上述の網膜走査型ディスプレイには、ユーザが表示画像のピント位置を調節することを可能にするピント調節機能を有する形式が存在する。この形式の網膜走査型ディスプレイは、一般に、前述の光源、走査部および出射部に加えて、前記光源から出射した光束の波面曲率を変調する波面曲率変調部を含むように構成され、さらに、前記走査部が、その波面曲率変調部から出射した光束を前記網膜上において走査するように構成される。
このように構成された網膜走査型ディスプレイによれば、ユーザは、表示画像の位置すなわち観察者であるユーザが表示画像(虚像)を知覚する奥行き位置を近い位置に切り替えたり遠い位置に切り替えるという奥行き調節を目的としてピント調節を行うことや、観察者の視力に応じた補正を当該網膜走査型ディスプレイの光学系に加えるというディオプタ調節を目的としてピント調節を行うことが可能である。
この網膜走査型ディスプレイの射出瞳を拡大することが必要である場合には、前述のように、光源と出射部との間における光路上に、それら光源と出射部との間に存在する中間像面と同一の位置に回折素子が設置される。
ここに「中間像面」は、最終的な像面である網膜上の像面と光源との間に位置する像面であることに着目し、その「最終的な像面」という用語から表現上区別するために採用された用語であり、必ずしも光源と出射部とのちょうど中央に位置する像面であることを意味しない。
しかしながら、この網膜走査型ディスプレイにおいては、前述の波面曲率変調部から出射する光束の波面曲率が変調されると、それに伴って中間像面の位置が変化する。そのため、それにもかかわらず回折素子の位置を固定したのでは、波面曲率の変調に起因して、回折素子の位置が中間像面の位置から外れてしまう。
回折素子の位置が中間像面と同じ場合には、その回折素子に入射する光束が概念的には1本の入射光線と等価である。したがって、この場合に回折素子から出射するのは、その1本の入射光線が分離された1組の回折光のみである。
これに対し、回折素子の位置が中間像面から外れる場合には、その回折素子に入射する光束が概念的には複数本の入射光線と等価である。それら複数本の入射光束は、回折素子に、それの格子方向(回折方向)において互いに異なる複数の位置においてそれぞれ入射する。そのため、この場合に回折素子から出射するのは、互いにずれた複数本の入射光線がそれぞれ分離された複数組の回折光である。
このように、回折素子の位置が中間像面から外れる場合には、その回折素子から複数組の回折光が出射するため、回折素子の位置が中間像面から外れる程度が大きいと、表示画像が多重化してしまう可能性がある。
以上、前述の瞳拡大素子が回折素子である場合を例にとり、波面曲率の変調に起因して表示画像が多重化する可能性を説明したが、回折素子以外の素子を瞳拡大素子として使用する場合にも、同様な可能性が存在する。
以上説明した事情を背景にして、本発明は、光束を観察者の網膜に直接投影し、その投影された光束を前記網膜上において走査することにより、画像を表示する網膜走査型ディスプレイにおいて、前記光束の波面曲率の変調に起因した表示画像の多重化を抑制しつつ、射出瞳を拡大することを課題としてなされたものである。
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈すべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきなのである。
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈すべきである。
(1) 光束を観察者の網膜に直接投影し、その投影された光束を前記網膜上において走査することにより、画像を表示する網膜走査型ディスプレイであって、
光源と、
その光源から出射した光束の波面曲率を変調する波面曲率変調部と、
その波面曲率変調部から出射した光束を前記網膜上において走査する走査部と、
その走査部によって走査された光束が当該網膜走査型ディスプレイから出射する出射部と、
前記光源と前記出射部との間における光路上に設置され、当該網膜走査型ディスプレイの射出瞳を拡大する瞳拡大素子と、
その瞳拡大素子の前記光路上における位置を調節する位置調節部と
を含む網膜走査型ディスプレイ。
この網膜走査型ディスプレイにおいては、光源から出射した光束の波面曲率が変調可能であり、さらに、光源と当該網膜走査型ディスプレイの出射部との間における光路上に、当該網膜走査型ディスプレイの射出瞳を拡大する瞳拡大素子が設置される。その瞳拡大素子の前記光路上における位置は、位置調節部によって調節される。
したがって、この網膜走査型ディスプレイによれば、例えば、瞳拡大素子は、光源と出射部との間における中間像面と位置的に一致するように配置されることを前提とする場合に、その中間像面の位置の変化に追従するように瞳拡大素子の位置を調節することが可能となる。
よって、この網膜走査型ディスプレイによれば、例えば、波面曲率の変調に伴う中間像面の移動に起因した表示画像の多重化を抑制することが可能となる。
本項における「位置調節部」は、例えば、瞳拡大素子の位置を手動で調節する形式としたり、自動的に調節する形式としたり、機械的に行う形式としたり、電気的に行う形式とすることが可能である。
本項における「瞳拡大素子」は、例えば、回折格子を含むように構成したり、散乱板を含むように構成したり、マイクロレンズアレイを含むように構成することが可能である。
(2) 前記位置調節部は、ユーザの操作に応じて機械的に作動することにより、前記瞳拡大素子を前記光路上において変位させる機械的変位機構を含む(1)項に記載の網膜走査型ディスプレイ。
この網膜走査型ディスプレイによれば、瞳拡大素子を、手動でかつ機械的に変位させることが可能となる。
(3) 前記位置調節部は、駆動信号に応じて作動することにより、前記瞳拡大素子を前記光路上において変位させるアクチュエータを含む(1)または(2)項に記載の網膜走査型ディスプレイ。
この網膜走査型ディスプレイによれば、瞳拡大素子を、手動でまたは自動的に、かつ、電気的に変位させることが可能となる。
(4) 前記駆動信号は、ユーザからの指令を反映する(3)項に記載の網膜走査型ディスプレイ。
この網膜走査型ディスプレイによれば、瞳拡大素子を、手動でかつ電気的に変位させることが可能となる。
(5) 前記駆動信号は、前記光源と出射部との間における中間像面の前記光路上における位置を反映する(3)項に記載の網膜走査型ディスプレイ。
この網膜走査型ディスプレイによれば、瞳拡大素子を、自動的にかつ電気的に変位させることが可能となる。
(6) 前記波面曲率変調部は、前記画像の奥行きを表す奥行き信号に基づいて前記波面曲率を変調し、
前記駆動信号は、前記奥行き信号を反映する(3)または(5)項に記載の網膜走査型ディスプレイ。
この網膜走査型ディスプレイによれば、画像の奥行きを調節すべく波面曲率を変調するために前記波面曲率変調部に入力される奥行き信号を反映する駆動信号に基づき、瞳拡大素子を、自動的にかつ電気的に変位させることが可能となる。
(7) 前記波面曲率変調部は、前記画像の奥行きを表す奥行き信号に基づき、前記画像の各奥行き表現単位領域ごとに前記波面曲率を変調し、
前記位置調節部は、
駆動信号に応じて作動することにより、前記瞳拡大素子を前記光路上において変位させるアクチュエータと、
前記奥行き信号に基づき、前記各奥行き表現単位領域より大きい画像領域である各アクチュエータ制御単位領域ごとに前記アクチュエータを制御するコントローラであって、同じアクチュエータ制御単位領域については前記アクチュエータの作動状態が変化しないように、前記奥行き信号に基づいて前記駆動信号を生成して前記アクチュエータに供給するものと
を含む(1)または(2)項に記載の網膜走査型ディスプレイ。
この網膜走査型ディスプレイにおいては、画像の奥行きを表す奥行き信号に基づき、画像の各奥行き表現単位領域ごとに波面曲率が変調される場合に、瞳拡大素子を変位させるアクチュエータが、奥行き信号に基づき、各奥行き表現単位領域より大きい画像領域である各アクチュエータ制御単位領域ごとに制御される。そのアクチュエータは、同じアクチュエータ制御単位領域については作動状態が変化しないように、制御される。
例えば、奥行き表現単位領域が画像における1個の画素として定義される場合に、アクチュエータ制御単位領域が画像における1枚のフレームとして定義される。この例においては、各画素ごとに波面曲率が変調されるのに対して、アクチュエータが、各フレームごとに制御されることになる。
したがって、この網膜走査型ディスプレイによれば、アクチュエータを、各奥行き表現単位領域と同じかまたは小さい画像領域である各アクチュエータ制御単位領域ごとに制御しなければならない場合より、アクチュエータに要求される応答性が低くて済み、よって、アクチェータを含む位置調節部の設計が容易となる。
本項における「奥行き表現単位領域」は、例えば、画像における1個の画素、複数個の隣接画素、1枚のフレームまたは複数枚の連続フレームとして定義することが可能である。
(8) 前記コントローラは、
前記奥行き信号のうち前記各アクチュエータ制御単位領域に対応する部分によって前記各奥行き表現単位領域ごとにそれぞれ表される複数の個別奥行き値に共通する代表奥行き値を前記各アクチュエータ制御単位領域ごとに取得する取得部と、
その取得された代表奥行き値に基づいて前記駆動信号を生成する生成部と
を含む(7)項に記載の網膜走査型ディスプレイ。
この網膜走査型ディスプレイにおいては、奥行き信号のうち各アクチュエータ制御単位領域に対応する部分によって各奥行き表現単位領域ごとにそれぞれ表される複数の個別奥行き値に共通する代表奥行き値が、各アクチュエータ制御単位領域ごとに取得される。
例えば、奥行き表現単位領域が画像における1個の画素として定義され、かつ、アクチュエータ制御単位領域が画像における1枚のフレームとして定義される場合に、1枚のフレームに対応する複数個の画素にそれぞれ割り当てられた複数の個別奥行き値の代表値が、その1枚のフレームに関連付けて取得され、その取得された代表値に基づき、アクチュエータが、その1枚のフレームに関連付けて制御される。
したがって、この網膜走査型ディスプレイによれば、例えば、各アクチュエータ制御単位領域に対応する複数個の奥行き表現単位領域についてそれぞれ実現されるべき複数の個別奥行き値を考慮しつつ、アクチュエータを、1個の奥行き表現単位領域より大きい領域ごとに、離散的に制御することが可能となる。
(9) 前記アクチュエータ制御単位領域は、前記画像における複数個の隣接画素、1本の走査線、1枚のフレームのうち選択された領域、1枚のフレームまたは複数枚の連続フレームとして定義された(8)項に記載の網膜走査型ディスプレイ。
本項における「1枚のフレームのうち選択された領域」は、例えば、画像の1枚のフレームのうち一般的にユーザによって特に強く注目される部分(画質の良否が知覚され易い部分)である中央部として固定的に設定したり、1枚のフレームのうちユーザによって実際に注目される部分として可変的に設定することが可能である。
(10) 前記取得部は、前記複数の個別奥行き値を全体的にもしくは部分的に平均化するかまたはそれら複数の個別奥行き値のうちのいずれかを抽出することにより、前記代表奥行き値を取得する(8)または(9)項に記載の網膜走査型ディスプレイ。
この網膜走査型ディスプレイにおいては、複数の個別奥行き値を部分的に平均化する場合にも、それら複数の個別奥行き値のうちのいずれかを抽出する場合にも、それら複数の個別奥行き値のうちの少なくとも一つの個別奥行き値を選択することが必要となる。その選択は、例えば、対応する奥行き表現単位領域の、画像上における位置に着目して行うことが可能である。具体的には、その位置は、、例えば、画像の1枚のフレームのうち一般的にユーザによって特に強く注目される部分(画質の良否が知覚され易い部分)である中央部として固定的に設定したり、1枚のフレームのうちユーザによって実際に注目される部分として可変的に設定することが可能である。
(11) 前記位置調節部は、ユーザからの指令に応じ、前記瞳拡大素子の前記光路上における位置を調節する機能を有し、
当該網膜走査型ディスプレイは、さらに、ユーザが前記位置調節部を介して前記瞳拡大素子の前記光路上における位置を調節する位置調節作業を視覚的に支援する支援画像を前記網膜上に表示する支援画像表示部を含む(1)ないし(10)項のいずれかに記載の網膜走査型ディスプレイ。
この網膜走査型ディスプレイによれば、ユーザが前記位置調節部を介して前記瞳拡大素子の位置を調節する位置調節作業が、網膜上に表示される支援画像によって支援される。したがって、ユーザはその位置調節作業を効率よく行うことが可能となる。
本項における「支援画像」は、例えば、表示画像の多重化の程度に応じて自ら多重化して表示される画像として構成することが可能である。この場合、「支援画像」は、例えば、表示画像の多重化の程度がユーザによって視覚的に顕著に知覚されるように、例えば、線や文字を用いて構成することが可能である。このように「支援画像」を構成すれば、ユーザは、例えば、表示画像の多重化の有無、すなわち、瞳拡大素子の位置調整の要否や、表示画像の多重化の程度、すなわち、瞳拡大素子の位置調整量を正確に判断することが容易となる。
(12) さらに、ユーザからの指令に応じ、前記網膜上に表示される画像のピントを調節するピント調節部を含み、
前記支援画像は、前記位置調節作業のみならず、ユーザが前記ピント調節部を介して前記ピントを調節するピント調節作業をも視覚的に支援する(11)項に記載の網膜走査型ディスプレイ。
この網膜走査型ディスプレイにおいては、同じ支援画像が、表示画像の多重化解消を目的としたユーザによる瞳拡大素子の位置調節作業の支援と、表示画像のピント調節のためのユーザの作業の支援とに使用される。
したがって、この網膜走査型ディスプレイによれば、表示画像の多重化解消のためのユーザの作業と、表示画像のピント調節のためのユーザの作業とに使用される支援画像の数が全体として1つで済む。
さらに、この網膜走査型ディスプレイによれば、使用される支援画像の数が1つで済むため、ユーザは、上述の2種類の作業を同じ支援画像の表示中に連続的に行うことが可能となり、それら2種類の作業を時期的に切り離して行うことが不可欠ではなくなる。
よって、この網膜走査型ディスプレイによれば、表示画像の多重化解消のためのユーザの作業と、表示画像のピント調節のためのユーザの作業とにつき、支援画像を一切使用しない場合より、個々の作業の効率が改善され、さらに、各作業ごとに別々の支援画像を使用する場合より、全体としての作業効率が改善される。
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に従う網膜走査型ディスプレイ(以下、「RSD」と略称する。)が系統的に示されている。このRSDは、光束としてのレーザビームを観察者の眼10の瞳孔12を経て網膜14に直接投影し、その投影された光束を網膜14上において走査することにより、画像を表示するように設計されている。
図1に示すように、このRSDは光源ユニット20を備えている。この光源ユニット20は、3個のレーザ30,32,34と、3個のコリメータレンズ40,42,44と、3個のダイクロイックミラー50,52,54と、結合光学系56とを備えている。
3個のレーザ30,32,34は、赤色レーザビームを発生させるRレーザ30と、緑色レーザビームを発生させるGレーザ32と、青色レーザビームを発生させるBレーザ34とである。いずれのレーザ30,32,34も、例えば半導体レーザとして構成することが可能である。
3個のコリメータレンズ40,42,44は、3個のレーザ30,32,34から出射した3色のレーザビームをそれぞれコリメートするレンズである。3個のダイクロイックミラー50,52,54は、それら3個のコリメータレンズ40,42,44から出射した3色のレーザビームを互いに結合するために、それら3色のレーザビームに対して波長選択的に反射および透過を行う。
それら3色のレーザビームは、ダイクロイックミラー50,52,54を代表する1個の代表ダイクロイックミラーにおいて互いに結合される。本実施形態においては、その代表ダイクロイックミラーとしてダイクロイックミラー50が選定されている。このダイクロイックミラー50において結合されたレーザビームは、合成レーザビームとして結合光学系56に入射して集光される。
図1に示すように、光源ユニット20は、さらに、信号処理回路60を備えている。この信号処理回路60には、外部から映像信号が供給される。その映像信号は、Rレーザ30、Gレーザ32およびBレーザ34のぞれぞれに対応する輝度信号(R輝度信号、G輝度信号およびB輝度信号)と、後述の水平走査および垂直走査の基準となる同期信号とを含むように構成されている。
本実施形態においては、その供給された映像信号に基づく画像をユーザである観察者が知覚する位置の、そのユーザからの距離すなわち奥行き距離が調節可能であり、その奥行き距離は、このRSDに対するユーザの操作に応じて設定される。そのため、本実施形態においては、映像信号が奥行きを表わす奥行き信号を最初から含むように構成されることは不可欠ではない。
ただし、映像信号を奥行き信号を最初から含むように構成し、その奥行き信号に基づいて奥行き距離を調節するようにして本発明を実施することが可能である。この場合には、通常、映像信号が奥行き信号を輝度信号に関連付けて含むように構成される。
図1に示すように、信号処理回路60は、3個のレーザドライバ70,72,74を経て3個のレーザ30,32,34にそれぞれ電気的に接続されている。この信号処理回路60は、前記輝度信号(R輝度信号、G輝度信号およびB輝度信号)に基づき、各レーザ30,32,34から出射するレーザビームの強度を、対応するレーザドライバ70,72,74を介して変調する。この信号処理回路60の機能は、後に図2および図3を参照して説明する。
図1に示すように、結合光学系56から出射したレーザビームは、光伝送媒体としての光ファイバ82によってコリメータレンズ84に伝送される。そのコリメータレンズ84においてコリメートされて出射したレーザビームは波面曲率変調器88に入射する。
その波面曲率変調器88は、光源ユニット20から出射したレーザビームの波面曲率を変調するために、ビームスプリッタ92と、収束レンズ94と、反射ミラー96とを同一光軸上に並んで備えている。
ビームスプリッタ92は、前記光軸に対して直角な方向にコリメータレンズ84から入射したレーザビームを90度で反射して収束レンズ94に入射させる。その収束レンズ94は、入射したレーザビームを収束させて反射ミラー96に入射させる。
波面曲率変調器88は、さらに、前記光軸上において反射ミラー96を移動させるアクチュエータ98を備えている。このアクチュエータ98は、例えば圧電素子を主体として構成することが可能である。このアクチュエータ98は、信号処理回路60から供給される駆動信号であって奥行き信号を反映するものに基づいて駆動される。
収束レンズ94から出射した収束光がアクチュエータ98によって位置決めされた反射ミラー96に入射すると、その反射ミラー96は、それへの入射光を反射して収束レンズ94に入射させる。その収束レンズ94は、そのようにして再度入射したレーザビームを収束させてビームスプリッタ92に入射させる。
反射ミラー96と収束レンズ94との距離であるレンズ−ミラー間距離がその収束レンズ94の焦点距離に等しい場合には、収束レンズ94からビームスプリッタ92に入射するレーザビームは平行光に復元されるが、そのレンズ−ミラー間距離が収束レンズ94の焦点距離とは異なる場合には、収束レンズ94からビームスプリッタ92に入射するレーザビームは拡散光に変換される。その拡散光の波面曲率はレンズ−ミラー間距離に依存し、そのレンズ−ミラー間距離は前記奥行き信号を反映するため、結局、ビームスプリッタ92からそれの下流側に出射されるレーザビームの波面曲率が奥行き信号を反映することになる。
以上のようにして波面曲率が変調されたレーザビームは、水平走査系100に入射する。この水平走査系100は、信号処理回路60から供給された水平同期信号に基づき、入射したレーザビームを水平方向に走査する。この水平走査系100は、ポリゴンミラー104を主体として構成されているが、他の形式(例えば、ガルバノミラー)で構成することが可能である。
この水平走査系100によって走査された走査光は、第1リレー光学系110に入射する。この第1リレー光学系110においては、レーザビームが進行する光軸上において、レーザビームの入射側に位置する前段レンズ群112と、出射側に位置する後段レンズ群114とが直列に並んで配置されている。それら前段レンズ群112と後段レンズ群114との間に回折素子116が設置されている。この回折素子116の詳細は、後に図4および図5を参照して説明する。
図1に示すように、第1リレー光学系110から出射したレーザビームは垂直走査系120に入射する。この垂直走査系120は、信号処理回路60から供給された垂直同期信号に基づき、水平走査系100によって水平に走査されたレーザビームを垂直方向に走査する。この垂直走査系120は、ガルバノミラー130を主体として構成されているが、他の形式(例えば、ポリゴンミラー)で構成することが可能である。
この垂直走査系120によって走査された走査光は、第2リレー光学系140に入射する。この第2リレー光学系140においては、レーザビームが進行する光軸上において、レーザビームの入射側に位置する前段レンズ群142と、出射側に位置する後段レンズ群144とが直列に並んで配置されている。
このRSDは、以上のようにして強度および波面曲率が変調された2次元走査光を、第2リレー光学系140の後段レンズ群144において出射する。その出射した2次元走査光は、瞳孔12を経て網膜14に直接投影される。
図2には、信号処理回路60の構成および周辺要素との接続がブロック図で概念的に表されている。この信号処理回路60は、映像信号を含む信号を外部から入力する入力装置146と、この信号処理回路60に指令を入力するためにユーザによって操作される操作装置148(例えば、ボタンスイッチ、ダイヤル、キー、ディスプレイパネル等)とに電気的に接続されている。
図2に示すように、この信号処理回路60は、コンピュータ150を主体として構成されている。そのコンピュータ150は、CPU152とROM154とRAM155とがバス156によって互いに接続されて構成されている。ROM154には、ユーザの操作に応じて奥行き信号を生成する奥行き信号生成プログラムを始めとし、各種プログラムが記憶されている。
この信号処理回路60は、さらに、奥行き信号変換回路158に電気的に接続されている。その奥行き信号変換回路158は、上記奥行き信号生成プログラムの実行によって生成された奥行き信号を駆動信号に変換し、その変換された駆動信号を波面曲率変調器88に出力するように構成される。
図3には、上記奥行き信号生成プログラムがフローチャートで概念的に表されている。この奥行き信号生成プログラムは、コンピュータ150の電源が投入されている間、繰り返し実行される。各回の実行時には、まず、ステップS1(以下、単に「S1」で表す。他のステップについても同じとする。)において、ユーザによる操作装置148の操作(ユーザの指令を反映する)に基づき、RSDの動作モードとして「映画モード」が選択されたか否かが判定される。この映画モードは、映画などの動画をユーザが長時間観察する際に適した動作モードである。
ユーザによって映画モードが選択された場合には、S1の判定がYESとなり、その後、S2において、奥行き距離Lが、2個の設定値のうち大き方(例えば、5[m])に設定される。続いて、S5に移行する。これに対し、ユーザによって映画モードが選択されなかった場合には、S1の判定がNOとなり、S3に移行する。
このS3においては、ユーザによる操作装置148の操作(ユーザの指令を反映する)に基づき、RSDの動作モードとして「作業モード」が選択されたか否かが判定される。この作業モードは、RSDをパソコンのモニタとして使用してそのパソコンに対してユーザが入力作業を行う際に適した動作モードである。
ユーザによって作業モードが選択された場合には、S3の判定がYESとなり、その後、S4において、奥行き距離Lが、短い方の設定値(例えば、0.5[m])に設定される。続いて、S5に移行する。これに対し、ユーザによって映画モードも作業モードも選択されなかった場合には、S1の判定もS3の判定もNOとなり、その後、S1に戻る。
S2が実行された場合にもS4が実行された場合にも、その後、S5において、設定された奥行き距離Lを表す奥行き信号が生成され、その生成された奥行き信号がRAM155にストアされる。続いて、S6において、その生成された奥行き信号が奥行き信号変換回路158に出力される。その結果、RSDによって網膜14上に表示される画像の奥行き距離Lの実際値がユーザの指令を反映するように、波面曲率変調器88を介してレーザビームの波面曲率が変調される。
以上で、この奥行き信号生成プログラムの一回の実行が終了する。
図4には、回折素子116が拡大されて断面図で示されている。この回折素子116は、ハウジングとしての封止ブロック160内にガラス板162と透過型の回折格子164とが積層状態で収容されている。それらガラス板162および回折格子164の封止ブロック160からの離脱がとめ具168によって阻止されている。それらガラス板162と回折格子164とはスペーサ170によって厚さ方向に互いに離隔されているが、それらガラス板162と回折格子164との間の隙間内にごみやほこり等の異物が侵入しないように、それらガラス板162と回折格子164とは封止ブロック160によって封止されている。
本実施形態においては、回折格子164が、図5に斜視図で示すように、谷部(透過部)と山部(非透過部)とが交互に直線的に並んだ1枚の1次元回折格子として構成されている。図5に示す例においては、回折格子164が、回折面174(図4参照)に入射した光を水平方向に回折する(図8および図9参照)。
図6および図7にはいずれも、図1に示すRSDにおける光路が簡略化されて示されている。具体的に説明するに、水平走査系100と垂直走査系120との間に第1リレー光学系110が存在し、この第1リレー光学系110においては、前段レンズ群112と後段レンズ群114とが同一光軸上において並んでいる。それら前段レンズ群112と後段レンズ群114との間に中間像面IP1が存在する。垂直走査系120と眼10との間に第2リレー光学系140が存在し、この第2リレー光学系140においては、前段レンズ群142と後段レンズ群144とが同一光軸上において並んでいる。それら前段レンズ群142と後段レンズ群144との間に中間像面IP2が存在する。
図6に示すように、本実施形態においては、中間像面IP1と同一の位置に回折素子116が設置されており、特に回折面174が中間像面IP1と一致している。したがって、本実施形態を実施すると、図8に示すように、回折素子116への入射ビーム(1本の光線)が、少なくとも0次光と1次光と−1次光とを含む複数の回折光に分離される。
図9には、このRSDの射出瞳が観察者の瞳孔12と共に正面図で示されている。
図9には、瞳孔12が3個、直線的に並んで示されているが、これは、眼10の眼球の回転運動に伴って瞳孔12が往復運動する様子を説明するためであり、図9には、中立位置にある瞳孔12が実線で示される一方、両端移動位置にある瞳孔12がそれぞれ二点鎖線で示されている。瞳孔12の直径の平均値は約3mmであり、また、瞳孔12の移動距離は約2.8mmである。
図9には、さらに、射出瞳が3個、いずれもハッチングされた3個の実線の円として、直線的に並んで示されているが、これは、レーザビームの走査領域の中心線に沿って進行する1本の光線が回折素子116によって0次光と1次光と−1次光とに分離され、それら3本の回折光が3個の射出瞳にそれぞれ対応することを示すためである。各射出瞳の直径は例えば約1.5mmである。また、本実施形態においては、それら3個の射出瞳が、各射出瞳の直径とほぼ等しいピッチで一列に並んでいる。すなわち、それら3個の射出瞳が隙間も重なり合いもない状態で一列に並んでいるのであり、そのため、それら3個の射出瞳の全体長さは約4.5mmである。
したがって、本実施形態によれば、回折素子116を使用しない場合より、射出瞳が拡大される。具体的には、射出瞳の、瞳孔12の移動方向における長さが、約1.5mmから約4.5mmというように、もとの射出瞳の約3倍に拡大される。その結果、観察者の瞳孔12の中立位置からの移動方向とレーザビームの走査方向とが互いに逆向きであるために瞳孔12が射出瞳の中心から外れる傾向が強い場合であっても、射出瞳が瞳孔12から完全に外れてしまう可能性が軽減され、よって、安定した画像表示が実現される。
ところで、このRSDにおいては、前述のように、レーザビームの波面曲率の変調によって表示画像の奥行き位置が調節可能となっている。そのため、図6に示す中間像面IP1の位置は固定されておらず、波面曲率の変化すなわち表示画像の奥行き位置の変化に伴って変化する。よって、それにもかかわらず回折素子116を位置固定にして使用すると、回折素子116が中間像面IP1から外れた状態で画像が表示される可能性がある。
回折素子116が中間像面IP1と同一の位置に位置する場合には、レーザビームの走査中における各瞬間において、概念的には1本の光線のみが回折素子116に入射するのに対し、回折素子116が中間像面IP1から外れた位置に位置する場合には、レーザビームの走査中における各瞬間において、概念的には複数本の光線が回折素子116に、それの格子方向において互いに異なる複数の位置にそれぞれ入射することになる。後者の場合には、各入射光ごとに回折光が発生するため、表示画像が多重化してしまう。
このような不都合を解消すべく、本実施形態においては、図6に示すように、回折素子116が、第1リレー光学系110の前段レンズ群112と後段レンズ群114との間において、光路に沿って移動可能に構成されている。
回折素子116は、RSDのうちのハウジング200(静止部材)に機械的変位機構202を介して装着されている。
この機械的変位機構202は、ユーザの操作に応じて機械的に作動することにより、回折素子116を、前段レンズ群112と後段レンズ群114との間の光路上において変位させるように構成されている。具体的には、この機械的変位機構202は、ユーザによって操作される操作部(例えば、回転つまみ)210と、ハウジング200に固定された静止部212と、その静止部212に対して相対的に直線変位可能に支持された直線可動部214とを備えている。
この機械的変位機構202は、さらに、操作部210によって回転させられる回転部220と、その回転部220の回転運動を直線可動部214の直線運動に変換する運動変換機構222とを備えている。その運動変換機構222は、例えば、直線可動部214のめねじと、回転部220のおねじとが互いに螺合されたねじ機構として構成することが可能である。また、この機械的変位機構202は、よく知られたマイクロメータに採用される変位機構と構造的に共通するように設計することが可能である。
したがって、ユーザは、この機械的変位機構202により回折素子116を所望の向きに所望の量で変位させることが可能となる。よって、ユーザは、中間像面IP1に追従するように回折素子116を移動させることが可能となる。
図6には、回折素子116および機械的変位機構202が、水平走査系100に入射するレーザビームが平行光である状態、すなわち、そのレーザビームの波面曲率qが0である状態で示されている。これに対し、図7には、それら回折素子116および機械的変位機構202が、水平走査系100に入射するレーザビームが拡散光である状態、すなわち、そのレーザビームの波面曲率qが0より大きく、奥行き距離Lの逆数に等しい状態で示されている。
したがって、本実施形態によれば、機械的変位機構202を用いたユーザによる回折素子116の手動位置調節により、波面曲率qの変調に起因した表示画像の多重化を防止することが可能となる。
本実施形態においては、前述のように、波面曲率qの変調が、波面曲率変調器88により、表示画像の奥行き位置の調節を目的として行われるが、その奥行き位置の調整は、表示画像のピント調節である点で、観察者の視力に応じた補正をRSD内の光学系に加えるためのディオプタ調節と共通する。したがって、波面曲率qの変調が、奥行き位置の調節という目的に代えてまたはそれと共にディオプタ調節を目的として行われる態様で本発明を実施することが可能である。
本実施形態においては、ユーザが回折素子116の位置を調節する作業を支援するために、図10に示すように、支援画像としてのテストパターン230が網膜14上に表示される。図11には、そのテストパターン230を表示するためにコンピュータ150によって実行されるテストパターン表示プログラムがフローチャートで概念的に表されている。
このテストパターン表示プログラムは、コンピュータ150の電源が投入されている間、繰り返し実行される。各回の実行時には、まず、S31において、このテストパターン表示プログラムの今回の実行がコンピュータ150の電源投入後における初回の実行であるか否かが判定される。今回の実行が初回の実行であれば、その判定がYESとなり、S32に移行する。
これに対し、今回の実行が初回の実行ではない場合には、S31の判定がNOとなり、S33において、今回の画像表示中におけるテストパターン230の前回の表示後に波面曲率qが変調されたか否かが判定される。波面曲率qが変調された場合には、その判定がYESとなり、S32に移行するが、波面曲率qが変調されなかった場合には、S33の判定がNOとなり、直ちにこのテストパターン表示プログラムの一回の実行が終了する。
S32においては、テストパターン230を表示するための輝度信号がROM154から読み込まれる。続いて、S34において、その読み込まれた輝度信号が、外部から信号処理回路60に供給された映像信号に基づく輝度信号に合成される。そのように合成された輝度信号が再現されれば、その映像信号に基づく表示画像(本来の表示画像)に重ねてテストパターン230が表示される。
その後、S35において、S34の実行開始から一定時間が経過したか否かが判定される。一定時間が経過しないうちは、S35の判定がNOとなり、S34に戻り、輝度信号の合成が継続される。これに対し、一定時間が経過すると、S35の判定がYESとなり、直ちにこのテストパターン表示プログラムの一回の実行が終了する。その結果、S34の実行による輝度信号の合成すなわちテストパターン230の表示が解除される。
図10には、このRSDによって画像が表示される表示領域DA内に表示される支援画像の一例がテストパターン230として示されている。その支援画像は、画像の多重化の有無をユーザが肉眼で判断することを支援することを目的とするため、線画または文字を主体として構成することが可能である。
図10(a)には、テストパターン230が、回折素子116の位置調節前の状態、すなわち、画像が多重化している状態で示される一方、図10(b)には、同じテストパターン230が、回折素子116の位置調節後の状態、すなわち、画像が多重化していない状態で示されている。
上述の支援画像は、回折素子116の一つの回折方向(本実施形態においては水平方向)と交差する方向に延びる少なくとも1本の直線を含むように構成することが可能である。これに対し、テストパターン230は、図10に示すように、水平方向に延びる複数本の直線と垂直方向に延びる複数本の直線とを、互いに交差する姿勢で含むように構成されている。
本実施形態においては、回折素子116が、それに入射したレーザビームを一次元的に回折する特性を有するため、図10(a)に示すように、テストパターン230は、回折素子116の回折方向すなわち水平方向にのみ多重化して表示される可能性がある。この場合、観察者は、テストパターン230が表示されている時間内に、回折格子116の位置調整を行い、多重化を解消することができる。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、3個のレーザ30,32,34が互いに共同して前記(1)項における「光源」の一例を構成し、波面曲率変調器88が同項における「波面曲率変調部」の一例を構成し、水平走査系100と垂直走査系120とが互いに共同して同項における「走査部」の一例を構成し、後段レンズ群144が同項における「出射部」の一例を構成し、回折素子116が同項における「瞳拡大素子」の一例を構成し、機械的変位機構202が同項における「位置調節部」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、テストパターン230が前記(11)項における「支援画像」の一例を構成し、コンピュータ150のうち図11に示すテストパターン表示プログラムを実行する部分とROM154のうちテストパターン230を記憶している部分とが互いに共同して同項における「支援画像表示部」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と回折素子の構成が異なるのみで、他の要素については共通するため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1実施形態においては、回折素子116が、入射光を1次元方向にしか回折しないように構成されている。これに対し、本実施形態においては、図12に示すように、回折素子250が、入射光を2次元方向に回折する2次元回折格子252を主体として構成されている。回折素子250は、図4に示す回折素子116と同様な構成を有しており、その回折素子116において1次元回折格子164を2次元回折格子252に置換したものに相当する。
図13には、本実施形態に従うRSDによって画像が表示される表示領域DA内に表示される支援画像の一例がテストパターン260として示されている。図13(a)には、テストパターン260が、回折素子250の位置調節前の状態、すなわち、画像が多重化している状態で示される一方、図13(b)には、同じテストパターン260が、回折素子250の位置調節後の状態、すなわち、画像が多重化していない状態で示されている。
上述の支援画像は、回折素子250の二つの回折方向(本実施形態においては水平方向と垂直方向)と交差する少なくとも一つの方向(斜めの方向を含む。)に延びる少なくとも1本の直線を含むように構成することが可能である。これに対し、テストパターン260は、図10に示すテストパターン230と同様に、水平方向に延びる複数本の直線と垂直方向に延びる複数本の直線とを、互いに交差する姿勢で含むように構成されている。
本実施形態においては、回折素子250が、それに入射したレーザビームを2次元的に回折する特性を有するため、図13(a)に示すように、テストパターン260は、回折素子250の回折方向、すなわち、水平方向および垂直方向の両方において多重化して表示される可能性がある。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、テストパターン260が前記(11)項における「支援画像」の一例を構成し、コンピュータ150のうち図11に示すテストパターン表示プログラムを実行する部分とROM154のうちテストパターン260を記憶している部分とが互いに共同して同項における「支援画像表示部」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第3実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と回折素子の構成が異なるのみで、他の要素については共通するため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
本実施形態においては、操作装置148が、表示画像のピンボケ解消(ディオプタ調節)のために波面曲率qを調節すべくユーザによって操作される操作部(図示しないが、例えば、連続値を設定可能なダイヤルスイッチ)を含んでいる。ユーザ部は、その操作部を操作することにより、波面曲率qの調節量Δqをコンピュータ150に対して入力することが可能である。
ROM154には、第1実施形態における各種プログラムに加えて、図14にフローチャートで概念的に表されている波面曲率調節プログラムも記憶されている。この波面曲率調節プログラムも、コンピュータ150の電源が投入されている間、繰り返し実行される。
各回の実行時には、まず、S51において、前述の操作部の操作状態が監視されることにより、波面曲率qの調節量Δqであってユーザによって指令されたものが取り込まれる。次に、S52において、その取り込まれた調節量Δqが0ではないか否か、すなわち、波面曲率qを調節する指令をユーザが発しているか否かが判定される。
調節量Δqが0である場合には、S52の判定がNOとなり、直ちにこの波面曲率調節プログラムの一回の実行が終了するが、調節量Δqが0ではない場合には、S52の判定がYESとなり、S53に移行する。
このS53においては、その調節量Δqが反映されるように前述の奥行き信号が生成(更新)される。続いて、S54において、その生成された奥行き信号がRAM155にストアされる。その後、S55において、生成された奥行き信号が奥行き信号変換回路158に出力される。その結果、波面曲率qが、ユーザの操作に応じて調節され、それにより、表示画像のピンボケが解消される。
以上で、この波面曲率調節プログラムの一回の実行が終了する。
この波面曲率調節プログラムの実行により、波面曲率wが変調されると、図11に示すテストパターン表示プログラムにおけるS33の判定がYESとなり、その結果、テストパターン230が表示される。
したがって、本実施形態においては、テストパターン230が、表示画像の多重化解消を目的としたユーザによる回折素子116の位置調節作業を支援することが必要である場合のみならず、表示画像のピンボケ解消(ディオプタ調節)を目的としたユーザによる波面曲率変調器88を介した波面曲率調節作業を支援することが必要である場合にも、表示される。
その結果、本実施形態によれば、表示画像の多重化解消のためのユーザの作業と、表示画像のピンボケ解消のためのユーザの作業とに使用されるテストパターンの数が全体として1つで済む。
さらに、本実施形態によれば、使用されるテストパターンの数が1つで済むため、ユーザは、上述の2種類の作業を同じテストパターン230の表示中に連続的に行うことが可能となり、それら2種類の作業を時期的に切り離して行うことが不可欠ではなくなる。
よって、本実施形態によれば、表示画像の多重化解消のためのユーザの作業と、表示画像のピンボケ解消のためのユーザの作業とにつき、テストパターンを一切使用しない場合より、個々の作業の効率が改善され、さらに、各作業ごとに別々のテストパターンを使用する場合より、全体としての作業効率が改善される。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、コンピュータ150のうち図11に示すテストパターン表示プログラムを実行する部分とROM154のうちテストパターン230を記憶している部分とが互いに共同して前記(11)項における「支援画像表示部」の一例を構成し、前述の操作部と、コンピュータ150のうち図14に示す波面曲率調節プログラムを実行する部分とが互いに共同して前記(12)項における「ピント調節部」の一例を構成し、テストパターン230が同項における「支援画像」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第4実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態に対し、回折素子を変位させる方式が異なるのみで、他の要素については共通するため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1実施形態においては、回折素子116の変位が、機械的変位機構202を介して、ユーザによって手動で行われる。これに対し、本実施形態においては、回折素子116の変位が電気的に行われ、さらに、前述の奥行き信号に基づき、中間像面IP1に自動的に追従するように行われる。
図15には、図6および図7と同様にして、本実施形態に従うRSDにおける主要な光路が、説明の便宜上、簡略化されて示されている。本実施形態においては、回折素子116が電気的変位装置300を介してハウジング200に装着されている。
その電気的変位装置300は、機械的変位機構202と共通する構造を有する運動変換部302と、アクチュエータ304とを備えている。運動変換部302は、アクチュエータ304から出力される機械的な運動を、直線可動部214の直線変位すなわち回折素子116の直線変位に変換する。アクチュエータ304は、具体的には、回転部220を回転させるモータである。
その電気的変位装置300は、さらに、アクチュエータ304に駆動信号を出力してそのアクチュエータ304を駆動するドライバ310と、そのドライバ310に指令信号を出力するコントローラ312と、センサ314とを備えている。そのセンサ314は、アクチュエータ304の出力を、回折素子116の実際位置を反映する物理量として検出し、その結果を表す信号を位置検出信号としてコントローラ312に出力する。
コントローラ312は、波面曲率変調器88にも供給される奥行き信号と、センサ314から供給される位置検出信号とに基づき、アクチュエータ304をフィードバック制御するために適当な指令信号を生成する。コントローラ312は、コンピュータ150のうち、図16にフローチャートで概念的に表されている回折素子変位制御プログラムを実行する部分によって構成されている。その回折素子変位制御プログラムは、第1実施形態における各種プログラムと共にROM154に記憶されている。
その回折素子変位制御プログラムも、コンピュータ150の電源が投入されている間、繰り返し実行される。各回の実行時には、まず、S101において、RAM155から最新の奥行き信号が読み込まれる。この奥行き信号は、例えば、画像の各フレームごとに、そのフレームを構成する複数個の画素に共通の奥行きを表す信号として構成される。
次に、S102において、回折素子116の最適位置Dが計算される。回折素子116の位置は、画像の表示位置が光学的に無限である場合に0となり、画像の表示位置が観察者に接近するにつれて増加する値を用いて定義されている。この定義によれば、回折素子116の位置は、第1リレー光学系110の前段レンズ群112に入射するレーザビームが平行光(波面曲率q=0)である場合に成立する中間像面IP1の位置からの隔たりを表すことになる。
最適位置Dは、前記読み込まれた奥行き信号によって表される奥行き距離L(観察者の眼10の位置と、その観察者が、虚像としての表示画像を知覚する位置との間の距離)に基づいて決定される。最適位置Dは、例えば、奥行き距離Lの逆数に応じて増加するように決定される。具体的には、最適位置Dは、その奥行き距離Lと、前段レンズ群112の焦点距離fとを、例えば、
D=f×f/L
なる式に代入することによって計算される。ここでは、最適位置Dが、奥行き距離Lが無限遠方に相当する場合に0であるように設定されており、奥行き距離Lが減少するにつれて最適位置Dが変化する。
続いて、S103において、センサ314から供給された位置検出信号に基づき、回折素子116の現在位置Eが検出される。その後、S104において、その検出された現在位置Eが、最適位置Dに対して設定された許容範囲内にあるか否かが判定される。例えば、その現在位置Eを表す値が、下限値(=0.9×D)と上限値(=1.1×D)との範囲内にあるか否かが判定される。
今回は、現在位置Eが許容範囲内にあると仮定すれば、S104の判定がYESとなり、直ちにこの回折素子変位制御プログラムの一回の実行が終了する。これに対し、今回は、現在位置Eが許容範囲内にはないと仮定すれば、S104の判定がNOとなり、S105に移行する。
このS105においては、現在位置Eを表す値が許容範囲の下限値より小さいか否かが判定される。そうであれば、その判定がYESとなり、S106において、現在位置Eを表す値が増加する向き(回折素子116が観察者に接近する向き)にアクチュエータ304を駆動するための指令信号が生成される。その生成された指令信号は、ドライバ310に出力される。
これに対し、現在位置Eを表す値が許容範囲の上限値より大きい場合には、S105の判定がNOとなり、S107において、現在位置Eを表すが減少する向き(回折素子116が観察者から離間する向き)にアクチュエータ304を駆動するための指令信号が生成される。その生成された指令信号は、ドライバ310に出力される。
いずれの場合にも、その後、S104に戻る。S104ないしS107の実行が、S104の判定がYESとなるまで繰り返され、その結果、回折素子116の現在位置Eが中間像面IP1の実際位置に追跡するように自動的に変位させられ、それにより、回折素子116の存在下において波面曲率qが変調されることに起因した画像の多重化が自動的に防止される。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、電気的変位装置300が前記(1)項における「位置調節部」の一例を構成し、アクチュエータ304が前記(3)項における「アクチュエータ」の一例を構成し、駆動信号が同項、前記(5)項および前記(6)項のそれぞれにおける「駆動信号」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第5実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第4実施形態に対し、回折素子を変位させる方式が異なるのみで、他の要素については共通するため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
本実施形態においては、第4実施形態と同様に、回折素子116の変位が電気的に行われ、さらに、前述の奥行き信号に基づき、中間像面IP1に自動的に追従するように行われる。
ただし、本実施形態においては、第4実施形態とは異なり、奥行き信号が、画像の奥行きを各画素(前記各奥行き表現単位領域の一例)ごとに表すように構成されており、このように構成された奥行き信号が、図1に示すように、映像信号の一部として外部から信号処理回路60に供給される。その奥行き信号に基づき、このRSDから観察者の眼10に出射するレーザビーム(画像光)の波面曲率が各画素ごとに変調される。
さらに、本実施形態においては、第4実施形態と同様に、奥行き信号に基づいて駆動信号が生成され、その生成された駆動信号に基づいてアクチュエータ304が制御される。ただし、本実施形態においては、各画素ごとに奥行きを表す奥行き信号に基づき、1個の画素より大きい画像の1フレーム(前記各アクチュエータ制御単位領域の一例)ごとにアクチュエータ304が制御されて回折素子116の位置が制御される。同じフレームについてはアクチュエータ304の作動状態が変化せず、よって、回折素子116の位置も変化しないように、奥行き信号に基づいて前記駆動信号が生成されてアクチュエータ304に供給される。
すなわち、本実施形態においては、画像の奥行きを各画素ごとに表す奥行き信号に基づき、画像の各画素ごとに波面曲率が変調されるのに対して、瞳拡大素子としての回折素子116を変位させるアクチュエータ304が、奥行き信号に基づき、各画素より大きい画像領域である各フレームごとに制御されるのである。
図17には、本実施形態に従うRSDにおけるコントローラ312のコンピュータ150によって実行される回折素子変位制御プログラムが概念的にフローチャートで表されている。以下、この回折素子変位制御プログラムを図17を参照しつつ説明するが、図16に示す回折素子変位制御プログラムと共通するステップがあるため、共通するステップについては簡単に説明し、異なるステップのみについて詳細に説明する。
図17に示す回折素子変位制御プログラムは、画像の各フレームごとに繰り返し実行される。各回の実行時には、まず、S201において、画像の1フレーム分の奥行き信号が外部から、または信号処理回路60における図示しないバッファから読み取られる。
次に、S202において、その読み取られた奥行き信号に基づき、今回のフレームにおける複数個の画素にそれぞれ割り当てられた複数個の奥行き距離Liを表す複数の奥行きデータが生成される。
続いて、S203において、それら生成された複数の奥行きデータによりそれぞれ表される複数個の個別奥行き距離Liを代表する1個の値が代表奥行き距離Lとして算出される。本実施形態においては、その代表奥行き距離Lが、それら複数個の画素についての複数個の個別奥行き距離Liの単純平均値として算出される。具体的には、それら複数個の個別奥行き距離Liの合計値が、1フレームにおける個別奥行き距離Liの総数n(=画素数)で割り算されることにより、代表奥行き距離Lが計算される。
ただし、1枚のフレームにおける複数個の画素のうち、画質の良否が観察者によって一般的に知覚され易い画像中央位置に属するものを、画像周辺位置に位置するものより重視して代表奥行き距離Lを計算することが可能である。この計算のために、例えば、重みが画像の中央位置について周辺位置より大きくなるように設定された重み付き平均値を前記複数個の個別奥行き距離Liについて計算することが可能である。
いずれにしても、その後、S204において、前記計算された代表奥行き距離Lに基づき、図16におけるS102と同様な計算式により、回折素子116の最適位置Dが計算される。続いて、S205において、図16におけるS103と同様にして、センサ314から供給された位置検出信号に基づき、回折素子116の現在位置Eが検出される。
その後、S206において、図16におけるS104と同様にして、その検出された現在位置Eが、下限値(=0.9×D)と上限値(=1.1×D)との間の範囲として設定された許容範囲内にあるか否かが判定される。
今回は、現在位置Eが許容範囲内にあると仮定すれば、S206の判定がYESとなり、直ちにこの回折素子変位制御プログラムの一回の実行が終了する。これに対し、今回は、現在位置Eが許容範囲内にはないと仮定すれば、S206の判定がNOとなり、S207に移行する。
このS207においては、図16におけるS105と同様にして、現在位置Eを表す値が許容範囲の下限値より小さいか否かが判定される。そうであれば、その判定がYESとなり、S208において、図16におけるS106と同様にして、現在位置Eを表す値が増加する向き(回折素子116が観察者に接近する向き)にアクチュエータ304を駆動するための指令信号が生成される。その生成された指令信号は、ドライバ310に出力される。
これに対し、現在位置Eを表す値が許容範囲の上限値より大きい場合には、S207の判定がNOとなり、S209において、図16におけるS107と同様にして、現在位置Eを表すが減少する向き(回折素子116が観察者から離間する向き)にアクチュエータ304を駆動するための指令信号が生成される。その生成された指令信号は、ドライバ310に出力される。
いずれの場合にも、その後、S206に戻る。S206ないしS209の実行が、S206の判定がYESとなるまで繰り返され、その結果、回折素子116の現在位置Eが中間像面IP1の実際位置に追跡するように自動的に変位させられ、それにより、回折素子116の存在下において波面曲率qが変調されることに起因した画像の多重化が自動的に防止される。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、コントローラ312が前記(7)項における「コントローラ」の一例を構成し、そのコントローラ312のうち図17におけるS201ないしS203を実行する部分が前記(8)における「取得部」および前記(10)項における「取得部」のそれぞれの一例を構成し、そのコントローラ312のうち図17におけるS204ないしS209を実行する部分が前記(8)項における「生成部」の一例を構成しているのである。
以上、本発明の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[発明の開示]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。