JP4646134B2 - 高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法 - Google Patents
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「遅れ破壊」(日本工業新聞社、1989年8月31日発行)
本発明評価方法では、前記した通り、評価対象とする高強度鋼板の試験片に対して、高強度鋼板のプレス加工度の影響や、残留応力の影響も加味するために、上記特定の引張加工を加えた上で、更に、特定の曲げ加工を予め加える。
先ず、評価対象となる高強度鋼板の試験片に対して、この高強度鋼板の伸び量に対して20〜80%の塑性歪みを伴う引張加工を加える。この高強度鋼板の伸び量に対する20〜80%の塑性歪みは、高強度鋼板の実際の絞りや張出のプレス成形における加工度に対応するためのものである。
次ぎに、試験片に対し、上記特定の引張加工を加えた後に、曲げ部の半径が5〜30mmとなるようなU曲げ加工か、曲げ部の角度が30〜90度となるようなV曲げ加工のいずれかを加える。この曲げ加工も、高強度鋼板のプレス加工度、例えば、自動車アウタパネルにおける、絞りや張出のプレス成形後の、実際のヘム加工などの曲げ加工に対応するためのものである。
更に、これら引張加工および曲げ加工を加えた試験片の、曲げ部とは反対側の2つの両辺部分に対して、500〜2000MPaの圧縮応力を付加(負荷と同じ意味)する。これによって、これら引張加工および曲げ加工による残留応力の影響(曲げ加工後のスプリングバックの影響など)を加味できる。また、プレス成形品としての使用状態における付加応力の影響を加味できる(付加荷重やボルト締め付け力など)。
この状態で、図5に示すように、前記U曲げ加工あるいはV曲げ加工した試験片1を、試験槽13内の電解溶液19に陰極11として浸漬する。なお、陰極11は、支持棒17に架け渡されたリード線10に接続され、陰極11への電流の印加が可能なクリップ18により挟持されて支持され、電解溶液19に浸漬される。そして、この陰極11及び陽極12に、電源(電流制御装置)14より定電流を通電して水素チャージを行い、陰極試験片11に割れが生じるまでの時間で、高強度鋼板の耐遅れ破壊性を評価する。陰極試験片11の割れ発生は、陰極試験片11の曲げ部に歪みゲージ(割れ感知装置)16を取り付け、割れ発生をこの歪み量の変化として検知しても良い。15は歪みゲージ16の記録計、10は各リード線である。
陰極にチャージする定電流の電流密度は、0.1〜0.01mA/ mm2 とすることが好ましい。電流密度が0.1mA/ mm2 を越えた場合には、鋼中へ一度に大量の水素が吸蔵されるために、鋼種間の陰極試験片1の割れ発生 (破断) 時間の差が把握しにくくなる。一方、電流密度が0.0 1mA/ mm2 未満では、鋼中へ吸蔵される水素が少ないために、評価に多大の時間を要する。
電解溶液13は、定電流の付与によって、鋼中へ水素を効果的に吸蔵させるために、pHが6以下の水溶液であることが好ましい。pHが6を超えると効率的に水素が鋼材に侵入することができず、適正な評価ができないので、電解溶液13のpHは6以下とする。
本発明評価方法は、評価方法として重要な再現性や所要時間の最適化のために、前記陰極試験片に割れが生じるまでの時間が、下記遅れ破壊パラメータ式で500〜10000の範囲を満足することが好ましい。言い換えると、この遅れ破壊パラメータ式が500〜10000の範囲を満足するように、前記陰極試験片の各加工条件(引張加工、曲げ加工、圧縮応力)を選択することが好ましい。
この遅れ破壊パラメータ式において、〔(前記高強度鋼板の引張強度:MPa)/1180〕の項は強度のパラメータを表す。
また、(締め付けによる付加応力)×〔100/(100−前記塑性歪み:%)〕×〔(前記高強度鋼板の板厚:mm)/(前記陰極試験片の曲げ部の半径:mm)もしくは(前記陰極試験片の曲げ部の角度:度)1/2 〕の項は前記陰極試験片の加工条件のパラメータを表す。
更に、〔1/(前記陰極試験片に割れが生じるまでの時間:hr)〕の項は割れ時間のパラメータを表す。
ここで、本発明が主たる評価対象とする、引張強度1180MPa以上の高強度鋼板であって、優れた強度・延性バランスや伸びフランジ性を有するTRIP鋼板について、以下に説明する。
更にまた、鋼組織を、好ましくは、前記TBF鋼と称される、鋼組織占積率で、ベイニティックフェライトが80%以上、残留オーステナイトが1〜15%、残部がベイナイトおよび/またはマルテンサイトからなる、TRIP型複合組織としても良い。
残留γは、TRIP(変態誘起塑性)効果を発揮するための本質的な組織であり、伸び(延性)の向上に有用である。この様な作用を有効に発揮させるには、残留γを全組織に対する占積率で1%以上とする。一方、15%を超えて存在すると局部変形能や伸びフランジ性が劣化する。したがって、残留γは、比較的少ないレベルでの一定の占積率とし、1〜15%とする。この占積率(%)は、公知の飽和磁化測定装置および飽和磁化測定法により、体積率(体積分率)として、一定の形状を有する測定対象試料の飽和磁化量(I)、および測定対象試料と実質的に同一成分であってγRが体積率で0%である場合の飽和磁化量(Is)を実測または計算により求め、γR(体積%)=(1−I/Is)×100の式に基づき、算出するものである。
次に、TRIP鋼板を構成する基本成分について説明する。以下、化学成分の単位はすべて質量%である。TRIP鋼板では、上記した組織と、伸びフランジ性と伸びなどの特性を保障するために、基本的には、C:0.05〜0.4%、Si:1.0〜3.0%、Mn:1.0〜3.5%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる冷延鋼板とすることが好ましい。なお、これら%は、全て質量%の意味である。
Tiおよび/またはV、Zr、Wを合計で0.003〜1.0%、あるいはNb:0.1%以下(0%を含まない)(析出強化および組織微細化作用による高強度化効果狙い)。
Mo:1.0%以下(0%を含まない)、Ni:0.003〜1.5%、Cu:0.003〜1.0%、の一種または二種以上(鋼の強化、オーステナイト安定化、γRの生成寄与などの効果狙い)。
Ca:0.003%以下(0%を含まない)、REM:0.003%以下(0%を含まない)の一種または二種(鋼中の硫化物形態制御による加工性向上効果狙い)。
例えば、Pは粒界偏析を助長する元素であるため0.15%以下とすることが好ましい。Sは腐食環境下で水素吸蔵を助長する元素であるため0.02%以下とすることが好ましい。Nは0.02%以下とすることが好ましい。
TRIP鋼板を製造する好ましい方法は、熱延工程としては、Ar3点以上で熱延終了後、平均冷却速度約30℃/sで冷却し、約500〜600℃の温度で巻取る等の条件を採用することが好ましい。また、冷延は約30〜70%の冷延率を施すことが推奨される。冷延鋼板の連続焼鈍条件は、鋼組織を、上記組織占積率の複合組織鋼板とするために、冷延鋼板をA3点以上のオーステナイト(γ)温度域に加熱した後、ベイナイト変態域へ平均冷却速度30℃/s以上のできるだけ速い冷却速度で、急冷する。このγ域からの過冷却によって、フェライト変態の核が増加し、通常の2相域(A1点〜A3点)での加熱と、その2相域からの冷却に比較して、フェライトの粒成長も均一に起こりやすく、第2相を微細にすることができる。
本発明評価方法は、上記各鋼板から採取した試験片によって耐遅れ破壊性を評価した。即ち、表3〜5に示す各条件で、評価対象となる試験片に対して、前記図1で示した引張加工、前記図3(a)、(b)で示したU曲げ加工かV曲げ加工、前記図4(a)、(b)で示した応力付加の加工を予め行なった。各例における、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値も表3〜5に示す。
表3は、試験片に対して予め行なう加工条件の内、前記図1で示した引張加工の塑性歪み量の影響をみている。即ち、鋼板の伸び量に対して80%、40%、20%と、20〜80%の塑性歪みを伴う引張加工を加えた1〜12までの発明例は、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値で500〜10000の範囲内にある。このため、表3に示す、陰極試験片に割れが生じるまでの各時間が適当に短く最適であり(各表に試験法としての個別評価を○と記載)、かつ互いの時間に差がついている。この結果、本発明評価方法による耐遅れ破壊性(陰極試験片に割れが生じるまでの時間)の順位は、同じ加工条件同士の比較において、前記実プレス部品化を模擬した塩水噴霧試験による耐遅れ破壊性評価試験の表2の順位と一致(対応)する順位となっている。なお、比較例4、8、12は、100時間経過後も割れが発生せず、個別の評価方法としては良くないが、上記発明例との相対差がでており、相対的な比較としては使用できる。
表4は、試験片に対して予め行なう加工条件の内、前記図3(b)で示したU曲げ加工の曲げ半径量の影響をみている。即ち、曲げ半径が30mm、5mmの範囲内であるU曲げ加工を加えた21〜28までの発明例は、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値で500〜10000の範囲内にある。このため、陰極試験片に割れが生じるまでの各時間が適当に短く最適であり(各表に試験法としての個別評価を○と記載)、かつ互いの時間に差がついている。この結果、本発明評価方法は、同じ加工条件同士の比較(陰極試験片に割れが生じるまでの時間)において、前記実プレス部品化を模擬した塩水噴霧試験による耐遅れ破壊性評価試験の順位と一致(対応)する順位となっている。なお、比較例24、28は、100時間経過後も割れが発生せず、個別の評価方法としては良くないが、上記発明例との相対差がでており、相対的な比較としては使用できる。
表5は、試験片に対して予め行なう加工条件の内、前記図3(a)で示したV曲げ加工の曲げ角度の影響をみている。即ち、曲げ角度が90度、60度、30度、の範囲内であるV曲げ加工を加えた37〜48までの発明例は、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値で500〜10000の範囲内にある。このため、陰極試験片に割れが生じるまでの各時間が適当に短く最適であり(各表に試験法としての個別評価を○と記載)、かつ互いの時間に差がついている。この結果、本発明評価方法は、同じ加工条件同士の比較(陰極試験片に割れが生じるまでの時間)において、前記実プレス部品化を模擬した塩水噴霧試験による耐遅れ破壊性評価試験の順位と一致(対応)する順位となっている。なお、比較例40、44、48は、100時間経過後も割れが発生せず、個別の評価方法としては良くないが、上記発明例との相対差がでており、相対的な比較としては使用できる。
表6は、試験片に対して予め行なう加工条件の内、前記図4で示した付加圧縮応力の影響をみている。即ち、2000MPa、500MPaの付加応力を加えた57〜64までの発明例は、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値で500〜10000の範囲内にある。このため、陰極試験片に割れが生じるまでの各時間が適当に短く最適であり(各表に試験法としての個別評価を○と記載)、かつ互いの時間に差がついている。この結果、本発明評価方法は、同じ加工条件同士の比較(陰極試験片に割れが生じるまでの時間)において、前記実プレス部品化を模擬した塩水噴霧試験による耐遅れ破壊性評価試験の順位と一致(対応)する順位となっている。なお、比較例59、60は前記遅れ破壊パラメータ式値が10000を越え、比較例59は陰極試験片に割れが生じるまでの時間が短過ぎ、比較例60は応力付加の加工中に破断してしまい、浸漬試験ができなかった。また、比較例64は前記遅れ破壊パラメータ式値が500未満で100時間経過後も割れが発生しなかった。これらの例は、個別の評価方法としては良くないが、上記発明例との相対差がでており、比較例60を除き、相対的な比較としては使用できる(浸漬試験ができなかった比較例60については表2の結果によって便宜的に耐遅れ破壊性の順位付けをしている)。
Claims (3)
- 引張強度1180MPa以上の高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法であって、前記高強度鋼板の試験片に対して、この高強度鋼板の伸び量に対して20〜80%の塑性歪みを伴う引張加工を加えた後に、曲げ部の半径が5〜30mmとなるようなU曲げ加工か、曲げ部の角度が30〜90度となるようなV曲げ加工のいずれかを加え、更に、この曲げ加工を加えた試験片の両辺部分に対して500〜2000MPaの圧縮応力を付加した状態で、電解溶液に陰極として浸漬し、陰極及び陽極に定電流を通電して水素チャージを行い、陰極試験片に割れが生じるまでの時間で高強度鋼板の耐遅れ破壊性を評価することを特徴とする高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法。
- 前記高強度鋼板が、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイトの混合組織からなる、変態誘起塑性鋼板である請求項1に記載の高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法。
- 前記陰極試験片に割れが生じるまでの時間が、下記遅れ破壊パラメータ式で500〜10000の範囲を満足する請求項1または2に記載の高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法。
遅れ破壊パラメータ式=〔(前記高強度鋼板の引張強度:MPa)/1180〕×(締め付けによる付加応力)×〔100/(100−前記塑性歪み:%)〕×〔(前記高強度鋼板の板厚:mm)/(前記陰極試験片の曲げ部の半径:mm)もしくは(前記陰極試験片の曲げ部の角度:度)1/2 〕×〔1/(前記陰極試験片に割れが生じるまでの時間:hr)〕×100
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