建築物、特に高層建築物においては、柱と梁とを骨組みとするラーメン構造が広く知られている。このような高層建築物を複合的用途に適用するために、例えば、複数階からなる上層階を住居等の比較的小区画の用途に適用する階とし、その下に位置する1又は複数の下層階を事務所、店舗、駐車場、病院、種々の施設等の比較的大区画の用途に適用する階、いわゆるピロティ階とすることがしばしば行われている。その場合、上層階では通常ラーメン構造を構成する柱と梁(いわゆる構造柱と構造梁)をそのまま利用して各住居の区画を形成すればよいが、下層階であるピロティ階では構造柱の存在により大区画の開放空間を得ることが困難であり用途対応上の制約が大きかった。
斯かるピロティ階の用途対応上の制約に対処するべく、例えば特許文献1に記載の技術が提示されている。特許文献1の図1〜図4に記載の建築物は、住戸階として適用する複数階からなる上部骨組部と、その下の設備階や店舗等のピロティ階として適用する支持骨組部とを有する。上部骨組部は、上部柱と、上部梁と、上部柱間に設けた中間柱を骨組みとするラーメン構造である。上部骨組部において隣り合う上部柱同士は、桁行方向及びはり間方向のいずれの方向においても上部梁により連結されている。一方、中間柱は、隣り合う上部柱の中間位置にて上部梁に接合されているが、中間柱同士は梁によって直接連結されていない(特許文献1の段落0012、図3)。よって、上部柱は中間柱よりも構造的にみて主要な柱(以下、これを「主柱」と称する)と考えることができる。尚、特許文献1では、下層階である支持骨組部において中間柱を排除することにより大スパンの開放空間を実現することを課題としている。
特許文献1ではこの課題を解決する手段として、支持柱と伝達梁手段とを骨組みとするラーメン構造により支持骨組部を構築している。支持柱は、上部骨組部の上部柱の直下に接合されている。伝達梁手段は、スパン中間部の梁成を大きくスパン端部の梁成を小さくしかつ支持柱と剛接合した梁機能を有する横架材である。この伝達梁手段のスパン中央から上部骨組部の最下階の中間柱が管柱状に立設している(特許文献1の段落0013〜0016)。
従って、上部骨組部の中間柱から伝達される柱軸力は、伝達梁手段によってその両端に剛接合された支持柱へとそれぞれ柱軸力として伝達される。支持骨組部の支持柱に柱軸力として伝達した鉛直荷重は最終的に基礎で支持される。伝達梁手段は上部骨組部の中間柱から加わる鉛直力を受けるべく強固な断面性能を付与するためにスパン中間部における梁成の断面形状を大きくしている(特許文献1の図5、段落0020)。
特許文献1の建築物では、斯かる伝達梁手段を設けたことにより支持骨組部において中間柱が省かれ、その結果、支持骨組部のピロティ階への適用を実現としたことを効果として挙げている(特許文献1の段落0019)。
一方、ピロティ階をもつ建物は地震動に弱いといわれており、有効な免震構造が求められてる。地震時の揺れの大きさは個々の建築物がもつ固有周期により大きく左右されることが知られており、自重が大きく剛性が低いほど固有周期が長くゆっくりした揺れ方をする建物ということになる。通常、高層建築の方が低層建築より固有周期が長く、例えば、鉄筋コンクリート造では高さ30m程度の固有周期が約1秒程度と短く、高さ200m程度の超高層になると約5〜6秒と長くなる。固有周期が地震動の周期に近いと共振して建物の揺れが増長されることはよく知られている。中小規模の地震では地震動による周期は1秒以下と短いことが多いため、建物の免震手段として積層ゴム等の水平方向に柔軟な免震手段で支持することにより固有周期を数秒程度に長くすることが行われている。
しかしながら、巨大地震や軟弱地盤の場合は、長周期の地震動も発生することが指摘されており、このような長周期の地震動は固有周期の長い高層及び超高層の建築物にも大きな影響を与えると予想される。従って、ピロティ階を設ける場合には特に十分な免震構造を備えることが要望される。
高層建築物の免震構造の一例として、特許文献2ではその図1に示されるように高層建築物の四隅の脚部に伸び・圧縮性縦振動吸収支承2と、縦方向減衰ダンパ3とを併用して設置し、さらに前記高層建築物の中央部の脚部に、剪断抵抗部材4を設置している。縦振動吸収支承2と縦方向減衰ダンパ3とが、梁としての撓み振動に起因する高層建築特有の長周期の建築物全体の回転振動を吸収することにより免震する。同時に剪断抵抗部材4は、低い建物で一般的に生じる地盤との間の剪断振動による水平変形を抑制して剪断剛性の極端な低下を防いでいる。 また、特許文献3では、既存のピロティ階の柱頭と構造梁との間にアイソレータ及びダンパーを設置することにより地震動に対応している。
特開2003−193698号公報
特開平6−323034号公報
特許第3622115号明細書
上記の特許文献1の建築物においては、上部骨組部のラーメン構造を構成する上部柱と中間柱に接合されるべき支持骨組部の柱のうち、中間柱に接合されるべき柱のみを減数することが可能である。すなわち、上部骨組部のラーメン構造を構成する主柱である上部柱の直下には、必ず支持骨組部の支持柱が接合されており、これを省くことはできない。従って、上部骨組部と支持骨組部の各々のラーメン構造における主柱のスパンについてみれば、全く同じであるといえる。
このように、特許文献1で解決しようとする直接的な課題は、上部骨組部の中間柱の直下に接合されるべき柱を支持骨組部において省くことのみである。つまり、支持骨組部における主柱である支持柱までも省くことは想定していない。加えて、支持骨組部における支持柱を上部骨組部の上部柱の直下以外の別の位置に接合可能とすることについても、全く想定していない。よって、上層階の上部柱に接合されるべき柱の数を支持骨組部において減らすこと、並びに支持骨組部における柱の位置に自由度をもたせることは、特許文献1に記載の技術では実現することができない。
従来、ピロティ階の用途対応において制約となっている問題点としては、むしろ上層階の主柱の直下に接合されるピロティ階の主柱を排除できない、あるいはその位置を自由に設定できないという問題の方がより深刻かつ解決困難なものである。従って、特許文献1の建築物の如く、単に中間柱を省いたのみであってピロティ階の主柱の配置が上層階の主柱の配置と変わらない場合、問題点は解決されていないことになる。
また免震構造については、上記特許文献2では、建築物脚部の四隅に設けた支承及びダンパは縦方向にのみ有効であるので、別途中央部に水平方向変位を抑制する剪断抵抗部材を配置しなければならない。しかしながら、ピロティ階を設けた建築物では、ピロティ階の中央部にこのような剪断抵抗部材を必ず配置することは空間自由度を大幅に制限することになる。
上記特許文献3では、既存のピロティ階の柱と構造梁に対して免震手段を付加したのみであり、ピロティ階の用途対応性を向上させる自由度の実現は課題としていない。さらに免震手段についても、巨大地震に対する配慮はされていない。
以上述べた通り、ピロティ階には様々な用途(主に非居住系の)対応性が求められている。そのためにはピロティ階の構造支持手段が、上層階に比べて大区画の開放空間に対応でき、かつ中間位置(外周部、中央部を問わず)に柱を設ける場合はその柱の位置の自由度を有するという空間上のフレキシビリティを獲得することが重要課題となる。
本発明は、ピロティ階を設けた建築物において、上層階においてラーメン構造を構成する構造柱(主柱か中間柱かによらない)に接合されるべきピロティ階における構造柱を減数できると同時に、ピロティ階における構造柱の位置に自由度を付与することができる構造であって、かつ上層階のための免震機能をピロティ階において実現することを目的とする。
上記の目的は、以下の本発明の構成により達成される。
(1)請求項1に係る免震ピロティ階をもつ建築物は、複数階からなり梁と柱で構成されるラーメン構造の上層階と、その下層階であって1または複数の階からなるピロティ階とを設けた免震建築物において、
前記ピロティ階の少なくとも一辺における両端部のそれぞれに立設された構造支持手段と、
前記ピロティ階の上端において前記一辺に沿って延設された構造梁と、
前記構造支持手段の頭部と前記構造梁との間に設けた第1の免震手段と、
前記上層階における水平方向に位置する少なくとも2つの柱の両端間領域の鉛直下方にて前記構造梁から垂下しかつ前記構造支持手段のいずれからも離間した構造垂れ壁と、
前記上層階における少なくとも2つの柱より少数であって該上層階からの荷重を前記構造垂れ壁を介して受けるべく該構造垂れ壁の下端におけるいずれの位置の下方にも設置可能な構造中柱と、
前記構造中柱の頭部または脚部に設けた第2の免震手段を有することを特徴とする。
(2)請求項2に係る免震ピロティ階をもつ建築物は、請求項1において、前記構造中柱の頭部に設けた前記第2の免震手段がアイソレータ及びダンパーの双方の機能を含むことを特徴とする。
(3)請求項3に係る免震ピロティ階をもつ建築物は、請求項1において、前記構造中柱の脚部に設けた前記第2の免震手段がアイソレータの機能を含むことを特徴とする。
(4)請求項4に係る免震ピロティ階をもつ建築物は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記構造支持手段の少なくとも一方と前記構造垂れ壁とを連結する外力エネルギー吸収手段を有することを特徴とする。
(5)請求項5に係る免震ピロティ階をもつ建築物は、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記構造支持手段の一方が前記一辺に沿って延びる構造壁でありかつ他方が隣り合う辺に沿って延びる構造壁であることを特徴とする。
(6)請求項6に係る免震ピロティ階をもつ建築物は、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記構造支持手段の一方が前記一辺に沿って延びる構造壁でありかつ他方が構造柱であることを特徴とする。
(7)請求項7に係る免震ピロティ階をもつ建築物は、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記構造支持手段の双方が構造柱であることを特徴とする。
(8)請求項8に係る免震ピロティ階をもつ建築物は、複数階からなり梁と柱で構成されるラーメン構造の上層階と、その下層階であって1または複数の階からなるピロティ階とを設けた免震建築物において、
前記ピロティ階の一辺における一方の端部に立設された構造支持手段と、
前記ピロティ階の上端において前記一辺に沿って延設された構造梁と、
前記構造支持手段の頭部と前記構造梁との間に設けた第1の免震手段と、
前記上層階における水平方向に位置する少なくとも2つの柱の両端間領域の鉛直下方にて前記構造梁から垂下しかつ前記構造支持手段から離間した構造垂れ壁と、
前記上層階における少なくとも2つの柱より少数であって該上層階からの負荷を前記構造垂れ壁を介して受けるべく該構造垂れ壁の下端におけるいずれの位置の下方にも設置可能な構造中柱と、
前記構造中柱の頭部または脚部に設けた第2の免震手段とを有することを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、ラーメン構造の上層階とその下層階であるピロティ階とを設けた建築物が、ピロティ階の隅部に立設された構造支持手段の頭部と構造梁との間に第1の免震手段を有する。さらに、構造梁から垂下する構造垂れ壁と、構造垂れ壁下端のいずれの位置にも設置可能な構造中柱とを有する。構造中柱の頭部または脚部には第2の免震手段を有する。構造垂れ壁は、上層階において水平方向に位置する少なくとも2つの柱の両端間領域の鉛直下方に位置する。また、構造垂れ壁は両端の構造支持手段のいずれからも離間している。
上記構成では、上層階からの鉛直方向の力の負荷を構造垂れ壁において収束し、負荷集約してその下端の任意の位置の下方に設置された構造中柱へと伝え、支持することができる。この結果、ピロティ階の構造中柱の数は、上層階の柱の数より少なくすることができる。これによりピロティ階の両端部の構造支持手段は、上層階に比べて大区画の開放空間に対応でき、様々な用途対応が可能となる。
加えて、構造中柱は、構造垂れ壁下端の範囲内でいずれの位置の下方にも設置することができる。これにより構造中柱と両端の構造支持手段の間のスパンの自由度が付与される。例えば、構造垂れ壁と構造中柱を設けた辺上にピロティ階の出入口とするための開口部を設ける場合、構造中柱の位置によってその開口部の幅を自在に設定できる。
請求項1において構造支持手段の頭部と構造梁の間すなわちピロティ階の上部に第1の免震手段を設けることには、以下のような効果がある。
斯かるピロティ階上部の免震手段は、ピロティ階と上層階との間においてアイソレータ機能またはこれに加えてダンパー機能を発揮し、地震動による変位及び/またはエネルギーに対応することが可能となる。これによりピロティ階において上層階の免震を図ることができる。
ピロティ階の上部に免震手段を設けることは、ピロティ階の基礎部分に免震手段を設けることに比べて、地震時における免震層(免震手段を設けた部分)の水平相対変位を比較的安全かつ容易に大きくとることができるという利点がある。なぜならば、2階床より高いレベルで建築物が比較的大きく水平相対変位しても、建築物周辺に居合わせた地上の人や車や塀等に衝突する可能性は低いからである。よって、これらの地上の人や車等に対する安全性を向上させることができる。
そして、地震時の免震層の水平相対変位を比較的大きくとることができれば、5〜6秒の長周期免震機能が合理的に獲得でき巨大地震に対して十分に有効な建築物となる。
さらに、ピロティ階上部に免震手段を設けることは、ピロティ階の基礎部分に免震手段を設けることに比べて点検やメンテナンスが容易であり、基礎免震層のある地下ピットを設ける必要がないのでコストダウンと工期短縮を図ることができ、地下ピットに浸入する雨水等の処理も不要となる。
またさらに、ピロティ階上部に免震手段を設けることは、剛性や固有周期の異なる上層階と下層階とのダイレクトな負荷伝達をやわらげることから建築物全体の構造上の安全性を高めることができる。
またさらに、ピロティ階上部に免震手段を設けることは、上層階の柱から荷重負荷等が集約されて伝達される構造支持手段に免震手段を設けることになり、免震手段を設ける箇所数を少なくして比較的大型の免震手段を設けることが容易になる。これにより、5〜6秒の長周期免震機能を獲得でき巨大地震に対して十分に有効な建築物となる。なぜならば、免震手段のアイソレータ機能の大きさに応じて水平相対変位を大きくとることができるからであり、また大型の免震手段は比較的大きな荷重負荷がないと十分に免震機能を発揮しないからである。
次に、請求項1において構造中柱の頭部または脚部に第2の免震手段を設けることには、以下のような効果がある。
前述のようにピロティ階上部に第1の免震手段を設けたことにより、仮に構造垂れ壁と構造中柱とが直接接合されているとするとその接合部が地震時に損壊または変形等するおそれがある。また、損壊しないまでも第1の免震手段の働きを阻害するおそれもある。従って、構造中柱の頭部または脚部に第2の免震手段を設けることにより、地震時に水平相対変位が生じたとき構造中柱とその上方の構造垂れ壁との連結を絶縁し、または、構造中柱とその下方のピロティ階下部との連結を絶縁することにより、構造中柱の頭部または脚部における接合部の損壊を防止しかつ構造支持手段の頭部に設けた第1の免震手段を十分に機能させることができる。
以上のように、請求項1においては、ピロティ階の構造支持手段、構造梁、構造垂れ壁、構造中柱により構成された架構によって上層階の柱からの荷重負荷等がピロティ階の構造支持手段と構造中柱に集約伝達されると同時に、地震時等には構造支持手段の頭部に設けた第1の免震手段に対して負荷が有効に作用する。さらに、構造中柱の頭部または脚部に設けられた第2の免震手段によって構造中柱の損壊等を防止すると同時に第1の免震手段を有効に機能させる。
このように、ピロティ階の架構と第1及び第2の免震手段とが合理的に一体化することにより、地震に対しては水平相対変位を大きくとって固有周期の長周期化及び/またはエネルギー吸収を有効に行い、強風に対しては水平相対変位の回避を行い、揺れや振動に関して安全かつ居住性の高い建築物を実現している。加えて、ピロティ階上部に第1の免震手段を設けること並びに構造中柱の頭部または脚部に第2の免震手段を設けることは、ピロティ階の空間自由度を必要十分に獲得できる点でも好ましい。
請求項2に係る発明では、構造中柱の頭部に第2の免震手段を設ける場合に、アイソレータ及びダンパーの機能をもつものとする。アイソレータ機能により地震時の水平相対変位による損壊等を防止すると共に、ダンパー機能によりエネルギー吸収を行う。特に構造中柱には上層階からの負荷が構造垂れ壁を介して集約されるため、その負荷がアイソレータに対して有効に作用する。請求項2においては、ピロティ階による免震機能をさらに補強することができる。
請求項3に係る発明では、構造中柱の脚部に第2の免震手段を設ける場合に、アイソレータの機能をもつ免震手段を設けており、地震時の水平相対変位による損壊等を防止することができる。
請求項4に係る発明では、構造支持手段の少なくとも一方と構造垂れ壁とを連結する外力エネルギー吸収手段を有することによりダンパー機能を補強することができる。構造支持手段との連係により強風による揺れを抑制し耐風性を向上させることができる。外力エネルギー吸収手段は、互いに離間した構造支持手段と構造垂れ壁とを連結するので、連結方向を適宜設定することによりXYZ3軸方向またはXY2軸方向において作用するように選択できる。また、その設置位置は、ピロティ階内部の空間自由度に影響しない。
請求項5に係る発明では、構造支持手段を構造壁としたことにより、水平力に対する支持力が向上する。特に、強風時及び地震時の短期的な力の負荷を負担するために有効である。このように、ピロティ階隅部を構造壁とし、外周の辺上に位置する構造中柱と組み合わせた形態は、短期的及び長期的な荷重負荷のいずれにも有効な本発明の最適形態である。この構造壁と構造中柱との組合せは、地震及び強風に十分に対応できると同時に、構造中柱の接合位置の自由度により種々の用途に好適な空間を自在に設計することを可能とする。
構造支持手段を構造壁とした請求項5の構成は、その適用対象とする建築物の高さを限定しないが、特に高層及び超高層建築物に好適である。低層または中層建築物に比べて自重及び積載荷重の大きな高層または超高層建築物では、地震力よりもむしろ風圧力に対応することが非常に重要であり、構造壁は構造柱より適している。
また、同じ荷重負荷を支持する場合、一般的に、壁は柱と比べて厚みが薄い。従って、構造支持手段を柱ではなく壁とすることにより、壁厚方向においては空間を広くとることが可能となる。
さらにまた、ピロティ階の外周辺上に延びる構造壁と構造垂れ壁とを外力エネルギー吸収手段で連結した場合は、強度のある構造壁に対して外力エネルギー吸収手段を連結するので特に好ましい。
請求項6に係る発明では、構造支持手段の一方を構造壁、他方を構造柱としたことにより、一方の構造壁については請求項5について記載したように水平力に対する支持力が得られる。また、構造壁はピロティ階の一辺に沿って延びるため、それにより開口の大きさを狭める場合があり得るが、構造柱とすることにより、構造壁に比べてこの辺上における開口をより広くとることが可能となる。
請求項7に係る発明では、構造支持手段の双方を構造柱としたことにより、構造壁とした場合と比べてこれらを両端とする辺上の開口をより広くとることが可能となる。
請求項8に係る発明では、上記のピロティ階の一辺上の両端部に構造支持手段を設けた請求項1に係る発明と異なり、一方の端部にのみ構造支持手段を設けている。この場合も、構造梁から垂下する構造垂れ壁により上層階からの鉛直方向の負荷を収束し、構造中柱へと伝える。これにより、ピロティ階の構造中柱の数を、上層階の柱の数より少なくすることができる。特に本構成では、辺上の他方の端部に構造支持手段がないため、より広い空間をとることが可能となる。また、構造垂れ壁の位置を他方の端部まで寄せることができるため構造中柱の位置のフレキシビリティも向上する。免震手段の効果については請求項1と同様である。
上記の各請求項に係る発明におけるピロティ階は、地震と強風に対する安全性能を確保できると同時に、商業施設や事務所、介護施設、病院、駐車場等の種々の用途に好適な空間を自在に設計することが可能となる。これにより、限られた都市空間の中で建築空間の有効利用を図る上で必要な空間特性を実現することができる。
また、ピロティ階において構造梁に接合するスラブを耐火構造とし、また構造支持手段と構造梁の間に設ける第1の免震手段に耐火被覆を施すことによって、上層階とピロティ階とを区画遮断することができる。これにより、ピロティ階を全て施設として使用することが可能となる。また、ピロティ階において、自立した構造体を有するスラブを1または複数設けることにより、自由な施設のレイアウトや吹き抜け、階段やエスカレータの設置が可能となる。
さらに、ピロティ階における構造梁及び/または構造垂れ壁の存在により比較的大きな天井空間を確保できるため、構造支持手段と構造垂れ壁とを連結する外力エネルギー吸収手段を設けることが容易である。また、上層階から降下してくる設備配管類の設置自由度が向上する。例えば、ピロティ階の天井空間において複数の設備配管類をまとめ、水平方向へ屈曲させて構造垂れ壁及び構造中柱の位置まで誘導してその位置から降ろしたり、建築物外部へ導出したりできる。この点から、本発明による構造は、SI分離工法(建物構造躯体であるスケルトンと、配管や内装を含むインフィルとを分離して施工する工法)にも好適である。
比較的大きな天井空間を確保できることによる別の効果として、この天井空間に付加的な階層(例えば構造梁からの吊り下げ構造)を設けることもでき、ピロティ階の多用途性がさらに向上する。
以下、図面に示した実施例を参照しつつ本発明の形態を説明する。
図1は、本発明による免震ピロティ階をもつ建築物の架構を概略的に示す斜視図である。建築物1は、複数階からなり梁と柱で構成されるラーメン構造の上層階2と、その下層階であって1または複数の階からなるピロティ階3とを設けたものである。本発明の適用対象は、好適には高層及び超高層建築物であるが、低層及び中層建築物にも適用可能であり階数は限定されない。また、上層階及びピロティ階の構造種別は、それぞれ鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造、コンクリート充填鋼管造等のいずれも可能である。また、プレキャストコンクリート造として予め工場生産して現場手間を削減し、短工期化を図ることもできる。
一般的に、上層階2は、集合住宅、SOHO、小規模事務所、ホテル、社員寮等の比較的小さい区画を必要とする用途に使用される。一方、下層階であるピロティ階3は、商業施設、大規模事務所、介護施設、病院、駐車場等の比較的大きい区画を必要とする用途に使用される。
複数階からなる上層階2は、柱51と梁61とで構成されるラーメン構造により構築される。このラーメン構造の柱51は、安全基準及び建設コストに基づき適正に設定される一般的なスパンで立設される。尚、本明細書では、上層階2の柱及び梁については「構造柱」及び「構造梁」と称さないが、これは後述するピロティ階における構造柱及び構造梁と区別するためであり、上層階2における柱及び梁もまた、当該建築物の構造耐力上主要な部分に用いられる部材である。
ピロティ階3の平面形状は、一般的に、四辺からなる正方形または長方形である矩形が構造上望ましいが、構造力学上許容できる限りにおいて他の形状(四辺以外の辺数の多角形、隅部が直角以外の多角形、凹部をもつ多角形等)であってもよい。図1に実施例として示すピロティ階3は、矩形平面形状の四隅に構造支持手段として構造壁11がそれぞれ立設されている。各構造壁11は、矩形平面形状の各辺に沿って所定の幅だけ延びている。ピロティ階3の上端において矩形平面形状の外周を囲むように各辺に沿って構造梁41が延設されている。構造梁41は、上層階2の柱51を受けている。
さらに、構造梁41から構造垂れ壁21が垂下し、構造垂れ壁下端の下方に構造中柱31が設置されている。構造垂れ壁21は、構造梁41の両側に立設された構造支持手段である構造壁11のいずれとも離間している。また、図1の例では、構造垂れ壁21の上端の鉛直上方には構造梁41を介して上層階2の2つの柱51が立設されている。言い換えるならば、上層階2における隣り合う2つの柱51同士の間に亘る領域の鉛直下方に、構造梁41を介して構造垂れ壁21が位置することになる。図1では構造垂れ壁21は直方体形状であり、構造垂れ壁21の下端は、ピロティ階3の全高のほぼ中間の高さ位置にある。
構造中柱31は、構造垂れ壁12の下端の下方からピロティ階3の下端まで延びている。図1では、構造中柱31が構造垂れ壁21の下端のほぼ中央下方に設置されているが、構造中柱31は構造垂れ壁21の下端のいずれの位置の下方にも設置可能である。
図1の例では、上層階2における2つの柱51が、構造梁41を介してピロティ階3の構造垂れ壁21及び1つの構造中柱31により支持されることとなる。従って、上層階2における2つの柱がピロティ階3において1つの構造中柱に減数されたことになる。加えて、構造中柱31の位置は、構造垂れ壁21に連結可能な範囲内で設置位置に自由度をもつ。これにより、構造中柱31と両端部の各構造壁11との間のスパンにフレキシビリティをもたせることができる。
さらに、ピロティ階3の四隅の構造壁11の頭部と構造梁41との間には、第1の免震手段71が設けられている。免震手段71は、少なくとも水平剛性の低い絶縁装置(アイソレータ)の機能を具備する。低層建物の場合はこれにより長周期化することで中小規模地震の地震動周期を回避することが可能となる。このような機能をもつ免震手段としては積層ゴムやローラー形免震装置があるが、同機能をもつものであればいずれも使用できる。
さらに免震手段71は、アイソレータ機能に加えてダンパー機能を具備することにより、地震動エネルギー吸収を行うことが好適である。例えば鋼棒ダンパーや鉛ダンパーなどがある。免震手段71の好適例は、鉛ダンパーをプラグとして積層ゴム内に封入した一体型のものであるが、同機能をもつものであればいずれもしようできる。
以上のように、第1の免震手段71としては、アイソレータ機能のみを備えた装置、またはアイソレータ機能とダンパー機能の双方を備えた装置のいずれかを使用する。
また、第2の免震手段73が、構造中柱31の頭部に設置されている。構造中柱31は、第2の免震手段73を介して構造垂れ壁21と連結されていることになる。第2の免震手段73は、地震動に対して構造中柱31を構造垂れ壁21から絶縁しかつ地震動エネルギーを吸収するために設けられ、アイソレータ機能とダンパー機能の双方を備えた装置を使用する。これについては、後の図2において詳述する。
さらにまた、構造壁11と構造垂れ壁41を連結する外力エネルギー吸収手段81を設けることも好適である。外力エネルギー吸収手段81は、免震手段71がアイソレータ機能のみの場合に組み合わせて用いられ、ダンパー機能を具備する。しかしながら、免震手段71がアイソレータ機能とダンパー機能を併せもつ場合でも外力エネルギー吸収手段81をさらに組み合わせることにより、様々な地震周期の揺れに対してエネルギーを吸収することができ、免震機能を強化することができる。外力エネルギー吸収手段81は、例えばオイルダンパーや鋼材系弾塑性ダンパー等であるが、同機能をもつものであればいずれも使用できる。これらは安定した減衰力と復元力の特性を備えており、特に大きな水平変形に対応できる。
図2〜図17は、ピロティ階の外周上の一辺に構造垂れ壁、構造中柱、免震手段及び外力エネルギー吸収手段を設けた種々の実施例を示した建築物の部分正面図である。各実施例は、ピロティ階の外周上の全ての辺に対して設けてもよく、一部の辺に対して設けてもよい。
図2は、ピロティ階3が1階と2階の2層からなる例である。各層の階高はそれぞれ異なっていてもよい。図1の例と同様に、ピロティ階3の一辺の両端部にそれぞれ立設された構造支持手段は構造壁11である。ピロティ階3の上端には構造梁41が延設されている。構造壁11の頭部と構造梁41との間には第1の免震手段71が設けられている。
構造梁41から垂下する構造垂れ壁21は直方体形状であり、構造垂れ壁21の下端は、ピロティ階3における2階下端位置にある。構造垂れ壁21の両端は、いずれの構造壁11からも離間している。そして、構造垂れ壁21の下端に接合された構造中柱31が、ピロティ階3における1階の下端まで延びている。構造中柱31は、両矢印でその自由度を示す通り、構造垂れ壁21の下端の下方であればいずれの位置にも設置できる。図2中の点線は、構造中柱31の最端位置を示している。構造垂れ壁21は、上層階2における水平方向に位置する中央の2つの柱51aと51bの間に亘る領域の鉛直下方に位置し、構造梁41を介して延在している。尚、上層階の柱51のうち、構造垂れ壁21が構造梁41を介して受けることになる柱を51a、51b..の符号で示すこととする。
さらに同じ辺上に位置する構造壁11と構造垂れ壁21とは、外力エネルギー吸収手段81により連結されている。図2の外力エネルギー吸収手段81は水平連結されるオイルダンパーと斜方連結されるオイルダンパーの2本を組み合わせており、XYZ3軸方向の変形に対応できる。オイルダンパーの替わりに鋼材系弾塑性ダンパーを用いてもよい。
図2を参照して、本発明における上層階2からピロティ階3へそしてピロティ階3から基礎(図示せず)への構造上の力の負荷の伝わり方を説明する。先ず、上層階2の中央の2つの柱51a、51bの鉛直方向の負荷が構造梁41を介して構造垂れ壁21に伝わる。そして、構造垂れ壁21の内部で負荷が収束され、構造垂れ壁21の下端に第2の免震手段73を介して連結された1つの構造中柱31に負荷集約されて伝わり、その後さらに基礎へと伝わる。
こうして、ピロティ階3における長期的な荷重等の負荷は、隅部に配置された構造壁11と辺上に配置された構造中柱31との組合せにより負担する。一方、強風時及び地震時等における短期的な力の負荷は主として隅部に立設された構造壁11が負担する。この点で、ピロティ階3の隅部の全てを構造壁で構成することが最適である。
尚、構造梁41の形状及び寸法、構造壁11の厚さ及び幅、構造垂れ壁21の厚さ、幅及び高さ、並びに構造中柱31の形状(円柱か角柱か等)、径及び長さ等は、構造力学的なバランスがとれるように適宜設計する。以下の各実施例においても同様である。これにより、地震と強風に対応する必要十分な安全性能を確保することができる。
さらに図2では、第2の免震手段73が構造中柱31の頭部に設けられている。構造中柱31の頭部に設けられる第2の免震手段73はアイソレータ機能とダンパー機能の双方を備えることが好適である。上述の第1の免震手段を設けたことにより地震時にピロティ階3は上層階2に対して水平相対変位することとなるが、第2の免震手段73を設けない場合は構造中柱31と構造垂れ壁21との接合部が損壊または変形等するおそれがある。よって、アイソレータを設けることにより構造中柱31と構造垂れ壁21とを絶縁し、水平相対変位に対応する。このとき、構造中柱31はピロティ階3の下部と共に変位することとなる。構造中柱31には上層階2からの負荷が構造垂れ壁21を介して集約されるため、第2の免震手段のアイソレータ機能は効果的に機能することができる。さらに第2の免震手段73はエネルギー吸収を行うダンパー機能も有することが好適である。構造中柱31の頭部に設ける第2の免震手段73としては、例えば、鉛ダンパープラグ入り積層ゴムを使用できるが、同機能をもつものであればいずれも使用できる。
図3の例では、第2の免震手段74が構造中柱31の脚部に設けられている。構造中柱31の脚部に設けられる第2の免震手段74はアイソレータ機能を備えることが好適である。上述の第1の免震手段を設けたことによる地震時のピロティ階3の上層階2に対する水平相対変位に対応するために、第2の免震手段74が構造中柱31とピロティ階下端とを絶縁する。このとき構造中柱31は構造垂れ壁21に直接接合されているので構造垂れ壁21と共に変位する。構造中柱31の脚部に設ける第2の免震手段74としては、積層ゴムやローラー形免震装置を使用できるが、同機能をもつものであればいずれも使用できる。
図4は、図2とほぼ同様の実施例であるが、正面が三角形状の構造垂れ壁22を設けている。構造垂れ壁22の上端が三角形の底辺であり下端が三角形の頂点となる。構造垂れ壁22と構造中柱31との連結部は、三角形の頂点の位置にある。図4中の点線は、構造中柱31の最端位置とそのときの構造垂れ壁22の形状を示している。
図5は、図2とほぼ同様の実施例であるが、構造垂れ壁23が開口部または壁厚方向に窪んだ凹部を具備する。これらの開口部または凹部の位置及び大きさは、上述の構造上の力の負荷の伝達機構に影響を及ぼさないよう構造力学上のバランスを考慮して設計する。
図6は、ピロティ階3が1階、2階及び3階の3層からなる例である。各層の階高がそれぞれ異なっていてもよい。図2の例とほぼ同様であるが、ピロティ階3の一辺の両端部にそれぞれ立設された構造支持手段は、3層分の高さをもつ構造壁12である。この場合も構造壁12の頭部と構造梁41との間には第1の免震手段71が設けられ、構造壁12と構造垂れ壁21を外力エネルギー吸収手段81が連結している。構造梁41から垂下する構造垂れ壁21は直方体形状であり、構造垂れ壁21の下端は、ピロティ階3における3階下端位置にある。そして、構造垂れ壁21の下端には、第2の免震手段73を介して、1階と2階を加えた長さをもつ構造中柱32がピロティ階3の1階下端まで延びている。図2の例と同様に構造中柱32は、両矢印で示す通り、構造垂れ壁21の下端であればいずれの位置にも連結できる。図6中の点線は、構造中柱32の最端位置を示している。構造垂れ壁21は、上層階2における水平方向に連続する中央の2つの柱51a、51bの間に亘る領域の鉛直下方に位置し、構造梁41を介して延在している。
図7は、図2の例と同様にピロティ階が2層からなる例である。図7の例では、構造垂れ壁24が、上層階2における水平方向に位置する3つの柱51a、51b、51cの鉛直下方に位置し、構造梁41を介して延在している。さらに、2つの構造中柱33a、33bが、構造垂れ壁24の下端に第2の免震手段73を介してそれぞれ連結されている。各構造中柱33a、33bを連結可能な範囲をそれぞれ両矢印で示す。図示の通り、左側の構造中柱33aは、構造垂れ壁24が受ける上層階2の柱51aと51bの間の領域の鉛直下方で連結位置を選択でき、一方、右側の構造中柱33bは、構造垂れ壁24が受ける上層階2の柱51bと51cの間の領域の鉛直下方で連結位置を選択できる。図7中の点線は、各構造中柱33a、33bのそれぞれのの最端位置を示している。
図7の例では、上層階2における3つの柱51a、51b、51cが、構造梁41を介してピロティ階3の構造垂れ壁24及び2つの構造中柱33a、33bにより支持されることとなる。従って、上層階2における3つの柱がピロティ階3において2つの構造中柱に減数されたことになる。また、構造中柱33a及び33bの各々と両端部の各構造壁11との間、並びに、構造中柱33aと33b同士の間のスパンにフレキシビリティをもたせることができる。
図8は、図2の例と同様にピロティ階が2層からなり、また図7の例と同様に構造垂れ壁25が上層階2における3つの柱51a、51b、51cの鉛直下方に位置し、構造梁41を介して延在している。図8の例では、1つの構造中柱34が構造垂れ壁25の下端に第2の免震手段73を介して連結されている。構造中柱34を連結可能な範囲を両矢印で示す。図示の通り、構造中柱34は、構造垂れ壁25が受ける上層階の柱51a〜51cの間の領域の鉛直下方で連結位置を選択できる。図8中の点線は、構造中柱34の最端位置を示している。
図8の例では、上層階2における3つの柱51a、51b、51cが、構造梁41を介してピロティ階3の構造垂れ壁25及び1つの構造中柱34により支持されることとなる。従って、上層階2における3つの柱がピロティ階3において1つの構造中柱に減数されたことになる。また、構造中柱34と両端部の各構造壁11との間のスパンにフレキシビリティを付与できる。
図9の例は、図2の例とほぼ同じ構造であるが、構造壁11と構造垂れ壁21とを水平方向に連結する1つの外力エネルギー吸収手段82を具備する点が異なる。この外力エネルギー吸収手段82は水平方向の変位に対応する。同様に、図10の例は、図4の例とほぼ同じ構造であり、1つの外力エネルギー吸収手段82が構造壁11と構造垂れ壁21を水平連結している。また同様に、図11の例は、図5の例とほぼ同じ構造であり、1つの外力エネルギー吸収手段82が構造壁11と構造垂れ壁21を水平連結している。
図12〜図14は、ピロティ階に設ける構造垂れ壁の種々の実施例を示す正面図である。図12〜図14に示す構造垂れ壁26は、鉄骨トラス構造からなる。鉄骨は、断面がH形、円形または角形のいずれでもよく、直方体形状の外郭構成部材と、その内側にて斜方向に延びる負荷伝達部材とを具備する。斜方向に延びる負荷伝達部材は、上層階の柱51a、51bからの荷重を構造中柱31へ伝達する。
図13または図14における外力エネルギー吸収手段83または84は、鋼材系弾塑性ダンパーまたはオイルダンパーの種々の取り付け形態の一例を示している。これらの取り付け形態は、図2〜図11の例における外力エネルギー吸収手段81に替えて適用できる。
図15〜図17は、本発明のさらに別の実施例を示す。図15の例は、構造梁41の周囲に突出するバルコニー部42を設けている点以外は、図2の例と同じである。第1の免震手段71を設けたことにより、バルコニー部42がその幅以上に水平方向変位することを抑制できる。
図16の例では、ピロティ階の一辺上の両端部の構造支持手段が双方とも構造柱52である。上述の通り、隅部の構造支持手段としては、構造壁の方が水平力に対する支持力に優れるため、特に高層及び超高層建築物では両端部とも、または少なくとも一端部を構造壁とすることが望ましいが、構造力学上許容できる限りにおいて両端部とも構造柱としてよい。階層が高い建築物では、より断面積の大きい柱またはより強度のある柱を用いるべきである。尚、図16では、2つの外力エネルギー吸収手段81が構造垂れ壁21と両端部の構造柱52の各々とをそれぞれ連結している。図16以外の例においても、必要に応じて外力エネルギー吸収手段81を構造垂れ壁21の両側に設けてもよい。外力エネルギー吸収手段81は、エネルギー吸収量が大きい点では両側に設けることが好ましいが、変位の自由度が大きい点では片側のみに設けることが好ましい。その他の条件に応じて適宜選択される。
図17の例では、ピロティ階の一辺上の一方の端部にのみ構造壁11設け、他方の端部には構造支持手段を設けていない。この場合図示のように、構造支持手段のない隅部にまで構造垂れ壁27を寄せて設置することも可能である。この実施例では、構造壁や構造柱がない隅部における設計上のフレキシビリティは大きいが、構造力学上許容される限りにおいてであることはもちろんのことである。
以上、図2〜図17に実施例を示したように、本発明では、上層階2における水平方向に位置する複数の柱51a、51b..の両端間領域の鉛直下方において、ピロティ階3の構造梁41から垂下する構造垂れ壁21を設け、構造垂れ壁の下端からピロティ階の下端まで延びる構造中柱31を設け、構造支持手段と構造梁との間に第1の免震手段71を設け、そして構造中柱31の頭部または脚部に第2の免震手段73または74を設けた免震建築物構造が提示される。さらに構造支持手段と構造垂れ壁とを外力エネルギー吸収手段81で連結することが好適である。この構造における構造中柱31の数は、当該上層階における連続する複数の柱51a、51b..よりも減数した数であり、かつ構造中柱31は、構造垂れ壁21の下端における連結可能な範囲でその位置を自在に選択できる。尚、本発明において構造垂れ壁及び構造中柱により受けることができる上層階の柱の数及び省略される柱の数は特に限定されないが、構造力学上許容される限りにおいてであることはいうまでもない。
また、本発明の最適な形態は、ピロティ階隅部の構造支持手段を構造壁11とした場合である。隅部の構造壁11と辺上の構造中柱31と組み合わせた形態は、短期的及び長期的な荷重負荷のいずれにも有効であり、地震と強風に必要十分に対応できる。特に、高層及び超高層建築物においてその真価を発揮することができる。それと同時に、構造中柱31の連結位置の自由度により種々の用途に好適な空間を自在に設計することができる。
さらに、構造壁と構造梁との間に第1の免震手段71及び構造壁と構造垂れ壁を連結する外力エネルギー吸収手段81により免震機能が確保できると同時に、構造中柱31の頭部または脚部に設けた第2の免震手段73または74により第1の免震手段71の免震機能が補強される。加えて、これらの構成要素がピロティ階内部の設計自由度を制限しない。
尚、以上の実施例においてピロティ階3において構造梁41に接合するスラブを耐火構造とすることによって、上層階2とピロティ階3とを区画遮断することができる。これにより、ピロティ階3を全て施設として使用することが可能となる。また、ピロティ階3において、自立した構造体を有するスラブを1または複数設けることにより、自由な施設のレイアウトや吹き抜け、階段やエスカレータの設置が可能となる。