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JP4683731B2 - 窒化物半導体レーザ素子とこれを含む光学装置 - Google Patents

窒化物半導体レーザ素子とこれを含む光学装置 Download PDF

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JP4683731B2
JP4683731B2 JP2001006745A JP2001006745A JP4683731B2 JP 4683731 B2 JP4683731 B2 JP 4683731B2 JP 2001006745 A JP2001006745 A JP 2001006745A JP 2001006745 A JP2001006745 A JP 2001006745A JP 4683731 B2 JP4683731 B2 JP 4683731B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、改善されたレーザ発振寿命を有する窒化物半導体レーザ素子とこれを含む光学装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
窒化物半導体レーザ素子の発光特性を改善するために、サファイア基板上に積層されたGaN層に凸部を形成し、その凸部をGaN下地層で平坦に被覆し、さらにそのGaN下地層上に窒化ガリウム系半導体レーザ素子を形成することが、特開2000−124500号公報に開示されている。また、この公報では、サファイア基板がGaN基板に置き換えられてもよい旨が述べられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の特許公開公報におけるサファイア基板がGaN基板で置き換えられた窒化物半導体レーザ素子においても、その発振寿命が十分でないという課題を含んでいる。そこで本発明は、発振寿命の長い窒化物半導体レーザ素子を提供することを主要な目的の1つとしている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、窒化物半導体レーザ素子は、窒化物半導体基板の一主面に形成された溝と丘を含む加工基板と、この加工基板の溝と丘を覆う窒化物半導体下地層と、この窒化物半導体下地層上でn型層とp型層との間において量子井戸層または量子井戸層とこれに接する障壁層を含む発光層を含む発光素子構造とを含み、溝の幅方向の中央から1μm以上離れかつ丘の幅方向の中央からも1μm離れた領域の上方に発光素子構造の電流狭窄部分が形成されていることを特徴としている。
【0005】
電流狭窄部分は、溝の幅方向の中央から1μm以上離れかつその溝の幅内の領域の上方に形成されていることがより好ましい。なお、電流狭窄部は、溝の幅方向の中央から1μm以上離れかつその溝の幅と溝に隣接する丘の幅にまたがった領域の上方に形成されていてもよい。
【0006】
溝の幅と丘の幅の少なくとも一方は、4〜30μmの範囲内にあることが好ましい。また、溝の幅は丘の幅より広いことが好ましく、溝の深さは1〜10μmの範囲内にあることが好ましい。
【0007】
窒化物半導体下地層は、Si、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、MgおよびBeの少なくともいずれかの不純物を1×1017〜5×1018/cm3の範囲内で含むGaNで形成され得る。また、窒化物半導体下地層は、AlxGa1-xN(0.01≦x≦0.15)、またはInxGa1-xN(0.01≦x≦0.18)を含んでもよい。量子井戸層はAs、P、およびSbの少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0008】
上述のような窒化物半導体レーザ素子は、種々の光学装置において好ましく用いられ得る。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下において本発明による種々の実施形態を説明するに際して、いくつかの用語の意味を予め明らかにしておく。
【0010】
まず、「溝」とは、窒化物半導体基板の一主面に形成されたストライプ状の凹部を意味し、「丘」とは同様にストライプ状の凸部を意味する(たとえば図2参照)。なお、溝と丘の断面形状は、必ずしも図2に示されているような矩形状である必要はなくてV字形状などであってもよく、要するに凹凸の段差を生じさせるものであればよい。また、本願の図面において、長さ、幅、厚さ、深さなどは図面の簡略化と明瞭化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表わしてはいない。
【0011】
「窒化物半導体基板」とは、AlxGayInzN(0≦x≦1;0≦y≦1;0≦z≦1;x+y+z=1)を含む基板を意味する。ただし、この窒化物半導体基板に含まれる窒素元素の約10%以下がAs、P、およびSbの少なくともいずれかで置換されてもよい(ただし、基板の六方晶系が維持されることが前提)。また、窒化物半導体基板は、Si、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、Mg、およびBeの少なくともいずれかの不純物が添加されてもよい。窒化物半導体基板がn型導電性を有するための不純物としては、これらの不純物のうちでも、Si、O、およびClが特に好ましい。そして、その不純物の添加量は5×1017〜5×1018/cm3の範囲内にあることが好ましい。
【0012】
「加工基板」とは、窒化物半導体基板の一主面に溝と丘が形成された基板を意味する。なお、溝の幅と丘の幅は、一定の周期を有していてもよいし、種々に異なる幅を有していてもよい。また、溝の深さに関しても、すべての溝が一定の深さを有していてもよいし、種々に異なる深さを有していてもよい。
【0013】
「窒化物半導体下地層」とは、加工基板を被覆する窒化物半導体膜を意味し、AlxGayInzN(0≦x≦1;0≦y≦1;0≦z≦1;x+y+z=1)を含んでいる。ただし、窒化物半導体基板の場合と同様に、この窒化物半導体下地層に含まれる窒素元素の約10%以下がAs、P、およびSbの少なくともいずれかで置換されてもよく、また、Si、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、Mg、およびBeの少なくともいずれかの不純物が添加されてもよい。窒化物半導体下地層がn型導電性を有するための不純物としては、これらの不純物のうちでも、Si、O、およびClが特に好ましい。
【0014】
「被覆加工基板」とは、加工基板とそれを被覆する窒化物半導体下地層とを含む改良基板を意味する(図3参照)。
【0015】
「発光層」とは、1以上の量子井戸層またはそれと交互に積層された複数の障壁層を含み、発光作用を生じさせ得る層を意味する。ただし、単一量子井戸構造の発光層は、1つの井戸層のみから構成されるか、または障壁層/井戸層/障壁層の積層から構成される。もちろん、多重量子井戸構造の発光層は、交互に積層された複数の井戸層と複数の障壁層を含んでいる。
【0016】
「発光素子構造」とは、発光層に加えて、それを挟むn型層とp型層をさらに含む構造を意味する。
【0017】
「電流狭窄部分」とは、p型層またはn型層を介して発光層中に実質的に電流が注入される部分を意味する。また、「電流狭窄幅」とは、電流狭窄部分の幅を意味する。たとえば、リッジストライプ構造を有する窒化物半導体レーザ素子の場合、電流狭窄部分は図4(a)に示されているようなリッジストライプ部に相当し、電流狭窄幅はリッジストライプ幅に相当する。同様に、電流狭窄層を有する窒化物半導体レーザ素子の場合、電流狭窄部分は図4(b)に示されているように2つの電流阻止層に挟まれた部分に相当し、電流狭窄幅は電流阻止層間幅に相当する。
【0018】
[実施形態1]
本発明による窒化物半導体レーザ素子は、窒化物半導体基板の1主面上に形成された溝と丘を含む加工基板と、この加工基板の溝と丘を覆う窒化物半導体下地層と、この窒化物半導体下地層上でn型層とp型層との間において量子井戸層または量子井戸層とこれに接する障壁層を含む発光層を含む発光素子構造とを含んでいる。そして、その発光素子構造の電流狭窄部分が、加工基板における溝の幅方向の中央から1μm以上離れかつ丘の幅方向の中央からも1μm以上離れた領域の上方に形成されている。このことによって、窒化物半導体レーザ素子のレーザ発振寿命の改善がなされ得る。
【0019】
なお、本発明による効果は、窒化物半導体からなる加工基板を用いた場合のみにおいて得られる。なぜならば、窒化物半導体以外の基板(以後、異種基板と呼ぶ)からなる加工基板上に成長させられた窒化物半導体下地層は、窒化物半導体の加工基板上に成長させられたものに比べて強い応力歪を受けているからである。これは、異種基板と窒化物半導体下地層との間の熱膨張係数差が、窒化物半導体基板と窒化物半導体下地層との場合に比べて非常に大きいからである。したがって、窒化物半導体基板の代わりに異種基板が用いられた場合には、電流狭窄部分が本発明において規定される最適領域に属するように形成されたとしても、加工基板を被覆する窒化物半導体下地層と発光素子構造中の結晶歪は十分に緩和され得ない。また、異種基板と窒化物半導体下地層との間の非常に大きな熱膨張係数差によって、異種基板自体が反ってしまうこともある。発光素子構造を堆積すべき基板が反ってしまえば、窒化物半導体レーザ素子の電流狭窄部分を再現性よく所定位置に形成することが困難になる。
【0020】
(電流狭窄部分の最適位置について)
本発明者らの詳細な検討の結果、窒化物半導体レーザ素子の電流狭窄部が被覆加工基板のどの位置の上方に形成されるかに依存して、レーザ発振寿命が変化することが見出された。
【0021】
図5において、グラフの横軸は被覆加工基板の溝中央cからその幅方向にリッジストライプ端aまでの距離を表わし、縦軸はレーザ出力30mWと雰囲気温度60℃の条件下でのレーザ発振寿命を表わしている。ここで、溝中央cからリッジストライプ端aまでの距離(以後、c−a距離と呼ぶ)は、溝中央cから幅方向に右側が正で左側が負で表示されている。また、レーザ発振寿命は、レーザ素子を寿命試験装置にセットしたときの初期しきい値電流からその1.5倍のしきい値電流になるまでの時間として決定された。なお、図5で測定された窒化物半導体レーザ素子の構造と製法は、後述の実施形態2と同様であった。また、リッジストライプ幅は2μmであり、溝幅は18μmであり、丘幅は8μmであり、そして溝深さは2.5μmであった。
【0022】
図5からわかるように、リッジストライプ部が溝の上方に形成された窒化物半導体レーザ素子のレーザ発振寿命は、リッジストライプ部が丘の上方に形成されたものよりも長くなる傾向を示した。さらに詳細に調べたところ、溝上方の領域内であっても、c−a距離が−3μmよりも大きくて1μmよりも小さい領域にリッジストライプ部が形成されれば、レーザ発振寿命が劇的に減少することがわかった。ここで、リッジストライプ部の幅が2μmであることを考慮してc−a距離−3μmが溝中央cからリッジストライプ端bまでの距離(以後、c−b距離と呼ぶ)に換算されれば、c−b距離は−1μmになる。すなわち、窒化物半導体レーザ素子のリッジストライプ部の少なくとも一部が溝中央cから幅方向に左右1μm未満の範囲内に含まれるように形成されたとき、レーザ発振寿命が劇的に減少してしまうことがわかった。
【0023】
このようなレーザ発振寿命が劇的に減少する領域(溝中央cから幅方向に左右1μm未満の範囲)を領域IIIと呼ぶことにする。したがって、窒化物半導体レーザ素子のリッジストライプ部は、領域IIIを除く範囲に、その全体(a−b幅)が含まれるように形成されることが好ましい。なお、リッジストライプ部は、溝中央cから幅方向に2μm以上離れた領域内に形成されることがさらに好ましい。この場合、領域IIIの幅が4μm未満であると拡大して考えればよい。ここで、溝幅範囲内において、溝中央cを含む領域IIIの外側の範囲を領域Iと呼ぶことにする。この領域Iは、以下で述べる領域IIに比べても、レーザ発振寿命の長い窒化物半導体レーザ素子を形成することが可能な領域である。
【0024】
なお、丘の上方の領域に関しても、溝の上方の領域の場合と同様の説明が適用され得る。すなわち、窒化物半導体レーザ素子のリッジストライプ部がc−a距離として10μmよりも大きくて14μmよりも小さい領域に形成されれば、窒化物半導体レーザ素子のレーザ発振寿命が劇的に減少してしまった。ここで、リッジストライプ部の幅が2μmであることを考慮して、c−a距離10μmが丘中央dからリッジストライプ端bまでの距離(以後、d−b距離と呼ぶ)に換算されれば、d−b距離は1μmになる。同様にして、c−a距離14μmが丘中央dからリッジストライプ端aまでの距離(以後、d−a距離)に換算されれば、d−a距離は1μmになる。すなわち、窒化物半導体レーザ素子のリッジストライプ部の少なくとも一部が丘中央dから幅方向に左右1μm未満の範囲内に含まれるように形成されたとき、レーザ発振寿命が劇的に減少してしまうことがわかった。
【0025】
このレーザ発振寿命が劇的に減少する領域(丘中央dから幅方向に左右1μm未満の範囲)を領域IVと呼ぶことにする。したがって、窒化物半導体レーザ素子のリッジストライプ部は、領域IVを除く範囲に、その全体(a−b幅)が含まれるように形成されることが好ましい。なお、リッジストライプ部は、丘中央dから幅方向に2μm以上離れた領域内に形成されることがさらに好ましい。この場合、領域IVの幅を4μm未満に拡大して考えればよい。ここで、丘幅範囲内において、丘中央dを含む領域IVの外側の範囲を領域IIと呼ぶことにする。この領域II上にリッジストライプ部が形成された窒化物半導体レーザ素子のレーザ発振寿命は、前述の領域Iの場合に比べて短いものの、数千時間の十分な期間であった。
【0026】
以上の結果が、図6の模式図にまとめられており、前述の領域Iから領域IVが本発明における被覆加工基板の模式図中に示されている。すなわち、本発明による被覆加工基板において、窒化物半導体レーザ素子のリッジストライプ部は、少なくとも領域IIIと領域IVを避けた領域(すなわち領域IとII)に形成されることが好ましく、領域Iが最も好ましくて、それに次いで領域IIが好ましい。リッジストライプ部が領域IとIIにまたがって形成された場合には、レーザ発振寿命の向上以外に、リッジストライプ部にクラックが入りにくくなるという特徴を有するので好ましい。本発明者らの詳細な検討の結果では、リッジストライプ部が領域Iに形成された場合には、領域IIに形成された場合に比較してレーザ素子の微分効率がさらに60〜70%向上した。
【0027】
レーザ発振寿命がリッジストライプ部の形成位置によって異なる理由は、発光素子構造の結晶歪の緩和のされ方が被覆加工基板上の位置に依存して異なるからであると思われる。なお、リッジストライプ部の幅が2μm以外の場合であっても、図5に示された関係と同様の傾向が得られる。
【0028】
また、前述のリッジストライプ部の形成位置とレーザ発振寿命との関係は、たとえば図4(a)の模式的断面図に示されるようなリッジストライプ構造を有する窒化物半導体レーザ素子構造に限られるものではない。たとえば、図4(b)の模式的断面図に示されるような電流阻止層を有する窒化物半導体レーザ素子の場合、前述のリッジストライプ部は電流阻止層間部分に相当するし、リッジストライプ幅は電流阻止層間幅に相当する。さらに一般的な表現を用いれば、窒化物半導体レーザ素子のレーザ発振に寄与する電流狭窄部分(実質的に電流が注入される発光層部分)が、図6に示された領域Iおよび/またはIIの上方に存在していれば、本発明による効果を得ることが可能である。
【0029】
しかしながら、電流阻止構造を有する窒化物半導体レーザ素子の場合、上述されたリッジストライプ構造を有する素子に比較して、レーザ発振寿命は約20〜30%程度低かった。また、電流阻止構造を有する窒化物半導体レーザ素子は、リッジストライプ構造を有する素子に比較して、クラックの発生による歩留まりの低下が大きかった。これらの原因については明らかではないが、おそらく、電流狭窄部分が形成された電流阻止層上に再び窒化物半導体を結晶成長させる工程に問題があるのではないかと考えられる。たとえば、電流阻止層上に再び窒化物半導体を結晶成長させる工程では、電流阻止層に電流狭窄部を形成するために発光素子構造の形成途中にウエハが一旦結晶成長装置から取出され(常温)、再び結晶成長装置に装填されて残りの発光素子構造を結晶成長(約1000℃)させる。このように発光素子構造の途中で急激な温度差のある熱履歴を与えれば、本発明に係る窒化物半導体レーザ素子であっても、発光素子構造内の結晶歪みが十分に緩和されなくてクラックが発生するものと考えられる。
【0030】
(溝幅について)
加工基板に形成される溝の幅は、4μm以上で30μm以下であることが好ましく、11μm以上で25μm以下であることがより好ましい。このような溝幅の下限値と上限値は、以下のようにして見積もられた。溝幅内の上方に窒化物半導体レーザ素子の電流狭窄部分が形成される場合、溝幅の下限値はその電流狭窄部分の幅(電流狭窄幅)に依存する。上述のレーザ発振の長寿命化の観点から、電流狭窄部分は、領域I(図6参照)に形成されることが好ましい。したがって、溝幅の下限値は、少なくとも電流狭窄幅よりも広くする必要がある。電流狭窄幅は約1〜3.5μmの範囲内で形成され得るので、溝幅の下限値は、領域IIIの幅2μmとストライプ幅(1μm)×2を加えた少なくとも4μm以上でなければならないと見積もられる。さらに好ましい溝幅の下限値としては、領域IIIの拡大された幅4μmとストライプ幅(3.5μm)×2を加えた11μm以上であると見積もられる。
【0031】
他方、溝幅の上限値には、特に制約はない。しかし、加工基板に形成された溝が窒化物半導体下地層で完全に被覆されるためには、溝幅は30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましい。
【0032】
また、溝幅は、加工基板に形成される丘の幅よりも広い方が好ましい。なぜならば、電流狭窄部分が形成され得る最も好ましい領域Iが広くなって、そこに多くの窒化物半導体レーザ素子が形成され得るからであり、さらに、得られる窒化物半導体レーザ素子の不良率が減少するので好ましい。
【0033】
(丘幅について)
丘幅内の上方に電流狭窄部分が形成される(領域IIに形成される)場合、または丘と溝の両方にまたがる領域の上方にそれが形成される場合、その丘幅の下限値と上限値は、上述の溝幅の場合と同様に、4μm以上で30μm以下であることが好ましく、11μm以上で25μm以下であることがより好ましい。しかし、丘の上方に電流狭窄部分が形成されることの優位性は、溝の上方に形成される場合に比べて小さいので、レーザ発振寿命の長寿命化の観点から、溝の上方に電流狭窄部分が形成される方が好ましい(すなわち、領域Iに形成されることが好ましい)。また、電流狭窄部にクラックが発生することを防止する観点からは、丘と溝の両方にまたがる領域の上方に電流狭窄部が形成されるほうが好ましい。
【0034】
溝の上方に電流狭窄部分が形成される場合は、丘幅の下限値は領域IVの幅に相当する2μm以上であることが必要であり、領域IVの拡大された幅に相当する4μm以上であることが好ましい。また、溝の上方に電流狭窄部分が形成される場合の丘幅の上限値については、特に制約はない。しかし、丘幅が小さくなれば基板内で溝領域の占める割合が増えるので、発光素子構造の結晶歪緩和効果が大きくなると考えられる。このような観点から、丘幅の上限値は20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0035】
(溝深さについて)
図7は、溝深さHとレーザ発振寿命(レーザ出力30mWと雰囲気温度60℃の条件下)との関係を表わしている。図7で測定された窒化物半導体レーザ素子の構造と製法は後述の実施形態2と同様であり、溝幅と丘幅とリッジストライプ幅はそれぞれ18μmと8μmと2μmであった。また、リッジストライプ部は、領域I内でc−a距離4μmの位置に形成された(図5参照)。
【0036】
図7からわかるように、溝深さHが約1μm以上に増大するに従って、レーザ発振寿命が長くなり始めた。さらに、溝深さHが2μm以上になれば、レーザ発振寿命がさらに延びた後に概ね一定の飽和値に達した。レーザ発振寿命の改善に関する溝深さHの上限値には特に制約がないが、溝深さHが約10μmを超えれば、その深さを有する溝が窒化物半導体下地層で被覆されにくくなる。そして、溝が窒化物半導体下地層で被覆されにくくなれば、窒化物半導体レーザ素子が作製され得る領域が減少してしまう可能性がある。したがって、溝深さHは1μm以上で10μm以下であることが好ましく、2μm以上で5μm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
なお、溝深さとレーザ発振寿命との関係は、電流狭窄部分が領域Iまたは/およびIIの上方に形成されている限り、図7と同様の傾向を示し得る。
【0038】
(溝の長手方向について)
主面として{0001}C面を有する窒化物半導体基板に形成された溝の長手方向は、<1−100>方向に平行であることが最も好ましく、<11−20>方向に平行であることが次に好ましかった。これらの特定方向に関する溝の長手方向は、{0001}C面内で±5度程度の開き角度を有していても実質的な影響を生じなかった。
【0039】
窒化物半導体基板の<1−100>方向に沿って溝が形成されることの優位性は、結晶歪みとクラック発生の抑制効果が非常に高いことである。この方向に沿って形成された溝内に窒化物半導体下地層が成長される場合、その溝の側壁面には主に{11−20}面が成長しながら、その溝が窒化物半導体下地層で被覆される。この{11−20}側壁面は基板の主面に対して垂直であるので、溝はほぼ矩形形状の横断面を有しながら窒化物半導体下地層で被覆されていく。すなわち、溝の底面上には窒化物半導体下地層が成長しにくく、溝の側壁からその溝が被覆されていく。そして、窒化物半導体下地層は基板主面に平行な方向に十分に成長(以後、横方向成長と呼ぶ)するので、結晶歪みとクラック発生に対する抑制効果が非常に高くなるものと考えられる。
【0040】
そして、<1−100>方向に沿った溝の長手方向の特徴と電流狭窄部分の最適位置の特徴とを組合せることによって、より一層のレーザ発振の長寿命化が可能になる。
【0041】
他方、窒化物半導体基板の<11−20>方向に沿って溝が形成されることの優位性は、溝が窒化物半導体下地層で埋められたときに溝の上方領域における窒化物半導体下地層の表面モフォロジがよいことである。この方向に沿って形成された溝内に窒化物半導体下地層が成長する場合、溝の側壁面には主に{1−101}面が成長しながら、その溝が窒化物半導体下地層で被覆される。この{1−101}側壁面は非常に平坦で、この側壁面と丘上面とが接するエッジ部も非常に急峻である。したがって、<11−20>方向に沿って形成された溝は、図2(b)に示されているように上方から見れば、ほとんど蛇行することなく窒化物半導体下地層で被覆される。このように被覆された溝の上方の領域において、窒化物半導体下地層の表面モフォロジが非常に良好になる。窒化物半導体膜からなる下地層の表面モフォロジが良好であれば、領域Iに形成された電流狭窄部を有する窒化物半導体レーザ素子の素子不良が低減するので好ましい。
【0042】
前述の溝または丘はすべてストライプ状であったが、ストライプ状であることは以下の点において好ましい。すなわち、窒化物半導体レーザ素子の電流狭窄部分はストライプ状であり、電流狭窄部分の最適位置(領域IとII)もストライプ状であれば、その電流狭窄部分をその好ましい領域IとII内に作り込むことが容易になる。
【0043】
(窒化物半導体下地層について)
加工基板を被覆する窒化物半導体膜からなる下地層としては、たとえばGaN膜、AlGaN膜、InGaN膜などを用いることができる。また、窒化物半導体下地層中には、Si、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、MgおよびBeの少なくともいずれかの不純物が添加されてもよい。
【0044】
窒化物半導体下地層がGaN膜であれば、以下の点において好ましい。すなわち、GaN膜は2元混晶であるので、結晶成長の制御性が良好である。また、GaN膜の表面マイグレーション長はAlGaN膜に比べて長く、InGaN膜に比べて短いので、溝と丘を完全かつ平坦に被覆するように適度な横方向成長を得ることができる。窒化物半導体下地層として利用されるGaN膜の不純物濃度は、1×1017〜5×1018/cm3の範囲内にあることが好ましい。このような濃度範囲で不純物が添加されれば、窒化物半導体下地層の表面モフォロジが良好になって、発光層の層厚が均一化されて素子特性が向上し得る。
【0045】
窒化物半導体下地層がAlGaN膜であれば、以下の点において好ましい。AlGaN膜においては、Alが含まれているので、GaN膜やInGaN膜に比べて表面マイグレーション長が短い。表面マイグレーション長が短いということは、加工基板の溝内が窒化物半導体下地層で横方向に被覆されつつも、窒化物半導体下地層が溝の底部に堆積されにくいことを意味する。すなわち、AlGaN膜は溝の側壁から結晶成長が促進されて横方向成長が顕著になり、より一層結晶歪みを緩和させ得る。AlxGa1-xN膜のAlの組成比xは0.01以上で0.15以下であることが好ましく、0.01以上で0.07以下であることがより好ましい。Alの組成比xが0.01よりも小さければ、前述の表面マイグレーション長が長くなってしまう可能性がある。他方、Alの組成比xが0.15よりも大きくなれば、表面マイグレーション長が短くなりすぎて、溝が平坦に埋まりにくくなる可能性がある。なお、AlGaN膜に限らず、この膜と同様の効果は窒化物半導体下地層にAlが含まれていれば得られる。また、窒化物半導体下地層として利用されるAlGaN膜の不純物濃度は、3×1017〜5×1018/cm3の範囲内にあることが好ましい。このような濃度範囲でAlと同時に不純物が添加されれば、窒化物半導体下地層の表面マイグレーション長が短くなってより好ましい。このことによって、より一層の結晶歪みを緩和させることが可能になる。
【0046】
窒化物半導体下地層がInGaN膜であれば、以下の点において好ましい。InGaN膜においては、Inが含まれているので、GaN膜やAlGaN膜と比べて弾力性がある。したがって、InGaN膜は加工基板の溝に埋まって、窒化物半導体基板からの結晶歪みを窒化物半導体下地層全体に拡散させ、溝上方と丘上方の歪みにおける差を緩和させる働きを有する。すなわち、電流狭窄部分が領域IまたはIIのいずれに形成されるかの違いによるレーザ発振寿命の相違が小さくなり得る。InxGa1-xN膜のIn組成比xは0.01以上で0.18以下であることが好ましく、0.01以上で0.1以下であることがより好ましい。Inの組成比xが0.01よりも小さければ、Inを含むことによる弾性力の効果が得られにくくなる可能性がある。また、Inの組成比xが0.18よりも大きくなれば、InGaN膜の結晶性が低下してしまう可能性がある。なお、InGaN膜に限らず、この膜と同様の効果は、窒化物半導体下地層にInが含まれていれば得られる。また、窒化物半導体下地層として利用されるInGaN膜の不純物濃度は、1×1017〜4×1018/cm3の範囲内にあることが好ましい。このような濃度範囲でInと同時に不純物が添加されれば、窒化物半導体下地層の表面モフォロジが良好になりかつ弾力性を保有し得るので好ましい。
【0047】
(窒化物半導体下地層の膜厚について)
加工基板が窒化物半導体膜の下地層で完全に被覆されるためには、その窒化物半導体下地層が十分に厚くなければならない。窒化物半導体下地層の厚さは、およそ2μm以上で20μm以下であることが好ましい。被覆膜厚が2μmよりも薄くなれば、加工基板に形成された溝幅や溝深さにも依存するが、窒化物半導体下地層で溝を完全かつ平坦に埋没させることが困難になり始める。他方、被覆膜厚が20μmよりも厚くなれば、加工基板における横方向成長よりも垂直方向(基板主面に対して垂直方向)の成長の方が次第に顕著になり、結晶歪みの緩和効果とクラック抑制効果が十分に発揮されなくなる可能性がある。
【0048】
[実施形態2]
実施形態2として、被覆加工基板上においてリッジストライプ構造を有する窒化物半導体レーザ素子が形成された。なお、本実施形態において特に言及されていない事項に関しては、前述の実施形態1の場合と同様である。
【0049】
(被覆加工基板の作製)
図3の模式的な断面図は加工基板上に窒化物半導体膜の下地層が被覆された被覆加工基板を示しており、この加工基板は以下のようにして作製され得る。まず、主面方位が(0001)面であるn型GaN基板の表面に、SiO2またはSiNxの誘電体膜を蒸着した。そして、この誘電体膜上に通常のレジスト材を塗布し、リソグラフィ技術を用いてストライプ状のマスクパターンが形成された。このマスクパターンに沿って、ドライエッチング法によって誘電体膜を貫通してn型GaN基板に溝が形成された。その後、レジストと誘電体膜が除去され、加工基板が作製された。こうして形成された溝と丘は、n型GaN基板の<1−100>方向に沿っており、溝幅18μm、溝深さ2.5μm、および丘幅8μmを有していた。
【0050】
作製された加工基板は、十分に有機洗浄されてからMOCVD(有機金属気相成長)装置内に搬入され、被覆膜厚6μmのn型Al0.05Ga0.95N膜からなる下地層が積層された。この下地層の形成においては、MOCVD装置内にセットされた加工基板上にV族元素用原料のNH3(アンモニア)とIII族元素用原料のTMGa(トリメチルガリウム)およびTMAl(トリメチルアルミニウム)が供給され、1050℃の結晶成長温度において、それらの原料にSiH4(Si不純物濃度1×1018/cm3)が添加された。
【0051】
なお、窒化物半導体基板に溝と丘を形成する方法としては、前述の誘電体膜を介さずに直接窒化物半導体基板の表面に通常のレジスト材料を塗布して、その後は前述と同様に作製してもよい。ただし、本発明者らの実験によれば、誘電体膜を介した方が、溝形成時の基板へのダメージ(特に丘の表面)が少なくて好ましかった。
【0052】
本実施形態ではドライエッチング法による溝形成方法が例示されたが、その他の溝形成方法が用いられてもよいことは言うまでもない。たとえば、ウエットエッチング法、スクライビング法、ワイヤソー加工、放電加工、スパッタリング加工、レーザ加工、サンドブラスト加工、フォーカスイオンビーム加工などが用いられ得る。
【0053】
本実施形態では、n型GaN基板の<1−100>方向に沿って溝が形成されたが、<11−20>方向に沿って溝が形成されてもよい。
【0054】
本実施形態では、主面として(0001)面を有するGaN基板が用いられたが、その他の面方位やその他の窒化物半導体基板が用いられてもよい。窒化物半導体基板の面方位に関しては、C面{0001}、A面{11−20}、R面{1−102}、M面{1−100}、および{1−101}面などが好ましく用いられ得る。また、これらの面方位から2度以内のオフ角度の主面を有する基板であれば、その表面モフォロジが良好である。
【0055】
(結晶成長)
図1は被覆加工基板上に成長された窒化物半導体レーザ素子を表わしている。この窒化物半導体レーザは、加工基板(n型GaN基板)101とn型Al0.05Ga0.95N膜102からなる被覆加工基板100、n型In0.07Ga0.93Nクラック防止層103、n型Al0.1Ga0.9Nクラッド層104、n型GaN光ガイド層105、発光層106、p型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層107、p型GaN光ガイド層108、p型Al0.1Ga0.9Nクラッド層109、p型GaNコンタクト層110、n電極111、p電極112およびSiO2誘電体膜113を含んでいる。
【0056】
MOCVD装置を用いて、被覆加工基板100上において、V族元素用原料のNH3(アンモニア)とIII族元素用原料のTMGa(トリメチルガリウム)またはTEGa(トリエチルガリウム)に、III族元素用原料のTMIn(トリメチルインジウム)と不純物としてのSiH4(シラン)が加えられ、800℃の結晶成長温度でn型In0.07Ga0.93Nクラック防止層103が厚さ40nmに成長させられた。次に、基板温度が1050℃に上げられ、III族元素用原料のTMAl(トリメチルアルミニウム)またはTEAl(トリエチルアルミニウム)が用いられて、厚さ0.8μmのn型Al0.1Ga0.9Nクラッド層104(Si不純物濃度1×1018/cm3)が成長させられ、続いてn型GaN光ガイド層105(Si不純物濃度1×1018/cm3)が厚さ0.1μmに成長させられた。
【0057】
その後、基板温度が800℃に下げられ、厚さ8nmのIn0.01Ga0.99N障壁層と厚さ4nmのIn0.15Ga0.85N井戸層とが交互に積層された発光層(多重量子井戸構造)106が形成された。この実施形態では、発光層106は障壁層で開始して障壁層で終了する多重量子井戸構造を有し、3層(3周期)の量子井戸層を含んでいた。また、障壁層と井戸層の両方に、Si不純物が1×1018/cm3の濃度で添加された。なお、障壁層と井戸層との間または井戸層と障壁層との間に、1秒以上で180秒以内の結晶成長中断期間が挿入されてもよい。こうすることによって、各層の平坦性が向上し、発光スペクトルの半値幅が減少するので好ましい。
【0058】
発光層106にAsが添加される場合にはAsH3(アルシン)またはTBAs(ターシャリブチルアルシン)を用い、Pが添加される場合にはPH3(ホスフィン)またはTBP(ターシャリブチルホスフィン)を用い、そしてSbが添加される場合にはTMSb(トリメチルアンチモン)またはTESb(トリエチルアンチモン)を用いればよい。また、発光層が形成される際に、N原料として、NH3以外にN24(ジメチルヒドラジン)が用いられてもよい。
【0059】
次に、基板が再び1050℃まで昇温されて、厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層107、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層108、厚さ0.5μmのp型Al0.1Ga0.9Nクラッド層109、および厚さ0.1μmのp型GaNコンタクト層110が順次に成長させられた。p型不純物としては、Mg(EtCP2Mg:ビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム)が5×1019/cm3〜2×1020/cm3の濃度で添加された。p型GaNコンタクト層110のp型不純物濃度は、p電極112との界面に近づくに従って増大させることが好ましい。こうすることによって、p電極との界面におけるコンタクト抵抗が低減する。また、p型不純物であるMgの活性化を妨げているp型層中の残留水素を除去するために、p型層成長中に微量の酸素が混入されてもよい。
【0060】
このようにして、p型GaNコンタクト層110が成長させられた後、MOCVD装置のリアクタ内の全ガスが窒素キャリアガスとNH3に変えられ、60℃/分の冷却速度で基板温度が冷却された。基板温度が800℃に冷却された時点でNH3の供給が停止され、5分間だけその基板温度に保持されてから室温まで冷却された。この基板の保持温度は650℃から900℃の間にあることが好ましく、保持時間は3分以上で10分以下であることが好ましかった。また、室温までの冷却速度は、30℃/分以上であることが好ましい。こうして形成された結晶成長膜がラマン測定によって評価された結果、従来のp型化アニールが行なわれていなくても、その成長膜は既にp型化の特性を示していた(すなわち、Mgが活性化していた)。また、p電極112を形成したときのコンタクト抵抗も低減していた。これに加えて従来のp型化アニールが組合わされれば、Mgの活性化率がさらに向上して好ましかった。
【0061】
なお、本実施形態による結晶成長方法においては、加工基板から窒化物半導体レーザ素子まで連続して結晶成長させてもよいし、加工基板から被覆加工基板までの成長工程が予め行なわれた後に窒化物半導体レーザ素子を成長させるための再成長が行なわれてもよい。
【0062】
本実施形態におけるIn0.07Ga0.93Nクラック防止層103は、In組成比が0.07以外であってもよいし、InGaNクラック防止層が省略されてもよい。しかしながら、クラッド層とGaN基板との格子不整合が大きくなる場合には、InGaNクラック防止層が挿入される方が好ましい。
【0063】
本実施形態の発光層106は、障壁層で始まり障壁層で終わる構成であったが、井戸層で始まり井戸層で終わる構成であってもよい。また、発光層中の井戸層数は、前述の3層に限られず、10層以下であればしきい値電流値が低くなって室温連続発振が可能であった。特に、井戸層数が2以上で6以下のときにしきい値電流値が低くなって好ましかった。
【0064】
本実施形態の発光層106においては、井戸層と障壁層の両方にSiが1×1018/cm3の濃度で添加されたが、Siが添加されなくてもよい。しかしながら、Siが発光層に添加された方が、発光強度が強くなった。発光層に添加される不純物としては、Siに限られず、O、C、Ge、Zn、およびMgの少なくともいずれかが添加されてもよい。また、不純物の総添加量としては、約1×1017〜1×1019/cm3程度が好ましかった。さらに、不純物が添加される層は井戸層と障壁層の両方であることに限られず、これらの片方の層のみに不純物が添加されてもよい。
【0065】
本実施形態のp型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層107は、Al組成比が0.2以外であってもよいし、このキャリアブロック層が省略されてもよい。しかしながら、キャリアブロック層を設けたほうがしきい値電流値が低くなった。これは、キャリアブロック層107が発光層106内にキャリアを閉じ込める働きがあるからである。キャリアブロック層のAl組成比を高くすることは、これによってキャリアの閉じ込めが強くなるので好ましい。逆に、キャリアの閉じ込めが保持される範囲内でAl組成比を小さくすれば、キャリアブロック層内のキャリア移動度が大きくなって電気抵抗が低くなるので好ましい。
【0066】
本実施形態では、p型クラッド層109とn型クラッド層104として、Al0.1Ga0.9N結晶が用いられたが、そのAl組成比は0.1以外であってもよい。そのAlの混晶比が高くなれば発光層106とのエネルギギャップ差と屈折率差が大きくなり、キャリアや光が発光層内に効率よく閉じ込められ、レーザ発振しきい値電流値の低減が可能になる。逆に、キャリアや光の閉じ込めが保持される範囲内でAl組成比を小さくすれば、クラッド層内でのキャリア移動度が大きくなり、素子の動作電圧を低くすることができる。
【0067】
AlGaNクラッド層の厚みは0.7μm〜1.5μmの範囲内にあることが好ましく、このことによって垂直横モードの単峰化と光閉じ込め効率が増大し、レーザの光学特性の向上とレーザしきい値電流値の低減が可能になる。
【0068】
クラッド層はAlGaN3元混晶に限られず、AlInGaN、AlGaNP、AlGaNAsなどの4元混晶であってもよい。また、p型クラッド層は、電気抵抗を低減するために、p型AlGaN層とp型GaN層を含む超格子構造、またはp型AlGaN層とp型InGaN層を含む超格子構造を有していてもよい。
【0069】
本実施形態ではMOCVD装置による結晶成長法が例示されたが、分子線エピタキシー法(MBE)、ハイドライド気相成長法(HVPE)などが用いられてもよい。
【0070】
(チップ化工程)
前述の結晶成長で形成されたエピウエハ(被覆基板上に多層の窒化物半導体層がエピタキシャル成長させられたウエハ)がMOCVD装置から取出され、レーザ素子に加工される。ここで、窒化物半導体レーザ層が形成されたエピウエハの表面は平坦であり、加工基板に形成された溝と丘は窒化物半導体下地層と発光素子構造層で完全に埋没されていた。
【0071】
被覆加工基板100はn型導電性の窒化物半導体であるので、その裏面側上にHf/Alの順の積層でn電極111が形成された(図1参照)。n電極としては、Ti/Al、Ti/Mo、またはHf/Auなどの積層も用いられ得る。n電極にHfが用いられれば、そのコンタクト抵抗が下がるので好ましい。
【0072】
p電極部分は加工基板101の溝方向に沿ってストライプ状にエッチングされ、これによってリッジストライプ部(図1参照)が形成された。リッジストライプ部はストライプ幅2.0μmを有し、領域IIIを避けるように溝中央から4μm離れて形成された。その後、SiO2誘電体膜113が蒸着され、p型GaNコンタクト層110の上面がこの誘電体膜から露出されて、その上にp電極112がPd/Mo/Auの積層として蒸着されて形成された。p電極としては、Pd/Pt/Au、Pd/Au、またはNi/Auなどの積層が用いられてもよい。
【0073】
最後に、エピウエハはリッジストライプの長手方向に対して垂直方向にへき開され、共振器長500μmのファブリ・ペロー共振器が作製された。共振器長は、一般に300μmから1000μmの範囲内であることが好ましい。溝が<1−100>方向に沿って形成された共振器長のミラー端面は、窒化物半導体結晶のM面{1−100}が端面になる。ミラー端面を形成するためのへき開とレーザチップの分割は、加工基板100の裏面側からスクライバを用いて行なわれた。ただし、へき開はウエハの裏面全体を横断してスクライバによる罫書き傷がつけられてからへき開されるのではなく、ウエハの一部、たとえばウエハの両端のみにスクライバによる罫書き傷がつけられてへき開された。これにより、素子端面の急峻性やスクライブによる削りかすがエピ表面に付着しないので、素子歩留まりが向上する。
【0074】
なお、レーザ共振器の帰還手法としては、一般に知られているDFB(分布帰還)、DBR(分布ブラッグ反射)なども用いられ得る。
【0075】
ファブリ・ペロー共振器のミラー端面が形成された後には、そのミラー端面にSiO2とTiO2の誘電体膜を交互に蒸着し、70%の反射率を有する誘電体多層反射膜が形成された。この誘電体多層反射膜としては、SiO2/Al23などの多層膜を用いることもできる。
【0076】
なお、n電極111は被覆加工基板100の裏面上に形成されたが、ドライエッチング法を用いてエピウエハの表側からn型Al0.05Ga0.95N膜102の一部を露出させて、その露出領域へn電極が形成されてもよい。
【0077】
(パッケージ実装)
得られた半導体レーザ素子チップは、パッケージに実装される。高出力(30mW以上)の窒化物半導体レーザ素子を用いる場合、放熱対策に注意を払わなければならない。高出力窒化物半導体レーザ素子はInはんだ材を用いて半導体接合を下側にして接続するほうが好ましい。なお、高出力窒化物半導体レーザ素子は、直接パッケージ本体やヒートシンク部に取付けられ得るが、Si、AlN、ダイヤモンド、Mo、CuW、BN、Fe、Cu、SiC,またはAuなどのサブマウントを介して接続されてもよい。
【0078】
以上のようにして、本実施形態による窒化物半導体レーザ素子が作製された。
なお、本実施形態ではGaNの被覆加工基板100が用いられたが、他の窒化物半導体の被覆加工基板が用いられてもよい。たとえば、窒化物半導体レーザの場合、垂直横モードの単峰化のためにはクラッド層よりも屈折率の低い層がそのクラッド層の外側に接していることが好ましく、AlGaN基板が好ましく用いられ得る。
【0079】
本実施形態においては、被覆加工基板上の最適位置に窒化物半導体レーザ素子が形成されることによって、結晶歪みが緩和されてクラックの発生率も低くなり、雰囲気温度60℃の条件の下で30mWのレーザ出力で約15500時間のレーザ発振寿命が得られた。
【0080】
[実施形態3]
実施形態3においては、リッジストライプ構造の代わりに電流阻止層を有する窒化物半導体レーザ素子(図4参照)が作製された。なお、本実施形態において特に言及されていない事項に関しては、実施形態1および2の場合と同様である。
【0081】
以下において、本実施形態における電流阻止層を有する窒化物半導体レーザ素子が、図8を参照して、より詳細に説明される。このレーザ素子は、被覆加工基板100、n型In0.07Ga0.93Nクラック防止層103、n型Al0.1Ga0.9Nクラッド層104、n型GaN光ガイド層105、発光層106、p型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層107、p型GaN光ガイド層108、p型Al0.1Ga0.9N第1クラッド層109a、電流阻止層120、p型Al0.1Ga0.9N第2クラッド層109b、p型GaNコンタクト層110、n電極111、およびp電極112を含んでいる。
【0082】
電流阻止層120は、p電極112から注入された電流が図8中の電流阻止層間幅のみを通過するように電流を狭窄する層であればよい。たとえば、電流阻止層120として、n型Al0.25Ga0.75N層を用いることができる。この電流阻止層Alの組成比は0.25に限られず、他の値であってもよい。
【0083】
本実施形態3では、溝幅が15μm、丘幅が7μm、溝深さが3μm、そして電流阻止層丘幅が1.8μmに作製された。また、電流阻止層間幅は溝中央から3μm離れた位置(すなわち領域I内)に形成された。そして、本実施形態3において得られた効果は、実施形態1の場合と同様であった。
【0084】
[実施形態4]
実施形態4においては、実施形態2で述べられた溝と丘が窒化物半導体基礎基板とこの上に積層された窒化物半導体層とを含む窒化物半導体修正基板上に形成されたこと以外は、実施形態1および2と同様である。
【0085】
本実施形態における被覆加工基板の作製方法では、まず、主面方位が(0001)面のn型GaN基礎基板がMOCVD装置内に装填された。そのn型GaN基礎基板上にNH3とTMGaが供給され、比較的低い550℃の成長温度の下で低温GaNバッファ層が形成された。そして、成長温度が1050℃まで昇温され、その低温GaNバッファ層上にNH3、TMGa、およびSiH4が供給されて、n型GaN層が積層された。このn型GaN層が積層された窒化物半導体修正基板がMOCVD装置から取り出された。MOCVD装置から取り出された修正基板のn型GaN層の表面に、従来のリソグラフィ技術を用いてストライプ状のマスクパターンが形成された。そして、このマスクパターンに沿ってドライエッチングを用いて溝が形成され、こうして加工基板が完成された。ここで、加工基板に形成された溝と丘は、n型GaN修正基板の<1−100>方向に沿って、溝幅20μm、溝深さ3μmおよび丘幅8μmの寸法で形成された。
【0086】
この加工基板は十分に有機洗浄され、MOCVD装置に再び搬入されて、被覆膜厚5μmのGaN下地層が積層された。このGaN下地層は、MOCVD装置内のセットされた加工基板上にV族元素用原料のNH3、III族元素用のTMGa、およびドーパントのSiH4(Si不純物濃度1×1018/cm3)が供給されて、1050℃の成長温度の下で形成された。こうして、実施形態4における被覆加工基板が完成された。
【0087】
本実施形態で説明された低温GaNバッファ層は、低温AlxGa1-xN(0≦x≦1)バッファ層であってもよく、また、この低温バッファ層自体が省略されてもよい。しかし、現在供給されているGaN基板は表面モフォロジが十分には好ましくないので、低温AlxGa1-xNバッファ層が挿入された方が、表面モフォロジが改善されるので好ましい。なお、低温バッファ層とは、比較的低い約450〜600℃の成長温度で形成されるバッファ層を意味し、この成長温度範囲で形成されたバッファ層は多結晶または非晶質である。
【0088】
[実施形態5]
実施形態5においては、Nの一部と置換すべきAs、P、およびSbの少なくともいずれかの置換元素を発光層に含ませたこと以外は、実施形態1〜3と同様であった。より具体的には、As、P、およびSbの少なくともいずれかの置換元素が、窒化物半導体レーザ素子の発光層中で少なくとも井戸層のNの一部に置換して含められた。このとき、井戸層に含まれたAs、P、および/またはSbの総和の組成比をxとしてNの組成比をyとするときに、xはyよりも小さくかつx/(x+y)は0.3(30%)以下であって、好ましくは0.2(20%)以下である。また、As、P、および/またはSbの総和の好ましい濃度の下限値は、1×1018/cm3以上であった。
【0089】
この理由は、置換元素の組成比xが20%よりも高くなれば井戸層内のある領域ごとに置換元素の組成比の異なる濃度分離が生じ始め、さらに組成比xが30%よりも高くなれば濃度分離から六方晶系と立方晶系が混在する結晶系分離に移行し始めて、井戸層の結晶性が低下する可能性が高くなるからである。他方、置換元素の総和の濃度が1×1018/cm3よりも小さくなれば、井戸層中に置換元素を含有させたことによる効果が得られ難くなるからである。
【0090】
本実施形態による効果としては、井戸層にAs、P、およびSbの少なくともいずれかの置換元素を含ませることによって、井戸層中の電子とホールの有効質量が小さくなりかつ移動度が大きくなる。半導体レーザ素子の場合、小さな有効質量は小さい電流注入量でレーザ発振のためのキャリア反転分布が得られることを意味し、大きな移動度は発光層中で電子とホールが発光再結合によって消滅しても新たな電子とホールが拡散によって高速で注入され得ることを意味する。すなわち、発光層にAs、P、およびSbのいずれをも含有しないInGaN系窒化物半導体レーザ素子に比べて、本実施形態では、しきい値電流密度が低くかつ自励発振特性の優れた(雑音特性に優れた)半導体レーザを得ることが可能である。
【0091】
[実施形態6]
実施形態6においては、前述の実施形態による窒化物半導体レーザ素子が光学装置において適用された。前述の実施形態による青紫色(380〜420nmの発振波長)の窒化物半導体レーザ素子は、種々の光学装置において好ましく利用することができ、たとえば光ピックアップ装置に利用すれば以下の点において好ましい。すなわち、そのような窒化物半導体レーザ素子は、高温雰囲気中(60℃)において高出力(30mW)で安定して動作し、かつレーザ発振寿命が長いことから、信頼性の高い高密度記録再生用光ディスク装置に最適である(発振波長が短いほど、より高密度の記録再生が可能である)。
【0092】
図9において、前述の実施形態による窒化物半導体レーザ素子が光学装置に利用された一例として、たとえばDVD装置のように光ピックアップを含む光ディスク装置が模式的なブロック図で示されている。この光学情報記録再生装置において、窒化物半導体レーザ素子1から射出されたレーザ光3は入力情報に応じて光変調器4で変調され、走査ミラー5およびレンズ6を介してディスク7上に記録される。ディスク7は、モータ8によって回転させられる。再生時にはディスク7上のビット配列によって光学的に変調された反射レーザ光がビームスプリッタ9を介して検出器10で検出され、これによって再生信号が得られる。これらの各要素の動作は、制御回路11によって制御される。レーザ素子1の出力については、通常は記録時に30mWであり、再生時には5mW程度である。
【0093】
上述の実施形態によるレーザ素子は上述のような光ディスク記録再生装置に利用され得るのみならず、レーザプリンタ、バーコードリーダ、光の3原色(青色、緑色、赤色)レーザによるプロジェクタなどにも利用し得る。
【0094】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、窒化物半導体レーザ素子において、レーザ発振寿命を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明において被覆加工基板上に形成されたリッジストライプ構造を含む窒化物半導体レーザ素子の一例を示す模式的な断面図である。
【図2】 (a)は本発明において用いられ得る窒化物半導体加工基板の一例を示す模式的な断面図であり、(b)はその上面図を示している。
【図3】 本発明において用いられ得る被覆加工基板の一例を示す模式的な断面図である。
【図4】 (a)はリッジストライプ構造を有する窒化物半導体レーザ素子の一例を示す模式的な断面図であり、(b)は電流阻止層構造を有する窒化物半導体レーザ素子の一例を示す模式的な断面図である。
【図5】 本発明において用いられ得る被覆加工基板上に形成された窒化物半導体レーザ素子のリッジストライプ部の形成位置とレーザ発振寿命との関係を示す図である。
【図6】 本発明において用いられ得る被覆加工基板上に形成される電流狭窄部分の好ましい形成領域を示す模式的な断面図である。
【図7】 本発明において用いられる加工基板における溝深さとその加工基板を用いて得られるレーザ素子の発振寿命との関係を示すグラフである。
【図8】 電流阻止層を含む窒化物半導体レーザ素子の一例を示す模式的な断面図である。
【図9】 本発明による窒化物半導体レーザ素子を利用した光ピックアップ装置を含む光学装置の一例を示す模式的なブロック図である。
【符号の説明】
100 被覆加工基板、101 加工基板、102 n型Al0.05Ga0.95N膜、103 n型In0.07Ga0.93Nクラック防止層、104 n型Al0.1Ga0.9Nクラッド層、105 n型GaN光ガイド層、106 発光層、107p型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層、108 p型GaNガイド層、109,109a,109b p型Al0.1Ga0.9Nクラッド層、110 p型GaNコンタクト層、111 n電極、112 p電極、113 SiO2誘電体膜、120 電流阻止層。

Claims (11)

  1. 窒化物半導体基板の一主面上に形成された溝と丘を含む加工基板と、
    前記加工基板の溝と丘を覆う窒化物半導体下地層と、
    前記窒化物半導体下地層上でn型層とp型層との間において量子井戸層または量子井戸層とこれに接する障壁層を含む発光層を含む発光素子構造とを含み、
    前記溝の幅方向の中央から1μm以上離れかつ前記丘の幅方向の中央からも1μm以上離れた領域の上方に前記発光素子構造の電流狭窄部分が形成されていることを特徴とする窒化物半導体レーザ素子。
  2. 前記溝の幅方向の中央から1μm以上離れかつその溝の幅内の領域の上方に前記電流狭窄部分が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
  3. 前記溝の幅方向の中央から1μm以上離れかつその溝の幅とその溝に隣接する丘の幅にまたがった領域の上方に前記電流狭窄部分が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
  4. 前記溝の幅と前記丘の幅の少なくとも一方が4〜30μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1から3のいずれかの項に記載の窒化物半導体レーザ素子。
  5. 前記溝の幅は前記丘の幅より広いことを特徴とする請求項1から4のいずれかの項に記載の窒化物半導体レーザ素子。
  6. 前記の溝の深さは1〜10μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1から5のいずれかの項に記載の窒化物半導体レーザ素子。
  7. 前記窒化物半導体下地層は、Si、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、MgおよびBeの少なくとも1種の不純物を1×1017〜5×1018/cm3の範囲内で含むGaNであることを特徴とする請求項1から6のいずれかの項に記載の窒化物半導体レーザ素子。
  8. 前記窒化物半導体下地層はAlxGa1-xN(0.01≦x≦0.15)を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかの項に記載の窒化物半導体レーザ素子。
  9. 前記窒化物半導体下地層はInxGa1-xN(0.01≦x≦0.18)を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかの項に記載の窒化物半導体レーザ素子。
  10. 前記量子井戸層はAs、P、およびSbの少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1から9のいずれかの項に記載の窒化物半導体レーザ素子。
  11. 請求項1から10のいずれかの項に記載された窒化物半導体レーザ素子を含むことを特徴とする光学装置。
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