JP4584341B2 - チタン板及びチタン板の製造方法 - Google Patents
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Description
特許文献1〜3によれば、表面に硬化層を形成させることで耐焼付き性と成形性を改善できる旨が記載されている。
特許文献4によれば、特許文献1〜3のチタン板よりも表面硬さを適度に下げることができる旨が記載されている。
特許文献5によれば、チタン板の表面の粗さをある程度粗くすることによって、プレス成形時におけるチタン板と成形金型の間への潤滑剤の引き込み量を増大させて焼付きを防止し、プレス成形後の焼付き疵を低減することができる旨が記載されている。
特許文献6によれば、プレス等の加工の際に焼付きが生じ難く、プレス等の成形性が良好で、表面が清浄であり、しかも安価な純チタン板を製造することができる旨が記載されている。
JIS G 0552に規定の切断法により切断した断面を光学顕微鏡で観察した場合における結晶粒径の平均切片長さをこのような特定の数値範囲とすれば、酸洗工程によってチタン板表面の凹凸が適度に粗くなるためより優れた保油性を得ることができる。
このような板厚とすれば、熱交換器用の部材として好適に使用することができるようになる。
また、本発明に係るチタン板の製造方法によれば、良好な耐焼付き性及び耐割れ性を有することで優れたプレス成形性を発揮するチタン板を製造することができる。
ここで、本発明における成形性とは、板材の加工性の他、プレス工具との潤滑性及び工具に対する耐焼付き性を総称したものをいう。
以下、これらを規定したことについて詳細に説明する。
本発明に係るチタン板は、特定の組成のチタン板に限定されるものではないが、母材の成形性確保の観点から以下の組成範囲であることが好ましい。
Oを1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下に抑制し、Feを1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下に抑制し、Hを130ppm以下に抑制し、Cを800ppm以下に抑制し、Nを300ppmに抑制し、その他残部はTiであるのが好ましい。なお、これらのO、Fe、N、C、Hは純チタンに含まれる一般的な不純物元素(積極的に添加しない元素)、つまり、不可避不純物である。
板材表面の平均的な摩擦係数に影響を与えるために算術平均粗さ(Ra)を規定するが、算術平均粗さ(Ra)では凹部の深さを表現することができないため最大高さ(Rz)も併せて規定する。
また、算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)とも粗さの高さ方向(縦方向)のみの情報を定量化したものであり、横方向(面内)の形状の情報が含まれていない。そのため、表面の凹部の面内の形状及び分布状態を定量化するためにひずみ度(Rsk)を規定する。
算術平均粗さ(Ra)は前記したように、板材表面の平均的な摩擦係数に影響を与えるために規定するものである。
算術平均粗さ(Ra)が0.15μm未満であると、保油性を発揮できない。一方で、算術平均粗さ(Ra)が1.5μmを超えると、切欠効果による割れを誘発し、成形性を劣化させる可能性がある。また、摩擦係数が大きくなるので板材の流動を阻害し、局所変形が起こり易くなるため割れが発生し易くなる。さらに、プレス荷重を増大させるため好ましくない。
従って、算術平均粗さ(Ra)は、0.15〜1.5μmの範囲とする必要がある。なお、算術平均粗さ(Ra)は、0.2〜1.5μmの範囲とするのが好ましく、0.2〜1.0μmの範囲とするのがより好ましい。
最大高さ(Rz)は前記したように、凹部の深さを規定するものである。
最大高さ(Rz)が1.5μm未満であると、凹部の深さが不十分で良好な保油性を発揮できないため、成形中に焼付きが発生し易くなる。一方で、最大高さ(Rz)が9.0μmを超えると、切欠効果により割れの起点と成り得る。
従って、最大高さ(Rz)は、1.5〜9.0μmの範囲とする必要がある。なお、最大高さ(Rz)は、1.8〜9.0μmの範囲とするのが好ましく、1.8〜6.0μmの範囲とするのがより好ましい。
ひずみ度(Rsk)は、凹部の頻度・面積率に相当するものである。
ひずみ度(Rsk)が−3.0未満であると、平滑部の面積が減り、平滑部への面圧が上昇するため、局部塑性変形、及び焼付きが発生し易くなる。一方で、ひずみ度(Rsk)が−0.5を超えると、算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)が規定の範囲であっても凸部若しくは角部が多い表面となる場合が多い。そのため、成形時に成形金型が凸部若しくは角部を摺動するため、凸部への面圧が上昇し、表面の局部塑性変形、焼付きが発生し易くなる。その結果、板材の流入が妨げられ、流入が妨げられる2点間で引張変形が起こり、破断が生じ易くなる。
従って、ひずみ度(Rsk)は、−3.0〜−0.5の範囲とする必要がある。なお、ひずみ度(Rsk)は、−3.0〜−1.0の範囲とするのが好ましい。
チタン表面に硬化層が形成されると硬さが向上するが、硬さが向上することによって表面の割れを促進させ易くなる。表面の割れ発生を促進させないようにするため、表面における測定荷重0.098Nでのビッカース硬さと、測定荷重4.9Nでのビッカース硬さを測定し、これらの差を所定の閾値以下となるように規定した。
つまり、表面に窒化物等の硬化層が形成されると硬さの差が45を超え、成形時に表面の割れが発生し易くなり成形性が劣化する。
従って、これらのビッカース硬さの差は45以下とする必要がある。なお、これらのビッカース硬さの差は36以下とするのが好ましく、35以下とするのがより好ましい。
本発明に係るチタン板は、JIS G 0552に規定の切断法により切断した断面を光学顕微鏡で観察した場合における結晶粒径が、平均切片長さで20〜80μmの範囲とするのが好ましい。
JIS G 0552に規定の切断法により切断した断面を光学顕微鏡で観察した場合における結晶粒径の平均切片長さを20〜80μmの範囲とすれば、酸洗工程によって結晶粒径のサイズを反映して表面の凹凸が形成されるためチタン板表面の凹凸が適度に粗くなり、優れた保油性を得ることができる。
一方で、JIS G 0552に規定の切断法により切断した断面を光学顕微鏡で観察した場合における結晶粒径の平均切片長さが80μmを超えると、酸洗工程を行っても表面に形成される凹凸が浅く、また各凹部の間隔が広くなり過ぎるので所望の粗さを得ることができない。そのため、優れた保油性が得られず焼付きを起こし易くなる。さらに、一度焼付きが生じるとそれが中断され難くなる。
従って、前記したように、JIS G 0552に規定の切断法により切断した断面を光学顕微鏡で観察した場合における結晶粒径の平均切片長さは、20〜80μmの範囲とする必要がある。なお、JIS G 0552に規定の切断法により切断した断面を光学顕微鏡で観察した場合における結晶粒径の平均切片長さは20〜65μmの範囲とするのが好ましく、35〜65μmの範囲とするのがより好ましい。
ここで、本発明に係るチタン板の製造方法について具体的に説明する前に、冷間圧延後のチタン板の代表的な製造工程を2つ紹介する。
一つ目は、冷間圧延後に真空焼鈍を行うものであり、二つ目は、冷間圧延後に大気焼鈍を行い、その後に酸洗するものである。
本発明では、後者の製造工程をベースにして、潤滑油の保油性を向上させるように表面の凹凸を形成させ、その形態を制御するために結晶粒径と酸洗条件を特定の条件とし、酸洗後に特定の条件のスキンパス圧延を実施することとした。このようにすることによって、硬化層を用いずに耐焼付き性を向上させることができる。
以下に、本発明に係るチタン板の製造方法について具体的に説明する。
なお、冷間圧延までの工程は、本発明に係るチタン板の表面の形態に大きな影響を及ぼすものではないので、通常行われる条件で鋳造工程、均熱工程、熱間粗圧延工程、熱間仕上工程、巻上工程、冷間圧延工程等を行えばよい。
以下に、本発明のチタン板の製造方法の各工程について説明する。
大気焼鈍工程S1は、冷間圧延後のチタン板を結晶粒径が20〜80μmとなるように大気焼鈍を行う工程である。大気焼鈍工程S1によって冷間圧延後のチタン板の結晶粒径を20〜80μmとすると、後工程の酸洗工程S2によって表面に適度な大きさ(深さ)及び分布状態をもって凹凸を形成させることができるようになる。なお、表面の凹部の深さは最大高さ(Rz)に影響を与え、凹部の分布状態はひずみ度(Rsk)に影響を与える。
なお、結晶粒径は、焼鈍温度と焼鈍時間に依存し、再結晶温度以上(600℃以上)の温度であれば750℃未満の温度域でも長時間の大気焼鈍を行うことによって所望の結晶粒径を得ることが可能である。
酸洗工程S2は、大気焼鈍工程S1後のチタン板を硝酸/フッ酸比が1以上10以下の酸洗浴中で酸洗する工程である。かかる酸洗工程S2は、前記した組成範囲内の酸洗浴を使用した場合、液温65℃で約60秒の処理で片面約20μm除去を行うことが可能である。このような酸洗を行うことでチタン板の表面に所望の形態で凹凸を形成することができるとともに、表面に形成された硬化層を除去することができる。このようにすれば、表面における測定荷重0.098Nでのビッカース硬さが、測定荷重4.9Nでのビッカース硬さよりも高く、その差を45以下とすることができる。
スキンパス圧延工程S3は、酸洗工程S2後のチタン板を圧下率が0.2〜1.0%のスキンパス圧延を行う工程である。スキンパス圧延工程S3は、室温で行うことができ、これにより、表面に形成された凸部を均して適度な平滑部と凹部を具備したチタン板とすることができる。このように、表面に適度な平滑部を具備させることで局所的な面圧を下げることができるとともに、摩擦係数を小さくする効果がある。
かかるスキンパス圧延工程S3を行うことにより、チタン板表面の平均的な摩擦係数を示す算術平均粗さ(Ra)を0.15〜1.5μmの範囲とすることができ、凹部の深さを示す最大高さ(Rz)を1.5〜9.0μmの範囲とすることができ、凹部の分布状態を示すひずみ度(Rsk)を−3.0〜−0.5の範囲とすることができる。
従って、スキンパス圧延工程S3の圧下率は0.2〜1.0%とすることを必要とする。なお、スキンパス圧延工程S3の圧下率は0.3〜0.8%とするのが好ましい。
まず、通常の条件で冷間圧延を施した冷間圧延板を750℃から850℃の温度で大気焼鈍した。結晶粒径は、この大気焼鈍の焼鈍条件で制御した。焼鈍条件を表1に示す。
結晶粒径の測定は、各試験体をJIS G 0552に規定の切断法により切断し、その断面組織を光学顕微鏡で観察した場合における結晶粒径を測定することで行った。なお、結晶粒は等軸状を呈していた。
ビッカース硬さの測定は、測定面を試験体表面とし、JIS Z 2244に準拠した方法で実施した。測定荷重を4.9N(200g)及び0.098N(10g)として各測定荷重について10点測定し、その平均値を測定値として用いた。
測定荷重が4.9Nの測定にはマイクロビッカース硬さ試験機(MATSUZAWA SEIKI DMH−1)を用い、測定荷重0.098Nの測定には超マイクロビッカース硬さ試験機(AKASHI MVK−G3)を用いた。測定荷重4.9Nの測定値と、測定荷重0.098Nと測定荷重4.9Nの差を表1に示した。
表面粗さの測定は、表面粗さ形状測定機(東京精密社製サーフコム1400D)を使用し、JIS B 0601:2001に準拠した方法で測定した。この際、測定距離を7mm、測定速度を0.3mm/secとし、圧延方向に平行方向と垂直方向を各5点測定し、その平均値を表面粗さとした。
成形性の評価は、各試験体に対してプレート式熱交換器の熱交換部分を模擬した成形金型を用いたプレス成形を行い、成形性を評価した。
図2(a)に示すように、成形金型の形状は、成形部が100mm×100mmで、ピッチ10mm、最大高さ4mmの綾線部を6本有し、各綾線部は頂点に、図2(a)の上から下に向かって順にR=0.4、1.8、0.8、1.0、1.4、0.6の6種のR形状を有している。
この成形金型を用いて80ton油圧プレス機によってプレス成形を行った。プレス成形は、各試験体の両面に動粘度34mm2/s(40℃)のプレス油を塗布し、各試験体の圧延方向が図2(a)の上下方向と一致するように下金型上に配置してフランジ部を板押さえで拘束した後、プレス速度1mm/s、押し込み深さ3.8mmの条件で実施した。
成形性の評価は、プレス成形後に各試験体に認められる割れの数で評価した。具体的な評価方法を以下に説明する。
割れの起点となる測定位置A、C、C’、Eについては、割れもくびれも認められない場合を2点、くびれが認められれば1点、割れが認められれば0点と点数を付け、測定位置B、Dについては、割れもくびれも認められない場合を1点、くびれが認められれば0.5点、割れが認められれば0点と点数を付け、さらに各点数に加工Rの逆数を掛けて割れの状態を数値化し、その合計を求めた。この合計値を完全に割れ、くびれが認められない場合を100として規格化した後、温度(T)、潤滑油粘度(μ)、試験片板厚(t)に依存する関数F(T,μ,t)、ならびに金型の綾線の角度(α)、ピッチ(p)に依存する関数G(α,p)を掛け合わせて、成形性スコアとして算出した。なお、FならびにGは0から1の値を取る。以上の成形性スコア算出方法は下記式(2)によって表される。
・・・式(2)
ここで、式(2)において、
A、C、C’、Eの場合は、E(ij)=1.0×(割れなし;2、くびれ;1、割れ;0)とし、
B、Dの場合は、E(ij)=0.5×(割れなし;2、くびれ;1、割れ;0)として算出した。
また、本実施例では温度(T)、潤滑油粘度(μ)、試験片板厚(t)、金型の綾線の角度(α)、およびピッチ(p)を一定としたため、F×Gを便宜的に1としてスコアを算出した。
そして、試験体12、13は、結晶粒径が小さ過ぎるため、酸洗工程で得られる表面の凹凸が浅くなり、保油性が悪くなった結果、成形性が悪くなったと思われる(比較例)。
また、図3(b)に示すように、試験体7の表面の任意の位置における3mmの幅において、表面に凹部が適度な分布状態をもって分散して形成されていることと、凸部がほとんど形成されていないことが分かる。
また、図4(b)に示すように、試験体10の表面の任意の位置における3mmの幅において、凹部がほとんど形成されていないこと、及び凸部が多く形成されていることが分かる。
S2 酸洗工程
S3 スキンパス圧延工程
Claims (4)
- 算術平均粗さ(Ra)が0.15〜1.5μmの範囲であり、
最大高さ(Rz)が1.5〜9.0μmの範囲であり、
ひずみ度(Rsk)が−3.0〜−0.5の範囲であり、且つ
表面における測定荷重0.098Nでのビッカース硬さが、測定荷重4.9Nでのビッカース硬さよりも高く、その差が45以下である
ことを特徴とするチタン板。 - JIS G 0552に規定の切断法により切断した断面を光学顕微鏡で観察した場合における結晶粒径が、平均切片長さで20〜80μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のチタン板。
- 板厚が1.0mm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のチタン板。
- 冷間圧延後のチタン板を結晶粒径が20〜80μmとなるように大気焼鈍を行う大気焼鈍工程と、
前記大気焼鈍工程後のチタン板を硝酸/フッ酸比が1以上10以下の酸洗浴中で酸洗する酸洗工程と、
前記酸洗工程後のチタン板を圧下率が0.2〜1.0%のスキンパス圧延を行うスキンパス圧延工程と、
を含むことを特徴とするチタン板の製造方法。
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