JP4503215B2 - 乳酸系樹脂組成物、過酸化物変性乳酸系樹脂組成物、並びに、それらの成形体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、成形性に優れた乳酸系樹脂組成物、過酸化物変性乳酸系樹脂組成物、および、それらを原料として成形加工した成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境問題の高まりから、プラスチック製品が自然環境中に棄却された場合、経時的に分解・消失し、最終的に自然環境に悪影響を及ぼさないことが求められ始めている。従来のプラスチックは、自然環境中で長期にわたって安定であり、しかも嵩比重が小さいため、廃棄物埋め立て地の短命化を促進したり、自然の景観や野生動植物の生活環境を損なうといった問題点が指摘されていた。
【0003】
そこで、今日注目を集めているのは、生分解性プラスチック材料である。生分解性プラスチックは、土壌中や水中で、加水分解や生分解により、徐々に崩壊・分解が進行し、最終的に微生物の作用により無害な分解物となることが知られている。
実用化され始めている生分解性プラスチックとしては、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル、変性PVA、セルロースエステル化合物、デンプン変性体、およびこれらのブレンド体等がある。
生分解性プラスチック材料はそれぞれ固有の特徴を有し、これらに応じた用途展開が図られるが、この中で乳酸系樹脂は、数少ない硬質系の樹脂であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)や、ポリスチレン(PS)、ABS等の硬質系樹脂の代替が期待されている。
【0004】
ところが、乳酸系樹脂は、溶融張力が相対的に低く、また、歪み硬化性も乏しく、加工性に劣るという欠点があった。溶融張力と歪み硬化性が相対的に低いために、例えば、インフレーションフィルム成形においてはバブルが安定しなかったり、シート成形においては予熱時にシートのドローダウンが起きたり、ブロー成形においてはパリソンが変形したり、発泡成形においては破泡が多く発生したり等の問題点があった。
【0005】
溶融張力を上げるには、分子量を上げる、分岐性の多官能モノマーを共重合する等の改良法が考えられるが、分子量の上昇は溶融粘度が必要以上に上がり、押出吐出量等の生産性が低下し、一方、分岐性の多官能モノマーは、工業的な入手が容易でない。
【0006】
過酸化物の添加により溶融張力を上げる試みに関して、発泡成形においては特開平11−286570号公報に、乳酸系樹脂と他の脂肪族ポリエステル樹脂のブレンドにおいては特開平01−26658号公報に組成物の開示があるが、これらは、過酸化物の種類や反応変性物の形を特定しておらず、必ずしも、成形性改良に効果のあるものではなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、本発明の課題は、乳酸系樹脂が本来有している生分解性に加え、優れた加工性や物性を有する乳酸系樹脂組成物、過酸化物変性乳酸系樹脂組成物、および、それらからなる成形体を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、このような現状に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、効果の高い本発明を完成するに至った。本出願に係る発明は、以下の(1)〜(5)に記載する発明である。
(1)乳酸系樹脂100質量部と、1時間半減期温度Th1が70〜200℃である有機過酸化物0.05〜5.0質量部からなる乳酸系樹脂組成物。
(2)乳酸系樹脂100質量部と、1時間半減期温度Th1が70〜200℃、水素引き抜き係数εが10〜60である有機過酸化物0.05〜5.0質量部からなる乳酸系樹脂組成物。
(3)上記乳酸系組成物を所定の手段により反応させ、過酸化物反応前の乳酸系樹脂の多分散度をD1とし、過酸化物反応後の乳酸系樹脂の多分散度をD2とした時に、D2/D1=1.10〜3.0である過酸化物変性乳酸系樹脂。本発明において、所定の手段とは、加熱、放射線照射等の手段をいう。
(4)上記過酸化物変性乳酸系樹脂からなるフィルム、シート、シート成形体、発泡シート、発泡シート成形体、ブロー成形体、射出成形体、型発泡体、繊維、パイプ、プレート、プレート成形体等の成形体。
(5)乳酸系樹脂50〜97質量部と、ガラス転移温度Tgが0℃以下の脂肪族ポリエステル、または/および脂肪族芳香族ポリエステル3〜50質量部と、1時間半減期温度Th1が70〜200℃、水素引き抜き係数εが10〜60である有機過酸化物0.05〜5.0質量部からなる組成物。
(6)上記乳酸系樹脂組成物を加熱、放射線照射等の所定の手段により反応させた後、成形加工したフィルム、シート、シート成形体、発泡シート、発泡シート成形体、ブロー成形体、射出成形体、型発泡体、繊維、パイプ、プレート、プレート成形体等の成形体。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における乳酸系樹脂とは、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸である、ポリ(DL−乳酸)やこれらの混合体をいい、さらには、α−ヒドロキシカルボン酸やジオール/ジカルボン酸との共重合体であってもよい。
【0010】
乳酸系樹脂の重合法としては、縮重合法、開環重合法など公知のいずれの方法をも採用することができる。例えば、縮重合法ではL−乳酸またはD−乳酸、あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合して任意の組成を持った乳酸系樹脂を得ることができる。
【0011】
また、開環重合法では乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸系重合体を得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成、結晶性をもつ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0012】
さらに、耐熱性を向上させるなどの必要に応じ、少量共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸及び/又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオールを用いてもよい。さらにまた、分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物などを使用することができる。
【0013】
乳酸系樹脂に共重合される上記の他のヒドロキシ−カルボン酸単位としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシ−カルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0014】
乳酸系樹脂に共重合される上記脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等があげられる。また、上記脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸等が挙げられる。
【0015】
乳酸系樹脂の重量平均分子量の好ましい範囲としては、5万〜40万であり、好ましくは10万〜25万である。乳酸系樹脂の重量平均分子量が5万より下回る場合には実用物性が発現され難く、25万より上回る場合には、溶融粘度が高すぎて成形加工性に劣ることがある。
【0016】
本発明の第1の態様に係る乳酸系樹脂組成物は、乳酸系樹脂100質量部に対して、1時間半減期温度(Th1)が70〜200℃である有機過酸化物0.05〜5.0質量部を添加した樹脂組成物である。
【0017】
本発明の第2の態様に係る乳酸系樹脂組成物は、乳酸系樹脂100質量部に対して、1時間半減期温度(Th1)が70〜200℃、水素引き抜き係数(ε)が10〜60である有機過酸化物0.05〜5.0質量部を添加した樹脂組成物である。
【0018】
有機過酸化物とは、過酸化水素(H−O−O−H)の誘導体で、過酸化水素の水素原子1個または2個を、有機の遊離基で置換した構造を有しており、その分子内に1個以上の過酸化物結合(O−O)を持つことを特徴とする化合物である。
【0019】
過酸化物の種類としては、ケトンパーオキサイド系、ジアシルパーオキサイド系、ハイドロパーオキサイド系、ジアルキルパーオキサイド系、パーオキシケタール系、アルキルパーエステル系、パーカーボネート系等、広く知られている。
【0020】
ところが、乳酸系樹脂の成形性を改良するためには、これらのうち、特定の性能を持った化合物を選択する必要がある。すなわち、1時間半減期温度(Th1)が70〜200℃、好ましくは、100〜160℃である有機過酸化物を選択することが必須である。また、さらに水素引き抜き係数(ε)が10〜70、好ましくは10〜60、さらに好ましくは20〜60である有機過酸化物を選択することが好ましい。
【0021】
ここで、1時間半減期温度(Th1)とは、過酸化物が熱により1時間で初期重量の半分が分解する温度である。1時間半減期温度(Th1)が、70℃を下回ると、過酸化物が室温でも分解し、安全上や製品寿命上好ましくない。また、乳酸系樹脂と反応させる場合においても、発熱反応が急すぎて、樹脂を熱分解したり、局所的に反応して樹脂中にゲルを生成したり、逆に樹脂と反応する前に失活するなど好ましくない。200℃より上回る場合には、変性反応が一般的な条件では進みにくくなる。1時間半減期温度(Th1)が70〜200℃の有機過酸化物としては、市販品の中からかかる条件を満たすものを適宜選択してもよい。例えば化薬アクゾ(株)製の商品名「PERKADOX BC」(Th1=132℃)を商業的に入手することができる。
【0022】
乳酸系樹脂に1時間半減期温度(Th1)が70〜200℃の有機過酸化物を混練することにより成形加工性を向上させることができる。乳酸系樹脂に所定の有機過酸化物を混練することで架橋的な反応が起こり、その結果として線形領域の粘度が上昇するためと考えられる。
【0023】
本発明において水素引き抜き係数(ε)とは、n−ペンタデカン中、0.2mol/Lの濃度で有機過酸化物を、15分半減期温度で30分加熱して分解させた時に、生成するn−ペンタデカンダイマーの量の相対比較数値である。ただし、2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)を用いたときの量を1とした。水素引き抜き係数(ε)が、10より下回ると、乳酸系樹脂の成形性改良効果が得られ難い。また、70より上回る有機過酸化物は、合成が難しく、コスト面を含め入手が容易でない。
【0024】
1時間半減期温度(Th1)が70〜200℃、水素引き抜き係数(ε)が10〜70である有機過酸化物としては、以下のような化合物が代表的に例示できる。
1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン(Th1=113℃、ε=24℃)、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート(Th1=114℃、ε=33)、2,2−ジ−t−ブチルパーオキシブタン(Th1=116℃、ε=24)、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(Th1=117℃、ε=40)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(Th1=117℃、ε=40)、t−アミルパーオキシベンゾエート(Th1=118℃、ε=39)、t−ブチルパーオキシアセテート(Th1=119℃、ε=43)、4,4−ジ−t−ブチルパーオキシ吉草酸−n−ブチルエステル(Th1=121℃、ε=24)、t−ブチルパーオキシベンゾエート(Th1=122℃、ε=49)、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(Th1=134℃、ε=41)、1,3−ビス−(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(Th1=134℃、ε=55)、t−ブチルクミルパーオキサイド(Th1=136℃、ε=41)、ジ−t−ブチルパーオキサイド(Th1=141℃、ε=49)、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3(Th1=141℃、ε=30)
1時間半減期温度(Th1)が70〜200℃、水素引き抜き係数(ε)が10〜70である有機過酸化物としては、市販品の中からかかる条件を満たすものを適宜選択してもよい。例えば、化薬アクゾ(株)製の商品名「トリゴノックス22」、「トリゴノックス42」、「トリゴノックスD」等を商業的に入手することができる。
【0025】
ここでは、乳酸系樹脂100質量部に対し、有機過酸化物0.05〜5.0質量部、好ましくは、0.1〜3.0質量部が添加される。有機化酸化物の添加量が0.05質量部より小さいと、乳酸系樹脂の成形性は改良され難く、5.0より大きい場合には、樹脂全体が架橋し可塑性が乏しくなり、逆に加工性を失う。
【0026】
上記乳酸系樹脂組成物を反応させる方法としては、押出機やバッチ式ニーダーで、130〜240℃に加熱しながら溶融混練する方法が一般的であるが、80〜130℃の低温溶融混練、または、溶液混練した後に、型に固定して熱風炉で再加熱したり、放射線照射によって反応させることもできる。この方法においては、中間成形体に成形した後、過酸化物と乳酸系樹脂を反応させても構わない。中間成形体とは、シートからの真空成形品やプレス成形品を得る場合の押出シートのようなものを指す。
【0027】
次に、本発明では、上記組成物を加熱、放射線照射等の手段により反応させるが、この時、過酸化物反応前の乳酸系樹脂の多分散度をD1とし、過酸化物反応後の乳酸系樹脂の多分散度をD2とすると、D2/D1=1.10〜3.0、好ましくは、1.3〜2.2の範囲に制御することが重要である。
【0028】
上記D2/D1が、かかる範囲を下回ると、乳酸系樹脂の成形性が改良され難く、上回ると、大小のゲル状物が発生し外観を損なったり、機械物性の低下をもたらすことがある。さらには、溶融張力は増大しても歪み硬化性が低下したり、オリゴマーのブリードが発生する場合もある。
【0029】
D2/D1をかかる範囲に制御するためには、1時間半減期温度(Th1)が70〜200℃、水素引き抜き係数(ε)が10〜60である有機過酸化物0.05〜5.0質量部使用することが、最も重要であるが、それ以外に、加熱時間、剪断速度、含有水分率、特定金属の存在、過酸化物の反応残渣の性質等の影響も強く受けるので、D2を見ながら適宜調整される。
【0030】
例えば、押出機の中での長時間加熱、水分の存在、過酸化物の残渣が酸性物質になる場合などは、D2/D1は大きくなる傾向にある。また、高剪断、短時間加熱、放射線照射では、小さくなる傾向にある。
【0031】
以上のように、過酸化物によって変性された乳酸系樹脂樹脂組成物(過酸化物変成乳酸系樹脂組成物)は、溶融張力が上昇し、歪み硬化性が発現し、良好な成形性を有するようになる。したがって、過酸化物乳酸系樹脂組成物は、成形時に溶融張力を必要とするフィルム、シート、シート成形体、発泡シート、発泡シート成形体、ブロー成形体、射出成形体、型発泡体、繊維、パイプ、プレート、プレート成形体等に好適に用いられる。
【0032】
例えば、次のような効果が期待される。
1)インフレーションフィルムでは、バブルが安定する。
2)シートでは、押出キャスト時のネックダウンを防ぐ。
3)シート成形体では、予熱時のドローダウンを防止し、成形体の厚み分布を向上させる。
4)発泡シートでは、セル構造を均一、緻密にし、破泡を防ぐ。
5)発泡シート成形体では、予熱時のドローダウンを防止し、成形体の厚み分布を向上させる。
6)ブロー成形体では、パリソンのドローダウンを防ぎ、成形体の厚み分布を向上させる。
7)射出成形体では、バリを防止する。
8)型発泡体では、セル構造を均一、緻密にし、破泡を防ぐ。
9)繊維では、紡糸時の曳糸性を向上させ、糸切れを防ぐ。
10)パイプでは、押出時の形状安定性を向上させる。
11)プレートでは、水平押出時のドローダウンを防ぐ。
12)プレート成形体では、予熱時のドローダウンを防止し、成形体の厚み分布を向上させる。
【0033】
本発明においては、乳酸系樹脂組成物にガラス転移温度Tgが0℃以下の脂肪族ポリエステル樹脂や脂肪族芳香族ポリエステル樹脂をブレンドすることもできる。
【0034】
上記脂肪族ポリエステル樹脂としては、例えば、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステル、環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステル、合成系脂肪族ポリエステル等が挙げられる。
【0035】
上記肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステルは、脂肪族ジオールであるエチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノール等と、脂肪族ジカルボン酸であるコハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸等の中から、それぞれ1種類以上選んで縮合重合して得られる。必要に応じてイソシアネート化合物等でジャンプアップして所望のポリマーを得ることができる。市販の原料ペレットとしては、昭和高分子(株)製のビオノーレ、等が例示される。
【0036】
また、耐熱性や機械強度を高めるために、ジカルボン酸成分として、50mol%以下のテレフタル酸等の芳香族モノマー成分を共重合することもできる。このような形で共重合された樹脂は、本発明でいう脂肪族芳香族ポリエステルに該当する。市販の原料ペレットとしては、イーストマンケミカル社製のイースターバイオや、BASF社製のエコフレックス等が例示される。
【0037】
上記環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステルとしては、環状モノマーであるε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等が代表的に挙げられ、これらから1種類以上選ばれて重合される。
【0038】
上記合成系脂肪族ポリエステルとしては、環状酸無水物とオキシラン類、例えば、無水コハク酸とエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等との共重合体等が挙げられる。
【0039】
乳酸系樹脂組成物に脂肪族ポリエステル樹脂等をブレンドする場合には、乳酸系樹脂と、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下の脂肪族ポリエステルおよび/または脂肪族芳香族ポリエステルと、有機過酸化物とからなる乳酸系樹脂組成物とすることにより、乳酸系樹脂の加工性のみならず、耐衝撃性や耐寒性を改良することができる。また、有機過酸化物を添加することにより、乳酸系樹脂と脂肪族ポリエステルおよび/または脂肪族芳香族ポリエステルとの単純ブレンド系に比べると、機械強度や透明性が改良される
【0040】
各成分の配合比(質量部で示す)としては、乳酸系樹脂:(脂肪族ポリエステル、および/または、芳香族脂肪族ポリエステル ):有機過酸化物=50〜97:3〜50:0.05〜5.0(質量部)が好ましい。乳酸系樹脂の配合量がかかる範囲より多いと、所望とする耐衝撃性、耐寒性の改良効果が乏しく、少ないと、剛性や耐擦傷性に劣る。
【0041】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、抗酸化剤、UV吸収剤、光安定剤、顔料、着色剤、滑剤、核剤、加水分解防止剤、無機フィラー等の添加剤を処方することもできる。
【0042】
組成物を得る方法としては、あらかじめ、同方向2軸押出機、ニーダー、ヘンシェルミキサー等を用い、プレコンパウンドしても構わないし、各原料をドライブレンドし、直接成形機に投入しても構わない。成形機は、本発明を達成するために特に限定されない。
【0043】
【実施例】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、実施例中に示す測定値は次に示すような条件で測定を行ない、算出した。
【0044】
1)有機過酸化物の1時間半減期温度(Th)
溶媒としてベンゼンを用い、有機過酸化物、0.2mol/Lの溶液を調製する。試料溶液を15mLずつ耐圧試験管に4本採取する。4本の耐圧容器をあらかじめ窒素で置換して、試料溶液を入れた試験管を各耐圧容器に入れ、密栓をする。DSCでの測定結果から想定される測定温度に設定しておいたグリセリン浴中に耐圧容器を同時に入れる。15分後、耐圧容器1本をグリセリン浴中から取り出し、直ちに氷水中に浸漬し、冷却する。冷却後耐圧容器より試験管を取り出し、ヨードメトリー法により、活性酸素量(A.O%)を測定し、これを0時間とする。その後も、一定時間(2時間、4時間、6時間)ごとに、同じ要領で活性酸素量(A.O%)を測定し、各温度での半減時間をもとめる。横軸に温度、縦軸に半減時間をプロットし、そのグラフより、1時間半減期温度Thを求める。
また、下記に示す水素引き抜き係数を求めるために、15分半減期温度も同グラフから読みとった。
【0045】
2)有機過酸化物の水素引き抜き係数(ε)
0.2mol/L濃度で有機過酸化物をn−ペンタデカンに溶解させ、試料溶液とした。この試料溶液を20mL試験管に採取し、グリセリンに浸漬し、15分半減期温度で30分加熱した。この時生成するn−ペンタデカンダイマーの量を測定し、2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)を用いた時に生成するn−ペンタデカンダイマー量を1として、相対数値化した。
【0046】
3)D2/D1
東ソー(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィーHLC−8120GPCに、(株)島津製作所製クロマトカラムShim−PackシリーズのGPC−800CPを装着し、溶媒クロロホルム、溶液濃度0.2wt/vol%、溶液注入量200μL、溶媒流速1.0mL/分、溶媒温度40℃で測定を行った。ポリスチレン換算で、反応前後の乳酸系樹脂の数平均分子量、並びに重量平均分子量を算出した。用いた標準ポリスチレンの重量平均分子量は、2000000、670000、110000、35000、10000、4000、600である。重量平均分子量を、数平均分子量で除した値が、多分散度である。有機過酸化物反応前の多分散度をD1、反応後の多分散をD2とし、D2/D1を算出した。
【0047】
4)歪み硬化性
乳酸系樹脂組成物を栗本製作所(株)製SK KRCニーダー N90−1を用い、190℃、200rpmで混練し、その混練物を100tプレスで、190℃にて、10分プレスし、徐冷した。プレス板を、幅×長さ×厚み=7×55×1.5mmに切り出し、1軸伸張粘度測定用の試料とした。この試料を、レオメトリックス(株)製RMEを用い、窒素雰囲気下、190℃で、歪み速度一定(0.5sec−1)で、1軸伸張粘度の測定を行った。そのグラフより、歪み硬化度を以下の式により算出した。
歪み硬化度=(η5−η1)/η1
ここで、η1=測定時間1秒後の伸張粘度
η5=測定時間5秒後の伸張粘度
【0048】
5)押出シートのネックイン率
乳酸系樹脂組成物を、混練ゾーンを備えた三菱重工社製30mmφ単軸押出機(l/d=22)に供し、設定温度190℃、回転数30rpm、吐出量3Kg/hで、幅200mm、リップギャップ1mmの口金から厚み100μmのシート押出を行った。引き取り速度を調整して、シートの厚みを100μm(引き取り速度=約4m)にした時の、口金出口直後のシート幅をL1とし、口金から20cm離れた所のシート幅をL2とし、ネックイン率を下記式により算出した。
一般のシート成形においては、ネックイン率は10%以下であることが好ましい。
ネックイン率(%)= (L1−L2)/L1 ×100
【0049】
6)発泡シートのセル径
乳酸系樹脂組成物に、発泡剤ACDA(アゾジカルボンアミド)1質量部を添加したものを、混練ゾーンを備えた三菱重工社製30mmφ単軸押出機(l/d=22)に供し、設定温度190℃、回転数30rpm、吐出量3Kg/hで、幅200mm、リップギャップ1mmの口金から厚み500μmのシート押出を行った。
押出したシートを、流れ方向にカッターで切断して、光学顕微鏡による観察を行った。発泡セルの粒子径を目視で測定し、視野内の10個の発泡セルについて平均して算出した。また、発泡セルの全体的な状態も観察した。
通常の発泡押出シート成形においては、セル径が100μm以下で、均一で、破泡がないことが好ましい。
【0050】
7)シャルピー衝撃強度
パイプの長手方向に、試料を幅10mm×長さ80mm×厚み4mmに切り出し、JIS−K7111に基づき、安田精機製作所製シャルピー衝撃試験機を用い、ノッチ付(ノッチタイプA)、エッジワイズで試験を行った。単位は、KJ/m2である。
【0051】
(参考例1)
乳酸系樹脂として、ホモのポリ乳酸である、島津製作所(株)製ラクティ5000(重量平均分子量20万、多分散度2.0)を用いた。この乳酸系樹脂100質量部に、有機過酸化物としてラウロイルパーオキサイド(日本化薬社製、商品名「ラウロックス」)(Th1=79℃、ε=8)を0.4部添加し、栗本製作所(株)製SK KRCニーダー N90−1を用い、190℃、200rpmで混練し、ストランドを押出し、水槽で急冷後、ストランドカットして、ペレットを得た。得られたペレットを用いて、歪み硬化度、ネックイン率、発泡セル径を求めたところ、歪み硬化度は4.8、ネックイン率は12%、発泡セル径は120μm(均一)であった。
【0052】
(実施例2〜4、比較例1〜3)
乳酸系樹脂として、ホモのポリ乳酸である、島津製作所(株)製ラクティ5000(重量平均分子量20万、多分散度2.0)を用いた。この乳酸系樹脂に、表1に示す有機過酸化物を添加し、栗本製作所(株)製SK KRCニーダー N90−1を用い、190℃、200rpmで混練し、ストランドを押出し、水槽で急冷後、ストランドカットして、ペレットを得た。得られたペレットを用いて上記評価を行った。これらの評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
(比較例4)
有機過酸化物として、t−ブチルパーオキシベンゾエート(Th1=122℃、ε=49)を、5.5部添加する以外は、実施例1と同様の方法で、ペレット化を試みた。しかし、有機過酸化物による樹脂の変性が進みすぎ、押出溶融体がゲル状になり、安定したストランドが得られなかったため、ペレット化できなかった。ストランドのD2/D1=3.6であった。
【0055】
(比較例5)
島津製作所(株)製ラクティ5000と、Tgが−30℃であるイーストマンケミカル社製イースターバイオを、8/2でドライブレンドし、25mmφ口金と、Batten社製DISKタイプフォーマーを備えた、クラウスマッファイ社製45mmφ単軸押出機に供し、押出樹脂温度190℃、スクリュー回転数70rpmで、外径25mmφ、肉厚4mmのパイプを押し出した。口金出口で水冷せずに、整形具で円管に支持させるのみで、引き取ったが、溶融張力が不足し、パイプ外観が、自重で歪んだ。シャルピー衝撃強度は、3.5KJ/m2であった。
【0056】
(実施例5)
有機過酸化物として、2,2−ジ−t−ブチルパーオキシブタン(Th1=116℃、ε=24)を、0.5質量部添加する以外は、比較例4と同様の方法で、パイプを押出したところ、溶融張力が高く、パイプ外観が変形することなく、丸く良好であった。また、シャルピー衝撃強度は、4.2KJ/m2であり、有機過酸化物を入れないときに比べ向上した。
【0057】
【発明の効果】
以上、詳しく説明したように、本発明によれば、乳酸系樹脂が本来有している生分解性に加え、優れた加工性や物性を有する乳酸系樹脂組成物、過酸化物変性乳酸系樹脂組成物、および、それらからなる成形体を提供することができる。
Claims (3)
- 乳酸系樹脂100質量部と、1時間半減期温度(Th1)が70〜200℃、水素引き抜き係数(ε)が10〜60である有機過酸化物0.05〜5.0質量部からなる乳酸系樹脂組成物を、溶融混練する方法、加熱あるいは再加熱による方法、および、放射線照射による方法からなる群から選ばれる少なくとも1つの手段により反応させ、過酸化物反応前の乳酸系樹脂の多分散度をD1とし、過酸化物反応後の乳酸系樹脂の多分散度をD2とした時に、D2/D1=1.10〜3.0である乳酸系樹脂組成物を用いて成り、セル径が95μm以下であることを特徴とする発泡シート。
- 乳酸系樹脂100質量部と、1時間半減期温度(Th1)が70〜200℃、水素引き抜き係数(ε)が10〜60である有機過酸化物0.05〜5.0質量部からなる乳酸系樹脂組成物を、溶融混練する方法、加熱あるいは再加熱による方法、および、放射線照射による方法からなる群から選ばれる少なくとも1つの手段により反応させ、過酸化物反応前の乳酸系樹脂の多分散度をD1とし、過酸化物反応後の乳酸系樹脂の多分散度をD2とした時に、D2/D1=1.10〜3.0である乳酸系樹脂組成物を用いて成り、セル径が95μm以下であることを特徴とする発泡フィルム。
- 乳酸系樹脂100質量部と、1時間半減期温度(Th1)が70〜200℃、水素引き抜き係数(ε)が10〜60である有機過酸化物0.05〜5.0質量部からなる乳酸系樹脂組成物を、溶融混練する方法、加熱あるいは再加熱による方法、および、放射線照射による方法からなる群から選ばれる少なくとも1つの手段により反応させ、過酸化物反応前の乳酸系樹脂の多分散度をD1とし、過酸化物反応後の乳酸系樹脂の多分散度をD2とした時に、D2/D1=1.10〜3.0である乳酸系樹脂組成物を用いて成り、セル径が95μm以下であることを特徴とする型発泡体。
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