝状窪部33と等しい台形状の凹部によって構成している。
次に、上記の弾性板32について説明する。この弾性板32は、封止板の一種であり、例えば、支持板42上に弾性体膜43を積層した二重構造の複合材(本発明の金属材の一種)によって作製される。本実施例では、支持板42としてステンレス板を用い、弾性体膜43としてPPS(ポリフェニレンサルファイド)を用いている。
図6に示すように、弾性板32には、ダイヤフラム部44と、インク供給口45と、コンプライアンス部46とを形成している。
ダイヤフラム部44は、圧力発生室29の一部を区画する部分である。すなわち、ダイヤフラム部44は溝状窪部33の開口面を封止し、この溝状窪部33と共に圧力発生室29を区画形成する。このダイヤフラム部44は、図7(a)に示すように、溝状窪部33に対応した細長い形状であり、溝状窪部33を封止する封止領域に対し、各溝状窪部33…毎に形成されている。具体的には、ダイヤフラム部44の幅は溝状窪部33の溝幅と略等しく設定され、ダイヤフラム部44の長さは溝状窪部33の長さよりも多少短く設定されている。長さに関し、本実施例では、溝状窪部33の長さの約2/3に設定されている。そして、形成位置に関し、図2に示すように、ダイヤフラム部44の一端を、溝状窪部33の一端(連通口34側の端部)に揃えている。
このダイヤフラム部44は、図7(b)に示すように、溝状窪部33に対応する部分の支持板42をエッチング等によって環状に除去して弾性体膜43のみとすることで作製され、この環内には島部47を形成している。この島部47は、圧電振動子10の先端面が接合される部分である。
インク供給口45は、圧力発生室29と共通インク室14とを連通するための孔であり、弾性板32の板厚方向を貫通している。このインク供給口45も、ダイヤフラム部44と同様に、溝状窪部33に対応する位置に各溝状窪部33…毎に形成されている。このインク供給口45は、図2に示すように、連通口34とは反対側の溝状窪部33の他端に対応する位置に穿設されている。また、このインク供給口45の直径は、溝状窪部33の溝幅よりも十分に小さく設定されている。本実施例では、23ミクロンの微細な貫通孔によって構成している。
このようにインク供給口45を微細な貫通孔にした理由は、圧力発生室29と共通インク室14との間に流路抵抗を付与するためである。すなわち、この記録ヘッド1では、圧力発生室29内のインクに付与した圧力変動を利用してインク滴を吐出させている。このため、インク滴を効率よく吐出させるためには、圧力発生室29内のインク圧力をできるだけ共通インク室14側に逃がさないようにすることが肝要である。この観点から本実施例では、インク供給口45を微細な貫通孔によって構成している。
そして、本実施例のように、インク供給口45を貫通孔によって構成すると、加工が容易であり、高い寸法精度が得られるという利点がある。すなわち、このインク供給口45は貫通孔であるため、レーザー加工による作製が可能である。従って、微細な直径であっても高い寸法精度で作製でき、作業も容易である。
コンプライアンス部46は、共通インク室14の一部を区画する部分である。すなわち、コンプライアンス部46と先端凹部15とで共通インク室14を区画形成する。このコンプライアンス部46は、先端凹部15の開口形状と略同じ台形状であり、支持板42の部分をエッチング等によって除去し、弾性体膜43だけにすることで作製される。
なお、弾性板32を構成する支持板42及び弾性体膜43は、この例に限定されるものではない。例えば、弾性体膜43としてポリイミドを用いてもよい。また、この弾性板32を、ダイヤフラム部44になる厚肉部及び該厚肉部周辺の薄肉部と、コンプライアンス部46になる薄肉部とを設けた金属板で構成してもよい。
次に、上記のノズルプレート31について説明する。ノズルプレート31は、ノズル開口48を列設した金属製の板状部材である。本実施例ではステンレス板を用い、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル開口48…を開設している。本実施例では、合計180個のノズル開口48…を列設してノズル列を構成し、このノズル列を2列横並びに形成している。そして、このノズルプレート31を圧力発生室形成板30の他方の表面、すなわち、弾性板32とは反対側の表面に接合すると、対応する連通口34に各ノズル開口48…が臨む。
そして、上記の弾性板32を、圧力発生室形成板30の一方の表面、すなわち、溝状窪部33の形成面に接合すると、ダイヤフラム部44が溝状窪部33の開口面を封止して圧力発生室29が区画形成される。同様に、ダミー窪部36の開口面も封止されてダミー圧力発生室が区画形成される。また、上記のノズルプレート31を圧力発生室形成板30の他方の表面に接合するとノズル開口48が対応する連通口34に臨む。この状態で島部47に接合した圧電振動子10を伸縮すると、島部47周辺の弾性体膜43が変形し、島部47が溝状窪部33側に押されたり、溝状窪部33側から離隔する方向に引かれたりする。この弾性体膜43の変形により、圧力発生室29が膨張したり収縮したりして圧力発生室29内のインクに圧力変動が付与される。
さらに、弾性板32(すなわち、流路ユニット4)をケース2に接合すると、コンプライアンス部46が先端凹部15を封止する。このコンプライアンス部46は、共通インク室14に貯留されたインクの圧力変動を吸収する。すなわち、貯留されたインクの圧力に応じて弾性体膜43が膨張したり収縮したりして変形する。そして、上記の逃げ凹部35は、弾性体膜43の膨張時において、弾性体膜43が膨らむための空間を形成する。なお、上記コンプライアンス部46を除去するとともに、共通インク室14の容積を縮小して、逃げ凹部35がインクのリザーバ機能を果たすようにすることもできる。また、逃げ凹部35の領域を凹部ではなく貫通部としてこの空間をリザーバとすることもできる。
上記構成の記録ヘッド1は、インク供給針19から共通インク室14までの共通インク流路と、共通インク室14から圧力発生室29を通って各ノズル開口48…に至る個別インク流路とを有する。そして、インクカートリッジに貯留されたインクは、インク供給針19から導入されて共通インク流路を通って共通インク室14に貯留される。この共通インク室14に貯留されたインクは、個別インク流路を通じてノズル開口48から吐出される。
例えば、圧電振動子10を収縮させると、ダイヤフラム部44が振動子ユニット3側に引っ張られて圧力発生室29が拡張する。この拡張により圧力発生室29内が負圧化されるので、共通インク室14内のインクがインク供給口45を通って各圧力発生室29に流入する。その後、圧電振動子10を伸張させると、ダイヤフラム部44が圧力発生室形成板30側に押されて圧力発生室29が収縮する。この収縮により、圧力発生室29内のインク圧力が上昇し、対応するノズル開口48からインク滴が吐出される。
そして、この記録ヘッド1では、圧力発生室29(溝状窪部33)の底面がV字状に窪んでいる。このため、隣り合う圧力発生室29,29同士を区画する隔壁部28は、その根本部分の肉厚が先端部分の肉厚よりも厚く形成される。これにより、隔壁部28の剛性を従来よりも高めることができる。従って、インク滴の吐出時において、圧力発生室29内にインク圧力の変動が生じたとしても、その圧力変動を隣の圧力発生室29に伝わり難くすることができる。その結果、所謂隣接クロストークを防止でき、インク滴の吐出を安定化できる。
また、本実施例では、共通インク室14と圧力発生室29とを連通するインク供給口45を、弾性板32の板厚方向を貫通する微細孔によって構成したので、レーザー加工等によって高い寸法精度が容易に得られる。これにより、各圧力発生室29…へのインクの流入特性(流入速度や流入量等)を高いレベルで揃えることができる。さらに、レーザー光線によって加工を行なった場合には、加工も容易である。
また、本実施例では、列端部の圧力発生室29,29に隣接させてインク滴の吐出に関与しないダミー圧力発生室(すなわち、ダミー窪部36と弾性板32とによって区画される空部)を設けたので、これらの両端の圧力発生室29,29に関し、片側には隣りの圧力発生室29が形成され、反対側にはダミー圧力発生室が形成されることになる。これにより、列端部の圧力発生室29,29に関し、その圧力発生室29を区画する隔壁の剛性を、列途中の他の圧力発生室29…における隔壁の剛性に揃えることができる。その結果、一列全ての圧力発生室29のインク滴吐出特性を揃えることができる。
さらに、このダミー圧力発生室に関し、列設方向側の幅を各圧力発生室29…の幅よりも広くしている。換言すれば、ダミー窪部36の幅を溝状窪部33の幅よりも広くしている。これにより、列端部の圧力発生室29と列途中の圧力発生室29の吐出特性をより高い精度で揃えることができる。
さらに、本実施例では、ケース2の先端面を部分的に窪ませて先端凹部15を形成し、この先端凹部15と弾性板32とにより共通インク室14を区画形成しているので、共通インク室14を形成するための専用部材が不要であり、構成の簡素化が図れる。また、このケース2は樹脂成形によって作製されているので、先端凹部15の作製も比較的容易である。
次に、上記記録ヘッド1の製造方法について説明する。なお、この製造方法では、上記の圧力発生室形成板30の製造工程に特徴を有しているので、圧力発生室形成板30の製造工程を中心に説明することにする。なお、この圧力発生室形成板30は、順送り型による鍛造加工によって作製される。また、圧力発生室形成板30の素材として使用する帯板は、上記したようにニッケル製である。
圧力発生室形成板30の製造工程は、溝状窪部33を形成する溝状窪部形成工程と、連通口34を形成する連通口形成工程とからなり、順送り型によって行なわれる。
溝状窪部形成工程では、図8に示す雄型51と図9に示す雌型52とを用いる。この雄型51は、溝状窪部33を形成するための金型である。この雄型には、溝状窪部33を形成するための突条部53を、溝状窪部33と同じ数だけ列設してある。また、列設方向両端部の突条部53に隣接させてダミー窪部36を形成するためのダミー突条部(図示せず)も設ける。突条部53の先端部分53aは先細りした山形とされており、例えば図8(b)に示すように、幅方向の中心から45度程度の角度で面取りされている。すなわち、突条部53の先端に形成した山形の斜面により楔状の先端部分53aが形成されている。これにより、長手方向から見てV字状に尖っている。また、先端部分53aにおける長手方向の両端は、図8(a)に示すように、45度程度の角度で面取りしてある。このため、突条部53の先端部分53aは、三角柱の両端を面取りした形状となっている。
また、雌型52には、その上面に筋状突起54が複数形成されている。この筋状突起54は、隣り合う圧力発生室29,29同士を区画する隔壁の形成を補助するものであり、突条部53に対向した箇所に位置する。この筋状突起54は楔状の形状であり、その長さは溝状窪部33(突条部53)の長さと同程度に設定されている。
そして、溝状窪部形成工程では、まず、図10(a)に示すように、雌型52の上面に素材であるとともに圧力発生室形成板である帯板55を載置し、帯板55の上方に雄型51を配置する。次に、図10(b)に示すように、雄型51を下降させて突条部53の先端部を帯板55内に押込む。このとき、突条部53の先端部分53aをV字状に尖らせているので、突条部53を座屈させることなく先端部分53aを帯板55内に確実に押込むことができる。この突条部53の押込みは、図10(c)に示すように、帯板55の板厚方向の途中まで行なう。
突条部53の押込みにより、帯板55の一部分が流動し、溝状窪部33が形成される。ここで、突条部53の先端部分53aがV字状に尖っているので、微細な形状の溝状窪部33であっても、高い寸法精度で作製することができる。すなわち、先端部分53aで押された部分が円滑に流れるので、形成される溝状窪部33は突条部53の形状に倣った形状に形成される。このときに、先端部分53aで押し分けられるようにして流動した素材55は、突条部53の間に設けられた空隙部53b内に流入し隔壁部28が成形される。さらに、先端部分53aにおける長手方向の両端も面取りしてあるので、当該部分で押圧された帯板55も円滑に流れる。従って、溝状窪部33の長手方向両端部についても高い寸法精度で作製できる。
また、突条部53の押込みを板厚方向の途中で止めているので、貫通孔として形成する場合よりも厚い帯板55を用いることができる。これにより、圧力発生室形成板30の剛性を高めることができ、インク滴の吐出特性の向上が図れる。また、圧力発生室形成板30の取り扱いも容易になる。
また、突条部53で押圧されたことにより、帯板55の一部は隣り合う突条部53,53の空間内に隆起する。ここで、雌型52に設けた筋状突起54は、突条部53,53に対向する位置に配置されているので、この空間内への帯板55の流れを補助する。これにより、突条部53間の空間に対して効率よく帯板55を導入することができ、隆起部を高く形成できる。
本発明の前提となる溝状窪部33の成形は、基本的には上述のとおりである。ここで、溝状窪部33の成形精度、とりわけ隔壁部28の成形処理が重要となる。このような要請に応えるために、本実施例では、鍛造加工パンチに第1金型と、仮成形金型と仕上げ金型からなる第2金型を保有させ、第2金型に特殊な形状を付与して、適正な隔壁部28を成形するようにしている。
図11〜図14は、上記のような金型を含む記録ヘッドの製造装置および液体噴射ヘッドの製造方法の実施例を示す。なお、すでに説明された部位と同じ機能を果たす部位については、同一の符号を図中に記載してある。
なお、前述の雄型51および雌型52により帯板(素材)55に塑性加工を行なうときには、常温の温度条件下であり、また、以下に説明する塑性加工においても同様に常温の温度条件で塑性加工を行なっている。
雄型51aすなわち第1金型に、多数の成形パンチ51bが配列されている。溝状窪部33を成形するために、この成形パンチ51bを細長く変形して、突条部53cとされている。そして、この突条部53cは、所定ピッチで平行に配列されている。また、隔壁部28を成形するために、上記成形パンチ51bの間に空隙部53b(図8,図10参照)が設けられている。上記第1金型51aが素材である圧力発生室形成板30(55)に押込まれた状態が、図12(C)に示してある。
一方、上記雌型52aすなわち第2金型は、上記突条部53cの長手方向における中間部に対応する部分に、突条部53cの配列方向に延びる凹部54aが設けられている。そして、第2金型52aには、仮成形金型56と仕上げ金型57の2種類の金型が準備されている。
上記第2金型52aは、仮成形用の仮成形金型56と、当該仮成形金型56による仮成形後に仕上げ加工を行なうための仕上げ金型57とを有しているので、上記仮成形金型56により素材55を空隙部53b内に流動させ、その後、仕上げ金型57により空隙部53b内における素材55の分布を正常な状態に可及的に近づけるので、空隙部53b内への素材流入量が空隙部53bの長さ方向においてほぼ真直ぐな状態になり、この部分をたとえば記録ヘッド1の圧力発生室29の隔壁部28のような部材として機能させるときに好都合である。
このような第2金型52aの構成や動作を詳細に述べると次のとおりである。
上記仮成形金型56には上記突条部53cに対向するとともにこの突条部53cと略同じ長さの筋状突起54が形成されている。そして、この筋状突起54にはその長さ方向における中間部の高さが低く設定された凹部54aが設けられている。図14は、図12に示されている筋状突起54の部分を拡大して示した側面図および断面図である。筋状突起54の長さ方向の略中央部に凹部54aが形成され、凹部54a以外の箇所の断面が(A1)に示され、凹部54aの中央部の断面が(A2)に示されている。
上記筋状突起54は、図9や図10に示したものは、高さの低い突条のような部材形状であるが、凹部54aを形成するためには、筋状突起54に図12,図14に示すような所要の高さが必要とされている。したがって、このような凹部54aが形成された筋状突起54は、高さのある「突条」が多数平行に配列されたもので、図12では断面形状が先端の尖った楔形状とされている。この楔形状部分の楔角度は、90度以下の鋭角とされている。なお、筋状突起54の配列により谷部56aが形成されている。また、圧力発生室形成板55の裏面に後述の仮成形工程で成形される隆起部55aが図示されている。
上記筋状突起54は、図10,図12(B),(C)等に示すように、突条部53cに対向して配置され、筋状突起54で加圧された素材がそのまま空隙部53bの方へ塑性流動をするようになっている。図12に示すように、筋状突起54が突条部53cと対向するように配置することにより、筋状突起54と突条部53cとの間で加圧される素材の変形量が最も多くなるので、その部分の素材は、図12に示した各筋状突起54の斜め上方に流動し空隙部53bに押込まれる。すなわち、1つの空隙部53bに対して左右両側から素材流入がなされ、上記の図10等と同等の成形精度が得られる。
上記筋状突起54の長手方向の凹部54aの長さは、筋状突起54の長さの約2/3以下に設定してあり、好ましくは1/2以下である。また、筋状突起54のピッチは0.14mmである。この筋状突起54のピッチについては、0.3mm以下とすることにより、液体噴射ヘッド等の部品加工等においてより好適な予備成形となる。このピッチは好ましくは0.2mm以下,より好ましくは0.15mm以下である。さらに、筋状突起54の少なくとも凹部54aの部分は、その表面が平滑に仕上げられている。この仕上げとしては、鏡面仕上げが適しているが、他に例えば、クロム鍍金を施してもよい。
図15は、筋状突起54の各部の寸法等を示す側面図である。筋状突起54の長さL1に対する凹部54aの長さL2すなわちL2/L1は、前述のように、2/3以下好ましくは1/2以下である。また、Hは、谷部56aから筋状突起54の先端部までの長さすなわち筋状突起54の高さであり、Dは、凹部54aの深さである。後述のように空隙部53bにおいて素材の良好な塑性流動を得るために、上記各部の寸法間に所定の寸法比が設定されている。
すなわち、凹部54aの長さL2に対する凹部の深さDの比は、約0.05〜約0.3である。上記L2,Dの実寸法は、この例では、L2が0.5mm〜1mm、Dが0.05mm〜0.15mmである。また、筋状突起54の高さHに対する凹部54aの深さDの比は、約0.5〜約1である。この例における上記Hの実寸法は、0.5mm〜1.5mmである。なお、筋状突起54の長さL1は、この例では、1.6mmであり、上記のL2/L1は0.31〜0.62である。
図16は、図15に示した筋状突起54に補強対策を講じたもので、同図(A)は、凹部54aの中間部分、図示の例は筋状突起54の中央部に補強隆起部54dを設けたものである。こうすることにより、加圧成形時に凹部54aを拡開させる力が仮成形金型56に作用し、それによって凹部54aの最深部に応力が集中して、その部分にクラックが発生しやすいのであるが、上記補強隆起部54dが配置されていることにより、上記のような応力の集中が発生することがなくなり、クラック発生の恐れも解消される。
また、図16(B)は、凹部54aの中間部分、図示の例は筋状突起54の中央部に逃げ凹部54eを設けたものである。こうすることにより、凹部54a内に流動した素材が凹部54aの最深部を加圧して、その部分にクラックが発生しやすいのであるが、上記逃げ凹部54eが成形されていることにより、上記のような最深部の加圧が回避でき、クラック発生の恐れも解消される。
図17は、筋状突起54の凹部54aの変形例を示す。同図(A)は平面で構成された凹部形状、(B)は両端部が小さな曲面とされ大部分が平面とされた凹部形状、(C)は両端部が平坦な傾斜面とされ中央部が平面とされた凹部形状、(D)(E)は凹部の中間部分に隆起形状部54bが設けられている凹部形状である。上記のように楔形状部分の稜線部分を削り取って凹部54aが形成されているので、凹部54aの底面は図14(A2)のように断面で見ると平面となり、凹部全体では細長い円弧面になっている。
上記の筋状突起54は楔形状で先端部が尖っているが、素材55の移動状態等により図17(F)に示すように平坦な頂面54cまたは丸みのある先端部の形状にしてもよい。
つぎに、図13に示すように、上記第2金型52aの仕上げ金型57は、上記仮成形金型56による仮成形後に使用されるもので、この仕上げ金型57には仮成形金型56の筋状突起54が除去された平坦面57aが形成され、また、仮成形金型56の凹部54aに対応する箇所に収容凹部57bが形成されている。すなわち、仕上げ金型57の成形面の幅方向で見て、中央部に収容凹部57bが形成され、この収容凹部57bの両側に平坦面57aが設けられている。
上記平坦面57aは、上記突条部53の配列方向における端部近傍の箇所が端部に向かって低くなる表面形状とされている。図13(A)に示す表面形状は上記平坦面57aに連続した傾斜面57cである。
図18は、図13(A)に示した収容凹部57bに補強対策を講じたもので、同図(A)は、収容凹部57bの中間部分、図示の例は仕上げ金型57の幅方向の中央部に補強隆起部57dを設けたものである。こうすることにより、加圧成形時に収容凹部57bを拡開させる力が仕上げ金型57に作用し、それによって収容凹部57bの最深部に応力が集中して、その部分にクラックが発生しやすいのであるが、上記補強隆起部57dが配置されていることにより、上記のような応力の集中が発生することがなくなり、クラック発生の恐れも解消される。
また、図18(B)は、収容凹部57bの中間部分、図示の例は仕上げ金型57の幅方向の中央部に逃げ凹部57eを設けたものである。こうすることにより、収容凹部57b内に流動した素材が収容凹部57bの最深部を加圧して、その部分にクラックが発生しやすいのであるが、上記逃げ凹部57eが配置されていることにより、上記のような最深部の加圧が回避でき、クラック発生の恐れも解消される。
上記仕上げ金型57の収容凹部57bの深さ寸法と長さ寸法が、それぞれ0.05〜0.15mmと0.5〜1mmである場合には、仕上げ加工において、加圧方向に略直交する方向への素材流動量とそれを受け入れる凹部空間を、加圧ストロークの大きさとの兼ね合いにおいて、程よくバランスさせることができ、上記空隙部53b内への素材流動が最適化される。
図19に示した仕上げ金型57の形状は、上記収容凹部57bを挟んで平行に配置された上記平坦面57aが、圧力発生室29の連通口34に近い側の一方の平坦面57aが、他方の平坦面57aよりも圧力発生室形成板30から遠ざかる方向に後退した位置に配置されているものである。つまり、両平坦面57a,57aの間に段差Tが設けてある。したがって、連通口34に近い側の一方の平坦面57aによって加圧される素材の加圧量が、他方の平坦面57aによって加圧される素材の加圧量よりも少なくなる。このため、加圧量の少ない方が、塑性変形の度合いが少ないため、加圧量の多い方に比べて加圧後のスプリングバックの量が大きくあらわれ、連通口に近い側の溝状窪部33の深さが、連通口から遠い側に比べて浅くなる。このような溝状窪部33の浅い側に連通口34を、成形ポンチで溝状窪部33の底部に加圧力による塑性変形を付与しながら開口すると、連通口34近辺の溝状窪部33の深さが深くなり、最終的には溝状窪部33の深さが全長にわたって略均一になる。このような成形過程によって形成された圧力発生室29の深さは全長にわたり均一な深さとなるので、各圧力発生室29内のインクの量が均一化され、また、インク流に異常な流路抵抗が作用することなく、ノズル開口からのインク滴吐出が正常になされる。さらに、連通口34に近い側の素材の密度や加工硬化の度合いが他の側よりも小さくなる。したがって、連通口34を成形するときの成形パンチに作用する加工抵抗が軽減され、成形パンチの耐久性が向上し、また、連通口34の加工精度向上にとっても有利である。
上記仮成形金型56の筋状突起54の長手方向の幅寸法と、上記仕上げ金型57の収容凹部57bに直交する方向の幅寸法とが、上記圧力発生室29の長さ方向の寸法と略同じである。このため、仮成形金型56と仕上げ金型57の上記両幅寸法が、圧力発生室29の長さ寸法と略同じとされた最小限の寸法となるので、仮成形金型56および仕上げ金型57を小型化して、微細部分の加工に適した金型が得られる。
図20は、記録ヘッド1の部分的な構造を示す断面図と平面図であり、上記圧力発生室形成板30のノズルプレート31側に凹所63を存在させた状態で圧力発生室形成板30とノズルプレート31とが接着剤64で接合されている例である。凹所63の配置の仕方としては種々な方法があるが、この例では、図12に示すように、溝状窪部33の仮成形時に、圧力発生室形成板30に突条部53cと筋状突起54が圧入され、筋状突起54の圧入による圧痕が上記凹所63とされている。実際には、筋状突起54の圧入痕は溝状になっているが、連通口34が開口された箇所の素材は複雑な流動変化をしているので、研磨仕上げの後には、連通口34の近傍に残存すると考察される。
接着剤64で圧力発生室形成板30とノズルプレート31を接合すると、上記のようにして配置された凹所63内に余剰の接着剤64が収容される。したがって、接着剤64の膜厚が接着強度を高めるのに最適厚さとなり、圧力発生室形成板30とノズルプレート31との接合強度を強化することができる。
図20(B)は、筋状突起54が第1金型51aの空隙部53bに対向している場合の凹所63の配置であり、また、(C)は、筋状突起54が第1金型51aの突条部53cに対向している場合の凹所63の配置であり、いずれも凹所63のピッチは、圧力発生室29(溝状窪部33)と実質的に同じピッチになっており、しかも、凹所63は連通口34の開口部の近傍に配置されている。
上記のようなピッチ状態とすることにより、上記凹所63が圧力発生室形成板30のノズルプレート31側の接合面に一定間隔で分布するので、余剰接着剤64を均一に収容して接着剤64の膜厚が広範囲にわたって適正化され、接着強度が向上する。さらに、上記凹所63が、連通口34の近傍に形成されているので、余剰接着剤64が連通口34の近傍で凹所63に収容され、連通口34の流路空間にはみ出ることがない。したがって、はみ出た箇所に気泡が滞留するようなこともなく、インクの良好な流通が確保できる。
つぎに、上記の第1金型51a,第2金型52aによって構成された鍛造加工パンチの加工動作を説明する。
上記両金型51a,52aの間で加圧された金属素材板55は、第1金型51aの空隙部53bに押込まれるようにして素材55の流入移動がなされる。このとき、第2金型52aには中間部の高さが低くされた凹部54aが設けられているので、上記凹部54a両側の第2金型52aの端部に近い箇所56b,56b(図12(D)参照)においては、両金型51a,52a間の間隔D1が中間部(凹部)の間隔D2よりも狭くなっていて、この狭い部分においては素材の加圧量が多くなる。このようにして加圧された金属素材板55は、加圧方向に略直交する方向へ押し出されるようにして流動させられ、両金型51a,52a間の間隔が広くなった加圧量の少ない凹部54aの方へより多くの素材移動がなされる。換言すると、上記素材流動において、凹部54aが素材55の逃げ込み場所を提供しているような機能を果たしている。このような素材移動は、主として、上記突条部53cや空隙部53bの長手方向に沿って行なわれ、また、素材55の一部が凹部54aの方へ膨出した隆起部55aとなる。
したがって、上記加圧量の多い箇所56bにおいては強い素材加圧により、空隙部53bへの素材流入が積極的に行なわれ、また、加圧量の少ない凹部54aの方へはより多くの素材55が流動してくるので、凹部54aに対応した箇所の空隙部53bに対しても多くの素材流入が行なわれる。このようにして、凹部54aの両側56b,56bで素材の流動を凹部54a側へ仕向けつつ空隙部の全域にわたってより多くの素材流入がなされる。また、突条部53cは所定ピッチで配列されているので、各突条部53cの押込みによる配列方向(突条部の幅方向)への素材の流動現象が、流動方向および流動量のいずれにおいても均一化される。このような上記所定ピッチに基づく素材55の流動が、上記の空隙部53bの長手方向への流動現象を乱すようなことがなく、各空隙部53bへの均一な素材の流入に寄与している。
上記の空隙部53bに流入した素材55が溝状窪部33の隔壁部28を構成するので、溝状窪部33の空間形状を正確に形成することができる。さらに、このような微細な構造の加工成形としては、一般に、異方性エッチングの手法が採用されるのであるが、このような手法は加工工数が多大なものとなるので、製造原価の面で不利である。それに対して、上記の鍛造加工パンチを金属製のニッケル等の素材に使用すれば、加工工数が大幅に削減され、原価的にも極めて有利である。さらに、各溝状窪部33の容積を均一に加工できるので、記録ヘッドの圧力発生室等を成形するような場合においては、記録ヘッドのインク滴の吐出特性を安定させる等の面で非常に有効である。
上記の加工動作は、第2金型52aの凹部54aの動作機能に重点を置いて説明したものであるが、図示の筋状突起54およびその凹部54aによる動作機能はつぎのとおりである。図12(B)は、第1金型51aと第2金型52aとの間で素材55が加圧される直前の状態を示している。この状態から(C)(D)に示すように両金型51a,52a間で素材55が加圧されると、筋状突起54が素材55に突き刺さるようにして圧入されて行くのと同時に、空隙部53b内への素材流動がなされて、隔壁部28の仮成形がなされる。
上記の仮成形の段階においては、筋状突起54の凹部54aにより、上述の場合と同様に加圧量の少ない凹部54aの方へはより多くの素材55が流動して行くので、凹部54aに対応した箇所の空隙部53bに対しても多くの素材流入が行なわれる。このようにして、凹部54aの両側56b,56bで素材の流動を凹部側へ仕向けつつ空隙部53bの全域にわたってより多くの素材流入がなされる。さらに、筋状突起54自体の突起高さが相乗して、より一層多くの素材55が空隙部53b内に積極的に押込まれる。このような仮成形状態における隔壁部28の高さは、図12(D)に示すように、低い部分28a,28aと高い部分28bが形成される。このように高低差ができるのは、端部に近い箇所56b,56bにおいて加圧された素材55が凹部54aの箇所へより多く流動して、そのときに多くの素材55が空隙部53b内に流動するからである。
図12(C)(D)に示す仮成形が完了すると、仮成形状態の素材55は図13(B)に示すように、第1金型51aと仕上げ金型57の間に移送され、そこで両金型51a,52aで(C)に示すように加圧される。仕上げ金型57には収容凹部57bの両側に平坦面57aが形成してあるので、上記の低い隔壁部の部分28a,28aにおける空隙部53b内への素材55の流動量が多くなり、部分28a,28aの高さが高くなる。このとき、上記隆起部55aは収容凹部57b内に収容されて仕上げ金型57から加圧力を受けることがないので、上記の高い部分28bの高さはほとんど変わらない。したがって、最終的には(D)に示すように、隔壁部28の高さが略均一な高さとなる。
また、仕上げ成形の段階においては、上記傾斜面57cが形成されているので、各空隙部53b内への素材55の流入量が全ての空隙部53bにおいて可及的に均一化される。すなわち、上記突条部53の配列方向に流動した素材55が突条部53の配列中央部から端部の方へ少しずつ流動して集積的に偏った状態になり、端部付近がいわゆる多肉状態になる。このように集積的に偏った素材量を端部が低くなった傾斜面57cで加圧するので、多肉状態の素材を過度に空隙部53b内に流動させることが防止される。したがって、各空隙部53b内への素材55の流入量が全ての空隙部53bにおいて可及的に均一化される。
上記筋状突起54は、先端の尖った楔形状としてあるので、上記楔形状の部分が素材55に確実に食い込むので、突条部53cに対向した箇所の素材55を正確に加圧することができ、空隙部53bへの素材流動が確実になされる。また、楔角がいわゆる90度以下の鋭角とされていることにより、素材55への食い込みがより一層確実に達成される。上記筋状突起54のピッチが、0.3mm以下とされていることにより、この鍛造加工パンチでインクジェット式記録ヘッドの圧力発生室を極めて精巧な鍛造加工で製作することができる。
また、上記突条部53cと筋状突起54との間で素材が最も大量に加圧されるので、突条部53cに対向している筋状突起54自体の突起高さが相乗的に機能して、より一層多くの素材が空隙部53bの方に向って積極的に押込まれる。すなわち、この筋状突起54による空隙部53b内への素材押込みは、上述の場合と同様に、素材が加圧量の多い箇所から加圧量の少ない凹部54aの方へ流動する現象に相乗した態様で行なわれるので、凹部54aに対応した箇所の空隙部53bに対しても多くの素材流入が行なわれる。このようにして、凹部54aの両側で素材の流動を凹部54a側へ仕向けつつ空隙部53bの全域にわたってより多くの素材流入がなされる。
上記凹部54aが、円弧状の凹部形状とされていることにより、第2金型中間部の高さが徐々に緩やかに変化をするので、上記空隙部53bに流入する素材55の量が空隙部53bの長さ方向で見て、可及的に均一なものとなる。また、凹部54aが、複数の平面で構成された凹部形状とされていることにより、平面の傾斜角度を選定することにより、第2金型中間部の高さを徐々に緩やかに変化させることができ、空隙部53bに流入する素材55の量が空隙部53bの長さ方向で見て、可及的に均一なものとなる。
上記凹部54aの中間部分に隆起形状部54bが設けられている場合には、上記隆起形状部54bと第2金型52aの端部に近い箇所において両金型51a,52aの間隔(上記間隔D1に相当)が狭くなるとともに、上記凹部54aが複数化されるので、加圧量の多い箇所と加圧量の少ない箇所が交互に複数配置される。したがって、加圧量の多い箇所(上記56bに相当)と素材55の流動先となる凹部54aが交互に小刻みに配置されるので、空隙部53bに流動する素材55の量が空隙部53bの長さ方向で見て略均一になる。
上記各中間部は、上記突条部53cおよび筋状突起54の長さ方向の略中央部であるから、上記中央部の両側における素材の流動が略均等になされるので、上記加圧量の少ない凹部54aに対して両側から略均等に素材流動がなされる。このため、凹部54aにおける素材の流動量が凹部54aの長さ全体にわたって均一化され、例えば、圧力発生室29の隔壁部28を成形するような事例では、隔壁部28の形状を高精度で得ることができる。
上記筋状突起54の長手方向の凹部54aの長さを、筋状突起54の長さの約2/3以下に設定することにより、加圧方向に略直交する方向への素材流動量とそれを受け入れる凹部54aの空間を、加圧ストロークの大きさとの兼ね合いにおいて、程よくバランスさせることができ、空隙部53b内への素材流動が最適化される。上記筋状突起54の凹部54aの長さ寸法に対する深さ寸法の比は、約0.05〜約0.3である場合、あるいは、上記筋状突起54の高さ寸法に対する筋状突起54の凹部54aの深さ寸法の比は、約0.03〜約0.3である場合には、加圧方向に略直交する方向への素材流動量とそれを受け入れる凹部空間を、加圧ストロークの大きさとの兼ね合いにおいて、程よくバランスさせることができ、上記空隙部53b内への素材流動が最適化される。
上記筋状突起54の少なくとも凹部54aの部分が、鏡面仕上げやクロム鍍金等でその表面が平滑に仕上げられているので、加圧方向に略直交する方向に流動してきた素材55が凹部54aにおいてその平滑な表面状態により、積極的に空隙部53bの方へ変向され、空隙部53b内への素材流入がより一層積極的に行なわれる。
第1金型51aと第2金型52aは、金型が進退動作をする通常の鍛造加工装置(図示していない)に固定され、両金型51aと52aの間に圧力発生室形成板30(55)を配置して、順次加工がなされる。また、第2金型52aは仮成形金型56と仕上げ金型57が組になって構成されているので、仮成形金型56と仕上げ金型57を隣合わせて配列し、圧力発生室形成板30(55)を順次移行させるのが適当である。
上述の液体噴射ヘッドの製造装置は、少なくとも所定ピッチで平行に配列された突条部53cおよび各突条部53cの間に形成された空隙部53bが設けられた第1金型51aと、上記第1金型51aとの間で金属素材板55の両面から鍛造加工を行ない、上記突条部53cの長手方向における中間部に対応する部分に、突条部53cの配列方向に延びる凹部54aが設けられている第2金型52aとを有しているので、上記両金型51a,52aの間で加圧された金属素材板55は、第1金型51aの空隙部53bに押込まれるようにして流入移動がなされる。このとき、第2金型52aには中間部に凹部54aが設けられているので、上記凹部54a両側の箇所においては、両金型51a,52a間の間隔が中間部(凹部54a)よりも狭くなっていて、この狭い部分においては素材55の加圧量が多くなる。このようにして加圧された金属素材板55は、加圧方向に略直交する方向へ押し出されるようにして流動させられ、両金型51a,52a間の間隔が広くなった加圧量の少ない凹部54aの方へより多くの素材移動がなされる。換言すると、上記素材流動において、凹部54aが素材55の逃げ込み場所を提供しているような機能を果たしている。このような素材移動は、主として、上記突条部53cや空隙部53bの長手方向に沿って行なわれ、また、素材55の一部が凹部の方へ膨出した隆起部となる。
したがって、上記加圧量の多い箇所においては強い素材加圧により、空隙部53bへの素材流入が積極的に行なわれ、また、加圧量の少ない凹部54aの方へはより多くの素材55が流動してくるので、凹部54aに対応した箇所の空隙部53bに対しても多くの素材流入が行なわれる。このようにして、凹部54aの両側で素材55の流動を凹部54a側へ仕向けつつ空隙部53bの全域にわたってより多くの素材流入がなされる。また、突条部53cは所定ピッチで配列されているので、各突条部53cの押込みによる配列方向(突条部53cの幅方向)への素材の流動現象が、流動方向および流動量のいずれにおいても均一化される。このような上記所定ピッチに基づく素材55の流動が、上記の空隙部53bの長手方向への流動現象を乱すようなことがなく、各空隙部53bへの均一な素材の流入に寄与している。
上記の空隙部53bに流入した素材55が窪み形状部の隔壁部28を構成するような場合においては、窪みの空間形状を正確に形成することができる。さらに、このような微細な構造の加工成形としては、一般に、異方性エッチングの手法が採用されるのであるが、このような手法は加工工数が多大なものとなるので、製造原価の面で不利である。それに対して、上記の鍛造加工パンチを金属製の素材55に使用すれば、加工工数が大幅に削減され、原価的にも極めて有利である。さらに、各窪部の容積を均一に加工できるので、例えば、記録ヘッド1の圧力発生室29等を成形するような場合においては、記録ヘッド1のインク滴の吐出特性を安定させる等の面で非常に有効である。
さらに、上記第2金型52aが、先行して加工動作をする仮成形用の仮成形金型56と、当該仮成形金型56による仮成形に引続いて仕上げ加工を行なう仕上げ金型57とから構成されているので、仮成形に引続いて仕上げ加工が順送りの状態で行なえ、効率的に動作する装置が得られる。また、上記のように、連続性のある加工動作であるから、各工程における被加工物の位置決め等を高精度で設定でき、加工精度の向上にとって有効である。
上述の鍛造加工パンチを用いて微細鍛造加工方法を実施することができる。これは、第1工程として上記第1金型51aと仮成形金型56との間で金属素材板55に予備成形を行ない、第2工程として第1金型51aと仕上げ金型57との間で仕上げ加工を行なう。これらの第1工程と第2工程において生じる素材55の加工変形の進行状態は、上述の鍛造加工パンチにおいて述べたものと同様である。
したがって、上記の空隙部53bに流入した素材55が記録ヘッド1の溝状窪部33の隔壁部28を構成するような場合においては、溝状窪部33の形状を正確に形成することができる。さらに、このような微細な構造の加工成形としては、一般に、異方性エッチングの手法が採用されるのであるが、このような手法は加工工数が多大なものとなるので、製造原価の面で不利である。それに対して、上記の金属製素材を対象にした微細鍛造加工方法によれば、加工工数が大幅に削減され、原価的にも極めて有利である。さらに、各窪部の容積を均一に加工できるので、例えば、液体噴射ヘッドの圧力発生室等を微細に成形するような場合においては、液体噴射ヘッドの噴射特性を安定させる等の面で非常に有効である。
さらに、本実施例の液体噴射ヘッドの製造方法は、圧力発生室29となる溝状窪部33が列設されると共に、各溝状窪部33の一端に板厚方向に貫通する連通口34を形成した金属製の圧力発生室形成板30と、上記連通口34と対応する位置にノズル開口48を穿設した金属製のノズルプレート31と、溝状窪部33の開口面を封止すると共に、溝状窪部33の他端に対応する位置にインク供給口45を穿設した金属製の封止板とを備え、圧力発生室形成板30における溝状窪部33側に封止板(43)を、反対側にノズルプレート31をそれぞれ接合したものが製造の対象とされている。
具体的な製造方法は、第1金型51aには平行に配列された突条部53cとこれら突条部53cの間に形成された空隙部53bが設けられ、第2金型52aとして、上記突条部53cに対向するとともに突条部53cと略同じ長さの筋状突起54が設けられ、この筋状突起54には長さ方向における中間部の高さが低く設定された凹部54aが設けられている仮成形金型56と、筋状突起54が除去された平坦面57aとされ、凹部54aに対応する箇所に収容凹部57bが設けられた仕上げ金型57とが準備され、第1工程は第1金型51aと仮成形金型56との間で上記圧力発生室形成板30に予備成形を行ない、第2工程は第1金型51aと仕上げ金型57との間で圧力発生室形成板30に仕上げ成形を行なって上記溝状窪部33を圧力発生室形成板30に成形するものである。
このため、上記の微細鍛造加工方法と同様な工程順序により、圧力発生室形成板30に溝状窪部33が加工される。これらの点を要約すると、上記第1工程である予備成形では、凹部54aの両側で圧力発生室形成板30の素材流動を凹部54a側へ仕向けつつ空隙部53bの全域にわたってより多くの素材流入がなされる。ついで、上記仕上げ成形である第2工程では、上記平坦面57aでさらに圧力発生室形成板30を空隙部の方へ加圧することにより、素材55の空隙部53b内への流動高さが空隙部53bの長さ方向にわたって可及的に均一になる。このとき、上記収容凹部57bに上記隆起部55aが収容されているので、隆起部55aに相当する量の素材が空隙部53b内に移動するようなことがなく、上記流動高さの均一化に有効に機能している。
以上のようにして、精密に仕上げられた隔壁部28を有する溝状窪部33が圧力発生室形成板30に成形される。この成形は、加工工数が異方性エッチング手法等に比して大幅に削減され、原価的にも極めて有利である。さらに、各溝状窪部33の容積を均一に加工できるので、液体噴射ヘッド1の圧力発生室29等の微細な成形において、最適な製造方法であり、液体噴射特性を正常に確保するのに有効である。
上述の溝状窪部33の仮成形に引続く仕上げ加工において、つぎのような問題が発生することが判明した。
すなわち、図21は、第1金型51aの突条部53cが、仕上げ加工のために最大押込み位置に達している状態を拡大して示す断面図であり、図13(C)に同様の状態が図示されている。図21において、符号57は仕上げ金型であるが、これは第1金型51aが押込まれる金属素材板55を支持する第2金型52aとして存在している。また、図22は、仮成形された溝状窪部33に突条部53cを押込んで仕上げ加工がなされる直前の状態を示す断面図である。仮成形の段階では,溝状窪部33は同図に実線で示すように、その深さが比較的浅くなっているが、仕上げ加工は2点鎖線で示す深さまで突条部53cが押込まれる。
図22に示すように、溝状窪部33は、深さ方向の内壁28c,28cが平行な状態で対向しており、両内壁28c,28cに連続してV字型に窪んだ形状の底部33aが形成されている。このような形状の溝状窪部33を形成するために、突条部53cには、上記内壁28cを成形する平面状の内壁形成部53d,53dが突条部53cの押込み方向に沿った状態で形成されている。そして、上記内壁形成部53d,53dに連なった状態で上記底部33aを形成する傾斜面部53e,53eが形成されている。この傾斜面部53e,53eの傾斜角度θ1は、突条部53cの押込み方向線すなわち突条部53cの中心線を含んで突条部53cの長手方向に描かれる仮想平面O−Oに対して45度とされている。なお、上記仮想平面O−Oを便宜上、突条部53cの押込み方向と表現する。
上記内壁形成部53dと傾斜面部53eとが交差する箇所に、角部53fが突条部53cの長手方向に沿って稜線状に形成されている。
このような角部53fを有する突条部53cを、図22に示す2点鎖線で示す位置まで押込んで仕上げ加工をすると、上記角部53fが溝状窪部33の内面を削り取るような現象が発生し、上記内壁28cから底部33aにかけて微細な凹凸や突条部53cの押込み方向に沿った削り傷のような面形状が形成される。このような異常内面は図23(A)に符号33bで示されている。また、図23(B)は、後述の本発明にかかる製造装置の突条部53cで成形された正常な仕上げ面形状を示す断面図である。
上記のような異常内面33bの問題を解決するために、以下に述べる対策を講じた。
上記対策のための構造は、図24および図25に示されており、図21〜図23と同様な機能を果たす部分には、同じ符号を付している。上記角部による異常内面33bが形成されないようにするため、上記内壁形成部53dと傾斜面部53eを接続する接続面部53gを設けた。この例では上記接続面部53gは平面である。内壁形成部53dの延長面と傾斜面部53eの延長面とが交わる交差箇所aと、接続面部53gの内壁形成部側端部bと、接続面部53gの傾斜面部側端部cとによって形成される三角形は、上記突条部53cの長手方向に対して垂直な仮想断面上において、接続面部53gを底辺とする略二等辺三角形abcの形状とされている。
突条部53cの押込み方向O−O(上記仮想平面)と傾斜面部53eとのなす狭角、すなわち傾斜角度θ1は、40〜50度の範囲から選定されるのが好ましく、上記のように45度に設定するのが最適である。このような角度範囲にすることにより、金属素材板55の材料の流動性が良好に得られ、底部33aの形状が正確に形成される。
また、突条部53cの押込み方向O−O(上記仮想平面)と接続面部53gとのなす狭角θ2は、8〜40度であり、好ましくは10〜35度であり、より好ましくは15〜30度であり、23度前後が最も好ましい。このような角度設定により、異常内面33bの発生が確実に防止できる。
上記接続面部53gの傾斜面部側端部cと内壁形成部53dとの間の突条部53cの幅方向における寸法W1は、突条部53cの幅寸法W2に対して0.05〜0.15の比であり、好ましくは0.06〜0.13であり、より好ましくは0.08〜0.10である。このような比の設定により、異常内面33bの発生が確実に防止できる。
上記接続面部53gの傾斜面部側端部cと内壁形成部53dとの間の突条部53cの幅方向における寸法W1は、空隙部53bの幅寸法W3に対して0.06〜0.45の比であり、好ましくは0.10〜0.40であり、より好ましくは0.15〜0.30である。このような比の設定により、異常内面33bの発生が確実に防止できる。
突条部53cに上記接続面部53gを設ける方法としては、種々な方法が採用できる。ここで例示する方法は、グラインダ加工を主としたものである。材料としては、例えば、超鋼合金が使用され、最初にプロファイルグラインダで傾斜面部53eを連続的に形成する。ついで、連続した傾斜面部53eの谷の部分にグラインダで空隙部53bを溝状に形成する。その後、図26に示すように、角部53fを研削して接続面部53gを形成する。この研削に使用する研削工具70は、その断面形状が2点鎖線で図示されており、2つの研削面70a,70aが楔形に配置されたもので、両研削面70a,70aは約50度の角度で交差している。
上記研削加工で接続面部53gが形成されると、つぎに、加工部に残っているバリや凹凸を除去するために、微細な砥粒を分散させた液体で液体ラップを行なう。そして、最後に表面を所定硬度とするために、DLC加工(ダイアモンド・ライク・コーティング加工)を行なう。
上記接続面部53gは平面で構成されているが、図27に示した例は、接続面部53gを曲面にした場合である。同図の符号b,cは、図25に示した接続面部53gの端部に相当する箇所を示している。図27の場合にも図25と同様な寸法W1が設定でき、W2やW3との比は図25の場合と同じである。
上記の接続面部53gを有する突条部53cを用いて仕上げ加工がなされた状態が、図23(B)に示されている。ここに示されている正常な内面形状は、内壁28cと底部33aとが滑らかな連続面33cによって接続されていて、溝状窪部33の内面には、異常な凹凸や突条部53c(角部53f)の擦り傷のような表面状態が認められない。
上記実施例すなわち異常内面の対策例の作用効果を列記すると、つぎのとおりである。
すなわち、記録ヘッド1の製造装置によれば、上記突条部53cには、溝状窪部33の深さ方向の内壁28cを形成する内壁形成部53dと、この内壁形成部53dに連なって溝状窪部33の底部33aを略V字状に窪ませて形成する傾斜面部53eが設けられるとともに、上記内壁形成部53dと傾斜面部53eとを接続する接続面部53gが設けられている。このため、突条部53cが金属素材板55に押込まれると、先端部に位置する上記傾斜面部53eによって金属材料が大量に押し分けられるが、上記接続面部53gにおいてはこの押し分けられる金属の流動量が少量化される。したがって、接続面部53gにおいて金属材料が受ける圧縮力やせん断力等が低下し、金属材料が削り取られるような現象が発生しない。このような金属材料の流動現象により、溝状窪部33の内面に異常な凹凸や突条部の押込み方向の擦り傷等ができることがない。さらに、接続面部53gによって金属材料の流動性が円滑になされるので、各突条部53cの間に形成された空隙部53bへの材料移動が促進され、空隙部53bにおいて形成される隔壁部28を十分な高さに形成することができる。また、接続面部53gの設置によって溝状窪部33の容積が大幅に損なわれることがないので、記録ヘッド1のインク滴の吐出特性に支障が生じたりすることがない。
上記内壁形成部53dの延長面と傾斜面部53eの延長面とが交わる交差箇所aと、上記接続面部53gの内壁形成部側端部bと、接続面部53gの傾斜面部側端部cとによって形成される三角形は、上記突条部53cの長手方向に対して垂直な仮想断面上において、接続面部53gを底辺とする略二等辺三角形の形状とされているため、接続面部53gにおいて金属材料が受ける圧縮力やせん断力等を最小化することができる。他方、略二等辺三角形の形態が変化すると、底辺である接続面部53gが起立側に移動したり、あるいは寝る側に移動したりする。起立側に移動すると、傾斜面部53eと接続面部53gとの交差角度が小さくなった角部が形成されて、前述のような異常内面ができてしまう。また、寝る側に移動すると、内壁形成部53dと接続面部53gとの交差角度が小さくなった角部が形成されて、前述のような異常内面ができてしまう。したがって、略二等辺三角形を維持することにより、これらの交差角度が小さくなり過ぎない角部が形成できるので、上記異常内面の問題が解消される。
上記突条部53cの押込み方向O−O(上記仮想平面)と接続面部53gとのなす狭角が、8〜40度であるため、接続面部53gの傾斜状態を適正に設定することができ、異常内面33bの発生が確実に防止できる。
上記突条部53cの押込み方向O−O(上記仮想平面)と傾斜面部53eとのなす狭角が、40〜50度であるため、金属素材板55に対する突条部53cの押込みによって良好な流動性をもって金属材料が流動する。そして、上記傾斜面部53eと接続面部53gとの交差角度が異常に小さくならないので、角部による弊害が現われることがない。
上記接続面部53gの傾斜面部側端部cと内壁形成部53dとの間の突条部53cの幅方向における寸法W1が、突条部53cの幅寸法W2に対して0.05〜0.15の比であることから、上記傾斜面部53eの長さを適正化することができ、先端部に位置する傾斜面部53eによって金属材料が大量に押し分けられる際の金属移動量を、上記接続面部53gにおける金属の流動量に対して、過剰になったり過少になったりしないように制御することができる。こうすることにより、上記のような異常内面33b等の問題が解消される。
上記接続面部53gの傾斜面部側端部cと内壁形成部53dとの間の突条部53cの幅方向における寸法W1が、上記空隙部53bの幅寸法W3に対して0.06〜0.45の比であることから、上記傾斜面部53eの長さを適正化することができ、先端部に位置する傾斜面部53eによって金属材料が大量に押し分けられる際の金属移動量を、上記接続面部53gにおける金属の流動量に対して、過剰になったり過少になったりしないように制御することができる。こうすることにより、上記のような異常内面33b等の問題が解消される。
上記接続面部53gが、平面であることにより、接続面部53gと傾斜面部53eや内壁形成部53dとの境界部分(b,c)が確定しやすくなり、接続面部53gの大きさや傾斜度合を正確に設定することができる。
上記接続面部53gが、曲面であることにより、曲面と傾斜面部53eや内壁形成部53dとの境界部分(b,c)が滑らかに連続するので、金属材料の流動性を滑らかにすることができる。また、溝状窪部33の容積の減少を最小化することができる。
また、記録ヘッド1の製造方法によれば、第1金型51aの上記突条部53cには、溝状窪部33の深さ方向の内壁28cを形成する内壁形成部53dと、この内壁形成部53dに連なって溝状窪部33の底部33aを略V字状に窪ませて形成する傾斜面部53eが設けられるとともに、上記内壁形成部53dと傾斜面部53eとを接続する接続面部53gが設けられている。また、金属素材板55を支持する第2金型52aが準備されている。このため、突条部53cが金属素材板55に押込まれると、先端部に位置する上記傾斜面部53eによって金属材料が大量に押し分けられるが、上記接続面部53gにおいてはこの押し分けられる金属の流動量が少量化される。したがって、接続面部53gにおいて金属材料が受ける圧縮力やせん断力等が低下し、金属材料が削り取られるような現象が発生しない。このような金属材料の流動現象により、溝状窪部33の内面に異常な凹凸や突条部の押込み方向の擦り傷等ができることがない。さらに、接続面部53gによって金属材料の流動性が円滑になされるので、各突条部53cの間に形成された空隙部53bへの材料移動が促進され、空隙部53bにおいて形成される隔壁部28を十分な高さに形成することができる。また、接続面部53gの設置によって溝状窪部33の容積が大幅に損なわれることがないので、記録ヘッド1のインク滴の吐出特性に支障が生じたりすることがない。
さらに、記録ヘッド1によれば、上記溝状窪部33に、深さ方向に形成された内壁28cと、略V字状に窪ませて形成した底部33aと、上記内壁28cと底部33aとが滑らかな面状態で連続された連続面33cとが設けられている。このため、上記連続面33cにより各溝状窪部33の間に形成される隔壁部28の根元部分の剛性が向上するので、圧力発生室29内のインクの圧力変動が他の圧力発生室29に影響するいわゆるクロストークを回避することができる。また、圧力発生室29の内面が滑らかなので、インク中に混入している気泡が内面にひっかかるようなことがなく、気泡の排出にとって好適である。
図28に例示した記録ヘッド1'は、本発明を適用することのできる事例であり、圧力発生素子として発熱素子61を用いたものである。この例では、上記の弾性板32に代えて、コンプライアンス部46とインク供給口45とを設けた封止基板62を用い、この封止基板62によって圧力発生室形成板30における溝状窪部33側を封止している。また、この例では、圧力発生室29内における封止基板62の表面に発熱素子61を取り付けている。この発熱素子61は電気配線を通じて給電されて発熱する。なお、圧力発生室形成板30やノズルプレート31等、その他の構成は上記実施例と同様であるので、その説明は省略する。
上記実施例においては、1つの第1金型51aすなわち1つの突条部53cを用いて仮成形と仕上げ加工を行なっているが、仮成形用の突条部と仕上げ加工用の突条部をそれぞれ専用のものとして準備することも可能である。
この記録ヘッド1'では、発熱素子61への給電により、圧力発生室29内のインクが突沸し、この突沸によって生じた気泡が圧力発生室29内のインクを加圧する。この加圧により、ノズル開口48からインク滴が吐出される。そして、この記録ヘッド1'でも、圧力発生室形成板30を金属の塑性加工で作製しているので、上記した実施例と同様の作用効果を奏する。
また、連通口34に関し、上記実施例では、溝状窪部33の一端部に設けた例を説明したが、これに限らない。例えば、連通口34を溝状窪部33における長手方向略中央に形成して、溝状窪部33の長手方向両端にインク供給口45及びそれと連通する共通インク室14を配置してもよい。このようにすることにより、インク供給口45から連通口34に至る圧力発生室29内におけるインクの淀みを防止できるので、好ましい。
上記各実施例は、インクジェット式記録装置を対象にしたものであるが、本発明によって得られた液体噴射ヘッドは、インクジェット式記録装置用のインクだけを対象にするのではなく、グルー,マニキュア,導電性液体(液体金属)等を噴射することができる。さらに、上記実施例では、液体の一つであるインクを用いたインクジェット式記録ヘッドについて説明したが、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド,液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド,有機ELディスプレー,FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド,バイオチップ製造に用いられる生体有機噴射ヘッド等の液体を吐出する液体噴射ヘッド全般に適用することも可能である。
インクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。 インクジェット式記録ヘッドの断面図である。 (A)及び(B)は、振動子ユニットを説明する図である。 圧力発生室形成板の平面図である。 圧力発生室形成板の説明図であり、(a)は図4におけるX部分の拡大図、(b)は(a)におけるA−A断面図、(c)は(a)におけるB−B断面図である。 弾性板の平面図である。 弾性板の説明図であり、(a)は図6におけるY部分の拡大図、(b)は(a)におけるC−C断面図である。 (a)及び(b)は、溝状窪部の形成に用いる雄型を説明する図である。 (a)及び(b)は、溝状窪部の形成に用いる雌型を説明する図である。 (a)〜(c)は、溝状窪部の形成を説明する模式図である。 金型と素材との関係を示す斜視図である。 仮成形の進行状態を示す斜視図と断面図である。 仕上げ成形の進行状態を示す斜視図と断面図である。 筋状突起の凹部形状を示す側面図と断面図である。 筋状突起の凹部の各部寸法を示す側面図である。 筋状突起の凹部の変形例を示す側面図である。 筋状突起の凹部の他の変形例を示す側面図である。 仕上げ金型の凹部の変形例を示す側面図である。 仕上げ金型の凹部の変形例を示す側面図である。 圧力発生室形成板とノズルプレートとの接合箇所を示す断面図と部分的な平面図である。 仕上げ成形の押込みが完了した状態を示す断面図である。 仕上げ成形直前の状態を示す断面図である。 仕上げ成形後の溝状窪部内面を示す断面図である。 突条部の形状を拡大して示す断面図である。 突条部の形状をさらに拡大して示す断面図である。 接続面部の形成の仕方を示す断面図である。 接続面部を曲面にした場合の部分的な断面図である。 変形例のインクジェット式記録ヘッドを説明する断面図である。
符号の説明
1 インクジェット式記録ヘッド,インク噴射ヘッド,1’ インクジェット式記録ヘッド,2 ケース,3 振動子ユニット,4 流路ユニット,5 接続基板,6 供給針ユニット,7 圧電振動子群,8 固定板,9 フレキシブルケーブル,10 圧電振動子,10a ダミー振動子,10b 駆動振動子,11 制御用IC,12 収納空部,13 インク供給路,14 共通インク室,15 先端凹部,16 接続口,17 コネクタ,18 針ホルダ,19 インク供給針,20 フィルタ,21 台座,22 インク排出口,23 パッキン,28 隔壁部,28a 隔壁部の低い部分,28b 隔壁部の高い部分,28c 深さ方向の内壁,29 圧力発生室,30 圧力発生室形成板,31 ノズルプレート,32 弾性板,33 溝状窪部,33a 底部,33b 異常内面,33c 連続面,34 連通口,35 逃げ凹部,36 ダミー窪部,37 第1連通口,38 第2連通口,39 ダミー連通口,40 第1ダミー連通口,41 第2ダミー連通口,42 支持板,43 弾性体膜,44 ダイヤフラム部,45 インク供給口,46 コンプライアンス部,47 島部,48 ノズル開口,51 雄型,51a 第1金型,51b 成形パンチ,52 雌型,52a 第2金型,53 突条部,53a 先端部分,53b 空隙部,53c 突条部,53d 内壁形成部,53e 傾斜面部,53f 角部,53g 接続面部,54 筋状突起,54a 凹部,54b 隆起形状部,54c 頂面,54d 補強隆起部,54e 逃げ凹部,55 帯板,素材,金属素材板,(圧力発生室形成板),55a 隆起部,56 仮成形金型,56a 谷部,56b 端部に近い箇所,57 仕上げ金型,57a 平坦面,57b 収容凹部,57c 傾斜面,57d 補強隆起部,57e 逃げ凹部,61 発熱素子,62 封止基板,63 凹所,64 接着剤,70 研削工具,70a 研削面,D 凹部の深さ,H 筋状突起の高さ,L1 筋状突起の長さ,L2 凹部の長さ,T 段差,θ1 傾斜角度,θ2 傾斜角度,W1 寸法,W2 寸法,W3 寸法

Claims (8)

  1. 圧力発生室となる溝状窪部が列設されると共に、各上記溝状窪部の一端に板厚方向に貫通する連通口を形成した金属製の圧力発生室形成板と、上記連通口と対応する位置にノズル開口を穿設したノズルプレートと、上記溝状窪部の開口面を封止する金属製の封止板とを備え、上記圧力発生室形成板における上記溝状窪部側に上記封止板を、反対側に上記ノズルプレートをそれぞれ接合してなる液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板製造装置であって、
    少なくとも所定ピッチで平行に配列された突条部および各突条部の間に形成された空隙部が設けられ、上記突条部を金属素材板に押込んで上記溝状窪部を形成する第1金型と、
    上記第1金型が押込まれる上記金属素材板を支持する第2金型とを含んで構成され、上記突条部には、上記溝状窪部の深さ方向の内壁を形成する内壁形成部と、上記溝状窪部の底部を略V字状に窪ませて形成する傾斜面部が設けられるとともに、上記内壁形成部と上記傾斜面部とを接続する接続面部が設けられ、上記第1金型と上記第2金型を使用して上記金属素材板を上記圧力発生室形成板に加工し、
    上記突条部の押込み方向と上記接続面部とのなす狭角が、上記突条部の押込み方向と上記傾斜面部とのなす狭角より小さいことを特徴とする液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板製造装置。
  2. 上記内壁形成部の延長面と上記傾斜面部の延長面とが交わる交差箇所と、上記接続面部の上記内壁形成部側端部と、上記接続面部の上記傾斜面部側端部とによって形成される三角形は、上記突条部の長手方向に対して垂直な仮想断面上において、上記接続面部を底辺とする略二等辺三角形の形状とされている請求項1記載の液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板製造装置。
  3. 上記突条部の押込み方向と上記接続面部とのなす狭角は、8〜40度である請求項1記載の液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板製造装置。
  4. 上記突条部の押込み方向と上記傾斜面部とのなす狭角は、40〜50度である請求項1記載の液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板製造装置。
  5. 上記接続面部の上記傾斜面部側端部と上記内壁形成部との間の上記突条部の幅方向における寸法は、上記突条部の幅寸法に対して0.05〜0.15の比である請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板製造装置。
  6. 上記接続面部の上記傾斜面部側端部と上記内壁形成部との間の上記突条部の幅方向における寸法は、上記空隙部の幅寸法に対して0.06〜0.45の比である請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板製造装置。
  7. 圧力発生室となる溝状窪部が列設されると共に、各上記溝状窪部の一端に板厚方向に貫通する連通口を形成した金属製の圧力発生室形成板と、上記連通口と対応する位置にノズル開口を穿設したノズルプレートと、上記溝状窪部の開口面を封止する金属製の封止板とを備え、上記圧力発生室形成板における上記溝状窪部側に上記封止板を、反対側に上記ノズルプレートをそれぞれ接合してなる液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板製造方法であって、
    少なくとも所定ピッチで平行に配列された突条部および各突条部の間に形成された空隙部が設けられ、上記突条部を金属素材板に押込んで上記溝状窪部を形成する第1金型と、
    上記第1金型が押込まれる上記金属素材板を支持する第2金型とを準備し、上記溝状窪部の深さ方向の内壁を形成する内壁形成部と、上記溝状窪部の底部を略V字状に窪ませて形成する傾斜面部が設けられるとともに、上記内壁形成部と上記傾斜面部とを接続する接続面部が設けられている突条部を、上記金属素材板に押込んで上記圧力発生室形成板に加工し、
    上記突条部の押込み方向と上記接続面部とのなす狭角が、上記突条部の押込み方向と上記傾斜面部とのなす狭角より小さいことを特徴とする液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板製造方法。
  8. 圧力発生室となる溝状窪部が列設されると共に、各上記溝状窪部の一端に板厚方向に貫通する連通口を形成した金属製の圧力発生室形成板と、上記連通口と対応する位置にノズル開口を穿設したノズルプレートと、上記溝状窪部の開口面を封止する金属製の封止板とを備え、上記圧力発生室形成板における上記溝状窪部側に上記封止板を、反対側に上記ノズルプレートをそれぞれ接合してなる液体噴射ヘッドであって、上記溝状窪部に、深さ方向に形成された内壁と、略V字状に窪ませて形成した底部と、上記内壁と上記底部とが平面又は曲面の少なくとも一方の面状態で連続された連続面とが設けられ
    上記溝状窪部の深さ方向と上記連続面とのなす狭角が、上記溝状窪部の深さ方向と上記底部とのなす狭角より小さいことを特徴とする液体噴射ヘッド。
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