JP4458362B2 - ヒ素検出用電極、これを用いるセンサー及びヒ素濃度測定方法 - Google Patents
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Description
As(III)、As(V)の検出法として、既に多くの分析手法が報告されている。市販試薬による手段としては、亜鉛(還元剤)により発生する水素化ヒ素(アルシン)ガスを指標とするものがあるが、2ppbが測定限界であり、安全な濃度を管理するにはやや感度が劣る。
その点では、電気化学的方法が好適といえる。例えば水銀電極は再現性、安定性の点で優れているが、取り扱いが不便であり、最近では固体電極が利用されている。その中で、金はヒ素イオン還元に対して、また、電着したヒ素の酸化においても安定に作動するため、好適である。
しかしながら、ヒ素還元又は酸化に関して選択性の高い電極材料はなく、実用の観点から、安定かつ選択性の高いヒ素還元又は酸化電極の開発が望まれている。
電気化学的手法でヒ素の濃度測定を行う場合、電極材料の選定が重要である。一般に金電極が安定な材料として利用されるが、後述のように、金表面では液中に存在する酸素還元による過酸化水素生成の際に電流が流れ、ヒ素還元の電流と区別できないため、ヒ素濃度を正確に定量できなくなる。
従って実用性の観点から、安定かつ選択性の高い電極の開発が望まれていた。
最近になってCompton [Anal. Chem., 76, 5924-5929(2004)]らは、陰分極によるヒ素析出後のアノードストリッピング法を提案し、金ナノ粒子を電着させたグラッシーカーボンにより、安定した応答性を報告したが、上記した過酸化水素生成の際の電流の問題は未解決のままであった。
本発明の電極では、導電性部材の表面全体に、吸着種であるハロゲン化物イオンを吸着した金を被覆する。吸着種の被覆は、好ましくは原子レベルの薄膜状又は単層吸着とし、当該電極はヒ素検出用センサー(ヒ素の濃度測定)に使用できる。
この方法は、貴の電位から卑の電位に向けて電位を走査し溶液に存在するヒ素成分を電極上に還元電着させ、その後卑な電位から貴な電位に走査し前記ヒ素成分を溶解させ、この再溶解時に発生する酸化電流或いは電気量から、ヒ素濃度を求める方法である。
As(3+)+3e = As(0) (1)
次いでこのヒ素が析出した電極を陽分極することで、式(2)に従ってヒ素が再溶解する。
As(0) = As(3+)+ 3e (2)
この再溶解時の電流値を測定し、この値を濃度に換算してヒ素濃度を算出する。
つまり、下記の酸素還元による過酸化水素の生成と酸素の4電子還元による過酸化水素の生成が生じ、この際に生じる電流を、電着ヒ素の還元再溶解による電流と区別できず、この再溶解時の電流を正確に測定できなくなる。
溶液中に溶存している酸素が、還元しうる電位に電極が保持されている場合、式(3)及び(4)に従って容易に過酸化水素に変換される。
O2+2e+H2O = OH−+HO2 − (3)
O2+2e+2H+ = H2O2 (4)
この電位はヒ素の電着電位より貴であるため、容易に反応が進行し、ヒ素の電着を阻害する。また、過酸化水素は金表面が露出していると触媒的に分解が進行するが、一方で酸化剤として、電着したヒ素を酸化する作用がある。
従って酸素が存在すると、従来の電極を使用するヒ素濃度測定では、電着量が変化し、酸化電流(ストリッピング)から正確なヒ素濃度を算出できない。
酸素の4電子還元反応も金表面で進行し、例えば金の(100)面では−0.35Vより貴の電位で式(5)に従って進行することが報告されている。
O2+4e−+2H2O= 4HO− (5)
この反応も電着を阻害し、酸素の存在により酸素還元に起因する電流が流れ、正確なヒ素濃度を算出ができなくなる。
つまり、吸着種の原子配列による遮蔽効果により、酸素の過酸化水素への還元が阻害されるため、バックグラウンド電流が非常に小さく、電流値はより正確にヒ素濃度に対応することを見出したのである。
更に吸着種の固定操作が容易であるため、消耗した場合でも原料溶液に浸漬するだけで容易に再活性化される。広い濃度範囲(0.1mM〜100mM)において利用可能であり、センサー価格の低減、測定時間の短縮が達成されるため、実用上の効果は顕著である。
導電性基体の形状は、板や棒のみならず、メッシュ加工や打ち抜きによる穴明き板などが可能である。その材質は、通常の電極で使用されている任意の材料の使用が可能であるが、特に金属、又はカーボン材料が好ましく使用でき、金や銀を被覆した金属でも良い。
金、銀を被覆する場合は、熱分解法、樹脂による固着法、蒸着法、電気めっき、無電解めっきなどにより全面が被覆されていることが好ましい。これらの被覆金属の厚さは、0.1μm〜1mmが好ましい。
前記ナノ粒子を形成させる方法としては、電気化学的手法が好適であることが知られている。例として、0.1mMの塩化金イオンを溶解した溶液中にカーボン製導電性基材を浸漬し、0.5Mの硫酸中で、+1.1V(vs.Ag/AgCl)から0V付近まで電位をステップさせ、数秒程度保持することにより、金粒子が形成される。液濃度が高く、また、電析時間が長すぎると、粒子が成長しすぎて不均一化し、かえって感度が低下する。
ハロゲン化物イオンとしては、ヨウ素、塩素、臭素、フッ素化合物が使用でき、安定性に優れるヨウ素、臭素化合物が特に好ましい。これらの化合物は塩でもよく、また酸の形態でもよい。
なお導電性基体表面への金被覆と金粒子への吸着種の吸着を同時に行っても良い。
被測定液の溶液抵抗が大きい場合には、微小電極、MDA(マイクロディスクアレイ)電極の形態が好ましく、イオン伝導性が不足するような系では固体電解質成分を付与する構造であってもよい。通常、被測定液を電極系を設置した容器内に入れ、攪拌のない静置状態で測定することが望ましい。
なお卑な電位では吸着種が脱離して吸着率が低くなり、金などの導電性基体本来の過酸化水素分解特性や酸素還元特性が発現するため、一旦吸着種がなくなれば、センサーとしての精度は低下する。定常的に流れる試料を連続的に測定するには吸着種を補給することが望ましい。従って吸着種を溶解した溶液を準備しておき、測定毎に吸着種を導電性基体表面に吸着させる操作を行うことが望ましい。
ヒ素の電析時間を長くすれば、ヒ素付着量が増大するため、測定感度を上げることが可能である。
図示の通り、ヒ素用センサー1は、作用極2及び対極3が隔膜4を介して水平方向に位置するよう設置することにより構成されている。前記作用極2は、金や銀あるいはカーボン等の導電性基体表面に被覆された金粒子にハロゲン化物イオン吸着種を単層吸着して成り、当該作用極2表面では前記吸着種により酸素還元による過酸化水素生成が防止される。対極3のやや上方には内部液5を介して基準電極6が設置されている。
このような構成からなるセンサー1をヒ素含有液(被測定液)7に浸漬すると、前述の式(2)に従って電着ヒ素が再溶解し、この溶解で生じる電流を測定することにより被測定液7中のヒ素濃度を正確に測定できる。
電極面積が0.0078cm2であるグラッシーカーボンを、0.1mM NaAuCl4 + 0.1mM KI +0.5M H2SO4のめっき浴に浸漬し表面を金めっきし、同時に当該金にヨウ化物イオンを吸着させた。対極として、大面積の白金板、基準電極として、Ag/AgClを用い、1M塩酸溶液で得られた矩形波ボルタモグラム(周波数15Hz、幅25mV)を図2に示した。ヒ素電着時間は1分間とした(-0.3Vに維持)。ヒ素濃度は4.1 μM 〜 98 μM(高濃度領域)までの16種類とした。
更にこの実験で得られたヒ素濃度[As(III)]と検出電流の関係を図3に示した。図3から分かる通り、40μM以下のヒ素濃度では、濃度と電流間で良好な直線性が得られた。
実施例1と同様の条件で、ヒ素濃度が0.05μM 〜 0.4μM(低濃度領域)での矩形波ボルタモグラム(周波数15Hz、幅25mV)の電流ピークと濃度の関係を図4(黒抜き)に示したが、安全基準レベルの低濃度において良好な直線性を得た。
ヨウ化物イオンの吸着を行わなかったこと以外は実施例2と同様の測定を行い、電流ピークと濃度の関係を図4(白抜き)に示した。図示の通り、原点を通る直線性が得られなかった。
電極として、金粒子を熱分解法によりカーボンペーパー(投影面積0.09cm2)に50mg/cm2となるように被覆形成したものを用い、同面積の白金網を対極として用い、イオン交換膜(NAFION350)を電極間に挟み込み、図1の接合体を作製した。基準電極は陰極と同じ側に設置した。対極の溶液として塩化カリウムの飽和溶液を満たした。ヨウ化カリウムを溶解した水溶液中に金被覆電極を入れ、ヨウ化物イオンを吸着させた後、純水に0.05μM〜0.4μMのヒ素を溶解させた被測定液に該接合体を入れ、実施例1と同様の電気化学的操作を実施し、図5(黒抜き)にピーク電流値と濃度の関係を示した。図示の通り、両者間には良好な直線関係が得られた。
ヨウ化物イオンの吸着を行わなかったこと以外は実施例3と同様の測定を行い、図5(白抜き)にピーク電流値と濃度の関係を示した。図示の通り、原点を通る直線性が得られなかった。
2 作用極
3 対極
4 隔膜
5 内部液
6 基準電極
7 ヒ素含有液(被測定液)
Claims (5)
- 導電性基体、及び該導電性基体表面全体に被覆された、ハロゲン化物イオンを吸着した金を含んでなることを特徴とするヒ素検出用電極。
- 金が金ナノ粒子である請求項1に記載の電極。
- 導電性基体が、金属製又はカーボン製である請求項1記載の電極。
- 導電性基体、及び該導電性基体表面全体に被覆された、ハロゲン化物イオンを吸着した金を含んでなる作用極、対極及び基準極を含んで成ることを特徴とするヒ素検出用センサー。
- 請求項4記載のヒ素検出用センサーを用い、貴の電位から卑の電位に電位を走査し溶液に存在するヒ素成分を還元電着させ、その後卑な電位から貴な電位に走査し該成分を溶解させ、発生する酸化電流或いは電気量から、ヒ素濃度を求めることを特徴とするヒ素濃度検出方法。
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