JP4405003B2 - 多孔性癒着防止材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、腱損傷の治療の際に腱の癒着を防止するために用いられる多孔性癒着防止材に関する。
【0002】
【従来の技術】
腱損傷に対する治療法としては、断裂した腱を縫合した後、患部をギプス固定する間に腱を癒合させ、リハビリを行なって患部を正常な状態に再建する方法が現在の主流となっている。治療のポイントとしては、再断裂を防ぐための強固な縫合がなされることと、早期(術後2週目程度)からリハビリを開始することが挙げられる。しかし、骨折を伴う場合や損傷が広範囲におよぶ場合は、早期のリハビリ開始が不可能となり、癒着の原因となる。
【0003】
例えば、屈筋腱や腱鞘の修復後の癒着は手術法の発達や術後早期リハビリの導入によってある程度まで防止できるようになってきた。しかし、早期自動他動運動が不可能な場合やgriding baseが不良な場合には、一定期間、腱の癒着を防止し、腱鞘の再生とともに吸収される材料の使用が望ましい。
【0004】
特に、手の外科の領域においては、事故などで受傷した手指の機能回復は大きなテーマとなっており、指の屈曲運動を担う腱(ZoneIIにおける屈腱筋)が断裂した場合、上記のような重篤な症状では、ギプス固定が長期に及ぶため、その間運動が許されない屈腱筋は周辺組織と癒着を引き起こしやすい。この屈腱筋の術後癒着は、指の屈曲機能に障害を与える大きな原因のひとつである。
【0005】
このような癒着を防止するために、液状や膜状のヒアルロン酸、コラーゲンシート、ポリグラクチン910メッシュ、ポリテトラフルオロエチレン膜、シリコン膜、架橋ゼラチン膜等が癒着防止材として使用されてきたが、操作性、癒着防止効果及び生体吸収性の全てを満足するものではなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、適度な生体吸収性を持って腱とその周辺組織を物理的に隔離でき、かつ操作性、栄養物質の透過性及び安全性に優れた腱の癒着防止材を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明の多孔性癒着防止材は、乳酸とカプロラクトンとの共重合体からなることを特徴とする。
【0008】
尚、本発明の多孔性癒着防止材において、前記共重合体の重量平均分子量は50,000〜500,000の範囲が好ましく、前記共重合体中の乳酸とカプロラクトンとの共重合割合は、重量比で乳酸/カプロラクトン=80/20〜30/70の範囲が好ましい。
【0009】
また、本発明の多孔性癒着防止材において、多孔の平均孔径は0.1〜80μmの範囲(さらに好ましくは0.5〜50μmの範囲)が好ましく、空隙率は40〜95%の範囲が好ましい。
【0010】
本発明の多孔性癒着防止材において、さらに、ヒアルロン酸を含有することが好ましい。これにより、一層、腱と腱の周辺組織とが癒着することを防止することが可能になる。本発明の多孔性癒着防止材において、ヒアルロン酸は、例えば、前記共重合体からなる多孔質材に予め保持させてもよいし、使用時に保持させてもよい。なお、ヒアルロン酸が流れ易い場合に、このように多孔質癒着防止材に含有させることによって、ヒアルロン酸の流失を防止できるという効果もある。
【0011】
本発明の多孔性癒着防止材において、ヒアルロン酸の含量が、多孔性癒着防止材全体の0.1〜10重量%の範囲であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の多孔性癒着防止材は、腱損傷の治療の際に腱の癒着を防止するために用いられることが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明において使用する乳酸とカプロラクトンとの共重合体において、乳酸としてはL−乳酸を使用することが好ましい。カプロラクトンとしては、ε−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−カプロラクトン等が挙げられるが、ε−カプロラクトンが好ましい。
【0014】
前記共重合体の重量平均分子量(Mw)は、50,000〜500,000の範囲が好ましく、さらに好ましくは200,000〜400,000の範囲である。重量平均分子量が50,000未満の場合は、例えば、多孔体として用いた場合、強度が不十分となり術中に破損しやすく、医用材料に適さないおそれがある。一方、重量平均分子量が500,000を超えると、例えば、剛性が高く、腱に巻き付けることが困難となるおそれがある。
【0015】
前記共重合体中の乳酸とカプロラクトンとの共重合割合は、重量比で、乳酸/カプロラクトン=80/20〜30/70の範囲が好ましく、さらに好ましくは、乳酸/カプロラクトン=65/35〜45/55の範囲である。乳酸/カプロラクトン重量比が30/70未満の場合は、例えば、剛性が高く、腱に巻き付けることが困難となり、一方、80/20を超えても、剛性が高く、腱に巻き付けることが困難となるおそれがある。
【0016】
尚、前記共重合体には、乳酸とカプロラクトン以外の共重合体成分として、例えば、グリコール酸やバレロラクトン等の脂肪族エステルや、1,4−ジオキサノン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、エチレングリコール等を、本発明の効果を損なわない範囲で共重合させることも可能である。
【0017】
前記共重合体の製造方法としては、例えば、常法により、ラクチド(乳酸の環状二量体)とε−カプロラクトンとを開環重合することにより得る方法等が挙げられる。
【0018】
前記共重合体を多孔質体に成形する方法としては、通常の多孔質成形法、例えば、前記共重合体と発泡体とをフィルム状に射出成形して多孔性フィルムを得る方法、前記共重合体と水溶性塩とを混在させ、プレス法やキャスト法等によりフィルムを作製し、前記フィルムを水洗することで塩を除去して多孔性フィルムを得る方法、前記共重合体を溶剤に溶解させ、その溶剤を凍結乾燥することで多孔性フィルムを得る方法等があげられる。このような方法により、前記共重合体を多孔性の成形物とし、本発明の多孔性癒着防止材として使用することができる。
【0019】
本発明の多孔性癒着防止材の厚みは、10〜1000μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは50〜400μmの範囲である。多孔の平均孔径は、0.1〜80μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.5〜50μmの範囲、特に好ましくは5〜20μmの範囲である。前記平均孔径が0.1μm未満の場合は、例えば、癒着防止材を通して体液交換が充分に行なわれず、癒着防止材で覆った患部の中心部まで栄養が行き渡らないおそれがある。一方、前記平均孔径が80μmを超えると、例えば、再生した組織が癒着防止材の孔に侵入することにより、バリア性が低下して癒着防止が低下するおそれがある。尚、癒着防止効果の点からは、多孔の平均孔径は、0.5〜50μmの範囲であることが特に望ましい。
【0020】
本発明においては、このような多孔質体とすることにより、癒着防止材を通して体液の交換が可能となり、電気メスによる固定が可能となる。
【0021】
また、本発明の多孔性癒着防止材の空隙率は、40〜95%の範囲が好ましく、さらに好ましくは60〜90%の範囲である。空隙率が40%未満の場合は、例えば、剛性が高くなり、癒着防止材としての柔軟性が減少したり、また、体液の交換が充分に行なわれず、電気メスが安定して使えないおそれがある。一方、空隙率が95%を超えると、例えば、強度が小さいため操作性が悪くなり、術中に破損しやすくなるおそれがある。
【0022】
また、本発明の多孔性癒着防止材は、前述のように、さらにヒアルロン酸を含有してもよい。前記ヒアルロン酸の含量は、多孔性癒着防止材全体の0.1〜10重量%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜5重量%の範囲である。
【0023】
このようなヒアルロン酸を含有する多孔性癒着防止材は、例えば、前述のような共重合体からなる多孔質性の成形体を、ヒアルロン酸溶液に浸漬させ、これを凍結乾燥等により乾燥することにより製造できる。前記ヒアルロン酸溶液の濃度は、0.05〜10重量%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜1重量%の範囲である。前記ヒアルロン酸溶液は、例えば、ヒアルロン酸粉末を、水、生理食塩水等に溶解すればよい。なお、前記ヒアルロン酸は、乾燥状態で含有されてもよいし、液状で含有されてもよい。前記ヒアルロン酸の重量平均分子量は、例えば、60万〜390万の範囲であり、好ましくは、60万〜120万の範囲である。
【0024】
また、前述のように、例えば、使用時に、前記共重合体からなる多孔性成形体を腱に巻き付け、これに前記ヒアルロン酸溶液を注入してもよい。
【0025】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、以下の例において、空隙率及び癒着発生率以外の「%」は「重量%」である。
【0026】
(実施例1)
L−乳酸とε−カプロラクトンとの共重合体(Mw40万、乳酸とカプロラクトンとの共重合体中における重量比:乳酸/カプロラクトン=55/45)の6重量%ジオキサン溶液をガラス板上にキャストし、そのガラス板を−135℃の冷凍庫内に投入して、前記溶液を凍結した。その後、凍結乾燥器で溶剤(ジオキサン)を除去することにより、孔径約10μm(ほぼ均一な孔径であり、平均孔径10μm)、空隙率88%、厚み400μmの多孔質膜を得た。この多孔質膜を多孔性癒着防止材として用い、下記に示すニワトリ足部屈筋腱損傷モデルによる操作性及び癒着防止効果の評価(3週間埋入後の癒着スコア並びに3週間埋入後及び12週間埋入後の肉眼による観察)を行なった。
【0027】
その結果、試験サンプル数14例のうち4例には、ギプス固定時の過度の圧迫によると思われる炎症変化が見られたため、癒着防止効果を評価する対象から除外した。実施例における癒着スコアの10例の平均値は1.9点であった。また、本実施例の多孔性癒着防止材は、電気メスを用いて前記癒着防止材同志を融着させることにより、縫合せずに局部に固定することが可能であり、操作性に優れるものであった。
【0028】
また、肉眼観察の結果、前記多孔性癒着防止材は、埋入後3週目においては、埋入時と変わらずほぼ同じ場所を覆っていたが、12週目においては、肉眼的に消失しており細かい残骸となって腱周辺に存在していた。
【0029】
尚、平均孔径、重量平均分子量(Mw)及び共重合体の組成比の測定方法を以下に示す。
【0030】
(操作性及び癒着防止効果の測定方法)
ニワトリ(赤玉鶏もみじ、5月齢:以下、同じ)を用い、その第3趾の中央部の皮膚を約10mm切開した後、腱鞘を切開して前記腱鞘中の深趾屈筋腱を露出させた。そして、切開部中央約5mmの部分にある腱周辺組織にバイポーラ電気メスで熱傷を与え、損傷部とした。前記損傷部と接する腱部分に、長さ10mm、幅15mmの多孔性癒着防止材を巻き付けてから、バイポーラ電気メスにより前記癒着防止材同士を融着固定し、余分な材料は切除した。次に、5−0ナイロン糸で切開部を縫合し、術後3週間は指伸展位にてギプス固定を行なった。前記癒着防止材を埋入してから3週間及び12週間(ギプス固定後9週間自由運動)後に、ジエチルエーテルを大量吸入させてニワトリを犠牲死させた。その後、手術部位を腱に沿って鋭的に割断し、同一の整形外科医による目視二重盲検法によって、癒着程度を以下の基準で評価した。尚、下記に示す癒着スコアの点数が低いほど癒着はなく、癒着スコアの点数が高いほど重度の癒着が生じていると判断できる。
【0031】
癒着程度の評価基準(癒着スコア)
1:Without adhesion
2:Filmy(separable)
3:Mild(not separable)
4:Moderate(35〜60%)
5:Severe(>60%)
【0032】
(平均孔径の測定方法)
多孔性癒着防止材を電子顕微鏡により拡大撮影した。その写真を用いて、一定範囲内の最前列の孔のサイズを測定し、その平均値を平均孔径とした。
【0033】
(重量平均分子量(Mw)の測定方法)
多孔性癒着防止材20mgをクロロホルムに溶解し、GPC:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)を用いて、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を測定した。
【0034】
(共重合体組成の測定方法)
乾燥した乳酸−カプロラクトン共重合体を用いて、1Hの核磁気共鳴スペクトル測定を行なった。5.2ppm付近を乳酸、4.1ppm付近をカプロラクトンのピークとし、そのピークの積分値比によりラクチドとカプロラクトンとのモル比率を求め、それを重量換算することにより重量比を求めた。
【0035】
(実施例2)
L−乳酸とε−カプロラクトンとの共重合体(Mw40万、乳酸とカプロラクトンとの共重合体中における重量比:乳酸/カプロラクトン=55/45)の6重量%ジオキサン溶液をガラス板上にキャストし、そのガラス板を−30℃の冷凍庫内に投入して前記溶液を凍結した。その後、凍結乾燥器にて溶剤(ジオキサン)を除去することにより、孔径20〜100μm(平均孔径80μm)、空隙率85%、厚み600μmの多孔質膜を得た。この多孔質膜を多孔性癒着防止材として用い、前記実施例1と同様にして、操作性及び癒着防止効果の評価を行なった。
【0036】
その結果、試験サンプル数9例のうち4例にギプス固定時の過度の圧迫によると思われる炎症変化が見られたため、癒着防止効果を評価する対象から除外した。癒着スコアの5例の平均値は3.0点であった。また、この癒着防止材は、前述と同様に、電気メスを用いて前記癒着防止材同士を融着させることにより、縫合せずに局部に固定することが可能であり、操作性に優れるものであった。
【0037】
また、肉眼観察の結果、前記多孔性融着防止材は、埋入後3週目においては、埋入時と変わらずほぼ同じ場所を覆っていたが、12週目においては、肉眼的に消失しており細かい残骸となって腱周辺に存在していた。
【0038】
(比較例1)
損傷部に多孔性癒着防止材を使用せずに、そのまま閉創した以外は、前記実施例1と同様にして操作を行ない、癒着防止効果の評価を行なった。
【0039】
その結果、試験サンプル数15例のうち5例に、ギプス固定時の過度の圧迫によると思われる炎症変化が見られたため、癒着防止効果を評価する対象から除外した。10例の癒着スコアの平均値は、3.8点であった。
【0040】
また、肉眼観察の結果、腱組織は、術後3週目において、一部又は腱の全周に渡って周辺組織と癒着を起こしていた。
【0041】
(比較例2)
多孔性癒着防止材の代りに、厚み100μmの熱架橋したゼラチンフィルムを使用した以外は、実施例1と同様に操作を行ない、操作性及び癒着防止効果の評価を行なった。
【0042】
その結果、試験サンプル数3例の癒着スコア平均値は2点であった。前記ゼラチンフィルムをうまく腱に巻き付けることができず、また、腱への固定に用いた縫合糸が前記ゼラチンフィルムを破損してしまいやすかったため、操作性は良好とは言えなかった。また、肉眼観察の結果、前記ゼラチンフィルムは、術後3週間目において、肉眼的に消失していた。
【0043】
上記の実施例1〜2及び比較例1〜2の結果からわかるように、実施例1の多孔性癒着防止材が癒着防止効果において最も良好な結果を示した。これは適度な孔径を持つ実施例の癒着防止材においては、腱周辺組織の細胞が孔内に侵入することが抑制されたためと考えられる。
【0044】
尚、実施例1〜2の評価実験において、腱の連続性異常や感染の疑いがある例が含まれたが、コントロールである比較例1の評価実験においてもほぼ同率に生じているため、このような疑いが多孔性癒着防止材の埋入による副作用とは考えられない。腱の連続性に異常があるものや感染の疑いがある例を除き、膜が原因と思われる明らかな炎症反応は見られなかった。従って、本発明の癒着防止材は副作用がなく、安全性においても優れたものである。
【0045】
(実施例3)
L−乳酸とε−カプロラクトンとの共重合体(Mw40万、乳酸とカプロラクトンとの共重合体中における重量比:乳酸/カプロラクトン=55/45)の6重量%ジオキサン溶液をガラス板上にキャストし、そのガラス板を−135℃の冷凍庫内に投入して、前記溶液を凍結した。その後、凍結乾燥器で溶剤(ジオキサン)を除去することにより、平均孔径10μm、空隙率88%、厚み200μmの多孔質膜を得た。そして、分子量約220万のヒアルロン酸粉末(紀文社製)を0.5重量%の濃度になるように生理食塩水に添加して、オートクレーブにより溶解させたヒアルロン酸水溶液(以下同じ)に前記多孔質膜を浸漬し、これを凍結乾燥させた。このヒアルロン酸を含有する多孔質膜を多孔性癒着防止材として用い、計18例の損傷サンプルについて癒着防止効果の評価を行なった。前記癒着防止効果の評価は、第3趾の中央部の皮膚を約15mm切開したこと、長さ15mm、幅15mmの前記癒着防止材を使用したこと以外は、前記実施例1と同様にして行なった。
【0046】
(実施例4)
前記実施例3と同様にして、平均孔径10μm、空隙率88%、厚み200μmの多孔質膜を作製した。これを、損傷部に接する腱に巻き付け、前記多孔質膜同士を融着固定した後、前記多孔質膜にヒアルロン酸ナトリウム製剤(関節内注射液アルツ、分子量約60万〜120万、濃度1重量%、科研製薬社製:以下同じ)を注入したものを多孔性癒着防止材とした以外は、前記実施例3と同様にして、計2例の損傷サンプルについて、癒着防止効果の評価を行なった。
【0047】
(実施例5)
前記ヒアルロン酸ナトリウム製剤の代りに、前記実施例3と同様の0.5重量%ヒアルロン酸水溶液を用いた以外は、前記実施例4と同様にして、計17例の損傷サンプルについて、癒着防止効果の評価を行なった。
【0048】
実施例3〜5における癒着スコア平均値はそれぞれ、実施例3が1.8点、実施例4が1.0点、実施例5が1.5点であった。これより、本発明の多孔性癒着防止材がさらにヒアルロン酸を含有することによって、一層癒着防止効果が向上することがわかる。
【0049】
(実施例6および比較例3)
本発明の多孔性癒着防止材を用いて、指屈曲機能回復効果の評価および病理組織学的評価を行なった。使用した多孔性癒着防止材および評価の方法を以下に示す。
【0050】
(多孔性癒着防止材)
(1)LLA/CL
実施例1と同様にして作製した厚み200μm、平均孔径10μm、空隙率88%の多孔質膜を多孔性癒着防止材(以下、「LLA/CL」という)として用いた。
(2)HA−LLA/CL
実施例3と同様にして作製した厚み200μm、平均孔径10μm、空隙率88%のヒアルロン酸含有多孔質膜を多孔性癒着防止材(以下、「HA−LLA/CL」という)として用いた。
(3)LLA/CL+HA
実施例3と同様にして作製した厚み200μm、平均孔径10μm、空隙率88%の多孔質膜を、以下に示す損傷部と接する腱に巻き付け、融着固定した後に、実施例5と同様にして前記ヒアルロン酸水溶液を注入し、これを多孔性癒着防止材(以下、「LLA/CL+HA」という)とした。
【0051】
(指屈曲機能回復効果の評価方法)
体重1.6〜1.8kgの範囲であるニワトリ(赤玉鶏もみじ、5月齢)を用い、その第3趾の中央部の皮膚を約22mm切開した後、腱鞘を切開して前記腱鞘中の深趾屈筋腱を露出させた。そして、切開部中央約7mmの部分にある腱周辺組織にバイポーラ電気メスで熱傷を与え、損傷部とした。前記損傷部と接する腱部分に、長さ22mm、幅15mmの多孔性癒着防止材を巻き付けてから、バイポーラ電気メスにより前記癒着防止材同士を融着固定し、余分な材料は切除した。次に、5−0ナイロン糸で切開部を縫合し、術後3週間は指伸展位にてギプス固定を行なった。
【0052】
前記癒着防止材を埋入してから3週間後に、ジエチルエーテルを大量吸入させてニワトリを犠牲死させ、手術した指の付け根部分を切断し、前記付け根から約5mmの深趾屈筋腱だけを露出させた。これを引張り試験機(製品名AGS−5D:島津製作所社製)の治具に取り付けてから、前記治具を前記引張り試験機にセットした。そして、前記引張り試験機のチャックに前記深趾屈筋腱を挟み、引張り強度10mm/分、最大荷重500gfの条件で引張り試験を行ない、同時にこれをビデオカメラで撮影した。
【0053】
そして、測定結果から荷重が500gfに達するのに要した時間を割り出し、録画したビデオテープから、その時間における指の屈折角を分度器で計測することにより、荷重500gfで前記深趾屈筋腱を引張った時の指の屈曲率:Total
angle motion(TAM)を求めた。
【0054】
LLA/CL、HA−LLA/CAおよびLLA/CL+HAに対し、それぞれ計8例の損傷サンプルについての評価を行ない、これらの平均を求めた。また、比較例3は、損傷部に処理を行なわずにそのまま閉創した以外は、前述と同様にして操作を行ない、計37例の損傷サンプルについての評価の平均を求めた。これらの結果を下記表1に示す。
【0055】
(病理組織学的検査)
前記指屈曲機能回復効果の評価方法と同様にして、損傷部に多孔性癒着防止材を3週間埋入させた後、図1に示すように、前記多孔性癒着防止材の埋入部中心3、前記埋入部の端部2、4、埋入部周囲の非埋入部1、5における腱の断面組織を切り出した。なお、同図において、矢印(Proximal)は、体の中心方向を示し、矢印(Distal)は、末端方向を示す。これらの組織切片を10重量%中性ホルマリン溶液により固定した後、プランクリュクロ法により脱灰し、水溶性パラフィン包理液を用いて包理した。これを厚み約10μmに切り取り、ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色により染色したものをガラススライドに封入した後、光学顕微鏡(400倍)で観察し、円形(直径0.178mm、0.025mm2)内の細胞核数を測定した。そして、各切片の任意の3箇所について測定を行ない、その平均細胞核数を求めた。なお、コントロールとして、未処理の深趾屈筋腱を使用し、水溶性パラフィン包理液の代りにキシレン含有パラフィン包理液を用いた以外は、同様にして測定を行なった。これらの結果を図2のグラフに示す。図2において、縦軸は腱の細胞核数を示し、横軸の数字は腱の切片部位、aはLLA/CL、bはLLA/CL+HA、cはHA−LLA/CL、dはコントロールを示す。
【0056】
【表1】
【0057】
前記表1に示すように、実施例6の各多孔性癒着防止材は、比較例に比べて、優れた屈曲角を示し、特に、多孔質膜にヒアルロン酸を注入した多孔質性癒着防止材(LLA/CL+HA)は、最も優れた屈曲率を示した。前述のように、前記多孔質膜にヒアルロン酸を含有させることにより、腱と腱周辺組織との癒着がさらに防止されるため、指の屈曲機能もより回復されるといえる。
【0058】
また、本発明の多孔性癒着防止材を用いれば、前述のように、腱周辺の癒着を防止することができるが、腱を周辺組織から覆うことにより、外部から物資が補給されにくく、治癒が遅くなるというおそれがあった。このため、図2に示すように、本発明の多孔性癒着防止材(LLA/CL)aを用いた場合、コントロールdに比べて、特に損傷部と接する腱(図1の断面3)において、細胞核が減少するという傾向が見られていた。しかしながら、図2に示すように、前記多孔質膜にヒアルロン酸を含有させたLLA/CL+HA(b)およびHA−LLA/CL(c)によれば、細胞核の減少が抑制されたことがわかる。
【0059】
このように、本発明の多孔性癒着防止材がヒアルロン酸を含有することにより、腱と腱周辺部位との癒着がより一層防止されるだけではなく、屈曲機能の回復にも優れた効果を示し、腱組織の壊死も抑制することができた。
【0060】
【発明の効果】
本発明の多孔性癒着防止材は、腱と周辺組織とを物理的に隔離することができるため、腱の癒着を効果的に防止することができる。また、適度な柔軟性を持つため、操作性に優れる。また、多孔性膜であるため、栄養物質の透過性に優れ、腱の癒合を阻害しない。また、生体吸収性に優れ、さらに、生体にとって副作用が少なく、安全性においても優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の多孔性癒着防止材の一実施例における、損傷サンプルの切断部位を示す模式図である。
【図2】前記実施例において、多孔性癒着防止材を用いて腱の各部位における細胞核数を測定した結果を示すグラフである。
Claims (11)
- 乳酸とカプロラクトンとの共重合体の溶液を凍結乾燥して、多孔質フィルムを得る工程を含む、
乳酸とカプロラクトンとの共重合体からなる多孔質フィルムを含む多孔性癒着防止材の製造方法。 - 共重合体の重量平均分子量が50,000〜500,000である請求項1に記載の製造方法。
- 共重合体中の乳酸とカプロラクトンとの共重合割合が重量比で乳酸/カプロラクトン=80/20〜30/70である請求項1又は2に記載の製造方法。
- 多孔の平均孔径が0.1〜80μmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
- 多孔の平均孔径が0.5〜50μmである請求項4に記載の製造方法。
- 空隙率が40〜95%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
- 乳酸とカプロラクトンとの共重合体からなる多孔質フィルムと、ヒアルロン酸とを含む多孔性癒着防止材の製造方法であって、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により得られた多孔質フィルムを、ヒアルロン酸溶液に浸漬させ、次いで凍結乾燥させる工程を含む製造方法。 - ヒアルロン酸の含量が、多孔性癒着防止材全体の0.1〜10重量%の範囲である請求項7に記載の製造方法。
- 乳酸とカプロラクトンとの共重合体からなる多孔質フィルムと、ヒアルロン酸とを含む多孔性癒着防止材の製造方法であって、
請求項7または8に記載の製造方法により得られた多孔性癒着防止材へ、ヒアルロン酸溶液を注入する工程をさらに含む製造方法。 - 乳酸とカプロラクトンとの共重合体からなる多孔質フィルムと、ヒアルロン酸とを含む多孔性癒着防止材であって、
前記多孔質フィルムの平均孔径が、0.1〜80μmであり、
前記多孔質フィルムの空隙率が40〜95%であり、
ヒアルロン酸が、乾燥状態で多孔性癒着防止材に含まれる多孔性癒着防止材。 - 前記多孔質フィルムを、ヒアルロン酸溶液に浸漬させ、次いで凍結乾燥させることにより、ヒアルロン酸が、乾燥状態で多孔性癒着防止材に含まれる請求項10に記載の多孔性癒着防止材。
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