JP4623780B2 - 溶融製膜方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、除濁等の濾過用途に好適な、緻密な細孔と高い透水性能を持つ、熱可塑性樹脂より成る中空糸状多孔膜の製膜方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
精密濾過膜や限外濾過膜等の多孔膜による濾過操作は、自動車産業(電着塗料回収再利用システム)、半導体産業(超純水製造)、医薬食品産業(除菌、酵素精製)などの多方面にわたって実用化されている。特に近年は河川水等を除濁して飲料水や工業用水を製造するための手法としても多用されつつある。中でも中空糸状の多孔膜は、単位体積当たりに充填できる膜面積が大きくでき、単位空間占有体積当たりの濾過処理能力を高くできるため、特に多く利用されている。
【0003】
多孔膜の製法としては、相分離(相転換)を利用した方法が多用されている(滝澤章、膜、p367−418、(株)アイピーシー、1992年、あるいは吉川正和ら監修、膜技術第2版、p77−107、(株)アイピーシー、1997年、など)。中でも高分子を高温で溶剤と溶融した後に冷却して相分離させる熱誘起型相分離法(熱転相法、本明細書では溶融法と呼ぶ)は、基本的には熱可塑性高分子でさえあれば、常温付近での適当な溶剤がなくて他の相分離法がとれない高分子化合物にも広く適用が可能である優れた製膜方法である(滝澤章、膜、p404、(株)アイピーシー、1992年)。特に他の相分離法が取れないが安価でかつ機械的化学的強度に優れるポリオレフィン系高分子化合物(ポリプロピレン、ポリエチレン等)に適用できることは溶融法の大きな利点である。
【0004】
溶融法により製膜する場合のプロセスは、1)熱可塑性樹脂と溶剤とを押出機等で高温にて均一に溶融し、2)この溶融物を紡口より空気中を経て液浴中に押し出して冷却することにより相分離(高分子濃厚相と高分子希薄相の2相)を生起させた後固化(凝固)させ、3)固化物中の溶剤を除去する(このとき相分離時の高分子濃厚相部分が多孔膜骨格となり、相分離時の高分子希薄相部分が孔となる)方法が知られている(特開昭55−60537号公報、特開昭55−22398号公報など)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、除濁等の濾過用途に好適な、緻密な細孔と高い透水性能を持つ、ポリエチレンより成る中空糸状多孔膜の製膜方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
(1)ポリエチレンと有機液体とを高温にて溶融した後、該溶融物を中空糸成型用紡口から中空部内に中空部形成流体を注入しつつ中空糸状に空気中を経て液浴中に押し出して冷却固化し、しかる後に該有機液体を抽出除去して中空糸状多孔膜を得る方法において、該押し出し物が空気中を走行する時間が0から1秒の間(ただし0は含まない)であり、かつ該中空部形成流体が紡口温度以上の沸点を持ち、かつポリエチレンと混合した際に一定の温度及びポリエチレン濃度範囲においてポリエチレン濃厚相液滴とポリエチレンが希薄な有機液体濃厚相液滴との2相共存状態を形成する有機液体であることを特徴とする、ポリエチレンより成る中空糸状多孔膜の溶融製膜方法、
(2)押し出し物が空気中を走行する時間が0から0.5秒の間(ただし0は含まない)である、上記(1)記載のポリエチレンより成る中空糸状多孔膜の溶融製膜方法、
(3)押し出し物が空気中を走行する時間が0から0.25秒の間(ただし0は含まない)である、上記(1)記載のポリエチレンより成る中空糸状多孔膜の溶融製膜方法、
(4)液浴が実質的に水より成る、上記(1)−(3)に記載のポリエチレンより成る中空糸状多孔膜の溶融製膜方法、
に関する。
【0007】
以下、本発明について詳細に記述する。
熱可塑性樹脂(熱可塑性高分子)は、常温では変形しにくく弾性を有し塑性を示さないが、適当な加熱により塑性を現し、成形が可能になり、冷却して温度が下がると再びもとの弾性体に戻る可逆的変化を行い、その間に分子構造など化学的変化を生じない性質を持つ樹脂である(化学大辞典編修委員会編集、化学大辞典6縮刷版、共立出版、860および867頁、1963年)。
【0008】
例として、12695の化学商品、化学工業日報社、1995年の熱可塑性プラスチックの項(829−882頁)記載の樹脂や、日本化学会編、化学便覧応用編改訂3版、丸善、1980年の809−810頁記載の樹脂等を挙げることができる。具体例名を挙げれば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンビニルアルコールコポリマー、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリルなどである。中でもポリオレフィン系重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン等)は、疎水性のために耐水性が高いため水系濾過膜の素材として適しており、好適である。さらに、これらポリオレフィン系重合体の中でも、廃棄時に問題となるハロゲン元素を含まず、かつ化学反応性の高い3級炭素が少ないために膜洗浄時の薬品劣化が起こりにくく長期使用耐性が期待でき、かつ安価であるポリエチレンが、特に好適である。
【0009】
本発明で用いる有機液体は、熱可塑性高分子と混合した際に一定の温度および熱可塑性高分子濃度範囲において液液相分離状態(熱可塑性高分子濃厚相液滴/熱可塑性高分子希薄相即ち有機液体濃厚相液滴の2相共存状態)をとることができ、かつ沸点が液液相分離温度域の上限温度以上である液体である。単一液体でなく混合液体であってもよい。
このような有機液体と熱可塑性高分子とを液液相分離の起こる濃度範囲にて混合した場合、温度をその混合組成において液液相分離状態をとる上限温度以上に高温にすると熱可塑性高分子と有機液体とが均一に溶解した相溶物を得ることができる。該相溶物を冷却すると、液液2相(熱可塑性高分子濃厚相液滴と有機液体濃厚相液滴)の共存状態(液液相分離状態)が現れて孔構造が発生し、さらに熱可塑性高分子が固化する温度まで冷却することで孔構造が固定される。
【0010】
この相図の例を図1に示した。図1において、熱可塑性高分子濃度は、熱可塑性高分子重量と有機液体重量の和に対する熱可塑性高分子の重量の割合である。また、液1相領域は熱可塑性高分子と有機液体との相溶領域を、液液2相領域は熱可塑性高分子濃厚相(液状)と熱可塑性高分子希薄相(液体)との共存領域を、固化領域は熱可塑性高分子が固化する領域(固体熱可塑性高分子と有機液体との共存領域)をそれぞれ示す。
【0011】
孔構造が固定されたのち、膜より有機液体を除去することで中空糸状多孔体が得られる。このとき、液液相分離時の熱可塑性高分子濃厚相部分が冷却固化されて多孔構造(多孔体骨格)を形成し、熱可塑性高分子希薄相(有機液体濃厚相)部分が孔部分となる。従って、本発明に言う有機液体とは、高温では熱可塑性高分子の溶剤であるが、低温(例えば常温付近)では非溶剤である液体である。
例えば熱可塑性高分子がポリエチレンの場合、このような有機液体の例として、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジトリデシル等のフタル酸エステル類、セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル類、アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル類、マレイン酸ジオクチル等のマレイン酸エステル類、トリメリット酸トリオクチル等のトリメリット酸エステル類、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル等のリン酸エステル類、プロピレングリコールジカプレート、プロピレングリコールジオレエート等のグリコールエステル類、グリセリントリオレエート等のグリセリンエステル類などの単独あるいは2種以上の混合物を挙げることができる。さらに、単独ではポリエチレンと高温にても相溶しない液体や、流動パラフィンのように単独では高温でポリエチレンと相溶するものの相溶性が高すぎて液液2相の相分離状態をとらない液体を、有機液体の定義(ポリエチレンと混合した際に一定の温度およびポリエチレン濃度範囲において液液相分離状態をとることができかつ沸点が液液相分離温度域の上限温度以上の液体)を逸しない範囲内で前記有機液体例(フタル酸エステル類等)と混合した混合液体も有機液体の例として挙げることができる。
【0012】
熱可塑性高分子と上記有機液体とは、例えば2軸押し出し機を用いて所定の混合比にてその混合比における液液相分離温度域の上限温度以上の温度にて混合、相溶させることができる。熱可塑性高分子と有機液体との混合比は、熱可塑性高分子の比が小さすぎると得られる膜の強度が低くなりすぎて不利であり、逆に熱可塑性高分子の比が大きすぎると得られる膜の透水性能が低くなりすぎて不利である。熱可塑性高分子と有機液体との好ましい混合比は、熱可塑性高分子/有機液体の重量比で10/90から50/50である。
【0013】
相溶物(溶融物)は、押し出し機先端のヘッドと呼ばれる部分に導かれ、押し出される。このヘッド内の押し出し口に、相溶物を所定の形状に押し出すための口金を装着することで所定の形状に相溶物を成形して押し出すことができる。本発明の場合は、中空糸状に成形するための口金(中空糸成形用紡口)をヘッドの押し出し口に装着する。中空糸成形用紡口は、相溶物を中空状(円環状)に押し出すための円環状の穴と、押し出された中空状物の中空部が閉じて円柱状になってしまわないために押し出された中空状物の中空部に注入しておく中空部形成流体を吐出するための穴(上記円環状穴の内側に存在する;形状は円形穴)とを押し出し側の面に持つ紡口ノズルである。熱可塑性高分子と有機液体との相溶物は、上記中空糸成形用紡口の円環穴より、円環穴の内側の穴から中空部形成流体の注入を中空部内に受けつつ空気中(窒素等の不活性ガス中でもよい)に押し出される。
【0014】
中空部形成流体は、押し出し物(熱可塑性高分子および有機液体)とは非反応性であることはもちろんのことであるが、加えて、紡口から吐出される際に液体であることが、押し出される中空状物の断面形状の真円性を維持するために必要である。中空部形成流体が気体(例えば窒素ガスや空気)の場合、紡口から押し出された後の中空状物の断面形状の真円性を保つことは難しくなる。中空部形成流体は紡口内から吐出されるため、吐出時にも液体であることを確保するためには、沸点が紡口温度以上である液体を中空部形成流体として用いることが必要である。
【0015】
中空部形成流体の特性として、沸点が紡口温度以上であることに加えて、高温で熱可塑性高分子と液液相分離する能力を持つ液体、即ち熱可塑性高分子と混合した際に一定の温度および熱可塑性高分子濃度範囲において液液相分離状態(熱可塑性高分子濃厚相液滴/熱可塑性高分子希薄相即ち有機液体濃厚相液滴の2相共存状態)をとることができる液体を用いることで、得られる多孔膜の透水性能を飛躍的に向上させることができる。この場合、中空糸成形用紡口から吐出されるときの中空部形成流体の温度は必ずしも熱可塑性高分子と液液相分離状態となる温度である必要はなく、液液相分離状態をとる温度域より高くてもよいし、低くてもよい。このような中空部形成用流体の例としては、前記の有機液体の例と同じ例を挙げることができる。なお、中空部形成流体の沸点は、紡口温度以上であれば、前記の有機液体とは異なり、液液相分離温度域の上限温度以下であってもよい。
【0016】
空気中に押し出された相溶物は、液浴に導かれ、押し出し物中の熱可塑性高分子が固化する温度まで冷却される。こうして紡口から押し出された相溶物は、紡口出口から液浴中通過の間に冷却されることで液液相分離が生起されて孔構造が発生し、次いで固化し、孔構造が固定される。液浴の組成は、押し出し物(熱可塑性高分子および有機液体)と反応性を有さない液体であれば特に限定はされず、押し出し物中の有機液体と同じであっても良い。ただし、温度は、その押し出し物組成での熱可塑性高分子の固化温度以下である必要がある。液浴の重要な機能は押し出し物の冷却機能であるので、冷却能力が高い、即ち熱容量が大きい液体である水が、液浴の組成物としては好ましい。
【0017】
紡口から空気中に押し出された相溶物が液浴に入るまでの時間、即ち空中走行時間は、ゼロから1秒までの間(ただしゼロは含まない)である。空中走行時間がゼロの場合は、紡口の押し出し面が液浴の液面と接している状態になる。紡口温度は熱可塑性高分子と有機液体の相溶温度、即ちその混合組成における液液相分離温度域以上の温度に設定するため、熱可塑性高分子の固化温度以下に設定されている液浴より必然的に高い温度になる。したがって空中走行時間がゼロの場合は、紡口が液浴の液で常時冷却されて紡口の温度調節が不安定になるため、適さない。一方で空中走行時間が長くなりすぎると外表面の開孔性が低下し、膜の透水性能が低下して好ましくない。空中走行時間は、好ましくはゼロから0.5秒の間(ただし0は含まない)、さらに好ましくはゼロから0.25秒の間(ただし0は含まない)である。空中走行時間の測定は、液浴出口で中空糸を張力をかけない状態で巻き取った場合には、巻き取り速度と空中走行距離(紡口面と液浴面との距離)から、下記式で求めることができる。
【0018】
【数1】
【0019】
このように、中空部形成流体として沸点が紡口温度以上の液体、特にその中でも熱可塑性高分子と液液相分離状態をとることができる液体を用いた上で紡口から出た相溶物をある特定の空走時間の後に液浴に導くことで、緻密な細孔と高い透水性能を持つ膜をつくることが可能になる。
液浴から出てきた中空糸状物は、冷却途中で生起した液液相分離時の熱可塑性高分子濃厚相部分が冷却固化されて多孔構造(多孔体骨格)を形成し、液液相分離時の熱可塑性高分子希薄相(有機液体濃厚相)部分が有機液体の詰まった孔部分となっている。この孔部分に詰まっている有機液体を除去すれば多孔膜が得られる。
【0020】
膜中の有機液体の除去は、熱可塑性高分子を溶解または劣化させずかつ除去したい有機液体を溶解する揮発性液体で抽出除去し、その後乾燥して膜中に残存する上記揮発性液体を揮発除去することで実施できる。
このような有機液体抽出用の揮発性液体の例としては、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、平均孔径、空孔率、純水透水率、破断強度および破断伸度、粘度平均分子量は以下の測定方法より決定した。
平均孔径:ASTM:F316−86記載の方法(別称:ハーフドライ法)に従って測定した。使用液体にエタノールを用い、25℃、昇圧速度0.01atmにて測定した。平均孔径[μm]は下記式より求まる。
【0022】
【数2】
【0023】
エタノールの25℃における表面張力は21.97dynes/cmである(日本化学会編、化学便覧基礎編改訂3版、II−82頁、丸善(株)、1984年)ので、
平均孔径[μm]=62834/(ハーフドライ空気圧力[Pa])
にて求めることができる。
空孔率:空孔率は、下記式より求めた。
【0024】
【数3】
【0025】
ここに、湿潤膜とは、孔内は水が満たされているが中空部内は水が入っていない状態の膜を指し、具体的には、10〜20cm長のサンプル膜をエタノール中に浸漬して孔内をエタノールで満たした後に水浸漬を4〜5回繰り返して孔内を充分に水で置換し、しかる後に中空糸の一端を手で持って5回程よく振り、さらに他端に手を持ちかえてまた5回程よく振って中空部内の水を除去することで得た。乾燥膜は、前記湿潤膜の重量測定後にオーブン中80℃で恒量になるまで乾燥させて得た。膜体積は、
膜体積[cm3]
=π{(外径[cm]/2)2−(内径[cm]/2)2}(膜長[cm])
より求めた。膜1本では重量が小さすぎて重量測定の誤差が大きくなる場合は、複数本の膜を用いた。
【0026】
純水透水率:エタノール浸漬したのち数回純水浸漬を繰り返した約10cm長の湿潤中空糸膜の一端を封止し、他端の中空部内へ注射針を入れ、25℃の環境下にて注射針から0.1MPaの圧力にて25℃の純水を中空部内へ注入し、外表面から透過してくる純水の透過水量を測定し、以下の式より純水透水率を決定した。
【0027】
【数4】
【0028】
ここに膜有効長とは、注射針が挿入されている部分を除いた、正味の膜長を指す。
破断強度および破断伸度:引っ張り試験機(島津製作所製オートグラフAG−A型)を用い、中空糸をチャック間距離50mm、引っ張り速度200mm/分にて引っ張り、破断時の荷重と変位から、以下の式により破断強度および破断伸度を決定した。
【0029】
【数5】
【0030】
ここに、
膜断面積[cm2]=π{(外径[cm]/2)2−(内径[cm]/2)2}である。
破断伸度[%]=100(破断時変位[mm])/50
粘度平均分子量:粘度平均分子量(Mv)は、135℃におけるデカリン溶液の固有粘度([η])を測定して、下記式より求めた(J.Brandrup and E.H.Immergut(Editors)、Polymer Handbook(2nd Ed.)、IV−7頁、John Wiley & Sons、New York、1975年)。
【0031】
[η]=6.8×10-4×(Mv)0.67
なお、実施例における製膜フローの概略を図2に示した。
【0032】
【実施例1】
高密度ポリエチレン(三井化学製:ハイゼックスミリオン030S、粘度平均分子量:45万)20重量部と、フタル酸ジイソデシル(DIDP)とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOP)との重量比にて3対1(DIDP/DOP=3/1)の混合有機液体80重量部とを、2軸混練押し出し機(東芝機械製TEM−35B−10/1V)で加熱混練して相溶させ(230℃)、押し出し機先端のヘッド(230℃)内の押し出し口に装着した中空糸成形用紡口の押し出し面にある外径1.58mm/内径0.83mmの相溶物押し出し用の円環穴から上記相溶物を押し出した。
【0033】
相溶物押し出し用円環穴の内側にある0.6mmφの中空部形成流体吐出用の円形穴からは、中空部形成流体としてDOPを吐出させ、中空糸状押し出し物の中空部内に注入した。
紡口から空気中に押し出した中空糸状押し出し物を、1.5cmの空中走行距離を経て39℃の水浴中に入れ、約2m水中を通過させて冷却固化させた後、中空糸状物に張力をかけることなく16m/分の速度で水浴中から水浴外へ巻き取った。このときの空中走行時間は、空中走行距離と巻き取り速度から0.06秒と決定される。
【0034】
次いで、得られた中空糸状物を室温の塩化メチレン中で30分間の浸漬を5回繰り返して中空糸状物内のDIDPとDOPを抽出除去し、次いで50℃にて半日乾燥させて残存塩化メチレンを揮発除去した。
得られた膜の諸物性(平均孔径、空孔率、糸径、純水透水率、破断強度、破断伸度)を表1に示す。
【0035】
【実施例2】
空中走行距離を4.5cmにした以外は実施例1と同様にして製膜を行った(空中走行時間は0.17秒)。
得られた膜の諸物性(平均孔径、空孔率、糸径、純水透水率、破断強度、破断伸度)を表1に示す。
【0036】
【比較例1】
空中走行距離を52cmにした以外は実施例1と同様にして製膜を行った(空中走行時間は2.0秒)。
得られた膜の諸物性(平均孔径、空孔率、糸径、純水透水率、破断強度、破断伸度)を表1に示す。
【0037】
【比較例2】
中空部形成流体を空気にした以外は実施例1と同様にして製膜を行った(空中走行時間は0.06秒)。得られた膜の諸物性(平均孔径、空孔率、糸径、純水透水率、破断強度、破断伸度)を表1に示す。なお、比較例2にて得られた中空糸膜は、他に得られた中空糸膜(実施例1−4、比較例1で得られた中空糸膜)とは異なってその断面形状は真円状を呈さず、明らかに楕円状であった。
【0038】
【実施例3】
ポリエチレンとして旭化成工業製の高密度ポリエチレン(サンテックSH800、粘度平均分子量25万)を18重量部、有機液体としてDIDPとDOPとの重量比にて3対1(DIDP/DOP=3/1)の混合物を82重量部用い、空中走行距離を4.5cmにした以外は実施例1と同様にして製膜を行った。(空中走行時間は0.17秒)。
【0039】
得られた膜の諸物性(平均孔径、空孔率、糸径、純水透水率、破断強度、破断伸度)を表1に示す。
【0040】
【実施例4】
ポリエチレンを19重量部用い、有機液体を81重量部用い、空中走行距離を6cmにした以外は実施例3と同様にして製膜を行った(空中走行時間は0.23秒)。得られた膜の諸物性(平均孔径、空孔率、糸径、純水透水率、破断強度、破断伸度)を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【発明の効果】
本発明により、除濁等の濾過用途に好適な、緻密な細孔と高い透水性能を持つ、熱可塑性樹脂より成る中空糸状多孔膜の製膜方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】熱可塑性高分子と有機液体との相図の概念図である。
【図2】実施例における製膜フローの概略図である。
【符号の説明】
イ ・・・ 紡口吐出時点の相溶物
ロ ・・・ 空中走行部および液浴中での冷却過程
ハ ・・・ 液浴出の固化物
1 ・・・ ポリエチレンホッパー
2 ・・・ ポリエチレン供給口
3 ・・・ 有機液体供給流路
4 ・・・ 有機液体供給口
5 ・・・ 2軸混練押出機
6 ・・・ 導管
7 ・・・ ヘッド
8 ・・・ 定量ギアポンプ駆動部
9 ・・・ 定量ギアポンプ
10・・・ 中空糸成形用紡口
11・・・ 中空部形成流体供給流路
12・・・ ポリエチレンと有機液体の混合押し出し物
13・・・ 中空部形成流体
14・・・ 空中走行部分
15・・・ 水浴
16・・・ ロール
17・・・ 巻き取りロール
Claims (4)
- ポリエチレンと有機液体とを高温にて溶融した後、該溶融物を中空糸成型用紡口から中空部内に中空部形成流体を注入しつつ中空糸状に空気中を経て液浴中に押し出して冷却固化し、しかる後に該有機液体を抽出除去して中空糸状多孔膜を得る方法において、該押し出し物が空気中を走行する時間が0から1秒の間(ただし0は含まない)であり、かつ該中空部形成流体が紡口温度以上の沸点を持ち、かつポリエチレンと混合した際に一定の温度及びポリエチレン濃度範囲においてポリエチレン濃厚相液滴とポリエチレンが希薄な有機液体濃厚相液滴との2相共存状態を形成する有機液体であることを特徴とする、ポリエチレンより成る中空糸状多孔膜の溶融製膜方法。
- 押し出し物が空気中を走行する時間が0から0.5秒の間(ただし0は含まない)であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレンより成る中空糸状多孔膜の溶融製膜方法。
- 押し出し物が空気中を走行する時間が0から0.25秒の間(ただし0は含まない)である、請求項1に記載のポリエチレンより成る中空糸状多孔膜の溶融製膜方法。
- 液浴が実質的に水より成る、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエチレンより成る中空糸状多孔膜の溶融製膜方法。
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