JP4568464B2 - 記憶障害予防治療剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リン脂質の1種であるスフィンゴミエリンを有効成分として含有するプロテインキナーゼC活性促進剤に関する。プロテインキナーゼC活性を上昇させる物質は、アルツハイマー型痴呆症のような中枢退行性疾病に対して予防・治療の作用を有すると考えられている。
【0002】
【従来の技術】
近年、平均寿命の延長と共に、高齢者が急激に増加し、高齢化社会としての様々な問題が生じている。なかでも、老人性痴呆症の増加は大きな問題である。老人性痴呆症は大別して、脳血管性痴呆症とアルツハイマー型痴呆症とに分けられるが、中でも、アルツハイマー型痴呆症は、今後我が国でも急激な増加が予想されており、その発症、進展の機構について精力的な研究が進められているが、有効な治療法がなく、社会問題となり、その有効な治療薬の開発が切望されている。
【0003】
アルツハイマー型痴呆症のような中枢退行性疾患においては、前脳基底部(中隔野、ブロッカー対角帯およびマイネルト基底核)のコリン作動性神経細胞の変性脱落により、神経伝達物質であるアセチルコリンが生産されず顕著な低下が惹起される。アセチルコリンの低下が、アルツハイマー型痴呆症の記憶学習障害の原因と考えられている〔Whiteahouse et al, Science, 215, 1237-1239 (1982); Coyle et al, Science, 219, 1184-1190 (1983)〕。実験的には、ラットの前脳基底部のコリン作動性神経細胞を破壊するとアセチルコリン量の低下と記憶障害が惹起されることが報告されている〔Helper et al, J. Neurosci., 5, 866-873 (1985)〕。1980年代に入って、海馬の長期増強と学習・記憶の相関が注目され、細胞内カルシウムの上昇がカルモジュリン依存性キナーゼないしプロテインキナーゼCを介して長期増強を誘導することによって脳を活性化すると考えられている〔中川八郎, 代謝, 26, 臨時増刊号, 脳代謝とその異常, 37-44 (1989)〕。
また、プロテインキナーゼCは、アルツハイマー病患者の脳(側頭葉組織膜画分)で減少し、かつ海馬膜分画において免疫反応性が低下していることが報告されている〔下濱 俊ら、第35回日本神経化学会大会論文集, 92 (1992); Maslish E. et al, J. Neurosci., 10, 2113-2124 (1990);下濱 俊、最新医学, 47, 602 (1992)〕。
そして、脳内に高濃度に存在するプロテインキナーゼCの活性化がアルツハイマー型痴呆症の治療に効果があると考えられている。
以上のことから、脳内のプロテインキナーゼC活性を上昇させる物質は、アルツハイマー型痴呆症のような中枢退行性疾病に対して予防・治療の作用を有すると考えられている。
【0004】
一方、スフィンゴミエリンは、リン脂質の一種で、卵黄や乳中に多く分布しており、細胞膜や血清リポタンパク質の構成成分として分布している。そして、生体内でのスフィンゴミエリンは、情報伝達系を介して細胞の増殖や分化に影響を及ぼしていることが知られている。
しかし、スフィンゴミエリンが、アルツハイマー型記憶障害の予防や治療に有効であることは知られていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、アルツハイマー型記憶障害を予防あるいは治療の作用を有すると考えられているプロテインキナーゼC活性促進剤及び飲食品を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、スフィンゴミエリンが、経口摂取により、脳内のプロテインキナーゼC活性を上昇させる作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、スフィンゴミエリンを有効成分として含有するアルツハイマー型記憶障害の予防、治療剤に関する。本発明においては、精製して純度を高めたスフィンゴミエリンを使用してもよいし、スフィンゴミエリンを含有するリン脂質の形態で使用してもよい。
【0007】
なお、スフィンゴミエリンやスフィンゴミエリン含有リン脂質については、次のような方法により調製することができる。例えば、乳やホエータンパク質濃縮物(WPC)等の乳製品をエーテルやアセトンで抽出する方法 (特開平3- 47192号公報) により得られる乳由来のスフィンゴミエリン含有リン脂質 (リン脂質中スフィンゴミエリン約28%含有) を使用することができ、また、バターを加温融解することにより得られるバターカードやバターセーラムを含む水性画分をスフィンゴミエリン含有リン脂質 (リン脂質中スフィンゴミエリン約9%含有) として使用することができ、さらに、バターミルクやバターセーラム中に含まれる乳脂肪球被膜画分をスフィンゴミエリン含有リン脂質 (リン脂質中スフィンゴミエリン約9%含有) として使用することができる。また、動物の脳や、スフィンゴミエリン産生能を持つ微生物の培養液も、スフィンゴミエリン含有リン脂質として使用することができる。そして、これらのスフィンゴミエリン含有リン脂質を透析、硫安分画、ゲル濾過、等電点沈澱、イオン交換クロマトグラフィー、溶媒分画等の手法により精製することにより純度を高めたスフィンゴミエリンを使用しても良い。また、これらのスフィンゴミエリンやスフィンゴミエリン含有リン脂質は、液体の状態で使用しても良いし、粉末の状態で使用しても良い。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明は、スフィンゴミエリンを有効成分として含有するアルツハイマー型記憶障害の予防、治療剤である。このアルツハイマー型記憶障害の予防、治療剤の剤型は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤等とすれば良い。また、こられの剤型は、従来より知られている方法で製造することができ、例えば、製剤製造上許容されている担体や賦形剤等と混合して成型すれば良い。
【0009】
また、本発明は、スフィンゴミエリンを有効成分として含有するアルツハイマー型記憶障害の予防、治療用飲食品である。このアルツハイマー型記憶障害の予防、治療用飲食品飲食品は、スフィンゴミエリンを牛乳、乳飲料、コーヒー飲料、ジュース、ゼリー、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食、さらには、必須脂肪酸や脂溶性ビタミンの補給を目的とした栄養組成物等に配合したものである。
【0010】
なお、本発明で、アルツハイマー型記憶障害の予防、治療効果を発揮させるためには、成人の場合、スフィンゴミエリンとして1日当たり10〜2,500mg 、好ましくは50〜2,500mg摂取できるように配合量等を調整すれば良い。
次に実施例及び実験例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0011】
【実施例1】
ホエータンパク質濃縮物(WPC)の10%水溶液にプロテアーゼを作用させて得られた反応液をクロロホルム−メタノール(2:1)溶液で抽出した後、濃縮し、さらに、アセトン抽出して複合脂質画分を得た。次に、この複合脂質画分をフロロシリルカラムクロマトグラフィー処理し、クロロホルム−メタノール溶液で段階抽出してリン脂質画分を得た。そして、このリン脂質画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー処理し、クロロホルム−メタノール溶液で段階抽出してスフィンゴミエリンを得た。得られたスフィンゴミエリンについては、凍結乾燥してアルツハイマー型記憶障害の予防、治療剤とした。なお、このスフィンゴミエリンを薄層クロマトグラフィー処理した後、ディットマー試薬で発色し、デンシトメトリー法で測定したところ、スフィンゴミエリン含量は95.2重量%であった。したがってこのアルツハイマー型記憶障害の予防、治療剤を1日当たり11mg以上摂取すれば、アルツハイマー型記憶障害の予防及び治療に有効である。
【0012】
【試験例1】
実施例1で得られたスフィンゴミエリンを使用し、マウスによる動物実験で、アルツハイマー型記憶障害の予防、治療効果を調べた。すなわち、5週齢の老化促進マウス(SAMP/8系)を各群20匹ずつ実験動物として使用した。そして、表1に示した配合の実験飼料で、スフィンゴミエリン添加量を0.5%とし、その他の配合についてはAIN-76組成に準じた実験飼料を1ヶ月間給餌した。
【0013】
【表1】
【0014】
実験飼料投与後、心臓より脱血して脳を採取し、直ちに5倍量の氷冷ホモジナイズ用緩衝液(0.25M スクロース, 10mM Hepes, 2mM EDTA, 5mM EGTA, 1mM PMSF, 10mM β-メルカプトエタノール, 10μg/ml ロイペプチン, pH7.5)中でホモジナイズした後、105,000×g、60分間、4℃で遠心分離して、上清を得た。この上清について、Hepes緩衝液(10mM Hepes, 20mM NaCl, 0.2mM EDTA, 0.5mM EGTA, 1mM PMSF, 10mM β-メルカプトエタノール, pH7.4)で平衡化したDERE-セルロースカラム(DE-52)で精製して、プロテインキナーゼC抽出液とした。
【0015】
このようにして得られたプロテインキナーゼC抽出液のプロテインキナーゼC活性は、ヒストンへの[γ-32P]ATPの取り込みを調べることにより評価した。すなわち、反応液0.1ml(20mM Hepes pH7.5, 1mM 酢酸マグネシウム, 50μM [γ-32P]ATP(0.5μCi), 500μg/ml フォスファチジルセリン, 8μg/ml 1-オレオイル-2-アセチル-sn-グリセロール, 上記プロテインキナーゼC抽出液)を3分間、30℃でインキュベートした後、40%トリクロロ酢酸0.1mlを加えて反応を停止させ、50mM ATPと5mg/ml BSAをそれぞれ0.1ml加えて遠心し、沈殿中の32Pを液体シンチレーションカウンターで計測した。そして、プロテインキナーゼC抽出液のタンパク質当たり、1分間のヒストンへの[γ-32P]ATPの取り込み量として、プロテインキナーゼC活性を表した。その結果を図1に示す。
【0016】
これによると、本発明群において有意にプロテインキナーゼC活性の上昇が見られた。したがって、スフィンゴミエリンは、老化によるプロテインキナーゼC活性の低下を抑制する効果があり、アルツハイマー型記憶障害の予防や治療に有効であることが示唆された。
【0017】
【実施例2】
表2に示す組成で、常法に従い錠剤を製造し、アルツハイマー型記憶障害の予防、治療剤とした。なお、この錠剤中に含まれるスフィンゴミエリン量は9.5重量%であった。したがってこの錠剤を1日当たり110mg以上摂取すれば、アルツハイマー型記憶障害の予防及び治療に有効である。
【0018】
【表2】
【0019】
【実施例3】
実施例1に示した方法と同様の方法によりリン脂質画分を調製し、このリン脂質画分をスフィンゴミエリン含有リン脂質とした。そして、得られたスフィンゴミエリン含有リン脂質については、凍結乾燥してアルツハイマー型記憶障害の予防、治療剤とした。なお、このスフィンゴミエリン含有リン脂質中に含まれるスフィンゴミエリン含量は25.0%重量であった。したがってこのアルツハイマー型記憶障害の予防、治療剤を1日当たり40mg以上摂取すれば、アルツハイマー型記憶障害の予防及び治療に有効である。
【0020】
【実施例4】
実施例3で得られたスフィンゴミエリン含有リン脂質を配合して、アルツハイマー型記憶障害の予防、治療用乳飲料を製造した。すなわち、牛乳20kg、脱脂粉乳21.6kg及び水56kgを調合して乳ベースを調製した後、この乳ベースに、グラニュー糖1kg及びスフィンゴミエリン含有リン脂質0.37kgを添加し、ホモジナイザーで均質圧 200kg/cm2として乳化した。そして、充填温度90℃でこれを 200ml缶に充填し、巻締めした後、 121℃、10分間のレトルト殺菌を行い、冷却して缶入り乳飲料を製造した。なお、この缶入り乳飲料1缶(200ml)中には、スフィンゴミエリン185mgが含まれていた。さらに、この缶入り乳飲料は、殆ど褐変しておらず、牛乳の風味を有するものであった。
【0021】
【実施例4】
実施例3で得られたスフィンゴミエリン含有リン脂質を配合して、アルツハイマー型記憶障害の予防、治療用経管・経口栄養食を製造した。すなわち、75℃に加温した水 1.5 lに、デキストリン632g、カゼインナトリウム174g、脱脂粉乳 33g、ショ糖脂肪酸エステル6g、パーム油分別油 62gとスフィンゴミエリン含有リン脂質 45gとを混合した油脂混合物107g及び第3リン酸カリウム7gを水50mlに溶解した溶液を添加混合し、さらに、塩化カルシウム4g/160mlの溶液、硫酸マグネシウム7g/160mlの溶液、ビタミン混合物4g/53mlの溶液及びミネラル混合物6g/53mlの溶液を添加混合した。次に、この混合物をコロイドミルで予備乳化した後、ホモジナイザーで均質圧 400kg/cm2として乳化した。そして、 121℃、15秒で加熱殺菌した後、噴霧乾燥して、経管・経口栄養食約1kgを得、アルミ箔製容器に92gずつ窒素充填包装して経管・経口栄養食を製造した。なお、この栄養組成物中に含まれるスフィンゴミエリン含量は、1.1重量%であった。したがって本経管・経口栄養食を1日当たり1容器分(92g)摂取すれば、約1kcalのエネルギーを供給することができ、さらに、アルツハイマー型記憶障害の予防及び治療に有効である。
【0022】
【実施例5】
脂肪率を50%に調整したクリームを3倍量の水で洗浄し、4℃で一晩放置した後、バターチャーンで処理して、バター粒とバターミルクに分離した。次に、このバターミルクについて、硫安分画、遠心分離及び透析を行って乳脂肪球被膜画分を調製し、この乳脂肪球被膜画分をスフィンゴミエリン含有リン脂質とした。
そして、得られたスフィンゴミエリン含有リン脂質については、凍結乾燥してアルツハイマー型記憶障害の予防、治療剤とした。なお、このスフィンゴミエリン含有リン脂質中に含まれるスフィンゴミエリン含量は10.4重量%であった。したがってこのアルツハイマー型記憶障害の予防、治療剤を1日当たり100mg以上摂取すれば、アルツハイマー型記憶障害の予防及び治療に有効である。
【0023】
【実施例6】
実施例5で得られたスフィンゴミエリン含有リン脂質を配合して、アルツハイマー型記憶障害の予防・改善・治療用栄養組成物を製造した。すなわち、溶解水60kg中に、乳タンパク質 3.4kg及び大豆タンパク質1.14kgを分散し、70℃まで加温して溶解した後、デキストリン12.4kgを添加し、さらに、大豆油、パーム油及び精製魚油を混合した油脂類 2.4kg、スフィンゴミエリン含有リン脂質 0.2kgを添加した。次に、TKホモミキサーで予備乳化した後、濃縮し、噴霧乾燥して、原料粉末を調製した。そして、この原料粉末に、適量のミネラル、ビタミン、香料等を添加し、混合して、粉末状のアルツハイマー型記憶障害の予防、治療用栄養組成物を製造した。なお、この栄養組成物中に含まれるスフィンゴミエリン含量は、0.3重量%であった。したがって本栄養組成物を1日当たり3.5g以上摂取すれば、アルツハイマー型記憶障害の予防及び治療に有効である。
【0024】
【発明の効果】
本発明のスフィンゴミエリンを有効成分として含有するアルツハイマー型記憶障害の予防、治療剤は、経口摂取により、脳内のプロテインキナーゼC活性を上昇させる作用を有するので、アルツハイマー型記憶障害の予防、治療剤として有利に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】試験例1の各実験群におけるプロテインキナーゼC活性を示す。
Claims (1)
- スフィンゴミエリンを有効成分として含有するプロテインキナーゼC活性促進剤。
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