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JP4532831B2 - インクジェット記録装置 - Google Patents

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JP4532831B2
JP4532831B2 JP2003000377A JP2003000377A JP4532831B2 JP 4532831 B2 JP4532831 B2 JP 4532831B2 JP 2003000377 A JP2003000377 A JP 2003000377A JP 2003000377 A JP2003000377 A JP 2003000377A JP 4532831 B2 JP4532831 B2 JP 4532831B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、記録手段から被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関し、詳しくは、インクジェット記録装置の記録手段にインクを供給するインク供給装置の新規な構成に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録装置(インクジェットプリント装置)には、一般的に、シート状の被記録材にインクを吐出して画像を形成する記録手段(記録ヘッド)と、記録手段にインクを供給するインク供給路と、記録手段に供給するインクを貯蔵(貯留)するインクタンク(インク貯蔵部)とが設けられている。記録ヘッド(記録手段)にはインクを吐出する吐出口(通常、複数の吐出口から成る吐出口列)が形成されており、該吐出口から適正なインク吐出を行うために該吐出口に適正な背圧を作用させるように構成されている。この背圧は負圧であり、この負圧を生成する手段としては、インクタンクを吐出口に対して重力方向下方に位置させることで水頭差により負圧を発生させる方法、インクタンク内にスポンジ等の多孔質部材を配置することで該多孔質部材の毛細管力によって負圧を発生する方法、外側に膨らもうとする力を持つばね袋でインクタンクを構成することにより負圧を発生する方法など、さまざまな方法が提案されている。
【0003】
上記のような負圧発生機構とインクタンクの構成とは密接に関係しており、特にインク収容率やインクタンク製造コスト等に大きく影響する。例えば、水頭差により負圧を発生させる方式の負圧発生機構を用いるインクジェット記録装置においては、インクタンクとして可撓性の袋形態のインクタンクを用いることが多い。この可撓性のインクタンクは、インクタンク自体に負圧発生機構が設けられるものではなく、インクを取り出すに連れて可撓性袋がつぶれていくタイプのものである。このタイプは負圧発生機構を持たないのでインクタンク自体の構成がシンプルでコストが安価であるという利点がある反面、適度な水頭差を得るためには吐出口とインクタンクとの位置関係を的確に規制する必要があり、インクタンクの本体構成に種々の制約が生じたり、小型化には適さないという不利な面がある。さらに、モバイルプリンタ等の薄型の形態をなすインクジェット記録装置での採用が非常に困難であり、また、袋がインク取り出しに連れてスムーズにつぶれる必要があるため形状が限定され、インク収容効率が低くなりやすいという不利な面もある。
【0004】
インクタンク内に負圧発生機構を持つインクタンクとしては、前述のスポンジなどの多孔質部材の毛細管力を利用したものや、外側に広がろうとするばねにより負圧を発生するばね袋方式などがあるが、いずれの場合もインク収容効率が悪くなりやすいという不利な面がある。このような技術的課題に対処するための従来技術にとして、特許第2929804号には、図9に示すような、ヘッドカートリッジ部50にインクカートリッジ60が分離可能に装着され、インクカートリッジ60の密閉された容器(インクタンク)1内にインク2が貯蔵され、ヘッドカートリッジ部50には、インクカートリッジ60とのジョイント部(流路接続部)4と、該ジョイント部4の近傍に配置され大気との開口を有する第1の室36と、該第1の室36に連通し多孔性部材を有する第2の室33とが設けられ、前記ジョイント部4に前記第1の室36側の他端開口の高さが異なる2つ以上の連通路(流路)30、31が接続される構成を有するインクジェット記録装置(インクジェットプリント装置)が開示されている。この図9の構成によれば、インクタンク1は袋形態をとらないいわゆるハードケース形態で形成されているため、安価な構造で製造することができ、インクタンク内のインクをほぼ100%使い切ることができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような従来の構成では、次のような解決すべき技術的課題がある。すなわち、図9の構成においては、第1の室36を大気に開放するための開口35と、この開口35からインク2aが漏れることを防止するためのフィルム部材34と、が設けられている。そして、前記フィルム部材34は、空気は透過させるがインクは透過させない性質を有する気液分離部材で形成されている。図9に示すようなインク供給装置を備えたインクジェット記録装置においては、該記録装置を傾けたときなどに前記開口35からのインク漏れを防止するためのフィルム部材34が設けられているので、確かにインク漏れ防止の効果はある。しかしながら、図9に示すような従来の構成では、記録装置自体を傾けた状態あるいは転倒させた状態で保管する場合が全く想定されておらず、このような状態で保管する場合には、ヘッドカートリッジ50内のインク2aが第1の室36内で移動し、このインク2aがフィルム部材34の全面に接触したままの状態になることがある。
【0006】
この状態で記録装置が保管された場合、第1の室36は大気に開放された状態ではなくなり、その開口35がインクで塞がれて密閉状態となることが考えられる。その場合、第1の室36には空気が存在しているが、このような保管状態で環境の変化があった場合、第1の室36内に密閉された空気20a及びインクタンク1内の空気20が膨張し、前記フィルム部材34に高い圧力が作用することになる。
一般的には、前記フィルム部材34は高い耐圧性を備えていない。すなわち、環境変化により第1の室36内の圧力が高まり、フィルム部材34の耐圧を越えた圧力になると、第1の室36内のインク2aが該フィルム部材34を透過してインク漏れが発生することになる。さらには、このような状態になるとフィルム部材34が気液分離部材として機能しなくなる可能性が高く、記録装置の故障の原因となることも考えられる。
【0007】
また、図9に示すようなインク供給装置が装着される従来のインクジェット記録装置では据え置き型の状態しか想定されておらず、記録装置が傾いた状態あるいは転倒した状態で保管される場合は考慮されていない。しかし、小型プリンタやモバイルプリンタなどでは、傾いたり転倒した状態は十分に想定される状態であり、特にモバイルプリンタでは鞄等にプリンタを入れて航空機で移動という機会が多い。そして、航空機内では急激に気圧が低下することがあり、そのような場合には、第1の室36内の空気20a及びインクタンク1内の空気20が膨張し、前述のような不都合な状況が発生することがある。
【0008】
また、図9の構成における第1の室36はインクタンク1と第2の室33との間に位置している。第1の室36は比較的容積が小さい室となっており、インクタンク1内のインク2はこの第1の室36にいったん貯留されて第2の室33に供給される。第1の室36は大気に開放されているため、第1の室36内のインク2aからの蒸発を避けることはできない。図9の構成では、第1の室36の開口35はフィルム部材34で塞がれているものの、大気との間には蒸発抑制手段は設けられていない。
また、インクタンク1から記録ヘッドの吐出口へ通じる流路はインクの蒸発を最小限に抑えるように比較的細く密閉された流路で形成されているが、図9の構成では、第1の室36に大気開放の開口35を設けることが必須の構成であるため、該第1の室36におけるインクの蒸発は避けられない。この部分でインクの蒸発があると、インクの顔料あるいは染料濃度が上昇し、記録濃度に変化が生じる他、吐出口の目詰まりが生じるなどの不具合発生の原因となる場合がある。
【0009】
本発明は以上のような技術的課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、インクタンクをハードケースとして内容積のほぼ100%のインクを使用可能にする場合でも、その際に発生する可能性のあったインク漏れを効果的に防止でき、インク供給装置のさまざまな姿勢においてもインク漏れを防止することができ、さらに、インクタンク周辺のスペースを小さくできるインクジェット記録装置を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するため、記録手段に供給するためのインクを貯蔵するインクタンクが装着可能であり、前記記録手段から被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、前記インクタンクの底部に設けられた第1の流路接続部及び第2の流路接続部と、前記インクタンクが上方から装着されるように設けられ、大気と連通する大気開放室と、前記大気開放室に設けられ、前記インクタンクが装着されたときに前記第1の流路接続部と接続され前記インクタンク内のインクを前記記録手段に供給するためのインク供給路と、前記大気開放室に設けられ、前記インクタンクが装着されたときに前記第2の流路接続部と接続され前記インクタンク内と前記大気開放室内を連通する空気導入路と、前記大気開放室の対向する内側面に配され、インクは透過させず空気は透過させる材質により構成される気液分離部材と、を備え、前記大気開放室は直方体であり、前記空気導入路は前記大気開放室の底面と平行な長辺及び短辺の隅部において前記第2の流路接続部と接続するように配置され、さらに、前記空気導入路は前記大気開放室内で複数の流路に分岐され、分岐された流路の開口は前記大気開放室の底面隅部に配置されることを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一又は対応する部分を示す。
図15は本発明を適用するのに好適なインクジェット記録装置の一実施例の概略構成を示す模式的斜視図である。図15において、本発明を適用した記録手段100(図10)及びインク供給装置200(図10)から成るインク供給システム30がキャリッジ31に搭載されている。前記記録手段(記録ヘッドユニット)100はインク供給システム30の下部に(図10参照)設けられている。前記キャリッジ31は装置本体に互いに平行に設置されたメインガイドレール32及びサブガイドレール33によって往復移動可能に案内支持されている。装置本体の一端部にはキャリッジ31を移動させるためのキャリッジモータ(主走査モータ)34が装着されている。装置本体の他端部にはアイドラプーリ35が配設されている。そして、キャリッジモータ34の出力軸に取り付けられたドライブプーリ36と前記アイドラプーリ35との間には前記ガイドレール32、33と平行なタイミングベルト37が張架されている。
【0012】
前記タイミングベルト37は前記キャリッジ31の一部に連結されている。また、前記タイミングベルト37は、前記アイドラプーリ35を付勢するように装着されたテンションばね38によって所定の張力を付与されている。こうして、キャリッジモータ34の正転及び逆転によってキャリッジ31を往復移動させるとともに、キャリッジモータ34の回転量及び回転速度によってキャリッジ31の位置及び移動速度、すなわち記録手段としての前記記録ヘッドユニット100の位置及び移動速度(主走査の速度)を制御するように構成されている。
【0013】
記録ヘッドユニット(記録手段)100のインク吐出部(図10中の記録ヘッド112を参照)と対向する位置には、所定の隙間を設けてプラテン39が前記ガイドレール32、33と平行に配設されている。このプラテン39は、記録位置における記録用紙等の被記録材(記録媒体)の位置を適正な紙間距離(吐出口面と被記録材との間の距離)の位置に規制するためのものである。プラテン39より通紙方向上流側には不図示の搬送ローラ(紙送りローラ)が配設されている。この搬送ローラに対してピンチローラガイド40に支持されたピンチローラ41を圧接することにより、自動給紙装置42から送り出された記録用紙(被記録材)を搬送ローラの摩擦搬送力によって記録部のプラテン39上へ搬送するように構成されている。プラテン39の通紙方向下流側には、記録部を通過した被記録材を排出するための排出ローラ43及び拍車(不図示)が設けられている。
【0014】
前記プラテン39の図示右側の記録領域外の位置には、回復装置45が配設されている。この回復装置45には記録ヘッドのインク吐出部を密閉し得るキャップ46が設けられている。この回復装置45は、インク吐出部112(図10参照)の吐出口をキャップ46密閉した状態で該キャップの内部に通じる吸引ポンプを作動させることにより、該キャップ46内に負圧を発生させ、それによって、吐出口からインクとともに増粘インク、固着インク、気泡あるいは埃(紙粉等)等を吸い出すことで、記録ヘッドのインク吐出性能を維持・回復するように構成されている。前記キャップ46は、記録ヘッドの回復動作における吸引部として使用される他、記録装置の輸送時や非記録時などにおいて吐出口内のインク乾燥防止のためにも使用される。
自動給紙装置42、不図示の搬送ローラ(紙送りローラ)、排紙ローラ43、及び回復装置45などの駆動は、例えば搬送(ラインフィード、紙送り)モータ47を駆動源としてギア48、ギア49及び不図示のクラッチ等からなる伝動機構を介して行われる。
【0015】
記録手段のインク吐出部は、記録信号に応じてエネルギーを印加することにより、複数の吐出口からインクを選択的に吐出して記録するインクジェット記録ヘッドである。また、この記録ヘッドは、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット記録手段であって、熱エネルギーを発生するための電気熱変換体を備えたものである。さらに、前記記録ヘッドは、前記電気熱変換体によって印加される熱エネルギーにより生じる膜沸騰による気泡の成長、収縮によって圧力変化を生じさせ、この圧力変化を利用して吐出口よりインクを吐出させることにより記録を行なうものである。前記電気熱変換体は、各吐出口のそれぞれに対応して配設されており、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出するものである。
【0016】
図16は図15中の記録手段(記録ヘッド)のインク吐出部の構造を一部破断して示す模式的部分斜視図である。図16において、被記録材(記録媒体、記録用紙等)と所定の間隔(例えば約0.3〜2.0ミリ程度)をおいて対面する吐出口面81には所定のピッチで複数の吐出口82が形成され、共通液室83と吐出口82とを連通する各液路84の壁面に沿ってインク吐出用の熱エネルギーを発生する電気熱変換体(発熱抵抗体など)85が配置されている。こうして、画像信号又は吐出信号に基づいて対応する電気熱変換体85を駆動(パルス電圧を印加)して、液路84内のインクを膜沸騰させ、その時に発生する圧力によって吐出口82からインク滴を吐出させる記録ヘッドが構成されている。
【0017】
図1は本発明を適用したインクジェット記録装置のインク供給装置の第1実施例を示す模式的縦断面図である。図1において、1はインクタンクであり、このインクタンク1内には不図示の記録ヘッドに供給するためのインク2が貯蔵されている。前記インクタンク1は、ハードケースから成る容器であり、例えばポリプロピレン等の材質から成るケースの形態をしている。インクタンク1の底面には、ゴム等のゴム状弾性材から成る流路接続部4a、4bが設けられている。流路接続部4a、4bは、インクタンク1が単体で存在するときには、該インクタンク1の内部を密閉状態にするものである。
【0018】
前記インクタンク1の底部に隣接する位置には大気開放室6が配置されている。該大気開放室6の前記インクタンク1の底面に設けられた前記流路接続部4a、4bに対応する位置には、インク供給路3及び空気導入路5が該大気開放室6の天面を貫いた状態で固着されている。前記インク供給路3及び前記空気導入路5は、中空のステンレス等から成る針形状を成しており、その先端は鋭利に形成されている。インクタンク1をインクジェット記録装置に装着する際には、該インクタンク1を上方から記録装置内に押し込み、インク供給路3及び空気導入路5の先端が流路接続部4a、4bを突き刺した状態で装着される。この状態のとき、インクタンク1は大気開放室6及び不図示の記録ヘッドへ延設される流路(接続流路)8と接続(連通)される。この場合、前記インク供給路3は、その一端部がインクタンク1内に挿入され、他端部がチューブ等の接続流路8に接続され、該接続流路8を通して不図示の記録ヘッドへとインクを導いていく。
【0019】
空気導入路5は大気開放室6の底部まで延びており、その先端開口5aは大気開放室6の底部に設けられた座ぐり部6aの内部に入り込んだところに位置している。大気開放室6の左右側面には気液分離部材9、9が配置されている。この気液分離部材9は、例えばテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂から成る多孔質体で形成されている。この気液分離部材9の材質は、ある耐圧の範囲ではインク等の液体は透過させないが、空気等の気体は透過させるものである。大気開放室6は、インクタンク1と同様、ポリプロピレンやABSあるいは変性PPO等の樹脂で形成されている。そして、気液分離部材9、9は、大気開放室6に対して、接着剤による接着あるいは熱溶着や超音波溶着等の溶着により固着されている。また、気液分離部材9は、略直方体をした大気開放室6の内部の少なくとも各隅部の近傍に存在するように配置されている。
【0020】
本実施例においては、前記気液分離部材9、9は、大気開放室6の左右両側の長方形をした側面(内面)の全面に配置されており、それによって、略直方体をした大気開放室6の内部の全隅部(6ヶ所の隅部)の近傍に必ず気液分離部材9が存在するように構成されている。もちろん、大気開放室6内の各隅部の近傍に適宜分割した気液分離部材を配置する構成にしても良く、また、大気開放室6の側面ではなく、上面もしくは下面に配置しても良い。
図1において、前記大気開放室6の左右両端部であって各気液分離部材9の外側にはカバー部材10が固定されている。このカバー部材10は、比較的薄く傷つきやすい気液分離部材9を保護するとともに、その一部に設けられた大気連通口10aにより大気開放室6の内部と外部の大気とを連通させている。左右の各大気連通口10aは比較的小さな孔であり、大気開放室6の内部と外部の大気とを連通する通路断面積は小さく選定されており、これによって、後述するような大気開放室6内のインクの蒸発が最小限に抑制されている。
【0021】
つまり、前記大気連通口(大気連通路)10aは、その断面積をできるだけ小さくするとともに、長さを長くすることが望ましい。そのためには、例えばカバー部材10の表面に迷路状の溝を形成し、この溝の一端を大気連通路の孔部に連通させ、該溝の他端をカバー部材10の周縁端面に連通させ、該溝の表面をシートなどでシールすることにより、断面積が小さくて長さが長い大気連通路を形成することができる。
【0022】
前記インクタンク1は、前述のようにポリプロピレン等の比較的剛性のある樹脂で形成されており、いわゆるハードケースの形態をしている。従来技術でも述べたように、記録ヘッドに供給するインクを貯留するインクタンクには、記録ヘッドの背圧である負圧を発生する機構を有するものと、このような機構を有さないものとがあり、また、可撓性の袋であったり、ハードケースの内部にスポンジ等の多孔質部材を配置した構造のものなどがある。一般的に、インクタンクが可撓性の袋である場合は、その内部に貯蔵されたインクが袋内部から取り出されるに従い、袋の形状は変化しながら縮んでいく。また、可撓性の袋から成るインクタンクの場合、その内部に袋を外方へ広げようとするばねを設けることによってインクタンク内部に負圧を発生することができる。
【0023】
また、インクタンク内部にスポンジ等の多孔質部材を配置した構成のものにおいては、多孔質部材の毛細管現象を利用して負圧を発生させることはできるが、前記スポンジ等の多孔質部材自体はインクタンクからインクを取り出しても殆ど変形することはない。しかし、インクタンクには大気連通口が設けられているので、インクをインクタンクから取り出すにつれて前記大気連通口から空気が導入されていくことになる。
【0024】
上述のようにインクタンク自体に、負圧発生機構として、スポンジ等の多孔質部材を配置したり、拡張用のばねを用いたりするとインク供給装置の構成が複雑になりがちである。また、可撓性の袋を用いる場合は、ハードケースの場合に比べデッドスペースが多くなることからインクタンクの容積効率が低下してしまう。また、スポンジ等の多孔質部材を用いる場合は、インクタンクとしてハードケースを利用できるため、インクタンクの内容積は十分に確保することができるが、スポンジ等の多孔質部材が保持できるインクの量は容積いっぱいまではないため、どうしてもインクタンクの容積効率は悪くなってしまう。
【0025】
本実施例におけるインクタンク1は、ハードケースに2ヶ所の流路接続部4a、4bを設けただけの極めてシンプルな構成となっている。このインクタンク1の中にインクを隙間なく貯蔵することができる。すなわちほぼ100%の容積効率を実現できるのである。しかも負圧発生機構を持っていない(必要としない)ので、極めてシンプルで安価なインクタンクを提供することができる。一般に、インクタンクは消耗品であり、ユーザーはインクが無くなれば新たにインクタンクを購入する必要がある。インクタンクのコストはユーザーのランニングコストの大きな部分を占めるものであり、この観点からも、インクタンクを安価に提供できることが強く望まれている。本実施例はこのような要望に十分に応えられるものである。
【0026】
このような容積効率がほぼ100%のハードケース形態のインクタンクを実現するためには、インクタンク内にはスポンジ等の負圧発生部材を設けないことが必要であるが、このことはインクタンク内に液体のインクをそのままの状態で保持する必要があることを意味する。液体インクをそのまま保持するためにはインクタンクからのインク漏れを防止する必要がある。そのためにはインクタンクを大気に対して密閉する必要があるが、他方、ハードケース内のインクを取り出す(導出する)ためには、前述のスポンジ等をハードケース内に保持する場合と同様に、ハードケース内に空気を導入する必要がある。
すなわち、ハードケース内に空気を取り入れる開口(又は流路)を設ける必要があり、同時に、この開口(又は流路)からのインク漏れによる不具合発生を防止する必要がある。また、ハードケース内に密閉された空気が存在するため、環境変化、例えば温度上昇や気圧の低下に起因する内部空気の膨張によるインク漏れ等の不具合も防止する必要がある。本発明はこのような技術的課題を解決するものであり、このような観点から以下に実施例について説明する。
【0027】
図1において、インクタンク1の流路接続部4aに接続(挿入)されたインク供給路(流路)の先端は記録ヘッドへ通じる接続流路8に接続されている。この接続流路8の先には不図示の記録ヘッドが接続されており、インクタンク1内のインクは、前記インク供給路(流路)3及び接続流路8を通して記録ヘッド側へ供給されるように構成されている。
本実施例のインクタンク1は負圧発生機構を有していないので、例えば記録ヘッド側に負圧発生機構(負圧発生を支援する手段を含む)を設けるように構成される。この負圧発生機構は記録ヘッドとインクタンクとの間であれば任意の位置に設けることができる。前記接続流路8は記録ヘッドとインクタンクとを接続するものであるが、これはチューブ等で繋ぐ構造を採用しても良く、また、その間にバルブ等を設けても良い。この場合のバルブとしては、例えば針とゴム状弾性体を用いて流路を選択的に分断するジョイント構成のものを採用しても良い。
【0028】
また、インクタンク1内のインクは適当な手段によって記録ヘッドに供給することができる。この適当な手段は、記録ヘッドからのインクの吐出であっても良いし、別途設けられたポンプ等によるインク移送手段であっても良い。また、記録ヘッドとインクタンク1との間に第2、第3・・・の複数のインク室が存在していても良い。インクタンク1内のインクはインク供給路3を通じて記録ヘッド側へ供給される。インクタンク1内には最初は空気が存在している必要はない。インクが記録ヘッド側へ供給されるとインクタンク1内のインクは減少するが、このインクタンク1はハードケース形態であるため該インクタンクの内容積はほとんど変化しない。
【0029】
したがって、供給されたインクに相当する量の空気がインクタンク1内に導入されるように構成する必要がある。そのために、インクタンク1の底面にはもう一つの流路である空気導入路5が接続(挿入)されている。一方の流路であるインク供給路3から記録ヘッド側へインクが供給されるに伴い、他方の流路である空気導入路5からインクタンク1内へ空気(例えば泡の状態の空気)が導入されていく。その際、空気導入路5のインクタンク1内の開口部5bにはメニスカスが存在するため、空気がインクタンク1内に導入される際にある程度の負圧が発生する。この負圧は記録ヘッドの背圧になる場合があるが、この負圧の大きさは開口部5bの面積によって変化するものであり、非常に管理しやすい負圧である。つまり、前述したような可撓性袋からインクを取り出すときは袋のつぶれ方や剛性など不安定な要因があり負圧が安定しづらい傾向があるが、本実施例の場合はこの負圧を容易にかつ適正に管理することができ、記録ヘッドのインク吐出動作などに与える対する影響を小さくすることができる。
【0030】
図2は図1のインク供給装置の動作を示すための模式的縦断面図である。つまり、図2は、前述のような状態において、例えば温度上昇や気圧の変化などの環境変化があったときにインクタンク1内部の空気が膨張した場合の状態及び動作を示すための模式的縦断面図である。図2において、インクタンク1内の空気が膨張した場合、インク2はインクタンク1から外に出ようと出口を探し、2つの出口流路であるインク供給路3及び空気導入路5の両方から出ようとする。ところが、インク供給路3側には前述の通り記録ヘッドへと通じる接続流路8が接続されており、比較的長い流路が接続されている。しかもその先端には記録ヘッドの吐出口が存在しており、そこにはメニスカスが形成されている。このように記録ヘッド側への流路の流路抵抗は、他方の流路である空気導入路5よりも大きくなるように設定されている。そのため、インクタンク1内のインク2は空気導入路5から大気開放室6へ流出することになる。なお、この場合、インク供給路3に接続された接続流路8の途中にバルブやジョイントがある場合、それを閉塞してインク供給路3側へのインクの流れを妨げるようにしても良い。
【0031】
このようにして環境変化によるインクタンク1内の空気が膨張した場合の該インクタンク1内のインクは大気開放室6へと流出することになる。これによって、インクタンク1内の圧力が異常に高まることで、高い圧力が記録ヘッドの吐出口へと伝達されることによりインクが吐出口から漏れ出るなどの不具合などを効果的に防止することができる。さらに、インク接続流路途中のバルブあるいはジョイントを閉塞していた状態から開放状態にしたときにインクが記録ヘッド側に異常な勢いで流出するなどの不具合も防止することができる。
【0032】
一般に空気の膨張は、大気の減圧によって膨張する場合の膨張量が大きい。例えば、1気圧の状態から航空機で上空に上がった場合には約0.6気圧まで減圧されると言われる。インクタンク1内のインクが大気開放室6へと流出する量が最大となるのは、
イインクタンク1の内容積 :V
インクタンク1内のインク量 :A
とすると、
(V−A)/0.6=V
となるときであり、A=0.4Vとなる。
【0033】
すなわち、インクタンク1内のインクは、最大でインクタンク内容積の0.4倍のインクが流出してくる。よって、大気開放室6の内容積はインクタンク1の内容積の0.4倍以上であれば良い。この内容積については、想定される気圧や温度によって設定を変えることが望ましい。ただし、記録装置の小型化を考えた場合、むやみに大気開放室6の内容積を大きくすることは記録装置の肥大化に繋がるため、上記のような想定を盛り込むことにより大気開放室6のサイズを必要最小限に抑えることは、記録装置の小型化にとって極めて有効である。
【0034】
次に、大気開放室6内に流出したインク2aは、環境が元に戻るとともにインクタンク1内の空気が収縮するため、空気導入路5を伝わって再びインクタンク1内へと戻っていく。その際、空気導入路5の大気開放室6側の開口5aは大気開放室6の底部に位置しているので、大気開放室6内に貯留されたインク2aを効果的にインクタンク1内へ戻すことができる。つまり、空気導入路5の開口5aがインク2a内に浸っているので、インクタンク1内の空気の収縮に伴って、大気開放室6内の空気20aではなく、インク2aの方を選択して効果的にインクタンク1内へと戻すことができる。さらに、本実施例では、空気導入路5の開口5aが大気開放室6の底面に設けられた座ぐり部6a内に位置している(挿入されている)ので、開口5aを大気開放室6内のインク2aに確実に浸す(接触させる)ことができ、インク2aのインクタンク1への戻りを確実にすることができる。なお、図示の構造に代えて、大気開放室6の底面を開口5aに向かって下り斜面とすることによっても同様の効果を得ることができる。
【0035】
インクタンク1内のインク2が大気開放室6へ流出し、再びインクタンク1内へ戻ることをさらに確実にするために、上記大気開放室6に気液分離部材9及びカバー部材10が設けられている。前記気液分離部材9は、前述のとおり、インクは透過させないが空気は透過させるような材質から成る部材である。すなわち、インクは大気開放室6へは流出するが、大気開放室6から外へは流出しない。一方、大気開放室6内の空気は、前記気液分離部材9を通り、さらにカバー部材10に形成された大気連通口10aを通して外部へ流出(流通)させることができる。つまり、大気開放室6内にインクタンク1からのインクが流入してきても大気開放室6内の空気20aは気液分離部材9を透過した後さらにカバー部材10の大気連通口(大気開放孔)10aを通して外部へ流出する。逆にインクタンク1へインクが戻る際には、大気連通口10aから気液分離部材9を通して大気が大気開放室6に流入することによって、大気開放室6内のインク2aを円滑に(スムーズに)インクタンク1内へ戻すことができる。
【0036】
ここで、気液分離部材9は前述の通り大気開放室6の左右の側面のそれぞれの全面に設けてあるため、図2に示すように大気開放室6内のインク2aの液面が上昇しても、大気開放室6内の全容積がインクでいっぱいにならない限り気液分離部材9と大気開放室6内の空気20aとが必ず接触するようになっている。すなわち、大気開放室6内のインクの液面に関わらず、常に大気開放が保証(確保)されるように構成されている。
また、前記気液分離部材9は、大気開放室6の少なくとも各隅部の近傍に配置され、特に図示の実施例では大気開放室6の左右の側面のそれぞれの全面に設けられているため、記録装置全体の姿勢が変わった場合、その姿勢がいかなる場合でも、大気開放室6内の空気20aと気液分離部材9とが接触しており、大気開放室6の大気への開放を常に保証(確保)することができる。
【0037】
図3は図1のインク供給装置が図1の状態から図示反時計回りに90度回転した状態(a)および270度回転した状態(b)を示す模式的縦断面図であり、図4は図1のインク供給装置の好ましくない構成例を示す模式的縦断面図であり、(a)は図1の状態から図示反時計回りに90度回転した状態を、(b)は270度回転した状態それぞれ示す。
次に、図3及び図4を参照して、インクジェット記録装置において姿勢が変化する場合(姿勢差がある場合)に環境変化が生じたときのインク供給装置(図1)の状態及び動作について説明する。
図3はインクジェット記録装置が通常の姿勢でない状態で置かれたときの状態を示し、(a)は図1及び図2の姿勢から反時計回りに90度回転した状態を示し、(b)は図1及び図2の姿勢から反時計回りに270度回転した状態を示す。図4は好ましくない構成を有するインク供給装置を図1及び図2の姿勢から反時計回りに90度回転した状態(a)及び反時計回りに270度回転した状態(b)を示す。
【0038】
図4のインク供給装置においては、インクタンク1に設けられる一方の流路接続部4bがインクタンク底面のほぼ中央に設けられている。そして、このほぼ中央位置に設けられた流路接続部4bに空気導入路(流路)5が接続されている。図4において、インクタンク1内の空気20が比較的少ないとき、空気導入路5のインクタンク1側の開口5bはインクタンク1内のインク2内に浸っている状態である。一方、大気開放室6内にインクが存在しないときに若干の環境変化によりインクタンク1内の空気20が若干膨張し、若干のインクが大気開放室6内に流出する場合を考える。この場合は、流出するインク量が少ないため、大気開放室6内のインク2aの液面は空気導入路5の大気開放室6側の開口5aに達成していない。
【0039】
この状態で環境が元に戻るとインクタンク1に対して空気導入路5の開口5aを通して空気が流入する(導入される)。この時大気開放室6内のインク2aは該大気開放室6内に滞留している。この状態で再び環境変化が生じ同様の状況が繰り返されると、空気導入路5の大気開放室6内の開口5aがインク2aに浸されるか、インクタンク1内の開口5bがインクタンク1内の空気に接するかのどちらかの状態になるまで、大気開放室6内のインク2aの液面は上昇する。どちらかの状態になったとき、空気導入路5内は空気かインクのいずれかがインクタンク1と大気開放室6との間を環境変化に伴い行き来することになり、該大気開放室6内のインク2aの液面はそれ以上には上昇しない。
【0040】
この状態では大気開放室6にインクが存在している。このとき記録装置が通常の姿勢(図1及び図2)に戻され、仮に最大の気圧変化が発生したとすると、既に大気開放室6内にインクが存在しているので、前述した大気開放室容積=A=0.4Vという設定をしていた場合、インクタンク1から流出してきたインクは大気開放室6の容積を超えてしまう。すると、大気開放室6内のインク圧力が上昇し、気液分離部材9のインク耐圧を越えたとき気液分離部材9からインクが外部に流出してしまい、インク漏れとなってしまう。
【0041】
そこで、図3の(a)、(b)に示すようにインクタンク1の流路接続部4bをインクタンク1の底部の中央より偏った位置、望ましくは底面の端部近傍に設け、同様に大気開放室6の対応する空気導入路5の位置も大気開放室6の中央から偏った位置、望ましくは大気開放室6の端部近傍に設けることにより、大気開放室6への流入インクの滞留量を最小限に抑えることができる。図3の(a)は空気導入路5がインクタンク1及び大気開放室6の下端部に位置しているため、その開口5aはインクタンク1からの流出インクにすぐに浸ることになる。この状態になれば、環境が戻ったときに空気をインクタンク1に引き込むことがなく、従ってインクタンク1内の空気が増加していくことはない。よって、大気開放室6内に滞留するインクの量を抑えることができ、その液面の高さを空気導入路5の開口5aより下方に抑えることができる。
【0042】
図3の(b)は図3の(a)から180度回転した姿勢で放置された場合を示している。この場合は、インクタンク1内のインク2の液面が空気導入路5の開口5bの位置まで下がったところでインクは大気開放室6へ流出しなくなる。この後に環境が戻っても大気開放室6とインクタンク1との間では空気の行き来だけが行われ、インクは移動しない。すなわち大気開放室6へ流出して大気開放室6内に滞留するインクの量が増大してその液面がインクタンク1側の開口5bより上になることはない。
以上より明らかなように、インクタンク1の中央及び大気開放室6の中央に空気導入路5が存在している図4の場合に、該インクタンクと該大気開放室との間を移動するインク量が最も多くなり、大気開放室6に滞留するインク量も多くなる。従って、空気導入路5はインクタンク1及び大気開放室6の中央から偏った位置、望ましくは端部に設けることが好ましい。
【0043】
以上のことは図面の紙面垂直方向すなわちインクタンク1の厚み方向の長さつまり略長方形の底面の短辺の長さが、長辺の長さに対し1/3以下程度の偏平な形状の場合、中央からの偏りは長辺の中央に対する偏りのみに適用して十分な効果がある。もちろん、この場合に短辺に対しても同様の考え方を適用することはできる。従って、この場合も、空気導入路5は短辺の中央に対しても偏った位置、望ましくは端部に設けることが好ましい。このようにして大気開放室6でのインクの滞留を最小にすることができるので、大気開放室6をサイズアップすることなく最小限の容積に抑えることができ、それによって、記録装置の小型化を実現することができる。
【0044】
以上説明した実施例によれば、インクタンク1をハードケースとして内容積のほぼ100%のインクを使用可能にする場合でも、その際に発生する可能性のあったインク漏れを効果的に防止でき、インク供給装置のさまざまな姿勢においてもインク漏れを防止することができ、さらに、インクタンク周辺のスペースを小さくできる。
このような構成は、特に、さまざまな姿勢差が想定されかつサイズ的にもよりコンパクトさを求められるモバイルプリンタ等の小型インクジェット記録装置において一層高い効果を発揮するものである。
【0045】
図5は本発明を適用したインク供給装置の第2実施例を示す模式的縦断面図(a)及びb−bに沿って見た模式的平面断面図(b)である。図5においても、空気導入路5はインクタンク1の底面の中央から偏った位置に配置されており、大気開放室6内でも同様に大気開放室6内の中央から偏った位置に配置されている。ただし、本実施例では、図5の(b)に示すように、空気導入路5は大気開放室6内で3本の流路に分岐しており、これらの流路はそれぞれ大気開放室6の底面の各隅部の近傍まで延設され、各隅部の近傍において開口5a、5c、5d、5eが設けられている。そして、空気導入路5のこれらの開口5a、5c、5d、5eは、大気開放室6の底面の対応する位置に形成された座ぐり部6a、6c、6d、6eの内部に位置している。
【0046】
図5の第2実施例は以上説明した点で図1の第1実施例と相違するが、その他の点では実質的に同じ構成を有しており、それぞれ対応する部分を同一符号を示し、それらの詳細説明は省略する。図6は図5の第2実施例に係るインク供給装置が図5の状態から図示反時計回りに270度回転した状態(a)および90度回転した状態(b)を示す模式的縦断面図であり、図7は図5の第2実施例に係るインク供給装置が図5の状態から図示時計回りに45度回転した状態(a)および225度回転した状態(b)を示す模式的縦断面図である。
【0047】
図5の第2実施例に係るインク供給装置において図6に示すような姿勢差(回転姿勢)が発生すると、図3で説明したと同様の原理で大気開放室6内の滞留インクの量を最小限に抑えることができる。ただし、本実施例の場合には、分岐した空気導入路5の分岐部分のうちのいずれかの開口(5a又は5c又は5d又は5e)は空気に接している状態となるので、空気に接している開口を通して大気開放室6内の空気20aがインクタンク1内へ導入されるように見える。しかし、その場合でも、空気導入路5の中にインクと空気の界面が存在しており、この界面の部位ではメニスカスが形成されており、従って、大気開放室6内のインク2aに浸っている(接触している)開口(空気導入路の大気開放室内の開口)のみを通してインクタンク1と大気開放室6との間のインクの行き来が行われ、大気開放室6内の空気20aがインクタンク1内へ流入することはない。
【0048】
図5に示すような分岐流路から成る空気導入路5の構成は、特に図7に示すような斜めに置かれる姿勢差がある場合に優れた効果を発揮するものである。
図7の(a)の状態では、空気導入路5が図示のようにインクタンク1の底面の近傍に配置されているので、インク供給装置が図示のような斜めの姿勢差(回転させた姿勢)になった場合でも、インクタンク1内のインク液面が空気導入路5のインクタンク1側の開口5bまで下降するまでにはインクタンク1から比較的多量のインクが流出することになる。換言すれば、インクタンク1内のインク2の液面は、該インクタンクから多量のインクが流出しない限り、空気導入路5の開口5bの高さまで低下することはない。
なお、図3で説明した第1実施例においては、図7の(a)のような姿勢差になると、インクタンク1内のインク2の液面が開口5bに達するか、あるいは大気開放室6内のインク2aの液面が開口5aに達するかのいずれかの状態にならない限りインクタンク1からインク2が流出する。この場合、大気開放室6の大部分にインクが滞留してしまうことになる。
【0049】
したがって、図5の第2実施例の構成によれば、図7のような回転した姿勢差になった場合でも、インクタンク1から流出するインクは大気開放室6の下方に滞留するだけであり、(a)の姿勢差においては、インク2aの液面が空気導入路5の開口5c、5dに到達した時点でインクタンク1と大気開放室6とのインクの間で開口5c、5dを通してインクの行き来が行われることになる。このとき、開口5a、5eではインクのメニスカスが形成されているので、これらの開口5a、5eから空気がインクタンク1へ流入することはない。そのため、大気開放室6でのインク滞留は開口5cの高さ付近までとなる。
図7の(b)では、大気開放室6内のインクの滞留は同様に空気導入路5の開口5a、5eの高さ付近までとなる。このように記録装置の姿勢差が斜めの状態であっても大気開放室6内におけるインク2aの滞留を最小限に抑制することができるので、大気開放室6の大きさを必要以上にサイズアップすることなく、記録装置の小型化を図ることができる。
【0050】
以上の説明からも明らかなごとく、本発明のようにインクタンク1をハードケースで構成する場合、前記大気開放室6は、インクタンク1の空気取り入れ口であると同時に、環境変化時等におけるインクタンク1内の空気の膨張に起因して該インクタンク1からインクが溢れる際に該インクを受け止めるバッファ的な役割を果たすものである。
インクタンク1は空気導入路5の開口5bあるいは5a、場合によっては空気導入路5の途中において大気に開放されているが、該空気導入路5自体は比較的細いステンレス等のパイプで形成する場合が多いので、インクタンク1内のインク2はこの空気導入路5の構成によって大気に対する蒸発を有効に防止されている。
【0051】
さらに、空気導入路5の先端(開口5a)は大気開放室6に連通し、大気開放室6の内部と外気との間には気液分離部材9とカバー部材10の細い大気連通口10aとが設けられているので、インクタンク1内のインク2蒸発は一層効果的に防止されている。
大気開放室6には前述のようにインクが滞留する場合がある。この場合、大気開放室6内に滞留するインクは、インクタンク1内のインクよりも量が少ない上に空気導入路5よりも大気開放側に存在しているので、比較的蒸発しやすい。しかしながら、大気開放室6内でインクが蒸発しインク濃度が上昇したとしても、この滞留したインクは再びインクタンク1へ戻り比較的大量のインクと混ざり合うので、大気開放室6内のインク2aの蒸発による悪影響は非常に小さいものである。また、インクタンク1から記録ヘッドへの流路の途中には大気開放された部分は存在しない密閉状態であるので、この部分でのインク蒸発の影響は極めて少ない。
【0052】
図8は本発明を適用したインクジェット記録装置のインク供給装置の第3実施例を模式的に示す一部破断斜視図である。本実施例に係るインク供給装置は複数のインクタンクを備えたものである。通常のカラー記録可能なインクジェット記録装置はシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクを使用するものが一般的である。これらのインクに加えて、さらに別の色(多くはシアン、マゼンタを希釈した薄いインク)を用いて画質を向上させることもある。このように複数のインク(従って複数のインクタンク)を用いる場合、最近では各色ごとに独立に構成されたインクタンクを用いることが多い。これは各色の使用量が画像ごとに異なるため各色のインクが無くなるごとに個別にインクタンクを交換できるようにするためである。このようにすることでランニングコストを低く抑えることができる。
【0053】
また、記録装置のサイズ(容積)の関係などでシアン、マゼンタ、イエローを別々のインク室ではあるがそれらを一体に形成したインクタンクの構成も使用されている。このような構成は、インク量が比較的少なく、各色のインクを別々に交換するとかえって交換頻度が多くなり煩雑になるような場合に用いられることが多い。多くの場合、ブラック以外の色(カラーインク)は一体のインクタンクを仕切って貯蔵し、ブラックだけを別の独立したインクタンクに貯蔵する構成が採られている。このような構成が採られる理由は、テキスト印字では一般的にブラックインクが専ら使用されることから、ブラックインクの使用量が他の種類のインクの使用量より格段に多いためである。
【0054】
上記のようにインクタンクの形態(又は構造)には様々なものがあるが、通常、複数のインクタンクは記録装置内で一列に並べて装着(使用)されることが多い。その理由は、このようなインクタンクの形態及び取り扱い方法がユーザーにとってわかりやすいからである。図8の実施例では、4色のインクタンクをそれぞれ独立とし、それぞれのインクタンク1に対応する大気開放室6を設ける構成のインク供給装置が示されている。
【0055】
また、本実施例では、大気開放室6を4色分一体に形成し、その両側の側面の全面に気液分離部材9が配置され、該気液分離部材9の外側にカバー部材10が設けられている。この気液分離部材9は熱溶着や超音波溶着などで大気開放室6内に固着されている。このように複数の大気開放室から成る一体型の大気開放室ユニットにまたがって、その全面に気液分離部材9を設けることにより、溶着や接着の工程を簡略化することができ、コストダウンを図ることができる。さらに、カバー部材10は4つの大気開放室6にまたがって設置されている。これは大気に開放する通路を一箇所とし、各大気開放室6の大気連通路を一つにまとめることにより各大気開放室6のインク蒸発をできるだけ抑制するように配慮(工夫)したものである。
【0056】
図10は本発明を適用したインクジェット記録装置のインク供給システム(本願の第4実施例)の構成及び動作を示す模式的縦断面図であり、(a)は記録手段のサブタンク内にインクが貯留されかつ該サブタンクがばねによって広げられることで該サブタンク内に負圧が発生しているときの状態を示し、(b)は記録動作によってサブタンク内のインクが消費されるのに伴い、ばね力に抗してサブタンクが縮小された状態を示し、(c)はインクタンクからサブタンクへインクが供給され、該サブタンク内にインクが充填された状態を示す。
次に、本発明を適用したインク供給装置を用いた図10に示すようなインク供給システムを、本願の第4実施例として、以下に説明する。
【0057】
図10に示す第4実施例において、100はインクを吐出して被記録材に記録を行う記録手段としての記録ヘッドユニット(記録ヘッド)を示し、この記録ヘッドユニット100とインクタンク1とは接続流路8を介して接続されている。112は記録手段のインク吐出部(狭義の記録ヘッド)であり、102は供給されたインクを一時的に貯留するサブタンクである。前記サブタンク102はフレーム(記録手段100のフレーム)114とサブタンクフレーム103との間に可撓性のフィルム115を装着して構成されている。前記サブタンク102の内部であって前記サブタンクフレーム103と前記フレーム114との間にはばね107が装着されている。このばね107はサブタンクフレーム103とフレーム114との間に装着された可撓性フィルム115で囲まれた空間(サブタンク102)の容積を広げる方向に付勢するためのものである。
【0058】
前記サブタンク102と記録ヘッド112との間は流路101で接続されている。108はサブタンク102にインクを供給するための流路であり、その端部にジョイント113が設けられている。このジョイント113は着脱可能な一対のジョイント部材で構成され、一方のジョイント部材にはインクタンク1へ通じる接続流路8が接続されている。この一対のジョイント部材から成るジョイント113は接離可能であり、接続された状態では前記接続流路8と前記流路108とが連通され、離脱された状態では前記接続流路8と前記流路108とを離隔するとともにこれらの流路8、108のそれぞれを大気に対して密閉を保つように構成されている。
【0059】
図10において、116はフレーム114内に形成されたシェル要素であり、該シェル要素は前記サブタンク102の周囲を覆っている。前記シェル要素116からは流路109が延設され、該流路109の先端部にはジョイント110が接続されている。ここで前記流路109はサブタンク102より上方に位置している。前記ジョイント110も一対のジョイント部材で構成されており、一方のジョイント部材は前記流路109に接続され、他方のジョイント部材はポンプ111に通じる流路117に接続されている。
そして、このジョイント110も接離可能であり、接続された状態では、シェル要素116と流路117とが連通され、さらにポンプ111まで連通する。一方、ジョイント110が離脱した状態では、流路109と流路117とは分断され、記録手段100側の流路109は大気に対して開放され、ポンプ111側の流路117は大気に対して密閉を保つように構成されている。
【0060】
図10の(a)の状態ではジョイント113及びジョイント110の双方ともが離隔(分断)されている。この図10の(a)の状態では、サブタンク102内にはインクが貯留されており、サブタンク102はばね107によって広がる方向に付勢されているため該サブタンク102の内部には負圧が発生している。記録ヘッド112とサブタンク102とは流路101で連通しており、前記サブタンク102内に生成される負圧は記録ヘッド112の吐出口(又はノズル)に背圧として作用する。この状態で不図示の制御装置から記録ヘッド112に対して信号が送られることで該記録ヘッド112が駆動されると、所定の記録動作により被記録材に対して画像が記録される。
【0061】
このような記録動作によってサブタンク102内のインクが消費されるのに伴い、ばね107のばね力に抗して可撓性のサブタンク102は縮小していく。図10の(b)はばね107のばね力に抗して可撓性のサブタンク102が縮小された状態を示す。なお、サブタンク102内のインク量はドットカウントあるいは不図示のインク残量センサにより検知することができ、インク残量が所定量以下になったときインクタンク1から該サブタンク102へのインク供給が行われ、図10の(c)に示すようにサブタンク102内にインクが充填された状態になる。
【0062】
図11は図10に示すインク供給システム(第4実施例)を用いてインク供給動作を行うときのシーケンスを示すフローチャートである。次に図11のフローチャートを用いて図10のインク供給システムにおけるインク供給動作について説明する。図11において、ステップS101で画像の記録が行われるとサブタンク102内のインクが減少していく。サブタンク102内の残量インクは前述のようなサブタンク内残量検知手段によって監視されており、ステップS102でサブタンク102内のインク量が所定量以下になったことを検知すると、ステップS103でてジョイント110、113を接続する。次いで、ステップS104において、シェル要素116内に配置されているストッパ105を所定位置にセットする。この場合のセット手段としては、例えば外部から駆動するセット手段など、種々の構成のものを使用することができるが、本実施例ではその具体的構成についての説明は省略する。
【0063】
次に、ステップS105においてポンプ111を動作させる。このポンプ111はシェル要素116内を減圧させる方向に作動する。また、前記シェル要素116の内部は、ジョイント110を接続(オン)することにより、流路117を含めて流路全体が密閉状態にされる。このような密閉状態でポンプ111が減圧方向に作動すると、シェル要素116の内部が減圧され、サブタンク102はばね107のばね力及び負圧雰囲気によって広がる方向に付勢される。ここでは、サブタンクフレーム103が図示左右方向に動作しようとする。そして、前記ステップS103でジョイント113が接続されているので、インクタンク1からサブタンク102内へインクが流入する。その結果、サブタンクフレーム103が図示右方向へ移動し、該フレーム103に設けられた突起部104がストッパ105に当接するまで移動する。
【0064】
突起部104がストッパ105に当接すると、サブタンク102はそれ以上広がらなくなる。ここでサブタンク102内の圧力はインクタンク1内の水頭圧と釣り合っている。水頭差がなければ大気圧にほぼ等しい。
前記突起部104が前記ストッパ105に確実に当接したところでポンプ111の作動量が所定量になるように設定されており、ステップS106でポンプ111の作動量が所定量に達したことを検知すると、ステップS107でポンプを停止する。その際、シェル要素116内は減圧されて負圧状態を保っている。次に、ステップS108で前記ジョイント110、113を離隔(分断、OFF)状態にする。このときジョイント110の記録手段100側のジョイント部材が大気に開放されるので、シェル要素116内は大気圧となる。ジョイント113も分断されサブタンク102内は大気圧で密閉状態となる。
【0065】
次にステップS109で前記ストッパ105を解除する。このストッパ105の解除方法はセット方法と逆の手順で行われるものであり、セット方法の場合と同様、本実施例ではその具体的説明を省略する。このストッパ105の解除動作によって、該ストッパ105による前記ばね107の規制が解除され、サブタンク102はばね107によって外側へ広げられ、該サブタンク102内に負圧が発生する。これによって、インク供給システムは図10の(a)に示すような元の状態になり、ステップS110で一連のインク供給動作が完了する。すなわち、このインク供給動作が完了した状態では、サブタンク102内には所定量のインクが充填されるとともに、該サブタンク102内には記録ヘッド112の安定吐出に必要な負圧も発生しているため、次の記録動作を安定した状態で行うことができる。
【0066】
図10において、前記サブタンク102は可撓性フィルム等により構成されているが、該サブタンク102内は常に負圧を保持しているため周囲の大気との間で常に圧力差が生じている。このようにフィルム等の薄い部材の内外(両側)で圧力差が生じている状態では、その圧力差を緩和しようとしてフィルムを通して空気が透過する現象が発生する。すなわち、可撓性フィルムで覆われたサブタンク102内には時間とともに空気が混入(侵入)していくことになる。この現象は、保管時など長期間にわたって使用せずに放置した場合の不具合の原因となる。すなわち、サブタンク102内の空気混入量が増えていくと、サブタンク102内に貯留できるインクの量が少なくなってしまうばかりでなく、サブタンク102内の負圧が緩和され、そのうち逆に加圧状態となってしまう。こうしてサブタンク102内が加圧状態になると、この正圧が記録手段へのインク供給路を通して作用し、記録手段(記録ヘッド)112の吐出口からのインク漏れという不具合が発生することになる。そこで、次に、このような吐出口からのインク漏れを防止するための手段について説明する。
【0067】
図12は図10に示すインク供給システムにおけるサブタンク内に蓄積される空気を排除するための空気抜き動作を行うときのシーケンスを示すフローチャートである。すなわち、上記のようなサブタンク102内の加圧状態に起因する吐出口からのインク漏れの現象は、定期的にサブタンク102内の空気を排除する操作を採ることによって効果的に防ぐことができる。次に図12を参照してサブタンク102内に蓄積される空気を排除する操作(空気抜き動作)のシーケンスについて説明する。
【0068】
図12において、サブタンク102の空気抜きを開始させると、まずステップS202でジョイント110、113を接続状態にする。次にステップS203でシェル要素116内に配置されているストッパ105を所定位置にセットする。このセット手段は外部からの駆動手段を用いるなど、複数の方法が考えられるが、本実施例においては説明を省略する。次にステップS204でポンプ111を作動させる。このときポンプ111はシェル要素116内を加圧する方向に作動させる。すると図10の(b)に示すように、前記シェル要素116内の圧力によってサブタンク102は内部のばね107を縮める方向に変位し、サブタンク102内の容積は減少していく。
【0069】
それに伴い、サブタンク102内の上方に蓄積されていた空気が最初にジョイント113から接続流路8を通してインクタンク1内へ移動していく。サブタンク102内の空気がインクタンク1へ移動した後、サブタンク102内に残っているインクも同じ流路を通してインクタンク1内へ移動していく。このようにシェル要素116内を加圧することにより、サブタンク102内のインクをインクタンク1に収集することができる。
なお、従来技術では、サブタンク102内に蓄積した空気を記録ヘッドの吐出口からインクとともに吸引して除去する方法が採られていたが、このような方法では、サブタンク102内から大量のインクを吸引し、吸引した全てのインクをそのまま廃インクとして排出してしまうことなり、これでは無駄なインクを生ずることになり好ましくない。
【0070】
これに対し、本実施例によれば、廃インクを発生させることなしにサブタンク102内の空気及びインクをインクタンク1へ移動するので、インクの無駄な消費を伴うことなく蓄積空気の除去を効果的に実行することができる。このように、本実施例によれば、非常に優れた空気抜き動作を実行することができる。
そして、ステップS205でポンプ111を所定量作動させて所定の空気抜きが実行されたことを確認する。上記ポンプ111の動作が所定量に達すると、ステップS206でポンプ111を減圧方向に作動させる。その理由は、サブタンク102内の空気がインクタンク1内へ移動することでサブタンク102内から除去された後では、ステップS205で一旦ポンプ111を停止し、次にステップS206でポンプ111を作動方向を逆転させることでシェル要素116内を減圧するように作動させることにより、インクタンク1からサブタンク102へのインク供給を行うことが好ましいからである。図10の(c)はポンプ111を逆方向に作動させてシェル要素116内を減圧することにより、インクタンク1からサブタンク102へインクを供給し、該サブタンク102内にインクを充填した状態を示す。
【0071】
ところでサブタンク102内の空気をインクタンク1へ移動する際、インクタンク1からは空気導入路(流路)5を経由して大気開放室6へインクが移動する。このように本発明に係る大気開放室6は図10に示すようなインク供給システムにおいても有効に活用される。本実施例のようにインクタンク1がハードケースで形成されている場合、インクタンク1から記録ヘッド112側へインクを供給するに際し、該インクタンク1から空気及びインクが流出するときには、該インクタンク1内へ空気を移動させる必要があり、従って、以上説明してきたような大気開放室6は、このような場合にインクタンク1内へ空気を移動させるに際し、必須の構成である。
【0072】
なお、インク供給装置におけるインクタンクが可撓性の袋である場合は、空気抜き動作を行う時点で可撓性の袋が予めつぶれていれば、前述の実施例で使用されたような大気開放室6は必要ではない。ところが、インクタンクが可撓性の袋である場合でも、該インクタンクのインクを全く使用していない状態、すなわち新品の状態において空気抜き動作を行う必要がある場合があり、このときも空気抜き動作に必要なインクタンク1に移動する空気及びインクの分だけ可撓性の袋が予めつぶれている必要がある。つまり、このふくらみしろの分はインクをインクタンクに入れることができない。
【0073】
さらに本実施例(第4実施例)の空気抜き動作においては、ステップS204におけるシェル要素116内の加圧動作はサブタンク102が完全につぶれるまで行うことがある。その理由は、サブタンク102内にどれだけの空気が混入しているかを正確に判断できないことがあるからである。よって、インクを予め入れておくことのできない可撓性袋のふくらみしろは無視できない量になることもあった。
これに対し、本発明を適用したインク供給装置(又はインク供給システム)のように大気開放室6を備えたハードケースから成るインクタンク1を用いる構成によれば、可撓性の袋によるインクタンクよりも本来的に容積効率が高い上に、本実施例のような空気抜き方式を採る場合でもインクタンク1にほぼ100%のインクを貯留しておくことができ、従って、非常に効率がよく確実にインクを供給できるインク供給装置を備えたインクジェット記録装置が提供される。
【0074】
図13は本発明を適用したインクジェット記録装置のインク供給システムの他の構成例(本願の第5実施例)を示す模式的縦断面図である。次に、図13を参照して上記サブタンク102内の空気抜きに関する他の実施例を説明する。
図10の第4実施例に係るインク供給システムにおいて前述の空気抜き動作を行う場合には、シェル要素116内を加圧してサブタンク102をつぶす工程(ステップS204)において流路108、ジョイント113、接続流路8、インク供給路3の流路抵抗が比較的大きい場合、サブタンク102をつぶす速度すなわちサブタンク102内部の空気及びインクをインクタンク1に移動させる速度が遅くなる傾向が生じる。
【0075】
その場合に、サブタンク102内部の空気及びインクをインクタンク1に移動させる速度を速くしようとした場合、サブタンク102内には比較的大きな正圧を発生させる必要がある。そのとき記録ヘッド112の吐出口にも同様の正圧が作用することになる。一方、記録ヘッド112の吐出口にはインクのメニスカスが形成されているが、吐出口のメニスカスは負圧には比較的強いが、正圧には弱いという性質がある。このメニスカスの耐圧は吐出口の径やインクの表面張力等に支配されるが、負圧に対しては例えば−500〜−1000mmAQ程度の耐圧性(メニスカス耐圧)があるのに対し、正圧に対しては例えば50〜200mmAQ程度の耐圧性(メニスカス耐圧)しかない場合がある。
【0076】
したがって、強い正圧がメニスカスに作用するとメニスカスが破壊してインクが吐出口から漏れ出してしまうことになる。この状態でインク供給動作を行うとサブタンク102内は逆に負圧となってしまい、そのため、インクの種類が異なる吐出口から漏れた異なるインクが吐出口の近傍で互いに混ざり合い、色が混ざり合った状態で再び吐出口内へ吸引されてしまうという現象、つまり混色という現象が生じることがある。この混色の現象は画質を劣化させる大きな原因となる。そこで、このような混色の現象を防止するためには、ポンプ111によるシェル要素116の加圧速度を遅くすることにより吐出口にかかる正圧を小さくする方法が考えられるが、これでは、空気抜き動作に長い時間を要するという技術的課題が残されることになる。本発明は、このような技術的課題を解決する手段として、以下に図13を参照して説明するような第5実施例に係るインク供給システムによる空気抜き方法を提供するものである。
【0077】
図13において、インク供給装置における大気開放室6の左右のカバー部材10の大気連通口10aのそれぞれから流路121を延設し、これらの流路121を束ねてポンプ120に接続する。図12の第4実施例のステップS204におけるシェル要素116の加圧操作では図13中のポンプ111を作動させたが、本実施例においては、このポンプ111の方を大気に連通させるとともに、上記ポンプ120の方を減圧方向に作動させる。すると、各流路121に連通されたカバー部材10から気液分離部材9を通して大気開放室6が減圧され、インクタンク1から空気導入路(流路)5を通してインクが大気開放室6に流れ込む。すると、インクタンク1から流出したインクの量に対応する分、サブタンク102から空気およびインクが該インクタンク1へ移動(流入)する。
【0078】
この時、サブタンク102内は加圧ではなく負圧状態になるので、記録ヘッド112の吐出口に正圧がかかることはない。従って、吐出口における前述のような混色の現象を生じることなく、サブタンク102内部からの空気抜きを円滑にかつ効果的に行うことができる。その場合、前述のように吐出口のメニスカス耐圧は負圧には比較的強いので、図13の第5実施例によれば、前記ポンプ120による減圧動作(減圧力)を強くすることができ、空気抜きに要する時間を短縮することができる。次いでインクタンク1からサブタンク102にインクを供給する際は、ポンプ120を大気に開放しつつポンプ111の方を減圧作動させれば良い。こうして、図13の第5実施例によれば、前述のような混色が発生する可能性を無くしながらサブタンク102の空気抜き動作の速度を十分に速めることが可能になる。
【0079】
図14は図13のインク供給システムの構成を一部変更した第5実施例の一部変更例を示す模式的縦断面図である。
図13の第5実施例においては、図14に示すように図13中のポンプ111とポンプ120とを共通化してポンプ130のみとし、該ポンプ130の減圧動作及び加圧動作を利用するように構成されている。このような図14の構成によれば、インク供給システムのポンプの数を減らすことができ、その分コストダウンを図ることができる。
図14において、サブタンク102からの空気抜きの際には、各ジョイント110、113を接続状態にしてポンプ130を作動させて空気を矢印方向に流動(移動)させることにより、流路131を通してシェル要素116の内部を加圧すると同時に、流路121、大気開放室6、インクタンク1、接続流路8及び流路108を通してサブタンク102の内部を減圧することができる。
【0080】
つまり、図14の第5実施例によれば、サブタンク102の空気抜きの際には、シェル要素116内部はポンプ130により加圧されるが、同時にポンプ130によりサブタンク102内が減圧されるので、双方の圧力が相殺され、サブタンク102の内部はほぼ大気圧の状態で空気抜きが行われる。
逆に、インク供給の際には、前記ポンプ130を上記と逆の方向(矢印と逆の方向)に作動させることにより、シェル要素116内部を減圧すると同時にインクタンク1内を加圧することができ、これによって、サブタンク102内をほぼ大気圧の状態に保ちながら該サブタンク102内へインクを供給することができる。
【0081】
このような図14の構成によれば、インクをサブタンク102へ急速に供給する場合でも、該サブタンク102が過度に減圧されて記録ヘッド112の吐出口のメニスカスが破壊されるという不具合を効果的に防止することができ、それによって、インク供給後に吐出口からインクを吸引排出するなどの吐出口メンテナンス動作(回復動作)の必要性を無くすことが可能になる。すなわち、サブタンク102内の加圧状態を無くすことにより前記混色が発生しない空気抜き動作を実現させることができ、加えて、インク供給時に過度な減圧が行なわれないため急速なサブタンク102へのインク供給が実現させることができる。
【0082】
以上説明した実施例によれば、インクタンクをハードケースとして内容積のほぼ100%のインクを使用可能なインク供給装置(又はインク供給システム)を備えたインクジェット記録装置において、その際に発生の可能性のあったインク漏れを効果的に防止することができ、さらにはさまざまな姿勢においてもインク漏れを防止することができ、そのうえ、インクタンク1の周辺スペースを小さくすることができる。このことは、通常のインクジェット記録装置において高い効果を発揮することはもちろんのことであるが、特に、さまざまな姿勢差で使用される機会が多く、かつサイズ的にもよりコンパクトさが求められるモバイルプリンタ等の小型のインクジェット記録装置において極めて有用な優れた効果を発揮するものである。
【0083】
さらに、記録手段(記録ヘッド)側にサブタンク102を有し、このサブタンクを覆うシェル要素116を加減圧してインクタンク1からサブタンク102へインクを供給したり、サブタンク102内に蓄積された空気をインクタンク1へ回収するインク供給システムにおいて、大気開放室6側から気液分離部材9を介してポンプにより大気開放室を減圧することにより、混色の問題を生じない空気抜き動作やインク供給動作を確実にかつ速やかに(急速に)実行することが可能になる。
【0094】
なお、以上の実施例では、記録手段100を主走査方向に移動させながら記録するシリアル型のインクジェット記録装置を例に挙げて説明したが、本発明は、被記録媒体の全幅または一部をカバーする長さのラインタイプのインクジェットヘッドを用いて副走査(紙送り)のみで記録するライン方式のインクジェット記録装置の場合にも、同様に適用することができ、同様の効果を達成し得るものである。
また、本発明は、記録ヘッドの数にも関わりなく自由に実施できるものであり、1個の記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置の他、異なる色のインクを使用する複数の記録ヘッドを用いるカラー記録用のインクジェット記録装置、あるいは同一色彩で異なる濃度のインクを使用する複数の記録ヘッドを用いる階調記録用のインクジェット記録装置、さらには、これらを組み合わせたインクジェット記録装置の場合にも、同様に適用することができ、同様の効果を達成し得るものである。
【0095】
さらに、本発明は、記録ヘッドとインクタンクを一体化した交換可能なヘッドカートリッジを用いる構成、記録ヘッドとインクタンクを別体にし、その間をインク供給用のチューブ等で接続する構成など、記録ヘッドとインクタンクの配置構成がどのような場合にも同様に適用することができ、同様の効果が得られるものである。
また、本発明は、熱エネルギーを利用してインクを吐出する方式のインクジェット記録ヘッドを使用するインクジェット記録装置の他、例えば、ピエゾ素子等の電気機械変換体等を用いしインクを吐出する方式のインクジェット記録ヘッドを使用するインクジェット記録装置など、他のインク吐出方式を用いるインクジェット記録装置に対しても同様に提供することができ、同様の作用、効果を達成できるものである。
【0096】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなごとく、本発明によれば、インクタンクをハードケースとして内容積のほぼ100%のインクを使用可能にする場合でも、その際に発生する可能性のあったインク漏れを効果的に防止でき、インク供給装置のさまざまな姿勢においてもインク漏れを防止することができ、さらに、インクタンク周辺のスペースを小さくできるインクジェット記録装置が提供される。
【0097】
上記構成を有する本発明は、通常のインクジェット記録装置は勿論であるが、特に、さまざまな姿勢差が想定されかつサイズ的にもよりコンパクトさを求められるモバイルプリンタ等の小型インクジェット記録装置で一層高い効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明を適用したインク供給装置の第1実施例を示す模式的縦断面図である。
【図2】 インク供給装置の動作を示すための模式的縦断面図である。
【図3】 図1のインク供給装置が図1の状態から図示反時計回りに90度回転した状態(a)および270度回転した状態(b)を示す模式的縦断面図である。
【図4】 インク供給装置の好ましくない構成例を示す模式的縦断面図である。
【図5】 本発明を適用したインク供給装置の第2実施例を示す模式的縦断面図(a)及びb−bに沿って見た模式的平面断面図(b)である。
【図6】 第2実施例に係るインク供給装置が図5の状態から図示反時計回りに270度回転した状態(a)および90度回転した状態(b)を示す模式的縦断面図である。
【図7】 第2実施例に係るインク供給装置が図5の状態から図示時計回りに45度回転した状態(a)および225度回転した状態(b)を示す模式的縦断面図である。
【図8】 本発明を適用したインク供給装置の第3実施例を模式的に示す一部破断斜視図である。
【図9】 従来のインク供給装置を示す模式的縦断面図である。
【図10】 本発明を適用したインク供給システムの第4実施例を示す模式的縦断面図である。
【図11】 第4実施例に係るインク供給システムのフローチャートである。
【図12】 第4実施例に係るインク供給システムのフローチャートである。
【図13】 本発明を適用したインク供給システムの第5実施例を示す模式的縦断面図である。
【図14】 第5実施例の一部変更例を示す模式的縦断面図である。
【図15】 インクジェット記録装置の一実施例の模式的斜視図である。
【図16】 記録手段のインク吐出部を示す模式的部分斜視図である。
【符号の説明】
1 インクタンク
3 インク供給路(流路)
4a、4b 流路接続部
5 空気導入路(流路)
6 大気開放室
8 接続流路
9 気液分離部材
10 カバー部材

Claims (2)

  1. 記録手段に供給するためのインクを貯蔵するインクタンクが装着可能であり、前記記録手段から被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、
    前記インクタンクの底部に設けられた第1の流路接続部及び第2の流路接続部と、
    前記インクタンクが上方から装着されるように設けられ、大気と連通する大気開放室と、
    前記大気開放室に設けられ、前記インクタンクが装着されたときに前記第1の流路接続部と接続され前記インクタンク内のインクを前記記録手段に供給するためのインク供給路と、
    前記大気開放室に設けられ、前記インクタンクが装着されたときに前記第2の流路接続部と接続され前記インクタンク内と前記大気開放室内を連通する空気導入路と、
    前記大気開放室の対向する内側面に配され、インクは透過させず空気は透過させる材質により構成される気液分離部材と、
    を備え、
    前記大気開放室は直方体であり、前記空気導入路は前記大気開放室の底面と平行な長辺及び短辺の隅部において前記第2の流路接続部と接続するように配置され、
    さらに、前記空気導入路は前記大気開放室内で複数の流路に分岐され、分岐された流路の開口は前記大気開放室の底面隅部に配置されることを特徴とするインクジェット記録装置。
  2. 前記底面の前記開口と対応する位置に凹部を設け、前記開口は前記凹部内に配置されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
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