JP4565072B2 - 磁界センサ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ナビゲータの電子コンパス、セキュリティシステム、電磁的非破壊検査などに適した磁界センサに関する。
【0002】
【従来の技術】
小型化に適した磁界センサに、磁性ワイヤや磁性薄膜を用いる直交フラックスゲートと磁気−インピーダンス効果を用いるものがある。
このうち、前記直交フラックスゲート型センサは、磁性ワイヤに直接交流励磁電流を通電し、磁性ワイヤの方向に印加された磁界により、磁性ワイヤの周囲に巻回されたコイルに発生する励磁周波数fの2倍の2f成分の誘起電圧をセンサ出力としているものである。この方法は、1953年T.M.PalmerによってProc.IEE(London)Vol.100,PartB, pp.545-550 に "A Small Sensitive Magnetometer" として報告されている。この中では、磁性ワイヤとして線径 42 S.W.G.(約0.1mm )のミューメタル線が使用されている。
ところで、前記磁性ワイヤに軸方向に傾いた方向に磁化容易軸を持つ磁気異方性が存在すれば、励磁磁界から検出コイルへの結合が発生し、印加磁界に無関係な周波数fの誘起電圧が発生する。従って、上記方法では、2fの周波数成分をセンサ出力とすることによって、周波数fの誘起電圧の影響を排除し高精度の磁界検出が可能であることを述べている。この方法は、磁性ワイヤとしてパーマロイのメッキ線を用いたもの(竹内信次郎他、「直交フラックスゲート形磁性薄膜マグネトメータの動作機構の解析」電気学会論文誌C、第93号巻 2号、1973)や、磁性ワイヤを磁性薄膜で置き換え、更に小型化したもの、(及川 亭他、「薄膜型直交フラックスゲート磁界センサの作製とその評価」第24回日本応用磁気学会学術講演会概要集、13aD-6、2000 )などへ発展させられている。
しかし、何れにおいても、2f成分の検出を必要とするものであり、これに伴い複雑な電子回路が使用されてきた。
【0003】
一方、前記磁気−インピーダンス効果型センサは、線引きした30ミクロン程度のアモルファス磁性ワイヤを用いて構成されている(例えば、特開平7−181239号公報)。この磁界センサはワイヤに高周波電流を直接通電し、ワイヤに印加される外部磁界の強度によるワイヤの抵抗変化をワイヤ両端の電位差から検出するものである。
この方式では、センサ自体は小型化に適し、励磁周波数と同じ電圧の検出であるが、そのままでは磁界の正負が識別できず、また、印加磁界がゼロでも電位差はゼロにならず常にオフセット電圧が存在する。このため、動作点を線形部分へずらすためのバイアス磁界の印加と、オフセットをキャンセルするための引き算回路を必要としてきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように従来の磁界センサにおいて、直交フラックスゲート型センサのように、2f成分の検出を行なうものについては2倍周波数発生回路などを要し、電子回路が複雑になるのが避けられないという問題があった。
また、磁気−インピーダンス効果型センサのように、動作点をずらすためバイアス磁界を印加するバイアス磁界発生回路、出力オフセットをキャンセルするための出力オフセット除去回路など複雑な構造を必要とするし、装置が大掛かりになるなどの問題があった。
このように、1つの磁性ワイヤや磁性薄膜を用いて基本動作に必要な巻線が高々1つであり、電子回路が簡単化できる励磁周波数と同じ誘起電圧成分の検出を行なうような、装置構造を簡単とし小型化するのに適した磁界センサは未だ実現されていない。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点を解決するためになされたものであり、励磁周波数fと同じ周波数の誘起電圧成分の検出に基づき、印加磁界がゼロの時は誘起電圧がゼロとなり、かつ磁界に対する応答が線形である、高感度で高精度かつ簡単な電子回路で構成できる磁界センサを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明請求項1記載の直交フラックスゲート型センサでは、細長い磁性体と、前記細長い磁性体に巻回されたコイルを持ち、前記細長い磁性体に交流励磁電流を流し、前記細長い磁性体に磁界が印加され、前記コイルに誘起する誘起電圧を検出出力とする直交フラックスゲート型センサにおいて、前記交流励磁電流により発生される交流磁界の振幅より大きな直流磁界を発生させる直流バイアス電流を当該交流励磁電流に重畳させ、前記誘起電圧の中に含まれる励磁周波数成分から当該周波数成分の誘起電圧の出力を取り出すことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の直交フラックスゲート型センサにあっては、電流を流す導体と、その導体に近接して配置された細長い磁性体、あるいは導体周囲に配置された略円筒形の細長い磁性体と、前記磁性体周囲に巻回されたコイルとからなり、前記導体に交流励磁電流を流し、前記細長い磁性体に磁界が印加され、前記コイルに誘起する誘起電圧を検出出力とする直交フラックスゲート型センサにおいて、前記交流励磁電流により発生される交流磁界の振幅より大きな直流磁界を発生させる直流バイアス電流を当該交流励磁電流に重畳させ、前記誘起電圧の中に含まれる励磁周波数成分から当該周波数成分の誘起電圧の出力を取り出すことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の直交フラックスゲート型センサにあっては、請求項1記載の直交フラックスゲート型センサにおいて、細長い磁性体が磁性ワイヤであることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の直交フラックスゲート型センサにあっては、請求項3記載の直交フラックスゲート型センサにおいて、磁性ワイヤが無磁わい組成のアモルファス磁性ワイヤであることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の直交フラックスゲート型センサにあっては、請求項3記載の直交フラックスゲート型センサにおいて、磁性ワイヤが僅か負の磁わいを持つことを特徴とする。
【0011】
【作用】
本発明の磁界センサでは、磁性ワイヤとそれに巻回されたコイルを用い、磁性ワイヤに通電する交流励磁電流には、磁性ワイヤを円周方向に磁化飽和させる程度の直流電流を重畳し、交流励磁周波数fHzの1サイクルの間に磁性ワイヤがただ一度磁化飽和するようにし、励磁周波数fの誘起電圧が外部印加磁界に対して高感度に発生するようにし、合わせて周波数fの誘起電圧成分のみを検出する。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の磁界センサを図面に基づいて説明する。
まずその構造から説明する。
図1は本発明実施の形態1の磁界センサを示す概略図であり、1は磁性ワイヤである。
前記磁性ワイヤ1には、応力の影響を受けにくく、また製造段階でも磁気異方性が生じにくい無磁わい組成のアモルファス磁性ワイヤを使用し、その周囲に細い導線で検出コイル2を巻き回している。
3は励磁回路であり、発振器4とそれに直列に挿入された直流電源5からなり、直流が重畳された交流励磁電流は前記磁性ワイヤ1に直接通電する。
6は同調用コンデンサであり、外部磁界の印加によって検出コイル2に誘起されるfHzの電圧を選択的に取り出すため、前記検出コイル2に並列に接続されている。尚、この同調用コンデンサ6は必ずしも必要ではなく、不付きとすることもできる。
7は同期整流器であり、励磁周波数fHzを参照入力として前記誘起電圧を同期整流して直流に変換させる。8は直流電圧計である。
【0013】
次に動作原理を説明する。
無磁わい組成のアモルファス磁性ワイヤ1には、その製造段階でかなり小さいながら磁気異方性が生じる。図2に示すように、ワイヤ内の磁化は小さい磁気異方性に束縛され円周方向9からずれた方向を向くが、この状態にあるワイヤ1に直流電流idcを流すことにより、ワイヤ表層部に磁界Hdcが生じ、これにより磁化を円周方向9の1方向に向けることができる。この図2において、磁気異方性をKu 、磁化をJs として示している。
直流電流idcで磁性ワイヤ1の磁化が一方向に向けられたところで、図3,図4に示すように、直流磁界より振幅の小さな交流磁界を発生させる交流電流iacsin[2πft]を通電し、外部磁界がワイヤ軸方向に印加された状態を考える。尚、図4において、外部磁界Hexは記号で示すように紙面に対し垂直に印加された状態を示す。
図5は外部磁界Hexおよび励磁磁界Hdc+Hacsin[2πft]に対し磁化の方向を図示したものである。外部磁界Hexの印加により磁化Js が円周方向から角θをなし、励磁磁界Hdc+HacSin[2πft]が小さくなると外部磁界Hexの影響が相対的に大きくなるために角θは大きくなり、逆に、励磁磁界Hdc+HacSin[2πft]が大きくなると角θは小さくなる。この磁化Js の振動の周期は励磁周波数と同じfHzであり、Js Sin(θ)成分が図1の検出コイル2と鎖交する磁束を生み出す。
【0014】
前記角θと外部磁界Hexの間の関係は大域的には非線形関係であるが、外部磁界Hexの小さい範囲に限定すれば角θと外部磁界Hexの関係は線形関係となる。
外部磁界Hexの向きが反転されると、角θの範囲も負側に反転し、検出コイル2への鎖交磁束の極性も反転する。このようにして、印加磁界の正負が識別される。図5ではKu の方向をαの正方向に図示しているが、ワイヤの場所ごとに揺らいでおり、全体としてαは正負ほぼ均等に分布すると考えて良い。
従って、Ku は外部磁界Hexの正または負のいずれかの極性に対して出力を大きくするような非対称な作用を持たない。
【0015】
図6には直径約120ミクロンメートルのCoベースのアモルファス磁性ワイヤの長さ約2cmのものに約200ターンの巻線を施したものに、直流電流20mA、周波数f=50kHz、実効値約10mAの交流電流を流した時の励磁電流波形と検出コイル誘起電圧波形を示している。磁性ワイヤへの軸方向印加磁界は0.5Gとしている。直流電流によって励磁周波数と同じ周波数の誘起電圧が生じていることがわかる。印加磁界の極性を反転すると図7のように誘起電圧の極性も反転する。
このことから、印加磁界の極性判別が可能なことがわかる。もし、直流電流を流さない場合は、通常の直交フラックスゲートと同じような励磁周波数の2倍の誘起電圧が現れる。この事実を図8に示す。
図6〜図8の実験結果は約0.5Oe の同じ大きさの磁界を印加したものであるが、直流電流を重畳した場合が振幅の大きな出力が得られていることがわかる。
以上より、誘起電圧を周波数fで同期整流すれば磁界の正負に応じた検出出力が得られることがわかる。また、図5の説明から、Hex=0の時は、角θ=0、即ち、Sin(θ)=0となって、出力が0となることも分る。
【0016】
次に、結果の一例を示す。
図9はヘルムホルツコイルでセンサに磁界を印加し、入出力特性を調べた結果を示す。励磁条件は図6の波形を観測したのと同じである。出力電圧はロックインアンプを同期整流器として用いて測定している。誘起電圧は増幅していない。
これから、良好な直線性と十分な感度が得られることが分かる。
直流電流を重畳しない場合は、通常の直交フラックスゲートとなるが、直流電流の重畳の効果を示すために、図8に示すような2fの誘起電圧を検出した結果を図10に示した。この時の励磁条件は図9の場合と同じであるが、同期整流器への参照周波数はこの場合、2fである。直線性、感度共に劣ることが分かる。
直線性が悪いのは、小さくはあるが円周方向以外の方向に磁化容易軸を持つ磁気異方性がアモルファス磁性ワイヤにランダムに存在しているためと考えられる。
【0017】
以上説明してきたように本実施の形態の磁界センサでは、励磁電流に直流バイアス電流を重畳させ、励磁周波数fと同じ周波数の誘起電圧成分の検出を行なうことにより、印加磁界がゼロの時は誘起電圧がゼロとなり、かつ磁界に対する応答が線形であり、高感度で高精度かつ簡単な電子回路で構成できるなどの効果が得られる。
【0018】
次に、図11に基づいて実施の形態2を説明する。尚、前記実施の形態1と同一構成部分には同一の符号を付してその具体的な説明は省略する。
本実施の形態の磁界センサは、交流励磁電流に直流バイアス電流を重畳させて印加する導体10と、その導体10の周囲に配置された略円筒形の磁性体11と、その周囲に巻回された検出コイル12とからなっていることを特徴とする。
前記磁性体11は導体10の外周面にアモルファス磁性薄帯を巻いて、或はパーマロイ膜をメッキして形成したものであり、その膜厚は数ミクロンから20ミクロン程度で十分であり、検出コイル12はその外周面に巻回された構造となっている。また、導体10の径は、0.1〜1mm程度であればよい。
本実施の形態では、導体10はその芯の役目と励磁回路3の給電部をなし、磁性体11に一様な円周方向励磁磁界が印加されるようになっている。
【0019】
以上、本発明の実施の形態を図面により説明したが、具体的な構成は前記実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更などがあっても本発明に含まれる。
例えば、アモルファス磁性ワイヤ1の線径、長さ、成分、処理構成などは任意に設定することができる。パーマロイワイヤも同様である。
検出コイルの構成も任意に設定することができる。
【0020】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば下記の効果を発揮する。
(1)1個の磁性ワイヤとそれに巻回された1個の検出コイルを主要素とした、2倍周波数発生回路、バイアス磁界発生回路、出力オフセット除去回路を必要としない、高感度、高精度で入出力関係が線形関係となる磁界センサを構成することができる。
(2)部品点数が少なく、小型化に適した磁界センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施の形態1の交流励磁電流に直流バイアス電流を重畳させた磁界センサによる検出回路を原理的に示す構成図である。
【図2】実施の形態1の一軸磁気異方性Ku を仮定したアモルファス磁性ワイヤにおける励磁電流による磁界、磁化ベクトルJs の関係を示す説明図である。
【図3】実施の形態1の一軸磁気異方性Ku および磁化ベクトルJs の円周方向からなす角を示す説明図である。
【図4】実施の形態1の直流磁界より小さな振幅の交流磁界を発生させる交流電流を通電し外部磁界がワイヤ軸方向に印加された状態を示す説明図である。
【図5】実施の形態1の外部磁界および励磁磁界に対し磁化の方向を示す説明図である。
【図6】実施の形態1の直径120μm長さ2cmのアモルファス磁性ワイヤに200ターンの巻線を施し直流電流20mA、周波数50kHz、実効値約10mAの交流電流を流したときの励磁電流波形と誘起電圧波形を示すグラフである。
【図7】図6の印加磁界の極性を反転させたとき誘起電圧の極性が反転し印加磁界の極性判別が可能なことを示すグラフである。
【図8】実施の形態1の直流電流を流さないとき直交フラックスゲートと同様な励磁周波数の2倍の誘起電圧が現れることを示すグラフである。
【図9】実施の形態1のヘルムホルツコイルで磁界をセンサに印加した時の入出力特性図である。
【図10】実施の形態1で直流電流を流さないようにし、ヘルムホルツコイルで磁界をセンサに印加した時であって同期整流器への参照周波数を2fとした時の入出力特性図である。
【図11】実施の形態2の交流励磁電流に直流バイアス電流を重畳させた磁界センサによる検出回路を原理的に示す構成図である。
【符号の説明】
1 磁性ワイヤ
2 検出コイル
3 励磁回路
4 発振器
5 直流電源
6 同調用コンデンサ
7 同期整流器
8 直流電圧計
9 磁性ワイヤの円周方向
10 導体
11 円筒型の磁性体
12 検出コイル
Claims (5)
- 細長い磁性体と、前記細長い磁性体に巻回されたコイルを持ち、前記細長い磁性体に交流励磁電流を流し、前記細長い磁性体に磁界が印加され、前記コイルに誘起する誘起電圧を検出出力とする直交フラックスゲート型センサにおいて、
前記交流励磁電流により発生される交流磁界の振幅より大きな直流磁界を発生させる直流バイアス電流を当該交流励磁電流に重畳させ、前記誘起電圧の中に含まれる励磁周波数成分から当該周波数成分の誘起電圧の出力を取り出すことを特徴とする直交フラックスゲート型センサ。 - 電流を流す導体と、その導体に近接して配置された細長い磁性体、あるいは導体周囲に配置された略円筒形の細長い磁性体と、前記磁性体周囲に巻回されたコイルとからなり、前記導体に交流励磁電流を流し、前記細長い磁性体に磁界が印加され、前記コイルに誘起する誘起電圧を検出出力とする直交フラックスゲート型センサにおいて、
前記交流励磁電流により発生される交流磁界の振幅より大きな直流磁界を発生させる直流バイアス電流を当該交流励磁電流に重畳させ、前記誘起電圧の中に含まれる励磁周波数成分から当該周波数成分の誘起電圧の出力を取り出すことを特徴とする直交フラックスゲート型センサ。 - 細長い磁性体が磁性ワイヤであることを特徴とする請求項1記載の直交フラックスゲート型センサ。
- 磁性ワイヤが無磁わい組成のアモルファス磁性ワイヤであることを特徴とする請求項3記載の直交フラックスゲート型センサ。
- 磁性ワイヤが僅か負の磁わいを持つことを特徴とする請求項3記載の直交フラックスゲート型センサ。
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