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JP4502636B2 - ピッチ系炭素繊維スライバー及び紡績糸の製造方法 - Google Patents

ピッチ系炭素繊維スライバー及び紡績糸の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、(等方性)ピッチ系炭素繊維マットを原料とする炭素繊維スライバー及びその炭素繊維スライバーを延伸し加撚して得られる炭素繊維績糸の製造方法に関する。
「スライバー」の語は、一般に、それを構成する不連続単繊維同士が必要以上に交絡することなく平行に配列して束状となっている繊維集合体であり、構成繊維長に比べれば無限長といってもよい程度の長さを有するひも状繊維集合体を意味するものとして理解できる(そのような概念の一端は特許文献2の左上欄に見られる)。炭素繊維スライバーは、各種炭素繊維製品の半製品として有用である。すなわち、これを紡績加工することにより紡績糸が得られ、紡績糸を製織することにより炭素繊維織物(クロス)が得られる。また炭素繊維スライバーを粉砕することによりミルド製品が;また100mm以下に裁断することによりチョップが;更にチョップを湿式抄紙することによりペーパーが;チョップを乾式抄紙することによりマットが;裁断・開繊後、積層させ、ニードルパンチすることによりフェルトが;それぞれ得られる。これら炭素繊維製品はその耐熱性、導電性、強度等を利用した耐熱材、導電材、補強材、断熱材等の用途に幅広く使用されている。
炭素繊維スライバーを製造する方法として、繊維長が25mm以上好ましくは50〜75mmの炭素繊維前躯体スライバーをそのまま或いは必要により事前に耐炎化したのち炭素化温度以上に加熱して得たスライバー状炭素繊維を紡績する炭素繊維紡績糸の製造方法が特許文献1に開示されている。しかし、この方法で用いられるスライバーの繊維長は短く、得られる強度も十分とは言えない。特許文献2には、ピッチ系炭素繊維に天然繊維および/又は合成繊維を混綿し開繊することにより混合綿とし、これを出発原料として梳綿機を用いてこの混合綿をフリース状とした後スライバーに形成し、更にこのスライバーを精紡機を用いて延伸すると同時に加撚することにより紡績糸を製造する方法が開示されている。しかし、この天然繊維および/又は合成繊維を炭素繊維とするためにはこれを更に熱処理しなければならないなどのわずらわしさと、炭素化による収縮などによる物性の変化を前もって予測しておかなければならないなどの問題があった。また、使用されている繊維の長さが短いため、十分な引張強度の紡績糸は得られない。
特許文献3には、紡糸に続く焼成工程終了後に得られる種々の形態のピッチ系炭素繊維集合体にピッチ系以外の炭素前駆体繊維10〜40質量%を混入して混合フリースを得、次いでこの混合フリースに製条処理を施した後にまたは製条処理を施すことなく直接練条処理を施し、得られた練条スライバーに炭化処理を施してピッチ系炭素繊維を主成分とするスライバーを得る炭素繊維スライバーの製造方法が開示されている。この製造方法では、ピッチ系炭素繊維と炭素前駆体繊維との混合には、一般的に良く使用されているエアブロー開繊−フリースフォーミング法を適用することができるが、均一な混合を達成するためにはエアブロー開繊工程で原料繊維の絡みをほぐして十分に分繊する必要があるため、予めピッチ系炭素繊維および炭素前駆体を5〜30mmの短繊維に切断しておかなければならないという問題があった。また、繊維長が短いため強度の強い紡績糸は得られないと推測される。
特開昭53−81735号公報 特開平8−158170号公報 特開平1−148813号公報 特開昭62−33823号公報 特開昭50−6822号公報
本発明の一つの目的は、高強度の紡績糸を与え得るピッチ系炭素繊維スライバーの効率的な製造方法を提供することである。
本発明の別な目的は、このようなピッチ系炭素繊維スライバーから引張強度の高い紡績糸を製造する効率的な方法を提供することである。
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、本出願人が既に開発したピッチ系炭素繊維の製造方法のなかには、構成ピッチ系炭素繊維が、その繊維長延長方向を整列させて一方向に優先的に延長するように集合堆積した形態のピッチ系炭素繊維マットを製造可能な方法があり(特許文献4および5)、このような形態的特徴を有するピッチ系炭素繊維マットを直接梳綿処理にかけることにより、高強度紡績糸を与える炭素繊維スライバーが効率的に得られることが見出された。
すなわち、本発明のピッチ系炭素繊維スライバーの製造方法は、ピッチ系炭素繊維が、その繊維長延長方向を整列させて一方向に優先的に延長するように集合堆積されたピッチ系炭素繊維マットを、前記一方向に移送させつつ直接梳綿機にかけて延伸・梳綿処理することを特徴とするものである。
また、本発明は、上記製造方法により得られたピッチ系炭素繊維スライバーを、精紡機を用いて、延伸し加撚して、繊維長150mm以上の繊維を3質量%以上含有し、この精紡機による撚り数(一次撚り数)が50〜400回/m、引張強度が0.10N/tex以上である紡績糸を製造することを特徴とするピッチ系炭素繊維紡績糸の製造方法をも提供するものである。
本発明のピッチ系炭素繊維スライバーの製造方法においては、製品スライバー中の炭素繊維長よりは相当に長い繊維長を有するピッチ系炭素繊維が、その繊維長延長方向を整列させて一方向に優先的に延長するように集合堆積されたピッチ系炭素繊維マットを、原料として用いる。このような原料炭素繊維マットは、「繊維形成性ピッチ(炭素含有率が89〜97質量%で、平均分子量が400〜5000)を回転軸が水平な遠心紡糸機により溶融紡糸し次いで延伸した後、紡糸機の延伸板上に設けられた少なくとも1個のカッターにより裁断し、前記遠心紡糸機の下部に設けられ遠心紡糸機の回転軸に対して平行方向にトラバース(往復移動)し且つ直交する方向に移動する水平ベルトコンベア上に堆積させてピッチ繊維マットを形成し、次いで不融化、焼成することを特徴とする炭素繊維マットの製造方法」(特許文献4)または「繊維形成性ピッチを溶融紡糸し、紡出されたフィラメント状ピッチ繊維を牽引細化後、コンベアベルト上に沈積させ、その際、上記ピッチ繊維を牽引細化後の繊維の走行速度に対して充分大な速度でコンベアベルトの移動方向と実質的に平行な方向にトラバース(往復動)させることにより実質的に伸びた状態でコンベアベルトの移動方向と同方向に配列沈積させ、次いで不融化、焼成することを特徴とする炭素繊維トウ状物の製法」(特許文献5)により形成される。
前者の方法(特許文献4)によれば、水平ベルトコンベアの往復移動の振幅が形成される炭素繊維マットの幅を、ボール回転数、カッターによる紡糸ピッチ繊維の裁断タイミング(繊維長1.5m以上に相当)およぴ遠心紡糸中における風による紡糸ピッチ繊維の切断頻度が繊維長分布を決定する。一般に250mm以上の繊維長を有する炭素繊維が30〜70質量%を占めることが多い。後者の方法(特許文献5)によれば、コンベアベルト上に沈積される牽引細化ピッチ繊維の往復動の方向切替タイミングおよび風による細化ピッチ繊維の切断が単方向繊維長分布を決定する。単方向繊維長は例えば30〜200cmである。細化ピッチ繊維の往復動方向の切替えは、例えば、紡糸口金を出たフィラメント状ピッチ繊維がエアサッカー(高速気流引取装置)により下方に吸引・送出されている状態で側方から吹き付ける高速気流の吹付け方向を交互に切替えることにより行われる。いずれにしてもコンベアベルトの移動方向に優先的に延長して堆積した炭素繊維の集体からなるマットが形成される。前者のマットは、一方向に延長する不連続繊維の集合体であり、後者のマットには、両端部に折り返し部を有する連続繊維も含まれるが、いずれにしても次工程における梳綿機による延伸・梳綿処理に直接移行できる状態のものである。
これらの製造方法のうちで、生産効率の観点から、回転軸が水平な遠心紡糸機により溶融紡糸して得られたピッチ繊維を用いる方法が、より好ましい。
なお、本明細書において、「直接梳綿機にかける」の「直接」とは、通常、炭素繊維マットからスライバーを得るために行われる、切断、開繊、合条等の処理を行うことなくの意味であって、炭素繊維自体の本質的な変態を伴なわない、梳綿機処理にかけるための簡単なマットの前処理まで妨げる意味ではない。
上記炭素繊維マットの形成に使用するピッチは等方性、異方性どちらでも良いが、異方性ピッチからの炭素繊維は弾性率が高いため繊維同士の絡まり合いが十分でなく、それに比べると等方性ピッチからの炭素繊維は弾性率が低いので、繊維同士の絡まり合いが十分なため高い引張強度の紡績糸が得られるので、等方性ピッチの方が好ましい。
コンベアベルト(ピッチ繊維堆積面と逆側から吸引可能な通気性を有するものが好ましい)上に堆積されたマット状ピッチ繊維は、次いで常法により、不融化、焼成を受けて炭素繊維化される。
すなわち、不融化は、例えばNO,SO,オゾンなどの酸化性ガスを含む空気雰囲気中、100〜400℃に加熱することにより行われ、また焼成は非酸化雰囲気中、500〜2000℃に加熱することにより行われる。
このようにして形成されるピッチ系炭素繊維マットの寸法(必要に応じて厚さ・幅の調整後)は、例えば、単繊維径5〜20μm、目付0.1〜0.6kg/m、厚さ5〜30mm、幅100〜850mm、長さ100m以上であり、必要に応じて次の梳綿機処理に備えてロール状に巻き上げて保存してもよい。
上述のようにして水平ベルトコンベア上に形成された炭素繊維マットは、必要に応じて一対のローラ間に通すことにより厚み・幅の微調整を行った後、梳綿機処理にかけられる。
図1は、マット状炭素繊維処理用に広幅に改良された梳綿機(広幅ギル)の進行方向側面であり、その基本構成は、炭素繊維マット進行方向に配置されたバックローラとフロントローラの間に、オイル噴霧供給装置と多数の金属植針列の対をマット上下に配したフォーラとを配置してなる。図面左方より水平ベルトコンベア(図示せず)により供給された炭素繊維マットは、バックローラからフロントローラへと送通される間に梳綿処理を容易にするための油剤が例えば1.8〜2.0質量%程度の割合で噴霧展着され、更にフォーラの多数の植針列対の適時のマットへの挿入による梳綿処理(梳り)を受け、繊維方向が引き揃えられる。同時に、バックローラより大なる周速で回転されるフロントローラとバックローラとの周速比により、炭素繊維は延伸される。
フロントローラ対の少なくとも一方は、繊維の切断を避けるために弾性表面を有することが好ましく、図示の例では、下側ローラが表面にゴム弾性を有するエプロン(スライバーとの増大した接触面積を与える無端ベルト)により構成されている。
梳綿機において延伸・梳綿処理を受けて、そのフロントローラを出た炭素繊維は繊維方向配列が向上したスライバーとなっており、必要に応じて分条されたのち、円筒状のコイラに巻き取られる。
この延伸・梳綿処理において、ピッチ系炭素繊維マットを直接梳綿機にかけるために重要なのは、炭素繊維マットにおける炭素繊維の配列性と繊維長である。炭素繊維の配列性は、マット面に沿って直交する2方向にとった電気抵抗値の比として測定した異方性が大なることで規定される。すなわち、ピッチ系炭素繊維マットにおける炭素繊維の優先延長堆積方向の抵抗値(ρ)と優先延長堆積方向に直交する方向の抵抗値(ρ)の比ρ/ρが0.25以下であることで規定される。この比は、好ましくは0.1以下、更に好ましくは0.05以下である。ρ/ρ比が0.25を超えると、糸切れが多くなり、延伸斑を生じる等、工程上の不具合を生ずる。
マット構成炭素繊維の繊維長に関しては、フロントローラとバックローラ間の距離よりも短い場合は、炭素繊維相互間の滑りにより延伸し、炭素繊維の切断は少なく、この梳綿処理工程を通過する。しかし、炭素繊維長が短すぎると、それから得られる炭素繊維紡績糸の強度は低いものとなる等の問題点がある。一方、炭素繊維長がフロントローラとバックローラ間の距離よりも長い場合は、炭素繊維の一部は切断され、他の一部は油剤等の影響により炭素繊維相互間の滑りが生じ、ローラ間をすり抜ける。しかし、このような長い炭素繊維が多すぎると、炭素繊維がローラに巻き付いたり、ローラがスリップして延伸斑を生じたり、フロントローラの引張力では炭素繊維を引っ張りきれずに装置が停止したりする等の工程上の不具合を生ずる。また高い強度の紡績糸を得るには繊維長は長い方が繊維同士の繋ぎ合わせ点が減少するので好ましい。従って、好ましい繊維長は、フロントローラとバックローラ間の距離よりも短く、また最もそれに近い繊維長であると考えられる。この繊維長分布の目安としては、ピッチ系炭素繊維マットが、繊維長100mm以上の炭素繊維を30質量%以上含有し、且つ優先延長堆積方向の試長100mmの引張強度をM100(N/tex)、試長200mmの引張強度をM200(N/tex)としたとき、下記の(1)及び(2)の関係を満足することが好ましい。
[数2]
1.7×10−3≦M100≦1.2×10−2 (1)
0.4≦(M200/M100)≦1 (2)
更に好ましくは、下記の(3)及び(4)の関係を満足することである。
[数3]
2.0×10−3≦M100≦1.2×10−2 (3)
0.4≦(M200/M100)≦1 (4)
この繊維長分布は、例えば回転軸が水平な遠心紡糸機による溶融紡糸の場合、前記の通り、いくつかの条件が関係しあって決まるものであって、1つの条件で決まるものではなく、適宜最適な条件が選択される。
本発明の炭素繊維スライバーの製造方法は、上記梳綿機による炭素繊維マットの延伸・梳綿処理を基本的工程とするものであるが、得られた炭素繊維スライバーには、図2に概略構成の一例を示すような練条機による練条処理(複数のスライバーを合条(ダブリング)しつつ延伸(ドラフティング)して繊維配列性および均質性の一層向上したスライバーを得る処理)に付される。
例えば図2に示す練条機においては、図1のコイラから抜き取った粗巻き状態のスライバーが製品ケース1に収容されており、ここから引き出された二本のスライバーが、クリルガイド、スライバーガイドに沿って左方へ送られる過程で合条され、バックローラとフロントローラ間での延伸、フォーラによる再度の梳りを受けた後、配列性の向上したスライバーが製品ケース2へと送られる。
通常、精紡工程により紡績糸を形成するためには、それに適した太さおよび繊維配列性の炭素繊維スライバーを得るために、上記の練条処理は複数回行われる。
次いで、精紡に適した太さおよび繊維配列性の炭素繊維スライバーは、製品ケース2から、一例として図3に示すような構成の精紡機(リング精紡機)により延伸ならびに加撚(一次撚り)を受けて、片撚り糸が得られボビンに巻き取られる。
更に、得られた片撚り糸(単糸)は、必要に応じて、一例として図4に示すような構成の撚糸機により、複数本(図では二本)の片撚り糸が合糸され加撚(二次撚り)されて、もろより糸(双糸)が得られる。
上述した練条機、精紡機および撚糸機においても繊維が接触して通過するローラの表面は弾性のある材質として繊維の切断を抑制することが望ましい。
従って、上述の梳綿、練条、精紡工程における繊維の梳り、延伸の結果として、炭素繊維の切断は全体として不可避ではあるが、油剤ならびに弾性ローラの使用により、本発明の方法による場合、炭素繊維の切断の頻度はかなり抑制されていると考えられる。
上述の工程を含む本発明の方法により得られる紡績糸は、代表的性状として、繊維長150mm以上の繊維を3質量%以上含有し、太さが80〜1500tex、一次撚り数50〜400回/m、引張強度0.10N/tex以上、好ましくは0.15N/tex以上のものとなる。炭素繊維径は、5〜20μm程度である。なお、以下の例を含めて、本明細書中に記載する紡績糸強度は、以下の方法により測定したものである。
(1)紡績糸強度:引張試験機((株)オリエンテック製、「テンシロン万能試験機 1310型」)を用いて、紡績糸のつかみ間隔200mmとし、引張速度200mm/minで引っ張ったときの破断強力をその紡績糸のtex値で割って、紡績糸強度(N/tex)とした。試料5点の平均値を求めた。
(2)ピッチ系炭素繊維マットの引張強度:引張試験機((株)オリエンテック製、「テンシロン万能試験機 1310型」)を用いて、試料の炭素繊維マットから炭素繊維の優先延長堆積方向の試験片(優先延長堆積方向の長さ:200mm、優先延長堆積方向と直交する方向の長さ:50mm)を裁断した。次いで、マット試験片のつかみ間隔を100mmとし、引張速度200mm/minで引っ張ったときの破断強力をそのマット試験片のtex値で割って、マットの引張強度M100(N/tex)とした。更に、試料の炭素繊維マットから炭素繊維の優先延長堆積方向の試験片(優先延長堆積方向の長さ:300mm、優先延長堆積方向と直交する方向の長さ:50mm)を裁断し、次いで、マット試験片のつかみ間隔を200mmとし、引張速度200mm/minで引っ張ったときの破断強力をそのマット試験片のtex値で割って、マットの引張強度M200(N/tex)とした。各々試料5点の平均値を求めた。試験片の厚さは5〜30mmの範囲で同じ厚さとした。
(3)炭素繊維マットにおける、炭素繊維の優先延長堆積方向の抵抗値(ρ)と炭素繊維の優先延長堆積方向と直交する方向の抵抗値(ρ):試料の炭素繊維マットから、炭素繊維の優先延長堆積方向の試験片(優先延長堆積方向の長さ:220mm、優先延長堆積方向と直交する方向の長さ:200mm)と、炭素繊維の優先延長堆積方向と直交する方向の試験片(優先延長堆積方向と直交する方向の長さ:220mm、優先延長堆積方向の長さ:200mm)とを、各々裁断した。試験片の厚さは5〜30mmの範囲で同じ厚さとした。裁断した試験片を銅板端子付き硬質型板の電極間に固定し、これを加圧機で4.9MPaに加圧後、炭素繊維の優先延長堆積方向および炭素繊維の優先延長堆積方向と直交する方向の各々5点の試験片について抵抗測定器を用いて抵抗を測定し、それぞれの方向の試験片についての平均値を求めた。
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
A.等方性ピッチ系炭素繊維マットの作製
石油ナフサを熱分解してエチレン、プロピレン等のオレフィン類を分取した残りの高沸点留分(いわゆるエチレンボトム油)を380℃で熱処理して320℃、10mmHg abs.で減圧蒸留し、炭素含有率94.5質量%、平均分子量620、軟化点(高架式フローテスター)170℃のピッチを得た。
このピッチをノズル孔径0.7mm、ノズル孔数420、ボール直径200mmの横型遠心紡糸機2台(配列はコンベアと平行)にて1台当たり10.8kg/h(×2台)の処理量、回転数800rpm、延伸風100m/secにて溶融紡糸した。カッターにより順次カッティングし、毎分5回の割合で進行方向と直交する方向に往復移動している40meshの金網ベルトを用いた進行速度1.51m/minのベルトコンベア上にマット有効幅700mm、目付け0.32kg/m、マット厚さ20mm、見掛け密度16kg/mで、短繊維(繊維長は主として、100〜1500mm)の集合体であるが繊維長の延長方向がコンベアの進行方向に優先的に整列しているために連続糸として取り扱いが可能なマットとして堆積させた。
このマットをトレイを用いず2m幅のバーを0.044m/minで等速循環させている全長10mの不融化炉にて、300mm間隔のバーに1.5mの長さで懸架し、NO=2%、残りは空気の雰囲気下でマットの配向方向と直交する方向から炉内循環ガスを0.5m/sec(空塔速度として)を流し、反応熱を除去しながら100〜250℃まで3時間で昇温し、不融化せしめた。
次いでマットを自重懸垂しながら処理する全長14.8m(冷却部を含む)×幅2mの竪型焼成炉にて850℃まで15分で昇温して焼成し、200℃まで冷却した後炉外に送り出した。
このようにして得られた炭素繊維は繊維間の融着がなく、単繊維物性が繊維径14.5μmで引張強度800MPa、引張弾性率35GPaと良好なものであった(伸度2.3%)。
B.梳綿、練条、紡績
幅700mm、厚さ20mm、220g/mの等方性ピッチ系炭素繊維マットを、梳綿機において、フロントローラとバックローラの間で炭素繊維紡績用油剤(竹本油脂(株)製「RW−102」)を噴霧し、炭素繊維に対して2質量%展着させて、10.0倍に延伸しつつ、繊維を引き揃え、22g/mのスライバーを得た。次いで第1練条機でこのスライバー2本を合わせて3.9倍に延伸し、1本のスライバーとし、更にこのスライバー2本を合わせて第2練条機で10倍に延伸し、1本のスライバーとし、更にこのスライバー2本を合わせて第3練条機で3.0倍に延伸し、1本のスライバーとし、更にこのスライバーの2本を合わせて第4練条機で3.0倍に延伸して1本の1g/mのスライバーを得た。このスライバーを精紡機を用い、12.0倍に延伸し、Z(左)撚り数300回/mで紡糸し、83texの紡績糸を得た。次いで撚糸機でこの紡績糸2本を合わせて、S(右)撚り数180回/mで合糸し、166texの紡績糸を得た。得られた紡績糸の物性を下表1に示す。
(実施例2)
実施例1の第1練条機の3.9倍の延伸、第2練条機の10.0倍の延伸、第3練条機の3.0倍の延伸、第4練条機の3.0倍の延伸に代えて、各々、4.1倍、4.0倍、2.0倍、2.0倍とし、精紡機のZ(左)撚り数300回/mに代えて、183回/mとし、撚糸機のS(右)撚り数180回/mに代えて、110回/mにした以外、実施例1と同様に行った。その結果、890texの紡績糸を得た。得られた紡績糸の物性を下表1に示す。
(実施例3)
実施例1の第1練条機の3.9倍の延伸、第2練条機の10.0倍の延伸、第3練条機の3.0倍の延伸、第4練条機の3.0倍の延伸に代えて、各々、4.0倍、3.6倍、2.0倍、2.0倍とし、精紡機のZ(左)撚り数300回/mに代えて、180回/mとし、次いで撚糸機でこの紡績糸2本を合わせて、S(右)撚り数180回/mで合糸したことに代えて、撚糸機でこの紡績糸3本を合わせて、S(右)撚り数100回/mで合糸した以外は、実施例1と同様に行った。その結果、1500texの紡績糸を得た。得られた紡績糸の物性を下表1に示す。
Figure 0004502636
上述したように、本発明によれば、構成炭素繊維が、その繊維長延長方向を一方向に優先的に整列させて集合堆積されたピッチ系炭素繊維マットを、その優先延長堆積方向に移送させつつ、直接梳綿機にかけて延伸・梳綿処理するという簡単な方法により、(等方性)ピッチ系炭素繊維スライバーが効率的に製造され、これを紡績加工することにより高強度の炭素繊維紡績糸が得られる。
本発明法に用いるに適した梳綿機(広幅ギル)の概略構成図。 本発明法に用いるに適した練条機の概略構成図。 本発明法に用いるに適した精紡機の概略構成図。 本発明法に用いるに適した撚糸機の概略構成図。

Claims (9)

  1. ピッチ系炭素繊維が、その繊維長延長方向を一方向に優先的に整列させて集合堆積されたピッチ系炭素繊維マットを、前記一方向に移送させつつ直接梳綿機にかけて延伸・梳綿処理することを特徴とするピッチ系炭素繊維スライバーの製造方法。
  2. 該ピッチ系炭素繊維マットの前記一方向電気抵抗値(ρ)と前記一方向に直交する方向の電気抵抗値(ρ)の比ρ/ρが0.25以下であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
  3. 該ピッチ系炭素繊維マットが、繊維長100mm以上の炭素繊維を30質量%以上含有し、且つ前記一方向における長さ100mmとしたマット試料の引張強度をM100(N/tex)、長さ200mmとしたマット試料の引張強度をM200(N/tex)としたとき、下記の(1)及び(2)の関係を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
    [数1]
    1.7×10−3≦M100≦1.2×10−2 (1)
    0.4≦(M200/M100)≦1 (2)
  4. 該ピッチ系炭素繊維が等方性ピッチ系炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 該ピッチ系炭素繊維マットが、石油系又は石炭系ピッチを溶融紡糸して得られるピッチ繊維を、その繊維延長方向が水平ベルトコンベアの進行方向に優先的に整列するように水平ベルトコンベア上に堆積させてピッチ繊維マットを形成し、次いで不融化、焼成することにより得られるピッチ系炭素繊維マットであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
  6. 該ピッチ系炭素繊維が、石油系又は石炭系ピッチを、回転軸が水平な遠心紡糸機により溶融紡糸して得られピッチ繊維を、不融化、焼成することにより得られたピッチ系炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
  7. 該梳綿機が広幅ギル装置であって、1対のフロントローラのうち少なくとも1方のローラが弾性ローラであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
  8. 梳綿機による梳綿処理後のスライバーを、更に、練条機を用いて、合条、延伸する工程を含む請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法により得られたピッチ系炭素繊維スライバーを精紡機を用いて、延伸し加撚して、繊維長150mm以上の繊維を3質量%以上含有し、一次撚り数が50〜400回/m、引張強度が0.10N/tex以上である紡績糸を製造することを特徴とするピッチ系炭素繊維紡績糸の製造方法。
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