以下に図面を参照して、この発明にかかるインバータ制御装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるインバータ制御装置の構成を示すブロック図である。図1に示すインバータ制御装置は、直流電源1が入力端に接続され、三相モータ3が出力端に接続されるインバータ主回路2と、インバータ主回路2の動作状態に基づき当該インバータ主回路2を制御して三相モータ3を所望の運転状態に駆動するインバータ制御部7Aとで構成される。
インバータ主回路2は、直流電源1の正極端に接続される直流母線Pと負極端に接続される直流母線Nとの間に直列接続した2つの半導体スイッチング素子の3組「SW1,SW4」「SW2,SW5」「SW3,SW6」を並列に設けたスイッチング回路と、図示してないが各半導体スイッチング素子をインバータ制御部7Aからの駆動信号であるPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」によってオン・オフ駆動する駆動回路とを備えている。各半導体スイッチング素子には、フライホイールダイオードD1〜D6が逆並列に接続されている。
3組の半導体スイッチング素子「SW1,SW4」「SW2,SW5」「SW3,SW6」の各直列接続端は、直流電源1の直流電力を三相擬似正弦波の交流電力に変換して出力する出力端を構成し、三相モータ3が接続される。なお、図1に示す例では、各半導体スイッチング素子は、絶縁ゲートを持つ電力スイッチング素子IGBTで構成されるとしている。また、インバータ主回路2は、例えば、IPM(Intelligent Power Module)によって構成されている。
三相モータ3は、U相、V相およびW相からなる三相Y形結線のステータ3aと、永久磁石ロータ3bとから構成される。
そして、インバータ主回路2の動作状態をインバータ制御部7Aに取り込む手段として図1では、負極側の直流母線Nに、直流電源1に向かって流れる直流電流を検出するための検出素子(図示例では抵抗器)4が介挿され、抵抗器4での降下電圧が入力される直流電流増幅回路5(図2参照)が設けられ、また、直流電源1の直流電圧(母線電圧)を検出する直流電圧検出回路6(図3参照)が設けられている。
図2は、直流電流増幅回路5の構成例を示す回路図である。直流電流増幅回路5は、例えば図2に示すように、OPアンプ5aと抵抗素子5b,5cとからなる非反転増幅回路で構成され、抵抗器4での降下電圧を増幅した直流電流情報(母線電流)idcをインバータ制御部7A内のA/D変換回路8に与える。この抵抗器4と直流電流増幅回路5とは全体として直流電流検出手段Qを構成している。
また、図3は、直流電圧検出回路6の構成例を示す回路図である。直流電圧検出回路6は、例えば図3に示すように、直流電源1の直流電圧(母線電圧)を直列接続した抵抗素子6a,6bにて分圧し、その分圧電圧をコンデンサ6cにて平滑化した直流電圧情報vdcをインバータ制御部7A内のA/D変換回路9に与えるようになっている。
インバータ制御部7Aは、外部から入力される周波数指令f*と、直流電流検出手段Qにて検出された直流電流情報idcと、直流電圧検出回路6にて検出された直流電圧情報vdcとに基づいてインバータ主回路2の半導体スイッチング素子SW1〜SW6をオン・オフ駆動するためのPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」を生成する。なお、PWM信号「UP,VP,WP」は、インバータ主回路2の直流母線Pに接続される上アーム側の半導体スイッチング素子SW1,SW2,SW3を駆動する信号であり、PWM信号「UN,VN,WN」は、インバータ主回路2の直流母線Nに接続される下アーム側の半導体スイッチング素子SW4,SW5,SW6を駆動する信号である。
インバータ制御部7Aは、上記したA/D変換回路8,9、直流電流/相電流変換手段10、電圧指令値/位相指令値演算手段11A、タイマ値演算手段12、PWM信号生成手段13A、PWM信号シフト判定手段14、PWM信号シフト手段15、検出タイミング生成手段16及び電圧ベクトル情報保持手段17を備えている。これらの各手段は、例えばマイクロプロセッサにて実現することができる。
検出タイミング生成手段16は、最終的にインバータ主回路2に供給されるPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」に基づいて、A/D変換回路8のA/D変換トリガタイミングを1キャリア周期内で2つ(Trg1,Trg2)生成する。
A/D変換回路8は、直流電流検出手段Qが検出した直流電流情報idcを検出タイミング生成手段16にて生成されたトリガタイミングTrg1,Trg2においてディジタル変換し、トリガタイミングTrg1での直流電流情報Idc1と、トリガタイミングTrg2での直流電流情報Idc2とを直流電流/相電流変換手段10に与える。このように、直流電流検出手段Qにて検出された1つの直流電流情報idcから1キャリア周期中に2つの直流電流情報Idc1,Idc2が得られる。
一方、A/D変換回路9は、A/D変換回路8の動作とは無関係に、直流電圧検出回路6にて検出された直流電圧情報vdcを常時ある時間間隔(例えば10μs)毎にディジタル変換し、その変換した直流電圧情報Vdcを電圧指令値/位相指令値演算手段11Aに与える。
電圧ベクトル情報保持手段17は、最終的にインバータ主回路2に供給されるPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」に基づき、2つのリガタイミングTrg1,Trg2時の電圧ベクトル情報Va,Vbを保持する。
直流電流/相電流変換手段10は、トリガタイミングTrg1,Trg2においてA/D変換された直流電流情報Idc1,Idc2を、電圧ベクトル情報保持手段17にて保持されたトリガタイミングTrg1,Trg2時の電圧ベクトル情報Va,Vbによって1キャリア周期毎に2相分の相電流情報に変換する。残りの一相分の相電流情報は検出した2相分の相電流情報から算出する。ここで、A/D変換には高速なものでも数μs程度の処理時間を有するので、直流電流情報から相電流情報に変換する際の制約の一要因となっている。そのため、この実施の形態では、直流電流専用に使用するA/D変換回路8と直流電圧専用に使用するA/D変換回路9とを設けている。
電圧指令値/位相指令値演算手段11Aは、例えば図4に示すように構成され、直流電流/相電流変換手段10にて変換された3相分の相電流情報Iu,Iv,Iwと、A/D変換回路9にて変換された直流電圧情報Vdcと、外部から入力される周波数指令f*とから、電圧指令値V*と位相指令値θ*とを演算し、タイマ値演算手段12に与える。
図4は、電圧指令値/位相指令値演算手段11Aの構成例を示すブロック図である。例えば図4に示すように、電圧指令値/位相指令値演算手段11Aは、3相/2相座標変換手段11aと、周波数/位相推定手段11bと、周波数比較手段11cと、d軸電流指令値演算手段11dと、d軸電流比較手段11eと、q軸電流指令値演算手段11fと、q軸電流比較手段11gと、dq軸電圧指令値演算手段11hと、電圧指令値演算手段11iと、位相指令値演算手段11jと、dq変換用位相演算手段11kと、dq変換用位相保持手段11Lとを備えている。
図4において、3相/2相座標変換手段11aは、直流電流/相電流変換手段10が変換した3相分の相電流情報Iu,Iv,Iwを、dq変換用位相保持手段11Lが保持するdq変換用位相θdqに基づいてd軸電流Idおよびq軸電流Iqに変換する。変換されたd軸電流Idおよびq軸電流Iqは、周波数/位相推定手段11bに入力される。また、変換されたd軸電流Idは、d軸電流比較手段11eに入力される。一方、変換されたq軸電流Iqは、d軸電流指令値演算手段11dとq軸電流比較手段11gとに入力される。
周波数/位相推定手段11bは、d軸電流Idおよびq軸電流Iqよって実行周波数fおよび永久磁石ロータ3bの磁極位置の位相θを推定する。推定された実行周波数fは、周波数比較手段11cと位相指令値演算手段11jとdq変換用位相演算手段11kとに入力される。また、推定された位相θは、位相指令値演算手段11jとdq変換用位相演算手段11kとに入力される。
dq変換用位相演算手段11kは、実行周波数fと位相θとからdq変換用の位相θdqを求め、それをdq変換用位相保持手段11Lに与えて保持させる。
周波数比較手段11cは、外部から供給される周波数指令f*と推定された実行周波数fとの周波数誤差ferrを求め、それをq軸電流指令値演算手段11fに与える。q軸電流指令値演算手段11fは、周波数誤差ferrからq軸電流指令値Iq*を求め、それをq軸電流比較手段11gに与える。q軸電流比較手段11gは、q軸電流指令値Iq*とq軸電流Iqとのq軸電流誤差Iqerrを求め、それをdq軸電圧指令値演算手段11hに与える。
また、d軸電流指令値演算手段11dは、q軸電流Iqからd軸電流指令値Id*を求め、それをd軸電流比較手段11eに与える。d軸電流比較手段11eは、d軸電流指令値Id*とd軸電流Idとのd軸電流誤差Iderrを求め、それをdq軸電圧指令値演算手段11hに与える。
dq軸電圧指令値演算手段11hは、d軸電流誤差Iderrとq軸電流誤差Iqerrとからd軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を求め、電圧指令値演算手段11iに与える。電圧指令値演算手段11iは、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*とA/D変換回路9から入力される直流電圧情報Vdcとを次の式(1)に適用して正規化値からなる電圧指令値V*を求め、タイマ値演算手段12に与える。
電圧指令値V*=√2×√(Vd*2+Vq*2)/Vdc …(1)
また、位相指令値演算手段11jは、実行周波数fと位相θとから実際のPWM信号が出力されるタイミングの位相を与える位相指令値θ*を求め、タイマ値演算手段12に与える。
次に、図1において、タイマ値演算手段12は、電圧指令値/位相指令値演算手段11Aにて演算された電圧指令値V*と位相指令値θ*とから、PWM信号のパルス幅を規定する各相のタイマ値(Tu,Tv,Tw)を演算し、PWM信号生成手段13Aに出力する。なお、TuはU相タイマ値であり、TvはV相タイマ値であり、TwはW相タイマ値である。ここで、タイマ値は、各相において相電圧基本波の最大値位相の前後30°の計60°となる区間と、相電圧基本波の最小値位相の前後30°の計60°となる区間とをスイッチングしないように制御する二相変調方式に基づいて演算される。
PWM信号生成手段13Aは、タイマ値演算手段12にて演算された各相のタイマ値(Tu,Tv,Tw)に基づき、インバータ主回路2の半導体スイッチング素子SW1〜SW6をオン・オフ駆動するためのPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」を生成し、PWM信号シフト判定手段14に与える。
PWM信号シフト判定手段14は、1キャリア周期毎に、PWM信号生成手段13にて生成された3相分のPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」のうち判定対象となる2相分のPWM信号のパルス幅およびパルス幅差に基づいてPWM信号をシフトするか否かを判定し、判定結果をPWM信号シフト手段15と検出タイミング生成手段16と電圧ベクトル情報保持手段17とに与え、その判定結果に応じて次の動作を行う。
すなわち、PWM信号シフト判定手段14は、シフトすると判定しない場合には、PWM信号生成手段13Aが生成したPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」を直接検出タイミング生成手段16と電圧ベクトル情報保持手段17とに供給し、また直接インバータ主回路2に供給する。
一方、PWM信号シフト判定手段14は、シフトすると判定した場合には、PWM信号生成手段13Aが生成したPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」をPWM信号シフト手段15に出力する。PWM信号シフト手段15は、PWM信号シフト判定手段14から入力するPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」を1キャリア周期内で直流電流から得られる相電流情報の数が増えるようにシフトし、そのシフトしたPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」を検出タイミング生成手段16と電圧ベクトル情報保持手段17とに出力し、またインバータ主回路2に供給する。
つまり、検出タイミング生成手段16と電圧ベクトル情報保持手段17とには、最終的にインバータ主回路2に供給されるPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」が入力される。
次に、インバータ制御部7Aの動作について説明する。インバータ主回路2の半導体スイッチング素子SW1〜SW6は、上アーム側の半導体スイッチング素子SW1,SW2,SW3がオン動作するか、下アーム側の半導体スイッチング素子SW4,SW5,SW6がオン動作するかのどちらかであり、3相分あるので、全部で8種類のスイッチング状態が存在する。これが、三相モータ3への出力状態である。
図5は、基本電圧ベクトルと電圧指令値/位相指令値演算手段11Aが生成する電圧指令値V*及び位相指令値θ*との関係を説明するベクトル図である。図5において、V0〜V7は、インバータ主回路2の半導体スイッチング素子SW1〜SW6の上記した8通りのスイッチング状態を規定する基本電圧ベクトルである。そのうち、60°の間隔で配置される基本電圧ベクトルV1〜V6は、ベクトル長を持つ電圧ベクトルであり、原点位置に示される基本電圧ベクトルV0,V7は、ベクトル長を持たない電圧ゼロベクトルである。図5では、電圧ベクトルV4の方向を基準位相とし、位相の回転方向が時計回り方向(V4→V6→V2→V3→V1→V5→V4)であるとした場合に、電圧ベクトルV4から電圧ベクトルV6の方向に位相指令値θ*だけ回転した位置に電圧指令値V*が求められた状態が示されている。電圧ベクトルV4の大きさを1とすると、電圧指令値V*の大きさは0.5となっている。
図6は、8種類の基本電圧ベクトルと半導体スイッチング素子SW1〜SW6のスイッチング状態との関係をまとめて示した図である。図6に示すように、電圧ゼロベクトルV0のときは、上アーム側の半導体スイッチング素子SW1,SW2,SW3は共にOFF状態となり、下アーム側の半導体スイッチング素子SW4,SW5,SW6は共にON状態となる。逆に電圧ゼロベクトルV7のときは、上アーム側の半導体スイッチング素子SW1,SW2,SW3は共にON状態となり、下アーム側の半導体スイッチング素子SW4,SW5,SW6は共にOFF状態となる。そして、電圧ベクトルV1〜V6のときには、上アーム側の半導体スイッチング素子SW1,SW2,SW3の少なくとも1つと下アーム側の半導体スイッチング素子SW4,SW5,SW6の少なくとも1つとがON状態となる。例えば、電圧ベクトルV4のときは、半導体スイッチング素子SW1,SW5,SW6がON状態となり、半導体スイッチング素子SW2,SW3,SW4がOFF状態になる。
タイマ値演算手段12では、図7に示すようにしてタイマ値(Tu,Tv,Tw)を設定する。図7は、タイマ値演算手段12の動作を説明するタイムチャートである。図7では、電圧指令値/位相指令値演算手段11Aから入力する電圧指令値V*の大きさが図5に示したように0.5である場合の、(a)位相指令値θ*と(b)ノードと(c)各相タイマ値(Tu,Tv,Tw)との関係が示されている。
図7において、(a)位相指令値θ*は、図5にて説明したように、電圧指令値V*が電圧ベクトルV4の位置に在るときを基準位相(図示例では0°である)とし、時計回り方向に回転することを繰り返す。(b)ノードは、(a)位相指令値θ*が基準位相0°から1回転する360°の角度範囲を30°毎に区分した「ノード1」〜「ノード12」の12ノードで構成される。(c)各相タイマ値(Tu,Tv,Tw)は、この12ノードを用いて次のようにして設定される。なお、Tmaxは、タイマ値の最大値であり、最小値は0(ゼロ)としている。
すなわち、位相指令値θ*が基準位相0°(電圧ベクトルV4の位置)のとき、U相電圧の電圧基本波が最大値となるので、この基準位相0°の前後30°の区間を規定するノード1,12のときにU相タイマ値Tu=Tmax固定とし、逆位相の180°(電圧ベクトルV3の位置)の前後30°の区間を規定するノード6,7のときにU相タイマ値Tu=0固定とする。また、位相指令値θ*が位相120°(電圧ベクトルV2の位置)のとき、V相電圧の電圧基本波が最大値となるので、位相120°の前後30°の区間を規定するノード4,5のときにV相タイマ値Tv=Tmax固定とし、逆位相の300°((電圧ベクトルV5の位置)の前後30°の区間を規定するノード10,11のときにV相タイマ値Tv=0固定とする。また、位相指令値θ*が位相240°(電圧ベクトルV1の位置)のとき、W相電圧の電圧基本波が最大値となるので、位相240°の前後30°の区間を規定するノード8,9のときにW相タイマ値Tw=Tmax固定とし、逆位相の60°(電圧ベクトルV6の位置)の前後30°の区間を規定するノード2,3のときにW相タイマ値Tw=0固定とする。各ノードでの残りのタイマ値は、二相変調方式に基づき線間電圧が正弦波となるように演算して設定するようにしている。
ここで、図8は、図7に示すように定めたノードとキャリアとの関係を説明する図である。図8に示すように、(b)キャリアは、(a)ノード「12,1」「2,3」「4,5」「6,7」「8,9」「10,11」毎に切り替えが行われる。そして、A/D変換回路8,9以外のインバータ制御部7Aでの処理は、ノードが「1,4,5,8,9,12」の場合にはキャリア谷タイミングを演算開始タイミングとして、ノードが「2,3,6,7,10,11」の場合にはキャリア山タイミングを演算開始タイミングとして行うようになっている。
次に、図9,図10を参照して、PWM信号生成手段13Aの動作について説明する。なお、図9では、ノード=1のときの1キャリア周期においてPWM信号生成手段13Aにおける動作と電圧ベクトル状態とが示されている。また、図10では、ノード=2のときの1キャリア周期においてPWM信号生成手段13Aにおける動作と電圧ベクトル状態とが示されている。
図9において、(a)に示すキャリアと各相タイマ値との関係は次のようになる。1キャリア周期は、ノード=1の場合は、上記したように、キャリア20の山タイミングを基準に、前半分の最小値から最大値までの上昇区間と後半分の最大値から最小値までの下降区間とからなる。この場合には、U相タイマ値Tuは、Tmax固定であるので、キャリア20の最大値の位置にある。これに対し、W相タイマ値Twは、キャリア20の最小値と最大値との間の例えば中央位置にあり、V相タイマ値Tvは、W相タイマ値Twよりもキャリア20の最大値側に上がった位置となる関係で求められる。
図9(b)に示すPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」は次のように生成される。PWM信号UPは、1キャリア周期の間“1”レベルを維持し、PWM信号UNは、1キャリア周期の間“0”レベルを維持するように生成される。これは、上アーム側半導体スイッチング素子SW1がON状態、下アーム側半導体スイッチング素子SW4がOFF状態になることを意味する。
PWM信号VPは、キャリア20が最大値に向かって上昇する過程でタイマ値Tvに到達するまで“1”レベル、到達すると“0”レベルになりその後キャリア20が最小値に向かって下降する過程でタイマ値Tvに到達するまで“0”レベルを維持し、キャリア20がタイマ値Tv以下になると“1”レベルに変化するように生成される。これは、上アーム側半導体スイッチング素子SW2がON状態→OFF状態→ON状態と変化することを意味する。PWM信号VNは、PWM信号VPと逆の関係で生成されるので、下アーム側半導体スイッチング素子SW5は、OFF状態→ON状態→OFF状態と変化する。
PWM信号WPは、キャリア20が最大値に向かって上昇する過程でタイマ値Twに到達するまで“1”レベル、到達すると“0”レベルとなりその後キャリア20が最小値に向かって下降する過程でタイマ値Twに到達するまで“0”レベルを維持し、キャリア20がタイマ値Tw以下になると“1”レベルに変化するように生成される。これは、上アーム側半導体スイッチング素子SW3がON状態→OFF状態→ON状態と変化することを意味する。PWM信号WNは、PWM信号WPと逆の関係で生成されるので、下アーム側半導体スイッチング素子SW6は、OFF状態→ON状態→OFF状態と変化する。
なお、PWM信号VNが“1”レベルである期間ton_aと、PWM信号WNが“1”レベルである期間ton_bとは、PWM信号シフト判定手段14が「ノード=1」においてPWM信号のシフト要否判定に用いるパルス幅である(図12参照)。上記したように、このパルス幅は、ton_a<ton_bの関係にある。
図9(d)に示すように、電圧ベクトル状態は、キャリア20が最小値から上昇しタイマ値Twに到達するまでがゼロ電圧ベクトルV7の状態、その後キャリア20がタイマ値Twからタイマ値Tvに上昇するまでが電圧ベクトルV6の状態、その後キャリア20が最大値から下降してタイマ値Tvに到達するまでが電圧ベクトルV4の状態、その後キャリア20がタイマ値Tvからタイマ値Twまで下降するまでが電圧ベクトルV6の状態、その後キャリア20が最小値に下降するまでがゼロ電圧ベクトルV7の状態となる。
また、図10において、(a)キャリアと各相タイマ値の関係は次のようになる。1キャリア周期は、ノード=2の場合は、上記したように、キャリア21の谷タイミングを基準に、前半分の最大値から最小値までの下降区間と後半分の最小値から最大値までの上昇区間とからなる。この場合は、W相タイマ値Twは、ゼロ固定であるので、キャリア21の最小値の位置にある。これに対し、U相タイマ値Tuは、キャリア21の最大値と最小値の間の例えば中央位置にあり、V相タイマ値Tvは、U相タイマ値Tuよりもキャリア21の最小値側に下がった位置となる関係で求められる。
図10(b)に示すPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」を次のように生成される。PWM信号UPは、キャリア21が最小値に向かって下降する過程でタイマ値Tuに到達するまで“0”レベル、到達すると“1”となりその後キャリア21が最大値に向かって上昇する過程でタイマ値Tuに到達するまで“1”レベルを維持し、キャリア21がタイマ値Tuを超えると“0”レベルに変化するように生成される。これは、上アーム側半導体スイッチング素子SW1がOFF状態→ON状態→OFF状態と変化することを意味する。PWM信号UNは、PWM信号UPと逆の関係で生成されるので、下アーム側半導体スイッチング素子SW4は、ON状態→OFF状態→ON状態と変化する。
PWM信号VPは、キャリア21が最小値に向かって下降する過程でタイマ値Tvに到達するまで“0”レベル、到達すると“1”となりその後キャリア21が最大値に向かって上昇する過程でタイマ値Tvに到達するまで“1”レベルを維持し、キャリア21がタイマ値Tvを超えると“0”レベルに変化するように生成される。これは、上アーム側半導体スイッチング素子SW2がOFF状態→ON状態→OFF状態と変化することを意味する。PWM信号VNは、PWM信号VPと逆の関係で生成されるので、下アーム側半導体スイッチング素子SW5は、ON状態→OFF状態→ON状態と変化する。
PWM信号WPは、1キャリア周期の間“0”レベルを維持し、PWM信号WNは、1キャリア周期の間“1”レベルを維持するように生成される。これは、上アーム側半導体スイッチング素子SW3がOFF状態、下アーム側半導体スイッチング素子SW6がON状態になることを意味する。
なお、PWM信号UPが“1”レベルである期間ton_bと、PWM信号VPが“1”レベルである期間ton_aとは、PWM信号シフト判定手段14が「ノード=2」においてPWM信号のシフト要否判定に用いるパルス幅である(図12参照)。上記したように、ton_a<ton_bの関係になる。
図10(d)に示すように、電圧ベクトル状態は、キャリア21が最大値から下降しタイマ値Tuに到達するまでがゼロ電圧ベクトルV0の状態、その後キャリア21がタイマ値Tuからタイマ値Tvに下降するまでが電圧ベクトルV4の状態、その後キャリア21が最小値から上昇してタイマ値Tvに到達するまでが電圧ベクトルV6の状態、その後キャリア21がタイマ値Tvからタイマ値Tuに上昇するまでが電圧ベクトルV4の状態、その後キャリア21が最大値に上昇するまでがゼロ電圧ベクトルV0の状態となる。
したがって、図9(c)と図10(c)に示す直流電流情報idcは、次のように求められる。電圧ベクトル状態がV6のときは、上アーム側半導体スイッチング素子ではU相とV相の上アーム側半導体スイッチング素子SW1,SW2がON状態となり、下アーム側半導体スイッチング素子ではW相の下アーム側半導体スイッチング素子SW6がON状態となる。これによって、直流電源1の正極側から半導体スイッチング素子SW1,SW2を介して、三相モータ3のU相巻線およびV相巻線を流れ、W相巻線を通り、半導体スイッチング素子SW6を介して抵抗器4を流れ、直流電源1の負極側に戻る電流路が形成される。したがって、三相モータ3に流れ込む電流方向を正とすると、電圧ベクトル状態がV6のときに直流電流検出手段Qにて検出される直流電流情報idcは、−Iw(−W相電流)となる。ここでは、力行動作時について説明しているが、回生動作時においても同様に直流電流情報から相電流情報が得られることは言うまでもない。
また、電圧ベクトル状態がV4のときは、上アーム側半導体スイッチング素子ではU相の上アーム側半導体スイッチング素子SW1がON状態となり、下アーム側半導体スイッチング素子ではV相とW相の下アーム側半導体スイッチング素子SW5,SW6がON状態となる。これによって、直流電源1の正極側から半導体スイッチング素子SW1を介して、三相モータ3のU相巻線を流れ、V相およびW相巻線を通り、半導体スイッチング素子SW5,SW6を介して抵抗器4を流れ、直流電源1の負極側に戻る電流路が形成される。したがって、三相モータ3に流れ込む電流方向を正とすると、電圧ベクトル状態がV4のときに検出される直流電流情報idcは+Iu(+U相電流)となる。ここでは、力行動作時について説明しているが、回生動作時においても同様に直流電流情報から相電流情報が得られることは言うまでもない。
一方、電圧ベクトル状態がV7のときは、上アーム側半導体スイッチング素子SW1,SW2,SW3のみがON状態となる。また、電圧ベクトル状態がV0のときは、下アーム側半導体スイッチング素子SW4,SW5,SW6のみがON状態となる。これらの状態では、上記したような電流路は形成されないので、検出される直流電流情報idcから得られる相電流情報は不定となる。
図11は、電圧ベクトル状態と生成されるPWM信号と検出される直流電流情報から得られる相電流情報との関係をまとめて示した図である。なお、図11において、PWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」での「OFF」は“0”レベルを意味し、「ON」は“1”レベルを意味している。ゼロ電圧ベクトルV0,V7での相電流情報はそれぞれ不定となる。また、電圧ベクトルV1,V2,V3,V4,V5,V6での相電流情報は、この順に+Iw,+Iv,−Iu,+Iu,−Iv,−Iwとなることが示されている。
次に、図12〜図16を参照して、PWM信号シフト判定手段14の動作について説明する。なお、図12は、PWM信号シフト判定手段14の動作を説明するフローチャートである。図13は、図7に示すノードとそのノードにおいてPWM信号シフト判定手段がシフト要否判定を行う場合に用いる2つのパルス幅の対象となる2つのPWM信号との関係をまとめて示した図である。図14は、PWM信号シフト判定手段が判定動作で用いる直流電流→相電流変換必要時間及び図1に示す検出タイミング生成手段の動作(ノード=1の場合)を説明する図である。図15は、図12においてシフト方法1でシフトすると判定するPWM信号の例を説明するタイムチャートである。図16は、図12においてシフト方法2でシフトすると判定するPWM信号の例を説明するタイムチャートである。
PWM信号シフト判定手段14でのシフト要否判定では、図12に示すように、図9と図10にて説明した「ton_a<ton_b」の関係にある2つのパルス幅ton_a,ton_bの他に、直流電流→相電流変換必要時間Tneed(図14参照)を判定時間幅として用いるので、まず、それらについて説明する。
図9と図10での説明から理解できるように、12のノード(図7参照)のそれぞれにおいて、3相のPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」のうち、二相のPWM信号は、1キャリア周期内で、“1”レベルと“0”レベルを維持せずに“1”レベルと“0”レベルの間で変化し、半導体スイッチング素子にON・OFFのスイッチング動作を行わせる。そして、PWM信号シフト判定手段14でのシフト要否判定で用いる2つのパルス幅ton_a,ton_bは、半導体スイッチング素子にON動作を行わせる時間幅であるので、その二相のPWM信号のうち“1”レベルのPWM信号が対象になる。
したがって、12のノードのそれぞれにおいて、PWM信号シフト判定手段14がシフト要否判定を行う場合に用いる2つのパルス幅ton_a,ton_bの対象となる2つのPWM信号との関係をまとめると図13に示すようになる。図13において、「ノード1」の場合は、図9にて説明したように、パルス幅ton_aはPWM信号VNのパルス幅であり、パルス幅ton_bはPWM信号WNのパルス幅である。また、「ノード2」の場合は、図10にて説明したように、パルス幅ton_aはPWM信号VPのパルス幅であり、パルス幅ton_bはPWM信号UPのパルス幅である。以降、ノード12まで2つのパルス幅ton_a,ton_bの対象となる2つのPWM信号が示されている。
次に、図14を参照して直流電流→相電流変換必要時間Tneedについて説明する。図14は、検出タイミング生成手段16の動作を説明することを主目的としているので、それについては後述することとし、ここでは、直流電流→相電流変換必要時間Tneedに関わる内容について説明する。図14では、ノード1において電圧ベクトル状態がV4→V6(図9参照)と変化するタイミングにおいて直流電流情報から2相分の相電流情報を得る場合の、(a)直流電流情報から相電流情報を得るための検出タイミングと、(b)PWM信号VN,WNと、(c)直流電流検出手段Qにて検出された直流電流情報idcとが示されている。
図14において、A/D変換回路8に入力する1つ目のトリガタイミングTrg1は、PWM信号VNが“1”レベル(ON)→“0”レベル(OFF)に変化する時点からA/D変換時間24だけ進んだタイミングにて発生し、直流電流検出手段Qにて検出された直流電流情報idcがA/D変換回路8にてディジタル変換され、U相の相電流情報を求める直流電流情報Idc1となる。また、A/D変換回路8に入力する2つ目のトリガタイミングTrg2は、PWM信号VNが“1”レベル(ON)→“0”レベル(OFF)に変化する時点から半導体スイッチング素子SW5が実際にON→OFFに変化するまでにスイッチング遅延時間と直流電流検出手段Qでの検出時間遅れとを合わせた「スイッチング遅延時間+検出遅れ時間」25と直流電流に生じるリンギング時間26とを経過したタイミングにて発生し、直流電流検出手段Qにて検出された直流電流情報idcがA/D変換回路8にてディジタル変換され、W相の相電流情報を求める直流電流情報Idc2となる。
直流電流→相電流変換必要時間Tneed22は、このように検出された直流電流から2相分の相電流情報が得られるか否かを判定するのに用いる判定時間幅である。図14の例で言えば、直流電流情報Idc1が得られるA/D変換時間24は、1つ目のトリガタイミングTrg1からPWM信号VNが“1”レベル(ON)→“0”レベル(OFF)に変化した時点までの期間である。直流電流情報Idc2が得られるA/D変換時間27は、2つ目のトリガタイミングTrg2からPWM信号WNが“1”レベル(ON)→“0”レベル(OFF)に変化する以前のある期間内での所定期間である。そして、A/D変換時間24とA/D変換時間27との間に、半導体スイッチング素子SW5が実際にON→OFFに変化するまでのスイッチング遅延時間と直流電流検出手段Qでの検出遅れ時間とを合わせた「スイッチング遅延時間+検出遅れ時間」25と、直流電流に生じるリンギング時間26とが存在する。
したがって、直流電流→相電流変換必要時間Tneed22は、PWM信号VNが“1”レベル(ON)→“0”レベル(OFF)に変化した時点から「スイッチング遅延時間+検出遅れ時間」25とリンギング時間26とA/D変換時間27とを含めた時間を考慮した所定時間として設定され、A/D変換時間24,27を確保できない場合は、直流電流情報idcから相電流情報Idcは得られないと判定される。以降、直流電流→相電流変換必要時間Tneed22は、判定時間幅Tneedと略称する。
すなわち、図12において、PWM信号シフト判定手段14では、まず、短い方のパルス幅ton_aが判定時間幅Tneed未満か否かを判断する(ST1)。その結果、ton_a<Tneedである場合(ST1:Yes)は、PWM信号をシフトしても直流電流情報から2相分の相電流情報を得ることができないので、PMW信号をシフトしないと判定する(ST2)。この場合のPWM信号状態をPWMパターン1とする。この場合には、PWM信号シフト判定手段14は、PWM信号生成手段13Aの出力を直接インバータ主回路2、検出タイミング生成手段16及び電圧ベクトル保持手段17に供給する。PWM信号シフト判定手段14は、同時に、判定結果「PWMパターン1」を検出タイミング生成手段16及び電圧ベクトル保持手段17に通知する。
また、PWM信号シフト判定手段14は、ST1における判断結果がton_a≧Tneedである場合(ST1:No)は、次に、(ton_b−ton_a)の1/2がTneed以上か否かを判断する(ST3)。その結果、(ton_b−ton_a)/2≧Tneedである場合(ST3:Yes)は、PWM信号をシフトしなくても直流電流情報から2相分の相電流情報が得られるので、PMW信号をシフトしないと判定する(ST4)。この場合のPWM信号状態をPWMパターン2とする。この場合には、PWM信号シフト判定手段14は、PWM信号生成手段13Aの出力を直接インバータ主回路2、検出タイミング生成手段16及び電圧ベクトル保持手段17に供給する。PWM信号シフト判定手段14は、同時に、判定結果「PWMパターン2」を検出タイミング生成手段16及び電圧ベクトル保持手段17に通知する。
また、PWM信号シフト判定手段14は、ST3における判断結果が(ton_b−ton_a)/2<Tneedである場合(ST3:No)は、次に、長い方のパルス幅ton_bが(2×Tneed)よりも小さいか否かを判断する(ST5)。PWM信号が例えば図15に示すような場合には、ton_b<(2×Tneed)となるので(ST5:Yes)、シフト方法1でPWM信号をシフトすると判定する(ST6)。この場合のPWM信号シフト後のPWM信号状態をPWMパターン3とする。この場合には、PWM信号シフト判定手段14は、PWM信号生成手段13Aの出力をPWM信号シフト手段15に供給し、同時に、判定結果「シフト方法1」をPWM信号シフト手段15に通知する。また、PWM信号シフト判定手段14は、判定結果「PWMパターン3」を検出タイミング生成手段16及び電圧ベクトル保持手段17に通知する。インバータ主回路2、検出タイミング生成手段16及び電圧ベクトル保持手段17には、PWM信号シフト手段15からシフト方法1を適用してシフトしたPWMパターン3のPWM信号が供給される。
そして、ST5における判断において、PWM信号が、例えば図16に示すような場合には、ton_b≧(2×Tneed)となるので(ST5:No)、シフト方法2でPWM信号をシフトすると判定する。この場合のPWM信号シフト後のPWM信号状態をPWMパターン4とする。この場合には、PWM信号シフト判定手段14は、PWM信号生成手段13Aの出力をPWM信号シフト手段15に供給し、同時に判定結果「シフト方法2」をPWM信号シフト手段15に通知する。また、PWM信号シフト判定手段14は、判定結果「PWMパターン4」を検出タイミング生成手段16及び電圧ベクトル保持手段17に通知する。インバータ主回路2、検出タイミング生成手段16及び電圧ベクトル保持手段17には、PWM信号シフト手段15からシフト方法2を適用してシフトしたPWMパターン4のPWM信号が供給される。
次に、図15と図16では、ノード=1の場合における、(a)キャリアと各相タイマ値の関係と、(b)PWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」と、(c)直流電流検出手段Qが検出した直流電流情報idcと、(d)電圧ベクトル状態と、判定で用いるTneedの時間幅とが示されている。
ST5において、ton_b<(2×Tneed)と判断されるPWM信号は、例えば図15に示すように生成されたものである。図15(a)に示す例では、W相タイマ値Twは、キャリア20の最大値側にかなり近づいた位置にあり、V相タイマ値Tvは、W相タイマ値Twよりもキャリア20の最大値側にさらに近づいた位置となる関係になっている。この場合には、図15(b)に示すように、PWM信号WNが“1”レベルである時間幅ton_bは、Tneedの時間幅よりも少し大きくなる程度であるので、ton_b<(2×Tneed)となるPWM信号であると判断される。図15(d)に示すように電圧ベクトル状態は、図9と同様に、V7→V6→V4→V6→V7と変化するが、電圧ベクトルV6では時間幅が短いので、相電流情報は電圧ベクトルV4でのみ得られる。この場合には、シフト方法1でPWM信号をシフトすることにより、1キャリア周期中において直流電流情報から2相分の相電流情報が検出できるようになる(図17参照)。
また、ST5において、ton_b≧(2×Tneed)と判断されるPWM信号は、例えば図16に示すように生成されたものである。図16(a)に示す例では、W相タイマ値Twは、キャリア20の最小値と最大値との間の中央位置から最大値側に少し上がった位置にあり、V相タイマ値Tvは、W相タイマ値Twよりもキャリア20の最大値側に上がった位置となる関係になっている。この場合には、図16(b)に示すようにPWM信号WNが“1”レベルである時間幅ton_bは、Tneedの時間幅よりも相当に大きくなるので、ton_b≧(2×Tneed)となるPWM信号であると判断される。図16(d)に示すように電圧ベクトル状態は、図9と同様に、V7→V6→V4→V6→V7と変化するが、電圧ベクトルV6では時間幅が短いので、相電流情報は電圧ベクトルV4でのみ得られる。この場合には、シフト方法2でPWM信号をシフトすることにより、1キャリア周期中において直流電流情報から2相分の相電流情報が検出できるようになる(図18参照)。
このように、PWMパターン1の場合以外は、直流電流情報から2相分の相電流情報を検出することが可能となる。そこで、直流電流情報から2相分の相電流情報を検出することができないPWMパターン1の場合は、電気角1周期の区間において、ST1での判断が否定(No)となるまで、つまりton_a≧Tneedの条件を満たすまでは、三相モータ3をオープンループにて加速して駆動し、ton_a≧Tneedの条件を満たした以降ではパルス幅にリミッタを設けて、定常時は、常時1キャリア周期中において直流電流情報から2相分の相電流情報が検出できるようにしている。
これによって、PWM信号シフト判定手段14は、PWM信号生成手段13Aにて生成されるPWM信号のパルス幅およびパルス幅の差に基づいてシフト要否の判定を行うことで、シフトしなくとも2相分の相電流情報が検出できるPWM信号と、シフトすれば2相分の相電流情報が検出できるPWM信号とを判定するだけでよくなる。
なお、PWM信号シフト判定手段14は、PWM信号生成手段13Aにて生成されるPWM信号のパルス幅およびパルス幅の差に基づいてシフト要否の判定を行う場合を説明したが、タイマ値演算手段12にて演算されるタイマ値(Tu,Tv,Tw)を用いるようにしてもよい。これによっても同様に確実なシフト要否判定を行うことが可能である。
次に、図17と図18を参照して、PWM信号シフト手段15が実施するシフト方法1とシフト方法2について説明する。図17は、PWM信号シフト手段14がシフト方法1を実施してPWMパターン3のPWM信号を得る動作(ノード=1の場合)を説明するタイムチャートである。図17では、図15に示したPWM信号にシフト方法1を適用する場合が示されている。図18は、PWM信号シフト手段15がシフト方法2を実施してPWMパターン4のPWM信号を得る動作(ノード=1の場合)を説明するタイムチャートである。図18では、図16に示したPWM信号にシフト方法2を適用する場合が示されている。
シフト方法1においては、1キャリア周期の前半周期においてキャリアの中心(ノード1、4、5、8、9、12の場合はキャリアの山タイミング、ノード2、3、6、7、10、11の場合はキャリアの谷タイミング)から判定時間幅Tneed進んだ位置を基準に短い方のパルス幅ton_aの対象となるPWM信号がパルス幅ton_aだけ“1”レベルとなり、1キャリア周期の後半周期においてキャリアの中心を基準に長い方のパルス幅ton_bの対象となるPWM信号がパルス幅ton_bだけ“1”レベルとなるように、対応するタイマ値を半キャリア毎に変更する。このシフト方法1によれば、1キャリア周期において、直流電流から2相分の相電流情報を得ることが可能となる。
図15に示す例では、ton_aの対象となるPWM信号はVNであり、ton_bの対象となるPWM信号はWNであるので、図17(a)に示すように、PWM信号VNに対応するタイマ値Tv及びPWM信号WNに対応するタイマ値Twを、キャリア20の中心(山タイミング)を基準に前半周期と後半周期とでクランク状に変化するように半キャリア毎に変更し、図17(b)に示すように、PWM信号VN,WNが生成されるようにする。このようにPWM信号をシフトすることで、1キャリア周期において、電圧ベクトル状態は、図17(d)に示すように、V7→V5→V4→V6→V7と変化するので、電圧ベクトル状態がV5、V6のときに判定時間幅Tneed以上の時間を確保することができ、相電流情報を得ることが可能となる。
また、シフト方法2においては、ton_bの対象となるPWM信号はそのまま出力するので対応するタイマ値は変更せず、ton_aの対象となるPWM信号が、ton_bの対象となるPWM信号が“1”レベルから“0”レベルに変化する時点からキャリア中心に向かって判定時間幅Tneed進んだ位置を基準にキャリア中心を跨いでパルス幅ton_aだけ“1”レベルとなるように、対応するタイマ値を半キャリア毎に変更する。このシフト方法2によれば、シフト方法1と同様に、1キャリア周期において検出された直流電流情報から2相分の相電流情報を得ることが可能となる。
図16に示す例では、ton_aの対象となるPWM信号はVNであり、ton_bの対象となるPWM信号はWNであるので、図18(a)に示すように、PWM信号WNに対応するタイマ値Twは変更しないが、PWM信号VNに対応するタイマ値Tvを、キャリア20の中心(山タイミング)を基準に前半周期と後半周期とでクランク状に変化するように半キャリア毎に変更し、図18(b)に示すように、PWM信号WNが“1”レベルから“0”レベルに変化する時点からキャリア中心に向かって判定時間幅Tneed進んだ位置を基準にキャリア中心を跨いでパルス幅ton_aだけ“1”レベルとなるPWM信号VNが生成されるようにする。このようにPWM信号をシフトすることで、1キャリア周期において、電圧ベクトル状態は、図18(d)に示すように、V7→V5→V4→V6→V7と変化するので、電圧ベクトル状態がV4、V6のときに判定時間幅Tneed以上の時間を確保することができ、相電流情報を得ることが可能となる。
このように、PWM信号シフト手段15では、判定時間幅Tneedをシフト量として用いるので、PWM信号を最小限のシフト量でシフトすることで、1キャリア周期内で直流電流から得られる相電流情報の数を増やすことができる。これによって、回生電流の発生による効率低下などの影響を極力抑えることが可能となる。
また、シフト方法2では、2相分の相電流情報が1キャリア周期の後半周期で得られるようにPWM信号をシフトするので、インバータ制御部7Aでは演算タイミングに近いタイミングで2相分の相電流情報を検出することができ、より安定した制御が可能となる。
次に、検出タイミング生成手段16の動作について説明する。検出タイミング生成手段16は、PWM信号シフト判定手段14から通知される「PWMパターン1」「PWMパターン2」「PWMパターン3」「PWMパターン4」に従って次のように動作する。
まず、図14を参照して、PWMパターン2およびPWMパターン4が通知されたときの検出タイミング生成方法について説明する。図14において、A/D変換回路8の1つ目のトリガタイミングTrg1は、ton_aの対象となるPWM信号VNが“1”レベル(ON)から“0”レベル(OFF)に変化する時点からA/D変換時間24だけ進んだタイミングにて生成する。A/D変換回路8の2つ目のトリガタイミングTrg2は、ton_aの対象となるPWM信号VNが“1”レベル(ON)から“0”レベル(OFF)に変化する時点から、半導体スイッチング素子SW5が実際にON→OFFに変化するまでのスイッチング遅延時間と直流電流検出手段Qでの検出遅れ時間とを合わせた「スイッチング遅延時間+検出遅れ時間」25と、直流電流に生じるリンギング時間26とを経過したタイミングにて生成する。
また、PWMパターン3が通知された場合は、A/D変換回路8の1つ目のトリガタイミングTrg1は、キャリアの中心からA/D変換時間24だけ前半周期側に進んだタイミングにて生成する。A/D変換回路8の2つ目のトリガタイミングTrg2は、上記のPWMパターン2およびPWMパターン4のときと同様の方法で生成する。そして、PWMパターン1が通知された場合は、直流電流から2相分の相電流情報を得ることができないので、トリガタイミングは生成しない。
次に、電圧ベクトル情報保持手段17が保持する電圧ベクトル情報(Va,Vb)について説明する。ここで、Vaは、A/D変換回路8への1つ目のトリガタイミングTrg1での電圧ベクトル情報である。また、Vbは、A/D変換回路8への2つ目のトリガタイミングTrg2での電圧ベクトル情報である。電圧ベクトル情報保持手段17は、この電圧ベクトル情報(Va、Vb)を図19と図20に示すように保持している。
図19は、電圧ベクトル情報保持手段17がPWMパターン2,4用に保持する電圧ベクトル情報(Va,Vb)とノードとの関係をまとめて記憶するテーブルである。図19に示すテーブルでは、電圧ベクトル情報(Va,Vb)として、例えばノード1では(V4,V6)が保持され、ノード2では(V6,V4)が保持される。
また、図20は、電圧ベクトル情報保持手段17がPWMパターン3用に保持する電圧ベクトル情報(Va,Vb)とノードとの関係をまとめて記憶するテーブルである。図20に示すテーブルでは、電圧ベクトル情報(Va,Vb)として、例えばノード1では(V5,V6)が保持され、ノード2では(V2,V4)が保持される。
電圧ベクトル情報保持手段17は、PWM信号シフト判定手段14から「PWMパターン2,4」の通知があると、そのときに入力されるPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」の論理状態(ノード)に基づき図19に示すテーブルよって対応する電圧ベクトル情報を保持する。また、電圧ベクトル情報保持手段17は、PWM信号シフト判定手段14から「PWMパターン3」の通知があると、そのときに入力されるPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」の論理状態(ノード)に基づき図20に示すテーブルによって対応する電圧ベクトル情報を保持する。
そして、直流電流/相電流変換手段10では、A/D変換回路8にてトリガタイミングTrg1,Trg2に基づきA/D変換された2相分の直流電流情報Idc1,Idc2を、電圧ベクトル情報保持手段17が保持しているトリガタイミングTrg1,Trg2時の電圧ベクトル情報(Va、Vb)に基づいて二相の相電流情報に変換する。残りの相電流情報は、変換できた二相の相電流情報を「Iu+Iv+Iw=0」の関係に適用して求める。例えば、PWMパターン2の場合、ノード1では、Va=V4であり、図11から+Iu=Idc1となる。また、Vb=V6であり、図11から−Iw=Idc2となる。残りの相電流情報はIvであり、Iv=−(Iu+Iw)として求められる。このように、残りの相電流情報は、変換できた相電流情報から推定して求めているので、可能な限りA/D検出回路8への2つのトリガタイミングTrg1,Trg2の間隔は狭くする必要がある。
次に、図4を参照して、電圧指令値/位相指令値演算手段11Aの動作を説明する。まず、3相/2相変換手段11aでは、直流電流/相電流変換手段10にて変換された相電流情報Iu,Iv,Iwを、後述するようにdq変換用位相保持手段11Lに保持されたdq変換用位相θdqとを用いてd軸電流Idおよびq軸電流Iqに変換する。周波数/位相推定手段11bでは、d軸電流Idおよびq軸電流Iqから実行周波数fと永久磁石ロータ3bの磁極位置の位相θとを推定する。d軸電流指令値演算手段11dは、q軸電流Iqに基づき予め保持しているq軸電流Iq−d軸電流指令値Id*テーブルからd軸電流指令値Id*を求める。また、q軸電流指令値演算手段11fは、周波数比較手段11cにて得られる周波数指令f*と実行周波数fとの周波数誤差ferrを比例積分制御することによりq軸電流指令値Iq*を求める。
dq軸電圧指令値演算手段11hは、d軸電流比較手段11eにて得られるd軸電流指令値Id*とd軸電流値Idとのd軸電流誤差Iderrを比例積分することによりd軸電圧指令値Vd*を求める。また、dq軸電圧指令値演算手段11hは、q軸電流比較手段11gにて得られるq軸電流指令値Iq*とq軸電流値Iqとのq軸電流誤差Iqerrを比例積分することによりq軸電圧指令値Vq*を求める。
電圧指令値演算手段11iは、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*とA/D変換回路9から入力される直流電圧情報Vdcとを前述の式(1)に適用して電圧指令値V*を演算する。位相指令値演算手段11jは、実行周波数fと磁極位置位相θとから実際にPWM信号が出力される位相指令値θ*を求める。また、dq変換用位相演算手段11kは、実行周波数fと磁極位置位相θとからA/D変換回路8のトリガタイミング時における位相θdqを求め、dq変換用位相保持手段11Lの保持データを更新する。
図21は、電圧指令値/位相指令値演算手段11Aでの各位相のタイミング関係を説明する図である。図21では、電圧指令値/位相指令値演算手段11Aの演算開始タイミング29がキャリア20の谷タイミングであるときの各位相(θdq,θ,θ*)のタイミング関係が示されている。キャリア谷タイミングを基準とするノードは、図8にて説明したようにノード1,4,5,8,9,12である。なお、前記したように、演算開始タイミング29は、当該インバータ制御部7Aでの演算開始タイミングである。
図21において、演算開始タイミング29を含む1キャリア周期の前半周期に示されている位相θdq(1)は、dq変換用位相保持手段11Lに保持されたdq変換用位相である。周波数/位相推定手段11bでは、dq変換用位相保持手段11Lに保持されているdq変換用位相θdq(1)に基づいて3相/2相変換手段11aが変換したd軸電流値Idとq軸電流値Iqとから、実行周波数fと演算開始タイミング29での磁極位置位相θとが推定される。
演算開始タイミング29から1.5×Tc後に示す位相指令値θ*は、位相指令値演算手段11jにて、実行周波数fと磁極位置位相θとを式(2)に適用して求められる。なお、Tcはキャリア周期である。
位相指令値θ*=θ+2πf×(1.5×Tc) …(2)
そして、位相θdq(2)は、次の演算開始タイミングで使用される3相/2相変換手段11aのdq変換用位相である。これは、演算開始タイミング29から期間t1経過後に発生するA/D変換回路8への1つ目のトリガタイミングTrg1と、演算開始タイミング29から期間t2(t2>t1)経過後に発生するA/D変換回路8への2つ目のトリガタイミングTrg2との間を2等分するタイミングの位相であり、dq変換用位相演算手段11kにて実行周波数fと磁極位置位相θとを式(3)に適用して求められる。dq変換用位相保持手段11Lの保持データはθdq(1)→θdq(2)と更新される。
dq変換用位相θdq(2)=θ+2πf×{(t1+t2)/2} …(3)
すなわち、3相/2相座標変換手段11aでは、直流電流から2相分の相電流情報を検出するタイミングの中間での位相に基づいて3相/2相座標変換処理が行われる。これによって、2相分の相電流情報を同時タイミングで検出できない影響を抑えることができ、演算処理負荷の低減が図れる。
なお、以上説明した各位相(θdq,θ,θ*)は、インバータ制御部7Aの演算開始タイミングがキャリア山タイミング(ノード2、3、6、7、10、11)の場合も同様に求められる。
このように、電圧指令値/位相指令値演算手段11Aにて求められた電圧指令値V*および位相指令値θ*を基に、前述したタイマ値演算手段12、PWM信号生成手段13A、PWM信号シフト判定手段14及びPWM信号シフト手段15にて、インバータ主回路2を制御するためのPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」が生成され、三相モータ3が所望の運転状態に回転駆動される。
なお、以上の説明では、インバータ主回路2の上下アーム半導体スイッチング素子が同時にON動作して短絡するのを防止するための上下短絡防止時間についての説明を省略しているが、通常は、上下短絡防止時間として3μs前後の時間を設定する必要がある。その場合には、上下短絡防止時間も考慮してA/D変換回路8の検出タイミング(Trg1,Trg2)を設定することになる。
また、電気角1周期の区間において、ton_a≧Tneedの条件を満たすまでは、三相モータ3をオープンループにて加速して駆動し、ton_a≧Tneedの条件を満たした以降はパルス幅にリミッタを設けることで、定常時は、常時1キャリア周期内で直流電流から2相分の相電流情報を検出できるようにしていると説明したが、パルス幅リミッタを行うことで相電流波形に歪が生ずる場合がある。
その場合には、騒音、振動などが発生する可能性があるので、パルス幅リミッタを行わずに、1キャリア周期内で直流電流から2相分の相電流情報が得られないときは、3相/2相座標変換手段11aが前回算出したd軸電流値とq軸電流値とに基づいて制御するようにするとよい。これによって、安定した運転を実現することができる。
以上のように、実施の形態1によれば、インバータ制御部では、PMW信号生成手段が生成したPWM信号をシフトしてからインバータ主回路の半導体スイッチング素子に出力するか否かを1キャリア周期毎に判定し、PWM信号をシフトしてから出力すると判定した場合に1キャリア周期内で直流電流検出手段が検出した直流電流から得られる相電流情報の数が増えるように前記PWM信号をシフトし、最終的に前記インバータ主回路に供給するPWM信号に基づいて前記直流電流から相電流情報を検出するタイミングを生成するようにしている。
したがって、電圧ゼロベクトルによる制約を受けないインバータ制御装置を得ることができ、低回転領域のように電圧ゼロベクトルの占める割合が大きく、1つの電圧ゼロベクトルが半キャリア周期を超える状態にある場合においても制御が可能となる。
また、1つの瞬時電流情報をPWM信号の1キャリア周期の前半周期で検出し、残りの瞬時電流情報を1キャリア周期の後半周期で検出するという制御制約をなくすことができるので、2つの瞬時電流検出タイミングの時間差による制御性の悪化を極力抑えることができる。そして、インバータ主回路でのスイッチング損失を低減できる二相変調方式にも対応可能となる。
加えて、PWM信号を生成する際に準拠するタイマ値を演算する手段では、各相において、相電圧基本波の最大値位相の前後30°の計60°となる区間と、相電圧基本波の最小値位相の前後30°の計60°となる区間とをスイッチングしないように制御する二相変調方式に基づいて各相タイマ値を生成するようにしたので、三相のPWM信号におけるシフト判定対象となる2相分のPWM信号のパルス幅を判定時間幅以上に確保することが容易になる。これによって、直流電流から2相分の相電流情報の得られる範囲を拡大することができ、安定して制御できる信頼性あるインバータ制御装置を得ることができる。
また、PWM信号のシフト判定では、生成されるPWM信号のパルス幅及びそのパルス幅の差に基づいて、または、各相のタイマ値及びそのタイマ値の差に基づいて行うので、確実に、PWM信号のシフト判定を行うことができる。
また、1キャリア周期内で直流電流から得られる相電流情報の数が増えるようにするPWM信号のシフト操作では、PWM信号のシフト量を最小限とするようにしたので、PWM信号をシフトしたことによる回生電流の発生による効率低下などの影響を極力抑えることが可能となる。
また、PWM信号のシフト操作では、生成される各相のPWM信号のパルス幅がある値以上の場合に、検出された直流電流から得られる2相分の相電流情報がキャリアの後半周期で得られるようにPWM信号をシフトするようにしたので、インバータ制御装置の演算タイミングに近いタイミングで2相分の相電流情報を検出することが可能となり、より安定した制御が可能となる。
また、インバータ制御部では、1キャリア周期内で前記直流電流から2相分の相電流情報が得られない場合は、前記2相分の相電流情報が得られるまで前記インバータ主回路をオープンループで制御し、その以降では、生成されるPWM信号のパルス幅にリミッタを設けるので、1キャリア周期内で直流電流から2相分の相電流情報を常時検出できるようになり、安定して制御できる信頼性あるインバータ制御装置を得ることができる。
また、上述のようにすることで、インバータ制御部では、上下短絡防止時間を設けた場合に発生する上下短絡時間分の出力誤差を、推定電流を用いることなく実際に検出した相電流情報に基づいて補正することができるので、より安定した制御が可能となる。
また、インバータ制御部では、1キャリア周期内において直流電流から2相分の相電流情報を検出できない場合は、3相/2相座標変換手段が前回算出したd軸電流値とq軸電流値とに基づいて制御するようにすれば、演算処理負荷の小さい安定して制御できるインバータ制御装置を得ることができる。
加えて、前記3相/2相座標変換手段では、直流電流から2相分の相電流情報を検出するタイミングの中間での位相に基づいて変換処理を行うようにしたので、2相分の相電流情報を同時タイミングで検出できない影響を抑えつつ、演算処理負荷の小さい安定した制御が行えるインバータ制御装置を得ることができる。
実施の形態2.
図22は、この発明の実施の形態2によるインバータ制御装置の構成を示すブロック図である。なお、図22では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、この実施の形態2に関わる部分を中心に説明する。
図22に示すように、実施の形態2によるインバータ制御装置でのインバータ制御部7Bでは、図1(実施の形態1)に示したインバータ制御部7Aにおいて、電圧指令値/位相指令値演算手段11Aに代えた電圧指令値/位相指令値演算手段11Bと、PWM信号生成手段13Aに代えたPWM信号生成手段13Bとが設けられている。
図23は、電圧指令値/位相指令値演算手段11Bの構成例を示すブロック図である。図23に示すように、電圧指令値/位相指令値演算手段11Bでは、図4に示した電圧指令値/位相指令値演算手段11Aにおいて、キャリア周波数変更手段11mが追加され、位相指令値演算手段11jに代えた位相指令値演算手段11nが設けられている。
電圧指令値/位相指令値演算手段11Bは、図23に示す構成によって、直流電流/相電流変換手段10にて変換された3相分の相電流情報(Iu、Iv、Iw)と、A/D変換回路9にてA/D変換された直流電圧情報Vdcと、外部から入力される周波数指令f*とから、電圧指令値V*及び位相指令値θ*の他に、キャリア周波数を指定するキャリア周波数指令値fc*を演算する。
図22では、キャリア発生手段は明示してないが、キャリア周波数を切り替えて発生できるように構成され、電圧指令値/位相指令値演算手段11Bがキャリア周波数指令値fc*を出力すると、キャリア周波数を次のインバータ制御部7Bの演算開始タイミングからキャリア周波数指令値fc*によるキャリア周波数に変更するようになっている。
PWM信号生成手段13Bは、タイマ値演算手段12にて演算された各相のタイマ値(Tu,Tv,Tw)に基づき、インバータ主回路2の半導体スイッチング素子SW1〜SW6をオン・オフ駆動するためのPWM信号「UP,UN,VP,VN,WP,WN」を生成するが、この実施の形態2では、電圧指令値/位相指令値演算手段11Bから入力するキャリア周波数指令値fc*が指定するキャリア周波数によってPWM信号の生成を行うようになっている。
次に、図23〜図26を参照して、電圧指令値/位相指令値演算手段11Bにおけるこの実施の形態2に関わる構成と動作について説明する。なお、図24は、キャリア周波数変更手段11mの動作を説明するフローチャートである。図25と図26は、位相指令値演算手段11nがキャリア周波数変更手段11mからのキャリア周波数指令値fc*に基づき行う動作を説明する図である。
図23において、キャリア周波数変更手段11mは、周波数/位相推定手段11bにて求められる実行周波数fに基づいてキャリア周波数の変更要否を判断し(図24参照)、変更するキャリア周波数を指定するキャリア周波数指令fc*を位相指令値演算手段11nとPWM信号生成手段13Bとに出力する。
位相指令値演算手段11nは、周波数/位相推定手段11bにて求められる実行周波数f及び位相θと、キャリア周波数変更手段11mから入力されるキャリア周波数指令fc*とに基づき、実際のPWM信号が出力されるタイミングの位相を示す位相指令値θ*を求める(図25、図26参照)。
図24において、キャリア周波数変更手段11mは、周波数/位相推定手段11bが推定した実行周波数fが判断基準周波数A[Hz]未満か否かを判断する(ST8)。その結果、f<A[Hz]の場合(ST8:Yes)は、キャリア周波数指令値fc*をキャリア周波数fc1とし(ST9)、f≧A[Hz]の場合(ST8:No)は、実行周波数fがA[Hz]<B[Hz]である別の判断基準周波数B[Hz]を超えるか否かを判断する(ST10)。
ST10での判断結果、f>B[Hz]の場合(ST10:Yes)は、キャリア周波数指令値fc*をfc1<fc2であるキャリア周波数fc2とし(ST11)、A≦f≦B[Hz]の場合(ST10:No)は、キャリア周波数指令値fc*は変更しない(ST12)。
ここで、判断基準を与える周波数A[Hz],B[Hz]に関しては、適切なヒステリシスを設けるようにしている。例えば、B=A+10[Hz]とする。これによって、キャリア周波数が頻繁に切り替わるのを防ぐことができ、キャリア周波数が切り替わることによる騒音の発生を防止できる。
図25と図26では、キャリア谷タイミングをインバータ制御部7Bの演算開始タイミングとするノード1,4,5,8,9,12での動作が示されているが、位相指令値演算手段11nは、キャリア周波数指令値fc*がキャリア周波数fc1からキャリア周波数fc2に切り替わる場合には図25に示す手順で位相指令値θ*を演算し、キャリア周波数指令値fc*がキャリア周波数fc2からキャリア周波数fc1に切り替わる場合には図26に示す手順で位相指令値θ*を演算する。なお、キャリア山タイミングをインバータ制御部7Bの演算開始タイミングとするノード2,3,6,7,10,11でも同様である。
図25において、キャリア31は、周波数がfc1であり、周期Tc1は1/fc1である。キャリア32は、周波数がfc2であり、周期Tc2は1/fc2である。キャリア周波数指令値fc*がキャリア周波数fc1からキャリア周波数fc2に切り替わる場合には、図25に示すように、キャリア周波数fc1のキャリア31の谷タイミング(演算開始タイミング30)から1キャリア周期Tc1後の谷タイミングが次のインバータ制御部7Bの演算開始タイミングであるが、このタイミングがキャリア周波数fc2のキャリア32の谷タイミングとなるように、キャリア31からキャリア32に切り替わる。
そこで、位相指令値演算手段11nは、演算開始タイミング30にて演算するキャリア周波数変更手段11mにより、キャリア周波数指令値fc*がfc1→fc2に変更される場合に、演算開始タイミング30にて推定された位相θに基づき、演算開始タイミング30から「Tc1+Tc2/2」だけ経過した位置に存するキャリア32の山タイミングで適用する位相指令値θ*を求める。
また、図26において、キャリア34は、周波数がfc2であり、周期Tc2は1/fc2である。キャリア35は、周波数がfc1であり、周期Tc1は1/fc1である。キャリア周波数指令値fc*がキャリア周波数fc2からキャリア周波数fc1に切り替わる場合には、図26に示すように、キャリア周波数fc2のキャリア34の谷タイミング(演算開始タイミング33)から1キャリア周期Tc2後の谷タイミングが次のインバータ制御部7Bの演算開始タイミングであるが、このタイミングがキャリア周波数fc1のキャリア35の谷タイミングとなるように、キャリア34からキャリア35に切り替わる。
そこで、位相指令値演算手段11nは、演算開始タイミング33にて演算するキャリア周波数変更手段11mにより、キャリア周波数指令値fc*がfc2→fc1に変更される場合に、演算開始タイミング33にて推定された位相θに基づき、演算開始タイミング33から「Tc2+Tc1/2」だけ経過した位置に存するキャリア35の山タイミングで適用する位相指令値θ*を求める。
以上のように、実施の形態2によれば、実行周波数が低い場合はキャリア周波数も低くするので、シフト判定の対象となるPWM信号のパルス幅を判定時間幅以上に確保することが容易となる。したがって、直流電流から2相分の相電流情報を得られる範囲を拡大できるので、安定して制御できる信頼性のあるインバータ制御装置を得ることができる。また、シフトしなくとも2相分の相電流情報が得られるPWMパターン2の割合が増えるので、PWM信号をシフトしたことによる回生電流の発生による効率低下などの影響を極力抑えることが可能となる。
なお、実施の形態2では、切り替えるキャリア周波数は、fc1,fc2の2通りである場合を示したが、もっと細かにキャリア周波数を切り替えるようにしてもよい。また、キャリア周波数の切り替え条件には、実行周波数fを用いたが、その他、同様の効果が得られるパラメータ(例えば、電圧指令値V*)を切り替え条件として用いてもよい。
実施の形態3.
図27は、この発明の実施の形態3によるインバータ制御装置の構成を示すブロック図である。なお、図27では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、この実施の形態3に関わる部分を中心に説明する。
図27に示すように、実施の形態3によるインバータ制御装置では、図1(実施の形態1)に示したインバータ制御装置において、直流電源1に代えてコンバータ回路39が設けられ、インバータ制御部7Aに代えてインバータ制御部7Cが設けられている。インバータ制御部7Cでは、図1(実施の形態1)に示したインバータ制御部7Aにおいて、電圧指令値/位相指令値演算手段11Aに代えて、例えば図28に示すように構成される電圧指令値/位相指令値演算手段11Cが設けられている。
コンバータ回路39は、AC100Vの商用電源40を直流電源に変換する回路であり、リアクタ41,整流回路42,スイッチ43,倍電圧整流用のコンデンサ44,45及び平滑用のコンデンサ46を備えている。
整流回路42は、直流母線Pと直流母線Nとの間に直列に接続したダイオードの2組「D7,D8」「D9,D10」からなるダイオードブリッジで構成される。一方の組のダイオードD9,D10の直列接続端が商用電源40の一方の電極端に直接接続され、他方の組のダイオードD7,D8の直列接続端がリアクタ19を介して商用電源40の他方の電極端に接続されている。このリアクタ19は、商用電源40のピーク電流を抑制し力率を改善するために設けてある。また、倍電圧整流用のコンデンサ44,45は直流母線Pと直流母線Nとの間に直列接続して配置され、平滑用のコンデンサ46も直流母線Pと直流母線Nとの間に配置されている。そして、電圧指令値/位相指令値演算手段11Cによって制御されるスイッチ43は、コンデンサ44,45の直列接続端とダイオードD9,D10の直列接続端との間に配置されている。
図28は、電圧指令値/位相指令値演算手段11Cの構成例を示すブロック図である。図28に示すように、電圧指令値/位相指令値演算手段11Cでは、図4に示した電圧指令値/位相指令値演算手段11Aにおいて、スイッチ切替手段11pが追加されている。スイッチ切替手段11pは、周波数/位相推定手段11bにて求められる実行周波数fに基づいて、スイッチ43に閉路動作(オン動作)と開路動作(オフ動作)とを行わせる2値のレベル信号からなるスイッチ切替信号を出力する。
次に、図29を用いてこの実施の形態3に関わる構成による動作について説明する。図29は、スイッチ切替手段11pの動作を説明するフローチャートである。図29において、スイッチ切替手段11pは、周波数/位相推定手段11bが推定した実行周波数fが判断基準周波数C[Hz]未満か否かを判断する(ST13)。その結果、f<C[Hz]の場合(ST13:Yes)は、スイッチ43に開路動作(オフ動作)を行わせるスイッチ切替信号を出力する(ST14)。これによって、コンバータ回路39では全波整流動作が行われるので、直流母線P,Nには全波整流動作による直流電源が接続されることになる。
一方、ST13において、f≧C[Hz]の場合(ST13:No)は、実行周波数fがC[Hz]<D[Hz]である別の判断基準周波数D[Hz]を超えるか否かを判断し(ST15)、f>D[Hz]の場合(ST15:Yes)は、スイッチ43に閉路動作(オン動作)を行わせるスイッチ切替信号を出力する(ST16)。これによって、コンバータ回路39では倍電圧整流動作が行われるので、直流母線P,Nには全波整流動作時よりも高い直流電源が接続されることになる。
そして、ST15において、C≦f≦D[Hz]の場合(ST15:No)は、スイッチ43の動作状態を変更しない。つまり、スイッチ43が例えば閉路動作(オン動作)を行っている場合は、スイッチ切替手段11pは、それを維持するスイッチ切替信号を出力する。
ここで、判断基準を与える周波数C[Hz],D[Hz]に関しては、適切なヒステリシスを設けるようにしている。例えば、D=C+10[Hz]とする。これによって、スイッチ43が頻繁に切り替わるのを防ぐことができ、スイッチ43でのノイズの発生などを防ぐことができる。
以上のように、実施の形態3によれば、固定の直流電源に代えて可変の直流電源であるコンバータ回路を設け、実行周波数が低い場合は電源電圧を低くするようにしたので、シフト判定の対象となるPWM信号のパルス幅を判定時間幅以上に確保することが容易となる。したがって、直流電流から2相分の相電流情報を得られる範囲を拡大できるので、安定して制御できる信頼性のあるインバータ制御装置を得ることができる。また、シフトしなくとも2相分の相電流情報が得られるPWMパターン2の割合が増えるので、PWM信号をシフトしたことによる回生電流の発生による効率低下などの影響を極力抑えることが可能となる。
なお、実施の形態3では、可変の直流電源として、全波整流によるものと倍電圧整流によるものとの2通りである場合を示したが、もっと細かに直流電圧を可変できる手段を用いてもよい。また、直流電圧を切り替える条件には、実行周波数fを用いたが、その他、同様の効果を得られるパラメータ(例えば、電圧指令値V*)を切り替え条件として用いてもよい。
また、実施の形態3では、実施の形態1への適用例を示したが、実施の形態2にも同様に適用することができる。これによれば、キャリア周波数変更手段と直流電圧を変更する手段とを組み合わせて使用することで、より細かな制御を実現することが可能となる効果が得られる。