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JP4684825B2 - 平版印刷用湿し水組成物 - Google Patents

平版印刷用湿し水組成物 Download PDF

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JP4684825B2
JP4684825B2 JP2005278067A JP2005278067A JP4684825B2 JP 4684825 B2 JP4684825 B2 JP 4684825B2 JP 2005278067 A JP2005278067 A JP 2005278067A JP 2005278067 A JP2005278067 A JP 2005278067A JP 4684825 B2 JP4684825 B2 JP 4684825B2
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Description

本発明は、平版印刷用湿し水組成物に関するものであり、より具体的には平版印刷版のオフセット印刷法に有用な湿し水組成物に関する。
平版印刷は水と油が本質的に混じり合わない性質を巧みに利用した印刷方式であり、印刷版面は水を受容し油性インキを反撥する領域と、水を反撥し油性インキを受容する領域からなり、前者が非画像領域であり、後者が画像領域である。
平版印刷法では一般的に湿し水を用いて、非画像領域を湿潤させて画像領域と非画像領域との界面化学的な差を拡大して、非画像領域のインキ反撥性と画像領域のインキ受容性とを増大させることがなされる。
湿し水は通常、濃縮液の形態で先ず供給され、使用時に水道水や井戸水などで希釈して使用される。その水道水や井戸水に含まれているカルシウムイオンなどが湿し水中の成分と反応して析出物を生成し、この析出物が印刷機のロールに付着して印刷に悪影響を与える原因となることがある。
さらに近年、環境保全の観点から増加しつつある再生紙、さらには再生紙の白色度を高めるために、炭酸カルシウムのような多価金属の塩類を多量に含む塗工層を表面に設けた軽量コート再生紙などが増えてきており、これらの印刷用紙を用いて印刷した場合、湿し水の長期間の連続使用条件下において、湿し水が紙の表面コート層からの炭酸カルシウム粒子の脱落を誘発するという問題がある。また、印刷物の耐摩耗性向上のため、又はコスト軽減のために炭酸カルシウム顔料を多量に含有した印刷インキを用いて印刷した場合には、湿し水の長期間の連続使用条件下において、湿し水がインキ中に体質顔料、又は増量剤として添加されている炭酸カルシウム粒子、酸化カルシウム粒子などの表面を溶解し、インキのワニス成分とこれらの顔料成分の分散状態からなるインキの構造体を破壊し、インキからの顔料粒子の脱落を誘発するという問題もある。
上述のような湿し水中のカルシウムイオンに起因する析出物、あるいは印刷で使用される周辺資材(インキ、用紙など)から脱落した炭酸カルシウムなどの粒子は、印刷機のインキロール上に付着し、堆積して、インキの正常な転移性を損なうことになり、いわゆるローラーストリップ現象が発生し、印刷性の著しい劣化、具体的にはインキ着肉性の劣化を引き起こすという問題がある。
さらに近年、環境保全の観点から増加しつつある再生紙、さらには再生紙の白色度を高めるために、炭酸カルシウムのような多価金属の塩類を多量に含む塗工層を表面に設けた軽量コート再生紙などが増えてきており、これらの印刷用紙を用いて印刷した場合、湿し水の長期間の連続使用条件下において、湿し水が紙の表面コート層からの炭酸カルシウム粒子の脱落を誘発するという問題がある。また、印刷物の耐摩耗性向上のため、又はコスト軽減のために炭酸カルシウム顔料を多量に含有した印刷インキを用いて印刷した場合には、湿し水の長期間の連続使用条件下において、湿し水がインキ中に体質顔料、又は増量剤として添加されている炭酸カルシウム粒子、酸化カルシウム粒子などの表面を溶解し、インキのワニス成分とこれらの顔料成分の分散状態からなるインキの構造体を破壊し、インキからの顔料粒子の脱落を誘発するという問題もある。
上述のような湿し水中のカルシウムイオンに起因する析出物、あるいは印刷で使用される周辺資材(インキ、用紙など)から脱落した炭酸カルシウムなどの粒子は、印刷機のインキロール上に付着し、堆積して、インキの正常な転移性を損なうことになり、いわゆるローラーストリップ現象が発生し、印刷性の著しい劣化、具体的にはインキ着肉性の劣化を引き起こすという問題がある。
これらの問題を解消するために、湿し水中にカルシウム封鎖剤として、カルシウムとキレート可能な化合物を添加することが提案されている(例えば特許文献1〜4参照。)。特許文献1には特定の生分解性型キレート剤が記載されている。これらの化合物は湿し水中に溶解しているカルシウムに対してキレートし、水可溶性の塩を形成することで、pH緩衝性成分として湿し水中に含有される有機酸や炭酸がカルシウムと水に難溶性の塩を形成し析出することを防止する効果を持つ。その一方でこれらの化合物は、インキや用紙に含有される炭酸カルシウムなどからカルシウムイオンを溶出して、湿し水中のカルシウムイオンの濃度を上げてしまう効果も有するため、長期間使用するにつれて湿し水中のカルシウム濃度が上昇してしまい、結果的にインキロール上への有機酸や炭酸のカルシウム塩析出を抑制することが充分にできない。
特許文献2には特定の有機ホスホン酸を湿し水に含めることが提案されている。この化合物はインキや用紙からのカルシウムイオンの溶出を起こしにくいものであるが、カルシウムとのキレート化合物の安定性が充分でない。そのため一旦水溶性のカルシウムキレートを形成しても、時間が経過すると有機酸や炭酸との塩交換が起きてしまい、水難溶性である有機酸のカルシウム塩や炭酸のカルシウム塩の析出を充分に抑制できない。
またこれらのキレート剤を併用した場合には、印刷版のアルミ支持体の砂目表面を溶解する傾向が強く、ロングランの刷り込み印刷を行うと地汚れが発生してしまう場合があった。
また特許文献3及び特許文献4には、キレート剤としてジエチレントリアミン五酢酸又はその塩が提案されている。この化合物を湿し水組成物に含有させた場合、インキロール上への有機酸や炭酸のカルシウム塩析出が起きにくくはなる傾向はあるものの、完全にローラーストリップを抑制するまでには到らなかった。
特開平11−291659号公報 特開2001−105764号公報 特開平7−186567号公報 特開2002−254852号公報
本発明の目的は、従来の技術にある問題を解消し、インキや用紙からのカルシウムの溶出を促進せずに、且つ良好なカルシウム封鎖効果を発揮し、印刷機のインキロール上へのカルシウム塩などの析出を防止するとともに、炭酸カルシウムなどの無機顔料粒子の付着、堆積を防止することによって、インキロール上のインキ剥げ(ローラーストリップ現象)の発生を抑制し、良好な印刷適性を示す平版印刷用湿し水組成物を提供することにある。本発明の目的はまた、ロングラン印刷を行った場合にも汚れなどの問題が発生することなく安定した印刷適性を発揮し、優れた印刷物を得ることができ、長時間の安定した連続印刷が可能な平版印刷用湿し水組成物を提供することにある。
本発明者は、上記課題を達成するために平版印刷用湿し水組成物について研究を重ねた結果、特定の化合物を組み合わせて使用することにより、優れた湿し水組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
従って本発明は、下記一般式(I):




Figure 0004684825

(式中、M1〜M5はそれぞれ独立して水素原子、Na、K、NH4又はN(R)4(Rは置換又は未置換のアルキル基を表す。)を表す。)
で示される化合物、
下記一般式(II):
6NO3 (II)
(式中、M6は水素原子、Na、K、NH4又はN(R)4(Rは置換又は未置換のアルキル基を表す。)を表す。)
で示される化合物、及び
下記一般式(III):
Figure 0004684825

(式中、A及びBはそれぞれ独立に−CH2CH2O−又は−CH2CH(CH3)O−を表し、A及びBは互いに異なる基であって、a〜hは各々0以上の整数を表し、a〜hは−CH2CH2O−の合計モル数が2〜10、及び−CH2CH(CH3)O−の合計モル数が4〜30となる値を表す。)で示される化合物
を含有することを特徴とする、平版印刷用湿し水組成物である。
本発明は、特定構造のキレート剤、硝酸又は硝酸塩、及びエチレンジアミンにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加させた化合物を組み合わせることにより、カルシウム塩の析出や炭酸カルシウムなどのインキロール上への付着、堆積が抑制されるという特異な現象が起こり、ローラー剥げの発生が抑制されるという、従来知られていなかった効果が得られ、かつインキの過大な乳化を起こさずにインキの乳化安定性が向上することを見出したものである。
本発明の実施態様として、さらに下記一般式(IV)で示される化合物及び/又は2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを含有させることができる。
1O−(−CH2CH(R2)−O−)m−H (IV)
(式中、R1は炭素原子数3〜8のアルキル基を表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、mは1〜3の整数を表す。)
本発明の好ましい実施態様として、さらにpH緩衝性を有する成分として、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、グルコン酸、乳酸及びそれらの塩類から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する上記の平版印刷用湿し水組成物がある。
本発明の平版印刷用湿し水組成物は、インキや用紙からのカルシウムの溶出を促進せずに、且つ良好なカルシウム封鎖効果を発揮し、印刷機のインキロール上へのカルシウム塩などの析出を防止するとともに、炭酸カルシウムなどの無機顔料粒子の付着、堆積を防止することによって、インキロール上のインキ剥げ(ローラーストリップ現象)の発生を充分に抑制することができる。本発明の平版印刷用湿し水組成物によればまた、長時間にわたり印刷版を交換することなく多部数の印刷を行っても、非画像部に地汚れが発生したり、網点ハイライト部分の飛びなどの画像欠落を起こすことなく、安定に高品質の印刷物を得ることができ、印刷の能率化、生産性の向上を図ることができる。
本発明の平版印刷用湿し水組成物は、印刷版面への濡れ性に優れ、またインキを過度に乳化させることがなく、長時間の連続印刷条件下においても、インキロール上のインキを印刷に好適な状態に安定に維持することができる。本発明の平版印刷用湿し水組成物によれば、印刷時に、印刷版の汚れ、ブラインディング、水負け、及びインキ着肉不良といった問題を発生させずに長期間安定に連続印刷をすることができ、印刷適性が良好である。
本発明の平版印刷用湿し水組成物はまた、印刷作業にあたって、専門的熟練を必要とすることなく、各種の連続給水式印刷機において湿し水組成物中のイソプロピルアルコールを代替することができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
湿し水は通常商業ベースとするときは濃縮化し商品化するのが一般的であり、使用するときに、そのような濃縮液を適宜希釈して湿し水として使用することになる。本明細書中では濃縮化されたものを湿し水組成物と称する。
本明細書中で以下に言及する各種成分の含有量や添加量は、特に記載しない限り、使用時の湿し水の全質量に基づいたものである。
[一般式(I)で示される化合物]
本発明の平版印刷用湿し水組成物は、下記一般式(I)で示される化合物を含む。
Figure 0004684825

(式中、M1〜M5はそれぞれ独立して水素原子、Na、K、NH4又はN(R)4(Rは置換又は未置換のアルキル基を表す。)を表す。)
式中、M1、M2、M3、M4又はM5がN(R)4(Rは置換又は未置換のアルキル基を表す。)を表すとき、該アルキル基は一般に炭素原子数1〜8のアルキル基であり、置換基としては水酸基、炭素原子数6以下のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基などが挙げられる。
上記一般式(I)で示される化合物は市場で一般に入手することができ、本発明において市販品を使用することができる。一般式(I)の化合物の市販品の例として、キレスト社製の商品名キレストPA、及びキレストPなどがある。
一般式(I)で示される化合物の湿し水における含有量は、一般に0.0005〜0.2質量%の範囲である。この化合物の含有量がこの範囲にあると、インキロール上へのカルシウム塩などの析出や炭酸カルシウムなどの無機顔料粒子の付着、堆積を防止でき、インキロール上のインキ剥げに関して充分な抑制効果が得られる点で好ましい。
一般式(I)で示される化合物の量は、より好ましくは0.001〜0.1質量%であり、特に好ましくは0.002〜0.05質量%である。
[一般式(II)で示される化合物]
本発明の平版印刷用湿し水組成物は、下記一般式(II)で示される化合物を含む。
6NO3 (II)
(式中、M6は水素原子、Na、K、NH4又はN(R)4(Rは置換又は未置換のアルキル基を表す。)を表す。)
式中、M6がN(R)4(Rは置換又は未置換のアルキル基を表す。)であるとき、該アルキル基は一般に炭素原子数1〜8のアルキル基であり、置換基としては水酸基、炭素原子数6以下のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基などが挙げられる。
一般式(II)の化合物も市販品を使用することができる。
一般式(II)で示される化合物の湿し水における含有量は、一般に0.001〜0.5質量%の範囲である。この化合物の含有量がこの範囲にあると、インキロール上へのカルシウム塩などの析出や炭酸カルシウムなどの無機顔料粒子の付着、堆積を防止でき、インキロール上のインキ剥げに関して充分な抑制効果が得られる点で好ましい。
一般式(II)で示される化合物の含有量は、より好ましくは0.005〜0.3質量%であり、特に好ましくは0.01〜0.2質量%である。
[一般式(III)で示される化合物]
本発明の平版印刷用湿し水組成物にはさらに、以下の一般式(III)で示される化合物を含ませる。
Figure 0004684825

(式中、A及びBはそれぞれ独立に−CH2CH2O−又は−CH2CH(CH3)O−を表し、A及びBは互いに異なる基であって、a〜hは各々0以上の整数を表し、a〜hは−CH2CH2O−の合計モル数が2〜10、及び−CH2CH(CH3)O−の合計モル数が4〜30となる値を表す。)
上記一般式(III)で示される化合物において、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの結合構造の例として、先にエチレンオキサイドを付加し、その後プロピレンオキサイドを付加したブロック構造、先にプロピレンオキサイドを付加し、その後エチレンオキサイドを付加したブロック構造、同時にエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加したランダム構造があるが、いずれの構造のものもほぼ同様の効果が得られる。
一般式(III)で示される化合物において、1分子あたりのエチレンオキサイド(−CH2CH2O−)の合計付加モル数が2〜10であり、好ましくは4〜9であり、また、1分子あたりのプロピレンオキシド(−CH2CH(CH3)O−)の合計付加モル数が4〜30であり、好ましくは12〜28である。
本発明で使用される一般式(III)で示される化合物は、重量平均分子量が300〜2500の範囲が適当であり、好ましくは500〜2400であり、より好ましくは1000〜2300である。
一般式(III)で示される化合物は、エチレンジアミンにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加した化合物は、常法に従って製造することができ、例えばエチレンジアミンに触媒の存在下でエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させる。
該化合物の分子量やエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの比率は、例えば水酸基価及びアミン価の測定、NMR測定などにより決定することができる。
一般式(III)で示される化合物の湿し水における添加量は、湿し水の濡れ性を向上させる観点及びインキの乳化安定性を向上させる観点から0.001〜1質量%が適当であり、好ましくは0.005〜0.5質量%であり、より好ましくは0.02〜0.3質量%である。
[濡れ性向上剤]
本発明の湿し水組成物にはさらに、湿し水の濡れ性を向上させる溶剤や界面活性剤などを含ませることができる。
それらの中で、下記一般式(IV)で示される化合物及び2−エチル−1,3−ヘキサンジオールが特に挙げられる。
一般式(IV)で示される化合物:
1O−(−CH2CH(R2)−O−)m−H (IV)
(式中、R1は炭素原子数3〜8のアルキル基を表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、mは1〜3の整数を表す。)
一般式(IV)の化合物において、R1は炭素原子数3〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を表し、R1としては具体的にn−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2-エチルヘキシル基などがある。mは1〜3の整数を表す。
一般式(II)の化合物の具体例として、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリブチルエーテル、ジエチレングリコールモノターシャリブチルエーテル及びトリプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル及びトリプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテルなどがある。これらの化合物を1種単独で、あるいは2種以上を併用して使用することができる。
中でも、プロピレングリコールのn−ブチルエーテル、イソブチルエーテル又はt−ブチルエーテル、及びエチレングリコールのt−ブチルエーテルが好ましく使用できる。
湿し水における一般式(IV)で示される化合物及び2−エチル−1,3−ヘキサンジオールから選ばれる少なくとも1種の含有量は、0.05〜5質量%が適当であり、好ましくは0.2〜3質量%であり、特に好ましくは0.4〜2質量%である。
[pH緩衝性を有する有機酸及びその塩類]
本発明の平版印刷用湿し水組成物には、pH緩衝性を有する有機酸及びその塩類から選ばれる少なくとも1種を含ませることができる。
一般式(I)で示される化合物がカルシウムを有効に捕捉し、ローラーストリップの発生を抑制するには、湿し水のpHを所定の範囲に維持することが望ましい。具体的には、一般式(I)の化合物のカルシウム捕捉機能を有効に発揮させるために湿し水のpHを酸性領域から中性領域に保持し、一般式(I)の化合物のカルボン酸基の一部を解離させた状態にしておくことが好ましい。この目的に適当なpH値は3〜8の範囲であり、pH4〜7がより好ましく、pH4.5〜6.5の範囲が特に好ましい。
本発明においては一般式(I)の化合物と一般式(II)化合物の組み合わせによって、湿し水組成物のpH値を好ましい範囲に維持可能であるが、さらにpH値を安定に維持するために、本発明の湿し水組成物にpH緩衝性を有する有機酸化合物を添加する。
pH緩衝性を有する有機酸の具体例としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、グルコン酸、乳酸、酢酸、グリコール酸、蓚酸、アスコルビン酸、レブリン酸などが挙げられる。また、それらの塩類としてアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩が挙げられる。これらの中でもクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、グルコン酸、乳酸及びその塩類が、多部数の印刷を行っても地汚れや網点ハイライト部分の飛びなどの印刷トラブルを発生させることがなく好ましい。さらにリンゴ酸、コハク酸、グルタル酸及びその塩類が特に好ましい。これらの有機酸及びその塩類は、2種以上の混合物として使用してもよい。
上述の有機酸は、NaOHやKOH、アンモニア、有機アミン類などのアルカリ剤を添加するか、有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩あるいはアンモニウム塩、有機アミン塩などと併用することによりpH値を所望の範囲に調整して使用される。
これらの有機酸及び/又はその塩類の湿し水における添加量は、ローラーストリップを抑制する点から、一般に0.002〜0.2質量%が適当であり、好ましくは0.005〜0.1質量%であり、特に好ましくは0.01〜0.06質量%である。
本発明の平版印刷用湿し水組成物には、その他の助剤としてエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、分子量200〜1000のポリプロピレングリコール及びそれらのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノイソプロピルエーテル及びモノブチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、3−メトキシブタノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、メトキシエタノール、ブトキシエタノールなどを添加してもよい。
本発明の湿し水組成物には少量の界面活性剤を添加してもよい。例えば、アニオン型界面活性剤としては、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホこはく酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム類、N−アルキルスルホこはく酸モノアミド2ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硬化ひまし油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。これらの中でもジアルキルスルホこはく酸塩類、アルキル硫酸エステル類及びアルキルナフタレンスルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
また非イオン型界面活性剤としては、ポリオキシアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸部分エステル類、蔗糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシドなどが挙げられる。その中でもポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー類等が好ましく用いられる。
カチオン界面活性剤としては、アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体等が挙げられる。また両性界面活性剤の例としては、アルキルイミダゾリン類が挙げられる。さらに、フッ素系界面活性剤が挙げられる、例えば、フッ素系アニオン界面活性剤としては、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、フッ素系ノニオン界面活性剤としては、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルプロピレンオキサイド付加物、フッ素系カチオン界面活性剤としては、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
これらの界面活性剤の含有量は発泡の点を考慮すると、湿し水中10質量%以下、好ましくは0.01〜3.0質量%が適当である。
本発明の湿し水組成物にはさらに、水溶性高分子化合物、糖類、グリセリン、pH調整剤、キレート化合物、防腐剤、着色剤、防錆剤、消泡剤などを含ませてもよい。これらの添加剤について以下に説明する。
水溶性高分子化合物の具体的な例としてはアラビアゴム、澱粉誘導体(例えばデキストリン、酵素分解デキストリン、ヒドロキシプロピル化酵素分解デキストリン、カルボキシメチル化澱粉、燐酸澱粉、オクテニルコハク化澱粉など)、アルギン酸塩、セルロース誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、それらのグリオキサール変性体など)などの天然物とその変性体及びポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びその共重合体、ポリアクリル酸及びその共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体などの合成物が挙げられる。これらの高分子化合物は単独でまたは混合して使用でき、その添加量は湿し水中、0.0001〜5質量%の範囲が適当であり、好ましくは0.003〜1質量%の範囲である。
上記水溶性高分子化合物の中でも、ポリビニルピロリドンが特に好ましく使用できる。湿し水組成物に含有させるポリビニルピロリドンは、ビニルピロリドンのホモポリマーを意味する。ポリビニルピロリドンは分子量200〜3,000,000のものが適当であり、好ましくは300〜500,000、より好ましくは300〜100,000のものである。特に好ましくは300〜30,000のものである。
これらポリビニルピロリドンは1種単独でも、又は分子量の異なるものを2種以上組み合わせて使用することもできる。また、低分子量のポリビニルピロリドン、例えば重合度3〜5のビニルピロリドンオリゴマーと組み合わせることができる。
このようなポリビニルピロリドンとしては、市販品を使用することができる。例えば、ISP社製のK−15、K−30、K−60、K−90、K−120などの各種グレードのものを使用することができる。
湿し水におけるポリビニルピロリドンの含有量は、0.001〜0.3質量%が適当であり、好ましくは0.005〜0.2質量%である。
本発明の湿し水組成物にはまた、糖類及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含ませることが好ましい。使用する糖類としては、単糖類、二糖類及びオリゴ糖類などから選択することができ、水素添加によって得られる糖アルコールもこれに含まれる。具体例としてD−エリトロース、D−スレオース、D−アラビノース、D−リボース、D−キシロース、D−エリスロ−ペンテュロース、D−アルロース、D−ガラクトース、D−グルコース、D−マンノース、D−タロース、β−D−フラクトース、α−L−ソルボース、6−デオキシ−D−グルコース、D−グリセロ−D−ガラクトース、α−D−アルロ−ヘプチュロース、β−D−アルトロ−3−ヘプチュロース、サッカロース、ラクトース、D−マルトース、イソマルトース、イヌロビオース、ヒアルビオウロン、マルトトリオース、D,L−アラビット、リビット、キシリット、D,L−ソルビット、D,L−マンニット、D,L−イジット、D,L−タリット、ズルシット、アロズルシット、マルチトール、還元水あめなどが挙げられる。これらの糖類は1種単独で又は2種以上を併用してもよい。
またグリセリンを単独で使用してもよく、又は糖類と併用してもよい。
湿し水において、糖類及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の含有量は0.01〜1質量%が適当であり、好ましくは0.05〜0.5質量%である。
本発明の湿し水組成物には、エッチング効果により印刷版非画像部の親水性を保持するために、無機酸、スルホン酸系の酸類、ホスホン酸系の酸類などの各種の酸を併用してもよい。その例としてスルファニル酸、p−トルエンスルホン酸、フィチン酸、有機ホスホン酸、リン酸、硫酸、ポリリン酸及びその塩類(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩など)などが挙げられる。
本発明の湿し水組成物には、さらなるキレート化合物を添加してもよい。そのようなキレート化合物の例として、エチレンジアミンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ニトリロトリ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1,2−ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1,3−ジアミノ−2−プロパノールテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩などのようなアミノポリカルボン酸類や、2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4,そのカリウム塩、そのナトリウム塩;2−ホスホノブタントリカルボン酸−2,3,4,そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1−ホスホノエタントリカルボン酸−1,2,2,そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、そのカリウム塩、そのナトリウム塩などのような有機ホスホン酸類あるいはホスホノアルカントリカルボン酸類を挙げることができる。
上記のキレート剤のナトリウム塩あるいはカリウム塩の代わりに有機アミンの塩も有効である。
これらのキレート剤は湿し水中に安定に存在し、印刷性を阻害しないものが選ばれる。添加する量としては湿し水中0.001〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%が適当である。
本発明の湿し水組成物には防腐剤を含めてもよい。防腐剤の具体例として、安息香酸及びその誘導体、フェノール又はその誘導体、ホルマリン、イミダゾール誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、4−イソチアゾリン−3−オン誘導体、ベンズトリアゾール誘導体、アミジン又はグアニジンの誘導体、四級アンモニウム塩類、ピリジン、キノリン又はグアニジンの誘導体、ダイアジン又はトリアゾールの誘導体、オキサゾール又はオキサジンの誘導体、ハロゲノニトロプロパン化合物、ブロモニトロアルコール系のブロモニトロプロパノール、1,1−ジブロモ−1−ニトロ−2−エタノール、3−ブロモ−3−ニトロペンタン−2,4−ジオール等が挙げられる。好ましい添加量は細菌、カビ、酵母等に対して、安定に効力を発揮する量であって、細菌、カビ、酵母の種類によっても異なるが、湿し水に対し、0.0001〜1.0質量%の範囲が好ましく、また種々のカビ、細菌、酵母に対して効力のあるような2種以上の防腐剤を併用することが好ましい。
本発明の湿し水組成物には、さらに着色剤、防錆剤、消泡剤などを含ませてもよい。着色剤として食品用色素等が好ましく使用できる。例えば、黄色色素としてはCINo. 19140、15985、赤色色素としてはCINo. 16185、45430、16255、45380、45100、紫色色素としてはCINo. 42640、青色色素としてはCINo. 42090、73015、緑色色素としてはCINo. 42095、等が挙げられる。
防錆剤としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、チオサリチル酸、ベンゾイミダゾール及びその誘導体などが挙げられる。中でもベンゾトリアゾール及びその誘導体が好ましく使用できる。本発明で使用するベンゾトリアゾール及びその誘導体の具体例には、ベンゾトリアゾール(1,2,3-ベンゾトリアゾール)、メチルベンゾトリアゾール(4-メチルベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾールなど)、ジメチルベンゾトリアゾール(4,6-ジメチルベンゾトリアゾール、5,7-ジメチルベンゾトリアゾールなど)、カルボキシベンゾトリアゾール、及び1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾールなどがある。
中でも、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール及びジメチルベンゾトリアゾールが好ましく使用される。
本発明で使用するベンゾトリアゾール及びその誘導体は、市販品を使用することができる。 本発明の湿し水組成物には、ベンゾトリアゾール及びその誘導体から選ばれる1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。このようなベンゾトリアゾール類化合物を湿し水において、0.00001〜0.1質量%の範囲で含有させることにより、金属に対して適当な防腐食及び防錆効果を発揮することできる。より好ましくはベンゾトリアゾール類化合物を湿し水において0.00005〜0.01質量%、特に好ましくは0.0002〜0.005質量%の範囲で含有させる。
消泡剤としてはシリコン消泡剤が好ましく、その中で乳化分散型及び可溶化型などのいずれも使用することができる。
本発明の湿し水組成物には更に、クロム化合物、アルミニウム化合物のような硬膜剤、環状エーテル:例えば4−ブチロラクトンなどの有機溶剤、特開昭61−193893号公報記載の水溶性界面活性有機金属化合物などを湿し水中0.0001〜1質量%の範囲で添加することもできる。
本発明の湿し水組成物の成分として残余は、水である。従って、水、好ましくは脱塩水、即ち、純水を使用して、上記の各種成分を溶解した水溶液として濃縮液である湿し水組成物を得ることができる。このような濃縮液を、通常使用時に水道水、井戸水等で10〜200倍程度に希釈し、使用時の湿し水とする。
本発明の湿し水組成物は、揮発性を有する有機溶剤と併用することなしに、イソプロピルアルコールを完全に代替することが可能である。従って本発明の湿し水組成物は、実質的に揮発性有機溶剤を含まない湿し水組成物とすることができる。ここで「実質的に揮発性有機溶剤を含まない」とは、ASTM D 2369-95の測定法に従って、濃縮液である湿し水組成物において揮発性有機溶剤量が10%以下であることを意味する。
ASTM D 2369-95の測定法は、試料3mlを熱風オーブン110℃で1時間の条件で、次式により揮発性有機溶剤量を求めるものである。
式:{(試料の質量−加熱残分の質量−試料中の水分質量)/(試料の質量)}×100=揮発性有機溶剤量(質量%)
また、使用時の湿し水中に15質量%程度までのイソプロピルアルコールを併用しても印刷品質上問題はない。
本発明の湿し水組成物は、種々の平版印刷版に対して使用することができるが、特にアルミニウム板を支持体とし、その上に感光層を有する感光性平版印刷版(予め感光性を付与した印刷板で、PS版と呼ばれる。)を画像露光及び現像して得られた平版印刷版に対して好適に使用できる。かかるPS版の好ましいものは、例えば、英国特許第 1,350,521号明細書に記されているようなジアゾ樹脂(p−ジアゾジフェニルアミンとパラホルムアルデヒドとの縮合物の塩)とシエラックとの混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたもの、英国特許第 1,460,978号及び同第 1,505,739号の各明細書に記されているようなジアゾ樹脂とヒドロキシエチルメタクリレート単位またはヒドロキシエチルアクリレート単位を主なる繰り返し単位として有するポリマーとの混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたもの、また特開平2−236552号、特開平4−274429号に記載のジメチルマレイミド基を含有する感光性ポリマー系をアルミニウム板上に設けたもののようなネガ型PS版、および特開昭50−125806号公報に記載されているようなO−キノンジアド感光物とノボラック型フェノール樹脂との混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたポジ型PS版が含まれる。またバーニング処理されたポジ型PS版にも用いることができる。
上記感光層を形成する組成物には、上記のアルカリ可溶性ノボラック樹脂以外の、アルカリ可溶性樹脂を必要に応じて配合することができる。例えば、スチレン−アクリル酸共重合体、メチルメタアクリレート−メタクリル酸共重合体、アルカリ可溶性ポリウレタン樹脂、特公昭52−28401号公報記載のアルカリ可溶性ビニル系樹脂、アルカリ可溶性ポリブチラール樹脂等を挙げることができる。更に米国特許第 4,072,528号及び同第 4,072,527号の各明細書に記されているような光重合型フォトポリマー組成物の感光層をアルミニウム板上に設けたPS版、英国特許第 1,235,281号及び同第 1,495,861号の各明細書に記されているようなアジドと水溶性ポリマーとの混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたPS版も好ましい。
さらに、可視や赤外線のレーザーで直接露光するCTPプレートにも好適に使用することができる。具体例としてはフォトポリマータイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製LP−NX)や、サーマルポジタイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製HP−S)、及びサーマルネガタイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製LH−NI)などが挙げられる。
次に本発明を実施例により更に具体的に説明する。なお、%は特に指定しない限り質量%を示す。
下記表1の組成に従って、実施例1〜5及び比較例1〜8の各種湿し水組成物を調製した。表中、単位はグラムであり、水を加えて最終的に1000mlとした。これらはいずれも濃縮タイプで、使用時に希釈する。
なお、実施例及び比較例で使用した化合物(I)、比較化合物(I)-1、(I)-2及び(I)-3、化合物(II)、化合物(III)、比較化合物(III)-1及び(III)-2の構造は次のとおりである。
化合物(I):式(I)において、M1〜M5が水素原子である。
比較化合物(I)-1〜(I)-3:
Figure 0004684825

化合物(II):一般式(II)においてM6がアンモニウムイオンである。
化合物(III):一般式(III)において−CH2CH2O−の合計付加モル数が8であり、及び−CH2CH(CH3)O−の合計付加モル数が28である。
比較化合物(III)-1:一般式(III)において−CH2CH2O−の合計付加モル数が1であり、及び−CH2CH(CH3)O−の合計付加モル数が4である。
比較化合物(III)-2:一般式(III)において−CH2CH2O−の合計付加モル数が14であり、及び−CH2CH(CH3)O−の合計付加モル数が32である。

























Figure 0004684825
上記のように調液した実施例1〜5及び比較例1〜8の組成物を各々、硬度400ppmの疑似硬水を用いて40倍に希釈し、pHが4.8〜5.3付近となるようにNaOH/希硝酸にて調整して、実際に使用する湿し水とした。
[テスト方法]
印刷機はハイデルMOV(アルカラー給水装置)を使用して、東洋インキ製造(株)の名称ハイユニティSOYの紅インキと、使用プレートとして富士写真フイルム(株)製のポジ型PS版VSを富士写真フイルム製FQIチャートのフィルムを用い、ウシオ製PSライトで露光後、富士写真フイルム製現像液DP−4で現像処理を行い、富士写真フイルム製ガム液FP−2でガム引き処理を行って製版したものを用い、中越パルプ(株)の軽量コート紙、名称エミネを用いて、下記の印刷テストを実施した。それらの結果を下記表2に示す。
(a)連続印刷安定性:
汚れを生じず、水負けを起こさない湿し水の量(最小水上げ量)を求め、その水目盛りで連続印刷を実施した。印刷物に汚れ又は水負けが発生し良好な印刷物が得られなくなるまでの印刷枚数により判定する。
20000枚以上 A
20000〜5000枚 B
5000枚未満 C
(b)乳化性:
10000枚印刷したときの、インキ練りロール上のインキの乳化状態を調べた。
良い A
やや悪い B
悪い C
(c)耐ローラーストリップ性:
50,000枚印刷したところで印刷機の運転を休止し、インキロール上のカルシウム塩の堆積、インキハゲの有無を調べた。
A インキロールへのカルシウム塩の堆積、インキハゲの発生が全くない
B インキロールへのカルシウム塩の堆積は少ないが、インキハゲの発生がある
C インキロールへのカルシウム塩の堆積が多く、インキハゲの発生がある
Figure 0004684825
上記の結果から、本発明の実施例による湿し水は、連続印刷安定性、乳化性及び耐ローラーストリップ性のいずれについても優れていることがわかる。さらに実施例1〜3の湿し水組成物のように、揮発性有機溶剤を含有しない場合においても、実施例4及び5の湿し水組成物のように揮発性有機溶剤を含有する場合と同様に良好な性能が得られる。上記の実施例の湿し水組成物はまた、イソプルピルアルコール等の揮発性の高い溶剤成分を使用しなくても良好な印刷適性を示し、よって労働安全上の問題を解消でき、また有機溶剤の使用量を低減でき、環境上たいへん好ましい。

Claims (4)

  1. 下記一般式(I)で示される化合物、下記一般式(II)で示される化合物、下記一般式(III)で示される化合物、並びにpH緩衝性を有する成分としてリンゴ酸、コハク酸、グルタル酸及びそれらの塩類から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする、平版印刷用湿し水組成物。
    Figure 0004684825

    (式中、M1〜M5はそれぞれ独立して水素原子を表す。)
    6NO3 (II)
    (式中、M6は水素原子、Na、K、NH4又はN(R)4(Rは置換又は未置換のアルキル基を表す。)を表す。)
    Figure 0004684825

    (式中、A及びBはそれぞれ独立に−CH2CH2O−又は−CH2CH(CH3)O−を表し、A及びBは互いに異なる基であって、a〜hは各々0以上の整数を表し、a〜hは−CH2CH2O−の合計モル数が2〜10、及び−CH2CH(CH3)O−の合計モル数が4〜30となる値を表す。)
  2. pH緩衝性を有する成分がリンゴ酸及び/又はその塩である、請求項1記載の平版印刷用湿し水組成物。
  3. さらに下記一般式(IV)で示される化合物及び/又は2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを含有する、請求項1又は2記載の平版印刷用湿し水組成物。
    1O−(−CH2CH(R2)−O−)m−H (IV)
    (式中、R1は炭素原子数3〜8のアルキル基を表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、mは1〜3の整数を表す。)
  4. 2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを含有する、請求項3記載の平版印刷用湿し水組成物。
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