以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明に適用可能なシリアル型のインクジェット記録装置の斜視図である。インクジェット記録装置100の給紙位置に挿入された記録媒体105は、搬送ローラ106によって矢印P方向に送られ、記録ヘッド104の記録可能領域へ搬送される。記録可能領域における記録媒体105の下部にはプラテン107が設けられている。プラテン107は、記録ヘッド104によって記録が実行される領域において、記録媒体105を下側から支持している。但し、記録部の真下に位置する部分には穴が開けられており、その内部には、「余白なし記録」を実行した際にはみ出したインクを吸収するためのインク吸収体が収められている。記録部における詳細については、後述する。
キャリッジ101は、2つのガイド軸102と103によって、それらの軸方向に沿う方向に移動可能となっており、記録領域を主走査方向であるQ1、Q2方向に往復走査する。キャリッジ101には記録ヘッド104が搭載されている。記録ヘッド104には、複数色のインク(KCMY)を吐出可能な吐出口群、インク中に含有される色材の凝集を抑制する凝集阻害液(P)を吐出する吐出口群、インク中に含有される色材の凝集を促進する反応液(S)を吐出する吐出口群が配列されている。これら吐出口群は、図において吐出口は下側を向いている。更に、記録ヘッド104には、各色インク吐出口群へ供給される各色のインクを収容するインクタンク、凝集阻害液吐出口群へ供給される凝集阻害液を収容する凝集阻害液タンク、反応液吐出口群へ供給される反応液を収容する反応液タンクを含む構成となっている。そして、キャリッジ101がQ1またはQ2方向に走査しながら記録ヘッド104から少なくともインクを吐出して記録媒体上に画像記録を行う主走査と、記録媒体105を所定量ずつ搬送する副走査とを交互に繰り返す。これにより、記録媒体に順次画像が形成されていく。なお、主走査においては,必要に応じて記録ヘッド104から凝集阻害液や反応液も吐出される。108は、スイッチ部及び表示部である。スイッチ部は記録装置の電源のオン/オフや各種記録モード(例えば、後述する余白無し記録モード)の設定等に使用され、表示部は記録装置の状態を表示する。
図2は、図1で説明したインクジェット記録装置100の制御系の構成を説明するためのブロック図である。図において、ホストコンピュータ140は記録装置100と接続され、記録装置へ転送する画像データを生成するものである。ホストコンピュータ140のオペレーティングシステムで動作するプログラムとしてアプリケーションやプリンタドライバがある。アプリケーションは記録装置で使用される画像データを作成する処理を実行する。この画像データもしくはその編集等がなされる前のデータは、種々の媒体を介してPCに取り込むことができる。これらの取り込まれたデータは、ホストコンピュータのモニタに表示されてアプリケーションを介した編集、加工等がなされ、例えば画像データR、G、Bが作成される。そして、印刷の指示に応じてこの画像データがプリンタドライバに渡される。プリンタドライバでは、受け取ったRGBの画像データを、このデータが表す色を再現するインクの組み合わせ、すなわちシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックに対応した色分解データに変換する。その後、CMYKの色分解データそれぞれについてγ補正処理、ハーフニング処理等を施し、こうして生成されたCMYKの多値画像データを記録装置100へ転送する。
記録装置100における受信バッファ401は、ホストコンピュータ140から転送されたCMKYの多値画像データなどを受信し、これをCPU402に転送する。また、データが正しく受信されているか否かの情報や、記録装置100の動作状態を知らせる情報も、受信バッファ401を介してホストコンピュータ140に通知される。CPU402は記録装置内の各部を制御する役割を果たす。受信バッファ401が受信したCMYKの多値画像データは、CPU402の管理下においてCMYKの2値画像データに変換され、そのメモリ部403に転送され、これら画像データを一時的に格納する。このメモリ部403には、インクジェット記録装置で行われる記録動作や回復動作等を制御するための制御プログラム等も格納されている。
ところで、本記録装置においては必要に応じて反応液(S)が使用される。反応液(S)の使用目的はインク中に含有される色材を凝集させることであるから、少なくともインクが付与される箇所に付与されればよい。そこで、反応液を用いる場合にあっては、CMYKの2値画像データの論理和から反応液用の2値吐出データを生成し、それをメモリ部403に格納する形態が好適である。また、反応液が記録媒体に着弾するとある程度広がることを鑑みれば、インクが付与される位置の全てに反応液を付与する必要は必ずしもない。例えば、特許第3227339号公報に開示されるように、インクが付与される位置の一部分に反応液を付与すべく、CMYKの2値画像データの論理和データを間引いて反応液用の2値吐出データを生成し、それをメモリ部403に格納する形態であってもよい。更には、記録媒体全面に反応液を吐出する形態であってもよく、この形態の場合にあっては、記録媒体全面に対応する反応液の2値吐出データを予め作成しておき、この2値吐出データをメモリ部403に予め格納しておくことになる。
凝集阻害液(P)は、後述するようにインク吸収体に付与されればよい。従って、インク吸収体に付与できる吐出データを予め作成しておき、この吐出データをメモリ部403に予め格納しておくことが好適である。
機械コントロール部404は、CPU402の指令により、キャリッジモータや搬送モータ等の機械部405を駆動制御する。センサ/SWコントロール部406は、各種センサやSW(スイッチ)からなるセンサ/SW部407からの信号を、CPU402に転送する。表示素子コントロール部408は、CPU402からの指令により、表示パネル群のLEDや液晶表示素子等からなる表示部409を制御する。記録ヘッドコントロール部410は、CPU402からの指令により、記録ヘッド104を制御する。また、記録ヘッドコントロール部410は、記録ヘッド104の状態を示す温度情報等を検出して、それらをCPU402に転送する。
図3は、本実施形態に適用可能なインクジェット記録ヘッドの要部を模式的に示した概略斜視図である。図において、934は基板であり、本実施形態においては、ガラス、セラミックス、プラスチック或いは金属等から構成されている。但し、このような基板の材質は、本発明の本質ではなく、流路構成部材の一部として機能し、インク吐出エネルギ発生素子、及び後述する液流路、吐出口を形成する材料層の支持体として、機能し得るものであれば特に限定されるものではない。本実施形態では、Si基板(ウエハ)を用いた場合として説明する。
基板934上にはインク吐出口が形成される。その方法としては、レーザー光による形成方法の他、例えば、後述するオリフィスプレート(吐出口プレート)935を感光性樹脂として、MPA(Mirror ProjectionAliner)等の露光装置を用いる方法であってもよい。
基板934には、複数の電気熱変換素子(以下、ヒータと記述する場合がある)931や、共通液室部としての長溝状の貫通口からなるインク供給口933が形成されている。熱エネルギ発生手段である複数のヒータ931は、インク供給口933の長手方向の両側に、それぞれ例えば600dpi(ドット/インチ)に相当する間隔で配置されている。2つの列は、y方向において互いに半ピッチずれた状態になっており、結果的にこの2列でy方向に1200dpiの密度でドットを記録することが可能な構成となっている。
基板934の上には、各ヒータに対応した位置にインクを導くためのインク流路壁936が設けられている。更にインク流路壁936の上には、各ヒータに与えられたエネルギによって、インク滴が吐出するための吐出口832を備えるオリフィスプレート935が設けられている。オリフィスプレート935の吐出口面側(935a)は、撥水処理が施されている。それぞれのヒータ931には、10KHzの駆動周波数で電圧パルスが印加され、各吐出口からは、約100μs毎に吐出を行うことが可能となっている。
図4〜11は、実際の吐出動作を経時的に説明するためのヘッド断面図である。ここでは、図3で説明した記録ヘッドの、X−X断面図として示している。
図4は、ヒータ931に電圧パルスを印加し、ここに膜状の気泡が生成した状態を示している。図5は、図4で示した状態の約1μs後、図6は約2μs後、図7は約3μs後、図8は約4μs後、図9は約5μs後、図10は約6μs後、図11は約7μs後の状態をそれぞれ示している。尚、以下の説明において、「落下」、「落とし込み」または「落ち込み」とは、いわゆる重力方向への落下という意味ではなく、ヘッドの取り付け方向によらず、電気熱変換素子の方向への移動を示すものとする。
記録信号に基づいた通電が開始されると、ヒータ931上の液流路1338内には、気泡1001が生成される。気泡1001は、1μs後には図5、2μs後には図6に示すように、急激な体積膨張を遂げる。気泡1001が最大体積になった時、その高さは吐出口面935aを上回る。この時の気泡1001の圧力は、大気圧の数分の1から10数分の1となっている。
気泡1001の生成から約2μs後の時点で、気泡1001は体積減少に転じ、ほぼ同時にメニスカス1002の形成も始まる。メニスカス1002は、図7に示したように、ヒータ931側への方向に後退してゆく。
メニスカス1002の落下速度は、気泡1001の収縮速度よりも速い。よって、気泡の生成から約4μs後の時点で気泡1001が吐出口832の下面近傍で大気に連通する(図8)。同時に、吐出口832の中心軸近傍のインクIaは、ヒータ931に向かって落ち込んで行く。これは、大気に連通する前の気泡1001の負圧によってヒータ931側に引き戻されたインクIaが、気泡1001の大気連通後も、慣性によってヒータ931面方向の速度を保持しているからである。
ヒータ931側に向かって落ち込んで行ったインクIaは、気泡1001の生成から約5μs後の時点でヒータ931の表面に到達する(図9)。そして、その後も、ヒータ931の表面を覆うように拡がって行く(図10)。ヒータ931の表面を覆うように拡がったインクは、ヒータ931の表面に沿った水平方向のベクトルを有するが、ヒータ931の表面に垂直な方向のベクトルは消滅し、ヒータ931の表面に留まろうとする。そして、これよりも上側の液体、即ち吐出方向の速度ベクトルを保つ液体に対し、下方向に引く力が働く。
その後、ヒータ931の表面に拡がったインクと、上側のインク(主滴)との間の部分Ibが細くなってゆき、気泡1001の生成から約7μs後の時点で、ヒータ931の表面の中央で液体部分Ibが切断される(図11)。そして、吐出方向の速度ベクトルを保つ主滴Iaと、ヒータ931の表面上に拡がったインクIcとに分離される。Ibの切断位置は、液流路1338内部が好ましいが、より望ましくは、吐出口832よりも電気熱変換素子931側が良いとされる。
このように生成された主滴Iaは、吐出方向に偏りがない状態で、吐出口832の中央部分から吐出され、記録媒体の被記録面の目標の位置に着弾される。一方、ヒータ931の表面上に拡がったインクIcは、ヒータ931の表面上に留まり、吐出されることはない。
次に、本実施形態で適用可能な顔料インクについて説明する。但し、本発明は、以下に例示する顔料インクを適用することに限定されるものではない。
本実施形態で使用される顔料インクの顔料は、顔料インクの全重量に対して、重量比で1〜20重量%、好ましくは2〜12重量%の範囲で用いられる。ブラック顔料としては、カーボンブラックが挙げられ、例えば、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックであって、一次粒子径が15〜40mμ(nm)、BET法による比表面積が50〜300m2/g、DBP吸油量が40〜150ml/100g、揮発分が0.5〜10%、pH値が2〜9等の特性を有するものが好ましく適用できる。この様な特性を有する市販品としては、例えば、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、No.2200B(以上、三菱化成製)、RAVEN1255(以上、コロンビア製)、REGAL400R、REGAL330R、REGAL660R、MOGUL L(以上キャボット製)、Color Black FWl、COLOR Black FW18、Color Black S170、Color Black S150、Printex 35、Printex U(以上、デグッサ製)等が挙げられる。
また、イエローの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、C.I.Pigment Yellow 2、C.I.Pigment Yellow 3、C.I.Pigment Yellow 13、C.I.Pigment Yellow 16、C.I.Pigment Yellow 83等が挙げられる。
更に、マゼンタの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 5、C.I.Pigment Red 7、C.I.Pigment Red 12、C.I.Pigment Red 48(Ca)、C.I.Pigment Red 48(Mn)、C.I.Pigment Red 57(Ca)、C.I.Pigment Red 112、C.I.Pigment Red 122等が挙げられる。
更に、シアンの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 1、C.I.Pigment Blue 2、C.I.Pigment Blue 3、C.I.Pigment Blue 15:3、C.I.Pigment Blue 16、C.I.Pigment Blue 22、C.I.Vat Blue 4、C.I.Vat Blue 6等が挙げられる。なお、以上の他、自己分散型顔料など新たに製造された顔料も、勿論、使用することは可能である。
顔料の分散剤としては、水溶性樹脂であればどの様なものでもよい。但し、重量平均分子量が1,000〜30,000の範囲のものが好ましく、更に3,000〜15,000の範囲のものであればより好ましい。具体的には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つは親水性の重合性単量体)からなるブロック共重合体、或いは、ランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの塩等が挙げられる。更に、ロジン、シェラック、デンプン等の天然樹脂も、好ましい状態で使用することができる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。尚、これらの顔料分散剤として用いられる水溶性樹脂は、顔料インクの全重量に対して0.1〜5重量%の範囲で含有させるのが好ましい。
上記した顔料が含有されている顔料インクの場合には、顔料インクの全体が中性又はアルカリ性に調整されていることが好ましい。この様なものとすれば、顔料分散剤として使用される水溶性樹脂の溶解性を向上させ、長期保存性に一層優れた顔料インクとすることができるからである。但し、この場合、インクジェット記録装置に使われている種々の部材の腐食の原因となる恐れがあるので、出来れば、7〜10のpH範囲に調整されていることが望まれる。この際に使用されるpH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等の無機アルカリ剤、有機酸や鉱酸等が挙げられる。上記した顔料及び分散剤である水溶性樹脂は、水性液媒体中に分散又は溶解される。
本実施形態の顔料インクにおいて、好適に用いられる水性液媒体は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である。この場合、水としては種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用することが好ましい。
水と混合して使用される水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらの多くの水溶性有機溶剤の中でも、ジエチレングリコール等の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテルがより好ましく適用できる。
上記した水溶性有機溶剤の顔料インク中の含有量は、一般的には、顔料インクの全重量の3〜50重量%の範囲、より好ましくは3〜40重量%の範囲で使用する。又、使用される水の含有量としては、顔料インクの全重量の10〜90重量%、好ましくは30〜80重量%の範囲とする。
又、本実施形態の顔料インクとしては、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つ顔料インクとする為に、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等を適宜に添加することができる。特に浸透促進剤として機能する界面活性剤は、記録媒体に顔料インクの液体成分を速やかに浸透させる役割を担うための適量を添加することが強く望まれる。添加量としては、0.05〜10重量%、更には0.5〜5重量%がより好適である。アニオン性界面活性剤の例としては、カルボン酸塩型、硫酸エステル型、スルホン酸塩型、燐酸エステル型等、一般に使用されているものを何れも好ましく使用することができる。
上記した顔料インクの作製方法としては、始めに、分散剤としての水溶性樹脂と、水とが少なくとも含有された水性媒体に上記顔料を添加し、混合撹拌する。その後、後述の分散手段を用いて分散を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の分散液を得る。次に、この分散液にサイズ剤、及び、上記で挙げた様な適宜に選択された添加剤成分を加え撹拌して顔料インクとする。
尚、分散剤としてアルカリ可溶型樹脂を使用する場合には、樹脂を溶解させる為に塩基を添加することが要される。この際の塩基類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミンメチルプロパノール、アンモニア等の有機アミン、或いは水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基が好ましく適用できる。
又、顔料が含有されている顔料インクの作製方法においては、顔料を含む水性媒体を攪拌し、分散処理する前に、プレミキシングを30分間以上行うのが効果的である。何故なら、この様なプレミキシング操作は、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への分散剤の吸着を促進することができるからである。
上記した顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル及びサンドミル等が挙げられる。その中でも、高速型のサンドミルが好ましく使用される。この様なものとしては、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、ビーズミル、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル(何れも商品名)等が挙げられる。
又、一般に顔料インクを適用するインクジェット記録装置においては、吐出口の目詰りを極力防止するために、最適な粒度分布を有する顔料を選択し、これを適用する。この際、所望の粒度分布を得るための方法としては、分散機の粉砕メディアのサイズを小さくする、粉砕メディアの充填率を大きくする、処理時間を長くする、吐出速度を遅くする、粉砕後フィルタや遠心分離機等で分級する等の手法を採用することが出来る。また、これらの手法を組合せて適用することも出来る。
次に、上記顔料インクと反応するための、本実施形態で適用可能な反応液について説明する。本明細書において、反応液とは、インクに含有される色材を凝集させるように働く成分を有する液体と定義する。よって、例えば電気的斥力により分散されている顔料を含有した顔料インクを用いる場合、反応液は、この電気的斥力を消失させる反応成分である、多価金属塩を含んでいることが好適である。多価金属塩とは、二価以上の多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成される。多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+などの二価金属イオン、そしてFe3+、Al3+などの三価金属イオンが挙げられる。また陰イオンとしては、Cl−、NO3−、SO4−などが挙げられる。瞬時に反応させて凝集膜を形成するために、反応液中の多価金属イオンの総電荷濃度は、着色顔料インク中の逆極性イオンの総電荷濃度の2倍以上であることが望ましい。
反応液に使用できる水溶性有機溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレングリコール類、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の1価アルコール類の他、グリセリン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、トリエタノールアミン、スルホラン、ジメチルサルホキサイド等が挙げられる。本発明における反応液中における上記水溶性有機溶剤の含有量については特に制限はないが、反応液全重量の5〜60重量%、更に好ましくは、5〜40重量%が好適な範囲である。
又、反応液には、更にこの他、必要に応じて、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤などの添加剤を適宜配合してもかまわない。但し、浸透促進剤として機能する界面活性剤の選択と添加量は、記録媒体に対する反応液の浸透性を抑制する上で注意が必要である。さらに反応液は、無色であることがより好ましいが、記録媒体上でインクと混合された際に、各着色インクの色調を変えない範囲の淡色のものであってもよい。更に、以上の様な反応液の各種物性の好適な範囲としては、25℃付近での粘度が1〜30cps.の範囲となる様に調整されたものが好ましい。
次に、本実施形態で適用可能な凝集阻害材について説明する。図16は、凝集阻害材による立体障害効果についての説明図である。図16(a)に示されるように、色材(顔料)は液体中で電気的斥力により分散している。顔料インクが記録ヘッドにより吐出あるいは排出される前、すなわち、顔料が液体中に存在している際には、図16(a)の状態が保たれている。顔料インクが記録ヘッドによりインク吸収体に吐出されると、液体の浸透や蒸発により液体の誘電率が低くなり、顔料粒子の電気的斥力は小さくなる。そのため電気的斥力よりもVan der Waars力による引力が強くなり、顔料は吸収体表面付近に凝集して留まる(図16(b))が、液体は吸収体内部へ浸透していき、これにより固液分離がなされる。
そこで、本実施形態では、顔料粒子同士の接触を阻害するような作用(以下、立体障害効果ともいう)を示す凝集阻害材を利用して、インク吸収体上での色材の凝集を抑制し、インク吸収体上でのインク堆積を軽減している。具体的には、図16(c)に示されるように、顔料粒子の表面に吸着し、顔料粒子同士の接触を阻害するような働きをする凝集阻害材を用意し、この凝集阻害材を所定のタイミングでインク吸収体に付与する。これにより、顔料インクがインク吸収体に付与されても、顔料粒子の表面に凝集阻害材が吸着し、これにより顔料粒子同士の接触が阻害される。従って、顔料は液体の浸透や蒸発に依存せずに安定して分散状態を保つことができ、顔料粒子同士の凝集が起こりにくくなり、インク吸収体上でのインク堆積が起こりにくくなる。
以上のように本実施形態では、立体障害効果によって色材粒子を分散させる効力を有する材料を、凝集阻害材として適用することが出来る。適用可能な材料例としては、ノニオン性界面活性剤BC40(日光ケミカル製)、BC20(日光ケミカル製)などが挙げられる。特にエチレンオキサイド基が5個以上のノニオン性界面活性剤は、効果的に利用することができる。
一方、反応系のインクを用いる場合には、反応液に含有されている多価金属塩が、インク中に多価イオンとして溶解出来ない状態にすることでも、色材の反応・凝集を抑制することができる。この場合の材料例としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ性水溶液などを利用することができる。更に、特定金属をマスキングするキレート剤を利用することも出来る。キレート剤としては、EDTA(エチレンジアミンテトラ四酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)、UDA(ウラミル二酢酸)などを挙げることが出来る。
但し、本発明で適用可能な凝集阻害材としては、上述した立体障害効果を有するものや、反応液の多価金属塩を溶解させないような特徴を有するものに限られることは無い。本発明の凝集阻害材としては、凝集する傾向にある色材の凝集を結果的に抑制するという役割が果たされれば有効である。よって、その手段が立体障害効果を利用するものであろうと、化学反応を利用するものであろうと、他の化学的効果を利用するものであろうと構わない。
凝集阻害液には、水や水溶性有機溶剤を含有させることができる。水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらの多くの水溶性有機溶剤の中でも、ジエチレングリコール等の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテルが好ましい。
上記した水溶性有機溶剤の凝集阻害溶液中の含有量は、一般には凝集阻害溶液の全重量の3〜50重量%の範囲、より好ましくは3〜40重量%の範囲で使用する。又、使用される水の含有量としては、凝集阻害溶液の全重量の10〜90重量%、好ましくは30〜80重量%の範囲とする。
また、本発明のインクの凝集を抑制する凝集阻害溶液は、無色透明液体の他に、染料や顔料などの着色材が含まれた淡い有色液体であっても構わない。
図12は、本実施形態の記録装置における記録部の詳細を説明するための断面図である。本実施形態の記録装置は、記録媒体の少なくとも1つの端部(先端部・後端部・右側端部・左側端部)に余白を設けずに記録を行う余白無し記録モードを実行可能である。そして、当該記録モードにおいて記録媒体の端部からはみ出して吐出されるインクを受けるためのインク吸収体を備えている。なお、「余白無し記録モード」の設定の仕方は種々の手法が考えられる。例えば、ホストコンピュータにおけるプリンタドライバのプロパティ画面においてユーザが「余白無し記録モード」を選択し、この選択結果に基づいて「余白無し記録モード」が設定される形態であってもよいし、また、記録装置に設けられた表示画面やスイッチによりユーザが「余白無し記録モード」を選択し、その選択結果に基づいて「余白無し記録モード」が設定される形態であってもよい。
図12において、10は記録媒体の搬送経路を示している。記録開始命令が下ると、記録媒体105は搬送経路10に沿って矢印の方向へ給紙される。11は用紙センサである。用紙センサ11は、記録媒体105の有無を検出し、給紙動作が正常に行われたか否かを判断する。また、「余白なし記録」の場合には、記録媒体105の先端部を検出し、このタイミングからその後の搬送量と記録方法を制御していくことが出来る。給紙された記録媒体の先端は、ピンチローラ12と搬送ローラ13に挟持された状態で、搬送ローラ13の回転により記録ヘッド1の下部へと搬送され、中心位置15にて位置合わせされる。
記録領域14は、記録ヘッド104上に配列した複数のインク吐出口によって記録が実行される領域を示している。また、中心位置15は、記録領域14の中心位置を示している。搬送されてきた記録媒体105は、プラテン107に下方から支えられることによって、吐出口面との好適な距離が保たれている。但し、プラテン107の中央部分で、記録ヘッド104の記録領域14に対向する部分には、穴が開けられている。そして、当該穴の位置にインク吸収体17が図のように設けられている。
中心位置15に先端が位置合わせされた記録媒体は、その状態で記録ヘッド104による最初の記録走査が実行される。「余白なし記録」の場合、記録媒体の先端部や側端部から外側にはみ出した領域に記録ヘッド104からインクと凝集阻害液が吐出され、こうしてはみ出して吐出されたインクと凝集阻害液はプラテン中央に設置されたインク吸収体17へ着弾し、吸収されていく。1回の記録走査が実行されると、次の記録走査で記録される領域まで記録媒体は所定量搬送される。このような記録走査と記録媒体の搬送とを交互に繰り返すことにより、記録媒体の先端部・側端部より外側の領域と端部より内側の領域の両方にインクを吐出可能な記録走査となる。このような記録走査になったら、反応液の吐出を開始する。なお、本例では、反応液が記録媒体の外側に極力吐出されないように反応液を吐出している。
こうして記録が進んでいくと、記録媒体上に順次画像が形成されていく。記録が成された領域の記録媒体は、拍車18と排紙ローラ19とに挟まれ、排紙部へと搬送されていく。記録が進み、用紙センサ11が記録媒体の後端部を検出すると、その後、所定回数の搬送動作の後に、記録媒体の後端部が記録領域の真下に位置する。そして、先端部への記録と同様に後端部へも記録が実行され、記録媒体の後端部から外れたインクや凝集阻害液はインク吸収体17へと吸収されていく。
図15は、このような「余白なし記録」における記録動作の様子を示した図である。特に、この図15は、記録媒体の先端部・側端部に対する記録の様子を示している。領域Aは先端部領域を示しており、先端部領域は記録媒体の先端部・側端部より外側の領域と端部より内側の領域とから構成される。領域Bは非先端部領域を示している。記録ヘッド104に施されている斜線は、各記録走査におけるインク吐出口の使用範囲を示している。
図に示すように、本実施形態では、各領域における同一画素列に対し記録ヘッドを2回走査させて記録を完成させる、いわゆる2パス記録を採用している。そして、ここでは、同一画素列を異なる吐出口により記録するべく、走査と走査の間において記録媒体を搬送方向へ搬送し、同一画素列に対し異なる吐出口が対応するようにしている。なお、図では記録ヘッドの位置が走査ごとに変化するように記載されているが、これは図示の簡略化などのためである。実際は、記録ヘッド104は搬送方向に対する位置は固定であり、記録媒体Pが図の斜線などで示す吐出口の使用範囲分だけ記録媒体搬送方向(記録ヘッドの走査方向と直交する方向)へ移動する。
図15の第1〜第3の記録走査(スキャン)は、記録媒体の先端部より外側の領域にのみインク吐出を行う走査である。従って、上述した通り、このような走査ではインクの他に凝集阻害液も共に吐出する。詳しくは、記録媒体の先端部より外側の領域に凝集阻害液を吐出するようにしている。第1〜第3の記録走査において記録媒体の外側にはみ出して吐出されたインクや凝集阻害液はインク吸収体17に着弾され、吸収される。
第4の記録走査(スキャン)は、記録媒体の先端部・側端部より外側の領域と端部より内側の領域にインク吐出を行う走査である。従って、上述した通り、このような走査ではインクの他に凝集阻害液や反応液も共に吐出する。詳しくは、記録媒体の先端部・側端部より外側の領域に凝集阻害液を吐出し、記録媒体の端部より内側の領域に反応液を吐出するようにしている。第1〜第3の記録走査と同様、第4の記録走査において記録媒体の外側にはみ出して吐出されたインクや凝集阻害液もインク吸収体17に着弾し、吸収される。なお、反応液は記録媒体の外側に吐出しないようにしているため、原則、インク吸収体に吐出されない。ところが、記録媒体の搬送誤差や吐出位置誤差が生じると、意図せずして反応液が記録媒体の外側に吐出され、インク吸収体に着弾する可能性もある。しかし、本実施形態では、凝集阻害液をインク吸収体に付与しているため、吸収体上でインクと反応液とによる反応を生じさせずに済む。
第5の記録走査(スキャン)以降の記録走査は、記録媒体の側端部より外側の領域と側端部より内側の領域にインク吐出を行う走査である。このような走査でも、第4の記録走査と同様、インクの他に凝集阻害液と反応液を吐出する。以上のようにして記録媒体の先端側への記録が終了する。なお、記録媒体の先端側への記録と同様、記録媒体の後端側への記録についても、記録媒体の外側にはインクと凝集阻害液を吐出し、記録媒体の内側にはインクと反応液を吐出する。
以上説明したような構成によれば、記録ヘッドの真下に位置するインク吸収体に対し凝集阻害溶液を付与する工程と、当該インク吸収体の上で記録媒体最端部に対するインクの記録を実行する工程とを設けることが出来る。これにより、凝集阻害溶液をインクや反応液に先立って(あるいは殆ど同時に)インク吸収体に付与することが可能となる。よって、インク中の色材は吸収体表面で凝集することなく、速やかに吸収体内部に浸透していく。結果、吸収体表面における色材の堆積は抑制され、これに起因する弊害も緩和することが可能となる。
凝集阻害溶液は吸収体におけるインク中の色材の凝集を抑制するために付与されるものであるから、記録画像に関係なく吸収体に向けて付与されればよい。付与の方法は、本実施形態の様に、記録ヘッドによって行うことが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、スプレー手段などによって記録の事前に付与した場合であっても、好適な効果を得ることは出来る。
本実施形態においては、他のインクと同様な方法、すなわち記録ヘッドから吐出することによって、凝集阻害溶液を吸収体へと付与している。よって、「余白なし記録」を実行する際には、凝集阻害溶液は記録媒体の外側にあるインク吸収体に向けて吐出されていればよい。また、搬送時の記録媒体の位置ずれや記録誤差等への配慮から、記録媒体の端部近傍、具体的には記録媒体の端部よりも内側に位置する領域と端部よりも外側に位置する領域とを含む端部近傍領域に凝集阻害溶液を付与する構成としてもよい。この際、記録媒体の外側への付与量が記録媒体上への付与量よりも多くなるように制御されていることが好ましい。
一方、反応液については、画像品位を向上させるためのものであるから、吸収体ではなく記録媒体の内側に向けて吐出されるべきである。上述したように反応液の付与位置は、インクが付与される位置、あるいはインクが付与される位置の一部、あるいは記録媒体の全面のいずれかであることが好ましい。なお、本実施形態では凝集阻害液がインク吸収体に付与されるため、仮に反応液がインク吸収体に付与されてしまったとしても、インクと反応液がインク吸収体上で反応し固着してしまうことはない。しかしながら、反応液を吸収体上に付与するメリットは何もないため、反応液は記録媒体上にのみ付与することが好ましい。そこで、本実施形態では、記録媒体の外側には反応液を吐出しないようにしている。但し、凝集阻害溶液と同様、搬送時の記録媒体の位置ずれや記録誤差等への配慮から記録媒体の端部近傍、具体的には記録媒体の端部よりも内側に位置する領域と端部よりも外側に位置する領域とを含む端部近傍領域に反応液を付与する構成としてもよい。
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では反応液を用いる形態について説明したが、本発明において、色材を凝集するための反応液を備えることは必須の構成ではない。インク中に含有される色材がインク吸収体上で凝集する性質を有しており、且つ上述した凝集阻害液により色材の凝集が抑制される構成であれば、本発明の効果を得ることが出来るからである。例えば、このようなインクとして顔料を含む顔料インクが挙げられる。
本実施形態においても、第1の実施形態と同様、「余白なし記録」において記録媒体の外側に凝集阻害液を付与する構成となっている。この構成によれば、第1の実施形態と同様、凝集阻害溶液がインクに先立って(あるいは殆ど同時に)インク吸収体に付与される。よって、インク中の色材は吸収体表面で凝集することなく、速やかに吸収体内部に浸透していく。結果、吸収体表面における色材の堆積は抑制され、これに起因する弊害も緩和することが可能となる。
以下に、本発明の効果を確認するために本発明者らが行った検証例および比較例を説明する。尚、以下の記載において、部、%とあるものは特に断わらない限り重量基準であるものとする。
(検証例1)
まず、下記に従い、顔料とアニオン性化合物とを含むブラック、シアン、マゼンタ、イエローの顔料インク、これら顔料インクの顔料の凝集を促進させる反応液およびこれら顔料インクの顔料の凝集を抑制する凝集阻害溶液を生成した。
(着色インクK1)
<顔料分散液の作製>
・スチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体(酸価240、重量平均分子量=5,000) 1.5部
・モノエタノールアミン 1.0部
・ジエチレングリコール 5.0部
・イオン交換水 81.5部
上記成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させる。この溶液に新たに試作されたカーボンブラック(MCF88、三菱化成製)10部、イソプロピルアルコール1部を加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行った。
・分散機:サンドグラインダー(五十嵐機械製)
・粉砕メディア:ジルコニウムビーズ、1mm径
・粉砕メディアの充填率:50%(体積比)
・粉砕時間:3時間
更に、遠心分離処理(12,000rpm.、20分間)を行い、粗大粒子を除去して顔料分散液とした。
<着色インクK1の作製>
上記の分散液を使用し、下記の組成比を有する成分を混合し、顔料を含有するインクを作製して着色インクとした。
・上記顔料分散液 30.0部
・グリセリン 10.0部
・エチレングリコール 5.0部
・N−メチルピロリドン 5.0部
・エチルアルコール 2.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1.0部
・イオン交換水 47.0部
(着色インクC1)
着色インクK1の調製の際に使用したカーボンブラック(MCF88、三菱化成製)10部をピグメントブルー15に代え、着色インクK1の調製と同様にして着色インクC1を調製した。
(着色インクM1)
着色インクK1の調製の際に使用したカーボンブラック(MCF88、三菱化成製)10部をピグメントレッド7に代え、着色インクK1の調製と同様にして着色インクM1を調製した。
(着色インクY1)
着色インクK1の調製の際に使用したカーボンブラック(MCF88、三菱化成製)10部をピグメントイエロー74に代え、着色インクK1の調製と同様にして着色インクY1を調製した。
(凝集阻害溶液P1)
下記の成分を混合溶解した後、更にポアサイズが0.22μmのメンブレンフィルター(商品名:フロロポアフィルター、住友電工製)にて加圧濾過して凝集阻害溶液P1を得た。
<凝集阻害溶液P1の組成>
・ジエチレングリコール 10.0部
・メチルアルコール 5.0部
・BC40(日光ケミカル製) 10.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 74.9部
(反応液S1)
下記の成分を混合溶解した後、更にポアサイズが0.22μmのメンブレンフィルター(商品名:フロロポアフィルター、住友電工製)にて加圧濾過し、pHが3.8に調整されている反応液S1を得た。
<反応液S1の組成>
・ジエチレングリコール 10.0部
・メチルアルコール 5.0部
・硝酸マグネシウム 3.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 81.9部
次に、作成した4色の着色インク、凝集阻害溶液P1、および反応液S1をインクジェット記録装置BJF900(キヤノン製)の記録ヘッドから吐出させるため、空のインクタンクにそれぞれ注入した。BCI−6BK(キヤノン製)のインクタンクに反応液S1を、BCI−6PCに凝集阻害溶液P1を、BCI−6PMに着色インクK1を、BCI−6Cに着色インクC1を、BCI−6Mに着色インクM1を、BCI−6Yに着色インクY1をそれぞれ注入した。その後、これらタンクを、BJF900のタンクホルダーに搭載した。このような組み合わせで各インクを搭載することにより、片方向記録で画像を記録する際には、反応液S1→凝集阻害溶液P1→各色着色インクの順番で記録媒体に記録(付与)することが可能となる。
その後、BJF900をホストコンピュータに接続し、製品とは異なる記録方法に制御することによって、「余白なし記録」を実行した。ここで、製品とは異なる記録方法とは、4色の着色インクが記録するための画像データとは無関係の吐出データを、凝集阻害溶液P1および反応液S1の吐出のために作成することである。本検証例においては、記録媒体の縁部から内側2mm幅、外側5mm幅の領域に凝集阻害溶液P1を付与し、記録媒体の全面には反応液S1を付与するような吐出データを作成した。
このような記録制御のもと、BJF900のプリンタドライバより、「フチなし全面印刷」を選択し、「はみ出し量」を最大に設定し、記録媒体としてプロフェッショナルフォトペーパー2L版(PR101 2L、キヤノン製)を選択した。そして、サンプル画像ISO/JIS−SCID(N3果物)を「余白なし記録」で500枚連続で印刷した。
結果、インク吸収体上でインクが堆積することはなく、記録媒体の裏面の汚染も、記録媒体の搬送異常も確認されなかった。
なお、本検証例では、凝集阻害液や反応液の吐出データをインクの画像データとは無関係に作成しているが、勿論これに限られたものではない。インクの画像データと関連付けて作成する場合(例えば、CMYKの2値画像データの論理和から反応液用の2値吐出データを生成する場合)であっても、上述したような良好な結果、すなわち、吸収体上でのインク堆積が抑制されるという結果が得られる。
(検証例2)
反応液S1を用いないこと以外は検証例1と同様な形態で、サンプル画像ISO/JIS−SCID(N3果物)によるプロフェッショナルフォトペーパー2L版への「余白なし記録」を実行した。凝集阻害溶液P1に関しては、検証例1と同様に、記録媒体の縁部から内側2mm幅、外側5mm幅の領域に付与する形態とした。結果、インク吸収体上でインクが堆積することはなく、記録紙の裏面を汚すことも、記録紙の搬送異常も確認されなかった。
(検証例3)
検証例1で作成した4色の着色インクと凝集阻害溶液P1とを用いて、検証例2と同様の「余白なし記録」を実行した。但し、本検証例の凝集阻害溶液P1については、他の顔料インクに先立って、1ページ分の記録をまず完了させた。その後、凝集阻害溶液P1が縁部分に付与された状態の白紙の記録媒体に対し、BJF900のプリンタドライバより、「フチなし全面印刷」を選択し、「はみ出し量」を最大に設定した状態で、他の着色インク(K1、C1、M1、Y1)の記録を実行した。このような記録を、プロフェッショナルフォトペーパー2L版に対し、500枚連続で印刷した。結果、インク吸収体上でインクが堆積することはなく、記録紙の裏面を汚すことも、記録紙の搬送異常も確認されなかった。
(比較例1)
凝集阻害溶液P1を用いないこと以外は検証例1と同様な形態で、サンプル画像ISO/JIS−SCID(N3果物)によるプロフェッショナルフォトペーパー2L版への「余白なし記録」を、500枚連続で実行した。
結果、製品のインク吸収体上でインクの堆積が確認され、後半に出力された記録媒体においては、その裏面に汚染が確認された。
(比較例2)
凝集阻害溶液P1および反応液S1を用いないこと以外は検証例1と同様な形態で、サンプル画像ISO/JIS−SCID(N3果物)によるプロフェッショナルフォトペーパー2L版への「余白なし記録」を、500枚連続で実行した。
結果、製品のインク吸収体上でインクの堆積が確認され、後半に出力された記録媒体においては、その裏面に汚染が確認された。
以上説明したように本実施形態によれば、記録ヘッドの真下に位置するプラテンの領域に配備されたインク吸収体に対し、凝集阻害溶液を付与する工程を設けた。これにより、凝集する性質を有するインクを用いて「余白なし記録(余白無し記録)」を実行した場合であっても、記録媒体からはみ出したインクは、速やかに吸収体に吸収され、良好な状態で画像を出力することが可能となった。
(その他の実施形態)
上記の実施形態では、シリアル型のインクジェット記録装置を例に説明してきた。そして、着色インクを吐出する記録素子列と凝集阻害液を吐出する記録素子列とがキャリッジ上で主走査方向に並列して配置され、記録媒体の端部近傍に対する記録走査でそれぞれの液滴を吐出する構成で説明してきた。しかし、本発明は、このような構成に限定されるものではない。例えば、記録媒体の給紙に先立ってキャリッジを移動し、移動の際に比較的多量の凝集阻害液をインク吸収体に付与し、その後記録媒体を給紙し、給紙された記録媒体に対してキャリッジを移動させながらインクを吐出し記録媒体に記録する構成であってもよい。
また、シリアル型ではなく、記録媒体の幅分の記録素子を配列したフルライン型の記録ヘッドを用いた場合であっても、本発明を適用し、その効果を得ることも出来る。
更に、以上の実施形態では、特にインクジェット記録方式の中でも、熱エネルギを利用して飛翔的液滴を形成して記録を行う記録装置について説明して来たが、この形態に限られるものではない。例えば、ピエゾ素子等の電気機械変換体を備えた記録素子から飛翔的液滴を吐出して記録を行う記録装置であってもよい。
いずれの吐出方式で画像を形成するにせよ、本発明の効果は、凝集する性質を有するインクを用い、記録媒体の最端部まで余白のない画像を形成するインクジェット記録装置であれば、得られるものである。