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JP4543212B2 - 細胞培養容器及び培養方法 - Google Patents

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Description

本発明は、神経幹細胞、胚性幹細胞(胚葉体)、角膜幹細胞、肝細胞、膵島細胞等の凝集塊を形成できる細胞を効率よく浮遊培養する培養方法、並びに当該方法を実施するための培養容器及び培養装置に関し、倍加時間の短縮、さらに、培地交換のために容器の移し替えをしなくても所望量定常期まで細胞を連続的に培養し続けることができる培養方法並びに当該方法を実施するための培養容器及び培養装置に関する。
動物細胞の研究、再生医療用幹細胞は、治療、研究のために、効率よく培養して短期間でよりたくさんの細胞を得る必要がある。このような要望に応えるために、培養の増殖速度増大、培養の効率化のための培養容器が種々提案されている。
例えば、接着依存性細胞に関しては、特許文献1に、接着依存性細胞の外形を規制しつつ、細胞集合体を形成させる培養容器として、外形を規制する凹部を有する培養用基板、及び接着依存性細胞を基板の凹部内に多数播種し、細胞同士を接着させて、細胞集合体を形成させる培養方法が開示されている。接着依存性細胞が細胞集合体を形成しやすいように、前記凹部の内壁面をアガロースゲル等の非接着性材料で構成又は表面処理している。
接着依存性細胞の場合、単層培養で得られる細胞は、別の部位に移植するときに細胞にダメージを与えてしまうこと、生体内での細胞と同質の細胞を得るためには、三次元的な細胞凝集塊を得ることが好ましいという事情から、この特許文献1に開示されている培養基板及び方法で、接着依存性細胞で細胞凝集塊を形成することは有利である。
また、接着依存性細胞(間葉系細胞)では、成長過程で培養容器を移し替えるといった煩わしい操作をすることなく、単一の容器で培養環境を維持し、連続的、効率的に増殖させる方法として、特許文献2や特許文献3に、1つの大きな培養容器を複数に区切り、成長段階に応じて区切りを取り外していくことで、成長の足場となる底面積を増大させていくことができる培養容器及び培養方法が開示されている。
また、特許文献4には、培養容器を移し替えることなく、細胞が付着できる面積を徐々に増大していこうとする培養装置及び培養方法として、角度変更手段を備えた装置、該装置の容器を回転させて、容器内の別の面を利用し、培地と容器内面との接触面積を増大させる方法が開示されている。
一方、神経幹細胞、胚性幹細胞(胚葉体)、角膜幹細胞、肝細胞、膵島細胞等の細胞は、細胞凝集塊を形成した状態での浮遊培養が可能である。例えば、神経幹細胞では、図5に示すような、フラスコタイプの培養容器を用いて、シングルセルを一定期間、浮遊培養すると、細胞凝集塊が形成され、凝集塊が浮遊した状態となる。かかる状態で所定時間培養した後、培地交換、及び細胞密度の調整のために容器を移し替えることになる。
このように凝集塊を形成する細胞の浮遊培養については、増殖速度を上げることができる培養容器、培地交換のための容器の移し替え作業が不要となる培養容器は、未だ提案されていない。
特開2003−52361号 特開2004−89136号 特開2004−97047号 特開2004−121168号
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、凝集塊を形成できる細胞を効率よく培養することができる培養容器、培養方法、及び培養装置を提供することにある。
本発明者らは、凝集塊を形成できる細胞の増殖について、種々検討した結果、シングルセルから増殖させるよりも、凝集塊から増殖させる方がその後の増殖スピードが速くなることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の培養方法は、神経幹細胞、胚性幹細胞、肝細胞、角膜幹細胞、及び膵島細胞からなる群から選ばれる1種の培養方法であって、第1培養部となる凹部が多面体容器内壁面の一面に複数個凹設された多面体容器の前記各第1培養部で細胞を凝集させて、第1培養部のサイズに規制された所定サイズの細胞凝集塊を形成させる工程;前記多面体容器内の第1培養部が形成されている面以外の内壁面を底面とする部分で且つ第1培養部よりも大きいサイズの第2培養部、又は前記多面体容器内の第1培養部が形成されている面以外の内壁面に凹設された凹部で且つ前記第1培養部である凹部の開口サイズよりも大きいサイズの開口部を有している第2培養部に、前記細胞塊を移す工程;及び第2培養部で細胞を培養する工程を含む。前記所定サイズは、径50〜700μmであることが好ましい。本発明の培養方法は、特に神経幹細胞に好適であり、前記所定サイズは、神経幹細胞の場合は200〜300μmであることが好ましい。
上記本発明の培養方法において、前記細胞塊を移す工程は、培養容器の回転により行なうことが好ましい。
前記第1培養部の凹部は、該凹部の開口部面積よりも底面積が小さくなっていることが好ましく、前記第1培養部の凹部は、断面U字形状であることが好ましい。
本発明の培養容器は、第1培養面、第2培養面、及び蓋付き開口部を備えた面を有する気密可能な多面体容器において、前記第1培養面、第2培養面、及び蓋付き開口部を備えた面は、前記多面体容器の内壁面を構成していて、前記第1培養面には、開口径(r)2.0〜15mmであり、深さ(d)が0.145×r以上(d≧0.145r)である断面U字形状の凹部が複数個凹設されていることを特徴とする、細胞凝集塊を形成できる細胞用の培養容器である。
また、本発明の培養容器は、前記多面体容器の内壁面のうち、前記第1培養面、前記第2培養面、及び前記蓋付き開口部を備えた面を除いた残りの面の1つに、更に第3培養面が形成されていてもよく、前記第3培養面には、前記第1培養面の凹部開口サイズよりも大きいサイズの開口部を有する凹部が複数凹設されている。
本発明の培養装置は、上記本発明の培養容器;及び所定時間後に、第1培養面で培養された細胞及び培地を第2培養面に移動させることができる容器回転手段を備えている。
培養装置が第3培養面を備えたものであるとこは、当該培養容器;及び所定時間経過後に、第1培養面で培養された細胞及び培地を第3培養面に移動させることができ、且つ第3培養面で培養された細胞及び培地を第2培養面に移動させることができる容器回転手段
を備えている。
前記容器回転手段は、前記蓋に取り付けられた回転軸と該回転軸を回転する駆動部とから構成されることが好ましい。
本発明の培養方法によれば、培養容器の交換等をしなくても、増殖速度の大幅な低下を招くことなく、従来の培養方法よりも長期間培養し続けることができ、結果として効率よく、大量の細胞を得ることができる。
本発明の培養容器を用いれば、本発明の培養方法を実施することができ、有用性の高い細胞凝集塊を効率よく得ることができる。
はじめに、本発明の培養方法を実施する培養容器の一実施例について、図1に基づいて説明する。
図1の培養容器は、培養部分が略直方体で構成され、炭酸ガス交換用及び細胞、培地の出し入れ用の開口部(容器開口部)1を備え、該開口部1の口元がラッパ状に広がって略直方体の培養部分2と連結一体化したフラスコタイプの培養容器である。培養部分2の一面は、第1培養面3として、複数の断面U字型凹部4が凹設されていて、その他の面は平坦面となっていて、第2培養面を構成している。従って、本実施形態の培養容器は、従来より細胞培養に用いられている密閉可能な培養容器の少なくとも一面に、所定サイズの凹部が複数凹設されて第1培養面が形成され、第2培養面にも適量の培地を保持できる構成を有するものに該当する。
培養容器は、ポリスチレン等のプラスチック、ガラスなどで構成され、容器内壁面は、細胞が付着しないようにするための特別な表面処理等は施されていなくてよい。
容器開口部1は、ガス交換可能なように、開閉可能に蓋で閉塞されることにより、気密性を保持できるようになっている。
各凹部4は、図2に示すように、シングルセルが凝集して凝集塊を形成しやすいサイズの断面U字型となっている。断面U字型のサイズは、所定サイズ(具体的には50〜700μm)の細胞凝集塊を形成しやすいサイズで、開口径(r)が2.0〜15mmで、深さ(d)が0.145×r以上であることが好ましい。特に神経幹細胞用培養容器の場合には、200〜300μm程度のサイズの凝集塊を形成することにより、その後の増殖速度が大きくなることから、各凹部は、このような凝集塊を形成しやすいサイズを有することが好ましい。凝集塊を形成しやすいサイズは、下記式
N=M×S/T
(式中、Mは播種した細胞数、Sは凹部の開口部面積、Tは容器の総底面積、Nは凹部に入る総細胞数)
より得られる総細胞数Nに依存する。ヒト神経幹細胞の凝集塊サイズ(直径)DとNの関係では、Nが200〜500個でDは約100μm、Nが約2000〜4000個ではDは約200μm、Nが7000〜10000個ではDは約300μmとなる。例えば、総底面積75cmの容器に100000個/mlを15ml播種すると仮定すると、凹部の開口面積は10〜30mm、図2に示した凹部4の場合は、凹部の開口サイズ(開口径r)が3.6〜6.5mmで、深さdがr/2以上(d≧r/2)であることが好ましい。
以上のような構成を有する培養容器を用いた本発明の培養方法の一実施形態について、図3に基づいて説明する。
本発明が対象とする細胞は、培養により細胞凝集塊を作ることができる細胞で、特に容器内壁面をプラズマ処理等していない容器で培養しても凝集塊を形成できる細胞である。すなわち、ガラスやプラスチック表面といった基質付着性が弱く、浮遊状態を維持して増殖できる細胞で、具体的には神経幹細胞、胚性幹細胞、肝細胞、角膜幹細胞、膵島細胞が挙げられ、特に神経幹細胞に好適である。
まず、上記実施形態の容器の第1培養部となる各凹部4に、容器開口部1から培地とシングルセルをいれる(図3(a))。培地は、凹部だけでなく、第1培養面3を覆う程度に注入する。
培地としては、液体培地を使用し、細胞の種類に応じて適宜選択する。例えば神経幹細胞を用いる場合、分化誘導しない増殖培地を使用する。このような増殖培地としては、基本増殖培地に、bFGF、EGF、LIFなどの神経幹細胞増殖因子を含むものが好ましく用いられる。具体的には、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、ビタミン)を含む基本培地(例えば、Iscove改変ダルベッコ培地(IMDM)、RPMI、DMEM、Fischer培地、α培地、Leibovitz培地、L−15培地、NCTC培地、F−12培地、MEM、McCoy培地)などが用いられる。
各凹部に播種する細胞数は、凹部4の大きさにもよるが、細胞密度1×10cells/ml〜1×10cells/ml程度とすることが好ましい。1×10cells/ml未満では、細胞同士が出会う確率が低くなるので、凝集塊の形成が遅いからである。一方、1×10cells/mlを越えると、細胞死の割合が増加するので、細胞の倍加効率が低下するからである。
培地が収容された各凹部4に、細胞(シングルセル)を播種後、一昼夜放置する。シングルセルの合一により、凝集塊(一次凝集塊)が形成される。一次凝集塊の大きさは、各凹部4毎に一個づつ形成され、凹部4のサイズ、播種細胞数にもよるが、通常2日目には、200〜300μm程度の凝集塊ができる。その後、細胞増殖と凝集塊の合一を繰り返して、300〜600μm程度の凝集塊が成長する(図3(b))。
一次凝集塊が300〜600μm程度に到達したとき、容器を180°回転させる(図3(c))。これにより、凹部に収容されていた培地及び凹部内の一次凝集塊が、凹部形成面の対向面5、すなわち第2培養面側に移されて、図3(c)に示すように、対向面である平坦面を底面とする培地内に、第1培養部から収集された一次凝集塊が浮遊した状態となる。このとき、新たな培地を開口部から追加注入してもよい。あるいは第1培養面の凹部から古い培地を取り出し、第2培養面に新しい培地を入れた状態で回転することにより、細胞密度を整えつつ、新しい培地で、凝集塊が浮遊した状態で培養してもよい。このようにして、容器を変えることなく培地交換を行なうことができる。かかる状態で、定常期まで培養すればよい。
第2培養面である平坦面を底面とする第2培養部5では、第1培養部の凹部4と比べて面積が広いので、一次凝集塊同士が出会って凝集する確率は下がるが、凹部サイズによる規制がないので、増殖、成長を盛んに行なうことができる。尚、培地交換は、第2培養部での培養中に行なってもよい。また、培養に際しては、必要あれば、ガス交換を行なって、容器内の環境が保たれるようにする。
第2培養部での培養により、一次凝集塊からさらなる凝集塊の合一、増殖を繰り返し、増殖成長する。そして、さらに大きい凝集塊(二次凝集塊)ができると定常期となり増殖速度が鈍る。このような状態に到達したら、二次凝集塊を取り出して、酵素等によりシングルセルにして利用に供してもよいし、さらに新しい培地で適当な濃度に希釈して、新たな培養容器に移して継代培養してもよい。
以上のように、本発明の培養方法によれば、培地交換のために容器の移し替えを行なうことなく、従来の培養方法よりも長期間、効率よく増殖させることができ、倍加時間も従来の半分程度に短縮することが可能となる。
尚、上記実施形態で使用した培養容器の凹部は、断面U字型であったが、本発明はこれに限定しない。要するに、凝集塊を形成しやすいように、凹部の開口部面積よりも底面積が小さくなる縮径構造であればよく、具体的には、断面U字型の他、断面半円型、断面V字型、さい頭逆円錐状であってもよい。
また、図1に示す培養容器では、第1培養面に凹部が9個凹設されていただけであるが、第1培養面に形成される凹部の数は、容器サイズに応じて適宜選択される。さらに、凹部同士が隣接するほどに、第1培養面に凹部が密に凹設されていてもよい、これにより凹部の数を増やして、より多数の細胞を一度に培養することが可能となる。
さらに、図1に示す培養容器の培養部は直方体であったが、五角柱、六角柱等の多角柱、四角錐、正八面体などの多面体であってもよい。要するに、その内の少なくとも一面が第1培養面となるように、複数の凹部が凹設されて第1培養面を形成していればよい。培養部分が多面体、多角柱の場合には、対向面でなく、隣接面を第2培養面として利用することができる。尚、第1培養面以外の面は第2培養面となるわけであるが、この場合、第2培養面は全て同じ面積の面でなくてもよい。異なる面積の平坦面を複数有するものであってもよい。すなわち、面積の異なる第2培養面を複数有していてもよい。
さらにこれらの多面体又は多角柱の場合、1つの第1培養面と第2の培養面の2種類に限らず、第1培養面に形成されている凹部の開口サイズよりも大きい凹部サイズを有する凹部が複数凹設された第3培養面を有していても良い。
またさらに、図1に示す培養容器の容器開口部は一つだけであったが、蓋により気密性を達成できる限り、ガス交換用の開口部と培地交換用の開口部を別々に2つ備えてもよい。
また、蓋には、容器を回転させるための回転軸や、ガス交換のための空気チューブなどが取り付けられるようになっていてもよい。
尚、本発明の培養方法における第1培養部から第2培養部への移行方法は、培養容器の種類に応じて適宜決められる。図1に示すような培養部分が直方体形状のフラスコタイプの培養容器では、第1培養面と第2培養面が相対する位置にあったので、容器を180°回転させることにより移行させたが、多角柱、多面体の場合には、隣接面を第2培養面として利用することができるので、この場合は、培地を隣接面に移すような角度に容器を傾けるようにして移行してもよい。培養容器の構成に応じて、回転角度を適宜設定すればよい。
また、培養容器として第3培養面を有するものを使用する場合、第1培養面で培養した後、第3培養面に移し、第3培養面で所定時間培養した後、平坦な第2培養面で培養してもよい。この場合、第1培養面から第3培養面の移行を自動的にスムーズに行なわせることができるように、凹部の位置関係を工夫しておくことが好ましい。
〔神経幹細胞〕
下記実施例で使用した神経幹細胞は、国立病院機構大阪医療センター倫理委員会及び産業技術総合研究所の倫理委員会承認の下、妊娠9週齢及び10週齢のヒト胎児由来のもので、初代培養日数100〜200日のニューロスフェアを、トリプシン処理によりシングルセルにしたものを測定に用いた。
〔培養培地〕
下記実施例では、DEMEM/F12を基本培地として、anti−bioticmicotic(Invitrogen社の抗生物質で、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンフォテリシンBを含有)、plasmocin(Invivogen社の抗マイコプラズマ剤)、B27(Invitrogen社の血清代替物の商品名)、FGF−2(終濃度0.02μg/ml)、EGF(終濃度0.02μg/ml)、LIF(終濃度0.01μg/ml)を添加した培地を使用した。
〔測定方法〕
(1)凝集塊のサイズ
デジタルカメラを搭載した顕微鏡システムにより凝集塊の画像を取得し、その画像をもとに細胞凝集塊の直径を測定した。
顕微鏡は倒立顕微鏡IX−50(オリンパス)及び自動画像取得システムHTS50(パナソニック)を使用した。倍率は、2倍、4倍、10倍、20倍レンズを使用した。長さは対物ミクロメータ(オリンパス)によりキャリブレートされた画像処理により求められた。
(2)生細胞数(ATP法)
1.25、2.5、5.0、10.0、20.0、40.0×10000個/mlの細胞密度で細胞を96穴プレートに播種し、ATP法の発光試薬(celltiter−GLOプロメガ)を加えてそれぞれの発光量を発光プレートリーダーにより測定し、細胞数と発光量の関係を示す検量線(図4)を作成した。この検量線を元に、測定した発光値から細胞数を求めた。
(3)倍加時間(DT)
測定時間t、tにおいて、それぞれATP法で求められる生細胞数A、Aとし、下記式により倍加時間を求めた。
DT=(t−t)log2/(logA−logA
尚、A、Aは、各測定時で得られるATP法によるデータより上式にあてはめて得られる値の平均値を採用した。
〔細胞凝集塊の大きさと倍加速度の関係〕
100μm〜600μmの範囲にある凝集塊について、サイズ毎に凝集塊を分別し、各サイズの凝集塊の倍加時間を、下記にようにして調べた。
上記培地を入れた、図5に示すようなフラスコタイプの培養容器(培養部底面積75cm)内で神経幹細胞を1又は2週間培養した。培養後、様々な大きさの細胞凝集塊を含む細胞懸濁液より任意に細胞凝集塊を1つづつ96ウェルプレートの各ウェルにマイクロピペットで移した。各ウェルは、平坦な平底タイプの凹部である。各ウェルに入った凝集塊の大きさを培養開始時、培養開始から96時間後及び168時間後で測定した。培養開始から96時間後、96〜168時間後の倍加時間を上記方法に基づいて算出した。凝集塊のサイズと倍加時間の関係を図6に示す。図6中、黒丸(●)は、0〜96時間の倍加時間、白丸(○)は96〜168時間の倍加時間を示す。
図6から、培養時間にかかわらず、凝集塊が約250μm未満では細胞凝集塊の直径が大きくなるに従い、倍加時間が短くなっていて、増殖速度が増していることがわかる。一方、凝集塊が約250μm以上では凝集塊が大きくなっても倍加時間に大きな変化はなかった。このことから直径約250μm程度の凝集塊を培養初期の段階で形成させることが、その後、高効率で増殖させるために必要であることがわかる。
〔培養容器の形状と細胞増殖の関係〕
培養容器として、平底タイプ(径6.5mm×深さ11.2mmの96ウェルプラスチックプレート)とU底タイプ(径8.4mm×深さ11.1mmの96ウェルプラスチックプレート)を準備した。これらの培養容器は、それぞれのウェルが平底(円柱形)又はU底(断面U字型)である。
各種培養容器の中に上記培地に懸濁したシングルセル状の神経幹細胞を2.5×10cells/mlの割合で播種し、144時間(6日間)培養した。24時間後、48時間後、96時間後、144時間後の凝集塊の最大直径(μm)及び培養器内の生細胞数を測定した。24時間後については、生細胞数のみを測定した。
凝集塊サイズの測定結果を図7(a)に、生細胞数のサイズの測定結果を図7(b)に、それぞれ示す。図中、黒丸(●)はU底タイプで培養した場合、白丸(○)は、平底タイプの容器で培養した場合を示している。
図7から、平底タイプでは凝集塊のサイズがあまり大きくならず、150時間経っても100μm以下であったことがわかる。一方、U底タイプの容器を使用した場合には、培養初期にシングルセルの合一が起こり、各ウェルで1つの凝集塊となった。この凝集塊は、50時間以内に約200μmを越える凝集塊にまで成長し、それ以後の細胞数は、平底タイプで培養した場合よりも多くなり、150時間後の細胞数は、平底タイプで培養したときの約3倍となっていた。
U底タイプの培養容器で6日間培養したときの倍加時間を求めたところ、倍加時間は53.7時間であった。平底タイプの培養容器で6日間培養したときの倍加時間を求めたところ、94.1時間であった。
従って、各培養部の凹部形状をU底タイプにするだけで、倍加時間を約半分に短縮できることがわかる。
〔細胞数と凝集塊数との関係〕
平底タイプ(径6.5mm×深さ11.2mmの96ウェルプラスチックプレート)の容器で、2.1×10cells/ml、1.2×10cells/ml、又は5.0×10cells/mlで細胞を播種し、150時間培養した。12時間、24時間、48時間、75時間、96時間、122時間、180時間後に、それぞれの容器における細胞数、凝集塊数を調べた。結果を図8に示す。培養が進み、細胞数が増えても、凝集塊は増えていないことがわかる。つまり、細胞増殖に際しては、増殖、凝集が起っていることがわかる。従って、細胞の増殖速度を上げるためには、凝集塊同士の合一を行える環境が重要であることがわかる。
〔2段階連続培養の効果〕
実施例1:
第1段階培養として各ウェルがU底(径6.5mm×深さ11.2mm)の4ウェルの培養容器に、シングルセル状の神経幹細胞を5×10cells/mlの割合で全量0.4mlを播種し、7日間培養した後、新たな培地を0.4ml加え、さらに7日間培養した。これらの培養により、各U底ウェル内で、神経幹細胞の凝集塊が直径約0.6mmに成長したところで、第2段階培養として平底面(第2培養面)での培養に移行した。このとき、0.4mlだけ培地交換をした。
第2培養面への移行後、3日目(培養開始から10日目)に、容器内にある全細胞数の相対量をATP法により求めた。結果を図9に示す。図9中、「UtoF」が実施例1の結果である。
比較例1:
実施例1の第1段階培養で使用した各ウェルがU底(径6.5mm×深さ11.2mmの4ウェル)の4ウェルの培養容器に、シングルセル状の神経幹細胞を5×10cells/mlの割合で全量0.4mlを播種し、実施例と同様に7日間培養した後、新たな培地を0.4ml加え、さらに7日間培養した。これらの培養により、各U底ウェル内で、神経幹細胞の凝集塊が直径約0.6mmに成長しても、0.4ml培地交換をするだけにとどめて、同様の容器のままで培養を続けた。さらに3日後(培養開始から10日目)、容器内にある全細胞数の相対量をATP法により求めた。結果を図9に示す。図9中、「U」が比較例1の結果である。
比較例2:
第1培養部として、各ウェルがU底タイプ(径6.5mm×深さ11.2mm)で32穴ウェルの培養容器を用いた。各凹部(各ウェル)に、シングルセル状の神経幹細胞を2.5×10cells/mlの割合で3.2ml播種し、7日間培養した後、新たな培地を3.2ml加え、さらに7日間培養した。
培養時間と細胞数との関係を図10に示す。1日目から7日目で、細胞数は8.5倍に増加し、倍加時間に換算すると54時間であったが、7日目から14日目では、細胞数は2.7倍となり、倍加時間は約116時間であった。
比較例3:
フラスコタイプの平底容器に、シングルセル状の神経幹細胞を、2.5×10cells/mlの割合で播種し、7日間培養した。さらに培地を3.2ml加え、7日間培養を行なった。培養時間と生細胞数の関係を図10に示す。1日目から7日目の細胞数は、約4.4倍に増加し、倍加時間に換算すると約78時間であり、7日目から14日目では細胞数は約2.7倍となり、倍加時間は約116時間であった。
評価結果:
図9からわかるように、比較例1の全細胞数は、実施例1の約7分の5程度であった。U底タイプのウェルで、7日目を越えても培養を続けるよりも、二次培養面に移行する方が、その後の増殖速度が高く保て、結果として、得られる細胞数が多くなることがわかる。
また、比較例2より、7日目をすぎると、U底では、増殖速度が鈍ることがわかる。一方、比較例3のように、最初から平底タイプで培養しても、最初の7日間での増殖速度がU底容器で培養する場合(比較例2)より劣るため、7日目から14日目までの増殖速度は比較例2と同程度であっても、14日間通じての全体として細胞数は比較例2の2分の1程度しかなかった。
本発明の細胞の培養方法、これに用いる培養容器、培養装置は、実験室やプラントおいて、凝集塊を形成できる細胞の培養に適用できる。特に、細胞の増殖速度を高めて、短期間で細胞を大量に得ることを必要とする分野、再生医療用細胞の培養などに利用することができる。
本発明に係る容器の一実施形態を示す斜視図である。 図1の容器の凹部拡大図である。 本発明の方法を説明するための図である。 実施例で細胞数換算のために使用した検量線である。 実施例で使用したフラスコタイプの培養容器を示す図である。 凝集塊の大きさと倍加時間の関係を示すグラフである。 U底及び平底タイプの培養容器での培養における凝集塊サイズの変化(図7(a))及び生細胞数の変化(図7(b))を示すグラフである。 培養に伴う細胞数及び凝集塊数の関係を示すグラフである。 実施例1及び比較例1の培養後の全細胞数を示すグラフである。 比較例2及び比較例3における培養時間と細胞数との関係を示すグラフである。
符号の説明
1 容器開口部
2 培養部分
3 第1培養面
4 凹部

Claims (12)

  1. 神経幹細胞、胚性幹細胞、肝細胞、角膜幹細胞、及び膵島細胞からなる群から選ばれる1種の培養方法であって、
    第1培養部となる凹部が多面体容器内壁面の一面に複数個凹設された多面体容器の前記各第1培養部で細胞を凝集させて、第1培養部のサイズに規制された所定サイズの細胞凝集塊を形成させる工程;
    前記多面体容器内の第1培養部が形成されている面以外の内壁面を底面とする部分で且つ第1培養部よりも大きいサイズの第2培養部、又は前記多面体容器内の第1培養部が形成されている面以外の内壁面に凹設された凹部で且つ前記第1培養部である凹部の開口サイズよりも大きいサイズの開口部を有している第2培養部に、前記細胞塊を移す工程;及び
    第2培養部で細胞を培養する工程
    を含む細胞の培養方法。
  2. 神経幹細胞の培養方法である請求項1に記載の培養方法。
  3. 前記細胞凝集塊を移す工程は、培養容器の回転により行なう請求項1又は2に記載の培養方法。
  4. 前記第1培養部の凹部は、該凹部の開口部面積よりも底面積が小さくなっている請求項1〜のいずれかに記載の培養方法。
  5. 前記第1培養部の凹部は、断面U字形状である請求項に記載の培養方法。
  6. 前記所定サイズは、径50〜700μmである請求項1〜のいずれかに記載の培養方法。
  7. 前記細胞は神経幹細胞であって、前記所定サイズは、200〜300μmである請求項6に記載の培養方法。
  8. 第1培養面、第2培養面、及び蓋付き開口部を備えた面を有する気密可能な多面体容器において、
    前記第1培養面、第2培養面、及び蓋付き開口部を備えた面は、前記多面体容器の内壁面を構成していて、
    前記第1培養面には、開口径(r)2.0〜15mmであり、深さ(d)が0.145×r以上(d≧0.145r)である断面U字形状の凹部が複数個凹設されていることを特徴とする、細胞凝集塊を形成できる細胞用培養容器。
  9. 前記多面体容器の内壁面のうち、前記第1培養面、前記第2培養面、及び前記蓋付き開口部を備えた面を除いた残りの面の1つに、更に第3培養面が形成されていて、
    前記第3培養面には、前記第1培養面の凹部開口サイズよりも大きいサイズの開口部を有する凹部が複数凹設されている請求項8に記載の培養容器。
  10. 請求項8又は9に記載の培養容器;及び
    所定時間後に、第1培養面で培養された細胞及び培地を第2培養面に移動させることができる容器回転手段
    を備えた培養装置。
  11. 請求項に記載の培養容器;及び
    所定時間経過後に、第1培養面で培養された細胞及び培地を第3培養面に移動させることができ、且つ第3培養面で培養された細胞及び培地を第2培養面に移動させることができる容器回転手段
    を備えた培養装置。
  12. 前記容器回転手段は、前記蓋に取り付けられた回転軸と該回転軸を回転する駆動部とから構成される請求項10又は11に記載の培養装置。
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