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JP4646134B2 - 高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法 - Google Patents

高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法 Download PDF

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Description

本発明は、高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法に関し、自動車のプレス部品などとして用いられる、引張強度1180MPa以上の高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法に関するものである。
本発明は、前記高強度鋼板として、特に、これまでにない高い伸びの領域で加工されてプレス部品化され、かつ、これまでは加工限界から使用されなかったプレス部品に適用されるTRIP鋼板(フェライト、ベイナイト、残留オーステナイトの混合組織からなる、変態誘起塑性鋼板)の耐遅れ破壊性評価に適用されて好ましい。
自動車鋼板の軽量化に伴う燃費の軽減を図り、衝突時の安全性確保を主な背景として、高強度鋼板の需要は益々増大しており、最近では、排ガス低減による地球環境保全の観点からもその需要が一層高まっている。
しかしながら、高強度鋼板といえども成形性に対する要求は強く、夫々の用途に応じ、適切な成形性を兼ね備えていることが求められている。特に複雑形状のプレス成形加工が施される自動車パネルやフレーム用途においては、張り出し成形性(延性=伸び)と、伸びフランジ性[穴拡げ性(局部的な延性)]の両方を兼備した高強度鋼板の提供が切望されている。
この様な優れた強度と延性を兼ね備えている要求特性を具備しつつ、自動車の衝撃安全性及び軽量化を目的として開発された高強度高延性鋼板の一つとして、TRIP鋼板(TRansformation Induced Plasticity;変態誘起塑性鋼板)が挙げられる。このTRIP鋼板は、組織中に残留オーステナイト(γR)を生成させた、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイトの混合組織からなる。そして、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)以上の温度で加工変形させると、応力によって残留オーステナイト(γR )がマルテンサイトに誘起変態して大きな伸びが得られる鋼板である。
例えば、ポリゴナル・フェライトを母相とし、残留オーステナイトを含むTRIP型複合組織鋼(TPF鋼)、焼戻マルテンサイトを母相とし、残留オーステナイトを含むTRIP型焼戻マルテンサイト鋼(TAM鋼)、ベイニティック・フェライトを母相とし、残留オーステナイトを含むTRIP型ベイナイト鋼(TBF鋼)等が知られている。
一方、鋼板の高強度化に伴い、水素脆化起因の遅れ破壊が懸念される。これに対して、従来から高強度化が進められてきたボルト、PC鋼線やラインパイプといった部材分野では、非特許文献1や特許文献1にあるように様々な水素脆化評価法が存在する。
例えば、特許文献1では、引張試験片に張力を加えて、電解質を含む水溶液の中に対極と共に配置して、負の電位を付与し、前記水溶液の電解にて発生する水素により、前記引張試験片が水素脆化するまでの時間で、鋼材の耐遅れ破壊性を評価している。
しかし、特許文献2でも記載されている通り、薄鋼板の分野における水素脆化評価法と、前記ボルト、PC鋼線やラインパイプといった部材での水素脆化評価法とは異なる。即ち、ボルトなどの部材は、製品ままで使用されるため、評価に際し加工度や残留応力の影響、端面状態の影響などを考慮する必要が無い。これに対し、薄鋼板ではプレスなどの加工を行ってから部材として使用される。したがって、薄鋼板の水素脆化評価法では、この加工度の影響や、残留応力の影響も加味した評価を行わなければ正確な評価とはならない。
さらに、使用時には溶接や組み付けなどによる応力や、実際に使用に際し部材として受け持つ応力があることから、薄鋼板では使用時の付加応力を一義的に決定する事は不可能であるので、付加応力レベルを自由に変えられる評価法でなくてはならない。
このため、薄鋼板の分野でも、いまだ確立されていないものの、種々の水素脆化評価法が提案されている。例えば、前記特許文献2では、薄鋼板における使用環境を考慮し、付加応力・残留応力・端面影響・曲げRの影響などによる水素脆化特性を正当に評価できる装置および方法を提案している。具体的に、特許文献2では、薄鋼板試験片をU形状に予め曲げ加工後、ボルトにて応力付加し、酸性溶液中で電解チャージすることにより、高強度鋼板の耐水素脆化特性評価を行なっている。
また、特許文献3では、高張力鋼板の遅れ破壊特性を評価する方法として、長手方向両端部付近に穴を開けた短冊状試験片をU型に曲げ、この曲げ加工後に加工部表面に歪ゲージを貼り、その後、前記穴にボルトを通し、該歪ゲージで歪を観察しながら、このボルトを締めることにより所望の応力を付加し、ついで該試験片に希硫酸中で負の電圧を付与し、該歪ゲージの値に変化が現れるまでの時間を測定することが提案されている。
「遅れ破壊」(日本工業新聞社、1989年8月31日発行) 特開2004−309197号公報(全文) 特開2005−134152号公報(全文) 特開平7−146225号公報(全文)
これらの技術では、通常の高強度鋼板や高張力鋼板の遅れ破壊特性を評価することはできる。しかしながら、引張強度1180MPa以上の変態誘起塑性を特徴とする前記TRIP鋼板などの高強度鋼板の耐遅れ破壊特性(水素脆化特性)の評価方法としては十分とは言えない。
TRIP鋼板は、γRによる優れた強度・延性のバランスを維持しつつ、しかも、伸びフランジ性(穴広げ性)等の成形性にも優れている。このために、通常の高強度鋼板や高張力鋼板に比して、これまでにない高い伸びの領域で加工されてプレス部品化され、かつ、これまでは加工限界から使用されなかったプレス部品に適用される。
したがって、前記した、ボルトなどの部材での水素脆化評価法と、薄鋼板の分野における水素脆化評価法との違いの通り、TRIP鋼板は、前記した、通常の高強度鋼板や高張力鋼板の水素脆化評価法では、正確な評価はできない。言い換えると、TRIP鋼板の水素脆化評価法では、TRIP鋼板の加工度の影響や、残留応力の影響も加味した評価を行わなければ、正確な評価とはならない。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、特にTRIP鋼板など、これまでにない高い伸びの領域で加工されてプレス部品化され、かつ、これまでは加工限界から使用されなかったプレス部品に適用される、高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法(水素脆化評価法)を提供しようとするものである。
上記目的を達成するための本発明の要旨は、引張強度1180MPa以上の高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法であって、前記高強度鋼板の試験片に対して、この高強度鋼板の伸び量に対して20〜80%の塑性歪みを伴う引張加工を加えた後に、曲げ部の半径が5〜30mmとなるようなU曲げ加工か、曲げ部の角度が30〜90度となるようなV曲げ加工のいずれかを加え、更に、この曲げ加工を加えた試験片の両辺部分に対して500〜2000MPaの圧縮応力を付加した状態で、電解溶液に陰極として浸漬し、陰極及び陽極に定電流を通電して水素チャージを行い、陰極試験片に割れが生じるまでの時間で高強度鋼板の耐遅れ破壊性を評価することである。
このような要旨の本発明は、引張強度1180MPa以上の高強度鋼板で、特に加工性の優れたTRIP鋼板(前記高強度鋼板が、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイトの混合組織からなる、変態誘起塑性鋼板)に適用されて好ましい。
また、本発明評価方法は、前記陰極試験片に割れが生じるまでの時間が、下記遅れ破壊パラメータ式で500〜10000の範囲を満足することが好ましい。遅れ破壊パラメータ式=〔(前記高強度鋼板の引張強度:MPa)/1180〕×(締め付けによる付加応力)×〔100/(100−前記塑性歪み:%)〕×〔(前記高強度鋼板の板厚:mm)/(前記陰極試験片の曲げ部の半径:mm)もしくは(前記陰極試験片の曲げ部の角度:度)1/2〕×〔1/(前記陰極試験片にわれが生じるまでの時間:hr)〕×100
本発明評価方法では、評価対象とする高強度鋼板の試験片に対して上記特定の引張加工を加えた上で、更に、特定の曲げ加工を、予め加える。これによって、TRIP鋼板など、優れた強度・延性バランスや伸びフランジ性を有するために、これまでにない高い伸びの領域で加工されてプレス部品化され、かつ、これまでは加工限界から使用されなかったプレス部品に適用される高強度鋼板の、これらプレス加工度の影響や、残留応力の影響も加味した、耐遅れ破壊性の評価を行うことができる。
したがって、特にTRIP鋼板など、これまでにない高い伸びの領域で加工されてプレス部品化され、かつ、これまでは加工限界から使用されなかったプレス部品に適用される、高強度鋼板の正確な耐遅れ破壊性の評価方法(水素脆化評価法)を提供できる。
本発明の耐遅れ破壊性の評価方法の概要は以下に示す通りである。
本発明評価方法では、前記した通り、評価対象とする高強度鋼板の試験片に対して、高強度鋼板のプレス加工度の影響や、残留応力の影響も加味するために、上記特定の引張加工を加えた上で、更に、特定の曲げ加工を予め加える。
(引張加工)
先ず、評価対象となる高強度鋼板の試験片に対して、この高強度鋼板の伸び量に対して20〜80%の塑性歪みを伴う引張加工を加える。この高強度鋼板の伸び量に対する20〜80%の塑性歪みは、高強度鋼板の実際の絞りや張出のプレス成形における加工度に対応するためのものである。
この引張加工の際の塑性歪みが高強度鋼板の伸び量に対して20%未満では、前記した、これまでにない高い伸びの領域で加工されてプレス部品化される際や、これまでは加工限界から使用されなかったプレス部品に加工される際に、高強度鋼板に付加される塑性歪みに比して小さ過ぎる。このため、耐遅れ破壊性の評価条件が、これらの絞りや張出のプレス成形における加工度に対応できなくなるため、耐遅れ破壊性の評価方法の信頼性や再現性、あるいは実際の耐遅れ破壊性との相関性が低下する。
一方、これらの絞りや張出のプレス成形における塑性歪みは、実績的に、高強度鋼板の伸び量に対して80%を越えて大きくなることは無い。したがって、試験片の引張加工における塑性歪みを、高強度鋼板の伸び量に対して80%を越えて大きくする必要は無い。
図1に、試験片1の引張加工を示す。図1において、試験片1に対し、その長手方向(圧延方向)に引張加工Fを施し、塑性歪みを与える。試験片1の形状は長方形とし、その大きさは特に問わないが、例えば、長手方向(圧延方向)の長さを100mm、幅を30mmとする。
図2に、試験片1への後述する圧縮応力付加のための、ボルト装着用の孔2、2を設けた(孔開け加工した)態様を示す。貫通孔2、2は、試験片1の両端部1b、1bから9mmの部分に、Φ12mmで設けている。
(曲げ加工)
次ぎに、試験片に対し、上記特定の引張加工を加えた後に、曲げ部の半径が5〜30mmとなるようなU曲げ加工か、曲げ部の角度が30〜90度となるようなV曲げ加工のいずれかを加える。この曲げ加工も、高強度鋼板のプレス加工度、例えば、自動車アウタパネルにおける、絞りや張出のプレス成形後の、実際のヘム加工などの曲げ加工に対応するためのものである。
図3(a)にV曲げ加工、図3(b)にU曲げ加工した、試験片1の態様を各々示す。図3(a)においてθがV曲げ部の角度、図3(b)においてRがU曲げ部の半径である。
この曲げ加工の際の、曲げ部の半径Rが30mmを越えるU曲げ加工や、曲げ部の角度θが90度を越えるV曲げ加工では、絞りや張出のプレス成形後の、ヘム加工などの曲げ加工の際に、高強度鋼板に付加される曲げ加工に比して小さ過ぎる。このため、成形された鋼板が水素脆化しにくい緩やかな条件となって、耐遅れ破壊性の評価条件が、これらの実際のプレス加工度(曲げ加工度)に対応できなくなるため、耐遅れ破壊性の評価方法の信頼性や再現性、あるいは実際の耐遅れ破壊性との相関性が低下する。
一方、これら絞りや張出のプレス成形後の、ヘム加工などの曲げ加工の塑性歪みは、実績的に、曲げ部の半径が5mm未満のU曲げ加工や、曲げ部の角度が30度未満のV曲げ加工となることは無い。したがって、試験片の上記各曲げ加工における、U曲げ部の半径Rを5mm未満、V曲げ部の角度θを30度未満とする必要は無い。
(圧縮応力付加)
更に、これら引張加工および曲げ加工を加えた試験片の、曲げ部とは反対側の2つの両辺部分に対して、500〜2000MPaの圧縮応力を付加(負荷と同じ意味)する。これによって、これら引張加工および曲げ加工による残留応力の影響(曲げ加工後のスプリングバックの影響など)を加味できる。また、プレス成形品としての使用状態における付加応力の影響を加味できる(付加荷重やボルト締め付け力など)。
図4(a)にU曲げ加工、図3(b)にV曲げ加工した試験片1に対し、圧縮応力付加のためのボルトを装着した態様を各々示す。図4(a)、(b)において、3が、試験片1の各辺1a、1aに設けた貫通孔2、2を貫通させて装着したボルト3、3を示す。
ここで、ボルト3、3の試験片1の各辺1a、1aに対する締めつけ力(圧縮応力)は、500〜2000MPaの範囲とする。締めつけ力が500MPa未満では、これら引張加工および曲げ加工による残留応力の影響を加味できない。また、プレス成形品としての使用状態における付加応力の影響を加味できない。一方、これら残留応力や付加応力は、実績的には2000MPaを越えることは無いので、ボルト3、3の試験片1の各辺1a、1aに対する響締めつけ力を2000MPaを越えて大きくする必要はない。
(試験片浸漬)
この状態で、図5に示すように、前記U曲げ加工あるいはV曲げ加工した試験片1を、試験槽13内の電解溶液19に陰極11として浸漬する。なお、陰極11は、支持棒17に架け渡されたリード線10に接続され、陰極11への電流の印加が可能なクリップ18により挟持されて支持され、電解溶液19に浸漬される。そして、この陰極11及び陽極12に、電源(電流制御装置)14より定電流を通電して水素チャージを行い、陰極試験片11に割れが生じるまでの時間で、高強度鋼板の耐遅れ破壊性を評価する。陰極試験片11の割れ発生は、陰極試験片11の曲げ部に歪みゲージ(割れ感知装置)16を取り付け、割れ発生をこの歪み量の変化として検知しても良い。15は歪みゲージ16の記録計、10は各リード線である。
電源16は、ポテンションスタット等の定電流発生装置を使用することができる。また、陽極は白金とする。陽極が白金であると好ましい理由は、陽極を白金とする事で電解液からの腐食が抑えられる上に、優先的に試験片に水素がチャージされるからである。
(電流密度)
陰極にチャージする定電流の電流密度は、0.1〜0.01mA/ mm2 とすることが好ましい。電流密度が0.1mA/ mm2 を越えた場合には、鋼中へ一度に大量の水素が吸蔵されるために、鋼種間の陰極試験片1の割れ発生 (破断) 時間の差が把握しにくくなる。一方、電流密度が0.0 1mA/ mm2 未満では、鋼中へ吸蔵される水素が少ないために、評価に多大の時間を要する。
(電解溶液)
電解溶液13は、定電流の付与によって、鋼中へ水素を効果的に吸蔵させるために、pHが6以下の水溶液であることが好ましい。pHが6を超えると効率的に水素が鋼材に侵入することができず、適正な評価ができないので、電解溶液13のpHは6以下とする。
電解溶液として、好ましくは、鋼中への水素吸蔵の触媒作用があり、水素を鋼中へチャージをしやすい溶液として知られている、チオシアン酸塩(チオシアン酸カリウム、チオシアン酸アンモニウムなど)の水溶液を使用する。この水溶液のpHは約5.5程度である。したがって、この水溶液に硫酸を添加して、上記pH範囲の酸性電解溶液とする。この酸性電解溶液におけるチオシアン酸塩の濃度は、高過ぎると、陰極試験片1の腐食による溶出の可能性があり誤差となるため、測定の再現性を持たせるために、1M以下、より好ましくは0.5M以下とする。
なお、陰極試験片1の破断時の鋼中水素量の測定はガスクロマトグラフィーにて測定できる。このように破断時の鋼中水素量を測定することで、ある付加応力での鋼の破断に至る限界水素量を求めることができ、水素に起因する鋼種間の耐遅れ破壊性(耐水素脆化特性)を比較することができる。
(遅れ破壊パラメータ式)
本発明評価方法は、評価方法として重要な再現性や所要時間の最適化のために、前記陰極試験片に割れが生じるまでの時間が、下記遅れ破壊パラメータ式で500〜10000の範囲を満足することが好ましい。言い換えると、この遅れ破壊パラメータ式が500〜10000の範囲を満足するように、前記陰極試験片の各加工条件(引張加工、曲げ加工、圧縮応力)を選択することが好ましい。
この遅れ破壊パラメータ式は、〔(前記高強度鋼板の引張強度:MPa)/1180〕×(締め付けによる付加応力)×〔100/(100−前記塑性歪み:%)〕×〔(前記高強度鋼板の板厚:mm)/(前記陰極試験片の曲げ部の半径:mm)もしくは(前記陰極試験片の曲げ部の角度:度)1/2 〕×〔1/(前記陰極試験片にわれが生じるまでの時間:hr)〕×100で表される。
この遅れ破壊パラメータ式において、〔(前記高強度鋼板の引張強度:MPa)/1180〕の項は強度のパラメータを表す。
また、(締め付けによる付加応力)×〔100/(100−前記塑性歪み:%)〕×〔(前記高強度鋼板の板厚:mm)/(前記陰極試験片の曲げ部の半径:mm)もしくは(前記陰極試験片の曲げ部の角度:度)1/2 〕の項は前記陰極試験片の加工条件のパラメータを表す。
更に、〔1/(前記陰極試験片に割れが生じるまでの時間:hr)〕の項は割れ時間のパラメータを表す。
前記陰極試験片に割れが生じるまでの時間が、上記遅れ破壊パラメータ式で500未満では、前記陰極試験片の加工条件によっては、試験開始から100時間以内には前記陰極試験片に割れが発生せず、時間がかかり過ぎて、評価方法として適さない場合がある。また、前記陰極試験片に割れが生じるまでの時間が、上記遅れ破壊パラメータ式で10000を越えた場合、前記陰極試験片の加工条件が厳し過ぎて、前記陰極試験片に割れが生じるまでの時間が全ての例で早まるため、却って、遅れ破壊の優劣の判断ができにくくなる。
(TRIP鋼板)
ここで、本発明が主たる評価対象とする、引張強度1180MPa以上の高強度鋼板であって、優れた強度・延性バランスや伸びフランジ性を有するTRIP鋼板について、以下に説明する。
本発明が主たる評価対象とするTRIP鋼板(冷延鋼板)は、前提として、1180MPa以上の高強度において、優れた伸びと伸びフランジ性を確保するために、鋼組織を、前記TPF鋼と称される、鋼組織占積率で、ポリゴナルフェライトが80%以上、残留オーステナイトが1〜15%、残部がベイナイトおよび/またはマルテンサイトからなる、TRIP型複合組織とすることが好ましい。 また、鋼組織を、好ましくは、前記TAM鋼と称される、鋼組織占積率で、焼戻マルテンサイトが80%以上、残留オーステナイトが1〜15%、残部がベイナイトおよび/またはマルテンサイトからなる、TRIP型複合組織としても良い。
更にまた、鋼組織を、好ましくは、前記TBF鋼と称される、鋼組織占積率で、ベイニティックフェライトが80%以上、残留オーステナイトが1〜15%、残部がベイナイトおよび/またはマルテンサイトからなる、TRIP型複合組織としても良い。
上記TRIP鋼板組織における主相であるポリゴナルフェライトが、占積率で80%未満では、ポリゴナルフェライトによる、1180MPa以上の高強度における伸びと伸びフランジ性確保の効果が発揮されない。したがって、伸びと、伸びフランジ性の確保のために、ポリゴナルフェライトの全組織に対する占積率は80%以上とすることが好ましい。同様に、1180MPa以上の高強度における伸びと伸びフランジ性を確保する理由で、前記TAM鋼においても、主相である焼鈍マルテンサイトの全組織に対する占積率が80%以上、また前記TBF鋼においても、主相であるベイニティックフェライトの全組織に対する占積率が80%以上とすることが好ましい。
ポリゴナルフェライトは、多角体の塊状フェライトであるが、転位密度がないか或いは極めて少ない下部組織を有し、転位密度の高い下部組織(ラス状組織は、有していても有していなくても良い)を持った板状のフェライトであるベイニティック・フェライトや、細かいサブグレイン等の下部組織を持った準ポリゴナル・フェライト組織とも異なっている(日本鉄鋼協会 基礎研究会 発行『鋼のベイナイト写真集−1』参照)。ポリゴナルフェライトは、上記特徴によって、ベイニティック・フェライトや、準ポリゴナル・フェライトとは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、明瞭に区別される。即ち、ポリゴナル・フェライトは、SEM組織写真において黒色であり、多角形の形状で、内部に、残留オーステナイトやマルテンサイトを含まない。一方、ベイニティック・フェライトは、SEM組織写真では濃灰色を示し、ベイニティック・フェライトと、ベイナイトや残留オーステナイトやマルテンサイトとを分離区別できない場合も多い。焼戻マルテンサイトはラスマルテンサイトを有し、ほぼ同じ結晶学的方位関係を持つマルテンサイトラス、それが集まってブロックを、またいくつかのブロックが集まってパケットを形成している。ベイニティックフェライトは板状のフェライトであり、転位密度が高い下部組織を意味し、転位がないか、あるいは極めて少ない下部組織を有するポリゴナルフェライトとは明瞭に区別される。
ポリゴナルフェライトや、その他のベイナイト、マルテンサイトなどの変態組織の占積率は、鋼板の1/4の厚さ部分のSEM観察(倍率4000倍)により組織観察したのち、市販の画像ソフト[汎用画像処理ソフト「Image−Pro Plus」(Media,Cybernetics社製)]などを用いた画像解析によって、面積率として占積率を測定する。
(残留オーステナイト)
残留γは、TRIP(変態誘起塑性)効果を発揮するための本質的な組織であり、伸び(延性)の向上に有用である。この様な作用を有効に発揮させるには、残留γを全組織に対する占積率で1%以上とする。一方、15%を超えて存在すると局部変形能や伸びフランジ性が劣化する。したがって、残留γは、比較的少ないレベルでの一定の占積率とし、1〜15%とする。この占積率(%)は、公知の飽和磁化測定装置および飽和磁化測定法により、体積率(体積分率)として、一定の形状を有する測定対象試料の飽和磁化量(I)、および測定対象試料と実質的に同一成分であってγRが体積率で0%である場合の飽和磁化量(Is)を実測または計算により求め、γR(体積%)=(1−I/Is)×100の式に基づき、算出するものである。
TRIP鋼板では、鋼組織において、上記ポリゴナルフェライト/もしくは焼戻マルテンサイト/もしくはベイニティックフェライトと残留オーステナイトとの占積率を満たせば、残部の組織に、ベイナイトおよび/またはマルテンサイトが含まれる複合組織であって良い。また、伸びフランジ性と伸びを確実に改善するために、この複合組織中の、残留オーステナイトとマルテンサイトとの第2相組織の内、粗大な塊状の第2相組織を少なくすることが好ましい。
(TRIP鋼板成分)
次に、TRIP鋼板を構成する基本成分について説明する。以下、化学成分の単位はすべて質量%である。TRIP鋼板では、上記した組織と、伸びフランジ性と伸びなどの特性を保障するために、基本的には、C:0.05〜0.4%、Si:1.0〜3.0%、Mn:1.0〜3.5%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる冷延鋼板とすることが好ましい。なお、これら%は、全て質量%の意味である。
また、上記成分塑性を前提に、TRIP鋼板の特性を損なわない範囲で、以下の許容成分を更に含有することができる。
Tiおよび/またはV、Zr、Wを合計で0.003〜1.0%、あるいはNb:0.1%以下(0%を含まない)(析出強化および組織微細化作用による高強度化効果狙い)。
Mo:1.0%以下(0%を含まない)、Ni:0.003〜1.5%、Cu:0.003〜1.0%、の一種または二種以上(鋼の強化、オーステナイト安定化、γRの生成寄与などの効果狙い)。
Ca:0.003%以下(0%を含まない)、REM:0.003%以下(0%を含まない)の一種または二種(鋼中の硫化物形態制御による加工性向上効果狙い)。
Cは、鋼板の強度及びγRを確保する。Cの含有量が少ないと、鋼板中に存在するγRが極めて少なくなり、全組織に対する占積率で1%以上を確保できない。このため、γRによる所望のTRIP効果が充分得られない。一方、Cの含有量が多過ぎると、粗大な塊状の第2相の生成が多くなり、破壊の起点が増す為、伸びおよび伸びフランジ性が低下する。したがって、C含有量は0.05〜0.4%の範囲とする。また0.05%以下であると残留オーステナイト中の炭素濃度が低くなり、残留オーステナイトが不安定になり、良好な伸びを確保できない。
SiはγRが分解して炭化物が生成するのを抑制する。また、固溶強化元素としても有用である。Siの含有量が少な過ぎると、γRが極めて少なくなり、全組織に対する占積率で1%以上を確保できない。このため、γRによる所望のTRIP効果が充分得られない。一方、Siの含有量が多くなり過ぎると、その効果は飽和し、却って、熱間脆性を起こして圧延中に割れやすくなる。したがって、Siの含有量は1.0〜3.0%の範囲とする。またこれ以上であると、熱間圧延でのスケール形成が顕著になり、またキズの除去にコストがかかってしまう。
Mnはオーステナイトを安定化させ、γRの生成に寄与する。Mnの含有量が少な過ぎると、鋼板中に存在するγRが極めて少なくなり、全組織に対する占積率で1%以上を確保できない。このため、γRによる所望のTRIP効果が充分得られない。一方、Mnの含有量が多くなり過ぎると、上記効果が飽和し、また、鋳片の割れなどの悪影響が生じる。したがって、Mn含有量は1.0〜3.5%の範囲とする。
これ以外の元素は不純物であり、その含有量は少なくすることが好ましい。
例えば、Pは粒界偏析を助長する元素であるため0.15%以下とすることが好ましい。Sは腐食環境下で水素吸蔵を助長する元素であるため0.02%以下とすることが好ましい。Nは0.02%以下とすることが好ましい。
(TRIP鋼板製造方法)
TRIP鋼板を製造する好ましい方法は、熱延工程としては、Ar3点以上で熱延終了後、平均冷却速度約30℃/sで冷却し、約500〜600℃の温度で巻取る等の条件を採用することが好ましい。また、冷延は約30〜70%の冷延率を施すことが推奨される。冷延鋼板の連続焼鈍条件は、鋼組織を、上記組織占積率の複合組織鋼板とするために、冷延鋼板をA3点以上のオーステナイト(γ)温度域に加熱した後、ベイナイト変態域へ平均冷却速度30℃/s以上のできるだけ速い冷却速度で、急冷する。このγ域からの過冷却によって、フェライト変態の核が増加し、通常の2相域(A1点〜A3点)での加熱と、その2相域からの冷却に比較して、フェライトの粒成長も均一に起こりやすく、第2相を微細にすることができる。
連続焼鈍された冷延鋼板は、表面処理されない冷延鋼板ままか、必要により、電気めっきや溶融めっき、あるいは化学的な表面処理や表面被覆、また各種塗装処理、塗装下地処理、有機皮膜処理等の表面処理されて、製品冷延鋼板とされる。
本発明の実施例および比較例を以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1に記載の化学成分組成と、表2に記載の組織および機械的な特性を有する各鋼板につき、本発明評価方法によって、耐遅れ破壊性を評価した。機械的な特性は、JIS5号引張試験片を用いて、引張強度(TS:MPa)、全伸び(T−EL:%)とを測定している。
これら各鋼板の耐遅れ破壊性は、予め評価し、表2に記載の通りの順位を付けておいた。即ち、耐遅れ破壊性は、Dの990MPa高強度鋼板が最も優れ(1位)、以下、Bの1191MPaTRIP鋼板(2位)、Aの1479MPaTRIP鋼板(3位)、Cの1510MPa高強度鋼板(4位)の順である。
これら各鋼板の耐遅れ破壊性の試験は、実プレス部品化を模擬して、各鋼板を絞り比2.0で周囲にフランジ部を有するカップ形状に絞るとともに、フランジ部の一部を180度曲げ加工して行なった。このカップ全体に塩水噴霧を継続して行い、180度曲げ加工された曲げ部に割れが生じるまでの時間の長さで順位を評価した。
なお、表1に記載の高強度鋼板は常法により製造している。また、TRIP鋼板は、転炉溶製および連続鋳造して得られたスラブを1200℃で加熱し、900℃で仕上圧延してから冷却し、500℃で巻取って3.2mm厚の熱延鋼板を得た。そして、この熱延鋼板を酸洗後に、冷間圧延により1.2mm厚の冷延鋼板を得た後、連続焼鈍ライン(CAL)にて、オーステナイト(γ)温度域の930℃に加熱して再結晶焼鈍し、焼鈍後、ベイナイト変態域へ平均冷却速度30℃/s以上のできるだけ速い冷却速度で急冷し製造した。
(本発明評価方法)
本発明評価方法は、上記各鋼板から採取した試験片によって耐遅れ破壊性を評価した。即ち、表3〜5に示す各条件で、評価対象となる試験片に対して、前記図1で示した引張加工、前記図3(a)、(b)で示したU曲げ加工かV曲げ加工、前記図4(a)、(b)で示した応力付加の加工を予め行なった。各例における、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値も表3〜5に示す。
この状態で、前記図5で示したように、各試験片を電解槽内の電解溶液に陰極として浸漬し、白金を陽極として、0.1mA/ mm2 の電流密度の定電流を通電して水素チャージを行い、陰極試験片に割れが生じるまでの時間を調査した。これらの結果も表3〜5に示す。なお、電解溶液は、各例とも共通して、pH1、硫酸濃度:0.5M、チオシアン酸カリウム濃度:0.01Mの水溶液を使用した。
表3〜5における陰極試験片に割れが生じるまでの時間表示において、これらの時間が「100」と記載しているものは、試験開始から100時間(hr)経過後も割れが発生せず、耐遅れ破壊性評価試験(浸漬試験)を途中で中断したものである。また、「−」と記載しているものは、前記図4(a)、(b)で示した応力付加の加工中に破断してしまい、浸漬試験ができなかった例である。これらの例は、互いに比較する例同士で差が出なければ、評価(試験)方法としては良くない(各表に試験法としての個別評価を×と記載)が、互いに比較する例同士で差がでるのであれば、相対的な比較としては使用できる。
(表3)
表3は、試験片に対して予め行なう加工条件の内、前記図1で示した引張加工の塑性歪み量の影響をみている。即ち、鋼板の伸び量に対して80%、40%、20%と、20〜80%の塑性歪みを伴う引張加工を加えた1〜12までの発明例は、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値で500〜10000の範囲内にある。このため、表3に示す、陰極試験片に割れが生じるまでの各時間が適当に短く最適であり(各表に試験法としての個別評価を○と記載)、かつ互いの時間に差がついている。この結果、本発明評価方法による耐遅れ破壊性(陰極試験片に割れが生じるまでの時間)の順位は、同じ加工条件同士の比較において、前記実プレス部品化を模擬した塩水噴霧試験による耐遅れ破壊性評価試験の表2の順位と一致(対応)する順位となっている。なお、比較例4、8、12は、100時間経過後も割れが発生せず、個別の評価方法としては良くないが、上記発明例との相対差がでており、相対的な比較としては使用できる。
これに対して、引張加工における塑性歪み量が鋼板の伸び量に対して20%未満の例13〜16、あるいは引張加工をしていない例17〜20は、同じ加工条件同士の比較において、試験開始から100時間経過後も割れが発生せず、互いに耐遅れ破壊性の差が出なかった。このため、前記実プレス部品化を模擬した塩水噴霧試験による耐遅れ破壊性評価試験の表2の順位と一致(対応)しない。
また、引張強度が1180MPa未満のDの990MPa高強度鋼板では、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板A、B、Cに比して、引張加工の塑性歪み量が範囲内であり、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値で500〜10000の範囲内にあっても、試験開始から100時間経過後も割れが発生しない。このため、本発明方法は、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板に対して有効な評価方法であり、引張強度が1180MPa未満の高強度鋼板に対しては、正確な耐遅れ破壊性評価ができないことが分かる。
(表4)
表4は、試験片に対して予め行なう加工条件の内、前記図3(b)で示したU曲げ加工の曲げ半径量の影響をみている。即ち、曲げ半径が30mm、5mmの範囲内であるU曲げ加工を加えた21〜28までの発明例は、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値で500〜10000の範囲内にある。このため、陰極試験片に割れが生じるまでの各時間が適当に短く最適であり(各表に試験法としての個別評価を○と記載)、かつ互いの時間に差がついている。この結果、本発明評価方法は、同じ加工条件同士の比較(陰極試験片に割れが生じるまでの時間)において、前記実プレス部品化を模擬した塩水噴霧試験による耐遅れ破壊性評価試験の順位と一致(対応)する順位となっている。なお、比較例24、28は、100時間経過後も割れが発生せず、個別の評価方法としては良くないが、上記発明例との相対差がでており、相対的な比較としては使用できる。
これに対して、曲げ半径が3mmと、下限の5mm未満である例29〜32は前記図4(a)、(b)で示した応力付加の加工中に破断してしまい、浸漬試験ができなかった。また、曲げ加工および応力付加をしていない例33〜36は、同じ加工条件同士の比較において、試験開始から100時間経過後も割れが発生せず、互いに耐遅れ破壊性の差が出なかった。このため、いずれも、前記実プレス部品化を模擬した塩水噴霧試験による耐遅れ破壊性評価試験の順位と一致(対応)しない。
また、引張強度が1180MPa未満のDの990MPa高強度鋼板では、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板A、B、Cに比して、曲げ半径が範囲内であり、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値で500〜10000の範囲内にあっても、試験開始から100時間経過後も割れが発生しない。このため、本発明方法は、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板に対して有効な評価方法であり、引張強度が1180MPa未満の高強度鋼板に対しては、正確な耐遅れ破壊性評価ができないことが分かる。
(表5)
表5は、試験片に対して予め行なう加工条件の内、前記図3(a)で示したV曲げ加工の曲げ角度の影響をみている。即ち、曲げ角度が90度、60度、30度、の範囲内であるV曲げ加工を加えた37〜48までの発明例は、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値で500〜10000の範囲内にある。このため、陰極試験片に割れが生じるまでの各時間が適当に短く最適であり(各表に試験法としての個別評価を○と記載)、かつ互いの時間に差がついている。この結果、本発明評価方法は、同じ加工条件同士の比較(陰極試験片に割れが生じるまでの時間)において、前記実プレス部品化を模擬した塩水噴霧試験による耐遅れ破壊性評価試験の順位と一致(対応)する順位となっている。なお、比較例40、44、48は、100時間経過後も割れが発生せず、個別の評価方法としては良くないが、上記発明例との相対差がでており、相対的な比較としては使用できる。
これに対して、曲げ角度が20度と、下限の30度未満である例49〜52は前記図4(a)、(b)で示した応力付加の加工中に破断してしまい、浸漬試験ができなかった。
また、引張強度が1180MPa未満のDの990MPa高強度鋼板では、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板A、B、Cに比して、曲げ角度が範囲内であり、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値で500〜10000の範囲内にあっても、試験開始から100時間経過後も割れが発生しない。このため、本発明方法は、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板に対して有効な評価方法であり、引張強度が1180MPa未満の高強度鋼板に対しては、正確な耐遅れ破壊性評価ができないことが分かる。
(表6)
表6は、試験片に対して予め行なう加工条件の内、前記図4で示した付加圧縮応力の影響をみている。即ち、2000MPa、500MPaの付加応力を加えた57〜64までの発明例は、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値で500〜10000の範囲内にある。このため、陰極試験片に割れが生じるまでの各時間が適当に短く最適であり(各表に試験法としての個別評価を○と記載)、かつ互いの時間に差がついている。この結果、本発明評価方法は、同じ加工条件同士の比較(陰極試験片に割れが生じるまでの時間)において、前記実プレス部品化を模擬した塩水噴霧試験による耐遅れ破壊性評価試験の順位と一致(対応)する順位となっている。なお、比較例59、60は前記遅れ破壊パラメータ式値が10000を越え、比較例59は陰極試験片に割れが生じるまでの時間が短過ぎ、比較例60は応力付加の加工中に破断してしまい、浸漬試験ができなかった。また、比較例64は前記遅れ破壊パラメータ式値が500未満で100時間経過後も割れが発生しなかった。これらの例は、個別の評価方法としては良くないが、上記発明例との相対差がでており、比較例60を除き、相対的な比較としては使用できる(浸漬試験ができなかった比較例60については表2の結果によって便宜的に耐遅れ破壊性の順位付けをしている)。
これに対して、付加応力が2200MPaと、上限2000MPaを越える例53〜56は前記図4(a)、(b)で示した応力付加の加工中に破断してしまい、浸漬試験ができなかった。また、付加応力を加えなかった例65〜68は、同じ加工条件同士の比較において、試験開始から100時間経過後も割れが発生せず、互いに耐遅れ破壊性の差が出なかった。このため、いずれも、前記実プレス部品化を模擬した塩水噴霧試験による耐遅れ破壊性評価試験の順位と一致(対応)しない。
また、引張強度が1180MPa未満のDの990MPa高強度鋼板では、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板A、B、Cに比して、付加応力が範囲内であり、これら加工条件の前記遅れ破壊パラメータ式値で500〜10000の範囲内にあっても、試験開始から100時間経過後も割れが発生しない。このため、本発明方法は、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板に対して有効な評価方法であり、引張強度が1180MPa未満の高強度鋼板に対しては、正確な耐遅れ破壊性評価ができないことが分かる。
以上の結果から、引張強度1180MPa以上の高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法としての本発明要件の、鋼板引張強度、試験片に対する引張加工、曲げ加工、付加応力の加工の予めの付与と、これら引張加工の際の塑性歪み量、曲げ部の半径あるいは角度、付加応力などの規定の臨界的な意義が裏付けられる。
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本発明は、特にTRIP鋼板など、これまでにない高い伸びの領域で加工されてプレス部品化され、かつ、これまでは加工限界から使用されなかったプレス部品に適用される、高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法(水素脆化評価法)を提供することができる。この結果、自動車のプレス部品などとして用いられる引張強度1180MPa以上の高強度鋼板の用途を拡大できる。
本発明耐遅れ破壊性評価方法における試験片の引張加工の態様を示す斜視図である。 本発明耐遅れ破壊性評価方法における試験片の孔開け加工の態様を示す斜視図である。 本発明耐遅れ破壊性評価方法における試験片の曲げ加工の態様を示す斜視図である。 本発明耐遅れ破壊性評価方法における試験片への応力付加の態様を示す斜視図である。 本発明耐遅れ破壊性評価方法における試験片の浸漬試験の態様を示す斜視図である。

Claims (3)

  1. 引張強度1180MPa以上の高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法であって、前記高強度鋼板の試験片に対して、この高強度鋼板の伸び量に対して20〜80%の塑性歪みを伴う引張加工を加えた後に、曲げ部の半径が5〜30mmとなるようなU曲げ加工か、曲げ部の角度が30〜90度となるようなV曲げ加工のいずれかを加え、更に、この曲げ加工を加えた試験片の両辺部分に対して500〜2000MPaの圧縮応力を付加した状態で、電解溶液に陰極として浸漬し、陰極及び陽極に定電流を通電して水素チャージを行い、陰極試験片に割れが生じるまでの時間で高強度鋼板の耐遅れ破壊性を評価することを特徴とする高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法。
  2. 前記高強度鋼板が、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイトの混合組織からなる、変態誘起塑性鋼板である請求項1に記載の高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法。
  3. 前記陰極試験片に割れが生じるまでの時間が、下記遅れ破壊パラメータ式で500〜10000の範囲を満足する請求項1または2に記載の高強度鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法。
    遅れ破壊パラメータ式=〔(前記高強度鋼板の引張強度:MPa)/1180〕×(締め付けによる付加応力)×〔100/(100−前記塑性歪み:%)〕×〔(前記高強度鋼板の板厚:mm)/(前記陰極試験片の曲げ部の半径:mm)もしくは(前記陰極試験片の曲げ部の角度:度)1/2 〕×〔1/(前記陰極試験片に割れが生じるまでの時間:hr)〕×100
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