JP4565447B2 - カルボン酸の製造方法 - Google Patents
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一般に酵素反応は水溶液中で高活性を示すが、有機溶媒存在下では活性が著しく低下するか活性を全く示さないことがある。実際に、水溶性の低いニトリルを原料とする場合、予め有機溶媒を用いて溶解することが望ましいが、上述したアースロバクター属由来のニトリラーゼは有機溶媒に対する耐性を有しない。したがって、既知のアースロバクター属微生物由来のニトリラーゼ酵素は、水溶性の低いニトリルを原料としたカルボン酸の製造手段として適していなかった。
一方、非特許文献1には、シュードモナス属に属する微生物由来のニトリラーゼが炭素数6〜16のアルカン、炭素数6〜11のアルカノールに対して耐性を示すことが報告されているが、該ニトリラーゼが水溶性有機溶媒に対する耐性を示すかは不明である。
2. アースロバクター エスピー F−73株または該株由来のニトリラーゼ活性を有する酵素活性物質を水系反応液中でニトリルと接触させて該ニトリルから生成されるカルボン酸を回収する、カルボン酸の製造方法。
3. 40%アセトン存在下20℃で60分処理した時のニトリラーゼ活性が10%以上残存するアースロバクター属に属する微生物または該微生物由来のニトリラーゼ活性を有する酵素活性物質を、有機溶媒が添加された水系反応液中でニトリルと接触させて該ニトリルから生成されるカルボン酸を回収する、カルボン酸の製造方法。
4. 水系反応液への有機溶媒の添加濃度が、60%(V/V)以下である、上記3記載の製造方法。
5. 有機溶媒がアルコール類、ケトン類、アミド類、ジメチルスルホキシド、エステル類、ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素類またはエーテル類から選択される少なくとも1種以上である、上記3又は4記載の製造方法。
6. アルコール類がメタノール、エタノール、プロパノール、1−オクタノール、1,3−プロパンジオールまたはエチレングリコールのいずれか又は組合せ、
ケトン類がアセトン、
アミド類がジメチルホルムアミド、
エステルが酢酸エチル、
ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素がトルエン、シクロヘキサン、オクタンまたはクロロホルム、
エーテル類が1,4−ジオキサンまたはテトラヒドロフランである、上記5記載の製造方法。
7. ニトリルが、α−ヒドロキシニトリルである、上記2〜6のいずれかに記載の製造方法。
8. ニトリルが、ベンゼン環上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよいマンデロニトリルである、上記2〜6のいずれかに記載のカルボン酸の製造方法。
9. α−ヒドロキシニトリルが、水系反応液中に添加されたアルデヒド及び青酸塩により生成される、上記7記載の製造方法。
10. 水系反応液に添加された有機溶媒が、水系溶媒と二層を形成し得る有機溶媒である、上記9記載の製造方法。
11. アルデヒドが、ベンゼン環上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよいベンズアルデヒドである、上記9記載の製造方法。
12. 有機溶媒が、酢酸エチルである、上記10記載の製造方法。
13. アースロバクター属に属する微生物がアースロバクター エスピー F−73株である、上記2〜12のいずれかに記載の製造方法。
飽和モノニトリル:アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、イソバレロニトリル、カプロニトリルなど
飽和ジニトリル類:マロニトリル、サクシノニトリル、グルタルニトリル、アジポニトリルなど
α−アミノニトリル類:α−アミノプロピオニトリル、α−アミノメチルチオブチロニトリル、α−アミノブチロニトリル、アミノアセトニトリルなど
カルボキシル基を有するニトリル類:シアノ酢酸など
β−アミノニトリル類:アミノ−3−プロピオニトリルなど
不飽和ニトリル類:アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化アリル、クロトンニトリルなど
芳香族ニトリル類:ベンゾニトリル、o−、m−またはp−クロロベンゾニトリル、o−、m−またはp−フルオロベンゾニトリル、o−、m−またはp−ニトロベンゾニトリル、p−アミノベンゾニトリル、4−シアノフェノール、o−、m−またはp−トルニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、アニソニトリル、α−ナフトニトリル、β−ナフトニトリル、フタロニトリル、イソフタロニトリル、テレフタロニトリル、シアン化ベンジル、フェニルアセトニトリルなど
α−ヒドロキシニトリル類:α−ヒドロキシ−n−プロピオニトリル、α−ヒドロキシ−n−ブチロニトリル、α−ヒドロキシ−イソブチロニトリル、α−ヒドロキシ−n−ヘキシロニトリル、α−ヒドロキシ−n−ヘプチロニトリル、α−ヒドロキシ−n−オクチロニトリル、α,γ−ジヒドロキシ−β,β−ジメチルブチロニトリル、アクロレインシアンヒドリン、メタアクリルアルデヒドシアンヒドリン、3−クロロラクトニトリル、4−メチルチオ−α−ヒドロキシブチロニトリル、α−ヒドロキシ−α−フェニルプロピオニル、マンデロニトリル、2−クロロマンデロニトリル、3−クロロマンデロニトリル、2−チオフェンカルボキシアルデヒドシアンヒドリン、2−ピリジンカルボキシアルデヒドシアンヒドリン、2−ピロールカルボキシアルデヒドシアンヒドリン、2−フルアルデヒドシアンヒドリンまたは2−ナフチルアルデヒドシアンヒドリンなど
水溶性アルコール類:メタノール、エタノール、プロパノール、1,3−プロパンジオール、エチレングリコールなど
水溶性ケトン類:アセトンなど
アミド類:ジメチルホルムアミドなど
エステル類:酢酸エチルまたは酢酸ブチルなど
ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素類:トルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、オクタンまたはクロロホルムなど
高級アルコール類:1−オクタノールなど
エーテル類:1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなど
酵素活性の測定方法:
実施例におけるニトリラーゼ活性の標準的な測定方法は次のとおりである。なお、酵素反応の基本反応液組成は次の通りとした:Total volume 2.00 ml:2-Thiopheneacetonitrile 10mM、KPB (pH7.0) 50mM、酵素溶液 0.10 ml、0.85% (w/v) NaClaq 0.90 ml。
酵素反応は、基質化合物である2−チオフェンアセトニトリルの添加で反応を開始し、30℃で10分間行った。3N塩酸を0.1ml添加し、激しく振盪させて、反応を停止させた。反応液中に生成した2−チオフェン酢酸を以下に示すHPLCで定量し、ニトリラーゼ活性を算出した。
反応液のHPLC分析の条件:
・カラム:Wakosil−II 5C18 RS (4.6×150nm)、
・移動相:50mM K2HPO4(pH2.8)/CH3OH=7/3(v/v)
・流速:1.0ml/min.、検出:UV235nm、カラム温度:40℃
上記ニトリラーゼ活性の算出において、ニトリラーゼ1Uは標準反応液組成において30℃で1分間に1μmolの2−チオフェン酢酸を生成する酵素量と定義した。
各種ニトリルを含有した培地で集積培養して、ニトリル分解菌の中から特に分解能力の高い菌株として岐阜大学の構内から採取された土壌より分離したF−73株を選択した。
前培養培地(pH7.0):
ポリペプトン 5.0g、肉エキス 5.0g、NaCl 2.0g、酵母エキス 0.5g、蒸留水 1.0L。
本培養培地(pH7.0):
2−チオフェンアセトニトリル 1.5ml、ラクト−ス 1.0g、酵母エキス 1.0g、MgSO47H2O 0.2g、K2HPO4 1.0g、蒸留水 1.0L。
Arthrobacter sp. F−73を前培養培地A(ペプトン 0.5g、肉エキス 0.5g、NaCl 0.2g、酵母エキス 0.05g、蒸留水 100ml、pH7.0)4ml/試験管で一日間、28℃で培養した後に本培養培地B(酵母エキス 1.0g、グルタミン酸Na 4.0g、KH2PO4 1.0g、MgSO4・7H2O 0.5g、イソバレロニトリル 3ml、蒸留水 1 L、pH7.0)40ml/500ml坂口フラスコで28℃、三日間培養した。
2−チオフェンアセトニトリル、1−ナフチルアセトニトリル、プロピオニトリル、n−ブチロニトリル、n−バレロニトリル、アクリロニトリル、クロトノニトリル、2−シアノフラン、シアノピラジン、3−チオフェンアセトニトリル、3−インドールアセトニトリル、ベンジルシアニド、3−トリルアセトニトリル、4−トリルアセトニトリル、2−ピリジンアセトニトリル、3−ピリジンアセトニトリル、2−ヒドロキシ−4−チオメチルブチロニトリル、マンデロニトリル、2−クロロマンデロニトリルを基質として、それぞれの対応するカルボン酸の生成を測定した。結果を表1に示した。
実施例2の反応液に終濃度が最大60%(v/v)になるようにアセトンを添加して、反応温度20℃とした以外は実施例2と同様にして反応を行った。表3に示したようにアセトン濃度60%でも、10%以上のニトリラーゼ活性が残存することがわかった。比較のため同様に培養したAlcaligenes faecalis JM3を用いて反応を行ったが、表2に示したようにアセトン濃度30%以上で活性はみられなくなった。
実施例1の反応液に終濃度が20%、40%(v/v)になるように有機溶媒(アセトン、メタノール、n−ヘキサンまたはDMSO)を添加して、実施例3と同様な条件で反応を行った。それぞれ表3〜6に示したように有機溶媒濃度40%でも活性があることが示された。
実施例2の培養菌体48mgを反応液(2−クロロマンデロニトリル 40mM、リン酸カリ緩衝液(pH8.0)100mM、有機溶媒20%v/v)2.0ml/試験管で22時間、30℃で反応した。結果を表7に示した。アセトン、DMF、1,3−プロパンジオール、THFを添加した系で光学純度が高くなった。
実施例2の培養菌体580mg(乾燥菌体)を反応液(2−クロロマンデロニトリルは初発40mM、逐次20mM添加で計240mM、bisulfite 20mM、リン酸カリ緩衝液pH8.0 100mM、有機溶媒 20%v/v)10ml/試験管で160rpm、30℃の条件で24時間反応した。収率は61.7%、光学純度93.8%eeの(R)−2−クロロマンデル酸が得られた。
実施例6と同様に培養菌体580mg(乾燥菌体)を反応液(クロロマンデロニトリルは初発40mM、逐次20mM添加で計280mM、リン酸カリ緩衝液pH8.0 100mM、有機溶媒 20%v/v)10ml/試験管で160rpm、30℃の条件で24時間反応した。収率は81.1%、光学純度93.4%eeの(R)−マンデル酸が得られた。
実施例6同様に培養菌体580mg(乾燥菌体)を反応液(クロロマンデロニトリルは初発100mM、2.5時間、4.5時間、6.5時間後に逐次100mM添加で計400mM、トリス塩酸緩衝液pH9.0 50mM、酢酸エチル 10%v/v)10ml/試験管で160rpm、30℃の条件で9時間反応した。収率は92%、光学純度98.5%eeの(R)−2−クロロマンデル酸が得られた。124mgの(R)−2−クロロマンデル酸を含有する反応終了液を減圧下、酢酸エチルを除き、15000rpm、10分間、遠心分離を行い、菌体と残存した基質を除いた。NaHCO3と酢酸エチルと塩酸を加え、酢酸エチルに抽出した後、減圧下脱溶媒を行ったところ、収率89%で110mgの光学純度99.3%eeの(R)−2−クロロマンデル酸の結晶が得られた。NMR分析の結果、標品と一致した。
2-クロロベンズアルデヒド 200 mM, KCN 200 mM, リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0) 100 mM, 20%(v/v) 酢酸エチルを含む反応液に実施例1の培養菌体 (乾燥重量18.0 mg)を添加して、20℃で24時間振反応させた結果、135 mM(25.2 g/L)のR-2-クロロマンデル酸を生成し、そのe.e.は100%を示した。
実施例8同様に培養菌体580mg(乾燥菌体)を反応液(クロロマンデロニトリルは初発100mM、2.5時間に逐次100mM添加で計200mM、トリス塩酸緩衝液pH9.0 50mM)10ml/試験管で160rpm、30℃の条件で21.5時間反応した。収率は78%、光学純度85.9%eeの(R)−2−クロロマンデル酸が得られた。実施例7の酢酸エチルを添加した系と比較して蓄積量、収率、光学純度とも低かった。
酢酸エチルを添加しない以外は実施例9と同様に反応させた結果、2-クロロベンズアルデヒドはほとんど反応系に溶解せず反応はほとんど進行しなかった。その生成量は2 mMであり、その光学純度は73%e.e.であった。
Claims (8)
- 受託番号FERM P-20349で表されるアースロバクター エスピー F−73(Arthrobacter sp. F-73)株。
- 受託番号FERM P-20349で表されるアースロバクター エスピー F−73(Arthrobacter sp. F-73)株または該株由来のニトリラーゼ活性を有する酵素活性物質を水系反応液中でニトリルと接触させて該ニトリルから生成されるカルボン酸を回収する、カルボン酸の製造方法であって、ニトリルが、2−チオフェンアセトニトリル、n−バレロニトリル、アクリロニトリル、2−シアノフラン、3−チオフェンアセトニトリル、3−インドールアセトニトリル、ベンジルシアニド、3−トリルアセトニトリル、4−トリルアセトニトリル、2−ピリジンアセトニトリル、3−ピリジンアセトニトリル、マンデロニトリル、2−クロロマンデロニトリルからなる群より選択される、方法。
- 受託番号FERM P-20349で表されるアースロバクター エスピー F−73(Arthrobacter sp. F-73)株または該株由来のニトリラーゼ活性を有する酵素活性物質を、有機溶媒が添加された水系反応液中でニトリルと接触させて該ニトリルから生成されるカルボン酸を回収する、カルボン酸の製造方法であって、ニトリルが、2−チオフェンアセトニトリル、アクリロニトリル、2−シアノフラン、3−チオフェンアセトニトリル、3−インドールアセトニトリル、ベンジルシアニド、3−トリルアセトニトリル、4−トリルアセトニトリル、2−ピリジンアセトニトリル、3−ピリジンアセトニトリル、マンデロニトリル、2−クロロマンデロニトリルからなる群より選択され、有機溶媒がアルコール類、ケトン類、アミド類、ジメチルスルホキシド、エステル類、ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素類またはエーテル類から選択される少なくとも1種以上であって、かつ、
アルコール類がメタノール、エタノール、プロパノール、1−オクタノール、1,3−プロパンジオールまたはエチレングリコールのいずれか又は組合せ、
ケトン類がアセトン、
アミド類がジメチルホルムアミド、
エステルが酢酸エチル、
ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素がトルエン、シクロヘキサン、オクタンまたはクロロホルム、
エーテル類が1,4−ジオキサンまたはテトラヒドロフランである、方法。 - 水系反応液への有機溶媒の添加濃度が、60%(V/V)以下である、請求項3記載の製造方法。
- ニトリルが、マンデロニトリルまたは2−クロロマンデロニトリルである、請求項2〜4のいずれかに記載のカルボン酸の製造方法。
- マンデロニトリルまたは2−クロロマンデロニトリルが、水系反応液中に添加されたそれぞれベンズアルデヒドまたは2−クロロベンズアルデヒドと青酸塩とから生成される、請求項5記載の製造方法。
- 水系反応液に添加された有機溶媒が、水系溶媒と二層を形成し得る有機溶媒である、請求項6記載の製造方法。
- 有機溶媒が、酢酸エチルである請求項7記載の製造方法。
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